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特許7424183軟磁性合金粉末、圧粉磁心、磁性部品および電子機器
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  • 特許-軟磁性合金粉末、圧粉磁心、磁性部品および電子機器 図1
  • 特許-軟磁性合金粉末、圧粉磁心、磁性部品および電子機器 図2
  • 特許-軟磁性合金粉末、圧粉磁心、磁性部品および電子機器 図3
  • 特許-軟磁性合金粉末、圧粉磁心、磁性部品および電子機器 図4
  • 特許-軟磁性合金粉末、圧粉磁心、磁性部品および電子機器 図5
  • 特許-軟磁性合金粉末、圧粉磁心、磁性部品および電子機器 図6A
  • 特許-軟磁性合金粉末、圧粉磁心、磁性部品および電子機器 図6B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】軟磁性合金粉末、圧粉磁心、磁性部品および電子機器
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20240123BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240123BHJP
   C22C 45/02 20060101ALI20240123BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20240123BHJP
   B22F 9/08 20060101ALN20240123BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20240123BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20240123BHJP
【FI】
B22F1/00 Y
B22F3/00 B
C22C45/02 A
H01F1/153 108
H01F1/153 133
H01F1/153 175
B22F9/08 A
C21D6/00 C
C22C38/00 303S
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020075690
(22)【出願日】2020-04-21
(65)【公開番号】P2020180374
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2019084663
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉留 和宏
(72)【発明者】
【氏名】松元 裕之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 暁斗
(72)【発明者】
【氏名】熊岡 広修
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6451878(JP,B1)
【文献】特開2018-123361(JP,A)
【文献】特開2016-015357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00 - 8/00
C22C 45/02
H01F 1/153
B22F 9/08
C22C 38/00
C21D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式(Fe(1-(α+β))X1αX2β)(1-(a+b+c+d+e+f))abcSidefからなる軟磁性合金粉末であって、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1つ以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1つ以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,W,TiおよびVからなる群から選択される1つ以上であり、
0≦a≦0.150
0≦b≦0.200
0≦c≦0.200
0≦d≦0.200
0<e≦0.200
0<f≦0.0200
0.100≦a+b+c+d+e≦0.300
0.0001≦e+f≦0.220
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であり、
体積基準での粒度分布におけるD50をrとして、粒子径がr以上2r以下である軟磁性合金粒子の平均円形度が0.70以上であり、
下記式(1)に示す非晶質化率X(%)が85%以上である軟磁性合金粉末。
X=100-(Ic/(Ic+Ia))×100 ・・・(1)
Ic:結晶性散乱積分強度
Ia:非晶質性散乱積分強度
【請求項2】
体積基準での粒度分布におけるD50をrとして、粒子径がr以上2r以下である軟磁性合金粉末の平均円形度が0.90以上である請求項1に記載の軟磁性合金粉末。
【請求項3】
粒子径が25μm以上30μm以下である軟磁性合金粉末の平均円形度が0.70以上である請求項1に記載の軟磁性合金粉末。
【請求項4】
粒子径が25μm以上30μm以下である軟磁性合金粉末の平均円形度が0.90以上である請求項1に記載の軟磁性合金粉末。
【請求項5】
粒子径が5μm以上10μm以下である軟磁性合金粉末の平均円形度が0.70以上である請求項1に記載の軟磁性合金粉末。
【請求項6】
粒子径が5μm以上10μm以下である軟磁性合金粉末の平均円形度が0.90以上である請求項1に記載の軟磁性合金粉末。
【請求項7】
0.0001≦e+f≦0.051である請求項1~のいずれかに記載の軟磁性合金粉末。
【請求項8】
0.080<d<0.100である請求項1~のいずれかに記載の軟磁性合金粉末。
【請求項9】
0.030<e≦0.050である請求項1~のいずれかに記載の軟磁性合金粉末。
【請求項10】
0≦a<0.020である請求項1~のいずれかに記載の軟磁性合金粉末。
【請求項11】
前記軟磁性合金粉末がナノ結晶粒子を含有する請求項1~10のいずれかに記載の軟磁性合金粉末。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の軟磁性合金粉末を含む圧粉磁心。
【請求項13】
請求項1~11のいずれかに記載の軟磁性合金粉末を含む磁性部品。
【請求項14】
請求項1~11のいずれかに記載の軟磁性合金粉末を含む電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性合金粉末、圧粉磁心、磁性部品および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鉄系の結晶質合金磁性粉と鉄系の非晶質合金磁性粉とを混合してなる混合磁性粉に絶縁性結着材をさらに混合した複合磁性材料が記載されている。
【0003】
特許文献2には、硬質な非晶質合金磁粉にFe-Ni系合金磁粉を混合して得られる混合磁性粉に含まれるそれぞれの粒子を熱硬化性樹脂で被覆した複合磁性材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-197218号公報
【文献】特開2004-363466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、保磁力が低い軟磁性合金粉末であり、かつ、高透磁率な圧粉磁心を得ることができる軟磁性合金粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の軟磁性合金粉末は、
組成式(Fe(1-(α+β))X1αX2β(1-(a+b+c+d+e+f))Siからなる軟磁性合金粉末であって、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1つ以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1つ以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,W,TiおよびVからなる群から選択される1つ以上であり、
0≦a≦0.150
0≦b≦0.200
0≦c≦0.200
0≦d≦0.200
0<e≦0.200
0<f≦0.0200
0.100≦a+b+c+d+e≦0.300
0.0001≦e+f≦0.220
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であり、
下記式(1)に示す非晶質化率X(%)が85%以上である。
X=100-(Ic/(Ic+Ia))×100 ・・・(1)
Ic:結晶性散乱積分強度
Ia:非晶質性散乱積分強度
【0007】
本発明の軟磁性合金粉末は、上記の特徴を有することにより、保磁力HcJが十分に低くなる。さらに、本発明の軟磁性合金粉末を用いて透磁率が高い圧粉磁心等を得ることができる。
【0008】
本発明の軟磁性合金粉末は、体積基準での粒度分布におけるD50をrとして、粒子径がr以上2r以下である軟磁性合金粒子の平均円形度が0.70以上であってもよい。
【0009】
本発明の軟磁性合金粉末は、体積基準での粒度分布におけるD50をrとして、粒子径がr以上2r以下である軟磁性合金粉末の平均円形度が0.90以上であってもよい。
【0010】
本発明の軟磁性合金粉末は、粒子径が25μm以上30μm以下である軟磁性合金粉末の平均円形度が0.70以上であってもよい。
【0011】
本発明の軟磁性合金粉末は、粒子径が25μm以上30μm以下である軟磁性合金粉末の平均円形度が0.90以上であってもよい。
【0012】
本発明の軟磁性合金粉末は、粒子径が5μm以上10μm以下である軟磁性合金粉末の平均円形度が0.70以上であってもよい。
【0013】
本発明の軟磁性合金粉末は、粒子径が5μm以上10μm以下である軟磁性合金粉末の平均円形度が0.90以上であってもよい。
【0014】
0.0001≦e+f≦0.051であってもよい。
【0015】
0.080<d<0.100であってもよい。
【0016】
0.030<e≦0.050であってもよい。
【0017】
0≦a<0.020であってもよい。
【0018】
本発明の軟磁性合金粉末は、ナノ結晶粒子を含有してもよい。
【0019】
本発明の圧粉磁心は上記の軟磁性合金粉末を含む。
【0020】
本発明の磁性部品は上記の軟磁性合金粉末を含む。
【0021】
本発明の電子機器は上記の軟磁性合金粉末を含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1はX線結晶構造解析により得られるチャートの一例である。
図2図2図1のチャートをプロファイルフィッティングすることにより得られるパターンの一例である。
図3図3は粒度分布を示すグラフである。
図4図4は粒度分布を示すグラフである。
図5図5はモフォロギG3による観察結果である。
図6A図6Aはアトマイズ装置の模式図である。
図6B図6B図6Aの要部拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0024】
上記の目的を達成するために、本実施形態に係る軟磁性合金粉末は、
組成式(Fe(1-(α+β))X1αX2β(1-(a+b+c+d+e+f))Siからなる軟磁性合金粉末であって、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1つ以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1つ以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,W,TiおよびVからなる群から選択される1つ以上であり、
0≦a≦0.150
0≦b≦0.200
0≦c≦0.200
0≦d≦0.200
0<e≦0.200
0<f≦0.0200
0.100≦a+b+c+d+e≦0.300
0.0001≦e+f≦0.220
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であり、
下記式(1)に示す非晶質化率X(%)が85%以上であることを特徴とする。
X=100-(Ic/(Ic+Ia))×100 ・・・(1)
Ic:結晶性散乱積分強度
Ia:非晶質性散乱積分強度
【0025】
本実施形態に係る軟磁性合金粉末は、上記の特徴を有することにより、保磁力HcJが十分に低くなる。さらに、ブロードな粒度分布となりやすくなる。その結果、本実施形態の軟磁性合金粉末を用いて透磁率μが高い圧粉磁心等を得ることができる。さらに、粒子径が特定の範囲内である軟磁性合金粉末の平均円形度が高くなる。その結果、さらに良好なHcJを有する軟磁性合金粉末を得ることができる。そして、さらに透磁率μが高い圧粉磁心等を得ることができる。
【0026】
以下、本実施形態に係る軟磁性合金粉末の各成分について詳細に説明する。
【0027】
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,W,TiおよびVからなる群から選択される1つ以上である。
【0028】
Mの含有量(a)は0≦a≦0.150を満たす。すなわち、本実施形態に係る軟磁性合金粉末はMを含まなくてもよい。HcJを低下させる観点からは、0≦a≦0.070を満たすことが好ましい。aが増えるにつれて、飽和磁化が低下しやすくなる。
【0029】
0≦a<0.020を満たすことがさらに好ましい。0≦a≦0.019を満たしてもよい。aが上記の数値範囲内であることにより、飽和磁化をさらに向上させることができる。
【0030】
Bの含有量(b)は0≦b≦0.200を満たす。すなわち、本実施形態に係る軟磁性合金粉末はBを含まなくてもよい。また、0.060≦b≦0.200であってもよい。bが大きすぎる場合には、飽和磁化が低下しやすくなる。
【0031】
Pの含有量(c)は0≦c≦0.200を満たす。すなわち、本実施形態に係る軟磁性合金粉末はPを含まなくてもよい。また、0≦c≦0.150であってもよい。cが大きすぎる場合には、bが大きすぎる場合と同様に飽和磁化が低下しやすくなる。
【0032】
Siの含有量(d)は0≦d≦0.200を満たす。すなわち、本実施形態に係る軟磁性合金粉末はSiを含まなくてもよい。0.080<d<0.100であってもよく、0.085≦d≦0.095であってもよい。dが大きすぎる場合には、軟磁性合金粉末の円形度が低下しやすくなる。
【0033】
Cの含有量(e)は0<e≦0.200を満たす。すなわち、本実施形態に係る軟磁性合金粉末はCを必ず含む。また、0.001≦e≦0.150であってもよく、0.030<e≦0.050であってもよい。本実施形態に係る軟磁性合金粉末はCを含むことにより、HcJが小さくなりやすくなる。eが大きすぎる場合には、bが大きすぎる場合、および、cが大きすぎる場合と同様に飽和磁化が低下しやすくなる。
【0034】
Sの含有量(f)は0<f≦0.0200を満たす。すなわち、本実施形態に係る軟磁性合金粉末はSを必ず含む。また、0.0001≦f≦0.0200であってもよい。本実施形態に係る軟磁性合金粉末はSを含むことにより、ブロードな粒度分布となりやすくなり、軟磁性合金粉末を用いて作製された圧粉磁心等の透磁率μが上昇しやすくなる。ただし、本実施形態に係る軟磁性合金粉末がCを含有せずにSを含有する場合には、HcJが大きくなりすぎてしまう。また、圧粉磁心等の透磁率μも低下しやすくなる。fが大きすぎる場合には、軟磁性合金粉末が結晶粒径100nmを超える結晶を含みやすくなる。そして、軟磁性合金粉末が結晶粒径100nmを超える結晶を含む場合には、HcJが著しく上昇し、軟磁性合金粉末を用いた圧粉磁心等の透磁率μが低下しやすくなる。
【0035】
また、本実施形態に係る軟磁性合金粉末は、0.100≦a+b+c+d+e≦0.300を満たす。また、0.240≦a+b+c+d+e≦0.300であってもよい。a+b+c+d+eが上記の範囲内であることにより、各種特性が向上しやすくなる。a+b+c+d+eが小さすぎる場合には、軟磁性合金粉末が結晶粒径100nmを超える結晶を含む結晶となりやすくなる。a+b+c+d+eが大きすぎる場合には、飽和磁化が低下しやすくなる。
【0036】
また、本実施形態に係る軟磁性合金粉末は、0.0001≦e+f≦0.220を満たす。0.0001≦e+f≦0.051であってもよい。e+fが上記の範囲内であることにより、各種特性が向上しやすくなる。
【0037】
以上より、CとSのうち、Cのみを含有しSを含有しない場合には軟磁性合金粉末の粒度分布がシャープとなる。その結果、HcJは良好になるものの、当該軟磁性合金粉末を用いた圧粉磁心等の透磁率μは向上しない。CとSのうち、Sのみを含有しCを含有しない場合には、HcJが悪化し、当該軟磁性合金粉末を用いた圧粉磁心等の透磁率μの向上効果が小さい。また、CとSとを両方とも含むもののe+fが大きすぎる場合には、軟磁性合金粉末が結晶粒径100nmを超える結晶を含む結晶となりやすくなる。
【0038】
Feの含有量(1-(a+b+c+d+e+f))については特に制限はないが、0.699≦1-(a+b+c+d+e+f)≦0.8999であってもよい。1-(a+b+c+d+e+f)を上記の範囲内とすることで、軟磁性合金粉末が結晶粒径100nmを超える結晶を含みにくくなる。また、Feの含有量(1-(a+b+c+d+e+f))が0.740以上であってもよい。1-(a+b+c+d+e+f)を0.740以上とすることで、飽和磁化が大きくなりやすくなる。
【0039】
また、本実施形態の軟磁性合金粉末においては、Feの一部をX1および/またはX2で置換してもよい。
【0040】
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1つ以上である。X1の含有量に関してはα=0でもよい。すなわち、X1は含有しなくてもよい。また、X1の原子数は組成全体の原子数を100at%として40at%以下であってもよい。すなわち、0≦α{1-(a+b+c+d+e+f)}≦0.400を満たしてもよい。
【0041】
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1つ以上である。また、特にHcJを低下させる観点からは、X2はAl,Zn,Sn,Cu,Cr,Biからなる群より選択される1つ以上であってもよい。X2の含有量に関してはβ=0でもよい。すなわち、X2は含有しなくてもよい。また、X2の原子数は組成全体の原子数を100at%として3.0at%以下であってもよい。すなわち、0≦β{1-(a+b+c+d+e+f)}≦0.030を満たしてもよい。
【0042】
FeをX1および/またはX2に置換する置換量の範囲としては、原子数ベースでFeの半分以下とする。すなわち、0≦α+β≦0.50とする。
【0043】
なお、本実施形態の軟磁性合金粉末は上記以外の元素を不可避的不純物として含んでいてもよい。例えば、軟磁性合金粉末100重量%に対して0.1重量%以下、含んでいてもよい。
【0044】
また、本実施形態の軟磁性合金粉末は、非晶質からなる構造を有する。具体的には、下記式(1)に示す非晶質化率X(%)が85%以上である。
X=100-(Ic/(Ic+Ia)×100)…(1)
Ic:結晶性散乱積分強度
Ia:非晶質性散乱積分強度
【0045】
非晶質化率X(%)が高い軟磁性合金粉末は、結晶磁気異方性が小さくなる。したがって、非晶質化率X(%)が高い軟磁性合金粉末を用いた圧粉磁心は磁気損失が小さくなる。
【0046】
非晶質化率X(%)は、軟磁性合金粉末に対してXRDによりX線結晶構造解析を実施し、相の同定を行い、結晶化したFe又は化合物のピーク(Ic:結晶性散乱積分強度、Ia:非晶質性散乱積分強度)を読み取り、そのピーク強度から結晶化率を割り出し、上記式(1)により算出する。以下、算出方法をさらに具体的に説明する。
【0047】
本実施形態に係る軟磁性合金粉末についてXRDによりX線結晶構造解析を行い、図1に示すようなチャートを得る。これを、下記式(2)のローレンツ関数を用いて、プロファイルフィッティングを行い、図2に示すような結晶性散乱積分強度を示す結晶成分パターンαc、非晶質性散乱積分強度を示す非晶成分パターンαa、およびそれらを合わせたパターンαc+aを得る。得られたパターンの結晶性散乱積分強度および非晶質性散乱積分強度から、上記式(1)により非晶質化率X(%)を求める。なお、測定範囲は、非晶質由来のハローが確認できる回析角2θ=30°~60°の範囲とする。この範囲で、XRDによる実測の積分強度とローレンツ関数を用いて算出した積分強度との誤差が1%以内になるようにする。
【0048】
【数1】
【0049】
なお、本実施形態の軟磁性合金粉末は、非晶質化率X(%)が85%以上であればナノ結晶粒子を含んでいてもよい。ナノ結晶粒子とは、結晶粒径が50nm以下であるナノ結晶を含む粒子のことである。また、軟磁性合金粉末がナノ結晶粒子を含んでいるか否かはXRDにより確認することができる。軟磁性合金粉末がナノ結晶粒子を含む場合には、HcJをさらに低くしやすくなり、軟磁性合金粉末を用いた圧粉磁心等の透磁率μが上昇しやすくなる。
【0050】
なお、ナノ結晶粒子には、多数のナノ結晶が含まれることが通常である。すなわち、後述する軟磁性合金粉末の粒子径とナノ結晶の結晶粒径とは異なる。
【0051】
また、本実施形態の軟磁性合金粉末は、球形度が高い軟磁性合金粉末であってもよい。上記の組成を有することにより、球形に近い粒子形状の軟磁性合金粉末、すなわち、球形度の高い軟磁性合金粉末を得ることができる。
【0052】
一般的には、軟磁性合金粉末の非晶質化率X(%)が高いほど塑性変形が生じにくくなる傾向にある。そのため、圧粉磁心等の成形時に充填率が上昇しにくくなる。軟磁性合金粉末の粒子形状を球形に近くすることで、当該軟磁性合金粉末を用いた圧粉磁心等の充填率を上昇させることができ、保磁力HcJおよび透磁率μ等の各種特性を向上させることができる。
【0053】
さらに、本実施形態の軟磁性合金粉末は、粒子径が大きな粉末の球形度が高いことが好ましい。粒子径が大きな粉末の球形度が高いことにより、当該軟磁性合金粉末を用いた圧粉磁心等の充填率をさらに上昇させることが可能となり、透磁率μが上昇しやすくなる。
【0054】
以下、本実施形態の軟磁性合金粉末における粒子形状および粒子径(粒度分布)の評価方法について説明する。
【0055】
上記の通り、粒子形状は球形に近いほど当該軟磁性合金粉末を用いた圧粉磁心等の充填率を向上させることができ、保磁力等の各種特性を向上させることができる。
【0056】
一般的に、軟磁性合金粉末の粒度分布の基準には体積基準と個数基準とがある。体積基準の粒度分布は、横軸を粒子径、縦軸を体積基準での頻度とするグラフで表される。個数基準での粒度分布は、横軸を粒子径、縦軸を個数基準での頻度とするグラフで表される。両者を重ねると、例えば図3のようなグラフとなる。実線が体積基準での粒度分布、破線が個数基準での粒度分布である。体積基準での粒子径のD50をrとして、rおよび2rの位置を図3に記載している。
【0057】
体積基準による粒度分布と個数基準での粒度分布の違いは、粒子1つ1つがデータに反映される度合いの違いによる。体積基準では、粒子1つ1つがデータに反映される度合いが、その体積に比例することになる。つまり、小型粒子がデータに反映される度合いが小さくなる。一方、個数基準では、粒子1つ1つがデータに反映される度合いが同等である。すなわち、小型粒子がデータに反映される度合いが大きくなる。そのため、上記の粒度分布の違いが生じる。
【0058】
上記の通り、本実施形態の軟磁性合金粉末は、粒子径が大きな粉末の球形度が高いことが好ましい。具体的には、個数基準での粒子径がr以上2r以下である粒子の平均円形度が0.70以上であってもよく、0.90以上であってもよい。また、軟磁性合金粉末全体に対する粒子径がr以上2r以下である粒子の個数基準での含有割合が1%以上25%以下であってもよい。なお、個数基準での粒度分布のうち、粒子径がr以上2r以下である部分の粒度分布のみを抜粋すると図4になる。
【0059】
本実施形態の軟磁性合金粉末は、個数基準での粒子径が25μm以上30μm以下である粒子の平均円形度が0.70以上であってもよく、0.90以上であってもよい。この場合には、個数基準での粒子径のD50が0.5μm以上25μm以下であってもよい。また、軟磁性合金粉末全体に対する粒子径が25μm以上30μm以下である粒子の個数基準での含有割合が0.1%以上10%以下であってもよい。
【0060】
本実施形態の軟磁性合金粉末は、個数基準での粒子径が5μm以上10μm以下である粒子の平均円形度が0.70以上であってもよく、0.90以上であってもよい。この場合には、個数基準での粒子径のD50が0.5μm以上5μm以下であってもよい。また、軟磁性合金粉末全体に対する粒子径が5μm以上10μm以下である粒子の個数基準での含有割合が0.1%以上10%以下であってもよい。
【0061】
本実施形態では、体積基準での粒度分布および粒子径のD50(r)の評価方法には特に制限はない。例えば、フランホーファーの回折理論を利用したレーザ回折式の粒度分布測定装置により評価することができる。
【0062】
本実施形態では、個数基準での粒度分布等についてモフォロギG3(マルバーン・パナティカル社)を用いて評価する。モフォロギG3はエアーにより粉末を分散させ、個々の粒子形状を投影し、評価することができる装置である。光学顕微鏡またはレーザ顕微鏡で粒子径が概ね0.5μm~数mmの範囲内である粒子形状を評価することができる。具体的には、図5に示す粒子形状測定結果1からもわかるように多数の粒子形状を一度に投影し評価することができる。しかし、実際には図5に示す粒子形状測定結果1に記載されているよりもはるかに多数の粒子形状を一度に投影し評価することができる。
【0063】
モフォロギG3は多数の粒子の投影図を一度に作製し評価することができるため、従来のSEM観察などでの評価方法と比べて短時間で多数の粒子の形状を評価することができる。例えば後述する実施例では20000個の粒子について投影図を作製し、個々の粒子の粒子径および円形度を自動的に算出し、粒子径が特定の範囲内である粒子の平均円形度を算出している。これに対し、従来のSEM観察では、SEM画像を用いて1個1個の粒子について円形度を計算するため、短時間で多数の粒子の形状を評価することが難しい。
【0064】
粒子の円形度は投影図における面積をS、投影図における周囲の長さをLとして、4πS/Lで表される。円の円形度が1であり、粒子の投影図の円形度が1に近いほど、粒子の球形度が高くなる。
【0065】
また、本実施形態の軟磁性合金粉末がブロードな粒度分布を有するか否かは、個数基準での粒子径の標準偏差σの大きさにより評価することができる。
【0066】
なお、圧粉磁心等に含まれる軟磁性合金粉末の各種粒度分布を評価する場合には、従来のSEM観察による方法を用いることができる。圧粉磁心等の任意の断面に含まれる粒子1個1個についてSEM画像から粒子径および円形度を算出して評価してもよい。
【0067】
本発明者らは、軟磁性合金粉末の組成を制御することにより、ブロードな粒度分布を有する軟磁性合金粉末を得ることができることを見出した。また、軟磁性合金粉末の組成を制御することにより、軟磁性合金粉末全体のHcJを制御することができる。
【0068】
そして、本発明者らは、軟磁性合金粉末全体のHcJが好適であり、ブロードな粒度分布を有する軟磁性合金粉末を用いた圧粉磁心等における透磁率μが良好になることを見出した。
【0069】
また、軟磁性合金粉末全体のHcJおよび軟磁性合金粉末を用いた圧粉磁心等の透磁率μおよび耐電圧特性等をさらに良好にするためには、粒子径が大きな軟磁性合金粉末の球形度を制御することが軟磁性合金粉末全体の球形度を制御するよりも重要であることを本発明者らは見出した。具体的には個数基準での粒子径がr以上2r以下である粒子の平均円形度および個数基準での粒子径が25μm以上30μm以下である粒子の平均円形度が高いほど透磁率μおよび耐電圧特性が良好になりやすい。
【0070】
なお、軟磁性合金粉末全体の球形度は、製造方法を制御することによっても変化させることができる。しかし、製造方法のみを制御しても、粒子径が大きな軟磁性合金粉末は粒子径が小さな軟磁性合金粉末よりも球形度を変化させにくい。つまり、粒子径が大きな軟磁性合金粉末の球形度を制御するためには、軟磁性合金粉末の組成を制御し、製造方法により軟磁性粉末全体の粒子形状を変化させやすくすることが重要であることを見出した。
【0071】
ここで、軟磁性合金粉末全体の体積分布に対し、互いに同じ合計体積割合である粒子径が小さな軟磁性合金粉末および粒子径が大きな軟磁性合金粉末について考える。互いに同じ合計体積割合であれば、粒子径が小さな軟磁性合金粉末は粒子径が大きな軟磁性合金粉末に対して、粒子数が非常に多くなる。例えば、互いに同じ合計体積割合であれば、粒子径が10μmの軟磁性合金粉末における粒子数は、粒子径が1μmの軟磁性合金粉末粒子における粒子数の約1/1000になる。
【0072】
すなわち、軟磁性合金粉末全体の球形度が、粒子径が大きく粒子数が少ない軟磁性合金粉末の球形度に与える影響は小さい。そして、粒子径が大きな軟磁性合金粉末の球形度に関わらず、軟磁性合金粉末全体の球形度が変化し得る。
【0073】
以下、本実施形態の軟磁性合金粉末の製造方法について説明する
【0074】
本実施形態の軟磁性合金粉末の製造方法には特に限定はない。例えばアトマイズ法が挙げられる。アトマイズ法の種類も任意であり、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法などが挙げられる。
【0075】
以下、水アトマイズ法による軟磁性合金粉末の製造方法について記載する。まず、原料を準備する。準備する原料は金属等の単体でもよく、合金でもよい。原料の形態にも特に制限はない。例えば、インゴット、チャンク(塊)、またはショット(粒子)が挙げられる。
【0076】
次に準備した原料を秤量して混合する。この際、最終的に目的とする組成の軟磁性合金粉末が得られるように秤量する。そして、混合した原料を溶融、混合して溶融金属を得る。溶融、混合に用いる器具に特に制限はない。例えばルツボ等が用いられる。溶融金属の温度は、各金属元素の融点を考慮して決定すればよいが、たとえば1200~1600℃とすることができる。
【0077】
そして、溶融金属から水アトマイズ法にて軟磁性合金粉末を作製する。具体的には、溶融金属をノズル等で噴出させ、噴出した溶融金属に高圧水流を衝突させて急冷することにより、軟磁性合金粉末を作製することができる。なお、溶融金属と軟磁性合金粉末との組成は実質的に一致する。
【0078】
ここで、目的とする軟磁性合金粉末の粒子径を得るためには、高圧水流の圧力や溶融金属の噴出量などを制御することで、粒子径を制御することが可能である。そして、目的とする粒度分布を有する軟磁性合金粉末が得られる。
【0079】
高圧水流の圧力は、例えば50MPa以上100MPa以下であってもよい。溶融金属の噴出量については、例えば1kg/min以上20kg/min以下であってもよい。
【0080】
また、得られた非晶質である軟磁性合金粉末に対して熱処理を行って、軟磁性合金粉末にナノ結晶粒子を析出させてもよい。熱処理の条件は例えば350℃以上800℃以下で0.1分以上120分以下である。
【0081】
以下、ガスアトマイズ法による軟磁性合金粉末の製造方法について記載する。
【0082】
本発明者らは、アトマイズ装置として、図6Aおよび図6Bに示すアトマイズ装置を用いる場合には、粒子径が大きな軟磁性合金粉末を作製しやすく、さらに非晶質である軟磁性金属粉末を得やすくなる。
【0083】
図6Aに示すように、アトマイズ装置10は、溶融金属供給部20と、溶融金属供給部20の鉛直方向の下方に配置してある冷却部30とを有する。図面において、鉛直方向は、Z軸に沿う方向である。
【0084】
溶融金属供給部20は、溶融金属21を収容する耐熱性容器22を有する。耐熱性容器22において、最終的に得られる軟磁性合金粉末の組成となるように秤量された各金属元素の原料が、加熱用コイル24により溶解され、溶融金属21となる。溶解時の温度、すなわち溶融金属21の温度は、各金属元素の原料の融点を考慮して決定すればよいが、たとえば1200~1600℃とすることができる。
【0085】
溶融金属21は、吐出口23から冷却部30に向けて、滴下溶融金属21aとして吐出される。吐出された滴下溶融金属21aに向けて、ガス噴射ノズル26から高圧ガスが噴射され、滴下溶融金属21aは、多数の溶滴となり、ガスの流れに沿って筒体32の内面に向けて運ばれる。
【0086】
ガス噴射ノズル26から噴射されるガスとしては、不活性ガスまたは還元性ガスが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどを用いることができる。還元性ガスとしては、例えば、アンモニア分解ガスなどを用いることができる。しかし、溶融金属21が酸化しにくい金属である場合には、ガス噴射ノズル26から噴射されるガスが空気であってもよい。
【0087】
筒体32の内面に向けて運ばれた滴下溶融金属21aは、筒体32の内部で逆円錐状に形成してある冷却液流れ50に衝突し、さらに分断され微細化されるとともに冷却固化され、固体状の合金粉末となる。筒体32の軸心Oは、鉛直線Zに対して所定角度θ1で傾斜してある。所定角度θ1としては、特に限定されないが、好ましくは、0~45度である。このような角度範囲とすることで、吐出口23からの滴下溶融金属21aを、筒体32の内部で逆円錐状に形成してある冷却液流れ50に向けて吐出させ易くなる。
【0088】
筒体32の軸心Oに沿って下方には、排出部34が設けられ、冷却液流れ50に含まれる合金粉末を冷却液と共に、外部に排出可能になっている。冷却液と共に排出された合金粉末は、外部の貯留槽などで、冷却液と分離されて取り出される。なお、冷却液としては、特に限定されないが、冷却水が用いられる。
【0089】
本実施形態では、滴下溶融金属21aが逆円錐状に形成してある冷却液流れ50に衝突するので、冷却液流れが筒体32の内面33に沿っている場合に比べて、滴下溶融金属21aの溶滴の飛行時間が短縮される。飛行時間が短縮されると、急冷効果が促進され、得られる軟磁性合金粉末の非晶質化率X(%)が向上する。さらに、粒子径が大きな軟磁性合金粉末の球形度が大きくなりやすくなる。また、飛行時間が短縮されると、滴下溶融金属21aの溶滴が酸化されにくいので、得られる軟磁性合金粉末の微細化も促進されると共に軟磁性合金粉末の品質も向上する。
【0090】
本実施形態では、筒体32の内部で、冷却液流れを逆円錐状に形成するために、冷却液を筒体32の内部に導入するための冷却液導入部(冷却液導出部)36における冷却液の流れを制御している。図6Bに、冷却液導入部36の構成を示す。
【0091】
図6Bに示すように、枠体38により、筒体32の径方向の外側に位置する外側部(外側空間部)44と、筒体32の径方向の内側に位置する内側部(内側空間部)46とが規定される。外側部44と内側部46とは、仕切部40で仕切られ、仕切部40の軸芯O方向の上部に形成してある通路部42で、外側部44と内側部46とは、連絡しており、冷却液が流通可能になっている。
【0092】
外側部44には、単一または複数のノズル37が接続してあり、ノズル37から冷却液が外側部44に入り込むようになっている。また、内側部46の軸芯O方向の下方には、冷却液吐出部52が形成してあり、そこから内側部46内の冷却液が筒体32の内部に吐出(導出)されるようになっている。
【0093】
枠体38の外周面は、内側部46内の冷却液の流れを案内する流路内周面38bとなっており、枠体38の下端38aには、枠体38の流路内周面38bから連続し、半径方向の外側に突出している外方凸部38a1が形成してある。したがって、外方凸部38a1の先端と筒体32の内面33との間のリング状の隙間が冷却液吐出部52となる。外方凸部38a1の流路側上面には、流路偏向面62が形成してある。
【0094】
図6Bに示すように、外方凸部38a1により、冷却液吐出部52の径方向幅D1は、内側部46の主要部における径方向幅D2よりも狭くなっている。D1がD2よりも狭いことにより、内側部46の内部を流路内周面38bに沿って軸芯Oの下方に下る冷却液は、次に、枠体38の流路偏向面62に沿って流れて筒体32の内面33に衝突して反射する。その結果、図6Aに示すように、冷却液は、冷却液吐出部52から筒体32の内部に逆円錐状に吐出され、冷却液流れ50を形成する。なお、D1=D2である場合には、冷却液吐出部52から吐出される冷却液は、筒体32の内面33に沿って冷却液流れを形成する。
【0095】
D1/D2は、好ましくは2/3以下であり、さらに好ましくは1/2以下であり、最も好ましくは1/10以上である。
【0096】
なお、冷却液吐出部52から流出する冷却液流れ50は、冷却液吐出部52から軸芯Oに向けて直進する逆円錐流れであるが、渦巻き状の逆円錐流れであってもよい。
【0097】
また、溶融金属の噴出量ガス噴射圧、筒体32内の圧力、冷却液吐出圧、D1/D2等は、目的とする軟磁性合金粉末の粒子径により適宜設定すればよい。溶融金属の噴出量は、例えば1kg/min以上20kg/min以下であってもよい。ガス噴射圧は、例えば0.5MPa以上19MPa以下であってもよい。筒体32内の圧力は、例えば0.5MPa以上19MPa以下であってもよい。冷却液吐出圧は、例えば0.5MPa以上19MPa以下であってもよい。
【0098】
溶融金属の噴出量が少ないほど粒子径が小さくなり、非晶質である軟磁性合金粉末を作製しやすい傾向がある。
【0099】
ガス噴射圧、筒体32内の圧力、および、冷却液吐出圧が高いほど粒子径が小さくなり粒子の円形度も小さくなる傾向にある。
【0100】
なお、粒子径については、例えば篩分級や気流分級等により粒度調整が可能である。以下、篩分級により粒度調整を行う方法について説明する。
【0101】
篩分級では、例えば1回あたりの粉末仕込み量、分級時間および/またはメッシュサイズを変化させることで粒度調整が可能である。そして、1回あたりの粉末仕込み量、分級時間および/またはメッシュサイズを適切に制御することで所望の粒度を有する軟磁性合金粉末が得られる。
【0102】
1回あたりの粉末仕込み量が多いほど粒子の平均円形度が低下しやすくなる。分級時間が短いほど粒子の平均円形度が低下しやすくなる。メッシュサイズが大きいほど粒子の平均円形度が低下しやすくなる。
【0103】
その他の粒度調整の方法としては、粉末をメッシュに通過させる回数を変化させる方法がある。メッシュサイズが同一であっても、粉末をメッシュに通過させる回数を多くすることで異形状粒子をより多く抽出することが可能である。異形状粒子をより多く抽出することで粉末の平均円形度を向上させることも可能である。
【0104】
複数の種類の軟磁性合金粉末を配合することで粒度調整を行ってもよい。
【0105】
本実施形態に係る軟磁性合金粉末の用途には特に制限はない。例えば、圧粉磁心が挙げられる。本実施形態に係る軟磁性合金粉末を用いる場合には、圧粉磁心作製時の圧力を比較的低くしても好適な透磁率μが得られやすくなる。粒度分布がブロードになることで、圧粉磁心作製時の圧力を比較的低くしても得られる圧粉磁心が緻密化しやすくなるためである。具体的には、圧粉磁心作製時の圧力を、例えば98MPa以上1500MPa以下とすることができる。
【0106】
また、本実施形態に係る圧粉磁心は、インダクタ用、特にパワーインダクタ用の圧粉磁心として好適に用いることができる。さらに、圧粉磁心とコイル部とを一体成形したインダクタにも好適に用いることができる。
【0107】
また、軟磁性合金粉末を用いた磁性部品、例えば薄膜インダクタ、磁気ヘッドにも好適に用いることができる。さらに、当該軟磁性合金粉末を用いた圧粉磁心や磁性部品は電子機器に好適に用いることができる。
【実施例
【0108】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
【0109】
(実験例1)
以下に示す表1に記載の組成の母合金が得られるように各種材料のインゴットを準備し、秤量した。そして、水アトマイズ装置内に配置されたルツボに収容した。次いで、不活性雰囲気中、ルツボ外部に設けたワークコイルを用いて、ルツボを高周波誘導により1500℃まで加熱し、ルツボ中のインゴットを溶融、混合して溶融金属(溶湯)を得た。
【0110】
次いで、ルツボに設けられたノズルから、ルツボ内の溶湯を噴出すると同時に、噴出した溶湯に100MPaの高圧水流を衝突させて急冷することにより、表1に示す各実施例および比較例の軟磁性合金粉末を作製した。また、母合金の組成と軟磁性合金粉末の組成とが概ね一致していることをICP分析により確認した。
【0111】
得られた各軟磁性合金粉末について、篩分級を行った。篩分級の条件は、1回あたりの仕込み量0.5kg、分級時間1分とした。さらに、メッシュサイズは目開き38μmとした。
【0112】
得られた各軟磁性合金粉末が非晶質からなるのか結晶からなるのかを確認した。XRDを用いて各薄帯の非晶質化率X(%)を測定し、X(%)が85%以上である場合に非晶質からなるとした。X(%)が85%未満である場合に結晶からなるとした。結果を表1に示す。
【0113】
得られた各軟磁性合金粉末に対してHcJおよびBsを測定した。HcJはHcメーターを用いて測定した。結果を表1に示す。実験例1では、HcJは2.4Oe以下を良好とし、1.0Oe以下をさらに良好とした。Bsは0.70T以上を良好とし、1.40T以上をさらに良好とした。
【0114】
得られた各軟磁性合金粉末における粉末粒子の形状を評価した。具体的には、体積基準でのD50(r)、個数基準でのD50、個数基準でのσ、および、個数基準での粒子径r以上2r以下での平均円形度を評価した。結果を表1に示す。
【0115】
実験例1では、体積基準でのD50(r)が10~11μmとなり、個数基準でのD50が4~5μmとなった。
【0116】
体積基準でのD50(r)は、レーザ回折式の粒度分布測定装置(HELOS&RODOS、Sympatec社)を用いて測定した。
【0117】
個数基準でのD50およびσは、モフォロギG3(マルバーン・パナリティカル社)を用いて倍率10倍で20000個の粉末粒子の形状を観察することで測定した。具体的には、体積3cc分の軟磁性合金粉末を1~3barの空気圧で分散させてレーザ顕微鏡による投影像を撮影した。各粉末粒子の粒子径より、個数基準でのD50およびσを算出した。なお、各粉末粒子の粒子径は円相当径とした。
【0118】
実験例1では、σが2.5μm以上である場合を良好とした。
【0119】
個数基準での粒子径r以上2r以下での平均円形度は、20000個の粉末粒子のうち粒子径がr以上2r以下である粉末粒子の円形度をそれぞれ測定し、平均することで算出した。
【0120】
次に、各軟磁性合金粉末からトロイダルコアを作製した。具体的には、各軟磁性合金粉末に対して絶縁バインダとなるフェノール樹脂量が全体の3質量%になるよう混合し、攪拌機として一般的なプラネタリーミキサーを用いて500μm程度の造粒粉となるように造粒した。次に、得られた造粒粉を面圧4ton/cm(392MPa)で成形し、外形13mmφ、内径8mmφ、高さ6mmのトロイダル形状の成形体を作製した。得られた成形体を150℃で硬化させ、トロイダルコアを作製した。
【0121】
そして、トロイダルコアにUEW線を巻き線し、4284A PRECISION LCR METER(ヒューレットパッカード)を用いて100kHzでμ(透磁率)を測定した。実験例1ではμが25以上である場合を良好とした。
【0122】
【表1】
【0123】
表1より、全ての実施例および比較例において、個数基準での粒子径r以上2r以下での平均円形度が0.70以上となった。
【0124】
表1より、CおよびSを含まない比較例である試料番号1の軟磁性合金粉末は、HcJが高く、σが低かった。そして、トロイダルコアのμも低かった。
【0125】
試料番号1の軟磁性合金粉末にSのみを添加した組成である試料番号5~7の軟磁性合金粉末は、試料番号1の軟磁性合金粉末と比較して、Sの添加によりHcJがさらに高くなった。そして、試料番号1と同様にトロイダルコアのμも低かった。
【0126】
試料番号1の軟磁性合金粉末にCのみを添加した組成である試料番号2~4の軟磁性合金粉末は、試料番号1の軟磁性合金粉末と比較して、HcJは低下したがσも低下した。そして、試料番号1と比較してトロイダルコアのμも低下した。
【0127】
試料番号2の軟磁性合金粉末にSを特定の範囲内で添加した組成である試料番号8~12の実施例の軟磁性合金粉末は、HcJおよびσが良好であった。さらに、当該軟磁性合金粉末を用いたトロイダルコアのμも良好であった。なお、Sの含有量(f)が多すぎた試料番号13は、軟磁性合金粉末が結晶粒径100nm以上の結晶を含み、非晶質化率X(%)が85%未満であった。そして、Hcjが著しく上昇した。また、トロイダルコアのμも低かった。
【0128】
試料番号14~17は、M、SiおよびSを含有させずにPの含有量(c)およびCの含有量(e)を変化させた比較例の軟磁性合金粉末である。試料番号14~17はσが低く、トロイダルコアのμも低かった。また、Cの含有量が大きい試料番号17はHcJも上昇した。
【0129】
試料番号18~21は、試料番号14~17に対してSの含有量(f)を0から0.0010に変化させた組成を有する実施例の軟磁性合金粉末であり、HcJおよびσが良好であった。さらに、当該軟磁性合金粉末を用いたトロイダルコアのμも良好であった。
【0130】
試料番号22~24は、M、PおよびSを含有させずにBの含有量(b)、Siの含有量(d)およびCの含有量(e)を変化させた組成を有する比較例の軟磁性合金粉末である。試料番号22~24はσが低く、トロイダルコアのμも低かった。
【0131】
試料番号25~27は、試料番号22~24に対してSの含有量(f)を0から0.0010に変化させた組成を有する実施例の軟磁性合金粉末であり、HcJおよびσが良好であった。さらに、当該軟磁性合金粉末を用いたトロイダルコアのμも良好であった。
【0132】
試料番号25~27の各実施例は試料番号8~12、18~21の各実施例と比較してBsが小さかった。Feの含有量が小さいためである。
【0133】
試料番号28~30、28a~28dは、上記の実施例とは異なりMとしてNbを含む実施例の軟磁性合金粉末である。Mを含まない実施例と同様にHcJおよびσが良好であった。また、0≦a<0.020を満たす実施例のBsがa≧0.020を満たす実施例のBsと比較して良好であった。さらに、当該軟磁性合金粉末を用いたトロイダルコアのμも良好であった。
【0134】
なお、実験例1の各実施例について、個数基準での粒子径25μm以上30μm以下での平均円形度、および、個数基準での粒子径5μm以上10μm以下での平均円形度も同様にして算出した。その結果、全ての実施例で個数基準での粒子径25μm以上30μm以下での平均円形度が0.70以上であり、個数基準での粒子径5μm以上10μm以下での平均円形度が0.90以上であった。
【0135】
(実験例2)
実験例2では、アトマイズ方法を水アトマイズ法からガスアトマイズ法に変更した点、および、篩分級の条件以外は実験例1と同様に実施した。図6Aおよび図6Bに示すアトマイズ装置を用いた。
【0136】
以下に示す表2に記載の組成の母合金が得られるように各種材料のインゴット、を準備し、秤量した。
【0137】
次に、アトマイズ装置10内に配置された耐熱性容器22に母合金を収容した。続いて、筒体32内を真空引きした後、耐熱性容器22外部に設けた加熱用コイル24を用いて、耐熱性容器22を高周波誘導により加熱し、耐熱性容器22中の原料金属を溶融、混合して1500℃の溶融金属(溶湯)を得た。
【0138】
得られた溶湯を冷却部30の筒体32内に1500℃で噴射して、アルゴンガスを7MPaの噴射ガス圧で噴射することにより、多数の溶滴とした。溶滴は、ポンプ圧(冷却液吐出圧)10MPaで供給された冷却水により形成された逆円錐状の冷却水流れに衝突して、微細な粉末となり、その後回収された。なお、筒体32内の圧力は0.5MPaとした。
【0139】
なお、図6に示すアトマイズ装置10において、筒体32の内面の内径は300mm、D1/D2は1/2、角度θ1は20度であった。
【0140】
得られた各軟磁性合金粉末について、篩分級を行った。篩分級の条件は、1回あたりの仕込み量0.05kg、分級時間5分とした。さらに、メッシュサイズは目開き63μmとした。
【0141】
実験例2では、実験例1とは異なり、体積基準でのD50(r)が22~27μmとなり、個数基準でのD50が8~9μmとなった。また、実験例2では、全ての実施例および比較例で個数基準での粒子径r以上2r以下での平均円形度が0.90以上となった。また、実験例2では、σは7.0μm以上を良好とした。また、トロイダルコアの透磁率μは33以上を良好とした。結果を表2に示す。
【0142】
【表2】
【0143】
表2より、全ての実施例および比較例において、個数基準での粒子径r以上2r以下での平均円形度が0.90以上となった。
【0144】
表2より、CおよびSを含まない比較例である試料番号31の軟磁性合金粉末は、HcJが高く、σが低かった。そして、トロイダルコアのμも低かった。
【0145】
試料番号31の軟磁性合金粉末にSのみを添加した組成である試料番号35~37の軟磁性合金粉末は、試料番号31の軟磁性合金粉末と比較して、Sの添加によりHcJがさらに高くなった。そして、試料番号31と同様にトロイダルコアのμも低かった。
【0146】
試料番号31の軟磁性合金粉末にCのみを添加した組成である試料番号32~34の軟磁性合金粉末は、試料番号31の軟磁性合金粉末と比較して、HcJは低下したがσも低下した。そして、試料番号31と比較してトロイダルコアのμも低下した。
【0147】
試料番号32の軟磁性合金粉末にSを特定の範囲内で添加した組成である試料番号38~42の実施例の軟磁性合金粉末は、HcJおよびσが良好であった。さらに、当該軟磁性合金粉末を用いたトロイダルコアのμも良好であった。なお、Sの含有量(f)が多すぎた試料番号43は、軟磁性合金粉末が結晶粒径100nm以上の結晶からなり、Hcjが著しく上昇した。また、トロイダルコアのμも低かった。
【0148】
試料番号44~47は、M、SiおよびSを含有させずにPの含有量(c)およびCの含有量(e)を変化させた比較例の軟磁性合金粉末である。試料番号44~47はσが低く、トロイダルコアのμも低かった。また、Cの含有量が大きい試料番号47はHcJも上昇した。
【0149】
試料番号48~51は、試料番号44~47に対してSの含有量(f)を0から0.0010に変化させた組成を有する実施例の軟磁性合金粉末であり、HcJおよびσが良好であった。さらに、当該軟磁性合金粉末を用いたトロイダルコアのμも良好であった。
【0150】
試料番号52~54は、M、PおよびSを含有させずにBの含有量(b)、Siの含有量(d)およびCの含有量(e)を変化させた組成を有する比較例の軟磁性合金粉末である。試料番号52~54はσが低く、トロイダルコアのμも低かった。
【0151】
試料番号55~57は、試料番号52~54に対してSの含有量(f)を0から0.0010に変化させた組成を有する実施例の軟磁性合金粉末であり、HcJおよびσが良好であった。さらに、当該軟磁性合金粉末を用いたトロイダルコアのμも良好であった。
【0152】
試料番号55~57の各実施例は試料番号38~42、48~51の各実施例と比較してBsが小さかった。Feの含有量が小さいためである。
【0153】
試料番号58~60、58a~58dは、上記の実施例とは異なりMとしてNbを含む実施例の軟磁性合金粉末である。Mを含まない実施例と同様にHcJおよびσが良好であった。また、0≦a<0.020を満たす実施例のBsがa≧0.020を満たす実施例のBsと比較して良好であった。さらに、当該軟磁性合金粉末を用いたトロイダルコアのμも良好であった。
【0154】
試料番号60aおよび60bは、Feの含有量が試料番号31~60よりも高い組成を有する実施例の軟磁性合金粉末である。Feの含有量を高くしても、HcJおよびσが良好であった。さらに、当該軟磁性合金粉末を用いたトロイダルコアのμも良好であった。
【0155】
また、Mの種類を変化させた点以外は試料番号58と同条件で試料番号61~70の各種軟磁性合金粉末を作製した。また、Mの種類を変化させた点以外は試料番号58bと同条件で試料番号61b~70bの各種軟磁性合金粉末を作製した。結果を表3に示す。
【0156】
【表3】
【0157】
表3より、Mの種類を変化させた試料番号61~70は試料番号58と同等程度に良好な試験結果となった。また、試料番号61b~70bは試料番号58bと同等程度に良好な試験結果となった。
【0158】
(実験例3)
実験例3では、a=0.000、b=0.120、c=0.090、d=0.030、e=0.010、f=0.0010、α=β=0を満たす試料番号71の軟磁性合金粉末を作製した。さらに、X1および/またはX2の種類および含有量を試料番号71から適宜変化させた試料番号72~125を実施した。実験例3における軟磁性合金粉末の製造条件は、軟磁性合金粉末の組成以外、実験例2と同条件とした。結果を表4に示す。
【0159】
【表4】
【0160】
表4より、本願発明の範囲内の組成を有する試料番号71~125の軟磁性合金粉末は、好適なHcJ、Bsおよびσを有していた。さらに、当該軟磁性合金粉末を用いたトロイダルコアのμも良好であった。
【0161】
(実験例4)
実験例4では、試料番号71について篩分級における1回あたりの粉末仕込み量を変化させることで軟磁性合金粉末の個数基準の平均円形度を変化させた点以外は実験例3と同条件で試料番号126~128の軟磁性合金粉末を作製した。結果を表5に示す。なお、表5には、個数基準での粒子径25μm以上30μm以下での平均円形度の具体的な数値も示す。
【0162】
また、実験例4では、トロイダルコアの透磁率とともに耐電圧特性を測定した。耐電圧特性の測定では、まず、トロイダルコアの厚み方向に垂直な二面にIn-Ga電極を形成した。次に、ソースメーターを用いて電圧を印加し、1mAの電流が流れたときの電圧を測定した。そして、当該電圧をトロイダルコアの厚みで割ることにより耐電圧特性を測定した。
【0163】
【表5】
【0164】
表5より、軟磁性合金粉末の平均円形度を変化させた試料番号126~128の軟磁性合金粉末は、試料番号71と同様に好適なHcJおよびσを有していた。さらに、当該軟磁性合金粉末を用いたトロイダルコアのμも良好であった。
【0165】
また、トロイダルコアの耐電圧特性はr以上2r以下での平均円形度および25μm以上30μm以下での平均円形度が高いほど良好になりやすい傾向にあった。
【0166】
(実験例5)
実験例5では、試料番号8について、篩分級における1回あたりの粉末仕込み量および分級時間を変化させることで軟磁性合金粉末の平均円形度を変化させた点以外は実験例1と同条件で試料番号130~136の軟磁性合金粉末を作製した。また、実験例4と同様に各試料の軟磁性合金粉末を用いたトロイダルコアの透磁率および耐電圧特性を測定した。結果を表6に示す。なお、表6には、個数基準での粒子径25μm以上30μm以下での平均円形度、および、個数基準での粒子径5μm以上10μm以下での平均円形度の具体的な数値も示す。
【0167】
【表6】
【0168】
表6より、軟磁性合金粉末の平均円形度を変化させた試料番号8、130~136の軟磁性合金粉末は、実験例1の各実施例と同様に好適なHcJおよびσを有していた。さらに、当該軟磁性合金粉末を用いたトロイダルコアのμも良好であった。
【0169】
また、トロイダルコアの耐電圧特性はr以上2r以下での平均円形度および25μm以上30μm以下での平均円形度が高いほど良好になりやすい傾向にあった。
【0170】
(実験例6)
実験例6では、ガスアトマイズの噴射ガス圧を2MPa以上15MPa以下の範囲で変化させ、粒度および形状が互いに異なる6種類の試料A~Fを作成した。試料A~Fを配合することで試料番号71、137、138を作製した。試料137、138は、個数基準での粒子径r以上2r以下での平均円形度と、個数基準での粒子径25μm以上30μm以下での平均円形度と、を試料71に近い値とし、軟磁性合金粉末に含まれる全粒子の平均円形度を変化させた試料である。試料A~Fの噴射ガス圧、個数基準でのD50および全粒子の平均円形度を表7Bに示す。また、試料A~Fの配合比(質量比)を表7Cに示す。なお、試料Cは試料番号71と同一であり、試料A~Fのガスアトマイズの噴射ガス圧以外の作製条件は試料番号71と同一である。そして、各試料の軟磁性合金粉末を用いたトロイダルコアの透磁率および耐電圧特性を測定した。結果を表7Aに示す。
【0171】
【表7A】
【0172】
【表7B】
【0173】
【表7C】
【0174】
表7Aより、全粒子の平均円形度が変化しても、組成と、個数基準での粒子径r以上2r以下での平均円形度と、個数基準での粒子径25μm以上30μm以下での平均円形度と、が変化前と同様に高い値を示していれば、変化前と同様に良好な結果が得られることが確認できた。
【0175】
(実験例7)
実験例7では、試料番号71からPの含有量(c)およびSiの含有量(d)を適宜変化させた点以外は同条件で試料番号139、139a、140、140aの軟磁性合金粉末を作製した。結果を表8に示す。
【0176】
【表8】
【0177】
表8より、0.080<d<0.100を満たす試料番号71、139a、140aは、0.080<d<0.100を満たさない試料番号139、140と比較して、HcJが低下し、良好なHcJを有する結果となった。
【0178】
(実験例8)
実験例8では、試料番号71からBの含有量(b)およびCの含有量(c)を適宜変化させた点以外は同条件で試料番号141a、141~143の軟磁性合金粉末を作製した。結果を表9に示す。
【0179】
【表9】
【0180】
表9より、0.0001≦e+f≦0.051を満たす試料番号71、141a、141、142は、0.0001≦e+f≦0.051を満たさない試料番号143と比較してσが大きくなり、トロイダルコアの透磁率μも大きくなった。
【0181】
表9より、0.030<e≦0.050を満たす試料番号141a、142は、0.030<e≦0.050を満たさない試料番号71、141、143と比較してトロイダルコアの透磁率μが大きくなった。
【0182】
(実験例9)
実験例9では、試料番号59の軟磁性合金粉末に熱処理を行い、軟磁性合金にナノ結晶を析出させた試料番号151の軟磁性合金粉末を作製した。熱処理条件は520℃で60分とした。また、試料番号151の軟磁性合金粉末には結晶粒径が30nm以下であり結晶構造がbccであるナノ結晶粒子が析出していること、および、試料番号151の軟磁性合金粉末の非晶質化率X(%)が85%以上であることをXRDにより確認した。結果を表10に示す。

【0183】
【表10】
【0184】
表10より、熱処理によりナノ結晶粒子を析出させた試料番号151は、熱処理前の試料番号59と比較して、HcJが低下し、トロイダルコアの透磁率μが大きくなった。
【符号の説明】
【0185】
1…粒子形状測定結果
10…アトマイズ装置
20…溶融金属供給部
21…溶融金属
21a…滴下溶融金属
30…冷却部
36…冷却液導入部
38a1…外方凸部
50…冷却液流れ
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B