(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】車両の演算装置、プログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/01 20060101AFI20240123BHJP
G01C 21/26 20060101ALI20240123BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20240123BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20240123BHJP
【FI】
G08G1/01 A
G01C21/26 A
B60L58/12
B60L3/00 N
(21)【出願番号】P 2020076831
(22)【出願日】2020-04-23
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】伊東 悠太郎
(72)【発明者】
【氏名】池本 宣昭
(72)【発明者】
【氏名】井村 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】南條 弘行
(72)【発明者】
【氏名】東谷 光晴
【審査官】西畑 智道
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-176630(JP,A)
【文献】特開2010-210271(JP,A)
【文献】特開2012-220415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
G01C 21/00-21/36
G01C 23/00-25/00
B60L 58/12
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の航続可能距離を演算する演算装置(31)であって、
前記車両の走行経路に関する情報を取得する経路情報取得部(311)と、
前記車両の走行に用いることが可能なエネルギの残量に関する情報を取得するエネルギ残量取得部(312)と、
前記走行経路に関する情報、及び前記エネルギの残量に関する情報とは別に前記航続可能距離を演算するために必要な所定のパラメータを取得するパラメータ取得部(310)と、
前記走行経路に関する情報、前記エネルギの残量に関する情報、及び前記所定のパラメータに基づいて前記車両の航続可能距離を演算する演算部(313)と、を備え、
前記パラメータ取得部は、
前記所定のパラメータを第1取得手段で取得できない場合、前記第1取得手段とは異なる第2取得手段で前記所定のパラメータを取得
し、
前記第2取得手段として、自車両において検出可能な情報である自車両検出情報に基づいて前記所定のパラメータを設定し、
前記第2取得手段として、前記自車両検出情報から前記所定のパラメータを演算できない場合には、他車両から取得する情報に基づいて前記所定のパラメータを設定する
車両の演算装置。
【請求項2】
前記パラメータ取得部は、前記自車両検出情報として、過去の自車両検出情報を用いる
請求項
1に記載の車両の演算装置。
【請求項3】
前記パラメータ取得部は、
前記過去の自車両検出情報として、自車両の過去の走行履歴に関する情報を用いるとともに、
前記第2取得手段として、前記自車両の過去の走行履歴に関する情報を統計的に処理した値に基づいて前記所定のパラメータを設定する
請求項
2に記載の車両の演算装置。
【請求項4】
前記自車両の過去の走行履歴に関する情報には、自車両の走行速度の情報、及び自車両の動力源の駆動力の情報の少なくとも一方が含まれている
請求項
3に記載の車両の演算装置。
【請求項5】
前記他車両から取得する情報は、前記他車両において検出される情報である
請求項
1~4のいずれか一項に記載の車両の演算装置。
【請求項6】
前記パラメータ取得部は、複数の他車両おいて検出される情報を統計的に処理することにより前記所定のパラメータを設定する
請求項
5に記載の車両の演算装置。
【請求項7】
前記他車両において検出される情報には、他車両の走行速度の情報、及び他車両の動力源の駆動力の情報の少なくとも一方が含まれている
請求項
6に記載の車両の演算装置。
【請求項8】
前記パラメータ取得部は、前記第2取得手段で前記所定のパラメータを取得できない場合には、前記所定のパラメータとして予め定められた値を用いる
請求項1~
7のいずれか一項に記載の車両の演算装置。
【請求項9】
少なくとも一つの処理部(31)に、
車両の走行経路に関する情報を取得させ、
前記車両の走行に用いることが可能なエネルギの残量に関する情報を取得させ、
前記走行経路に関する情報、及び前記エネルギの残量に関する情報とは別に前記車両の航続可能距離を演算するために必要な所定のパラメータを取得させ、
前記走行経路に関する情報、前記エネルギの残量に関する情報、及び前記所定のパラメータに基づいて前記車両の航続可能距離を演算させ、
前記所定のパラメータを第1取得手段で取得できない場合、前記第1取得手段とは異なる第2取得手段で前記所定のパラメータを取得させ、
前記第2取得手段として、自車両において検出可能な情報である自車両検出情報に基づいて前記所定のパラメータを設定させ、
前記第2取得手段として、前記自車両検出情報から前記所定のパラメータを演算できない場合には、他車両から取得する情報に基づいて前記所定のパラメータを設定させる
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の航続可能距離を演算する演算装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記の特許文献1に記載の車両の演算装置がある。この演算装置は、車両情報や道路情報に基づいて、車両が走行する所定区間における単位時間当たりのエネルギ消費量を演算する。また、演算部は、演算された単位時間当たりのエネルギ消費量と、所定区間を車両が過去に移動した際に要した走行時間とに基づいて、所定区間における車両のエネルギ消費量を推定する。また、この演算装置は、車両から取得した残存エネルギ量と、所定区間における車両のエネルギ消費量の推定値とから、車両の航続可能距離を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の演算装置のように航続可能距離を演算する場合、車両情報、道路情報、及び車両の過去の走行履歴等の情報が必要となる。この点、例えば車両が通信装置を用いてサーバ装置等から道路情報を取得しているような場合、通信装置が故障すると、車両の演算部が道路情報を取得できない可能性がある。このような場合、演算装置は航続可能距離を演算することができない。このように、特許文献1に記載の演算装置にあっては、車両情報、道路情報、及び車両の過去の走行履歴のうちのいずれかの情報が何らかの原因により欠損すると、航続可能距離を演算できない可能性がある。
【0005】
本開示は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、航続可能距離の演算に関して冗長性を確保することが可能な車両の演算装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する車両の演算装置は、車両の航続可能距離を演算する演算装置(31)であって、車両の走行経路に関する情報を取得する経路情報取得部(311)と、車両の走行に用いることが可能なエネルギの残量に関する情報を取得するエネルギ残量取得部(312)と、走行経路に関する情報、及びエネルギの残量に関する情報とは別に航続可能距離を演算するために必要な所定のパラメータを取得するパラメータ取得部(310)と、走行経路に関する情報、エネルギの残量に関する情報、及び所定のパラメータに基づいて車両の航続可能距離を演算する演算部(313)と、を備える。パラメータ取得部は、所定のパラメータを第1取得手段で取得できない場合、第1取得手段とは異なる第2取得手段で所定のパラメータを取得し、第2取得手段として、自車両において検出可能な情報である自車両検出情報に基づいて所定のパラメータを設定し、第2取得手段として、自車両検出情報から所定のパラメータを演算できない場合には、他車両から取得する情報に基づいて所定のパラメータを設定する。
上記の課題を解決するプログラムは、少なくとも一つの処理部(31)に、車両の走行経路に関する情報を取得させ、車両の走行に用いることが可能なエネルギの残量に関する情報を取得させ、走行経路に関する情報、及びエネルギの残量に関する情報とは別に車両の航続可能距離を演算するために必要な所定のパラメータを取得させ、走行経路に関する情報、エネルギの残量に関する情報、及び所定のパラメータに基づいて車両の航続可能距離を演算させ、所定のパラメータを第1取得手段で取得できない場合、第1取得手段とは異なる第2取得手段で所定のパラメータを取得させ、第2取得手段として、自車両において検出可能な情報である自車両検出情報に基づいて所定のパラメータを設定させ、第2取得手段として、自車両検出情報から所定のパラメータを演算できない場合には、他車両から取得する情報に基づいて所定のパラメータを設定させる。
【0007】
この構成によれば、第1取得手段で所定のパラメータを取得できない場合であっても、第2取得手段で所定のパラメータを取得できるため、航続可能距離の演算に関して冗長性を確保することができる。
なお、上記手段、特許請求の範囲に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の車両の演算装置及びプログラムによれば、航続可能距離の演算に関して冗長性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態の車両の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、実施形態の予測ECUにより実行される処理の手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、実施形態の予測ECUにより実行される車両パラメータ取得処理の手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施形態の予測ECUにより実行される環境パラメータ取得処理の手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、実施形態の予測ECUにより用いられる、外気温、空調パワー、及び天候の関係を示すマップである。
【
図6】
図6は、実施形態の予測ECUにより用いられる地図情報取得処理の手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、実施形態の予測ECUによる車速プロフィールの設定方法を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施形態の予測ECUによる限界到達地点及び航続可能距離の演算方法を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施形態のHMI装置に表示される地図情報を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、車両の演算装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
はじめに、本実施形態の演算装置が搭載される車両の概略構成について説明する。
図1に示されるように、本実施形態の車両10は、モータジェネレータ20と、インバータ装置21と、バッテリ22と、クラッチ23とを備えている。本実施形態の車両10は、走行用の動力源としてモータジェネレータ20を用いる、いわゆる電動車両である。
【0011】
バッテリ22は、充電及び放電の可能なリチウムイオン電池等の二次電池からなる。インバータ装置21は、バッテリ22に充電されている直流電力を交流電力に変換して、変換された交流電力をモータジェネレータ20に供給する。モータジェネレータ20は、インバータ装置21から供給される交流電力に基づいて駆動し、第1動力伝達軸24を回転させる。第1動力伝達軸24はクラッチ23を介して第2動力伝達軸25に連結されている。クラッチ23は、第1動力伝達軸24と第2動力伝達軸25とが連結されている連結状態と、それらの連結が解除されている非連結状態とに切り替え可能である。クラッチ23が連結状態であるとき、第1動力伝達軸24と第2動力伝達軸25との間での動力の伝達が可能となる。このとき、例えばモータジェネレータ20から第1動力伝達軸24に伝達される動力が第2動力伝達軸25、ディファレンシャルギア26、及び駆動軸27を介して車輪28に伝達されることで車輪28が回転し、車両10が走行する。クラッチ23が非連結状態であるとき、第1動力伝達軸24と第2動力伝達軸25との間での動力の伝達が遮断される。
【0012】
モータジェネレータ20は車両10の制動時に回生発電を行う。具体的には、車両10の制動時に車輪28に作用する制動力は、駆動軸27、ディファレンシャルギア26、第2動力伝達軸25、クラッチ23、及び第1動力伝達軸24を介してモータジェネレータ20に入力される。モータジェネレータ20は、この車輪28から逆入力される動力に基づいて発電する。モータジェネレータ20により発電される電力は、インバータ装置21により交流電力から直流電力に変換されてバッテリ22に充電される。
【0013】
車両10は、EV(Electric Vehicle)ECU(Electronic Control Unit)30と、予測ECU31と、HMI(Human Machine Interface)ECU32とを備えている。各ECU30~32は、CPUやROM、RAM等を有するマイクロコンピュータを中心に構成されており、ROMに予め記憶されているプログラムを実行することにより各種制御を実行する。
【0014】
EVECU30はモータジェネレータ20を制御する部分である。EVECU30には車載センサ40の出力信号が入力されている。車載センサ40は、車両10の各種状態量を検出するために車両10に搭載されている各種センサを総称したものである。車載センサ40には、例えば車両10の走行速度を検出する車速センサや、車両10の加速度を検出する加速度センサ、アクセルペダルの踏み込み位置を検出するアクセルポジションセンサ等が含まれている。EVECU30は、車載センサ40により検出される車速やアクセルペダルの踏み込み量等の車両状態量に基づいて、モータジェネレータ20から出力すべきトルクの目標値であるトルク指令値を演算するとともに、演算されたトルク指令値に基づいて、バッテリ22からモータジェネレータ20に供給すべき通電量の制御値を演算する。EVECU30は、演算された通電制御値に基づいてインバータ装置21を制御する。これにより、通電制御値に応じた電力がバッテリ22からモータジェネレータ20に供給されることで、トルク指令値に応じたトルクがモータジェネレータ20から出力される。また、EVECU30は、車両10の減速時には、モータジェネレータ20の回生動作により発電される電力がバッテリ22に充電されるようにインバータ装置21を制御する。
【0015】
EVECU30は、バッテリ22から、そのSOC(State Of Charge)値の情報を取得することが可能である。なお、SOC値は、バッテリ22の完全放電状態を「0[%]」と定義し、バッテリ22の満充電状態を「100[%]」と定義した上で、バッテリ22の充電状態を「0[%]」から「100[%]」の範囲で表したものである。EVECU30は、予測ECU31からの要求に応じてバッテリ22のSOC値の情報を予測ECU31に送信する。また、EVECU30は、予測ECU31からの要求に応じて、駆動系のエネルギ効率η_dやモータジェネレータ20の駆動力、モータジェネレータ20の効率に関する情報も予測ECU31に送信する。駆動系のエネルギ効率η_dとは、バッテリ22のエネルギがインバータ装置21やモータジェネレータ20、動力伝達軸24,25等の動力伝達系を介して車輪28まで伝達される際のエネルギの伝達効率を示すものである。モータジェネレータ20の効率に関する情報は、一定値でもよいし、モータジェネレータ20の回転速度及びトルクを変数とするマップにより表現してもよい。また、バッテリ22の効率に関する情報は、一定値であってもよいし、バッテリ22の内部抵抗であってもよい。
【0016】
予測ECU31は車両10の航続可能距離を演算する部分である。予測ECU31は、パラメータ取得部310と、経路情報取得部311と、エネルギ残量取得部312と、演算部313とを有している。本実施形態では、予測ECU31が演算装置に相当する。
パラメータ取得部310は、車載センサ40の出力信号に基づいて、走行速度や加速度等の車両10の各種車両状態量を取得する。
【0017】
また、パラメータ取得部310は、車両10の通信ユニット41を介して、車両10の周辺を走行する他車両60や交通管理システム61、サーバ装置62と無線通信を行うことが可能である。パラメータ取得部310は、他車両60や交通管理システム61、サーバ装置62等から通信ユニット41を介して各種情報を取得する。他車両60から取得可能な情報には、他車両60の走行速度や動力源の駆動力等の情報が含まれている。交通管理システム61から取得可能な情報には、車両10の周辺の渋滞情報等が含まれている。サーバ装置62から取得可能な情報には、所定地点を走行している他車両の平均車速や、所定地点の気象情報等が含まれている。
【0018】
また、サーバ装置62は、複数の車両と通信を行うことにより、各車両において計測された様々な車両の過去の走行履歴に関する情報をデータベース化して記憶している。サーバ装置62においてデータベース化されている複数の車両の過去の走行履歴に関する情報には、その車両が走行している地点における車両の走行抵抗、駆動力、及び車両の走行速度等が含まれている。パラメータ取得部310は、このデータベース化されている複数の車両の過去の走行履歴に関する情報を、通信ユニット41を介してサーバ装置62から取得可能である。
【0019】
さらに、パラメータ取得部310は、車両10の記憶装置42に記憶されている各種情報を読み込むこともできる。記憶装置42には、車両10の重量や走行抵抗のそれぞれの固定値等の情報が記憶されている。
また、パラメータ取得部310は、駆動系のエネルギ効率η_dやバッテリ22のエネルギ効率、モータジェネレータ20の駆動力に関する情報をEVECU30から取得する。さらに、パラメータ取得部310は、車両10に搭載されている他のECUからも各種情報を取得する。パラメータ取得部310は、例えば空調装置を制御する空調ECUから、空調装置の出力である空調パワーや空調装置のエネルギ効率η_a等の情報を取得することもできる。
【0020】
経路情報取得部311は、記憶装置42に記憶されている地図情報を取得することもできる。記憶装置42から取得可能な地図情報には、道路の勾配や曲率等の情報が含まれている。記憶装置42に記憶されている地図情報には、3次元の道路形状と共に、その経路における制限車速や、VICS(Vehicle Information and Communication System:登録商標)により取得可能な道路の混雑状況等に関する情報が含まれている。
【0021】
エネルギ残量取得部312は、バッテリ22の現在のSOC値をEVECU30から取得する。本実施形態では、バッテリ22の現在のSOC値が、車両10の走行に用いることが可能なエネルギの残量の情報に相当する。
演算部313は、パラメータ取得部310により取得可能な情報、及び経路情報取得部311により取得可能な情報に基づいて、車両10の将来の走行速度の推移である車速プロフィールを作成する。また、演算部313は、車速プロフィールから、バッテリ22の電力消費の推移である消費パワープロフィールを作成する。そして、演算部313は、エネルギ残量取得部312により取得されるバッテリ22の現在のSOC値とバッテリ22の消費パワープロフィールとに基づいて、バッテリ22のSOC値が所定値まで低下するまでに車両10が走行可能な航続可能距離Dを演算する。演算部313は、車両10が現在位置している地点から航続可能距離Dで到達可能な地点を演算するとともに、演算された到達可能地点の情報をHMIECU32に送信する。
【0022】
HMIECU32は、予測ECU31から送信された到達可能地点を、HMI装置50を用いて車両10の乗員に報知する。本実施形態のHMI装置50は、地図情報等を表示可能な表示装置である。HMIECU32は、予測ECU31から送信された到達可能地点の情報を、HMI装置50に表示可能な画像情報等に変換するとともに、変換された到達可能地点の画像情報をHMI装置50に表示する。これにより、車両10の乗員は、HMI装置50に表示された到達可能地点を確認することで、車両10が走行可能なエリアを把握することが可能となる。
【0023】
次に、予測ECU31及びHMIECU32により実行される航続可能距離の演算及び表示の処理手順について具体的に説明する。
経路情報取得部311は、まず、車両10が将来的に走行する可能性のある予測経路を単数又は複数抽出する。経路情報取得部311は、例えば車両10のナビゲーション装置に目的地が設定されている場合には、車両10が走行する可能性のある予測経路として、車両10の現在地から目的地までの走行経路を用いるとともに、その走行経路を単数又は複数抽出する。あるいは、経路情報取得部311が車両10の走行経路を学習している場合には、経路情報取得部311は、その学習した走行経路を、車両10が走行する可能性のある経路として用いることにより、単数又は複数の予測走行経路を抽出してもよい。本実施形態では、このようにして経路情報取得部311が抽出する車両10の予測走行経路が、車両10の走行経路に関する情報に相当する。
【0024】
予測ECU31は、以上のようにして車両10が走行する可能性のある単数又は複数の予測経路を経路情報取得部311により抽出した後、抽出された単数の予測経路、又は複数の予測経路のそれぞれに対して
図2に示される処理を実行する。
図2に示されるように、パラメータ取得部310は、まず、ステップS10の処理として、車両パラメータ取得処理を実行する。この処理の具体的な手順は
図3に示される通りである。
【0025】
パラメータ取得部310は、
図3に示される車両パラメータ取得処理を開始すると、まずステップS100の処理として、航続可能距離Dの演算に用いることが可能な車両10の重量及び走行抵抗の情報が存在するか否かを判断する。例えば車両重量や走行抵抗等の車両10の固有情報を車両10の所有者が操作パネルを操作することにより入力することができる場合には、それらの入力情報が記憶装置42に記憶されている。この場合、パラメータ取得部310は、車両重量入力値ma及び走行抵抗入力値Fraが記憶装置42に記憶されていることに基づいてステップS100の処理で肯定的な判断を行う。パラメータ取得部310は、ステップS100の処理で肯定的な判断を行った場合、続くステップS101の処理として、記憶装置42に記憶されている車両重量入力値ma及び走行抵抗入力値Fraを車両重量設定値m及び走行抵抗設定値Frにそれぞれ代入した後、
図3に示される処理を終了する。
【0026】
パラメータ取得部310は、車両重量及び走行抵抗の入力情報が記憶装置42に記憶されていない場合には、ステップS100の処理で否定的な判断を行う。この場合、パラメータ取得部310は、ステップS102の処理として、車両重量及び走行抵抗を推定することが可能であるか否かを判断する。パラメータ取得部310は、例えばカルマンフィルタを利用したモデルに基づいて車両10の走行速度及びモータジェネレータ20の駆動力等から車両重量及び走行抵抗を推定する。なお、カルマンフィルタを利用したモデルは、予め実験等により作成したものであってもよいし、学習等によりパラメータ取得部310が作成したものであってもよい。パラメータ取得部310は、カルマンフィルタを用いて車両重量及び走行抵抗のそれぞれの推定値を演算する際に、それらの誤差分散値を演算する。パラメータ取得部310は、車両重量の推定値及び走行抵抗の推定値のそれぞれの誤差分散値が所定の閾値未満である場合には、車両重量及び走行抵抗を推定することができると判断して、ステップS102の処理で肯定的な判断を行う。この場合、パラメータ取得部310は、ステップS103の処理として、カルマンフィルタを利用したモデルから演算される車両重量推定値mb及び走行抵抗推定値Frbを車両重量設定値m及び走行抵抗推定値Frbにそれぞれ代入した後、
図3に示される処理を終了する。
【0027】
パラメータ取得部310は、車両重量の推定値及び走行抵抗の推定値のそれぞれの誤差分散値が所定の閾値以上である場合には、車両重量及び走行抵抗を推定することが難しいと判断して、ステップS101の処理で否定的な判断を行う。この場合、パラメータ取得部310は、ステップS104の処理として、記憶装置42に記憶されている車両重量固定値mcを車両重量設定値mに代入する。車両重量固定値mcは、車両10の重量の値として記憶装置42に予め記憶されている値である。
【0028】
パラメータ取得部310は、ステップS104に続くステップS105の処理として、サーバ装置62においてデータベース化されている他車両の過去の走行履歴に関する情報から車両10の走行抵抗の情報を取得可能であるか否かを判断する。
サーバ装置62は、様々な車両から過去の走行履歴に関する情報を取得することにより、複数の車両のそれぞれの走行履歴に関する情報をデータベース化して記憶している。サーバ装置62は、例えば複数の車両のそれぞれの走行抵抗の情報をデータベース化して記憶している。走行抵抗の情報は、例えば頻度分布の情報としてサーバ装置62に記憶されている。本実施形態のサーバ装置62は、記憶されている走行抵抗の頻度分布の情報を統計的に処理することにより、車両の走行抵抗を決定する。統計的な処理とは、例えば走行抵抗の頻度分布における平均値を求める処理であってもよいし、気象情報に基づいて走行抵抗の頻度分布の値のうちのいずれかの値を用いるかを決定する処理であってもよい。気象情報を用いる処理とは、例えば雨天の場合には頻度分布の値のうち、平均値よりも大きい値を用いる処理等である。
【0029】
パラメータ取得部310は、このように車両の走行抵抗の統計的な情報がサーバ装置62に記憶されている場合には、サーバ装置62から車両の走行抵抗の統計的な情報を取得可能であると判断して、ステップS105の処理で肯定的な判断を行う。この場合、ステップS106の処理として、サーバ装置62のデータベースから車両10の走行抵抗の統計的な情報を取得するとともに、取得した走行抵抗統計値Frcを走行抵抗設定値Frに代入した後、
図3に示される処理を終了する。
【0030】
一方、走行抵抗に関する情報がサーバ装置62において十分にデータベース化できていない場合や、サーバ装置62において走行抵抗に関する情報をそもそもデータベース化していない場合、パラメータ取得部310は、サーバ装置62から車両10の走行抵抗の情報を取得することができない。この場合、パラメータ取得部310は、ステップS105の処理で否定的な判断を行い、続くステップS107の処理として、記憶装置42に記憶されている走行抵抗固定値Frdを走行抵抗設定値Frに代入した後、
図3に示される処理を終了する。走行抵抗固定値Frdは、車両10の走行抵抗の値として記憶装置42に予め記憶されている値である。
【0031】
なお、車両重量設定値mに用いられる値のうち、車両重量入力値maが最も精度が高く、車両重量推定値mb、車両重量固定値mcの順で精度が低くなると考えられる。そのため、
図3に示される処理では、車両重量設定値mに用いられる優先順位が車両重量入力値ma、車両重量推定値mb、車両重量固定値mcの順で低くなっている。同様に、
図3に示される処理では、走行抵抗設定値Frに用いられる優先順位が走行抵抗入力値Fra、走行抵抗推定値Frb、走行抵抗統計値Frc、走行抵抗固定値Frdの順で低くなっている。
【0032】
パラメータ取得部310は、
図3に示される処理を終了した後、
図2に示されるように、ステップS10に続くステップS11の処理として、環境パラメータ取得処理を実行する。この処理の具体的な手順は
図4に示される通りである。
パラメータ取得部310は、
図4に示される環境パラメータ取得処理を開始すると、まずステップS110の処理として、車両10の予測走行経路上の気象情報をサーバ装置62から取得可能であるか否かを判断する。サーバ装置62から取得する気象情報には、車両10の予測走行経路上の各地点における風速、天候、外気温等の情報が含まれている。パラメータ取得部310は、車両10の予測走行経路上の気象情報をサーバ装置62から取得できる場合には、ステップS110の処理で肯定的な判断を行う。この場合、パラメータ取得部310は、ステップS111の処理として、車両10の予測走行経路上の各地点の風速の情報に基づいて風力マップM_Fwを作成する。具体的には、パラメータ取得部310は、サーバ装置62から取得した各地点の風速の情報に基づいて、各地点において車両10が風の影響により受ける力である風力Fwを演算式やマップ等を用いて演算することにより、風力マップM_Fwを作成する。風速から風力Fwを演算するための演算式やマップは実験等により予め求められている。風力マップM_Fwは、予測走行経路上の各地点と、各地点において車両10が受ける風力Fwとの関係をマップ化したものである。
【0033】
パラメータ取得部310は、ステップS111に続くステップS112の処理として、車両10の予測走行経路上の各地点の天候及び外気温の情報に基づいて空調パワーマップM_Paを作成する。具体的には、パラメータ取得部310は、サーバ装置62から取得した各地点の天候及び外気温の情報に基づいて、各地点における車両10の空調装置の出力である空調パワーPaを演算する。この演算は、例えば
図5に示されるマップを利用して行われる。
【0034】
図5に示されるマップは、天候が「晴天」である場合、天候が「曇天」である場合、及び天候が「雨天」である場合のそれぞれの場合について外気温Toutと空調パワーPaとの関係を示したものであり、予測ECU31のROMに予め記憶されている。
図5では、晴天時に対応したマップが実線で、曇天時に対応したマップが一点鎖線で、雨天時に対応したマップが二点鎖線でそれぞれ示されている。
【0035】
図5に示されるように、外気温Toutが高い場合には、車室内の冷房のために空調装置が駆動するため、空調パワーPaが必要となる。そして、外気温Toutが高くなるほど、冷房のための空調パワーPaが大きくなる。また、外気温Toutが低い場合には、車室内の暖房のために空調装置が駆動するため、空調パワーPaが必要となる。そして、外気温Toutが低くなるほど、暖房のための空調パワーPaが大きくなる。
【0036】
一方、晴天時に空調装置が冷房運転している場合、晴天時の日射の影響により、冷房のための空調パワーPaがより大きくなる。また、晴天時に空調装置が暖房運転している場合には、晴天時の日射の影響により、より小さい空調パワーPaでも同等の快適性を実現することができる。このように、天候状態に応じて空調パワーPaが変化する。
【0037】
図5に示されるマップは、以上のような外気温Tout及び天候の状態に応じた空調パワーPaを実験等により求めることで予め作成されている。
パラメータ取得部310は、
図4に示されるステップS112の処理において、サーバ装置62から取得した所定地点の天候の情報に基づいて、
図5に示される「晴天」に対応したマップ、「曇天」に対応したマップ、及び「雨天」に対応したマップのいずれかを選択するとともに、選択したマップを用いて、その地点の外気温の情報から空調パワーPaを演算する。パラメータ取得部310は、この空調パワーPaの演算を、車両10の予測走行経路上の各地点に対して行うことにより空調パワーマップM_Paを作成する。空調パワーマップM_Paは、予測走行経路上の各地点と、各地点における車両10の空調パワーPaとの関係をマップ化したものである。パラメータ取得部310は、ステップS112の処理を実行した後、
図4に示される処理を終了する。
【0038】
図4に示されるように、パラメータ取得部310は、車両10の予測走行経路上の気象情報をサーバ装置62から取得できないと判断した場合には、ステップS110の処理で否定的な判断を行う。この場合、パラメータ取得部310は、ステップS113の処理として、車両10が現在地で受けている風力Fwを用いて風力マップM_Fwを作成する。
【0039】
具体的には、車両10の駆動力Fは、以下の式f1により求めることができる。なお、式f1において、「m」は車両重量を示し、「v」は車両の走行速度を示し、「g」は重力加速度を示し、「θ」は路面勾配を示し、「Fr」は車両10の走行抵抗を示し、「Fw」は車両10が受けている風力を示す。
【0040】
【数1】
式f1において、車両10の現在の駆動力Fは、EVECU30から取得可能なモータジェネレータ20の現在の出力の情報から求めることができる。また、車両重量m及び走行抵抗Frは、
図3に示される処理で演算される値を用いることができる。さらに、車両の現在の走行速度vは、車載センサ40の一つである車速センサの検出値を用いることができる。また、路面勾配θは、記憶装置42に記憶されている地図情報から取得することができる。パラメータ取得部310は、これらの取得可能な値を用いることにより、上記の式f1から、車両10が受けている現在の風力Fwを演算する。パラメータ取得部310は、このようにして演算した現在の風力Fwを、車両10の予測走行経路上の各地点の風力として用いることにより風力マップM_Fwを作成する。
【0041】
また、パラメータ取得部310は、ステップS113に続くステップS114の処理として、現在の車両10の空調パワーPaに基づいて空調パワーマップM_Paを作成する。具体的には、パラメータ取得部310が空調ECUから現在の空調パワーの情報を取得する。そして、パラメータ取得部310は、取得した現在の空調パワーを、車両10の予測走行経路上の各地点の空調パワーとして用いることにより空調パワーマップM_Paを作成する。パラメータ取得部310は、ステップS114の処理を実行した後、
図4に示される処理を終了する。
【0042】
なお、サーバ装置62から取得する各地点の風速の情報に基づいて作成される風力マップM_Fwの方が、車両の現在地の風力に基づいて作成される風力マップM_Fwよりも精度が高いと考えられる。そのため、
図4に示される処理では、前者が優先的に用いられるようになっている。同様に、
図4に示される処理では、サーバ装置62から取得する各地点の天候及び外気温の情報に基づいて作成される空調パワーマップM_Paが、車両の現在地の空調パワーPaに基づいて作成される空調パワーマップM_Paよりも優先的に用いられるようになっている。
【0043】
パラメータ取得部310は、
図4に示される処理を終了した後、
図2に示されるように、ステップS11に続くステップS12の処理として、地図情報取得処理を実行する。この処理の具体的な手順は
図6に示される通りである。
パラメータ取得部310は、
図6に示される地図情報取得処理を開始すると、まずステップS120の処理として、オフラインで用いることが可能な地図情報が存在するか否かを判断する。パラメータ取得部310は、例えば記憶装置42に地図情報が記憶されている場合には、ステップS120の処理で肯定的な判断を行う。この場合、パラメータ取得部310は、ステップS121の処理として、記憶装置42に記憶されている地図情報に基づいて勾配マップM_θ及び上限車速マップM_vmaxを作成する。勾配マップM_θは、予測走行経路上の各地点と、各地点における路面勾配θとの関係をマップ化したものである。上限車速マップM_vmaxは、予測走行経路上の各地点と、各地点における上限車速vmaxとの関係をマップ化したものである。上限車速vmaxとしては、例えば法定速度が用いられる。パラメータ取得部310は、ステップS121の処理において勾配マップM_θ及び上限車速マップM_vmaxを作成した後、
図6に示される処理を終了する。
【0044】
パラメータ取得部310は、オフラインで用いることが可能な地図情報が存在しないと判断した場合には、ステップS120の処理で否定的な判断を行って、続くステップS122の処理として、オンラインで用いることが可能な地図情報が存在するか否かを判断する。パラメータ取得部310は、例えば通信ユニット41を介してサーバ装置62と通信可能な状態であって、且つサーバ装置62に地図情報が記憶されている場合には、オンラインで用いることが可能な地図情報が存在すると判断して、ステップS122の処理で肯定的な判断を行う。この場合、パラメータ取得部310は、ステップS123の処理として、予測走行経路上の各地点の路面勾配及び上限車速の情報をサーバ装置62から取得した後、それらの情報に基づいて勾配マップM_θ及び上限車速マップM_vmaxを作成して、
図6に示される処理を終了する。
【0045】
パラメータ取得部310は、オンラインで用いることが可能な地図情報が存在しないと判断した場合には、ステップS122の処理で否定的な判断を行う。この場合、パラメータ取得部310は、ステップS124の処理として、路面勾配及び上限車速のそれぞれの推定値の情報がサーバ装置62に存在するか否かを判断する。例えばサーバ装置62に、複数の他車両の過去の走行履歴の情報として、各地点における他車両の動力源の駆動力の情報や走行速度の情報がデータベース化されて記憶されている場合には、サーバ装置62は、路面勾配及び上限車速のそれぞれの推定値を演算することができる。
【0046】
具体的には、サーバ装置62にデータベース化されている各地点の他車両の走行速度の情報に、各地点の上限車速の情報が含まれている場合には、その情報から、車両10の予測走行経路上の各地点における上限車速の推定値を求めることができる。また、各地点における他車両の動力源の駆動力及び走行速度の情報がサーバ装置62にデータベース化されている場合には、サーバ装置62は、それらの情報から上記の式f1を用いることにより車両10の予測走行経路上の各地点における路面勾配の推定値を演算することができる。
【0047】
なお、サーバ装置62は、他車両の走行速度等を統計的に処理することにより路面勾配及び上限車速を演算してもよい。統計的な処理とは、例えば他車両の過去の上限速度の平均値を求める処理である。
また、サーバ装置62に車両10の予測走行経路上の各地点のデータが存在しない場合であっても、予測走行経路の周辺地点のデータがサーバ装置62に存在する場合には、そのデータを用いることにより路面勾配及び上限車速のそれぞれの推定値を同様に演算することができる。
【0048】
パラメータ取得部310は、各地点の路面勾配及び上限車速のそれぞれの推定値がサーバ装置62に記憶されている場合には、ステップS124の処理で肯定的な判断を行う。この場合、パラメータ取得部310は、ステップS125の処理として、予測走行経路上の各地点の路面勾配の推定値及び上限車速の推定値の情報をサーバ装置62から取得した後、サーバ装置62から取得した情報に基づいて勾配マップM_θ及び上限車速マップM_vmaxを作成して、
図6に示される処理を終了する。
【0049】
パラメータ取得部310は、各地点の路面勾配及び上限車速のそれぞれの推定値がサーバ装置62に記憶されていない場合には、ステップS124の処理で否定的な判断を行う。この場合、パラメータ取得部310は、ステップS126の処理として、自車両10の記憶装置42に記憶されている情報に基づいて勾配マップM_θ及び上限車速マップM_vmaxを作成する。
【0050】
具体的には、パラメータ取得部310は、各地点の自車両10の過去の駆動力及び走行速度の情報を記憶装置42から読み込む。そして、パラメータ取得部310は、各地点の自車両10の過去の走行速度を統計的に処理することにより、上限車速の推定値を演算する。統計的な処理とは、例えば車両10の過去の上限速度の平均値を求める処理である。また、パラメータ取得部310は、各地点におけるモータジェネレータ20の過去の駆動力の履歴や車両10の過去の走行速度の履歴等から上記の式f1を用いることにより各地点の路面勾配を演算する。なお、路面勾配を演算する処理に関しても統計的な処理を用いてもよい。パラメータ取得部310は、このようにして演算される路面勾配の推定値及び上限車速の推定値に基づいて勾配マップM_θ及び上限車速マップM_vmaxを作成した後、
図6に示される処理を終了する。
【0051】
なお、今回の予測走行経路を車両10が過去に走行したことがない場合には、その予測走行経路上の各地点における車両10の過去の駆動力及び走行速度の情報が記憶装置42に記憶されていない場合がある。このような場合、パラメータ取得部310は、予測走行経路の周辺地点における車両10の過去の駆動力及び走行速度の情報が記憶装置42に記憶されている場合には、その情報を用いることにより、予測走行経路上の各地点の路面勾配の推定値及び上限車速の推定値を演算してもよい。また、パラメータ取得部310は、予測走行経路の周辺地点における車両10の過去の駆動力及び走行速度の情報も記憶装置42に記憶されていない場合には、予測走行経路上の各地点の路面勾配の推定値及び上限車速の推定値として固定値を用いてもよい。
【0052】
パラメータ取得部310が
図6に示される処理を終了することにより、すなわちパラメータ取得部310が
図2に示されるステップS10~S12の処理を終了することより、パラメータ取得部310は、車両重量固定値mc、走行抵抗設定値Fr、風力マップM_Fw、空調パワーマップM_Pa、勾配マップM_θ、及び上限車速マップM_vmaxを取得する。本実施形態では、これらのパラメータが、走行経路に関する情報及びエネルギ残量に関する情報とは別に車両10の航続可能距離を演算するために必要な所定のパラメータに相当する。このようにしてパラメータ取得部310が各パラメータを取得した後、
図2に示されるステップS13以降の処理を演算部313が実行することにより、航続可能距離の演算及び表示が行われる。
【0053】
具体的には、演算部313は、ステップS13の処理として、車両10の将来の走行速度の推移を示す車速プロフィールv(x)を作成する。例えば、演算部313は、
図6に示される処理を通じて演算される上限車速マップM_vmaxと、車両10の停止箇所の情報とに基づいて、
図7に実線で示されるような最終的な上限車速マップMF_vmaxを作成する。
【0054】
図7に示されるように、演算部313は、上限車速マップM_vmaxを、所定の停止箇所Psで「0[km/h]」となるように変形することで、実線で示されるような最終的な上限車速マップMF_vmaxを作成する。演算部313は、記憶装置42に信号機の位置情報が記憶されている場合には、全ての信号機のうち、乱数によりランダムに定まる信号機の位置を停止箇所Psとして定める。なお、ランダムとは、例えば全ての信号機のうちの50%が赤信号であることを条件とする。また、演算部313は、現在の時刻における信号機のサイクル情報に基づいて停止箇所Psを定めてもよい。信号機における停止時間は、60秒等の一定時間であってもよいし、過去の走行履歴に基づいて定めてもよい。さらに、演算部313は、現在の時刻における信号機のサイクル情報を通信ユニット41により取得して用いてもよい。
【0055】
演算部313は、このようにして最終的な上限車速マップMF_vmaxを作成した後、これを満足する車速プロフィールv(x)を作成する。例えば、演算部313は、最終的な上限車速マップMF_vmaxを満足しつつ、できる限り早い車速で走行するというルールのもと、加速度及び減速度は予め定められた値を取るとして車速プロフィールv(x)を作成してもよい。また、演算部313は、交通流シミュレーションを用いて上限車速マップM_vmaxを満足する車速プロフィールv(x)を作成してもよい。演算部313は、以上のような演算を通じて、
図7に二点鎖線で示されるような、車両10の予測走行経路上の各地点の車速の推移を示す車速プロフィールv(x)を作成する。なお、「x」は、現在地から車両10の予測走行経路上の所定地点までの距離を示す。
【0056】
図2に示されるように、演算部313は、ステップS13に続くステップS14の処理として、駆動力プロフィールF(x)を作成する。具体的には、演算部313は、
図3に示される処理を通じて演算される車両重量設定値m及び走行抵抗設定値Fr、
図4に示される処理を通じて演算される風力マップM_Fw、
図6に示される処理を通じて演算される勾配マップM_θ、及びステップS13の処理で演算される車速プロフィールv(x)から上記の式f1を用いることにより車両10の走行経路上の各地点の駆動力Fを演算する。これにより、演算部313は、車両10の走行経路上の各地点の駆動力の推移を示す駆動力プロフィールF(x)を作成する。
【0057】
演算部313は、ステップS14に続くステップS15の処理として、駆動パワープロフィールPd(x)を作成する。具体的には、演算部313は、ステップS14の処理で作成された駆動力プロフィールF(x)と、車速プロフィールv(x)とから以下の式f2に基づいて駆動パワープロフィールPd(x)を作成する。
【0058】
【数2】
演算部313は、ステップS15に続くステップS16の処理として、空調パワープロフィールPa(x)を作成する。具体的には、演算部313は、
図4に示される処理を通じて演算される空調パワーマップM_Paに基づいて空調パワープロフィールPa(x)を作成する。
【0059】
演算部313は、ステップS16に続くステップS17の処理として、バッテリ22の消費パワープロフィールPb(x)を作成する。具体的には、演算部313は、ステップS15の処理で得られた駆動パワープロフィールPd(x)と、ステップS16の処理で得られた空調パワープロフィールPa(x)とから以下の式f3に基づいてバッテリ22の消費パワープロフィールPb(x)を作成する。なお、式f3において、「η_d」は駆動系のエネルギ効率を示し、「η_a」は空調装置のエネルギ効率を示す。駆動系のエネルギ効率η_dとしては、例えばパラメータ取得部310がEVECU30から取得するものが用いられる。空調装置のエネルギ効率η_aとしては、例えばパラメータ取得部310が空調装置から取得するものが用いられる。
【0060】
【数3】
演算部313は、ステップS17に続くステップS18の処理として、車両10の限界到達地点Kbを探索する。具体的には、演算部313は、エネルギ残量取得部312により取得されているバッテリ22の現在のSOC値と、ステップS17の処理で得られるバッテリ22の消費パワープロフィールPb(x)とに基づいて、
図8に示されるようなバッテリ22のSOC値の推移を作成する。そして、演算部313は、バッテリ22のSOC値が所定の閾値に達する地点を車両10の限界到達地点Kbと判断するとともに、車両10の現在地Kaから限界到達地点Kbまでの距離を航続可能距離Dと判断する。
【0061】
図2に示されるように、演算部313は、ステップS18に続くステップS19の処理として、車両10が走行する可能性のある予測走行経路の全てに関して限界到達地点Kbを演算したか否かを判断する。演算部313は、限界到達地点Kbを演算していない予測走行経路が存在する場合には、ステップS19の処理で否定的な判断を行って、ステップS12の処理に戻る。
【0062】
一方、演算部313は、全ての予測走行経路に関して限界到達地点Kbを演算した場合には、ステップS19の処理で肯定的な判断を行う。この場合、演算部313は、ステップS20の処理として、自車両10の周辺の地図情報を表示するようにHMIECU32に対して指示する。これにより、HMIECU32は、車両10の周辺の地図情報をHMI装置50に表示する。
【0063】
続いて、演算部313は、ステップS21の処理として、各予測走行経路の限界到達地点Kbを表示するようにHMIECU32に対して指示する。これにより、HMIECU32は、例えば
図9に示されるように各予測走行経路の限界到達地点Kb11~Kb19をHMI装置50に表示するとともに、それらの各地点Kb11~Kb19の隣同士を結んだ直線m11~m19を併せて表示する。直線m11~m19により囲まれているエリアは、車両10が到達することが可能なエリアを示す。よって、車両10の運転者は、HMI装置50に表示されている直線m11~m19を見ることにより、車両10の航続可能距離を把握することが可能となる。
【0064】
以上説明した本実施形態の予測ECU31によれば、以下の(1)~(7)に示される作用及び効果を得ることができる。
(1)演算部313は、経路情報取得部311により取得される走行経路に関する情報、エネルギ残量取得部312により取得されるバッテリ22のSOC値に関する情報、及びパラメータ取得部310により取得される車両重量設定値m等の所定のパラメータに基づいて車両10の航続可能距離Dを演算する。パラメータ取得部310は、例えば
図3に示されるステップS101の処理により車両重量設定値m及び走行抵抗設定値Frを設定できない場合には、ステップS103,S104,S106,S107のいずれかの処理により車両重量設定値m及び走行抵抗設定値Frを設定する。この場合、ステップS101の処理が第1取得手段に相当し、ステップS103,S106の処理が第2取得手段に相当する。また、風力マップM_Fw及び空調パワーマップM_Paに関しては、
図4に示されるステップS111,S112の処理が第1取得手段に相当し、ステップS113,S114の処理が第2取得手段に相当する。さらに、勾配マップM_θ及び上限車速マップM_vmaxに関しては、
図6に示されるステップS121の処理が第1取得手段に相当し、ステップS123,S125,S126の処理が第2取得手段に相当する。この構成によれば、第1取得手段で車両重量設定値m等の所定のパラメータを取得できない場合であっても、第2取得手段で所定のパラメータを取得することができるため、所定のパラメータの演算に関して冗長性を確保することが可能となる。
【0065】
(2)パラメータ取得部310は、車両重量設定値m及び走行抵抗設定値Frを取得するための第2取得手段として、
図3に示されるステップS103の処理を実行することにより、自車両10において検出可能な車両10の走行速度及びモータジェネレータ20の駆動力等の自車両検出情報に基づいて車両重量設定値m及び走行抵抗設定値Frを演算する。風力マップM_Fw及び空調パワーマップM_Paに関しては、
図4に示されるステップS113,S114の処理が同様の処理に相当する。また、勾配マップM_θ及び上限車速マップM_vmaxに関しては、
図6に示されるステップS126の処理が同様の処理に相当する。この構成によれば、自車両10において検出される情報に基づいて各パラメータが演算されるため、各パラメータの演算精度を確保することができる。
【0066】
(3)
図6に示されるステップS126の処理は、自車両10の過去の走行速度の履歴及びモータジェネレータ20の過去の駆動力の履歴等、自車両10の過去の走行履歴に関する情報に基づいて勾配マップM_θ及び上限車速マップM_vmaxを演算する処理である。具体的には、パラメータ取得部310は、ステップS126の処理として、自車両10の過去の走行速度の履歴やモータジェネレータ20の過去の駆動力の履歴等を統計的に処理することにより勾配マップM_θ及び上限車速マップM_vmaxを演算する。本実施形態では、自車両10の過去の走行速度やモータジェネレータ20の過去の駆動力が過去の自車両検出情報に相当する。この構成によれば、ステップS121の処理を用いて勾配マップM_θ及び上限車速マップM_vmaxを取得することができない場合であっても、それらを高い精度で演算することができる。
【0067】
(4)パラメータ取得部310は、走行抵抗設定値Frを取得するための第2取得手段として、
図3に示されるステップS106の処理を実行することにより、サーバ装置62に記憶されている他車両の走行抵抗の情報を用いて走行抵抗設定値Frを設定する。また、パラメータ取得部310は、勾配マップM_θ及び上限車速マップM_vmaxを取得するための第2取得手段として、
図6に示されるステップS125の処理を実行することにより、サーバ装置62に記憶されている勾配マップM_θ及び上限車速マップM_vmaxを取得する。サーバ装置62は、車両10とは別の複数の他車両から取得可能な情報に基づいて勾配マップM_θ及び上限車速マップM_vmaxを作成する。この構成によれば、他車両の情報に基づいて各パラメータが演算されるため、各パラメータの演算精度を確保することができる。
【0068】
(5)パラメータ取得部310は、
図3に示されるステップS103の処理を実行できない場合、すなわち自車両10の検出情報に基づいて走行抵抗設定値Frを設定することができない場合、ステップS106の処理を実行することにより、他車両の走行抵抗の情報を用いて走行抵抗設定値Frを設定する。この構成によれば、自車両の検出情報に基づいて走行抵抗設定値Frが優先的に設定されることとなるため、走行抵抗設定値Frの精度を確保することができる。
【0069】
(6)
図6に示されるステップS125の処理で作成される勾配マップM_θ及び上限車速マップM_vmaxは、サーバ装置62が他車両の過去の走行速度や上限車速等、他車両の過去の走行履歴に関する情報を統計的に処理したデータに基づいて作成される。この構成によれば、ステップS121,S123の処理を用いて勾配マップM_θ及び上限車速マップM_vmaxを取得することができない場合であっても、勾配マップM_θ及び上限車速マップM_vmaxを高い精度で演算することができる。
【0070】
(7)パラメータ取得部310は、
図3に示されるステップS101,S103の処理で車両重量設定値mを設定できない場合には、ステップS104の処理として、車両重量設定値mを固定値mcに設定する。また、パラメータ取得部310は、
図3に示されるステップS101,S103,S106の処理で走行抵抗設定値Frを設定できない場合には、ステップS107の処理として、走行抵抗設定値Frを固定値Frdに設定する。この構成によれば、車両重量設定値mや走行抵抗設定値Frを取得できない状況を回避できるため、より確実に航続可能距離Dや限界到達地点Kbを演算することができる。
【0071】
なお、上記実施形態は、以下の形態にて実施することもできる。
・HMI装置50に航続可能距離Dを表示する方法は適宜変更可能である。例えば航続可能距離Dを数値でHMI装置50に表示してもよい。
【0072】
・上記実施形態の予測ECU31の構成は、モータジェネレータ20を動力源とする車両10に限らず、エンジンを動力源とするエンジン車両や、モータジェネレータ及びエンジンの両方を動力源とするハイブリッド車両にも適用可能である。なお、上記実施形態の予測ECU31をエンジン車両に適用した場合、車両の走行に用いることが可能なエネルギ残量に関する情報は、例えば燃料の残量に関する情報となる。
【0073】
・本開示に記載の予測ECU31及びその制御方法は、コンピュータプログラムにより具体化された1つ又は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された1つ又は複数の専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載の予測ECU31及びその制御方法は、1つ又は複数の専用ハードウェア論理回路を含むプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載の予測ECU31及びその制御方法は、1つ又は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと1つ又は複数のハードウェア論理回路を含むプロセッサとの組み合わせにより構成された1つ又は複数の専用コンピュータにより、実現されてもよい。コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。専用ハードウェア論理回路及びハードウェア論理回路は、複数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路により実現されてもよい。
【0074】
・本開示は上記の具体例に限定されるものではない。上記の具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素、及びその配置、条件、形状等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0075】
31:予測ECU(演算装置)
310:パラメータ取得部
311:経路情報取得部
312:エネルギ残量取得部
313:演算部