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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】防湿紙および包装容器
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/38 20060101AFI20240123BHJP
   D21H 19/58 20060101ALI20240123BHJP
   D21H 19/62 20060101ALI20240123BHJP
   D21H 27/10 20060101ALI20240123BHJP
   B65D 65/40 20060101ALN20240123BHJP
【FI】
D21H19/38
D21H19/58
D21H19/62
D21H27/10
B65D65/40 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020078273
(22)【出願日】2020-04-27
(65)【公開番号】P2020190063
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2019094856
(32)【優先日】2019-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野一色 泰友
(72)【発明者】
【氏名】鶴原 正啓
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 友史
(72)【発明者】
【氏名】社本 裕太
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-303026(JP,A)
【文献】国際公開第2017/208912(WO,A1)
【文献】特開2009-172896(JP,A)
【文献】特開2000-095995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 19/38
D21H 19/58
D21H 19/62
D21H 27/10
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材の少なくとも一方の面上に水蒸気バリア層を有する防湿紙であって、
前記水蒸気バリア層は、層状無機化合物およびエチレン-アクリル共重合体を含有し、
前記エチレン-アクリル共重合体は、アクリル単量体単位の含有量が10mol%以上50mol%以下であり、
透湿度が、50g/(m・24h・atm)以下であり、
前記水蒸気バリア層が、カチオン性樹脂を含有し、
前記カチオン性樹脂が、ポリアミン、変性ポリアミド、変性ポリアミドアミン、ポリアミドエピクロロヒドリンおよびポリエチレンイミンのうちいずれか1種以上を含有することを特徴とする防湿紙。
【請求項2】
前記層状無機化合物が、厚さが100nm以下、アスペクト比が100以上である、請求項1に記載の防湿紙。
【請求項3】
前記水蒸気バリア層が、層状無機化合物として、マイカ、ベントナイト、カオリンおよびタルクのうちいずれか1種以上を含有する、請求項1または請求項2に記載の防湿紙。
【請求項4】
前記層状無機化合物の含有量が、前記水蒸気バリア層の全固形分中1質量%以上80質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の防湿紙。
【請求項5】
前記エチレン-アクリル共重合体が、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・メタクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸ブチル共重合体およびエチレン・メタクリル酸ブチル共重合体のうちいずれか1種以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の防湿紙。
【請求項6】
前記水蒸気バリア層が、カチオン性樹脂として、変性ポリアミドを含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の防湿紙。
【請求項7】
前記カチオン性樹脂の表面電荷が、0.1meq/g以上5meq/g以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の防湿紙。
【請求項8】
包装用材料である、請求項1~のいずれか1項に記載の防湿紙。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の防湿紙を用いた包装容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防湿紙およびそれを用いた包装容器に関する。
【背景技術】
【0002】
水蒸気バリア性に優れた防湿紙は、食品、医療品、電子部品等の包装用として、従来から用いられてきている。紙基材に水蒸気バリア性を付与する方法としては、紙基材に合成樹脂フィルムや金属箔を積層する方法が知られている。しかし、当該方法では、紙基材と合成樹脂フィルム等との分離操作が必要となるため、パルプ繊維のリサイクルという観点からは、改善の余地を有していた。
【0003】
従来から、紙を基材とし、パルプ繊維としてリサイクルすることが可能な防湿紙の開発が進められている。例えば、特許文献1には、紙支持体上の少なくとも片面に平板状顔料とSBRからなる防湿層を形成し、その上に合成樹脂ラテックスから得られる被覆層を設けた防湿積層体が開示されている。また、特許文献2には、α-オレフィン・不飽和カル
ボン酸低分子量共重合体とビニル系乳化重合体の混合物からなる防湿性樹脂層を有する水離解性防湿紙が開示されている。また、特許文献3には、紙支持体の少なくとも片面に合成樹脂と膨潤性無機層状化合物と含窒素化合物とを含む防湿層を設けた防湿積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3926500号公報
【文献】特開2000-80593号公報
【文献】特開2004-27444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された防湿積層体は、離解させてリサイクルすることが可能であるが、防湿層の上に形成される被覆層はスチレン-ブタジエン共重合体等を含むものであり、ヒートシール性を有していないものであった。特許文献2に記載された水離解性防湿紙は、防湿層に平板状の無機化合物を含有していないものであり、防湿性に劣り、またヒートシール性を有していないものであった。特許文献3に記載された防湿積層体は、防湿層に平板状の無機化合物を含有しているものの、合成樹脂としては主としてSBRラテックスを使用しており、必ずしもヒートシール性を有していないものであった。
【0006】
防湿性を有した包装用紙の主たる使用形態として、袋状や立体形状に貼り合わせて、内部に物品を封入するという使用形態がある。このようなとき、従来は、包装用紙同士を貼り合わせるためには、接着剤を用いるか、包装用紙に予めポリエチレンフィルム等をラミネートすることが必要であった。しかしながら、このような方法は、製造工程の低減やパルプ繊維のリサイクルという観点からは望ましくない。そのため、防湿紙自体がヒートシール性を有することが望まれていた。
【0007】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、パルプ繊維としてリサイクルすることが可能であり、水蒸気バリア性およびヒートシール性に優れた防湿紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解消し得る防湿紙の構成について検討を加えたところ、紙基材上に水蒸気バリア層を積層した構成とし、水蒸気バリア層に層状無機化合物を含有させることによって、優れた水蒸気バリア性が付与できることを見出した。また、水蒸気バリア層を形成する樹脂として、特定の種類のエチレン-アクリル共重合体を採用することによって、水蒸気バリア層のバインダー樹脂として機能するだけでなく、ヒートシール性樹脂としても機能し得ることを見出した。本発明はこのような知見を踏まえて完成するに至ったものである。すなわち、本発明は、以下のような構成を有している。
【0009】
(1)紙基材の少なくとも一方の面上に水蒸気バリア層を有する防湿紙であって、前記水蒸気バリア層は、層状無機化合物およびエチレン-アクリル共重合体を含有し、前記エチレン-アクリル共重合体は、アクリル単量体単位の含有量が1mol%以上50mol%以下であり、透湿度が、50g/(m・24h・atm)以下であることを特徴とする防湿紙。
【0010】
(2)前記層状無機化合物が、厚さが100nm以下、アスペクト比が100以上である前記(1)に記載の防湿紙。
(3)前記水蒸気バリア層が、層状無機化合物として、マイカ、ベントナイト、カオリンおよびタルクのうちいずれか1種以上を含有する前記(1)または前記(2)に記載の防湿紙。
【0011】
(4)前記層状無機化合物の含有量が、前記水蒸気バリア層の全固形分中1質量%以上80質量%以下である前記(1)~(3)のいずれか1項に記載の防湿紙。
(5)前記エチレン-アクリル共重合体が、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・メタクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸ブチル共重合体およびエチレン・メタクリル酸ブチル共重合体のうちいずれか1種以上である前記(1)~(4)のいずれか1項に記載の防湿紙。
【0012】
(6)前記水蒸気バリア層が、カチオン性樹脂を含有する前記(1)~(5)のいずれか1項に記載の防湿紙。
(7)前記水蒸気バリア層が、カチオン性樹脂として、ポリアミン、変性ポリアミド、変性ポリアミドアミン、ポリアミドエピクロロヒドリンおよびポリエチレンイミンのうちいずれか1種以上を含有する前記(6)に記載の防湿紙。
【0013】
(8)前記カチオン性樹脂の表面電荷が、0.1meq/g以上5meq/g以下である前記(6)または前記(7)に記載の防湿紙。
(9)包装用材料である前記(1)~(8)のいずれか1項に記載の防湿紙。
(10)前記(1)~(8)のいずれか1項に記載の防湿紙を用いた包装容器。
【発明の効果】
【0014】
本発明の防湿紙は、パルプ繊維としてリサイクルすることが可能であり、水蒸気バリア性およびヒートシール性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を具体的に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本実施形態の防湿紙は、紙基材の少なくとも一方の面上に水蒸気バリア層を有している。紙基材の片面のみに水蒸気バリア層を設けてもよいし、紙基材の両面に水蒸気バリア層を設けてもよい。
以下、本実施形態の防湿紙を構成する各層について説明する。
【0017】
[紙基材]
本実施形態の紙基材においては、木材パルプを主成分とする。ここで、木材パルプが主成分とは、紙基材のうち木材パルプが50質量%以上であることを意味する。紙基材における木材パルプの含有割合は50質量%以上99.9質量%以下であることが好ましく、70質量%以上99.5質量%以下であることがより好ましく、80質量%以上99質量%以下であることがさらに好ましい。
【0018】
紙基材に使用される木材パルプは、特に限定されず、製紙用として使用されるあらゆる木材パルプが使用できる。木材パルプとしては、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)等の化学パルプ;ストーングランドパルプ(GP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の未晒、半晒、あるいは晒の機械パルプ;亜硫酸パルプ;古紙パルプ等が挙げられる。紙基材の地合の均一性を考慮すると、LBKPの比率が多い方が好ましく、例えば、LBKPとNBKPの混合比率LBKP/NBKPは、75/25~100/0(質量%)とすることができる。また、必要に応じて合成繊維や非木材繊維などを木材パルプに配合することが可能である。
【0019】
木材パルプのフリーネス(カナダ標準濾水度)は、150ml以上500ml以下であることが好ましく、200ml以上450ml以下であることがより好ましい。木材パルプのフリーネスがこの範囲にあると、離解が容易であり、パルプ繊維のリサイクル性に優れる。ここで、フリーネスとは、JIS P 8121-2:2012に準拠して測定されるカナダ標準ろ水度(Canadian standard freeness)のことである。フリーネスを調整するために、パルプを叩解する方法については、公知の方法を使用することができる。
【0020】
紙基材には、必要に応じて、填料を適宜添加してもよい。填料としては、例えば、二酸化チタン、カオリン、タルク、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、石膏、焼成カオリン、ホワイトカーボン、非晶質シリカ、デラミネーテッドカオリン、珪藻土、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛等を例示することができる。
【0021】
紙基材中にはパルプや填料の他に、サイズ剤、紙力増強剤、歩留向上剤、濾水性向上剤、pH調整剤、柔軟剤、帯電防止剤、消泡剤、染料・顔料等の公知の抄紙用内添剤を必要に応じて添加することができる。サイズ剤としては、例えば、ロジン系、アルキルケテンダイマー系、アルケニル無水コハク酸系、スチレン-アクリル系、高級脂肪酸系、石油樹脂系などの各種サイズ剤などが挙げられる。
【0022】
紙基材の抄紙においては、公知の湿式抄紙機、例えば長網抄紙機、ギャップフォーマー型抄紙機、円網式抄紙機、短網式抄紙機等の抄紙機を適宜選択して使用することができる。次に、抄紙機によって形成された紙層をフェルトにて搬送し、ドライヤーで乾燥させる。ドライヤー乾燥前にプレドライヤーとして、多段式シリンダードライヤーを使用してもよい。
また、上記のようにして得られた紙基材に、カレンダーによる表面処理を施して厚みやプロファイルの均一化を図ってもよい。カレンダー処理としては公知のカレンダー処理機を適宜選択して使用することができる。
【0023】
紙基材の坪量は、形状安定性および防湿紙全体としての厚みを抑制する観点から、好ましくは30g/m以上、より好ましくは40g/m以上であり、そして、好ましくは200g/m以下、より好ましくは100g/m以下である。
また、紙基材の厚みは、同様の観点から、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上であり、そして、好ましくは300μm以下、より好ましくは150μm以下である。
紙基材の坪量は、JIS P 8124:2011に準拠して測定される。
また、紙基材の厚みは、JIS P 8118:2014に準拠して測定される。
【0024】
[水蒸気バリア層]
水蒸気バリア層は、水蒸気の透過を阻止する機能を有する層であり、紙基材の面上に積層されている。水蒸気バリア層は、層状無機化合物およびエチレン-アクリル共重合体を含有している。
【0025】
(層状無機化合物)
層状無機化合物の形態は、平板状である。層状無機化合物とバインダーとの混合溶液を作製し、紙基材上に塗工すると、水蒸気バリア層が形成される。水蒸気バリア層内においては、平板状の層状無機化合物が紙基材の平面(表面)とほぼ平行に積層した状態に配列する。そうすると、平面方向では層状無機化合物が存在していない面積が小さくなることから、水蒸気の透過が抑制される。また、厚さ方向では平板状の層状無機化合物が紙基材平面に対して平行に配列して存在するため、層中の水蒸気は層状無機化合物を迂回しながら透過することとなり、迷路効果によって水蒸気の透過が抑制される。その結果、水蒸気バリア層は優れた水蒸気バリア性を発現することができる。
【0026】
層状無機化合物は、厚さが100nm以下であることが好ましい。層状無機化合物の厚さは、50nm以下であることがより好ましく、20nm以下であることがさらに好ましい。層状無機化合物の平均厚さが小さい方が、水蒸気バリア層中における層状無機化合物の積層数が大きくなるため、高い水蒸気バリア性を発揮することができる。ここで、水蒸気バリア層中に含まれている状態での層状無機化合物の厚さは、以下のようにして求められる。水蒸気バリア層の断面について、電子顕微鏡を用いて拡大写真を撮影する。このとき、画面内に層状無機化合物が20~30個程度含まれる倍率とする。画面内の層状無機化合物の個々の層状無機化合物の厚さを測定する。そして、得られた厚さの平均値を算出して、層状無機化合物の厚さとする。
【0027】
層状無機化合物は、長さが1μm以上100μm以下であることが好ましい。長さが1μm以上であると、層状無機化合物が紙基材に対して平行に配列し易い。また、長さが100μm以下であると層状無機化合物の一部が水蒸気バリア層から突出する懸念が少ない。ここで、水蒸気バリア層中に含まれている状態での層状無機化合物の長さは、以下のようにして求められる。水蒸気バリア層の断面について、電子顕微鏡を用いて拡大写真を撮影する。このとき、画面内に層状無機化合物が20~30個程度含まれる倍率とする。画面内の層状無機化合物の個々の層状無機化合物の長さを測定する。そして、得られた長さの平均値を算出して、層状無機化合物の長さとする。なお、層状無機化合物の長さは、粒子径という表現で記載されることもある。
【0028】
層状無機化合物は、アスペクト比が100以上であることが好ましい。アスペクト比が100以上であると、所定の透湿度を達成することが可能となる。層状無機化合物のアスペクト比は、200以上がより好ましく、300以上がさらに好ましく、500以上が特に好ましい。アスペクト比が大きいほど、水蒸気の透過が抑制され、水蒸気バリア性が向上する。また、アスペクト比が大きいほど、層状無機化合物の添加量を低減させることができる。アスペクト比の上限は特に限定されず、塗工液の粘度の観点から10,000以下程度が好ましい。ここで、アスペクト比とは、上記したように、水蒸気バリア層の断面について、電子顕微鏡を用いて拡大写真を撮影し、得られた層状無機化合物の平均長さをその平均厚さで除した値である。
【0029】
層状無機化合物の具体例としては、雲母族、脆雲母族等のマイカ、合成マイカ、ベントナイト、カオリナイト(カオリン鉱物)、パイロフィライト、タルク、スメクタイト、バーミキュライト、緑泥石、セプテ緑泥石、蛇紋石、スチルプノメレーン、モンモリロナイトなどが挙げられる。
これらの中でも特に、バリア性を向上させる観点から、マイカ、ベントナイト、カオリンおよびタルクのうちいずれか1種以上を含有することが好ましく、合成マイカまたはベントナイトがより好ましい。マイカの具体例としては、合成マイカ(例えば、膨潤性合成マイカ)、白雲母(マスコバイト)、絹雲母(セリサイト)、金雲母(フロコパイト)、黒雲母(バイオタイト)、フッ素金雲母(人造雲母)、紅マイカ、ソーダマイカ、バナジンマイカ、イライト、チンマイカ、パラゴナイト、ブリトル雲母などが挙げられる。また、ベントナイトの具体例としては、モンモリロナイトが挙げられる。
【0030】
層状無機化合物の含有量は、水蒸気バリア層の全固形分中80質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましく、10質量%以下が最も好ましい。一方、層状無機化合物の含有量は、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。層状無機化合物のアスペクト比を大きくし、厚さを小さくすることによって、層状無機化合物の含有量を低減させることができる。また、水蒸気バリア層の強度を高めて、層状無機化合物の水蒸気バリア層からの脱落を抑えることができる。
【0031】
(バインダー)
バインダーの主成分としては、エチレン-アクリル共重合体を用いる。エチレン-アクリル共重合体を構成するアクリル単量体としては、(メタ)アクリル酸およびそのアルキルエステルが例示される。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルのエステル部分のアルキル基の炭素数は、好ましくは1以上8以下、より好ましくは1以上6以下、さらに好ましくは1以上4以下である。
ここで、(メタ)アクリル酸は、メタクリル酸およびアクリル酸を意味する
【0032】
エチレン-アクリル共重合体は、エチレンと上記のアクリル単量体とを乳化重合することによって得られる共重合体である。アクリル単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸が好ましく、アクリル酸がより好ましい。
エチレン-アクリル共重合体としては、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・メタクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸ブチル共重合体およびエチレン・メタクリル酸ブチル共重合体のうちいずれか1種以上であることが好ましい。共重合体には、エチレンおよびアクリル単量体と共重合可能なその他の化合物からなる単量体が少量共重合されていてもよい。
これらの中でもエチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体がより好ましく、エチレン・アクリル酸共重合体がさらに好ましい。
【0033】
エチレン-アクリル共重合体の具体例としては、例えばエチレン・アクリル酸共重合体アンモニウム塩の水性分散液が、ザイクセン(登録商標)AC等(アクリル酸の共重合比率20%、住友精化株式会社製)として市販されており、容易に入手し利用することができる。
【0034】
エチレン-アクリル共重合体は、アクリル単量体単位の含有量が1mol%以上50mol%以下である。アクリル単量体単位の含有量がこの範囲にあるとき、溶融温度が60~120℃となり、良好なヒートシール性を発現する優れたエチレン-アクリル共重合体となる。エチレン-アクリル共重合体におけるアクリル単量体単位の含有量は、10mol%以上30mol%以下であることがより好ましい。
【0035】
水蒸気バリア層におけるバインダーは、アニオン性であることが好ましい。バインダーが、アニオン性であることにより、水蒸気バリア性がより向上する。前記したように、層状無機化合物の平面部分はアニオン性であるが、カチオン性樹脂が吸着すると表面がカチオン性になる。そのため、アニオン性であるバインダーとの親和性が高まることとなる。
【0036】
エチレン-アクリル共重合体の重量平均分子量は、塗工液粘度や塗工膜の強度の観点から、1万以上1,000万以下が好ましく、10万以上500万以下がより好ましい。
【0037】
エチレン-アクリル共重合体の含有割合は、特に限定されないが、水蒸気バリア層の全固形分中20質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上が特に好ましく、80質量%以上が最も好ましい。
【0038】
(カチオン性樹脂)
水蒸気バリア層は、カチオン性樹脂を含有することが好ましい。水蒸気バリア層はカチオン性樹脂を含有することによって、水蒸気バリア性が大きく向上する。その理由として、以下のように考えている。
(1)層状無機化合物は、平板状の形態の平面部分がアニオン性、エッジ部分がカチオン性に帯電し易いため、層状無機化合物が相互に立体的に凝集した、いわゆるカードハウス構造をとることが知られている。このカードハウス構造のために、層状無機化合物の水分散液は粘度が非常に高くなる。
(2)一方、カードハウス構造は撹拌などにより力を加えると簡単に壊れるため、層状無機化合物の水分散液はチキソトロピー性を示す。
(3)層状無機化合物の水分散液に、適切なカチオン性樹脂を添加すると、層状無機化合物のアニオン性の平面部分にカチオン性樹脂が吸着することによって、カードハウス構造が破壊される。その結果、層状無機化合物が立体的に凝集することが抑制され、平板状の層状無機化合物が紙基材平面に対して平行に積層し易くなり、水蒸気バリア性の向上につながる。
【0039】
カチオン性樹脂の具体例としては、ポリアミン、変性ポリアミド、変性ポリアミドアミン、ポリアミドエピクロロヒドリン、ポリエチレンイミン、ポリアルキレンポリアミン、ポリアミド化合物、ポリアミドアミン-エピハロヒドリンまたはホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミン-エピハロヒドリンまたはホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミドポリ尿素-エピハロヒドリンまたはホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミンポリ尿素-エピハロヒドリンまたはホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミドアミンポリ尿素-エピハロヒドリンまたはホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミドポリ尿素化合物、ポリアミンポリ尿素化合物、ポリアミドアミンポリ尿素化合物およびポリアミドアミン化合物、ポリビニルピリジン、アミノ変性アクリルアミド系化合物、ポリビニルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドなどを挙げることができる。これらの中でも、ポリアミン、変性ポリアミド、変性ポリアミドアミン、ポリアミドエピクロロヒドリンおよびポリエチレンイミンのうちいずれか1種以上が好ましい。
【0040】
カチオン性樹脂は、表面電荷が0.1meq/g以上5meq/g以下であることが好ましい。カチオン性樹脂の表面電荷が前記範囲内であると、カードハウス構造を破壊することが可能であり、後記するアニオン性バインダーとも適度に共存することができる。なお、カチオン性樹脂の表面電荷は、以下に記載する方法で測定する。
【0041】
試料となる重合体を水に溶解して、重合体濃度1ppmの溶液を得る。その溶液に対し、チャージアナライザーMutek PCD-04型(BTG社製)を用いて、0.001Nポリエチレンスルホン酸ナトリウムを滴下して電荷量を測定する。
【0042】
水蒸気バリア層におけるカチオン性樹脂の含有量は、水蒸気バリア層に使用される層状無機化合物とエチレン-アクリル共重合体の種類に応じて適宜選択すればよいが、バリア性を向上させる観点から、層状無機化合物100質量部に対して、1質量部以上300質量部以下が好ましく、3質量部以上250質量部以下がより好ましく、10質量部以上150質量部以下がさらに好ましく、20質量部以上150質量部以下が特に好ましく、20質量部以上100質量部以下が最も好ましい。
【0043】
また、カチオン性樹脂の含有量は、水蒸気バリア層のエチレン-アクリル共重合体100質量部に対して0.1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、0.3質量部以上15質量部以下であることがより好ましく、1質量部以上10質量部以下であることがさらに好ましい。
【0044】
水蒸気バリア層は、層状無機化合物、エチレン・アクリル共重合体、カチオン性樹脂以外に、必要に応じて適宜、エチレン・アクリル共重合体およびカチオン性樹脂以外の樹脂成分、分散剤、界面活性剤、消泡剤、濡れ剤、染料、色合い調整剤、増粘剤などを添加することが可能である。
【0045】
水蒸気バリア層の厚さは、1μm以上30μm以下であることが好ましく、3μm以上20μm以下であることがより好ましい。また、水蒸気バリア層の塗工量は、固形分として、1g/m以上30g/m以下であることが好ましく、3g/m以上20g/m以下であることがより好ましい。
【0046】
[防湿紙]
防湿紙の坪量は、特に限定されないが、20g/m以上400g/m以下であることが好ましく、30g/m以下320g/m以下がより好ましい。
【0047】
防湿紙は、水蒸気バリア性を有する包装材料としての観点から、透湿度が50g/(m・24h・atm)以下であり、30g/(m・24h・atm)以下であることが好ましい。透湿度は、JIS Z 0208に準じて測定することができる。
【0048】
防湿紙は、紙基材と水蒸気バリア層とを基本的な構成としており、水蒸気バリア層は、水中にて撹拌することにより微分散させることが可能である。そのため、防湿紙は、水中で離解操作を行うことにより、紙基材中の木材パルプを、パルプ繊維として回収し、リサイクルすることが可能である。
【0049】
(防湿紙の製造方法)
防湿紙は、紙基材上に、水蒸気バリア層形成用塗工液を塗工して、水蒸気バリア層を形成することにより、製造することができる。
塗工液の溶媒としては、特に制限はなく、水またはエタノール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトンもしくはトルエンなどの有機溶媒を用いることができる。
【0050】
塗工液を紙基材に塗工するための塗工設備には、特に限定はなく、公知の設備を用いることができる。塗工設備としては、例えば、ブレードコーター、バーコーター、エアナイフコーター、スリットダイコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ゲートロールコーターなどが挙げられる。特に水蒸気バリア層の形成には、ブレードコーター、バーコーター、エアナイフコーター、スリットダイコーターなどの塗工表面をスクレイプするコーターが層状無機化合物の配向を促すという点で好ましい。
【0051】
本実施形態の防湿紙は、上記の優れた水蒸気バリア性を生かして、食品、医療品、電子部品等の包装用材料として好適に用いることができる。本実施形態の防湿紙は、ヒートシール性を有しているため、防湿紙を所定の形状に切り取った後、所定の箇所でヒートシールして接合することにより、比較的少ない工程で、所定の包装容器を製造することができる。
【実施例
【0052】
以下に実施例を挙げて本発明の防湿紙をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り、それぞれ「質量部」および「質量%」を示す。
【0053】
実施例・比較例に用いた原材料は以下のとおりである。
(1)紙基材
晒クラフト紙:坪量60g/m、厚さ80μm
(2)層状無機化合物
マイカ:膨潤性合成マイカ、粒子径6.3μm、アスペクト比約1000、厚さ約5nm、固形分7%、製品名:NTO-05、トピー工業株式会社製
白雲母:商品名:AB32、株式会社山口雲母工業所(株式会社ヤマグチマイカ)製、粒子径20μm、アスペクト比20~30、厚さ約1,000nm
カオリン:商品名:バリサーフHX、イメリス社製、粒子径10μm、アスペクト比約100、厚さ約100nm
(3)カチオン性樹脂
変性ポリアミド系樹脂:固形分53%、製品名:SPI203(50)、田岡化学工業株式会社製、表面電荷0.4meq/g
(4)アニオン性バインダー
エチレン-アクリル共重合体:エチレン-アクリル酸共重合体水系分散体、固形分29.3%、製品名:ザイクセンAC、住友精化株式会社製
スチレン・ブタジエン系共重合体:酸変性SBRラテックス、固形分47.3%、製品名:LX407S12、日本ゼオン株式会社製
スチレン・ブタジエン系共重合体:酸変性SBRラテックス、固形分50.5%、製品名:LX407BP-6、日本ゼオン株式会社製
(5)ラミネートフィルム
低密度ポリエチレンフィルム:LLDPEフィルム、T.U.X FCS、30μm厚、三井化学東セロ株式会社製
【0054】
(実施例1)
<水蒸気バリア層用塗工液>
無機層状化合物の水分散液(膨潤性マイカ)29.3部に、撹拌しながらエチレン-アクリル酸共重合体水系分散体(ザイクセンAC)100部を加えた。これに、変性ポリアミド系樹脂(SPI203(50))を2.93部を加え、撹拌した。さらに、25%アンモニア水溶液を0.35部を加えて撹拌した。さらに、希釈水を加え、固形分濃度25%とし、水蒸気バリア層用塗工液とした。
【0055】
紙基材として晒クラフト紙を使用し、水蒸気バリア層用塗工液を固形分換算での塗工量が12g/mとなるように、メイヤーバーで塗工した後、熱風乾燥機内で120℃、1分間乾燥して、防湿紙を作製した。
【0056】
(実施例2)
水蒸気バリア層用塗工液の固形分換算での塗工量を6g/mとしたこと以外は実施例1と同様にして、防湿紙を作製した。
【0057】
(実施例3)
水蒸気バリア層用塗工液の固形分換算での塗工量を20g/mとしたこと以外は実施例1と同様にして、防湿紙を作製した。
【0058】
(実施例4)
無機層状化合物を、エチレン-アクリル酸共重合体水系分散体を100部に対して、白雲母顔料30部としたこと以外は実施例1と同様にして、防湿紙を作製した。
【0059】
(実施例5)
無機層状化合物を、エチレン-アクリル酸共重合体水系分散体を100部に対して、カオリン顔料100部としたこと以外は実施例1と同様にして、防湿紙を作製した。
【0060】
(比較例1)
水系分散体として、酸変性SBRラテックス(LX407S12)90部および酸変性SBRラテックス(LX407BP-6)10部を加え、固形分濃度を32%とした以外は実施例1と同様にして、防湿紙を作製した。
【0061】
(比較例2)
無機層状化合物を加えなかったこと以外は実施例1と同様にして、防湿紙を作製した。
【0062】
(比較例3)
晒クラフト紙にドライラミネートによりLLDPEフィルムを積層して付与した。
【0063】
[評価方法]
実施例、比較例で得られた防湿紙を用いて、以下の各性能を評価した。
(1)透湿度(水蒸気透過度)
JIS Z 0208(カップ法)B法(40℃±0.5℃、相対湿度90%±2%)で、水蒸気バリア層を内側にして測定した。なお、透湿度の判断基準としては、50g/(m・24h・atm)以下であれば、水蒸気バリア層として実用性があると判定した。
【0064】
(2)ヒートシール性
1組の防湿紙を、水蒸気バリア層が向き合うように重ね、ヒートシールテスタ(TP-701-B、テスター産業株式会社製)を用いて、130℃、0.5MPa、30秒の条件でヒートシールした。判定は次のように行った。
A:1組の防湿紙がヒートシールされ、強く融着し、手で簡単に剥がれなかった
B:1組の防湿紙がヒートシールされ、融着したが、手で簡単に剥がれた
C:1組の防湿紙がヒートシールされず、融着しなかった
【0065】
(3)離解性
防湿紙を1cm×1cmの寸法に切断し、その8gを家庭用ミキサー中において500mlの水に混合(濃度1.6%)し、2分間撹拌し、パルプスラリーを調製した。このパルプスラリーから、実験室用手抄きマシンにより紙シートを作製した。得られたシートを乾燥し、乾燥シート中の未離解物(フィルム片、繊維塊、未離解片など)の有無を、目視にて評価した。判定は次のように行った。
A:未離解物が含まれず、均一なシートを形成した
B:未離解物が含まれたが、シートを形成した
C:未離解物が含まれ、均一なシートを形成しなかった
【0066】
実施例1~5ならびに比較例1~3の防湿紙についての評価結果を表1に示した。
【0067】
【表1】
【0068】
表1から明らかなように、実施例1~5の防湿紙は、水蒸気バリア性およびヒートシール性に優れていた。一方、比較例1の防湿紙は、水蒸気バリア層のバインダーにスチレン・ブタジエン系共重合体を用いているため、ヒートシール性に劣るものであった。また、比較例2の防湿紙は、水蒸気バリア層に層状無機化合物を含有していないため、水蒸気バリア性に劣るものであった。また、比較例3の防湿紙は、水蒸気バリア層を有しないものであり、またPEフィルムをラミネートしたものであるため、離解性が不良であった。