(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】距離検出装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/931 20200101AFI20240123BHJP
G01S 7/40 20060101ALI20240123BHJP
G01S 7/497 20060101ALI20240123BHJP
G01S 15/931 20200101ALI20240123BHJP
G01S 17/931 20200101ALI20240123BHJP
【FI】
G01S13/931
G01S7/40 121
G01S7/497
G01S15/931
G01S17/931
(21)【出願番号】P 2020123766
(22)【出願日】2020-07-20
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康弘
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特許第3757936(JP,B2)
【文献】特開平11-094946(JP,A)
【文献】特開2003-030798(JP,A)
【文献】特開2004-132832(JP,A)
【文献】特開2012-127906(JP,A)
【文献】特開平10-104355(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1725031(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/72 - 1/82
G01S 3/80 - 3/86
G01S 5/18 - 7/64
G01S 13/00 - 17/95
G01C 3/00 - 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される距離検出装置(1)であって、
レーダ波を送受信することにより、前記車両の周囲に存在する物体までの物体距離を検出するように構成された距離検出部(20)と、
前記距離検出部により検出された前記物体距離と、前記物体で反射した前記レーダ波を前記距離検出部が受信したときの前記レーダ波の強度とに基づいて、当該距離検出装置が検出可能な前記物体距離の最大値である推定検出距離を推定するように構成された検出距離推定部(S110)と、
前記距離検出部による検出結果に基づいて、前記距離検出部が前記物体を認識している認識状態から、前記距離検出部が前記物体を認識していない非認識状態へ遷移したタイミングでの前記物体距離を見失い距離として推定するように構成された見失い距離推定部(S420)と、
前記推定検出距離および前記見失い距離に基づいて、
前記推定検出距離および前記見失い距離の少なくとも一方が第1の閾値未満になった場合に、前記距離検出部の検出性能の低下の度合いを示す低下レベルを遷移させ、前記推定検出距離および前記見失い距離の少なくとも一方が第2の閾値を超えた場合に前記低下レベルを遷移させることにより、前記距離検出部の検出性能の低下を判定するように構成された性能判定部(S50)と
を備える距離検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の距離検出装置であって、
複数の前記物体のうち、一つの前記物体を第1物体とし、前記第1物体とは異なる前記物体を第2物体として、前記距離検出部に対して前記第2物体の一部が前記第1物体に隠されているオクルージョンが発生しているか否かを判定するように構成されたオクルージョン判定部(S120)と、
前記オクルージョンが発生していると前記オクルージョン判定部が判定した場合には、前記第2物体の前記推定検出距離を前記性能判定部による判定から除外するように構成されたオクルージョン除外部(S150)と
を備える距離検出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の距離検出装置であって、
前記物体が路側物であるか否かを判定するように構成された路側物判定部(S130)と、
前記路側物であると前記路側物判定部により判定された前記物体の前記推定検出距離を前記性能判定部による判定から除外するように構成された路側物除外部(S150)と
を備える距離検出装置。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか1項に記載の距離検出装置であって、
前記物体が虚像であるか否かを判定するように構成された虚像判定部(S140)と、
前記虚像であると前記虚像判定部により判定された前記物体の前記推定検出距離を前記性能判定部による判定から除外するように構成された虚像除外部(S150)と
を備える距離検出装置。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか1項に記載の距離検出装置であって、
前記性能判定部は、前記検出距離推定部により推定された複数の前記推定検出距離の平均値を用いて、前記距離検出部の検出性能の低下を判定する距離検出装置。
【請求項6】
請求項1~請求項5の何れか1項に記載の距離検出装置であって、
前記性能判定部は、前記見失い距離推定部により推定された複数の前記見失い距離の平均値を用いて、前記距離検出部の検出性能の低下を判定する距離検出装置。
【請求項7】
請求項1~請求項6の何れか1項に記載の距離検出装置であって、
前記検出距離推定部により推定された複数の前記推定検出距離を登録するように構成された検出距離登録部(S180)と、
前記検出距離登録部が最新の前記推定検出距離を登録してからの経過時間が予め設定されたリフレッシュ時間以上である場合に、前記検出距離登録部に登録されている複数の前記推定検出距離のうち、予め設定されたリフレッシュ距離未満の前記推定検出距離を前記リフレッシュ距離に置換するように構成された検出距離リフレッシュ部(S30)と
を備える距離検出装置。
【請求項8】
請求項1~請求項7の何れか1項に記載の距離検出装置であって、
前記見失い距離推定部により推定された複数の前記見失い距離を登録するように構成された見失い距離登録部(S190)と、
前記見失い距離登録部が最新の前記見失い距離を登録してからの経過時間が予め設定されたリフレッシュ時間以上である場合に、前記見失い距離登録部に登録されている複数の前記見失い距離のうち、予め設定されたリフレッシュ距離未満の前記見失い距離を前記リフレッシュ距離に置換するように構成された見失い距離リフレッシュ部(S40)と
を備える距離検出装置。
【請求項9】
請求項1~請求項8の何れか1項に記載の距離検出装置であって、
前記性能判定部は、前記推定検出距離および前記見失い距離に基づいて、
複数の前記低下レベルの中から1つの前記低下レベルを設定することにより、前記距離検出部の検出性能の低下を判定する距離検出装置。
【請求項10】
請求項1~請求項9の何れか1項に記載の距離検出装置であって、
前記検出距離推定部が推定した前記推定検出距離を当該距離検出装置の外部へ出力するように構成された出力部(S60)を備える距離検出装置。
【請求項11】
請求項1~請求項10の何れか1項に記載の距離検出装置であって、
前記検出距離推定部により推定された複数の前記推定検出距離が登録される第1推定リスト(LS1)および第2推定リスト(LS2)を備え、
前記第1推定リストには、同一の前記物体について、予め設定された上限値以下の前記推定検出距離が登録され、
前記第2推定リストには、同一の前記物体について、前記上限値を超えて前記推定検出距離が登録される距離検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載される距離検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、障害物の状態が未定状態から認識状態に変化したとき、または、認識状態から外挿状態に変化したときにおいて、反射波の信号レベルが予め設定された閾値に満たない場合に、当該反射波の検出結果から限界距離を求めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アダプティブクルーズコントロール機能の高性能化により、レーダ装置において、車両をより遠方まで検出するための高性能化が進んでいる。従来、車両の見え終り距離をレーダ装置の性能低下の判断に用いていた。しかし、レーダ装置の高性能化によって、車両の見え終り距離を実環境で測定し難くなり、性能低下の自己判断が困難となっている。実環境の例として、周囲の車両または道路構造による遮蔽で見失うシーン、および、先行車両に追従しているときに先行車両を見失うまで先行車両を観測できないシーン等が挙げられる。
【0005】
本開示は、距離検出性能の低下の判定精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、車両に搭載される距離検出装置(1)であって、距離検出部(20)と、検出距離推定部(S110)と、見失い距離推定部(S420)と、性能判定部(S50)とを備える。
【0007】
距離検出部は、レーダ波を送受信することにより、車両の周囲に存在する物体までの物体距離を検出するように構成される。
検出距離推定部は、距離検出部により検出された物体距離と、物体で反射したレーダ波を距離検出部が受信したときのレーダ波の強度とに基づいて、当該距離検出装置が検出可能な物体距離の最大値である推定検出距離を推定するように構成される。
【0008】
見失い距離推定部は、距離検出部による検出結果に基づいて、距離検出部が物体を認識している認識状態から、距離検出部が物体を認識していない非認識状態へ遷移したタイミングでの物体距離を見失い距離として推定するように構成される。
【0009】
性能判定部は、推定検出距離および見失い距離に基づいて、距離検出部の検出性能の低下を判定するように構成される。
このように構成された本開示の距離検出装置は、物体距離とレーダ波の受信強度とに基づいて、レーダ波の強度が受信強度より小さい所定値以下となる物体距離を推定検出距離として推定することができる。これにより、本開示の距離検出装置は、当該距離検出装置が物体距離を検出することができる限界距離付近で、上記の認識状態から上記の非認識状態へ遷移したタイミングでの物体距離(すなわち、見失い距離)を検出することができない場合であっても、上記の推定検出距離を推定することができる。
【0010】
このため、本開示の距離検出装置は、距離検出性能の低下の判定精度を向上させることができる。
また、本開示の距離検出装置は、上記の認識状態から上記の非認識状態へ遷移したタイミングでの物体距離を見失い距離として推定する。これにより、本開示の距離検出装置は、降雨環境下での車両の水の巻上げ、または、距離検出装置の光学窓面の状態によって、レーダ方程式に則らない検出性能の低下が発生した場合に、距離検出部の検出性能の低下を判定することができる。
【0011】
このため、本開示の距離検出装置は、距離検出性能の低下の判定精度を更に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】車両用障害物認識装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】メインルーチンを示すフローチャートである。
【
図5】検出性能推定処理を示すフローチャートである。
【
図6】推定検出距離の算出方法を説明する図である。
【
図7】オクルージョン判定の方法を説明する図である。
【
図9】強度推定リスト登録処理を示すフローチャートである。
【
図11】見失いリスト登録処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本開示の実施形態を図面とともに説明する。
本実施形態の車両用障害物認識装置1は、
図1に示すように、電子制御装置10と、レーダ装置20と、センサ部30とを備える。以下、車両用障害物認識装置1を搭載した車両を自車両という。
【0014】
電子制御装置10は、CPU11、ROMおよびRAM等を備えたマイクロコンピュータを中心に構成された電子制御装置である。マイクロコンピュータの各種機能は、CPU11が非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。この例では、ROMが、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、このプログラムの実行により、プログラムに対応する方法が実行される。なお、CPU11が実行する機能の一部または全部を、一つあるいは複数のIC等によりハードウェア的に構成してもよい。また、電子制御装置10を構成するマイクロコンピュータの数は1つでも複数でもよい。
【0015】
電子制御装置10は、CPU11と、RAM、ROMおよびフラッシュメモリ等の半導体メモリ12(以下、メモリ12)と、通信部13とを備える。
通信部13は、通信線を介して他の車載装置との間でデータ通信可能に接続されており、例えばCAN通信プロトコルに従ってデータの送受信を行う。CANは、Controller Area Networkの略である。CANは登録商標である。
【0016】
レーダ装置20は、
図2に示すように、自車両VHの前側に搭載され、予め設定された測定周期が経過する毎に、自車両VHの車幅方向に水平及び垂直方向の所定角度範囲内でレーダ波を自車両VHの前方へ向けて走査しながら照射し、反射したレーダ波を検出することによって、物体においてレーダ波を反射した箇所(以下、測距点)までの距離と測距点の角度とを測定する。レーダ装置20は、例えば、レーダ波を水平方向に走査しながら、垂直方向を分割した受光素子で受信することで2次元に分解能を持つ走査を行う。
【0017】
レーダ装置20は、上記の測定周期を1フレームとして、1フレーム毎に、測距点の距離および角度を測定する。
なお、レーダ装置20は、例えば、レーダ波としてミリ波帯の電磁波を使用するいわゆるミリ波レーダであってもよいし、レーダ波としてレーザ光を用いるレーザレーダであってもよいし、レーダ波として音波を用いるソナーであってもよい。
【0018】
レーダ装置20は、反射したレーダ波を、
図3に示すようにパルス波形で受信する。そしてレーダ装置20は、受信強度が検出閾値を超えたパルス波形を測距点として検出し、このパルス波形のピーク時の受信強度を反射強度とする。
【0019】
またレーダ装置20は、パルス波形のピーク時の時間tpに基づいて、測距点の距離を算出する。さらにレーダ装置20は、レーダ波の走査方向に基づいて、測距点が存在する角度を算出する。
【0020】
そしてレーダ装置20は、測距点の距離および角度と、反射強度とを示す測距点情報を電子制御装置10へ出力する。
また電子制御装置10は、
図1に示すように、通信部13を介して、レーダ装置20による測定結果を、例えば、運転支援を行う運転支援装置40へ送信する。
【0021】
センサ部30は、自車両の挙動を検出する少なくとも1つのセンサを備える。本実施形態では、一例として、センサ部30は、車速に応じた車速検出信号を電子制御装置10へ出力する車速センサ31と、ヨーレートに応じたヨーレート検出信号を電子制御装置10へ出力するヨーレートセンサ32とを備える。
【0022】
次に、電子制御装置10が実行するメインルーチンの手順を説明する。メインルーチンは、電子制御装置10の動作中において測定周期毎に繰り返し実行される処理である。
メインルーチンが実行されると、電子制御装置10は、
図4に示すように、まずS10にて、物体追跡を実行する。
【0023】
具体的には、電子制御装置10は、まず、直近のフレーム(すなわち、今回のフレーム)でレーダ装置20により検出された複数の測距点について、測距点の距離および角度に基づいて、測距点の横位置および縦位置を算出する。横位置は、自車両を起点として自車両の車幅方向に沿った位置である。縦位置は、自車両を起点として車幅方向に対して垂直な方向に沿った位置である。
【0024】
そして電子制御装置10は、今回のフレームの測距点(以下、今回測距点)毎に、前回のフレームの測距点(以下、前回測距点)と同一の物標を表すものであるか否かを判定する履歴追尾処理を実行する。
【0025】
具体的には、電子制御装置10は、前回測距点の情報に基づいて、前回測距点に対応する今回測距点の予測位置を算出し、その予測位置と、今回測距点の位置との差分が予め設定された上限値より小さい場合には、履歴接続があるものと判断し、複数のフレーム(例えば5フレーム)に渡って履歴接続があると判断された測距点を物標であると認識する。さらに電子制御装置10は、今回測距点の位置と前回測距点の位置との差分と、測定周期(すなわち、1フレームの時間)とに基づいて、今回測距点の相対速度を算出する。
【0026】
次に電子制御装置10は、物標であると認識された測距点のうち、同一の物体に起因した測距点を選択するために予め設定された同一物体選択条件を満たす測距点(以下、同一物体測距点)を選択する。なお、本実施形態における同一物体選択条件は、例えば「自車両から最も近い位置に存在している物標の測距点」を代表測距点として、この代表測距点との間で、距離の差が予め設定された距離選択判定値以下あり、且つ、角度の差が予め設定された角度選択判定値以下あり、且つ、相対速度の差が予め設定された相対速度選択判定値以下であることである。
【0027】
さらに電子制御装置10は、選択された同一物体測距点の中から、算出された横位置に基づいて、最も右側に位置する測距点(以下、最右端測距点)と、最も左側に位置する測距点(以下、最左端測距点)とを抽出する。そして電子制御装置10は、最右端測距点の横位置と最左端測距点の横位置との中心値を、物体の中心横位置xとして決定する。また電子制御装置10は、最右端測距点の横位置と最左端測距点の横位置との差を、物体の横幅として決定する。
【0028】
さらに電子制御装置10は、算出された縦位置に基づいて、最も前側に位置する測距点(以下、最前端測距点)と、最も後側に位置する測距点(以下、最後端測距点)とを抽出する。そして電子制御装置10は、最前端測距点の縦位置と最後端測距点の縦位置との中心値を、物体の中心縦位置yとして決定する。また電子制御装置10は、最前端測距点の縦位置と最後端測距点の縦位置との差を、物体の奥行として決定する。
【0029】
従って、電子制御装置10は、最右端測距点、最左端測距点、最前端測距点および最後端測距点を囲む矩形を物体として認識する。
さらに電子制御装置10は、履歴追尾処理による判定結果に基づいて、前回のフレームにおける物体と今回のフレームにおける物体とで履歴接続がある場合に、前回および今回のフレームにおける物体の中心横位置xおよび中心縦位置yと、測定周期(すなわち、1フレームの時間)とを用いて、今回のフレームにおける物体の横相対速度vxおよび縦相対速度vyを算出する。
【0030】
また電子制御装置10は、前回のフレームで認識された物体について、今回のフレームで認識された物体と履歴接続できなかった場合には、前回のフレームで認識された物体の中心横位置x、中心縦位置y、横相対速度vxおよび縦相対速度vyに基づいて外挿することにより、今回のフレームで認識された物体の中心横位置x、中心縦位置y、横相対速度vxおよび縦相対速度vyとする。
【0031】
また電子制御装置10は、今回のフレームで認識された物体のそれぞれについて、追跡フレーム数と、外挿フレーム数とを設定する。追跡フレーム数は、履歴接続が連続して成功した回数である。外挿フレーム数は、外挿が連続して行われた回数である。
【0032】
そしてS10の処理が終了すると、電子制御装置10は、S20にて、検出性能推定処理を実行する。
ここで、検出性能推定処理の手順を説明する。
【0033】
検出性能推定処理が実行されると、電子制御装置10は、
図5に示すように、まずS110にて、推定検出距離を算出する。具体的には、電子制御装置10は、まず、S10の物体追跡で認識された1または複数の物体のそれぞれについて、物体を構成する1または複数の測距点の中から反射強度が最も大きい測距点を選択する。そして電子制御装置10は、1または複数の物体のそれぞれについて、選択した測距点の距離をD
0、選択した測距点の反射強度をP
0、検出閾値をT
0、マージン係数をαとして、式(1)により推定検出距離D
xを算出する。マージン係数αは、検出閾値と交わる箇所よりもマージンとして手前で推定値を算出するための係数である。
【0034】
【0035】
なお、電子制御装置10は、測定周期毎に、式(2)により検出閾値T
0を算出する。式(2)におけるσは、
図3に示すように、レーダ波の照射を終了してから次のレーダ波の照射を開始するまでの非照射区間におけるレーダ波の受信強度の標準偏差である。Nは、2以上の整数である。
【0036】
T
0=N×σ ・・・(2)
図6に示すように、推定検出距離D
xは、距離D
0において反射強度がP
0である場合に、反射強度がT
0まで低下する距離である。
【0037】
S110の処理が終了すると、電子制御装置10は、
図5に示すように、S120にて、オクルージョン判定を実行する。オクルージョンは、例えば
図7に示すように、自車両のレーダ装置20の前方に第1先行車両PV1が存在し、さらに第1先行車両PV1の前方に第2先行車両PV2が存在している場合において、レーダ装置20から見て第2先行車両PV2の一部を第1先行車両PV1が隠す状態をいう。電子制御装置10は、オクルージョン判定によって、S10の処理で認識した物体の中から、隠されている物体を抽出する。
【0038】
以下に、
図7を用いて、オクルージョン判定の方法の一例を説明する。
電子制御装置10は、第1先行車両PV1の存在に起因して矩形状の物体RC1を認識し、第2先行車両PV2の存在に起因して矩形状の物体RC2を認識しているとする。物体RC1の矩形は、4つの頂点VT11,VT12,VT13,VT14を有する。物体RC2の矩形は、4つの頂点VT21,VT22,VT23,VT24を有する。
【0039】
この場合に、物体RC1の矩形における後方右側の頂点VT13とレーダ装置20とを通過する直線L1が、物体RC2の矩形における後方左側の頂点VT24を通過する場合に、第2先行車両PV2の一部を第1先行車両PV1が隠す状態であると判断することができる。
【0040】
S120の処理が終了すると、電子制御装置10は、
図5に示すように、S130にて、路側物判定を実行する。具体的には、電子制御装置10は、まず、車速センサ31からの車速検出信号に基づいて、自車両の車速を算出する。そして電子制御装置10は、S10の処理で認識した物体の中から、相対速度と自車両の車速との差が予め設定された路側物閾値以下(例えば、10km/h以下)である物体を、路側物として抽出する。
【0041】
S130の処理が終了すると、電子制御装置10は、
図5に示すように、S140にて、虚像判定を実行する。虚像は、
図8に示すように、レーダ装置20から送信されたレーダ波が静止物(
図8では、トンネル壁や防音壁)で反射した後に物体で反射し、その後、上記の静止物で反射したレーダ波をレーダ装置20が受信することで、物体と認識される像である。虚像は、反射強度が小さいため、誤ってレーダ装置20の性能が低下したと判断されてしまう恐れがある。
【0042】
具体的には、電子制御装置10は、追跡された物体の中から、予め設定されたペア判定条件に基づいて、虚像および実像のペアを特定し、特定したペアのうち、反射強度が小さい方の物体を、虚像として抽出する。虚像は、実像に対して距離および相対速度のそれぞれの差が予め設定された閾値以下(例えば、距離差が5m以下、且つ、速度差が5km/h以下)となる特徴があるため、この特徴に基づいてペア判定条件が設定される。
【0043】
S140の処理が終了すると、電子制御装置10は、
図5に示すように、S150にて、有効車両を選択する。具体的には、電子制御装置10は、S10の処理で認識した物体の中から、S120~S140の処理で抽出された物体を除外し、残りの物体を有効車両とする。
【0044】
そして電子制御装置10は、S160にて、S150での選択結果に基づいて、今回のフレームで有効車両があるか否かを判断する。ここで、今回のフレームで有効車両がない場合には、電子制御装置10は、検出性能推定処理を終了する。
【0045】
一方、今回のフレームで有効車両がある場合には、電子制御装置10は、S170にて、フィルタリング処理を実行する。
具体的には、電子制御装置10は、S150で選択された有効車両のそれぞれについて、S110で算出された推定検出距離の総和と、推定検出距離の算出回数と、推定検出距離の平均値とを算出する。以下、推定検出距離の総和を推定値総和という。推定検出距離の算出回数を総サンプル数という。推定検出距離の平均値を推定平均値という。
【0046】
推定値総和は、前回のフレームで算出された推定値総和と、今回のフレームで算出された推定検出距離とを加算することにより算出される。総サンプル数は、前回のフレームで算出された総サンプル数に1を加算することにより算出される。推定平均値は、推定値総和を総サンプル数で除算することにより算出される。なお、推定値総和および総サンプル数は、対応する物体についての推定検出距離が後述の第1強度推定リストLS1および第2強度推定リストLS2の少なくとも一方に登録された時点で初期化(すなわち、0に設定)される。
【0047】
次に電子制御装置10は、S180にて、強度推定リスト登録処理を実行する。
ここで、強度推定リスト登録処理の手順を説明する。
強度推定リスト登録処理が実行されると、電子制御装置10は、
図9に示すように、まずS310にて、S150で選択された有効車両のうち、後述のS320からS350までの処理の対象として未だ選択されていない有効車両を、対象有効車両として選択する。
【0048】
そして電子制御装置10は、S320にて、対象有効車両について、予め設定された第1登録条件が成立しているか否かを判断する。本実施形態の第1登録条件は、対象有効車両の総サンプル数が200を超えていることである。
【0049】
ここで、第1登録条件が成立していない場合には、電子制御装置10は、S360に移行する。一方、第1登録条件が成立している場合には、電子制御装置10は、S330にて、第1強度推定リストLS1への登録回数が1回目であるか否かを判断する。
【0050】
電子制御装置10のRAMには、第1強度推定リストLS1および第2強度推定リストLS2が設けられている。第1強度推定リストLS1および第2強度推定リストLS2は、
図10に示すように、リングバッファ構造で形成されている。このため、推定検出距離は、第1強度推定リストLS1および第2強度推定リストLS2の先頭アドレスから順次書き込まれる。そして、第1強度推定リストLS1および第2強度推定リストLS2の最後尾アドレスに推定検出距離が書き込まれると、次の推定検出距離は先頭アドレスに書き込まれる。
図10の図表TB1は、第1強度推定リストLS1に登録された推定検出距離の一例を示す。
【0051】
S330にて、第1強度推定リストLS1への登録回数が1回目である場合(すなわち、対象有効車両について推定検出距離が第1強度推定リストLS1に登録されていない場合)には、電子制御装置10は、S340にて、対象有効車両の推定平均値を第1強度推定リストLS1および第2強度推定リストLS2に登録して、S355に移行する。
【0052】
一方、第1強度推定リストLS1への登録回数が1回目でない場合(すなわち、対象有効車両について既に推定検出距離が第1強度推定リストLS1に登録されている場合)には、電子制御装置10は、S350にて、対象有効車両の推定平均値を第2強度推定リストLS2に登録して、S355に移行する。
【0053】
S355に移行すると、電子制御装置10は、対象有効車両の推定値総和および総サンプル数を初期化(すなわち、0に設定)して、S360に移行する。
S360に移行すると、電子制御装置10は、全ての有効車両が対象有効車両として選択されたか否かを判断する。ここで、全ての有効車両が対象有効車両として選択されていない場合には、電子制御装置10は、S310に移行する。一方、全ての有効車両が対象有効車両として選択されている場合には、電子制御装置10は、強度推定リスト登録処理を終了する。
【0054】
強度推定リスト登録処理が終了すると、電子制御装置10は、
図5に示すように、S190にて、見失いリスト登録処理を実行する。
ここで、見失いリスト登録処理の手順を説明する。
【0055】
見失いリスト登録処理が実行されると、電子制御装置10は、
図11に示すように、まずS410にて、S150で選択された有効車両のうち、後述のS420,S430の処理の対象として未だ選択されていない有効車両を、対象有効車両として選択する。
【0056】
そして電子制御装置10は、S420にて、対象有効車両について、予め設定された第2登録条件が成立しているか否かを判断する。本実施形態の第2登録条件は、対象有効車両の外挿フレーム数が予め設定された見失い回数(例えば、5回)を超えていることである。
【0057】
ここで、第2登録条件が成立していない場合には、電子制御装置10は、S440に移行する。一方、第2登録条件が成立している場合には、電子制御装置10は、S430にて、今回のフレームにおける対象有効車両の距離を見失い距離として見失いリストLS3に登録して、S440に移行する。
【0058】
電子制御装置10のRAMには、見失いリストLS3が設けられている。見失いリストLS3は、
図12に示すように、リングバッファ構造で形成されている。このため、見失い距離は、見失いリストLS3の先頭アドレスから順次書き込まれる。そして、見失いリストLS3の最後尾アドレスに見失い距離が書き込まれると、次の見失い距離は先頭アドレスに書き込まれる。
図12の図表TB2は、見失いリストLS3に登録された見失い距離の一例を示す。
【0059】
S440に移行すると、電子制御装置10は、
図11に示すように、全ての有効車両が対象有効車両として選択されたか否かを判断する。ここで、全ての有効車両が対象有効車両として選択されていない場合には、電子制御装置10は、S410に移行する。一方、全ての有効車両が対象有効車両として選択されている場合には、電子制御装置10は、見失いリスト登録処理を終了する。
【0060】
見失いリスト登録処理が終了すると、電子制御装置10は、
図5に示すように、検出性能推定処理を終了する。
検出性能推定処理が終了すると、電子制御装置10は、
図4に示すように、S30にて、強度推定リスト回復処理を行う。
【0061】
具体的には、電子制御装置10は、予め設定された強度推定リフレッシュ条件が成立した場合に、第2強度推定リストLS2に登録されている推定検出距離のうち、後述する低下レベルに応じて予め設定されたリフレッシュ距離未満の推定検出距離を、リフレッシュ距離に置き換える。
【0062】
強度推定リフレッシュ条件は、後述する第1リフレッシュ条件および第2リフレッシュ条件の何れか一方が成立することである。
第1リフレッシュ条件は、第2強度推定リストLS2に登録されている最新の推定検出距離と最古の推定検出距離とのS/N差が0.1倍以下であることである。
【0063】
電子制御装置10は、第1リフレッシュ条件が成立しているか否かを、以下の方法で判断する。
電子制御装置10は、まず、距離閾値を式(3)により算出する。そして電子制御装置10は、式(4)に示すように、最古の推定検出距離が距離閾値以下である場合に、第1リフレッシュ条件が成立していると判断する。
【0064】
(距離閾値)=(最新の推定検出距離)×(0.1^0.25) ・・・(3)
(最古の推定検出距離)≦(距離閾値) ・・・(4)
第2リフレッシュ条件は、後述する第3リフレッシュ条件および第4リフレッシュ条件の両方が成立することである。
【0065】
第3リフレッシュ条件は、最新の推定検出距離が第2強度推定リストLS2に登録されてからリフレッシュ時間が経過することである。本実施形態では、リフレッシュ時間は60秒に設定されている。
【0066】
第4リフレッシュ条件は、今回のフレームにおいて選択された有効車両が0台以下であることである。
図13の図表TB3は、強度推定リフレッシュ条件を示す。また、
図13の図表TB5に示すように、本実施形態では、低下レベルが「0」,「1」,「2」,「3」,「4」であるときのリフレッシュ距離はそれぞれ、「200m」,「190m」,「165m」,「140m」,「115m」に設定されている。
【0067】
S30の処理が終了すると、電子制御装置10は、
図4に示すように、S40にて、見失いリスト回復処理を行う。
具体的には、電子制御装置10は、予め設定された見失いリフレッシュ条件が成立した場合に、見失いリストLS3に登録されている見失い距離のうち、低下レベルに応じて予め設定されたリフレッシュ距離未満の推定検出距離を、リフレッシュ距離に置き換える。
【0068】
見失いリフレッシュ条件は、後述する第5リフレッシュ条件および第6リフレッシュ条件の両方が成立することである。
第5リフレッシュ条件は、最新の見失い距離が見失いリストLS3に登録されてからリフレッシュ時間が経過することである。
【0069】
第6リフレッシュ条件は、後述する第7リフレッシュ条件および第8リフレッシュ条件の何れか一方が成立することである。
第7リフレッシュ条件は、第2強度推定リストLS2に登録されている推定検出距離のうち、低下レベルに応じて予め設定された良推定距離以上である推定検出距離の有効車両台数が、低下レベルに応じて予め設定された良車両台数未満であることである。
【0070】
第8リフレッシュ条件は、第2強度推定リストLS2に登録されている推定検出距離の平均値が、低下レベルに応じて予め設定された良推定距離以上であることである。
図13の図表TB4は、見失いリフレッシュ条件を示す。また、
図13の図表TB5に示すように、本実施形態では、低下レベルが「0」,「1」,「2」,「3」,「4」であるときの良推定距離はそれぞれ、「200m」,「200m」,「200m」,「150m」,「130m」に設定されている。また、低下レベルが「0」,「1」,「2」,「3」,「4」であるときの良車両台数はそれぞれ、「3台」,「3台」,「3台」,「3台」,「3台」に設定されている。
【0071】
S40の処理が終了すると、電子制御装置10は、
図4に示すように、S50にて、低下レベル判定処理を行う。
具体的には、電子制御装置10は、まず、第1強度推定リストLS1に登録されている推定検出距離の平均値(以下、第1強度距離平均値)と、第2強度推定リストLS2に登録されている推定検出距離の平均値(以下、第2強度距離平均値)とを算出する。
【0072】
そして電子制御装置10は、第1強度距離平均値および第2強度距離平均値のうち、大きい方を、強度距離平均値として採用する。
また電子制御装置10は、見失いリストLS3に登録されている見失い距離の平均値を、見失い距離平均値として算出する。
【0073】
そして電子制御装置10は、強度距離平均値および見失い距離平均値を用いて、低下レベルを0~4の5段階で判定する。低下レベル4が、性能が最も低下している状態である。
図14に示すように、本実施形態では、低下レベルが「1」,「2」,「3」,「4」であるときのレベルアップ距離閾値はそれぞれ、「175m」,「150m」,「125m」,「100m」に設定されている。また、低下レベルが「1」,「2」,「3」,「4」であるときのレベルダウン距離閾値はそれぞれ、「195m」,「165m」,「140m」,「115m」に設定されている。
【0074】
電子制御装置10は、強度距離平均値および見失い距離平均値の少なくとも一方がレベルアップ距離閾値未満になった場合に低下レベルを遷移させる。また電子制御装置10は、強度距離平均値および見失い距離平均値の少なくとも一方がレベルダウン距離閾値を超えた場合に低下レベルを遷移させる。
【0075】
例えば、電子制御装置10は、低下レベルが「0」であるときに、強度距離平均値および見失い距離平均値の少なくとも一方が175m未満になった場合に、低下レベルを「1」に設定する。また電子制御装置10は、例えば、低下レベルが「1」であるときに、強度距離平均値および見失い距離平均値の少なくとも一方が190mを超えた場合に、低下レベルを「0」に設定する。
【0076】
S50の処理が終了すると、電子制御装置10は、
図4に示すように、S60にて、物体状態量送信処理を行う。具体的には、電子制御装置10は、今回のフレームで認識された物体のそれぞれについて、物体の状態量を示す物体状態量情報を、後段のシステムへ送信する。物体の状態量は、物体として認識した矩形の中心座標(x,y)と、矩形の横幅と、矩形の奥行と、相対速度(vx,vy)と、追跡フレーム数と、外挿フレーム数と、推定検出距離とを含む。
【0077】
物体状態量情報を後段のシステムへ送信するのは、後段のシステム側で、ミリ波等の他のセンサ間と組み合わせて用いたり、システムのアプリ毎に、レーダ装置20で検出した物標の使用方法を変えたりすることに用いるためである。
【0078】
S60の処理が終了すると、電子制御装置10は、メインルーチンを終了する。
このように構成された車両用障害物認識装置1は、車両に搭載され、レーダ装置20と、電子制御装置10とを備える。
【0079】
レーダ装置20は、レーダ波を送受信することにより、車両の周囲に存在する物体までの物体距離を検出する。
電子制御装置10は、検出された物体距離と、物体で反射したレーダ波をレーダ装置20が受信したときのレーダ波の強度とに基づいて、推定検出距離を推定する。推定検出距離は、レーダ装置20が検出可能な物体距離の最大値である。
【0080】
電子制御装置10は、レーダ装置20による検出結果に基づいて、レーダ装置20が物体を認識している認識状態から、レーダ装置20が物体を認識していない非認識状態へ遷移したタイミングでの物体距離を見失い距離として推定する。
【0081】
電子制御装置10は、推定検出距離および見失い距離に基づいて、レーダ装置20の検出性能の低下を判定する。
このように車両用障害物認識装置1は、物体距離とレーダ波の受信強度とに基づいて、レーダ波の強度が受信強度より小さい検出閾値T0以下となる物体距離を推定検出距離として推定することができる。これにより、車両用障害物認識装置1は、当該車両用障害物認識装置1が物体距離を検出することができる限界距離付近で、認識状態から非認識状態へ遷移したタイミングでの物体距離(すなわち、見失い距離)を検出することができない場合であっても、推定検出距離を推定することができる。
【0082】
このため、車両用障害物認識装置1は、距離検出性能の低下の判定精度を向上させることができる。
また車両用障害物認識装置1は、認識状態から非認識状態へ遷移したタイミングでの物体距離を見失い距離として推定する。これにより、車両用障害物認識装置1は、降雨環境下での車両の水の巻上げ、または、車両用障害物認識装置1の光学窓面の状態によって、レーダ方程式に則らない検出性能の低下が発生した場合に、レーダ装置20の検出性能の低下を判定することができる。
【0083】
このため、車両用障害物認識装置1は、距離検出性能の低下の判定精度を更に向上させることができる。
電子制御装置10は、レーダ装置20に対して第2先行車両PV2の一部が第1先行車両PV1に隠されているオクルージョンが発生しているか否かを判定する。そして電子制御装置10は、オクルージョンが発生していると判定した場合には、第2先行車両PV2の推定検出距離を、レーダ装置20の検出性能の低下の判定から除外する。これにより、車両用障害物認識装置1は、検出性能の低下の判定に不適切な物体を除外して、検出性能の低下の判定を行うことができるため、距離検出性能の低下の判定精度を更に向上させることができる。
【0084】
電子制御装置10は、物体が路側物であるか否かを判定する。そして電子制御装置10は、路側物であると判定された物体の推定検出距離を、レーダ装置20の検出性能の低下の判定から除外する。これにより、車両用障害物認識装置1は、検出性能の低下の判定に不適切な物体を除外して、検出性能の低下の判定を行うことができるため、距離検出性能の低下の判定精度を更に向上させることができる。
【0085】
電子制御装置10は、物体が虚像であるか否かを判定する。そして電子制御装置10は、虚像であると判定された物体の推定検出距離を、レーダ装置20の検出性能の低下の判定から除外する。これにより、車両用障害物認識装置1は、検出性能の低下の判定に不適切な物体を除外して、検出性能の低下の判定を行うことができるため、距離検出性能の低下の判定精度を更に向上させることができる。
【0086】
電子制御装置10は、推定された複数の推定検出距離の平均値を用いて、レーダ装置20の検出性能の低下を判定する。また電子制御装置10は、推定された複数の見失い距離の平均値を用いて、レーダ装置20の検出性能の低下を判定する。これにより、車両用障害物認識装置1は、複数の推定検出距離または複数の見失い距離の中に異常値が含まれている場合であっても、異常値が検出性能の低下の判定に及ぼす影響を抑制し、距離検出性能の低下の判定精度の悪化を最小限に抑制することができる。
【0087】
電子制御装置10は、推定された複数の推定検出距離を登録する。そして電子制御装置10は、最新の推定検出距離を登録してからの経過時間が予め設定されたリフレッシュ時間以上である場合に、登録されている複数の推定検出距離のうち、予め設定されたリフレッシュ距離未満の推定検出距離をリフレッシュ距離に置換する。これにより、車両用障害物認識装置1は、リフレッシュ距離未満の推定検出距離が長時間登録され続けるのを抑制し、距離検出性能が回復したにも関わらず距離検出性能が低下していると判定される事態の発生を抑制することができる。
【0088】
電子制御装置10は、推定された複数の見失い距離を登録する。そして電子制御装置10は、最新の見失い距離を登録してからの経過時間が予め設定されたリフレッシュ時間以上である場合に、登録されている複数の見失い距離のうち、予め設定されたリフレッシュ距離未満の見失い距離をリフレッシュ距離に置換する。これにより、車両用障害物認識装置1は、リフレッシュ距離未満の見失い距離が長時間登録され続けるのを抑制し、距離検出性能が回復したにも関わらず距離検出性能が低下していると判定される事態の発生を抑制することができる。
【0089】
電子制御装置10は、推定検出距離および見失い距離に基づいて、レーダ装置20の検出性能の低下の度合いを示す複数の低下レベルの中から1つの低下レベルを設定することにより、レーダ装置20の検出性能の低下を判定する。これにより、車両用障害物認識装置1は、レーダ装置20の検出性能の低下の度合いを通知することができる。
【0090】
電子制御装置10は、推定した推定検出距離を車両用障害物認識装置1の外部へ出力する。これにより、車両用障害物認識装置1は、推定検出距離を、車両用障害物認識装置1の外部のシステムに利用させることができる。
【0091】
電子制御装置10は、第1強度推定リストLS1および第2強度推定リストLS2を備える。第1強度推定リストLS1には、同一の物体について、予め設定された上限値以下の推定検出距離が登録される。本実施形態では、上限値は1である。第2強度推定リストLS2には、同一の物体について、上限値を超えて推定検出距離が登録される。
【0092】
第1強度推定リストLS1により、1台の有効車両のみの推定検出距離が登録されるのを抑制することができる。これにより、車両用障害物認識装置1は、1台の車両でレーダ装置20の検出性能の低下を判定してしまう事態の発生を抑制することができる。例えば、自車両が追従している先行車両が汚れている場合には、レーダ装置20の検出性能が低下していないにも関わらず、レーダ装置20の検出性能が低下していると判定されてしまう恐れがある。
【0093】
電子制御装置10は、第2強度推定リストLS2により、1台の有効車両における複数の推定検出距離に基づいて、レーダ装置20の検出性能の低下を判定することができる。これにより、車両用障害物認識装置1は、例えば、自車両が先行車両に追従している途中でこの先行車両に変化が生じて検出性能が回復した場合に、検出性能の回復に応じて検出性能の低下を判定することができる。
【0094】
以上説明した実施形態において、車両用障害物認識装置1は距離検出装置に相当し、レーダ装置20は距離検出部に相当し、S110は検出距離推定部としての処理に相当し、S420は見失い距離推定部としての処理に相当し、S50は性能判定部としての処理にする。
【0095】
また、S120はオクルージョン判定部に相当し、S130は路側物判定部に相当し、S140は虚像判定部としての処理に相当し、S150はオクルージョン除外部、路側物除外部および虚像除外部としての処理に相当する。
【0096】
また、S180は検出距離登録部としての処理に相当し、S30は検出距離リフレッシュ部としての処理に相当し、S190は見失い距離登録部としての処理に相当し、S40は見失い距離リフレッシュ部としての処理に相当する。
【0097】
また、S60は出力部としての処理に相当し、第1強度推定リストLS1は第1推定リストに相当し、第2強度推定リストLS2は第2推定リストに相当する。
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、種々変形して実施することができる。
【0098】
[変形例1]
例えば上記実施形態では、ピーク強度を用いる形態を示したが、パルス発光の場合には、ピーク強度が高いとパルス幅も広がるため、ピーク強度の代わりにパルス幅を用いてもよい。
【0099】
本開示に記載の電子制御装置10およびその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の電子制御装置10およびその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の電子制御装置10およびその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。電子制御装置10に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0100】
上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加または置換してもよい。
【0101】
上述した車両用障害物認識装置1の他、当該車両用障害物認識装置1を構成要素とするシステム、当該車両用障害物認識装置1としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実体的記録媒体、距離検出方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0102】
1…車両用障害物認識装置、10…電子制御装置、20…レーダ装置