(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】噴射制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/36 20060101AFI20240123BHJP
F02D 41/40 20060101ALI20240123BHJP
F02M 65/00 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
F02D41/36
F02D41/40
F02M65/00 306D
(21)【出願番号】P 2020128237
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】深谷 亮
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 洋平
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-044473(JP,A)
【文献】特開2019-183650(JP,A)
【文献】特開2007-037260(JP,A)
【文献】特開2002-189539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 - 45/00
G06F 1/00
B60W 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射弁を電流駆動することで内燃機関に燃料を噴射制御する噴射制御装置であって、
前記燃料噴射弁を駆動したときに生じる電圧の時間変化をサンプルデータとして取得する取得部(15f)と、
前記電圧のサンプルデータからばらつき度合を演算することで前記燃料噴射弁から燃料の噴射を停止させる閉弁タイミングを求める演算部(15h)と、
前記ばらつき度合の演算を変更する変更部(15g)と、
を備え
、
前記変更部は、前記燃料噴射弁を駆動する駆動パラメータとしての要求噴射量が所定噴射量より多いことを条件として、前記ばらつき度合の演算を変更することで前記閉弁タイミングの高精度検出処理を停止する噴射制御装置。
【請求項2】
燃料噴射弁を電流駆動することで内燃機関に燃料を噴射制御する噴射制御装置であって、
前記燃料噴射弁を駆動したときに生じる電圧の時間変化をサンプルデータとして取得する取得部(15f)と、
前記電圧のサンプルデータからばらつき度合を演算することで前記燃料噴射弁から燃料の噴射を停止させる閉弁タイミングを求める演算部(15h)と、
前記ばらつき度合の演算を変更する変更部(15g)と、
を備え
、
前記変更部は、前記内燃機関の状態に関するパラメータとして、水温センサにより検出される冷却水温が所定の水温値よりも高くなったことを条件として、前記ばらつき度合の演算を変更することで前記閉弁タイミングの高精度検出処理を停止する噴射制御装置。
【請求項3】
前記変更部は、
前記条件を満たしたときに前記ばらつき度合の演算に用いる前記電圧のサンプルデータの周期を変更する
請求項1又は2記載の噴射制御装置。
【請求項4】
前記変更部は、
前記条件を満たしたときに前記ばらつき度合の演算に用いる前記電圧のサンプルデータの数を変更する
請求項1又は2記載の噴射制御装置。
【請求項5】
前記変更部は、
前記条件を満たしたときに前記ばらつき度合の演算に用いる演算式を変更する
請求項1又は2記載の噴射制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射弁を開弁・閉弁制御する噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
噴射制御装置は、燃料噴射弁を開弁・閉弁することで燃料を内燃機関に噴射する。従来、一般の燃料噴射弁は、燃料の噴射孔を有する噴射弁本体に弁体を離着座させることで噴射孔を開閉する。燃料噴射弁は、ソレノイドコイルを内蔵しており当該ソレノイドコイルを電気的に駆動することで弁体の位置を制御する。
【0003】
噴射制御装置は、ソレノイドコイルへ通電を開始又は停止すると、弁体はこれらの通電開始時刻又は通電停止時刻から遅れて動作する。したがって、噴射量を精度良く調整するためには、これらの遅延時間を加味して通電時間を調整することが求められる。遅延時間は、燃料噴射弁の使用環境、経年劣化及び個体ばらつき、燃料噴射弁を駆動する駆動回路等の構成素子パラメータのPVTばらつきなどの影響により変化することから、弁体の開弁タイミング及び閉弁タイミングは前述の様々な環境変化に基づいて変化する。このため、これらのタイミングを推定する技術が提供されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1記載の技術によれば、所定の基準タイミングを基準に設定されるサンプリング期間に、電磁コイルの電圧値及び電流値の少なくとも一方を、所定時間間隔でサンプル値として取得し、サンプル値のばらつき度合を演算することに基づいて、開弁、閉弁の開始又は完了タイミングを推定している。具体的には、複数のサンプル値の分散をばらつき度合として演算したり、複数のサンプル値の平均値と各々のサンプル値との偏差を演算し、各々の偏差の二乗を加算した値をサンプル数で除算してばらつき度合を演算したりしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の技術を適用し、閉弁タイミングを高精度に検出するためには、サンプルデータの数を多くする必要があるが、この場合、演算処理が高負荷となる場合がある。
【0007】
本発明の目的は、状況に応じて閉弁タイミングの検出精度を変更できるようにした噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明によれば、燃料噴射弁を電流駆動することで内燃機関に燃料を噴射制御する噴射制御装置を対象としている。取得部は、燃料噴射弁を駆動したときに生じる電圧の時間変化をサンプルデータとして取得し、演算部は電圧のサンプルデータからばらつき度合を演算することで燃料噴射弁から燃料の噴射を停止させる閉弁タイミングを求める。変更部は、燃料噴射弁を駆動する駆動パラメータとしての要求噴射量が所定噴射量より多いことを条件として、ばらつき度合の演算を変更することで前記閉弁タイミングの高精度検出処理を停止するようにしているため、状況に応じて閉弁タイミングの検出精度を変更できるようになる。
また、請求項2記載の発明によれば、変更部は、内燃機関の状態に関するパラメータとして、水温センサにより検出される冷却水温が所定の水温値よりも高くなったことを条件として、ばらつき度合の演算を変更することで前記閉弁タイミングの高精度検出処理を停止するようにしているため、状況に応じて閉弁タイミングの検出精度を変更できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態における噴射制御装置の電気的構成図
【
図2】燃料噴射弁の内部構造を模式的に示す縦断側面図
【
図6】通電オフした後にソレノイドコイルに生じる電圧変化を模式的に示す図
【
図7】分散値及び分散値の変化量の時間変化を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、噴射制御装置の幾つかの実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、電子制御装置1(ECU:Electronic Control Unit)は、例えば自動車などの車両に搭載された内燃機関に直接燃料を噴射供給するソレノイド式の燃料噴射弁2を駆動する噴射制御装置として構成される。燃料噴射弁2はインジェクタとも称される。以下では、ガソリンエンジン制御用の電子制御装置1に適用した形態を説明するが、ディーゼルエンジン制御用の電子制御装置に適用しても良い。
図1には、4気筒分の燃料噴射弁2を図示しているが、3気筒、6気筒、8気筒でも適用できる。
【0011】
燃料噴射弁2は、
図2に示したように、ボディ3の中にソレノイドコイル4、弁体5、固定コア6、及び可動コア7を収容して構成されている。弁体5は、全体が円筒形状に構成されると共に先端側が円錐形状に構成され、ボディ3の内部で軸方向に往動可能に収容されている。ボディ3は、弁体5の先端側に燃料の噴射孔3aを設けている。
【0012】
ボディ3には固定コア6が固定されている。固定コア6は、磁性材料により円筒形状に構成され、固定コア6の円筒内部には燃料通路が構成されている。ボディ3の内部で且つ弁体5の周囲には可動コア7が設けられている。可動コア7は、金属製の磁性材料を用いて円盤形状に構成され、固定コア6よりも噴射孔3aの側に設けられている。
【0013】
可動コア7は、ソレノイドコイル4の内側に位置して軸方向に往動可能に配置されている。ソレノイドコイル4の非通電時には、固定コア6との間で所定の隙間を存するように固定コア6に対向配置されている。可動コア7の内側には貫通孔が構成されており、この貫通孔に弁体5が挿入配置されており、可動コア7は、弁体5の係止部5aに接触している。係止部5aは弁体5に固定されると共に、可動コア7と固定コア6との間に構成され、可動コア7が固定コア6側に動作すると係止部5aを介して弁体5が連動する。
【0014】
固定コア6の内側で且つ弁体5の周囲には、第1ばね8が巻回されている。第1ばね8は、弁体5を噴射孔3aの側に弾性力を与えるように配置されている。また、第2ばね9が、可動コア7の噴射孔3aの側に位置してボディ3に固定されており、ソレノイドコイル4の非通電時には可動コア7を初期位置に保持する。
【0015】
ソレノイドコイル4に通電が開始されると、可動コア7が第2ばね9の弾性力に逆らって固定コア6に引き付けられる。可動コア7が動作すると、係止部5aを介して弁体5が軸方向に動作する。すると、可動コア7は固定コア6に当接する。可動コア7が固定コア6に当接した状態であっても、弁体5の係止部5aが可動コア7から離間して軸方向に動作することで弁体5が可動コア7に対して相対移動する。燃料噴射弁2は、弁体5が動作することで当該弁体5の先端側がボディ3の噴射孔3aを開放させ、内燃機関の燃焼室に燃料を噴射する。
【0016】
ソレノイドコイル4への通電が停止されると、第1ばね8及び第2ばね9の弾性力により可動コア7が初期位置に戻される。このため、弁体5の先端側がボディ3の噴射孔3aを閉塞することで燃料噴射を停止し、燃料噴射弁2は閉弁する。
【0017】
次に、電子制御装置1の電気的構成を説明する。
図1に例示したように、電子制御装置1は、昇圧回路13、マイクロコンピュータ14(以下、マイコン14と略す)、制御IC15、及び駆動回路16としての電気的構成を備える。マイコン14は、1又は複数のコア14a、ROM、RAMなどのメモリ14b、A/D変換器などの周辺回路14cを備えて構成され、メモリ14bに記憶されたアプリケーションプログラム、及び、各種のセンサ18から取得されるセンサ信号Sに基づいて各種制御を並行して行い、燃料噴射弁2を電流駆動することで内燃機関の燃焼室に燃料を噴射制御する。
【0018】
例えば、ガソリンエンジン用のセンサ18は、クランク軸が所定角回転するごとにパルス信号を出力するクランク角センサ、燃料噴射時の燃料圧力を検出する燃圧センサ、スロットル開度を検出するスロットル開度センサ、吸気量を検出する吸気量センサ、冷却水温を検出する水温センサ18a、内燃機関の排気の空燃比すなわちA/F値を検出するA/Fセンサ18b、吸気の温度を検出する吸気温センサ18cなどである。
図1にはセンサ18を模式的に示した。
【0019】
マイコン14は、クランク角センサのパルス信号により内燃機関の回転数を算出すると共に、スロットル開度信号からスロットル開度を取得する。マイコン14は、スロットル開度、油圧やA/F値に基づいて、内燃機関に要求される目標トルクを算出し、この目標トルクに基づいて目標となる要求噴射量を算出する。
【0020】
またマイコン14は、この目標となる要求噴射量、及び、燃圧センサにより検出される燃料圧力に基づいて通電指令時間Tiを算出し、噴射指令信号TQを生成する。マイコン14は、前述した各種のセンサ18から入力されるセンサ信号Sに基づいて各気筒#1~#4に対する噴射開始指示時刻を算出し、この噴射開始指示時刻において噴射指令信号TQを制御IC15に出力する。
【0021】
制御IC15は、例えばASICによる集積回路装置であり、図示していないが、例えばロジック回路、CPUなどによる制御主体と、RAM、ROM、EEPROMなどのメモリ15e、コンパレータを用いた比較器などを備え、ハードウェア及びソフトウェアに基づいて各種制御を実行するように構成される。制御IC15は、昇圧制御部15a、通電制御部15b、電流モニタ部15c、及び電圧モニタ部15dとしての機能を備える。
【0022】
昇圧回路13は、
図3に例示したように、インダクタL1、スイッチング素子M1、ダイオードD1、電流検出抵抗R1、及び充電コンデンサ13aを図示形態に接続した昇圧型のDCDCコンバータにより構成される。昇圧回路13は、バッテリ電圧VBを入力して昇圧動作し、充電部としての充電コンデンサ13aに昇圧電圧Vboostを充電させる。
【0023】
昇圧制御部15aは、昇圧制御パルスをスイッチング素子M1に印加することで、昇圧回路13に入力されたバッテリ電圧VBを昇圧制御する。昇圧制御部15aは、昇圧回路13の充電コンデンサ13aの昇圧電圧Vboostを電圧検出部15aaにより検出し満充電電圧まで充電させ駆動回路16に供給する。
【0024】
駆動回路16は、バッテリ電圧VB及び昇圧電圧Vboostを入力して動作する。駆動回路16は、制御IC15の通電制御部15bの通電制御に基づいて、ソレノイドコイル4に電圧を印加することで、燃料噴射弁2から各気筒#1~#4へ燃料を直接噴射する。
図4に例示したように、駆動回路16は、ソレノイドコイル4の上流に接続される上流回路16a、16b、ソレノイドコイル4の下流に接続される下流回路16c、及び電流検出部16eを備える。
【0025】
2気筒分のソレノイドコイル4の上流側はノードN1で共通接続されており、他の2気筒分のソレノイドコイル4の上流側はノードN2で共通接続されている。上流回路16a、16bは、それぞれノードN1、N2に通電可能に接続されており、それぞれ2気筒分の燃料噴射弁2に電圧を印加可能に接続されている。上流回路16a、16bは互いに同一構成である。ここでは、上流回路16aの構成を説明し、上流回路16bの構成説明を省略する。
【0026】
昇圧電圧Vboostの供給ノードとノードN1との間には、MOSFET_M2のドレインソース間が接続されている。MOSFET_M2のソースにはブースト回路BTが接続されており、ブースト回路BTにより昇圧電圧Vboostの供給能力を向上できる。バッテリ電圧VBの供給ノードとノードN1との間には、MOSFET_M3のドレインソース間、ダイオードD2のアノードカソード間が接続されている。ダイオードD2は、昇圧電圧Vboostの逆流防止用に設けられている。
【0027】
これにより、通電制御部15bが、MOSFET_M2をオンすれば昇圧電圧VboostについてノードN1を通じて2気筒分の燃料噴射弁2のソレノイドコイル4に印加できる。また通電制御部15bが、MOSFET_M3をオンすればバッテリ電圧VBをノードN1を通じて2気筒分の燃料噴射弁2のソレノイドコイル4に印加できる。グランドとノードN1との間には還流ダイオードD3が接続されている。
【0028】
他方、下流回路6cは、燃料噴射する気筒#1~#4を選択するための気筒選択スイッチによるもので、MOSFET_M4により構成される。通電制御部15bは、1又は2のMOSFET_M4を所望のタイミングでオンすることで所望のソレノイドコイル4に通電できる。ソレノイドコイル4の下流側と昇圧電圧Vboostの供給ノードとの間には回生回路16dが構成されている。回生回路16dは、ダイオードD4により構成され、MOSFET_M2~M4をオフしたときに、ソレノイドコイル4に蓄積した余剰電力を充電コンデンサ13aに回生できる。
【0029】
電流検出部16eは、ソレノイドコイル4から下流回路6cを通じて流れる電流を検出する電流検出抵抗R2により構成され、MOSFET_M4のソースとグランドとの間に直列接続して構成される。制御IC15の電流モニタ部15cは、図示しないが、例えばコンパレータによる比較部及びA/D変換器等を用いて構成され、燃料噴射弁2のソレノイドコイル4に流れる電流について電流検出部16eを通じてモニタする。
【0030】
制御IC15の電圧モニタ部15dは、図示しないA/D変換器を用いて構成され、ソレノイドコイル4の下流側の端子電圧をサンプリングし、メモリ15eにサンプリングデータを記憶させる。ソレノイドコイル4の上流側の端子電圧もサンプリングしてメモリ15eに記憶させても良い。
【0031】
通電制御部15bが、燃料噴射弁2からパーシャルリフト噴射させる場合には、通電制御部15bは噴射対象となる気筒#1~#4のMOSFET_M4をオンすると共にMOSFET_M2をオンすることで昇圧電圧Vboostを燃料噴射弁2のソレノイドコイル4に印加し、弁体5が完全にリフト完了するまでにMOSFET_M2、M4をオフすることで弁体5を閉塞させる処理を実行する。
【0032】
燃料噴射弁2からフルリフト噴射する場合には、通電制御部15bは、駆動回路16を通じて噴射対象となる気筒#1~#4のMOSFET_M4をオンすると共にMOSFET_M2をオンすることで昇圧電圧Vboostをソレノイドコイル4に印加した後、MOSFET_M2をオフしてからMOSFET_M3をオン・オフすることでバッテリ電圧VBを印加して定電流制御し通電指令時間Tiを経過したときにMOSFET_M3、M4をオフすることで通電停止する。これにより、フルリフト噴射時には、弁体5が完全にリフト完了してから弁体5を閉塞させる処理を実行する。
【0033】
駆動回路16が、制御IC15の通電制御部15bの通電制御に基づいてソレノイドコイル4に通電後に当該通電電流を遮断すると、ソレノイドコイル4にはフライバック電圧を生じる。またソレノイドコイル4の電流が遮断されると、弁体5及び可動コア7が閉弁方向に変位するため、弁体5及び可動コア7の変位に基づく誘導起電力がソレノイドコイル4に生じる。したがって、ソレノイドコイル4にはフライバック電圧と誘導起電圧とが重畳するように生じる。電圧モニタ部15dは、このソレノイドコイル4に生じる電圧をサンプリングしたサンプリング結果をメモリ15eに記憶させることになる。
【0034】
制御IC15は、弁体5の動作に基づく噴射孔3aの開弁タイミング及び閉弁タイミングを推定する機能を備える。また
図5に示したように、制御IC5は、取得部15f、変更部15g、演算部15hとしての機能を備える。取得部15fは、燃料噴射弁2を駆動したときに生じる電圧を、メモリ15eに記憶されたサンプリングデータの中から閉弁タイミングの算出処理に用いるサンプルデータを取得する機能を示す。演算部15hは、取得部15fにより取得された電圧のサンプルデータから分散値を演算することで燃料噴射弁2から燃料の噴射を停止させる閉弁タイミングt2を求める機能である。
【0035】
変更部15gは、所定の条件を満たしたときにサンプルデータから算出される分散値の演算を変更する機能を示す。このとき制御IC15は、マイコン14から受信した各種情報に応じて、変更部15gにより分散値の演算を変更する機能である。
【0036】
本実施形態に係る特徴部分の動作を説明する。通常、マイコン14は、各種アプリケーションプログラムに係るタスクを並行して実行しており、当該マイコン14の演算処理負荷を演算したり、センサ18のセンサ信号Sに基づいて内燃機関の状態に関するパラメータや、燃料噴射弁2を駆動する駆動パラメータを求めたりしている。例えばマイコン14は、各種のセンサ18のセンサ信号Sに基づいて、内燃機関の暖気状態を判定したり、内燃機関の回転数が所定より高い高回転状態であるか否かを判定したりしている。
【0037】
マイコン14は、単発又は多段噴射するための噴射指令信号TQと共にこれらの各種情報を制御IC15に送信する。なお、マイコン14が、噴射指令信号TQと共に制御IC15に送信する情報は、センサ18のセンサ信号Sそのものであっても良いし、センサ18のセンサ信号Sに基づいて判定された判定結果、又は、その他の状態を表す信号であっても良い。
【0038】
図6は、マイコン14が制御IC15に噴射指令信号TQを出力して通電指令時間Tiを経過した後、MOSFET_M2~M4をオフすることに応じて電圧モニタ部15dにて検出されるソレノイドコイル4の下流側の端子電圧の変化を示している。電圧モニタ部15dは、通電終了タイミングt0の後の少なくともタイミングt1~t2(後述参照)を含む所定期間Taの間に、ソレノイドコイル4の下流側の端子電圧を所定のサンプリング間隔でサンプリングし、当該電圧のサンプリングデータをメモリ15eに記憶させる。
【0039】
通電指令時間Tiの経過後に、ソレノイドコイル4の通電電流が遮断されると、ソレノイドコイル4にはまずフライバック電圧を生じる。このときソレノイドコイル4の下流側の端子電圧は急激に上昇し、その後徐々にゼロまで低下する。フライバック電圧は、駆動回路16及びソレノイドコイル4の回路定数で決定される時定数に基づいて下に凸となる滑らかな曲線を描いて下降する。
【0040】
ソレノイドコイル4の下流側の端子電圧が、徐々にゼロまで下降する間に、通電終了タイミングt0からある遅延時間を経過したタイミングt1にて、弁体5と共に可動コア7が噴射孔3aを閉塞する方向に移動開始する。遅延時間は、燃料噴射弁2の内部構造、すなわち固定コア6及び可動コア7の相対位置や可動コア7の重さ、第1ばね8及び第2ばね9の弾性力等に基づいて決定される時間である。
【0041】
弁体5及び可動コア7が移動開始すると、ソレノイドコイル4には弁体5及び可動コア7の移動に基づく誘導起電力を生じることから、ソレノイドコイル4の下流側の端子電圧はタイミングt1~に示したように前述の下に凸の下降曲線よりも上昇する。弁体5が噴射孔3aを閉塞する閉弁タイミングt2では可動コア7の移動速度は最大となるが、弁体5が着座して噴射孔3aを閉塞するため可動コア7は急減速する。このとき、ソレノイドコイル4に生じていた誘導起電力も急速変化するため、端子電圧には変曲点が現れる。この後、可動コア7は、弁体5の係止部5aから離間して噴射孔3a側に移動するため、閉弁タイミングt2よりも後のタイミング、例えばt3まで誘導起電圧は生じ続ける。
【0042】
前述したように、電圧モニタ部15dは、少なくともタイミングt1~t2を含む所定期間Taの間、所定のサンプリング間隔でサンプリングデータをメモリ15eに保持させる。これにより、当該サンプリングデータを閉弁タイミングt2の解析処理に活用できる。
【0043】
例えば、サンプリングデータを時間微分することでソレノイドコイル4の端子電圧の変曲点を算出することもできるが、この微分法を用いると、特にサンプリングデータを多くするほど、サンプリングデータのなまし効果が大きくなることで、微分値の変化量のQ値が低下し、S/Nが悪化することが判明している。
【0044】
そこで、
図7に示したように、時間変化するサンプリングデータのばらつき度合を表す分散値を演算することで、端子電圧の変曲点を求めて閉弁タイミングt2を算出すると良い。サンプルデータの分散値の変化量を算出し、この変化量がゼロクロスするタイミングを閉弁タイミングt2と特定すると良い。
【0045】
分散法を適用して閉弁タイミングt2を求めることで、
図7に示すように、サンプリングデータの数を多くすればするほど、分散値の変化量が大きく変化するため、当該変化量のゼロクロスタイミングも良好に把握でき、S/Nを良好にできることが判明している。
【0046】
フルリフト噴射においても誘導起電力の変化により生じる電圧の変化量は微小である。特にパーシャルリフト噴射の場合には、閉弁動作開始時のリフト量が小さいことに起因して着座時点での可動コア7の移動速度変化が小さくなり、誘導起電圧の変化量は特に小さくなる。このような場合でも、分散法を適用しながらサンプルデータの数Nを増やすことで閉弁タイミングt2を高精度に推定できる。
【0047】
前述したように、分散法を用いることでS/Nを良好しながら閉弁タイミングt2を高精度に検出できるものの、閉弁タイミングt2の高精度検出処理は、制御IC15による演算処理負荷が大きくなる。そこで、マイコン14又は制御IC15が取得する各種情報に応じて、制御IC15が、ばらつき度合の演算を変更して閉弁タイミングt2の高精度検出処理を停止すると良い。
【0048】
例えば、電子制御装置1の演算処理負荷を所定の第1閾値と比較した結果が所定の条件を満たしたときに、ばらつき度合の演算を変更すると良い。このばらつき度合の詳細な演算変更方法は後述する。例えばマイコン14による演算処理負荷率が所定負荷率(第1閾値相当)より大きければ、制御IC15は演算処理負荷を低減させるように、ばらつき度合の演算を変更すると良い。また、マイコン14が閉弁タイミングt2の高精度検出処理よりも優先すべき処理が存在すると判定したときには、閉弁タイミングt2の高精度検出処理を停止しても良い。
【0049】
また、燃料噴射弁2を駆動する駆動パラメータを所定の第2閾値と比較した結果が所定の条件を満たしたときに、制御IC15が分散値の演算を変更しても良い。例えば、マイコン14により算出された要求噴射量が所定噴射量(第2閾値相当)より多い場合、制御IC15は分散値の演算を変更して閉弁タイミングt2の高精度検出処理を停止しても良い。
【0050】
特に、パーシャルリフト噴射における要求噴射量が比較的多い場合には、目標噴射量からずれても目標A/F値に対する影響が小さくなる。したがって、要求噴射量が多くなれば閉弁タイミングt2の高精度検出処理を停止しても悪影響を生じることはない。
【0051】
また、マイコン14又は制御IC15が、噴射指令信号TQを参照し燃料噴射弁2への通電指令時間Tiが所定時間(第2閾値相当)より長いと判定した場合には、閉弁タイミングt2の高精度検出処理を停止しても良い。通電指令時間Tiが比較的長ければ前述同様に悪影響を生じることがなくなるためである。
【0052】
また、メイン噴射の前又は後に他の噴射を連続して実行する多段噴射に適用する場合には、複数段の合計要求噴射量を所定噴射量(第2閾値相当)と比較することに応じて閉弁タイミングt2の高精度検出の要否を判定すると良い。このとき、合計要求噴射量が所定噴射量よりも多いことを条件として、閉弁タイミングt2の高精度検出処理を停止すると良い。
【0053】
また、燃料を多段噴射する場合、1回の多段噴射当たりの噴射回数を所定回数(第2閾値相当)と比較することに応じて閉弁タイミングt2の高精度検出処理の要否を判定しても良い。このとき、1回の多段噴射当たりの噴射回数が所定回数より少ないことを条件として、閉弁タイミングt2の高精度検出処理を停止すると良い。これは、多段噴射の噴射回数が嵩むことによるずれの累積を回避することで、A/F値が大幅に目標A/F値からずれることを防止できるためである。
【0054】
また、内燃機関の状態に関するパラメータを所定の第3閾値と比較した結果が所定の条件を満たしたときに、制御IC15がばらつき度合の演算を変更しても良い。例えば、水温センサ18aにより検出される冷却水温が所定の水温値(第3閾値相当)よりも高くなったことを条件として閉弁タイミングt2の高精度検出処理を停止すると良い。
【0055】
内燃機関が暖気した後は燃料が霧化しやすくなるため、たとえ閉弁タイミングt2の判定が多少早くなることで、A/F値がリーンに移行する傾向が強くなったとしても失火することなく確実に着火できるためである。
【0056】
また、内燃機関の回転数が所定回転数(第3閾値相当)よりも高くなったことを条件として閉弁タイミングt2の高精度検出処理を停止しても良い。また、吸気温センサ18cによる吸気温が所定温度(第3閾値相当)より高くなったことを条件として閉弁タイミングt2の高精度検出処理を停止しても良い。また、内燃機関が始動された時点からの経過時間をタイマにより計測し、時間経過時間が所定時間(第3閾値相当)より長くなったことを条件として閉弁タイミングt2の高精度検出処理を停止しても良い。これらも前述と同様の理由により、閉弁タイミングt2を高精度に検出する必要がなくなるためである。
【0057】
以下、ばらつき度合の演算の変更方法を説明する。通常、ばらつき度合を表す分散値は、下記の(1)式のVar[Xn]のように表現できる。
【数1】
【0058】
この(1)式において、Xnが電圧のサンプルデータ、Nはサンプルデータの数、mは測定範囲内における平均値を表す。ばらつき度合の演算を変更する方法は、ばらつき度合の演算に用いるサンプルデータの周期Tsを変更する方法、ばらつき度合の演算に用いる演算式(1)式自体を変更する方法、又は、ばらつき度合の演算に用いる電圧のサンプルデータの数Nを変更する方法、などがある。
【0059】
例えば
図8に示すように、取得部15fにより取得されるサンプルデータの周期をTsとしているときに、制御IC15は、サンプルデータの周期をその2倍の2・Tsにすることで、1噴射あたりに行われる演算回数を減らすことができる。これにより、ばらつき度合の演算処理負荷を低減できる。
【0060】
また、制御IC15は、ばらつき度合を演算するための電圧のサンプルデータの数Nを減少させることで演算回数を低減でき、ばらつき度合の演算処理負荷を低減できる。
【0061】
また、(1)式の演算式を(2)式のように変更することで、ばらつき度合の演算処理負荷を低減しても良い。
【数2】
この(2)式では、期待値の二乗を求めるように変更しており、サンプルデータから平均値を減算して絶対値を取得し全て加算した後に二乗している。これにより、乗算回数を減らすことができ演算処理負荷を低減できる。このように変更することで、高精度検出処理を停止しつつも閉弁タイミングt2を検出できる。
【0062】
以上説明したように、本実施形態によれば、制御IC15は、燃料噴射弁2を駆動したときに生じる電圧の時間変化をサンプルデータとして取得し、電圧のサンプルデータからばらつき度合を演算することで燃料噴射弁2から燃料の噴射を停止させる閉弁タイミングt2を求めるように構成していると共に、所定の条件を満たしたときにばらつき度合の演算を変更するようにしている。これにより、状況に応じて閉弁タイミングt2の検出精度を変更できる。
【0063】
特に、演算処理負荷を所定の第1閾値と比較、燃料噴射弁2の駆動パラメータを所定の第2閾値と比較、又は、内燃機関の状態に関するパラメータを所定の第3閾値と比較した結果に応じて、ばらつき度合の演算に用いるサンプルデータの数N、ばらつき度合を演算する周期Ts、又は、ばらつき度合の演算式を変化させている。これにより、状況に応じて閉弁タイミングt2の検出精度を変更できる。また演算処理負荷を低減できる。
【0064】
(他の実施形態)
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々変形して実施することができ、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。例えば以下に示す変形又は拡張が可能である。
【0065】
マイコン14と制御IC15が別体の集積回路により構成されている形態を適用して説明したが、一体に構成しても良い。一体に構成する場合には、高速処理装置を用いて構成すると良い。前述した実施形態では、内燃機関の燃焼室の中に直接噴射する筒内噴射に適用したが、これに限定されることはなく、周知の吸気バルブの手前で燃料を噴射するポート噴射に適用しても良い。本形態は、燃料噴射弁2を電流駆動していればよいものであり、内燃機関の燃焼室の中に直接噴射する筒内噴射に限定されることはない。前述の説明では、説明を理解しやすくするため、燃料噴射弁2のボディ3を一部材により構成した形態により説明したが、これに限られるものではない。
【0066】
前述実施形態では、閉弁タイミングt2を検出するため、ソレノイドコイル4の下流側の端子電圧を取得する形態を示したが、取得する電圧ノードはソレノイドコイル4の下流側に限られない。また、駆動回路16の回路構成は、前述した構成に限られるものではない。
【0067】
前述実施形態では、主に、ばらつき度合の演算を変更することで閉弁タイミングt2の高精度検出処理を停止する形態を示したが、特に暖気運転する場合には閉弁タイミングt2の高精度検出を必要とするため、ばらつき度合の演算を標準的な検出処理から高精度検出処理に変更する形態に適用しても良い。
【0068】
マイコン14、制御IC15による制御装置が提供する手段及び/又は機能は、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェア及びそれを実行するコンピュータ、ソフトウェア、ハードウェア、あるいはそれらの組み合わせによって提供することができる。例えば、制御装置がハードウェアである電子回路により提供される場合、1又は複数の論理回路を含むデジタル回路、又は、アナログ回路により構成できる。また、例えば制御装置がソフトウェアにより各種制御を実行する場合には、記憶部にはプログラムが記憶されており、制御主体がこのプログラムを実行することで当該プログラムに対応する方法を実施する。
【0069】
また、特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、本発明の一つの態様として前述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。前述実施形態の一部を、課題を解決できる限りにおいて省略した態様も実施形態と見做すことが可能である。また、特許請求の範囲に記載した文言によって特定される発明の本質を逸脱しない限度において、考え得るあらゆる態様も実施形態と見做すことが可能である。
【0070】
本開示は、前述した実施形態に準拠して記述したが、本開示は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本発明の範畴や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0071】
図面中、1は電子制御装置(噴射制御装置)、2は燃料噴射弁、15fは取得部、15hは演算部、15gは変更部、を示す。