(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】ステアリング制御装置
(51)【国際特許分類】
B60R 25/0215 20130101AFI20240123BHJP
H02P 25/22 20060101ALI20240123BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
B60R25/0215
H02P25/22
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2020131947
(22)【出願日】2020-08-03
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇志
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-273142(JP,A)
【文献】特開2006-306141(JP,A)
【文献】特開2009-113756(JP,A)
【文献】米国特許第6889792(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 25/0215
H02P 25/22
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバのステアリング操舵を電気的にアシストする操舵アシストアクチュエータ(800)に通電する電力変換回路である第1の回路(68、681、682)と、
ステアリング(91)の回転を機械的に規制するロック装置(20)を、ロック動作又はロック解除動作させるように駆動するロックアクチュエータ(710)に通電する電力変換回路である第2の回路(67)と、
前記第1の回路及び前記第2の回路を操作し、前記操舵アシストアクチュエータ及び前記ロックアクチュエータの動作を制御する制御部(30)と、
を備えるステアリング制御装置であって、
前記第1の回路及び前記第2の回路は同一の筐体(600)内に設けられており、前記第1の回路及び前記第2の回路において直列接続された一組の高電位側及び低電位側スイッチング素子をレッグとすると、前記第1の回路及び前記第2の回路は、一つのレッグを共有する統合電力変換回路(60)をなしており、
前記制御部は、前記ステアリングの回転により前記ロック装置のロック動作又はロック解除動作を支援するように、前記操舵アシストアクチュエータ及び前記ロックアクチュエータを同時に動作させるステアリング制御装置。
【請求項2】
前記操舵アシストアクチュエータ及び前記ロックアクチュエータはモータであり、
前記制御部は、前記操舵アシストアクチュエータ及び前記ロックアクチュエータに電圧を印加し、電流を通電する請求項1に記載のステアリング制御装置。
【請求項3】
前記ロック装置は、
前記ロックアクチュエータにより往復移動するロックロッド(23)と、
径方向に相対的に突出した一つ以上の凸部(27)、及び、径方向に相対的に凹んだ一つ以上の凹部(28)が周方向に配置され、ステアリングに追従して回転する被係止体(25)と、を有し、
前記制御部は、
前記ロック装置をロック動作させるとき、前記ロックロッドを前進させて前記被係止体の隣接する前記凸部同士の間もしくは前記凹部に嵌入させ、
前記ロック装置をロック解除動作させるとき、前記被係止体の隣接する前記凸部同士の間もしくは前記凹部に嵌入した状態から前記ロックロッドを後退させる請求項1または2に記載のステアリング制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記ロック装置をロック動作させるとき、前記操舵アシストアクチュエータを正転方向及び逆転方向に揺動させ、
前記ロック装置をロック解除動作させるとき、前記被係止体が前記ロックロッドから離れる退避方向に前記操舵アシストアクチュエータを退避回転させる請求項3に記載のステアリング制御装置。
【請求項5】
前記被係止体は、複数の前記凸部及び複数の前記凹部が周方向に等間隔に配置された歯車スロットとして構成されており、
ロック動作時に前記制御部が前記操舵アシストアクチュエータを揺動させる範囲は、前記歯車スロットの歯車ピッチ以上の角度範囲に設定されている請求項4に記載のステアリング制御装置。
【請求項6】
前記操舵アシストアクチュエータは、一組以上の多相巻線組(801、802)に印加される多相交流電圧により回転し、トルクを出力する多相モータであり、
前記制御部は、
前記被係止体に作用するトルクについてのトルクセンサ値を用いたトルク制御、
前記多相モータの回転位置を制御する位置制御、
前記多相モータの回転速度を制御する速度制御、
前記多相モータのトルクに係る電流を制御する電流制御、又は、
前記多相巻線組に印加される多相交流電圧を指令する電圧制御、
のうちいずれかにより前記多相モータの動作を制御する請求項4または5に記載のステアリング制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記トルクセンサ値を用いたトルク制御を行うものであり、
前記ロック装置をロック解除動作させるとき、
前記制御部は、前記操舵アシストアクチュエータの回転方向について、前記被係止体が前記ロックロッドを押圧することによるトルクが減少する方向を前記退避方向として判定し、前記トルクセンサ値の絶対値がロック解除可能なトルク値の範囲に入るようにトルク制御を行って前記操舵アシストアクチュエータを退避回転させる請求項6に記載のステアリング制御装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記トルクセンサ値を用いたトルク制御、前記位置制御、前記速度制御、又は、前記電圧制御のうちいずれかを行うものであり、
前記多相巻線組への通電に係る電流指令の絶対値が電流制限値以下となるように制限する請求項6または7に記載のステアリング制御装置。
【請求項9】
前記操舵アシストアクチュエータ及び前記ロック装置は、ともにステアリングコラム(93)に配置される請求項1~8のいずれか一項に記載のステアリング制御装置。
【請求項10】
前記操舵アシストアクチュエータ及び前記ロック装置は、ともにステアリングラック(97)に配置される請求項1~8のいずれか一項に記載のステアリング制御装置。
【請求項11】
前記操舵アシストアクチュエータはステアリングラックに(97)に配置され、前記ロック装置はステアリングコラム(93)に配置される請求項1~8のいずれか一項に記載のステアリング制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動パワーステアリング装置(EPS)や、駐車時の盗難防止等のためのステアリングロック装置に関する制御装置が知られている。
【0003】
例えば特許文献1に開示された電動パワーステアリング装置は、ステアリングシャフトにかかっているトルクを検知し、シャフトからの荷重を低減するようEPSモータを駆動する。特許文献2に開示されたロック装置の制御方法は、EPSを用いてステアリングコラムを一定量自動回転させることで確実にロックを実現する。
【0004】
特許文献3に開示された車両用操舵装置は、EPS用三相モータと、チルトモータ、テレスコピックモータ及びロックモータの3台の直流モータとを含む。この車両用操舵装置は、三相モータと直流モータとで電力変換回路を共有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-108661号公報
【文献】特表2014-505626号公報
【文献】特許第5614588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本明細書では、EPSモータ、すなわち操舵アシストモータの上位概念の用語として、モータ以外の電気的アクチュエータを含む「操舵アシストアクチュエータ」を用いる。同様に、ステアリングロックモータの上位概念の用語として、モータ以外の電気的アクチュエータを含む「ロックアクチュエータ」を用いる。また、ステアリング制御装置が前提であるため、ステアリングロックアクチュエータを「ロックアクチュエータ」と省略する。
【0007】
特許文献1、2の装置ではEPSモータ及びロック装置のモータに対しそれぞれ電力変換回路が必要となるため、搭載スペースが増大する。これに対し特許文献3の装置は、三相モータと、ロック用の直流モータとで電力変換回路を共有することで、電力変換回路の小型化を図っている。
【0008】
しかし特許文献3の装置では、直流モータを駆動するタイミングとEPS用三相モータを駆動するタイミングとが異なる。つまりこの装置は、ロック用直流モータとEPS用三相モータとを同時に駆動することは想定していない。また回路構成からもロック用直流モータ及びEPS用三相モータへの通電を同時に制御することはできない。そのため、EPS用三相モータを用いてロック動作やロック解除動作が確実に行われるように支援することができない。
【0009】
本発明はこのような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、操舵アシストアクチュエータ及びロックアクチュエータの駆動を制御するステアリング制御装置において、電力変換回路を小型化しつつ、操舵アシストアクチュエータによりロック動作及びロック解除動作を支援可能なステアリング制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のステアリング制御装置は、第1の回路(68、681、682)と、第2の回路(67)と、制御部(30)とを備える。第1の回路は、ドライバのステアリング操舵を電気的にアシストする操舵アシストアクチュエータ(800)に通電する電力変換回路である。第2の回路は、ステアリング(91)の回転を機械的に規制するロック装置(20)を、ロック動作又はロック解除動作させるように駆動するロックアクチュエータ(710)に通電する電力変換回路である。制御部は、第1の回路及び第2の回路を操作し、操舵アシストアクチュエータ及びロックアクチュエータの動作を制御する。
【0011】
第1の回路及び第2の回路は同一の筐体(600)内に設けられている。第1の回路及び第2の回路において直列接続された一組の高電位側及び低電位側スイッチング素子をレッグとすると、第1の回路及び第2の回路は、一つのレッグを共有する「統合電力変換回路(60)」をなしている。制御部は、ステアリングの回転によりロック装置のロック動作又はロック解除動作を支援するように、操舵アシストアクチュエータ及びロックアクチュエータを同時に動作させる。
【0012】
本発明では、操舵アシストアクチュエータに通電する第1の回路、及び、ロックアクチュエータに通電する第2の回路は、一つのレッグを共有する統合電力変換回路をなしている。そのため、複数のモータを駆動対象とする電力変換回路を小型化することができる。
【0013】
また、本発明の回路トポロジーでは、統合電力変換回路は共通の制御部により操作され、操舵アシストアクチュエータ及びロックアクチュエータを同時に動作させることができる。したがって、ロック時に支障がある場合、例えば操舵アシストアクチュエータを揺動させることで、ロック動作を支援可能である。或いはロック解除時に支障がある場合、例えば操舵アシストアクチュエータを一方向に回転させることで、ロック解除動作を支援可能である。このように本発明では、電力変換回路の小型化とステアリングロック機構の円滑な動作とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態のステアリング制御装置が適用されるコラムタイプEPSシステムの図。
【
図5】一系統の三相モータを駆動する統合電力変換回路の回路構成図。
【
図6】二系統の三相モータを駆動する統合電力変換回路の回路構成図。
【
図11】(a)ロック時の課題を説明する図、(b)EPSモータの揺動によるロック動作の支援を説明する図。
【
図12】(a)ロック解除時の課題を説明する図、(b)EPSモータの退避回転によるロック解除動作の支援を説明する図。
【
図13】エンジン始動時のシーケンスを示すフローチャート。
【
図14】エンジン停止時のシーケンスを示すフローチャート。
【
図17】ロック解除時の動作タイムチャート(1)。
【
図18】ロック解除時の動作タイムチャート(2)。
【
図19】第1実施形態(トルク制御)の制御アルゴリズムを示すブロック図。
【
図20】ロック解除時に退避方向を判定するための仮回転駆動の制御アルゴリズムを示すブロック図。
【
図21】二系統駆動構成でのトルク制御の制御アルゴリズムを示すブロック図。
【
図22】第2実施形態(位置制御)の制御アルゴリズムを示すブロック図。
【
図23】第3実施形態(速度制御)の制御アルゴリズムを示すブロック図。
【
図24】第4実施形態(電流制御)の制御アルゴリズムを示すブロック図。
【
図25】第5実施形態(電圧制御)の制御アルゴリズムを示すブロック図。
【
図26】
図2のラックタイプEPSシステムの変形例の図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のステアリング制御装置の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。各実施形態のステアリング制御装置は、車両の電動パワーステアリングシステム(以下「EPSシステム」)又はステアバイワイヤシステム(以下「SBWシステム」)に適用され、EPS-ECU又はSBW-ECUとして機能する。以下、EPS-ECU又はSBW-ECUをまとめて「ECU」と表す。また、後述の各実施形態を包括して「本実施形態」という。複数の実施形態において実質的に同一の構成には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0016】
[システム構成]
最初に
図1~
図3を参照し、「ステアリング制御装置」としてのECUが適用されるシステムの構成について説明する。
図1、
図2には、操舵機構と転舵機構とが機械的に接続されたEPSシステム901を示す。そのうち、
図1にはコラムタイプ、
図2にはラックタイプのEPSシステム901を示す。区別する場合、コラムタイプのEPSシステムの符号を901C、ラックタイプのEPSシステムの符号を901Rと記す。
図3には、操舵機構と転舵機構とが機械的に分離したSBWシステム902を示す。
図1~
図3において車輪99は片側のみを図示し、反対側の車輪の図示を省略する。
【0017】
EPSシステム901は「操舵アシストアクチュエータ」としてのEPSモータ800を備え、SBWシステム902は「操舵アシストアクチュエータ」としての反力モータ800を備える。本明細書では、SBWシステム902による反力付与を、EPSシステム901による操舵アシストと広義で同一の概念と解釈する。また、EPSシステム901及びSBWシステム902は共通に、「ロックアクチュエータ」としてのステアリングロックモータ(以下「ロックモータ」)710を備える。
【0018】
図1、
図2に示すように、EPSシステム901は、「ステアリング」としてのステアリングホイール91、ステアリングシャフト92、インターミディエイトシャフト95、ステアリングラック97等を含む。ステアリングシャフト92はステアリングコラム93に内包されており、一端にステアリングホイール91が接続され、他端にインターミディエイトシャフト95が接続されている。なお、ドライバが操舵する「ステアリング」は、輪状のステアリングホイール91以外の形状の操舵桿であってもよい。
【0019】
インターミディエイトシャフト95のステアリングホイール91と反対側の端部には、ラックアンドピニオン機構により回転を往復運動に変換して伝達するステアリングラック97が設けられている。ステアリングラック97が往復すると、タイロッド98及びナックルアーム985を介して車輪99が転舵される。また、インターミディエイトシャフト95の途中にはユニバーサルジョイント961、962が設けられている。
【0020】
EPSモータ800は、ドライバのステアリング操舵を電気的にアシストする。
図1に示すコラムタイプのEPSシステム901Cでは、EPSモータ800及びロック装置20は、ともにステアリングコラム93に配置される。EPSモータ800の出力トルクはステアリングシャフト92に伝達される。トルクセンサ94は、ステアリングシャフト92の途中に設けられ、トーションバーの捩れ変位に基づきトルクを検出し、トルクセンサ値T_snsを出力する。
【0021】
図2に示すラックタイプのEPSシステム901Rでは、EPSモータ800及びロック装置20は、ともにステアリングラック97に配置される。EPSモータ800の出力トルクによりステアリングラック97の往復運動がアシストされる。トルクセンサ94は、ステアリングラック97に伝達されるトルクを検出し、トルクセンサ値T_snsを出力する。
【0022】
トルクセンサ94が検出するトルクは、ドライバがステアリングホイール91に付与する操舵トルクに限らない。例えば特許文献1(特開2014-108661号公報)に記載されているように、車輪99が捩れた状態で駐車されると、車輪99は路面から捩れを小さくするように復元する力を受ける場合がある。この復元力がステアリングラック97やステアリングシャフト92に伝わり、駐車時にトルクセンサ94に検出される。駐車時におけるトルクセンサ値は、後述のように、ロック装置20のロック解除動作に利用される。
【0023】
ロック装置20は、トルクセンサ94よりもドライバ側、すなわちステアリングホイール91側に配置され、ステアリングの回転を機械的に規制する。ロックモータ710は、ロック装置20を、ロック動作又はロック解除動作させるように駆動する。ロック装置20がロック動作することで、駐車時における車両の盗難等が防止される。また、ドライバが車両の運転を開始するとき、ロック装置20がロック解除動作することで、ドライバはステアリング操舵が可能となる。
【0024】
ECU10は、車両スイッチ11のON/OFF信号に基づき、ロックモータ710にロック装置20のロック又はロック解除を指示する。なお、車両スイッチ11は、エンジン車、ハイブリッド車、電気自動車のイグニッションスイッチやプッシュスイッチに相当する。ECU10への各信号は、CANやシリアル通信等を用いて通信されるか、アナログ電圧信号で送られる。
【0025】
続いて
図3に示すように、操舵機構と転舵機構とが機械的に分離されたSBWシステム902では、EPSシステム901に対し、インターミディエイトシャフト95が存在しない。ドライバの操舵トルクあるいはステアリングホイール91の角度などのドライバ入力情報が、ECU10を経由して電気的に転舵モータ890に伝達される。転舵モータ890の回転は、ステアリングラック97の往復運動に変換され、タイロッド98及びナックルアーム985を介して車輪99が転舵される。なお、
図3には図示を省略するが、ドライバのステアリングホイール入力に対して転舵モータ890を駆動する転舵モータECUが存在する。
【0026】
また、SBWシステム902では、ドライバは操舵に対する反力を直接感知することができない。そこで、ECU10は、反力モータ800の駆動を制御し、操舵に対する反力を付与するようにステアリングホイール91を回転させ、ドライバに適切な操舵フィーリングを与える。SBWシステム902において、ロックモータ710は、
図1のコラムタイプEPSシステム901Cと同様に用いられる。以下、ECU10によるEPSモータ又は反力モータ800及びロックモータ710の説明において、EPSシステム901とSBWシステム902との違いは無い。そのため、代表としてEPSモータ800を記載し、反力モータ800の記載を省略する。
【0027】
本実施形態では、EPSモータ800は三相モータで構成されており、ロックモータ710は直流モータで構成されている。制御部30は、EPSモータ800及びロックモータ710に電圧を印加し、電流を通電する。「第1の回路」としての三相インバータ回路68は、EPSモータ800に通電する電力変換回路である。「第2の回路」としてのHブリッジ回路67は、ロックモータ710に通電する電力変換回路である。
【0028】
本実施形態において三相インバータ回路68及びHブリッジ回路67は、制御部30と共に同一の筐体600内に設けられている。さらに本実施形態では、EPSモータ800が「機電一体式」モータとして同一の筐体600内に設けられている。これにより、ECU10を小型化し、ハーネスやコネクタ等の配線部品を減らすことができる。また、詳しくは
図5、
図6を参照して後述するように、三相インバータ回路68及びHブリッジ回路67は、一つのレッグを共有する「統合電力変換回路60」をなしている。
図1~
図3において、三相インバータ回路68とHブリッジ回路67との枠が一部重なるように図示しているのは、二つの回路がレッグを共有することを意味している。
【0029】
制御部30は、マイコン、駆動回路等で構成され、図示しないCPU、ROM、RAM、I/O、及び、これらの構成を接続するバスライン等を備え、ROM等の実体的なメモリ装置(すなわち、読み出し可能非一時的有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理や、専用の電子回路によるハードウェア処理による制御を実行する。
【0030】
制御部30は、三相インバータ回路68、Hブリッジ回路67に対して共通に設けられており、EPSモータ800及びロックモータ710の動作を制御する。制御部30は、トルクセンサ94が検出したトルクセンサ値T_snsや車速センサ14が検出した車速Vに基づいて三相インバータ回路68を操作し、EPSモータ800の動作を制御する。EPSモータ800は、ドライバのステアリング操舵を電気的にアシストする。また制御部30は、Hブリッジ回路67を操作し、ロックモータ710の動作を制御する。
【0031】
次に
図4を参照し、コネクタ接続構成の一例を示す。本実施形態のEPSモータ800は、軸方向の一方側にECU10が一体に構成された「機電一体式」のブラシレス三相モータとして構成されている。一方、ロックモータ710として機能する各直流モータは、コネクタを介してECU10と接続されている。
【0032】
この接続構成では、パワー系コネクタ591、信号系コネクタ592及びトルクセンサ用コネクタ593が分かれて設けられている。パワー系コネクタ591には、直流電源からの電源線(PIG)及びグランド線が接続される。信号系コネクタ592には、制御用電源線(IG)、CAN通信線、認証信号、停止指令の信号線の他、ロックモータ710の配線が接続される。トルクセンサ用コネクタ593には、トルクセンサ94の電源線、信号線、グランド線がまとめて接続される。
【0033】
ロックモータ710にはモータ線(M+、M-)が接続される。なお、ロックモータ710のモータ線(M+、M-)はパワー系であるが、EPSモータ800に比べてモータ電流が小さいため、信号系コネクタ592に含めて接続可能である。ロックモータ710の電流が大きい場合は別のコネクタとするか、直流電源からの電源線(PIG)及びグランド線のパワー系コネクタ591と共通のコネクタとしてもよい。ロックモータ710の信号について、コネクタを分けてもよい。
【0034】
[統合電力変換回路の構成]
続いて
図5~
図7を参照し、統合電力変換回路の回路構成例について説明する。まず、三相インバータ回路68の駆動対象であるEPSモータ800に関し、三相巻線組と当該巻線組に対応する三相インバータ回路とを含む単位を「系統」という。
図5には一系統の回路構成例を示し、
図6には二系統の回路構成例を示す。
図7に示すように、二系統構成では、「第1の回路」68は二つの三相インバータ回路681、682からなる。
【0035】
一系統構成の三相巻線組は、U相、V相、W相の巻線811、812、813が中性点Nで接続されて構成されている。各相の巻線811、812、813には、三相インバータ回路68から電圧が印加される。各相には、回転数と位相のsin値との積に比例した逆起電圧が発生する。各相に発生する逆起電圧は、電圧振幅A、回転数ω、位相θに基づき、例えば式(1.1)~(1.3)により表される。
【0036】
Eu=-Aωsinθ ・・・(1.1)
Ev=-Aωsin(θ-120) ・・・(1.2)
Ew=-Aωsin(θ+120) ・・・(1.3)
【0037】
二系統構成のEPSモータ800は二組の三相巻線組801、802を有する。第1系統の三相巻線組801は、U1相、V1相、W1相の巻線811、812、813が中性点N1で接続されて構成されている。第1系統の三相巻線組801の各相の巻線811、812、813には、第1系統の三相インバータ回路681から電圧が印加される。
【0038】
第2系統の三相巻線組802は、U2相、V2相、W2相の巻線821、822、823が中性点N2で接続されて構成されている。第2系統の三相巻線組802の各相の巻線821、822、823には、第2系統の三相インバータ回路682から電圧が印加される。
【0039】
図7に示すように、二系統構成のEPSモータ800は、二組の三相巻線組801、802が同軸に設けられた二重巻線回転機をなしている。二組の三相巻線組801、802は電気的特性が同等であり、例えば共通のステータに、互いに電気角30[deg]ずらして配置されている。その場合、第1系統及び第2系統の各相に発生する逆起電圧は、電圧振幅A、回転数ω、位相θに基づき、例えば式(2.1)~(2.3)、(2.4a)~(2.6a)により表される。
【0040】
Eu1=-Aωsinθ ・・・(2.1)
Ev1=-Aωsin(θ-120) ・・・(2.2)
Ew1=-Aωsin(θ+120) ・・・(2.3)
Eu2=-Aωsin(θ+30) ・・・(2.4a)
Ev2=-Aωsin(θ-90) ・・・(2.5a)
Ew2=-Aωsin(θ+150) ・・・(2.6a)
【0041】
なお、二系統の位相関係を逆にした場合、例えばU2相の位相(θ+30)は(θ-30)となる。さらに、30[deg]と等価な位相差は、一般化して(30±60×k)[deg](kは整数)と表される。或いは第2系統が第1系統と同位相に配置されてもよい。その場合、第2系統の各相に発生する逆起電圧は、式(2.4a)~(2.6a)に代えて式(2.4b)~(2.6b)で表される。
【0042】
Eu2=-Aωsin(θ-30) ・・・(2.4b)
Ev2=-Aωsin(θ+90) ・・・(2.5b)
Ew2=-Aωsin(θ-150) ・・・(2.6b)
【0043】
Hブリッジ回路67の駆動対象であるロックモータ710は巻線714により構成される。ロックモータ710への通電時、回転数ω1に比例した逆起電圧E1が発生する。比例定数をEとすると、逆起電圧E1は、式「E1=-Eω1」で表される。また、ロックモータ710に通電される直流電流をI1と記す。
【0044】
次に、一系統、二系統の回路構成例について順に説明する。
図5に示す一系統の回路構成例では、Hブリッジ回路67の片側のレッグが三相インバータ回路68のU相レッグと共有されている。図示の都合上、符号「67」は、非共有側レッグを指しているように見えるが、実際には、三相インバータ回路68のU相レッグと非共有側レッグとを合わせた部分を指している。
【0045】
このように、三相インバータ回路68の一相(例えばU相)のレッグと、Hブリッジ回路67の片側のレッグとが共有されて構成される電力変換回路を、本明細書では「統合電力変換回路」という。
図5の回路構成例では、一系統の三相インバータ回路68とHブリッジ回路67とが統合電力変換回路60をなしている。
【0046】
統合電力変換回路60は、高電位線Lpを介して電源Btの正極と接続され、低電位線Lgを介して電源Btの負極と接続されている。電源Btは、例えば基準電圧12[V]のバッテリである。電源Btから統合電力変換回路60に入力される直流電圧を「入力電圧Vr」と記す。
【0047】
統合電力変換回路60の電源Bt側には高電位線Lpと低電位線Lgとの間にコンデンサCが設けられている。電源BtとコンデンサCとの間の電流経路において、電源Bt側に電源リレーPr、コンデンサC側に逆接保護リレーPRが直列接続されている。電源リレーPr及び逆接保護リレーPRは、MOSFET等の半導体スイッチング素子もしくは機械式リレー等により構成され、オフ時に電源Btから統合電力変換回路60への通電を遮断可能である。電源リレーPrは、電源Btの電極が正規の向きに接続されたときに流れる方向の電流を遮断する。逆接保護リレーPRは、電源Btの電極が正規の向きとは逆向きに接続されたときに流れる方向の電流を遮断する。
【0048】
三相インバータ回路68は、ブリッジ接続された高電位側及び低電位側の複数のインバータスイッチング素子IUH、IUL、IVH、IVL、IWH、IWLの動作により電源Btの直流電力を三相交流電力に変換し、EPSモータ800に通電する。詳しくは、インバータスイッチング素子IUH、IVH、IWHは、それぞれU相、V相、W相の高電位側に設けられる上アーム素子であり、インバータスイッチング素子IUL、IVL、IWLは、それぞれU相、V相、W相の低電位側に設けられる下アーム素子である。以下、同相の上アーム素子と下アーム素子とをまとめて、符号を「IUH/L、IVH/L、IWH/L」と記す。また、直列接続された一組の高電位側及び低電位側のスイッチング素子を「レッグ」とする。「IUH/L」はU相レッグの符号に相当する。
【0049】
三相インバータ回路68の各相の下アーム素子IUL、IVL、IWLと低電位線Lgとの間には、各相を流れる相電流Iu、Iv、Iwを検出する電流センサSAU、SAV、SAWが設置されている。電流センサSAU、SAV、SAWは、例えばシャント抵抗で構成される。
【0050】
Hブリッジ回路67の非共有側レッグは、直流モータ端子M1を介して直列接続された高電位側のスイッチング素子MU1H、及び、低電位側のスイッチング素子MU1Lにより構成される。以下、非共有側レッグを構成する一組のスイッチング素子を「直流モータ用スイッチング素子」と称する。インバータスイッチング素子と同様に、高電位側及び低電位側のスイッチをまとめて直流モータ用スイッチング素子の符号を「MU1H/L」と記す。
【0051】
三相インバータ回路68の各相インバータスイッチング素子IUH/L、IVH/L、IWH/L、及び、直流モータ用スイッチング素子MU1H/Lは、例えばMOSFETである。その他、スイッチング素子は、MOSFET以外の電界効果トランジスタやIGBT等であってもよい。ここで、ロックモータ710に通電される電流は、EPSモータ800に流れる相電流よりも小さい。そのため、直流モータ用スイッチング素子MU1H/Lは、インバータスイッチング素子IUH/L、IVH/L、IWH/Lよりも電流容量が小さいスイッチが使用されてもよい。また、ロック及び解除ができればよいため、高速スイッチングは必要なく、オン時間が遅いスイッチや機械リレーでもよい。
【0052】
三相巻線組のU相電流経路の分岐点Juには、ロックモータ710の一端である第1端子T1が接続されている。ロックモータ710の第1端子T1とは反対側の端部である第2端子T2は、直流モータ用スイッチMU1H/Lの間の直流モータ端子M1に接続されている。直流モータ用スイッチMU1H/Lはロックモータ710を介してU相巻線811に接続されている。直流モータ用スイッチの符号「MU1H/L」の「U」はU相を意味し、「1」は直流モータの番号である。
【0053】
三相インバータ回路68に流れる相電流Iu、Iv、Iwに対し、三相巻線組に通電される相電流をIu#、Iv#、Iw#と記す。
図5の例ではU相電流経路の分岐点Juにおいて相電流Iuの一部が直流モータ電流I1として分かれる。分岐点Juの三相インバータ回路68側に流れるインバータ相電流Iu、Iv、Iwと、分岐点JuのEPSモータ800側に通電されるモータ相電流Iu#、Iv#、Iw#との関係は、式(3.1)~(3.4)により表される。
【0054】
Iu#=-Iv-Iw ・・・(3.1)
Iv#=Iv ・・・(3.2)
Iw#=Iw ・・・(3.3)
I1=Iu-Iu# ・・・(3.4)
【0055】
ロックモータ710において、第1端子T1から第2端子T2に向かう電流I1の方向を正方向とし、第2端子T2から第1端子T1に向かう電流I1の方向を負方向とする。第1端子T1と第2端子T2との間には電圧Vxが印加される。ロックモータ710は、正方向に通電されたとき正転し、負方向に通電されたとき逆転する。例えばロックモータ710が正転したときロック装置20がロックされ、ロックモータ710が逆転したときロック装置20のロックが解除される。
【0056】
制御部30は、EPSモータ800の三相電圧指令値により中性点Nの電圧を操作し、U相電圧指令値を一定にするように「ゲート信号」を出力する。それと同時に制御部30は、ロックモータ710の回転方向に応じて、直流モータ用スイッチMU1H/Lの一方をONし、他方をOFFするように「ロックモータ駆動指令」を指令する。こうして制御部30は、EPSモータ800とロックモータ710とを同時に動作させる。
【0057】
図6に示す二系統の回路構成例では、EPSモータ800に通電する「第1の回路」68(符号は
図7参照)が二系統の三相インバータ回路681、682により構成される。第1系統の三相インバータ回路681は、三相巻線組801のU1相、V1相、W1相の巻線811、812、813に接続されている。第2系統の三相インバータ回路682は、三相巻線組802のU2相、V2相、W2相の巻線821、822、823に接続されている。第2系統の構成要素の符号及び電流の記号は、第1系統の構成要素の符号及び電流の記号の「1」を「2」に置き換えて表される。また、第2系統の構成要素について、第1系統の構成要素についての説明が援用される。
【0058】
第1系統の三相インバータ回路681には、インバータスイッチング素子IU1H/L、IV1H/L、IW1H/L、及び、各相電流Iu1、Iv1、Iw1を検出する電流センサSAU1、SAV1、SAW1が設けられている。三相インバータ回路681の電源Bt側にはコンデンサC1が設けられている。また、電源Btと三相インバータ回路681との間に、電源リレーP1r及び逆接保護リレーP1Rが設けられている。電源Btから三相インバータ回路681に入力される直流電圧を「入力電圧Vr1」と記す。三相巻線組801には相電流Iu1#、Iv1#、Iw1#が通電される。
【0059】
図6の構成例では、第1系統の回路が
図5に示す一系統の回路と同様に構成される。つまり、第1系統の三相巻線組801のU1相電流経路の分岐点Juにロックモータ710の一端が接続されており、第1系統の三相インバータ回路681のU1相レッグがHブリッジ回路67の片側のレッグと共有されている。一方、第2系統の回路はロックモータ710とは直接接続されておらず、専らEPSモータ800の駆動にのみ用いられる。
【0060】
以下、EPSモータ800とロックモータ710との同時駆動の説明においては一系統構成を基本として示す。EPSモータ800が二系統構成の場合、第1系統の制御に対し、適宜第2系統の制御を追加して解釈すればよい。
【0061】
[ロック装置の機械的構成]
次に
図8~
図12を参照し、ロック装置20の機械的構成及び作用効果について説明する。まず
図8~
図10に、ロック装置20の全体構成及びロック状態を示す。
図8に示すように、ロック装置20は可動部21と被係止体25とを有する。可動部21は、ロックモータ710により往復移動する。被係止体25は、例えばステアリングホイール91と同軸に回転可能に設けられている。
【0062】
図10に示すように、被係止体25は、一つ以上の凸部27及び一つ以上の凹部28が周方向に配置され、ステアリングホイール91に追従してRs方向に回転する。
図10の被係止体25は、基筒部29の周囲に複数の凸部27及び複数の凹部28が周方向に等間隔に配置された回転対称形の「歯車スロット」として構成されている。実施形態の説明では、被係止体25に代えて、適宜「歯車スロット25」の用語を用いて記載する。
【0063】
可動部21の構成例として
図8、
図9には、ロックモータ710の回転軸Azと可動部21の回転及び往復移動の軸Axとが直交して配置される例を示す。ロックモータ710のモータ出力軸715は、回転軸Azを中心としてRz方向に正逆回転する。モータ出力軸715と可動部21のドリブンギア部215とはウォームギアを構成しており、ドリブンギア部215は、モータ出力軸715の回転に伴って回転軸Axを中心としてRx方向に正逆回転する。
【0064】
ドリブンギア部215が回転すると、同軸に固定された雄ねじ部216が回転し、雄ねじ部216と螺合するナット部217がLx方向に往復移動する。ナット部217の先端側には棒状のロックロッド23が連結されている。ロックロッド23に外力が作用しない状態では、ロックロッド23はナット部217と共にLx方向に往復移動する。
【0065】
歯車スロット25の回転軸Oは、可動部21の軸Axの延長線に直交するように配置されている。歯車スロット25の回転位置に応じて、凸部27又は凹部28の径方向外壁がロックロッド23の先端面に対向する。ここで、ロックロッド23が歯車スロット25に近づくことを前進、ロックロッド23が歯車スロット25から遠ざかることを後退と定義する。制御部30は、Hブリッジ回路67によりロックモータ710に通電してロックロッド23を歯車スロット25に対して前進又は後退させる。
【0066】
制御部30は、ロック装置20をロック動作させるとき、ロックロッド23を前進させて歯車スロット25の隣接する凸部27同士の間もしくは凹部28に嵌入させる。「隣接する凸部27同士の間」と「凹部28」とは、実質的にほぼ同じ意味であるが、後述のように凸部27及び凹部28の解釈の違いを考慮して二通りの表現を併記する。このとき、ステアリングホイール91の回転が機械的に規制される。
【0067】
また、制御部30は、ロック装置20をロック解除動作させるとき、歯車スロット25の隣接する凸部27同士の間もしくは凹部28に嵌入した状態からロックロッド23を後退させる。ロックロッド23が後退し、歯車スロット25から離間することで、ステアリングホイール91は自由に回転可能となる。
【0068】
図10を参照し、凸部27及び凹部28の解釈について説明する。本明細書では、基筒部29の外周をつなぐ小仮想円φiを基準とする見方により、「凸部27は小仮想円φiから径方向に相対的に突出している」と表現し、「小仮想円φiに沿って形成された凹部28は径方向に相対的に凹んでいる」と表現する。この場合、凸部27と凹部28とを接続する周方向側壁275は、凸部27の外側壁とみなされる。以下では基本的にこの見方を採用する。
【0069】
一方、凸部27の径方向外壁274をつなぐ大仮想円φoを基準とする見方では、「凹部28は大仮想円φoから径方向に相対的に凹んでいる」と表現し、「大仮想円φoに沿って形成された凸部27は径方向に相対的に突出している」と表現することもできる。この場合、凸部27と凹部28とを接続する周方向側壁275は、凹部28の内側壁とみなされる。
【0070】
このように、一般に歯車形状の凸部27と凹部28とは径方向の位置関係において相対的な解釈が可能である。本実施形態の解釈にあたっては、本明細書に直接的に用いられた表現に限らず、見方を変えた場合に用いられる可能性がある表現にも基づいて解釈されるものとする。
【0071】
次に
図11、
図12を参照し、以上の構成のロック装置20の動作における課題及び解決手段を説明する。
図11(a)に示すように、ロック時、ロックロッド23が前進するタイミングによって、ロックロッド23が凸部27の径方向外壁274に当接して凹部28に嵌入されず、ステアリングロックが実行されない可能性がある。
【0072】
そこで
図11(b)に示すように、制御部30は、EPSモータ800を正転方向及び逆転方向に揺動させることにより歯車スロット25を揺動させ、ロックロッド23と凹部28との位置を合わせてロック状態に導く。つまり制御部30は、ステアリングの回転によりロック装置20のロック動作を支援するように、EPSモータ800及びロックモータ710を同時に動作させる。ロック動作時に制御部30がEPSモータ800を揺動させる範囲は、歯車スロット25の歯車ピッチΔθgr以上の角度範囲に設定されている。これにより、歯車スロット25の初期位置によらず、ロック動作が確実に行われる。
【0073】
また
図12(a)に示すように、例えば車輪99が捩れた状態で駐車した時、路面から受ける復元力によって歯車スロット25にトルクが伝わり、凸部27の周方向側壁275からロックロッド23に押圧力Fが作用した状態になる場合がある。すると、ロック解除時、摩擦力によりロックロッド23を後退させることができない状態となる。
【0074】
そこで
図12(b)に示すように、制御部30は、歯車スロット25がロックロッド23から離れる退避方向にEPSモータ800を退避回転させることにより、凸部27の周方向側壁275とロックロッド23との当接状態を解消し、ロック解除状態に導く。つまり制御部30は、ステアリングの回転によりロック装置20のロック解除動作を支援するように、EPSモータ800及びロックモータ710を同時に動作させる。ここで、制御部30は、凸部27のどちら側の周方向側壁275にロックロッド23が当接しているかによって退避方向を判別する必要がある。退避方向の判別方法については
図17、
図18を参照して後述する。
【0075】
[シーケンス]
次に
図13、
図14を参照し、エンジン始動時のステアリングロック解除、及び、エンジン停止時のステアリングロックに関するシーケンスについて説明する。フローチャートの記号「S」はステップを示す。シーケンスの説明において各モータ及び制御部等の符号の記載を省略する。なお、S16、S26の主体であるエンジンECUは図示しない。
【0076】
図13に示すエンジン始動時のシーケンスは、IG信号やウェイクアップ信号のオン等に基づく起動信号の生成によりスタートする。S011ではマイコン起動シーケンス、S012ではマイコン/ASIC起動シーケンスが実行される。この後、例えばラッチ回路のラッチ信号がオンされ、自己保持状態が開始するようにしてもよい。
【0077】
S02では入力回路チェック(1)として、電源リレーをオンしてよいか確認される。S03ではASICの遮断機能がチェックされる。S04では入力回路チェック(2)として、入力回路に関する残りのチェックが行われる。S05ではEPSモータの回路チェック、S06ではロックモータの回路チェックが行われる。各チェック後、S08で制御部は、PWM駆動を開始しつつEPSのアシスト開始を待つ。
【0078】
制御部は、S11でEPSモータを退避回転させ、ロック解除可能な状態になったら、S12でロックモータを後退方向に駆動する。S13でロック解除したと判断されると、S14で制御部はロックモータの駆動を停止する。S16では、EPS-ECUからの通信情報に基づき、エンジンECUがエンジンを始動する。
【0079】
図14に示すエンジン停止時のシーケンスは、IG信号オフ等に基づく停止信号の生成によりスタートする。制御部は、S21でEPSモータを揺動させると同時に、S22でロックモータを前進方向に駆動する。S23でロック完了したと判断されると、S24で制御部はロックモータの駆動を停止する。
【0080】
S25で制御部はEPSアシストを停止する。このとき制御部は、EPSモータに通電するための電流指令を0にする。共用以外のレッグはPWM駆動を停止してもよく、演算待機となる。すなわち、起動信号がオンになるか、IGがオンされるか、EPS-ECUもしくはモータが冷めるのを待つ状態となる。S26では、EPS-ECUからの通信情報に基づき、エンジンECUがエンジンを停止する。
【0081】
[動作タイムチャート]
次に
図15~
図18を参照し、ロック時及びロック解除時におけるEPSモータ800及びロックモータ710の詳細な動作について説明する。タイムチャートの説明においても各モータ及び制御部等の符号の記載を省略する。
【0082】
図15、
図16にはロック時の揺動動作について、ロック完了の判定手段が異なる2通りのパターンを示す。
図15の動作例では、ロックモータ電流がロック完了判定に利用される。
図15の縦軸には、EPSモータのON/OFF、ロックモータのON/OFF、EPSモータの回転位置、ロックロッド位置、及び、ロックモータ電流の変化を示す。EPSモータの回転位置は、ロック時初期のステアリング位置に応じた回転位置を揺動中心θcとし、正転側の最大位置をθmax、逆転側の最小位置をθminとする。最小位置θminから最大位置θmaxまでの角度範囲は、歯車スロット25の歯車ピッチΔθgr以上に設定されている。ロックロッド位置は、後退限が解除位置に相当し、前進限がロック位置に相当する。
【0083】
ロック時初期、EPSモータは揺動中心θcにあり、ロックモータは解除位置にある。時刻t1にEPSモータがいずれかの回転方向(
図15の例では正転方向)にオンされ、ロックモータが正転(前進)方向にオンされる。ロックロッド23は歯車スロット25に向かって前進し、時刻t2に先端が凸部27の周方向外壁275に衝突して停止する。時刻t1から時刻t2までの期間T1にはロックモータは低負荷で動作するため、比較的小さい移動電流Iaが流れる。時刻t2にロックロッド23が歯車スロット25に当接すると前進が阻止された高負荷状態となり、比較的大きいブロック電流Ibが流れる。
【0084】
図15の例では、揺動中心θcから正転側の最大位置をθmaxまでの範囲にはロックロッド23が凹部28に嵌入可能なポイントが存在しない。そのため制御部は、時刻t3にEPSモータを正転から逆転に切り替える。そして、EPSモータ回転位置が揺動中心θcを最小位置θmin側に超えた時刻t4に、ロックロッド23の先端が凸部27の周方向外壁275から離間し、前進可能となる。時刻t5にロックロッド23がロック位置に到達すると、ロックが完了する。
【0085】
時刻t4から時刻t5までの期間T2にはロックモータは低負荷で動作するため、比較的小さい移動電流Iaが流れる。制御部は、移動電流Iaが流れた時間を積分し、合計値(T1+T2)が判定値以上になったとき、ロックロッド23が所定の距離を移動してロックが完了したと判定する。判定演算が終了した時刻t6に制御部は、EPSモータ及びロックモータの駆動を停止する。なお、初期の回転位置でロックロッド23が凹部28に嵌入した場合、一回目の期間T1のみで移動電流Iaが流れた時間の積分が合計値に達し、ロック完了と判定される。
【0086】
図16の動作例では、ロックロッド位置センサのセンサ信号がロック完了判定に利用される。
図16の縦軸の最下段には、
図15のロックモータ電流に代えてロックロッド位置センサ信号を示す。時刻t5以前の挙動は
図15と同様である。時刻t5にロックロッド23がロック位置に達したとき、位置センサ信号がオン出力され、制御部はEPSモータ及びロックモータの駆動を停止する。
【0087】
図17、
図18にはロック解除時の退避回転動作について、退避方向の判定手段が異なる2通りのパターンを示す。
図17の動作例では、仮回転時のトルクセンサ値の絶対値の増減に基づき退避方向が判定される。
図17の縦軸には、トルクセンサ値、EPSモータのON/OFF、ロックモータのON/OFF、及び、ロックロッド位置の変化を示す。このときトルクセンサ値は、車輪99が路面から受ける復元力によりステアリングラック97やステアリングシャフト92を介してロック装置20の歯車スロット25に伝わるトルクを表している。
【0088】
トルクセンサ値の絶対値が大きいほど、
図12(a)において、歯車スロット25の凸部27の周方向側壁275がロックロッド23を押圧する押圧力Fが増大し、ロック解除が困難となる。そこで制御部は、まず、EPSモータの回転方向について、歯車スロット25がロックロッド23を押圧することによるトルクが減少する方向を退避方向として判定する。そして制御部は、トルクセンサ値の絶対値がロック解除可能トルク値の範囲に入るようにトルク制御を行ってEPSモータを退避回転させる。
【0089】
ロック解除動作時、時刻t7に制御部はEPSモータを仮回転駆動し、トルクセンサ値の絶対値の増減を評価する。なお、仮回転駆動の制御アルゴリズムを
図20に示す。
図17の例では、EPSモータを正転方向に仮回転したときトルクセンサ値の絶対値が増加するため、正転方向は押圧力をより大きくする不適正な方向であり、退避方向は逆転方向であると判定される。仮にEPSモータを正転方向に仮回転したときトルクセンサ値の絶対値が減少する場合は、退避方向は正転方向であると判定される。
【0090】
退避方向が判定されると制御部は、時刻t8にトルク制御によるEPSモータの逆転方向の駆動を開始する。なお、トルク制御の制御アルゴリズムについては
図19~
図21を参照して後述する。退避回転により、歯車スロット25の凸部27の周方向側壁275がロックロッド23を押圧する押圧力は徐々に減少する。これに伴い、トルクセンサ値の絶対値は0に近づく。
【0091】
時刻t9にトルクセンサ値の絶対値がほぼ0になると、制御部はロックモータを逆転(後退)方向にオンする。これによりロックロッド23は後退を開始する。なお、トルクセンサ値の絶対値がロック解除可能トルク範囲の上限を下回った時点を時刻t9として、ロックモータの駆動が開始されてもよい。時刻t9からロックロッド23の移動時間Tmが経過した時刻t10に、制御部はロックモータ及びEPSモータの駆動を停止する。或いは制御部は、破線で示すように、ロックロッド23が凹部28から抜け出したタイミングでEPSモータのみ先に駆動を停止してもよい。
【0092】
図18の動作例では、ステアリングの位置情報が退避方向の判定に利用される。
図18の縦軸の最上段には、ステアリング位置を示す。ステアリング位置と歯車スロット25の回転位置とが相関していることを前提とすると、ステアリング位置からロックロッド23が凸部27のどちら側の周方向側壁275に当接しているかがわかる。そこで制御部は、初期のステアリング位置情報から退避方向を判定する。
図18の例では、制御部は退避方向方向が逆転方向であると判定し、時刻t8にトルク制御によるEPSモータの逆転方向の駆動を開始する。その後は、
図17と同様である。
【0093】
[EPSモータの揺動、退避回転の制御アルゴリズム]
次に
図19~
図25を参照し、ロック時におけるEPSモータ800の揺動、及び、ロック解除時におけるEPSモータ800の退避回転を実施するための制御アルゴリズムについて複数の実施形態を示す。各実施形態の制御部の符号は、「30」に続く3桁目に実施形態の番号を付す。これらの制御アルゴリズムは、
図13のフローチャートのS11、及び、
図14のフローチャートのS21で実施されるものであり、EPSのアシスト時の通常制御とは異なっていてもよい。また、例えばロック時の駆動は第2~第5実施形態を用い、ロック解除時の駆動は第1実施形態を用いるというように組み合わせてもよい。
【0094】
上述の通り、EPSモータ800は、一組以上の三相巻線組801、802に印加される三相交流電圧により回転し、トルクを出力する三相モータである。
図21を除き、駆動対象のEPSモータ800として、
図5に示す一系統の回路構成を想定する。出力されたゲート信号は、一系統の三相インバータ回路68のインバータスイッチング素子IUH/L、IVH/L、IWH/Lの各ゲートに入力される。
【0095】
(第1実施形態:トルク制御)
図19に示す第1実施形態の制御部301は、歯車スロット25に作用するトルクについてのトルクセンサ値T_snsを用いたトルク制御を行う。制御部301は、ロック時及びロック解除時の共通構成として、トルク偏差算出器31、トルク制御器32及びゲイン乗算器39を備える。それに加え制御部301は、ロック解除時の構成として、退避方向判定部33及び回転方向切替器34を備える。ロック解除時の構成については、
図20と併せて参照しつつ後述する。
【0096】
トルク偏差算出器31は、トルク指令T*と、フィードバックされたトルクセンサ値T_snsとのトルク偏差ΔTを算出する。トルク制御器32は、トルク偏差ΔTを0に近づけるように、言い換えればトルクセンサ値T_snsがトルク指令T*に追従するように制御演算を行う。ロック時には、ゲイン乗算器39はトルク制御器32の出力にゲイン(1/Kt)を乗じて制限前のq軸電流指令Iq*_0を演算する。ロック解除時には、トルク制御器32の出力は回転方向切替器34を介してゲイン乗算器39に入力される。
【0097】
また制御部301は、q軸電流制限部42、q軸電流偏差算出器43、q軸電流制御器44、d軸電流偏差算出器45、d軸電流制御器46、dq/三相変換部47、中性点電圧操作部48及びPWM変調器49を備える。q軸電流制限部42は、「三相巻線組801への通電に係る電流指令」である制限前のq軸電流指令Iq*_0の絶対値が電流制限値以下となるように制限し、制限後のq軸電流指令Iq*を出力する。図中、q軸電流制限部42のブロックには、横軸を入力とし縦軸を出力とする原点対称の電流制限マップを示す。
【0098】
q軸電流偏差算出器43は、制限後のq軸電流指令Iq*と、フィードバックされたq軸電流Iqとのq軸電流偏差ΔIqを算出する。q軸電流制御器44は、q軸電流偏差ΔIqを0に近づけるように、言い換えればq軸電流Iqがq軸電流指令Iq*に追従するようにq軸電圧指令Vq*を演算する。d軸電流偏差算出器45は、d軸電流指令Id*と、フィードバックされたd軸電流Idとのd軸電流偏差ΔIdを算出する。d軸電流制御器46は、d軸電流偏差ΔIdを0に近づけるように、言い換えればd軸電流Idがd軸電流指令Id*に追従するようにd軸電圧指令Vd*を演算する。
【0099】
dq/三相変換部47は、dq軸電圧指令Vq*、Vd*を三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*に座標変換する。なお、座標変換演算のためdq/三相変換部47に入力されるモータ位置(θ)信号の図示を省略する。中性点電圧操作部48は、レッグが共有されるU相電圧指令Vu*を一定にするように、オフセット電圧Vm*を用いて中性点電圧を操作する。PWM変調器49は、中性点電圧操作後の三相電圧指令をPWM変調し、ゲート信号を生成する。
【0100】
図20に、ロック解除時に退避方向を判定するための仮回転駆動の制御アルゴリズムを示す。仮回転駆動の意義は
図17の動作タイムチャートを参照して上述した通りである。仮回転駆動では、EPSモータ800を微小時間だけ正逆回転させるためのパルストルク指令がゲイン乗算器39に入力され、その後の構成は
図19と同様である。
図19におけるロック解除時の構成である退避方向判定部33は、仮回転時のトルクセンサ値T_snsの絶対値の増減に基づき退避方向を判定する。回転方向切替器34は、判定された退避方向に応じて、正転の場合「1」、逆転の場合「-1」をトルク制御器32の出力に乗算し、ゲイン乗算器39に出力する。
【0101】
図21には、二系統構成(
図6参照)のEPSモータ800を駆動対象とする場合のロック時のトルク制御アルゴリズムを示す。第1系統及び第2系統において、q軸電流制限部42からPWM変調器49までのブロックが冗長的に設けられる。ただし第2系統には中性点電圧操作部48は設けられない。電流、電圧の記号について、末尾の「1」は第1系統、「2」は第2系統の値を示す。
【0102】
制限前のq軸電流指令Iq*_0は、各系統のq軸電流制限部42に入力され、各系統の制限後のq軸電流指令Iq1*、Iq2*が出力される。このq軸電流指令Iq1*、Iq2*に対し系統毎の電流制御及び座標変換演算により、三相電圧指令Vu1*、Vv1*、Vw1*及びVu2*、Vv2*、Vw2*が演算される。以下の第2~第5実施形態についても、二系統駆動の制御アルゴリズムは同様に構成される。
【0103】
(第2、第3実施形態:位置制御、速度制御)
図22に示す第2実施形態の制御部302は、EPSモータ800の回転位置を制御する位置制御を行う。制御部302は、第1実施形態の制御部301のトルク偏差算出器31及びトルク制御器32に代えて、位置偏差算出器35、位置制御器36、速度偏差算出器37及び速度制御器38を備える。この構成では、モータ位置θを検出する位置センサや、検出されたモータ位置θを時間微分してモータ速度ωを算出する微分器が設けられるが、それらの図示を省略する。モータ速度ωは、上述の回転数ωと同じ記号を用いる。
【0104】
位置偏差算出器35は、モータ位置指令θ*と、フィードバックされたモータ位置θとの位置偏差Δθを算出する。位置制御器36は、位置偏差Δθを0に近づけるように、言い換えればモータ位置θがモータ位置指令θ*に追従するようにモータ速度指令ω*を演算する。
【0105】
速度偏差算出器37は、モータ速度指令ω
*と、フィードバックされたモータ速度ωとの速度偏差Δωを算出する。速度制御器38は、速度偏差Δωを0に近づけるように、言い換えればモータ速度ωがモータ速度指令ω
*に追従するようにトルク指令T
*を演算する。
図23に示す第3実施形態の制御部303は、EPSモータ800の回転速度を制御する速度制御を行う。制御部303は、第2実施形態の制御部302におけるモータ速度指令ω
*の演算後の構成を備え、速度制御によりトルク指令T
*を演算する。
【0106】
第2、第3実施形態によるトルク指令T*の演算後の構成は第1実施形態の御部301と同様である。制限前のq軸電流指令Iq*_0は絶対値がq軸電流制限部42で制限され、制限後のq軸電流指令Iq*がq軸電流偏差算出器43に入力される。q軸電流制御器44は、q軸電流Iqが制限後のq軸電流指令Iq*に追従するようにq軸電圧指令Vq*を演算する。
【0107】
(第4実施形態:電流制御)
図24に示す第4実施形態の制御部304は、EPSモータ800のトルクに係る電流(すなわちq軸電流)を制御する電流制御を行う。制御部304は、第1実施形態の制御部301に対しq軸電流制限部42以後の構成を備える。q軸電流制御器44は、フィードバックされたq軸電流Iqがq軸電流指令Iq
*に追従するようにq軸電圧指令Vq
*を演算する。この構成ではq軸電流指令Iq
*は既に電流制限値以下になるように演算されているため、q軸電流制限部42は不要である。
【0108】
(第5実施形態:電圧制御)
図25に示す第5実施形態の制御部305は、三相巻線組801に印加される三相交流電圧を指令する電圧制御を行う。制御部305は、中性点電圧操作部48及びPWM変調器49を備え、三相電圧指令Vu
*、Vv
*、Vw
*を直接指令する。例えば三相交流の周波数fを可変する場合、出力電圧Vと周波数fとの比を一定とする「V/f制御」を行ってもよい。また、
図25には図示されないが、電圧指令から換算される電流値が制限値以下となるように制限してもよい。
【0109】
[本実施形態の効果]
本実施形態にてEPSモータ800に通電する三相インバータ回路68、及び、ロックモータ710に通電するHブリッジ回路67は、三相インバータ回路68の一相のレッグとHブリッジ回路67の片側のレッグとを共有する統合電力変換回路60をなしている。そのため、複数のモータを駆動対象とする電力変換回路を小型化することができる。
【0110】
また、本実施形態の回路トポロジーでは、統合電力変換回路60は共通の制御部30により操作され、EPSモータ800及びロックモータ710を同時に動作させることができる。したがって、ロック時に歯車スロット25の回転位置によりロックロッド23が凹部28に嵌入できない場合、EPSモータ800を揺動させることで、ロック動作を支援可能である。或いはロック解除時に歯車スロット25の押圧力によってロックロッド23が後退できない場合、EPSモータ800を退避回転させることで、ロック解除動作を支援可能である。このように本実施形態では、電力変換回路の小型化とステアリングロック機構の円滑な動作とを両立することができる。
【0111】
(その他の実施形態)
(a)
図26に、
図2の変形例に相当するラックタイプEPSシステム901RCを示す。
図26のEPSシステム901RCでは、EPSモータ800及びトルクセンサ94は、
図2のEPSシステム901Rと同様にステアリングラックに97に配置される。一方、ロック装置20はステアリングコラム93に配置される。
【0112】
(b)EPSモータ800は三相モータ等の多相モータに限らず、直流モータやモータ以外の電気的アクチュエータで構成されてもよい。同様にロックモータ710は、直流モータに限らず、リニアシリンダ等、モータ以外の電気的アクチュエータで構成されてもよい。
【0113】
(c)
図5、
図6に示した一系統又は二系統の回路構成に対し、三相モータリレーや直流モータリレーが追加されたり、入力部にLCフィルタ回路が追加されたりしてもよい。第1の回路と第2の回路とが共通の電源Btに接続されるのでなく、個別の電源に接続されてもよい。また、ロックモータ710以外の直流モータが、ロックモータ710と同じ相、又は、ロックモータ710と同一系統の異なる相もしくは別の系統の一相以上に接続されてもよい。
【0114】
(d)ロック装置20を構成する被係止体25は、複数の凸部27及び複数の凹部28が周方向に等間隔に配置された「回転対称形の歯車スロット」に限らない。例えば周方向の位置に応じて歯車ピッチが異なる非回転対称形の歯車スロットでもよい。或いは、一つの凸部27及び一つの凹部28が周方向に配置された形状、すなわち360度のうち一箇所の範囲のみでロックロッド23が嵌入可能な形状であってもよい。
【0115】
(e)ロックモータ710とロック装置20の可動部21との相対配置や動力伝達に関する構成は
図8、
図9に例示されものに限らない。例えばロックモータ710のモータ出力軸とロック装置20の可動部21の軸とが平行に配置され、平行ギアにより動力伝達されてもよい。或いは、ロックモータ710がリニアアクチュエータで構成される場合、ロックモータ710の往復運動出力軸が可動部21の軸に直接連結されてもよい。
【0116】
(f)可動部21のロックロッド23と被係止体25の回転軸Oとの相対配置は
図8に例示されたものに限らない。例えば可動部21の軸と被係止体25の回転軸Oとが平行に配置され、ロックロッド23が軸方向から凹部28に嵌入してロック状態となるようにしてもよい。
【0117】
(g)ロック時におけるロック完了の判定方法は、
図15、
図16に例示した方法に限らない。例えば、
図15、
図16に二点鎖線で示すように最小位置θminから最大位置θmaxまでの範囲でEPSモータ800の揺動を行ったら、必然的にロック完了しているものとみなしてもよい。
【0118】
(h)ロック解除時における退避方向の判定方法は、
図17、
図18に例示した方法に限らない。例えばロックロッド23が受ける応力を歪センサ等で検出し、押圧力の方向を判別してもよい。
【0119】
本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【0120】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0121】
10 ・・・ECU(ステアリング制御装置)、
20 ・・・ロック装置、
30(301-305)・・・制御部、
67 ・・・Hブリッジ回路(第2の回路)、
68(681、682)・・・三相インバータ回路(第1の回路)、
710・・・ロックアクチュエータ、
800・・・操舵アシストモータ(操舵アシストアクチュエータ)、
91 ・・・ステアリングホイール(ステアリング)。