(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】バルブタイミング調整装置
(51)【国際特許分類】
F01L 1/352 20060101AFI20240123BHJP
【FI】
F01L1/352
(21)【出願番号】P 2020135345
(22)【出願日】2020-08-07
【審査請求日】2022-11-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗栖 正男
【審査官】藤田 和英
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/208105(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/137782(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/059298(WO,A1)
【文献】特開2018-165561(JP,A)
【文献】国際公開第2016/076152(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0251986(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/352
F16C 19/00 - 19/56
F16C 33/30 - 33/66
F16C 35/00 - 39/06
F16C 43/00 - 43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ(11)により減速機構(12)を介してカム軸(104,106)を駆動し、該カム軸の回転によりエンジン(100)におけるバルブ(107,109)の開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整装置(10)であって、
前記減速機構は、
前記カム軸の軸方向において前記モータと前記カム軸との間に設けられ、
前記モータにより駆動される入力部材(18)と、
前記カム軸に一体回転可能に連結された出力部材(22)と、
前記出力部材の内歯(221)に噛み合う小径外歯(262)が形成された遊星ギヤ(26)と、
前記入力部材において前記カム軸と同心の同心部(181)を回転可能に支持する第1転がり軸受(17)、及び、前記入力部材において前記カム軸から偏心する偏心部(182)の外側に前記遊星ギヤを回転可能に支持する第2転がり軸受(25)、を含む複数の転がり軸受と、
該転がり軸受に潤滑油(O)を供給する給油通路(42)と、
前記転がり軸受を軸方向の定位置に係止する複数のスラスト受け(551~554)と、
を備え、
前記転がり軸受は、内輪(51)および外輪(52)の相対面に転動体(53)を案内する軌道溝(54)を有し、
前記軌道溝は、前記転動体の中心より軸方向の一方側に相対的に深い深溝(541)を含むとともに、前記転動体の中心より軸方向の他方側に相対的に浅い浅溝(542)を含み、
前記外輪の前記深溝は、前記転動体の中心より前記カム軸側に設けられており、
前記内輪の前記深溝は、前記転動体の中心より前記モータ側に設けられており、
前記外輪を係止する前記スラスト受け(551)は、前記外輪の前記浅溝から流れ出た潤滑油を前記転がり軸受の外部に排出する第1排油部(43)を備えており、
前記内輪を係止する前記スラスト受け(553)は、前記内輪の前記浅溝から流れ出た潤滑油を前記転がり軸受の外部に排出する第2排油部(44)を備えており、
エンジン停止中に前記軌道溝に滞留する潤滑油量を低減するバルブタイミング調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのバルブタイミング調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用エンジンにおいて、モータにより減速機構を介してカム軸を駆動し、カム軸の回転によりバルブの開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整装置が知られている。例えば、特許文献1のバルブタイミング調整装置は、モーメント荷重に対する信頼性を確保するために、減速機構の軸方向に複数の転がり軸受を設け、潤滑油を減速機構の最内径部から供給し、小径側の軸受から大径側の軸受に順次流通させ、4つの軸受を潤滑したのち、減速機構の最外径部から外部に排出するように構成されている。
【0003】
特許文献2には、減速機構を小型化するために、2つの転がり軸受を軸方向に並設し、モーメント荷重およびアキシャル荷重に対する剛性を確保したうえで、転がり軸受の個数を特許文献1よりも少数にする技術が提案されている。また、特許文献2では、転動体を案内する内輪および外輪の軌道溝を比較的深く形成し、モーメント荷重で軌道溝と転動体との接点が軸方向に変位した場合でも、転動体を深めの軌道溝で案内し、応力集中による軌道溝の摩耗、変形を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許6311044号公報
【文献】特開2019-85994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のバルブタイミング調整装置によると、エンジンの停止時に、潤滑油が重力で減速機構の最外径部つまり最下部から排出されるが、複数の転がり軸受では、潤滑油の一部が軌道溝から排出されず、そこに滞留する。そして、エンジンの温度が低下すると、潤滑油が冷え、次回エンジンを始動させる前または始動直後に、潤滑油の粘度が高くなる。この状態で減速機構を駆動すると、転がり軸受の転動体が高粘度の潤滑油を掻き分けながら軌道輪を転動し、このときの潤滑油抵抗が減速機構の応答速度に悪影響を及ぼすことがあった。
【0006】
特に、バルブタイミング調整装置に用いられる減速機構では、カム軸に提供する出力を高くする目的で、通常、モータに連結される入力部材の回転数を出力部材の回転数に比べて数十~数百倍高く設定されているため、高速回転する入力側の転がり軸受ほど潤滑油の粘性抵抗による影響が大きい。また、特許文献1のように、モーメント荷重を考慮して複数の転がり軸受を径方向にオフセットして配置した構造によると、減速機構が大型化するうえ、転がり軸受の個数に応じて低温環境下での潤滑油抵抗が大きくなる。
【0007】
特許文献2のバルブタイミング調整装置は、特許文献1よりも少数の転がり軸受を用いて、減速機構を小型化し、かつモーメント荷重に対する耐性を高めることができる。しかし、低温環境下での潤滑油抵抗の点では、特許文献1と同様の課題が残っていた。特に、特許文献2では、軌道溝が比較的深く形成されているため、そこに滞留する潤滑油量が増加するという課題もあった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、エンジン停止時における転がり軸受の潤滑油滞留量を低減可能な減速機構を備えたバルブタイミング調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、モータ(11)により減速機構(12)を介してカム軸(104,106)を駆動し、カム軸の回転によりエンジン(100)におけるバルブ(107,109)の開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整装置(10)を提供する。
減速機構は、カム軸の軸方向においてモータとカム軸との間に設けられる。減速機構は、モータにより駆動される入力部材(18)と、カム軸に一体回転可能に連結された出力部材(22)と、出力部材の内歯(221)に噛み合う小径外歯(262)が形成された遊星ギヤ(26)と、入力部材においてカム軸と同心の同心部(181)を回転可能に支持する第1転がり軸受(17)、及び、入力部材においてカム軸から偏心する偏心部(182)の外側に遊星ギヤを回転可能に支持する第2転がり軸受(25)、を含む複数の転がり軸受と、転がり軸受に潤滑油(O)を供給する給油通路(42)と、転がり軸受を軸方向の定位置に係止する少なくとも1つのスラスト受け(551~554)とを備える。
転がり軸受は、内輪(51)および外輪(52)の相対面に転動体(53)を案内する軌道溝(54)を有し、軌道溝は、転動体の中心より軸方向の一方側に相対的に深い深溝(541)を含むとともに、転動体の中心より軸方向の他方側に相対的に浅い浅溝(542)を含む。外輪の深溝は、転動体の中心よりカム軸側に設けられており、内輪の深溝は、転動体の中心よりモータ側に設けられている。
外輪を係止するスラスト受け(551)は、外輪の浅溝から流れ出た潤滑油を転がり軸受の外部に排出する第1排油部(43)を備えている。内輪を係止するスラスト受け(553)は、内輪の浅溝から流れ出た潤滑油を転がり軸受の外部に排出する第2排油部(44)を備えている。
このバルブタイミング調整装置は、エンジン停止中に軌道溝に滞留する潤滑油量を低減する。
【0010】
本発明のバルブタイミング調整装置によれば、転がり軸受の軌道溝に深溝と浅溝とが設けられているので、エンジンの停止時に、潤滑油が重力で外輪の軌道溝に流れ落ち、浅溝からスラスト受けの第1排油部を経て転がり軸受の外部に排出される。したがって、エンジン停止中に軌道溝に滞留する潤滑油量を低減し、エンジン始動時または始動直後の潤滑油抵抗を軽減し、減速機構の応答速度を速めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のバルブタイミング調整装置を備えたエンジンの模式図である。
【
図2】バルブタイミング調整装置の第1実施形態を示す断面図である。
【
図3】バルブタイミング調整装置の減速機構を示す
図2のIII部拡大図である。
【
図4】内輪を傾けるモーメント荷重に対する転がり軸受の作用を示す断面図である。
【
図5】外輪を傾けるモーメント荷重に対する転がり軸受の作用を示す断面図である。
【
図6】本発明による第2実施形態のバルブタイミング調整装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態を
図1~
図5に基づいて説明する。
図1に示すように、第1実施形態のバルブタイミング調整装置10は、車両用エンジン100のクランク軸102により第1チェーン103を介して第1カム軸104を回転し、第1カム軸104により第2チェーン105を介して第2カム軸106を回転する。第1カム軸104上には吸気カム108が設けられ、第1カム軸104の回転に伴って吸気カム108が吸気バルブ107の開閉タイミングを調整する。第2カム軸106上には排気カム110が設けられ、第2カム軸106の回転に伴って排気カム110が排気バルブ109の開閉タイミングを調整する。
【0013】
図2に示すように、バルブタイミング調整装置10は、モータ11によって駆動される減速機構12を備えている。減速機構12は、スプロケット部材13とカバー部材14とを有し、両者がボルト15およびピン16で一体回転可能に結合されている。スプロケット部材13の外周には、第1チェーン103と係合する第1スプロケット歯131と、第2チェーン105と係合する第2スプロケット歯132とが形成されている。
【0014】
カバー部材14の内側には、第1転がり軸受17を介して入力部材18が回転可能に支持されている。入力部材18は、円筒状に形成され、ジョイント19でモータ軸20に結合され、モータ11により第1カム軸104(以下、カム軸104と呼ぶ)と共通の軸線Axを中心軸として回転される。一方、スプロケット部材13の内側には、滑り軸受21を介して減速機構12の出力部材22が回転可能に設けられている。出力部材22は、カップ状に形成され、ボルト23でカム軸104に一体回転可能に連結されている。
【0015】
入力部材18は、カム軸104と同心の同心部181と、カム軸104から偏心する偏心部182とを備えている。偏心部182の外周には、第2転がり軸受25を介して遊星ギヤ26が回転可能に支持されている。遊星ギヤ26の外周には、大径外歯261と小径外歯262とが形成され、大径外歯261がカバー部材14の内歯141に噛み合い、小径外歯262が出力部材22の内歯221に噛み合う。
【0016】
出力部材22の外周には、複数のストッパ222が周方向に等角度を離隔した位置に突設され、スプロケット部材13の内周に、ストッパ222に当接可能な複数の当接部133が形成されている。そして、出力部材22とスプロケット部材13とが、ストッパ222および当接部133の離隔角度範囲内において相対回転可能に組み合わされている。なお、出力部材22には給油通路42が形成され、潤滑油がポンプ40からカム軸104の導入通路41および給油通路42を介して各軸受17,21,25に供給される。
【0017】
次に、減速機構12の動作について説明する。エンジン100が停止している状態では、出力部材22が最遅角位置で停止し、出力部材22のストッパ222がスプロケット部材13の当接部133に当接している。エンジン100が始動すると、ストッパ222および当接部133の当接が維持される方向(
図1の遅角方向)にモータ11が入力部材18を回転する。このため、エンジン100の始動直後は、モータ軸20、入力部材18、出力部材22およびスプロケット部材13が同じ回転数で回転する。
【0018】
バルブタイミング調整装置10がカム軸104を進角方向(
図1参照)に回転するときには、モータ11が入力部材18をスプロケット部材13よりも大きな回転数で駆動する。これにより、遊星ギヤ26が出力部材22の内側で自転および公転し、出力部材22がスプロケット部材13に対し進角方向に相対回転する。その結果、カム軸104の回転位相が進み、バルブ107,109の開閉タイミングが進角側に調整される。
【0019】
バルブタイミング調整装置10がカム軸104を遅角方向に回転するときには、モータ11が入力部材18をスプロケット部材13よりも小さい回転数で駆動する。これにより、遊星ギヤ26が出力部材22の内側で自転および公転し、出力部材22がスプロケット部材13に対し遅角方向に相対回転する。その結果、カム軸104の回転位相が遅れ、バルブ107,109の開閉タイミングが遅角側に調整される。
【0020】
カム軸104が目標位相に達すると、入力部材18およびスプロケット部材13が同じ回転数で回転するようにモータ11が制御され、遊星ギヤ26が出力部材22に対して相対回転せず、出力部材22がスプロケット部材13に対し所定の位相(目標位相)に保持される。その結果、カム軸104の回転位相が目標位相に保持され、バルブ107,109の開閉タイミングが所定のタイミングに保持される。そして、エンジン100の停止が指令されると、スプロケット部材13に対して出力部材22が遅角方向に回転し、最遅角位置で停止する。
【0021】
続いて、2つの転がり軸受17,25の構成について
図3~
図5を参照して説明する。本実施形態では、第1転がり軸受17および第2転がり軸受25がそれぞれ同様に構成されている。このため、以下では第1転がり軸受17の構成について説明し、第2転がり軸受25については図面に第1転がり軸受17と同じ符号を付して、重複説明を省略する。
【0022】
図3に示すように、第1転がり軸受17(以下、転がり軸受17と呼ぶ)は、内輪51と、外輪52と、転動体(球体)53とを備えている。内輪51および外輪52の相対面には、それぞれ転動体53を案内する軌道溝54が全周にわたって延びるように形成されている。軌道溝54は、転がり軸受17の軸方向に非対称に形成され、転動体53の中心より軸方向の一方側に相対的に深い深溝541を有し、転動体53の中心より軸方向の他方側に相対的に浅い浅溝542を有している。
【0023】
具体的には、
図4に示すように、外輪52の深溝541は、転動体53の中心より、内輪51に作用するモーメント荷重F1の作用点P1側に設けられている。また、外輪52の浅溝542は、転動体53の中心より作用点P1と反対側に設けられている。
図4において、転動体53の中心からモーメント荷重F1の作用点P1までのオフセット距離をLとしたとき、内輪51に作用するモーメントM1は、M1=F1×Lで表される。
【0024】
一方、
図5に示すように、内輪51の深溝541は、転動体53の中心より、外輪52に作用するモーメント荷重F2の作用点P2と反対側に設けられている。また、内輪51の浅溝542は、転動体53の中心より作用点P2側に設けられている。
図5において、転動体53の中心からモーメント荷重F2の作用点P2までのオフセット距離をLとしたとき、外輪52に作用するモーメントM2は、M2=F2×Lで表される。
【0025】
図3に示すように、2つの転がり軸受17,25は、複数のスラスト受け551~554によって軸方向の定位置に係止されている。第1スラスト受け551は、カバー部材14の中心孔140を取り囲むように円環状に形成され、転がり軸受17の外輪52をモータ11側へ移動不能に係止する。第2スラスト受け552は、遊星ギヤ26のカム軸側端部の内周に一体形成され、転がり軸受25の外輪52をカム軸104側へ移動不能に係止する。
【0026】
第3スラスト受け553は、入力部材18の偏心部182上に掛止されたリング状部品であって、転がり軸受25の内輪51をカム軸104側へ移動不能に係止する。第4スラスト受け554は、偏心部182と同心部181との間において、入力部材18上に突出形成され、転がり軸受17の内輪51をカム軸104側へ移動不能に係止するとともに、転がり軸受25の内輪51をモータ11側へ移動不能に係止する。
【0027】
そして、第1スラスト受け551に、第1排油部43が外輪52の内径と同等または大きな内径で円環状に形成され、浅溝542から流れ出た潤滑油Oを転がり軸受17の外部に排出する。また、第3スラスト受け553には、第2排油部44が第2転がり軸受25の内輪51の外径と同等またはそれより小さな外径で円環状に形成され、浅溝542から流れ出た潤滑油Oを転がり軸受25の外部に排出する。なお、第1排油部43または第2排油部44は、円環形状に限定されず、鋸歯状、パルス波状、または穴あき鍔状に形成することも可能である。
【0028】
上記のように構成された第1実施形態のバルブタイミング調整装置10によれば、転がり軸受17,25の軌道溝54を軸方向に異なる深さで形成したので、エンジン100の停止時に、潤滑油Oが重力で外輪52の軌道溝54に流れ落ち、浅溝542からスラスト受け551の第1排油部43を経て転がり軸受17,25の外部に排出される。したがって、軌道溝54に滞留する潤滑油量を減少させ、エンジン始動時または始動直後の潤滑油抵抗を軽減することができる。
【0029】
特に、モータ駆動の減速機構12において、転がり軸受17,25がモータ11により高速回転される入力部材18上に設けられているので、潤滑油の滞留量を減らすことによって、減速機構12の応答速度を速めることができる。また、本実施形態では、2つの転がり軸受17,25を軸方向に並べているが、1つあたりの滞留量が僅かであることから、2つを用いた場合の潤滑油抵抗も従来と比較し小さく、むしろ、2つの軸受17,25でモーメント荷重F1,F2に対する剛性を高め、減速機構12を小型かつ堅牢に構成できるという利点がある。
【0030】
ところで、モーメント荷重F1が内輪51に作用すると、
図4に示すように、転がり軸受17(転がり軸受25も同様)のラジアル内部隙間が軸受上部で開き、軸受下部で閉じる。軸受上部では、転動体53と軌道溝54との接点が転動体53の中心から、外輪52で作用点P1側に、内輪51で作用点P1と反対側にそれぞれ大きく移動する。しかし、移動方向に深溝541が設けられているため、接点は深溝541の端部541a,541bまで移動せず、この部位の摩耗、変形が防止される。軸受下部では、接点の移動量が少ないため、接点は浅溝542の端部542a,542bまで移動せず、この部位の摩耗、変形も防止される。
【0031】
一方、モーメント荷重F2が外輪52に作用すると、
図5に示すように、転がり軸受17のラジアル内部隙間が軸受上部で閉じ、軸受下部で開く。軸受上部では、接点が転動体53の中心から移動するが、移動量が少ないため接点は浅溝542の端部542a,542bまで移動せず、この部位の摩耗、変形が防止される。軸受下部では、隙間が開いているため、接点が軸受中心から大きく移動するが、移動方向に深溝541が設けられているため、接点は深溝541の端部541a,541bまで移動せず、この部位の摩耗、変形が防止される。
【0032】
したがって、モーメント荷重F1,F2により内輪51、外輪52のどちらが傾いた場合でも、軌道溝54の端部の摩耗、変形を防止し、転がり軸受17,25の耐久性を向上させることができる。このため、遊星ギヤ26の偏心回転に伴ってモーメント荷重F1,F2が転がり軸受17,25に繰り返し作用するバルブタイミング調整装置10において、減速機構12に高い信頼性を与えることが可能になる。
【0033】
<第2実施形態>
上記実施形態では、減速機構12に2つの転がり軸受17,25が使用されているが、転がり軸受の個数は特に限定されない。
図6に示す第2実施形態のバルブタイミング調整装置では、第1転がり軸受17、第2転がり軸受25に加えて、第3転がり軸受61が用いられている。第3転がり軸受61は、減速機構12の低速側において、スプロケット部材13と出力部材22との間に介装されている。高速側の2つの転がり軸受17,25と異なり、第3転がり軸受61には、軌道溝54の深さが軸方向の両側で等しいラジアルボールベアリングを使用することができる。
【0034】
<他の実施形態>
その他、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、次に例示するように、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各部の構成を適宜変更して実施することも可能である。
【符号の説明】
【0040】
10・・・バルブタイミング調整装置、11・・・モータ、
12・・・減速機構、17・・・第1転がり軸受、25・・・第2転がり軸受、
42・・・給油通路、43・・・第1排油部、51・・・内輪、52・・・外輪、
53・・・転動体、54・・・軌道溝、541・・・深溝、542・・・浅溝、
100・・・車両用エンジン、104,106・・・カム軸、107・・・吸気バルブ、
109・・・排気バルブ、551・・・第1スラスト受け、O・・・潤滑油。