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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】コネクタ
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/42 20060101AFI20240123BHJP
【FI】
H01R13/42 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020142678
(22)【出願日】2020-08-26
(65)【公開番号】P2022038271
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米津 拓真
(72)【発明者】
【氏名】松田 英一
【審査官】山下 寿信
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-062685(JP,A)
【文献】特開2013-206668(JP,A)
【文献】特開2014-216243(JP,A)
【文献】特開2003-115345(JP,A)
【文献】特開2016-062684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子収容室を有するハウジングと、
係止孔を有し、前記ハウジングの後方から前記端子収容室に挿入される端子金具と、
前記端子収容室に挿入された前記端子金具を抜止めするランスとを備え、
前記ランスは、
前方へ片持ち状に延出した形態であり、前記端子金具の挿入方向と交差する方向へ弾性変位可能な本体部と、
前記本体部から前記端子金具側へ突出し、前記端子金具が前記端子収容室に挿入されたときに前記係止孔内に進入する突起部とを有し、
前記突起部の幅寸法は、前記係止孔の幅寸法よりも小さく、
前記本体部の最大幅寸法は、前記突起部の幅寸法よりも大きく、
前記本体部のうち前記突起部に連なる部位には、幅寸法が前記突起部に向かって次第に小さくなった誘導部が形成されており、
前記端子金具は、前記係止孔の開口縁のうち一方の側縁から前記ランス側へ延出したスタビライザを有し、
前記誘導部を構成する一対の側面が、前記スタビライザと対向する第1斜面と、前記誘導部を挟んで前記スタビライザとは反対側に位置する第2斜面とによって構成され、
前記第1斜面と前記突起部の側面とがなす角度は、前記第2斜面と前記突起部の側面とがなす角度よりも小さいコネクタ。
【請求項2】
前記ランスは、前記ランスの前方に臨み、前記突起部及び前記誘導部を構成する傾斜面を有しており、
前記傾斜面は、前記突起部が前記本体部よりも前方に位置するようにオーバーハングに傾斜している請求項1に記載のコネクタ。
【請求項3】
前記ランスの前端部には、前記傾斜面よりも前方へ突出した形態であり、前記誘導部を挟んで前記突起部とは反対側に配置された変位規制部が形成されている請求項2に記載のコネクタ。
【請求項4】
前記ハウジングの前壁部には、
前記ハウジングの前面から前記端子収容室に連通する挿入孔と、
前記挿入孔を包囲するように前記ハウジングの前記前面をテーパ状に凹ませた誘導面と、
正面視において前記ランスのうち少なくとも前記突起部と対応する領域を切欠いた形態の型抜き孔とが形成されている請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コネクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、雌端子収容孔を有する第1ハウジングと、雌端子収容孔に挿入された雌型接続端子とを有するコネクタが開示されている。雌端子収容孔には、突起部を有する雌端子係止ランスが形成されている。雌型接続端子には、切り欠き形状のランス係合孔が形成されている。雌端子収容孔に挿入された雌型接続端子は、雌端子係止ランスの突起部にランス係合孔を係止させることによって抜止めされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-209221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
雌型接続端子の挿入過程では、雌型接続端子が突起部と干渉することによって雌端子係止ランスが弾性変位し、雌型接続端子が正規位置まで挿入されると、雌端子係止ランスが弾性復帰して突起部がランス係合孔に進入する。ランス係合孔に対する突起部の進入動作を円滑にするために、雌端子係止ランスは、ランス係合孔の開口幅よりも幅狭に形成されている。そのため、雌型接続端子が後方へ引っ張られて、ランス係合孔の前縁部が突起部の基端部に強く当接したときに、突起部の基端部に剪断応力が集中する。
【0005】
本開示のコネクタは、上記のような事情に基づいて完成されたものであって、端子金具が引っ張られたときにランスに生じる剪断応力を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のコネクタは、
端子収容室を有するハウジングと、
係止孔を有し、前記ハウジングの後方から前記端子収容室に挿入される端子金具と、
前記端子収容室に挿入された前記端子金具を抜止めするランスとを備え、
前記ランスは、
前方へ片持ち状に延出した形態であり、前記端子金具の挿入方向と交差する方向へ弾性変位可能な本体部と、
前記本体部から前記端子金具側へ突出し、前記端子金具が前記端子収容室に挿入されたときに前記係止孔内に進入する突起部とを有し、
前記突起部の幅寸法は、前記係止孔の幅寸法よりも小さく、
前記本体部の最大幅寸法は、前記突起部の幅寸法よりも大きく、
前記本体部のうち前記突起部に連なる部位には、幅寸法が前記突起部に向かって次第に小さくなった誘導部が形成されている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、端子金具が引っ張られたときにランスに生じる剪断応力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例1のコネクタの側断面図である。
図2図2は、端子金具が後方へ引っ張られてランスが端子金具側へ変位した状態をあらわす部分拡大側断面図である。
図3図3は、コネクタの部分拡大正断面図である。
図4図4は、端子金具が端子収容室に挿入されていない状態をあらわすハウジングの部分拡大正断面図である。
図5図5は、ランスの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
本開示のコネクタは、
(1)端子収容室を有するハウジングと、係止孔を有し、前記ハウジングの後方から前記端子収容室に挿入される端子金具と、前記端子収容室に挿入された前記端子金具を抜止めするランスとを備え、前記ランスは、前方へ片持ち状に延出した形態であり、前記端子金具の挿入方向と交差する方向へ弾性変位可能な本体部と、前記本体部から前記端子金具側へ突出し、前記端子金具が前記端子収容室に挿入されたときに前記係止孔内に進入する突起部とを有し、前記突起部の幅寸法は、前記係止孔の幅寸法よりも小さく、前記本体部の最大幅寸法は、前記突起部の幅寸法よりも大きく、前記本体部のうち前記突起部に連なる部位には、幅寸法が前記突起部に向かって次第に小さくなった誘導部が形成されている。
【0010】
本開示の構成によれば、端子金具を端子収容室に挿入する過程では、突起部が端子金具と干渉することによって、ランスが端子金具から遠ざかる方向へ弾性変位する。端子金具が正規挿入されると、ランスが弾性復帰するのに伴って突起部が係止孔に進入し、突起部が係止孔の前縁に係止することによって、端子金具が抜止めされる。端子金具が後方へ引っ張られると、突起部の前面が係止孔の前縁に摺接しながら、ランスが端子金具側へ変位し、本体部が係止孔内に収容される。本体部のうち突起部に連なる部位には、幅寸法が突起部に向かって次第に小さくなる誘導部が形成されているので、本体部が係止孔の側縁に引っ掛かるおそれがない。端子金具が後方へ引っ張られたときに、係止孔の前縁は、突起部よりも幅寸法の大きい本体部に係止するので、突起部に係止孔の前縁が係止する場合に比べると、ランスに生じる剪断応力が低減される。
【0011】
(2)前記ランスは、前記ランスの前方に臨み、前記突起部及び前記誘導部を構成する傾斜面を有しており、前記傾斜面は、前記突起部が前記本体部よりも前方に位置するようにオーバーハングに傾斜していることが好ましい。この構成によれば、端子金具が後方へ引っ張られたときには、係止孔の前縁が傾斜面を押すので、ランスは傾斜面の傾斜によって端子金具側へ確実に変位する。これにより、係止孔の前縁に対して、本体部を確実に当接させることができる。
【0012】
(3)(2)において、前記ランスの前端部には、前記傾斜面よりも前方へ突出した形態であり、前記誘導部を挟んで前記突起部とは反対側に配置された変位規制部が形成されていることが好ましい。この構成によれば、端子金具が後方へ引っ張られたときに、変位規制部が係止孔の前縁に当たったところでランスの端子金具側への変位が止まる。これにより、ランスが係止孔の前縁から外れることを防止できる。
【0013】
(4)前記端子金具は、前記係止孔の開口縁のうち一方の側縁から前記ランス側へ延出したスタビライザを有し、前記誘導部を構成する一対の側面が、前記スタビライザと対向する第1斜面と、前記誘導部を挟んで前記スタビライザとは反対側に位置する第2斜面とによって構成され、前記第1斜面と前記突起部の側面とがなす角度は、前記第2斜面と前記突起部の側面とがなす角度よりも小さいことが好ましい。この構成によれば、第2の斜面と突起部の側面とがなす角度は、第1の斜面と突起部の側面とがなす角度よりも大きいので、本体部が係止孔に進入する過程で、第2斜面が係止孔の側縁に引っ掛かり難い。第1斜面と突起部の側面とがなす角度は、第2斜面と突起部の側面とがなす角度よりも小さいので、本体部の幅寸法を大きく確保することができる。
【0014】
(5)前記ハウジングの前壁部には、前記ハウジングの前面から前記端子収容室に連通する挿入孔と、前記挿入孔を包囲するように前記ハウジングの前記前面をテーパ状に凹ませた誘導面と、正面視において前記ランスのうち少なくとも前記突起部と対応する領域を切欠いた形態の型抜き孔とが形成されていることが好ましい。この構成によれば、型抜き孔は、ランスのうち幅寸法の小さい突起部と対応しているので、誘導面に形成される型抜き孔が、突起部と対応せずに幅広の本体部のみと対応している場合に比べると、誘導面の面積を広く確保することができる。
【0015】
[本開示の実施形態の詳細]
[実施例1]
本開示のコネクタを具体化した実施例1を、図1図5を参照して説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。本実施例1において、前後の方向については、図1,2における左方を前方と定義する。上下の方向については、図1~5にあらわれる向きを、そのまま上方、下方と定義する。左右の方向については、図3,4にあらわれる向きを、そのまま左方、右方と定義する。
【0016】
本実施例1のコネクタは。合成樹脂製のハウジング10と、電線32の前端部に固着された複数の金属製の端子金具30とを有する。図1~3に示すように、ハウジング10の内部には、複数の端子収容室11が形成されている。端子収容室11の後端は、ハウジング10の後面において端子挿入口12として開口している。ハウジング10の前壁部13には、ハウジング10の前面10Fから各端子収容室11に個別に連通する複数の挿入孔14が形成されている。図4に示すように、ハウジング10を前方から見た正面視において、挿入孔14は方形に開口している。図4に示すように、挿入孔14には、ハウジング10の前方から相手側端子38のタブ39が挿入されるようになっている。
【0017】
前壁部13には、ハウジング10の前面10Fのうち挿入孔14を囲む方形領域を凹ませた形態の誘導面15が形成されている。誘導面15は、タブ39が挿入孔14から位置ずれしたときに、タブ39を挿入孔14へ誘導するためのガイド機能を有する。図1,2に示すように、前壁部13には、ハウジング10の前面10Fから端子収容室11内へ貫通した形態の型抜き孔16が形成されている。型抜き孔16は、後述するランス20を金型成形する工程で形成された空間である。
【0018】
図1,2に示すように、端子収容室11内には、端子収容室11内の正規位置に挿入された端子金具30を抜止め状態に保持するためのランス20が形成されている。ランス20は、端子収容室11の下面に沿って前方へ片持ち状に延出した形態の本体部21と、本体部21から上方へ突出した形態の突起部25と、本体部21から前方へ突出した形態の変位規制部26とを有している。ランス20の本体部21は、本体部21の後端部(基端部)を支点として、上下方向へ姿勢を斜めにしながら弾性変形することができる。
【0019】
図3~5に示すように、本体部21の上端部には、幅寸法が上方に向かって次第に小さくなる形態の誘導部22が形成されている。図3,4に示すように、誘導部22の正面視形状は、左右非対称な台形である。誘導部22の正面視における左側の側面は、第1斜面23Lとなっている。誘導部22の正面視における右側の側面は、第2斜面23Rとなっている。本体部21のうち誘導部22よりも下方の部位は、幅寸法が一定の幅広部24となっている。幅広部24の幅寸法は、本体部21の最大幅寸法及び誘導部22の最大幅寸法と同じ寸法である。
【0020】
突起部25は、本体部21から端子収容室11内の端子金具30に接近する方向へ突出している。前後方向における突起部25の形成範囲は、本体部21の前端から後端部までの全領域である。突起部25の上面は、後方に向かって次第に低くなるように傾斜している。図3,4に示すように、突起部25の左右方向の幅寸法は、本体部21の最大幅寸法よりも小さい寸法であり、誘導部22の最小幅寸法と同じ寸法である。
【0021】
図4に示すように、突起部25の左側面25Lと第1斜面23Lは、鈍角θ1をなして連なっている。突起部25の右側面25Rと第2斜面23Rは、鈍角θ2をなして連なっている。突起部25の左側面25Lと第1斜面23Lとのなす角度θ1は、突起部25の右側面25Rと第2斜面23Rとのなす角度θ2よりも小さい。正面視において、突起部25の左右方向の中心25Cは、本体部21(幅広部24)の左右方向の中心21Cに対して右方へ偏心している。また、ランス20全体(本体部21の中心21C)は、端子収容室11の左右方向の中心11Cに対して左方へ偏心した位置に配置されている。
【0022】
図1,2,5に示すように、変位規制部26は、本体部21のうち幅広部24の前端から前方へ突出している。図2,5に示すように、ランス20の前面のうち変位規制部26よりも上方の領域は、ランス20の前方への突出方向に対してオーバーハング状に僅かに傾斜した平面からなる傾斜面27となっている。傾斜面27は、誘導部22の前面及び突起部25の前面を構成する。
【0023】
図4に示すように、ハウジング10の前壁部13に形成されている型抜き孔16は、正面視において誘導面15の一部を切り欠いた形態である。型抜き孔16のうち誘導面15を切り欠いている領域は、ランス20のうち突起部25及び誘導部22と対応する空間である。型抜き孔16のうち幅広部24と対応する空間は、誘導面15よりも下方の領域に配されている。突起部25は幅広部24よりも幅寸法が小さいので、誘導面15において型抜き孔16によって欠損する面積は、幅広部24が誘導面15と対応している場合に比べると小さい。
【0024】
端子金具30は、金属板材に曲げ加工等を施すことによって、全体として前後方向に細長い形状に成形したものである。図1に示すように、端子金具30の後端部の圧着部31は、電線32に圧着されている。端子金具30の前端部には角筒部33が形成されている。図3に示すように、角筒部33には、角筒部33の左側板部33Lを下方へ面一状に延長させた形態のスタビライザ34が形成されている。
【0025】
図1~3に示すように、角筒部33には、角筒部33の下面に開口する係止孔35が形成されている。図3に示すように、正面視において、ランス20は端子収容室11に対して左方へ偏心して配置されているので、係止孔35も、端子収容室11及び端子金具30(角筒部33)に対して左方へ偏心している。係止孔35の左右方向の開口範囲は、角筒部33の左側板部33Lの内面から、角筒部33の右側板部33Rの内面よりも左方の位置に至る範囲である。係止孔35は、角筒部33の下板部33Bのうち右端部以外の領域を切り欠いた形態である。係止孔35の開口縁のうち左側縁35Lは、スタビライザ34の内面によって構成されている。係止孔35の開口縁のうち右側縁35Rは、下板部33Bによって構成されている。係止孔35の左右方向の幅寸法は、ランス20の突起部25の幅寸法よりも大きい。
【0026】
次に、ハウジング10に端子金具30を挿入する過程を説明する。端子金具30を端子収容室11に挿入する過程では、角筒部33の下板部33Bが突起部25と干渉することによって、ランス20が端子金具30から下方へ遠ざかるように弾性変位する。端子金具30が正規位置まで挿入されると、ランス20が弾性復帰して、図1に示すように、突起部25が係止孔35内に進入する。突起部25の幅寸法は係止孔35の幅寸法よりも小さいので、突起部25が係止孔35の開口縁と干渉することはない。
【0027】
突起部25が係止孔35に進入すると、突起部25の前面(傾斜面27)が係止孔35の前縁35Fに対して接近して対向する。傾斜面27のうち誘導部22を構成する部位は、角筒部33よりも下方、即ち係止孔35の外部に位置する。係止孔35の前縁35Fは傾斜面27に対して前方から近接して対向するので、端子金具30が後方へ引っ張られても、係止孔35の前縁35Fがランス20の傾斜面27に突き当たって係止されることによって、端子金具30が抜止め状態に保持される。
【0028】
端子金具30が強く後方へ引っ張られた場合には、係止孔35の前縁35Fがオーバーハング状の傾斜面27を強く押すので、傾斜面27の傾斜によってランス20が上方へ弾性変位する。図2に示すように、ランス20の弾性変位に伴って、誘導部22が係止孔35内に進入する。このとき、第2斜面23Rが係止孔35の右側縁35Rと干渉することが懸念される。しかし、図4に示すように、突起部25の右側面25Rと第2斜面23Rとのなす角度θ2を大きく設定することによって、ランス20の弾性変位方向に対する第2斜面23Rの傾斜角度を小さくしている。これにより、第2斜面23Rは、係止孔35の右側縁35Rに接触したとしても、引っ掛かることなく摺接するので、係止孔35の右側縁35Rと干渉することはない。
【0029】
一方、第1斜面23Lに関しては、突起部25の左側面25Lとのなす角度θ1を、第2斜面23Rと突起部25の右側面25Rとのなす角度θ2よりも小さく設定している。この角度設定により、本体部21(幅広部24)の左側面24Lが突起部25の左側面25Lに対して左方へ大きく張り出すので、本体部21の幅寸法を大きくすることが実現されている。突起部25の左側面25Lと第1斜面23Lとの角度θ1を小さくすると、ランス20の弾性変位方向に対する第1斜面23Lの傾斜角度が大きくなるため、第1斜面23Lが係止孔35の左側縁35Lと干渉することが懸念される。しかし、係止孔35の左側縁35Lを構成する端子金具30のスタビライザ34は、ランス20の第1斜面23Lよりも下方の位置まで延びているので、第1斜面23Lが係止孔35の左側縁35Lと干渉することはない。
【0030】
端子金具30が後方へ強く引っ張られると、図2に示すように、誘導部22が、変位規制部26を角筒部33の下板部33Bの下面に突き当てるまで係止孔35内に進入し、係止孔35の前縁35Fが誘導部22の前面(傾斜面27)を強く押圧する。この押圧により、ランス20には、係止孔35の前縁35Fを境とする前後方向の剪断応力が生じる。剪断応力が生じる位置は、突起部25ではなく、突起部25よりも幅の広い誘導部22であり、誘導部22のうち最も幅寸法の大きい下端部である。係止孔35の前縁35Fからランス20に加わる剪断力は、幅寸法が大きいほど左右に分散されるので、本体部21よりも幅の狭い突起部25に剪断力が加わる場合に比べると、ランス20に生じる剪断応力は小さく抑えられる。したがって、ランス20の剪断破壊が防止される。
【0031】
本実施例1のコネクタは、端子収容室11を有するハウジング10と、ハウジング10の後方から端子収容室11に挿入される端子金具30と、端子収容室11に挿入された端子金具30を抜止めするランス20とを備えている。ランス20は、本体部21と突起部25とを有する。本体部21は、前方へ片持ち状に延出した形態であり、端子金具30の挿入方向と交差する上下方向へ弾性変位が可能である。突起部25は、本体部21から端子金具30側へ突出した形態であり、端子金具30が端子収容室11に挿入されたときに端子金具30の係止孔35内に進入する。突起部25の幅寸法は、係止孔35の幅寸法よりも小さい。本体部21の最大幅寸法は、突起部25の幅寸法よりも大きい。本体部21のうち突起部25に連なる部位(上端部)には、幅寸法が突起部25に向かって次第に小さくなった誘導部22が形成されている。
【0032】
この構成によれば、端子金具30を端子収容室11に挿入する過程では、突起部25が端子金具30と干渉することによって、ランス20が端子金具30から遠ざかる方向へ弾性変位する。端子金具30が正規挿入されると、ランス20が弾性復帰するのに伴って突起部25が係止孔35に進入し、突起部25が係止孔35の前縁35Fに係止することによって、端子金具30が抜止めされる。端子金具30が後方へ引っ張られると、突起部25の前面(傾斜面27)が係止孔35の前縁35Fに摺接しながら、ランス20が端子金具30側へ変位し、本体部21の上端部が係止孔35内に収容される。
【0033】
本体部21のうち突起部25に連なる部位には、幅寸法が突起部25に向かって次第に小さくなる誘導部22が形成されているので、本体部21が係止孔35の左側縁35Lや右側縁35Rに引っ掛かるおそれがない。端子金具30が後方へ引っ張られたときに、係止孔35の前縁35Fは、突起部25よりも幅寸法の大きい本体部21(誘導部22)に係止するので、突起部25に係止孔35の前縁35Fが係止する場合に比べると、ランス20に生じる剪断応力が低減される。
【0034】
ランス20は、ランス20の前方に臨む傾斜面27を有する。傾斜面27は、突起部25及び誘導部22を構成し、突起部25が本体部21よりも前方に位置するようにオーバーハングに傾斜している。端子金具30が後方へ引っ張られたときには、係止孔35の前縁35Fが傾斜面27を押すので、ランス20は傾斜面27の傾斜によって端子金具30側へ確実に変位する。これにより、係止孔35の前縁35Fに対して、本体部21を確実に当接させることができる。
【0035】
ランス20の前端部には、変位規制部26が形成されている。変位規制部26は、傾斜面27よりも前方へ突出した形態であり、誘導部22を挟んで突起部25とは上下反対側に配置されている。変位規制部26を形成したことによって、端子金具30が後方へ引っ張られたときに、変位規制部26が係止孔35の前縁35Fに当たったところでランス20の端子金具30側への変位が止まる。これにより、ランス20が係止孔35の前縁35Fから外れることを防止できる。
【0036】
端子金具30は、係止孔35の開口縁のうち一方の側縁(左側縁35L)からランス20側へ延出したスタビライザ34を有している。誘導部22を構成する左右一対の側面は、スタビライザ34と対向する第1斜面23Lと、誘導部22を挟んでスタビライザ34とは反対側に位置する第2斜面23Rとによって構成されている。第1斜面23Lと突起部25の左側面25Lとがなす角度θ1は、第2斜面23Rと突起部25の右側面25Rとがなす角度θ2よりも小さい。第1斜面23Lは、スタビライザ34と対向しているので、端子金具30が後方へ強く引っ張られて、本体部21が係止孔35に進入するときに、係止孔35の左側縁35Lと干渉することはない。第2斜面23Rと突起部25の右側面25Rとがなす角度θ2は、第1斜面23Lと突起部25の左側面25Lとがなす角度θ1よりも大きいので、本体部21が係止孔35に進入する過程で、第2斜面23Rが係止孔35の右側縁35Rに引っ掛かり難い。
【0037】
ハウジング10の前壁部13には、挿入孔14と誘導面15と型抜き孔16が形成されている。挿入孔14は、ハウジング10の前面10Fから端子収容室11に連通している。誘導面15は、挿入孔14を包囲するようにハウジング10の前面10Fをテーパ状に凹ませた形態である。型抜き孔16は、正面視においてランス20のうち少なくとも突起部25と対応する領域を切欠いた形態である。型抜き孔16のうち誘導面15を切り欠く領域が、突起部25とは対応せずに幅広の本体部21のみと対応している場合は、誘導面15の面積が小さくなる。これに対し本実施例1の型抜き孔16は、ランス20の本体部21のうち幅広部24とは対応せず、幅広部24よりも幅寸法の小さい突起部25、及び本体部21のうち突起部25に向かって幅寸法が小さくなる誘導部22のみと対応している。これにより、誘導面15において型抜き孔16によって切り欠かれる範囲が小さくなるので、誘導面15の面積が広くなり、誘導面15によってタブ39をガイドできる範囲を広く確保することができる。
【0038】
[他の実施例]
本発明は、上記記述及び図面によって説明した実施例1に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示される。本発明には、特許請求の範囲と均等の意味及び特許請求の範囲内でのすべての変更が含まれ、下記のような実施形態も含まれることが意図される。
上記実施例1では、本体部のうち傾斜面が形成されているのは、誘導部だけであるが、傾斜面の形成範囲は、本体部のうち誘導部以外の領域にわたっていてもよい。
上記実施例1では、ランスがオーバーハング状の傾斜面を有しているが、ランスはオーバーハング状の傾斜面を有しない形態であってもよい。
上記実施例1では、誘導部を構成する一対の側面が、傾斜角度の異なる第1斜面と第2斜面とによって構成されているが、誘導部を構成する一対の側面は左右対称な形状であってもよい。
上記実施例1では、型抜き孔が、ランスの突起部と誘導部とに対応しているが、型抜き孔は、突起部のみと対応する形や、誘導部のみと対応する形態としてもよい。
【符号の説明】
【0039】
10…ハウジング
10F…ハウジングの前面
11…端子収容室
12…端子挿入口
13…前壁部
14…挿入孔
15…誘導面
16…型抜き孔
20…ランス
21…本体部
22…誘導部
23L…第1斜面
23R…第2斜面
24…幅広部
24L…幅広部の左側面
25…突起部
25L…突起部の左側面
25R…突起部の右側面
26…変位規制部
27…傾斜面
30…端子金具
31…圧着部
32…電線
33…角筒部
33B…角筒部の下板部
33L…角筒部の左側板部
33R…角筒部の右側板部
34…スタビライザ
35…係止孔
35F…係止孔の前縁
35L…係止孔の左側縁
35R…係止孔の右側縁
38…相手側端子
39…タブ
θ1…第1斜面と突起部の左側面とがなす角度
θ2…第2斜面と突起部の右側面とがなす角度
図1
図2
図3
図4
図5