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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】分散装置
(51)【国際特許分類】
   B01F 27/93 20220101AFI20240123BHJP
   B01F 35/00 20220101ALI20240123BHJP
   B01F 23/40 20220101ALI20240123BHJP
   B01F 23/50 20220101ALI20240123BHJP
【FI】
B01F27/93
B01F35/00
B01F23/40
B01F23/50
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020149513
(22)【出願日】2020-09-07
(65)【公開番号】P2021041400
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】羽片 豊
(72)【発明者】
【氏名】浅野 晴光
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓太
(72)【発明者】
【氏名】小田木 克明
【審査官】太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-020276(JP,A)
【文献】特開昭53-148067(JP,A)
【文献】特開昭63-214328(JP,A)
【文献】国際公開第2020/136781(WO,A1)
【文献】特開2005-028854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 27/00 - 27/96
B01F 21/00 - 25/90
B01F 35/00 - 35/95
B01F 29/00 - 33/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリー状又は液体状の混合物を供給して、これを分散させる剪断式の分散装置であって、
軸受と、
該軸受に上下方向の軸線を中心として回転自在に支持された回転軸と、
固定されたステータと、
該ステータの下面に対向するように配置され、前記回転軸に固定されて該回転軸により回転駆動されるローターと、
前記回転軸外側の空間を経て、前記ローターの上面と前記ステータの下面との間の、前記混合物が供給される間隙にエアーを供給するエアパージシール機構と、
を備え、
前記ステータには、前記ローターの上面に開口端が位置するように混合物供給口が設けられ、
前記間隙内における前記開口端と前記回転軸との間には、前記ローターと前記ステータとのいずれか一方に基部が固定され、他方に先端部が弾性的に当接するシール部材が設けられている、分散装置。
【請求項2】
前記シール部材を基準として、前記ローターの半径方向外方側に供給される前記間隙内の混合物の供給圧力P1を検出する第1の圧力センサーと、同前記ローターの半径方向内方側に供給される前記間隙内のエアー圧力P2を検出する第2の圧力センサーと、
前記第1の圧力センサー、前記第2の圧力センサーの出力に基づいて前記エアー圧力P2、又は前記混合物供給口に供給する混合物の量を制御する制御装置と、
を備えている請求項1記載の分散装置。
【請求項3】
前記シール部材は、弾性材料から形成された部材であって、前記基部から延出してその先端が他方に弾性的に当接するリップと、を備えている請求項1又は2記載の分散装置。
【請求項4】
前記ステータには、その下面に前記回転軸の軸線を中心とする環状溝が形成され、
前記シール部材は、前記環状溝に固定される環状の前記基部と、該基部から拡径しつつ前記ローターの上面へ延び、その先端部が該上面に当接する前記リップと、を備えている請求項3記載の分散装置。
【請求項5】
前記混合物供給口の内面には、前記第1の圧力センサーが設けられ、
前記ステータには、その中心部に前記回転軸を挿通する回転軸挿通孔が形成され、
前記ローターは、前記回転軸挿通孔から下方へ突出する前記回転軸の下端部に固定され、
前記回転軸挿通孔の内面には、前記第2の圧力センサーが設けられている、請求項4記載の分散装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリー状又は液体状の混合物内の物質を分散させる分散装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高速回転するローターと回転しないステータとの間の狭い間隙に、複数の液体又はスラリーを通過させ、高速回転により発生する高い剪断力で複数の液体又はスラリー中の粉末状の物質を連続的に分散する装置が知られている。ここで、「分散」とは、スラリー中の粉末状の物質を微細化して均一に存在させること、若しくはスラリー中の粉末状の物質を均一に存在させること、又は複数の液体を均一に混合することを意味する。
【0003】
下記特許文献1は、上記構成の装置が開示された具体例である。ここに開示された装置は、ローターとステータとの間に供給された混合物が、ローターの回転軸側に逆流するのを防止するための構成として、エアパージシール機構を備えている。
この分散装置においては、混合物をローターとステータとの間に供給した際に、正常な運転形態として、混合物が遠心力によりローターの半径方向外方へ移動し、最終的にローター、ステータ間の間隙から外部へ放出される。しかし、供給する混合物の量が所定の値を超えた場合、混合物の供給圧力によって該混合物がローターの回転軸側へ逆流する。逆流した混合物は、回転軸を支承する軸受に侵入して回転軸及びローターの回転に支障を与える。
【0004】
そこで上記装置は、回転軸の外側の空間に所定の圧力を持ったエアーを供給し、当該空間に連通するローター、ステータ間の間隙にエアーを導入し、当該エアーの圧力によって混合物が回転軸側へ逆流するのをを防止する構成(エアパージシール機構)を採用したのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5768946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1記載の装置が採用するエアパージシール機構は、ローター、ステータ間の間隙に供給する混合物の量が、同間隙から排出される分散処理後の混合物の量より多くなったときに軸受け側への逆流を防止するものであるが、混合物の量が所定の量を超え、混合物の供給圧力が回転軸の外側空間に供給するエアー圧力より大きくなったとき、回転軸側への逆流は発生してしまう問題があった。
【0007】
また、逆流が発生しない形態で分散処理されていても、ローター、ステータ間の間隙に導入されるエアーによって混合物が乾燥し、混合物の品質が変わってしまうと問題があった。
また、エアーの供給によって混合物に多数の気泡が含まれてしまい、混合物の流動性が低下して排出され難くなったり、後工程で混合物の脱泡処理が必要となる問題があった。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、混合物の回転軸側への逆流を防止して正常な運転を確保し、混合物の乾燥、混合物へ気泡が含まれることを抑えた分散装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明は、スラリー状又は液体状の混合物を供給して、これを分散させる剪断式の分散装置であって、軸受と、該軸受に上下方向の軸線を中心として回転自在に支持された回転軸と、固定されたステータと、該ステータの下面に対向するように配置され、前記回転軸に固定されて該回転軸により回転駆動されるローターと、前記回転軸外側の空間を経て、前記ローターの上面と前記ステータの下面との間の、前記混合物が供給される間隙にエアーを供給するエアパージシール機構と、を備え、前記ステータには、前記ローターの上面に開口端が位置するように混合物供給口が設けられ、前記間隙内における前記開口端と前記回転軸との間には、前記ローターと前記ステータとのいずれか一方に基部が固定され、他方に先端部が弾性的に当接するシール部材が設けられていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、ローターとステータとの間の間隙内にシール部材が設けられているから、混合物が回転軸方向へ逆流することがなく、また回転軸側からエアーが混合物内に侵入することもなく、常に正常運転が確保され、混合物の乾燥、混合物内へのエアーの混入が防止される。
【0011】
本発明の一態様においては、前記シール部材を基準として、前記ローターの半径方向外方側に供給される前記間隙内の混合物の供給圧力P1を検出する第1の圧力センサーと、同前記ローターの半径方向内方側に供給される前記間隙内のエアー圧力P2を検出する第2の圧力センサーと、前記第1の圧力センサー、前記第2の圧力センサーの出力に基づいて前記エアー圧力P2、又は前記混合物供給口に供給する混合物の量を制御する制御装置と、を備えていることを特徴とする。
【0012】
この一態様によれば、ローター、ステータ間の間隙内において、シール部材よりローターの半径方向外方側の混合物供給圧力P1と、シール部材より回転軸側のエアー圧力P2とを制御することによって、シール部材の変形を抑えることができ、エアー圧力P1を高めて混合物の供給量を増やすことができ、装置の生産能力を高めることができる。
【0013】
本発明の一態様においては、前記シール部材は、弾性材料から形成された部材であって、前記基部から延出してその先端が他方に弾性的に当接するリップと、を備えていることを特徴とする。
この一態様によれば、装置の運転時に、シール部材のリップがローター又はステータに摺接し、シール部材が的確にシール機能を果たして混合物の回転軸方向への逆流を防止する。
【0014】
本発明の一態様においては、前記ステータには、その下面に前記回転軸の軸線を中心とする環状溝が形成され、前記シール部材は、前記環状溝に固定される環状の前記基部と、該基部から拡径しつつ前記ローターの上面へ延び、その先端部が該上面に当接する前記リップと、を備えていることを特徴とする。
この一態様によれば、シール部材のリップが拡径しつつローターの上面へ延び、その先端部がローターの上面に当接するので、リップの弾性変形がスムーズになされて高いシール機能を得ることができる。
上記構成の装置においては、分散の程度を混合物の種類や分散の目的によって調整するため、ローターとステータとの間隙厚さを調整し、適切な剪断力に変える必要が発生する。その際、間隙厚さが変化しても、シール部材のリップがその弾性によって間隙厚さの変化に追従し、シール機能を持続することができる。
【0015】
本発明の一態様においては、前記混合物供給口の内面には、前記第1の圧力センサーが設けられ、前記ステータには、その中心部に前記回転軸を挿通する回転軸挿通孔が形成され、前記ローターは、前記回転軸挿通孔から下方へ突出する前記回転軸の下端部に固定され、前記回転軸挿通孔の内面には、前記第2の圧力センサーが設けられていることを特徴とする。
この一態様によれば、ローター、ステータ間の間隙に連通する空間で混合物供給圧力P1とエアー圧力P2とが検出される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、混合物の回転軸側への逆流を防止して正常な運転を確保することができ、混合物の乾燥、混合物へ気泡が含まれることを防いで混合物の品質劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態として示した分散装置の要部縦断面図である。
図2】本発明の一実施形態におけるシール部材の拡大断面図である。
図3】本発明の別の実施形態として示した分散装置の要部縦断面図である。
図4】本発明の変形例におけるシール部材の拡大断面図である。
図5】本発明の変形例におけるシール部材の拡大断面図である。
図6】本発明の変形例におけるシール部材の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態である分散装置の要部を示す図である。
図に示す分散装置1は、回転駆動されるローター2と、該ローター2の上面に対向して配置されるステータ3とを備えており、ローター2とステータ3との間の間隙4にスラリー状又は液体状の混合物5を供給し、該混合物5を遠心力によりローター2の外周方向へ通過させることによって分散させる剪断式の分散装置である。
【0019】
図において符号6は、分散後の混合物5を受ける容器である。容器6は、容器本体7と、容器本体7の上部外方に張り出すように設けられた張り出し壁部8とを備えている。容器6の上方には、カバーユニット9が配設されている。カバーユニット9は、軸受保持部材10とステータ保持部材11とを備えている。軸受保持部材10は、筒状に形成されたものであって、その下部に外方に張り出す環状凸部12を有し、その中心孔13内には軸受14が固定されている。
軸受14は、下端に外方へ張り出すフランジ部14aを有し、フランジ部14aがボルト15により軸受保持部10に固定されている。軸受14には、ローター2を回転駆動するための回転軸16が、上下方向の軸線を中心として回転自在に支承されている。回転軸16は、図示しないモータ及び減速機構によって回転駆動される。
【0020】
ステータ保持部材11は、その中心部に回転軸配置孔21を有するとともに回転軸配置孔21の上部に係合凹所22を有し、その下端部外周に外方へ突出する環状凸部23を有する。また、このステータ保持部材11には、混合物5を間隙4に供給するための供給通路24が形成されている。このステータ保持部材11には、軸受保持部材10が固定されている。すなわち、軸受保持部材10の下端部が係合凹所22内に嵌入され、軸受保持部材10の環状凸部12がボルト25によりステータ保持部材11に固定されている。
この場合、軸受保持部材10の下端面と係合凹所22の底面との間にはエアー導入空間26が形成されている。また、ステータ保持部材11には、供給通路24に連通するように混合物供給管27が固定されている。混合物供給管27には、図示しない混合部供給源から混合物5が供給される。
【0021】
ステータ保持部材11の下面側にはステータ3が配置されている。ステータ3は、円盤状に形成されたものであって、その中心部に回転軸挿通孔31を有し、回転軸挿通孔31から一定寸法半径方向外方へ離間した位置に上下方向に貫通する混合物供給口32を有し、さらにステータ3の下面に回転軸挿通孔31を囲む環状溝33を有する。
混合物供給口32の開口端32aは、間隙4及びローター2の上面2aに臨んで位置している。環状溝33は、開口端32aと回転軸挿通孔31との間に位置している。また、混合物供給口32の内面には第1の凹所34が形成され、回転軸挿通孔31の内面には第2の凹所35が形成されている。
【0022】
このステータ3は、回転軸挿通孔31内に回転軸16を挿通した状態で、かつ、その上面をステータ保持部材11の下面に当接させた状態で該ステータ保持部材11に保持されている。この場合、ステータ3は、容器6の張り出し壁部8上に配置された第1の拘束部材36と、該拘束部材36をステータ保持部材11の環状凸部23に固定するボルト37と、第1の拘束部材36と張り出し壁部8とを拘束する第2の拘束部材38とによってステータ保持部材11に保持される。
上記のようにステータ保持部材11に保持されたステータ3は、回転軸16の周りの定位置に固定された状態となっている。また、ステータ3の混合物供給口32は、ステータ保持部材11の供給通路24と連通するように位置している。
【0023】
上記の構成において、エアー導入空間26には、図示しないエアー供給源から加圧されたエアーが供給されるようになっている。エアー導入空間26に導入されたエアーは、回転軸16の外周面と回転軸配置孔21の内面との間、及び回転軸16の外周面と回転軸挿通孔31の内面との間に形成されている微小な空間39を通って、回転軸16側からローター2とステータ3との間の間隙4に導かれる。このように回転軸16側から間隙4内へ加圧されたエアーを供給する構成はエアパージシール機構40を構成している。
また、混合物供給管27には、図示しない混合物供給源から混合物5が供給されるようになっている。混合物供給管27に供給された混合物5は、供給通路24を通って混合物供給口32に到り、混合物供給口32からローター2とステータ3との間の間隙4内に供給される。
【0024】
ステータ3の下面に設けられた環状溝33内には、ローター2との間の間隙4をシールするシール部材41が設けられている。シール部材41は、エラストマー等の弾性材料から形成されたものであって、環状溝33内に固定されるように環状に形成されている。シール部材41の環状に延在する一部の形状が図2に示されている。
図2に示すようにシール部材41は、環状溝33内に固定される断面略矩形の基部42と、該基部42から拡径しつつ斜め下方に延出するリップ43とを備えている。リップ43は、適度に弾性変形できるように薄厚であり、基部42から先端部に行くに従い厚みが小となるように形成され、先端部がローター2の上面2aに弾性的に当接する。
シール部材41が間隙4内に設けられている位置は、環状溝33の位置からして、混合物供給口32の開口端32aと回転軸16との間である。かくしてシール部材41は、間隙4内をローター2の半径方向外方と半径方向内方とに仕切る。
【0025】
ステータ3の第1の凹所34内には第1の圧力センサー45が設けられており、第2の凹所35内には第2の圧力センサー46が設けられている。
第1の圧力センサー45は、シール部材41を基準として、ローター2の半径方向外方側に供給される間隙4内の混合物5の供給圧力P1を検出するものである。第2の圧力センサー46は、シール部材41を基準として、ローター2の半径方向内方側に供給される間隙4内のエアーの圧力を検出するものである。これら第1、第2の圧力センサー45,46の出力は制御装置48に送られるようになっている。
制御装置48は、混合物5の供給量の制御、その他装置各部の制御を行うほか、第1、第2の圧力センサー45,46の出力に基づいて、間隙4内に供給されるエアーの圧力を制御する。
【0026】
ローター2は、円盤状に形成されたものであって、その中心部に貫通孔51を有し、貫通孔51の上部には係合凹所52が形成されている。係合凹所52の底面には、複数の係合穴53が形成されている。また、ローター2の底面には、その外周部に環状の溝54が形成されている。
このローター2は、係合凹所52内に回転軸16の下端部を嵌入し、その上面2aをステータ3の下面に対向させて回転軸16に固定されている。固定は、係合穴53と回転軸16の下面に形成された係合穴55との間に係合ピン56を挿入し、ローター2の下面側から貫通孔51内にボルト57を挿入し、このボルト57を回転軸16の下面に形成された雌ねじ穴58にねじ込んで締め付けることによりなされている。
上記の構成において、ローター2、ステータ3間の間隙の寸法は、図示しない調整機構により調整できるようなっており、分散後の混合物に含まれる粒子の径に応じて調整できるようになっている。
【0027】
容器6は、ローター2の外周面を囲むように設けられた側壁部61と、側壁部61の下面を閉塞する底壁部62とを備えている。ローター2の外周面と側壁部61との間は、分散処理後の混合物5が流動落下する空間とされており、流動落下に適切な間隔が開けられている。側壁部61の下端部と底壁部62の外周縁との交差部には上方から落下する分散後の混合物5を排出する排出機構63が設けられている。排出機構63は、混合物5を排出する排出管64と、排出管64内の混合物5を負圧吸引する吸引機構65とを備えている。図1には1つの排出管64と吸引機構65の一部のみが示されているが、分散装置1はこれらの構成体が底壁部62の外周部に複数設けられていて、混合物5が複数の上記構成体から容器6の外部へ排出されるように構成されていても良い。
【0028】
容器6の内部には、間隙4から流動落下する混合物5を排出管64に導くようにガイド部材66が設けられている。ガイド部材66は、環状に形成された部材であって、側壁部61に対する間隔がローター2と同じようにとれるよう形成されたものである。
ガイド部材66の上面には環状凸部67が形成されており、この環状凸部67はローター2の下面に形成された溝54内に位置している。この構成により、間隙4から流動落下する混合物5は、容器6の中央部側に流動することなく、スムーズに排出管64に導かれる。
なお、図1において符号68は、分散処理された混合物5を側壁部61の外部から冷却する冷却機構である。
【0029】
次に、上記のように構成された分散装置1について、混合物5を分散処理する場合の動作について説明する。
分散装置1の起動に際しては、予めローター2とステータ3との間の間隙4の寸法、ローター2の回転数、エアパージシール機構40により供給するエアー圧力の大きさ、混合物4の時間当たりの供給量等を設定しておく。
そして、制御装置48を操作して分散装置1を起動すると、図示しないモータが回転して回転軸16が回転し、ローター2が回転駆動される。ローター2が回転すると、ステータ3に設けたシール部材41のリップ43がローター2の上面2aに当接しつつ同上面を相対的に摺動する。したがって、シール部材41は、ローター2が回転した状態において、間隙4を、このシール部材41を基準としてローター2の半径方向外方と半径方向内方、すなわち回転軸16方向とに仕切ることになる。
【0030】
一方、エアパージシール機構40が起動してエアー導入空間26内に加圧されたエアーが導入され、このエアーが回転軸16の外周面と、軸受保持部材10の回転軸配置孔21の内面及びステータ3の回転軸挿通孔31の内面との間の空間39を通り、回転軸16側からローター2とステータ3との間の間隙4に供給される。
また、制御装置48は、図示しない混合物供給源から混合物5を混合物供給管27に供給する。混合物5は、供給通路24を通って混合物供給口32に供給され、この混合物供給口32からローター2とステータ3との間の間隙4に供給される。
【0031】
間隙4に供給された混合物5は、ローター2の回転により遠心力によってローター2の半径方向外方に移動し、この移動の際狭い間隙4内で分散される。分散処理された混合物5は、間隙4の外周端から容器6の側壁部61に衝突し、その後ローター2の外周面と側壁部61との間の空間を通り、更にガイド部材66と側壁部61との間の空間を通って排出管64内に流動する。排出管64内に流動した混合物5は、吸引機構65により容器6の外部へ排出される。
【0032】
上記の動作において、間隙4内に供給される混合物5の供給圧力P1によっては、混合物供給口32から間隙4内に供給された混合物5がローター2の半径方向内方、すなわち回転軸16方向へ移動することがある。この分散装置1においては、間隙4内にシール部材41が設けられているので、間隙4内の混合物5が回転軸16方向に逆流しても、混合物5はシール部材41に移動を阻止されて回転軸16側に到ることはない。
したがって、混合物5が回転軸16側に逆流し、空間39を経て軸受14に侵入することがなく、常に軸受14の機能を確保してローター2の正常回転を維持することができる。
【0033】
一方、この分散装置1においては、装置の運転時に回転軸16側からエアーが間隙4内に供給されている。この際間隙4内のエアーは、シール部材41で遮断されるので、混合物5が供給されている領域に侵入することがない。
したがって、エアーが混合物5に触れて混合物5が乾燥することがない。また、エアーが混合物5に混入するのを防止することができる。
【0034】
ここで、間隙4内の混合物5の供給圧力P1とエアー圧力P2とに一定の値以上の差が生じると、シール部材41のリップ43が変形してシール部材41の両側間に隙間が生じ、混合物5の逆流等が生じる惧れがある。しかし、この分散装置1においては、制御装置48が第1、第2の圧力センサー45、46の出力に基づいて圧力P1、P2が均衡するように制御する。したがって、リップ43の変形が防止され上記逆流等の問題が生じない。
また、間隙4がシール部材41によって物理的に遮断されているので、混合物5の乾燥、混合物5へのエアーの混入を考慮することなくエアーの圧力を従来より高めることができ、したがってシール効果が高い状態で混合物5の供給量を増やすことが可能となり、装置の生産性を高めることができる。
【0035】
また、本実施形態におけるシール部材41は、基部42からリップ43の先端部に行くに従い厚みが小となるように形成され、リップ43の先端部がローター2の上面2aに弾性的に当接する。従って、分散装置1の剪断力を調整するため、ローター2とステータ3との間隙4の厚さを調整し、間隙4の厚さが変化しても、シール部材41のリップ43がその弾性によって間隙厚さの変化に追従し、シール機能を持続することができる。
【0036】
上記の実施の形態では、シール部材として、弾性材料から形成され、基部41とリップ43とを備えたものを用いているが、このシール部材は他の材料、構成からなるものでもよい。
例えば、各種のグランドパッキンの構成を採用することができ、繊維糸を編み込んだブレードパッキンとすることもできる。
【0037】
図3は、本発明の別の実施形態を示す図である。この実施形態が上記の実施形態と異なる点は、シール部材41を上記の実施形態のようにステータ3側に設けるのではなく、ローター2側に設けたことであり、その他の構成は上記の実施形態と同一である。
すなわち、この実施形態では、ローター2の上面2aに、貫通孔51の軸線を中心とする環状溝33Aが形成されており、この環状溝33Aにはシール部材41Aの基部42Aが固定されている。シール部材41Aは、上記の実施形態のシール部材41と同一構成であり、そのリップ43Aの先端部はステータ3の下面に当接している。この実施形態においては、装置を起動させてローター2が回転すると、シール部材41Aがステータ3の下面を摺動する。
この実施形態においても、シール部材41Aが間隙4内を仕切るので、上記の実施形態と同様の作用、効果を得ることができる。
【0038】
図4から図5は、本発明の変形例におけるシール部材の拡大断面図である。
図4に示すように、本変形例では、基部42の上部にスペーサー42aを備えている。本変形例におけるスペーサー42aは、環状のリング形状を有し、環状溝33、33Aの底部に固定される。このスペーサー42aは、ローター2とステータ3との間隙4の厚さを調整した際、リップ43の高さを調節するため用いられる。このスペーサー42aにより、ローター2とステータ3との間隙4の厚さに追随して、リップ43の当接によるシール効果を確実なものとすることができる。
【0039】
図5に示すシール部材41bは、先端部としてリップ43bとリップ43cの2つのリップを備えている。本変形例では、リップ43bと43cの2つのリップによって、シール効果をより確実なものとすることができる。なお、リップの数は2つに限定されるものではなく、処理する混合物の性状や分散処理の種々の状況に応じて3つ以上のリップを有するシール部材を採用してよい。
【0040】
図6に示すシール部材41eは、上述の実施形態におけるシール部材41の内側にシール部材41dを隣接して配置したものである。この場合、環状溝33、33Aの幅は、シール部材41と41dの両方が固定できるように拡張される。本変形例では、シール部材を2重にすることにより確実なシール効果を得ることができる。なお、本変形例では、環状溝33、33Aの幅を拡張して2つのシール部材41、41dを一つの溝に固定するようにしたが、これに限定されず、環状溝を別途設けて2つの環状溝にシール部材41、41dをそれぞれ別個に固定するように構成してよい。
【0041】
1 分散装置
2 ローター
2a ローターの上面
3 ステータ
4 間隙
5 混合物
14 軸受
16 回転軸
31 回転軸挿通孔
32 混合物供給口
32a 開口端
33 環状溝
39 空間
40 エアパージシール機構
41 シール部材
42 基部
43 リップ(先端部)
45 第1の圧力センサー
46 第2の圧力センサー
48 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6