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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】噴射制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/20 20060101AFI20240123BHJP
   F02M 51/00 20060101ALI20240123BHJP
   F02M 51/06 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
F02D41/20
F02M51/00 A
F02M51/06 M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020157467
(22)【出願日】2020-09-18
(65)【公開番号】P2022051148
(43)【公開日】2022-03-31
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】加藤 浩介
(72)【発明者】
【氏名】福田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】石川 恭雅
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-336568(JP,A)
【文献】特開2015-175325(JP,A)
【文献】特開2020-033926(JP,A)
【文献】国際公開第2015/045503(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00-45/00
F02M 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射弁を電流駆動して開弁・閉弁することにより、内燃機関に対する燃料噴射を制御する噴射制御装置(1)であって、
バッテリ電圧を昇圧する昇圧回路(3)と、
前記昇圧回路を昇圧制御する昇圧制御部(5a)と、
前記昇圧回路に対する充電許可・禁止を前記昇圧制御部に設定する充電制御設定部(10a)と、
駆動電流誤差の噴射量への影響の大小を判定する影響大小判定部(10b)と、を備え、
前記充電制御設定部は、駆動電流誤差の噴射量への影響の大小に応じて前記昇圧回路に対する充電許可・禁止を前記昇圧制御部に設定し、駆動電流誤差の噴射量への影響が大であると判定された場合に、充電禁止を前記昇圧制御部に設定する噴射制御装置。
【請求項2】
前記影響大小判定部は、噴射の種類を判定し、微小噴射又は学習用微小噴射である場合に、駆動電流誤差の噴射量への影響が大であると判定する請求項1に記載した噴射制御装置。
【請求項3】
前記影響大小判定部は、燃圧の脈動を判定し、燃圧の脈動が所定レベル以上である場合に、駆動電流誤差の噴射量への影響が大であると判定する請求項に記載した噴射制御装置。
【請求項4】
前記充電制御設定部は、充電許可を前記昇圧制御部に設定中に今回の噴射が駆動電流誤差の噴射量への影響が大であると判定された場合に、充電許可から充電禁止に切替える請求項1から3の何れか一項に記載した噴射制御装置。
【請求項5】
噴射が完了しているか否かを判定する噴射完了判定部(10c)を備え、
前記充電制御設定部は、充電禁止を前記昇圧制御部に設定中に前回の噴射が駆動電流誤差の噴射量への影響が大であると判定され、且つ当該前回の噴射が完了していない判定された場合に、充電禁止を継続する請求項から4の何れか一項に記載した噴射制御装置。
【請求項6】
噴射が完了しているか否かを判定する噴射完了判定部(10c)を備え、
前記充電制御設定部は、充電許可を前記昇圧制御部に設定中に今回の噴射が駆動電流誤差の噴射量への影響が小であると判定され、前回の噴射が駆動電流誤差の噴射量への影響が大であると判定され、且つ当該前回の噴射が完了していると判定された場合に、充電禁止から充電許可に切替える請求項から5の何れか一項に記載した噴射制御装置。
【請求項7】
運転状況が所定状況であるか否かを判定する運転状況判定部(10d)を備え、
前記充電制御設定部は、運転状況が所定状況であると判定された場合に、充電許可を前記昇圧制御部に設定する請求項から6の何れか一項に記載した噴射制御装置。
【請求項8】
噴射回数が所定回数以下であるか否かを判定する噴射回数判定部(10e)を備え、
前記充電制御設定部は、噴射回数が所定回数以下であると判定された場合に、充電許可を前記昇圧制御部に設定する請求項1から7の何れか一項に記載した噴射制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射弁を電流駆動して開弁・閉弁することにより、内燃機関に対する燃料噴射を制御する噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
噴射制御装置は、インジェクタと称される燃料噴射弁を電流駆動して開弁・閉弁することにより、例えば自動車のガソリンエンジン等の内燃機関に対する燃料噴射を制御する。噴射制御装置は、燃料噴射弁に高電圧を印加して開弁を制御する。即ち、噴射制御装置は、電源回路の基準電源電圧となるバッテリ電圧を昇圧する昇圧回路と、昇圧回路を昇圧制御する昇圧制御部とを備え、バッテリ電圧を昇圧回路により昇圧して昇圧電圧を生成し、その生成した昇圧電圧を燃料噴射弁に印加して開弁を制御する。
【0003】
噴射制御装置においては、昇圧制御により充電ノイズが発生することがあり、燃料噴射弁の通電電流をモニタして開弁・閉弁を制御するときに、その昇圧制御により発生した充電ノイズが配線基板内又は電源系経路を伝達すると、駆動電流誤差が大きくなり、駆動電流誤差の噴射量への影響が大きくなる可能性がある。駆動電流誤差の噴射量への影響が大きくなると、噴射量がばらつき、排気エミッションが悪化し、燃費が悪化してしまうことになる。このような事情から、充電ノイズの発生による悪影響が駆動電流誤差に及ぼされないように、昇圧制御を一定時間禁止する構成が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-33926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、昇圧制御を一定時間禁止する構成では、内燃機関の1サイクルあたりの充電可能時間が減少してしまい、充電可能時間を十分に確保することができない問題が発生する。このような問題を解決するために、昇圧回路を高速充電可能な回路とすることが考えられるが、高速充電可能な回路を設ける構成では、回路の大型化やコストアップ等の新たな問題が発生する。
【0006】
本発明は、上記した事情を考慮してなされたものであり、本発明の目的は、駆動電流誤差の噴射量への影響を適切に抑えて噴射精度を適切に高めると共に、充電可能時間を適切に確保することができる噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載した発明によれば、噴射制御装置(1)は、燃料噴射弁を電流駆動して開弁・閉弁することにより、内燃機関に対する燃料噴射を制御する。噴射制御装置は、バッテリ電圧を昇圧する昇圧回路(3)と、前記昇圧回路を昇圧制御する昇圧制御部(5a)と、前記昇圧回路に対する充電許可・禁止を前記昇圧制御部に設定する充電制御設定部(10a)と、駆動電流誤差の噴射量への影響の大小を判定する影響大小判定部(10b)と、を備え、前記充電制御設定部は、駆動電流誤差の噴射量への影響の大小に応じて前記昇圧回路に対する充電許可・禁止を前記昇圧制御部に設定し、駆動電流誤差の噴射量への影響が大であると判定された場合に、充電禁止を前記昇圧制御部に設定する。
【0008】
上記した構成によれば、駆動電流誤差の噴射量への影響の大小に応じて昇圧回路の充電を禁止するか許可するかを選択し、駆動電流誤差の噴射量への影響が大きければ、充電禁止を昇圧制御部に設定して昇圧回路の充電を禁止し、一方、駆動電流誤差の噴射量への影響が小さければ、充電許可を昇圧制御部に設定して昇圧回路の充電を許可する。即ち、駆動電流誤差の噴射量への影響が大きければ、昇圧回路の充電を禁止することで、駆動電流誤差の噴射量への影響を適切に抑えて噴射精度を適切に高めることができる。一方、駆動電流誤差の噴射量への影響が小さければ、昇圧回路の充電を許可することで、充電可能時間を適切に確保することができる。これにより、昇圧回路を高速充電可能な回路とする必要がなく、駆動電流誤差の噴射量への影響を適切に抑えて噴射精度を適切に高めると共に、充電可能時間を適切に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態を示すもので、電気的構成を示す機能ブロック図
図2】タイミングチャート
図3】フローチャート(その1)
図4】充電禁止帯を説明する図(その1)
図5】充電禁止帯を説明する図(その2)
図6】充電禁止帯を説明する図(その3)
図7】充電禁止帯を説明する図(その4)
図8】充電禁止帯を説明する図(その5)
図9】フローチャート(その2)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、内燃機関としての自動車のガソリンエンジンの直噴制御に適用した一実施形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態に係る噴射制御装置としての電子制御装置1は、ECU(Electronic Control Unit)と称され、図1に示すように、エンジンの各気筒に設けられている燃料噴射弁2の燃料噴射を制御する。燃料噴射弁2は、インジェクタとも称され、ソレノイドコイル2aに通電してニードル弁を駆動することにより、エンジンの各気筒内に燃料を直接噴射する。尚、図1では4気筒のエンジンを例示しているが、3気筒、6気筒及び8気筒等でも適用することができる。又、ディーゼルエンジン用の噴射制御装置に適用することもできる。
【0011】
電子制御装置1は、昇圧回路3と、マイクロコンピュータ4(以下、マイコン4と称する)と、制御IC5と、駆動回路6と、電流検出部7とを備える。マイコン4は、1又は複数のコア10と、ROM及びRAM等のメモリ11と、A/D変換器等の周辺回路12とを備える。マイコン4は、エンジンの運転状態等を検出するための各種センサ8からセンサ信号Sを入力する。マイコン4は、後述するようにメモリ11に記憶されているプログラム及び各種センサ8から入力するセンサ信号S等に基づいて通電指示TQを算出する。
【0012】
各種センサ8としては、燃料を噴射する際の燃料圧力を検出する燃圧センサ9を含む。図示は省略するが、各種センサ8には、上記した燃圧センサ9以外にも、エンジンの冷却水の温度を検出するための水温センサ、排気の空燃比を検出するA/Fセンサ、エンジンのクランク角を検出するクランク角センサ、エンジンの吸入空気量を検出するエアフロメータ、スロットル開度を検出するスロットル開度センサ等を含む。図1では、各種センサ8を簡略化して示している。
【0013】
マイコン4において、コア10は、各種センサ8から入力するセンサ信号Sからエンジンの負荷を把握し、そのエンジン負荷に基づいて燃料噴射弁2の要求される燃料噴射量を算出する。コア10は、燃料噴射弁2の要求される燃料噴射量を算出すると、その算出した燃料噴射量と、燃圧センサにより検出された燃料を噴射する際の燃料圧力とに基づいて通電指示TQの通電指示時間Tiを算出する。コア10は、各種センサ8から入力するセンサ信号Sから各気筒に対する噴射指令タイミングを算出し、通電指示TQを、その算出した噴射指令タイミングにおいて制御IC5に出力する。この場合、詳しい説明は省略するが、コア10は、A/Fセンサの検出した空燃比に基づいて目標空燃比となるようにA/F補正量を算出し、空燃比フィードバック制御を行う。又、コア10は、A/F補正の履歴に基づいてA/F学習を行い、A/F補正量の計算に学習補正値を加味する。
【0014】
制御IC5は、例えばASICによる集積回路装置であり、図示は省略するが、例えばロジック回路と、CPU等による制御主体と、RAMやROMやEEPROM等の記憶部と、コンパレータを用いた比較器等を備える。制御IC5は、そのハードウェア及びソフトウェア構成により、駆動回路6を介して燃料噴射弁2の電流制御等を行う。制御IC5は、昇圧制御部5a、通電制御部5b、電流モニタ部5c、面積補正量算出部5dとしての機能を備える。
【0015】
昇圧回路3は、図示は省略するが、バッテリ電圧VBを入力し、その入力したバッテリ電圧VBを昇圧して充電部としての昇圧コンデンサ3aに昇圧電圧Vboostを満充電電圧まで充電させる。バッテリ電圧VBは例えば12ボルトであり、昇圧電圧Vboostは例えば65ボルトである。昇圧電圧Vboostは、燃料噴射弁2の駆動用の電力として駆動回路6に供給される。昇圧制御部5aは、昇圧回路3を昇圧制御し、昇圧回路3に対する充電を制御する。
【0016】
駆動回路6は、バッテリ電圧VB及び昇圧電圧Vboostを入力する。図示は省略するが、駆動回路6は、各気筒の燃料噴射弁2のソレノイドコイル2aに対して昇圧電圧Vboostを印加するためのトランジスタ、バッテリ電圧VBを印加するためのトランジスタ、通電する気筒を選択するためのトランジスタ等を備える。駆動回路6の各トランジスタは、通電制御部5bによりオン・オフ制御される。駆動回路6は、通電制御部5bによる通電制御に基づいてソレノイドコイル2aに電圧を印加して燃料噴射弁2を駆動する。
【0017】
電流検出部7は、図示しない電流検出抵抗等から構成され、ソレノイドコイル2aに流れる電流を検出する。電流モニタ部5cは、例えば図示しない比較器やA/D変換器等から構成され、各気筒の燃料噴射弁2のソレノイドコイル2aに実際に流れる通電電流値EIについて電流検出部7を通じてモニタする。
【0018】
制御IC5は、マイコン4から入力する通電指示TQに応じた燃料噴射弁2の通電電流積算値を得るような通電時間Tiと通電電流値EIとの理想的な関係を示した通電電流プロファイルPIを記憶している。通電制御部5bは、通電電流プロファイルPIに基づいて駆動回路6を介して燃料噴射弁2に対する電流制御を行う。燃料噴射弁2の制御においては、燃料噴射弁2の通電電流の勾配が、周辺温度環境、経年劣化等の様々な要因を理由として通電電流プロファイルPIよりも低下し、実際の噴射量が指令噴射量よりも低くなる事情がある。一方、燃料噴射弁2を通電制御するにあたり、通電電流の積算値に比例した燃料噴射量が得られる。
【0019】
面積補正量算出部5dは、通電電流プロファイルPIの積算電流と、電流検出部7により検出された燃料噴射弁2に実際に流れる通電電流値EIの積算電流との差に基づいて電流値を同等とするように面積補正量を算出して通電時間補正量ΔTiを算出する。この場合、面積補正量算出部5dは、例えば通電電流プロファイルPI及び通電電流値EIの各々において、第1の電流閾値に達する時間を算出すると共に、第2の電流閾値に達する時間を算出し、それらの算出した時間から面積差を推定し、その推定した面積差と同等の面積を得るような面積補正量を算出して通電時間補正量ΔTiを算出する。面積補正量算出部5dは、上記した以外の手法を採用し、面積補正量を算出して通電時間補正量ΔTiを算出しても良い。面積補正量算出部5dが電流面積補正を行い、通電指示TQの通電時間を通電時間補正量ΔTiにしたがって補正し、通電時間を補正した補正後の通電指示TQにより、燃料噴射弁2の要求される適切な燃料噴射量を得ることが可能となる。尚、面積補正量算出部5dは、このようにして算出した通電時間補正量ΔTiをマイコン4に出力する。
【0020】
噴射制御装置1においては、昇圧制御により充電ノイズが発生することがあり、燃料噴射弁2の通電電流をモニタして開弁・閉弁を制御するときに、その昇圧制御により発生した充電ノイズが配線基板内又は電源系経路を伝達すると、電流モニタ精度が悪化してしまう事情がある。そのため、充電ノイズの発生による悪影響が駆動電流誤差に及ぼされないように、昇圧制御を一定時間禁止する構成があるが、そのような構成では、内燃機関の1サイクルあたりの充電可能時間が減少してしまい、充電可能時間を十分に確保することができない。又、昇圧回路3を高速充電可能な回路とすることが考えられるが、高速充電可能な回路を設ける構成では、回路の大型化やコストアップ等の新たな問題が発生する。
【0021】
そこで、本実施形態では、以下の構成を採用している。コア10は、充電制御設定部10a、影響大小判定部10b、噴射完了判定部10c、運転状況判定部10d、噴射回数判定部10としての機能を備える。
【0022】
充電制御設定部10aは、充電許可指令を昇圧制御部5aに出力し、昇圧回路3に対する充電許可を昇圧制御部5aに設定する。この場合、昇圧制御部5aは、充電制御設定部10aから充電許可指令を入力することで充電許可が充電制御設定部10aにより設定されると、昇圧回路3を駆動させ、昇圧コンデンサ3aに昇圧電圧Vboostを満充電電圧まで充電させる。一方、充電制御設定部10aは、充電禁止指令を昇圧制御部5aに出力し、昇圧回路3に対する充電禁止を昇圧制御部5aに設定する。この場合、昇圧制御部5aは、充電制御設定部10aから充電禁止指令を入力することで充電禁止が充電制御設定部10aにより設定されると、昇圧回路3を停止させる。この場合、昇圧回路3が停止されることで、昇圧制御による充電ノイズが発生することがなくなり、電流モニタ精度が悪化することもなくなる。
【0023】
ここで、放電制御について説明する。図2に示すように、噴射制御装置1は、噴射指令タイミングになると、通電指示TQをオフからオンに切替え、通電電流の燃料噴射弁2への供給を開始し、ピーク電流及び定電流を燃料噴射弁2に通電する。通電電流の燃料噴射弁2への供給が開始されると、燃料噴射弁2が開弁し、ニードル弁のリフト量が上昇し、エンジンの気筒内に燃料が噴射される。
【0024】
充電制御設定部10aは、このような放電制御を行う期間に対し、以下のようにして充電禁止指令を昇圧制御部5aに出力し、充電禁止指令により指定される充電禁止帯において昇圧回路3を停止させる。
【0025】
この場合、充電制御設定部10aは、充電禁止帯を任意に設定可能である。充電制御設定部10aは、例えばパターン1として通電指示TQのオフからオンへの切替タイミングから通電電流がピーク電流のピーク値に到達するタイミングまでの期間を充電禁止帯として設定する。充電制御設定部10aは、例えばパターン2として通電電流がピーク電流のピーク値に到達したタイミングから定電流の最後のピーク値に到達するタイミングまでの期間を充電禁止帯として設定する。充電制御設定部10aは、例えばパターン3として通電電流がピーク電流のピーク値に到達する一定時間前のタイミングからピーク電流のピーク値に到達するタイミングまでの期間を充電禁止帯として設定する。尚、本実施形態では、充電禁止帯を任意に設定するパターンとして3パターンを例示したが、例示した以外のパターンで充電禁止帯を設定しても良い。
【0026】
影響大小判定部10bは、駆動電流誤差の噴射量への影響の大小を判定する。影響大小判定部10bは、噴射の種類を判定し、微小噴射又は学習用微小噴射であると判定すると、駆動電流誤差の噴射量への影響が大であると判定し、一方、通常噴射であると判定すると、駆動電流誤差の噴射量への影響が小であると判定する。又、影響大小判定部10bは、燃圧の脈動を判定し、燃圧の脈動が所定レベル以上であると判定すると、駆動電流誤差の噴射量への影響が大であると判定し、一方、燃圧の脈動が所定レベル未満であると判定すると、駆動電流誤差の噴射量への影響が小であると判定する。
【0027】
噴射完了判定部10cは、燃料噴射弁2の噴射が完了しているか否かを判定する。この場合、噴射完了判定部10cは、閉弁検出が完了しているか否かを判定することで燃料噴射弁2の噴射が完了しているか否かを判定し、閉弁検出が完了していると判定すると、燃料噴射弁2の噴射が完了していると判定する。一方、噴射完了判定部10cは、閉弁検出が完了していないと判定すると、燃料噴射弁2の噴射が完了していないと判定する。
【0028】
運転状況判定部10dは、運転状況が所定状況であるか否かを判定する。ここでいう所定状況とは、極低温の条件下でエンジンを始動する極低温始動、触媒を急速に暖気して早期に活性化させる触媒急速暖気、成層始動は、空燃比又は燃料濃度が異なる層状の混合気を燃焼させてエンジンを始動する成層始動、空燃比又は燃料濃度が異なる層状の混合気を燃焼させる燃費向上成層燃焼の何れかの状況であり、エンジンが始動し難い状況である。噴射回数判定部10eは、噴射回数を所定回数と比較し、噴射回数が所定回数以下であるか否かを判定する。
【0029】
次に、上記した構成の作用について図3から図9を参照して説明する。ここでは、噴射毎に充電制御を判定する噴射毎の充電制御処理と、気筒毎に充電制御を判定する気筒毎の充電制御処理とを説明する。
【0030】
(1)噴射毎の充電制御処理
マイコン4において、コア10は、噴射毎の充電制御処理の開始イベントが発生する毎に噴射毎の充電制御処理を開始する。図3に示すように、コア10は、噴射毎の充電制御処理を開始すると、前回の噴射が完了しているか否かを判定する(S1)。コア10は、前回の噴射が完了していないと判定すると(S1:NO)、前回に昇圧回路3に対する充電禁止を設定したか否かを判定する(S2)。コア10は、前回に昇圧回路3に対する充電禁止を設定したと判定すると(S2:YES)、噴射毎の充電制御処理を終了し、次の開始イベントの発生を待機する。
【0031】
コア10は、前回の噴射が完了していると判定すると(S1:YES)、又は前回に昇圧回路3に対する充電禁止を設定していないと判定すると(S2:NO)、今回の噴射が微小噴射であるか否かを判定する(S3)。コア10は、今回の噴射が微小噴射であると判定すると(S3:YES)、充電禁止指令を昇圧制御部5aに出力し、昇圧回路3に対する充電禁止を昇圧制御部5aに設定し(S6)、噴射毎の充電制御処理を終了し、次の開始イベントの発生を待機する。
【0032】
コア10は、今回の噴射が微小噴射でないと判定すると(S3:NO)、今回の噴射が学習用微小噴射であるか否かを判定する(S4)。コア10は、今回の噴射が学習用微小噴射であると判定すると(S4:YES)、この場合も、充電禁止指令を昇圧制御部5aに出力し、昇圧回路3に対する充電禁止を昇圧制御部5aに設定し(S6)、噴射毎の充電制御処理を終了し、次の開始イベントの発生を待機する。
【0033】
コア10は、今回の噴射が学習用微小噴射でないと判定すると(S4:NO)、燃圧の脈動が所定レベル以上であるか否かを判定する(S5)。コア10は、燃圧の脈動が所定レベル以上であると判定すると(S5:YES)、この場合も、充電禁止指令を昇圧制御部5aに出力し、昇圧回路3に対する充電禁止を昇圧制御部5aに設定し(S6)、噴射毎の充電制御処理を終了し、次の開始イベントの発生を待機する。
【0034】
コア10は、燃圧の脈動が所定レベル以上でないと判定すると(S5:NO)、充電許可指令を昇圧制御部5aに出力し、昇圧回路3に対する充電許可を昇圧制御部5aに設定し(S7)、噴射毎の充電制御処理を終了し、次の開始イベントの発生を待機する。
【0035】
コア10は、上記した充電制御処理を行うことで、昇圧回路3に対する充電制御を以下のように切替える。図4及び図5に示すように、今回の噴射を判定する判定タイミングにおいて、充電許可を昇圧制御部5aに設定中に今回の噴射が微小噴射又は学習用微小噴射であると判定し、或いは燃圧の脈動が所定レベル以上であると判定し、駆動電流誤差の噴射量への影響大であると判定すると、充電禁止指令を昇圧制御部5aに出力し、昇圧回路3に対する充電禁止を昇圧制御部5aに設定し、充電許可から充電禁止に切替える。
【0036】
図6に示すように、コア10は、今回の噴射を判定する判定タイミングにおいて、充電禁止を昇圧制御部5aに設定中に今回の噴射が駆動電流誤差の噴射量への影響小であると判定し、前回の噴射が駆動電流誤差の噴射量への影響大であると判定し、前回の噴射が完了していないと判定すると、充電禁止指令を昇圧制御部5aに出力し、昇圧回路3に対する充電禁止を昇圧制御部5aに設定し、充電禁止を継続する。
【0037】
図7に示すように、コア10は、今回の噴射を判定する判定タイミングにおいて、充電禁止を昇圧制御部5aに設定中に今回の噴射が駆動電流誤差の噴射量への影響小であると判定し、前回の噴射が駆動電流誤差の噴射量への影響大であると判定し、前回の噴射が完了していると判定すると、充電許可指令を昇圧制御部5aに出力し、昇圧回路3に対する充電許可を昇圧制御部5aに設定し、充電禁止から充電許可に切替える。
【0038】
図8に示すように、コア10は、今回の噴射を判定する判定タイミングにおいて、充電許可を昇圧制御部5aに設定中に今回の噴射が駆動電流誤差の噴射量への影響小であると判定し、前回の噴射が駆動電流誤差の噴射量への影響小であると判定すると、充電許可指令を昇圧制御部5aに出力し、昇圧回路3に対する充電許可を昇圧制御部5aに設定し、充電許可を継続する。
【0039】
(2)気筒毎の充電制御処理
マイコン4において、コア10は、気筒毎の充電制御処理の開始イベントが発生する毎に気筒毎の充電制御処理を開始する。図9に示すように、コア10は、気筒毎の充電制御処理を開始すると、運転状況が所定状況であるか否かを判定する(S11)。即ち、コア10は、運転状況が、極低温始動、触媒急速暖気、成層始動、燃費向上成層燃焼の何れかの状況であるか否かを判定する。コア10は、運転状況が所定状況でないと判定すると(S11:NO)、噴射回数を所定回数と比較し、噴射回数が所定回数以下であるか否かを判定する(S12)。
【0040】
コア10は、噴射回数が所定回数以下でないと判定すると(S12:NO)、前述した噴射毎の充電制御処理に移行する(S13)。一方、コア10は、運転状況が所定状況であると判定すると(S11:YES)、又は噴射回数が所定回数以下であると判定すると(S12:YES)、充電許可指令を昇圧制御部5aに出力し、昇圧回路3に対する充電許可を昇圧制御部5aに設定し(S14)、気筒毎の充電制御処理を終了し、次の開始イベントの発生を待機する。
【0041】
以上に説明したように本実施形態によれば、以下に示す作用効果を得ることができる。
噴射制御装置1において、駆動電流誤差の噴射量への影響の大小に応じて昇圧回路3の充電を禁止するか許可するかを選択し、駆動電流誤差の噴射量への影響が大きければ、充電禁止を昇圧制御部5aに設定して昇圧回路3の充電を禁止し、一方、駆動電流誤差の噴射量への影響が小さければ、充電許可を昇圧制御部5aに設定して昇圧回路3の充電を許可する。即ち、駆動電流誤差の噴射量への影響が大きければ、昇圧回路3の充電を禁止することで、駆動電流誤差の噴射量への影響を適切に抑えて噴射精度を適切に高めることができる。一方、駆動電流誤差の噴射量への影響が小さければ、昇圧回路3の充電を許可することで、充電可能時間を適切に確保することができる。これにより、昇圧回路3を高速充電可能な回路とする必要がなく、回路の大型化やコストアップ等の懸念を回避しつつ、駆動電流誤差の噴射量への影響を適切に抑えて噴射精度を適切に高めると共に、充電可能時間を適切に確保することができる。
【0042】
又、噴射の種類を判定し、微小噴射又は学習用微小噴射であれば、駆動電流誤差の噴射への影響が大であると判定し、一方、微小噴射及び学習用微小噴射の何れでもなければ、駆動電流誤差の噴射量への影響が小であると判定することで、駆動電流誤差の噴射量への影響を適切に抑えて噴射精度を適切に高めると共に、充電可能時間を適切に確保することができる。
【0043】
又、燃圧の脈動を判定し、燃圧の脈動が所定レベル以上であれば、駆動電流誤差の噴射量への影響が大であると判定し、一方、燃圧の脈動が所定レベル以上でなければ、駆動電流誤差の噴射量への影響が小であると判定することで、駆動電流誤差の噴射量への影響を適切に抑えて噴射精度を適切に高めると共に、充電可能時間を適切に確保することができる。
【0044】
又、今回の噴射が駆動電流誤差の噴射量への影響が大であると判定すると、充電許可から充電禁止に切替えることで、駆動電流誤差の噴射量への影響を適切に抑えて噴射精度を適切に高めることができる。
【0045】
又、今回の噴射が駆動電流誤差の噴射量への影響が小であると判定し、前回の噴射が駆動電流誤差の噴射量への影響が大であると判定し、且つ当該前回の噴射が完了していないと判定すると、充電禁止を継続することで、駆動電流誤差の噴射量への影響を適切に抑えて噴射精度を適切に高めることができる。
【0046】
又、今回の噴射が駆動電流誤差の噴射量への影響が小であると判定し、前回の噴射が駆動電流誤差の噴射量への影響が大であると判定し、且つ当該前回の噴射が完了していると判定すると、充電禁止から充電許可に切替えることで、充電可能時間を適切に確保することができる。
【0047】
又、運転状況が所定状況であり、極低温始動、触媒急速暖気、成層始動、燃費向上成層燃焼の何れかの状況であると判定すると、駆動電流誤差の噴射量への影響が一律に小さいと判定することで、充電可能時間を適切に確保することができる。又、噴射回数が所定回数以下であると判定すると、駆動電流誤差の噴射量への影響が一律に小さいと判定することで、充電可能時間を適切に確保することができる。
【0048】
上記したマイコン4及び制御IC5は、一体化しても良く、この場合、高速演算可能な演算処理装置を用いることが望ましい。マイコン4及び制御IC5が提供する手段及び機能は、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェア及びそれを実行するコンピュータ、ソフトウェア、ハードウェア、或いはそれらの組み合わせにより提供することができる。例えば制御装置がハードウェアである電子回路により提供される場合、1又は複数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路により構成することができる。又、例えば制御装置がソフトウェアにより各種制御を実行する場合には、記憶部にはプログラムが記憶されており、制御主体が当該プログラムを実行することで当該プログラムに対応する方法が実施される。
【0049】
その他、燃料噴射弁、昇圧回路、駆動回路、電流検出部等のハードウェア構成等についても種々な変更が可能である。本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、更には、それらに一要素のみ、それ以上、或いはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0050】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することにより提供された専用コンピュータにより実現されても良い。或いは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によりプロセッサを構成することにより提供された専用コンピュータにより実現されても良い。若しくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路により構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより実現されても良い。又、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていても良い。
【符号の説明】
【0051】
図面中、1は電子制御装置(噴射制御装置)、2は燃料噴射弁、3は昇圧回路、5aは昇圧制御部、10aは充電制御設定部、10bは影響大小判定部、10cは噴射完了判定部、10dは運転状況判定部、10eは噴射回数判定部である。
図1
図2
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図9