(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】車両の電動駐車ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/00 20060101AFI20240123BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
B60T8/00 Z
B60T13/74 H
(21)【出願番号】P 2020165456
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(72)【発明者】
【氏名】武谷 弘隆
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-046824(JP,A)
【文献】特開2019-130939(JP,A)
【文献】特開2007-216896(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104680(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/00
B60T 13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータを正転方向に駆動して車両の車輪に設けられた回転部材と摩擦部材との間に締付力を発生して駐車ブレーキを効かせる車両の電動駐車ブレーキ装置であって、
前記電気モータを制御するコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記駐車ブレーキを効かせる際に、前記正転方向に対応する正転通電量を前記電気モータに供給し、前記正転通電量の供給を開始する開始時点から該電気モータの突入電流の影響がなくなる特定時点までは前記正転通電量を供給し、前記特定時点の後は、前記正転通電量が前記適用しきい量未満の場合には前記正転通電量を供給し、前記正転通電量が前記適用しきい量以上の場合には前記正転通電量を停止する適用制御を実行するとともに、
前記コントローラは、
前記適用制御の実行中に該適用制御の中断が要求される場合には、該要求が終了される際に前記締付力が過剰となるか、否かの予測判定を行い、
前記予測判定が肯定される場合には前記適用制御を継続し、
前記予測判定が否定される場合には前記適用制御を中断する、車両の電動駐車ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の電動駐車ブレーキ装置において、
前記コントローラは、
前記中断が要求される時点の前記正転通電量と前記適用しきい量との偏差を演算し、
前記偏差がしきい偏差以上である場合には前記予測判定を否定し、
前記偏差が前記しきい偏差未満である場合には前記予測判定を肯定する、車両の電動駐車ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両の電動駐車ブレーキ装置において、
前記コントローラは、
前記開始時点から前記中断が要求される時点までの時間である適用続行時間を演算し、
前記適用続行時間が続行しきい時間未満である場合には前記予測判定を否定し、
前記適用続行時間が前記続行しきい時間以上である場合には前記予測判定を肯定する、車両の電動駐車ブレーキ装置。
【請求項4】
電気モータを逆転方向に駆動して前記駐車ブレーキを解除する車両の電動駐車ブレーキ装置であって、
前記電気モータを制御するコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記駐車ブレーキを解除する際に、前記回転部材と前記摩擦部材とが接触しなくなる接触解消状態を判定する確定時点からの解除継続時間が解除しきい時間に達する時点で前記電気モータの駆動を停止する解除制御を実行し、
前記コントローラは、
前記確定時点の後に前記解除制御の中断が要求される場合には前記解除制御を継続し、
前記確定時点の前に前記解除制御の中断が要求される場合には前記解除制御を中断する、車両の電動駐車ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の電動駐車ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「電動パーキングブレーキ装置を運転者からの入力に応じて作動可能な構成としつつ、アイドルストップ制御に伴うエンジンの再始動時のバッテリへの負荷及び電力の無駄を低減する」ことを目的に、「バッテリ80に接続されるスタータ30と、エンジンを自動的に停止し、前記スタータによりエンジンを自動的に再始動させるアイドルストップ制御部12と、運転者からの入力に応答して作動要求を生成する入力手段と、前記バッテリに接続される電気モータ42を含み、前記作動要求に応答して前記電気モータが駆動する電動パーキングブレーキ装置40と、所定の作動要求に応答して前記電気モータが駆動状態である場合に、前記アイドルストップ制御部によるエンジンの再始動を禁止すると共に、前記アイドルストップ制御部によるエンジンの再始動中である場合に、前記所定の作動要求に応答した前記電気モータの駆動を禁止する調停部とを含む」ことが記載されている。
【0003】
特許文献1の装置では、電動駐車ブレーキ装置が作動中である場合にはエンジンの再始動が禁止される。一方、エンジンの再始動中であれば、電動駐車ブレーキ装置の作動が禁止される。即ち、先に作動されている一方側の装置が優先されて、他方側の装置の作動が禁止される。しかしながら、エンジンの始動装置等、他の装置からは、蓄電池等の状況に応じて、電動駐車ブレーキ装置が作動している途中で、その作動中断の要求(即ち、電気モータMTの使用電力の低減要求)がなされる場合もある。
【0004】
ところで、電動駐車ブレーキ装置では、摩擦部材(ブレーキパッド、ブレーキライニング等)の回転部材(ブレーキディスク、ブレーキドラム)に対する押圧力(「締付力」という)によって駐車ブレーキが効かされる。この締付力は、電気モータの正転駆動によって発生される。電動駐車ブレーキ装置では、上述したような状況でも、適切な締付力が確保される必要がある。例えば、中断要求に応じて電気モータが一旦停止され、その後、中断要求の終了時に電気モータが再作動される。その際、適切な締付力が確保されるよう、電気モータの正転/逆転が繰り返される状況が生じ得る。
【0005】
また、電動駐車ブレーキ装置では、電気モータの逆転駆動によって締付力が減少され、駐車ブレーキが解除される。電気モータの逆転駆動は、その駆動時間に基づいて制御されるが、中断要求に応じて電気モータが一旦停止されると、再作動において駆動時間の基準時点が不明確となる場合がある。その際にも、基準時点が明確になるよう、電気モータの正転/逆転が繰り返される状況が生じ得る。以上の観点から、電動駐車ブレーキ装置では、このような再作動に係る制御の煩雑さ(即ち、電気モータの正転/逆転の繰り返し)が抑制されることが所望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、作動中断後の再作動における制御の煩雑さが低減され得る電動駐車ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電動駐車ブレーキ装置は、電気モータ(MT)を正転方向(Da)に駆動して車両の車輪に設けられた回転部材(KT)と摩擦部材(MS)との間に締付力(Fa)を発生して駐車ブレーキを効かせるものであって、前記電気モータ(MT)を制御するコントローラ(ECU)を備える。前記コントローラ(ECU)は、前記駐車ブレーキを効かせる際に、前記正転方向(Da)に対応する正転通電量(Ia)を前記電気モータ(MT)に供給し、前記正転通電量(Ia)の供給を開始する開始時点から該電気モータ(MT)の突入電流の影響がなくなる特定時点までは前記正転通電量(Ia)を供給し、前記特定時点の後は、前記正転通電量(Ia)が前記適用しきい量(ix)未満の場合には前記正転通電量(Ia)を供給し、前記正転通電量(Ia)が前記適用しきい量(ix)以上の場合には前記正転通電量(Ia)を停止する適用制御を実行する。
【0009】
本発明に係る電動駐車ブレーキ装置では、前記コントローラ(ECU)は、前記適用制御の実行中に該適用制御の中断が要求される場合には、該要求が終了される際に前記締付力(Fa)が過剰となるか、否かの予測判定を行い、前記予測判定が肯定される場合には前記適用制御を継続し、前記予測判定が否定される場合には前記適用制御を中断する。
【0010】
例えば、前記コントローラ(ECU)は、前記中断が要求される時点の前記正転通電量(Ia)と前記適用しきい量(ix)との偏差(hI)を演算し、前記偏差(hI)がしきい偏差(hx)以上である場合には前記予測判定を否定し、前記偏差(hI)が前記しきい偏差(hx)未満である場合には前記予測判定を肯定する。或いは、前記コントローラ(ECU)は、前記開始時点から前記中断が要求される時点までの時間である適用続行時間(Te)を演算し、前記適用続行時間(Te)が続行しきい時間(te)未満である場合には前記予測判定を否定し、前記適用続行時間(Te)が前記続行しきい時間(te)以上である場合には前記予測判定を肯定してもよい。
【0011】
上記構成によれば、予測判定が否定される場合には、適用作動は中断されるので、電源電圧の低下が好適に抑制されるとともに、過剰な締付力Faは発生されない。また、適用処理の中断後の再作動では、電気モータMTは正転方向Daにのみ駆動されるため、制御の煩雑さは回避されている。一方、予測判定が肯定される場合には、中断要求があっても、適用制御の実行は継続される。これにより、適用作動が再作動される際の制御の煩雑さが解消されるとともに、駐車ブレーキが迅速に適用状態にされる。
【0012】
本発明に係る電動駐車ブレーキ装置は、電気モータ(MT)を逆転方向(Db)に駆動して前記駐車ブレーキを解除するものであって、前記電気モータ(MT)を制御するコントローラ(ECU)を備える。前記コントローラ(ECU)は、前記駐車ブレーキを解除する際に、前記回転部材(KT)と前記摩擦部材(MS)とが接触しなくなる接触解消状態を判定する確定時点からの解除継続時間(Tk)が解除しきい時間(tk)に達する時点で前記電気モータ(MT)の駆動を停止する解除制御を実行する。そして、前記コントローラ(ECU)は、前記確定時点の後に前記解除制御の中断が要求される場合には前記解除制御を継続し、前記確定時点の前に前記解除制御の中断が要求される場合には前記解除制御を中断する。
【0013】
上記構成によれば、接触解消状態が判定されていない場合には、電気モータMTへの通電は直ちに停止されるので、電源電圧の低下が好適に抑制されるとともに、部材の過剰変位が回避される。また、解除処理の中断後の再作動では、電気モータMTは逆転方向Dbにのみ駆動されるため、制御の煩雑さは回避されている。一方、接触解消状態が判定されている場合には、中断要求があっても、解除制御の実行は継続される。これにより、解除作動が再作動される際のモータ制御の煩雑さが解消されるとともに、駐車ブレーキが迅速に解除状態にされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】電動駐車ブレーキ装置EPの実施形態を説明するための全体構成図である。
【
図2】電動アクチュエータDNの詳細を説明するための概要図である。
【
図3】適用制御、及び、解除制御の処理を説明するためのフロー図である。
【
図4】適用制御、及び、解除制御の動作を説明するための時系列線図である。
【
図5】適用中断制御の処理を説明するためのフロー図である。
【
図6】適用中断制御の動作を説明するための時系列線図である。
【
図7】解除中断制御の処理を説明するためのフロー図である。
【
図8】解除中断制御の動作を説明するため時系列線図である。
【0015】
以下、本発明に係る車両の電動駐車ブレーキ装置EPの実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
<構成部材等の記号、記号末尾の添字、及び、運動・移動の方向>
以下の説明において、「MT」等の如く、同一記号を付された構成部材、要素、信号等は同一機能のものである。摩擦部材MS(後述のブレーキライニングBLを含む)に係る部材(摩擦部材MSそのもの、駐車ケーブルCB、出力部材SB、エンド部材EN等)の運動・移動の方向において、「前進方向Ha」が、摩擦部材MSが回転部材KT(後述のブレーキドラムBDを含む)に近づく方向に対応し、「後退方向Hb(前進方向Haとは反対の方向)」が、摩擦部材MSが回転部材KTから離れる方向に対応する。従って、摩擦部材MSに係る部材が前進方向Haに移動されると、摩擦部材MSが回転部材KTに押圧される力である押圧力(「締付力」ともいう)Faが増加され、制動力が増加される。逆に、摩擦部材MSに係る部材が後退方向Hbに移動されると、締付力Faが減少され、制動力が減少される。
【0017】
電気モータMTの回転方向において、電気モータMTの正転方向Daは、各部材の前進方向Haの移動に対応している。また、電気モータMTの逆転方向Db(正転方向Daとは反対の回転方向)は、各部材の後退方向Hbに対応している。つまり、電気モータMTが正転方向Daに回転駆動されると、摩擦部材MSが前進方向Haに移動され、締付力Faが増加され、制動力が増加される。逆に、電気モータMTが逆転方向Dbに回転駆動されると、摩擦部材MSが後退方向Hbに移動され、締付力Faが減少され、制動力が減少される。
【0018】
電気モータMTの通電量(例えば、電流値)において、正転方向Daに対応する通電量が「正転通電量Ia」と、逆転方向Dbに対応する通電量が「逆転通電量Ib」と、夫々称呼される。正転通電量Iaは、電気モータMTに正電圧が印加された場合に、逆転通電量Ibは、電気モータMTに負電圧が印加された場合に、夫々対応している。従って、正転、逆転通電量Ia、Ibは、電流が流れる向き(即ち、通電方向)が異なる。
【0019】
<制動装置DB>
制動装置DBは、車両の車輪に設けられ、車輪(例えば、後輪)に制動力を発生させる。制動装置DBでは、摩擦部材MS(ブレーキパッド、ブレーキライニング等)が回転部材KT(ブレーキディスク、ブレーキドラム等)に押圧されることによって、車両を減速する制動力(「減速制動力Fx」という)、及び、車両の停車状態を維持する制動力(「駐車制動力Fp」という)が発生される。
【0020】
図1の全体構成図を参照して、公知のドラム式ブレーキを例に、制動装置DBについて説明する。減速制動力Fxは、ホイールシリンダ(図示せず)内の制動液の圧力(液圧)を動力源にして発生される。また、駐車制動力Fpは、電動アクチュエータ(単に、「アクチュエータ」ともいう)DNに含まれる電気モータMTを動力源にして発生される。そして、電気モータMTは、車両に搭載された電力源(発電機AL、蓄電池BT)から電力供給を受けるコントローラECUによって、通電されて、駆動される。なお、減速制動力Fxはサービスブレーキに、駐車制動力Fpは駐車ブレーキに、夫々、利用される。
【0021】
《サービスブレーキの作動》
制動装置DBは、減速制動力Fxを発生するよう、ブレーキドラムBD、ブレーキシューBSa、BSb、ホイールシリンダ(図示せず)、及び、バッキングプレートBPにて構成される。
【0022】
制動装置DBでは、ブレーキドラムBD(「回転部材KT」の一例)が、車輪の回転軸Jkを中心として、車輪と一体となって回転するよう、車輪に固定される。制動装置DBには、2つのブレーキシューBSa、BSbが備えられる。2つのブレーキシューBSa、BSbは、円筒状のブレーキドラムBDの内周面Mnに沿って円弧状に伸ばされている。ブレーキシューBSa、BSbには、ブレーキライニングBL(「摩擦部材MS」の一例)が焼き付けられている。制動装置DBには、円盤状のバッキングプレートBPが備えられる。バッキングプレートBPの車幅方向外方には、図示しないホイールシリンダ、ブレーキシューBSa、BSb等が配置されている。
【0023】
ホイールシリンダによって、2つのブレーキシューBSa、BSbが、ブレーキドラムBDの内周面Mnに押圧される。これにより、ブレーキシューBSa、BSbに設けられたブレーキライニングBLと、ブレーキドラムBD(特に、内周面Mn)との摩擦によって、ブレーキドラムBDに制動トルクが付与され、その結果、車輪は制動力Fxを発生する。つまり、ホイールシリンダは、走行中の車両減速に用いられる。
【0024】
具体的には、ブレーキシューBSa、BSbの下端部が、2つの回転位置Ja、Jbを中心にして回転可能に、バッキングプレートBPに支持される。ホイールシリンダは、バッキングプレートBPの上端部に支持されている。ホイールシリンダは、車両前後方向に突出可能な2つの可動部(ピストン)を有し、この可動部は、ホイールシリンダ内の制動液の圧力によって、突出される。可動部の突出によって、ブレーキシューBSa、BSbの上端部が押され、ブレーキライニングBLが、ブレーキドラムBDの内周面Mnに押圧される。ブレーキライニングBLと内周面Mnとの摩擦によって、ブレーキドラムBDに制動トルクが付与され、車輪が制動される。 なお、制動装置DBには、図示しない復帰部材(例えば、コイルスプリング)が備えられ、この復帰部材によって、ブレーキシューBSa、BSbの押圧が解除された場合には、ブレーキシューBSa、BSbが、ブレーキドラムBDの内周面Mnから離れるように移動される。
【0025】
《駐車ブレーキの作動》
制動装置DBには、駐車制動力Fpを発生するよう、上記の構成部材(ブレーキドラムBD等)に加え、電動アクチュエータDN、駐車レバーPL、駐車ケーブルCB、及び、シューストラットSTが含まれている。
【0026】
電動アクチュエータDNは、ブレーキシューBSa、BSbを駆動するアクチュエータとして、駐車時の制動に用いられる。具体的には、電気モータMTによって駆動される電動アクチュエータDNによって、駐車制動力Fpを発生させるよう、2つのブレーキシューBSa、BSbが移動される。アクチュエータDNの詳細については後述する。なお、アクチュエータDNは、走行中の制動(即ち、サービスブレーキ)に用いられてもよい。
【0027】
駐車レバーPLが、2つのブレーキシューBSa、BSbのうちの一方(例えば、ブレーキシューBSa)と、バッキングプレートBPとの間で、当該ブレーキシューBSa、及び、バッキングプレートBPに重なるように、設けられている。駐車レバーPLは、ブレーキシューBSaに、回転軸Jpを中心として回転可能に支持されている。駐車レバーPLでは、回転軸Jpから遠い側の下端部Pbに、駐車ケーブルCBが接続される。
【0028】
シューストラットSTが、2つのブレーキシューBSa、BSbとの間に設けられる。駐車ブレーキを効かせる際には、アクチュエータDNによって、駐車ケーブルCBが、前進方向Haに引っ張られる。これにより、駐車レバーPLは、回転軸Jpを中心に回転しようとするため、シューストラットSTが、2つのブレーキシューBSa、BSbとの間で突っ張る。シューストラットSTの突っ張りによって、一方のブレーキシューBSbが押され、その反力によって、他方のブレーキシューBSaが押される。結果、ブレーキシューBSa、BSbのブレーキライニングBLが、ブレーキドラムBDの内周面Mnに押圧され、駐車制動力Fpが発生される。
【0029】
駐車ブレーキを解除する際には、アクチュエータDNによって、駐車ケーブルCBの張力が減少され、ブレーキドラムBDの内周面Mnに対するブレーキライニングBLの締付力Fa(押圧力)が減少される。そして、ブレーキドラムBDの内周面MnとブレーキライニングBLとは、復帰部材によって、最終的には離間される。
【0030】
<電動駐車ブレーキ装置EP>
図2の部分断面図を含む概略図を参照して、本発明に係る電動駐車ブレーキ装置EPの実施形態について説明する。電動駐車ブレーキ装置EPが備えられる車両には、駐車ブレーキ用スイッチ(単に、「駐車スイッチ」ともいう)SWが設けられる。駐車スイッチSWは、運転者によって操作されるスイッチであり、オン又はオフの信号Sw(「駐車信号」という)が、電子制御ユニットECU(「コントローラ」ともいう)に対して出力される。即ち、運転者が操作する駐車スイッチSWによって、車両の停止状態を維持する駐車ブレーキの作動(適用作動、又は、解除作動)が指示される。具体的には、駐車信号Swのオン状態(ON)で、駐車ブレーキが効くように、その適用(作動)が指示される。逆に、駐車信号Swのオフ状態(OFF)で、駐車ブレーキが効かないように、その解除(作動)が指示される。
【0031】
車両には、電動駐車ブレーキ装置EP用のコントローラECUの他に、複数のコントローラ(電子制御ユニット)ECA、ECBが備えられる。これらのコントローラは、信号(検出値、演算値等)が共有されるよう、通信バスBSにて接続されている。例えば、コントローラECUには、通信バスBSから、車体速度Vx、加速操作部材(例えば、アクセルペダル)の操作量Ap等が入力される。車体速度Vx、加速操作量Apは、電動駐車ブレーキ装置EPの自動モードに用いられる。
【0032】
他のコントローラECA、ECBから、適用制御、又は、解除制御の実行中に、該制御を中断する作動中断の要求が、通信バスBSを介してコントローラECUに送信される場合がある。他のコントローラECA、ECBは、電動駐車ブレーキ装置EP(即ち、コントローラECU)と電源(電力源であり、蓄電池BT、発電機AL)を共有し、且つ、大型の電気モータ、ソレノイドを制御する装置(システム)のものである。例えば、該装置として、エンジン始動装置、変速制御装置等が該当する。
【0033】
大型の電気機器(例えば、電気モータ、ソレノイド)が起動される際(電源投入時)には、その初期段階で定格電流値を超えて一時的に大電流が流される。該大電流は、「突入電流」、或いは、「始動電流」と称呼される。突入電流が原因となって、電源BTの電圧が低下して各装置が再起動されることを回避するために、上記の作動中断要求が行われる。例えば、作動中断要求(中断の開始、継続、終了の要求)は、制御フラグFL(適用制御用)、FK(解除制御用)によって行われる。制御フラグFL、FKは、「要求フラグ(或いは、中断フラグ)」とも称呼される。具体的には、「FL、FK=0」にて「中断要求無し」が表示され、「FL、FK=1」にて「中断要求有り」が表される。従って、要求フラグFL、FKが「0」から「1」に遷移されることで中断要求が開始され、要求フラグFL、FKが「1」に維持されること中断要求が継続され、要求フラグFL、FKが「1」から「0」に遷移されることで中断要求が終了される。
【0034】
電動駐車ブレーキ装置EPは、電動アクチュエータDN、及び、コントローラECUにて構成される。アクチュエータDNは、電気モータMTによって、駐車制動力Fpを発生する。以下、アクチュエータDNについて説明する。なお、本発明に係る電動駐車ブレーキ装置EPの特徴部は、コントローラECUにプログラムされた制御アルゴリズムである。
【0035】
《電動アクチュエータDN》
電動アクチュエータDNは、バッキングプレートBPに対してブレーキシューBSa、BSbとは反対側に、バッキングプレートBPの車幅方向の内側面に固定される。アクチュエータDNからは、駐車ケーブルCBが伸ばされる。駐車ケーブルCBは、バッキングプレートBPに設けられた貫通孔を貫通し、駐車レバーPL(特に、下端部Pb)に接続されている。
【0036】
アクチュエータDNは、ハウジングHG、電気モータMT、減速機GS、動力変換機構HN、駐車ケーブルCB、及び、エンド部材ENを備えている。ハウジングHGは、電気モータMT、減速機GS、及び、動力変換機構HNを支持するとともに、これらの構成部材を覆っている。電気モータMTは、駐車制動力Fpを発生すために動力源である。電気モータMTは、コントローラECUによって駆動される。
【0037】
減速機GSは、複数のギヤにて構成される。例えば、減速機GSは、大径ギヤDK、及び、小径ギヤSKを含んでいる。電気モータMTの出力シャフトSFには、小径ギヤSKが固定される。小径ギヤSKには、大径ギヤDKが噛み合わされる。電気モータMTの出力(即ち、出力シャフトSFの回転動力)は、減速機GSを介して、減速される。減速された電気モータMTの回転動力は、動力変換機構HNに入力される。
【0038】
動力変換機構HNは、入力部材NB、出力部材SB、及び、回り止め部材MDにて構成される。入力部材NBには、大径ギヤDKが固定される。従って、入力部材NBは、大径ギヤDKと一体となって回転駆動される。入力部材NBは、円筒形状を有し、その外周部には、雄ねじOjが形成される。入力部材NBは、「ボルト部材」である。
【0039】
入力部材NBの雄ねじOjは、出力部材SBの雌ねじMjに螺合される。具体的には、出力部材SBは、筒形形状を有し、その内周部(貫通孔の内側)には雌ねじMjが形成されている。出力部材SBは、「ナット部材」である。動力変換機構HNでは、入力部材NB(ボルト部材)と出力部材SB(ナット部材)とが噛み合わされて、電気モータMTの回転動力が、直線動力に変換される。ここで、動力変換機構HNとして、セルフロックするもの(逆効率がゼロである機構)が採用される。
【0040】
ハウジングHGに固定される回り止め部材MDによって、出力部材SBの回転運動が規制される。即ち、回り止め部材MDによって、出力部材SBの回り止めがなされ、出力部材SBの直線移動がガイドされる。例えば、出力部材SBの外周部には、フランジ部Flが設けられ、このフランジ部Flには、少なくとも1つの2面取りが形成されている。回り止め部材MDは筒形状を有し、その内面が、フランジ部Flの2面取りに嵌め合い可能なように加工されている。フランジ部Flの2面取り部分(平面)と、回り止め部材MDの2面取り部分(平面)とが摺動することによって、出力部材SBの回転運動が規制される。これにより、出力部材SBは、入力部材NBの回転軸Jnに沿って、直線移動される。なお、回り止め部材MDには、大径ギヤDKが固定された側とは反対側に、端面Mbが形成されている。
【0041】
駐車ケーブルCBは、入力部材NBの内周面(貫通孔)を貫通し、回転軸Jnの方向に延ばされている。駐車ケーブルCBの一端は、ブレーキシューBSa、BSbを作動させるよう、可動部材である駐車レバーPLに結合されている。駐車ケーブルCBの他端には、エンド部材ENが結合される。エンド部材ENは、筒状部とフランジ部とを有している。エンド部材ENの筒状部が外側から加締められることにより、駐車ケーブルCBとエンド部材ENとは接合(固定)される。エンド部材ENのフランジ部(特に、端面Ma)は、出力部材SBの端部Mcよりも、径方向外方に張り出し、端部Mcに当接可能である。また、該フランジ部(特に、端面Ma)は、回り止め部材MDの端面Mbに当接可能である。
【0042】
図2において、入力部材NBの回転軸Jn(一点鎖線)に対して左側に示す状態(a)は、電気モータMTが駆動され、駐車ケーブルCBに張力が加えられた状態を図示する。状態(a)では、ブレーキシューBSa、BSbがブレーキドラムBDに押圧され、電動駐車ブレーキ装置EPによって車輪が拘束されている(即ち、車輪に駐車制動力Fpが加えられる状態である)。該状態(a)が、「適用状態」と称呼され、駐車ブレーキが効いている状態である。
【0043】
図2において、入力部材NBの回転軸Jnに対して右側に示す状態(b)は、駐車ケーブルCBへの張力が解放された状態を図示する。ここで、エンド部材ENと出力部材SBとは、一体化されておらず、軸方向に分離可能に構成されている。状態(b)では、ブレーキシューBSa、BSbはブレーキドラムBDから離れていて、車輪には駐車制動力Fpが作用しない。該状態(b)が、「解除状態」と称呼され、駐車ブレーキが効いていない状態である。
【0044】
《コントローラECU》
コントローラECU(電子制御ユニット)によって、電気モータMTが制御され、アクチュエータDNが駆動される。コントローラECUは、マイクロプロセッサMP等が実装された電気回路基板と、マイクロプロセッサMPにプログラムされた制御アルゴリズムと、が含まれている。コントローラECUには、発電機ALによって充電される蓄電池BTから電力が供給される。蓄電池BTからの電力によって、コントローラECUは、上記の制御アルゴリズムを実行し、電気モータMTに通電を行う。なお、上述したように、蓄電池BTによって、他のシステムのコントローラECA、ECBにも電力が供給される。
【0045】
コントローラECUでは、マイクロプロセッサMP内の制御アルゴリズムに基づいて、電気モータMTを制御するための駆動信号Mtが演算される。また、コントローラECUには、電気モータMTを駆動するよう、駆動回路DRが備えられる。駆動回路DRでは、スイッチング素子(MOS-FET、IGBT等のパワー半導体デバイス)によってブリッジ回路が形成される。各スイッチング素子の通電状態が、駆動信号Mtに応じて制御され、電気モータMTの出力が制御される。駆動回路DRには、電気モータMTの実際の正転通電量Ia(正転方向Daに対応)、逆転通電量Ib(逆転方向Dbに対応)を検出する通電量センサIAが備えられる。例えば、通電量センサIAとして、電流センサが採用され、電気モータMTへの供給電流Ia、Ibが検出される。更に、駆動回路DRには、電気モータMTへの供給電圧値Va(電源電圧値)を検出する電圧センサVAが備えられる。
【0046】
駐車ブレーキの適用作動(即ち、駐車ブレーキを効かせる作動であり、解除状態(b)から適用状態(a)への遷移)について説明する。駐車ブレーキが適用される際のアクチュエータDNの制御が「適用制御」と称呼される。駐車スイッチSWが操作され、駐車信号Swがオフからオンに切り替えられると、電気モータMTに正電圧の印加が開始される。電気モータMTには、正転通電量Iaが供給され、電気モータMTは正転方向Daに回転駆動される。この回転動力は、減速機GSを介して、入力部材NBに伝達される。入力部材NBの回転動力は、出力部材SBの直線動力に変換される。ここで、出力部材SBは、回り止め部材MD(特に、フランジ部Flの2面取り部と内周部Mm)によって、回転軸Jnに沿った動き(前進方向Haへの移動)にガイドされる。駐車ブレーキを効かせる際には、出力部材SBは前進方向Haに移動される。入力部材NBの端部Mcとエンド部材ENの端面Maとが当接していない状態では、駐車ケーブルCBには張力がかからない。従って、電気モータMTでは、入力部材NB、出力部材SB、回り止め部材MD等の動きに対する摩擦力(摺動摩擦)に応じた出力が発生される。
【0047】
駐車ケーブルCBとエンド部材ENとは固定されているため、入力部材NBの端部Mcとエンド部材ENの端面Maとが当接すると、駐車ケーブルCBに張力が生じる。エンド部材ENが、前進方向Haに移動されることによって、駐車ケーブルCBの張力は増加される。これにより、ブレーキドラムBDに対するブレーキライニングBLの締付力Faが増加され、駐車制動力Fpが増加される。電気モータMTのトルク出力は、正転通電量Iaと概ね比例するため、正転通電量Iaが適用しきい量ixに到達する時点で、電気モータMTへの通電が停止される。ここで、適用しきい量ixは、適用制御(適用作動)を終了するための正転通電量Iaに対応するしきい値であり、予め設定された所定値(定数)である。適用しきい量ixは、駐車ブレーキが効くよう、ブレーキライニングBLとブレーキドラムBDとの押圧状態が十分に確保され得る値に設定されている。動力変換機構HNはセルフロックするため、電気モータMTへの通電停止後も、駐車ケーブルCBの張力は維持され、駐車ブレーキが効いた状態(即ち、適用状態)が維持される。
【0048】
次に、駐車ブレーキの解除作動(即ち、駐車ブレーキを効かなくする作動であり、適用状態(a)から解除状態(b)への遷移)について説明する。駐車ブレーキが解除される際のアクチュエータDNの制御が「解除制御」と称呼される。駐車スイッチSWが操作され、駐車信号Swがオンからオフに切り替えられると、電気モータMTに負電圧の印加が開始される。電気モータMTには、逆転通電量Ibが供給され、電気モータMTは逆転方向Dbに回転駆動される。電気モータMTは電気モータMTの回転動力によって、出力部材SBは、後退方向Hb(前進方向Haとは逆方向(反対方向))に移動される。これにより、駐車ケーブルCBの張力が減少され、締付力Fa(結果、駐車制動力Fp)が減少される。そして、エンド部材ENの端面Maが、回り止め部材MDの端部Mbに当接する。ここまでは、エンド部材ENと出力部材SBとは一体となって移動される。つまり、駐車ブレーキを解除する際(効かなくする際)には、出力部材SBは後退方向Hbに移動される。
【0049】
更に、電気モータMTが逆転方向Dbに駆動されると、エンド部材ENと出力部材SBとが、離間(分離)される。これにより、駐車ケーブルCBの張力は、略「0(ゼロ)」にされる。これ以降、電気モータMTは、時間Tに基づいて逆転方向Dbに駆動される。そして、出力部材SBの端部Mk(端部Mcとは反対側)と、入力部材NBの部位Mdとが、或る程度の距離(即ち、隙間Lr)を有した状態で、電気モータMTへの通電が停止され、出力部材SBの後退方向Hbの移動が停止される。換言すれば、出力部材SBの移動停止時には、出力部材SBの端部Mkと入力部材NBの部位Mdとは隙間を有していて、ストッパ等が不要な構成にされている。
【0050】
<適用制御、及び、解除制御の処理>
図3のフロー図を参照して、電動駐車ブレーキ装置EPの適用制御、及び、解除制御について説明する。
≪適用制御≫
先ず、
図3(a)のフロー図を参照して、適用制御の処理について説明する。「適用制御」は、駐車ブレーキが効いていない解除状態から、それが効いている適用状態に遷移させるための元(基準)となる制御である。つまり、適用制御は、駐車ブレーキを適用作動させるための制御であり、駐車信号Swがオフからオンに切り替えられた時点で開始される。ここで、駐車信号Swがオフからオンに切り替えられることが、「適用指示」と称呼される。適用制御は、電気モータMTの駆動制御によって行われる。具体的には、適用制御では、電気モータMTへの通電(例えば、正電圧の印加)が行われ、電気モータMTが正転方向Daに駆動される。
【0051】
ステップS110にて、駐車信号Sw、及び、実際の通電量Ia、Ibを含む各種信号が読み込まれる。例えば、正転、逆転通電量Ia、Ib(実際値)は、駆動回路DRに設けられた通電量センサIA(電流センサ)によって検出される。また、通電量センサIAは、電気モータMTに内蔵されていてもよい。
【0052】
ステップS120にて、電気モータMTへの通電が行われる。具体的には、駐車信号Swがオフからオンに遷移する適用指示の時点(対応する演算周期)で、電気モータMTに正符号(+)の電圧が印加される。通電が開始された以降は、ステップS120では、電気モータMTへの正電圧の印加が継続される。これにより、電気モータMTは正転方向Daに駆動され続ける。
【0053】
ステップS130にて、「突入電流区間であるか、否か」が判定される。「突入電流」とは、電気機器(例えば、電気モータMT)に電源が投入された際に、その初期段階で定常電流値を超えて一時的に流される大電流のことであって、「始動電流」とも称呼される。そして、「突入電流区間」は、上記突入電流が発生し得る区間(期間)である。この突入電流区間の判定は、ステップS140の判定において、突入電流の影響を排除するために行われる。
【0054】
例えば、ステップS130では、実際の正転通電量Iaに基づいて、「突入電流区間であるか、否か」が判定される。ステップS130では、電気モータMTへの通電が開始されて以降、正転通電量Iaの前回値Ia[n-1]と、正転通電量Iaの今回値Ia[n]との比較が行われる(ここで、「n」は演算周期を表す)。そして、電気モータMTへの通電開始から、実際の正転通電量Iaにおいて、時間Tについての変化量dIa(正転通電量Iaの時間微分値であり、「適用通電変化量」ともいう)が所定変化量dj(「適用判定変化量」という)未満である状態が、適用判定時間tjに亘って継続された時点にて、突入電流区間の終了が判定される。ここで、適用判定時間tj、及び、適用判定変化量djは予め設定された定数(所定値)である。換言すれば、「適用通電変化量dIaが適用判定変化量dj以上である場合」、及び、「適用通電変化量dIaが適用判定変化量dj未満であっても、それが適用判定時間tjを経過していない場合」には、「突入電流区間である」ことが判定される。
【0055】
また、突入電流が流れる時間(期間)は既知である。このため、ステップS130では、電気モータMTへの通電開始時点から特定適用時間tmが経過したことに基づいて、突入電流区間の終了が判定されてもよい。具体的には、電気モータMTへの通電開始の時点から、適用継続時間Tjが演算(積算)され、適用継続時間Tjが特定適用時間tm未満である場合には、「突入電流区間である」と判定される。一方、適用継続時間Tjが特定適用時間tm以上である場合には、「突入電流区間ではない」と判定される。ここで、特定適用時間tmは、突入電流区間の終了を判定するための適用継続時間Tjに対応するしきい値であり、予め設定された所定値(定数)である。
【0056】
ステップS130にて、「突入電流区間である」と判定される場合には、処理はステップS110に戻される。一方、ステップS130にて、「突入電流区間ではない」と判定される場合には、処理はステップS140に進められる。ここで、ステップS130が初めて否定され、処理がステップS140に進められた時点(該当する演算周期)が、「特定時点」と称呼される。従って、通電の開始時点から特定時点までが「突入電流区間」に該当する。
【0057】
ステップS140にて、正転通電量Iaと適用しきい量ixとの比較に基づいて、「実際の正転通電量Iaが適用しきい量ix以上であるか、否か」が判定される。適用しきい量ixは、駐車ブレーキが効くよう、ブレーキライニングBLとブレーキドラムBDとの十分な押圧状態に相当する値(所定の定数)として、予め設定されている。「Ia≧ix」であり、ステップS140が肯定される場合には、処理はステップS150に進められる。一方、「Ia<ix」であり、ステップS140が否定される場合には、処理はステップS110に戻される。
【0058】
ステップS150にて、電気モータMTへの正電圧の印加が停止され、通電が停止される。即ち、正転通電量Iaが適用しきい量ixに到達した場合に、ステップS150にて、適用制御が終了される。動力変換機構HNはセルフロックするため、電気モータMTへの通電が停止されても、駐車ブレーキが効いた状態(即ち、適用状態)が維持される。
【0059】
以上で説明したように、適用制御では、電気モータMTへの通電が開始される開始時点から、該電気モータMTの突入電流の影響がなくなる特定時点までの間(即ち、突入電流区間)は、ステップS140の判定(正転通電量Iaと適用しきい量ixとの比較判定)が行われない。従って、突入電流区間では、正転通電量Ia(正転方向Daに対応する通電量)と適用しきい量ixとの大小関係に係らず、電気モータMTには正転通電量Iaが供給(通電)される。突入電流区間が終わる特定時点の後は、正転通電量Iaと適用しきい量ixとの比較が行われる。正転通電量Iaが適用しきい量ix未満の場合には電気モータMTに正転通電量Iaが供給される。そして、正転通電量Iaが適用しきい量ix以上となる時点で、電気モータMTへの正転通電量Iaの通電が停止される。
【0060】
適用制御では、基本的には、「Ia≧ix」が満足されると、正転通電量Iaが「0」にされる。しかしながら、突入電流に起因して、「Ia≧ix」の条件が満足される状況が発生し得る。該状況で適用制御が終了されてしまうと、締付力Faが不十分となる。該状況を回避するため、電動駐車ブレーキ装置EPでは、突入電流区間(上記の開始時点から特定時点までの期間)は、正転通電量Iaと適用しきい量ixとの比較が禁止され、それらの大小に関係なく、正電圧が印加され、正転通電量Iaが供給され続ける。これにより、突入電流の影響が排除されるので、常に、十分な締付力Faが確保されて、駐車ブレーキが適用状態にされる。
【0061】
≪解除制御≫
次に、
図3(b)のフロー図を参照して、解除制御の処理について説明する。「解除制御」は、駐車ブレーキが効いている適用状態から、それが効いていない解除状態に遷移させるための元(基準)となる制御である。つまり、解除制御は、駐車ブレーキを解除作動させるための制御である。解除制御は、駐車信号Swがオンからオフに切り替えられた時点で開始される。ここで、駐車信号Swがオンからオフに切り替えられることが、「解除指示」と称呼される。解除制御は、電気モータMTの駆動制御によって行われる。具体的には、解除制御では、電気モータMTへの通電(例えば、負電圧の印加)が行われ、電気モータMTが逆転方向Dbに駆動される。
【0062】
ステップS210にて、駐車信号Sw、及び、実際の通電量Ia、Ibを含む各種信号が読み込まれる。例えば、正転、逆転通電量Ia、Ib(実際の電流値)は、駆動回路DRに設けられた通電量センサIA(電流センサ)によって検出される。また、通電量センサIAは、電気モータMTに内蔵されていてもよい。
【0063】
ステップS220にて、電気モータMTへの通電が行われる。具体的には、駐車信号Swがオンからオフに遷移する解除指示の時点(対応する演算周期)で、電気モータMTに負符号(-)の電圧が印加される。通電が開始された以降は、ステップS220では、電気モータMTへの負電圧の印加が継続される。これにより、電気モータMTは逆転方向Dbに駆動され続ける。
【0064】
ステップS230にて、「接触解消状態であるか、否か(「接触解消判定」という)」が判定される。「接触解消状態」とは、接触状態にあったブレーキライニングBL(即ち、回転部材KT)とブレーキドラムBD(即ち、摩擦部材MS)とが、接触しなくなる状態である。例えば、接触解消判定は、「逆転通電量Ibが一定であるか、否か」に基づいて行われる。つまり、接触解消状態は、逆転通電量Ibが一定になったこと(逆転通電量Ibの一定状態)に基づいて判定される。
【0065】
ブレーキライニングBL(摩擦部材MS)とブレーキドラムBD(回転部材KT)とが略接触しなくなる状態(接触解消状態)では、駐車ケーブルCBの張力が略ゼロになり、逆転通電量Ibは一定となる。このとき、電気モータMTの出力は、電気モータMTから摩擦部材MSに至るまでの動力伝達機構(電気モータMT、減速機GS、入力部材NB、出力部材SB、駐車ケーブルCB等)の摩擦(摺動摩擦)のみに使用される。換言すれば、接触解消状態で電気モータMTに供給される逆転通電量Ibの大きさは、動力伝達部材の摩擦に相当する値である。
【0066】
例えば、「逆転通電量Ibの一定状態(即ち、接触解消状態)」は、逆転通電量Ibが、予め設定された所定の範囲内(接触判定量ihの範囲内)に収まった状態が、所定の時間th(「接触判定時間」という)に亘って継続された時点で判定される。また、接触解消状態は、逆転通電量Ibにおいて、時間Tについての変化量dIb(逆転通電量Ibの時間微分値であり、「解除通電変化量」ともいう)が接触判定変化量dx以下である状態が、判定時間thに亘って維持された時点で判定されてもよい。ここで、接触判定量ih、接触判定時間th、及び、接触判定変化量dxは予め設定された所定値(定数)である。
【0067】
ステップS230にて、「接触解消状態であること(「接触解消確定」ともいう)」が判定されると、制御フラグFF(「接触判定フラグ」ともいう)が「1」にされる。ここで、接触判定フラグFFは、「0」にて「接触解消状態ではない、或いは、接触状態は不明である」こと(「接触解消未確定」ともいう)が表示され、「1」にて「接触解消確定」が表される。なお、接触判定フラグFFは、解除制御の実行開始前には、初期値として「0(接触解消未確定)」に設定されている。
【0068】
接触解消判定のロバスト性が向上されるよう、「逆転通電量Ibが解除量ik以上であること」が許可条件として、判定条件に加えられてもよい。例えば、動力伝達部材(減速機GS、動力変換機構HN等)の伝達効率が低下した場合には、逆転通電量Ibの時間Tに対する変化量dIb(即ち、逆転通電量Ibの増加勾配)が小さくなり、ブレーキライニングBLがブレーキドラムBDに、未だ接触している状態であっても、逆転通電量Ibの一定状態が判定される状況が生じ得る。従って、「Ib<ik」の状態では、接触解消判定の実行が禁止され、「Ib≧ik」の状態になった場合に限って、接触解消判定の実行が許可される。ここで、解除量ikは、予め設定された所定値(負の定数)である。解除量ikは、通常状態(常温)において電気モータMTが無負荷で駆動される場合(即ち、電気モータMT、減速機GS、入力部材NB、出力部材SB、回り止め部材MD等の摺動摩擦)に相当する通電量よりも、僅かに大きい値に設定される。
【0069】
ステップS230が否定される場合には、処理はステップS210に戻される。一方、ステップS230が肯定される場合には、処理はステップS240に進められる。ここで、ステップS230が初めて肯定される時点(該当する演算周期)が、「確定時点」と称呼される。
【0070】
ステップS240にて、解除継続時間Tkが演算される。解除継続時間Tkは、ステップS230が初めて肯定された時点(該当する演算周期)からの時間である。換言すれば、解除継続時間Tkは、接触解消未確定の状態から、接触解消確定の状態に切り替わった(遷移した)時点(確定時点)が起点(基準)にされて、この起点から経過した時間である。
【0071】
ステップS250にて、「解除継続時間Tkが解除しきい時間tk以上であるか、否か」が判定される。ここで、解除しきい時間tkは、解除制御(解除作動)を終了するための解除継続時間Tkに対応するしきい値であり、予め設定された所定値(定数)である。「Tk<tk」であり、ステップS250が否定される場合には、処理はステップS210に戻される。一方、「Tk≧tk」であり、ステップS250が肯定される場合には、処理はステップS260に進められる。ステップS260にて、電気モータMTへの負電圧の印加が停止され、通電が停止される。即ち、ステップS260にて、電気モータMTの駆動が停止され、解除制御が終了される。
【0072】
以上で説明したように、電動駐車ブレーキ装置EPでは、駐車ブレーキが解除される際には、接触解消状態が初めて判定される確定時点(例えば、電気モータMTへの逆転通電量Ibが一定になる時点)から解除しきい時間tkを経過した時点(対応する演算周期)で電気モータMTへの通電が停止され、電気モータMTの駆動が停止される。これにより、出力部材SBの後退方向Hbへの移動が終了され、出力部材SBは静止する。このとき、出力部材SBの端部Mkと入力部材NBの部位Mdとは、隙間Lrを有していて、接触していない。換言すれば、電動駐車ブレーキ装置EPの解除制御は時間Tに応じて行われるため、ストッパ等の移動制限部材に対する当接によって、出力部材SBの後退方向Hbへの移動が規制される必要がない。
【0073】
電動駐車ブレーキ装置EPが解除されている状態において、電気モータMT、及び、電気モータMTによって駆動される部材(出力部材SB、入力部材NB等)は、非拘束状態(フリー状態)にある。具体的には、駐車ブレーキの解除状態(即ち、駐車ブレーキが効いていない状態)において、動力変換機構HNの雄ねじOjと雌ねじMjとが締め付けられることがない。このため、再度、駐車ブレーキ指示が行われ、電動駐車ブレーキ装置EPの適用制御が開始される際に、この締め付けを解放するための電力供給が不要であり、電気モータMTの電力が低減され、省電力化が図られる。更に、出力部材SBの移動制限部材が省略可能であるため、装置は小型・軽量化がされる。
【0074】
<適用制御、及び、解除制御の動作>
図4の時系列線図(時間Tの遷移に対する状態量の変化を表す線図)を参照して、適用制御、及び、解除制御の動作について説明する。適用制御では、電気モータMTを正転駆動するよう、正転通電量Iaが供給される。一方、解除制御では、電気モータMTを逆転駆動するよう、逆転通電量Ibが供給される。正転通電量Iaと逆転通電量Ibとの関係では、正転通電量Iaが正符号(+)であるに対して、逆転通電量Ibは負符号(-)である。つまり、正転通電量Iaと逆転通電量Ibとは、通電方向(例えば、電流の流れる向き)が異なる。例では、ステップS130の突入電流区間は、通電開始時点からの適用継続時間Tjに基づいて判定される。また、解除制御においては、「Ib≧ik(<0)」の許可条件が設けられているが、これは省略可能である。
【0075】
≪適用作動≫
時点t0にて、駐車スイッチSWがオフ状態からオン状態にされ(即ち、適用指示が行われ)、適用制御が開始される。時点t0にて、電気モータMTが正転するように、適用制御によって、正の電圧が電気モータMTに印加される。これにより、電気モータMTの正転方向Daに対応する通電が開始される。時点t0から、適用継続時間Tjの演算が開始される。ここで、時点t0が、正転通電量Iaの通電が開始される「開始時点」に相当する。
【0076】
時点t0の直後には、電気モータMTに突入電流(起動電流)が流れる。これにより、正転通電量Iaは、ピーク値iaまで上昇し、その後減少する。しかしながら、時点t0から時点t1までは、ステップS130にて、突入電流区間であることが判定されているため、ステップS140の判定(通電量Iaに係る大小比較)は禁止されている。ここで、時点t1が、正転通電量Iaにおいて、突入電流の影響が及ばなくなる「特定時点」に相当する。
【0077】
時点t0から、特定適用時間tm(所定値)を経過した時点t1(特定時点)にて、突入電流区間ではなくなったことが判定される。該判定によって、突入電流の影響が排除されたことが判定され、ステップS140の判定が許可される。時点t0から時点t2までは、エンド部材ENと出力部材SBとは当接しておらず、駐車ケーブルCBには張力が作用していない。このため、正転通電量Iaは、値icで略一定である。なお、値icで一定状態にて供給される正転通電量Iaは、電気モータMTから摩擦部材MSに至るまでの動力伝達機構(電気モータMT、減速機GS、入力部材NB、出力部材SB、駐車ケーブルCB等)の摩擦(摺動摩擦)に起因する値に相当する。
【0078】
時点t2から、正転通電量Iaが増加し始める。これは、時点t2より後は、エンド部材ENと出力部材SBとが接触し、駐車ケーブルCBの張力が徐々に増加されることに因る。時点t3にて、正転通電量Iaが適用しきい量ixに達する。時点t3にて、ステップS140で「Ia≧ix」が満足され、ステップS150で電気モータMTへの正符号の電圧印加が停止され、正転通電量Iaが「0」にされる。即ち、時点t3にて、適用制御が終了される。
【0079】
≪解除作動≫
時点u0にて、駐車スイッチSWがオン状態からオフ状態にされ(即ち、解除指示が行われ)、解除制御が開始される。時点u0にて、電気モータMTが逆転するように、解除制御によって、負の電圧が電気モータMTに印加される。これにより、電気モータMTの逆転方向Dbに対応する通電が開始される。時点u0では、接触解消判定用の制御フラグFF(接触判定フラグ)は、初期値として、「0(接触解消未確定)」に設定されている。電気モータMTは逆転方向Dbに駆動されるが、少なくとも時点u1までは、エンド部材ENと出力部材SBとは当接していて、駐車ケーブルCBには張力が作用している。電気モータMTの逆転駆動により、駐車ケーブルCBの張力は徐々に減少され、逆転通電量Ib(負の値)は次第に増加し、「0」に近づいていく。
【0080】
時点u1にて、逆転通電量Ibが解除量ik以上になり、禁止されていた接触解消判定が許可される。時点u2にて、制動装置DBにおいては、ブレーキライニングBLと、ブレーキドラムBD(特に、内周面Mn)とが、略接触しなくなる。これに伴い、時点u2にて、初めて、逆転通電量Ibが略一定となり、「逆転通電量Ibが一定となったこと」が判定される。しかし、時点u2では、逆転通電量Ibの一定状態は、未だ、接触判定時間thに亘って継続されてはいないため、接触解消状態は判定(確定)されない。なお、逆転通電量Ibの一定状態は、通電量Ibが所定範囲ih(接触判定量であって、予め設定された所定の定数)の内側に収まっていることによって判定される。また、逆転通電量Ibの時間変化量(時間微分値)dIb(解除通電変化量)が、接触判定変化量dx(予め設定された所定の定数)以下であることによって、該一定状態が判定されてもよい。
【0081】
時点u2から接触判定時間th(予め設定された所定の定数)だけ経過した時点u3にて、接触解消状態であることが判定(確定)され、ステップS230が満足される。これに伴い、時点u3(確定時点)にて、接触判定フラグFFが「0(接触解消未確定)」から「1(接触解消確定)」に切り替えられ、解除継続時間Tkの演算(時間の積算)が開始される。時点u3から解除しきい時間tk(予め設定された所定の定数)だけ経過した時点u4にて、電気モータMTへの負電圧の印加が中止され、通電が停止される。つまり、解除制御が終了され、逆転通電量(例えば、電流値)Ibが「0」にされ、電気モータMTの逆転駆動が停止される。このとき、接触判定フラグFFが「1」から初期値「0」に戻される。解除制御の終了に伴い、出力部材SBの移動が停止される。なお、解除制御の終了時には、出力部材SBと入力部材NBとは隙間を有している。
【0082】
<適用中断制御の処理>
図5のフロー図を参照して、適用中断制御の処理例について説明する。「適用中断制御」は、上述した適用制御の実行中に、他のコントローラECA、ECBから適用制御の作動(適用作動)を中断する要求(中断要求)があった場合の制御である。例えば、適用作動の中断要求は、コントローラ間で制御フラグ(適用作動中断の要求フラグ)FLが、通信バスBSを介して送受信されることによって行われる。なお、コントローラECUと、他のコントローラECA、ECBとは、電源BTを共有している。
【0083】
ステップS310にて、適用作動中断用の要求フラグ(単に、「適用中断フラグ」ともいう)FL、正転、逆転通電量Ia、Ib(電流センサIAの検出値)、及び、供給電圧Va(電圧センサVAの検出値)を含む各種信号が読み込まれる。ステップS320にて、適用中断フラグFLに基づいて、「適用作動の中断が要求されている最中であるか、否か」が判定される。適用中断フラグFLが「1(中断要求有り)」である状態が継続され、適用制御による適用作動の中断要求中である場合には、ステップS320は肯定され、処理はステップS370に進められる。適用中断フラグFLが「0(中断要求無し)」である状態が継続され、適用作動の中断が要求されていない場合には、ステップS320は否定され、処理はステップS330に進められる。
【0084】
ステップS330にて、適用中断フラグFLに基づいて、「適用作動の中断要求が開始されるか、否か」が判定される。前回の演算周期において「FL=0」であって、今回の演算周期において「FL=1」に遷移した場合には適用作動の中断要求の開始が判定され(即ち、ステップS330は肯定され)、処理はステップS340に進められる。一方、適用中断フラグFLが「0」のままであり、適用作動の中断要求がない場合には、中断要求の開始は判定されず(即ち、ステップS330は否定され)、処理はステップS310に戻される。即ち、中断要求がないので、適用作動が継続される。なお、ステップS330が満足(肯定)される時点が、適用作動中断の「要求時点」と称呼される。
【0085】
ステップS340にて、「中断要求が終了される際に締付力Faが過剰となるか、否か(「予測判定」という)」が判定される。より詳細には、予測判定では、「中断要求に応じて適用制御の作動を中断すると仮定した場合に、適用制御の作動が再度行われて適用状態にされる際に締付力Fa(即ち、適用状態が達成された状態での締付力Fa)が過剰となるか、否か」が予測される。換言すれば、予測判定は、「適用作動の中断要求が終了され、駐車ブレーキが効いている適用状態にされた際に締付力Faが過剰となっているか、否か」の予測を行うものである。ここで、締付力Faは、摩擦部材MSが回転部材KTに対して及ぼす力(押圧力)である。
【0086】
例えば、作動中断が要求される時点の正転通電量Iaと適用しきい量ixとの偏差(通電量偏差)hIが演算され、この通電量偏差hIに基づいて予測判定が行われる。具体的には、適用しきい量ixから、要求時点の正転通電量Iaが減算されて、通電量偏差hIが演算される(即ち、「hI=ix-Ia」)。そして、通電量偏差hIがしきい偏差hx以上である場合には予測判定が否定され、「適用制御が一旦中断された後に再度実行されても(即ち、再作動されても)締付力Faは過剰にはならない」と予測される。一方、通電量偏差hIがしきい偏差hx未満である場合には予測判定が肯定され、「適用制御が中断された後に再度実行されると(即ち、再作動されると)締付力Faは過剰になる」と予測される。ここで、しきい偏差hxは、予測判定を行うための通電量偏差hIに対応するしきい値であり、予め設定された所定値(正の定数)である。
【0087】
適用制御は、正転通電量Iaが適用しきい量ixに到達することで終了される。正転通電量Iaが適用しきい量ixよりもかなり小さく、通電量偏差hIが大きい状況(例えば、「hI≧hx」の場合)では、適用制御の作動は、然程進展していない。このため、該状況で一旦通電が停止され、適用制御が再度実行されても、締付力Faは過大にはならない。一方、正転通電量Iaが適用しきい量ixに到達する少し手前であって、通電量偏差hIが小さい状況(例えば、「hI<hx」の場合)では、適用制御の作動が或る程度進展している。このため、該状況で一旦通電が停止され、再度適用制御が実行されると、締付力Faが過大となる場合があり得る。これらのことから、上記の過剰な締付力Faの予測は、通電量偏差hIに基づいて判定される。
【0088】
しきい偏差hxは、電圧値Va(例えば、駆動回路DRに設けられた電圧センサVAの検出値)に基づいて調整され得る。具体的には、電圧値Vaが小さいほど、しきい偏差hxが小さくなるように調整される。これは、電圧値Vaが小さいほど、正転通電量Iaが増加され難いことに基づく。電圧値Vaに応じたしきい偏差hxの調整によって、過剰な締付力Faの発生予測の精度が向上され得る。
【0089】
適用制御の開始時点から、作動中断が要求される時点までの時間Te(「適用続行時間」という)が演算され、適用続行時間Teに基づいて予測判定が行われてもよい。具体的には、適用続行時間Teが続行しきい時間te未満である場合には予測判定が否定され、「再作動されても締付力Faは過剰にはならない」と予測される。一方、適用続行時間Teが続行しきい時間te以上である場合には予測判定が肯定され、「再作動されると締付力Faは過剰になる」と予測される。ここで、続行しきい時間teは、予測判定を行うための適用続行時間Teに対応するしきい値であり、予め設定された所定値(定数)である。
【0090】
適用制御では、時間Tの増加に伴って、正転通電量Iaが増加されるが、その増加パターンは既知である。従って、適用続行時間Teが小さい状況(例えば、「Te<te」の場合)では、適用制御の作動は、然程進展していない。このため、該状況で一旦通電が停止され、適用制御が再度実行されても、締付力Faは過大にはならない。一方、適用続行時間Teが大きくなった状況(例えば、「Te≧te」の場合)では、適用制御の作動が或る程度進展している。このため、該状況で一旦通電が停止され、再度適用制御が実行されると、締付力Faが過大となる場合があり得る。これらのことから、上記の過剰な締付力Faの予測は、適用続行時間Teに基づいて判定される。
【0091】
続行しきい時間teは、供給電圧値Va(例えば、駆動回路DRに設けられた電圧センサVAの検出値)に基づいて調整され得る。具体的には、電圧値Vaが小さいほど、続行しきい時間teが大きくなるように調整される。これは、供給電圧値Vaが小さいほど、正転通電量Iaが増加され難く、正転通電量Iaの増加に時間がかかることに基づく。上記同様に、電圧値Vaに応じた続行しきい時間teの調整によって、過剰な締付力Faの発生予測の精度が向上され得る。
【0092】
ステップS340が否定される場合(過剰な締付力Faの発生が予測されない場合であって、「予測否定時」ともいう)には、処理はステップS350に進められる。一方、ステップS340が肯定される場合(過剰な締付力Faの発生が予測される場合であって、「予測肯定時」ともいう)には、処理はステップS360に進められる。
【0093】
ステップS350にて、適用制御の作動中断要求に応じて、電気モータMTへの正電圧の印加が中止され、正転通電量Iaの供給が停止される。つまり、過剰な締付力Faの発生が予測されない場合には、中断要求が開始された時点で、直ちに適用制御の作動が一旦中断される。
【0094】
ステップS360にて、適用制御が継続され、その作動が継続される。つまり、過剰な締付力Faの発生が予測される場合には、適用作動の中断要求があっても、適用制御は中断されず、正転通電量Iaの供給は継続される。
【0095】
ステップS370にて、「適用制御が継続されているか、否か(「適用継続判定」という)」が判定される。予測判定が肯定され、ステップS360にて適用制御が継続されている場合には、ステップS370は肯定され、処理はステップS360に進められる。一方、予測判定が否定され、ステップS350にて適用制御が中断されている場合には、ステップS370は否定され、処理はステップS380に進められる。
【0096】
ステップS380にて、適用中断フラグFLに基づいて、「適用作動の中断要求が終了されるか、否か」が判定される。前回の演算周期において「FL=1」であって、今回の演算周期において「FL=0」に遷移した場合には適用作動の中断要求の終了が判定され(即ち、ステップS380は肯定され)、処理はステップS390に進められる。一方、適用中断フラグFLが「1」のままであり、中断要求が継続される場合には、中断要求終了は判定されず(即ち、ステップS360は否定され)、処理はステップS350に進められる(即ち、電気モータMTの通電停止が継続される)。
【0097】
ステップS390にて、
図3、4を参照して説明した適用制御が再度実行される。適用制御の作動が再度実行される場合の処理が、「再適用処理」と称呼される。換言すれば、再適用処理は、適用制御による作動を再作動させるものである。再適用処理は、過剰な締付力Faの発生が予測されない場合に実行されるので、再適用処理によって適用状態が達成されても締付力Faが過大になることはない。
【0098】
適用中断制御では、作動中断後に適用制御が再度実行される際の過剰な締付力Faの発生の有無が予測される。該発生が予測されない場合(予測否定時)には、適用作動は一旦中断され、電気モータMTへの通電は直ちに停止される。これにより、電源電圧の低下が好適に抑制され得る。そして、再適用処理による適用制御の再作動では、電気モータMTは、締付力Faを減少するために逆転駆動される必要がないので、正転駆動されるのみである。このため、再作動において、制御(特に、電気モータMTの制御)は煩雑ではない。
【0099】
一方、過剰な締付力Faの発生が予測される場合(予測肯定時)には中断要求が受信されても、適用制御の実行は継続される。予測肯定時に適用作動が中断されてしまうと、作動再開後に過剰な締付力Faが発生する蓋然性が高い。このため、例えば、作動再開時に一旦締付力Faが減少されてから、増加されるという処理が必要になってくる。該処理では、電気モータMTの正逆転が繰り返し行われ、その制御作動が煩雑となる。加えて、電気モータMTが一旦逆転駆動されてから、正転駆動されるため、駐車ブレーキの適用状態が達成されるまでに時間を要する。
【0100】
予測肯定時には、適用作動はかなり進んでいて、適用作動の終了間近の状態である。換言すれば、適用制御が継続されていても、予測判定が肯定された時点(即ち、中断要求があった時点)から間もなく適用制御は終了される。加えて、電気モータMTが大電力を消費する状況は、突入電流区間での作動である。以上のことから、予測肯定時に適用制御が継続されたとしても、電源電圧の低下は生じ難い。従って、上述したように、適用中断制御では、予測肯定時には、作動中断が要求されても適用制御は継続される。これにより、制御作動の煩雑さが解消されるとともに、駐車ブレーキが迅速に適用状態にされ得る。
【0101】
<適用中断制御の動作>
図6の時系列線図(時間Tに対する状態量の遷移線図)を参照して、適用中断制御の動作について説明する。適用中断制御には、(a)予測肯定時の動作、及び、(b)予測否定時の動作の2つの異なる動作が存在する。ここで、「予測肯定時」は、ステップS340の予測判定が肯定される場合に対応し、「予測否定時」は、それが否定される場合に対応している。例では、突入電流区間は、通電開始時点からの適用継続時間Tjに基づいて判定される。また、予測判定は通電量偏差hIに基づいて行われる。
【0102】
先ず、
図6(a)を参照して、予測肯定時の動作について説明する。
時点v0にて、適用作動が指示され、適用制御が開始される。適用制御によって、電気モータMTに正の電圧が印加され、電気モータMTの正転駆動が開始される。電気モータMTへの通電が開始される時点v0から、適用継続時間Tjの演算が開始される。時点v0(開始時点)から時点v1(特定時点)までの特定適用時間tmに亘っては突入電流区間であるため、ステップS140の判定(即ち、正転通電量Iaと適用しきい量ixとの大小比較)は禁止されている。従って、正転通電量Iaと適用しきい量ixとの大小に関係なく、正転通電量Iaは供給され続ける。
【0103】
突入電流区間を過ぎた時点v1以降、ステップS140の判定が許可され、演算周期毎に、正転通電量Iaと適用しきい量ixとの比較が行われる。時点v2にて、ブレーキライニングBLがブレーキドラムBDに接触し始め、電気モータMTの負荷が増加し始める。これに伴い、正転通電量Iaの増加が開始される。時点v3にて、正転通電量Iaが、しきい偏差hxよりも、しきい偏差hx(所定の定数)の分だけ小さい値iyに達する。従って、時点v3にて、正転通電量Iaと適用しきい量ixとの偏差hI(通電量偏差)が、しきい偏差hxに一致する。
【0104】
時点v4にて、適用中断フラグFLが、「0」から「1」に切り替えられ、適用作動の中断が、通信バスBSを介して要求される。該中断要求に応え、適用中断制御が開始される。時点v4(適用作動中断の要求時点)にて、「現在の時点で、もし、中断要求に応じて適用制御の作動を中断した場合、中断要求の終了後に、再度適用作動が行われると、その作動終了時に締付力Fa(即ち、適用状態が達成にされた際の最終的な締付力Fa)が過剰となるか、否か」の予測判定が行われる(ステップS340を参照)。具体的には、時点v4における正転通電量Iaと適用しきい量ixとの偏差(通電量偏差)hIと、しきい偏差hxとの大小関係の比較に基づいて予測判定が行われる。ここで、しきい偏差hxは、予め設定された所定値(定数)である。
【0105】
時点v4では、「Ia>iy」の状態になっているので、「hI≧hx」の条件は満足され、ステップS340の予測判定が肯定される。即ち、時点v4にて、電気モータMTへの通電が中断され、再度適用作動が行われると、適用作動の終了の際に過剰な締付力Faの発生の蓋然性が高いと予測される。このため、時点v4以降は、作動中断が要求されているにもかかわらず、適用制御の実行は継続される。つまり、正転通電量Iaが電気モータMTに供給され続ける。そして、時点v5にて、「Ia≧ix」の条件が満足され、適用制御の実行が終了される。適用制御の終了に伴い、電気モータMTに対する電圧印加が中止され、正転通電量Iaが「0」にされる。
【0106】
次に、
図6(b)を参照して、予測否定時の動作について説明する。
予測肯定時と同様に、時点v0にて、適用制御の実行が始まり、電気モータMTの正転駆動が開始される。同時に、時点v0から、適用継続時間Tjが演算される。突入電流区間である時点v0から時点v1までは、正転通電量Iaに係る比較は禁止され、正転通電量Iaと適用しきい量ixとの大小関係に係らず、正転通電量Iaは連続して供給される。
【0107】
時点v1にて、正転通電量Iaと適用しきい量ixとの比較(正転通電量Iaに係る比較)が許可される。時点v2にて、ブレーキライニングBLとブレーキドラムBDとが接触し、正転通電量Iaが増加され始める。時点v6にて、適用中断フラグFLを通じて適用作動の中断が要求される。中断要求の開始時点v6(適用作動中断の要求時点)にて、正転通電量Iaと適用しきい量ixとの偏差hI(=hx-Ia)が演算され、通電量偏差hIとしきい偏差hxとの大小関係が比較される。時点v6では、通電量偏差hIはしきい偏差hx以上であるため、予測判定が否定される。つまり、時点v6にて、電気モータMTへの通電が中断されても、再度適用作動が行われる際に過剰な締付力Faが発生する蓋然性は低いと予測される。このため、時点v6にて、電気モータMTへの通電が一旦中断され、正転通電量Iaが「0」にされる。これに伴い、時点v6にて、電気モータMTの駆動が停止される。
【0108】
時点v6から時点v7までは、コントローラECUでは「FL=1」が受信されるので、「Ia=0」が維持され、電気モータMTの駆動は停止される。そして、時点v7にて、「FL=1」から「FL=0」に切り替えられ、適用作動の中断要求が終了される(ステップS380の肯定)。時点v7からは、ステップS390の再適用処理が実行される。再適用処理では、適用制御と同じ処理が再度繰り返される。換言すれば、時点v7以降は、適用制御が再度実行される。
【0109】
時点v7にて、再度、電気モータMTに正の電圧が印加され、正転通電量Iaが供給され、正転駆動が開始される。電気モータMTへの再通電が開始された時点v7(開始時点)から、適用継続時間Tjの演算が開始される。開始時点v7から特定時点v8までは、突入電流区間であるため、ステップS140の判定は禁止される。突入電流区間を過ぎた時点v8から、ステップS140の判定が許可される。「Ia<ix」が継続される場合には、電気モータMTへの電圧印加は継続される。これにより、締付力Faの増加に従って、正転通電量Iaは増加される。「Ia≧ix」となる時点v9にて、電気モータMTへの電圧印加が停止され、再適用作動の処理が終了される。動力変換機構HNはセルフロックするため、時点v9以降は、駐車ブレーキが効いた状態(適用状態)が維持される。
【0110】
<適用中断制御の変形例>
上述した適用中断制御の処理例では、ステップS340の予測判定が、通電量偏差hIに基づいて行われた。これに代えて、予測判定が、適用続行時間Te(開始時点v0からの時間)に基づいて行われてもよい。これは、正転通電量Iaの通電パターンは既知であるため、適用続行時間Teの長短に応じて、適用制御の進度が推定可能であることに基づく。以下、変形例について、
図6の[ ]内の記載を参照して簡単に説明する。
【0111】
先ず、
図6(a)を参照して予測肯定時について説明する。時点v0にて、適用制御が開始され、正転通電量Iaの通電が始められる。同時に、時点v0にて、適用続行時間Teの演算が開始される。時点v4(要求時点)にて、適用作動の中断要求が開始される。このとき、予測判定として、「適用続行時間Teが続行しきい時間te以上であるか、否か」が判定される。ここで、続行しきい時間teは、予測判定用のしきい値(適用続行時間Teに対応)であり、予め設定された所定値(定数)である。例では、適用作動中断の要求時点v4では、「Te≧te」となっているため、予測判定は肯定される。従って、中断要求があっても、適用作動は中断されない。
【0112】
次に、
図6(b)を参照して予測否定時について説明する。時点v0にて、適用制御が開始され、適用続行時間Teの演算が開始される。時点v6(要求時点)にて、適用作動の中断要求が開始される。適用作動中断の要求時点v6では、適用続行時間Teは続行しきい時間te未満であるため、「適用続行時間Teが続行しきい時間te以上であるか、否か」の予測判定は否定される。従って、中断要求に応じて、適用作動が中断される。その後、中断要求が終了される時点v7にて、再適用処理が開始される。
【0113】
<解除中断制御の処理例>
図7のフロー図を参照して、解除中断制御の処理例について説明する。「解除中断制御」は、上述した解除制御の実行中に、他のコントローラECA、ECBから解除制御の作動(解除作動)を中断する要求(中断要求)があった場合の制御である。例えば、解除作動の中断要求は、コントローラ間で制御フラグ(解除作動中断の要求フラグ)FKが、通信バスBSを介して送受信されることによって行われる。なお、コントローラECUと、他のコントローラECA、ECBとは、電源BTを共有している。
【0114】
ステップS410にて、解除作動中断用の要求フラグ(単に、「解除中断フラグ」ともいう)FK、接触判定フラグFF、及び、正転、逆転通電量Ia、Ib(通電量センサIAの検出値)を含む各種信号が読み込まれる。ステップS420にて、解除中断フラグFKに基づいて、「解除作動の中断が要求されている最中であるか、否か」が判定される。解除中断フラグFKが「1(中断要求有り)」である状態が継続され、解除制御による作動(解除作動)の中断要求中である場合には、ステップS420は肯定され、処理はステップS470に進められる。解除中断フラグFKが「0(中断要求無し)」である状態が継続され、解除作動の中断が要求されていない場合には、ステップS420は否定され、処理はステップS430に進められる。
【0115】
ステップS430にて、解除中断フラグFKに基づいて、「解除作動の中断要求が開始されるか、否か」が判定される。前回の演算周期において「FK=0」であって、今回の演算周期において「FK=1」に遷移した場合には解除作動の中断要求の開始が判定され(即ち、ステップS430は肯定され)、処理はステップS440に進められる。一方、解除中断フラグFKが「0」のままであり、解除作動の中断要求がない場合には、中断要求開始は判定されず(即ち、ステップS430は否定され)、処理はステップS410に戻され、解除作動が継続される。なお、ステップS430が満足(肯定)される時点が、解除作動中断の「要求時点」と称呼される。
【0116】
ステップS440にて、接触判定フラグFFに基づいて、「接触解消状態であるか、否か(即ち、接触解消確定か、接触解消未確定か)」が判定される。「FF=0」であって、中断要求が開始される時点で接触解消未確定である場合(換言すれば、中断要求が、接触解消状態が判定される前に開始される場合)には、ステップS440は否定され、処理はステップS450に進められる。一方、「FF=1」であって、中断要求が開始される時点で接触解消確定である場合(換言すれば、中断要求が、接触解消状態が確定された後に開始される場合)には、ステップS440は肯定され、処理はステップS460に進められる。
【0117】
ステップS450にて、解除制御の作動中断要求に応じて、電気モータMTへの負電圧の印加が中止され、逆転通電量Ibの供給が停止される。つまり、中断要求が開始される時点で接触解消状態が判定されない場合には、解除作動中断の要求時点で、直ちに解除制御の作動が一旦中断される。このとき、解除継続時間Tkがリセットされて「0」に戻される。
【0118】
ステップS460にて、解除制御が継続され、その作動が継続される。つまり、中断要求が開始される時点で接触解消状態が判定されている場合には、解除作動の中断要求があっても、解除制御は中断されず、逆転通電量Ibの供給は継続される。
【0119】
ステップS470にて、「解除制御が継続されているか、否か(「解除継続判定」という)」が判定される。接触解消状態が確定され、ステップS460にて解除制御が継続されている場合には、ステップS470は肯定され、処理はステップS460に進められる。一方、接触解消状態が未確定であり、ステップS450にて解除制御が中断されている場合には、ステップS470は否定され、処理はステップS480に進められる。
【0120】
ステップS480にて、解除中断フラグFKに基づいて、「解除作動の中断要求が終了されるか、否か」が判定される。前回の演算周期において「FK=1」であって、今回の演算周期において「FK=0」に遷移した場合には解除作動の中断要求の終了が判定され(即ち、ステップS480は肯定され)、処理はステップS490に進められる。一方、解除中断フラグFKが「1」のままであり、中断要求が継続される場合には、中断要求終了は判定されず(即ち、ステップS460は否定され)、処理はステップS450に進められ、電気モータMTの通電停止が継続される。
【0121】
ステップS490にて、
図3、4を参照して説明した解除制御が再度実行される。解除制御の作動が再度実行される場合の処理が、「再解除処理」と称呼される。換言すれば、再解除処理は、解除制御による作動を再作動させるものである。再解除処理は、接触解消状態が判定されていない場合に実行される。このとき、解除処理は然程進んでいないので、再解除処理によって部材の過剰変位は発生され得ない。
【0122】
解除中断制御では、作動中断の要求開始時点で接触解消状態の有無が判定される。未だ接触解消状態が達成されていないと判定される場合(接触解消不確定時)には、解除作動は一旦中断され、電気モータMTへの通電は直ちに停止される。これにより、電源電圧の低下が好適に抑制され得る。そして、再解除処理による解除制御の再作動では、電気モータMTは、ブレーキライニングBLとブレーキドラムBDとを再度接触させるために正転駆動される必要がないので、逆転駆動されるのみである。このため、再作動において、制御(特に、電気モータMTの制御)は煩雑ではない。
【0123】
一方、作動中断の要求開始時点で接触解消状態が既に判定されている場合(即ち、接触解消確定時)には、中断要求が受信されても、解除制御の実行は継続される。これは、接触解消確定の場合に解除作動が中断されてしまうと、作動再開後に部材(出力部材SB等)の過剰変位が発生する蓋然性が高いことに因る。このため、例えば、作動再開時に出力部材SB等が、一旦前進方向Haに移動されてから後退方向Hbに移動されるという処理が必要になってくる。該処理では、電気モータMTの正逆転が繰り返し行われ、その制御作動が煩雑となる。加えて、電気モータMTが正転駆動されてから逆転駆動されるため、駐車ブレーキの解除状態が達成されるまでに時間を要する。
【0124】
解除作動確定時には、解除作動はかなり進んでいて、解除作動の終了間近の状態である。換言すれば、解除制御が継続されていても、中断要求があった時点から間もなく解除制御は終了される。加えて、解除作動が確定されている状態では、電気モータMTの電力消費は動力伝達部材の摺動摩擦に使用されるのみある。以上のことから、予解除作動確定時に解除制御が継続されたとしても、電源電圧の低下は生じ難い。従って、上述したように、解除中断制御では、解除作動確定時には、作動中断が要求されても解除制御は継続される。これにより、制御作動の煩雑さが解消されるとともに、駐車ブレーキが迅速に解除状態にされ得る。
【0125】
<解除中断制御の動作>
図8の時系列線図(時間Tに対する状態量の遷移線図)を参照して、解除中断制御の動作について説明する。解除中断制御には、(a)接触解消確定時の動作、及び、(b)接触解消未確定時の動作の2つの異なる動作が存在する。ここで、「接触解消確定時」は、ステップS440の判定が肯定される場合に対応し、「接触解消未確定時」は、それが否定される場合に対応している。例では、解除中断フラグFKが実線で、接触判定フラグFFが破線で、夫々示されている。なお、上述した「Ib≧ik」の許可判定は省略されてもよい。
【0126】
先ず、
図8(a)を参照して、接触解消確定時(即ち、中断要求の開始時点で接触解消状態が既に判定されている場合)の動作について説明する。
時点w0にて、解除作動が指示され、解除制御が開始される。解除制御によって、電気モータMTに負の電圧が印加され、電気モータMTの逆転駆動が開始される。少なくとも時点w2までは、摩擦部材MSと回転部材KTとは接触しているため、電気モータMTには負荷が生じている。電気モータMTの逆転駆動により、電気モータMTの負荷が徐々に減少されるため、逆転通電量Ib(負の値)は次第に増加し、「0」に近づいていく。時点w1にて、「Ib≧ik」の許可条件が満足され、ステップS230の接触解消判定の実行が許可される。
【0127】
時点w2にて、摩擦部材MSと回転部材KTとが略接触しなくなる。これに伴い、初めて、「逆転通電量Ibが一定となったこと」が判定される。しかし、時点w2では、逆転通電量Ibの一定状態は、未だ、接触判定時間thに亘って継続されてはいないので、接触解消状態は判定されない。即ち、時点w2では、未だ接触解消未確定の状態である。時点w2から接触判定時間thを経過した時点w3にて、接触解消状態が判定される。即ち、確定時点w3にて、「接触解消未確定の状態」から「接触解消確定の状態」に遷移する。これに伴い、時点w3にて、接触判定フラグFF(破線で示す)が「0(接触解消未確定)」から「1(接触解消確定)」に切り替えられる。また、時点w3にて、解除継続時間Tkの演算が開始される。
【0128】
時点w4にて、解除中断フラグFKが、「0」から「1」に切り替えられ、解除作動の中断が、通信バスBSを介して要求される。該中断要求に応え、解除中断制御が開始される。時点w4(要求時点)にて、接触判定フラグFFに基づいて、「接触解消状態であるか、否か」の判定が行われる(ステップS440を参照)。中断要求の開始時点の前の時点w3で、接触判定フラグFFは既に「1」に切り替えられているので、ステップS440の判定は肯定される。従って、時点w4以降は、作動中断が要求されているにもかかわらず、解除制御の実行は継続される。つまり、逆転通電量Ibが、電気モータMTに供給され続ける。そして、時点w5にて、「Tk≧tk」の条件が満足され、解除制御の実行が終了される。解除制御の終了に伴い、電気モータMTに対する負電圧の印加が中止され、逆転通電量Ibが「0」にされる。
【0129】
次に、
図8(b)を参照して、接触解消未確定時(即ち、中断要求の開始時点で未だ接触解消状態が判定されていない場合)の動作について説明する。
接触解消確定時と同様に、時点w0にて、解除制御の実行が始まり、電気モータMTの逆転駆動が開始される。時点w1にて、ステップS230の接触解消判定が許可される。時点w6にて、解除中断フラグFKを通じて解除作動の中断が要求される。時点w6(要求時点)では、接触解消状態は未だ判定されておらず、接触解消未確定の状態である。従って、時点w6にて、電気モータMTへの通電が一旦中断され、逆転通電量Ibが「0」にされる。これに伴い、時点w6にて、電気モータMTの駆動が停止される。
【0130】
時点w6から時点w7までは、コントローラECUでは「FK=1」が受信されるので、「Ib=0」が維持され、電気モータMTの駆動は停止される。そして、時点w7にて、解除中断フラグFKが「1」から「0」に切り替えられ、解除作動の中断要求が終了される(ステップS480の肯定)。時点w7からは、ステップS490の再解除処理が実行される。再解除処理では、解除制御と同じ処理が再度繰り返される。換言すれば、時点w7以降は、解除制御が再度実行される。
【0131】
時点w7にて、再度、電気モータMTに負の電圧が印加され、逆転通電量Ibが供給され、逆転駆動が開始される。時点w8にて、「Ib≧ik」が満足され、ステップS230の接触解消判定が許可される。時点w9にて、摩擦部材MSと回転部材KTとが略接触しなくなる。時点w10にて、接触解消状態が判定され、解除継続時間Tkの演算が開始される。時点w11にて、解除継続時間Tkが解除しきい時間tkに達するため、電気モータMTへの電圧印加が停止され、再解除作動の処理が終了される。時点w11以降は、駐車ブレーキの解除状態が維持される。
【0132】
<各実施形態のまとめと作用・効果>
以下に、電動駐車ブレーキ装置EPの実施形態についてまとめる。
電動駐車ブレーキ装置EPは、電気モータMTを正転方向Daに駆動して車輪に設けられた回転部材KTと摩擦部材MSとの間に締付力Faを発生して駐車ブレーキを効かせ、電気モータMTを逆転方向Dbに駆動して駐車ブレーキを解除する。電動駐車ブレーキ装置EPには、電気モータMTを制御するコントローラECUが備えられる。
【0133】
コントローラECUは、駐車ブレーキを効かせる際に、正転方向Daに対応する正転通電量Iaを電気モータMTに供給し、正転通電量Iaの供給を開始する開始時点から該電気モータMTの突入電流の影響がなくなる特定時点までの間は正転通電量Iaと適用しきい量ixとの比較を行わずに正転通電量Iaを供給し、特定時点の後は正転通電量Iaと適用しきい量ixとの比較を行い、正転通電量Iaが適用しきい量ix未満の場合には正転通電量Iaを供給し、正転通電量Iaが適用しきい量ix以上の場合には正転通電量Iaを停止する。該制御が適用制御である。更に、コントローラECUでは、適用制御の実行中に、その中断が要求される場合には、「適用制御に係る中断要求が終了される際に締付力Fa(例えば、適用状態が達成される時点での締付力Fa)が過剰となるか、否か」の予測判定が行われる。そして、予測判定が肯定される場合には、中断要求に反して適用制御が継続される。一方、予測判定が否定される場合には、中断要求に応じて適用制御が中断される。
【0134】
適用作動の途中で作動中断要求がある場合には、予測判定として、「作動中断後に適用制御が再度実行される際の過剰な締付力Faの発生の有無」が判定される。該予測判定が否定される場合には、適用作動は中断されるので、電源電圧の低下が好適に抑制されるとともに、過剰な締付力Faは発生されない。また、適用処理の中断後の再作動では、電気モータMTは正転方向Daにのみ駆動されるため、制御(特に、電気モータMTの制御)の煩雑さは回避されている。一方、予測判定が肯定される場合には、中断要求があっても、適用制御の実行は継続される。これにより、適用作動が再作動される際のモータ制御の煩雑さが解消されるとともに、駐車ブレーキが迅速に適用状態にされる。
【0135】
例えば、コントローラECUでは、作動中断が要求される時点の正転通電量Iaと適用しきい量ixとの偏差hI(通電量偏差)に基づいて予測判定が行われ得る。具体的には、通電量偏差hIが演算され、通電量偏差hIがしきい偏差hx以上である場合には予測判定が否定され、通電量偏差hIがしきい偏差hx未満である場合には予測判定が肯定される。適用制御は、正転通電量Iaが適用しきい量ixに到達することで終了されるので、通電量偏差hIに基づいて過剰な締付力Faの発生が予測可能である。「hI≧hx」の場合には、適用制御の作動は然程進展しておらず、過剰な締付力Faの発生の可能性は低いので、予測判定は否定される。「hI<hx」の場合には、適用制御の作動が或る程度進展していて、過剰な締付力Faが発生する可能性が高いので、予測判定は肯定される。なお、電圧値Vaに基づいて、供給電圧値Vaが小さいほど、しきい偏差hxが小さく調整され得る。該調整によって、予測判定の精度が向上され得る。
【0136】
また、コントローラECUでは、適用制御の開始時点(即ち、正転通電量Iaの供給開始時点)から作動中断が要求される時点までの時間である適用続行時間Teに基づいて予測判定が行われてもよい。具体的には、適用続行時間Teが演算され、適用続行時間Teが続行しきい時間te未満である場合には予測判定が否定され、適用続行時間Teが続行しきい時間te以上である場合には予測判定が肯定される。適用制御では、時間Tに対する正転通電量Iaの増加パターンは既知である。従って、適用続行時間Teに基づいて過剰な締付力Faの発生が予測可能である。「Te<te」の場合には、適用制御の作動は然程進んでおらず、過剰な締付力Faの発生の可能性は低いので、予測判定は否定される。「Te≧te」の場合には、適用制御の作動が或る程度進んでいて、過剰な締付力Faが発生する可能性が高いので、予測判定は肯定される。なお、供給電圧値Vaに基づいて、電圧値Vaが小さいほど、続行しきい時間teが大きく調整され得る。該調整によって、予測判定の精度が向上され得る。
【0137】
電動駐車ブレーキ装置EPでは、コントローラECUは、駐車ブレーキを解除する際に、回転部材KTと摩擦部材MSとが接触しなくなる接触解消状態を判定する確定時点からの解除継続時間Tkが解除しきい時間tkに達する時点で電気モータMTの駆動を停止する。該制御が解除制御である。更に、コントローラECUでは、確定時点の後に解除制御の中断が要求される場合には、中断要求に反して解除制御が継続される。一方、確定時点の前に解除制御の中断が要求される場合には、中断要求に応じて解除制御が中断される。
【0138】
解除作動の途中で作動中断要求がある場合には、接触解消判定として、「摩擦部材MSと回転部材KTとの接触状態が解消されているか、否か」が判定される。接触解消状態が未だ判定されていない場合(接触解消未確定時)には、電気モータMTへの通電は直ちに停止されるので、電源電圧の低下が好適に抑制されるとともに、構成部材の過剰変位が回避される。また、解除処理の中断後の再作動では、電気モータMTは逆転方向Dbにのみ駆動されるため、制御(特に、電気モータMTの制御)の煩雑さは回避されている。一方、接触解消状態が既に判定されている場合(接触解消確定時)には、中断要求があっても、解除制御の実行は継続される。これにより、解除作動が再作動される際のモータ制御の煩雑さが解消されるとともに、駐車ブレーキが迅速に解除状態にされる。
【0139】
<他の実施形態>
以下、電動駐車ブレーキ装置EPの他の実施形態について説明する。他の実施形態でも、上記同様の効果(制御の煩雑さ低減、及び、迅速な作動)を奏する。
【0140】
上記の実施形態では、駐車スイッチSWの操作に応じた電動駐車ブレーキ装置EPの作動(適用指示に応じた適用制御/解除指示に応じた解除制御)について説明した。電動駐車ブレーキ装置EPの適用指示/解除指示は、駐車スイッチSWの操作に代えて自動で行われてもよい。電動駐車ブレーキ装置EPの作動が自動的に行われる状況が「自動モード」と称呼される。自動モードでは、例えば、車両が停止した際に、電動駐車ブレーキ装置EPが自動で適用指示が行われ、駐車制動力Fpが発生(付与)される。また、運転者によって、加速操作部材(アクセルペダル等)が操作され、操作量Apが「0(ゼロ)」から増加した際に、電動駐車ブレーキ装置EPが自動で解除指示が行われる。自動モードは、通信バスBSを介して、コントローラECUにて取得された車体速度Vx、加速操作量Apによって実行される。
【0141】
自動制動装置が備えられる車両では、運転者が操作を行うことなく電動駐車ブレーキ装置EPの自動モードが実行されてもよい。例えば、渋滞時等の運転を支援するよう、先行車を検知して車体速度Vxを自動調節される。そして、先行車が停止した際は車間距離を保ったまま自動で停止し、自動的に適用指示が行われ、電動駐車ブレーキ装置EPが適用作動される。その後、先行車が発進した場合には、自動的に解除指示が行われ、電動駐車ブレーキ装置EPが解除作動され、先行車に追従するように、自車の車体速度Vxが調整される。
【0142】
上記の実施形態では、制動装置DBとして、ドラム型ブレーキが採用された。これに代えて、制動装置DBとして、ディスク型ブレーキが採用されてもよい。ディスク型ブレーキでは、摩擦部材MSとしてブレーキパッド、回転部材KTとしてブレーキディスクが採用される。
【符号の説明】
【0143】
EP…電動駐車ブレーキ装置、BT…蓄電池(電源)、AL…発電機(電源)、ECU…コントローラ(電動駐車ブレーキ装置用)、ECA、ECB…他のコントローラ、BS…通信バス、FL…適用中断フラグ(適用作動の中断要求用の制御フラグ)、FK…解除中断フラグ(解除作動の中断要求用の制御フラグ)、FF…解除判定フラグ(接触解消状態を表す制御フラグ)、SW…駐車スイッチ、DB…制動装置、KT…回転部材、BD…ブレーキドラム(回転部材KTの一例)、MS…摩擦部材、BL…ブレーキライニング(摩擦部材MSの一例)、CB…駐車ケーブル、DN…電動アクチュエータ、MT…電気モータ、GS…減速機、NB…入力部材、SB…出力部材、MP…マイクロプロセッサ、DR…駆動回路、IA…通電量センサ(例えば、電流センサ)、VA…電圧センサ、Ia…正転通電量(正転方向Daに対応する通電量)、Ib…逆転通電量(逆転方向Dbに対応する通電量)、Va…電圧値(電気モータMTへの供給電圧値)、ix…適用しきい量(適用作動終了用のしきい値)、tk…解除しきい時間(解除作動終了用のしきい値)、tm…特定適用時間。