(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】蓄電素子及び蓄電素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/133 20100101AFI20240123BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240123BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240123BHJP
H01M 4/1393 20100101ALI20240123BHJP
H01M 50/578 20210101ALI20240123BHJP
H01M 10/0587 20100101ALI20240123BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/587
H01M4/36 D
H01M4/1393
H01M50/578
H01M10/0587
(21)【出願番号】P 2020546028
(86)(22)【出願日】2019-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2019035525
(87)【国際公開番号】W WO2020054708
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2018170095
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(72)【発明者】
【氏名】尾木 謙太
(72)【発明者】
【氏名】中野 史也
(72)【発明者】
【氏名】下川 亮介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祥太
(72)【発明者】
【氏名】増田 真規
(72)【発明者】
【氏名】山福 太郎
(72)【発明者】
【氏名】熊林 慧
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 明彦
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-088403(JP,A)
【文献】国際公開第2013/125030(WO,A1)
【文献】特開2014-165156(JP,A)
【文献】特開2018-032477(JP,A)
【文献】特開2009-032575(JP,A)
【文献】特開2016-042433(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003761(WO,A1)
【文献】特開2017-033773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極及び正極を有する電極体を備え、
上記負極が、負極基材と、負極活物質を含有するとともにこの負極基材の少なくとも一
方の面に沿って未プレスの状態で配置される負極活物質層とを有し、
上記負極活物質が主成分として中実黒鉛粒子を含み、
上記中実黒鉛粒子のアスペクト比が1以上5以下であり、
上記中実黒鉛粒子のメジアン径が5μm以下である蓄電素子。
【請求項2】
負極及び正極を有する電極体を備え、
上記負極が、負極基材と、負極活物質を含有するとともにこの負極基材の少なくとも一
方の面に沿って配置される負極活物質層とを有し、
上記負極活物質が主成分として中実黒鉛粒子を含み、
上記中実黒鉛粒子のアスペクト比が1以上5以下であり、
上記中実黒鉛粒子のメジアン径が5μm以下であり、
上記負極活物質層が配置されている領域における上記負極基材の表面粗さR1に対する
上記負極活物質層が配置されていない領域における上記負極基材の表面粗さR2の比で
あるR2/R1が、0.90以上である蓄電素子。
【請求項3】
上記負極活物質層の密度が1.20g/cm
3以上1.55g/cm
3以下である
請求項1又は請求項2に記載の蓄電素子。
【請求項4】
上記負極活物質が難黒鉛化性炭素をさらに含む請求項1から請求項3のいずれか1項の
蓄電素子。
【請求項5】
上記負極及び正極が積層された状態で巻回された電極体を備え、
上記電極体が中央部に中空領域を有する請求項1から請求項4のいずれか1項の蓄電素
子。
【請求項6】
内圧が予め定められた圧力まで上昇した場合に、上記負極及び上記正極間の電気的接続
を遮断する圧力感応式の遮断機構、又は上記負極及び上記正極を上記電極体の外部で電気
的に短絡させる圧力感応式の短絡機構を備える請求項1から請求項5のいずれか1項の蓄
電素子。
【請求項7】
上記電極体を収容し、内表面が上記電極体の外表面と直接又は間接に接触するケースと
、
上記ケースを外側から加圧する加圧部材と
を備える請求項1から請求項6のいずれか1項の蓄電素子。
【請求項8】
負極活物質を含有する負極活物質層が負極基材の少なくとも一方の面に沿って配置され
た負極を準備すること、
正極活物質を含有する正極活物質層が正極基材の一方の面に沿って配置された正極を準
備すること、並びに
上記負極及び上記正極を積層すること
を備え、
上記負極活物質が中実黒鉛粒子を含み、
上記中実黒鉛粒子のアスペクト比が、1以上5以下であり、
上記中実黒鉛粒子のメジアン径が5μm以下であり、
上記負極は、上記負極及び上記正極を積層することの前に、上記負極活物質層をプレスす
ることを有さない蓄電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子及び蓄電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン非水電解質二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極を有する電極体、及び電極間に介在する非水電解質を備え、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
このような蓄電素子の高エネルギー密度化や、充放電効率の向上などを目的として上記蓄電素子の負極活物質としては、黒鉛を初めとした炭素材料が用いられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特許出願公開2005-222933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、黒鉛は充放電中の膨張収縮が大きい。そのため、充放電により電極が膨張することに伴って電極自身又は電極と隣接して積層されるセパレータに負荷がかかり、蓄電素子の性能が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、黒鉛を負極活物質に用いた場合に、初期の充電時に生じる負極の膨張に対する抑制効果が高い蓄電素子及び蓄電素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、負極及び正極を有する電極体を備え、上記負極が、負極基材と、負極活物質を含有するとともにこの負極基材の少なくとも一方の面に沿って未プレスの状態で配置される負極活物質層とを有し、上記負極活物質が主成分として中実黒鉛粒子を含み、上記中実黒鉛粒子のアスペクト比が1以上5以下である蓄電素子である。
【0008】
本発明の他の一態様は、負極及び正極を有する電極体を備え、上記負極が、負極基材と、負極活物質を含有するとともにこの負極基材の少なくとも一方の面に沿って配置される負極活物質層とを有し、上記負極活物質が主成分として中実黒鉛粒子を含み、上記中実黒鉛粒子のアスペクト比が1以上5以下であり、上記負極活物質層の密度が1.20g/cm3以上1.55g/cm3以下である蓄電素子である。
【0009】
本発明の他の一態様は、負極及び正極を有する電極体を備え、上記負極が、負極基材と、負極活物質を含有するとともにこの負極基材の少なくとも一方の面に沿って配置される負極活物質層とを有し、上記負極活物質が主成分として中実黒鉛粒子を含み、上記中実黒鉛粒子のアスペクト比が1以上5以下であり、上記負極活物質層が配置されている領域における上記負極基材の表面粗さR1に対する上記負極活物質層が配置されていない領域における上記負極基材の表面粗さR2の比であるR2/R1が、0.90以上である蓄電素子である。
【0010】
本発明の他の一態様は、負極活物質を含有する負極活物質層が負極基材の少なくとも一方の面に沿って配置された負極を準備すること、正極活物質を含有する正極活物質層が正極基材の一方の面に沿って配置された正極を準備すること、並びに上記負極及び上記正極を積層することを備え、上記負極活物質が中実黒鉛粒子を含み、上記中実黒鉛粒子のアスペクト比が、1以上5以下であり、上記負極は、上記負極及び上記正極を積層することの前に、上記負極活物質層をプレスすることを有さない蓄電素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、黒鉛を負極活物質に用いた場合に、初期の充電時に生じる負極の膨張に対する抑制効果が高い蓄電素子及び蓄電素子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態における蓄電素子を示す模式的分解斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態における蓄電素子の模式的断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態における蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態の一態様は、負極及び正極を有する電極体を備え、上記負極が、負極基材と、負極活物質を含有するとともにこの負極基材の少なくとも一方の面に沿って未プレスの状態で配置される負極活物質層とを有し、上記負極活物質が主成分として中実黒鉛粒子を含み、上記中実黒鉛粒子のアスペクト比が1以上5以下である蓄電素子である。
【0014】
当該蓄電素子は、黒鉛を負極活物質に用いた場合に、初期の充電時に生じる負極の膨張に対する抑制効果が高い。この理由は定かでは無いが、次のように考えられる。
当該蓄電素子では、主成分として中実黒鉛粒子を含む負極活物質層が未プレスの状態で配置される負極を備え、電極体が形成されるまでに、負極活物質に応力がほとんど加えられない構成となっている。そのため、黒鉛粒子自体に残留応力が少なく、残留応力が解放されることに起因する不均一な負極の膨張を抑制できる。また、黒鉛粒子が中実であるので、黒鉛粒子内の密度が均一であり、かつアスペクト比が1以上5以下であることで黒鉛粒子が球形に近いために、電流集中が起こりにくいことから不均一な負極の膨張を抑制できる。また、上述の通り黒鉛粒子が球形に近いために、活物質層中に配される黒鉛粒子の配向性が低く、向きがランダムになりやすいので、不均一な負極の膨張を抑制できる。さらに、球形に近いことで隣り合う黒鉛粒子同士が引っ掛かりにくくなり、適度に黒鉛粒子同士が滑り合い、黒鉛粒子が膨張したとしても最密充填に近い状態で維持されやすい。このように、本実施形態では、黒鉛粒子が膨張したとしても、比較的均一に膨張し、適度に滑り合うことで、黒鉛粒子の充填率が高い負極活物質層が維持される結果、初期の充電時に生じる負極の膨張を抑制することができると推測される。
【0015】
なお、「未プレス」とは、製造時において、ロールプレス機等のワークに圧力を加えることを用途とする装置により負極活物質層に対して10kgf/mm以上(例えば5kgf/mm以上)の圧力(線圧)を加える工程が行われていないことを意味する。つまり、負極を巻き取る等の他の工程において、負極活物質層に若干の圧力が加わったものも、「未プレス」に含まれる。また、「未プレス」は、10kgf/mm未満(例えば5kgf/mm未満)の圧力(線圧)を加える工程が行われていることを含む。「中実」とは、粒子内部が詰まっていて実質的に空隙が存在しないことを意味する。より具体的には本明細書においては、中実とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて取得されるSEM像において観察される粒子の断面において、粒子全体の面積に対して粒子内の空隙を除いた面積率が95%以上(例えば96%以上、典型的には98%以上)である。「主成分」とは、最も含有量の多い成分を意味し、例えば負極活物質の総質量に対して50質量%以上含まれる成分をいう。「アスペクト比」とは、走査型電子顕微鏡を用いて取得されるSEM像において観察される粒子の断面において、粒子の最長となる径Aと、径Aに垂直な方向において最長となる径Bとの比であるA/B値を意味する。
【0016】
本実施形態の一態様は、負極及び正極を有する電極体を備え、上記負極が、負極基材と、負極活物質を含有するとともにこの負極基材の少なくとも一方の面に沿って配置される負極活物質層とを有し、上記負極活物質が主成分として中実黒鉛粒子を含み、上記中実黒鉛粒子のアスペクト比が1以上5以下であり、上記負極活物質層の密度が1.20g/cm3以上1.55g/cm3以下である蓄電素子である。
【0017】
負極活物質層は、ロールプレス機等により圧力を加えられるほど、負極活物質層の密度が大きくなる。換言すると、負極活物質層の密度が小さい場合、負極活物質層に加えられた圧力が小さい。当該蓄電素子では、主成分として中実黒鉛粒子を含む負極活物質層の密度が1.20g/cm3以上1.55g/cm3以下であり、負極活物質層に加えられた圧力が無い又は小さい状態である。そのため、黒鉛粒子自体に残留応力が少なく、残留応力が解放されることに起因する不均一な負極の膨張を抑制できる。また、黒鉛粒子が中実であるので、黒鉛粒子内の密度が均一であり、かつアスペクト比が1以上5以下であることで黒鉛粒子が球形に近いために、電流集中が起こりにくいことから不均一な負極の膨張を抑制できる。また、上述の通り黒鉛粒子が球形に近いために、活物質層中に配される黒鉛粒子の配向性が低く、向きがランダムになりやすいので、不均一な負極の膨張を抑制できる。さらに、球形に近いことで隣り合う黒鉛粒子同士が引っ掛かりにくくなり、適度に黒鉛粒子同士が滑り合い、黒鉛粒子が膨張したとしても最密充填に近い状態で維持されやすい。このように、本実施形態では、黒鉛粒子が膨張したとしても、比較的均一に膨張し、適度に滑り合うことで、黒鉛粒子の充填率が高い負極活物質層が維持される結果、初期の充電時に生じる負極の膨張を抑制することができると推測される。また、当該蓄電素子の負極活物質層は、主成分としてアスペクト比が1以上5以下の中実黒鉛粒子を含む。このような黒鉛粒子は、粒子自体の空隙が少ないことにより粒子形状が変形しにくく且つ球形に近いため、隣り合う黒鉛粒子同士が引っ掛かりにくくなり、黒鉛粒子が最密充填されやすい。このため、当該黒鉛粒子を含む蓄電素子は、負極活物質層に対して加える圧力が無い又は比較的小さい場合であっても負極活物質層の密度を上記範囲に設定できる。
【0018】
本実施形態の一態様は、負極及び正極を有する電極体を備え、上記負極が、負極基材と、負極活物質を含有するとともにこの負極基材の少なくとも一方の面に沿って配置される負極活物質層とを有し、上記負極活物質が主成分として中実黒鉛粒子を含み、上記中実黒鉛粒子のアスペクト比が1以上5以下であり、上記負極活物質層が配置されている領域における上記負極基材の表面粗さR1に対する上記負極活物質層が配置されていない領域における上記負極基材の表面粗さR2の比であるR2/R1が、0.90以上である蓄電素子である。
【0019】
負極基材は、圧力がかかるほど、負極活物質層が形成されている領域が粗くなるため、上記R2/R1が小さくなる。換言すると、負極基材は、圧力がかかっていない状態の場合、上記負極活物質層が配置されている領域と上記負極活物質層が配置されていない領域(いわゆる負極基材の露出領域)とで、表面粗さがほとんど同じ値になる。つまり、R2/R1が1に近づくことになる。当該蓄電素子では、上記R2/R1が、0.90以上であり、負極活物質層に加えられた圧力が無い又は小さい状態である。そのため、黒鉛粒子自体に残留応力が少なく、残留応力が解放されることに起因する不均一な負極の膨張を抑制できる。また、黒鉛粒子が中実であるので、黒鉛粒子内の密度が均一であり、かつアスペクト比が1以上5以下であることで黒鉛粒子が球形に近いために、電流集中が起こりにくいことから不均一な負極の膨張を抑制できる。また、上述の通り黒鉛粒子が球形に近いために、活物質層中に配される黒鉛粒子の配向性が低く、向きがランダムになりやすいので、不均一な負極の膨張を抑制できる。さらに、球形に近いことで隣り合う黒鉛粒子同士が引っ掛かりにくくなり、適度に黒鉛粒子同士が滑り合い、黒鉛粒子が膨張したとしても最密充填に近い状態で維持されやすい。このように、本実施形態では、黒鉛粒子が膨張したとしても、比較的均一に膨張し、適度に滑り合うことで、黒鉛粒子の充填率が高い負極活物質層が維持される結果、初期の充電時に生じる負極の膨張を抑制することができると推測される。
【0020】
上記負極活物質が難黒鉛化性炭素をさらに含むことが好ましい。上記負極活物質が難黒鉛化性炭素をさらに含むことで、初期の充電時に生じる負極の膨張に対する抑制効果が高い蓄電素子を得ることができる。
【0021】
当該蓄電素子が上記負極及び正極が積層された状態で巻回された電極体を備え、上記電極体が中央部に中空領域を有することが好ましい。上記電極体が中央部に中空領域を有することで、中央部に近い位置に存在する負極又は正極が折れ曲がることによる活物質層の剥離を抑制することができるとともに、当該蓄電素子が初期の充電時に生じる負極の膨張に対する抑制効果が高いことにより、中空領域を有する電極体に従来生じていた電極間距離が大きくなることによる充放電ムラを抑制できる蓄電素子を得ることができる。
【0022】
当該蓄電素子は、内圧が予め定められた圧力まで上昇した場合に、上記負極及び上記正極間の電気的接続を遮断する圧力感応式の遮断機構、又は上記負極及び上記正極を上記電極体の外部で電気的に短絡させる圧力感応式の短絡機構を備えることが好ましい。蓄電素子は、過充電が行われたり電解液が分解されたりすると、蓄電素子に求められる充放電性能が発揮できなくなる程度に内部の圧力又は温度が大きく上昇する場合がある。そのため、従来から蓄電素子においては、過充電などで内圧が上昇したときに、例えばダイヤフラムが反転することにより、上記負極及び正極間の電気的接続を遮断する圧力感応式の遮断機構、又は上記負極及び正極を電気的に短絡させる圧力感応式の短絡機構を設けて安全性のさらなる向上を図ることが行われている。しかしながら、これらの機構においては、極板の膨れ量が大きくなると、蓄電素子の内圧が大きくなってしまい、上記機構が早期に作動してしまうおそれもあった。当該蓄電素子が、上記負極及び正極間の電気的接続を遮断する機構、又は上記負極及び上記正極を上記電極体の外部で電気的に短絡させる機構を備えることで、安全性をさらに向上させるとともに、当該蓄電素子が初期の充電時に生じる負極の膨張に対する抑制効果が高いことにより、上記機構が早期に作動することを抑制できる。
【0023】
当該蓄電素子が上記電極体を収容し、内表面が上記電極体の外表面と直接又は間接に接触するケースと、上記ケースを外側から加圧する加圧部材とを備えることが好ましい。当該蓄電素子が初期の充電時に生じる負極の膨張に対する抑制効果が高いことにより、電極体が膨張することによるケース内面との摩擦力が小さくなり、ケース内で電極体が移動する蓋然性も考えられる。当該蓄電素子が、上記ケースを外側から加圧する加圧部材を備えることで、ケースと電極体との摩擦力を高め、電極体に対する保持能力を向上できる。
【0024】
本実施形態の他の一態様は、負極活物質を含有する負極活物質層が負極基材の少なくとも一方の面に沿って配置された負極を準備すること、正極活物質を含有する正極活物質層が正極基材の一方の面に沿って配置された正極を準備すること、並びに上記負極及び上記正極を積層することを備え、上記負極活物質が中実黒鉛粒子を含み、上記中実黒鉛粒子のアスペクト比が、1以上5以下であり、上記負極は、上記負極及び上記正極を積層することの前に、上記負極活物質層をプレスすることを有さない蓄電素子の製造方法である。当該蓄電素子の製造方法によれば、負極が、上記負極及び上記正極を積層することの前に上記負極活物質層をプレスすることを有さないことで、初期の充電時に生じる負極の膨張に対する抑制効果が高い蓄電素子を製造できる。
【0025】
以下、本実施形態に係る蓄電素子について図面を参照しつつ詳説する。
【0026】
<蓄電素子>
[第1実施形態]
以下、当該蓄電素子の一例として、二次電池である非水電解質蓄電素子について説明する。非水電解質蓄電素子は、電極体と、非水電解質と、上記電極体と非水電解質とを収容するケースとを備える。電極体は、負極及び正極を有する。電極体は、通常、セパレータを介して積層された正極及び負極を巻回した巻回型電極体又は正極及び負極がセパレータを介して交互に重畳された積層型電極を形成する。また、上記非水電解質は、セパレータに含浸された状態で正極と負極との間に介在する。
【0027】
[負極]
負極は、負極基材と、負極活物質層とを有する。上記負極活物質層は、負極活物質を含有するとともにこの負極基材の少なくとも一方の面に沿って配置される。本発明の第1実施形態の負極活物質層は、未プレスの状態で配置される。
【0028】
(負極基材)
上記負極基材は、導電性を有する基材である。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。また、負極基材の形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。なお、「導電性」を有するとは、JIS-H0505(1975)に準拠して測定される体積抵抗率が1×107Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が1×107Ω・cm超であることを意味する。
【0029】
上記負極基材の平均厚さの上限としては、例えば30μmであってよいが、20μmが好ましく、10μmがより好ましい。負極基材の平均厚さを上記上限以下とすることで、エネルギー密度をより高めることができる。一方、この平均厚さの下限としては、例えば1μmであってよく、5μmであってもよい。なお、平均厚さとは、任意に選んだ10カ所において測定した厚さの平均値をいう。
【0030】
[負極活物質層]
負極活物質層は、負極基材の少なくとも一方の面に沿って直接又は中間層を介して配置される。負極活物質層は、負極活物質を含むいわゆる負極合剤から形成される。また、負極活物質が主成分として中実黒鉛粒子を含む。上記負極合剤は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0031】
上記負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材質が用いられる。本発明の第1実施形態に係る蓄電素子では、負極活物質が主成分として中実黒鉛粒子を含む。
【0032】
(中実黒鉛粒子)
中実黒鉛粒子とは、粒子内部が詰まっていて実質的に空隙が存在しない黒鉛粒子を意味する。上述したように、本明細書においては、中実黒鉛粒子とは、走査型電子顕微鏡を用いて取得されるSEM像において観察される粒子の断面において、粒子全体の面積に対して粒子内の空隙を除いた面積率Rが95%以上である黒鉛粒子を意味する。面積率Rは、つぎの通り決定することができる。
(1)測定用試料の準備
測定対象とする負極活物質粒子の粉末を熱硬化性の樹脂で固定する。樹脂で固定された負極活物質粒子について、クロスセクション・ポリッシャを用いることで、断面を露出させ、測定用試料を作製する。
(2)SEM像の取得
SEM像の取得には、走査型電子顕微鏡としてJSM-7001F(日本電子株式会社製)を用いる。SEM像は、二次電子像を観察するものとする。加速電圧は、15kVとする。観察倍率は、一視野に表れる負極活物質粒子が3個以上15個以内となる倍率に設定する。得られたSEM像は、画像ファイルとして保存する。その他、スポット径、ワーキングディスタンス、照射電流、輝度、フォーカス等の諸条件は、負極活物質粒子の輪郭が明瞭になるように適宜設定する。
(3)負極活物質粒子の輪郭の切り抜き
画像編集ソフトAdobe Photoshop Elements 11の画像切り抜き機能を用いて、取得したSEM像から負極活物質粒子の輪郭を切り抜く。この輪郭の切り抜きは、クイック選択ツールを用いて活物質粒子の輪郭より外側を選択し、負極活物質粒子以外を黒背景へと編集して行う。このとき、輪郭を切り抜くことができた負極活物質粒子が3個未満であった場合は、再度、SEM像を取得し、輪郭を切り抜くことができた負極活物質粒子が3個以上になるまで行う。
(4)二値化処理
切り抜いた負極活物質粒子のうち1つ目の負極活物質粒子の画像について、画像解析ソフトPopImaging 6.00を用い、強度が最大となる濃度から20%分小さい濃度を閾値に設定して二値化処理を行う。二値化処理により、濃度の低い側の面積を算出することで「粒子内の空隙を除いた面積S1」とする。
ついで、先ほどと同じ1つ目の負極活物質粒子の画像について、濃度10を閾値として二値化処理を行う。二値化処理により、負極活物質粒子の外縁を決定し、当該外縁の内側の面積を算出することで、「粒子全体の面積S0」とする。
上記算出したS1及びS0を用いて、S0に対するS1の比(すなわちS1/S0)を算出することにより、一つ目の負極活物質粒子における「粒子全体の面積に対して粒子内の空隙を除いた面積率R1」を算出する。
切り抜いた負極活物質粒子のうち2つ目以降の負極活物質粒子の画像についても、それぞれ、上記の二値化処理を行い、面積S1、面積S0を算出する。これらの算出した面積S1、S0に基づいて、それぞれの負極活物質粒子の面積率R2、R3、・・・を算出する。
(5)面積率Rの決定
二値化処理により算出した全ての面積率R1、R2、R3、・・・の平均値を算出することにより、「粒子全体の面積に対して粒子内の空隙を除いた負極活物質粒子の面積率R」を決定する。
【0033】
黒鉛とは、放電状態においてX線回折法から測定される(002)面の平均格子面間隔d(002)が、0.340nm未満の炭素物質である。上記中実黒鉛粒子のd(002)は、0.338nm未満が好ましい。また、上記中実黒鉛粒子の平均格子面間隔d(002)は、0.335nm以上であることが好ましい。球状中実黒鉛粒子は、真球に近い形のものが好ましいが、楕円形、卵形等であってもよく、表面に凹凸を有していてもよい。中実黒鉛粒子は、複数の中実黒鉛粒子が凝集した粒子を含んでいてもよい。
【0034】
上記中実黒鉛粒子のアスペクト比の下限としては、1.0(例えば1.5)であり、2.0が好ましい。いくつかの態様において、中実黒鉛粒子のアスペクト比は、2.2以上(例えば2.5以上)であってもよい。一方、上記中実黒鉛粒子のアスペクト比の上限としては、5.0(例えば4.5)であり、4.0が好ましい。いくつかの態様において、中実黒鉛粒子のアスペクト比は、3.5以下(例えば3.0以下)であってもよい。上記中実黒鉛粒子のアスペクト比を上記範囲とすることで、黒鉛粒子が球形に近くなり、電流集中が起こりにくいことから不均一な負極の膨張を抑制できる。
【0035】
上述したように、「アスペクト比」とは、走査型電子顕微鏡を用いて取得されるSEM像において観察される粒子の断面において、粒子の最長となる径Aと、径Aに垂直な方向において最長となる径Bとの比であるA/B値を意味する。アスペクト比は、つぎの通り決定することができる。
(1)測定用試料の準備
上述した面積率Rを決定する際に使用した断面を露出させた測定用試料を用いる。
(2)SEM像の取得
SEM像の取得には、走査型電子顕微鏡としてJSM-7001F(日本電子株式会社製)を用いる。SEM像は、二次電子像を観察するものとする。加速電圧は、15kVとする。観察倍率は、一視野に表れる負極活物質粒子が100個以上1000個以内となる倍率に設定する。得られたSEM像は、画像ファイルとして保存する。その他、スポット径、ワーキングディスタンス、照射電流、輝度、フォーカス等の諸条件は、負極活物質粒子の輪郭が明瞭になるように適宜設定する。
(3)アスペクト比の決定
取得したSEM像から、ランダムに100個の負極活物質粒子を選び、それぞれについて、負極活物質粒子の最長となる径Aと、径Aに垂直な方向において最長となる径Bを測定し、A/B値を算出する。算出した全てのA/B値の平均値を算出することにより、負極活物質粒子のアスペクト比を決定する。
【0036】
中実黒鉛粒子のメジアン径としては特に限定されないが、蓄電素子の出力を向上させる観点から、上限値は、10μm(例えば8μm)が好ましく、5μmがより好ましい。例えば、中実黒鉛粒子のメジアン径は、好ましくは5μm未満、より好ましくは4.5μm以下である。いくつかの態様において、中実黒鉛粒子のメジアン径は、4μm以下であってもよく、3.5μm以下(例えば3μm以下)であってもよい。製造時の取り扱いやすさ又は製造コストの観点から、下限値は、1μmが好ましく、2μmがより好ましい。ここに開示される技術は、中実黒鉛粒子のメジアン径が1μm以上5μm未満(さらには1.5μm以上4.5μm以下、特には2μm以上4μm以下)である態様で好ましく実施され得る。
【0037】
ここに開示される中実黒鉛粒子の好適例として、アスペクト比が1以上5以下であり、かつ、メジアン径が10μm以下であるもの;アスペクト比が11.2以上4.5以下であり、かつ、メジアン径が5μm未満であるもの;アスペクト比が1.3以上4以下であり、かつ、メジアン径が4.5μm以下であるもの;アスペクト比が1.5以上3.5以下であり、かつ、メジアン径が4μm以下であるもの;等が例示される。このような小径かつ球形に近い中実黒鉛粒子を用いることで、前述した効果がより効果的に発揮され得る。
【0038】
なお、上記「メジアン径」とは、JIS-Z8819-2(2001)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値(D50)を意味する。具体的には以下の方法による測定値とすることができる。測定装置としてレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社の「SALD-2200」)、測定制御ソフトとしてWing SALD-2200を用いて測定する。散乱式の測定モードを採用し、測定試料が分散溶媒中に分散する分散液が循環する湿式セルにレーザー光を照射し、測定試料から散乱光分布を得る。そして、散乱光分布を対数正規分布により近似し、累積度50%にあたる粒子径をメジアン径(D50)とする。
【0039】
上記中実黒鉛粒子は、公知の各種黒鉛粒子のなかから、適切なアスペクト比および形状を有するものを適宜選択して使用することができる。このような公知の黒鉛粒子の例には、人造黒鉛粒子および天然黒鉛粒子が含まれる。ここで、人造黒鉛とは、人工的に製造された黒鉛の総称であり、天然黒鉛とは、天然の鉱物から採れる黒鉛の総称である。天然黒鉛粒子としては、具体的には、鱗片状黒鉛(鱗状黒鉛)、塊状黒鉛および土状黒鉛等が例示される。上記中実黒鉛粒子は、扁平な鱗片形状の天然黒鉛粒子、あるいは、この鱗片状黒鉛を球状化した球状化天然黒鉛粒子であり得る。好ましい一態様では、上記中実黒鉛粒子は、人造黒鉛粒子である。中実の人造黒鉛粒子を用いることで、前述した効果がより良く発揮される。上記中実黒鉛粒子は、表面にコート(例えば非晶質炭素コート)を施した黒鉛粒子であってもよい。
【0040】
中実黒鉛粒子のR値としては、概ね0.25以上(例えば0.25以上0.8以下)にすることができる。ここで「R値」とは、ラマンスペクトルにおけるGバンドのピーク強度(IG1)に対するDバンドのピーク強度(ID1)の比(ID1/IG1)である。中実黒鉛粒子のR値は、例えば0.28以上(例えば0.28以上0.7以下)、典型的には0.3以上(例えば0.3以上0.6以下)である。いくつかの態様において、中実黒鉛粒子のR値は0.5以下であってもよく、0.4以下であってもよい。
【0041】
ここで「ラマンスペクトル」は、堀場製作所社の「HRRevolution」を用い、波長532nm(YAGレーザ)、グレーティング600g/mm、測定倍率100倍の条件において、200cm-1から4000cm-1の範囲でラマン分光測定を行って得られるものとする。また、「Gバンドのピーク強度比(IG1)」及び「Dバンドのピーク強度比(ID1)」は、以下の方法によって求めることができる。まず、得られたラマンスペクトルの4000cm-1における強度をベース強度とし、上記測定範囲における最大の強度(例えばGバンドの強度)により規格化する。次に、得られたスペクトルに対してローレンツ関数を用いてフィッティングを行い、1580cm-1付近のGバンド及び1350cm-1付近のDバンドのそれぞれの強度を算出し、「Gバンドのピーク強度(IG1)」及び「Dバンドのピーク強度(ID1)」とする。
【0042】
上記中実黒鉛粒子の真密度としては、2.1g/cm3以上が好ましい。このように真密度の高い中実黒鉛粒子を用いることで、エネルギー密度をより高めることができる。一方、上記中実黒鉛粒子の真密度の上限としては、例えば2.5g/cm3である。真密度は、ヘリウムガスを用いたピクノメータによる気体容積法で測定される。
【0043】
上記負極活物質の総質量に対する上記中実黒鉛粒子の含有量の下限としては、60質量%が好ましい。いくつかの態様において、上記負極活物質の総質量に対する上記中実黒鉛粒子の含有量は、例えば70質量%以上であってもよく、80質量%であってもよい。上記負極活物質が中実黒鉛粒子以外の負極活物質を含まない場合は、上記中実黒鉛粒子の含有量の下限としては、90質量%が好ましい。中実黒鉛粒子の含有量を上記下限以上とすることで、充放電効率をより高めることができる。一方、上記負極活物質の総質量に対する上記中実黒鉛粒子の含有量の上限としては、例えば100質量%であってもよい。
【0044】
ここに開示される負極活物質は、上記中実黒鉛粒子以外の炭素粒子を含んでいてもよい。このような中実黒鉛粒子以外の炭素粒子としては、中空黒鉛粒子、非黒鉛質炭素粒子が挙げられる。非黒鉛質炭素粒子としては、難黒鉛化性炭素粒子、易黒鉛化性炭素粒子が例示される。ここで「難黒鉛化性炭素」とは、充放電前又は放電状態においてX線回折法から測定される(002)面の平均格子面間隔d(002)が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。「易黒鉛化性炭素」とは、上記平均格子面間隔d(002)が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0045】
(難黒鉛化性炭素)
上記負極活物質が上記中実黒鉛粒子以外の炭素粒子を含有する場合、該炭素粒子は難黒鉛化性炭素粒子であることが好ましい。難黒鉛化性炭素は、通常、微小な黒鉛の結晶がランダムな方向に配置され、結晶層と結晶層との間にナノオーダーの空隙を有する。難黒鉛化性炭素の平均粒径としては、例えば1μm以上10μm以下であればよく、2μm以上5μm以下であることが、負極における負極活物質の充填性を高める観点から望ましい。難黒鉛化性炭素は、1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
上記負極活物質が難黒鉛化性炭素を含む場合、上記負極活物質の総質量に対する上記難黒鉛化性炭素の含有量の下限としては、5質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。一方、上記負極活物質の総質量に対する上記難黒鉛化性炭素の含有量の上限としては、40質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。難黒鉛化性炭素の含有量を上記範囲とすることで、負極の多孔度を低減し、活物質の充填密度の高い負極を備えた蓄電素子を得ることができる。
【0047】
(他の負極活物質)
ここに開示される負極活物質は、上記炭素粒子(すなわち中実黒鉛粒子及び中実黒鉛粒子以外の炭素粒子)以外の材質からなる負極活物質を含んでいてもよい。上記炭素粒子以外に含まれていてもよい他の負極活物質(以下、「非炭素質活物質」ともいう。)としては、Si等の半金属、Sn等の金属、これら金属及び半金属の酸化物、又は、これら金属及び半金属と炭素材料との複合体等が挙げられる。上記非炭素質活物質の含有量は、負極活物質の総質量のうち、例えば30質量%以下とすることが適当であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。いくつかの態様において、負極活物質の総質量のうち非炭素質活物質の含有量が5質量%以下(例えば1質量%以下、典型的には0質量%)であってもよい。
【0048】
(その他の任意成分)
上記中実黒鉛粒子及び難黒鉛化性炭素も導電性を有するが、導電剤としては、金属、導電性セラミックス、アセチレンブラック等の黒鉛及び難黒鉛化性炭素以外の炭素材料等が挙げられる。
【0049】
上記バインダーとしては、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等のエラストマー以外の熱可塑性樹脂;多糖類高分子等が挙げられる。
【0050】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0051】
上記フィラーとしては、特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス等が挙げられる。
【0052】
(中間層)
上記中間層は、負極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで負極基材と負極合剤層との接触抵抗を低減する。中間層は、負極基材の一部を覆っていてもよく、全面を覆っていてもよい。負極基材には、中間層が積層され、かつ、負極活物質層が積層されていない領域があってよい。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。なお、「導電性」を有するとは、JIS-H0505(1975)に準拠して測定される体積抵抗率が1×107Ω・cm以下であることを意味する。
【0053】
負極の多孔度としては、40%以下であることが好ましい。負極の多孔度を40%以下とすることで、当該蓄電素子のエネルギー密度をより高めることができる。また、負極の多孔度は、25%以上であることが好ましい。上記負極の「多孔度」とは、体積基準の値であり、活物質層に含まれる構成成分の質量、真密度、及び、活物質層の厚さから算出する計算値である。
【0054】
[正極]
正極は、正極基材と、正極活物質層とを有する。上記正極活物質層は、正極活物質を含有するとともにこの正極基材の少なくとも一方の面に沿って直接又は中間層を介して配置される。
【0055】
上記正極基材は、導電性を有する。基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材の形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H4000(2014)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0056】
正極活物質層は、正極活物質を含むいわゆる正極合剤から形成される。また、正極活物質層を形成する正極合剤は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0057】
上記正極活物質としては、例えば、リチウム金属複合酸化物、ポリアニオン化合物が挙げられる。リチウム金属複合酸化物としては、例えば、LixMOy(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)が挙げられ、具体的には、層状のα-NaFeO2型結晶構造を有するLixCoO2,LixNiO2,LixMnO3,LixNiαCo(1-α)O2,LixNiαMnβCo(1-α-β)O2等、スピネル型結晶構造を有するLixMn2O4,LixNiαMn(2-α)O4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、例えば、LiwMex(XOy)z(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、V等を表す)が挙げられ、具体的には、LiFePO4,LiMnPO4,LiNiPO4,LiCoPO4,Li3V2(PO4)3,Li2MnSiO4,Li2CoPO4F等が挙げられる。これらの化合物中の元素又はポリアニオンは、他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。正極活物質層においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0058】
上記導電剤としては、導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。
【0059】
上記バインダー(結着剤)としては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0060】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0061】
上記フィラーとしては、特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が挙げられる。
【0062】
上記中間層は、正極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層は、正極基材の一部を覆っていてもよく、全面を覆っていてもよい。負極と同様、中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。
【0063】
[セパレータ]
上記セパレータの材質としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。上記セパレータの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。また、これらの樹脂を複合してもよい。
【0064】
なお、セパレータと電極(通常、正極)との間に、無機層が配設されていても良い。この無機層は、耐熱層等とも呼ばれる多孔質の層である。また、多孔質樹脂フィルムの一方の面に無機層が形成されたセパレータを用いることもできる。上記無機層は、通常、無機粒子及びバインダーとで構成され、その他の成分が含有されていてもよい。
【0065】
[非水電解質]
上記非水電解質としては、一般的な非水電解質二次電池(蓄電素子)に通常用いられる公知の非水電解質が使用できる。上記非水電解質は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩を含む。なお、上記非水電解質は、固体電解質等であってもよい。
【0066】
上記非水溶媒としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の非水溶媒として通常用いられる公知の非水溶媒を用いることができる。上記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、エステル、エーテル、アミド、スルホン、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。これらの中でも、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを少なくとも用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、特に限定されないが、例えば5:95から50:50とすることが好ましい。
【0067】
上記環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもECが好ましい。
【0068】
上記鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもEMCが好ましい。
【0069】
上記電解質塩としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の電解質塩として通常用いられる公知の電解質塩を用いることができる。上記電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。
【0070】
上記リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等の水素がフッ素で置換された炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。
【0071】
上記非水電解質における上記電解質塩の含有量の下限としては、0.1Mが好ましく、0.3Mがより好ましく、0.5Mがさらに好ましく、0.7Mが特に好ましい。一方、この上限としては、特に限定されないが、2.5Mが好ましく、2Mがより好ましく、1.5Mがさらに好ましい。
【0072】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係る蓄電素子では、上記負極活物質が主成分として中実黒鉛粒子を含み、上記中実黒鉛粒子のアスペクト比が1以上5以下であり、上記負極活物質層の密度が1.20g/cm3以上1.55g/cm3以下である。負極活物質層は、ロールプレス機等により圧力を加えられるほど、負極活物質層の密度が大きくなる。換言すると、負極活物質層の密度の密度が小さい場合、負極活物質層に加えられた圧力が小さい。当該蓄電素子では、主成分として中実黒鉛粒子を含む負極活物質層の密度が1.20g/cm3以上1.55g/cm3以下であり、負極活物質層に加えられた圧力が無い又は小さい状態である。そのため、黒鉛粒子自体に残留応力が少なく、残留応力が解放されることに起因する不均一な負極の膨張を抑制できる。また、黒鉛粒子が中実であるので、黒鉛粒子内の密度が均一であり、かつアスペクト比が1以上5以下であることで黒鉛粒子が球形に近いために、電流集中が起こりにくいことから不均一な負極の膨張を抑制できる。また、上述の通り黒鉛粒子が球形に近いために、活物質層中に配される黒鉛粒子の配向性が低く、向きがランダムになりやすいので、不均一な負極の膨張を抑制できる。さらに、球形に近いことで隣り合う黒鉛粒子同士が引っ掛かりにくくなり、適度に黒鉛粒子同士が滑り合い、黒鉛粒子が膨張したとしても最密充填に近い状態で維持されやすい。このように、本実施形態では、黒鉛粒子が膨張したとしても、比較的均一に膨張し、適度に滑り合うことで、黒鉛粒子の充填率が高い負極活物質層が維持される結果、初期の充電時に生じる負極の膨張を抑制することができると推測される。また、当該蓄電素子の負極活物質層は、主成分としてアスペクト比が1以上5以下の中実黒鉛粒子を含む。このような黒鉛粒子は、粒子自体の空隙が少ないことにより粒子形状が変形しにくく且つ球形に近いため、隣り合う黒鉛粒子同士が引っ掛かりにくくなり、黒鉛粒子が最密充填されやすい。このため、当該黒鉛粒子を含む蓄電素子は、負極活物質層に対して加える圧力が無い又は比較的小さい場合であっても負極活物質層の密度を上記範囲に設定できる。
【0073】
上記負極活物質が主成分として中実黒鉛粒子を含む場合、上記負極活物質層の密度の下限としては、1.20g/cm3であり、1.30g/cm3が好ましく、1.40g/cm3がより好ましい。一方、上記負極活物質層の密度の上限としては、1.55g/cm3であり、1.50g/cm3が好ましい。例えば、負極活物質層の密度は、1.50g/cm3未満(例えば1.49g/cm3以下)であり得る。いくつかの態様において、負極活物質層の密度は、1.45g/cm3以下であってもよい。また、上記負極活物質が主成分としての中実黒鉛粒子に加えて難黒鉛化性炭素を含む場合、上記負極活物質層の密度の下限としては、1.20g/cm3であり、1.25g/cm3が好ましい。一方、上記負極活物質層の密度の上限としては、1.55g/cm3であり、1.45g/cm3が好ましく、1.40g/cm3がより好ましい。上記負極活物質層の密度が上記範囲であることで、初期の充電時に生じる負極の膨張に対する抑制効果が高い蓄電素子を得ることができる。
【0074】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態に係る蓄電素子では、上記負極活物質が主成分として中実黒鉛粒子を含み、上記中実黒鉛粒子のアスペクト比が1以上5以下であり、上記負極活物質層が配置(積層)されている領域における上記負極基材の表面粗さR1に対する上記負極活物質層が配置(積層)されていない領域(露出領域)における上記負極基材の表面粗さR2の比であるR2/R1が、0.90以上である。負極基材は、負極基材に積層された状態で負極活物質層に圧力がかかるほど、負極活物質層が形成されている領域の表面粗さR1が粗くなるため、負極活物質層が配置されていない領域の表面粗さR2との比R2/R1が小さくなる。換言すると、負極基材は、圧力がかかっていない状態の場合、上記負極活物質層が配置されている領域と上記負極活物質層が配置されていない領域(例えば、負極に負極基材が露出している部分がある場合は、負極基材の露出領域)とで、表面粗さがほとんど同じ値になる。つまり、上記R2/R1が1に近づくことになる。当該蓄電素子では、上記R2/R1が、0.90以上であり、負極基材に積層された状態で負極活物質層に加えられた圧力が無い又は小さいことを意味する。そのため、黒鉛粒子自体に残留応力が少なく、残留応力が解放されることに起因する不均一な負極の膨張を抑制できる。また、黒鉛粒子が中実であるので、黒鉛粒子内の密度が均一であり、かつアスペクト比が1以上5以下であることで黒鉛粒子が球形に近いために、電流集中が起こりにくいことから不均一な負極の膨張を抑制できる。また、上述の通り黒鉛粒子が球形に近いために、活物質層中に配される黒鉛粒子の配向性が低く、向きがランダムになりやすいので、不均一な負極の膨張を抑制できる。さらに、球形に近いことで隣り合う黒鉛粒子同士が引っ掛かりにくくなり、適度に黒鉛粒子同士が滑り合い、黒鉛粒子が膨張したとしても最密充填に近い状態で維持されやすい。このように、本実施形態では、黒鉛粒子が膨張したとしても、比較的均一に膨張し、適度に滑り合うことで、黒鉛粒子の充填率が高い負極活物質層が維持される結果、初期の充電時に生じる負極の膨張を抑制することができると推測される。
【0075】
上記「表面粗さ」とは、基材の表面(活物質層が形成されている領域については、活物質層を除去した後の表面)の中心線粗さRaを、JIS-B0601(2013)に準拠してレーザー顕微鏡にて測定した値を意味する。具体的には、以下の方法による測定値とすることができる。
【0076】
まず、負極に負極基材が露出している部分がある場合は、当該部分の表面粗さを負極活物質層が配置されていない領域の表面粗さR2として、市販されているレーザー顕微鏡(キーエンス社製 機器名「VK-8510」)を用いて、JIS-B0601(2013)に準じて測定する。このとき、測定条件として、測定領域(面積)を149μm×112μm(16688μm2)、測定ピッチを0.1μmとする。ついで、上記負極を超音波洗浄機を用いて振とうすることにより負極基材から負極活物質層及びその他の層を除去する。負極活物質層が形成されていた領域の表面粗さR1を、上記負極基材が露出している部分の表面粗さと同様の方法で測定する。なお、負極に負極基材が露出していた部分がない場合(例えば、負極基材の全面が前記中間層で覆われていた場合)は、負極活物質層が配置されていなかった領域(例えば、中間層で覆われ、かつ、負極活物質層が配置されていなかった領域)の表面粗さR2も、同様の方法で測定するものとする。超音波洗浄機を用いた振とうは、ブランソン社製卓上超音波洗浄機「2510J-DTH」を用い、水中に3分間、続いてエタノール中に1分間浸漬しながら振とうすることにより行うことができる。
【0077】
上記表面粗さの比(R2/R1)の下限としては、負極活物質層に加えられた圧力が無い又は小さい状態にできていることから、0.92が好ましく、0.94がより好ましい。一方、上記表面粗さの比(R2/R1)の上限としては、1.10が好ましく、1.05がより好ましい。
【0078】
[蓄電素子の具体的構成]
次に、本発明の一実施形態の蓄電素子の具体的構成例について説明する。
図1は、本発明の一実施形態の蓄電素子である非水電解質蓄電素子の電極体及びケースを示す模式的分解斜視図である。
図2は、上記
図1における非水電解質蓄電素子の模式的断面図である。非水電解質蓄電素子1は、電極体2と、電極体2の両端部にそれぞれ接続される正極集電体4’及び負極集電体5’と、これらを収納するケース3とを備える。非水電解質蓄電素子1は、電極体2がケース3に収納され、ケース3内に非水電解質が配置されている。電極体2は、正極活物質を備える正極10と、負極活物質を備える負極12とが、セパレータ11を介して扁平状に巻回されることにより形成されている。本実施形態では、電極体2の巻回軸方向をZ軸方向とし、電極体2のZ軸に垂直な断面における長軸方向をX軸方向とする。また、Z軸とX軸とに直交する方向をY軸方向とする。
【0079】
正極10の一方向の端部には正極活物質層が形成されていない正極基材の露出領域が形成されている。また、負極12の一方向の端部には負極活物質層が形成されていない負極基材の露出領域が形成されている。この正極基材の露出領域に正極集電体4’がクリップによる挟持や溶接等によって電気的に接続され、負極基材の露出領域に負極集電体5’が同様に電気的に接続される。正極10は、正極集電体4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極12は、負極集電体5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0080】
(ケース)
ケース3は、電極体2、正極集電体4’及び負極集電体5’を収容し、第二方向(X方向)に垂直な一面(上面)が開放された直方体状の筐体である。具体的には、ケース3は、底面と、第三方向(Y方向)に対向する一対の長側面と、第一方向(Z方向)に対向する一対の短側面とを有する。そして、ケース3の内表面が電極体2の外表面(通常、セパレータ)と直接接触する。ケース3は、電極体2との間に介在するスペーサ、シート等を備えていてもよい。スペーサ、シート等の材質としては、絶縁性を有するものであれば特に限定されない。ケース3がスペーサ、シート等を備える場合、ケース3の内表面は、スペーサ、シート等を介して電極体2の外表面と間接に接触する。
【0081】
ケース3の上面は蓋6によって塞がれる。ケース3及び蓋6は、金属板から構成される。この金属板の材質としては、例えばアルミニウムが使用できる。
【0082】
また、蓋6には、外部と通電する正極端子4及び負極端子5が設けられている。正極端子4は、正極集電体4’と接続され、負極端子5は、負極集電体5’と接続される。さらに、当該蓄電素子が非水電解質蓄電素子である場合、ケース3内には、蓋6に設けた図示しない注入孔から非水電解質(電解液)が注入される。
【0083】
(電極体)
電極体2は、正極10と負極12とこれらを絶縁するセパレータ11とを有し、正極10と負極とがセパレータ11を介して交互に積層されたものである。電極体2は、正極10、負極12、及びセパレータを備えるシート体を扁平状に巻回した巻回型電極体である。
【0084】
上記電極体2は、中央部8に中空領域を有することが好ましい。また、電極体2は、正極10と負極12とが間にセパレータ11を介した状態で、巻芯に巻回されて構成される場会、巻芯の内部構造が中空構造であるか、巻芯の外面に密接せずに部分的に隙間を有することで電極体の中央部8に中空領域を有することが好ましい。負極及び正極が積層された状態で巻回された巻回型の電極体において、電極体の最内周である極板やセパレータが存在しない中空部がある場合、負極が膨張した場合にその中空部に負極の一部が移動してしまう場合がある。特に、内周部近傍の負極は中空部に近いために、中空部側に移動してしまう結果、正極及び負極間の極間距離が大きくなる部分が生じる場合があった。このような巻回型の電極体における内周部側の挙動は、電極体の外周面がケースの内面に接触している場合、上記電極体が外周面側に移動しがたいため、生じやすい。このように、正極及び負極間の極間距離が大きくなる部分が生じると極間距離が開いた部分は抵抗が大きくなり、充放電反応が生じにくくなり、その分、極間距離が大きくなった部分の近傍領域で充放電反応が集中してしまう。このような充放電反応の集中により、内周部近傍で充放電ムラが発生すると予想される。上記充放電ムラが生じているかどうかは、蓄電素子を解体して取り出した負極板の内周部の負極活物質層の色にムラがあるかどうかを調べることで観察できる。このとき、負極活物質層の変色している部分が、負極板の幅方向(短手方向)全域に延びている場合、極間距離が大きくなることに起因する充放電ムラが生じていると考えられる。
上記電極体2が中央部8に中空領域を有することで、中央部8に近い位置に存在する負極又は正極が折れ曲がることによる活物質層の剥離を抑制することができるとともに、当該蓄電素子が初期の充電時に生じる負極の膨張に対する抑制効果が高いことにより、従来、中空領域を有する電極体に生じていた電極間距離が大きくなることによる充放電ムラを抑制できる蓄電素子を得ることができる。
【0085】
上記巻芯の材質としては、絶縁性を有し且つ電解液中で安定なものであれば特に限定されない。上記巻芯の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンが挙げられる。
【0086】
(圧力感応式電気的接続遮断機構及び圧力感応式電気的短絡機構)
当該蓄電素子は、内圧が予め定められた圧力(好ましくは、0.2MPa以上1.0MPa以下の圧力)まで上昇した場合に、上記負極及び上記正極間の電気的接続を遮断する圧力感応式の遮断機構、又は上記負極及び上記正極を上記電極体の外部で電気的に短絡させる圧力感応式の短絡機構を備えることが好ましい。蓄電素子は、過充電が行われたり電解液が分解されたりすると、蓄電素子に求められる充放電性能が発揮できなくなる程度に内部の圧力又は温度が大きく上昇する場合がある。そのため、従来から蓄電素子においては、過充電などで内圧が上昇したときに、例えばダイヤフラムが反転することにより、上記負極及び正極間の電気的接続を遮断又は上記負極及び上記正極を上記電極体の外部で電気的に短絡させる機構を設けて安全性のさらなる向上を図ることが行われている。しかしながら、これらの機構においては、極板の膨れ量が大きくなると、蓄電素子の内圧が大きくなってしまい、上記機構が早期に作動してしまうおそれもあった。当該蓄電素子が、上記負極及び正極間の電気的接続を遮断する機構、又は上記負極及び上記正極を上記電極体の外部で電気的に短絡させる機構を備えることで、安全性をさらに向上させるとともに、当該蓄電素子が初期の充電時に生じる負極の膨張に対する抑制効果が高いことにより、上記機構が早期に作動することを抑制できる。
【0087】
これらの機構は、温度上昇時や電圧上昇時にガス発生を促進させる化合物を電解液中に入れておき、過充電などの事象が生じた際に、電池内圧を高めることで、これらの機構を作動させる。
【0088】
圧力感応式電気的接続遮断機構は、例えば正極と正極端子との間の導電経路、負極と負極端子の間の導電経路等に設けられる。圧力感応式電気的接続遮断機構が作動すると、充電電流が流れないため、蓄電素子の電圧の増加を抑制でき、過充電時の安全性がさらに向上する。圧力感応式電気的接続遮断機構の場合、例えば蓄電素子の過充電等によって蓄電素子の内圧が上昇したときには、ダイヤフラムの中央部分が浮き上がることで導電経路を破断させることで電流を遮断する。これにより、蓄電素子の過充電時のそれ以上の充電が阻止される。
【0089】
圧力感応式電気的短絡機構は、例えば電極体の外部(例えば、負極集電体5’)に設けられる。圧力感応式電気的短絡機構は、蓄電素子が過充電状態となり蓄電素子の内部の圧力が所定値以上となった場合、金属製のダイヤフラムの中央部分が浮き上がり、ダイヤフラムが導電部材と接触することで正極と負極が短絡した状態となる。これにより、電極体内部に充電電流が流れ込むことを防止できる。この短絡は電極体の外部で生じるため、電極体の内部で短絡が生じたときのような活物質層の発熱反応による蓄電素子の温度上昇を抑制できる。このようにして、電池が過充電状態になった場合の安全性がさらに向上する。
【0090】
(加圧部材)
当該蓄電素子が、ケース3を外側から加圧する加圧部材を備えることが好ましい。当該蓄電素子が初期の充電時に生じる負極の膨張に対する抑制効果が高いことにより、電極体が膨張することによるケース内面との摩擦力が小さくなり、ケース内で電極体が移動する蓋然性も考えられる。当該蓄電素子が、上記ケースを外側から加圧する加圧部材を備えることで、ケースと電極体との摩擦力を高め、電極体に対する保持能力を向上できる。
【0091】
上記加圧部材としては、例えばケースの外周に装着する拘束バンド、金属製のフレームなどが挙げられる。
【0092】
当該蓄電素子は、黒鉛を負極活物質に用いた場合に、初期の充電時に生じる負極の膨張に対する抑制効果が高い。
【0093】
<蓄電素子の製造方法>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子の製造方法は、負極活物質を含有する負極活物質層が負極基材の少なくとも一方の面に沿って配置された負極を準備すること、正極活物質を含有する正極活物質層が正極基材の一方の面に沿って配置された正極を準備すること、並びに上記負極及び上記正極を積層することを備える。
【0094】
上記負極を準備する工程では、負極基材への負極合剤の塗工により負極活物質を含有する負極活物質層を負極基材の少なくとも一方の面に沿って配置することができる。具体的には、例えば負極基材に負極合剤を塗工して乾燥することにより負極活物質層を配置する。上述したように、上記負極活物質は、中実黒鉛粒子を含み、上記中実黒鉛粒子のアスペクト比としては、1以上5以下である。
【0095】
上記負極合剤は、上述の任意成分以外に、さらに分散媒を含んだ状態である負極合剤ペーストであってもよい。この分散媒としては、例えば、水、水を主体とする混合溶媒等の水系溶媒;N-メチルピロリドン、トルエン等の有機系溶媒を用いることができる。
【0096】
上記正極を準備する工程では、正極基材への正極合剤の塗工により、正極活物質を含有する正極活物質層を正極基材の一方の面に沿って配置することができる。具体的には、正極基材に正極合剤を塗工して乾燥することにより正極活物質層を配置する。乾燥の条件としては、上記負極活物質層形成工程と同様とすることができる。また、上記正極合剤は、上述の任意成分以外に、さらに分散媒を含んだ状態である正極合剤ペーストであってもよい。分散媒は、負極合剤で例示したものから任意に選択できる。
【0097】
セパレータを介して上記負極及び上記正極を積層することにより、電極体が形成される。上記負極は、上記負極及び上記正極を積層することの前に、上記負極活物質層をプレスすることを有さない。なお、上記正極は、ロールプレス機等を用いることによりプレスしてもよい。
【0098】
また、上記工程以外に、例えば、電極体をケースに収容する工程及び上記ケースに上記非水電解質を注入する工程を備える。上記注入は、公知の方法により行うことができる。注入後、注入口を封止することにより非水電解質蓄電素子を得ることができる。当該製造方法によって得られる非水電解質蓄電素子を構成する各要素についての詳細は上述したとおりである。
【0099】
当該蓄電素子の製造方法によれば、負極が、上記負極及び上記正極を積層することの前に上記負極活物質層をプレスすることを有さないことで、初期の充電時に生じる負極の膨張に対する抑制効果が高い蓄電素子を製造できる。
【0100】
[その他の実施形態]
本発明の蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0101】
また、上記実施の形態においては、蓄電素子が非水電解質二次電池である形態を中心に説明したが、その他の蓄電素子であってもよい。その他の蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。非水電解質二次電池としては、リチウムイオン非水電解質二次電池が挙げられる。
【0102】
また、上記実施形態においては巻回型電極体を用いていたが、正極、負極及びセパレータを備える複数のシート体を重ねた積層体から形成される積層型電極体を備えてもよい。
【0103】
本発明は、上記の蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。また、本発明の蓄電素子(セル)を単数又は複数個用いることにより蓄電ユニットを構成することができ、さらにこの蓄電ユニットを用いて蓄電装置を構成することができる。この場合、蓄電ユニット又は蓄電装置に含まれている少なくとも一つの蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。上記蓄電装置は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として用いることができる。さらに、上記蓄電装置は、エンジン始動用電源装置、補機用電源装置、無停電電源装置(UPS)等の種々の電源装置に用いることができる。
【0104】
図3に、電気的に接続された二以上の蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【実施例】
【0105】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0106】
[実施例1から実施例2及び比較例1から比較例6の負極作製]
表1に示す組成の負極活物質と、バインダーとしてのスチレン-ブタジエンゴムと、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースとを含有し、水を分散媒とする塗料液(負極合剤ペースト)を調製した。負極活物質、バインダー、増粘剤の比率は、質量比で、97.4:2.0:0.6とした。塗料液を厚さ8μmの銅箔基材(表面粗さ0.74μm)の両面に塗工し、乾燥して、負極活物質層を形成し、実施例1から実施例2及び比較例1から比較例6の負極を得た。負極活物質の物性値及びプレス工程の有無を表1に示す。実施例1、2では、R値が0.30の中実黒鉛を使用した。比較例1から3では、R値が0.21の中空黒鉛を使用した。乾燥後の片面の単位面積当たりの負極合剤(負極合剤ペーストから分散媒を蒸発させたもの)の塗布量は、1.55g/100cm2となるようにした。また、実施例2は、10kgf/mm未満の圧力(線圧)となるように、比較例1、2、4、6は、40kgf/mm以上の圧力(線圧)となるように、それぞれロールプレス機を用いてプレスを行った。
【0107】
(粒子内の空隙を除いた負極活物質粒子の面積率Rの算出)
(1)測定用試料の準備
測定対象とする負極活物質粒子の粉末を熱硬化性の樹脂で固定した。樹脂で固定された負極活物質粒子について、クロスセクション・ポリッシャを用いることで、断面を露出させ、測定用試料を作製した。
(2)SEM像の取得
SEM像の取得には、走査型電子顕微鏡としてJSM-7001F(日本電子株式会社製)を用いた。SEM像の取得の条件は、二次電子像を観察するものとする。加速電圧は、15kVとした。観察倍率は、一視野に表れる負極活物質粒子が3個以上15個以内となる倍率に設定した。得られたSEM像は、画像ファイルとして保存した。その他、スポット径、ワーキングディスタンス、照射電流、輝度、フォーカス等の諸条件は、負極活物質粒子の輪郭が明瞭になるように適宜設定した。
(3)負極活物質粒子の輪郭の切り抜き
画像編集ソフトAdobe Photoshop Elements 11の画像切り抜き機能を用いて、取得したSEM像から負極活物質粒子の輪郭を切り抜いた。この輪郭の切り抜きは、クイック選択ツールを用いて活物質粒子の輪郭より外側を選択し、負極活物質粒子以外を黒背景へと編集して行った。ついで、輪郭を切り抜くことができた全ての負極活物質粒子の画像について、二値化処理を行った。このとき、輪郭を切り抜くことができた負極活物質粒子が3個未満であった場合は、再度、SEM像を取得し、輪郭を切り抜くことができた負極活物質粒子が3個以上になるまで、負極活物質粒子の輪郭の切り抜きを行った。
(4)二値化処理
切り抜いた負極活物質粒子のうち1つ目の負極活物質粒子の画像について、画像解析ソフトPopImaging 6.00を用い、強度が最大となる濃度から20%分小さい濃度を閾値に設定して二値化処理を行った。二値化処理により、濃度の低い側の面積を算出することで「粒子内の空隙を除いた面積S1」とした。
ついで、先ほどと同じ1つ目の負極活物質粒子の画像について、濃度10を閾値として二値化処理を行う。二値化処理により、負極活物質粒子の外縁を決定し、当該外縁の内側の面積を算出し、「粒子全体の面積S0」とした。
上記算出したS1及びS0を用いて、S0に対するS1を算出する(S1/S0)ことにより、一つ目の負極活物質粒子における「粒子全体の面積に対して粒子内の空隙を除いた面積率R1」を算出した。
切り抜いた負極活物質粒子のうち2つ目以降の負極活物質粒子の画像についても、それぞれ、上記の二値化処理を行い、面積S1、面積S0を算出した。この算出した面積S1、S0に基づいて、それぞれの負極活物質粒子の面積率R2、R3、・・・を算出した。
(5)面積率Rの決定
二値化処理により算出した全ての面積率R1、R2、R3、・・・の平均値を算出することにより、「粒子全体の面積に対して粒子内の空隙を除いた負極活物質粒子の面積率R」を決定した。
【0108】
(アスペクト比の決定)
(1)測定用試料の準備
上述した面積率Rを決定する際に使用した断面を露出させた測定用試料を用いた。
(2)SEM像の取得
SEM像の取得には、走査型電子顕微鏡としてJSM-7001F(日本電子株式会社製)を用いた。SEM像の取得条件は、二次電子像を観察するものとした。加速電圧は、15kVとした。観察倍率は、一視野に表れる負極活物質粒子が100個以上1000個以内となる倍率に設定した。得られたSEM像は、画像ファイルとして保存した。その他、スポット径、ワーキングディスタンス、照射電流、輝度、フォーカス等の諸条件は、負極活物質粒子の輪郭が明瞭になるように適宜設定した。
(3)アスペクト比の決定
取得したSEM像から、ランダムに100個の負極活物質粒子を選び、それぞれについて、負極活物質粒子の最長となる径Aと、径Aに垂直な方向において最長となる径Bを測定し、A/B値を算出した。算出した全てのA/B値の平均値を算出することにより、負極活物質粒子のアスペクト比を決定した。
【0109】
(負極活物質層の密度)
負極活物質層の密度は、負極合剤の塗布量(g/100cm2)をW、後述する充放電前の負極活物質層の厚さ(cm)をTとしたとき、つぎの式により算出できる。
負極活物質層の密度(g/cm3)=W/(T×100)
【0110】
(負極基材の表面粗さの比)
負極活物質層が形成されていた領域の表面粗さR1及び負極のうち負極基材が露出している部分の表面粗さR2を、上述の通り、レーザー顕微鏡を用いて測定した。その後、測定したR1及びR2を用いて、負極基材の表面粗さの比(R2/R1)を算出した。ここで、負極活物質層が形成されていた領域の表面粗さR1を測定する際、ブランソン社製卓上超音波洗浄機2510J-DTHを用いて水中で3分間、エタノール中で1分間、それぞれ超音波洗浄を行うことにより、負極活物質層を除去した。
【0111】
[実施例3から実施例6の負極作製]
負極活物質の組成を表1及び表2のようにした以外は、実施例1と同様にして、実施例2から実施例6の負極を得た。実施例3から実施例6のいずれにおいても、実施例1で使用したものと同様の黒鉛(面積率99.1%、アスペクト比2.7)を使用した。また、プレス工程の有無、負極活物質層の密度及び負極基材の表面粗さの比(R2/R1)を表2に示す。
【0112】
[実施例7から実施例8及び比較例7から比較例8の蓄電素子作製]
表3に示す負極と、後述する正極と、厚さ20μmのポリエチレン製セパレータとを積層した状態で巻回することで、実施例7から実施例8及び比較例7から比較例8の蓄電素子を作製した。正極は、正極活物質としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2と、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、導電剤としてのアセチレンブラックとを含有し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を分散媒とする塗料液(正極合剤ペースト)を調製した。正極活物質、バインダー、導電剤の比率は、質量比で、94:3:3とした。塗料液を厚さ12μmのアルミニウム箔基材の両面に塗工し、乾燥し、プレスして、正極活物質層を形成した。乾燥後の片面の単位面積当たりの正極合剤(正極合剤ペーストから分散媒を蒸発させたもの)の塗布量は、2.1g/100cm2となるようにした。
【0113】
実施例7、比較例7、比較例8において、巻回型電極体は、厚さ0.3mmのポリプロピレン製樹脂シートをトラック形状に丸めた状態で溶着することで形成した巻芯を中心に配置して作製した。実施例8において、巻回型エレメントは、中空巻き芯を配置しない代わりに、巻き始めを緩くすることにより、電極体の中心に厚さ0.5mmの中空領域が形成された電極体を構成した。実施例7から実施例8及び比較例7から比較例8の全ての蓄電素子において、巻回型エレメントの外周面は、絶縁シートを介して、電池ケースの内面に接触させた。実施例7から実施例8及び比較例7から比較例8の蓄電素子における電極体中央部の中空領域の厚さ(mm)において、巻芯がある場合の中空部の厚さとは、実質的に、樹脂シートの厚さを除く巻芯の内側の厚さに相当する。なお、電極体は、その断面が長円形状(
図2参照)となるように巻回した。また、中空領域の厚さとは、電極体の厚さ方向(
図2のY軸方向)における中空領域の長さを意味する。
【0114】
表1に、実施例1から実施例2及び比較例1から比較例6の負極の評価結果を表1に示し、実施例1及び実施例3から実施例6の負極の評価結果を表2に示す。また、実施例7から実施例8及び比較例7から比較例8の蓄電素子の評価結果を表3に示す。
【0115】
[評価]
(充放電前の負極活物質層の厚さの測定)
測定用試料として蓄電素子作製前の負極の2cm×1cmの面積の試料を10枚作製し、ミツトヨ社製の高精度デジマチックマイクロメータを用いて、それぞれ、負極の厚さを測定した。それぞれの負極に対して、5箇所ずつ負極の厚さを測定し、その平均値から銅箔基材の厚さ8μmを差し引くことで、1つの負極の充放電前の負極活物質層の厚さを測定した。10枚の負極で測定した充放電前の負極活物質層の厚さの平均値を算出することで、充放電前の負極活物質層の厚さとした。
【0116】
(負極活物質層の多孔度の測定)
上述の通り、「多孔度」とは、体積基準の値であり、活物質層に含まれる構成成分の質量、真密度、及び、活物質層の厚さから算出する計算値である。具体的には、つぎの式で算出する。
多孔度(%)={1-(負極活物質層の密度/負極活物質層の真密度)}×100
ここで、「負極活物質層の密度」(g/cm3)は、上述の通り、負極合剤の塗布量W及び充放電前の負極活物質層の厚さTから算出する。
「負極活物質層の真密度」(g/cm3)は、負極活物質層に含まれる各構成成分の真密度の値及び各構成成分の質量から算出する。具体的には、負極活物質の真密度をD1(g/cm3)、バインダーの真密度をD2(g/cm3)、増粘剤の真密度をD3(g/cm3)、1gの負極合剤に含まれる負極活物質の質量をW1(g)、1gの負極合剤に含まれるバインダーの質量をW2(g)、1gの負極合剤に含まれる増粘剤の質量をW3(g)としたとき、つぎの式で算出する。
負極活物質層の真密度(g/cm3)=1/{(W1/D1)+(W2/D2)+(W3/D3)}
【0117】
(満充電時の負極活物質層の厚さの測定)
満充電時の負極活物質層の厚さの測定は、露点値が-60℃以下のアルゴンで満たされたグローブボックス内で、満充電時の蓄電素子を解体し、DMC洗浄後の負極を測定用試料として用いたこと以外は、充放電前の負極活物質層の厚さの測定と同様に測定した。なお、満充電時とは、実施例及び比較例の充放電前の蓄電素子について、電流密度を2mA/cm2、充電終止電流密度を0.04mA/cm2、上限電圧を4.25Vとして定電流定電圧充電した状態を示す。
【0118】
(初期充電時の負極活物質の膨張量の測定)
初期充電時の負極活物質の膨張量は、上述の方法で算出した「満充電時の負極活物質層の厚さ」から「充放電前の負極活物質層の厚さ」を差し引くことにより算出した。
【0119】
(充放電試験後の充放電ムラ)
作製した蓄電素子を、上限電圧を4.15V、下限電圧を2.75V、60℃の雰囲気下の条件で充放電試験を行った後、電圧が2.75Vになるまで定電流放電を行った。蓄電素子を解体し、取り出した負極板の内周部(電極体の状態において中空領域又は巻芯に隣接する部分)における負極活物質層を目視で確認したところ、白く変色した領域が観察された。当該変色した領域が負極板の幅方向全域に延びて観察された場合、充放電ムラが観察されたと評価した。
【0120】
【0121】
表1に示されるように、負極活物質層が未プレスの状態で配置され、かつ密度が1.20g/cm3以上1.55g/cm3以下であり、負極活物質である中実黒鉛粒子のアスペクト比が1以上5以下であり、上記負極基材の表面粗さの比R2/R1が0.90以上である実施例1から実施例2は、初期充電時の負極活物質層の膨張量に対する抑制効果が優れていた。
【0122】
一方、負極活物質層がプレスされた状態で配置され、上記負極基材の表面粗さの比R2/R1が0.90未満である比較例1、比較例2、比較例4及び比較例6は、実施例1から実施例2と比較して初期充電時の負極活物質の膨張量が著しく増加した。また、負極活物質層が未プレスの状態で配置され、上記負極基材の表面粗さの比R2/R1が0.90以上であっても、負極活物質層の密度が1.20g/cm3未満である比較例3及び比較例5も、実施例1から実施例2と比較して負極活物質層の初期充電時の負極活物質の膨張量が増加した。
【0123】
さらに、負極活物質層の多孔度においては、負極活物質層が未プレスの状態で配置された実施例1、比較例3及び比較例5を比較すると、実施例1は未プレスの状態で配置されているにも係わらず多孔度が小さく、負極活物質の充填率を高めることができたことがわかる。
【0124】
【0125】
表2に示されるように、負極活物質が中実黒鉛粒子及び難黒鉛化性炭素を含む実施例3から実施例6は、負極活物質が中実黒鉛粒子を含む実施例1と同様、初期充電時の負極活物質層の膨張量に対する抑制効果を有するとともに、負極活物質層が未プレスの状態で配置されていても多孔度が小さく、負極活物質の充填率の向上効果を有していた。初期充電時の負極活物質層の膨張量に対する抑制効果と、負極活物質の充填率の向上効果と、を考慮すると、負極活物質の総質量に対する難黒鉛化性炭素の質量比は、15から35質量%が好ましく、20から30質量%がより好ましい。
【0126】
【0127】
表3に示されるように、実施例1と同様の組成を有する負極及び正極が積層された状態で巻回された電極体が中央部に中空領域を有する実施例7から実施例8の蓄電素子は、比較例2及び比較例6と同様の組成を有する負極を備える同様の形態の比較例7から比較例8の蓄電素子と異なり、充放電試験後の充放電ムラは観察されなかった。これらの結果から、上記実施例7から実施例8の蓄電素子は負極の膨れが比較的抑制されたために、上述のような負極板の中空部側への移動による正極及び負極間の極間距離の増加が生じにくかったことから、充放電ムラが観察されなかったと推測される。
【0128】
以上のように、当該蓄電素子は、黒鉛を負極活物質に用いた場合に、初期の充電時に生じる負極の膨張に対する抑制効果が高いことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用される非水電解質二次電池をはじめとした蓄電素子として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0130】
1 蓄電素子
2 電極体
3 ケース
4 正極端子
4’ 正極集電体
5 負極端子
5’ 負極集電体
6 蓋
8 中央部
10 正極
11 セパレータ
12 負極
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置