IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-全固体電池 図1
  • 特許-全固体電池 図2
  • 特許-全固体電池 図3A
  • 特許-全固体電池 図3B
  • 特許-全固体電池 図4A
  • 特許-全固体電池 図4B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20240123BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20240123BHJP
   H01M 50/548 20210101ALI20240123BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M50/548
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020557809
(86)(22)【出願日】2019-11-28
(86)【国際出願番号】 JP2019046500
(87)【国際公開番号】W WO2020111166
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2018224938
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】矢野 知宏
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-352850(JP,A)
【文献】国際公開第2003/080325(WO,A1)
【文献】特開2006-139994(JP,A)
【文献】特開2013-135235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 10/0585
H01M 50/548
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体層と正極活物質層とを有する正極と、負極集電体層と負極活物質層とを有する負極とが、固体電解質層を介して積層され、積層方向に対して平行な面として形成された側面を有し、前記側面は、正極集電体層が露出する第1側面と、前記第1側面と対向し、負極集電体層が露出する第2側面を含む積層体と、
前記第1側面に付設された正極外部端子と、
前記第2側面に付設された負極外部端子と、を含み、
第n層目(ただし、nは自然数)の前記正極の第2側面側端部から前記第2側面までの距離Lcと、n+1層目の前記正極の第2側面側端部から前記第2側面までの距離Lcn+1との差、および第n層目の前記負極の第1側面側端部から前記第1側面までの距離Laと、n+1層目の前記負極の第1側面側端部から前記第1側面までの距離Lan+1との差の少なくとも一方の差が10μm以上である全固体電池。
【請求項2】
前記距離Lcと前記距離Lcn+1との差、および前記距離Laと前記距離Lan+1との差の両方が10μm以上である、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記距離Lcと前記距離Lcn+1との差、および前記距離Laと前記距離Lan+1との差が400μm以下である、請求項1または2に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記第n層目(ただし、nは自然数)の前記正極の第2側面側端部から前記第2側面までの距離Lcの最大値は、前記第1側面と前記第2側面との間の距離の30%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記積層体は、互いに対向配置された第3側面及び第4側面を更に含み、
第n層目の前記正極の第4側面側端部から前記第4側面までの距離Wcと、n+1層目の前記正極の第4側面側端部から前記第4側面までの距離Wcn+1との差(Wcn+1-Wc)、および第n層目の前記負極の前記第3側面側端部から前記第3側面までの距離Waと、n+1層目の前記負極の前記第3側面側端部から前記第3側面までの距離Wan+1との差(Wan+1-Wa)の少なくとも一方の差が10μm以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の全固体電池。
【請求項6】
前記距離Wcと前記距離Wcn+1との差、および前記距離Waと前記距離Wan+1との差の両方が10μm以上である、請求項5に記載の全固体電池。
【請求項7】
前記距離Wcと前記距離Wcn+1との差、および前記距離Waと前記距離Wan+1との差が400μm以下である、請求項5または6に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に関し、例えば、全固体リチウムイオン二次電池に関する。
本願は、2018年11月30日に、日本に出願された特願2018-224938号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、例えば、携帯電話、ノートPC、PDAなどの携帯小型機器の電源として広く使用されている。このような携帯小型機器で使用されるリチウムイオン二次電池は、小型化、薄型化および信頼性の向上が求められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池としては、電解質に有機電解液を用いたものと、固体電解質を用いたものとが知られている。正極と負極とを、固体電解質層を介して積層した全固体リチウムイオン二次電池は、有機電解液を用いたリチウムイオン二次電池と比較して、電池形状の設計の自由度が高く、電池サイズの小型化や薄型化が容易であり、また電解液の液漏れなどが起きないため、信頼性が高いという利点がある。
【0004】
さらに、全固体リチウムイオン二次電池は、他の電子部品同様、不燃性であることから、リフローはんだ付けにより基盤に実装できるという利点がある。
【0005】
しかし、積層セラミックコンデンサのような一般的な表面実装電子部品とは異なり、全固体リチウムイオン二次電池は、有機電解液を用いたリチウムイオン二次電池と同様に、リチウムイオンの挿入と脱離による充放電反応が繰り返して行われるため、該充放電反応に伴って膨張と収縮による体積変化が起こる。したがって、全固体リチウムイオン二次電池において、負極と正極とが対向している充放電反応に寄与する領域、つまり充放電によって体積膨張収縮が生じる領域と、負極と正極とが対向していない充放電反応に寄与しない領域、つまり充放電によって体積膨張収縮が生じない領域とが存在する。そのため、電極の体積膨張収縮が生じる領域(固体電解質層に応力が付与される領域)と、電極の体積膨張収縮が生じない領域(固体電解質層に応力が付与されない領域)との境界部において、固体電解質層に付与される応力に差が発生するという課題があった。上記のような境界部に応力差が発生すると、固体電解質層にクラックが発生しやすくなる。固体電解質層にクラックが発生すると、全固体リチウムイオン二次電池の内部抵抗が大きくなり、十分なサイクル特性が得られないという課題があった。
【0006】
この充放電による電極の体積膨張収縮によって固体電解質層に付与される応力の差を緩和して、固体電解質層のクラックの発生を抑制するために、固体電解質層の電極に近い領域の空隙率を低くし、電極から離れた領域の空隙率を高くすることが検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5910737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、固体電解質層の空隙はLiイオンが通らない。このため、固体電解質層の空隙率を高くして、空隙を多くすると、固体電解質層のLiイオン伝導度が低下するおそれがある。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、固体電解質層に空隙率が高い領域を形成しなくても、電極の体積変化による電池内部のクラックの発生が抑制され、サイクル特性に優れる全固体電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を解決するため、本発明は以下の手段を提供する。
(1)本発明の一態様に係る全固体電池は、正極集電体層と正極活物質層とを有する正極と、負極集電体層と負極活物質層とを有する負極とが、固体電解質層を介して積層され、積層方向に対して平行な面として形成された側面を有し、前記側面は、正極集電体層が露出する第1側面と、前記第1側面と対向し、負極集電体層が露出する第2側面を含む積層体と、前記第1側面に付設された正極外部端子と、前記第2側面に付設された負極外部端子と、を含み、第n層目(ただし、nは自然数)の前記正極の第2側面側端部から前記第2側面までの距離Lcと、n+1層目の前記正極の第2側面側端部から前記第2側面までの距離Lcn+1との差、および第n層目の前記負極の第1側面側端部から前記第1側面までの距離Laと、n+1層目の前記負極の第1側面側端部から前記第1側面までの距離Lan+1との差の少なくとも一方の差が10μm以上である。
【0011】
(2)上記(1)の態様に係る全固体二次電池において、前記距離Lcと前記距離Lcn+1との差、および前記距離Laと前記距離Lan+1との差の両方が10μm以上である構成としてもよい。
(3)上記(1)または(2)の態様に係る全固体二次電池において、前記距離Lcと前記距離Lcn+1との差、および前記距離Laと前記距離Lan+1との差が400μm以下である構成としてもよい。
【0012】
(4)上記(1)~(3)のいずれかの態様に係る全固体二次電池において、第n層目(ただし、nは自然数)の前記正極の第2側面側端部から前記第2側面までの距離Lcの最大値は、前記第1側面と前記第2側面との間の距離の30%以下である構成としてもよい。
【0013】
(5)上記(1)~(4)のいずれかの態様に係る全固体二次電池において、前記積層体は、互いに対向配置された第3側面及び第4側面を更に含み、
第n層目の前記正極の第4側面側端部から前記第4側面までの距離Wcと、n+1層目の前記正極の第4側面側端部から前記第4側面までの距離Wcn+1との差(Wcn+1-Wc)、および第n層目の前記負極の前記第3側面側端部から前記第3側面までの距離Waと、n+1層目の前記負極の前記第3側面側端部から前記第3側面までの距離Wan+1との差(Wan+1-Wa)の少なくとも一方の差が10μm以上である構成としてもよい。
【0014】
(6)上記(5)の態様に係る全固体二次電池において、前記距離Wcと前記距離Wcn+1との差、および前記距離Waと前記距離Wan+1との差の両方が10μm以上である構成としてもよい。
(7)上記(5)または(6)の態様に係る全固体二次電池において、前記距離Wcと前記距離Wcn+1との差、および前記距離Waと前記距離Wan+1との差が400μm以下である構成としてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電極の体積膨張収縮による電池内部のクラックの発生を抑制して、サイクル特性に優れる全固体電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係る全固体電池の平面図である。
図2図1のII-II線断面図である。
図3A図2のIIIA部の拡大断面図である。
図3B図2のIIIB部の拡大断面図である。
図4A図3AのIIIA部の充電状態を示す拡大断面図である。
図4B図3AのIIIB部の充電状態を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。したがって、図面に記載の各構成要素の寸法比率などは、実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0018】
[全固体電池の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る全固体電池の平面図であり、図2図1のII-II線断面図である。図3Aは、図2のIIIA部の拡大図であり、図3Bは、図2のIIIB部の拡大図である。
【0019】
図1及び図2に示すように、全固体電池10は、正極30と負極40とが、固体電解質層50を介して積層された積層体20を含む。正極30及び負極40は、それぞれ交互に複数積層されている。正極30及び負極40の積層数に特に限定はないが、正極30と負極40の合計数で、一般に10層以上200層以下の範囲内にあり、好ましくは20層以上100層以下の範囲内である。
【0020】
積層体20は、6面体であり、積層方向に対して平行な面として形成された4つの側面(第1側面21、第2側面22、第3側面23、第4側面24)と、積層方向(Z方向)と直交する面として上方に形成された上面及び下方に形成された下面を有する。第1側面21には正極集電体層が露出し、第2側面22には負極集電体層が露出している。第3側面23は、上面を上にして第1側面21側から見て右側の側面であり、第4側面24は、上面を上にして第1側面21側から見て左側の側面である。第1側面21及び第2側面22は、互いに対向して配置されている。本実施形態では、第3側面23及び第4側面は、それぞれ第1側面21及び第2側面22に対して垂直に設けられており、且つ、互いに対向して配置されている。
【0021】
正極30は、正極集電体層31と正極活物質層32とを有する。正極集電体層31は第1側面21から露出している。正極活物質層32は第1側面21から露出していてもよいし、露出していなくてもよい。負極40は、負極集電体層41と負極活物質層42とを有する。負極集電体層41は、第1側面21に対向する第2側面22から露出している。負極活物質層42は第2側面22から露出していてもよいし、露出していなくてもよい。
【0022】
積層体20の第1側面21には、正極集電体層31に電気的に接続する正極外部端子35が付設されている。積層体20の第2側面22には、負極集電体層41に電気的に接続する負極外部端子45が付設されている。
【0023】
充電状態において、正極30の正極活物質層32はリチウムイオンを放出し、負極40の負極活物質層42はリチウムイオンを吸蔵する。このため、図4A及び図4Bに示すように、正極30と負極40とが対向する領域では、正極活物質層32は収縮し、負極活物質層42は膨張する。一方、正極30と負極40とが対向していない領域では、正極活物質層32および負極活物質層42の体積変化が生じない。このため、負極40の正極外部端子35側の端部および正極30の負極外部端子45側の端部のそれぞれで、固体電解質層50に付与される応力に差が発生する。
【0024】
本実施形態の全固体電池10では、負極40の正極外部端子35側の端部においては、図3Aに示すように、第n層目(ただし、nは自然数)の負極40aの第1側面側端部から第1側面21までの距離Laと、n+1層目の負極40bの第1側面側端部から第1側面21までの距離Lan+1との差(Lan+1-La)が10μm以上とされている。これにより、負極40の正極外部端子35側の端部では、固体電解質層50に付与される応力の差が発生する部分が10μm以上離れるため、固体電解質層50にクラックが生成しにくくなる。なお、本明細書において、第n層目は、下から数えてn層目の正極30または負極40を意味する。第n+1層目は、第n層目の電極に対して積層方向に1層上の同極性の電極を意味する。クラックの発生を抑制するためには、差(Lan+1-La)は50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましい。一方、差(Lan+1-La)が大きくなりすぎると、全固体電池10の充放電容量が低下するおそれがある。このため、差(Lan+1-La)は、400μm以下であることが好ましい。
【0025】
また、クラックの発生を抑制するためには、全固体電池10内に積層されている負極40の全てが、距離Laと距離Lan+1との差(Lan+1-La)が10μm以上であることが好ましい。すなわち、下記の式(1)で定義される距離Laと距離Lan+1との差(Lan+1-La)の平均値が10μm以上であることが好ましい。なお、式(1)において、|Lan+1-La|は、距離Laと距離Lan+1との差(Lan+1-La)の絶対値を表し、mは、負極40の総層数である。
【0026】
【数1】
【0027】
また、本実施形態の全固体電池10では、正極30の負極外部端子45側の端部においては、図3Bに示すように、第n層目の正極30aの第2側面側端部から第2側面22までの距離Lcと、n+1層目の正極30bの第2側面側端部から第2側面22までの距離Lcn+1との差(Lcn+1-Lc)が10μm以上とされている。これにより、正極30の負極外部端子45側の端部では、固体電解質層50に付与される応力の差が発生する部分が10μm以上離れているため、固体電解質層50にクラックが生成しにくくなる。差(Lcn+1-Lc)は50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましい。一方、差(Lcn+1-Lc)は、400μm以下であることが好ましい。さらに、下記の式(2)距離Lcと距離Lcn+1との差(Lcn+1-Lc)の平均値が10μm以上であることが好ましい。なお、式(1)において、|Lcn+1-Lc|は、距離Lcと距離Lcn+1との差(Lcn+1-Lc)の絶対値を表し、mは、正極30の総層数である。
【0028】
【数2】
【0029】
また、上記第n層目(ただし、nは自然数)の正極30aの第2側面側端部から第2側面22までの距離Lcの最大値は、第1側面21と第2側面22との間の距離(正負極の端面間距離)の30%以下であるのが好ましい。距離Laの最大値を上記範囲内とすることで、全固体電池10の十分な充放電容量を確保することができる。
【0030】
更に、上記実施形態では、積層体20のX方向(図1)に関して、負極40aの第1側面側端部から第1側面21までの距離La、及び第n層目の正極30aの第2側面側端部から第2側面22までの距離Lcを説明したが、これに限らず、積層体20のX方向(図1)に関する上記構成に代えて、積層体20のY方向に関して、上記と同様の構成とすることができる。
【0031】
具体的には、積層体20のY方向(図1)に関して、第n層目の負極40aの第3側面側端部から第3側面23までの距離Waと、n+1層目の負極40bの第3側面側端部から第3側面23までの距離Wan+1との差(Wan+1-Wa)が10μm以上であってもよい。また、第n層目の正極30aの第4側面側端部から第4側面24までの距離Wcと、n+1層目の正極30bの第4側面側端部から第4側面24までの距離Wcn+1との差(Wcn+1-Wc)が10μm以上であってもよい。
【0032】
また、上記距離Wcと上記距離Wcn+1との差、および上記距離Waと上記距離Wan+1との差の両方が10μm以上であるのが好ましい。更に、上記距離Wcと上記距離Wcn+1との差、および上記距離Laと上記距離Lan+1との差が400μm以下であるのが好ましい。
【0033】
正極集電体層31及び負極集電体層41は、導電率が高いことが好ましい。そのため、正極集電体層31及び負極集電体層41には、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウム、銅、ニッケル等を用いることが好ましい。これらの物質の中でも、銅は、正極活物質、負極活物質及び固体電解質と反応しにくい。そのため、正極集電体層31及び負極集電体層41に銅を用いると、全固体電池10の内部抵抗を低減できる。なお、正極集電体層31及び負極集電体層41を構成する物質は、同一でもよいし、異なってもよい。
【0034】
正極活物質層32は正極集電体層31の両面に形成されている。但し、積層体20の積層方向の最上層に正極30が形成されている場合、最上層に位置する正極30の上には対向する負極40が無い。そのため、最上層に位置する正極30において、正極活物質層32は、積層方向下側の片面のみに形成されてもよい。
【0035】
負極活物質層42もまた、負極集電体層41の両面に形成されている。但し、積層体20の積層方向の最下層に負極40が形成されている場合、最下層に位置する負極40の下には対向する正極30が無い。そのため、最下層に位置する負極40において、負極活物質層42は、積層方向上側の片面のみに形成されてもよい。
【0036】
正極活物質層32及び負極活物質層42は、電子を授受する正極活物質及び負極活物質を含む。この他、導電助剤や結着剤等を含んでもよい。正極活物質及び負極活物質は、リチウムイオンを効率的に挿入、脱離できることが好ましい。
【0037】
正極活物質及び負極活物質には、例えば、遷移金属酸化物、遷移金属複合酸化物を用いることが好ましい。具体的には、リチウムマンガン複合酸化物LiMnMa1-a(0.8≦a≦1、Ma=Co、Ni)、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、一般式:LiNiCoMn(x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV)、オリビン型LiMbPO(ただし、Mbは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素)、リン酸バナジウムリチウム(Li(PO又はLiVOPO)、LiMnO-LiMcO(Mc=Mn、Co、Ni)で表されるLi過剰系固溶体、チタン酸リチウム(LiTi12)、LiNiCoAl(0.9<s<1.3、0.9<t+u+v<1.1)で表される複合金属酸化物等を用いることができる。
【0038】
負極活物質及び正極活物質は、後述する固体電解質に合わせて、選択してもよい。
例えば、固体電解質にLi1+nAlTi2-n(PO(0≦n≦0.6)を用いる場合は、正極活物質及び負極活物質にLiVOPO及びLi(POのうち一方又は両方を用いることが好ましい。この場合、正極活物質層32及び負極活物質層42と固体電解質層50との界面における接合が、強固なものになる。また、正極活物質層32及び負極活物質層42と固体電解質層50との界面における接触面積を広くできる。
【0039】
固体電解質層50は固体電解質を含む。固体電解質としては、電子の伝導性が小さく、リチウムイオンの伝導性が高い材料を用いることが好ましい。具体的には例えば、La0.51Li0.34TiO2.94やLa0.5Li0.5TiOなどのペロブスカイト型化合物や、Li14Zn(GeOなどのリシコン型化合物、LiLaZr12などのガーネット型化合物、Li1.3Al0.3Ti1.7(POやLi1.5Al0.5Ge1.5(POなどのナシコン型化合物、Li3.25Ge0.250.75やLiPSなどのチオリシコン型化合物、50LiSiO・50LiBOやLiS-PやLiO-Li-SiOなどのガラス化合物、LiPOやLi3.5Si0.50.5やLi2.9PO3.30.46などのリン酸化合物、Li2.9PO3.30.46(LIPON)やLi3.6Si0.60.4などのアモルファス、Li1.07Al0.69Ti1.46(POやLi1.5Al0.5Ge1.5(POなどのガラスセラミックスよりなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0040】
正極外部端子35及び負極外部端子45の材料としては、導電率が大きい材料を用いることが好ましい。例えば、銀、金、プラチナ、アルミニウム、銅、スズ、ニッケルを用いることができる。
【0041】
次に、本実施形態の全固体電池10の製造方法を説明する。
本実施形態の全固体電池10の製造方法は、同時焼成法を用いてもよいし、逐次焼成法を用いてもよい。
同時焼成法は、各層を形成する材料を積層し、一括焼成により積層体20を作製する方法である。逐次焼成法は、各層を順に作製する方法であり、各層を作製する毎に焼成工程が入る。同時焼成法を用いた方が、全固体電池10の製造の作業工程を少なくすることができる。また同時焼成法を用いた方が、得られる積層体20が緻密になる。
以下、同時焼成法を用いて、全固体電池10を製造する場合を例に説明する。
【0042】
同時焼成法は、積層体20を構成する各材料のペーストを作製する工程と、ペーストを塗布乾燥してグリーンシートを作製する工程と、グリーンシートを積層し、作製した積層シートを同時焼成する工程とを有する。
【0043】
まず積層体20を構成する正極集電体層31、正極活物質層32、固体電解質層50、負極集電体層41及び負極活物質層42の各材料をペースト化する。
【0044】
ペースト化の方法は、特に限定されない。例えば、ビヒクルに各材料の粉末を混合してペーストが得られる。ここで、ビヒクルとは、液相における媒質の総称である。ビヒクルには、溶媒、バインダーが含まれる。係る方法により、正極集電体層31形成用のペースト、正極活物質層32形成用のペースト、固体電解質層50形成用のペースト、負極集電体層41形成用のペースト及び負極活物質層42形成用のペーストを作製する。
【0045】
次いで、グリーンシートを作製する。グリーンシートは、例えば、つぎのようにして作製することができる。
まず、PETフィルムなどの基材上に、固体電解質層50形成用のペーストをドクターブレード法により塗布し、乾燥してシート状の固体電解質層50を形成する。次に、固体電解質層50上に、スクリーン印刷法により、正極活物質層32形成用のペースト、正極集電体層31形成用のペースト、正極活物質層32形成用のペーストを、この順で印刷して乾燥する。そして、PETフィルムを剥離することによって、固体電解質層50と正極30とが積層された正極ユニットグリーンシートを作製する。次いで同様に、固体電解質層50形成用のペーストをドクターブレード法によりPETフィルムなどの基材上に塗布し、乾燥してシート状の固体電解質層50を形成する。その後、固体電解質層50上に、スクリーン印刷法により、負極活物質層42形成用のペースト、負極集電体層41形成用のペースト、負極活物質層42形成用のペーストをこの順で、印刷して乾燥する。そして、PETフィルムを剥離することによって、固体電解質層50と負極40とが積層された負極ユニットグリーンシートを作製する。
【0046】
また、正極30形成用のペーストを塗布した層や負極40形成用のペーストを塗布した層が厚い場合には、該層と該層の下層との間に生じる段差部(ペーストが塗布されていない余白部分)に段差埋め印刷を行ってもよい。段差埋め印刷の材料としては固体電解質層50の材料などを用いることができる。
【0047】
次に、正極ユニットグリーンシートと負極ユニットグリーンシートを交互に積層する。
正極ユニットグリーンシートおよび負極ユニットグリーンシートは、正極30の差(Lcn+1-Lc)が10μm以上で、負極40の差(Lan+1-La)が10μm以上となるように各層をずらして(オフセットして)積層する。その後、正極ユニットグリーンシートおよび負極ユニットグリーンシートを積み重ねた積層方向の上下面に 、所定厚みのシート状の固体電解質層50をさらに積み重ねる。このようにして、積層グリーンシートを得る。また、図1の第3側面23から正極30及び/又は負極40までの距離は、各層で異なっていてもよく、同じである必要はない。また、第4側面23から正極30及び/又は負極40までの距離も、各層で異なっていてもよく、同じである必要はない。
【0048】
次に、積層グリーンシートを一括して圧着する。圧着は、加熱しながら行うことが好ましい。圧着時の加熱温度は、例えば、40℃~95℃とする。
【0049】
圧着したグリーンシート積層体を、例えば、窒素、水素または水蒸気雰囲気下で500℃~750℃に加熱し脱バインダーを行う。その後、窒素、水素または水蒸気雰囲気下で600℃~1000℃に加熱し同時焼成を行うことによって焼結体(積層体20)を得る。焼成時間は、例えば、0.1時間~3時間とする。
【0050】
その後、積層体20の第1側面21に正極外部端子35を、第2側面22に負極外部端子45をそれぞれ所定の形状となるように形成する。正極外部端子35及び負極外部端子45の成形方法としては、スパッタ法、スクリーン印刷法、ディッピング法、スプレーコート法等の公知の方法を用いることができる。
【0051】
以上に述べた本実施形態の全固体電池10によれば、第n層目の正極30の第2側面22側端部から第2側面22までの距離Lcと、n+1層目の正極30の第2側面22側端部から第2側面22までの距離Lcn+1との差(Lcn+1-Lc)、および第n層目の負極40の第1側面21側端部から第1側面21までの距離Laと、n+1層目の負極40の第1側面21側端部から第1側面21までの距離Lan+1との差(Lan+1-La)の少なくとも一方の差が10μm以上とされているので、積層体20のX方向(図1)に関して、充放電による正極30および負極40の体積変化によって固体電解質層50に付与される応力の差が緩和される。このため、本実施形態の全固体電池は、固体電解質層50のクラックの発生が抑制され、サイクル特性に優れたものとなる。
【0052】
また、第n層目の正極30の第4側面24側端部から第4側面24までの距離Wcと、n+1層目の正極30の第4側面24側端部から第4側面24までの距離Wcn+1との差(Wcn+1-Wc)、および第n層目の負極40の第3側面23側端部から第3側面23までの距離Waと、n+1層目の負極40の第3側面23側端部から第3側面23までの距離Wan+1との差(Wan+1-Wa)の少なくとも一方の差が10μm以上とされているので、積層体20のY方向(図1)に関して、充放電による正極30および負極40の体積変化によって固体電解質層50に付与される応力の差が緩和される。このため、本実施形態の全固体電池は、固体電解質層50のクラックの発生が抑制され、サイクル特性に優れたものとなる。
【0053】
更に、上記差(Lcn+1-Lc)および上記差(Lan+1-La)の少なくとも一方が10μm以上であり、且つ、上記差(Wcn+1-Wc)および上記差(Wan+1-Wa)の少なくとも一方が10μm以上とされているので、積層体20のX方向及びY方向(図1)の双方に関して、固体電解質層50に付与される応力の差がより緩和され、これにより固体電解質層50のクラックの発生が更に抑制され、更に優れたサイクル特性を実現することができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【0055】
例えば、本実施形態の全固体電池10では、正極30の距離Lcと距離Lcn+1との差(Lcn+1-Lc)、と負極40の前記距離Laと距離Lan+1との差(Lan+1-La)の両方が10μm以上とされているが、この形態に限定されるものではない。正極30の差(Lcn+1-Lc)または負極40の差(Lan+1-La)の一方のみを10μm以上としてもよい。
【0056】
また、本実施形態の全固体電池10では、固体電解質層50に空隙を設けなくても、充放電による正極30および負極40の体積変化によって固体電解質層50に付与される応力の差が緩和することができるが、固体電解質層50に空隙を設けてもよい。
【実施例
【0057】
[実施例1]
(正極ユニットグリーンシートの作製)
PETフィルム基材上に、固体電解質層50形成用のペースト(Li1.3Al0.3Ti1.7(POペースト)をドクターブレード法により塗布し、乾燥してシート状の固体電解質層50を形成した。次に、固体電解質層50上に、スクリーン印刷法により、正極活物質層32形成用のペースト(Li(POペースト)、正極集電体層31形成用のペースト(銅(Cu)ペースト)、正極活物質層32形成用のペーストを、この順で印刷して乾燥して、正極30を形成した。そして、PETフィルムを剥離して、固体電解質層50と正極30とが積層された正極ユニットグリーンシートを作製した。なお、固体電解質層50の厚さは30μm、正極集電体層31の厚さは5μm、正極活物質層32の厚さは5μmであった。
【0058】
(負極ユニットグリーンシートの作製)
正極ユニットグリーンシートの作製と同様に、PETフィルム基材上に、固体電解質層50形成用のペーストをドクターブレード法により塗布し、乾燥してシート状の固体電解質層50を形成した。次に、固体電解質層50上に、スクリーン印刷法により、負極活物質層42形成用のペースト(Li(POペースト)、負極集電体層41形成用のペースト(銅(Cu)ペースト)、負極活物質層42形成用のペーストを、この順で印刷して乾燥して、正極30を形成した。そして、PETフィルムを剥離して、固体電解質層50と負極40とが積層された正極ユニットグリーンシートを作製した。なお、固体電解質層50の厚さは30μm、負極集電体層41の厚さは5μm、負極活物質層42の厚さは5μmであった。
【0059】
(積層体の作製)
正極ユニットグリーンシートと負極ユニットグリーンシートを、正極30の差(Lcn+1-Lc)の平均が10μmで、負極40の差(Lan+1-La)の平均が10μmとなるように、交互に25枚積層し、更に積み重ねた積層方向上下面に 、厚さ30μmのシート状の固体電解質層50を上下各5層積み重ね、積層グリーンシートを得た。
【0060】
得られた積層グリーンシートを、80℃、100kg/cm、10分の条件で圧着した。次いで圧着したグリーンシート積層体を、窒素雰囲気下で650℃に加熱して、脱バインダーした後、同時焼成して焼結体(積層体20)を得た。同時焼成は、窒素雰囲気下で、焼成温度は800℃とし、焼成時間は1時間とした。
【0061】
(全固体電池の作製)
積層体の側面を研磨して、第1側面21に正極集電体層31を露出させ、第2側面22に負極集電体層41を露出させた。第1側面に銅ペーストを塗布し、焼き付けた後、ニッケル、すずの順に電解めっきを施して多層構造の正極外部端子35を設けた。次いで、第2側面22に、第1側面21と同様にして、多層構造の負極外部端子45を設けて全固体電池を作製した。このようにして作製した全固体電池の大きさは平均で4.5mm×3.2mm×1.1mmであった。
【0062】
[実施例2]
積層体の作製において、正極ユニットグリーンシートと負極ユニットグリーンシートを、正極30の差(Lcn+1-Lc)の平均が50μmで、負極40の差(Lan+1-La)の平均が50μmとなるように積層したこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0063】
[実施例3]
正極ユニットグリーンシートと負極ユニットグリーンシートを、正極30の差(Lcn+1-Lc)の平均が100μmで、負極40の差(Lan+1-La)の平均が100μmとなるように積層したこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0064】
[実施例4]
正極ユニットグリーンシートと負極ユニットグリーンシートを、正極30の差(Lcn+1-Lc)の平均が200μmで、負極40の差(Lan+1-La)の平均が200μmとなるように積層したこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0065】
[実施例5]
正極ユニットグリーンシートと負極ユニットグリーンシートを、正極30の差(Lcn+1-Lc)の平均が400μmで、負極40の差(Lan+1-La)の平均が400μmとなるように積層したこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0066】
[実施例6]
積層体の作製において、正極ユニットグリーンシートと負極ユニットグリーンシートを、正極30の差(Wcn+1-Wc)の平均が10μmで、負極40の差(Wan+1-Wa)の平均が10μmとなるように積層したこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0067】
[実施例7]
正極ユニットグリーンシートと負極ユニットグリーンシートを、正極30の差(Wcn+1-Wc)の平均が50μmで、負極40の差(Wan+1-Wa)の平均が50μmとなるように積層したこと以外は、実施例6と同様にして全固体電池を作製した。
【0068】
[実施例8]
正極ユニットグリーンシートと負極ユニットグリーンシートを、正極30の差(Wcn+1-Wc)の平均が100μmで、負極40の差(Wan+1-Wa)の平均が100μmとなるように積層したこと以外は、実施例6と同様にして全固体電池を作製した。
【0069】
[実施例9]
正極ユニットグリーンシートと負極ユニットグリーンシートを、正極30の差(Wcn+1-Wc)の平均が200μmで、負極40の差(Wan+1-Wa)の平均が200μmとなるように積層したこと以外は、実施例6と同様にして全固体電池を作製した。
【0070】
[実施例10]
正極ユニットグリーンシートと負極ユニットグリーンシートを、正極30の差(Wcn+1-Wc)の平均が400μmで、負極40の差(Wan+1-Wa)の平均が400μmとなるように積層したこと以外は、実施例6と同様にして全固体電池を作製した。
【0071】
[実施例11]
積層体の作製において、正極ユニットグリーンシートと負極ユニットグリーンシートを、正極30の差(Lcn+1-Lc)の平均が200μmで、負極40の差(Lan+1-La)の平均が200μmであり、且つ、正極30の差(Wcn+1-Wc)の平均が10μmで、負極40の差(Wan+1-Wa)の平均が10μmとなるように積層したこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0072】
[実施例12]
正極30の差(Wcn+1-Wc)の平均が50μmで、負極40の差(Wan+1-Wa)の平均が50μmとなるように積層したこと以外は、実施例11と同様にして全固体電池を作製した。
【0073】
[実施例13]
正極30の差(Wcn+1-Wc)の平均が100μmで、負極40の差(Wan+1-Wa)の平均が100μmとなるように積層したこと以外は、実施例11と同様にして全固体電池を作製した。
【0074】
[実施例14]
正極30の差(Wcn+1-Wc)の平均が200μmで、負極40の差(Wan+1-Wa)の平均が200μmとなるように積層したこと以外は、実施例11と同様にして全固体電池を作製した。
【0075】
[実施例15]
正極30の差(Wcn+1-Wc)の平均が400μmで、負極40の差(Wan+1-Wa)の平均が400μmとなるように積層したこと以外は、実施例11と同様にして全固体電池を作製した。
【0076】
[比較例1]
積層体の作製において、正極ユニットグリーンシートと負極ユニットグリーンシートを長さ方向(X方向)に意図的にずらさずに積層したこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0077】
[比較例2]
正極ユニットグリーンシートと負極ユニットグリーンシートを、正極30の差(Lcn+1-Lc)の平均が5μmで、負極40の差(Lan+1-La)の平均が5μmとなるように積層したこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0078】
[比較例3]
正極ユニットグリーンシートと負極ユニットグリーンシートを幅方向(Y方向)に意図的にずらさずに積層したこと以外は、実施例6と同様にして全固体電池を作製した。
【0079】
[比較例4]
正極ユニットグリーンシートと負極ユニットグリーンシートを、正極30の差(Wcn+1-Wc)の平均が5μmで、負極40の差(Wan+1-Wa)の平均が5μmとなるように積層したこと以外は、実施例6と同様にして全固体電池を作製した。
【0080】
[比較例5]
正極ユニットグリーンシートと負極ユニットグリーンシートを長さ方向(X方向)及び幅方向(Y方向)に意図的にずらさずに積層したこと以外は、実施例11と同様にして全固体電池を作製した。
【0081】
[比較例6]
正極ユニットグリーンシートと負極ユニットグリーンシートを、正極30の差(Lcn+1-Lc)の平均が5μmで、負極40の差(Lan+1-La)の平均が5μmとなるように積層し、且つ、正極30の差(Wcn+1-Wc)の平均が5μmで、負極40の差(Wan+1-Wa)の平均が5μmとなるように積層したこと以外は、実施例11と同様にして全固体電池を作製した。
【0082】
[評価]
次に、上記実施例および比較例で得られた全固体電池を、以下の方法で測定、評価した。その結果を、下記の表1~表3に示す。
【0083】
(Lcn+1-LcおよびLan+1-Laの平均値)
作製した全固体電池の断面を、走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、製品名「S-4800」)を用いて観察して、正極30の差(Lcn+1-Lc)および負極40の差(Lan+1-La)を測定し、その平均を算出した。
【0084】
(10サイクル後のクラック発生率)
作製した全固体電池(n=200個)を、充放電試験機(アスカ電子社製、製品名「ACD-01」)を用いて、10サイクル充放電した。充放電は、0Vから2.0Vまでの範囲で、定電流20μAの条件で行った。次いで、全固体電池の外観6面を光学顕微鏡で観察し、1面でもクラックが確認できたものをクラック発生品とした。100個の全固体電池に対するクラック発生品の発生率をクラック発生率とした。
【0085】
(100サイクル後の容量維持率)
作製した全固体電池(n=10個)を、充放電試験機(アスカ電子社製、製品名「ACD-01」)を用いて、100サイクル充放電した。充放電の条件は、上記クラック発生率で行った充放電の条件と同じである。1サイクル目の放電容量を100%とし、100サイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で除した値を、容量維持率とした。
【0086】
(電極長さから算出した理論容量)
作製した全固体電池の断面を、走査電子顕微鏡を用いて観察して、正極外部端子35との接続部から、負極外部端子45側の端部までの正極30全体の長さも測長した。測長した各正極30の長さの合計を、比較例1の正極30の長さの合計を100としたときの割合で、理論容量値とした。
なお、表1~表3には、比較例1の全固体電池の理論容量を100とした相対値を示した。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
表1の結果から、差(Lcn+1-Lc)の平均値および差(Lan+1-La)の平均値の両方が10μm以上である実施例1~5の全固体電池は、差(Lcn+1-Lc)の平均値および差(Lan+1-La)の平均値の両方が5μm以下の比較例1~2と比較して、10サイクル後のクラック発生率が低く、100サイクル後の容量維持率が高かった。特に、差(Lcn+1-Lc)の平均値および差(Lan+1-La)の平均値の両方が50μm以上である実施例2~5の全固体電池は、10サイクル後のクラック発生率が20%以下と低く、100サイクル後の容量維持率が96%以上と高くなった。
【0091】
また、表2の結果から、差(Wcn+1-Wc)の平均値および差(Wan+1-Wa)の平均値の両方が10μm以上である実施例6~10の全固体電池は、差(Wcn+1-Wc)の平均値および差(Wan+1-La)の平均値の両方が5μm以下の比較例3~4と比較して、10サイクル後のクラック発生率が低く、100サイクル後の容量維持率が高かった。特に、差(Wcn+1-Wc)の平均値および差(Wan+1-Wa)の平均値の両方が50μm以上である実施例7~10の全固体電池は、10サイクル後のクラック発生率が23%以下と低く、100サイクル後の容量維持率が93%以上と高くなった。
【0092】
更に、表3の結果から、差(Lcn+1-Lc)の平均値および差(Lan+1-La)の平均値の両方が200μmであり、且つ、差(Wcn+1-Wc)の平均値および差(Wan+1-Wa)の平均値の両方が10μm以上である実施例11~15の全固体電池は、差(Lcn+1-Lc)の平均値および差(Lan+1-La)の平均値の両方が5μm以下であり、且つ、差(Wcn+1-Wc)の平均値および差(Wan+1-Wa)の平均値の両方が5μm以下の比較例5~6と比較して、10サイクル後のクラック発生率が45%以下と格段に低く、100サイクル後の容量維持率が100%と極めて高かった。特に、差(Lcn+1-Lc)の平均値および差(Lan+1-La)の平均値の両方が200μmであり、且つ、差(Wcn+1-Wc)の平均値および差(Wan+1-Wa)の平均値の両方が50μm以上である実施例12~15の全固体電池は、10サイクル後のクラック発生率が18%以下と極めて低くなった。
【符号の説明】
【0093】
10…全固体電池、20…積層体、21…第1側面、22…第2側面、23…第3側面、
24…第4側面、30…正極、31…正極集電体層、32…正極活物質層、35…正極外
部端子、40…負極、41…負極集電体層、42…負極活物質層、45…負極外部端子、
50…固体電解質層
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B