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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/12 20060101AFI20240123BHJP
   H01M 50/103 20210101ALI20240123BHJP
   H01M 50/114 20210101ALI20240123BHJP
   H01M 50/474 20210101ALI20240123BHJP
   H01M 50/477 20210101ALI20240123BHJP
【FI】
H01M10/12 Z
H01M50/103
H01M50/114
H01M50/474
H01M50/477
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020558284
(86)(22)【出願日】2019-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2019044083
(87)【国際公開番号】W WO2020105484
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2018217460
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼野 泰如
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/105665(WO,A1)
【文献】特開2012-146432(JP,A)
【文献】特開2003-257381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/12
H01M 50/103
H01M 50/114
H01M 50/474
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池であって、
極板群と、電解液と、前記極板群の底部側の周面に対向し、かつ前記電解液を透過しない囲み部材と、を備え、
前記極板群の前記底部側の周面と、前記囲み部材との間に、第1隙間が形成されており、
前記囲み部材の鉛直方向への投影像で囲まれる面積S0に対する、前記極板群の鉛直方向への投影面積S1の比率が0.90以上である、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記囲み部材が、前記極板群および前記電解液を収容する電槽の側壁および隔壁の少なくとも一方の一部である、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記囲み部材が、前記極板群および前記電解液を収容する電槽の側壁および隔壁の少なくとも一方と前記極板群との間に配置された前記電解液を透過しないスペーサである、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記囲み部材が、前記極板群および前記電解液を収容する電槽の側壁および隔壁の少なくとも一方の一部と、前記電槽の側壁および隔壁の少なくとも一方と前記極板群との間に配置された前記電解液を透過しないスペーサと、の組み合わせである、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記第1隙間の幅が、前記極板群の頂部側の周面と、前記電槽の側壁および隔壁の少なくとも一方との間に形成される第2隙間の幅に比べて小さい、請求項~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
前記極板群の四方の周面のうち、3つ以上の周面において、前記第1隙間の幅が前記第2隙間の幅に比べて小さい、請求項5に記載の鉛蓄電池。
【請求項7】
前記極板群の高さをHとするとき、前記第1隙間は、前記極板群の底面から0.5H以下の位置まで形成されている、請求項5または6に記載の鉛蓄電池。
【請求項8】
前記極板群の高さをHとするとき、前記第1隙間は、前記極板群の底面から0.3H以上の位置まで形成されている、請求項5~7のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項9】
前記極板群の高さをHとするとき、前記第1隙間は、前記極板群の底面から0.4H以上の位置まで形成されている、請求項5~8のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項10】
前記比率は、1未満である、請求項1~9のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、電槽内に、正極板および負極板とこれらの間に介在するセパレータとを備える極板群と、電解液と、を備えている。鉛蓄電池には、長寿命であることが求められるため、様々な試みがなされている。
【0003】
特許文献1には、繊維状の熱収縮性樹脂からなる不織布で極板群を覆った後、これを熱収縮させることを特徴とする鉛蓄電池の製造法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、正極板、負極板を、リテーナを介して積層した極板群を電槽に挿入し、該極板群の板面が水平になるように配置された状態で使用する密閉形鉛蓄電池において、前記極板群は、極板群側面部と極板群底面部に圧縮弾性率が190~411kgf/cmの範囲にあるスペーサが着接されていることを特徴とする密閉形鉛蓄電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平2-299171号公報
【文献】特開2001-85046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、鉛蓄電池の寿命性能は、正極板、負極板およびセパレータの少なくともいずれかの劣化に大きく影響される。鉛蓄電池(特に液式の鉛蓄電池)においては、充電時に電解液の成層化が起こり易い。成層化とは、電槽内に存在する比重の高い電解液が下降し、極板群の頂部側と底部側との間で、電解液の比重差(濃度差)が大きくなる現象である。成層化が起こると、極板群の底部側において負極板のサルフェーションが進行し易くなるとともに、極板群の頂部側において充放電反応が集中することで正極板の劣化も促進され、寿命が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、鉛蓄電池であって、
極板群と、電解液と、前記極板群の底部側の周面に対向し、かつ前記電解液を透過しない囲み部材と、を備え、
前記極板群の前記底部側の周面と、前記囲み部材との間に、第1隙間が形成されており、
前記囲み部材の鉛直方向への投影像で囲まれる面積S0に対する、前記極板群の鉛直方向への投影面積S1の比率(=S1/S0)が0.90以上である、鉛蓄電池に関する。
【発明の効果】
【0008】
鉛蓄電池において、電解液の成層化が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】本発明の一実施形態に係る液式の鉛蓄電池の内部構造を概略的に示す斜視図である。
図1B図1Aの鉛蓄電池をIB-IB線にて切断し、セル室内を矢印方向(極板群の積層方向)に見たときの断面模式図である。
図1C図1Aの鉛蓄電池をIC-IC線にて切断し、セル室内を矢印方向に見たときの断面模式図である。
図1D図1Aの鉛蓄電池の1つのセルについて、セルの頂部側の部分の所定位置から底部に向かって鉛直方向Zにセル室内を見たときの模式的な断面と、面積S0および投影面積S1とを説明するための模式図である。
図2】本発明の他の実施形態に係る液式の鉛蓄電池のセル室内を図1Bの場合に準じて極板群の積層方向に見たときの断面模式図である。
図3】本発明のさらに他の実施形態に係る液式の鉛蓄電池の1つのセルについて、セルの頂部側の部分の所定位置から底部に向かって鉛直方向Zにセル室内を見たときの概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の新規な特徴を添付の請求の範囲に記述するが、本発明は、構成および内容の両方に関し、本発明の他の目的および特徴と併せ、図面を照合した以下の詳細な説明によりさらによく理解されるであろう。
【0011】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、極板群と、電解液と、極板群の底部側の周面に対向し、かつ電解液を透過しない囲み部材と、を備える。極板群の底部側の周面と囲み部材との間には、隙間(以下、第1隙間と称する)が形成されている。ここで、囲み部材の鉛直方向への投影像で囲まれる面積S0に対する、極板群の鉛直方向への投影面積S1の比率(以下、S1/S0と記載する場合がある)を0.90以上とする。
【0012】
なお、本明細書中、極板群における上下方向は、鉛蓄電池が使用される状態において、鉛蓄電池の鉛直方向における上下方向を意味する。鉛蓄電池の底部側とは、囲み部材の上端の高さから鉛蓄電池の最下端までの部分を言う。鉛蓄電池の頂部側とは、鉛蓄電池の底部側以外の部分であり、囲み部材の上端の高さから鉛蓄電池の最上端までの部分を言う。
【0013】
本明細書中、極板においては、耳部が設けられている側を上側、耳部とは反対側を下側として上下方向を定める。
【0014】
鉛蓄電池は、液式電池(ベント型電池)および制御弁式電池(VRLA型)のいずれであってもよい。鉛蓄電池は、縦置き型および横置き型のいずれであってもよい。なお、縦置き型の鉛蓄電池とは、鉛蓄電池が使用される状態において、極板の耳部が極板群の上方に突出しているものを言う。横置き型の鉛蓄電池とは、鉛蓄電池が使用される状態において、極板の耳部が極板群の側方に突出しているものを言う。
【0015】
極板群の底部側とは、縦置き型の鉛蓄電池においては、極板群に含まれるセパレータの最下端と最上端との間の所定高さ(以下、高さhと称する。)から上記最下端までの領域をいう。一方、極板群の頂部側とは、極板群の底部側以外の領域であり、縦置き型の鉛蓄電池においては、極板群を構成するセパレータの高さhから上記最上端までの領域をいう。横置き型の鉛蓄電池においては、極板およびセパレータは鉛蓄電池の鉛直方向に沿って積層され、極板群を構成していてもよい。また、横置き型の鉛蓄電池においては、極板およびセパレータは、鉛蓄電池の水平方向に沿って積層され、極板群を構成していてもよい。極板およびセパレータが鉛蓄電池の鉛直方向に沿って積層された極板群を備える横置き型の鉛蓄電池において、極板群の底部側とは、極板群の所定の高さhから極板群の底面までの領域をいう。また、このような横置き型の鉛蓄電池において、極板群の頂部側とは、極板群の底部側以外の領域であり、極板群の所定の高さhから極板群の頂面までの領域をいう。極板およびセパレータが鉛蓄電池の水平方向に沿って積層された極板群を備える横置き型の鉛蓄電池において、極板群の底部側および頂部側は、縦置き型の鉛蓄電池の場合と同様に決定される。なお、縦置き型の鉛蓄電池および極板およびセパレータが鉛蓄電池の水平方向に沿って積層された極板群を備える横置き型の鉛蓄電池において、極板群を構成するセパレータの最下端から最上端までの距離が、極板群の高さHに対応する。極板およびセパレータが鉛蓄電池の鉛直方向に沿って積層された極板群を備える横置き型の鉛蓄電池において、極板群の底面から頂面までの距離(つまり、極板群の積層方向における厚み)が、極板群の高さHに対応する。所定高さhとは、囲み部材の上端の高さに対応する。
【0016】
なお、縦置き型の鉛蓄電池および極板およびセパレータが鉛蓄電池の水平方向に沿って積層された極板群を備える横置き型の鉛蓄電池では、鉛蓄電池が使用される状態において、極板群の上側と対向する側をセパレータの上側とし、極板群の下側と対向する側をセパレータの下側とする。極板およびセパレータが鉛蓄電池の鉛直方向に沿って積層された極板群を備える横置き型の鉛蓄電池では、極板の上側と対向する側(つまり、耳部側)をセパレータの上側とし、極板の下側と対向する側をセパレータの下側とする。
【0017】
鉛蓄電池は、通常、極板群と電解液とを収容する電槽を備えている。電槽は、通常、極板群を支持する底部と、底部の周縁に形成される側壁を備えている。電槽が複数のセル室を有する場合、電槽は、隣接するセル室間を隔てる隔壁を備えている。1つのセル室には、通常、1つの極板群が収容され、1セルを構成する。鉛蓄電池は、1つの極板群を備えていてもよく、複数の極板群を備えていてもよい。
【0018】
蓋が鉛蓄電池の上部に位置する鉛蓄電池(縦置き型の鉛蓄電池など)では、通常、極板群の頂部側の周面は、電槽の側壁および隔壁の少なくとも一方と対向する。極板群の頂部側の周面と、この周面と対向する部材(つまり、電槽の側壁および隔壁の少なくとも一方)との間には、隙間(以下、第2隙間と称する)が形成されている。蓋が鉛蓄電池の側部に位置する鉛蓄電池(横置き型の鉛蓄電池など)では、通常、極板群の頂部側の周面は、電槽の側壁および隔壁の少なくとも一方、電池の蓋、ならびに電槽の底と対向する。この場合、これらの対向する部材と極板群の頂部側の周面との間に形成される隙間を第2隙間と称する。第1隙間の幅は、第2隙間の幅に比べて小さくなっている。第1隙間の幅とは、極板群の底部側の周面とこの周面と対向する囲み部材との距離(または間隔)である。また、第2隙間の幅とは、極板群の頂部側の周面とこの周面と対向する部材との距離(または間隔)である。極板群の周面と対向する部材(つまり、囲み部材、鉛蓄電池の蓋、電槽の側壁または隔壁、あるいは電槽の底)を、極板群の周囲の部材と称することがある。なお、第1隙間の幅が第2隙間の幅に比べて小さいとは、第1隙間の幅の平均値が第2隙間の幅の平均値よりも小さいことを意味する。各隙間の幅の平均値とは、極板群の四方の周面のそれぞれにつき任意の3箇所(四方の周面の合計で12箇所)の隙間の幅を計測し、平均化した値である。なお、隙間の幅は、極板の主面またはセパレータの主面が極板群の周囲の部材と対向している周面については、任意の3箇所について測定する。極板の端面が極板群の周囲の部材と対向している周面については、任意の9箇所について隙間の幅を測定し、測定値の大きな3箇所および測定値の小さな3箇所を除いた残りの3箇所の測定値について平均化するものとする。囲み部材に、切り欠き部、および極板群の周面に向かって張り出したリブ部の少なくとも一方がある場合、隙間の幅は、切り欠き部およびリブ部がない箇所で計測する。横置き型の鉛蓄電池において、極板の耳部が極板群の周囲の部材と対向している場合、隙間の幅は、耳部以外の箇所で計測する。
【0019】
鉛蓄電池では、一般に、充電時には、極板群の充電反応により電槽内に存在する電解液の比重が高くなり、比重の高い電解液が極板群の底部側に下降し易い。一方、放電時には、電槽内に存在する電解液の比重が小さくなる。比重の低い電解液は、電槽内において、極板群の頂部側まで上昇し得る。しかし、この電解液の上昇は、電槽内において、極板群の頂部側と底部側との間の電解液の比重差を解消するには十分ではない。そのため、従来の鉛蓄電池においては、充放電を繰り返すうちに電解液の成層化が進行する。
【0020】
一方、本発明の一側面に係る鉛蓄電池では、極板群の底部側に、電解液を透過しない囲み部材によって、極板群の周面との距離が小さい第1隙間が設けられており、S1/S0を0.90以上とする。この場合、比重の大きな電解液が、極板群の底部側まで下降することが抑制される。また、底部側では極板群の周囲の電解液量が頂部側に比べて少ないため、放電時には、底部側の電解液の比重が小さくなりやすく、比重の小さな電解液の上昇による攪拌が促進される。特にアイドリングストップ(IS)制御を行う鉛蓄電池では、深い放電が行われるため、上記のような第1隙間を設けることで、大きな攪拌促進作用が得られる。これにより、鉛蓄電池の耐久性を向上しやすい。
【0021】
このようにS1/S0が0.90以上(S1/S0≧0.90)となるように第1隙間を形成することで、充電時には、比重の大きな電解液が極板群の底部側まで下降することが顕著に抑制され、かつ放電時には、比重の小さな電解液の上昇による攪拌が促進される。これにより、極板群の頂部側と底部側との間で電解液の比重差が小さくなる。その結果、極板群の底部側に比重の高い電解液が滞留しにくくなり、成層化が抑制される。成層化が抑制されることで、鉛蓄電池のサイクル寿命が向上する。一方で、極板群の周囲に存在する電解液の量が少なくなると、容量が低下し易い。そのため、S1/S0を上記のように大きくすることは、これまで想定されておらず、検討もなされていない。また、S1/S0を大きくすることで、成層化が効果的に抑制されることもこれまで知られていない。
【0022】
S1/S0は、0.90以上であればよく、好ましくは0.92以上であり、より好ましくは、0.94以上であり、0.95以上であってもよい。S1/S0は、通常、1未満であり、0.99以下または0.98以下であってもよく、0.94以下または0.92以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0023】
S1/S0は、0.90(または0.92)以上1未満、0.90(または0.92)~0.99、0.90(または0.92)~0.98、0.94(または0.95)~0.98、0.90(または0.92)~0.94、0.90~0.92、0.94(または0.95)以上1未満、あるいは0.94(または0.95)~0.99などであってもよい。
【0024】
単セルの場合、このセル(または電槽)において、S1/S0が上記の範囲となるようにすればよい。電槽が、複数のセル室を備える場合、少なくとも1つのセル室について、S1/S0が上記の範囲となるようにすることで、相応の上記効果が得られる。また、複数のセル全体で上記の効果を得る観点から、複数のセルについて求めたS1/S0の平均値が、上記の範囲となるようにしてもよい。各セルにおいて、S1/S0が上記の範囲となるようにすると、電槽内全体で成層化を抑制する効果が得られるため、より有利である。
【0025】
なお、第1隙間の幅が小さいほど、成層化を抑制する効果は大きくなるため、第1隙間の幅は限りなくゼロに近くてもよい。ただし、製造される極板群のサイズにはばらつきがあり、通常は、このばらつきを考慮して第1隙間が設計されるため、第1隙間の幅はゼロより大きくなる。
【0026】
S0およびS1は、それぞれ、鉛蓄電池の水平方向に平行な断面試料から求められる。断面試料は、次の手順で作製される。まず、電槽と蓋との溶着部分(より具体的には、電槽と蓋との境界面)を切断し、水洗によって電槽内部の電解液を取り除く。次に大気圧以下の減圧下で50℃以上100℃以下の温度で加熱しながら極板群を乾燥させる。極板群を室温(例えば、20℃以上35℃以下の温度)まで冷却した後に、エポキシ樹脂を電槽内に注ぎ入れ、極板群ごと硬化させる。なお、エポキシ樹脂を注ぎ入れるときの極板群の温度は、20℃以上35℃以下とする。エポキシ樹脂が硬化した後、任意の高さで切断し、断面を研磨することにより、断面試料が得られる。S0は、極板群の底部側において任意の高さにおける4つの断面試料から求められる囲み部材の鉛直方向への投影像で囲まれる面積の平均値とする。S1は、極板群の底部側において任意の高さにおける4つの断面試料から求められる極板群の鉛直方向への投影面積の平均値とする。セパレータが正極、あるいは負極を包装している場合、断面試料におけるセパレータおよびセパレータで囲まれる領域の鉛直方向への投影面積もS1に含まれるものとする。S1は、満充電状態の鉛蓄電池における極板群について求めるものとする。
【0027】
S0およびS1は、次のような手順で求められる。まず、断面試料のデジタル画像を撮影する。デジタル画像において、囲み部材で囲まれる領域と、この領域より外側の領域とが区別されるようにしきい値を設定して二値化処理を行う。二値化処理した画像から、囲み部材で囲まれる領域の面積を求める。4つの断面試料のそれぞれについて囲み部材で囲まれる領域の面積を求め、平均化することにより、S0が求められる。断面試料のデジタル画像において、極板群と、極板群の輪郭より外側の領域とが区別されるようにしきい値を設定して、二値化処理を行う。二値化処理した画像から、極板群の面積(つまり、極板群の輪郭で囲まれる領域の面積)を求める。4つの断面試料のそれぞれについて極板群の面積を求め、平均化することにより、S1が求められる。二値化処理には、画像処理ソフトとして、NIHより入手可能なImageJが利用される。
【0028】
極板群の底部側または頂部側における周面とは、極板群の底部側または頂部側における周囲(つまり側部)の表面を言う。極板群では、通常、セパレータが極板より外側に突出していたり、極板のサイズまたは積層にばらつきがあったりすることで、極板群の側部には凹凸が存在する。この凹凸の表面も極板群の周面に含まれる。極板群の底部側または頂部側における周面は、極板群の底部側または頂部側において、ある高さにおける上述の鉛蓄電池の水平方向に平行な断面試料において、極板群の輪郭を、高さ方向に連続させた場合に形作られる立体の外表面とも言うことができる。極板群は、側部の四方を、上記の極板群の周囲の部材で取り囲まれている。極板群の周囲の部材の1つに対向する極板群の側部の表面を極板群の1つの周面とする。つまり、極板群は、極板群の周囲の部材に対向する4つの周面を有している。なお、極板群が極板群の周囲の部材に対向するとは、極板群と極板群の周囲の部材との間にスペーサが介在した状態で対向する場合も包含する。
【0029】
本明細書中、鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2006の定義によって定められる。より具体的には、25℃±2℃の水槽中で、鉛蓄電池を、定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A)で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧または20℃に温度換算した電解液密度が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで充電した状態を満充電状態とする。また、制御弁式の鉛蓄電池の場合、満充電状態とは、25℃±2℃の気槽中で、鉛蓄電池を、定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A)で、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流(A)が定格容量(Ah)として記載の数値の0.005倍になった時点で充電を終了した状態である。なお、定格容量として記載の数値は、単位をAhとした数値である。定格容量として記載の数値を元に設定される電流の単位はAとする。
【0030】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電したものをいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0031】
なお、本明細書中、「電解液を透過しない」とは、囲み部材が、少なくとも充電時に電槽の上部側から極板群の底部側の部分に電解液が供給されるような孔を有さないことをいう。囲み部材が電解液を透過できる孔を有する場合でも、孔の開口が極板群の周面に対向していない場合には、電槽の上部側から極板群の底部側への電解液の供給が抑制される。よって、このような孔を有する囲み部材を用いる場合を排除するものではないが、囲み部材は、電解液(好ましくは液体)を透過する孔を有さないことが好ましい。ただし、囲み部材は、例えば、空気等のガスを透過してもよい。
【0032】
従って、囲み部材には、不織布、および電解液を透過可能な孔を有する多孔質のスペーサなどは含まれない。極板群を不織布で覆ったり、極板群の周囲に多孔質のスペーサを配置したりしても、成層化を十分に抑制することは困難である。不織布、多孔質のスペーサ等は、電解液を透過して、極板群の底部側の部分に電解液を容易に供給するため、比重の大きな電解液の下降を阻止できないためである。
【0033】
囲み部材は、電槽の側壁の一部であってもよく、電槽の隔壁の一部であってもよく、これらの双方であってもよい。これらの場合、側壁および隔壁の少なくとも一方が囲み部材として機能するように電槽を形成すればよい。例えば、側壁および隔壁の少なくとも一方の、極板群の底部側の周面と対向する部分が、極板群の周面に向かって張り出した状態となるように形成すればよい。より具体的には、側壁および隔壁の少なくとも一方の、極板群の底部側の周面と対向する部分を、頂部側と対向する部分よりも厚く形成してもよい。また、側壁の極板群の底部側の周面と対向する部分が極板群の周面に向かって張り出すように、極板群の底部側と頂部側との間付近に段部および湾曲部の少なくとも一方を形成してもよい。これらの場合、囲み部材を別途必要とせず、鉛蓄電池の製造コストを低減できる。
【0034】
囲み部材は、電槽の側壁および隔壁の少なくとも一方と極板群との間に配置された電解液を透過しないスペーサであってもよい。このようなスペーサは、例えば極板群の周面に貼り付け(もしくは巻き付け)てもよく、側壁および隔壁の少なくとも一方に貼り付けてもよく、極板群の底部側と側壁および隔壁の少なくとも一方との間に挿入してもよい。電解液を透過しないスペーサは、比重の大きな電解液の下降の妨げとなるため、極板群の頂部側と底部側との間で電解液の比重差が生じにくくなる。
【0035】
囲み部材は、(a1)電槽の側壁の一部および隔壁の一部の少なくとも一方と、(b1)側壁および隔壁の少なくとも一方と極板群との間に配置された電解液を透過しないスペーサとの組み合わせであってもよい。この場合、囲み部材の構成のバラエティが豊富になり、鉛蓄電池の設計の自由度が大きくなる。
【0036】
蓋が鉛蓄電池の側部に位置する鉛蓄電池では、電槽の側壁および隔壁の少なくとも一方の一部に加えて、電槽の底の一部が囲み部材を構成してもよい。このような鉛蓄電池では、鉛蓄電池の蓋が極板群の周面に対向している。しかし、蓋と極板群の間の距離は比較的大きいため、少なくとも極板群の底部側では、蓋と極板群との間に、電解液を透過しないスペーサが配置される。従って、このスペーサも囲み部材を構成する。つまり、このような場合、囲み部材は、下記(a2)および下記(b2):
(a2)電槽の側壁および隔壁の少なくとも一方の少なくとも一部ならびに電槽の底の一部、
(b2)鉛蓄電池の蓋と極板群との間に配置された電解液を透過しないスペーサ、
の組み合わせである。
【0037】
また、蓋が鉛蓄電池の側部に位置する鉛蓄電池において、囲み部材は、電解液を透過しないスペーサであってもよい。この場合、スペーサは、電槽の側壁および隔壁の少なくとも一方、鉛蓄電池の蓋、ならびに電槽の底と、前記極板群との間に配置されている。
【0038】
蓋が鉛蓄電池の側部に位置する鉛蓄電池において、囲み部材は、下記(a3)と下記(b3)と:
(a3)電槽の側壁、隔壁、および底の少なくともいずれか1つの少なくとも一部、
(b3)電槽の側壁、隔壁、および底の少なくともいずれか1つと極板群との間、ならびに鉛蓄電池の蓋と極板群との間、に配置された電解液を透過しないスペーサ
の組み合わせであってもよい。
【0039】
スペーサの形状は、特に制限されないが、セル室内に安定に配置しやすい観点から、シート状、板状、水平方向の断面がL字状、筒状(角筒状など)またはそれを分割した形状(例えば、水平方向の断面がL字状、水平方向の断面がU字状と板状との組み合わせ)等であることが好ましい。また、スペーサは、電解液を透過しないものであれば、その材質は特に限定されるものではない。スペーサは、例えば、樹脂、ガラスで形成できる。軽量であるとともに、電解液に対する耐性を確保し易い観点から、スペーサは、オレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂などで形成してもよい。また、例えば、比重が電解液よりも低い材料を用いたり、または中空構造としたりしてもよく、これらの双方を採用してもよい。これらの場合、浮力によってスペーサが移動しやすくなるため、電槽に固定することが好ましい。固定方法としては、特に制限されないが、例えば、接着による固定、凹凸を嵌め合わせることによる固定、またはこれらの双方を利用する固定などが挙げられる。
【0040】
極板群の高さをHとするとき、第1隙間は、極板群の底面から0.5H以下の位置まで形成されていてもよい。この場合、電槽内もしくはセル室内の上部は、電解液を豊富に保持できるため、成層化を抑制しながらも、電池反応を良好に進行させることができ、高容量を確保し易くなる。
【0041】
第1隙間は、極板群の底面から0.3H以上または0.4H以上の位置まで形成されていてもよい。これらの場合、成層化を抑制する効果をさらに高めることができる。
【0042】
第1隙間は、極板群の底面から、0.3Hの位置と0.5Hの位置との間まで形成されていることが好ましく、0.4Hの位置と0.5Hの位置との間まで形成されていることがより好ましい。これらの場合、成層化を抑制する効果をさらに高めることができる。また、電槽内もしくはセル室内の上部に電解液を豊富に保持できるため、高容量を確保することができる。
【0043】
なお、極板群の高さHは、上述のように、縦置き型の鉛蓄電池および極板およびセパレータが鉛蓄電池の水平方向に沿って積層された極板群を備える横置き型の鉛蓄電池においては、極板群を構成するセパレータの最下端から最上端までの距離である。極板およびセパレータが鉛蓄電池の鉛直方向に沿って積層された極板群を備える横置き型の鉛蓄電池においては、極板群の高さHは、極板群の積層方向における厚みである。極板群の高さHは、鉛蓄電池から取り出した極板群の任意の3箇所について計測し、平均化することにより求められる。このとき、極板群の高さHは、セパレータを平ら(水平)に広げた状態で計測される。
【0044】
第1隙間の幅は、極板群の四方の周面のうち、少なくとも1つの周面において、第2隙間の幅よりも小さくなっていればよく、2、3、または4つの周面において、第2隙間の幅よりも小さくなっていてもよい。より高い成層化抑制効果を確保する観点からは、第1隙間の幅を、四方の周面のうち2つ以上(より好ましくは3つ以上)の周面において第2隙間の幅よりも小さくすることが好ましく、特に、四方の周面全てにおいて、第2隙間の幅よりも小さくすることが好ましい。
【0045】
以下、本発明に係る鉛蓄電池の実施形態について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0046】
(極板群)
極板群は、正極板と、負極板と、正極板および負極板の間に介在するセパレータとを含む。
【0047】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板は、ペースト式、クラッド式などに分類できる。ペースト式およびクラッド式正極板のいずれを用いてもよい。ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。ペースト式正極板では、正極電極材料は、正極板から正極集電体を除いたものである。正極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工、打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させ易いため好ましい。クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、複数の芯金を連結する集電部と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。クラッド式正極板では、正極電極材料は、チューブ、芯金、集電部、および連座を除いたものである。クラッド式正極板では、芯金と集電部とを合わせて正極集電体と称する場合がある。
【0048】
正極板には、マット、ペースティングペーパーなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材)は正極板と一体として使用されるため、正極板に含まれるものとする。また、正極板がこのような部材を含む場合には、正極電極材料は、ペースト式正極板では、正極板から正極集電体および貼付部材を除いたものである。
【0049】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、表面層を備えていてもよい。組成の異なる鉛合金層(表面層)を有してもよく、合金層は複数でもよい。正極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なるものであってもよい。表面層は、正極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、正極集電体の格子部分のみ、耳部分のみ、または枠骨部分のみに形成されていてもよい。
【0050】
正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、添加剤を含んでもよい。
【0051】
未化成のペースト式正極板は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、および硫酸を混練することで調製される。未化成のクラッド式正極板は、集電部で連結された芯金が挿入された多孔質なチューブに鉛粉またはスラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。その後、これらの未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0052】
(負極板)
鉛蓄電池の負極板は、集電体と、負極電極材料とで構成されている。負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いたものである。なお、負極板には、マット、ペースティングペーパーなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材)は負極板と一体として使用されるため、負極板に含まれるものとする。また、負極板がこのような部材を含む場合には、負極電極材料は、負極集電体および貼付部材を除いたものである。
【0053】
負極集電体は、正極集電体の場合に準じて形成すればよく、例えば、鉛または鉛合金の鋳造、鉛または鉛合金シートの加工により形成することができる。負極集電体として、格子状の集電体(負極格子)を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0054】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。負極集電体は、表面層を備えていてもよい。負極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なるものであってもよい。表面層は、負極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、負極集電体の耳部に形成されていてもよい。耳部の表面層は、SnまたはSn合金を含有するものであってもよい。
【0055】
負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を必須成分として含み、添加剤(有機防縮剤、炭素質材料、硫酸バリウムなど)を含み得る。充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0056】
有機防縮剤には、リグニン類および合成有機防縮剤の少なくとも一方を用いてもよい。リグニン類としては、リグニン、リグニンスルホン酸またはその塩(アルカリ金属塩(ナトリウム塩など)など)などのリグニン誘導体などが挙げられる。合成有機防縮剤は、硫黄元素を含む有機高分子である。合成有機防縮剤としては、例えば、硫黄含有基を有するとともに芳香環を有する化合物のアルデヒド化合物(アルデヒドまたはその縮合物(例えば、ホルムアルデヒド)など)による縮合物が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0057】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、例えば、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上が更に好ましい。一方、1.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。ここで、負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量とは、既化成の満充電状態の鉛蓄電池から、後述の方法で採取した負極電極材料における含有量である。
【0058】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、0.01質量%以上(または0.05質量%以上)1.0質量%以下、あるいは0.01質量%以上(または0.05質量%以上)0.5質量%以下であってもよい。
【0059】
負極電極材料中に含まれる炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを用いることができる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。ファーネスブラックには、ケッチェンブラック(商品名)も含まれる。黒鉛は、黒鉛型の結晶構造を含む炭素材料であればよく、人造黒鉛および天然黒鉛のいずれであってもよい。
【0060】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、例えば0.05質量%以上が好ましく、0.10質量%以上であってもよい。炭素質材料の含有量は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0061】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、0.05質量%以上(または0.10質量%以上)5質量%以下、あるいは0.05質量%以上(または0.10質量%以上)3質量%以下であってもよい。
【0062】
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上であってもよい。負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、3質量%以下が好ましく、2質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0063】
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以上(または0.1質量%以上)3質量%以下、あるいは0.05質量%以上(または0.1質量%以上)2質量%以下であってもよい。
【0064】
以下、負極電極材料に含まれる有機防縮剤、炭素質材料および硫酸バリウムの定量方法について記載する。定量分析に先立ち、満充電状態の鉛蓄電池を解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板を水洗し、負極板から硫酸分を除去する。水洗は、水洗した負極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。水洗した負極板は、減圧環境下、60±5℃で6時間程度乾燥する。乾燥後に、負極板に貼付部材が含まれる場合には、剥離により負極板から貼付部材が除去される。次に、負極板から負極電極材料を分離することにより試料(以下、試料Aと称する)を得る。試料Aは、必要に応じて粉砕され、分析に供される。
【0065】
《有機防縮剤の定量》
粉砕された試料Aを1mol/LのNaOH水溶液に浸漬し、有機防縮剤を抽出する。抽出された有機防縮剤を含むNaOH水溶液から不溶成分を濾過で除く。得られた濾液(以下、濾液Bとも称する。)を脱塩した後、濃縮し、乾燥すれば、有機防縮剤の粉末(以下、試料Cとも称する。)が得られる。脱塩は、脱塩カラムを用いて行うか、濾液Bをイオン交換膜に通すことにより行うか、もしくは、濾液Bを透析チューブに入れて蒸留水中に浸すことにより行われる。
【0066】
試料Cの赤外分光スペクトル、試料Cを蒸留水等に溶解して得られる溶液の紫外可視吸収スペクトル、試料Cを重水等の溶媒に溶解して得られる溶液のNMRスペクトル、または物質を構成している個々の化合物の情報を得ることができる熱分解GC-MSなどから得た情報を組み合わせて、有機防縮剤を特定する。
【0067】
上記濾液Bの紫外可視吸収スペクトルを測定する。スペクトル強度と予め作成した検量線とを用いて、負極電極材料中の有機防縮剤の含有量を定量する。分析対象の有機防縮剤の構造式の厳密な特定ができず、同一の有機防縮剤の検量線を使用できない場合は、分析対象の有機防縮剤と類似の紫外可視吸収スペクトル、赤外分光スペクトル、NMRスペクトルなどを示す、入手可能な有機防縮剤を使用して検量線を作成する。
【0068】
《炭素質材料と硫酸バリウムの定量》
粉砕された試料A10gに対し、20質量%濃度の硝酸を50mL加え、約20分加熱し、鉛成分を硝酸鉛として溶解させる。次に、得られた硝酸鉛を含む溶液を濾過して、炭素質材料、硫酸バリウム等の固形分を濾別する。
【0069】
得られた固形分を水中に分散させて分散液とした後、篩いを用いて分散液から炭素質材料および硫酸バリウム以外の成分(例えば補強材)を除去する。次に、分散液に対し、予め質量を測定したメンブレンフィルターを用いて吸引ろ過を施し、濾別された試料とともにメンブレンフィルターを110℃±5℃の乾燥器で乾燥する。得られる試料は、炭素質材料と硫酸バリウムとの混合試料(以下、試料Dとも称する)である。乾燥後の試料Dとメンブレンフィルターとの合計質量からメンブレンフィルターの質量を差し引いて、試料Dの質量(M)を測定する。その後、乾燥後の試料Dをメンブレンフィルターとともに坩堝に入れ、700℃以上で灼熱灰化させる。残った残渣は酸化バリウムである。酸化バリウムの質量を硫酸バリウムの質量に変換して硫酸バリウムの質量(M)を求める。質量Mから質量Mを差し引いて炭素質材料の質量を算出する。
【0070】
負極板は、負極集電体に、負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉と各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成工程では、室温、もしくはより高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0071】
化成は、鉛蓄電池のセル内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0072】
(セパレータ)
負極板と正極板との間に配置されるセパレータには、不織布、微多孔膜などが用いられる。負極板と正極板との間に介在させるセパレータの厚さは、極間距離に応じて選択すればよい。セパレータの枚数は、極間数に応じて選択すればよい。
【0073】
不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。不織布は、例えば、不織布の60質量%以上が繊維で形成されている。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維など)など)、パルプ繊維などを用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。不織布は、繊維以外の成分、例えば、耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーを含んでもよい。
【0074】
一方、微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤(ポリマー粉末およびオイルの少なくとも一方など)を含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、耐酸性を有する材料で構成することが好ましく、ポリマー成分を主体とするものが好ましい。ポリマー成分としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)が好ましい。
【0075】
セパレータは、例えば、不織布のみで構成してもよく、微多孔膜のみで構成してもよい。また、セパレータは、必要に応じて、不織布と微多孔膜との積層物、異種または同種の素材を貼り合わせた物、または異種または同種の素材において凹凸をかみ合わせた物などであってもよい。セパレータは、シート状であってもよく、袋状に形成されていてもよい。袋状のセパレータを用いる場合、袋状のセパレータが正極板を収容していてもよいし、負極板を収容してもよい。
【0076】
シート状のセパレータを用いる場合、正極板と負極板との間に1枚のシート状のセパレータを挟むように配置してもよい。また、折り曲げた状態の1枚のシート状のセパレータで極板を挟むように配置してもよい。この場合、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ正極板と、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ負極板とを重ねてもよく、正極板および負極板の一方を折り曲げたシート状のセパレータで挟み、他方の極板と重ねてもよい。また、シート状のセパレータを蛇腹状に折り曲げ、正極板および負極板を、これらの間にセパレータが介在するように、蛇腹状のセパレータに挟み込んでもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータを用いる場合、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が水平方向と平行になるように)セパレータを配置してもよく、鉛直方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が鉛直方向と平行になるように)セパレータを配置してもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータでは、セパレータの両方の主面側に交互に凹部が形成されることになる。正極板や負極板の上部には通常耳部が形成されているため、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うようにセパレータを配置する場合、セパレータの一方の主面側の凹部のみに正極板および負極板が配置される(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、二重のセパレータが介在した状態となる)。折り曲げ部が鉛蓄電池の鉛直方向に沿うようにセパレータを配置する場合、一方の主面側の凹部に正極板を収容し、他方の主面側の凹部に負極板を収容することができる(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、セパレータが一重に介在した状態とすることができる。)。
【0077】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。
電解液は、必要に応じて、カチオン(例えば、金属カチオン(ナトリウムイオン、リチウムイオン、マグネシウムイオン、およびアルミニウムイオンから選択される少なくとも一種など)、およびアニオン(例えば、硫酸アニオン以外のアニオン(リン酸イオンなど))を含んでいてもよい。
【0078】
満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば1.20以上であり、1.25以上であってもよい。満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.35以下であり、1.32以下であってもよい。
【0079】
満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば1.20以上1.35以下であり、1.25以上1.32以下であることが好ましい。
【0080】
図1Aは、本発明の本実施形態に係る鉛蓄電池の内部構造を概略的に示す斜視図である。図1Bは、図1Aの鉛蓄電池をIB-IB線にて切断し、セル室内を矢印方向に見たときの断面図を模式的に示している。図1Cは、図1Aの鉛蓄電池をIC-IC線にて切断し、セル室内を矢印方向に見たときの断面図を模式的に示している。なお、図1Bおよび図1Cにおいては、説明の便宜上、後述する負極ストラップ部、負極柱、正極ストラップ部および正極柱を省略している。図1Dは、図1Aの鉛蓄電池の1つのセルについて、セルの頂部側の部分の所定位置から底部に向かって鉛直方向Zにセル室内を見たときの模式的な断面と、面積S0および投影面積S1を説明するための模式図である。
【0081】
図1Aに示されるように、鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽10を具備する。電槽10は、側壁12を備えている。電槽10内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽10の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室14毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0082】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータ4の形態は特に限定されない。電槽10の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極ストラップ部6がセル間接続部8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極ストラップ部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽10の他方の端部に位置するセル室14では、負極ストラップ部6に負極柱9が接続され、正極ストラップ部5にセル間接続部8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々のセル間接続部8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0083】
図1A図1Dには、液式電池(ベント型電池)の例を示したが、鉛蓄電池は、制御弁式電池(VRLA型)を排除するものではない。
【0084】
以下、異なる実施形態であっても、同一の構成については同じ参照符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0085】
以下の実施形態は、縦置き型の鉛蓄電池の例である。
(第1実施形態)
本実施形態に係る鉛蓄電池1においては、極板群11の底部11b側の周面11aに対向し、かつ電解液を透過しない囲み部材19が配置される。極板群11の底部11b側の周面11aと、囲み部材19との間に、第1隙間20が形成されている(図1Bを参照)。そして、極板群11の鉛直方向への投影面積S1の、囲み部材19の鉛直方向への投影像で囲まれる面積S0に対する比率(S1/S0)(図1Dを参照)は0.90以上である。なお、S1およびS0は、上述のように、それぞれ、4つの断面試料について求められる値の平均値として求められる。図1Dでは、便宜上、1つの断面試料における極板群11の鉛直方向への投影面積および囲み部材19の鉛直方向への投影像で囲まれる面積を、それぞれ、S1およびS0として示す。
【0086】
本実施形態に係る鉛蓄電池1では、図1Bに示されるように、セル室14の側壁の底部側の部分12aが囲み部材19aを兼ねている。すなわち、セル室14の側壁の底部側の部分12aは、他の部分(側壁12の底部側以外の部分)12bよりも厚く形成されており、側壁の底部側の部分12a(囲み部材19a)が極板群11の周面11aに向かって突き出している。
【0087】
また、鉛蓄電池1では、図1Cに示されるようにセル室14の隔壁13が囲み部材19bを兼ねている。すなわち、セル室14の隔壁13の底部側の部分13aは、他の部分(隔壁13の底部側以外の部分)13bよりも厚く形成されており、隔壁13の底部側の部分13b(囲み部材19b)が極板群11の周面11aに向かって突き出している。本実施形態に係る鉛蓄電池1では、側壁の底部側の部分12aおよび隔壁13の底部側の部分13a以外には、別途囲み部材を必要としない。
【0088】
図1Bおよび図1Cに示されるように、極板群11の高さをHとするとき、側壁および隔壁13の厚く形成されている部分(囲み部材19aおよび19b)は、極板群11の底面から概ね0.5H以下の位置まで形成されている。これにより、第1隙間20は、極板群11の底面から概ね0.5H以下の位置まで形成されている。より好ましくは、側壁および隔壁13の厚く形成されている底部側の部分12aおよび13a(囲み部材19aおよび19b)は、極板群11の底面から0.4Hの位置と0.5Hの位置との間まで形成されている。
【0089】
また、第1隙間20の幅は、図1Bおよび図1Cに示されるように、極板群11の頂部11c側に形成される第2隙間21の幅に比べて小さい。
【0090】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について、図2を参照して説明する。図2は、本発明の他の実施形態に係る鉛蓄電池のセル室内を、図1Bの場合に準じて(つまり、鉛蓄電池を図1AにおけるIB-IB線にて切断し矢印方向に見たときのように)、極板群の積層方向に見たときの断面模式図である。本実施形態に係る鉛蓄電池1では、囲み部材が、電槽が具備する側壁12および隔壁13の少なくとも一方と極板群11との間に配置された電解液を透過しないスペーサ22である。なお、図2では、囲み部材が、電槽が具備する側壁12の底部側の部分12aと極板群11との間に配置された電解液を透過しないスペーサ22である例を示している。図2に示されるように、スペーサ22は、極板群11の底部11b側の周面11aを囲むように配置されている。これにより、極板群11の周面11aとスペーサ22との間に、第2隙間21の幅に比べて小さい幅を有する第1隙間20が形成されている。
【0091】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について、図3を参照して説明する。図3は、本発明のさらに他の実施形態に係る鉛蓄電池の1つのセルについて、セルの頂部側の部分の所定位置から底部に向かって鉛直方向Zにセル室内を見たときの概略模式図である。図3では、極板群11の内部構造を省略している。スペーサ19は、セルの互いに対向する一対の側壁12の底部側の部分12aと、互いに対向する一対の隔壁13と極板群11との間に配された一対のスペーサ23とで構成されている。
【0092】
図3では、囲み部材19が、電槽が具備する側壁12と電解液を透過しないスペーサ23との組み合わせである例を示している。しかし、第3実施形態は、この組み合わせに限らず、囲み部材は、電槽が具備する側壁および隔壁の少なくとも一方と、電解液を透過しないスペーサとの組み合わせにより構成すればよい。例えば、囲み部材は、互いに対向する一対の隔壁と、互いに対向する一対の側壁と極板群との間に配された一対のスペーサとの組み合わせであってもよい。なお、電槽の両端のセルは、互いに対向する一対の側壁(第1側壁)と、隔壁とこの隔壁に対向する側壁(第2側壁)とを備えている。この場合において、囲み部材は、一対の第1側壁と隔壁および第2側壁と極板群との間に配された一対のスペーサとの組み合わせであってもよい。また、囲み部材は、一対の第1側壁と極板群との間に配された一対のスペーサと、隔壁と、第2側壁との組み合わせであってもよい。
【0093】
スペーサは、必ずしも対向する位置に配する必要はなく、側壁とこの側壁に隣接する隔壁とに沿ってスペーサを配してもよく、対向する一対の側壁とこれらの側壁間に位置する隔壁とに沿ってスペーサを配してもよい。
【0094】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池を以下にまとめて記載する。
【0095】
(1)極板群と、電解液と、前記極板群の底部側の周面に対向し、かつ前記電解液を透過しない囲み部材と、を備え、
前記極板群の前記底部側の周面と、前記囲み部材との間に、第1隙間が形成されており、
前記囲み部材の鉛直方向への投影像で囲まれる面積S0に対する、前記極板群の鉛直方向への投影面積S1の比率(=S1/S0)が0.90以上である、鉛蓄電池。
【0096】
(2)上記(1)において、前記囲み部材は、前記極板群および前記電解液を収容する電槽の側壁および隔壁の少なくとも一方の一部であってもよい。
【0097】
(3)上記(1)において、前記囲み部材は、前記極板群および前記電解液を収容する電槽の側壁および隔壁の少なくとも一方と前記極板群との間に配置された前記電解液を透過しないスペーサであってもよい。
【0098】
(4)上記(1)において、前記囲み部材は、(a)前記極板群および前記電解液を収容する電槽の側壁および隔壁の少なくとも一方の一部と、(b)前記電槽の側壁および隔壁の少なくとも一方と前記極板群との間に配置された前記電解液を透過しないスペーサと、の組み合わせであってもよい。
【0099】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つにおいて、前記第1隙間の幅は、前記極板群の頂部側の周面と、前記電槽の側壁および隔壁の少なくとも一方との間に形成される第2隙間の幅に比べて小さくてもよい。
【0100】
(6)上記(1)において、前記囲み部材は、下記(a2)および下記(b2):
(a2)前記極板群および前記電解液を収容する電槽の側壁および隔壁の少なくとも一方の少なくとも一部ならびに前記電槽の底の一部、
(b2)前記鉛蓄電池の蓋と前記極板群との間に配置された前記電解液を透過しないスペーサ、
の組み合わせであってもよい。
【0101】
(7)上記(1)において、前記囲み部材は、前記電解液を透過しないスペーサであり、
前記スペーサは、前記極板群および前記電解液を収容する電槽の側壁および隔壁の少なくとも一方、前記鉛蓄電池の蓋、ならびに前記電槽の底と、前記極板群との間に配置されていてもよい。
【0102】
(8)上記(1)において、前記囲み部材は、下記(a3)と下記(b3)と:
(a3)前記極板群および前記電解液を収容する電槽の側壁、隔壁、および底の少なくともいずれか1つの少なくとも一部、
(b3)前記極板群および前記電解液を収容する電槽の側壁、隔壁、および底の少なくともいずれか1つと前記極板群との間、ならびに前記鉛蓄電池の蓋と前記極板群との間、に配置された前記電解液を透過しないスペーサ
の組み合わせであってもよい。
【0103】
(9)上記(6)~(8)のいずれか1つにおいて、前記第1隙間の幅は、前記電槽の側壁および隔壁の少なくとも一方、前記鉛蓄電池の蓋、ならびに前記電槽の底と、前記極板群の頂部側の周面との間に形成される第2隙間の幅に比べて小さくてもよい。
【0104】
(10)上記(5)または(9)において、前記極板群の四方の周面のうち、少なくとも1つの周面において、前記第1の隙間の幅が前記第2の隙間の幅に比べ小さくてもよい。
【0105】
(11)上記(5)、(9)、および(10)のいずれか1つにおいて、前記極板群の四方の周面のうち、2つ以上(または3つ以上)の周面または4つの周面において、前記第1の隙間の幅が前記第2隙間の幅に比べて小さくてもよい。
【0106】
(12)上記(5)、および(9)~(11)のいずれか1つにおいて、前記極板群の高さをHとするとき、前記第1隙間は、前記極板群の底面から0.5H以下の位置まで形成されていてもよい。
【0107】
(13)上記(5)、および(9)~(12)のいずれか1つにおいて、前記極板群の高さをHとするとき、前記第1隙間は、前記極板群の底面から0.3H以上、または0.4H以上の位置まで形成されていてもよい。
【0108】
(14)上記(5)、および(9)~(13)のいずれか1つにおいて、前記第1隙間は、前記極板群の前記底面から、0.3Hの位置と0.5Hの位置との間まで形成されていてもよく、0.4Hの位置と0.5Hの位置との間まで形成されていてもよい。
【0109】
(15)上記(1)~(14)のいずれか1つにおいて、S1/S0は、0.92以上、0.94以上、または0.95以上であってもよい。
【0110】
(16)上記(1)~(15)のいずれか1つにおいて、S1/S0は、1未満、0.99以下、0.98以下、0.94以下、または0.92以下であってもよい
【0111】
(17)上記(1)~(16)のいずれか1つにおいて、前記極板群は、負極電極材料を含む負極板を含んでもよい。
【0112】
(18)上記(17)において、前記負極電極材料は、有機防縮剤を含んでもよい。
【0113】
(19)上記(18)において、前記負極電極材料中に含まれる前記有機防縮剤の含有量は、0.01質量%以上、または0.05質量%以上であってもよい。
【0114】
(20)上記(18)または(19)において、前記負極電極材料中に含まれる前記有機防縮剤の含有量は、1.0質量%以下、または0.5質量%以下であってもよい。
【0115】
(21)上記(17)~(20)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料は、炭素質材料を含んでもよい。
【0116】
(22)上記(21)において、前記負極電極材料中の前記炭素質材料の含有量は、0.05質量%以上、または0.10質量%以上であってもよい。
【0117】
(23)上記(21)または(22)において、前記負極電極材料中の前記炭素質材料の含有量は、5質量%以下、または3質量%以下であってもよい。
【0118】
(24)上記(17)~(23)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料は、硫酸バリウムを含んでもよい。
【0119】
(25)上記(24)において、前記負極電極材料中の前記硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以上、または0.1質量%以上であってもよい。
【0120】
(26)上記(24)または(25)において、前記負極電極材料中の前記硫酸バリウムの含有量は、3質量%以下、または2質量%以下であってもよい。
【0121】
(27)上記(1)~(26)のいずれか1つにおいて、満充電状態の前記鉛蓄電池における前記電解液の20℃における比重は、1.20以上、または1.25以上であってもよい。
【0122】
(28)上記(1)~(27)のいずれか1つにおいて、満充電状態の前記鉛蓄電池における前記電解液の20℃における比重は、1.35以下、または1.32以下であってもよい。
【0123】
[実施例]
以下、本発明を、実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0124】
《鉛蓄電池A1》
(1)鉛蓄電池の準備
(a)負極板の作製
原料の鉛粉と、硫酸バリウムと、カーボンブラックと、有機防縮剤とを、適量の硫酸水溶液と混合して、負極ペーストを得る。負極ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の負極板を得る。
【0125】
(b)正極板の作製
原料の鉛粉を硫酸水溶液と混合して、正極ペーストを得る。正極ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の正極板を得る。
【0126】
(c)セパレータ
セパレータには、微多孔膜を2つ折にし、折り目と交わる2辺を圧着して作製した袋状セパレータを用いる。微多孔膜は、ポリエチレン粉末、シリカ粉末およびオイルを含む組成物をシート状に押し出し成形した後、オイルを抽出して細孔を形成することで得られるものを用いる。
【0127】
(d)鉛蓄電池の作製
負極板を袋状セパレータに収容する。負極板6枚と正極板6枚とで極板群を形成する。
【0128】
極板群をポリプロピレン製の電槽に電解液とともに収容して、鉛蓄電池を組み立てる。鉛蓄電池では、既述の手順で求められるS1/S0比が表1の値となるように、囲み部材を形成する。本鉛蓄電池の作製においては、具体的に、電槽の側壁および隔壁の少なくとも一方の底部側を、内側に向かって張り出すように他の部分よりも厚く形成することで第1隙間を形成する。より具体的には、底部側の側壁および隔壁の少なくとも一方が極板群の周面に向かって2mm突き出すように底部側の側壁および隔壁の少なくとも一方の厚みを大きくする。極板群の高さをHとするとき、第1隙間の高さは、極板群の底面から0.5Hとする。組み立て後の電池に化成を施し、液式の自動車用の鉛蓄電池(55B20)A1を完成させる。鉛蓄電池A1の出力は12Vで、定格5時間率容量は30Ahである。化成後の電解液の20℃における比重は1.28である。化成後の負極電極材料には、0.5質量%のBaSO、0.2質量%のカーボンブラック、および0.2質量%の有機防縮剤が含まれる。
【0129】
(2)評価
(a)鉛蓄電池のサイクル寿命試験
鉛蓄電池を用いて、40℃±0.5℃の恒温槽の中で、5時間率電流で放電を1時間行い、制限電流を5時間率電流とした2.467V/セルの定電圧定電流充電を2時間行う。この放電および充電のサイクルを繰り返す。放電時の電圧が1.7V/セルを下回る時点を寿命とし、それまでのサイクル数を「寿命サイクル数」とする。
【0130】
(b)成層化評価試験
上記鉛蓄電池のサイクル寿命試験において、電池蓋の2箇所の位置に予め穴をあけ、これらの穴に所定の長さの耐酸性を有するポリエチレン製の樹脂チューブを取り付け、電解液を採取できるようにする。樹脂チューブの長さは、電槽の内側の底面から0mmおよび120mmの2箇所の高さから電解液を採取できる長さとする。100サイクル後の電池から0mmおよび120mmの高さの電解液をそれぞれ樹脂チューブで採取し、電解液の比重を測定し、その比重差を「100サイクル時比重差」とする。
【0131】
《鉛蓄電池A2》
囲み部材として、電槽の側壁および隔壁の少なくとも一方と極板群との間に電解液を透過しないポリプロピレン製の角筒状のスペーサを配置することで、第1隙間を形成する。スペーサは、極板群の底部側に極板群の周面を囲むように配置する。S1/S0比の値が表1の値となるようにスペーサの厚みを調節する。上記以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池A2を作製し、評価する。
【0132】
《鉛蓄電池A3~A5およびB1~B3》
表1に示すS1/S0の値になるように、底部側の側壁および隔壁の少なくとも一方の厚さを変更して第1隙間の幅を制御する以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池A3~A5およびB1~B3を作製し、評価する。
評価結果を表1に示す。表1には、各鉛蓄電池における囲み部材およびS1/S0比についても合わせて示す。寿命サイクルについては、鉛蓄電池B3の寿命サイクル数を100(%)としたときの比率(%)で示す。
【0133】
【表1】
【0134】
表1に示されるように、S1/S0が0.90以上の鉛蓄電池A1~A5では、S1/S0が0.90未満の鉛蓄電池B1~B3に比べて100サイクル時比重差が、大きく低下しており、成層化が顕著に抑制されている。また、鉛蓄電池A1~A5では、B1~B3に比べて寿命サイクルが向上している。これは、成層化が抑制されることで、鉛蓄電池の耐久性が向上したためと考えられる。また、鉛蓄電池A1~A5では、囲み部材が、電槽の側壁または隔壁であっても、スペーサであっても、何れの場合でも優れた結果が得られた。これらの結果は、第1隙間の制御(つまり、S1/S0比の制御)が成層化の進行程度または鉛蓄電池の耐久性に極めて大きな影響を与えることを示している。
【0135】
《鉛蓄電池A6~A8およびB4》
第1隙間の高さを、表2に示すように変更する以外、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池A6~A8およびB4を作製し、評価を行う。
鉛蓄電池A6~A8およびB4の結果を鉛蓄電池A1およびB3の結果とともに表2に示す。表2には、S1/S0比および第1隙間の高さ比も合わせて示す。なお、寿命サイクルは、鉛蓄電池B3の寿命サイクル数を100%としたときの比率(%)で示す。
【0136】
【表2】
【0137】
表2に示されるように、S1/S0が0.90以上で、第1隙間の高さを極板群の高さHの0.5H以下である場合には、いずれの場合も、鉛蓄電池B3に比べて成層化が抑制されており、優れた寿命サイクルが得られる。第1隙間の高さが0.5Hを超えると電解液量が少なくなることによる影響が大きくなり易く、容量が低下することがある。また、第1隙間の高さを0.5Hより大きくしても、成層化の抑制効果はそれほど大きくならない。そのため、成層化抑制効果が高く、高容量を確保し易い観点からは、第1隙間の高さを0.5H以下とすることが好ましい。また、より高い成層化抑制効果が得られる観点からは、第1隙間の高さを0.3H以上とすることが好ましく、0.4H以上とすることがより好ましい。
【0138】
本発明を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本発明に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、すべての変形および改変を包含する、と解釈されるべきものである。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、例えば液式の鉛蓄電池に適用可能である。鉛蓄電池は、車両(自動車、バイクなど)の始動用電源、産業用蓄電装置などの電源(電動車両(フォークリフトなど)など)として好適に利用できる。なお、これらの用途は単なる例示であり、これらの用途に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0140】
1:鉛蓄電池、2:負極板、3:正極板、4:セパレータ、5:正極ストラップ部、6:負極ストラップ部、7:正極柱、8:セル間接続部、9:負極柱、10:電槽、11:極板群、11a:極板群の周面、11b:極板群の底部、11c:極板群の頂部、12:側壁、12a:側壁の底部側の部分、12b:側壁の底部側以外の部分、13:隔壁、13a:隔壁の底部側の部分、13b:隔壁の底部側以外の部分、14:セル室、14a:側壁、14b:その他の部分、15:蓋、16:負極端子、17:正極端子、18:液口栓、19,19a,19b:囲み部材、20:第1隙間、21:第2隙間、22,23:スペーサ
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3