(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】ホスホリルコリン基含有ビニル系単量体
(51)【国際特許分類】
C08F 30/02 20060101AFI20240123BHJP
C07F 9/113 20060101ALI20240123BHJP
G02C 7/04 20060101ALN20240123BHJP
【FI】
C08F30/02
C07F9/113
G02C7/04
(21)【出願番号】P 2021514921
(86)(22)【出願日】2020-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2020016110
(87)【国際公開番号】W WO2020213524
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2019076788
(32)【優先日】2019-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】岩切 規郎
(72)【発明者】
【氏名】高島 柊
(72)【発明者】
【氏名】松岡 陽介
(72)【発明者】
【氏名】原田 英治
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-249148(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0139337(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0139338(KR,A)
【文献】Joel M. SARAPASet al.,“Thiol-Ene Step-Growth as a Versatile Route toFunctional Polymers”,Angewandte Chemie InternationalEdition,2016年11月22日,Vol. 55, No. 51,p.15860-15863,DOI: 10.1002/anie.201609023
【文献】Young H. LIM etal.,“Development of a Vinyl Ether-FunctionalizedPolyphosphoester as a Template for Multiple Postpolymerization ConjugationChemistries and Study of Core Degradable Polymeric Nanoparticles”,Macromolecules,2014年07月02日,Vol. 47, No. 14,p.4634-4644,DOI: 10.1021/ma402480a
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 30/02
C07F 9/113
G02C 7/04
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1
b)で表されるホスホリルコリン基含有ビニル系単量体。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載の単量体に由来する構成単位を含む共重合体。
【請求項3】
請求項2に記載の共重合体からなるハイドロゲル。
【請求項4】
請求項3に記載のハイドロゲルからなる眼科デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスホリルコリン基含有ビニル系単量体に関する。本発明の化合物は、生体組織と接触するような医療機器に有用であり、特に、眼科デバイス、例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズ、及び人工角膜を製造するための化合物として有用である。
【背景技術】
【0002】
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)は、細胞膜を構成するリン脂質と同じ構造を有しているため、生体親和性、高潤滑特性、低摩擦特性、タンパク吸着抑制、細胞接着抑制、及び細菌付着抑制等の様々な優れた特性を有し、コンタクトレンズ、カテーテル、及び人工関節等の医療機器や、ウェルプレート等の検査用医療機器や診断用医療機器等、多くの医療機器の表面へ応用されている。
具体的には、親水性の向上と防タンパク汚染性を付与する目的で、MPCを重合性モノマーとして利用したソフトコンタクトレンズが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、コンタクトレンズを装用した場合には、大気からの酸素の供給量が低下し、角膜上皮細胞の分裂抑制や角膜肥厚につながることが臨床結果より指摘されている。そこで、より安全性の高いコンタクトレンズを供給するために、素材の酸素透過性の改良が試みられている。具体的には、レンズ材料成分の一つとしてシリコーンモノマーやシロキサンマクロモノマーを含むシリコーンハイドロゲルが開発、製品化されている。
しかし、シリコーンハイドロゲルを用いたコンタクトレンズは疎水性のシリコーン基を含んでおり、レンズ表面を親水化することが困難であるという課題を抱えている。そこで、シリコーンハイドロゲルを用いたコンタクトレンズの表面の疎水性を改善することを目的として、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA)、N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)、N-メチル-N-ビニルアセトアミド(MVA)等の親水性モノマーを用いる方法が提案されている。しかしながら、このような親水性モノマーを使用しても、レンズ表面の親水性は十分とは言えない。
【0004】
これに対して、モノマー組成物にポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマー湿潤剤を添加し、該組成物を重合させてシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズを得る方法が知られている。しかしながら、湿潤剤は重合体に架橋されていないため、重合後のアルコール抽出工程やレンズ装用期間中にレンズから溶出し、レンズ表面の親水性が低下し装用感が悪化する懸念がある。
【0005】
これらの問題を解決する方法として、MPCを配合したシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズを開発することができれば酸素透過性と表面水濡れ性等に非常に優れたソフトコンタクトレンズの製造が可能になる。しかし、MPCはシリコーンモノマーとの相溶性が悪く、例えば、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)等に溶解した後、シリコーンモノマーと混合して共重合させると、得られる含水ゲルが白化(相分離)して、レンズ素材としての透明性を得ることが困難であった。
しかしながら、特許文献2では、MPCを可溶化できるシロキサンモノマーが提案されており、レンズの透明性、表面の親水性及び酸素透過性の点で良好な結果が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-107511号公報
【文献】国際公開第2010/104000号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コンタクトレンズは、一般的に、低含水レンズであると眼が乾きにくいといわれている。特許文献2に記載のレンズは含水率がやや高めであるため、装用者によっては眼の乾燥を感じる場合もあると考えられることから改良の余地があった。
【0008】
本発明は前記従来の課題を鑑みてなされたものであって、表面の親水性を維持しつつ、含水率を低く抑えたハイドロゲルの原料として有用な、ホスホリルコリン基含有ビニル系単量体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、下記式(1b)で示される化合物を合成し、これを原料モノマーの1つとして重合することにより、低含水かつ親水性が良好なハイドロゲルが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明は以下を要旨とするものである。
[1]下記の式(1b)で表されるホスホリルコリン基含有ビニル系単量体。
【0010】
【化1】
[2][1]に記載の単量体に由来する構成単位を含む共重合体。
[3][2]に記載の共重合体からなるハイドロゲル。
[4][3]に記載のハイドロゲルからなる眼科デバイス。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表面の親水性を維持しつつ、含水率を低く抑えたハイドロゲルの原料として有用な、ホスホリルコリン基含有ビニル系単量体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明のホスホリルコリン基含有ビニル系単量体は、下記式(1)で表される、ビニル基とホスホリルコリン基とを併せ持つ構造を有する。
【0013】
【化2】
式(1)において、Rは炭素数1~6のアルキレン基を示し、nは1~6の整数を示す。
Rで表される炭素数1~6のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、各種プロピレン基、各種ブチレン基、各種ペンチレン基、各種ヘキシレン基等が挙げられる。ここで、各種とは、各アルキレン基の各種異性体を意味する。
式(1)で表される化合物としては、表面の親水性を維持しつつ、含水率が低いハイドロゲルを得る観点から、Rの炭素数が1~4、nが1~4の化合物が好ましく、Rの炭素数が3~4、nが1~2の化合物がより好ましい。
【0014】
本発明のホスホリルコリン基含有ビニル系単量体を製造するには、例えば、式(2)で表される化合物を、式(3)で表される2-クロロ-2-オキソ-1,3,2-ジオキソホスホラン(COP)と反応(第一反応)させ、式(4)で表されるジオキサホスホラン化合物を得た後、トリメチルアミンを加え開環付加反応(第二反応)させることにより行うことができる。式(2)及び(4)において、Rは炭素数1~6のアルキレン基を示し、nは1~6の整数を示す。
【0015】
【0016】
上記第一反応では、発生する塩化水素をジイソプロピルアミン、トリエチルアミン等のアミンの存在下でトラップするか、不活性化ガスを反応系内に吹き込みつつ、塩化水素を系外に取り除きながら実施することが好ましい。
式(2)で表される化合物と、式(3)で表される2-クロロ-2-オキソ-1,3,2-ジオキソホスホラン(COP)との仕込みモル比は、1:0.8~1:4が好ましく、1:1~1:3がより好ましい。
式(3)で表される2-クロロ-2-オキソ-1,3,2-ジオキソホスホラン(COP)と、ジイソプロピルアミン及びトリエチルアミン等のアミンとの仕込みモル比は、1:1~1:20が好ましく、1:1~1:5がより好ましい。
【0017】
第一反応により得られる式(4)で表されるジオキサホスホラン化合物は、そのまま、あるいは単離・精製し、次の第二反応に供することができる。
第二反応において、式(4)で表されるジオキサホスホラン化合物とトリメチルアミンとの仕込みモル比は、1:1~1:5が好ましく、1:1~1:3がより好ましい。
【0018】
第一反応及び第二反応のそれぞれは、例えば、アセトニトリル、酢酸エチル等の適当な溶媒中で、-20℃~80℃で実施することが好ましい。第一反応は-10~10℃がより好ましく、第二反応は60~80℃がより好ましい。
反応終了後は、抽出、蒸留、再結晶、再沈殿、吸着剤処理、カラム処理、イオン交換、ゲル濾過等の方法により目的のホスホリルコリン基含有ビニル系単量体を単離・精製することができる。
【0019】
本発明の共重合体は、ホスホリルコリン基含有ビニル系単量体に由来する構成単位を含む共重合体であり、本発明のハイドロゲルは、本発明の共重合体からなるものである。本発明の共重合体は、例えば、本発明のホスホリルコリン基含有ビニル系単量体及び眼用シリコーンモノマーを含む単量体組成物を重合させることにより得ることができる。ここで、シリコーンモノマーとしては、少なくとも1つのSi-O-Si結合、及び重合性基を有するモノマーが挙げられ、重合性基としては、(メタ)アクリレート基、ビニル基などが挙げられる。
前記単量体組成物において、本発明のホスホリルコリン基含有ビニル系単量体の含有割合は、モノマー成分全量基準で、好ましくは2~50質量%、より好ましくは5~30質量%である。ホスホリルコリン基含有ビニル系単量体の含有割合が、2質量%未満では、ホスホリルコリン基に基づく所望の効果が得られ難く、また、50質量%を超えると、含有割合に比して所望の効果の向上がそれほど大きくならなくなる。
シリコーンモノマーの含有割合は、モノマー成分全量基準で、好ましくは20~70質量%、より好ましくは30~60質量%である。シリコーンモノマーの含有割合が、20%未満では、シリコーンモノマー基づく所望の効果が得られ難く、70質量%以上ではハイドロゲルの親水性が得られ難い。
【0020】
該眼用シリコーンモノマーとして、例えばトリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート、2-(メタクリロイルオキシ)エチル=3-[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピル=スクシナート、(メタ)アクリルポリジメチルシロキサン、(メタ)アクリルポリメチルシロキサン、メチルジ(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセロールメタクリレートが好ましく挙げられる。
【0021】
前記単量体組成物には、必要に応じて、親水性の他のモノマーを含有させることもできる。他のモノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)クリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリロイルオキシホスホン酸、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等のイオン性基含有単量体;(メタ)アクリルアミド、アミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-アクリロイルモルホリン、N-アクリロイルモルホリン、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、N-ビニルピロリドン等の含窒素単量体;ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
前記単量体組成物には、架橋剤モノマーとして多官能化合物を含有させることもできる。例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0022】
前記単量体組成物には、更に別のモノマーを含有させることもできる。該別のモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐アルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の環状アルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等の疎水性ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;スチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン系単量体等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0023】
前記単量体組成物には、必要に応じて溶媒を含有させることもできる。溶媒としては重合条件下で反応しないものが使用でき、例えば、水、エチルアルコール、プロピルアルコール、アミルアルコール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、クロロホルム等の塩素系溶剤、又はこれらの2種以上の適当な混合溶媒等が挙げられる。
【0024】
本発明の単量体と上記他の重合性モノマーとの共重合は従来公知の方法により行えばよい。例えば、熱重合開始剤や光重合開始剤等既知の重合開始剤を使用して行うことができる。該重合開始剤としては、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、アゾビスジメチルバレロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン等があげられる。これら重合開始剤は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
本発明の眼科デバイスは本発明のハイドロゲルからなるものであり、眼科デバイスとしては、例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズ、及び人工角膜等が挙げられる。
眼科デバイスとして、例えばコンタクトレンズを製造する場合、前記単量体組成物の重合は、例えば、熱重合、光重合、モールド重合等の任意の重合方法を利用して、公知の方法に準じて行うことができる。
コンタクトレンズの製造においては、任意の条件で滅菌することができ、例えば、コンタクトレンズをパッケージした後に、80℃~140℃で加熱滅菌することが望ましい。
【0026】
コンタクトレンズの含水率は、コンタクトレンズに対して30質量%以上、40質量%未満であることが好ましく、32~39質量%がより好ましい。含水率が30質量%未満ではコンタクトレンズの親水性が得られ難く、40%以上では乾燥感の低減が得られない懸念がある。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例における各種測定は、以下に示す方法により実施した。
1H-NMR(プロトン核磁気共鳴)スペクトルは、日本電子社製JNM-ECS400型を用いて測定した。
測定は、溶媒に重水を用いて、水のピーク(4.79ppm)を内部標準とした。
液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)測定は、e2695/SQ-Detector2(日本ウォータズ社製)でESIイオン化法を用いて測定した。
測定は、アセトニトリル/50mM酢酸アンモニウム水が体積比10/90である混合溶媒を溶離液として、Inertsil ODS-3V(ジーエルサイエンス社製)をカラムとして使用し、サンプル濃度100ppmで溶離液に溶解して行った。
【0028】
実施例1-1
2-(2-ビニルオキシエトキシ)エチル-2-(トリメチルアンモニオ)エチルホスファートの合成
冷却管、温度計及び攪拌装置を備えた1L四つ口フラスコに、2-クロロ-2-オキソ-1,3,2-ジオキソホスホラン(COP)42.8g、酢酸エチル224.4gを入れ、よく混合した。滴下漏斗にジエチレングリコールモノビニルエーテル39.6g、ジイソプロピルアミン60.7g、酢酸エチル100.4gを入れ、混合し溶解した。滴下漏斗を1L四つ口フラスコに取り付け、-5~0℃で混合物をゆっくり滴下した。滴下後、-5~5℃で2時間反応させた。反応終了後、得られた反応液中に見られる白色沈殿を孔径7μmの濾紙を用いて濾別し、濾紙上のろ過物を酢酸エチル32.5gで洗浄濾過した。
濾液396.9g、トリメチルアミンのアセトニトリル溶液(濃度:2mol/L)300.0gを耐圧ビンに入れて密栓した。続いて、加熱し75℃まで上昇した後、6時間反応させた。反応終了後、40℃まで冷却し、窒素を吹き込むことで余剰のトリメチルアミンと溶媒を除去した。
【0029】
得られた液体をLC-MSで測定した結果、分子量が297であることから、式(1a)で表される化合物であることが特定された。
【0030】
【0031】
1H-NMRを測定した結果を以下に示す。
CH2=CH-:6.53ppm(1H)、
CH2=CH-:4.36ppm(1H)、4.32ppm(1H)、
-O-CH2-CH2-N-:4.30ppm(2H)
-O-CH2-CH2-O-P-:4.02ppm(2H)
CH-O-CH2-:3.92ppm(2H)
-O-CH2-CH2-O-CH2-:3.81ppm(2H)
-O-CH2-CH2-O-P-:3.75ppm(2H)
CH2-N:3.65ppm(2H)
-N-(CH3)3:3.21ppm(9H)
【0032】
実施例1-2
4-(ビニルオキシ)ブチル-2-(トリメチルアンモニオ)エチルホスファートの合成
冷却管、温度計及び攪拌装置を備えた1L四つ口フラスコに、2-クロロ-2-オキソ-1,3,2-ジオキソホスホラン(COP)42.8g、酢酸エチル224.4gを入れ、よく混合した。滴下漏斗に4-ヒドロキシブチルモノビニルエーテル34.8g、ジイソプロピルアミン60.7g、酢酸エチル95.6gを入れ、混合し溶解した。滴下漏斗を1L四つ口フラスコに取り付け、-5~0℃で混合物をゆっくり滴下した。滴下後、-5~5℃で2時間反応させた。反応終了後、得られた反応液中に見られる白色沈殿を孔径7μmの濾紙を用いて濾別し、濾紙上のろ過物を酢酸エチル32.0gで洗浄濾過した。
濾液387.3g、トリメチルアミンのアセトニトリル溶液(濃度:2mol/L)300.0gを耐圧ビンに入れて密栓した。続いて、加熱し75℃まで上昇した後、6時間反応させた。反応終了後、40℃まで冷却し、窒素を吹き込むことで余剰のトリメチルアミンと溶媒を除去した。
【0033】
得られた液体をLC-MSで測定した結果、分子量が281であることから、式(1b)で表される化合物であることが特定された。
【0034】
【0035】
1H-NMRを測定した結果を以下に示す。
CH2=CH-:6.45ppm(1H)、
CH2=CH-:4.30ppm(1H)、4.09ppm(1H)、
-P-O-CH2-CH2-N-:4.24ppm(2H)、
-CH2-CH2-CH2-O-P-:3.87ppm(2H)、
-CH-O-CH2-:3.79ppm(2H)、
-CH2-N:3.62ppm(2H)、
-N-(CH3)3:3.21ppm(9H)、
-CH2-CH2-CH2-CH2-:1.70ppm(4H)
【0036】
実施例及び比較例で用いた成分を以下に示す。
ES :2-(メタクリロイルオキシ)エチル=3-[トリス(ト
リメチルシロキシ)シリル]プロピル=スクシナート
PDMS :分子量約1,000のポリジメチルシロキサン片末端メタ
クリレート
HEMA :2-ヒドロキシエチルメタクリレート
NVP :N-ビニルピロリドン
MPC :2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン
HeOH :ヘキサノール
TEGDMA:テトラオエチレングリコールジメタクリレート
TEGDV :トリエチレングリコールジビニルエーテル
AIBN :2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)
【0037】
各実施例及び比較例のコンタクトレンズ(モデルコンタクトレンズ)について、以下の評価項目によって評価した。
【0038】
[コンタクトレンズの透明性]
重合体を精製した後、ISO-18369-3に記載の生理食塩水中に浸漬し、膨潤させて得られるヒドロゲルをモデルコンタクトレンズとし、目視により「透明」、「微濁」、「白濁」の基準で評価した。
【0039】
[コンタクトレンズの表面親水性(WBUT)]
コンタクトレンズの表面親水性を、WBUT(waterfilm break up time)により、以下のようにして評価した。ISO生理食塩水中にモデルコンタクトレンズを一晩浸漬し、ピンセットで外周部をつまんで水面から引き上げる。水面から引き上げた時からレンズ表面の水膜が切れるまでの時間(水膜保持時間)を計測する。水膜保持時間の判定は目視により実施する。測定を3回行い、その平均値を求めた。水膜保持時間が30秒以上の場合を表面親水性が良好と判定する。
【0040】
[コンタクトレンズの含水率]
ISO-18369-4に記載の方法で、モデルコンタクトレンズの含水率を測定した。
【0041】
[実施例2-1]
実施例1-1化合物0.72g(14.6質量%)、ES0.96g(19.4質量%)、HEMA1.44g(29.1質量%)、HeOH0.50g(10.0質量%)を容器中で混合し、室温下で、実施例1化合物が溶解するまで撹拌した。さらに、PDMS0.96g(19.4質量%)、NVP0.72g(14.6質量%)、TEGDMA0.05g(1.0質量%)、TEGDV0.10g(1.9質量%)、AIBN0.05g(1.0質量%)を容器に添加し、室温下で、均一になるまで撹拌して組成物を得た。なお、開始剤であるAIBNと溶媒であるHeOHの質量%は、モノマー成分100質量部に対しての値である。
組成物0.3gを、厚さ0.1mmのポリエチレンテレフタレートシートをスペーサーとして2枚のポリプロピレン板の間に挟みこんだ25mm×70mm×0.2mmのセル内に流し込み、オーブン内の窒素置換を行った。次いで、65℃まで昇温し、65℃で3時間維持した後、更に、120℃に昇温し、120℃で2時間維持することで組成物を重合させて重合体を得た。
重合体をセルから取り出し、2-プロパノール40gに4時間浸漬後、イオン交換水50gに4時間浸漬して未反応物等を除去して精製した。精製後の重合体を、ISO-18369-3に記載の生理食塩水中に浸漬し、膨潤(水和)させてモデルコンタクトレンズを調製した。
得られたモデルコンタクトレンズを上記各評価に適するサイズ及び形状に分割し、各評価を行った。
組成物中の各成分の配合割合、及び各評価結果を表1に示す。
【0042】
[実施例2-2~2-4、比較例1、2]
組成物中の各成分の配合割合を表1に示した通りとしたこと以外は、実施例2-1と同様にして、各実施例及び比較例のモデルコンタクトレンズを調製した。また、各実施例及び比較例のモデルコンタクトレンズについて実施例2-1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
実施例のハイドロゲル(コンタクトレンズ)は表面の親水性を維持しつつ、含水率を低減していることから、本発明のホスホリルコリン基含有ビニル単量体は、コンタクトレンズ等に用いるハイドロゲルの原料として有用であることがわかる。