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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】スイッチング電源装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20240123BHJP
【FI】
H02M3/155 H
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021530480
(86)(22)【出願日】2020-02-10
(86)【国際出願番号】 JP2020005034
(87)【国際公開番号】W WO2021005819
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2019127565
(32)【優先日】2019-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細谷 達也
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-227808(JP,A)
【文献】特開2014-103842(JP,A)
【文献】特表2014-506776(JP,A)
【文献】特開2009-145277(JP,A)
【文献】特開2003-052170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/00 - 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力部に電流を供給する電流経路に対して直列に接続されるインダクタと、前記出力部に並列に接続されるキャパシタと、前記インダクタに流れるスイッチング電流を生成するスイッチング素子と、前記インダクタに流れる電流を検知するインダクタ電流検知回路と、前記インダクタ電流検知回路の検知結果に応じて前記スイッチング素子をスイッチング周波数でスイッチング制御するスイッチング制御回路と、を備え、
前記インダクタ電流検知回路は、直列接続された検知キャパシタ及び検知抵抗で構成される時定数回路を有し、前記インダクタに並列接続され、
前記時定数回路における前記検知キャパシタのキャパシタンスと前記検知抵抗の抵抗値の積であるCR積は、前記スイッチング周波数における定格動作温度において、前記インダクタが有するインダクタンス及び等価直流抵抗DCRの値ではなく周波数特性を有する等価直列抵抗の値に対して所定の等式関係を有し、
前記検知キャパシタは、自己共振周波数よりも低い周波数帯域において、前記スイッチング周波数からの周波数上昇に伴ってキャパシタンスが減少する、キャパシタンスの周波数特性を有し、当該周波数の変化に対する前記キャパシタンスの変化により、前記等価直列抵抗の抵抗値の、周波数に対する増加を補償して、前記スイッチング周波数から高周波帯域に亘って、前記所定の等式関係維持
前記インダクタ電流検知回路は、前記検知キャパシタの両端電圧を前記インダクタに流れる電流を検知する電気信号として出力し、
前記検知キャパシタと前記検知抵抗は、前記インダクタに熱的に結合し、
前記検知キャパシタは、前記インダクタの温度変化に相関する温度影響を受けて前記インダクタに応じて温度を変化させ、前記インダクタの温度上昇に応じて減少するインダクタンス値および増加する前記等価直列抵抗の抵抗値を補償する温度特性とキャパシタンス値を設定し、
前記時定数は、前記熱的な結合に応じて変化特性が定められており、
前記定格動作温度から高温域に亘って、前記所定の等式関係を維持する、
スイッチング電源装置。
【請求項2】
出力部に電流を供給する電流経路に対して直列に接続されるインダクタと、前記出力部に並列に接続されるキャパシタと、前記インダクタに流れるスイッチング電流を生成するスイッチング素子と、前記インダクタに流れる電流を検知するインダクタ電流検知回路と、前記インダクタ電流検知回路の検知結果に応じて前記スイッチング素子をスイッチング周波数でスイッチング制御するスイッチング制御回路と、を備え、
前記インダクタ電流検知回路は、直列接続された検知キャパシタ及び検知抵抗で構成される時定数回路を有し、前記インダクタに並列接続され
記時定数回路における前記検知キャパシタのキャパシタンスと前記検知抵抗の抵抗値の積であるCR積は、前記スイッチング周波数における定格動作温度において、前記インダクタが有するインダクタンス及び等価直流抵抗DCRの値ではなく周波数特性を有する等価直列抵抗の値に対して所定の等式関係を有し、
前記検知キャパシタは、前記インダクタに熱的に結合し、前記インダクタの温度変化に相関する温度影響を受け、自己共振周波数よりも低い周波数帯域において、前記スイッチング周波数からの周波数上昇に伴ってキャパシタンスが減少する、キャパシタンスの周波数特性を有し、当該周波数の変化に対する前記キャパシタンスの変化により、前記等価直列抵抗の抵抗値の、周波数に対する増加を補償し、前記スイッチング周波数から高周波帯域に亘って、前記所定の等式関係を維持し、
前記時定数回路は、前記定格動作温度からの昇温に伴って前記CR積が小さくなる、時定数の温度特性を有し、当該温度の変化に対する前記CR積の変化により、前記インダクタのインダクタンスの、温度に対する変化、及び前記インダクタの等価直列抵抗の、温度に対する変化が補償されて、前記定格動作温度から高温域に亘って、前記所定の等式関係が維持され、
前記インダクタ電流検知回路は、前記検知キャパシタの両端電圧を前記インダクタに流れる電流を検知する電気信号として出力し
前記検知抵抗は、前記インダクタの温度変化に相関する温度影響を受けて前記インダクタに応じて温度を変化させ、前記インダクタの温度上昇に応じて減少するインダクタンス値および増加する前記等価直列抵抗の抵抗値を補償する温度特性と抵抗値を設定し、
前記時定数は、前記熱的な結合に応じて変化特性が定められており、前記定格動作温度から高温域に亘って、前記所定の等式関係を維持する、
スイッチング電源装置。
【請求項3】
前記インダクタ電流検知回路は、前記検知キャパシタの両端に電気的に接続される2端子入力部を有する差動増幅回路を備え、
前記2端子入力部への電気信号の入力経路に、少なくとも1つの抵抗が直列に接続された、
請求項1又は2に記載のスイッチング電源装置。
【請求項4】
前記インダクタのインダクタンスをLo、等価直列抵抗の抵抗値をRsで表すとき、
前記所定の等式関係は、Lo / Rs が前記CR積と等しい関係である、
請求項1から3のいずれかに記載のスイッチング電源装置。
【請求項5】
前記検知キャパシタは、周波数変化に対するキャパシタンス変化が負の傾きを有する積層セラミックコンデンサである、
請求項1、3又は4に記載のスイッチング電源装置。
【請求項6】
前記検知キャパシタは、温度変化に対するキャパシタンスの変化が負の傾きを有する積層セラミックコンデンサである、
請求項2、3又は4に記載のスイッチング電源装置。
【請求項7】
前記検知抵抗の抵抗値は温度の変化に対して変化する特性を有し、前記検知抵抗は前記インダクタの温度変化に相関する温度影響を受ける、
請求項6に記載のスイッチング電源装置。
【請求項8】
前記検知キャパシタは、使用温度範囲で強誘電性を示して高誘電率を発現する高誘電率系の誘電体を備えるキャパシタである、
請求項1から7のいずれかに記載のスイッチング電源装置。
【請求項9】
前記検知キャパシタは、使用温度範囲で強誘電性を示さない、印加電圧-誘電率のヒステリシスループの小さな低誘電率系の誘電体を備えるキャパシタである、
請求項1から7のいずれかに記載のスイッチング電源装置。
【請求項10】
前記検知キャパシタは、使用温度範囲における誘電率の変化が、低誘電率系の誘電体の変化率以下である、温度補償用キャパシタである、
請求項1から7のいずれかに記載のスイッチング電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタと、このインダクタに流れるスイッチング電流を検知するインダクタ電流検知回路を備えるスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング電源装置においては、インダクタに流れる電流を高い精度で検知することの重要性が高まっている。例えばプロセッサに対する電源電圧を供給する電源装置では、プロセッサの動作電圧の低電圧化に応じて、低電圧大電流化が求められている。このような大電流を出力する電源装置では、電源装置内のインダクタに流れる電流は大きく、入力電圧や負荷の変化、温度の変化などに対しても大きなインダクタ電流を高精度かつ低電力損失で検知する技術が求められている。
【0003】
インダクタ電流を高精度に検知できれば、(1)回路を保護するために、出力電流を制限して、出力短絡や過負荷に対する保護が可能となる。また、その他に、(2)出力を高速かつ安定的に制御するための電流モード制御ループの構成、(3)多相コンバータの位相間の電流分担による電流バランス、(4)マイクロプロセッサコア電源の適応型電圧ポジショニング(AVP)の実現、(5)負荷電流の遠隔測定、(6)ホストコントローラ又はマイクロプロセッサへのモニタリング監視の実行、などが可能になる。
【0004】
電流を検知する回路構成としては、電流経路に直列に挿入される抵抗の降下電圧を検出するものがある。例えば、10A未満の小電流では正確な電流を検知する解決策となる場合もあるが、大電流では、回路サイズと電力損失を考慮すると、実用的ではない。小さな電力損失での電流検知のために、電力変換回路を構成する回路素子を利用すると、高電力密度及び低コスト化の面で有利である。
【0005】
一方、上述の電力変換回路の回路素子を用いる回路構成ではいくつかの課題がある。例えば、降圧型コンバータ又は昇圧型コンバータにおいて、スイッチング素子のオン抵抗を電流検知に用いる回路では、このオン抵抗の初期許容誤差が大きく(通常±30%)、また、MOSFETの抵抗素子(シリコンダイ、アルミニウム、銅の接続部)には固有の温度に対する変化があり、ローサイドMOSFETのオン抵抗の両端の電圧を検知するだけでは不正確となる。また、ローサイドMOSFETが導通しているときにのみに検知が可能であり、ハイサイドMOSFETのオン期間では電流検知を行えない。
【0006】
これとは対照的に、例えば特許文献1に開示されているように、インダクタの直流抵抗(DCR)を電流検知に用いる技術では、公差は比較的に小さく(通常±8%と規定)、ポイントオブロード(POL)アプリケーション用のDC-DCコンバータで用いられている。このような、インダクタの両端電圧から電流を検知する技術は、自動車用、産業用、オーディオ用の単相及び多相ブーストコンバータの入力電流検知にも利用が検討されており、有用な技術として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第5877611号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
インダクタの直流抵抗(DCR)を電流検知に用いる技術では、電力変換回路における入力電圧や負荷が変化した場合に、電流検知の精度が大きく低下するという問題がある。つまり、入力電圧や負荷が変化すると、それに応じてインダクタに流れる電流波形が変化するので、電流検知の精度が低下する。入力電圧や負荷の変化に応じて電流検知信号を補正することは可能であるが、回路が大型化、複雑化し、周辺回路での電力消費の発生により、電力効率が低下し、実用性は大きく低下する。
【0009】
また、電力変換回路が動作して、インダクタが発熱した場合やインダクタの周囲温度が変化する場合には、電流検知の精度が大きく低下するという問題がある。これを解決するために、インダクタの温度や周囲温度の変化に応じて電流検知信号を補正することは可能であるが、回路が大型化、複雑化し、周辺回路での電力消費の発生により電力効率が低下するので、やはり、実用性は大きく低下する。
【0010】
そこで、本発明の目的は、少ない部品による簡素な回路構成で、入力電圧や負荷の変化、スイッチング周波数の変化、インダクタの発熱、インダクタの周囲温度の変化、等があっても、高い電流検知精度が維持でき、高効率な電力変換を実現できる、簡素で小型のスイッチング電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本開示の一例としてのスイッチング電源装置は、
出力部に電流を供給する電流経路に対して直列に接続されるインダクタと、前記出力部に並列に接続されるキャパシタと、前記インダクタに流れるスイッチング電流を生成するスイッチング素子と、前記インダクタに流れる電流を検知するインダクタ電流検知回路と、前記インダクタ電流検知回路の検知結果に応じて前記スイッチング素子をスイッチング周波数でスイッチング制御するスイッチング制御回路と、を備え、
前記インダクタ電流検知回路は、直列接続された検知キャパシタ及び検知抵抗を有する時定数回路で構成されて、前記インダクタに並列接続され、
前記時定数回路における前記検知キャパシタのキャパシタンス(C)と前記検知抵抗の抵抗値(R)の積であるCR積は、前記スイッチング周波数において、前記インダクタが有するインダクタンス及び等価直列抵抗の値に対して所定の等式を有し、
前記検知キャパシタは、前記スイッチング周波数からの周波数上昇に伴ってキャパシタンスが減少する、キャパシタンスの周波数特性を有し、当該周波数の変化に対する前記キャパシタンスの変化により、前記等価直列抵抗の抵抗値の周波数に対する変化が補償されて、前記スイッチング周波数から高周波帯域に亘って、前記所定の等式関係が維持され、
前記インダクタ電流検知回路は、前記検知キャパシタの両端電圧を前記インダクタに流れる電流を検知する電気信号として出力する。
【0012】
上記構成により、インダクタの等価直列抵抗の抵抗値が周波数に対して増加する変化に対して、前記所定の等式関係を維持できる。当該周波数の変化に対する前記キャパシタンスの変化により、前記等価直列抵抗の抵抗値の周波数に対する変化が補償される。そのため、インダクタ電流の波形が変化して、インダクタ電流に含まれる、スイッチング周波数の高調波成分の大きさや割合が変化しても、時定数回路のCR時定数は、上記インダクタのインダクタンス及び等価直列抵抗の値に対して所定(一定)の等式関係を維持する。
【0013】
したがって、入力電圧や負荷が変化することでインダクタ電流の波形が変化し、スイッチング周波数の基本波に対する高調波成分の大きさや割合が変化しても、上記所定の等式関係が維持されて、インダクタ電流の検知精度の低下は小さい。
【0014】
(2)本開示の一例としてのスイッチング電源装置は、
出力部に電流を供給する電流経路に対して直列に接続されるインダクタと、前記出力部に並列に接続されるキャパシタと、前記インダクタに流れるスイッチング電流を生成するスイッチング素子と、前記インダクタに流れる電流を検知するインダクタ電流検知回路と、前記インダクタ電流検知回路の検知結果に応じて前記スイッチング素子をスイッチング周波数でスイッチング制御するスイッチング制御回路と、を備え、
前記インダクタ電流検知回路は、直列接続された検知キャパシタ及び検知抵抗で構成される時定数回路を有し、前記インダクタに並列接続され、
前記検知キャパシタは前記インダクタの温度変化に相関する温度影響を受け、
前記時定数回路における前記検知キャパシタのキャパシタンス(C)と前記検知抵抗の抵抗値(R)の積であるCR積は、定格動作温度において、前記インダクタが有するインダクタンス及び等価直列抵抗の値に対して所定の等式関係を有し、
前記時定数回路は、前記定格動作温度からの昇温に伴って前記CR積が小さくなる、時定数の温度特性を有し、当該温度の変化に対する前記CR積の変化により、前記インダクタのインダクタンスの、温度に対する変化、及び前記インダクタの等価直列抵抗の、温度に対する変化が補償されて、前記定格動作温度から高温域に亘って、前記所定の等式関係が維持され、
前記インダクタ電流検知回路は、前記検知キャパシタの両端電圧を前記インダクタに流れる電流を検知する電気信号として出力する。
【0015】
インダクタは、そこに流れる電流が、磁性材料を磁気飽和させる電流に達すると、磁性材料の透磁率の低下に伴ってインダクタンス値が低下する直流重畳特性を有する。温度が上がると、上記磁気飽和に達する電流が小さくなるので、より少ない電流量でもインダクタンス値は低下する。
【0016】
また、インダクタは、導体の抵抗率の温度特性に応じて、温度変化に対して等価直列抵抗の値が変化する。つまり、温度が上がるほど等価直列抵抗値は増大する。
【0017】
上記構成によれば、温度上昇に伴ってインダクタのインダクタンスが減少しても、また、等価直列抵抗値が増大しても、当該温度の変化に対する前記CR積の変化により、前記インダクタの温度変化に対するインダクタンス値の変化及び等価直列抵抗値の変化が補償される。そのため、インダクタの温度が上昇しても、時定数回路の時定数は、上記インダクタのインダクタンス及び等価直列抵抗の値に対して所定の等式関係を維持する。
【0018】
したがって、インダクタの発熱、インダクタの周囲温度の変化、等があっても、上記所定の等式関係が維持されて、インダクタ電流の検知精度の低下は小さい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、少ない部品による簡素な回路構成で、入力電圧や負荷の変化、スイッチング周波数の変化、インダクタの発熱、インダクタの周囲温度の変化、等があっても、高い電流検知精度が維持でき、高効率な電力変換を実現できる、簡素で小型のスイッチング電源装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1(A)、図1(B)は、第1の実施形態に係るスイッチング電源装置の回路図である。
図2図2は、図1(B)に示した各部の電圧電流のシミュレーションによる波形図である。
図3図3(A)はインダクタL1のインダクタンス成分(図1(B)に示すLo)の、周波数に対する変化特性を示す図であり、図3(B)はインダクタL1の交流抵抗特性(等価直列抵抗Rsの周波数に対する変化特性)を示す図である。
図4図4は検知キャパシタC1として、積層セラミックコンデンサを用いたときの、その積層セラミックコンデンサの、周波数に対する特性を示す図である。
図5図5はインダクタの電流に対するインダクタンス値の温度特性を示す図である。
図6図6は、1,2,3で示す3種類の積層セラミックコンデンサの比誘電率の温度特性を示す図である。
図7図7(A)は、検知抵抗R1、抵抗素子R2及び検知キャパシタC1でインダクタ電流検知回路2が構成された部分回路図である。図7(B)、図7(C)は、検知抵抗R11,R12及び検知キャパシタC1でインダクタ電流検知回路2が構成された部分回路図である。
図8図8は第2の実施形態に係る電源システムの回路図である。
図9図9は、図8に示した負荷分散コントローラ4が備える、増幅及び電流共有を行う部分の回路図である。
図10図10は、第3の実施形態に係る電源システムの回路図である。
図11図11は、図10に示した、負荷分散コントローラ4、スイッチング回路DD、抵抗素子R31,R32部分の、別の構成例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以降、図を参照して幾つかの具体的な例を挙げて、本発明を実施するための複数の形態を示す。各図中には同一箇所に同一符号を付している。要点の説明又は理解の容易性を考慮して、実施形態を説明の便宜上、複数の実施形態に分けて示すが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせは可能である。第2の実施形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0022】
《第1の実施形態》
図1(A)、図1(B)は、第1の実施形態に係るスイッチング電源装置の回路図である。このスイッチング電源装置101は、インダクタL1、キャパシタCo、スイッチング素子Q1,Q2、スイッチング制御回路1、インダクタ電流検知回路2、差動増幅回路3、及び抵抗素子R31,R32,R33,R34を備える。VDDは電源電圧端子、GNDはグランド端子である。
【0023】
インダクタL1は出力部Poに電流を供給する電流経路CPに対して直列に接続される。キャパシタCoは出力部Poに並列に(出力部Poの電圧出力端とグランドとの間に)接続される。スイッチング素子Q1,Q2は、インダクタL1に流れるスイッチング電流を生成する。スイッチング制御回路1はスイッチング素子Q1,Q2をスイッチング制御する。インダクタ電流検知回路2は、インダクタL1に流れる電流を検知する。
【0024】
スイッチング制御回路1は、抵抗素子R31,R32による抵抗分圧回路の出力電圧が一定となるようにスイッチング素子Q1,Q2のスイッチング制御を行うことで出力電圧を安定化する。また、次に示すインダクタ電流に応じて、スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング制御を行う。
【0025】
インダクタ電流検知回路2は、直列接続された検知キャパシタC1及び検知抵抗R1による時定数回路で構成されている。このインダクタ電流検知回路2はインダクタL1に並列接続されている。
【0026】
インダクタ電流検知回路2は、検知キャパシタC1の両端電圧を、インダクタ電流の比例値として出力する。この検知キャパシタC1の両端電圧は差動増幅回路3に入力され、差動増幅回路3による増幅電圧がスイッチング制御回路1に入力される。
【0027】
図1(B)はインダクタL1を、インダクタンスLo及び等価直列抵抗Rsで表した部分回路図である。インダクタ電流検知回路2の(時定数回路の)時定数は、インダクタL1が有するインダクタンスLo及び等価直列抵抗Rsの値に対して所定の等式関係を有する。ここで、インダクタンスLoの値をLo、等価直列抵抗Rsの抵抗値をRs、検知キャパシタC1のキャパシタンスをCt、検知抵抗R1の抵抗値をRtで表すと、
Lo/Rs=CtRt の等式関係にある。ここで、Lo/RsはインダクタL1の時定数、CtRtはインダクタ電流検知回路2の時定数ということができる。つまり、検知抵抗R1の抵抗値をRt及びインダクタL1の等価直列抵抗Rsの抵抗値が一定であれば、検知キャパシタC1の両端電圧はインダクタL1に流れる電流に比例する(特許文献1)。検知キャパシタC1とインダクタL1とは熱的に結合していて、検知キャパシタC1はインダクタL1の温度変化に相関する温度影響を受ける。つまり、インダクタL1の温度に応じて検知キャパシタC1の温度は変化する。
【0028】
等価直列抵抗Rsは周波数変化に対して抵抗値が変化する特性を有する。つまり、等価直列抵抗Rsの抵抗値は周波数が高いほど大きい。一方、検知キャパシタC1のキャパシタンスも周波数変化に対してキャパシタンスが変化する特性を有する。検知キャパシタC1は、印加電圧の周波数が高いほどキャパシタンスは低い、という特性を有する。そのため、周波数変化に応じてRsとCtが逆方向に変化して、Lo/Rs=CtRtの等式関係が維持される。このことにより、スイッチング周波数から高周波帯域までの広帯域に亘って、上記所定の等式関係が維持され、インダクタ電流検知回路2の出力電圧(検知キャパシタC1の両端電圧)は、インダクタ電流の波形が変化しても、比例係数一定で、インダクタ電流の比例値を出力する。
【0029】
上記差動増幅回路3は入力部に直列に抵抗素子R33,R34が接続されていて、小さな電流検知信号を増幅するため、小さな損失でインダクタ電流を検知できる。
【0030】
図2は、図1(B)に示した各部の電圧電流のシミュレーションによる波形図である。図2において、波形Vswは、ローサイドのスイッチング素子Q2のドレイン・ソース間電圧の波形である。波形iLはインダクタL1に流れる電流の波形である。波形Vout1は等価直列抵抗Rsの両端電圧の波形であり、波形Vout2はインダクタ電流検知回路2の出力電圧の波形である。波形Vout1と波形Vout2とは完全に重なって一つに見える。
【0031】
図2に表れているように、インダクタ電流は三角波であり、3次、5次、7次、9次・・・といった奇数倍高調波を含む。等価直列抵抗Rsの抵抗値はインダクタに流れる電流の周波数変化に対して変化するが、後に示すように、検知キャパシタC1のキャパシタンスの周波数変化に対する変化によって、上記Lo/Rs=CtRtの等式関係が維持される。そのため、スイッチング周波数より高周波帯の周波数成分の大きさや割合の変化による影響を受けずに、インダクタ電流検知回路2の出力電圧(検知キャパシタC1の両端電圧)は、インダクタ電流の波形が変化しても、比例係数一定で、インダクタ電流の比例値を出力する。
【0032】
ここで、インダクタL1の等価直列抵抗の、抵抗値の周波数特性と検知キャパシタC1の、キャパシタンスの周波数特性との関係について示す。
【0033】
図3(A)はインダクタL1のインダクタンス成分(図1(B)に示すLo)の、周波数特性を示す図であり、図3(B)はインダクタL1の交流抵抗特性(等価直列抵抗Rsの周波数特性)を示す図である。インダクタL1のインダクタンス成分の周波数変化に対する変化は小さく、40MHzまでは一定である。これに対し、等価直列抵抗は周波数が高くなるほど値が大きくなる。これは、鉄損(ヒステリシス損及び渦電流損)を有し、これらの損失項は周波数が高くなるほど大きくなるからである。
【0034】
図4は検知キャパシタC1として、積層セラミックコンデンサを用いたときの、その積層セラミックコンデンサの、周波数に対する特性を示す図である。図4において、太い実線は検知キャパシタC1のインピーダンス|Z|、破線は等価直列抵抗ESRを示している。インピーダンス|Z|は、自己共振周波数より低い周波数帯域では1/ωCの傾きで変化し、自己共振周波数より高い周波数帯域ではωLの傾きで変化する。ここでCは検知キャパシタC1のキャパシタンス、Lは検知キャパシタC1の寄生インダクタンス成分である。等価直列抵抗ESRは低周波領域と高周波領域とで大きくなる。
【0035】
上記特性となる理由は次のように説明できる。
【0036】
[低周波領域]
周波数が低い領域における|Z|は、理想コンデンサと同じように周波数に反比例して減少する。ESRは、誘電体の分極の遅延による誘電損失に相当する値を示す。
【0037】
[共振点付近]
周波数が高くなると、寄生インダクタンスや電極の比抵抗などによるESRの影響で|Z|の挙動は理想的なキャパシタの特性(1/ωCの傾き)から外れ、極小値を示す。|Z|が極小値となる自己共振周波数で、|Z|=ESRとなる。自己共振周波数を超えると、素子の特性がキャパシタからインダクタに変わり、|Z|は増加に転じる。自己共振周波数より低い領域は容量性領域となり、高い領域は誘導性領域となる。ESRについては、誘電損失に加えて電極起因による損失分が影響する。
【0038】
[高周波領域]
共振点より高い周波数領域において、|Z|は寄生インダクタンス(L)によって特性が決まる。高周波領域の|Z|は周波数に比例して増加する。ESRについては、電極の表皮効果や近接効果の影響が現れる。
【0039】
積層セラミックコンデンサは、高周波特性に優れ、構造において、他のコンデンサに比べて、等価直列抵抗や等価直列インダクタンス(ESL, Equivalent Series Inductance)が小さいインピーダンス特性を示す。アルミ電解コンデンサやタンタル電解コンデンサはESR成分が高いために、インピーダンスも高くなるが、セラミックコンデンサは高い周波数になるほどインピーダンスが小さくなる。
【0040】
上記検知キャパシタC1のインピーダンス|Z|の、理想的なキャパシタの特性(1/ωCの傾き)からの差分は、自己共振周波数まで、周波数が高くなるほど、大きくなる。つまり、検知キャパシタC1である積層セラミックコンデンサのキャパシタンスは、印加電圧の周波数が高いほどキャパシタンスが低い、という周波数特性を有する。換言すると、検知キャパシタC1は周波数変化に対するキャパシタンス変化が負の傾きを有する。
【0041】
このように、検知キャパシタC1のキャパシタンスの周波数特性を適宜選定することで、この検知キャパシタC1のキャパシタンスの周波数に対する変化により、インダクタL1の等価直列抵抗の抵抗値の周波数に対する変化が補償されて、スイッチング周波数から高周波帯域に亘って、Lo/Rs=CtRtの等式関係が維持できる。
【0042】
次に、インダクタL1の、インダクタンス値の及び等価直列抵抗Rsの温度特性と検知キャパシタC1のキャパシタンスの温度特性との関係について示す。
【0043】
図5はインダクタの電流に対するインダクタンス値の温度特性を示す図である。インダクタは、そこに流れる電流が、磁性材料を磁気飽和させる電流に達すると、磁性材料の透磁率の低下に伴ってインダクタンス値が低下する。図5に示す例では、50℃において、約3.3A以上で磁気飽和しはじめ、それ以上の電流の増大に伴ってインダクタンス値が低下する。このような直流重畳特性は温度に応じて変化する。つまり、温度が上がると、上記磁気飽和に達する電流が小さくなるので、図5に表れているように、より少ない電流量でもインダクタンス値は低下する。
【0044】
また、インダクタは導体の抵抗率の温度特性に応じて、温度変化に対して等価直列抵抗の値が変化する。つまり、温度が上がるほど等価直列抵抗値は増大する。さらに、直流成分の抵抗値だけでなく、交流成分の抵抗値も温度が上がるほど増加する。
【0045】
図6は、特性曲線1,2,3で示す3種類の積層セラミックコンデンサの比誘電率の温度特性を示す図である。図6において、比誘電率がピークとなる温度はキュリー点である。積層セラミックコンデンサを形成する誘電体材料には、大別して次の3つの種類がある。
【0046】
(1)使用温度範囲で強誘電性を示す(強誘電相となる)ため、高い静電容量が得られる高誘電率系の誘電体材料、例えばBaTiO3 ベースのコアシェル構造の誘電体材料であり、比誘電率は数100~数1000である。
【0047】
(2)使用温度範囲で強誘電性を示さない(常誘電相となる)ため、低誘電率であるが、ヒステリシスループが小さく、低損失な低誘電率系誘電体材料、例えばBaTiO3 ベースの均一構造の誘電体材料であり、比誘電率は数10である。
【0048】
(3)極端に誘電率は低いが、温度による変化をほとんど示さず、損失が小さい温度補償用キャパシタの誘電体材料。
【0049】
インダクタL1を構成する、銅巻線の抵抗の温度係数は、3930 ppm/℃である。例えば、25℃から100℃への巻線温度の上昇により、抵抗値は30%増加する。このように、インダクタL1は、温度変化に対して等価直列抵抗ESRが大きく変化する特性を有する。なお、一部のインダクタでは、マンガニン銅合金の巻線を使用する。このマンガニン銅合金は、通常、86%の銅、12%のマンガン、2%のニッケルの合金であり、温度係数が実質的に0という利点があるが、利用可能なインダクタの範囲は非常に限られている。また、銅と比較して巻線の導電率が低く、電力損失は大きい。さらにインダクタのサイズも大型化する。
【0050】
上述したように、温度上昇に伴ってインダクタのインダクタンス値が減少し、等価直列抵抗及び交流抵抗が増加するインダクタを用いる場合、検知キャパシタC1として、温度が高くなるほど、そのキャパシタンスが低下する、という特性を有するキャパシタを用いる。図6に示した例では、特性曲線2に示す、ヒステリシスループが小さく、低損失な低誘電率系誘電体材料のキャパシタが適している。
【0051】
上記検知キャパシタC1のインピーダンス|Z|は、温度が高くなるほど、大きくなる。つまり、検知キャパシタC1である積層セラミックコンデンサのキャパシタンスは、高温になるほどキャパシタンスが低下する、という温度特性を有する。換言すると、検知キャパシタC1は、温度変化に対するキャパシタンス変化が負の傾きを有する。
【0052】
図6に基づく上記説明では、図6中特性曲線2に示す、低損失な低誘電率系誘電体材料の積層セラミックコンデンサが適することを示したが、温度の変化に対してキャパシタンスを大きく変化させたい場合は、図6中特性曲線1に示す、高い静電容量が得られる高誘電率系の誘電体材料の積層セラミックコンデンサを用い、温度の変化に対してキャパシタンスをあまり変化させたくない場合は、図6中特性曲線3に示す、低損失な低誘電率系誘電体材料の積層セラミックコンデンサを用いる。つまり、検知キャパシタに用いる積層セラミックコンデンサの誘電体材料に起因するコンデンサの種類を適切に選び、必要に応じてこれらを組み合わせることにより、温度変化に対する所望のキャパシタンスの変化を設計することができる。
【0053】
このように、検知キャパシタC1のキャパシタンスの温度特性を適宜選定して設計することで、この検知キャパシタC1の温度に対する変化により、インダクタL1のインダクタンス値Lo及び等価直列抵抗値Rsの周波数に対する変化が補償されて、広い温度範囲に亘って、Lo/Rs=CtRtの等式関係が維持できる。
【0054】
インダクタ電流検知回路2の時定数は、検知抵抗R1の抵抗値の温度特性によっても変化する。検知抵抗R1はインダクタL1に熱的に結合していて、インダクタL1の温度変化に相関する温度影響を受ける。つまり、インダクタL1の温度に応じて検知抵抗R1の抵抗値は変化する。上記検知キャパシタC1の温度に対する変化特性と検知抵抗R1の温度に対する変化特性とによって、インダクタ電流検知回路2の時定数の温度に対する変化特性を定めることができる。
【0055】
図1(A)、図1(B)では、インダクタ電流検知回路2に、温度変化に対する抵抗値変化の無い、又は温度変化に対する抵抗値変化を利用しない検知抵抗R1を有する例を示したが、検知キャパシタC1だけでなく、検知抵抗R1が温度に対して抵抗値変化する特性を有していてもよい。
【0056】
また、図1では、インダクタ電流検知回路2の時定数回路に単一の検知抵抗R1を有する例を示したが、複数の抵抗素子を有する時定数回路を構成していてもよい。
【0057】
図7(A)は、検知抵抗R1、抵抗素子R2及び検知キャパシタC1でインダクタ電流検知回路2が構成された部分回路図である。抵抗素子R2の抵抗値は検知抵抗R1の抵抗値より高い。インダクタ電流検知回路2の時定数は、主に検知抵抗R1の抵抗値と検知キャパシタC1のキャパシタンスとで定まるが、抵抗素子R2の抵抗値によって微調整できる。
【0058】
図7(B)、図7(C)は、検知抵抗R11,R12及び検知キャパシタC1でインダクタ電流検知回路2が構成された部分回路図である。図7(B)に示す例では、検知抵抗R11,R12が並列接続されていて、図7(C)に示す例では、検知抵抗R11,R12が直列接続されている。検知抵抗R11,R12の一方は、抵抗値の、温度に対する変化特性を有する抵抗素子である。そのため、検知抵抗R11,R12の合成抵抗値は温度に対して変化する特性を有する。例えば、検知抵抗R11は通常の抵抗素子であり、検知抵抗R12は、負の温度係数を有するサーミスタである。
【0059】
このように、抵抗値の温度に対して変化する特性を有する抵抗素子と、温度に対して変化しない特性を有する抵抗素子との組み合わせによって、インダクタ電流検知回路2の時定数の、温度に対する変化特性を適宜定めることができる。
【0060】
《第2の実施形態》
第2の実施形態では、マルチセルコンバータ構成のスイッチング電源装置において、各セルコンバータのインダクタ電流を検知して、電流バランスをとるように構成された電源システムの例を示す。
【0061】
図8は第2の実施形態に係る電源システムの回路図である。この電源システムは2つのセルコンバータ11,12と、それらを制御するマイクロプロセッサ5とを備える。セルコンバータ11,12は、インダクタL1、キャパシタCi,Co、スイッチング素子Q1,Q2、スイッチング制御回路1、インダクタ電流検知回路2、及び負荷分散コントローラ4をそれぞれ備える。
【0062】
負荷分散コントローラ4は、出力部Poの電圧を検出し、出力電圧が所定値となるように、スイッチング制御回路1へ帰還信号を与える。また、2つの負荷分散コントローラ4は、電流共有信号線(カレントシェアバス)CSBで接続されていて、セルコンバータ11,12の負荷率が等しくなるように、スイッチング制御回路1へ帰還信号を与える。つまり、負荷分散コントローラ4はインダクタ電流検知回路2の出力電圧を入力し、2つのセルコンバータ11,12のインダクタ電流が等しくなるように、スイッチング制御回路1へ帰還信号をそれぞれ出力する。
【0063】
図8に示した例では、2つのセルコンバータ11,12を備える電源システムを示したが、3つ以上のセルコンバータを備える場合にも同様に適用できる。
【0064】
図9は、図8に示した負荷分散コントローラ4が備える、増幅及び電流共有を行う部分の回路図である。インダクタ電流検知回路2の出力信号は初段の増幅回路で100倍に電圧増幅され、2段目と3段目の増幅回路で、電流共有信号線(カレントシェアバス)CSBの電圧との差分が検出される。この電圧がスイッチング制御回路1へ帰還される。
【0065】
このようにして、複数のセルコンバータが負荷分散を行う電源システムにおいて、各セルコンバータのインダクタ電流が高精度に検知されるので、適正な負荷分散がなされる。
【0066】
《第3の実施形態》
第3の実施形態では、多相コンバータ構成のスイッチング電源装置において、各セルコンバータのインダクタ電流を検知して、電流バランスをとるように構成された電源システムの例を示す。
【0067】
図10は、第3の実施形態に係る電源システムの回路図である。この電源システムは6つのセルコンバータと、それらを制御するマイクロプロセッサ5とを備える。各セルコンバータは、スイッチング回路DD、負荷分散コントローラ4、抵抗素子R31,R32、インダクタL1、検知抵抗R1及び検知キャパシタC1によるインダクタ電流検知回路をそれぞれ備える。スイッチング回路DDはスイッチング素子とスイッチング制御回路とで構成される。スイッチング回路DDは、イネーブル信号端子ENに入力されるイネーブル信号が有効であるときスイッチング動作し、無効であるときスイッチング動作を停止する。マイクロプロセッサ5はA/Dコンバータを含み、アナログ信号である運転数信号を入力してデジタル値に変換し、この運転数に応じて稼動させるセルコンバータの数を決定し、そのセルコンバータへマルチフェーズの発振信号を与える。負荷分散コントローラ4の電流共有信号線CSBの電圧は稼動中のセルコンバータの数に応じた電圧となる。
【0068】
負荷分散コントローラ4は、検知キャパシタC1の両端電圧をカレントシェア端子CS+,CS-に入力し、インダクタL1に流れる電流の大きさと、電流共有信号線CSBの電圧とに応じて、電流帰還信号を発生し、この電流帰還信号を、抵抗素子R31,R32による抵抗分圧回路に加える。スイッチング回路DDはフィードバック信号入力端子FBを備え、電圧帰還信号と電流帰還信号との合成帰還信号がスイッチング回路DDのフィードバック信号入力端子FBに入力される。
【0069】
自身のセルコンバータが他のセルコンバータに比較して負荷率が低いほど、上記電流帰還信号によって、抵抗分圧回路の出力電圧は低下される(抵抗分圧回路から帰還信号調整端子(ADJ)へ電流が引かれる)。例えば、抵抗素子R31,R32による抵抗分圧回路による電圧帰還信号だけがスイッチング回路DDに帰還される場合には、出力部Poの出力電圧が規定電圧になるように定電圧制御されるだけであるが、上記合成帰還信号がスイッチング回路DDに帰還されることにより、自身のセルコンバータの負荷率が低いほど、合成帰還信号の電圧が低下して、そのセルコンバータから出力部Poへの出力電流が増加する。
【0070】
このように、合成帰還信号を帰還することにより、稼動中のセルコンバータの負荷率が均等化される。
【0071】
図11は、図10に示した、負荷分散コントローラ4、スイッチング回路DD、抵抗素子R31,R32部分の別の構成例を示す回路図である。図11においてVoは電源電圧端子であり、VREFは基準電圧発生回路である。
【0072】
図11において、CSP,CSNは検知キャパシタC1の両端に接続される。この両端電圧は電流検出増幅器31で増幅され、カレントシェアバスドライバ32で増幅される。カレントシェアバスレシーバ33は電流共有信号線(カレントシェアバス)CSBの電圧を高インピーダンスで入力する。電流誤差増幅器34は電流検出増幅器31の出力電圧と電流共有信号線CSBの電圧との差を増幅する。調整増幅器35は電流誤差増幅器34の出力電圧に応じてFETQcにゲート電圧を与える。このことにより、抵抗素子R30,R31,R32とFETQc等による回路で、上記電流帰還信号と電圧帰還信号とが合成される。
【0073】
電圧誤差増幅器61は抵抗素子R32の電圧と基準電圧との差を増幅する。PWMコンパレータ62は電圧誤差増幅器61の出力電圧と三角波とを比較してPWM信号を発生する。信号SW1,SW2はハイサイド及びローサイドのスイッチング素子のゲートに与えられる。
【0074】
このように、インダクタL1の電流に比例する電圧を出力電圧の検知電圧に加算することで、稼動中のセルコンバータの負荷率が均等化される。
【0075】
最後に、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形及び変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。
【符号の説明】
【0076】
C1…検知キャパシタ
Ci,Co…キャパシタ
CP…電流経路
CSB…電流共有信号線
DD…スイッチング回路
L1…インダクタ
Lo…インダクタンス
Po…出力部
Q1,Q2…スイッチング素子
R1,R11,R12…検知抵抗
R2,R30,R31,R32…抵抗素子
Rs…等価直列抵抗
1…スイッチング制御回路
2…インダクタ電流検知回路
3…差動増幅回路
4…負荷分散コントローラ
5…マイクロプロセッサ
11,12…セルコンバータ
31…電流検出増幅器
32…カレントシェアバスドライバ
33…カレントシェアバスレシーバ
34…電流誤差増幅器
35…調整増幅器
61…電圧誤差増幅器
62…PWMコンパレータ
101…スイッチング電源装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11