(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】表示装置及び該表示装置で用いる光学素子
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20240123BHJP
B60K 35/23 20240101ALI20240123BHJP
G02B 5/04 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/00 A
G02B5/04 A
(21)【出願番号】P 2021575544
(86)(22)【出願日】2020-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2020004712
(87)【国際公開番号】W WO2021157044
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 真人
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0031161(US,A1)
【文献】特開平08-021748(JP,A)
【文献】特開2013-061480(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104536138(CN,A)
【文献】特表2014-512574(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0306170(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0041387(US,A1)
【文献】国際公開第2017/125992(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/169422(WO,A1)
【文献】特開2016-181006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01 - 27/02
G02B 5/04
B60K 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示対象の画像を表示する画像表示素子と、
前記画像表示素子に表示された画像上の各点から出射する光を平行光の光束に変換するコリメータと、
前記光束に関して透明な第1の材料製の平板から成る第1ライトガイドと、
前記光束に関して透明な第2の材料製である板状部材から成り、一方の面が前記平板の一方の面に接する平坦面であり、他方の面が鋸歯状面である第2ライトガイドと、
前記第1ライトガイドと前記第2ライトガイドの前記平坦面の境界に形成された、前記光束の一部を透過させ、残りを反射させるビームスプリッタとを有し、
前記鋸歯状面は、前記境界を透過して前記第2ライトガイドを進行する前記光束の進行方向に対して非平行であって該光束を透過する第1面と、該進行方向に対して略平行である第2面とを
交互に組み合わせたもの
であって、隣接する1個の第1面と1個の第2面から成る鋸歯を7μm以上の間隔で配置して成る
表示装置。
【請求項2】
前記第2面が可視光を遮光又は減光する面である、請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記第2ライトガイドの前記鋸歯状面よりも、前記コリメータから光束が導入される箇所に近い位置に第2平坦面を有する、請求項1又は2に記載の表示装置。
【請求項4】
前記第1ライトガイド内の外部との界面において全反射条件を満たす角度で、前記光束を前記コリメータから前記第1ライトガイドに導入するよう、該コリメータ及び該第1ライトガイドが配置されている、請求項1又は2に記載の表示装置。
【請求項5】
さらに、前記第2ライトガイドの第1面から出射する前記光束の光路上に、該光束に対して非平行に配置され、可視光の一部を透過し残りを反射する板材であるコンバイナを備える、請求項1又は2に記載の表示装置。
【請求項6】
画像表示素子に表示された画像上の各点から出射する光をコリメータで平行光に変換した光束に基づいて画像を拡大して表示する表示装置で用いる光学素子であって、
前記光束に関して透明な第1の材料製の平板から成る第1ライトガイドと、
前記光束に関して透明な第2の材料製である板状部材から成り、一方の面が前記平板の一方の面に接する平坦面であり、他方の面が鋸歯状面である第2ライトガイドと、
前記第1ライトガイドと前記第2ライトガイドの前記平坦面の境界に形成された、前記光束の一部を透過させ、残りを反射させるビームスプリッタとを有し、
前記鋸歯状面は、前記境界を透過して前記第2ライトガイドを進行する前記光束の進行方向に対して非平行であって該光束を透過する第1面と、該進行方向に対して略平行である第2面とを
交互に組み合わせたもの
であって、隣接する1個の第1面と1個の第2面から成る鋸歯を7μm以上の間隔で配置して成る、
表示装置用光学素子。
【請求項7】
前記第2面が可視光を遮光又は減光する面である、請求項6に記載の表示装置用光学素子。
【請求項8】
前記第2ライトガイドの前記鋸歯状面よりも、前記コリメータから光束が導入される箇所に近い位置に第2平坦面を有する、請求項6又は7に記載の表示装置用光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置及び該表示装置で用いる光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、文字や画像(以下、これらをまとめて「画像」と呼ぶ)をスクリーンに投影し、コンバイナを含む虚像光学系を介して、航空機の操縦者や自動車の運転者の眼前に虚像を形成する、ヘッドアップディスプレイと呼ばれる表示装置が提案されている。こうした表示装置では一般に、装置をコンパクトに構成するために、画像表示素子の各点からそれぞれ拡がりをもって出射する光をコリメータにより平行光に変換することにより光束を形成し、その光束をライトガイドに導入して拡大表示する。
【0003】
そのような装置の一例として、特許文献1には、ガラス製の平板内に、コリメータから入射する光を所定の方向に反射させる反射面と、可視光に関して半透明な複数個のビームスプリッタを備えたライトガイドを有する表示装置が記載されている。この表示装置では、ライトガイド内に導入される光束は、前記平板と外部との界面では全反射の条件を満たす方向に反射するように設定されている。これにより、光束はライトガイド内で繰り返し全反射しながらジグザグ状に進行し、ビームスプリッタのうちの1つに入射する。該ビームスプリッタでは、入射した光束のうちの一部は前記平板と外部との界面で全反射が生じない方向に反射されることによって前記平板と外部との界面から前記平板の外に出射し、それ以外は該ビームスプリッタを透過する。1つ目のビームスプリッタを透過した光束は2つ目のビームスプリッタに入射し、その一部は1つ目のビームスプリッタで反射した光束と同じ方向に反射して前記平板の外に出射し、それ以外は該ビームスプリッタを透過する。このような光束の前記平板からの出射が全てのビームスプリッタの箇所で生じることにより、画像上の各点からの光束はライトガイドに入射したときよりも大きい光束となってライトガイドから出射する。これらの光束が観察者の眼に入射することにより、観察者が画像を視認できる範囲が拡大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の表示装置では、画像形成部で生成された画像の光だけでなく、ライトガイドの外部から前記平板と外部との界面に入射する光も、該界面からライトガイド内に入射した後に再度ライトガイド外へ出射し、迷光として観察者の眼に入射してしまう。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、観察者の眼に入射する迷光を抑えることができる表示装置、及び該表示装置で用いる光学素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明に係る表示装置は、
表示対象の画像を表示する画像表示素子と、
前記画像表示素子に表示された画像上の各点から出射する光を平行光の光束に変換するコリメータと、
前記光束に関して透明な第1の材料製の平板から成る第1ライトガイドと、
前記光束に関して透明な第2の材料製である板状部材から成り、一方の面が前記平板の一方の面に接する平坦面であり、他方の面が鋸歯状面である第2ライトガイドと、
前記第1ライトガイドと前記第2ライトガイドの前記平坦面の境界に形成された、前記光束の一部を透過させ、残りを反射させるビームスプリッタと
を備え、
前記鋸歯状面は、前記境界を透過して前記第2ライトガイドを進行する前記光束の進行方向に対して非平行であって該光束を透過する第1面と、該進行方向に対して略平行である第2面とを交互に組み合わせて成る。
【0008】
本発明に係る表示装置用光学素子は、画像表示素子に表示された画像上の各点から出射する光をコリメータで平行光に変換した光束に基づいて画像を拡大して表示する表示装置で用いる光学素子であって、
前記光束に関して透明な第1の材料製の平板から成る第1ライトガイドと、
前記光束に関して透明な第2の材料製である板状部材から成り、一方の面が前記平板の一方の面に接する平坦面であり、他方の面が鋸歯状面である第2ライトガイドと、
前記第1ライトガイドと前記第2ライトガイドの前記平坦面の境界に形成された、前記光束の一部を透過させ、残りを反射させるビームスプリッタと
を備え、
前記鋸歯状面は、前記境界を透過して前記第2ライトガイドを進行する前記光束の進行方向に対して非平行であって該光束を透過する第1面と、該進行方向に対して略平行である第2面とを交互に組み合わせて成る。
【0009】
なお、前記第2の材料は前記第1の材料と同じであってもよい。
【0010】
光束の「進行方向に対して略平行」とは、該進行方向に対して厳密に平行であることには限らず、平行から多少(例えば±15°)傾斜していてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る表示装置及び表示装置用光学素子では、画像表示素子に表示された画像上の各点から出射してコリメータで平行光に変換された光束はビームスプリッタに入射し、その一部がビームスプリッタを透過して第2ライトガイドの第1面から出射する。その残りの、ビームスプリッタを透過することなく反射した光束は、第1ライトガイドの平板の、ビームスプリッタとは反対側の面で反射されてビームスプリッタの別の位置に入射し、その一部がビームスプリッタを透過して第2ライトガイドの第1面の、最初に光束が出射した位置とは異なる位置から出射する。このようにビームスプリッタにおいて繰り返し光束の一部の透過及び残りの反射が生じて、第1面を透過した光束が出射することにより、画像上の各点からの光束は第1ライトガイドに入射したときよりも大きくなる。これにより観察者が画像を視認できる範囲が拡大する。なお、第2面が光束の進行方向に対して略平行であることから、光束が第2面によって遮られることが抑えられ、それにより第1面を透過して観察者の眼に到達する光束に部分的な影が発生することを抑えることができる。
【0012】
一方、表示装置の外部から第2ライトガイドの鋸歯状面に入射する光(外光)は、少なくともその一部が第2面に直接入射するか、又は第1面で反射された後に第2面に入射し、第2面において光の吸収、反射、拡散、減光等が生じるため、ライトガイド内に入射することを抑えることができる。そのため、外光がライトガイド内に入射した後に再度ライトガイド外へ出射する光である迷光が観察者の眼に入射することを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る表示装置の第1実施形態を示す概略構成図。
【
図2】本発明に係る表示装置の第2実施形態を示す概略構成図。
【
図3】第1実施形態の表示装置の変形例を示す概略構成図。
【
図4】第1実施形態の表示装置の他の変形例を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1~
図4を用いて、本発明に係る表示装置及び表示装置用光学素子の実施形態を説明する。
【0015】
(1) 第1実施形態の表示装置及び表示装置用光学素子の構成
図1に、第1実施形態の表示装置10の概略構成図を示す。この表示装置10は、画像表示素子11と、コリメータ12と、表示装置用光学素子13と、コンバイナ14とを有する。表示装置用光学素子13は、第1ライトガイド131と、第2ライトガイド132と、ビームスプリッタ133とを有する。以下、表示装置10のこれらの構成要素について説明する。
【0016】
画像表示素子11は、第1実施形態の表示装置10に表示させる画像の元となる、拡大される前の画像(「元画像」と呼ぶ)を表示する素子である。画像表示素子11には、透過型液晶表示素子、反射型液晶表示素子、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)、有機EL表示素子、マイクロLED表示素子等を用いることができる。
【0017】
コリメータ12は、画像表示素子11で表示される元画像の各点からそれぞれ拡がりをもって出射する光を平行光の光束に変換する光学素子であり、レンズやミラー等で構成される。
【0018】
第1ライトガイド131は、コリメータ12で変換された光束に関して透明な第1の材料製の、長方形の平板から成る。第1の材料には、各種の光学ガラスや樹脂等を用いることができる。前記長方形の長辺方向に関する一端1311付近の第1ライトガイド131内には、前記平板に対して所定の角度で傾斜した反射面1351が形成されている。コリメータ12は、それを出射した光束が反射面1351に入射するように配置されている。前記所定の角度は、反射面1351で反射された光束が、前記平板と外部(空気)との境界において全反射条件を満たす角度となるように設定されている。反射面1351は、例えば前記平板を該反射面1351と同じ切断面となるように切断し、前記光束を反射する材料から成るコーティングを該切断面に施したうえで再接合することにより形成することができる。
【0019】
第2ライトガイド132は、前記光束に関して透明な第2の材料製の板材であって、第1ライトガイド131の平板のうち、反射面1351よりも前記一端1311の反対側において該平板の表面の一部と接触する平坦面1323と、該平坦面1323に対向する鋸歯状面1320とを有する。第2の材料には、第1の材料と同様に光学ガラスや樹脂等を用いることができる。第1の材料と第2の材料は同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。但し、第1ライトガイド131と第2ライトガイド132の境界に、前記平板と外部(空気)との境界において全反射条件を満たす角度で前記光束が入射したときに、該平坦面1323では全反射が生じない条件を満たす屈折率を有するように、第1の材料と第2の材料を選択する。
【0020】
第1ライトガイド131と第2ライトガイド132が接触している境界には、光束を一部通過させ、残りを反射させるビームスプリッタ133が設けられている。本実施形態では、光束を所定の透過率で透過させるために、該境界に光学コーティングを施している。なお、このような光学コーティングを施す代わりに、第1ライトガイドと第2ライトガイドに屈折率が異なる材料を組合せ、その屈折率差による反射を利用することで、第1ライトガイド131と第2ライトガイド132を接合するだけでも、該接合面をビームスプリッタとして機能させることができる。
【0021】
このように第1ライトガイド131、第2ライトガイド132及びビームスプリッタ133が設けられていることにより、反射面1351で反射された光束は、第1ライトガイド131のうち第2ライトガイド132と接触していない部分1352において平板の両面で全反射しながら前記他端側に進行し、ビームスプリッタ133に入射する。このように、ビームスプリッタ133に光束を入射させる光学系に相当する、反射面1351、及び第1ライトガイド131のうち第2ライトガイド132と接触していない部分1352を合わせて、第1実施形態では「導入光学系135」と呼ぶ。
【0022】
鋸歯状面1320は、互いに非平行且つ共に前記平坦面1323に対して非平行である第1面1321と第2面1322を交互に組み合わせて、前記長辺方向に複数組並ぶように配置することによって構成されている。第1面1321は、前記平板と外部(空気)との境界において全反射条件を満たす角度でビームスプリッタ133を透過して第2ライトガイド132内を進行する前記光束に対して非平行(本実施形態では略垂直)な面である。一方、第2面1322は、同様に第2ライトガイド132内を進行する前記光束に対して略平行な面である。このように第1面1321及び第2面1322が構成されていることにより、第2ライトガイド132内を進行する前記光束は、第2面1322ではほとんど(入射及び)透過することなく、第1面1321のみを透過して外部に出射する。
【0023】
本実施形態では、第2面1322には、可視光を吸収する光吸収剤である黒色の塗料が塗布されている。これにより、外部から第2面に入射した外光(
図1中に一点鎖線で示す)、又は第1面で反射された後に第2面に入射した外光(同・二点鎖線)は第2面1322で遮光される。すなわち、このような外光は、第2面1322を透過して第2ライトガイド132内に入射することなく、光吸収剤に吸収される。なお、第1面1321には光吸収剤は塗布されていない。
【0024】
本実施形態では同一の形状及び大きさを有する鋸歯状面1320を略等間隔に配置したが、形状及び/又は大きさが互いに異なる鋸歯状面を用いたり、鋸歯状面を非等間隔に配置してもよい。
【0025】
なお、第2ライトガイド132は、一見すると回折格子に類似した形状を有するが、鋸歯状面1320の間隔が可視光の波長(0.4~0.7μm)よりも十分(例えば10倍以上)長いため、回折格子として機能するものではない。
【0026】
ビームスプリッタ133で反射される光束は、第1ライトガイド131の平板のビームスプリッタ133とは反対側の面134に入射するが、該面134では全反射条件を満たしているため該光束は全反射される。
【0027】
コンバイナ14は、可視光の一部を透過し残りを反射する板材である。このコンバイナ14は、鋸歯状面1320に対向し、第1面1321から出射する前記光束の光路上に、該光束に対して非平行に配置されている。これにより、第1面1321から出射する前記光束の一部はコンバイナ14で反射され、該光束が反射した方向(
図1の右方)からコンバイナ14を見る観察者に視認される。それと共に、観察者はコンバイナ14の反対側の領域を、コンバイナ14を介して視認することができる。
【0028】
(2) 第1実施形態の表示装置及び表示装置用光学素子の動作
第1実施形態の表示装置10及び表示装置用光学素子13の動作を説明する。
【0029】
画像表示素子11では元画像が表示され、その画像上の各点からそれぞれ拡がりをもって光が出射する。それらの光は、コリメータ12で平行光の光束に変換される。この光束は、第1ライトガイド131に導入され、反射面1351で反射される。その後、光束は第1ライトガイド131のうち第2ライトガイド132と接触していない部分1352において平板の両面で全反射しながら、第2ライトガイド132側に進行し、ビームスプリッタ133に入射する。
【0030】
ビームスプリッタ133では、入射した光束の一部が透過し、残りが反射する。ビームスプリッタ133で反射した光束は、前記の面134で全反射された後、最初にビームスプリッタ133に入射した位置よりも反射面1351の反対側寄り(
図1の右側)で再びビームスプリッタ133に入射し、その一部が透過し、残りが反射する。このように、ビームスプリッタ133では、異なる複数の位置において光束の透過及び反射が繰り返し生じるが、それら各位置で透過する光束は互いに平行になる(
図1中の破線参照)。
【0031】
ビームスプリッタ133を透過した光束は第2ライトガイド132内を進行し、第1面1321を透過して外部に出射する。
【0032】
第1面1321から出射した光束は、少なくともその一部がコンバイナ14で反射され、該光束が反射した方向(
図1の右方)からコンバイナ14を見る観察者の眼に到達する。前述のようにビームスプリッタ133中の異なる複数の位置においてそれぞれ透過した光束は互いに平行であるが、コンバイナ14で反射された後も互いに平行である関係を維持したまま観察者の眼に到達する。これにより、画像表示素子11に表示された元画像の各点から出射してコリメータ12で平行光に変換された光束は、コリメータ12を出射したときよりも大きい光束となって観察者の眼に入射する。そのため、観察者が画像を視認できる範囲が拡大する。
【0033】
なお、第2ライトガイド132の第2面1322が光束の進行方向に対して略平行であることから、光束が第2面1322によって遮られることが抑えられ、それにより第1面1321を透過して観察者の眼に到達する光束に部分的な影が発生することを抑えることができる。
【0034】
一方、外部から表示装置用光学素子13に入射する外光のうち、少なくとも第2ライトガイド132の第2面1322に直接入射したもの(
図1中の一点鎖線)及び第1面1321で反射された後に第2面1322に入射したもの(同・二点鎖線)は、第2面1322の光吸収剤に吸収される。そのため、これら第2面1322に入射した外光が第2ライトガイド132内(さらには第1ライトガイド131内)に入射して再度第2ライトガイド132外へ出射することで観察者の眼に入射することを防ぐことができ、迷光を抑えることができる。
【0035】
本実施形態の表示装置10及び表示装置用光学素子13では、上述のように迷光を抑えることができるという効果に加えて、第1ライトガイド131と第2ライトガイド132の境界にのみビームスプリッタ133を1つのみ形成すればよいため、ライトガイドの内部に複数個のビームスプリッタを形成しなければならない特許文献1に記載の表示装置及び表示装置用光学素子よりも容易に作製することができるという効果も奏する。
【0036】
(3) 第2実施形態の表示装置及び表示装置用光学素子の構成
図2に、第2実施形態の表示装置20の概略構成図を示す。表示装置20は、第1実施形態の表示装置10と同様の画像表示素子11、コリメータ12及びコンバイナ14を備えると共に、第1実施形態とは異なる表示装置用光学素子23を備える。表示装置用光学素子23は、第1ライトガイド231と、第2ライトガイド232と、ビームスプリッタ233とを有する。以下、表示装置用光学素子23の構成を中心に説明する。
【0037】
第1ライトガイド231は、コリメータ12で変換された光束に関して透明な第1の材料製の、長方形の平板から成る。該長方形の長辺方向の一端(該長方形の一方の短辺)の端面2310は、該平板の上下の面に対して斜めに切断された形状を呈している。なお、第2実施形態の表示装置20において第1実施形態と同様の第1ライトガイド131を用いてもよいし、第1実施形態の表示装置10において第2実施形態と同様の第1ライトガイド231を用いてもよい。
【0038】
第2ライトガイド232は、前記光束に関して透明な第2の材料製の板材であって、第1ライトガイド231の平板のうち端面2310の反対側において該平板の表面の一部と接触する平坦面2323と、該平坦面2323に対向する面のうち端面2310の反対側寄りの一部に設けられた鋸歯状面2320と、該平坦面2323に対向する面のうち鋸歯状面2320よりも端面2310寄りの領域(「第2平坦面形成領域2325」とする)に設けられた第2平坦面2324とを有する。鋸歯状面2320は、第1実施形態の鋸歯状面1320におけるものと同様の、第1面2321及び第2面2322を交互に組み合わせた構成を有する。第2面2322に可視光を吸収する光吸収剤が塗布されている点も第1実施形態と同様である。
【0039】
第1ライトガイド231を構成する第1の材料、及び第2ライトガイド232を構成する第2の材料にはそれぞれ、第1実施形態と同様の材料を用いる。
【0040】
コリメータ12は、第1ライトガイド231の端面2310に対向するように配置されている。また、コリメータ12から出射して第1ライトガイド231内に導入される光束が第1ライトガイド231と外部との境界、及び第2ライトガイド232の第2平坦面2324と外部との境界において全反射する条件を満たすように、表示装置用光学素子23に対するコリメータ12の向きが設定されている。
【0041】
ビームスプリッタ233は、第1ライトガイド231と第2ライトガイド232が接触している境界に、光束を所定の透過率で透過させるための光学コーティングが施されて成る。なお、ビームスプリッタ233は、第2ライトガイド232のうち鋸歯状面2320に対向する位置のみならず、第2平坦面形成領域2325にも設けられている。
【0042】
(4) 第2実施形態の表示装置及び表示装置用光学素子の動作
第2実施形態の表示装置20及び表示装置用光学素子23の動作を説明する。画像表示素子11で表示される元画像の各点からそれぞれ拡がりをもって出射した光がコリメータ12で平行光の光束に変換されるまでの動作は、第1実施形態と同様である。
【0043】
この光束は、端面2310から第1ライトガイド231に導入され、第1ライトガイド231と外部との境界で全反射を繰り返し、第2平坦面形成領域2325に到達する。第2平坦面形成領域2325において、光束の一部はビームスプリッタ233を透過して第2平坦面2324で全反射し、残りはビームスプリッタ233で反射する。第2平坦面2324で全反射した光束と、ビームスプリッタ233で反射した光束は、互いに平行であって、且つ、第1ライトガイド231の長手方向に互いにずれた位置の光路を進行する(
図2中の破線参照)。これらの光束はいずれも、第1ライトガイド231のビームスプリッタ233とは反対側の面で全反射され、再びビームスプリッタ233に入射し、その一部がビームスプリッタ233を透過して第2平坦面2324で全反射し、残りはビームスプリッタ233で反射する。このように、光束は、第2平坦面2324とビームスプリッタ233という異なる位置での反射を繰り返した後、ビームスプリッタ233を通過して鋸歯状面2320の第1面2321に達し、該第1面2321からコンバイナ14に向けて出射する。その後の動作は、第1実施形態の表示装置10と同様である。
【0044】
本実施形態の表示装置20及び表示装置用光学素子23によれば、光束が第1ライトガイド231の長手方向に互いにずれた多数の経路を通過することにより、光束が該方向に拡がって分布する。これにより、第1面2321において光束が通過しない領域を無くすか又は少なくすることができ、観察者はムラの少ない画像を視認することができる。
【0045】
また、本実施形態の表示装置20及び表示装置用光学素子23によれば、第1実施形態と同様に、外部から表示装置用光学素子23に入射する外光のうち、少なくとも第2ライトガイド232の第2面2322に直接、又は第1面2321に反射されて入射したものが第2面2322の光吸収剤に吸収されることにより迷光を抑えることができる。
【0046】
(5) 変形例
本発明は上記実施形態には限定されず、種々の変形が可能である。
【0047】
例えば、上記実施形態では第2面1322、2322が可視光を吸収することにより遮光する構成としたが、第2面1322、2322に可視光を反射又は拡散するコーティングを施したり、第2面1322、2322に可視光を遮光する外部マスクを装着してもよい。
【0048】
また、第2面1322、2322において、外光の一部を吸収、反射又は拡散させることによって減光を生じさせるコーティングや加工等を施しても良い。その場合、遮光程ではないが、外光が第2ライトガイド132、232に入射して迷光が生じることを抑えることができる。
【0049】
上記実施形態ではコンバイナ14を構成する板材を1個のみ設けたが、2個以上(例えば
図3に示す第1板材141及び第2板材142)の板材を互いに略平行に設けてもよい。これにより、第1面1321を透過した光束のうち、最初に入射する第1板材141を透過したものの一部が第2板材142で反射される。こうして第1板材141で反射された光束と第2板材142で反射された光束は、互いに平行であって且つ位置がずれているため、観察者が画像を視認できる範囲をより一層大きくすることができる。なお、
図3では板材を2枚用いる例を示したが、板材を3枚以上用いてもよい。
【0050】
あるいは、
図4に示すように、コンバイナ14を省略してもよい。この場合、観察者は、第1面1321を透過した光束が進行する方向から表示装置用光学素子13を見ることにより、画像を視認することができる。
【0051】
なお、コンバイナ14以外の構成は、
図3及び
図4では第1実施形態の表示装置10と同じ構成としたが、第2実施形態の表示装置20やそれ以外の変形例と同じ構成としてもよい。
【0052】
上記実施形態では、第1ライトガイド131の平板と外部(空気)との境界において全反射条件を満たす角度となるように、光束を第1ライトガイド131に入射させているが、ビームスプリッタ133と接する部分以外の第1ライトガイド131の表面に、光束を反射させるコーティングを施したうえで、前記全反射条件を満たす角度よりも深い角度で光束を第1ライトガイド131に入射させてもよい。あるいは、このようなコーティングを施すことなく、前記全反射条件を満たす角度よりも深い角度で光束を第1ライトガイド131に入射させた場合にも、少なくとも光束の一部が第1ライトガイド131の表面で反射するため、表示装置及び表示装置用光学素子として機能させることができる。
【0053】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態及びその変形例が以下の態様の具体例であることは、当業者であれば容易に理解される。
【0054】
(第1項)
第1項に係る表示装置は、
表示対象の画像を表示する画像表示素子と、
前記画像表示素子に表示された画像上の各点から出射する光を平行光の光束に変換するコリメータと、
前記光束に関して透明な第1の材料製の平板から成る第1ライトガイドと、
前記光束に関して透明な第2の材料製である板状部材から成り、一方の面が前記平板の一方の面に接する平坦面であり、他方の面が鋸歯状面である第2ライトガイドと、
前記第1ライトガイドと前記第2ライトガイドの前記平坦面の境界に形成された、前記光束の一部を透過させ、残りを反射させるビームスプリッタとを有し、
前記鋸歯状面は、前記境界を透過して前記第2ライトガイドを進行する前記光束の進行方向に対して非平行であって該光束を透過する第1面と、該進行方向に対して略平行である第2面とを交互に組み合わせて成る。
【0055】
(第6項)
第6項に係る表示装置用光学素子は、画像表示素子に表示された画像上の各点から出射する光をコリメータで平行光に変換した光束に基づいて画像を拡大して表示する表示装置で用いる光学素子であって、
前記光束に関して透明な第1の材料製の平板から成る第1ライトガイドと、
前記光束に関して透明な第2の材料製である板状部材から成り、一方の面が前記平板の一方の面に接する平坦面であり、他方の面が鋸歯状面である第2ライトガイドと、
前記第1ライトガイドと前記第2ライトガイドの前記平坦面の境界に形成された、前記光束の一部を透過させ、残りを反射させるビームスプリッタとを有し、
前記鋸歯状面は、前記境界を透過して前記第2ライトガイドを進行する前記光束の進行方向に対して非平行であって該光束を透過する第1面と、該進行方向に対して略平行である第2面とを交互に組み合わせて成る。
【0056】
第1項に係る表示装置及び第6項に係る表示装置用光学素子では、画像表示素子に表示された画像上の各点から出射してコリメータで平行光に変換された光束はビームスプリッタに入射し、その一部がビームスプリッタを透過して第2ライトガイドの第1面から出射する。その残りの、ビームスプリッタを透過することなく反射した光束は、第1ライトガイドの平板の、ビームスプリッタとは反対側の面で反射されてビームスプリッタの別の位置に入射し、その一部がビームスプリッタを透過して第2ライトガイドの第1面の、最初に光束が出射した位置とは異なる位置から出射する。このようにビームスプリッタにおいて繰り返し光束の一部の透過及び残りの反射が生じて、透過した光束が出射することにより、画像上の各点からの光束は第1ライトガイドに入射したときよりも大きくなる。これにより観察者が画像を視認できる範囲が拡大する。
【0057】
一方、表示装置の外部から第2ライトガイドの鋸歯状面に入射する光は、少なくともその一部が第2面に直接入射するか、又は第1面で反射された後に第2面に入射し、第2面において該光の吸収、反射、拡散、減光等が生じる。そのため、外光がライトガイド内に入射した後に再度ライトガイド外へ出射する光である迷光が観察者の眼には入射することを抑えることができる。
【0058】
(第2項)
第2項に係る表示装置は、第1項に係る表示装置において、前記第2面が可視光を遮光する面である。
【0059】
(第7項)
第7項に係る表示装置用光学素子は、第6項に係る表示装置用光学素子において、前記第2面が可視光を遮光又は減光する面である。
【0060】
第2項に係る表示装置及び第7項に係る表示装置用光学素子によれば、表示装置の外部から第2ライトガイドの鋸歯状面の第2面に直接入射するか、又は第1面で反射された後に第2面に入射した外光が第2面において遮光又は減光されるため、該外光がライトガイド内に入射することを防止(遮光の場合)又は抑制(減光の場合)することができる。そのため、迷光が観察者の眼に入射することをより一層抑えることができる。
【0061】
ここで「可視光を遮光する」ことは、入射した可視光を全て透過させないことを意味し、入射した可視光を全て吸収すること、全て反射すること、全て散乱させることを含む。また、「可視光を減光する」ことは、入射した可視光の一部を透過させないことを意味し、入射した可視光の一部を吸収すること、一部を反射すること、一部を散乱させることを含む。
【0062】
(第3項)
第3項に係る表示装置は、第1項又は第2項に係る表示装置において、前記第2ライトガイドの前記鋸歯状面よりも、前記コリメータから光束が導入される箇所に近い位置に第2平坦面を有する。
【0063】
(第8項)
第8項に係る表示装置用光学素子は、第6項又は第7項に係る表示装置用光学素子において、前記第2ライトガイドの前記鋸歯状面よりも、前記コリメータから光束が導入される箇所に近い位置に第2平坦面を有する。
【0064】
第3項に係る表示装置及び第8項に係る表示装置用光学素子によれば、ビームスプリッタを透過して第2平坦面で反射される光束とビームスプリッタで反射される光束が互いにずれた経路を通過して第1面から表示装置用光学素子の外部に出射する。そのため、第1面において光束が通過しない領域を無くすか又は少なくすることができ、観察者はムラの少ない画像を視認することができる。
【0065】
(第4項)
第4項に係る表示装置は、第1項から第3項のいずれか1項に係る表示装置において、前記第1ライトガイド内の外部との界面において全反射条件を満たす角度で、前記光束を前記コリメータから前記第1ライトガイドに導入するよう、該コリメータ及び該第1ライトガイドが配置されている。
【0066】
第4項に係る表示装置によれば、第1ライトガイド内での光束の損失を抑制することができる。
【0067】
(第5項)
第5項に係る表示装置は、第1項から第4項のいずれか1項に係る表示装置において、さらに、前記第2ライトガイドの第1面から出射する前記光束の光路上に、該光束に対して非平行に配置され、可視光の一部を透過し残りを反射する板材であるコンバイナを備える。
【0068】
第5項に係る表示装置によれば、第2ライトガイドの第1面から出射した光束の一部がコンバイナで反射されて観察者の眼に入射する。それと共に、観察者は、コンバイナの反対側の領域を、コンバイナを介して視認することができる。これにより、例えば航空機の操縦席の前方にコンバイナを配置し、操縦席に着席した観察者が前方(コンバイナの反対側)を視認しながら、画像表示素子に表示された画像を拡大して視認することができる。
【符号の説明】
【0069】
10、20…表示装置
11…画像表示素子
12…コリメータ
13、23…表示装置用光学素子
131、231…第1ライトガイド
1311…第1ライトガイドの一端
132、232…第2ライトガイド
1320、2320…鋸歯状面
1321、2321…第1面
1322、2322…第2面
1323、2323…平坦面
133、233…ビームスプリッタ
134…第1ライトガイドの平板のビームスプリッタとは反対側の面
135…導入光学系
1351…反射面
1352…第1ライトガイドのうち第2ライトガイドと接触していない部分
14…コンバイナ
141…第1板材
142…第2板材
2324…第2平坦面
2325…第2平坦面形成領域