(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】動態画像解析装置、プログラム及び動態画像解析方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/00 20240101AFI20240123BHJP
【FI】
A61B6/00 350A
A61B6/00 330A
(21)【出願番号】P 2022115217
(22)【出願日】2022-07-20
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 諒一
(72)【発明者】
【氏名】福元 剛智
(72)【発明者】
【氏名】山崎 誘三
(72)【発明者】
【氏名】石神 康生
(72)【発明者】
【氏名】神谷 武志
(72)【発明者】
【氏名】樋田 知之
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-116605(JP,A)
【文献】特開2015-097724(JP,A)
【文献】国際公開第2019/058657(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0143667(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0125296(US,A1)
【文献】特開2020-014562(JP,A)
【文献】特開2012-239796(JP,A)
【文献】特表2006-519055(JP,A)
【文献】特開2016-073560(JP,A)
【文献】特開2021-052999(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0206303(US,A1)
【文献】特開2017-018681(JP,A)
【文献】特開2013-138867(JP,A)
【文献】原田 潤太 他,僧帽弁膜疾患へのCTの試み,心臓,1979年,11巻、12号,p. 1315-1321,[検索日:2023.09.07], <DOI: https://doi.org/10.11281/shinzo1969.11.12_1315>
【文献】上田 英雄 他,心臓血管造影撮影用X線装置,日立評論,1966年,第48巻、第3号,p. 383-388,[検索日:2023.09.07], <URL: https://www.hitachihyoron.com/jp/archive/1960s/1966/03.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02 - 5/03 、 6/00 - 6/14 、
G06T 1/00 - 1/40 、 3/00 - 7/90 、
G06V10/00 -20/90 、30/418、40/16 、
40/20
医中誌WEB
インターネット
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線
を照射して被写体の胸部の動態画像を造影剤を使わずに撮影する動態撮影により得られた
前記動態画像を取得する取得部と、
前記動態画像における肺動脈と心臓の少なくとも一方に関連する部位の動態画像情報に基づいて、肺動脈弁逆流に関する情報を生成する生成部と、
前記生成部によって生成された前記肺動脈弁逆流に関する情報を出力する出力部と、
を備えることを特徴とする動態画像解析装置。
【請求項2】
前記部位は、少なくとも左右いずれかの肺野領域の内部であって左右肺動脈近位部の領域を含むことを特徴とする請求項1に記載の動態画像解析装置。
【請求項3】
前記部位は、左右の肺野領域の内部であって左右肺動脈近位部に設定した対象領域で
あることを特徴とする請求項1に記載の動態画像解析装置。
【請求項4】
前記肺動脈弁逆流に関する情報は、左右両方の前記対象領域における値の平均値であることを特徴とする請求項3に記載の動態画像解析装置。
【請求項5】
動態画像情報は画素の信号値であり、
前記生成部は、前記部位における画素の信号値から得られた情報に基づいて、前記肺動脈弁逆流に関する情報を生成することを特徴とする請求項1に記載の動態画像解析装置。
【請求項6】
動態画像情報は画素の信号値であり、
前記生成部は、前記部位における画素の信号値の平均値に基づいて、前記肺動脈弁逆流に関する情報を生成することを特徴とする請求項1に記載の動態画像解析装置。
【請求項7】
前記肺動脈弁逆流に関する情報は、前記肺動脈弁逆流の有無の情報であることを特徴とする請求項1に記載の動態画像解析装置。
【請求項8】
前記肺動脈弁逆流に関する情報は、前記肺動脈弁逆流の重症度の情報であることを特徴とする請求項1に記載の動態画像解析装置。
【請求項9】
前記生成部は、前記肺動脈弁逆流に関する情報として、前記部位における血流波形の形状の情報を生成することを特徴とする請求項1に記載の動態画像解析装置。
【請求項10】
前記生成部は、前記肺動脈弁逆流に関する情報として、前記部位における血流を可視化した情報を生成することを特徴とする請求項1に記載の動態画像解析装置。
【請求項11】
前記生成部は、前記部位における血流波形に基づいて、前記肺動脈弁逆流に関する情報を生成することを特徴とする請求項1に記載の動態画像解析装置。
【請求項12】
前記生成部は、前記部位において得られた指標に基づいて、前記肺動脈弁逆流に関する情報を生成することを特徴とする請求項1に記載の動態画像解析装置。
【請求項13】
前記生成部は、前記肺動脈弁逆流に関する情報として、前記部位における血流波形、血流波形の歪度、血流波形の尖度、血流波形の振幅及び逆流率に関する情報のうち少なくとも一つを生成することを特徴とする請求項1に記載の動態画像解析装置。
【請求項14】
放射線を単方向から照射して被写体の胸部の動態画像を撮影する動態撮影により得られた前記動態画像を取得する取得部と、
前記動態画像における肺動脈と心臓の少なくとも一方に関連する部位の動態画像情報に基づいて、肺動脈弁逆流に関する情報を生成する生成部と、
前記生成部によって生成された前記肺動脈弁逆流に関する情報を出力する出力部と、
を備えることを特徴とする動態画像解析装置。
【請求項15】
前記部位は、少なくとも左右いずれかの肺野領域の内部であって左右肺動脈近位部の領域を含むことを特徴とする請求項14に記載の動態画像解析装置。
【請求項16】
前記部位は、左右の肺野領域の内部であって左右肺動脈近位部に設定した対象領域であることを特徴とする請求項14に記載の動態画像解析装置。
【請求項17】
前記肺動脈弁逆流に関する情報は、左右両方の前記対象領域における値の平均値であることを特徴とする請求項16に記載の動態画像解析装置。
【請求項18】
動態画像情報は画素の信号値であり、
前記生成部は、前記部位における画素の信号値から得られた情報に基づいて、前記肺動脈弁逆流に関する情報を生成することを特徴とする請求項14に記載の動態画像解析装置。
【請求項19】
動態画像情報は画素の信号値であり、
前記生成部は、前記部位における画素の信号値の平均値に基づいて、前記肺動脈弁逆流に関する情報を生成することを特徴とする請求項14に記載の動態画像解析装置。
【請求項20】
前記肺動脈弁逆流に関する情報は、前記肺動脈弁逆流の有無の情報であることを特徴とする請求項14に記載の動態画像解析装置。
【請求項21】
前記肺動脈弁逆流に関する情報は、前記肺動脈弁逆流の重症度の情報であることを特徴とする請求項14に記載の動態画像解析装置。
【請求項22】
前記生成部は、前記肺動脈弁逆流に関する情報として、前記部位における血流波形の形状の情報を生成することを特徴とする請求項14に記載の動態画像解析装置。
【請求項23】
前記生成部は、前記肺動脈弁逆流に関する情報として、前記部位における血流を可視化した情報を生成することを特徴とする請求項14に記載の動態画像解析装置。
【請求項24】
前記生成部は、前記部位における血流波形に基づいて、前記肺動脈弁逆流に関する情報を生成することを特徴とする請求項14に記載の動態画像解析装置。
【請求項25】
前記生成部は、前記部位において得られた指標に基づいて、前記肺動脈弁逆流に関する情報を生成することを特徴とする請求項14に記載の動態画像解析装置。
【請求項26】
前記生成部は、前記肺動脈弁逆流に関する情報として、前記部位における血流波形、血流波形の歪度、血流波形の尖度、血流波形の振幅及び逆流率に関する情報のうち少なくとも一つを生成することを特徴とする請求項14に記載の動態画像解析装置。
【請求項27】
コンピューターに、
放射線
を照射して被写体の胸部の動態画像を造影剤を使わずに撮影する動態撮影により得られた
前記動態画像を取得させる処理と、
前記動態画像における肺動脈と心臓の少なくとも一方に関連する部位の動態画像情報に基づいて、肺動脈弁逆流に関する情報を生成する処理と、
生成された前記肺動脈弁逆流に関する情報を出力する処理と、
を実行させるプログラム。
【請求項28】
放射線
を照射して被写体の胸部の動態画像を造影剤を使わずに撮影する動態撮影により得られた
前記動態画像を取得させるステップと、
前記動態画像における肺動脈と心臓の少なくとも一方に関連する部位の動態画像情報に基づいて、肺動脈弁逆流に関する情報を生成するステップと、
生成された前記肺動脈弁逆流に関する情報を出力するステップと、
を備える動態画像解析方法。
【請求項29】
コンピューターに、
放射線を単方向から照射して被写体の胸部の動態画像を撮影する動態撮影により得られた前記動態画像を取得させる処理と、
前記動態画像における肺動脈と心臓の少なくとも一方に関連する部位の動態画像情報に基づいて、肺動脈弁逆流に関する情報を生成する処理と、
生成された前記肺動脈弁逆流に関する情報を出力する処理と、
を実行させるプログラム。
【請求項30】
放射線を単方向から照射して被写体の胸部の動態画像を撮影する動態撮影により得られた動態画像を取得させるステップと、
前記動態画像における肺動脈と心臓の少なくとも一方に関連する部位の動態画像情報に基づいて、肺動脈弁逆流に関する情報を生成するステップと、
生成された前記肺動脈弁逆流に関する情報を出力するステップと、
を備える動態画像解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動態画像解析装置、プログラム及び動態画像解析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
肺動脈弁逆流(肺動脈弁逆流症)があることにより肺や心臓等の血流が長期的に滞ると、右心不全などの生命に関わる重大な合併症を引き起こす。
このため、肺動脈弁逆流がある場合や逆流が疑われる場合には、定期的に経過観察を行い、再手術の時期を判断することが好ましい。肺動脈弁逆流は、例えばファロー四徴症に罹患している場合に生じる症状の1つである。ファロー四徴症は難病指定されている先天性の心疾患であり、罹患している場合には一般に心臓外科手術が行われるが、術後に肺動脈弁逆流の症状が起こる可能性が高い。その他、二次性・特発性の肺高血圧症においても、肺動脈弁逆流が生じることが知られている。
【0003】
肺動脈弁逆流の有無や程度を観察・診断するための主な手法としては、例えば超音波を利用して心臓や血管等の画像を描出するエコー検査(心エコー検査)やMRI(Magnetic
Resonance Imaging)検査等が用いられている。
【0004】
しかし、超音波を利用したエコー検査では、超音波画像に加えてカラードプラを見ることで簡易診断を行うことができるが、プローブ操作の技術力が必要であり、臨床データ等において肺動脈弁逆流が疑われているのに経胸壁エコー図の質が悪い等により、臨床データとエコー指標とに解離が生じる場合がある。この場合には結局MRI検査が必要となってしまう。
MRI検査では、簡易診断(逆流の有無の診断)に加えて、どの程度の逆流が起きているかといった定量評価(逆流率の算出等、詳細検査)を行うことができるが、患者の体内にMRI非対応の金属がある場合には撮影を行うことができないという制限がある。さらに、MRI検査の場合、撮影時間も比較的長くかかり、撮影を行う間、狭くて音の大きな装置の中にじっとしている必要があるため、特に閉所恐怖症や精神発達遅滞を有する患者への使用が難しい場合がある。
【0005】
この点、例えば特許文献1には、連続的に撮影された胸部X線の動態画像を用いて、肺血流や心血流等の血流を解析する手法が開示されている。
X線動態画像を用いて血流解析を行うことによって肺動脈弁逆流の有無等を判断することができれば、患者への負担が少なく簡易な手法によって、肺動脈弁逆流の診断ニーズに広く応えることが期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載に記載されているように、X線動態画像を用いた血流解析の手法は、肺塞栓症に関する診断への活用は行われているが、肺動脈弁逆流に関する診断への活用は未だ検討されていない。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、動態画像の画像解析を行うという、被検者にとって負担が少なく比較的簡易な手法によって、肺動脈弁逆流に関する診断支援
を行うことのできる動態画像解析装置、プログラム及び動態画像解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の問題を解決するために、本発明の動態画像解析装置は、
放射線を照射して被写体の胸部の動態画像を造影剤を使わずに撮影する動態撮影により得られた前記動態画像を取得する取得部と、
前記動態画像における肺動脈と心臓の少なくとも一方に関連する部位の動態画像情報に基づいて、肺動脈弁逆流に関する情報を生成する生成部と、
前記生成部によって生成された前記肺動脈弁逆流に関する情報を出力する出力部と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、動態画像の画像解析を行うという、被検者にとって負担が少なく比較的簡易な手法によって、肺動脈弁逆流に関する診断支援を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る解析装置を含む画像撮影システムを表す図である。
【
図2】胸部のX線動態画像の一例を示す図であり、心臓(心室)及び肺野にそれぞれ対象領域を設定した場合を示すイメージ図である。
【
図3】肺動脈弁逆流に関する情報が血流波形である場合の動態画像解析処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図4】肺動脈に関連する部位の血流波形の一例を示す図である。
【
図5】健常者における肺動脈に関連する部位の血流波形の一例を示す図である。
【
図6】肺動脈弁逆流がある患者における肺動脈に関連する部位の血流波形の一例を示す図である。
【
図7】肺動脈弁逆流に関する情報が血流波形に基づいて得られた歪度及び尖度である場合の動態画像解析処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図10】肺動脈弁逆流に関する情報が予測逆流率及びそれに基づく判定結果である場合の動態画像解析処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図11】重回帰分析によって予測逆流率を算出した場合の算出結果のグラフ例を示す図である。
【
図12】心臓-肺野の信号値比について説明する説明図であり、(a)は、健常者の場合を示し、(b)は、肺動脈弁逆流がある患者の場合を示している。
【
図13】心臓に設定された対象領域における血流波形の信号値を示すグラフである。
【
図14】肺野に設定された対象領域における血流波形の信号値を示すグラフである。
【
図15】肺動脈弁逆流に関する情報が心臓-肺野の信号値比である場合の動態画像解析処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図16】心臓-肺野の信号値比と肺動脈弁逆流の逆流率との関係を示すグラフである。
【
図17】
図16におけるデータの分散具合を示す箱ひげ図である。
【
図18】胸部のX線動態画像の一例を示す図であり、心臓全体及び肺野全体を対象領域とした場合を示すイメージ図である。
【
図19】心臓全体を対象領域とした場合における血流波形の信号値を示すグラフである。
【
図20】肺野全体を対象領域とした場合における血流波形の信号値を示すグラフである。
【
図21】心臓全体及び肺野全体を対象領域とした場合における心臓-肺野の信号値比と肺動脈弁逆流の逆流率との関係を示すグラフである。
【
図22】
図21におけるデータの分散具合を示す箱ひげ図である。
【
図23】心臓全体を対象領域とした場合における血流波形の積算信号値を示すグラフである。
【
図24】肺野全体を対象領域とした場合における血流波形の積算信号値を示すグラフである。
【
図25】心臓全体及び肺野全体を対象領域とし積算信号値を用いた場合における心臓-肺野の信号値比と肺動脈弁逆流の逆流率との関係を示すグラフである。
【
図26】
図25におけるデータの分散具合を示す箱ひげ図である。
【
図27】肺動脈弁逆流に関する情報が歪度及び尖度を用いた肺動脈弁逆流の有無等の判定結果である場合の動態画像解析処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図28】パラメータとして歪度及び尖度を用いて閾値を設定し肺動脈弁逆流に関し患者を分類した例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る動態画像解析装置(解析装置)、プログラム及び動態画像解析方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の技術的範囲を以下の実施形態および図示例に限定するものではない。
【0013】
[動態画像解析装置の位置づけ]
本実施形態の動態画像解析装置(以下「解析装置」とする。)は、画像撮影システム(画像撮影システム内に設けられた撮影装置)からX線動態画像(以下単に「動態画像」とする。)を取得して、取得した動態画像の解析を行い、その解析結果を示して、医師等の診断を支援するものである。
まず、前提として、本実施形態で想定される画像撮影システムと解析装置との関係につき、
図1を参照しつつ説明する。
【0014】
図1に、本実施形態における画像撮影システム100の全体構成を示す。
図1に示すように、画像撮影システム100は、撮影装置1、及び当該撮影装置1と通信ケーブル等により接続され、撮影装置1を制御する撮影用コンソール2とを備えている。撮影装置1は、後述するように動態画像を撮影可能となっている。
撮影装置1は撮影用コンソール2を介してLAN(Local Area Network)等の通信ネットワークNTに接続されている。
また、本実施形態における解析装置3は、通信ネットワークNTを介して画像撮影システム100と接続されており、撮影装置1により取得された動態画像は撮影用コンソール2を介して解析装置3に送られる。
【0015】
本実施形態において解析装置(動態画像解析装置)3は、例えば
図1に示すように診断用コンソールである。なお本実施形態の解析装置(動態画像解析装置)3は、動態画像に基づく解析結果として「肺動脈弁逆流に関する情報」を生成し、これを出力させるものであり、診断用コンソールであってもよいし、診断用コンソールとは別の装置として設けられていてもよい。
画像撮影システム100を構成する各装置は、DICOM(Digital Image and Communications in Medicine)規格に準じており、各装置間の通信は、DICOM規格に則って行われる。
【0016】
[撮影装置の構成]
撮影装置1は、例えば呼吸運動に伴う肺の膨張及び収縮の形態変化、心臓の拍動等の動態を撮影可能な撮影手段である。「動態撮影」では、被写体Mに対し、X線等の放射線をパルス状にして所定時間間隔で繰り返し照射するか(パルス照射)、又は、低線量にして途切れなく継続して照射する(連続照射)ことで、被写体Mの動態を示す複数の画像を取得する。「動態撮影」により得られた一連の画像を「動態画像」と呼ぶ。また、「動態画像」を構成する複数の画像のそれぞれをフレーム画像と呼ぶ。ここでは、被写体Mとして、被検者(患者等)の胸部を用いる。なお、撮影は立位(被検者(患者等)を立たせた状態)で行ってもよいし、臥位(被検者(患者等)を横にした状態)で行ってもよい。
【0017】
なお本実施形態にいう「動態撮影」には動画撮影が含まれる。撮影装置1は、静止画像を撮影することもできるが、動画を表示しながら静止画像を撮影するものは「動態撮影」に含まれないものとする。また「動態画像」には動画が含まれるが、動画を表示しながら静止画像を撮影して得られた画像は含まれないものとする。
「動態撮影」は低被曝での撮影であり、被検者(患者等)への負担が少なく、簡易検査に好適に用いることができるという効果がある。
【0018】
放射線源11は、被写体Mを挟んで放射線検出部13と対向する位置に配置され、放射線照射制御装置12の制御に従って、被写体Mに対し放射線(X線)を照射する。
放射線照射制御装置12は、撮影用コンソール2に接続されており、撮影用コンソール2から入力された放射線照射条件に基づいて放射線源11を制御して放射線撮影を行う。撮影用コンソール2から入力される放射線照射条件は、例えば、パルスレート、パルス幅、パルス間隔、1撮影あたりの撮影フレーム数、X線管電流の値、X線管電圧の値、付加フィルター種等である。パルスレートは、1秒あたりの放射線照射回数であり、後述するフレームレートと一致している。パルス幅は、放射線照射1回あたりの放射線照射時間である。パルス間隔は、1回の放射線照射開始から次の放射線照射開始までの時間であり、後述するフレーム間隔と一致している。
【0019】
放射線検出部13は、FPD(Flat Panel Detector)等の半導体イメージセンサーにより構成される。FPDは、ガラス基板等を有しており、基板上の所定位置に、放射線源11から照射されて少なくとも被写体Mを透過した放射線をその強度に応じて検出し、検出した放射線を電気信号に変換して蓄積する複数の検出素子(画素)がマトリックス状に配列されている。各画素は、TFT(Thin Film Transistor)等のスイッチング部を備えて構成されている。FPDには、X線をシンチレーターを介して光電変換素子により電気信号に変換する間接変換型、X線を直接的に電気信号に変換する直接変換型があるが、いずれを用いてもよい。
【0020】
読取制御装置14は、撮影用コンソール2に接続されている。読取制御装置14は、撮影用コンソール2から入力された画像読取条件に基づいて放射線検出部13の各画素のスイッチング部を制御して、当該各画素に蓄積された電気信号の読み取りをスイッチングしていき、放射線検出部13に蓄積された電気信号を読み取ることにより、画像データを取得する。この画像データが動態画像の各フレーム画像や静止画像である。放射線源11と放射線検出部13との間に構造物が存在すると、構造物によって放射線検出部13への放射線到達量が減少するため、画像データの各画素の信号値(画素値、濃度値)は、被写体Mの構造に応じて変化する。読取制御装置14は、取得した動態画像や静止画像を撮影用コンソール2に出力する。画像読取条件は、例えば、フレームレート、フレーム間隔、画素サイズ、画像サイズ(マトリックスサイズ)等である。フレームレートは、1秒あたりに取得するフレーム数であり、パルスレートと一致している。フレーム間隔は、1回のフレーム画像の取得動作開始から次のフレーム画像の取得動作開始までの時間であり、パルス間隔と一致している。
ここで、放射線照射制御装置12と読取制御装置14とは互いに接続され、互いに同期
信号をやり取りして放射線照射動作と画像の読み取りの動作を同調させるようになっている。
【0021】
[撮影用コンソールの構成]
撮影用コンソール2は、放射線照射条件や画像読取条件を撮影装置1に出力して撮影装置1による放射線撮影及び放射線画像の読み取り動作を制御する。
撮影用コンソール2は、
図1に示すように、制御部21、記憶部22、操作部23、表示部24、通信部25を備えて構成され、各部はバス26により接続されている。
【0022】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)等により構成される。制御部21のCPUは、操作部23の操作に応じて、記憶部22に記憶されているシステムプログラムや各種処理プログラムを読み出してRAM内に展開し、展開されたプログラムに従って各種処理を実行し、撮影用コンソール2の各部の動作や、撮影装置1の放射線照射動作及び読み取り動作を集中制御する。
【0023】
記憶部22は、不揮発性の半導体メモリーやハードディスク等により構成される。記憶部22は、制御部21で実行される各種プログラムやプログラムによる処理の実行に必要なパラメーター、処理結果等のデータを記憶する。例えば、記憶部22は、被写体部位に対応付けて放射線照射条件及び画像読取条件を記憶している。各種プログラムは、読取可能なプログラムコードの形態で格納され、制御部21は、当該プログラムコードに従った動作を逐次実行する。
【0024】
操作部23は、カーソルキー、文字・数字入力キー及び各種機能キー等を備えたキーボードと、マウス等のポインティングデバイスを備えて構成され、キーボードに対するキー操作やマウス操作により入力された指示信号を制御部21に出力する。また、操作部23は、表示部24の表示画面にタッチパネルを備えてもよく、この場合、タッチパネルを介して入力された指示信号を制御部21に出力する。
【0025】
表示部24は、LCD(Liquid Crystal Display)等のモニターにより構成され、制御部21から入力される表示信号の指示に従って、操作部23からの入力指示やデータ等を表示する。
【0026】
通信部25は、LANアダプターやモデムやTA(Terminal Adapter)等を備え、通信ネットワークNTに接続された各装置との間のデータ送受信を制御する。
【0027】
[解析装置の構成]
解析装置3は、撮影装置1で撮影された動態画像(X線動態画像)を取得して、動態画像における「肺動脈に関連する部位」の動態画像情報に基づいて、「肺動脈弁逆流に関する情報」を生成し、生成した結果を解析装置3の表示部34(後述)や外部の図示しない表示装置等に出力する動態画像解析装置であり、医師による診断を支援する診断支援装置として利用される。
解析装置3は、例えばPC(Personal Computer)、ワークステーション等のコンピューター装置である。
【0028】
解析装置3は、
図1に示すように、制御部31、記憶部32、操作部33、表示部34、通信部35を備えて構成され、各部はバス36により接続されている。
なお、
図1では、診断用コンソールである解析装置3と撮影用コンソール2とが別体の装置である場合を例示しているが、システム構成はこれに限定されない。例えば、診断用コンソールである解析装置3が撮影用コンソール2としての機能をも備える兼用装置として構成され、この解析装置3と撮影装置1とが通信ネットワークNTにより接続されてい
てもよい。また、解析装置3とは別に診断用コンソールが設けられていてもよい。
【0029】
制御部31は、CPU、RAM等により構成される。制御部31のCPUは、操作部33の操作に応じて、記憶部32に記憶されているシステムプログラムや、各種処理プログラムを読み出してRAM内に展開し、展開されたプログラムに従って、各種処理を実行し、解析装置3の各部の動作を集中制御する。
【0030】
記憶部32は、不揮発性の半導体メモリーやハードディスク等により構成される。記憶部32は、制御部31で実行される各種プログラムやプログラムによる処理の実行に必要なパラメーター、処理結果等のデータを記憶する。各種プログラムは、読取可能なプログラムコードの形態で格納され、制御部31は、当該プログラムコードに従った動作を逐次実行する。
【0031】
操作部33は、カーソルキー、文字・数字入力キー及び各種機能キー等を備えたキーボードと、マウス等のポインティングデバイスを備えて構成され、キーボードに対するキー操作やマウス操作により入力された指示信号を制御部31に出力する。また、操作部33は、表示部34の表示画面にタッチパネルを備えてもよく、この場合、タッチパネルを介して入力された指示信号を制御部31に出力する。
【0032】
表示部34は、LCD等のモニターにより構成され、制御部31から入力される表示信号の指示に従って、各種表示を行う。
【0033】
通信部35は、LANアダプターやモデムやTA等を備え、通信ネットワークNTに接続された各装置との間のデータ送受信を制御する。
【0034】
本実施形態において制御部31は、例えば撮影装置1が被検者の胸部に対して放射線による動態撮影を行うことで得られた胸部の動態画像を、通信部35を介して取得する。すなわち、制御部31は、取得部として機能する。
【0035】
また制御部31は、動態画像における「肺動脈に関連する部位」(単に「部位」ともいう。)の動態画像情報に基づいて、「肺動脈弁逆流に関する情報」を生成する。すなわち、制御部31は、生成部として機能する。
【0036】
ここで制御部31の生成部としての機能について詳説する。
まず、制御部31が「肺動脈弁逆流に関する情報」を生成するために注目する領域である「肺動脈に関連する部位」とは肺動脈の血流状況(逆流の有無等)を見ることのできる「部位」である。
図2は、胸部をX線撮影(動態撮影)した動態画像のイメージ図である。図中一点鎖線で囲んだ部分は心臓を示し、左右に黒っぽく示されている部分が左右の肺野を示している。肺動脈は心臓から出て肺に血液を送り出す動脈であり、右心室の肺動脈弁から始まり、図中破線で示すように比較的太く短い肺動脈幹を経たのち、左右の肺に対応して2つの肺動脈(左肺動脈、右肺動脈)に分岐していく。右肺動脈と左肺動脈とに分かれる前の肺動脈幹の辺りを一般に肺動脈起始部という。
【0037】
従来、肺動脈の血流状況(逆流の有無等)を診断する手法としてMRI(Magnetic Resonance Imaging)検査が行われるが、MRIでは、主として肺動脈起始部を対象領域(ROI)として検査を行う。
動態画像における「肺動脈に関連する部位」も、この肺動脈起始部に近い部位であることが望ましいが、肺動脈幹周辺には多くの構造物が集まっており、放射線(X線)画像撮影を行っても肺動脈起始部のみの信号を得ることが難しい。そこで、本実施形態では、
「肺動脈に関連する部位」として、例えば少なくとも左右いずれかの肺野領域の内部であって左右肺動脈近位部を含む部位を対象領域(ROI)とする。より好ましくは、
図2中に「β」「γ」として示した、左右の肺野領域の内部であって左右肺動脈近位部に設定した対象領域を「肺動脈に関連する部位」とする。
【0038】
左右の肺野領域にそれぞれ「肺動脈に関連する部位」(図中対象領域「β」「γ」)を設定して肺動脈の血流状況(逆流の有無等)を診断することで、例えば左右の肺のうち一方の肺からの逆流はわずかだが他方の肺から大きく逆流しているような場合にも、肺動脈弁逆流を見逃すことがない。なお、左右の肺野領域にそれぞれ「肺動脈に関連する部位」を設定する場合には、「肺動脈弁逆流に関する情報」は、左右両方の対象領域(
図2中、対象領域「β」「γ」)における値の平均値とすることが好ましい。左右両方の対象領域の値を考慮することで、例えば肺動脈幹周辺(いわゆる肺動脈起始部)を対象領域として検査を行うMRI等と同様の高精度の結果を得ることができる。
【0039】
なお本実施形態では後述するように、心臓にも情報を抽出する際の対象領域(ROI)を設定する(
図2において「α」とする。)。心臓の心房と心室では波形が異なり、本実施形態において心臓の対象領域(ROI、
図2における「α」)は、心室の部分(左心室と右心室が重なると思われる部位)に配置される。
対象領域(
図2に示す対象領域「α」「β」「γ」)はいずれも例えば直径10mm程度の領域であり、後述するように自動で設定されてもよいし、医師等のユーザーが画面等を見ながら手動で設定してもよい。
なお、対象領域(「肺動脈に関連する部位」や心臓に設定される領域)は直径10mm程度の対象領域である場合に限定されない。後述するように肺野全体、心臓全体を対象領域としてもよい。
【0040】
また動態画像における「肺動脈に関連する部位」の動態画像情報は、例えば動態画像から抽出される各画素の信号値(画素値等)である。すなわち、動態画像中の「肺動脈に関連する部位」における各画素の色の濃淡(濃度)や明るさ(輝度)の情報が動態画像情報に含まれる。なおこの場合、信号値が抽出される「画素」は、ハードウェア上の画素でもよいし、ソフトウェアによる各種画像処理(例えばビニング処理等)を行った後の画素でもよい。
本実施形態において生成部としての制御部31は、「肺動脈に関連する部位」における画素の信号値から得られた情報に基づいて、「肺動脈弁逆流に関する情報」を生成する。なお、生成部としての制御部31は、「肺動脈に関連する部位」における画素の信号値の平均値に基づいて、「肺動脈弁逆流に関する情報」を生成してもよい。
【0041】
生成部としての制御部31により生成される「肺動脈弁逆流に関する情報」は、例えば当該動態画像が撮影された被験者(患者等)に肺動脈弁逆流があるか否か(肺動脈弁逆流の有無や逆流の可能性の有無)の情報である。制御部31は、例えば動態画像情報の値が所定の基準値以上である場合には、逆流「有」、基準値未満である場合には、逆流「無」との「肺動脈弁逆流に関する情報」を生成する。なお、所定の基準値をどの程度とするかは適宜設定される。
なお、「肺動脈弁逆流に関する情報」は、肺動脈弁逆流の有無等の情報に限定されず、例えば肺動脈弁逆流がある場合における、肺動脈弁逆流の重症度に関する情報等でもよい。肺動脈弁逆流の重症度(逆流の程度、レベル)に関する情報は、例えば心臓から肺に送り出された血液のうち心臓に逆流する血液がどの程度あるかを示す逆流率や逆流率の予測値等、数値化・定量値化された情報であってもよい。
【0042】
また、生成部としての制御部31が生成する「肺動脈弁逆流に関する情報」は、「肺動脈に関連する部位」における血流波形の形状の情報であってもよい。血流波形は、心拍数
に同期する信号波形である。また「肺動脈弁逆流に関する情報」は、「肺動脈に関連する部位」における血流を可視化した情報であってもよい。すなわち、例えば肺野の対象領域(ROI)等における血流量(逆流量)を視覚的に示すカラーマップ等であってもよい。血流を可視化した情報を示すことで、医師等のユーザーが分かりやすく患者の病状(逆流の有無や重症度等)を把握することができる。
【0043】
また、生成部としての制御部31は、「肺動脈に関連する部位」における血流波形に基づいて、より詳細な解析を行い、解析結果を「肺動脈弁逆流に関する情報」として生成してもよい。
また、生成部としての制御部31は、「肺動脈に関連する部位」において得られた(血流波形以外の)各種指標に基づいて、「肺動脈弁逆流に関する情報」を生成してもよい。血流波形以外の各種指標としては、例えば血流速度、血流量(≒振幅)、心臓と肺野の信号値の比(振幅比)等があり得るがこれに限定されない。
なお、生成部としての制御部31が生成する「肺動脈弁逆流に関する情報」の詳細については後述する。
【0044】
さらに制御部31は、生成部として生成した「肺動脈弁逆流に関する情報」(診断支援情報)を各種出力先に出力する。すなわち、本実施形態の制御部31は、「肺動脈弁逆流に関する情報」を出力する出力部として機能する。
なお出力部としての制御部31が各種情報を出力する先は特に限定されない。例えば解析装置3の表示部34等でもよいし、図示しない外部の各種の表示装置やプリンター等であってもよい。また、「出力」には、印刷データや画像データとして外部装置に出力する場合も含まれる。「出力」は各種のネットワークを介して行われてもよいし、有線又は無線による通信によってもよい。また各種コネクターや各種メディアのポート等を介して行われてもよい。
【0045】
[画像撮影システムの動作]
次に、画像撮影システム100の動作について説明する。
【0046】
(撮影装置、撮影用コンソールの動作)
まず、撮影装置1、撮影用コンソール2による撮影動作について説明する。
撮影用コンソール2の制御部21は、放射線照射制御装置12に放射線照射条件を設定し、読取制御装置14に画像読取条件を設定する。
【0047】
次に、制御部21は、放射線照射制御装置12及び読取制御装置14に動態画像の撮影開始指示を出力し、動態画像の撮影を制御する。具体的には、放射線照射制御装置12に設定されたパルス間隔で放射線源11が放射線を照射し、読取制御装置14は、放射線検出部13から取得した画像データ(フレーム画像)を撮影用コンソール2に出力する。予め定められたフレーム数の撮影が終了すると、制御部21は、放射線照射制御装置12及び読取制御装置14に撮影終了の指示を出力し、撮影動作を停止させる。制御部21は、撮影により取得された各フレーム画像を、撮影順を示す番号(フレーム番号)と対応付けて記憶部22に記憶させる。
【0048】
次に、制御部21は、動態画像を表示部24に表示させる。撮影実施者が診断に適した画像であることを確認し、操作部23から確認指示を入力すると、制御部21は、動態撮影で取得された一連のフレーム画像のそれぞれに患者情報(被検者の患者ID、患者名等)や検査情報等を付帯させ、通信部25を介して診断用コンソール等である解析装置3に送信する。
【0049】
(解析装置の動作)
次に、解析装置3における動作について説明する。
図3は、解析装置3において実行される動態画像解析処理の一例を示すフローチャートである。動態画像解析処理は、医師が肺動脈弁逆流の診断を行う際に動態画像を用いて診断を支援する処理であり、制御部31と記憶部32に記憶されているプログラムとの協働により実行される。
図3に示す例は、「肺動脈弁逆流に関する情報」が肺動脈の血流波形の情報(血流波形の形状の情報)である場合の処理を示すものである。
【0050】
まず、撮影装置1において、被検者の胸部に対して放射線による動態撮影が行われると、制御部31は、通信部35を介して、撮影装置1により生成された動態画像を撮影用コンソール2から取得する(ステップS1)。動態画像は、複数のフレーム画像から構成される。制御部31は、取得した動態画像を記憶部32に記憶させる。
例えば
図2は、胸部を対象とした動態画像のイメージ図である。
図2では息止め状態で撮影された動態画像の一例を示している。
【0051】
次に、制御部31は、「肺動脈に関連する部位」として、例えば左右の肺野領域の内部であって左右肺動脈近位部に、対象領域(
図2において丸枠で囲んだ「β」「γ」)を設定する(ステップS2)。
この対象領域は、血流の多い部分であり、画像において白っぽく映る。このため制御部31は、例えば動態画像における肺野内のうち輝度値の高い画素が多く集まっている領域に対象領域(「β」「γ」)を自動設定する。
なお、前述のように対象領域(「β」「γ」)は自動設定される場合に限らず、ユーザーである医師等が手動で設定してもよい。この場合には、例えば血流により白く見える部分とそれ以外の部分とのコントラストを分かりやすく示す画像を表示部34等に表示させて対象領域の設定位置をガイドする等により、設定支援を行うことが好ましい。さらに、ユーザーによって設定された対象領域の位置が、本来設定すべき位置から大きくずれているような場合には、エラーメッセージやアラートを出す等により、ユーザーに設定位置の修正を求めてもよい。この場合、望ましい設定位置にマーカー等を表示させてユーザーに対象領域として設定すべき位置を提示してもよい。
【0052】
なお、「肺動脈に関連する部位」から画素の信号値等を抽出する場合、当該信号値には各種のノイズが乗っており必要な情報に絞って取得することが難しい。
そこで本実施形態では、心臓にも対象領域(
図2において丸枠で囲んだ「α」)を設定し、対象領域(「α」)内の画素の信号値から心臓の拍動に起因する輝度変化の周波数を計測して、心拍数の周波数を取得する。そして、制御部31がこの心拍数の周波数に応じたバンドパスフィルターを生成し、これを「肺動脈に関連する部位」として設定された対象領域(
図2における「β」「γ」)から検出された値に適用することで必要な信号以外のノイズを低減させた状態の値を得るようになっている。
【0053】
図4は、「肺動脈に関連する部位」として、左右の肺野領域の内部であって左右肺動脈近位部に設定された対象領域(
図2における「β」「γ」)から検出された血流波形の例である。なお、
図4では、心臓に設定した対象領域(
図2における「α」)から得た情報に基づくバンドパスフィルターを適用した後の波形となっている。また、血流波形の振幅の最小値(ほぼ「-10」)を波長の始まりとしている。
一般に、心臓は1秒に1回程度拍動するところ、動態撮影では5秒から15秒程度の撮影が行われるため、一連の動態撮影により、心臓の拍動(心拍)の5周期から10周期分程度の肺動脈の血流波形を得ることができる(
図4では5周期分の血流波形を例示)。
【0054】
血流波形の形状は、1心拍分の肺動脈の血流波形で見る。このため、制御部31は、対象領域(「β」「γ」)から検出された血流波形(又は対象領域「β」「γ」から得られ
たデータの平均値)のうち、1心拍分の肺動脈の血流波形を抽出する(ステップS3、
図5参照)。なお、ここでいう1心拍分の肺動脈の血流波形は、
図4に示すような複数の波形(
図4では5心拍分の血流波形)の平均値でもよい。
なお、1心拍分の肺動脈の血流波形を抽出する場合、制御部31は血流波形を構成する信号値が一定の範囲の値(例えば最大値-最小値が0-100の値)をとるように正規化してもよい。
図5及び
図6は信号値を正規化した場合のグラフを示している。
【0055】
肺動脈弁逆流がない正常な状態の場合、例えば心臓から肺に「100」の血液を送る必要がある場合、心臓から「100」の血液が送り出され、一気に肺に流入し、その後徐々に流出していく。このため、時間的に早い段階にピークが来ており、グラフで見るとピークが中央よりも左側に寄っている。逆流等がない場合、血流減少の勾配も緩やかであり、グラフで見ると血流波形が緩やかに落ちていく波形となる(例えば
図5では逆流率が0の人(患者)の場合の血流波形の例を示している)。これに対して、例えば20%の肺動脈弁逆流を起こす人の場合、心臓から肺に「100」の血液を送る必要がある場合に、逆流して心臓に戻ってしまう分を足した「120」の血液が心臓から送り出され、肺に流入する。この場合は流入する血流量が多いためにピークに達するまでの流入時間が長くなり、グラフで見ると
図5の場合と比べてピークが中央近くに寄っている。その後逆流した分の血液流出の影響等により、ピークを過ぎた後の血流波形の勾配が急であり、グラフで見ると血流波形が急傾斜に落ちていく波形となる(例えば
図6では逆流率が54.5の人(患者)の場合の血流波形の例を示している)。
【0056】
生成部としての制御部31が、肺動脈の血流波形の形状を抽出すると、制御部31は出力部として、当該血流波形を表示部34等に出力する(ステップS4)。これにより、
図5や
図6に示すような血流波形が表示部34に表示され、ユーザーである医師等はその波形の形状を表示画面上で確認することができる。
ユーザーとしては、表示部34に表示された血流波形が
図5に示す形状に近い形状であれば、肺動脈弁逆流の症状がない(又は肺動脈弁逆流がない可能性が高い)人(患者)であると判断(診断)することができる。また、表示部34に表示された血流波形が
図6に示す形状に近い形状であれば、肺動脈弁逆流の症状がある(又は肺動脈弁逆流がある可能性が高い)人(患者)であると判断(診断)することができる。
血流波形の形状から肺動脈弁逆流の症状があるか、またはその可能性が高い、と判断される場合には、ユーザーである医師は、例えば当該患者に対してさらにMRI検査等の詳細な検査を行うように指示を出すことが考えられる。
【0057】
次に
図7に示す例は、「肺動脈弁逆流に関する情報」が肺動脈の血流波形の形状に関するパラメータである場合の処理を示すものである。
ここで「肺動脈の血流波形の形状に関するパラメータ」とは、例えば「歪度」や「尖度」等である。
この場合には、対象領域(
図2における「β」「γ」)から得られた情報に基づき、1心拍分の肺動脈の血流波形を抽出した後、制御部31は血流波形を構成する信号値が一定の範囲の値(例えば最大値-最小値が0-100の値)をとるように正規化する(ステップS24)。なお
図7におけるステップ21~ステップS23は、
図3におけるステップS1~ステップS3と同様であるため、説明を省略する。
さらに生成部としての制御部31は、血流波形の形状に関するパラメータとして「歪度」と「尖度」とを算出する(ステップS25及びステップS26)。なお、「歪度」及び「尖度」の算出は、
図7に示すように並行して行われてもよいし、いずれかを先に算出し、次に他方を算出するように順次に行ってもよい。
【0058】
「歪度」は、下記式1により算出することができる。
なお、式1において「n」はサンプル量を示し、「xi」はサンプルデータを示し、「 」は平均値を示し、「s」は標準偏差を示している。
【数1】
【0059】
図8は、算出された「歪度」を図示したものである。
「歪度」は血流波形(血流量の信号値の変化)を時系列的に見たときのピークの偏り具合である。
図8に示すように、「歪度」がない場合(
図8において「歪度=0」)は血流波形のほぼ中央に血流量のピークが来ており、
図6のグラフ形状に近いものである。また、
図8において右側(「歪度=1.24」)は、血流量のピークが血流波形の中央よりも左側に寄っていて、ピークに達した後緩やかに下がっており、
図5のグラフ傾向に近いものである。さらに、
図8において左側(「歪度=-1.24」)は、
図8右側の図とは逆に、血流量のピークが血流波形の中央よりも右側に寄っていて、ピークに達した後急峻に下がっている。
図6及び
図8に示すように、「歪度」が0に近いほど、肺動脈の逆流率の程度が高い傾向がある。また、肺動脈の逆流率が低いほど「歪度」は正(+)の方向に高くなる、という傾向がある。このため、「歪度」を出すことで、逆流率の度合い(レベル、重症度)を数値化して定量値として医師等のユーザーに示すことができ、肺動脈弁逆流の診断に資する定量的な情報を提供することができる。
【0060】
また「尖度」は、下記式2により算出することができる。
なお、式2において「n」はサンプル量を示し、「xi」はサンプルデータを示し、「 」は平均値を示し、「s」は標準偏差を示している。
【数2】
【0061】
図9は、算出された「尖度」を図示したものである。
図9に示すように、「尖度」が高いほど(
図9では右側に行くほど「尖度」)が高い)、血流波形の信号値変化が急峻であることを示している。
図5及び
図9に示すように、「尖度」が高いほど、肺動脈の逆流率の程度が高い傾向がある。このため、「尖度」を出すことで、逆流率の度合い(レベル、重症度)を数値化して定量値として医師等のユーザーに示すことができ、肺動脈弁逆流の診断に資する定量的な情報を提供することができる。
【0062】
また、生成部としての制御部31は、「肺動脈の血流波形の形状に関するパラメータ」として血流波形の「振幅」(
図4参照)を求めてもよい。血流波形の「振幅」は、逆流率の高い人の方が大きくなる傾向、振幅の高さが高くなる傾向がある。このため、血流波形の「振幅」を見ることによっても、肺動脈弁逆流の有無やその可能性、程度等を判断することが可能である。
なお、前述のように、血流波形の信号値が一定の範囲の値(例えば0-100の値)をとるように正規化すると、「振幅」の値に差をつけることができなくなってしまう。このため血流波形の信号値の「振幅」を求める場合には、正規化を行わずに「振幅」を抽出する。
【0063】
このように本実施形態では、生成部としての制御部31が、「肺動脈の血流波形の形状に関するパラメータ」として、血流波形の「歪度」「尖度」「振幅」を取得することができる場合を例示する。なお、制御部31はこれらすべてを取得するようにしてもよいし、
これらの一部のみを取得してもよい。また。これら3つのパラメータ以外の各種指標を取得してもよい。
【0064】
また、生成部としての制御部31は、「肺動脈に関連する部位」における画素の信号値から得られた情報として「肺動脈の血流波形の形状に関するパラメータ」(すなわち、例えば血流波形の「歪度」「尖度」「振幅」)を得た場合に、さらにこれらのパラメータを用いて詳細な解析を行い、「肺動脈弁逆流に関する情報」を生成してもよい。
例えば、「歪度」「尖度」「振幅」の3つのパラメータを用いて重回帰分析を行ってもよい。この場合、例えば予め閾値を設定しておき、閾値を超えるか否かで肺動脈弁逆流がある、又は肺動脈弁逆流がないとの判定を行い、当該判定結果を「肺動脈弁逆流に関する情報」とすることが考えられる。肺動脈弁逆流は数%程度と軽微であれば直ちに健康上問題となるものではなく、健常者でも起こり得る。このため、病的なレベルの逆流率がある場合のみを肺動脈弁逆流ありと判定すべきである。肺動脈弁逆流ありと判定するか否かの閾値は、例えば逆流率25%である。なお、逆流率が丁度25%の場合に肺動脈弁逆流ありと判定するか否かは、適宜設定による。
【0065】
例えば「歪度」「尖度」「振幅」の3つのパラメータ(変数)を用いて重回帰分析を行うことで、これらのパラメータから逆流率を予測することができる。この場合には、例えば
図10に示すように、生成部である制御部31が、「肺動脈に関連する部位」である対象領域(例えば
図2における「β」「γ」)における血流波形を取得し(ステップS31)、血流波形から「歪度」「尖度」「振幅」の3つのパラメータを抽出する(ステップS32)。そして、これらのパラメータ(変数)を用いて重回帰分析を行い(ステップS33)、肺動脈の逆流率を予測する(ステップS34)。そして制御部31は、導出された予測逆流率が予め定めた逆流率の閾値を超えているか否かを判断し(ステップS35)、逆流率の閾値を超えている場合(ステップS35;YES)には、肺動脈弁逆流ありと判定する(ステップS36)。他方逆流率の閾値以下の場合(ステップS35;NO)には、肺動脈弁逆流なしと判定する(ステップS37)。すなわち例えば前述のように逆流率の閾値が25%である場合、予測逆流率が0%や10%等、25%未満であれば、当該人(患者)には(病的なレベルの)肺動脈弁逆流がないと判定される。他方、30%等、25%を超えている場合には当該人(患者)には肺動脈弁逆流があると判定される。
【0066】
予測逆流率やそれに応じた肺動脈弁逆流に関する判定結果が出ると、制御部31は、当該判定結果や導出された逆流率(予測逆流率)を出力部として表示部34等に出力し(ステップS38)、表示させる。
医師等のユーザーは、出力された結果を見て、患者に肺動脈弁逆流があると判定された場合や、予測逆流率が高い場合等には、さらに詳細に状況を確認するため、MRI検査等を行うように指示する等の対応を取ることができる。
なお、予測逆流率が逆流率の閾値を超えていない場合でも、閾値に近い数値が出た場合には念のためMRI検査等を行うように指示してもよい。また、肺動脈弁逆流は、ファロー四徴症患者の手術後等に現れやすいものであり、術後の経過観察等において定期的に予測逆流率等を導出している場合も考えられる。このような場合であれば、導出された数値に変化があった場合、それが閾値を超えていなくてもMRI検査等、さらなる詳細検査を行うように指示してもよい。
【0067】
図11は、3つの変数を用いて重回帰分析を行った結果を示すグラフ例である。
分析結果をプロットした場合に、各データに最もフィットするように直線(回帰直線)を引いて示したものであり、これを一次関数で表したのが回帰式となる。「r」は、回帰分析の結果得られた回帰式が、目的変数である予測逆流率の値変動をどの程度説明できているかを表す指標であり、「r」が「1」に近いほど精度よく予測できているといえる。
図11では「r=0.754」の場合を例示しており、かなりの精度で逆流率が予測できることが分かる。
なお重回帰分析による逆流率の予測に用いるパラメータは「歪度」「尖度」「振幅」の3つに限定されず、これらのうちのいずれか一部のパラメータを用いてもよいし、これ以外のパラメータを含めてもよい。
【0068】
また、前述したように、肺動脈弁逆流がある人の場合、心臓から肺に「100」の血液を送るべきところ、逆流する分を上乗せして「120」や「150」の血液を送る傾向がある。このため、動態画像で見た場合に、例えば拍動時に心臓で変化する画素の信号値の「振幅」と肺野で変化する画素の信号値の「振幅」との比が、逆流のない健常者と肺動脈弁逆流を起こしている患者とでは差異が生じていることが想定される。
【0069】
図12(a)は、健常者における肺野の血流を示すイメージ図であり、
図12(b)は、肺動脈弁逆流のある患者における肺野の血流を示すイメージ図である。また、
図13は、心臓に設定された対象領域(ROI、
図2における「α」)の信号値の変化を示しており、信号値の「振幅」を「振幅A」とする。
図14は、肺野に設定された対象領域(ROI、
図2における「β」「γ」)の信号値の変化を示しており、信号値の「振幅」を「振幅B」とする。なお、
図13に示す「振幅A」及び
図14に示す「振幅B」は、いずれも心臓の心拍数の周波数に応じたバンドパスフィルターを適用してノイズを取り除いたものとする。
心臓における信号値の「振幅A」の変化量は、左心室の1回の拍出量LVSV+右心室の1回の拍出量RVSVであり、肺野における信号値の「振幅B」の変化量は、右心室の1回の拍出量RVSVである。
【0070】
図12(a)に示すように、健常者の場合には、LVSV=RVSVであり、B/A=1/2となるが、
図12(b)に示すように、逆流のある患者の場合には上記のように多くの血液を肺に送り出すため、LVSV<RVSVとなり、B/A>1/2となる。
心臓における信号値の「振幅A」及び肺野における信号値の「振幅B」には、このような関係が認められるため、生成部としての制御部31は、心臓の1心拍での信号値の「振幅A」と肺野の1心拍に対応する信号値の「振幅B」との比を算出し比較することによっても逆流率の程度(肺動脈弁逆流の重症度)を示す情報(「肺動脈弁逆流に関する情報」)を得ることができる。
【0071】
生成部としての制御部31が、心臓における信号値の「振幅A」及び肺野における信号値の「振幅B」の比から「肺動脈弁逆流に関する情報」を生成する場合、例えば
図15に例示するような処理を行う。
すなわち
図15に示すように、制御部31は、心臓に設定した対象領域(ROI、
図2において「α」)から画素の信号値を取得する(ステップS41)。また左右の肺野に設定した対象領域(ROI、
図2において「β」「γ」)から画素の信号値を取得する(ステップS42)。
【0072】
さらに制御部31は、心臓の対象領域「α」から取得した血流波形の信号値のうち、波形形状が崩れていない連続した5波長を抽出し(ステップS43)、1波長ごとの振幅を平均して「振幅A」とする(ステップS44)。また、肺野についても同様に、肺野の対象領域「β」「γ」から取得した血流波形の信号値のうち、波形形状が崩れていない連続した5波長を抽出し(ステップS45)、1波長ごとの振幅を平均して「振幅B」とする(ステップS44)。なお、心臓の信号値についてのステップS41(及びステップS43、ステップS44)と肺野の信号値についてのステップS42(及びステップS45、ステップS46)の先後は問わない。
【0073】
そして心臓-肺野の信号値比(振幅B/振幅A)を算出する(ステップS47)。心臓
-肺野の信号値比(振幅B/振幅A)が算出されたら、制御部はこれを表示部34等に出力し(ステップS48)、表示させる。
これにより、肺動脈弁逆流があるか否か、ある場合、その症状がどの程度重篤であるか(逆流の重症度)といった「肺動脈弁逆流に関する情報」をユーザーである医師等に提供し、診断を支援することができる。
【0074】
なお、心臓-肺野の信号値比(振幅B/振幅A)と肺動脈弁逆流率との関係は、実際にMRI検査等で確認された逆流率と対応付けて検証することで有意な対応関係があることが認められている。
例えば
図16は、横軸に心臓-肺野の平均信号値比(振幅B/振幅A)をとり、縦軸にMRI検査等により実際に確かめられた肺動脈弁逆流率(%)を取ってグラフ化したものである。
図16に示すように、肺動脈弁逆流率(%)が高い(逆流症状が重症化している)人ほど、心臓-肺野の平均信号値比(振幅B/振幅A)の値が大きくなる傾向があることが分かる。
【0075】
図17は、
図16に示すデータのばらつき具合を表す箱ひげ図である。
図17の左側は、逆流率が0%~25%の群であり、
図16において黒点で示すデータ群(なおサンプル数n=24)を示している。
図17の右側は、逆流率が25%~の群であり、
図16において白点で示すデータ群(なおサンプル数n=11)を示している。
なお、
図17の左側の上方に1つ、右側の上方に2つ示されている点(特異点)は、各データ群の平均的な広がりの範囲から逸脱したデータを意味している。サンプル中に特異点に相当するデータが生じる要因は様々であり、例えば撮影時に体動が大きかった場合や、肺野の形状が特異で正しいデータを取れなかった場合等、ノイズと判断して構わない場合もあるが、考慮すべき事情がある可能性もある。本実施形態では、こうした特異点も含めて平均値等を出し、
図16、
図17にもサンプルデータの1つとして示している。なお、特異点についてどのように扱うかはここに示した例に限定されない。例えば単なる撮影時のエラーによるものであることが分かっているような場合には、
図16、
図17に載せるサンプルデータから除外したり、特異点を除いて平均値等のデータを出す対応としてもよい。
【0076】
なお、ここまでは、心臓における10mm程度の領域である対象領域「α」、肺野における10mm程度の領域である対象領域「β」「γ」から取得した血流波形の信号値に基づいて心臓-肺野の平均信号値比(振幅B/振幅A)を算出する場合を例示したが、心臓-肺野の平均信号値比(振幅B/振幅A)は、こうした対象領域「α」「β」「γ」から取得した血流波形の信号値に基づく場合に限定されず、例えば心臓全体及び肺野全体を対象領域として信号値を抽出してもよい。
図18は、動態画像のうち、心臓全体及び肺野全体を対象領域とする場合のイメージ図である。
図18において、心臓の領域を細一点鎖線で囲んで示し、左右の肺野領域をそれぞれ二点鎖線で囲んで示している。
【0077】
この場合、制御部31は、対象領域である心臓全体(
図18における「α2」)内の複数の血流波形の信号値のうち、形状が崩れていない連続した5波長を抽出し、1波長ごとの振幅を平均する。また肺野についても、対象領域である肺野全体(
図18における「β2」「γ2」)内の複数の血流波形の信号値のうち、形状が崩れていない連続した5波長を抽出し、1波長ごとの振幅を平均する。
図19は、心臓全体を対象領域(ROI、
図18における「α2」)とした場合の信号値の変化を示しており、平均した信号値の「振幅」を「振幅A」とする。
図20は、肺野全体を対象領域(ROI、
図18における「β2」「γ2」)とした場合の信号値の変化を示しており、平均した信号値の「振幅」を「振幅B」とする。なお、
図19に示す「振
幅A」及び
図20に示す「振幅B」は、いずれも心臓の心拍数の周波数に応じたバンドパスフィルターを適用してノイズを取り除いたものとする。
【0078】
図21は、このようにして求めた「振幅A」「振幅B」を用いて、心臓-肺野の平均信号値比(振幅B/振幅A)を算出してグラフに示したものであり、
図22は、
図21に示すデータのばらつき具合を表す箱ひげ図である。
箱ひげ図で表現されている内容及び特異点の扱いについては前述の
図17と同様であるから説明を省略する。
心臓全体(
図18における「α2」)、肺野全体(
図18における「β2」「γ2」)について、それぞれ信号値の「振幅A」「振幅B」を取得して、心臓-肺野の平均信号値比(振幅B/振幅A)を求めた場合にも、肺動脈弁逆流率(%)が高い(逆流症状が重症化している)人ほど、心臓-肺野の平均信号値比(振幅B/振幅A)の値が大きくなる傾向があることが分かる。
【0079】
さらに、制御部31は、対象領域である心臓全体(
図18における「α2」)内における積算信号値、対象領域である肺野全体(
図18における「β2」「γ2」)内における積算信号値について、それぞれ形状が崩れていない連続した5波長を抽出して、1波長ごとの振幅を平均することにより「振幅A」「振幅B」を求めてもよい。
図23は、心臓全体を対象領域(ROI、
図18における「α2」)とした場合の積算信号値の変化を示しており、これを平均した信号値の「振幅」を「振幅A」とする。
図24は、肺野全体を対象領域(ROI、
図18における「β2」「γ2」)とした場合の積算信号値の変化を示しており、これを平均した信号値の「振幅」を「振幅B」とする。なお、
図23に示す「振幅A」及び
図24に示す「振幅B」は、いずれも心臓の心拍数の周波数に応じたバンドパスフィルターを適用してノイズを取り除いたものとする。
【0080】
図25は、このようにして求めた「振幅A」「振幅B」を用いて、心臓-肺野の平均信号値比(振幅B/振幅A)を算出してグラフに示したものであり、
図26は、
図25に示すデータのばらつき具合を表す箱ひげ図である。
箱ひげ図で表現されている内容及び特異点の扱いについては前述の
図17と同様であるから説明を省略する。
心臓全体(
図18における「α2」)、肺野全体(
図18における「β2」「γ2」)について、それぞれ積算信号値の「振幅A」「振幅B」を取得して、心臓-肺野の平均信号値比(振幅B/振幅A)を求めた場合にも、肺動脈弁逆流率(%)が高い(逆流症状が重症化している)人ほど、心臓-肺野の平均信号値比(振幅B/振幅A)の値が大きくなる傾向があることが分かる。
【0081】
このように、心臓-肺野の平均信号値比(振幅B/振幅A)と肺動脈弁逆流率(%)との間には対応関係が認められる。このため、生成部としての制御部31が動態画像から「肺動脈弁逆流に関する情報」として心臓-肺野の平均信号値比(振幅B/振幅A)の情報を生成し、これを表示部34等に出力して表示させることで、超音波エコー検査やMRI検査を行わなくても、肺動脈弁逆流の有無及び逆流がある場合における逆流率の程度(肺動脈弁逆流のレベル、重症度)を、エコー検査等と同程度の精度で医師等のユーザーに示すことができ、肺動脈弁逆流についての診断を支援することができる。
【0082】
さらに、画素の信号値に基づいて得られた血流波形からさらにパラメータ(「歪度」や「尖度」等)を取得した場合に、これらのパラメータを用いて閾値を設定した場合には、制御部31が動態画像から生成する「肺動脈弁逆流に関する情報」は、診断対象の患者が閾値以上か否かを判定した結果であってもよい。
この場合には、例えば
図27に示すように、まずサンプルとなる患者についてMRI検査等、信頼性の担保された検査を行い、肺動脈の逆流率を取得する(ステップS51)。
そしてこれら逆流率が取得された患者について動態撮影を行い、動態画像から血流波形を得て、「歪度」や「尖度」等、パラメータとなる項目について値を取得する(ステップS52)。逆流率とパラメータとなる値が取得された患者のデータをサンプルデータとする。
【0083】
このようにして取得したサンプルデータが蓄積されたら、縦軸と横軸にそれぞれパラメータの値を取って各サンプルデータを二次元上にプロットする(ステップS53)。そして、各パラメータについて、プロットとされたサンプルデータが検査によって確認されている「肺動脈弁逆流あり」のグループと「肺動脈弁逆流なし」のグループとに正しく分類されるようなところに閾値を設定する(ステップS54)。
【0084】
例えば
図28では、パラメータとして「歪度」と「尖度」を取得し、縦軸に「尖度」、横軸に「歪度」をとってサンプルデータをプロットした結果を示している。
図28において白抜きの丸印はMRI検査等において「肺動脈弁逆流あり」とされたサンプルであり、黒丸印は「肺動脈弁逆流なし」とされたサンプルである。
図28に示すように、逆流率が高い患者は「歪度」がゼロに近い低めの傾向があり、「尖度」が高い傾向にある。また、「歪度」が高いか、「尖度」があまり高くない患者は逆流率が低い傾向がある。
図28に示す例では、「歪度」のパラメータについて閾値を0.55とし、「尖度」のパラメータについて閾値を-0.3とおいてサンプルデータを分類しており、この結果逆流率25%以上の患者を94.3%の分類精度で「肺動脈弁逆流あり」に分類できることが分かった。
【0085】
このようにサンプルデータの蓄積に基づいてパラメータ(例えば「歪度」や「尖度」)に閾値を設定した場合、新たにMRI検査等を受けていない患者が来たときには、動態画像を取得して(ステップS55)、画像解析により「歪度」や「尖度」の値を取得する(ステップS56)。
そして当該患者を「歪度」や「尖度」等の閾値に応じて分類し、「肺動脈弁逆流あり」「肺動脈弁逆流なし」の判定を行う(ステップS57)。
例えば患者が
図28において白抜星印の位置に分類された場合には「肺動脈弁逆流あり」と判定し、黒色星印の位置に分類された場合には「肺動脈弁逆流なし」と判定される。
【0086】
分類の判定結果は出力部としての制御部31から表示部34等に出力され(ステップS56)、表示される。
なお表示部34等に出力される内容は判定結果だけでもよいし、新たな患者を「歪度」や「尖度」の値に基づいて
図28に示すような表にプロットした結果自体を表示させてもよい。
医師等のユーザーは、出力された結果を見て、患者に肺動脈弁逆流があると判定された場合や、判定された逆流率が高い場合等には、さらに詳細に状況を確認するため、MRI検査等を行うように指示する等の対応を取ることができる。
【0087】
逆流率との対応付けができる程度にサンプルデータが蓄積すれば、「肺動脈弁逆流あり」「肺動脈弁逆流なし」だけでなく、より具体的な逆流率(肺動脈弁逆流の程度、重症度を示す定量値)を「歪度」や「尖度」等の値から導くことも可能である。
なお重回帰分析等を用いることにより、「歪度」や「尖度」等のパラメータと肺動脈弁逆流率との関係(相関等)を考察し、逆流率の判定精度を担保してもよい。
【0088】
本実施形態によれば、被写体Mである患者にとって比較的簡易かつ非侵襲で得ることのできる動態画像(X線動態画像)に基づいて血流解析を行うことができる。
【0089】
なお、本実施形態では動態画像の解析処理として、
図3、
図7、
図15、
図27の処理
を例示したが、解析装置3ではこれらの処理のうちいずれか1つ以上の一部の処理を行うとしてもよいし、全ての処理を行ってもよい。
各処理を行うことで「肺動脈弁逆流に関する情報」が複数種類得られた場合には全ての情報を表示部34等に出力して表示させてもよいし、ユーザーが表示させたい情報を選択できてもよい。また取得した各種の情報を掛け合わせることでより信頼性の高い情報を生成し、最終的な情報を出力して医師等のユーザーに提供してもよい。
【0090】
[効果]
以上のように、本実施形態に係る動態画像解析装置である解析装置3は、放射線による動態撮影により得られた胸部の動態画像を取得する取得部として機能し、動態画像における「肺動脈と心臓の少なくとも一方に関連する部位」の動態画像情報に基づいて、「肺動脈弁逆流に関する情報」を生成する生成部として機能するとともに、生成部として生成した「肺動脈弁逆流に関する情報」を出力する出力部として機能する制御部31を備えている。
このように、本実施形態ではX線動態撮影によって得られる動態画像を用いて「肺動脈弁逆流に関する情報」を得る。このため、例えば従来の超音波を用いたエコー検査やMRI検査等と比較して、一般的な装置を用いて比較的簡易に行うことができる。また、通常の動態画像を行うのみで足りるため、例えばエコー検査のように技師の技量によって得られる結果にばらつきが出るおそれも少ない。非侵襲でX線被曝も比較的少なく、患者の負担も少なくて済む。さらにMRI検査と異なり体内にMRI非対応の金属が入っている患者にも用いることができる等、運用上の制約がなく、各種のニーズに広く対応することができる。
そして、こうした負担や制約の少ない手法で、超音波エコー検査やMRI検査等、他の検査と同等の信頼性のある「肺動脈弁逆流に関する情報」を得ることができることで、医師等ユーザーの診断を支援することができる。
【0091】
また、本実施形態において、部位(肺動脈に関連する部位)は、少なくとも左右いずれかの肺野領域の内部であって左右肺動脈近位部の領域を含む。
動態画像のうち、肺動脈弁逆流の判定を行うのに必要な肺動脈の血流状況を見ることのできる左右肺動脈近位部を含む領域からデータを取るため、肺動脈弁逆流の有無等を判断するのに適切な信号値を得ることができる。
【0092】
また、本実施形態において、部位(肺動脈に関連する部位)は、左右の肺野領域の内部であって左右肺動脈近位部に設定した対象領域であり、「肺動脈弁逆流に関する情報」は、左右両方の対象領域における値の平均値である。
このため、左右の肺で肺動脈弁逆流等の異常の状態が異なっている患者についても適切な値を得ることができ、正しい診断が行われるように診断を支援することができる。
【0093】
また、本実施形態において、動態画像情報は画素の信号値であり、生成部である制御部31は、部位(肺動脈に関連する部位)における画素の信号値から得られた情報に基づいて、「肺動脈弁逆流に関する情報」を生成する。
動態画像のうち、肺動脈弁逆流の判定を行うのに必要な肺動脈の血流状況を見ることのできる左右肺動脈近位部を含む領域からデータを取るため、肺動脈弁逆流の有無等を判断するのに適切な信号値を得ることができる。
【0094】
さらに、「肺動脈弁逆流に関する情報」を動態画像の画素の信号値の平均値に基づいて生成するとした場合には、一部の信号値が特異な値を示した場合にも当該値に引きずられずに適切な情報を得ることができる。
【0095】
また、本実施形態において、「肺動脈弁逆流に関する情報」は、肺動脈弁逆流の有無の
情報である。
これによりMRI検査等行うことなく、X線動態撮影によって得られた動態画像から肺動脈弁逆流があるか否かを知ることができ、肺動脈弁逆流患者やその疑いのある患者を簡易に診断する診断支援を行うことができる。
【0096】
また、X線動態撮影によって得られた動態画像から、例えば逆流率等の肺動脈弁逆流の重症度の情報を得られるようにした場合には、X線動態撮影という簡易な検査によって、MRI検査によるのと同様の情報を得ることができ、有意な診断支援を行うことができる。
【0097】
また、血流波形の形状自体からも肺動脈弁逆流(又はその疑い)の有無を判定することが可能である。この、血流波形の形状に関する情報を生成してこれを表示部34等にさせることにより、医師等のユーザーに肺動脈弁逆流に関する診断支援を行うことができる。
【0098】
また、生成部である制御部31が「肺動脈弁逆流に関する情報」として、部位(肺動脈に関連する部位)における血流を可視化した情報を生成するとした場合には、「肺動脈弁逆流に関する情報」が表示部34等に表示された場合に分かりやすく、適切に診断を支援することができる。
【0099】
また、生成部である制御部31が、血流波形自体ではなく、血流波形に基づいて得られる情報(例えば、「尖度」「歪度」「振幅」等)を「肺動脈弁逆流に関する情報」として生成した場合には、肺動脈弁逆流に関して多角的、定量的に解析することも可能となり、診断支援として有意な情報を得ることができる。
【0100】
また、生成部である制御部31は、肺動脈に関連する部位において得られた指標に基づいて、「肺動脈弁逆流に関する情報」を生成してもよい。「指標」として、例えば血流速度、血流量(≒振幅)、心臓と肺野の信号値の比(振幅比)等から、「肺動脈弁逆流に関する情報」を生成した場合には、肺動脈弁逆流に関して多角的に解析することが可能になり、診断支援として有意な情報を得ることができる。
このようにX線動態撮影で得られる動態画像からは様々な情報を抽出することが可能であり、本実施形態に示すように、当該情報を用いることで、これまで超音波エコー検査やMRI検査といった限られた手法でしか診断を行うことが難しかった肺動脈弁逆流に関して診断支援のニーズに広く応えることができる。
【0101】
[変形例]
なお、本発明が上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0102】
例えば、本実施形態では、動態画像解析装置である解析装置3が、動態画像や画像の解析結果を示す画像、逆流の有無や程度等を表示させる表示部34を備えている場合を例示したが、解析装置3が表示部34を備えていることは必須ではない。
例えば、解析装置3とは別に高解像度のモニター等を備える表示装置等が設けられて、解析装置3における解析結果等を表示装置等のモニターで確認することができるようにしてもよい。
また逆流の有無や程度等を示す指標や判断結果等、複数の解析結果が得られた場合、これらを並列的に表示させて比較検討できるようにしてもよい。
【0103】
さらに同じ患者について継続的・定期的に動態画像の撮影や各種検査を行っている場合には、それらから得られた情報を記憶部32等に記憶・蓄積させておき、新たに検査等を行った場合には比較できるように過去のデータも時系列的に並列して表示させてもよい。
これによって症状の進み具合や改善具合等を医師等が分かりやすく把握することができ、継続的な治療を行う場合において有効の情報を提供して診断支援を行うことができる。
【符号の説明】
【0104】
1 撮影装置
2 撮影用コンソール
3 解析装置(動態画像解析装置)
31 制御部
34 表示部
100 画像撮影システム
【要約】 (修正有)
【課題】動態画像の画像解析を行うという、被検者にとって負担が少なく比較的簡易な手法によって、肺動脈弁逆流に関する診断支援を行う。
【解決手段】動態画像解析装置(解析装置3)が、放射線による動態撮影により得られた胸部の「動態画像」を取得部として取得し、「動態画像」における「肺動脈や心臓に関連する部位」の動態画像情報に基づいて、「肺動脈弁逆流に関する情報」を生成部として生成し、生成された「肺動脈弁逆流に関する情報」を出力部として出力する制御部31を備えている。
【選択図】
図1