(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】スポンジ状チタンシート材、及び、水電解用電極、水電解装置
(51)【国際特許分類】
C25B 11/063 20210101AFI20240123BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20240123BHJP
C25B 11/046 20210101ALI20240123BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240123BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240123BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240123BHJP
C22C 1/08 20060101ALI20240123BHJP
B22F 3/11 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
C25B11/063
C25B11/032
C25B11/046
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B11/052
C22C1/08 C
B22F3/11 Z
(21)【出願番号】P 2022508237
(86)(22)【出願日】2021-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2021009231
(87)【国際公開番号】W WO2021187228
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2020045655
(32)【優先日】2020-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】佐野 陽祐
(72)【発明者】
【氏名】大森 信一
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-107091(JP,A)
【文献】国際公開第2006/051939(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/176956(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/082424(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/216321(WO,A1)
【文献】特開2006-348330(JP,A)
【文献】特開2007-151805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
C22C 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン又はチタン合金の
粉末の焼結体からなり、表面に開口するとともに内部の気孔に連通している連通気孔を有する3次元網目構造をなすスポンジ状チタンシート材であって、
気孔率が70%以上95%以下の範囲内とされ、平均気孔径が50μm以上600μm以下の範囲内とされ
、厚さが0.1mm~5.0mmとされており、
40mm角の測定片を用いて測定された平均厚さtと反り量wとから算出される平面度F=w/tが1以下であり、
圧縮強度が1MPa以上であることを特徴とするスポンジ状チタンシート材。
【請求項2】
圧縮強度-ひずみ線図から求められる多孔体構造に起因する弾性変形領域のひずみ量の範囲が2%以上であることを特徴とする請求項1に記載のスポンジ状チタンシート材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のスポンジ状チタンシート材からなることを特徴とする水電解用電極。
【請求項4】
請求項3に記載の水電解用電極を備えたことを特徴とする水電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体及びガス等の流体の流通性に優れ、かつ、他の部材との接触性に優れたスポンジ状チタンシート材、及び、このスポンジ状チタンシート材からなる水電解用電極、水電解装置に関する。
本願は、2020年3月16日に、日本に出願された特願2020-045655号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、脱CO2社会のために、水素社会の実現に向けた動きが加速する中で、水素需要量の増加が見込まれており、再生可能エネルギーを用いて安価で効率良く水素を製造する技術の開発が求められている。
水素製造技術の候補としては、水電解装置が着目されており、固体酸化物形水電解装置(SOEC)やアルカリ形水電解装置(PAWEM)等いくつか種類が存在する。その中で、固体高分子形(PEM形)水電解装置は、100℃程度で動作可能であり、かつ、電解効率と生成時の水素純度が高い、という強みを持つ。
【0003】
固体高分子形水電解セルの内部構造及び部材は、例えば、カソード側から、集電板(AuめっきSUS板など)/ガス拡散層(電極):カーボン多孔質体/触媒層(Pt/C+アイオノマー)/イオン交換膜(高分子材料)/触媒層(Ir粒子+アイオノマー)/ガス拡散層(電極):チタン多孔質体/ 集電板(AuめっきSUS板など)から成る。
【0004】
上述のガス拡散層はGDL(gas diffusion layer)と呼ばれることが多いが、水電解反応の反応箇所である触媒層まで電流を伝える役割を担っているため、電極と呼ばれることもある。
アノード側のガス拡散層(電極)に求められる性質として、(1)原料の液体状の水と水電解後の酸素ガスを拡散させる必要があること、(2)電解時の過酷な腐食環境で腐食しないこと、がある。そのため、アノード側のガス拡散層(電極)には、耐腐食性に優れたチタン材が用いられている。
例えば、特許文献1には、ガス拡散層として、チタン繊維の焼結体を用いたものが提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に示すようなチタン繊維の焼結体においては、その表面に繊維の端部が露呈しており、表面に凹凸が生じ易い。ここで、上述のガス拡散層(電極)は、硬さの異なる2つの部材(柔らかい触媒層と硬い集電板)に挟まれる形で使用されるため、ガス拡散層(電極)の接触面に凹凸が生じていると、極端な応力集中が生じやすく、柔らかい触媒層を傷つけるため、電極として不向きであった。
【0006】
そこで、例えば特許文献2,3に示すように、接触面の表面粗さを改善したチタン材が提案されている。
特許文献2には、チタン製のパンチングメタルの表面に貴金属層を形成し、表面粗さ(Ra)を0.5μm以下としたものが提案されている。
特許文献3には、少なくとも片面の算術平均粗さRaを8.0μm以下としたシート状チタン系多孔体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-259457号公報
【文献】特開2019-137891号公報
【文献】特許第6485967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献2に記載されたチタン材においては、チタン製のパンチングメタルを用いており、3次元網目構造となっていないため、原料の液体状の水と水電解後の酸素ガスを十分に拡散することができないおそれがあった。また、貴金属層を形成しているので、コストが非常に増加してしまうといった問題があった。
また、特許文献3に記載されたチタン材においては、平均粒径が50μm以下の原料粉をセッターに散布して焼結することで、気孔率50-70%の電極を作製している。しかしながら、70%以上の気孔率を確保できず、原料の液体状の水と水電解後の酸素ガスを十分に拡散することができないおそれがあった。
一方、発泡工程を経て製造されたチタン粒子焼結体からなるチタン材においては、70%以上の気孔率を達成できるものの、反り等が生じ易く、単に接触面の表面粗さを規定しただけでは、チタン材と他の部材とを良好に接触させることができないおそれがあった。
【0009】
本発明は、以上のような事情を背景としてなされたものであって、隣接する他の部材と十分に接触させることができ、かつ、液体やガス等の流体を良好に流通させて拡散することが可能なスポンジ状チタンシート材、及び、このスポンジ状チタンシート材からなる水電解用電極、水電解装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のスポンジ状チタンシート材は、チタン又はチタン合金の粉末の焼結体からなり、表面に開口するとともに内部の気孔に連通している連通気孔を有する3次元網目構造をなすスポンジ状チタンシート材であって、気孔率が70%以上95%以下の範囲内とされ、平均気孔径が50μm以上600μm以下の範囲内とされ、厚さが0.1mm~5.0mmとされており、40mm角の測定片を用いて測定された平均厚さtと反り量wとから算出される平面度F=w/tが1以下であり、圧縮強度が1MPa以上であることを特徴としている。
【0011】
この構成のスポンジ状チタンシート材によれば、表面に開口するとともに内部の気孔に連通している連通気孔を有する3次元網目構造をなしており、気孔率が70%以上95%以下の範囲内とされ、平均気孔径が50μm以上600μm以下の範囲内とされているので、液体やガス等の流体を良好に流通させて拡散することが可能となる。
そして、平均厚さtと反り量wとから算出される平面度F=w/tが1以下とされているので、スポンジ状チタンシート材と隣接する他の部材とを良好に接触させることが可能となる。
【0012】
ここで、本発明のスポンジ状チタンシート材においては、圧縮強度(圧縮での座屈耐力)が1MPa以上であるので、圧縮強度が十分に高く、例えばこのスポンジ状チタンシート材に圧縮荷重が負荷されても破損等を抑制でき、安定して使用することが可能となる。
【0013】
また、本発明のスポンジ状チタンシート材においては、圧縮強度-ひずみ線図から求められる多孔体構造に起因する線弾性変形領域のひずみ量の範囲が2%以上であることが好ましい。
この場合、多孔体構造に起因する弾性変形領域のひずみ量が大きく、例えば圧縮荷重が作用した場合であっても容易に塑性変形することがない。このため、他の部材でスポンジ状チタンシート材を挟持した場合に、他の部材とスポンジ状チタンシート材とを良好に接触させることが可能となる。
【0014】
本発明の水電解用電極は、上述のスポンジ状チタンシート材からなることを特徴としている。
この構成の水電解用電極によれば、上述のスポンジ状チタンシート材で構成されているので、液体やガスの流通性に優れ、かつ、他の部材との接触性に優れており、隣接する他の部材(イオン交換膜及び触媒層、 集電板)との接触抵抗を小さくすることができ、水の電解を、効率良くかつ安定して行うことが可能となる。
【0015】
本発明の水電解装置は、上述の水電解用電極を備えたことを特徴としている。
この構成の水電解用電極によれば、上述のスポンジ状チタンシート材で構成された水電解用電極を備えているので、液体やガスの流通性に優れ、かつ、他の部材との接触性に優れており、隣接する他の部材(イオン交換膜及び触媒層、 集電板)との接触抵抗を小さくすることができ、水の電解を、効率良くかつ安定して行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、隣接する他の部材と十分に接触させることができ、かつ、液体やガス等の流体を良好に流通させて拡散することが可能なスポンジ状チタンシート材、及び、このスポンジ状チタンシート材からなる水電解用電極、水電解装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態であるスポンジ状チタンシート材の一例を示す説明図である。
【
図2】
図1に示すスポンジ状チタンシート材の製造方法の一例を示すフロー図である。
【
図3】本発明の実施形態である水電解装置の概略説明図である。
【
図4】実施例における平均厚さを測定する箇所を示す説明図である。
【
図5】実施例において、圧縮応力-ひずみ線図から、圧縮強度及び弾性変形領域を求める手順を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態であるスポンジ状チタンシート材、及び、水電解用電極、水電解装置について、添付した図面を参照して説明する。
【0019】
本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10は、例えば、固体高分子形燃料電池(PEFC)のカソード電極、水電解装置のアノード電極、リチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタ向け電極材等の通電部材として使用されるものである。
本実施形態においては、後述するように、
図3に示す水電解装置(水電解装置)のガス拡散層(GDL)を構成する電極として用いられるものである。
【0020】
本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10は、
図1に示すように、多孔質体とされており、3次元網目構造とされた骨格部11と、この骨格部11に囲まれた気孔部16と、を備えている。
また、骨格部11に囲まれた気孔部16は、互いに連通するとともに、スポンジ状チタンシート材10の外部に向けて開口した連通気孔を有している。
このスポンジ状チタンシート材10は、例えば、チタンを含むチタン焼結原料を焼結させたチタン焼結体で構成されている。
【0021】
また、本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10においては、その気孔率Pが70%以上95%以下の範囲内とされている。なお、スポンジ状チタンシート材10の気孔率Pは、以下の式で算出される。
P(%)=(1-(W/(V×DT)))×100
W:スポンジ状チタンシート材10の質量(g)
V:スポンジ状チタンシート材10の体積(cm3)
DT:スポンジ状チタンシート材10を構成するチタンまたはチタン合金の真密度(g/cm3)
【0022】
さらに、本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10においては、平均気孔径Rが50μm以上600μm以下の範囲内とされている。なお、スポンジ状チタンシート材10の平均気孔径Rは、断面観察を行い、その観察像から気孔部16の断面積から求められる円相当径(直径)とした。
【0023】
そして、本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10においては、平均厚さtと反り量wとから算出される平面度F=w/tが1以下とされている。
なお、平均厚さtは、例えば40mm角以上の面積に切り出した上で、端部から10mm離間した位置で4点以上の範囲内で厚みを測定して算出することが好ましい。また、反り量wは、平均厚さを測定した試料を、3次元測定器を用いて画像処理することで算出することが好ましい。
【0024】
本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10の平均厚さは、平面度F=w/tが1以下を満たすものであれば、限定されないが、好ましくは0.1mm~5mm程度であり、より好ましくは0.1mm~3mm程度であり、より好ましくは0.3mm~2mm程度である。
【0025】
さらに、本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10においては、圧縮強度(圧縮での座屈耐力)が1MPa以上であることが好ましい。
また、本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10においては、圧縮強度-ひずみ線図から求められる多孔体構造に起因する弾性変形領域のひずみ量の範囲が2%以上であることが好ましい。
【0026】
以下に、本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10において、気孔率、平均気孔径、平面度、圧縮強度、弾性変形領域のひずみ量について、上述のように規定した理由を説明する。
【0027】
(気孔率P)
本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10において、気孔率Pが70%未満の場合には、ガスや液体の流通が阻害され、十分に拡散させることができなくなるおそれがある。一方、気孔率Pが95%を超えると、強度が不足してしまい、取り扱い時や使用時に破損しやすくなるおそれがある。
そこで、本実施形態においては、スポンジ状チタンシート材10の気孔率Pを70%以上95%以下の範囲内に設定している。
なお、ガスや液体の流通をさらに促進するためには、気孔率Pの下限を75%以上とすることが好ましく、80%以上とすることがより好ましい。一方、スポンジ状チタンシート材10の強度をさらに確保するためには、気孔率Pの上限を93%以下とすることが好ましく、90%以下とすることがより好ましい。
【0028】
(平均気孔径R)
本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10において、平均気孔径Rが50μm未満の場合には、ガスや液体の流通が阻害され、十分に拡散させることができなくなるおそれがある。一方、平均気孔径Rが600μmを超えると、他の部材との接触点が不足し、接触抵抗が増加するおそれがある。
そこで、本実施形態においては、スポンジ状チタンシート材10の平均気孔径Rを50μm以上600μm以下の範囲内に設定している。
なお、ガスや液体の流通をさらに促進するためには、平均気孔径Rの下限を100μm以上とすることが好ましく200μm以上とすることがより好ましい。一方、他の部材との接触点をさらに確保するためには、平均気孔径Rの上限を550μm以下とすることが好ましく、500μm以下とすることがより好ましい。
【0029】
(平面度F)
本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10において、平均厚さtと反り量wとから算出される平面度F=w/tが1を超えると、他の部材との接触が不十分となり、接触抵抗が増加してしまうおそれがある。
そこで、本実施形態においては、スポンジ状チタンシート材10の平面度Fを1以下に範囲内に設定している。
なお、他の部材とさらに十分に接触させるためには、スポンジ状チタンシート材10の平面度Fを0.8以下とすることが好ましく、0.5以下とすることがより好ましく、0.4以下とすることがより更に好ましい。
【0030】
(圧縮強度)
本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10においては、例えば
図3に示すように、他の部材の間に挟持して使用されるため、圧縮荷重が負荷されることになる。
そこで、本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10において圧縮強度が1MPa以上の場合には、他の部材の間に挟持された場合でも容易に破損することが無く、安定して使用することが可能となる。
なお、本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10の圧縮強度(圧縮での座屈耐力)は、1.2MPa以上であることが好ましく、1.5MPa以上であることがより好ましい。
ここで、圧縮強度は、2.5mm角にサンプルを切り出し、圧縮試験機(ミネベア社製、Techono Graph TG-20kNB)を用いて応力―ひずみ曲線を測定し、低ひずみ域での線形領域と高ひずみ域での線形領域との交点として算出される(
図5参照)。
【0031】
(弾性変形領域のひずみ量)
本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10においては、上述のように他の部材の間に挟持して使用される。このため、他の部材で挟持した場合に、他の部材とスポンジ状チタンシート材10とを良好に接触させるためには、他の部材から作用する圧縮荷重に対して容易に塑性変形せずに弾性変形することが好ましい。
そこで、本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10において圧縮強度-ひずみ線図から求められる多孔体構造に起因する弾性変形領域のひずみ量の範囲が2%以上である場合には、他の部材との接触がさらに良好となる。
なお、本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10の弾性変形領域のひずみ量は、4%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、6%以上であることがより好ましい。
ここで、圧縮強度-ひずみ線図は、2.5mm角に切り出したサンプルを、圧縮試験機(ミネベア社製、Techono Graph TG-20kNB)を用いて、0から18MPaまで加圧し、その際のスポンジ状チタンシート材10のひずみ量を測定することで得られる。得られた圧縮強度―ひずみ線図には、チタン多孔質材の骨格構造のしなりに起因する低ひずみ域での弾性領域と、骨格構造が部分破壊される高ひずみ域での非弾性領域が存在する。2つの領域に対し、線形回帰を行い、その交点が圧縮強度として算出される。多孔体構造に起因する弾性変形領域のひずみ量は、圧縮強度に達した時のひずみ量である。
【0032】
次に、本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10の製造方法について、
図2のフロー図を参照して説明する。
【0033】
(チタン含有スラリー形成工程S01)
まず、原料粉として、チタン又はチタン合金からなるチタン粉を準備する。本実施形態では、水素化チタン粉又は水素化チタン粉を脱水素することにより作製した純チタン粉を準備した。
この原料粉に、水溶性樹脂結合剤、有機溶剤、可塑剤、溶媒としての水、場合によっては界面活性剤を混合してチタン含有スラリーを作製する。
【0034】
水溶性樹脂結合剤としては、例えば、メチルセルロースを用いることができる。
有機溶剤としては、例えば、ネオペンタン、ヘキサンおよびブタンを用いることができる。
可塑剤としては、例えば、グリセリンおよびエチレングリコールを用いることができる。
界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩を用いることができる。
【0035】
チタン含有スラリーの総質量に対する純チタン粉の含有量は、50質量%~80質量%であることが好ましく、55質量%~75質量%であることがより好ましい。
チタン含有スラリーの総質量に対する水溶性樹脂結合剤の含有量は、1質量%~5質量%であることが好ましく、2質量%~3質量%であることがより好ましい。
チタン含有スラリーの総質量に対する有機溶剤の含有量は、1質量%~4質量%であることが好ましく、2質量%~3質量%であることがより好ましい。
チタン含有スラリーの総質量に対する可塑剤の含有量は、1質量%~4質量%であることが好ましく、2質量%~3質量%であることがより好ましい。
チタン含有スラリーの総質量に対する水の含有量は、20質量%~60質量%であることが好ましく、25質量%~50質量%であることがより好ましい。
チタン含有スラリーの総質量に対する界面活性剤の含有量は、0質量%~5質量%であることが好ましく、1質量%~4質量%であることがより好ましい。
【0036】
(シート成形体形成工程S02)
次に、上述のチタン含有スラリーをドクターブレード法等によってシート状に成形し、シート成形体を形成する。
シート成形体の厚みは、0.1mm~10mm程度であることが好ましく、0.2mm~8mm程度であることがより好ましい。
【0037】
(発泡工程S03)
次に、上述のシート成形体を発泡させてスポンジ状グリーン成形体を作製する。
シート成形体の発泡は、例えば、恒温・恒湿度槽に供給し、そこで温度:25~50℃程度(好ましくは40℃)、湿度:70~100%程度(好ましくは90%)、3~30分間程度(好ましくは20分間)保持の条件で発泡させたのち、温度:30~90℃程度(好ましくは80℃)、5~300分間程度(好ましくは15分間)保持の条件の温風乾燥を行うことにより実施することができる。
【0038】
(脱脂工程S04)
次に、上述のスポンジ状グリーン成形体をジルコニア製板の上に載せ、真空雰囲気中で加熱することにより、脱脂処理して脱脂処理体を得る。
脱脂工程における加熱温度は、200℃~550℃程度であることが好ましく、350℃~500℃程度であることがより好ましい。
脱脂工程における加熱時間は、1分~200分程度であることが好ましく、2分~15分程度であることがより好ましい。
【0039】
(焼結工程S05)
次に、上述の脱脂処理体を真空雰囲気中で50℃以下にまで冷却したのち又は冷却せずに真空雰囲気中で焼結し、焼結体を作製する。
焼結工程における加熱温度は、例えば、1000℃~1300℃程度であることが好ましく、1120℃~1250℃程度であることがより好ましい。
焼結工程における加熱時間は、1時間~4時間程度であることが好ましく、2時間~3時間程度であることがより好ましい。
【0040】
(フラットニング工程S06)
次に、上述の焼結体に対して、900℃以上1100℃以下の温度範囲で10分以上300分以下の範囲内で保持する。この熱処理により、焼結体の反りを低減することができ、平面度Fを1以下とすることが可能となる。
【0041】
上述の製造方法により、本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10が製造されることになる。
【0042】
次に、本実施形態である水電解用電極及び水電解装置の概略図を
図3に示す。なお、本実施形態の水電解装置は、電解効率及び生成時の水素純度が高い、固体高分子形水分解装置とされている。
【0043】
本実施形態の水電解装置30は、
図3に示すように、対向配置されたアノード極32及びカソード極33と、これらアノード極32とカソード極33との間に配置されたイオン透過膜34と、を備えた水電解セル31を備えている。なお、イオン透過膜34の両面(アノード極32との接触面及びカソード極33との接触面)には、それぞれ触媒層35,36が形成されている。
ここで、カソード極33、イオン透過膜34、触媒層35,36については、従来の一般的な固体高分子形水電解装置で使用されているものを適用することができる。
【0044】
そして、上述のアノード極32が、本実施形態である水電解用電極とされている。このアノード極32(水電解用電極)は、上述した本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10で構成されている。
【0045】
上述の水電解装置30(水電解セル31)においては、
図3に示すように、アノード極32側から水(H
2O)が供給されるとともに、アノード極32及びカソード極33に通電される。すると、水の電解によって生じた酸素(O
2)がアノード極32から排出され、水素(H
2)がカソード極33から排出されることになる。
ここで、アノード極32においては、上述のように、水(液体)と酸素(気体)が流通することになるので、これら液体及び気体を安定して流通させるために、高い気孔率を有することが好ましい。また、アノード極32は酸素に晒されるため、優れた耐食性が求められる。このため、本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10からなる水電解用電極が、アノード極32として特に適している。
【0046】
以上のような構成とされた本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10によれば、表面に開口するとともに内部の気孔に連通している連通気孔を有する3次元網目構造をなしており、気孔率Pが70%以上95%以下の範囲内とされ、平均気孔径Rが50μm以上600μm以下の範囲内とされているので、液体やガスを良好に流通させて拡散することが可能となる。
そして、平均厚さtと反り量wとから算出される平面度F=w/tが1以下とされているので、スポンジ状チタンシート材10と隣接する他の部材とを良好に接触させることが可能となる。
【0047】
本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10において、圧縮強度が1MPa以上である場合には、例えばこのスポンジ状チタンシート材10に圧縮荷重が負荷されても破損等を抑制でき、安定して使用することが可能となる。
【0048】
さらに、本実施形態であるスポンジ状チタンシート材10において、圧縮強度-ひずみ線図から求められる線弾性変形領域のひずみ量の範囲が2%以上である場合には、弾性変形領域のひずみ量が大きく、荷重が作用した場合であっても容易に塑性変形することがない。このため、他の部材でスポンジ状チタンシート材10を挟持した場合に、他の部材とスポンジ状チタンシート材10とを良好に接触させることが可能となる。
【0049】
さらに、本実施形態である水電解用電極は、上述のスポンジ状チタンシート材10で構成され、アノード極32として使用されているので、液体やガスの流通性に優れ、かつ、他の部材との接触性に優れており、隣接するイオン透過膜34及び触媒層36との接触抵抗を小さくすることができ、水電解を、効率良くかつ安定して行うことが可能となる。
【0050】
本実施形態である水電解装置30においては、上述したスポンジ状チタンシート材10で構成された水電解用電極をアノード極32に用いているので、液体やガスの流通性に優れ、かつ、他の部材との接触性に優れており、隣接するイオン透過膜34及び触媒層36との接触抵抗を小さくすることができ、水電解を、効率良くかつ安定して行うことが可能となる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、
図3に示す構造の水電解装置(水電解セル)を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、本実施形態であるスポンジ状チタンシート材からなる水電解用電極を備えていれば、その他の構造の水電解装置(水電解セル)であってもよい。
また、本発明のスポンジ状チタンシート材を、水電解装置以外の他の用途に使用してもよい。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
本発明例1
チタン含有スラリー形成工程S01
水素化チタン粉を脱水素することにより作られた純チタン粉(東邦チタニウム社製、商品名TC-459)30gに、水溶性樹脂結合剤としてメトローズ90SH(信越化学工業社製)を1.5g、有機溶剤としてヘキサン特級(関東科学社製)0.8g、可塑剤としてグリセリン特級(関東科学社製)0.8g、界面活性剤としてラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム(林純薬工業製)0.8g、溶媒として精製水W-20(トラスコ中山社製)を20gを混合し、チタン含有スラリーを作製した。
【0053】
シート成形体形成工程S02
前記チタン含有スラリーをドクターブレード法等によって、幅120mm、長さ300mm、厚み1.0mmのシート状に成形した。
【0054】
発泡工程S03
前記シート成形体を恒温・恒湿度槽内において、温度:40℃、湿度:90%、20分間保持の条件により発泡させたのち、80℃で15分間保持の条件の温風乾燥を行ってスポンジ状グリーン成形体を作製した。
【0055】
脱脂工程S04
前記スポンジ状グリーン成形体をジルコニア製板(AZ ONE社製、Zrシリーズ)の上に載せ、真空雰囲気中、400℃で100分間加熱し、脱脂処理体を得た。
【0056】
焼結工程S05
次に、前記脱脂処理体を真空雰囲気中で50℃まで冷却したのち、真空雰囲気中で、1150℃で180分間焼結し、焼結体を得た。
【0057】
フラットニング工程S06
次に、前記焼結体を、1000℃で60分間保持して、スポンジ状シート材(チタン材)を得た。
【0058】
本発明例2~5
本発明例1と同様の手法で、表1に記載の気孔率・平均気孔径・平均厚み・そり量・平面度を有するチタン材(スポンジ状シート材)を作製した。なお、フラットニング工程S06は表1に記載の処理温度および処理時間で実施した。
【0059】
比較例1
フラットニング工程S06を実施しなかった以外は、本発明例1と同じ方法で、スポンジ状シート材を得た。
【0060】
比較例2
チタン板(ニラコ社製、商品名TI-453552)を、打ち抜き加工し、パンチングメタルを得た(幅40mm×長さ40mm×厚さ2.0mm)。なお、孔の径は5mm、孔のピッチが6mmとした。
【0061】
本発明例1-5及び比較例1-2のチタン材について、以下の項目について評価した。
評価結果を表1に示す。
【0062】
(気孔率P)
実施形態の欄に記載したように、以下の式で算出した。
P(%)=(1-(W/(V×DT)))×100
W:チタン材の質量(g)
V:チタン材の体積(cm3)
DT:チタンの真密度4.5g/cm3
【0063】
(平均気孔径R)
上述のチタン材から断面観察用の試料を採取し、この試料を走査型電子顕微鏡又はX線透視測定により、断面観察画像を撮像した。この画像から、気孔部の面積から円相当径(直径)を算出した。
【0064】
(平面度F)
上述のチタン材を40mm角の測定片に切り出し、
図4に示すように、測定片のそれぞれの端部から10mmの位置の4か所でマイクロメーターによって厚さを測定し、平均厚みtを算出した。
また、反り量wは、3次元形状測定装置(キーエンス社製VL300)を用いて画像処理によって測定した。
そして、平均厚みtと反り量wとから、平面度F=w/tを算出した。
【0065】
(圧縮強度及び弾性変形領域のひずみ量)
上述のチタン材から測定試料を採取して圧縮試験を実施し、
図5に示すように、圧縮強度-ひずみ線曲線を得て、圧縮強度及び弾性変形領域のひずみ量を求めた。
圧縮試験は、2.5mm角に切り出したサンプルを、圧縮試験機(ミネベア社製、Techono Graph TG-20kNB)を用いて、0から18MPaまで加圧し、その際のスポンジ状チタンシート材10のひずみ量を測定することにて実施した。
【0066】
(抵抗)
本発明例および比較例の各サンプル(35mm×15mm)をカーボンペーパーと接触させ、銅板で挟んだ。銅板に1MPaの荷重をかけた状態で、カーボンペーパーとサンプル間に1Aの直流電流を流し、接触抵抗を測定した。
【0067】
【0068】
比較例1は、フラットニング加工を実施しなかったため、平面度が1を超えた。抵抗測定時に、カーボンペーパーが破損し、正確な接触抵抗値を測定できなかった。セルに組み込んだ際、イオン交換膜などを突き破るおそれがあり、電極として不適であった。
比較例2は、パンチングメタルで構成されたものであり、弾性変形領域のひずみ量が1%であった。このため、セルに組み込んだ際の他部材への形状追随性が悪く、電極として不適であった。
【0069】
これに対して、フラットニング加工を実施し、平面度が1以下とされた本発明例1-5においては、弾性変形領域のひずみ量が2%以上であり、柔軟性に優れていた。また、気孔率も高く、かつ、圧縮強度に優れていた。さらに、抵抗値も十分に低くなった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明例によれば、隣接する他の部材と十分に接触させることができ、かつ、液体やガス等の流体を良好に流通させて拡散することが可能なスポンジ状チタンシート材、及び、このスポンジ状チタンシート材からなる水電解用電極、水電解装置を提供可能である。
【符号の説明】
【0071】
10 スポンジ状チタンシート材
30 水電解装置
32 アノード極(水電解用電極)