(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】弾性波装置
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20240123BHJP
【FI】
H03H9/25 C
(21)【出願番号】P 2022515383
(86)(22)【出願日】2021-04-12
(86)【国際出願番号】 JP2021015222
(87)【国際公開番号】W WO2021210551
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2020074254
(32)【優先日】2020-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大門 克也
(72)【発明者】
【氏名】岩本 英樹
【審査官】竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/154950(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/164209(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板と、
前記シリコン基板上に
直接的に設けられている第1の高音速膜と、
前記第1の高音速膜上に
直接的に設けられている第1の低音速膜と、
前記第1の低音速膜上に
直接的に設けられている第2の低音速膜と、
前記第2の低音速膜上に
直接的に設けられている第2の高音速膜と、
前記第2の高音速膜上に
直接的に設けられている圧電膜と、
前記圧電膜上に設けられているIDT電極と、
を備え、
前記第1の高音速膜を伝搬するバルク波の音速及び前記第2の高音速膜を伝搬するバルク波の音速が、前記圧電膜を伝搬する弾性波の音速よりも高く、
前記第1の低音速膜を伝搬するバルク波の音速及び前記第2の低音速膜を伝搬するバルク波の音速が、前記圧電膜を伝搬するバルク波の音速よりも低く、
前記第1の低音速膜の材料と前記第2の低音速膜の材料とが異なる、弾性波装置。
【請求項2】
前記第1の高音速膜の厚みが前記第2の高音速膜の厚み以上である、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項3】
前記第1の低音速膜の厚みが前記第2の低音速膜の厚み以上である、請求項1または2に記載の弾性波装置。
【請求項4】
前記第1の高音速膜の厚みが前記第1の低音速膜の厚み以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項5】
前記第1の低音速膜または前記第2の低音速膜がSiO
2膜である、請求項1~4のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項6】
前記圧電膜がLiTaO
3膜またはLiNbO
3膜である、請求項1~5のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項7】
前記シリコン基板の面方位が(111)であり、
前記第1の高音速膜及び前記第2の高音速膜の双方がSiN膜であり、前記第1の低音速膜がSiO
2膜であり、前記第2の低音速膜がTa
2O
5膜であり、前記圧電膜がLiTaO
3膜であり、
前記IDT電極の電極指ピッチにより規定される波長をλとし、前記第1の高音速膜の厚みをt_SiN-1[λ]とし、前記第2の高音速膜の厚みをt_SiN-2[λ]とし、前記第1の低音速膜の厚みをt_SiO2[λ]とし、前記第2の低音速膜の厚みをt_Ta2O5[λ]とし、前記圧電膜の厚みをt_LT[λ]とし、前記圧電膜のオイラー角を(LTφ,LTθ,LTψ)とし、前記シリコン基板のオイラー角を(Siφ,Siθ,Siψ)としたときに、前記t_SiN-1[λ]、前記t_SiN-2[λ]、前記t_SiO2[λ]、前記t_Ta2O5[λ]、前記t_LT[λ]、前記LTθ、及び前記Siψが、下記の式1により導出される位相が-70[deg]以下となる範囲内の厚み及び角度である、請求項1~5のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【数1】
【請求項8】
前記シリコン基板の面方位が(111)であり、
前記第1の高音速膜及び前記第2の高音速膜の双方がSiN膜であり、前記第1の低音速膜がSiO
2膜であり、前記第2の低音速膜がTa
2O
5膜であり、前記圧電膜がLiTaO
3膜であり、
前記IDT電極の電極指ピッチにより規定される波長をλとし、前記第1の高音速膜の厚みをt_SiN-1[λ]とし、前記第2の高音速膜の厚みをt_SiN-2[λ]とし、前記第1の低音速膜の厚みをt_SiO2[λ]とし、前記第2の低音速膜の厚みをt_Ta2O5[λ]とし、前記圧電膜の厚みをt_LT[λ]とし、前記圧電膜のオイラー角を(LTφ,LTθ,LTψ)とし、前記シリコン基板のオイラー角を(Siφ,Siθ,Siψ)としたときに、前記t_SiN-1[λ]、前記t_SiN-2[λ]、前記t_SiO2[λ]、前記t_Ta2O5[λ]、前記t_LT[λ]、前記LTθ、及び前記Siψが、下記の式2により導出される位相が-70[deg]以下となる範囲内の厚み及び角度である、請求項1~5のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【数2】
【請求項9】
前記シリコン基板の面方位が(111)であり、
前記第1の高音速膜及び前記第2の高音速膜の双方がSiN膜であり、前記第1の低音速膜がSiO
2膜であり、前記第2の低音速膜がTa
2O
5膜であり、前記圧電膜がLiTaO
3膜であり、
前記IDT電極の電極指ピッチにより規定される波長をλとし、前記第1の高音速膜の厚みをt_SiN-1[λ]とし、前記第2の高音速膜の厚みをt_SiN-2[λ]とし、前記第1の低音速膜の厚みをt_SiO2[λ]とし、前記第2の低音速膜の厚みをt_Ta2O5[λ]とし、前記圧電膜の厚みをt_LT[λ]とし、前記圧電膜のオイラー角を(LTφ,LTθ,LTψ)とし、前記シリコン基板のオイラー角を(Siφ,Siθ,Siψ)としたときに、前記t_SiN-1[λ]、前記t_SiN-2[λ]、前記t_SiO2[λ]、前記t_Ta2O5[λ]、前記t_LT[λ]、前記LTθ、及び前記Siψが、下記の式3により導出される位相が-70[deg]以下となる範囲内の厚み及び角度である、請求項1~5のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【数3】
【請求項10】
前記シリコン基板の面方位が(110)であり、
前記第1の高音速膜及び前記第2の高音速膜の双方がSiN膜であり、前記第1の低音速膜がSiO
2膜であり、前記第2の低音速膜がTa
2O
5膜であり、前記圧電膜がLiTaO
3膜であり、
前記IDT電極の電極指ピッチにより規定される波長をλとし、前記第1の高音速膜の厚みをt_SiN-1[λ]とし、前記第2の高音速膜の厚みをt_SiN-2[λ]とし、前記第1の低音速膜の厚みをt_SiO2[λ]とし、前記第2の低音速膜の厚みをt_Ta2O5[λ]とし、前記圧電膜の厚みをt_LT[λ]とし、前記シリコン基板のオイラー角を(Siφ,Siθ,Siψ)としたときに、前記t_SiN-1[λ]、前記t_SiN-2[λ]、前記t_SiO2[λ]、前記t_Ta2O5[λ]、及び前記Siψが、下記の式4により導出される位相が-70[deg]以下となる範囲内の厚み及び角度である、請求項1~5のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【数4】
【請求項11】
前記シリコン基板の面方位が(110)であり、
前記第1の高音速膜及び前記第2の高音速膜の双方がSiN膜であり、前記第1の低音速膜がSiO
2膜であり、前記第2の低音速膜がTa
2O
5膜であり、前記圧電膜がLiTaO
3膜であり、
前記IDT電極の電極指ピッチにより規定される波長をλとし、前記第1の高音速膜の厚みをt_SiN-1[λ]とし、前記第2の高音速膜の厚みをt_SiN-2[λ]とし、前記第1の低音速膜の厚みをt_SiO2[λ]とし、前記第2の低音速膜の厚みをt_Ta2O5[λ]とし、前記圧電膜の厚みをt_LT[λ]とし、前記シリコン基板のオイラー角を(Siφ,Siθ,Siψ)としたときに、前記t_SiN-1[λ]、前記t_SiN-2[λ]、前記t_SiO2[λ]、前記t_Ta2O5[λ]、及び前記Siψが、下記の式5により導出される位相が-70[deg]以下となる範囲内の厚み及び角度である、請求項1~5のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【数5】
【請求項12】
前記シリコン基板の面方位が(100)であり、
前記第1の高音速膜及び前記第2の高音速膜の双方がSiN膜であり、前記第1の低音速膜がSiO
2膜であり、前記第2の低音速膜がTa
2O
5膜であり、前記圧電膜がLiTaO
3膜であり、
前記IDT電極の電極指ピッチにより規定される波長をλとし、前記第1の高音速膜の厚みをt_SiN-1[λ]とし、前記第2の高音速膜の厚みをt_SiN-2[λ]とし、前記第1の低音速膜の厚みをt_SiO2[λ]とし、前記第2の低音速膜の厚みをt_Ta2O5[λ]とし、前記圧電膜の厚みをt_LT[λ]とし、前記シリコン基板のオイラー角を(Siφ,Siθ,Siψ)としたときに、前記t_SiN-1[λ]、前記t_SiN-2[λ]、前記t_SiO2[λ]、前記t_Ta2O5[λ]、及び前記Siψが、下記の式6により導出される位相が-70[deg]以下となる範囲内の厚み及び角度である、請求項1~5のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【数6】
【請求項13】
前記シリコン基板の面方位が(100)であり、
前記第1の高音速膜及び前記第2の高音速膜の双方がSiN膜であり、前記第1の低音速膜がSiO
2膜であり、前記第2の低音速膜がTa
2O
5膜であり、前記圧電膜がLiTaO
3膜であり、
前記IDT電極の電極指ピッチにより規定される波長をλとし、前記第1の高音速膜の厚みをt_SiN-1[λ]とし、前記第2の高音速膜の厚みをt_SiN-2[λ]とし、前記第1の低音速膜の厚みをt_SiO2[λ]とし、前記第2の低音速膜の厚みをt_Ta2O5[λ]とし、前記圧電膜の厚みをt_LT[λ]とし、前記シリコン基板のオイラー角を(Siφ,Siθ,Siψ)としたときに、前記t_SiN-1[λ]、前記t_SiN-2[λ]、前記t_SiO2[λ]、前記t_Ta2O5[λ]、及び前記Siψが、下記の式7により導出される位相が-70[deg]以下となる範囲内の厚み及び角度である、請求項1~5のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【数7】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、弾性波装置は携帯電話機のフィルタなどに広く用いられている。下記の特許文献1には、弾性波装置の一例が開示されている。この弾性波装置においては、支持基板、高音速膜、低音速膜及び圧電膜がこの順序において積層されている。圧電膜上にIDT(Interdigital Transducer)電極が設けられている。該弾性波装置が上記の積層構造を有することにより、Q値が高められている。なお、支持基板の材料の一例として、シリコンが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような弾性波装置では、高次モードによるスプリアスが生じるおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、高次モードなどの不要波を広い帯域において抑制することができる、弾性波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る弾性波装置は、シリコン基板と、前記シリコン基板上に設けられている第1の高音速膜と、前記第1の高音速膜上に設けられている第1の低音速膜と、前記第1の低音速膜上に設けられている第2の低音速膜と、前記第2の低音速膜上に設けられている第2の高音速膜と、前記第2の高音速膜上に設けられている圧電膜と、前記圧電膜上に設けられているIDT電極とを備え、前記第1の高音速膜を伝搬するバルク波の音速及び前記第2の高音速膜を伝搬するバルク波の音速が、前記圧電膜を伝搬する弾性波の音速よりも高く、前記第1の低音速膜を伝搬するバルク波の音速及び前記第2の低音速膜を伝搬するバルク波の音速が、前記圧電膜を伝搬するバルク波の音速よりも低く、前記第1の低音速膜の材料と前記第2の低音速膜の材料とが異なる。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る弾性波装置によれば、高次モードなどの不要波を広い帯域において抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の一部を示す正面断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の平面図である。
【
図3】
図3は、シリコンの結晶軸の定義を示す模式図である。
【
図4】
図4は、シリコンの(111)面を示す模式図である。
【
図5】
図5は、シリコンの(111)面の結晶軸をXY面から見た図である。
【
図6】
図6は、シリコンの(100)面を示す模式図である。
【
図7】
図7は、シリコンの(110)面を示す模式図である。
【
図8】
図8は、方向ベクトルk
111を説明するための模式的断面図である。
【
図9】
図9は、方向ベクトルk
111を説明するための模式的平面図である。
【
図10】
図10は、シリコンの[11-2]方向を示す模式図である。
【
図11】
図11は、角度α
111を説明するための模式図である。
【
図12】
図12は、比較例の弾性波装置の一部の層構成を示す正面断面図である。
【
図13】
図13は、本発明の第1の実施形態及び比較例の弾性波装置における位相特性を示す図である。
【
図14】
図14は、本発明の実施例1及び実施例2における位相特性を示す図である。
【
図15】
図15は、本発明の実施例3及び実施例4における位相特性を示す図である。
【
図16】
図16は、本発明の実施例5及び実施例6における位相特性を示す図である。
【
図17】
図17は、LiTaO
3膜のカット角と、レイリー波の位相との関係を示す図である。
【
図18】
図18は、本発明の第2の実施形態に係る弾性波装置の位相特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0010】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0011】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の一部を示す正面断面図である。
図2は、第1の実施形態に係る弾性波装置の平面図である。なお、
図1は、
図2中のI-I線に沿う断面図である。
【0012】
図1に示すように、弾性波装置1はシリコン基板2と、第1の高音速膜3と、第1の低音速膜4と、第2の低音速膜5と、第2の高音速膜6と、圧電膜7とを有する。より具体的には、シリコン基板2上に第1の高音速膜3が設けられている。第1の高音速膜3上に第1の低音速膜4が設けられている。第1の低音速膜4上に第2の低音速膜5が設けられている。第2の低音速膜5上に第2の高音速膜6が設けられている。第2の高音速膜6上に圧電膜7が設けられている。
【0013】
圧電膜7上にはIDT電極8が設けられている。IDT電極8に交流電圧を印加することにより、弾性波が励振される。
図2に示すように、圧電膜7上における、IDT電極8の弾性波伝搬方向両側に、一対の反射器9A及び反射器9Bが設けられている。弾性波装置1は弾性表面波共振子である。もっとも、本発明に係る弾性波装置は弾性波共振子には限定されず、弾性波共振子を有するフィルタ装置やマルチプレクサであってもよい。
【0014】
図2に示すように、IDT電極8は、第1のバスバー16、第2のバスバー17、複数の第1の電極指18及び複数の第2の電極指19を有する。第1のバスバー16及び第2のバスバー17は対向し合っている。複数の第1の電極指18の一端は、それぞれ第1のバスバー16に接続されている。複数の第2の電極指19の一端は、それぞれ第2のバスバー17に接続されている。複数の第1の電極指18及び複数の第2の電極指19は互いに間挿し合っている。なお、本明細書においては、弾性波伝搬方向をX方向とする。IDT電極8の第1の電極指18及び第2の電極指19が延びる方向をY方向とする。IDT電極8、圧電膜7及びシリコン基板2などの厚み方向をZ方向とする。
【0015】
IDT電極8、反射器9A及び反射器9Bは積層金属膜からなる。より具体的には、該積層金属膜においては、Ti層、Al層及びTi層がこの順序において積層されている。もっとも、IDT電極8、反射器9A及び反射器9Bの材料は上記に限定されない。あるいは、IDT電極8、反射器9A及び反射器9Bは、単層の金属膜からなっていてもよい。
【0016】
図1に戻り、圧電膜7はタンタル酸リチウム膜である。より具体的には、圧電膜7は、40°YカットX伝搬のLiTaO
3膜である。なお、圧電膜7の材料及びカット角は上記に限定されない。圧電膜7の材料としては、例えば、ニオブ酸リチウムを用いてもよい。ニオブ酸リチウムとしては、例えば、LiNbO
3を用いることができる。圧電膜7がLiTaO
3膜である場合において、圧電膜7のオイラー角を(LTφ,LTθ,LTψ)とする。なお、圧電膜7は結晶軸(X
P,Y
P,Z
P)を有する。
【0017】
図1に示す第1の高音速膜3及び第2の高音速膜6は、相対的に高音速な膜である。より具体的には、第1の高音速膜3を伝搬するバルク波の音速は、圧電膜7を伝搬する弾性波の音速よりも高い。同様に、第2の高音速膜6を伝搬するバルク波の音速は、圧電膜7を伝搬する弾性波の音速よりも高い。本実施形態においては、第1の高音速膜3及び第2の高音速膜6の双方は窒化ケイ素膜である。より具体的には、第1の高音速膜3及び第2の高音速膜6の双方はSiN膜である。なお、第1の高音速膜3及び第2の高音速膜6の材料は上記に限定されず、例えば、酸化ハフニウム、酸化タングステンまたは五酸化ニオブなどの材料を主成分とする媒質を用いることもできる。
【0018】
本実施形態においては、第1の高音速膜3及び第2の高音速膜6の材料は同じである。もっとも、第1の高音速膜3の材料と第2の高音速膜6の材料とは異なっていてもよい。
【0019】
第1の低音速膜4及び第2の低音速膜5は、相対的に低音速な膜である。より具体的には、第1の低音速膜4を伝搬するバルク波の音速は、圧電膜7を伝搬するバルク波の音速よりも低い。同様に、第2の低音速膜5を伝搬するバルク波の音速は、圧電膜7を伝搬するバルク波の音速よりも低い。本実施形態の第1の低音速膜4は酸化ケイ素膜である。酸化ケイ素はSiOaにより表される。aは任意の正数である。本実施形態の第1の低音速膜4を構成する酸化ケイ素はSiO2である。他方、第2の低音速膜5は五酸化タンタル膜である。より具体的には、第2の低音速膜5はTa2O5膜である。このように、第1の低音速膜4の材料と、第2の低音速膜5の材料とは異なる。なお、第1の低音速膜4及び第2の低音速膜5の材料は上記に限定されず、例えば、ガラス、酸窒化ケイ素、酸化リチウム、五酸化タンタル、酸化ケイ素、または、酸化ケイ素にフッ素、炭素やホウ素を加えた化合物を主成分とする材料を用いることができる。
【0020】
第1の低音速膜4の材料と第2の低音速膜5の材料とが異なっていればよい。もっとも、第1の低音速膜4または第2の低音速膜5はSiO2膜であることが好ましい。この場合には、弾性波装置1の周波数温度係数(TCF)の絶対値を小さくすることができ、周波数温度特性を高めることができる。
【0021】
本実施形態の特徴は、シリコン基板2、第1の高音速膜3、第1の低音速膜4、第2の低音速膜5、第2の高音速膜6及び圧電膜7がこの順序において積層されており、かつ第1の低音速膜4の材料と第2の低音速膜5の材料とが異なることにある。それによって、高次モードなどの不要波を広い帯域において抑制することができる。この効果の詳細を、結晶軸、面方位の定義などと共に、以下において説明する。
【0022】
図3は、シリコンの結晶軸の定義を示す模式図である。
図4は、シリコンの(111)面を示す模式図である。
図5は、シリコンの(111)面の結晶軸をXY面から見た図である。
図6は、シリコンの(100)面を示す模式図である。
図7は、シリコンの(110)面を示す模式図である。
【0023】
上記シリコン基板2はシリコン単結晶基板である。
図3に示すように、シリコンはダイヤモンド構造を有する。本明細書において、シリコン基板を構成するシリコンの結晶軸は、[X
Si,Y
Si,Z
Si]とする。シリコンにおいては、結晶構造の対称性により、X
Si軸、Y
Si軸及びZ
Si軸はそれぞれ等価である。
図5に示すように、(111)面においては面内3回対称であり、120°回転で等価な結晶構造となる。
【0024】
本実施形態のシリコン基板2の面方位は(111)である。面方位が(111)であるとは、ダイヤモンド構造を有するシリコンの結晶構造において、ミラー指数[111]で表される結晶軸に直交する(111)面においてカットした基板であることを示す。なお、(111)面は、
図4及び
図5に示す面である。もっとも、その他の結晶学的に等価な面も含む。
【0025】
なお、シリコン基板2の面方位は上記に限定されず、例えば、(100)または(110)であってもよい。面方位が(100)であるとは、ダイヤモンド構造を有するシリコンの結晶構造において、ミラー指数[100]で表される結晶軸に直交する(100)面においてカットした基板であることを示す。(100)面においては面内4回対称であり、90°回転で等価な結晶構造となる。なお、(100)面は
図6に示す面である。
【0026】
他方、面方位が(110)であるとは、ダイヤモンド構造を有するシリコンの結晶構造において、ミラー指数[110]で表される結晶軸に直交する(110)面においてカットした基板であることを示す。(110)面においては面内2回対称であり、180°回転で等価な結晶構造となる。なお、(110)面は
図7に示す面である。
【0027】
以下において、角度α及び後述する方向ベクトルkの詳細を説明する。なお、角度αはα111、α110及びα100の3種類の角度のうちのいずれかである。方向ベクトルkはk111、k110及びk100のうちのいずれかである。
【0028】
図8は、方向ベクトルk
111を説明するための模式的断面図である。
図9は、方向ベクトルk
111を説明するための模式的平面図である。なお、
図8におけるシリコン基板2の面方位は(111)である。
【0029】
図8及び
図9では、圧電膜7のオイラー角が(0°,-35°,0°)の場合の例を示す。この例は、IDT電極8が圧電膜7のプラス面上に設けられている例である。シリコン基板2の(111)面は圧電膜7に接している。
【0030】
ここで、
図8に示すように、圧電膜7を構成する圧電体LiTaO
3のZ
P軸をシリコン基板2の(111)面に投影した方向ベクトルをk
111とする。
図8及び
図9に示すように、方向ベクトルk
111は、IDT電極8の電極指が延びる方向である、Y方向に平行である。
【0031】
図10は、シリコンの[11-2]方向を示す模式図である。
図11は、角度α
111を説明するための模式図である。
【0032】
図10に示すように、シリコンの[11-2]方向は、シリコンの結晶構造において、X
Si方向の単位ベクトルと、Y
Si方向の単位ベクトルと、Z
Si方向の単位ベクトルの-2倍のベクトルとの合成ベクトルとして示される。
図11に示すように、角度α
111は、方向ベクトルk
111とシリコン基板2を構成するシリコンの[11-2]方向とがなす角度である。なお、前述したとおり、シリコンの結晶の対称性から、[11-2]方向、[1-21]方向、[-211]方向は等価となる。
【0033】
他方、面方位が(110)であるシリコン基板において、ZP軸を該シリコン基板の(110)面に投影した方向ベクトルをk110とする。角度α110は、方向ベクトルk110と該シリコン基板を構成するシリコンの[001]方向とがなす角度である。なお、シリコンの結晶の対称性から、[001]方向、[100]方向、[010]方向は等価となる。
【0034】
面方位が(100)であるシリコン基板において、ZP軸を該シリコン基板の(100)面に投影した方向ベクトルをk100とする。角度α100は、方向ベクトルk100と該シリコン基板を構成するシリコンの[001]方向とがなす角度である。
【0035】
なお、シリコン基板が圧電膜に直接的に積層されているか、他の層を介して間接的に積層されているかに関わらず、方向ベクトルk及び角度αの定義は同じである。
図1に示す場合においては、シリコン基板2と圧電膜7とは、第1の高音速膜3、第1の低音速膜4、第2の低音速膜5及び第2の高音速膜6を介して間接的に積層されている。この場合においても、シリコン基板2の面方位に基づいて、上記角度α
100、角度α
110または角度α
111が規定される。
【0036】
弾性波装置1によれば高次モードを広い帯域において抑制できることを、本実施形態と、比較例とを比較することにより示す。
【0037】
比較例は、
図12に示すように、積層構造において第1の実施形態と異なる。比較例においては、シリコン基板102、高音速膜103、低音速膜104及び圧電膜107がこの順序において積層されている。
【0038】
第1の実施形態の構成を有する弾性波装置及び比較例の位相特性を比較した。第1の実施形態の構成を有する弾性波装置の設計パラメータは以下の通りである。なお、シリコン基板2のオイラー角を(Siφ,Siθ,Siψ)とする。
【0039】
シリコン基板2;面方位…(111)、オイラー角(Siφ,Siθ,Siψ)におけるSiψ…46°
第1の高音速膜3;材料…SiN、厚み300nm
第1の低音速膜4;材料…SiO2、厚み…100nm
第2の低音速膜5;材料…Ta2O5、厚み…70nm
第2の高音速膜6;材料…SiN、厚み…70nm
圧電膜7;材料…40°YカットX伝搬LiTaO3、厚み…350nm
IDT電極8の層構成;層構成…圧電膜7側からTi層/Al層/Ti層、厚み…圧電膜7側から12nm/100nm/4nm
【0040】
比較例の弾性波装置の設計パラメータは以下の通りである。
【0041】
シリコン基板102;面方位…(111)、オイラー角(Siφ,Siθ,Siψ)におけるSiψ…73°
高音速膜103;材料…SiN、厚み300nm
低音速膜104;材料…SiO2、厚み…300nm
圧電膜107;材料…55°YカットX伝搬LiTaO3、厚み…400nm
IDT電極8の層構成;層構成…圧電膜107側からTi層/Al層/Ti層、厚み…圧電膜7側から12nm/100nm/4nm
【0042】
図13は、第1の実施形態及び比較例の弾性波装置における位相特性を示す図である。
【0043】
図13中の矢印Aに示すように、比較例においては、共振周波数の2.2倍付近において高次モードが生じている。これに対して、第1の実施形態においては、共振周波数の2.2倍付近における高次モードが抑制されていることがわかる。加えて、矢印Bに示すように、第1の実施形態においては、共振周波数の1.5倍付近における高次モードを抑制することもできている。さらに、第1の実施形態においては、4000~5500MHz付近の広い範囲において、比較例よりも高次モードなどの不要波を抑制することができている。このように、第1の実施形態においては、高次モードなどの不要波を広い帯域において抑制することができる。
【0044】
ここで、第1の高音速膜3の厚みが第2の高音速膜6の厚み以上であることが好ましい。この場合には、高次モードをより一層抑制することができる。この効果の詳細を以下において示す。
【0045】
本発明に係る弾性波装置において、第2の高音速膜6の厚みを一定とし、第1の高音速膜3の厚みを異ならせて、位相特性を測定した。具体的には、第2の高音速膜6の厚みを300nmとした。第1の高音速膜3の厚みを100nmまたは500nmとした。これにより、一方の弾性波装置においては、第1の高音速膜3の厚みは第2の高音速膜6の厚みよりも薄い。これを実施例1とする。他方の弾性波装置においては、第1の高音速膜3の厚みは第2の高音速膜6の厚みよりも厚い。これを実施例2とする。
【0046】
図14は、実施例1及び実施例2における位相特性を示す図である。
【0047】
図14に示すように、実施例1及び実施例2の双方において、2800MHz付近の高次モードは-5deg未満に抑制されている。加えて、実施例1及び実施例2の双方では、2600~4000MHzの広い範囲において、不要波は抑制されている。ここで、実施例2においては、実施例1よりもさらに、2800MHz付近の高次モードが抑制されていることがわかる。このように、第1の高音速膜3の厚みが第2の高音速膜6の厚み以上の場合には、高次モードをより一層抑制することができる。
【0048】
第1の低音速膜4の厚みが第2の低音速膜5の厚み以上であることが好ましい。この場合には、高次モードをより一層抑制することができる。この効果の詳細を以下において示す。
【0049】
本発明に係る弾性波装置において、第1の低音速膜4の厚み及び第2の低音速膜5の厚みをそれぞれ異ならせて、位相特性を測定した。具体的には、一方の弾性波装置においては、第1の低音速膜4の厚みを100nmとし、第2の低音速膜5の厚みを300nmとした。該弾性波装置においては、第1の低音速膜4の厚みは第2の低音速膜5の厚みよりも薄い。これを実施例3とする。他方の弾性波装置においては、第1の低音速膜4の厚みを300nmとし、第2の低音速膜5の厚みを100nmとした。該弾性波装置においては、第1の低音速膜4の厚みは第2の低音速膜5の厚みよりも厚い。これを実施例4とする。
【0050】
図15は、実施例3及び実施例4における位相特性を示す図である。
【0051】
図15に示すように、実施例3及び実施例4の双方において、3000MHz付近の高次モードは-55deg未満に抑制されている。加えて、実施例3及び実施例4の双方では、2600~4000MHzの広い範囲において、不要波は抑制されている。ここで、実施例4においては、実施例3よりもさらに、3000MHz付近の高次モードが抑制されていることがわかる。このように、第1の低音速膜4の厚みが第2の低音速膜5の厚み以上の場合には、高次モードをより一層抑制することができる。
【0052】
第1の高音速膜3の厚みが第1の低音速膜4の厚み以上であることが好ましい。それによって、高次モードをより一層抑制することができる。この効果の詳細を以下において示す。
【0053】
本発明に係る弾性波装置において、第1の高音速膜3の厚み及び第1の低音速膜4の厚みをそれぞれ異ならせて、位相特性を測定した。具体的には、一方の弾性波装置においては、第1の高音速膜3の厚みを300nmとし、第1の低音速膜4の厚みを100nmとした。該弾性波装置においては、第1の高音速膜3の厚みは第1の低音速膜4の厚みよりも厚い。これを実施例5とする。他方の弾性波装置においては、第1の高音速膜3の厚みを100nmとし、第1の低音速膜4の厚みを300nmとした。該弾性波装置においては、第1の高音速膜3の厚みは第1の低音速膜4の厚みよりも薄い。これを実施例6とする。
【0054】
図16は、実施例5及び実施例6における位相特性を示す図である。
【0055】
図16に示すように、実施例5及び実施例6の双方において、4400MHz付近の高次モードは-35deg未満に抑制されている。加えて、実施例5及び実施例6の双方では、2600~5000MHzの広い範囲において、不要波は抑制されている。ここで、実施例5においては、実施例6よりもさらに、4400MHz付近の高次モードが抑制されていることがわかる。このように、第1の高音速膜3の厚みが第1の低音速膜4の厚み以上の場合には、高次モードをより一層抑制することができる。
【0056】
ところで、
図13中の矢印Cに示すように、比較例においては、共振周波数の0.7倍付近の周波数において、不要波としてのレイリー波が生じている。これに対して、第1の実施形態においては、レイリー波が抑制されていることがわかる。これは、弾性波装置1においては圧電膜7がLiTaO
3膜であり、カット角が40°Yであることによる。なお、カット角が(40±5)°Yの範囲内である場合においては、同様の効果を得られることがわかっている。よって、圧電膜7がLiTaO
3膜である場合には、カット角は、(40±5)°Yの範囲内であることが好ましい。これにより、レイリー波を抑制することができる。
【0057】
なお、圧電膜7上には、IDT電極8、反射器9A及び反射器9Bを覆うように、誘電体膜が設けられていてもよい。誘電体膜の材料としては、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素または酸窒化ケイ素などを用いることもできる。もっとも、弾性波装置1は誘電体膜を有していなくともよい。
【0058】
ここで、IDT電極8の電極指ピッチにより規定される波長をλとする。なお、電極指ピッチとは、隣り合う電極指における、電極指中心間距離をいう。具体的には、隣り合う電極指のそれぞれにおいて、弾性波伝搬方向、すなわちX方向における中心点同士を結んだ距離をいう。電極指中心間距離が一定でない場合には、電極指ピッチは、電極指中心間距離の平均値であるとする。
【0059】
さらに、第1の高音速膜3の厚みをt_SiN-1[λ]とし、第2の高音速膜6の厚みをt_SiN-2[λ]とする。第1の低音速膜4の厚みをt_SiO2[λ]とし、第2の低音速膜5の厚みをt_Ta2O5[λ]とする。圧電膜7の厚みをt_LT[λ]とする。共振周波数の1.5倍の周波数における高次モードを第1の高次モードとする。t_SiN-1[λ]、t_SiN-2[λ]、t_SiO2[λ]、t_Ta2O5[λ]、t_LT[λ]、LTθ及びSiψをそれぞれ変化させて、第1の高次モードの位相を測定した。なお、シリコン基板2の面方位は(111)とした。これにより、各パラメータと第1の高次モードの位相との関係式である式1を導出した。
【0060】
【0061】
シリコン基板2の面方位が(111)である場合、式1により導出される位相が-70deg以下であることが好ましい。より具体的には、t_SiN-1[λ]、t_SiN-2[λ]、t_SiO2[λ]、t_Ta2O5[λ]、t_LT[λ]、LTθ、及びSiψが、式1により導出される位相が-70deg以下となる範囲内の厚み及び角度であることが好ましい。それによって、第1の高次モードの位相をより確実に-70deg以下とすることができる。従って、第1の高次モードをより確実に、かつ効果的に抑制することができる。
【0062】
共振周波数の2.2倍の周波数における高次モードを第2の高次モードとする。式1の導出の際と同様にして、第1の高次モード及び第2の高次モードの位相を測定した。なお、シリコン基板2の面方位は(111)とした。これにより、各パラメータと、第1の高次モード及び第2の高次モードの位相との関係式である式2を導出した。
【0063】
【0064】
シリコン基板2の面方位が(111)である場合、式2により導出される位相が-70deg以下であることが好ましい。より具体的には、t_SiN-1[λ]、t_SiN-2[λ]、t_SiO2[λ]、t_Ta2O5[λ]、t_LT[λ]、LTθ、及びSiψが、式2により導出される位相が-70deg以下となる範囲内の厚み及び角度であることが好ましい。それによって、第1の高次モード及び第2の高次モードの位相をより確実に-70deg以下とすることができる。従って、第1の高次モード及び第2の高次モードをより確実に、かつ効果的に抑制することができる。
【0065】
式1の導出の際と同様にして、レイリー波、第1の高次モード及び第2の高次モードの位相を測定した。なお、シリコン基板2の面方位は(111)とした。これにより、各パラメータと、レイリー波、第1の高次モード及び第2の高次モードの位相との関係式である式3を導出した。
【0066】
【0067】
シリコン基板2の面方位が(111)である場合、式3により導出される位相が-70deg以下であることが好ましい。より具体的には、t_SiN-1[λ]、t_SiN-2[λ]、t_SiO2[λ]、t_Ta2O5[λ]、t_LT[λ]、LTθ、及びSiψが、式3により導出される位相が-70deg以下となる範囲内の厚み及び角度であることが好ましい。それによって、レイリー波、第1の高次モード及び第2の高次モードの位相をより確実に-70deg以下とすることができる。従って、レイリー波、第1の高次モード及び第2の高次モードをより確実に、かつ効果的に抑制することができる。
【0068】
シリコン基板2の面方位を(110)として、式1の導出の際と同様にして、第1の高次モードの位相を測定した。これにより、各パラメータと第1の高次モードの位相との関係式である式4を導出した。
【0069】
【0070】
シリコン基板2の面方位が(110)である場合、式4により導出される位相が-70deg以下であることが好ましい。より具体的には、t_SiN-1[λ]、t_SiN-2[λ]、t_SiO2[λ]、t_Ta2O5[λ]、及びSiψが、式4により導出される位相が-70deg以下となる範囲内の厚み及び角度であることが好ましい。それによって、第1の高次モードの位相をより確実に-70deg以下とすることができる。従って、第1の高次モードをより確実に、かつ効果的に抑制することができる。
【0071】
シリコン基板2の面方位を(110)として、式1の導出の際と同様にして、第1の高次モード及び第2の高次モードの位相を測定した。これにより、各パラメータと、第1の高次モード及び第2の高次モードの位相との関係式である式5を導出した。
【0072】
【0073】
シリコン基板2の面方位が(110)である場合、式5により導出される位相が-70deg以下であることが好ましい。より具体的には、t_SiN-1[λ]、t_SiN-2[λ]、t_SiO2[λ]、t_Ta2O5[λ]、及びSiψが、式5により導出される位相が-70deg以下となる範囲内の厚み及び角度であることが好ましい。それによって、第1の高次モード及び第2の高次モードの位相をより確実に-70deg以下とすることができる。従って、第1の高次モード及び第2の高次モードをより確実に、かつ効果的に抑制することができる。
【0074】
なお、シリコン基板2の面方位が(110)であり、圧電膜7がLiTaO3膜である場合には、圧電膜7のカット角は、28°Y以上、48°Y以下の範囲内であることが好ましい。これにより、第1の高次モード及び第2の高次モードに加えて、レイリー波をも抑制することができる。レイリー波を抑制することができる効果の詳細を、以下において示す。
【0075】
図17は、LiTaO
3膜のカット角と、レイリー波の位相との関係を示す図である。
【0076】
図17に示すように、圧電膜7がLiTaO
3膜であり、圧電膜7のカット角が28°Y以上、48°Y以下の範囲内である場合においては、レイリー波の位相が-72deg未満となっていることがわかる。このように、レイリー波を抑制することができる。
【0077】
式4により導出される位相が-70deg以下であり、かつ圧電膜7としてのLiTaO3膜のカット角が28°Y以上、48°Y以下の範囲内である場合には、レイリー波及び少なくとも第1の高次モードを抑制することができる。式5により導出される位相が-70deg以下であり、かつ圧電膜7としてのLiTaO3膜のカット角が28°Y以上、48°Y以下の範囲内である場合には、レイリー波、第1の高次モード及び第2の高次モードを抑制することができる。
【0078】
シリコン基板2の面方位を(100)として、式1の導出の際と同様にして、第1の高次モードの位相を測定した。これにより、各パラメータと第1の高次モードの位相との関係式である式6を導出した。
【0079】
【0080】
シリコン基板2の面方位が(100)である場合、式6により導出される位相が-70deg以下であることが好ましい。より具体的には、t_SiN-1[λ]、t_SiN-2[λ]、t_SiO2[λ]、t_Ta2O5[λ]、及びSiψが、式6により導出される位相が-70deg以下となる範囲内の厚み及び角度であることが好ましい。それによって、第1の高次モードの位相をより確実に-70deg以下とすることができる。従って、第1の高次モードをより確実に、かつ効果的に抑制することができる。
【0081】
シリコン基板2の面方位を(100)として、式1の導出の際と同様にして、第1の高次モード及び第2の高次モードの位相を測定した。これにより、各パラメータと、第1の高次モード及び第2の高次モードの位相との関係式である式7を導出した。
【0082】
【0083】
シリコン基板2の面方位が(100)である場合、式7により導出される位相が-70deg以下であることが好ましい。より具体的には、t_SiN-1[λ]、t_SiN-2[λ]、t_SiO2[λ]、t_Ta2O5[λ]、及びSiψが、式7により導出される位相が-70deg以下となる範囲内の厚み及び角度であることが好ましい。それによって、第1の高次モード及び第2の高次モードの位相をより確実に-70deg以下とすることができる。従って、第1の高次モード及び第2の高次モードをより確実に、かつ効果的に抑制することができる。
【0084】
なお、シリコン基板2の面方位が(100)であり、圧電膜7がLiTaO
3膜である場合には、圧電膜7のカット角は、28°Y以上、48°Y以下の範囲内であることが好ましい。これにより、
図17に示した場合と同様に、レイリー波をも抑制することができる。より詳細には、式6により導出される位相が-70deg以下であり、かつ圧電膜7としてのLiTaO
3膜のカット角が28°Y以上、48°Y以下の範囲内である場合には、レイリー波及び少なくとも第1の高次モードを抑制することができる。式7により導出される位相が-70deg以下であり、かつ圧電膜7としてのLiTaO
3膜のカット角が28°Y以上、48°Y以下の範囲内である場合には、レイリー波、第1の高次モード及び第2の高次モードを抑制することができる。
【0085】
上記においては、圧電膜7がLiTaO
3膜である場合の例を示した。以下においては、
図1を援用して、圧電膜7がLiNbO
3膜である場合の例を示す。
【0086】
本発明の第2の実施形態は、圧電膜7がLiNbO3膜である点において第1の実施形態と異なる。上記の点以外においては、第2の実施形態の弾性波装置は第1の実施形態の弾性波装置と同様の構成を有する。
【0087】
ここで、第2の実施形態の構成を有する弾性波装置の位相特性を測定した。該弾性波装置の設計パラメータは、以下の通りである。
【0088】
シリコン基板2;面方位…(111)、オイラー角(Siφ,Siθ,Siψ)におけるSiψ…46°
第1の高音速膜3;材料…SiN、厚み500nm
第1の低音速膜4;材料…SiO2、厚み…100nm
第2の低音速膜5;材料…Ta2O5、厚み…10nm
第2の高音速膜6;材料…SiN、厚み…10nm
圧電膜7;材料…30°YカットX伝搬LiNbO3、厚み…400nm
IDT電極8の層構成;層構成…圧電膜7側からTi層/Al層/Ti層、厚み…圧電膜7側から12nm/100nm/4nm
【0089】
図18は、第2の実施形態に係る弾性波装置の位相特性を示す図である。
【0090】
図18に示すように、第2の実施形態では、2200~6000MHz以下の広い帯域において、高次モードなどの不要波の位相が-75deg未満に抑制されていることがわかる。このように、第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、高次モードなどの不要波を広い帯域において抑制することができる。加えて、
図18に示すように、メインモードの帯域を広くできることがわかる。
【符号の説明】
【0091】
1…弾性波装置
2…シリコン基板
3…第1の高音速膜
4…第1の低音速膜
5…第2の低音速膜
6…第2の高音速膜
7…圧電膜
8…IDT電極
9A,9B…反射器
16…第1のバスバー
17…第2のバスバー
18…第1の電極指
19…第2の電極指
102…シリコン基板
103…高音速膜
104…低音速膜
107…圧電膜