(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】美観に優れた陶器及びそれを与える陶器素地
(51)【国際特許分類】
C04B 41/86 20060101AFI20240123BHJP
A47K 1/04 20060101ALI20240123BHJP
E03D 11/02 20060101ALI20240123BHJP
E03D 1/00 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
C04B41/86 R
A47K1/04 H
E03D11/02 Z
E03D1/00 Z
(21)【出願番号】P 2023059116
(22)【出願日】2023-03-31
【審査請求日】2023-04-24
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅子
(72)【発明者】
【氏名】菊池 亮太
(72)【発明者】
【氏名】大神 有美
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第113135661(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第113135733(CN,A)
【文献】特表2009-525251(JP,A)
【文献】特開2020-059618(JP,A)
【文献】特開2003-267774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/86
A47K 1/04
E03D 1/00 - 11/18
E03D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陶器素地と、釉薬層とを少なくとも備える陶器であって、
前記陶器素地が、SiO
2
を60~75重量%、Al
2
O
3
を20~30重量%、Fe
2
O
3
を0.4~1.5重量%、CaOを0.1~2.0重量%、MgOを0.1~1.5重量%、K
2
Oを0.8~5.0重量%、及びNa
2
Oを0.4~4.0重量%を少なくとも含む組成を有し、
前記釉薬層の釉薬が、SiO
2
:52~80重量部、Al
2
O
3
:5~14重量部、CaO:6~17重量部、MgO:0.5~4.0重量部、ZnO:1~11重量部、K
2
O:1~5重量部、及びNa
2
O:0.5~2.5重量部を少なくとも含む組成を有し(ただし亜硫酸カルシウム又はシュウ酸第一鉄を含む釉薬は除く)、
前記陶器素地の気孔率が12%以下であり、かつ、前記陶器素地に存在する気孔の体積を、小さい方から足していったとき、その体積の和が全気孔の総体積に対して90%となる気孔の体積が8.0×10
-4mm
3以下であり、前記陶器素地における全気孔の総体積に対する体積1.0×10
-3mm
3以上の気孔の体積の割合が8%以下であり、前記釉薬層との界面付近から離れるに従い前記陶器素地における気孔率が低下する、衛生陶器。
【請求項2】
前記気孔率及び気孔の体積がマイクロCTで観察される、請求項1に記載の陶器。
【請求項3】
衛生陶器である、請求項1又は2に記載の陶器。
【請求項4】
陶器の表面美観の評価方法であって、
陶器素地と釉薬層とを備えた陶器を用意し、
前記陶器素地の気孔率を測定・算出する工程を含んでなり、
前記陶器素地の気孔率が12%以下であり、かつ、存在する気孔の90%以上となる気孔の体積が8.0×10
-4mm
3以下である場合、陶器の表面が美観に優れると評価す
る、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は釉薬層を有する陶器に関し、詳しくは外観に優れた陶器及びそれを与える陶器素地に関する。
【背景技術】
【0002】
衛生陶器、タイルなどの陶器には、近時、空間の美観要望の高まりにより、その外観には高い美観が求められてきている。
【0003】
陶器の外観は、その表面にある釉薬層の表面の性状が支配していると一般的には理解されていることから、釉薬層表面への配慮、とりわけ気泡の抑制への配慮がなされていた。例えば、特開2019-218242号公報(特許文献1)は釉薬層中の気泡を制御することを提案し、また特開2012-091998号公報(特許文献2)は、製造時焼成過程において素地層から釉薬層に侵入する気泡を抑制することを提案している。
【0004】
釉薬層中の気泡は、その表面の美観に直接影響を与えることから、その制御は有効であるが、他方で、釉薬の組成などに制限が加わるため、釉薬組成の選択を制限する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-218242号公報
【文献】特開2012-091998号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】中山他テクニカルレポート「X線マイクロCTによる生体活性セラミックス多孔体の微小構造解析」歯科放射線2009:49(3):33-40
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、今般、陶器の素地自体の気孔を制御することで、有効に陶器の外観、すなわち釉薬層の外観の向上が図れるとの知見を得た。特に、気孔の大きさが釉薬層の外観に影響を与え、気孔を小さいものとすることで陶器の美観を向上させることができ、また、気泡を、釉薬層との界面から離れるに従い、少なくなるよう分布させることで、陶器の美観を向上させることができるとの知見を得た。さらに、気孔の特性の制御は、調製した釉薬の陶器素地への適用条件を適切に管理することで効率よく行うことができた。本発明はこれら知見に基づくものである。
【0008】
したがって、本発明は、その美観に優れた陶器及びそれを与える陶器素地の提供をその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明による陶器は、陶器素地と、釉薬層とを少なくとも備えてなる陶器であって、陶器素地の気孔率が12%以下であり、かつ、陶器素地に存在する気孔の体積を、小さい方から足していったとき、その体積の和が全気孔の総体積に対して90%となる気孔の体積が8.0×10-4mm3以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明による陶器によれば、美観に優れた陶器及びそれを与える陶器素地が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】実施例1の陶器素地における気孔の体積別の出願頻度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
陶器
本発明において、「陶器」とは、衛生陶器、タイルなど陶器素地に釉薬層が設けられた基本構成を備えた物を意味する。また、「衛生陶器」とは、バスルーム、トイレ空間、化粧室、洗面所、または台所などで用いられる陶器製品を意味する。具体的には、大便器、小便器、便器のサナ、便器タンク、洗面器、手洗い器などを意味する。
【0013】
陶器素地
本発明による陶器を構成する陶器素地は、後記する気泡に関する要件を充足する限り、特に限定されないが、好ましい組成としては以下が挙げられる。
SiO2を60~75重量%、好ましくは62.5~72.5重量%、
Al2O3を20~30重量%、好ましくは21.5~28.5重量%、
Fe2O3を0.4~1.5重量%、好ましくは0.5~1.4重量%、
CaO を0.1~2.0重量%、好ましくは0.2~1.6重量%、
MgO を0.1~1.5重量%、好ましくは0.2~1.2重量%、
K2O を0.8~5.0重量%、好ましくは1.0~4.5%、そして
Na2O を0.4~4.0重量%、好ましくは0.6~3.0重量%
を含む。また、TiO2を0.2~0.5重量%含むことができる。
【0014】
本発明による陶器を構成する陶器素地は、その断面において観察される気孔率が12%以下、好ましくは5%以上12%以下、より好ましくは8%以上12%以下とされる。本明細書において「陶器素地の気孔率(%)」は、好ましくは、以下の方法より測定された「開気孔率」及び「閉気孔率」の合計を意味する。
【0015】
開気孔率
開気孔率は、例えば水中重量法(アルキメデス法)を用いて以下の手順で求めることができる。まず、陶器素地について、各種重量を測定できる大きさに切断し試験体とする。試験体は乾燥機により110℃で乾燥を行い、デシケータ中で室温まで冷却してから重量(乾燥重量:W1)を測定する。次に、試験体を水中で2時間以上沸騰させた後、室温で20時間冷却することで飽水(試験体の開口気孔を水で満たした)状態にする。試験体を水中に吊るした状態で測定し、得られた重量から試験体を吊るすために使用した部材の重量を差し引いた重量(水中重量:W2)を算出する。また、飽水させた試験体を水中から取り出し、試験体の表面の水分をふき取り、重量(飽水重量:W3)を測定する。測定した3つの重量W1、W2、W3と、測定時の水の温度における密度ρwにより、以下の式を用いてかさ密度ρb、見掛け密度ρa、開気孔率Poを算出する。
ρb=W1/(W3-W2)×ρw
ρa=W1/(W1-W2)×ρw
Po=(ρa-ρb)/ρa×100(%)
【0016】
閉気孔率
閉気孔率は、例えば定容積膨張法による真密度の測定結果から下記の手順で求めることができる。まず、陶器素地を微粉砕して試験体とし、乾式自動密度計(島津製作所(株)アキュピックII1340)を用いて定容積膨張法による真密度ρtを測定する。測定した真密度ρtと、アルキメデス法で算出したかさ密度ρb、開気孔率Poにより、以下の式を用いて、全気孔率Po+c、そして閉気孔率Pcを算出する。
の方法により測定することができる。
Po+c=(ρt-ρb)/ρt×100(%)
Pc=Po+c-Po
【0017】
本発明の別の好ましい態様によれば、「陶器素地の気孔率(%)」をX線コンピューター断層撮影装置、特にマイクロフォーカスX線コンピューター断層撮影装置(以下、本明細書において「マイクロCT」と略記する)により測定する。例えば、マイクロCTにより断層画像を得て、この画像から断面において気孔が占める割合を求め、これを「陶器素地の気孔率(%)」とする。マイクロCTによれば、開気孔のみならず、閉気孔も観察でき、さらに非常に微小な気孔も認識できることから、陶器素地のより正確な気孔の状態を知ることができる。マイクロCTによる陶器素地の測定条件等の詳細は、歯科放射線2009:49(3):33-40(非特許文献1)の記載を参考に定めることができる。
【0018】
さらに本発明による陶器を構成する陶器素地は、その気孔率が12%以下であり、かつ、陶器素地に存在する気孔の体積を、小さい方から足していったとき、その体積の和が全気孔の総体積に対して90%となる気孔の体積(以下、本明細書ではこの値を「閾値」ということがある)が8.0×10-4mm3以下とされる。ここでの気孔の体積の測定も「陶器素地の気孔率(%)」の測定方法に準じて行われてよく、好ましくはX線コンピューター断層撮影装置、特にマイクロCTにより行われる。上記のような気孔を備える陶器素地は、その上に釉薬層が形成されたとき、陶器素地の気孔から生じる気泡の影響を小さくすることができる。気孔率が小さいことから、焼成中に釉薬層に移動する気泡の量を小さくでき、釉薬層に与える影響を最小限にできるものと考えられる。しかし、これはあくまで仮定であって、本発明はこの理論に拘束されるものではない。
【0019】
本発明の好ましい態様によれば、全気孔の総体積に対する体積1.0×10-3mm3以上の気孔の体積の割合が8%以下とされる。このような比較的大きな気孔の割合を小さくすることで、上記した焼成中に陶器素地から釉薬層に移動する気泡の影響をより小さくすることができる。
【0020】
本発明の別の好ましい態様によれば、陶器素地は、釉薬層との界面から離れるに従い、陶器素地における気孔率が低下するように構成される。焼成中の気泡の供給機序として、まず、釉薬層との界面付近の気孔から気泡が供給されるが、それがある程度進行した後、さらに釉薬層との界面から離れた陶器素地の気孔から気泡が供給されると考えられる。しかし、釉薬層との界面から離れるに従い、陶器素地における気孔率が低下するように構成されることで、その気泡の供給を抑え、釉薬層への気泡の影響を抑えることできると考えられる。
【0021】
なお、陶器素地を泥漿から型に鋳込んで成形する場合、泥漿の両面が鋳型で覆われている状態で成形された型二重部位の素地には、中央部に粗粒分が残存して線として現れるぶつかり面が形成されることがあり、このぶつかり面において素地の性質がやや変化することがある。この場合、釉薬層との界面から離れるに従い陶器素地における気孔率が低下するように構成しても、そのぶつかり面において、気孔率が変化し、場合により一旦気孔率が上昇してしまうことがある。しかし、そのぶつかり面を過ぎた後、再度、気孔率を低下させるよう構成すれば、上記した本発明の効果は得られ、このような態様も本発明に包含される。
【0022】
釉薬
本発明において釉薬は、珪砂、長石、石灰石などの天然鉱物粒子の混合物及び/又は非晶質釉薬に、乳濁剤を含み、さらに顔料を添加したものを使用できる。乳濁剤としては、ジルコン、酸化錫などが挙げられる。釉薬の組成は、たとえば、SiO2:52~80重量部、Al2O3:5~14重量部、CaO:6~17重量部、MgO:0.5~4.0重量部、ZnO:1~11重量部、K2O:1~5重量部、Na2O:0.5~2.5重量部、乳濁剤:0.1~15重量部、顔料:0.001~20重量部である。釉薬は、その他に糊剤、分散剤、防腐剤、抗菌剤などが含有されていてもよい。顔料としては、コバルト化合物、鉄化合物などが挙げられる。また、非晶質釉薬とは、上記のような天然鉱物粒子などの混合物からなる釉薬原料を高温で溶融し、ガラス化させた釉薬をいい、例えばフリット釉薬が好適に利用可能である。
【0023】
陶器素地の製造方法
本発明による陶器素地の気孔率は、素地原料及び焼成条件を制御することで得ることができる。本発明において「陶器素地の気孔率」は、素地組成及び焼成条件により変化するが、例えば、マイクロCTのような非破壊的な測定手段があることで、その条件をわずかに変化させた結果を容易に知ることができることから、一旦、気孔率の指標が本発明により示された結果、本発明による陶器素地の製造はもはや特に困難なものとはならない。
【0024】
本発明による陶器は、気孔率が制御されることを除いて、基本的には、陶器素地を用意し、これに釉薬スラリーを適用し、焼成することで製造されてよい。
【0025】
釉薬スラリーは、釉薬原料の50%粒径が好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下にボールミルなどで粉砕することにより得ることができる。釉薬スラリーにあっては、ケイ砂などの石英原料の粒子径を他の釉薬原料とは別に制御することにより釉薬表面における石英の残存を抑制することができる。
【0026】
本発明の好ましい態様によれば、その製造条件を制御することで、上記要件を充足する陶器を効率よく製造される。まず、釉薬スラリーの粘度について、これを800~1200mPa・sとする。これにより、釉薬スラリーの沈殿、分離を有効に防止でき、結果として得られる陶器の美観に優れたものとすることができる。
【0027】
また、釉薬スラリーの陶器素地への施釉は好ましくはスプレーコーティング法により行われ、かつ、以下の条件下で実施されるのが望ましい。すなわち、施釉にあたり、陶器素地を25~35℃とし、釉薬水分浸透時間が25~35分となるようにする。さらに、施釉の際の釉薬スラリーの温度を、室温如何に関わらず、25~30℃に調整することが重要となる。つまりここでの温度管理は、生産場所の地理的又は季節的要因により変動する雰囲気温度の影響を受けないように温度制御することを意味する。
【0028】
また、陶器素地に釉薬スラリーを施釉した後の乾燥も適切に温度管理の下、行われることが好ましい。例えば、施釉後の乾燥は、25~30℃に調整された雰囲気で、2時間以上の時間なされる。これにより、施釉された釉薬における十分な水分浸透と粒子着肉化・固定化を促すことができる。
【0029】
本発明による陶器は、陶器素地及び釉薬の組成を考慮して、その焼成条件を適宜定め、製造されてよい。例えば、陶器素地に釉薬を適用した後、800~1300℃の温度で成形素地を焼結させ、かつ釉薬層を固着させることができる。
【0030】
釉薬スラリーの陶器素地への施釉において、施釉スラリーの温度や乾燥時間を上記のように設定することでも、陶器焼成時の陶器素地の気孔率を制御することができる。
【実施例】
【0031】
本発明をさらに以下の実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0032】
陶器の製造
釉薬の用意
表1に記載の組成からなる釉薬原料2Kgと水1Kg及び球石4Kgを、容積6リットルの陶器製ポットに入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた粉砕後の着色性釉薬スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が65%、50%平均粒径(D50)が6.0μm程度になるように、ボールミルにより粉砕を行い、釉薬を得た。得られた釉薬の粘度について、これを800~1200mPa・sとした。この釉薬を以下の実施例及び比較例において、共通釉薬として用いた。
【0033】
【0034】
陶器素地の用意
表2に記載の組成からなる陶器素地を以下のようにして得た。原料として、骨格形成材料であるセリサイト陶石およびカオリン陶石、または珪石を8~45重量%、可塑性材料であるチャイナクレー(粉体)およびボールクレー(粉体)を28~65重量%、主焼結助剤である長石を約10~35重量%、およびドロマイトを1~4重量%秤量し、水と解膠剤として珪酸ソーダを適量添加したものを一括してボールミルに入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた粉砕後の素地スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が52~60%、50%平均粒径(D50)が7~9μm程度になるまで湿式粉砕し、陶器素地材料を得た。得られた陶器素地材料を、石膏型を用いた泥漿鋳込み成形法により成形し、乾燥させて陶器素地を得た。
【0035】
陶器素地への釉薬の適用
上で得られた陶器素地に上記共通釉薬をスプレーコーティング法により塗布した後、焼成条件として実施例1及び2は1160℃、実施例3は1107℃、比較例1は1180℃、比較例2は1280℃(いずれもリファサーモによる)で焼成し、陶器を得た。
【0036】
【0037】
マイクロCTによる気孔率の測定
実施例及び比較例の陶器の表面部位を、厚さ10mm、大きさ20mm×50mmで切り出し、試験片とした。この試験片の気孔率を以下の装置及び測定条件で測定した。
マイクロCT装置 INSPEXIO SMX-225CT FPD HR
電流:210μA
電流:210KV
FOV(XY):20.5mm
FOV(Z):17.2mm
画像サイズ:1024×1024ピクセル
【0038】
得られた画像の回析は以下のとおり行った。3次元画像解析ソフトVGStudio MAXを使用し、解析エリアとして1.2×1.2×1.2mmの任意の立方体を選択し、その範囲に存在する各気孔の体積とその出現頻度、さらに解析エリア全体に占める気孔率を算出した。
【0039】
陶器の断面画像に基づき、上記測定方法の概念を説明する。
図1は、実施例2で得られた陶器の断面画像であり、
図1において、陶器素地1に釉薬層2が接して存在しており、画像中の複数の正方形A乃至Eの枠が、解析エリアの立方体に対応する。そして上記試験条件においては、A乃至Eの枠の位置は、陶器素地1と釉薬相の界面からそれぞれAが1乃至1.2mm、Bが1.2乃至2.4mm、Cが2.4mm乃至3.6mm、Dが3.6mm乃至4.8mm、Eが4.8mm乃至6.0mmとなる。さらに実施例1及び比較例2では、解析エリアFとしてさらに深い6.0mm乃至7.2mmについても測定対象とした。また、図中の直線の筋3は、型二重部位で成形された素地の中央部に粗粒分が線状に残存すること生じたぶつかり面である。
【0040】
実施例及び比較例の試験片について、算出された気孔率の値は、A乃至E、さらにFにおいてそれぞれ以下の表3に記載のとおりであった。
【0041】
また、実施例及び比較例の試験片について、上記測定方法で得られた気孔について、体積別の出現頻度の分布を整理した。実施例1の気孔の体積別の出願頻度は
図2のグラフに示されるとおりであった。
【0042】
さらに、体積別の出現頻度の分布をもとに、閾値及び全気孔の総体積に対する体積1.0×10-3mm3以上の気孔の体積の割合(体積率)を算出した。実施例及び比較例の試験片について、算出された閾値及び体積率の値は、表3に記載のとおりであった。
【0043】
釉薬層の外観の評価(気泡の影響の評価)
得られた陶器について、目視で外観を次のように評価した。すなわち、標準色サンプルと比較した色・光沢について、それぞれ三段階で評価した。より具体的には、得られた陶器において、表面の色味・光沢が良好で微細な発泡跡が無いものを〇、表面の色味・光沢が良好だが微細な発泡跡があるものを△、表面の色味・光沢が不良で微細な発泡跡があるものを×とした。その結果は表3に記載のとおりであった。
【0044】
【表3】
表中
・閾値:陶器素地に存在する気孔の体積を、小さい方から足していったとき、その体積の和が全気孔の総体積に対して90%となる気孔の体積(mm
3)
・体積率(%):全気孔の総体積に対する体積1.0×10
-3mm
3以上の気孔の体積の割合
【0045】
本発明の好ましい態様
本発明の好ましい態様は以下のとおりである。
(1) 陶器素地と、釉薬層とを少なくとも備える陶器であって、
前記陶器素地の気孔率が12%以下であり、かつ、前記陶器素地に存在する気孔の体積を、小さい方から足していったとき、その体積の和が全気孔の総体積に対して90%となる気孔の体積が8.0×10-4mm3以下である、衛生陶器。
(2) 前記気孔率及び気孔の体積がマイクロCTで観察される、(1)に記載の陶器。
(3) 前記陶器素地における全気孔の総体積に対する体積1.0×10-3mm3以上の気孔の体積の割合が8%以下である、(1)又は(2)に記載の陶器。
(4) 前記釉薬層との界面付近から離れるに従い、前記陶器素地における気孔率が低下する、(1)~(3)のいずれかに記載の陶器。
(5) 衛生陶器である、(1)~(4)のいずれかに記載の陶器。
(6) 気孔率が12%以下であり、かつ、前記陶器素地に存在する気孔の体積を、小さい方から足していったとき、その体積の和が全気孔の総体積に対して90%となる気孔の体積が8.0×10-4mm3以下である、陶器素地。
(7) 前記気孔率及び気孔の体積がマイクロCTで観察される、(6)に記載の陶器素地。
(8) 前記陶器素地における全気孔の総体積に対する体積1.0×10-3mm3以上の気孔の体積の割合が8%以下である、(6)又は(7)に記載の陶器。
(9) 前記釉薬層との界面付近から離れるに従い、前記陶器素地における気孔率が低下する、(6)~(8)のいずれかに記載の陶器。
(10) 陶器の表面美観の評価方法であって、
陶器素地と釉薬層とを備えた陶器又は陶器素地を用意し、
前記陶器素地の気孔率を測定・算出する工程を含んでなる、方法。
(11) 前記陶器素地の気孔率が12%以下であり、かつ、前記陶器素地に存在する気孔の体積を、小さい方から足していったとき、その体積の和が全気孔の総体積に対して90%となる気孔の体積が8.0×10-4mm3以下である場合、陶器の表現が美観に優れると評価する、(10)に記載の方法。
【要約】
【課題】 美観に優れた陶器及びそれを与える陶器素地の提供。
【解決手段】 陶器素地と、釉薬層とを少なくとも備え、陶器素地の気孔率が12%以下であり、かつ、陶器素地に存在する気孔の体積を、小さい方から足していったとき、その体積の和が全気孔の総体積に対して90%となる気孔の体積が8.0×10-4mm3以下である陶器は、陶器素地に由来する気泡の影響を釉薬層が受け難く、美観に優れたものとなる。
【選択図】 なし