(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】車両用レーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/34 20060101AFI20240123BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20240123BHJP
G01S 13/95 20060101ALI20240123BHJP
G01W 1/14 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
G01S13/34
G01S13/931
G01S13/95
G01W1/14 E
(21)【出願番号】P 2023538587
(86)(22)【出願日】2022-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2022028902
(87)【国際公開番号】W WO2023008471
(87)【国際公開日】2023-02-02
【審査請求日】2023-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2021125547
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】黒野 泰寛
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 卓也
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-030140(JP,A)
【文献】国際公開第2014/108889(WO,A1)
【文献】特開2016-038319(JP,A)
【文献】特開2004-233277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
G01W 1/00- 1/18
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FCM変調方式により周波数変調されたレーダ波を送信し、物標にて反射したレーダ波を受信することで物標を検出する、車両用レーダ装置であって、
前記レーダ波の送信信号と受信信号との周波数の差信号であるビート信号を2次元高速フーリエ変換するよう構成された周波数分析部(84)と、
前記周波数分析部での前記2次元高速フーリエ変換により得られるパワースペクトラムのピークの中から、雨粒条件として予め設定された所定の距離・速度範囲内のピークを抽出し、該抽出したピークの情報を取得するよう構成されたピーク情報取得部(87)と、
前記ピーク情報取得部にて取得された前記ピークの情報に基づき、周囲環境が降雨であるか否かを判定するよう構成された降雨判定部(88)と、
を備えている、車両用レーダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用レーダ装置であって、
前記ピーク情報取得部は、前記ピークの情報として、前記抽出したピークの数を取得するよう構成され、
前記降雨判定部は、前記ピークの数が多いときに降雨と判定するよう構成されている、車両用レーダ装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用レーダ装置であって、
前記ピーク情報取得部は、前記ピークの情報として、前記抽出したピークのパワーを取得するよう構成され、
前記降雨判定部は、前記ピークのパワーが大きいときに降雨と判定するよう構成されている、車両用レーダ装置。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか1項に記載の車両用レーダ装置であって、
前記ピーク情報取得部は、前記ピークの情報として、前記抽出したピークの速度ばらつきを取得するよう構成され、
前記降雨判定部は、前記ピークの速度ばらつきが大きいときに降雨と判定するよう構成されている、車両用レーダ装置。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか1項に記載の車両用レーダ装置であって、
前記ピーク情報取得部は、前記ピークの情報として、前記抽出したピークの高さのばらつきを取得するよう構成され、
前記降雨判定部は、前記ピークの高さのばらつきが大きいときに降雨と判定するよう構成されている、車両用レーダ装置。
【請求項6】
請求項1~請求項5の何れか1項に記載の車両用レーダ装置であって、
前記ピーク情報取得部は、前記所定の距離・速度範囲内のピークを抽出する際、路面相当の速度を有するピークを除外するように構成されている、車両用レーダ装置。
【請求項7】
請求項1~請求項6の何れか1項に記載の車両用レーダ装置であって、
前記ピーク情報取得部は、前記所定の距離・速度範囲内のピークを抽出する際、車両の幅方向で路側物があるものとして設定された領域に位置するピークを除外するように構成されている、車両用レーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本国際出願は、2021年7月30日に日本国特許庁に出願された日本国特許出願第2021-125547号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2021-125547号の全内容を本国際出願に参照により援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、降雨を判定可能な車両用レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0003】
特許文献1には、周波数が三角波状に漸次増減する送信信号をレーダ波として送信し、物標にて反射されたレーダ波を受信することで物標を検出するFMCW方式のレーダ装置において、物標が路面又は雨滴であることを検出する技術が開示されている。なお、FMCWは、Frequency Modulated Continuous Wave の略である。
【0004】
このレーダ装置においては、送信信号と受信信号との周波数の差信号(以下、ビート信号)に対し周波数解析を行い、送信信号の周波数が上昇する上昇部及び周波数が下降する下降部におけるピーク周波数を抽出する。そして、その抽出した上昇部ピーク周波数及び下降部ピーク周波数がともに所定の強度に達していないときに、物標が路面又は雨滴であると判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、FMCW方式のレーダ装置において、物標が路面又は雨滴であることを検出する技術であるため、送信信号の変調方式が異なる、FCM方式のレーダ装置に適用することはできない。なお、FCMは、Fast Charp Modulation の略である。
【0007】
つまり、FCM方式のレーダ装置では、送信信号の周波数が、スタート周波数から漸増又は漸減してエンド周波数に至るまで変調され、その変調がステップ的に繰り返されることから、上記技術を適用して、降雨判定を行うことはできない。このため、FCM方式のレーダ装置を搭載した車両において、降雨を検出するには、雨滴センサ等の降雨検出装置を別途設ける必要があった。
【0008】
本開示の一局面は、FCM方式の車両用レーダ装置において、雨滴センサ等の降雨検出装置を利用することなく、降雨判定を行うことができるようにすることを目的とする。
【0009】
本開示の一局面の車両用レーダ装置は、FCM変調方式により周波数変調されたレーダ波を送信し、物標にて反射したレーダ波を受信することで物標を検出する、FCM方式のレーダ装置である。
【0010】
本開示の車両用レーダ装置は、周波数分析部と、ピーク情報取得部と、降雨判定部とを備える。
【0011】
周波数分析部は、レーダ波の送信信号と受信信号との周波数の差信号であるビート信号を2次元高速フーリエ変換するよう構成される。
【0012】
ピーク情報取得部は、周波数分析部での2次元高速フーリエ変換により得られるパワースペクトラムのピークの中から、雨粒条件として予め設定された所定の距離・速度範囲内のピークを抽出し、その抽出したピークの情報を取得するよう構成される。
【0013】
降雨判定部は、ピーク情報取得部にて取得されたピークの情報に基づき、周囲環境が降雨であるか否かを判定するよう構成される。
【0014】
つまり、FCM方式のレーダ装置においては、上述したように、送信信号の周波数が、スタート周波数から漸増又は漸減してエンド周波数に至るまで変調され、その変調がステップ的に繰り返される。
【0015】
このため、FCM方式のレーダ装置には、2次元高速フーリエ変換を行う周波数分析部が設けられている。なお、2次元高速フーリエ変換は、周波数が漸増又は漸減されるチャープ毎に高速フーリエ変換することで距離周波数を分析し、更に、その距離周波数をチャープが連続する方向に高速フーリエ変換することで速度周波数を分析するといった手順で、実行される。
【0016】
従って、周波数分析部では、距離及び速度の座標系でパワースペクトラムのピークが発生する分析結果が得られる。そして、このピークは雨粒等の物標に対応する。
【0017】
そこで、本開示の車両用レーダ装置においては、ピーク情報取得部が、その分析結果の中から、雨粒条件として予め設定された所定の距離・速度範囲内のピークを抽出し、その抽出したピークの情報を取得するのである。そして、降雨判定部が、その取得したピークの情報に基づき、周囲環境が降雨であるか否かを判定する。
【0018】
従って、本開示の車両用レーダ装置によれば、FCM方式のレーダ装置を搭載した車両において、雨滴センサ等の降雨検出装置を別途設けることなく、降雨を検出することができる。また、降雨の検出結果は、車両用レーダ装置に接続される車載装置、例えば、運転支援装置に出力することで、降雨時の運転支援をより適切に実行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態のレーダ装置の構成を表すブロック図である。
【
図2】レーダ装置の車両への配置及び路面からのレーダ波の反射を表す説明図である。
【
図3】レーダ装置から送信される送信信号の変調方式を説明する説明図である。
【
図4】処理ユニットの機能構成を表すブロック図である。
【
図5】2次元高速フーリエ変換により得られるスペクトラムのピークを表す説明図である。
【
図6】処理ユニットにて実行される降雨判定処理を表すフローチャートである。
【
図7】路面速度に応じてピーク抽出から除外される領域を表す説明図である。
【
図8】路側物によりピーク抽出から除外される領域を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
【0021】
[構成]
本実施形態のレーダ装置10は、
図2に示すように、車両2の前面中央部分、例えば、フロントバンパーの裏側、に配置される、車両用レーダ装置である。このレーダ装置10は、車両2の前方にレーダ波を放射し、物標から反射してくる反射波を受信することで、車両2の前方に存在する物標を検出するのに利用される。
【0022】
図1に示すように、レーダ装置10は、送信回路20と、分配器30と、送信アンテナ40と、受信アンテナ50と、受信回路60と、処理ユニット70と、出力ユニット90とを備える。
【0023】
送信回路20は、送信アンテナ40に送信信号Ssを供給するための回路である。送信回路20は、ミリ波帯の高周波信号を、送信アンテナ40の上流に位置する分配器30に入力する。
【0024】
送信回路20は、具体的には、
図2に示すように、高周波信号の周波数が、最も低いスタート周波数から最も高いエンド周波数まで漸増するように変調し、その変調をステップ的に繰り返すことで、FCW変調された高周波信号を生成し、分配器30に入力する。
【0025】
分配器30は、送信回路20から入力される高周波信号を、送信信号Ssとローカル信号Lとに電力分配する。
【0026】
送信アンテナ40は、分配器30から供給される送信信号Ssに基づいて、送信信号Ssに対応する周波数のレーダ波を放射する。
【0027】
受信アンテナ50は、物標にて反射されたレーダ波である反射波を受信するためのアンテナである。この受信アンテナ50は、複数のアンテナ素子51が一列に配置されたリニアアレーアンテナとして構成される。各アンテナ素子51による反射波の受信信号Srは、受信回路60に入力される。
【0028】
受信回路60は、受信アンテナ50を構成する各アンテナ素子51から入力される受信信号Srを処理して、アンテナ素子51毎のビート信号BTを生成し出力する。具体的には、受信回路60は、アンテナ素子51毎に、当該アンテナ素子51から入力される受信信号Srと分配器30から入力されるローカル信号Lとをミキサ61を用いて混合することにより、アンテナ素子51毎のビート信号BTを生成して出力する。
【0029】
但し、ビート信号BTを出力するまでの過程には、受信信号Srを増幅する過程、及び、ビート信号BTから不要な信号成分を除去する過程が含まれる。
【0030】
このように、受信回路60にて生成されて出力される、アンテナ素子51毎のビート信号BTは、処理ユニット70に入力される。
【0031】
処理ユニット70は、CPU71と、例えば、RAM又はROM等の半導体メモリ(以下、メモリ72)と、を有するマイクロコンピュータを備える。また、処理ユニット70は、高速フーリエ変換(以下、FFT)処理等を実行するコプロセッサを備えてもよい。
【0032】
処理ユニット70は、アンテナ素子51毎のビート信号BTを解析することにより、レーダ波を反射した物標毎に、物標までの距離R、物標の速度V、物標の方位θを算出する、物標検出処理を実行する。
【0033】
なお、物標の速度Vは、車両2との相対速度であり、レーダ波を反射した物標が雨粒や路面である場合には、概ね「-1×車速」となる。また物標の方位θは、レーダ装置10からのレーダ波の放射方向中心軸を0度として算出される。
【0034】
また、処理ユニット70は、アンテナ素子51毎のビート信号BTの解析結果から、雨が降っているか否かを判定する、降雨判定処理を実行する。
【0035】
そして、処理ユニット70による物標の検出結果や降雨の判定結果は、出力ユニット90から、車両2の運転支援ECU100に出力される。なお、ECUは、Electronic Control Unitの略である。
【0036】
運転支援ECU100は、レーダ装置10から入力される物標の検出結果に基づいて、運転者による車両2の運転を支援するための各種処理を実行する。運転支援に関する処理には、例えば、接近物があることを運転者に警報を発する処理、接近物との衝突を回避するために車両2のブレーキ装置やステアリング装置を制御する処理、が含まれてもよい。また、車両2を先行車両に追従させるために、車両の駆動系、制動系、操作系を制御する処理が含まれてもよい。
【0037】
[処理ユニット70の機能]
次に、処理ユニット70は、機能構成として、
図4に示すように、A/D変換部82、周波数分析部84、物標検出部86、ピーク情報取得部87、及び、降雨判定部88、を備える。
【0038】
A/D変換部82は、受信回路60から、アンテナ素子51毎に入力されるビート信号BTをデジタルデータにA/D変換する機能である。
【0039】
また周波数分析部84は、A/D変換部82から入力されるビート信号BTのデジタルデータを高速フーリエ変換(以下、FFT)することで、レーダ波の放射方向に存在する物標を探索する機能である。
【0040】
具体的には、周波数分析部84は、
図3に示す送信信号のチャープ毎に、ビート信号BTをFFT処理することで距離周波数を分析し、更に、その距離周波数をチャープ方向にFFT処理することで速度周波数を分析する、といった手順で2次元FFT処理を行う。
【0041】
この結果、周波数分析部84では、
図5に示すように、距離及び速度の座標系でパワースペクトラムのピークが発生する分析結果が得られる。そして、物標検出部86は、その分析結果から、レーダ波の放射方向に存在する物標を特定し、その物標までの距離R及び物標の速度Vを求める。なお、
図5において、パワースペクトラムのピークは、それぞれ、小さい円で示されている。
【0042】
また、周波数分析部84は、各アンテナ素子51から得られるビート信号BTの位相差から物標の方位θを求める処理を行う。そして、物標検出部86は、物標毎に求めた距離R、速度V、方位θから各物標の位置を特定し、運転支援ECU100に出力する。
【0043】
なお、FCW方式のレーダ装置における2次元FFTや位相差に基づく方位検出については、周知技術であるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0044】
次に、ピーク情報取得部87及び降雨判定部88は、周囲環境が降雨であるか否かを判定するために、処理ユニット70に付与された機能である。
【0045】
このうち、ピーク情報取得部87は、周波数分析部84での2次元FFT処理により得られる分析結果から、雨粒条件として予め設定された所定の距離・速度範囲内のパワースペクトラムのピークを抽出する。
【0046】
雨粒条件の距離・速度範囲は、
図5に点線で示すように、近距離で、相対速度が概ね「-1×車速」となるように設定されている。雨粒条件の距離範囲が近距離に設定されるのは、雨粒は、反射レベルが小さく、近距離でしか検出できないためである。
【0047】
そして、ピーク情報取得部87は、雨粒条件に従い抽出したパワースペクトラムのピークの数、パワー、速度、及び高さを、ピークの情報として取得する。なお、これらの情報は、雨粒の数、雨粒からの反射波のパワー、雨粒の車両2との相対速度、及び雨粒の路面からの高さ、に対応する。
【0048】
また、降雨判定部88は、ピーク情報取得部87にて取得されたピークの情報に基づき、降雨判定用パラメータを更新し、その更新した降雨判定用パラメータに基づき、周囲環境が降雨であるか否かを判定する。
【0049】
そして、降雨判定部88は、周囲環境が降雨であると判定すると、降雨によりレーダ波が減衰し、物標の探索可能範囲が狭くなるので、運転支援ECU100に、運転支援ECU100による制御範囲を縮小させる指令を出力する。
【0050】
この結果、例えば、運転支援ECU100が、車両2を先行車両へ追従させる制御を行う際に、先行車両の探索範囲を狭くして、降雨により先行車両が誤検出されて、追従制御が不安定になるのを抑制できるようになる。
【0051】
[降雨判定処理]
次に、処理ユニット70のCPU71において、ピーク情報取得部87及び降雨判定部88としての機能を実現するために実行される、降雨判定処理について説明する。
【0052】
この降雨判定処理は、CPU71がメモリ72に記憶されたプログラムを実行することにより実施される処理である。
【0053】
図6に示すように、降雨判定処理が開始されると、S110にて、上述した2次元FFT処理による分析結果である、距離及び速度の座標系でのパワースペクトラムの中から、雨粒条件に適合した距離・速度範囲内のピークを抽出する。
【0054】
なお、S110にて抽出されるピークは、パワーが予め設定された閾値以上となるピークである。そして、雨粒条件は、上述した距離・速度範囲内のピークの中から、
図7に示すように、相対速度が路面相当の速度となるピークを除外するように設定される。
【0055】
つまり、路面からレーダ波が反射された場合、その反射点の相対速度は雨粒と同様、概ね「-1×車速」となり、反射点までの距離も雨粒の距離範囲と重複する。
【0056】
従って、2次元FFT処理により得られたパワースペクトラムのピークの中から、雨粒に対応するピークを抽出するには、路面からの反射波に対応するパワースペクトラムのピークを除外することが望ましい。
【0057】
一方、車両2と路面との相対速度である路面速度Vrは、
図2に示すように、レーダ装置10から路面の反射点P1を見た路面角度をαとすると、「Vr=-1×車速×cosα」となる。また、路面角度αは、「α=arcsin(レーダ装置10の路面からの高さ/レーダ装置10にて計測される路面距離)」として求めることができる。
【0058】
図7に示すように、路面速度Vrは距離に応じて変化するが、パワースペクトラムのピークを除外する速度範囲としては、Vr±A[m/s]を設定することができる。そこで、本実施形態では、この速度範囲でパワースペクトラムのピークを抽出しないように、雨粒条件が設定される。
【0059】
また、
図8に示すように、車両2の左右に路側物がある場合には、路側物からの反射波が雨粒として抽出されることも考えられる。そこで、本実施形態では、
図8に示すように、車両2の幅方向で路側物があるものとして設定された、左右の境界線Pl,Prよりも外の領域に位置するパワースペクトラムのピークは、抽出しないように、雨粒条件が設定される。
【0060】
この結果、路面や路側物からのレーダ波の反射点が、雨粒として抽出されるのを抑制することができる。
【0061】
次に、S110にて、上述した雨粒条件を満たすパワースペクトラムのピークが抽出されると、S120に移行して、その抽出されたピークの情報を算出する。S120では、上述したように、ピークの情報として、S110にて抽出したパワースペクトラムのピークの数、パワー、速度、及び高さを算出する。ただし、これらのパラメータは必ずしも全て算出する必要はなく、例えば、これらのパラメータの1つ、若しくは、一部を算出するようにしてもよい。
【0062】
S120にて、ピークの情報が算出されると、S130に移行し、その算出されたピークの情報に基づき、降雨判定パラメータを更新する。
【0063】
本実施形態では、降雨判定パラメータとして、降雨カウンタ、降雨パワー、雨粒の速度ばらつき、及び、雨粒の高さばらつき、が設定されている。
【0064】
このうち、降雨カウンタは、雨粒数をカウンタ化したものであり、例えば、S120にて算出されたピークの数を、今回雨粒数として、次式に基づき更新される。
【0065】
降雨カウンタ=前回降雨カウンタ+(今回雨粒数-2)
また、降雨パワーは、雨粒のパワーの移動平均値であり、例えば、今回抽出したピークの中で、パワーが最大値となるピークのパワーを、今回雨粒最大降雨パワーとして、次式に基づき更新される。
【0066】
降雨パワー=(0.995×前回降雨パワー)
+(0.005×今回雨粒最大降雨パワー)
なお、今回雨粒最大降雨パワーに代えて、例えば、今回抽出したピークのパワーの平均値を用いて、降雨パワーを更新するようにしてもよい。
【0067】
また、雨粒の速度ばらつきは、例えば、今回抽出したピークに対応する雨粒全てで、次式を用いて速度平均値を求め、
速度平均値=(0.95×前回速度平均値)+(0.05×今回雨粒速度)
その速度平均値に基づき、次式を用いて、所謂標準偏差を求めることで算出される。
【0068】
速度ばらつき=(0.95×前回速度ばらつき)
+(0.95×0.05×(今回雨粒速度-速度平均値)^2)
また、雨粒の高さばらつきは、例えば、今回抽出したピークに対応する雨粒全てで、次式を用いて高さ平均値を求め、
高さ平均値=(0.95×前回高さ平均値)+(0.05×今回雨粒高さ)
その高さ平均値に基づき、次式を用いて、所謂標準偏差を求めることで算出される。
【0069】
高さばらつき=(0.95×前回高さばらつき)
+(0.95×0.05×(今回雨粒高さ-高さ平均値)^2)
なお、上記式に記載の数値は一例であり、適宜変更できる。また、「^2」は二乗を表す。
【0070】
次に、S140では、S130にて求めた降雨判定パラメータを利用して、降雨判定を行う。
【0071】
すなわち、降雨カウンタが大きいときには、雨粒が多いので降雨と判定できる。また、降雨パワーが大きいときには、雨粒による電波の減衰が大きいと判定できる。また、雨粒の速度ばらつきや、高さばらつきが小さいときには、路面等、雨粒とは異なるピークが抽出されている可能性がある。
【0072】
そこで、S140では、降雨カウンタ、降雨パワー、速度ばらつき、及び高さばらつきが、それぞれ、予め設定された閾値よりも大きいときに、降雨と判定する。
【0073】
なお、本実施形態では、降雨カウンタ、降雨パワー、速度ばらつき、及び高さばらつきが全て大きいときに、降雨と判定するが、例えば、降雨カウンタや降雨パワーが大きいときに降雨と判定するようにしてもよい。つまり、降雨判定パラメータの1つ若しくは一部が大きいときに降雨と判定するようにしてもよい。
【0074】
また、降雨判定パラメータとして、降雨カウンタ、降雨パワー、速度ばらつき、及び高さばらつきを算出するようにしているが、これらパラメータの1つ若しくは一部を、降雨判定パラメータとして求め、降雨判定を行うようにしてもよい。
【0075】
次に、S150では、S140にて降雨と判定されたか否かを判定し、降雨と判定されていない場合には、S160に移行し、降雨と判定されている場合には、S170に移行する。
【0076】
S160では、降雨と判定されておらず、運転支援ECU100は、降雨の影響を受けることなく制御を実施できることから、運転支援ECU100に対し、降雨の判定結果と共に、制御範囲を通常に設定する指令を出力し、降雨判定処理を終了する。
【0077】
一方、S170では、降雨と判定されており、運転支援ECU100の制御は、降雨の影響を受けることから、運転支援ECU100に対し、降雨の判定結果と共に、制御範囲を縮小するように指令を出力し、降雨判定処理を終了する。
【0078】
なお、降雨判定処理を終了した後は、再度S110に移行することで、所定期間、上記処理を繰り返し実行する。
【0079】
図6に示すフローチャートにおいて、S110及びS120の処理は、
図4に示すピーク情報取得部87として機能し、S130~S170の処理は、
図4に示す降雨判定部88として機能する。
【0080】
[効果]
以上説明したように、本実施形態では、FCM方式のレーダ装置10において、周波数分析部84にて実施される2次元FFT処理を利用して、降雨判定を行う。そして、この降雨判定では、2次元FFT処理により得られる、距離及び速度の座標系のパワースペクトラムの中から、レーダ装置10により雨粒が検出される領域内のピークを雨粒として抽出し、そのピークの情報に基づき、降雨判定を行う。
【0081】
また、降雨判定に用いるピークの情報として、ピークの数やピークのパワーを取得し、これらのパラメータを雨粒の数或いは雨粒のパワーとして、降雨判定に利用することから、降雨判定を極めて正確に行うことができる。
【0082】
また、本実施形態では、路面や路側物からの反射波が雨粒として認識されることのないよう、距離及び速度の座標系のパワースペクトラムからピークを抽出する領域が制限されることから、降雨判定をより精度よく実施することができる。
【0083】
また、仮に、路面や路側物からの反射波が雨粒として認識されたとしても、降雨判定には、雨粒の速度ばらつき、及び、雨粒の高さばらつきが用いられることから、降雨の判定精度が低下するのを抑制できる。
【0084】
[他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0085】
本開示に記載の処理ユニット70による降雨判定の手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の処理ユニット70による降雨判定の手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の処理ユニット70による降雨判定の手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、処理ユニット70において実行されるコンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。処理ユニット70に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0086】
上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【0087】
上述した車両用レーダ装置の他、当該車両用レーダ装置を構成要素とするシステム、当該車両用レーダ装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、車両用レーダ装置における降雨判定方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。