(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】エルゴチオネイン、S-メチル-エルゴチオネイン、及びそれらの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4172 20060101AFI20240123BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20240123BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240123BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240123BHJP
A61K 31/385 20060101ALI20240123BHJP
A61K 31/095 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
A61K31/4172
A61P13/02
A61P13/12
A61K45/00
A61K31/385
A61K31/095 ZNA
(21)【出願番号】P 2022505390
(86)(22)【出願日】2020-07-24
(86)【国際出願番号】 EP2020070964
(87)【国際公開番号】W WO2021018774
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-04-06
(32)【優先日】2019-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522033771
【氏名又は名称】フンダシオ・インスティトゥート・ディンヴェスティガシオ・ビオメディカ・デ・ベルヴィッチ(イディベル)
【氏名又は名称原語表記】FUNDACIO INSTITUT D’INVESTIGACIO BIOMEDICA DE BELLVITGE (IDIBELL)
(73)【特許権者】
【識別番号】514267962
【氏名又は名称】ウニベルシタ デ バルセローナ
(73)【特許権者】
【識別番号】522033782
【氏名又は名称】コンソルシオ・セントロ・デ・インヴェスティガシオン・バイオメディカ・エン・レッド,エム.ピー.
【氏名又は名称原語表記】CONSORCIO CENTRO DE INVESTIGACION BIOMEDICA EN RED, M.P.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ヌネ・マルティネス,ヴァージニア
(72)【発明者】
【氏名】ロペス・デ・エレディア・アロンソ,ミゲル
【審査官】松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05266595(US,A)
【文献】北川 照男, I.尿検査 17.アミノ酸尿, 臨時増刊特集 これだけは知っておきたい検査のポイント 第3集,[令和5年8月 15日検索],[online], 1984, p.2114,インターネット<URL: https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1402219338?p=firstTab>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4172
A61P 13/02
A61P 13/12
A61K 45/00
A61K 31/385
A61K 31/095
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎結石症又はアミノ酸尿症の処置及び/又は予防に使用するための、エルゴチオネインを含む医薬組成物
であって、アミノ酸尿症がシスチン尿症である、医薬組成物。
【請求項2】
腎結石症又はアミノ酸尿症の処置及び/又は予防における、追加のシスチン可溶化剤、L-シスチンジメチルエステル、L-シスチンメチルエステル、L-シスチンジアミド、リポ酸、及びそれらの組合せからなる群より選択される化合物との併用療法に使用するための、エルゴチオネインを含む医薬組成物
であって、アミノ酸尿症がシスチン尿症である、医薬組成物。
【請求項3】
1つ以上の薬学的に許容し得る賦形剤及び/又は担体を含む、請求項1
又は2記載の医薬組成物。
【請求項4】
エルゴチオネインがL-エルゴチオネインである、請求項1~
3のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項5】
1日あたり0.01~500mg/kg体重の用量でエルゴチオネインを投与するための、請求項1~
4のいずれか一項記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年7月26日に出願された欧州特許出願EP 19382644.3の優先権を主張する。
【0002】
本発明は医学の分野に属する。詳しくは、腎疾患の分野に属する。本明細書に提供される本発明は、シスチン結石症の診断及び処置に特に有用である。
【背景技術】
【0003】
シスチン尿症は常染色体劣性遺伝形式を伴う疾患であり、アミノ酸トランスポーターrBAT/b0,+ATの欠損によって引き起こされる、シスチン及び二塩基性アミノ酸の腎再吸収及び腸管吸収の問題を特徴とする。シスチン尿症はシスチン結石症へと進行するが、これは、結石を形成する泌尿器系のシスチン沈殿物によって引き起こされる。これらの結石は、閉塞、感染、そして最終的には腎不全を引き起こす可能性がある。
【0004】
シスチン尿症の原因となる2つの遺伝子、SLC3A1及びSLC7A9がこれまでに同定されており、そしてこれらは、b0,+アミノ酸輸送システムに関与するrBAT/b0,+ATヘテロマー複合体をコードしている。これは、腎臓におけるシスチンの主な尿細管腔側再吸収システムである。このトランスポーターは、ヘテロマーアミノ酸トランスポーター(HAT)ファミリーに属しており、そしてこれは、ジスルフィド架橋により一連の軽いサブユニット(rBATの場合はb0,+AT)に結合した重いサブユニット(rBAT又は4F2hc)によって形成される。
【0005】
シスチン尿症は、尿中のシスチン及び二塩基性アミノ酸の選択的な過剰排泄を実証することによって診断される。シスチン尿症患者の20~25%で六方晶が尿中に現れるため、シスチン尿症の唯一の証明された臨床症状はシスチン結石症である。実際、シスチン尿症は、子供の尿路結石全体の最大10%の原因である。シスチン尿症患者の80%以上が、生後20年以内に最初のシスチン結石を発症し、75%が両方の腎臓で発症する。ほとんどの患者は、生涯を通じて再発性の結石形成に苦しんでおり、繰り返し介入する必要がある。現在のところ、シスチン尿症患者がいつシスチン結石を発症するかを予測する方法はない。更に、患者が既に結石を形成しているかどうかを検出する方法は、KUB X線、コンピューター断層撮影(CT)及び超音波などの複雑な画像法によるしかない。
【0006】
ヒトシスチン尿症は、高水分摂取、減塩食(<2g NaCl/日)、タンパク質摂取量の適度な減少(<0.8g/日)、及び少なくとも7.5のpH値までの尿のアルカリ化(クエン酸カリウムで、又は重度の腎不全の場合は重炭酸ナトリウムで)により、シスチンの溶解度を最大化して、シスチン結石の形成を妨げることによって処置される。医療管理を行っても、有効性が不十分で患者のコンプライアンスが低いせいで、長期的な成績は不良である。
【0007】
予防に失敗した場合、患者は結石を溶解又は破壊するために処置される。結石は、外科的腎切石術(大きな石)、経皮的腎砕石術、体内砕石術、及び最近形成された結石の場合は体外衝撃波砕石術によって除去される。これらの術式は、進行性腎機能障害のリスクを伴う。
【0008】
薬理学的アプローチは、ペニシラミン及びチオプロニンなどのチオールベースの薬剤の経口投与に基づいており、これらの薬剤は、システインとの可溶性の複合体を形成することにより、シスチン(不溶性)とシステイン(可溶性)との間の酸化還元平衡を移動させることができる。これらの薬剤は非常に有効であるが、処置の中止と疾患の再発につながる複数の副作用がある(Halperin EC et al.,“The use of D-penicillamine in cystinuria: efficacy and untoward reactions”, Yale J Biol Med., 1981 , vol. 54(6), pp. 439- 46)。
【0009】
したがって、シスチン尿症患者のシスチン結石症の発症を特定するための簡単で安価な方法が依然として必要であり、またシスチン結石の形成を防止又は遅延させるための効率的で無毒な処置も必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明の要約
本発明者らは、患者の尿試料中のS-メチル-L-エルゴチオネイン(S-met-L-Erg)の検出に基づくシスチン結石症の新規な診断方法を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下の例に示されるとおり、本発明者らは、驚くべきことに、アミノ酸誘導体S-met-L-エルゴチオネインの尿中レベルが、腎シスチン結石の存在を高い統計的検出力で特定できることを発見した。S-met-L-エルゴチオネインは、シスチン尿症患者の試料では検出されたことのない、ヒトの病気との関連性が知られていない代謝物であるため、これは非常に予想外のことであった。よって、本発明者らは、容易に入手可能な試料中の単一代謝物の単純な分析により、シスチン尿症患者におけるシスチン結石症の正確な診断を可能にする方法を開発した。
【0012】
本発明以前は、シスチン尿症患者におけるシスチン結石の存在は、複雑な画像法によってのみ特定することができた。よって、シスチン尿症患者の臨床管理は、尿中シスチン又は腎臓痛のレベルが結石エピソードの発症の可能性を示すまで、水分摂取量の増加及び尿アルカリ化から構成されていた。その時になって初めて、シスチン結石の存在は、CTスキャン又は超音波などの画像法によって特定された。これらの技術は高価な機器を必要とし、シスチンを他の結石の化学成分と区別することさえできない。
【0013】
本明細書で提供される方法の単純さと効率は、シスチン尿症患者における尿路結石症の日常的な検査を可能にする。この注目すべき改善により、シスチン結石が患者に症状を引き起こす前に、まさに発症時のシスチン結石検出の達成が容易になり、それによって患者の苦痛が軽減され、処置の最適化が可能になる。
【0014】
よって、第1の態様において、本発明は、診断及び/又は予後判定に使用するためのS-メチル-L-エルゴチオネインを提供する。
【0015】
第2の態様において、本発明は、腎疾患の診断及び/又は予後判定のための方法であって、対象の単離された試料中のS-メチル-L-エルゴチオネインの量を決定する工程を含む方法を提供する。
【0016】
シスチン尿症の動物モデルにおける以下の例に示されるとおり、尿中のS-メチル-L-エルゴチオネインの量は、対照動物(野生型-WT)における量よりも少なかった。よって、S-メチル-L-エルゴチオネインは、尿路結石症を回避、予防、又は軽減するための治療的介入の開始を決定又は推奨するための有用なツールである。
【0017】
第3の態様において、本発明は、腎疾患に罹患している疑いのある対象の治療的介入を開始するかどうかを決定又は推奨するための方法であって、(a)対象の単離された試料中のS-メチル-L-エルゴチオネインの量を決定する工程;及び
(b1)S-メチル-L-エルゴチオネインの量が腎疾患に罹患している対象の基準値の範囲内にある場合、治療的介入を開始することを決定又は推奨する工程;又は代わりに、
(b2)対象の単離された試料中のS-メチル-L-エルゴチオネインの前記量を基準値(腎疾患に罹患していない対象の前記基準値)と比較する工程であって、工程(a)で測定されたS-メチル-L-エルゴチオネインの量が基準値よりも少ない場合、対象が治療的介入を開始しなければならないことを示している工程
を含む方法を提供する。
【0018】
第4の態様において、本発明は、既に腎疾患と診断された対象における治療的介入の有効性を特定するための方法であって、(a)治療的介入の前の対象の単離された試料中のS-メチル-L-エルゴチオネインの量を決定する工程;(b)一旦治療的介入が開始された対象の単離された生物学的試料中のS-メチル-L-エルゴチオネインの量を決定する工程;並びに(c)工程(a)及び(b)で測定された量を比較する工程であって、工程(b)で測定されたS-メチル-L-エルゴチオネインの量が工程(a)で測定されたS-メチル-L-エルゴチオネインの量よりも多い場合、医学的レジメンが腎疾患の処置において有効であることを示している工程を含む方法;又は代わりに、(i)一旦治療的介入が開始された対象の単離された試料中のS-メチル-L-エルゴチオネインの量を決定する工程;及び(ii)工程(i)で測定された量をS-メチル-L-エルゴチオネインの基準値(腎疾患に罹患していない対象の前記基準値、又は前の試験時点で腎疾患に罹患している対象の単離された試料中のS-メチル-L-エルゴチオネインの量である前記基準値)と比較する工程であって、工程(i)で測定されたS-メチル-L-エルゴチオネインの量が基準値より少なくない場合、医学的レジメンが腎疾患の処置において有効であることを示している工程を含む方法を提供する。
【0019】
第5の態様において、本発明は、上に定義された方法におけるS-メチル-L-エルゴチオネインの量を決定するための手段の使用を提供する。
【0020】
第6の態様において、本発明は、対象の単離された試料における腎疾患の診断及び/又は予後判定のためのマーカーとしてのS-メチル-L-エルゴチオネインの使用を提供する。
【0021】
更なる態様において、本発明は、診断及び/又は予後判定において使用するためのS-メチル-L-エルゴチオネイン/L-エルゴチオネイン比を提供する。
【0022】
本発明者らはまた、シスチン結石症の新規処置法を開発した。
驚くべきことに、以下の例に示されるとおり、本発明者らは、エルゴチオネイン(Erg)の投与が、シスチン尿症マウスモデルにおける腎結石の出現を防止又は遅延させることを見い出した。
【0023】
シスチン結石症の現在の薬理学的処置法は、ジスルフィド結合を切断することによってシスチン結石を可溶化し、それによって尿への可溶性がより高い混合システインジスルフィド化合物を形成する、チオールベースの薬剤に基づいている。これらの既知の薬剤は、種々の程度の有効性と、それらの使用を短期間に制限する強力な二次的影響とを及ぼす(Halperin EC et al.、上記)。結果として、シスチン尿症の患者は高率の疾患再発を示し、このため感染症及び腎不全につながる可能性がある。
【0024】
予期しないことに、本発明者らは、エルゴチオネインの投与がシスチン結石の形成を防止及び遅延させるだけでなく、シスチン尿症マウスにおいていかなる副作用も引き起こさないことを発見した。これにより、シスチン尿症患者を長期に処置することが可能になり、それによって結石症の発生率及び再発が大幅に減少する。理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らによって発見されたエルゴチオネインの異なる作用機序が、その並外れた特性の原因である可能性がある。現在使用されているチオールベースの薬剤とは逆に、エルゴチオネインはシスチン結石に直接作用しない。しかし、それはグルタチオンの合成を刺激し、システイン、メチオニン、γ-グルタミル-システインの細胞内レベル及び腎細胞におけるシステイン/シスチンの細胞内比を増加させ、そして尿の酸化還元電位を低下させる。
【0025】
本明細書で提供される新規処置法によって示される注目すべき利点は、それがヒト患者のシスチン結石の予防又は処置にさえ使用できそうな明確な指標である。実際、以下の例に示されるとおり、エルゴチオネインは結石形成マウスの数を50%減少させ;そして、結石を形成した残りの50%は、未処置マウスと比較して1か月遅延して形成し、更には、形成された結石の成長速度は低くなっている。
【0026】
上記を考慮して、本明細書で提供されるシスチン結石症に対する新しい処置法は、特にこの遺伝性障害の処置のために、医学の分野における大きな進歩を構成する。
【0027】
よって、第7の態様において、本発明は、腎結石症又はアミノ酸尿症の処置及び/又は予防に使用するためのエルゴチオネインを提供する。
【0028】
この態様はまた、腎結石症及びアミノ酸尿症から選択される疾患の処置及び/又は予防用の医薬品の製造のためのエルゴチオネインの使用として系統的に説明することができる。この態様はまた、腎結石症及びアミノ酸尿症から選択される疾患を処置及び/又は予防するための方法であって、治療有効量のエルゴチオネインをそれを必要とする対象に投与することを含む方法として系統的に説明することができる。
【0029】
エルゴチオネインの作用機序により、それは、現在使用されているシスチン可溶化剤での治療を補完するのに特に適している。それらの併用により、形成された結石を除去し、同時に新しい結石の形成を防止することができよう。更に、エルゴチオネインの投与は、現在の処置法の毒性を減らせる可能性がある。
【0030】
よって、第8の態様において、本発明は、腎結石症又はアミノ酸尿症の処置及び/又は予防における、追加のシスチン可溶化剤、L-シスチンジメチルエステル、L-シスチンメチルエステル、L-シスチンジアミド、リポ酸、及びそれらの組合せからなる群より選択される化合物との併用療法に使用するためのエルゴチオネインを提供する。
【0031】
この態様はまた、腎結石症及びアミノ酸尿症から選択される疾患の処置及び/又は予防における、追加のシスチン可溶化剤、L-シスチンジメチルエステル、L-シスチンメチルエステル、L-シスチンジアミド、リポ酸、及びそれらの組合せからなる群より選択される化合物との併用療法における使用のための医薬品の製造のためのエルゴチオネインの使用として系統的に説明することができる。この態様はまた、腎結石症及びアミノ酸尿症から選択される疾患を処置及び/又は予防するための方法であって、追加のシスチン可溶化剤、L-シスチンジメチルエステル、L-シスチンメチルエステル、L-シスチンジアミド、リポ酸、及びそれらの組合せからなる群より選択される化合物と組合せた治療有効量のエルゴチオネインをそれらを必要とする対象に投与することを含む方法として系統的に説明することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】6か月齢のオスのマウス尿中のL-Erg及びS-Met-L-Ergの測定。6か月齢のwt及びSlc7a9
-/-(KO)オスのマウス尿中のL-Erg及びS-Met-L-Erg濃度。各点は一試料を表し、バーは平均±SEMを示す。マン・ホイットニー検定の確率値は、各チャートの上部に示されている。
【
図2】異なる月齢のオスのマウス尿中のL-Erg及びS-Met-L-Erg濃度の差。3か月齢及び6か月齢のwt及びSlc7a9
-/-(KO)オスのマウスの尿中L-Erg及びS-Met-L-Erg濃度。バーは平均±SEMを示す。マン・ホイットニー検定の確率値は、3か月齢対6か月齢の
**、P≦0.01、
***、P≦0.001として、そしてwt対KOの
+++、P≦0.001として示される。
【
図3】マウスにおける尿中L-Erg及びS-Met-L-Erg濃度の性関連の差。6か月齢のwt及びSlc7a9
-/-(KO)マウスの尿中L-Erg及びS-Met-L-Erg濃度。バーは平均±SEMを示す。マン・ホイットニー検定の確率値は、オスのマウスに対して
*、P≦0.05、
**、P≦0.01、
***、P≦0.001、
****、P≦0.0001、そしてwtマウスに対して+、P≦0.05、+++、P≦0.001として示される。「M」はオスを表し、「F」はメスを表す。
【
図4】結石形成シスチン尿症マウス及び結石非形成シスチン尿症マウスにおけるL-Erg及びS-Met-L-Ergの尿中濃度。性により識別されるシスチン結石の存在(SF)又は欠如(NSF)に関連する3か月齢(A)及び6か月齢(B)のシスチン尿症マウス(Slc7a9
-/-)の尿中L-Erg及びS-Met-L-Erg濃度。結石形成(SF)マウスは、結石が検出される時間によって細分されている;ESF(3か月齢前に検出された結石)及びLSF(3か月齢後に検出された結石)。バーは平均±SEMを示す。マン・ホイットニー検定の確率値は、結石非形成マウスに対して~、P≦0.1、
*、P≦0.05、
**、P≦0.01、
***、P≦0.001として、そしてオスのマウスに対して+、P≦0.05、++、P≦0.05、+++、P≦0.001として示される。「M」はオスを表し、「F」はメスを表す。
【
図5】シスチン尿症マウスにおける尿中S-Met-L-Erg/L-Erg比。A.結石形成(SF)及び結石非形成(NSF)Slc7a9
-/-マウスの尿中S-Met-L-Erg/L-Erg比。バーは平均±SEMを示す。マン・ホイットニー検定の確率値は、結石非形成マウスに対して
*、P≦0.05、
***、P≦0.001、
****、P≦0.0001として示される。B.SFのNSFとの識別に関する尿中S-Met-L-Erg/L-Erg比の性能を表示する受信者動作特性曲線。AUC、曲線下面積。y軸は真陽性率を表し、x軸は偽陽性率を表す。
【
図6-1】(実施例2に関連)。L-Erg処置による代謝変動。マウス表面積によって正規化された水分摂取量(A)、pH(B)、並びに飲料水に添加されたL-Ergの異なる濃度での処置前(初期、左のバー、「B」)及び処置後(最終、右のバー、「A」)の酸化還元電位(C)。各点はマウス1頭を表す。ウィルコクソン検定の結果。尿量がpH及び酸化還元電極の下限を下回っているため、全ての処置マウスでpH及び酸化還元電位を測定できなかった。視覚化目的の片対数スケールでの尿中L-Erg濃度(D)、並びに飲料水に添加されたL-Ergの異なる濃度での処置前(B)(初期、左のバー)及び処置後(A)(最終、右のバー)のS-Met-L-Erg(E)濃度。各点はマウス1頭を表し、バーは平均±SEMを示す。全てのパネルで、ns、有意でない:ウィルコクソン符号順位検定で
*、p<0.05。処置前の初期値は、各図(A~E)の左側のバーに、及び/又は各L-Erg試験用量について対応する。処置後の最終値は、各図(A~E)の右側のバーに、及び/又は各L-Erg試験用量について対応する。x軸はL-Erg(mg/L)を表し、y軸は、水分摂取量/重量
2/3比(ml/kg
2/3)(A)、pH(B);ORP(mV)(C);尿中の[L-エルゴチオネイン](μM)(D);尿中の[S-メチル-L-エルゴチオネイン](μM)(E)を表す。
【
図6-2】(実施例2に関連)。L-Erg処置による代謝変動。マウス表面積によって正規化された水分摂取量(A)、pH(B)、並びに飲料水に添加されたL-Ergの異なる濃度での処置前(初期、左のバー、「B」)及び処置後(最終、右のバー、「A」)の酸化還元電位(C)。各点はマウス1頭を表す。ウィルコクソン検定の結果。尿量がpH及び酸化還元電極の下限を下回っているため、全ての処置マウスでpH及び酸化還元電位を測定できなかった。視覚化目的の片対数スケールでの尿中L-Erg濃度(D)、並びに飲料水に添加されたL-Ergの異なる濃度での処置前(B)(初期、左のバー)及び処置後(A)(最終、右のバー)のS-Met-L-Erg(E)濃度。各点はマウス1頭を表し、バーは平均±SEMを示す。全てのパネルで、ns、有意でない:ウィルコクソン符号順位検定で
*、p<0.05。処置前の初期値は、各図(A~E)の左側のバーに、及び/又は各L-Erg試験用量について対応する。処置後の最終値は、各図(A~E)の右側のバーに、及び/又は各L-Erg試験用量について対応する。x軸はL-Erg(mg/L)を表し、y軸は、水分摂取量/重量
2/3比(ml/kg
2/3)(A)、pH(B);ORP(mV)(C);尿中の[L-エルゴチオネイン](μM)(D);尿中の[S-メチル-L-エルゴチオネイン](μM)(E)を表す。
【
図7】(実施例2に関連)。L-Ergで処置された結石症マウスの結石成長速度。オス及びメスのマウスを飲料水中の60mg/L L-Ergで3か月間処置(ERG)又は未処置放置(C)とした。y軸は結石の成長速度(mg/日)を表す。バーは、マウス13~15頭のX線画像法によって毎月測定された結石成長速度の平均±SEMを表す。各点は、各マウスについて測定されたシスチン結石の成長速度を表す。
【
図8-1】(実施例2に関連)。シスチン結石症の発症及び代謝パラメーターに及ぼす長期(6か月)L-Erg処置の効果。(A)シスチン結石症の発症に及ぼす効果。6か月の処置中及び剖検時の結石症マウスの割合が、L-Erg処置(ERG)及び非処置マウス(対照)について示される。y軸はシスチン結石の%を表し、x軸は処置下の時間を月単位で表す。(B)結石の成長速度に及ぼす効果。結石の成長速度は、2点を超えるデータを持つ結石の各マウスの線形回帰モデルによって計算された。y軸は結石の成長速度(mg/日)を表す。バーは、未処置(C、n=7)及びL-Erg処置マウス(ERG、n=3)の平均±SEMを示す。統計分析の結果は上部に示される。(C)尿pHに及ぼす効果。尿pHは、L-Erg処置(ERG)及び非処置(C)マウスの処置期間の最後にモニターされた。(D)尿の酸化還元電位に及ぼす効果。尿ORPは、L-Erg処置(ERG)及び非処置(対照)マウスの処置期間の最後にモニターされた。統計分析の結果は上部に示される。(C)及び(D)において、大きな黒点は平均を表し、ボックスの上と下にある小さな黒点は外れ値を表す。
【
図8-2】(実施例2に関連)。シスチン結石症の発症及び代謝パラメーターに及ぼす長期(6か月)L-Erg処置の効果。(A)シスチン結石症の発症に及ぼす効果。6か月の処置中及び剖検時の結石症マウスの割合が、L-Erg処置(ERG)及び非処置マウス(対照)について示される。y軸はシスチン結石の%を表し、x軸は処置下の時間を月単位で表す。(B)結石の成長速度に及ぼす効果。結石の成長速度は、2点を超えるデータを持つ結石の各マウスの線形回帰モデルによって計算された。y軸は結石の成長速度(mg/日)を表す。バーは、未処置(C、n=7)及びL-Erg処置マウス(ERG、n=3)の平均±SEMを示す。統計分析の結果は上部に示される。(C)尿pHに及ぼす効果。尿pHは、L-Erg処置(ERG)及び非処置(C)マウスの処置期間の最後にモニターされた。(D)尿の酸化還元電位に及ぼす効果。尿ORPは、L-Erg処置(ERG)及び非処置(対照)マウスの処置期間の最後にモニターされた。統計分析の結果は上部に示される。(C)及び(D)において、大きな黒点は平均を表し、ボックスの上と下にある小さな黒点は外れ値を表す。
【
図9-1】(実施例2に関連)。L-Ergは、含硫基移動経路の構成要素の腎細胞内濃度を増加させる。この図は、長期処置及び未処置マウスの腎臓における含硫基移動経路の代謝物の細胞内含量を示している。y軸はnmol/mgタンパク質を表す。(A)ではグルタチオン(GSH);(B)では酸化型グルタチオン(GssG);(C)ではGSH/GssG比;(D)ではシステイン(Cys);(E)ではシスチン(CssC);(F)ではCys/CssC比;(G)ではS-アデノシルメチオニン(SAM);(H)ではS-アデノシルホモシステイン(SAH);(I)ではSAM/SAH比;(J)ではメチオニン(Met);(K)ではγ-グルタミルシステイン(γGluCys);及び(L)ではシスタチオニン。各点はマウス1頭を表し、バーは平均±SEMを示す。全てのパネルにおいて;ウィルコクソン符号順位検定で
*、p<0.05、
**、P≦0.01、
***、P≦0.001、
****、P≦0.0001。
【
図9-2】(実施例2に関連)。L-Ergは、含硫基移動経路の構成要素の腎細胞内濃度を増加させる。この図は、長期処置及び未処置マウスの腎臓における含硫基移動経路の代謝物の細胞内含量を示している。y軸はnmol/mgタンパク質を表す。(A)ではグルタチオン(GSH);(B)では酸化型グルタチオン(GssG);(C)ではGSH/GssG比;(D)ではシステイン(Cys);(E)ではシスチン(CssC);(F)ではCys/CssC比;(G)ではS-アデノシルメチオニン(SAM);(H)ではS-アデノシルホモシステイン(SAH);(I)ではSAM/SAH比;(J)ではメチオニン(Met);(K)ではγ-グルタミルシステイン(γGluCys);及び(L)ではシスタチオニン。各点はマウス1頭を表し、バーは平均±SEMを示す。全てのパネルにおいて;ウィルコクソン符号順位検定で
*、p<0.05、
**、P≦0.01、
***、P≦0.001、
****、P≦0.0001。
【
図9-3】(実施例2に関連)。L-Ergは、含硫基移動経路の構成要素の腎細胞内濃度を増加させる。この図は、長期処置及び未処置マウスの腎臓における含硫基移動経路の代謝物の細胞内含量を示している。y軸はnmol/mgタンパク質を表す。(A)ではグルタチオン(GSH);(B)では酸化型グルタチオン(GssG);(C)ではGSH/GssG比;(D)ではシステイン(Cys);(E)ではシスチン(CssC);(F)ではCys/CssC比;(G)ではS-アデノシルメチオニン(SAM);(H)ではS-アデノシルホモシステイン(SAH);(I)ではSAM/SAH比;(J)ではメチオニン(Met);(K)ではγ-グルタミルシステイン(γGluCys);及び(L)ではシスタチオニン。各点はマウス1頭を表し、バーは平均±SEMを示す。全てのパネルにおいて;ウィルコクソン符号順位検定で
*、p<0.05、
**、P≦0.01、
***、P≦0.001、
****、P≦0.0001。
【
図9-4】(実施例2に関連)。L-Ergは、含硫基移動経路の構成要素の腎細胞内濃度を増加させる。この図は、長期処置及び未処置マウスの腎臓における含硫基移動経路の代謝物の細胞内含量を示している。y軸はnmol/mgタンパク質を表す。(A)ではグルタチオン(GSH);(B)では酸化型グルタチオン(GssG);(C)ではGSH/GssG比;(D)ではシステイン(Cys);(E)ではシスチン(CssC);(F)ではCys/CssC比;(G)ではS-アデノシルメチオニン(SAM);(H)ではS-アデノシルホモシステイン(SAH);(I)ではSAM/SAH比;(J)ではメチオニン(Met);(K)ではγ-グルタミルシステイン(γGluCys);及び(L)ではシスタチオニン。各点はマウス1頭を表し、バーは平均±SEMを示す。全てのパネルにおいて;ウィルコクソン符号順位検定で
*、p<0.05、
**、P≦0.01、
***、P≦0.001、
****、P≦0.0001。
【
図9-5】(実施例2に関連)。L-Ergは、含硫基移動経路の構成要素の腎細胞内濃度を増加させる。この図は、長期処置及び未処置マウスの腎臓における含硫基移動経路の代謝物の細胞内含量を示している。y軸はnmol/mgタンパク質を表す。(A)ではグルタチオン(GSH);(B)では酸化型グルタチオン(GssG);(C)ではGSH/GssG比;(D)ではシステイン(Cys);(E)ではシスチン(CssC);(F)ではCys/CssC比;(G)ではS-アデノシルメチオニン(SAM);(H)ではS-アデノシルホモシステイン(SAH);(I)ではSAM/SAH比;(J)ではメチオニン(Met);(K)ではγ-グルタミルシステイン(γGluCys);及び(L)ではシスタチオニン。各点はマウス1頭を表し、バーは平均±SEMを示す。全てのパネルにおいて;ウィルコクソン符号順位検定で
*、p<0.05、
**、P≦0.01、
***、P≦0.001、
****、P≦0.0001。
【
図9-6】(実施例2に関連)。L-Ergは、含硫基移動経路の構成要素の腎細胞内濃度を増加させる。この図は、長期処置及び未処置マウスの腎臓における含硫基移動経路の代謝物の細胞内含量を示している。y軸はnmol/mgタンパク質を表す。(A)ではグルタチオン(GSH);(B)では酸化型グルタチオン(GssG);(C)ではGSH/GssG比;(D)ではシステイン(Cys);(E)ではシスチン(CssC);(F)ではCys/CssC比;(G)ではS-アデノシルメチオニン(SAM);(H)ではS-アデノシルホモシステイン(SAH);(I)ではSAM/SAH比;(J)ではメチオニン(Met);(K)ではγ-グルタミルシステイン(γGluCys);及び(L)ではシスタチオニン。各点はマウス1頭を表し、バーは平均±SEMを示す。全てのパネルにおいて;ウィルコクソン符号順位検定で
*、p<0.05、
**、P≦0.01、
***、P≦0.001、
****、P≦0.0001。
【
図10】(実施例3に関連)。C57BL6/J遺伝的背景におけるシスチン尿症の2つの異なるマウスモデル(Slc7a9
-/-又はSlc3a1
D140G)からのシスチン尿症マウスの尿ORP(mV)。1型シスチン尿症マウスモデル129S2/SvPasCrl(Slc3a1
E383K)からの予備データ。ウィルコクソン符号順位検定で
*、p<0.05、
**、P≦0.01。
【発明を実施するための形態】
【0033】
発明の詳細な説明
本出願において、本明細書に使用されるとき全ての用語は、特に断りない限り、当技術分野で既知のその通常の意味で理解されるものとする。本出願において使用されるとき特定の用語の他のより具体的な定義は、以下に明記され、そして他に明示的に定められた定義がより広い定義を提供しない限り、明細書及び特許請求の範囲の至るところで一様に適用されることが意図される。
【0034】
本明細書に使用されるとき、不定冠詞「a」及び「an」は、「少なくとも1つ」又は「1つ以上」と同義である。特に断りない限り、「the」などの本明細書に使用される定冠詞には、名詞の複数形も含まれる。
【0035】
本明細書に使用されるとき、「診断」は、対象における特定の病状の合併症又はリスクを認識すること;疾患又は症状の性質の特定;或いは、ある疾患又は症状を別のものと鑑別することとして理解される。それは、可能性ある疾患又は障害を特定又は同定しようとするプロセスと、このプロセスによって到達した意見との両方を指す。診断は、診断手順の意味において、処置及び予後判定に関する医学的決定を可能にする別個の明白なカテゴリーに個人の症状を分類する試みと見なすことができる。その後、診断の意見はしばしば疾患又は他の症状の観点から説明される。ただし、診断は様々な形態をとり得る。それは、疾患、病変、機能障害又は身体障害の存在を検出すること及びこれらに名前を付けることであるかもしれない。管理又は予後判定のためのカテゴリーに帰属させるための演習であるかもしれない。連続する異常の程度又は分類における異常の種類のいずれかを示すかもしれない。
【0036】
本明細書に使用されるとき「予後判定」は、疾患の予想される進行及び転帰の予測を指す。この場合、予後判定とは、特定の実施態様において、結石症を発症する患者と発症しない患者とを鑑別することを意味する。
【0037】
本発明において、本発明の方法において言及される「基準値」という用語は、試料又は試料群中の前記分子マーカーの量から誘導されるS-met-L-ergの規定値として理解されるべきである。試料は、疾患の存在、非存在、病期、組織学的亜型若しくは悪性度、又は疾患の経過が前もって適切に実施された対象又は対象群から採取される。この値は、分析すべき症状が存在する対象を、そのような症状が存在しない対象から区別するための閾値として使用される。この基準値はまた、対象が医学的レジメンを開始する必要があるかどうか、及びレジメンがどれほど有効であるかを判断するのにも役立つ。基準値が誘導される対象(単数又は複数)は、症状が存在しない対象、症状が存在する対象、又はその両方を含み得る。当業者は、一般的な知識を利用して、本発明の各方法の基準値を取得するのにより適切な対象又は対象群を選択することができる。選択された対象群から基準値を取得する方法は、最先端技術において周知である(Burtis C. A. et al. , 2008, Chapter 14, section“Statistical Treatment of Reference Values”)。特定の場合に、「基準値」は、従来のROC分析(受信者動作特性分析)によって定義されるカットオフ値である。当業者が理解するであろうとおり、最適なカットオフ値は、診断又は予後判定の方法の特定の適用によって定義されよう:目的、診断又は予後判定の標的母集団、特異性と感度とのバランスなど。「基準値」という用語は、本明細書に使用されるとき、絶対値;相対値;上限又は下限を有する値;値の範囲;平均値(average value);中央値、平均値(mean value)、又は特定の対照又はベースライン値と比較した値であってよい。
【0038】
バイオマーカー(本発明では、L-Erg又はS-met-L-ergのいずれか)のレベルは、それが少なくとも1.5%、少なくとも2%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%:少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%又はそれ以上、基準値より高い場合、その基準値よりも高いと見なされる。同様に、本発明に関連して、バイオマーカーのレベルは、試料中の前記バイオマーカーのレベルが基準値よりも低い場合に低下している。バイオマーカーのレベルは、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%:少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%又はそれ以上、基準値より低い場合、その基準値よりも低いと見なされる。
【0039】
本明細書に使用されるとき、「処置」は、患者の健康の完全又は部分的な軽減又は回復を包含することを意味する。「治療的介入」とは、特定の疾患に適した処置の管理を指す。特定の実施態様において、治療的介入は、エルゴチオネインの投与を含む。
【0040】
「シスチン可溶化剤」という用語は、尿路におけるシスチンの溶解度を増加させる能力を有する化合物を指す。特に、これらの化合物は、シスチンのジスルフィド結合を切断し、混合システインジスルフィド化合物を形成する、ペニシラミンなどのチオールベースの薬剤である。「追加のシスチン可溶化剤」は、エルゴチオネインを除く任意のシスチン可溶化剤を包含することを意味する。
【0041】
「医薬組成物」という表現は、ヒト及び非ヒト動物(即ち、動物用組成物)を対象とした組成物の両方を包含する。特に、エルゴチオネインはまた、シスチン結石症を発症することも知られているネコ及びイヌなどの家畜の処置にも役立つ。本発明の医薬組成物は、治療有効量のエルゴチオネインを含有する。本明細書に使用されるとき「治療有効量」という表現は、投与されると、対処される疾患又は障害の1つ以上の症候の発症を予防するか、又は症候をある程度軽減するのに十分な化合物の量を指す。本発明により投与される薬剤の特定の用量は、当然ながら投与経路、処置される特定の症状、及び同様の考慮事項を包含する、症例を取り巻く特定の状況によって特定されよう。
【0042】
「薬学的に許容し得る担体又は賦形剤」という表現は、薬学的に許容し得る材料、組成物、又はビヒクルを指す。各構成成分は、医薬組成物の他の成分と適合性があるという意味で薬学的に許容し得るものでなければならない。また、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、免疫原性、又は合理的な利益/リスク比に見合ったその他の問題若しくは合併症を伴わずに、ヒト及び非ヒト動物の組織又は臓器と接触して使用するのに適している必要がある。
【0043】
適切な薬学的に許容し得る賦形剤の例は、溶媒、分散媒、希釈剤、又は他の液体ビヒクル、分散助剤又は懸濁助剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤又は乳化剤、保存料、固体結合剤、潤滑剤などである。従来の賦形剤媒体が、例えば、望ましくない生物学的効果を生み出すことによって、或いは医薬組成物の他の成分と有害な方法で相互作用することによって、ある物質又はその誘導体と適合しない場合を除いて、その使用は、本発明の範囲内であると考えられる。
【0044】
本発明の医薬組成物中のエルゴチオネイン、薬学的に許容し得る賦形剤、及び/又は任意の追加の成分の相対量は、処置される対象の識別、サイズ、及び/又は症状に応じて、そして更には組成物が投与される経路に応じて変化するだろう。
【0045】
医薬組成物の製造に使用される薬学的に許容し得る賦形剤は、不活性希釈剤、分散剤及び/又は造粒剤、界面活性剤及び/又は乳化剤、崩壊剤、結合剤、保存料、緩衝剤、潤滑剤、及び/又は油を包含するが、これらに限定されない。製剤技術者の判断により、着色剤、コーティング剤、甘味料、及び香味剤などの賦形剤が組成物中に存在し得る。
【0046】
エルゴチオネインを含有する医薬組成物は、任意の剤形、例えば、固体又は液体で提示することができ、そして任意の適切な経路、例えば、経口、非経口、局所、鼻腔内又は舌下経路によって投与することができるが、そのために医薬組成物は、所望の剤形の製剤化に必要な薬学的に許容し得る賦形剤を包含するだろう。
【0047】
当業者には、最先端の賦形剤を使用し、通常の製薬技術を適用して、組成物が調製され得ることは明らかである。
【0048】
剤形は、エルゴチオネインを含有する、錠剤又はコーティング錠、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、例えば、硬又は軟ゼラチンカプセル剤、トローチ剤(パスティル剤)、大丸薬及びチュアブル製剤などの固体医薬組成物であり得る。
【0049】
或いは、医薬組成物は、ゲル剤、例えば、ヒドロゲル、クリーム剤、軟膏剤、ローション剤、油中水型又は水中油型乳剤、懸濁剤、エアゾール剤などの半固体又は液体剤形、並びに液剤、エリキシル剤、乾燥シロップを含むシロップ剤などの液体製剤であり得る。
【0050】
本発明のエルゴチオネイン含有医薬組成物は、錠剤などの経口投与固形製剤の、又は経口若しくは経鼻投与される液体製剤の剤形である場合、1日に1回又は数回で何回かに分けた1日量で患者に投与することができる。
【0051】
エルゴチオネイン含有組成物の調製において、充填剤、増粘剤、ゲル化剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、潤滑剤、コーティング剤、徐放剤、希釈剤の1種以上及び/又は1つ以上の賦形剤など、現在使用されている様々な添加剤を使用することができる。上記に加えて、本発明の薬剤は、必要に応じて、可溶化剤、緩衝剤、保存料、等張剤、乳化剤、懸濁剤、分散剤、硬化剤、吸収剤、接着剤、弾性剤、吸着剤、香水、着色剤、矯味薬、酸化防止剤、保湿剤、遮光剤、増白剤、粘度強化剤、油、打錠助剤、及び/又は帯電防止剤などの他の添加剤を含んでもよい。
【0052】
より具体的には、そのような添加剤の例は、乳糖、コーンスターチ、マンニトール、D-ソルビトール、結晶セルロース、エリトリトール及びショ糖などの1つ以上の賦形剤;ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース及びゼラチン化デンプンなどの結合剤;カルボキシメチルセルロースカルシウム、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム及び架橋ポリビニルピロリドン(クロスポビドン)などの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム及びタルクなどの潤滑剤;香水、例えば、アップルエッセンス、ハニーフレーバー、1-メントール、バニリン、レモンオイル、シナモンオイル、ハッカ油又はペパーミントオイルなどの香味料又は芳香油;及び/又は合成ケイ酸アルミニウム及び軽質無水ケイ酸などの吸着剤を包含する。更にはまた、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース又はポリビニルピロリドンなどの現在使用されているコーティング剤を使用することにより、コーティングされた医薬製剤を調製することも可能である。
【0053】
必要に応じて、とりわけトローチ剤、シロップ剤及びチュアブル製剤などでは、甘味料も同様に使用できる。そのような甘味料の具体例は、マンニトール、ブドウ糖、マルトース、水あめ、麦芽エキス、マルチトール、ソルビトール、ショ糖、未精製糖、果糖、乳糖、蜂蜜、キシリトール、甘茶、サッカリン、アスパルテーム、チクロ、Sunett(登録商標)、アスパルチルフェニルアラニンエステル及び他のマルトオリゴ糖、並びにマルトシルスクロース、還元型のイソマルツロース及びラフィノースなどのオリゴ糖、アセスルファムカリウム又は任意の種類の糖アルコール又はそれらの混合物(ソルビトール、マンニトール及び/又はキシリトールなど)である。
【0054】
可溶化剤として、医療分野で適切な任意の既知の可溶化剤、例えば、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(例えば、ポロキサマー188)、グリコフロール、アルギニン、リジン、ヒマシ油、プロピレングリコール、ソルケタール、ポリソルベート、グリセロール、ポリビニルピロリドン、レシチン、コレステロール、12-ヒドロキシステアリン酸-PEG660-エステル、モノステアリン酸プロピレングリコール、ポリオキシ-40-水素化ヒマシ油、ポリオキシル-10-オレイル-エーテル、ポリオキシル-20-セト-ステアリルエーテル及びステアリン酸ポリオキシル-40又はそれらの混合物を使用することができる。
【0055】
製薬分野での使用が既知の任意の保存料、例えば、エタノール、安息香酸及びそれらのナトリウム又はカリウム塩、ソルビン酸及びそのナトリウム又はカリウム塩、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエタノール、p-ヒドロキシ安息香酸メチル、エチル、プロピル又はブチル、フェノール、m-クレゾール、p-クロロ-m-クレゾール、PHBエステルの群から選択されるもの、例えば、PHB-メチルとPHB-プロピルエステルとの混合物、塩化ベンザルコニウムなどの第4級アンモニウム化合物、チオマーサル、硝酸塩、ホウ酸塩などのフェニル水銀塩を使用することができる。
【0056】
所望のpH値を達成するために使用される緩衝系は、例えば、グリシン、グリシンとHClとの混合物、グリシンと水酸化ナトリウム溶液との混合物、及びそのナトリウム及びカリウム塩、フタル酸水素カリウムと塩酸との混合物、フタル酸水素カリウムと水酸化ナトリウム溶液との混合物、又はグルタミン酸とグルタミン酸塩との混合物であり得る。
【0057】
適切なゲル化剤は、例えば、セルロース及びその誘導体、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリ(ビニル)アルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリラート、ポロキサマー、トラガカント、カラギーナン、デンプン及びその誘導体、又は製薬技術において使用される任意の他のゲル化剤である。
【0058】
言及され得る粘度強化剤は、例えば、少量の前述のゲル化剤、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、又はソルビトール及び他の糖アルコールなどのポリオールである。
【0059】
使用される乳化剤は、先行技術から既知の乳化剤は別にして、ヒマシ油のポリオキシエチレン誘導体又はポリオキシエチレンアルキルエーテルを包含してもよい。
【0060】
インジゴカルミンなどの、製薬分野において既知の適切な合成又は天然の着色剤を使用することができる。
【0061】
存在し得る適切な油性成分は、例えば、植物油(特に、例えば、綿実油、落花生油、ピーナッツ油、トウモロコシ油、菜種油、ゴマ油及び大豆油)、又は中鎖トリグリセリド、例えば、分画ココナッツ油、又はミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル或いは鉱油又はオレイン酸エチルなどの医薬品の調製のための先行技術から既知の油性物質のいずれかである。
【0062】
使用される酸化防止剤は、先行技術から既知の酸化防止剤のいずれか、例えば、α-トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)又はブチルヒドロキシアニソール(BHA)であり得る。
【0063】
これらの添加剤を含有する医薬組成物は、剤形に応じて、この分野で既知の任意の方法により調製することができる。当然のことながら、本発明により使用される製剤において、明確に論じられていない更なる添加剤を使用することができる。
【0064】
上に説明されるとおり、本発明者らは、S-met-L-ergが医学的疾患又は症状に関連していることを初めて発見した。よって、本発明は、診断及び/又は予後判定に使用するためのS-メチル-L-エルゴチオネインを提供する。
【0065】
S-メチル-L-エルゴチオネインは、エルゴチオネインの既知のメチル誘導体型である。
エルゴチオネインは、[1-カルボキシ-2-(2-スルファニリデン-1,3-ジヒドロイミダゾール-4-イル)エチル]-トリメチルアザニウムというlUPAC名、CAS番号497-30-3、及び式(I):
【0066】
【0067】
S-メチル-L-エルゴチオネインは、(2S)-3-(2-メチルスルファニル-1H-イミダゾール-5-イル)-2-(トリメチルアザニウミル)プロパノアートというIUPAC名、及び式(II):
【0068】
【0069】
特定の実施態様において、任意選択で上又は下に提供される実施態様のいずれかと組合せて、S-メチル-L-エルゴチオネインは、腎疾患の診断及び/又は予後判定において使用されるためのものである。更に特定の実施態様において、腎疾患は、腎結石症又はアミノ酸尿症である。別の特定の実施態様において、腎結石症はシスチン結石症である。更に特定の実施態様において、アミノ酸尿症はシスチン尿症である。
【0070】
上記のとおり、第2の態様において、本発明は、腎疾患の診断又は予後判定のための方法であって、対象の単離された試料中のS-メチル-L-エルゴチオネインの量を決定する工程を含む方法を提供する。
【0071】
上記の方法の特定の実施態様において、任意選択で上又は下に提供される実施態様のいずれかと組合せて、この方法は、対象のS-メチル-L-エルゴチオネインの量を基準値と比較する工程を更に含むが、ここで、対象において決定された量が、腎疾患に罹患している対象の基準値(複数又は単数)の範囲内にある場合、対象が腎疾患に罹患している疑いがあることを示しており;そしてその量が、健常者又は腎疾患に罹患していない対象、特に腎結石症又はアミノ酸尿症に罹患していない対象の値の範囲内にある場合、対象が前記腎疾患に罹患している疑いがないことを示している。
【0072】
上記の方法の特定の実施態様において、任意選択で上又は下に提供される実施態様のいずれかと組合せて、この方法は、対象のS-メチル-L-エルゴチオネインの量を基準値と比較する工程を更に含むが、ここで、対象において決定された量が、健常者又は腎疾患に罹患していない対象の基準値と異なる場合、対象が腎疾患に罹患している疑いがあることを示している。特定の実施態様において、対象において決定された量が、腎疾患に罹患していない対象、特に腎結石症又はアミノ酸尿症に罹患していない対象の基準値よりも低い場合、対象が腎疾患に罹患している疑いがあることを示している。別の更に特定の実施態様において、対象において決定された量が基準値よりも低い場合、予後不良を示している。
【0073】
以下の例に示されるとおり、発明者らは、尿試料中のS-メチル-L-エルゴチオネインとL-エルゴチオネインの量の比が、結石症マウスを非結石症マウスから識別するための更に優れた統計結果を提供することを発見した(
図5B)。実際、S-メチル-L-エルゴチオネイン/L-エルゴチオネイン比により、2つの異なる分析方法を使用して、100%の特異性及び感度でマウスを分類することができた。
【0074】
よって、上記の方法の特定の実施態様において、任意選択で上又は下に提供される実施態様のいずれかと組合せて、この方法は、対象の単離された試料中のエルゴチオネインの量を決定する工程を更に含む。更に特定の実施態様において、この方法は、対象の単離された試料中のエルゴチオネインの量を決定する工程、及びS-メチル-L-エルゴチオネインとL-エルゴチオネインの量の間の比を算出する工程を更に含む。
【0075】
上記の方法の特定の実施態様において、任意選択で上又は下に提供される実施態様のいずれかと組合せて、この方法は、対象の単離された試料中のL-エルゴチオネインの量を決定する工程、S-メチル-L-エルゴチオネインとL-エルゴチオネインの量の間の比を算出する工程、及びその比を基準値と比較する工程を更に含むが、ここで、対象において決定された比が、腎疾患に罹患している対象の基準値(複数又は単数)の範囲内にある場合、対象が前記腎疾患に罹患している疑いがあることを示しており;そして比が、健常者又は腎疾患に罹患していない対象、特に腎結石症又はアミノ酸尿症に罹患していない対象の値の範囲内にある場合、対象が前記腎疾患に罹患している疑いがないことを示している。
【0076】
上記の方法の特定の実施態様において、任意選択で上又は下に提供される実施態様のいずれかと組合せて、この方法は、対象の単離された試料中のL-エルゴチオネインの量を決定する工程、S-メチル-L-エルゴチオネインとL-エルゴチオネインの量の間の比を算出する工程、及びその比を基準値と比較する工程を更に含むが、ここで、対象において決定された比が、健常者又は腎疾患に罹患していない対象、特に腎結石症又はアミノ酸尿症に罹患していない対象の基準値と異なる場合、対象が腎疾患に罹患している疑いがあることを示している。更に特定の実施態様において、対象において決定された比が前記基準値よりも低い場合、対象が腎疾患に罹患している疑いがあることを示している。
【0077】
S-メチル-L-エルゴチオネイン及びL-エルゴチオネインのレベルは、診断の分野で日常的な手法により測定することができる。当業者は、最適な結果を得るためにこの手法のパラメーターを調整することができる。よって、上記の方法の特定の実施態様において、S-メチル-L-エルゴチオネイン及び/又はL-エルゴチオネインの量は、質量分析、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)、誘導体化、化学的検出、及びそれらの組合せによって測定される。
【0078】
前述のとおり、本発明の更なる態様は、上に定義された方法においてS-メチル-L-エルゴチオネインの量を決定するための手段の使用を提供する。
【0079】
特定の実施態様において、任意選択で上又は下に提供される実施態様のいずれかと組合せて、手段はキットの一部を形成する。
【0080】
本明細書に使用される「キット」という用語は、それらの輸送及び貯蔵を可能にするために包装された本発明の方法を実施するために必要な様々な試薬(又は試薬手段)を含有する製品を指す。キットの構成要素を包装するのに適した材料は、クリスタルガラス、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート)、瓶、バイアル、紙、又は封筒を包含する。
【0081】
本発明の特定の実施態様において、S-メチル-L-エルゴチオネインの量を決定するための手段は、同位体標識S-メチル-L-エルゴチオネイン及び/又はL-エルゴチオネイン、より具体的には重水素化S-メチル-L-エルゴチオネイン及び/又はL-エルゴチオネインを含み、そしてこの方法は、スパイクイン(spike-in)化合物又は混合物として標識S-メチル-L-エルゴチオネイン及び/又は標識L-エルゴチオネインを試料に添加することによって実施される。更に特定の実施態様において、手段は、同位体標識S-メチル-L-エルゴチオネインと同位体標識L-エルゴチオネインとの混合物を含む。
【0082】
同位体標識S-メチル-L-エルゴチオネイン及び/又はL-エルゴチオネインが使用される、この特定の実施態様において、この方法における陽性対照手段として使用される、非同位体標識S-メチル-L-エルゴチオネイン及び/又はL-エルゴチオネインを含む更なる手段が含まれる。
【0083】
したがって、本発明の方法を実施するための特定のキットは、同位体標識S-メチル-L-エルゴチオネイン及び/又はL-エルゴチオネインを含む組成物を有する第1のバイアル;並びにS-メチル-L-エルゴチオネイン及び/又はL-エルゴチオネインを含む組成物を有する第2のバイアルを含むか、又はそれらからなる。これらのキットにおいて、第1のバイアルは、品質管理(QC)試験用の検量線に単離された試料をスパイクするための手段を包含する。第2のバイアルは、検量線を作成するための手段を包含する。
更には、本発明のキットは、S-メチル-L-エルゴチオネイン及び/又はL-エルゴチオネインの量を決定するためのキットに含まれる様々な手段の同時、連続又は別々の使用のための取扱説明書を含有することができる。前記取扱説明書は、印刷物の形態、或いは、例えば、電子記憶媒体(例えば、磁気ディスク、テープ)、又は光学媒体(例えば、CD-ROM、DVD)、又はオーディオ素材などの、読み取られやすいか又は理解されやすい取扱説明書を記憶することができる電子的支援の形態であり得る。追加的に、又は代わりに、媒体は、前記取扱説明書を提供するインターネットアドレスを含有することができる。
【0084】
上記のとおり、更なる態様において、本発明は、対象の単離された試料における腎疾患の診断及び/又は予後判定のためのマーカーとしてのS-メチル-L-エルゴチオネインの使用を提供する。特定の実施態様において、S-メチル-L-エルゴチオネインは、対象の単離された試料における腎疾患の診断及び/又は予後判定のためのマーカーとして、L-エルゴチオネインと共に使用される。更に特定の実施態様において、S-メチル-L-エルゴチオネインとL-エルゴチオネインの量の間の比は、対象の単離された試料における腎疾患の診断及び/又は予後判定のためのマーカーとして使用される。
【0085】
上に定義された方法及び使用の特定の実施態様において、任意選択で上又は下に提供される実施態様のいずれかと組合せて、単離された試料は、血清、血漿、唾液、胸水、脳脊髄液(CSF)、血液、羊水、尿、糞便、粘液、細胞抽出物及び膿汁から選択される。更に特定の実施態様において、任意選択で上又は下に提供される実施態様のいずれかと組合せて、単離された試料は尿試料である。
【0086】
上に定義された方法及び使用の特定の実施態様において、任意選択で上又は下に提供される実施態様のいずれかと組合せて、対象はアミノ酸尿症に罹患している。更に特定の実施態様において、アミノ酸尿症はシスチン尿症である。以下の例に示されるとおり、本発明の方法は、シスチン尿症に罹患している対象におけるシスチン結石症の診断に特に有用である。
【0087】
種々の種の哺乳動物が、尿中にシスチンが異常に蓄積する症状の結果として、腎臓にシスチン結石を発生させることが知られている。本発明の方法は、それら全てに適用することができる。よって、上に定義された方法及び使用の別の特定の実施態様において、任意選択で上又は下に提供される実施態様のいずれかと組合せて、対象は哺乳動物である。更に特定の実施態様において、哺乳動物は家畜哺乳動物である。別の特定の実施態様において、任意選択で上又は下に提供される実施態様のいずれかと組合せて、哺乳動物はヒトである。
【0088】
上に開示された使用のためのS-メチル-L-エルゴチオネイン、上に定義された方法及び使用の特定の実施態様において、任意選択で上又は下に提供される実施態様のいずれかと組合せて、腎疾患は、腎結石症又はアミノ酸尿症である。更に特定の実施態様において、腎結石症はシスチン結石症である。別の特定の実施態様において、アミノ酸尿症はシスチン尿症である。
【0089】
よって、特定の実施態様において、任意選択で上又は下に提供される実施態様のいずれかと組合せて、この方法は、シスチン結石症の診断のためのものである。より具体的には、この方法は、シスチン尿症に罹患している対象のシスチン結石症の診断のためのものである。別の特定の実施態様において、この方法は、シスチン尿症の予後判定のためのものである。本発明の方法は、シスチン結石の存在を特定するために、またシスチン尿症に罹患している対象におけるシスチン結石の出現を予測するために有用であろう。
【0090】
上記のとおり、適切な処置を提供し、そして大きな腎結石によって引き起こされる合併症(即ち、閉塞、感染症、及び腎不全)を回避するために、できるだけ早く尿路結石症を診断することが特に重要である。本発明の方法は、そのようなタイムリーな診断を可能にする。
【0091】
本明細書に提供される全ての方法及び使用は、単離された試料において、S-メチル-L-エルゴチオネインの量、又はS-メチル-L-エルゴチオネイン及びL-エルゴチオネインの量を測定してS-メチル-L-エルゴチオネイン/L-エルゴチオネインの比を算出することによって実施することができる。
【0092】
よって、上記のとおり、更なる態様において、本発明は、診断及び/又は予後判定において使用するためのS-メチル-L-エルゴチオネイン/L-エルゴチオネインの比を提供する。上に提供される全ての実施態様はまた、この更なる態様に適用することが意図される。
【0093】
発明者らはまた、シスチン結石を形成しないシスチン尿症マウスモデルの尿の酸化還元電位又は酸化還元状態(ORP)が、結石を形成するマウスの尿ORPよりも低いことに気付いた。よって、このパラメーターはまた、ヒトを包含するシスチン尿症の動物におけるインビトロ鑑別診断又は予後判定のためにも提案されている。
【0094】
酸化還元電位(酸化/還元電位、ORPとも呼ばれる)は、化学種(即ち、分離された試料;尿)が電極から電子を獲得するか、又は電極に電子を渡して、それぞれ還元又は酸化される傾向の尺度である。酸化還元電位は、ボルト(V)又はミリボルト(mV)で測定される。それぞれの種には固有の酸化還元電位がある;例えば、還元電位が正であるほど(電気化学の一般的形式に起因して還元電位がより頻繁に使用される)、電子に対する化学種の親和性及び還元される傾向が大きくなる。
【0095】
上に開示された腎疾患、特に腎結石症又はアミノ酸尿症、より具体的には本明細書に提供されるシスチン結石症及びシスチン尿症の診断又は予後判定のための方法のいずれかの更に特定の実施態様において、この方法は更に以下:
(a)対象の単離された試料、特に尿試料において、酸化還元電位(ORP)を測定すること;
(b)(a)のORPを基準値と比較すること;及び
(c)(c1)ORPが結石非形成対象の基準値の範囲内にある場合、或いは(c2)ORPが基準値よりも低い場合、対象を結石非形成対象と診断すること(前記基準は、以前に結石形成対象として分類された対象から得られた)
を含む。
【0096】
「結石非形成対象」という用語は、対象が、尿中の環境条件に起因して、更には他のより複雑な原因(遺伝的背景、食餌など)に起因して、前記尿中に結石を発生させる傾向が低いか又はゼロであることを意味する。
【0097】
よって、S-メチル-L-エルゴチオネイン、又はS-メチル-L-エルゴチオネイン及びL-エルゴチオネインの量の測定に加えてORP測定を利用すると、結石を形成する傾向が高い対象の検出によって疾患の診断又は予後判定に関する追加の信頼できる情報が取得される。そしてこの情報は、適切な治療的介入開始の推奨又は決定に役立つ。
【0098】
本発明はまた、腎疾患の単独の診断又は予後マーカーとしての、より具体的には腎結石症又はアミノ酸尿症、更により具体的にはシスチン結石症又はシスチン尿症の診断又は予後マーカーとしてのORPの使用に関する。よって、本発明は、対象の単離された試料、特に尿中の酸化還元電位を測定することを含む、腎疾患の診断又は予後判定のためのインビトロ方法を包含する。この方法の更に特定の実施態様において、単離された試料の前記ORPを、次に基準値と比較することによって、上に開示されたとおり対象を結石非形成対象として、又は結石形成対象として分類する。
【0099】
本発明のインビトロ方法は、診断及び/又は予後の情報を提供する。1つの実施態様において、本発明の方法は、(i)診断及び/又は予後の情報を収集する工程、及び(ii)データ媒体に情報を保存する工程を更に含む。
【0100】
本発明の意味において、「データ媒体」は、腎結石症及びアミノ酸尿症の鑑別診断及び/又は予後判定のための意味のある情報データを含有する、紙などの任意の手段として理解されるべきである。媒体はまた、予後判定データを運ぶことができる任意の物又は装置であり得る。例えば、媒体は、ROM(例えば、CD ROM又は半導体ROM)、又は磁気記録媒体(例えば、フロッピーディスク又はハードディスク)などの記憶媒体を含み得る。更に、媒体は、電気若しくは光ケーブルを介して、又は無線若しくは他の手段によって伝達され得る、電気又は光信号などの伝達可能な媒体であり得る。診断/予後データが、ケーブル又は他の装置若しくは手段によって直接伝達され得る信号に具体化される場合、媒体は、そのようなケーブル又は他の装置若しくは手段によって構成され得る。他の媒体は、USB装置及びコンピュータアーカイブに関連している。適切なデータ媒体の例には、紙、CD、USB、PCのコンピュータアーカイブ、又は同じ情報を使用した音声登録がある。
【0101】
本発明はまた、腎結石症又はアミノ酸尿症、特にシスチン尿症の患者を処置するための方法であって:
(a)対象の単離された試料中のS-メチル-L-エルゴチオネインの量、及び任意選択でL-エルゴチオネインの量を測定し、S-メチル-L-エルゴチオネインとL-エルゴチオネインの量の比を算出する工程;
(b)(a)で測定された量又は比を基準値と比較する工程;及び
(c1)(a)で測定されたレベルが、腎結石症又はアミノ酸尿症に罹患していない対象の基準値よりも低い場合、或いは(c2)(a)で測定されたレベルが、腎結石症又はアミノ酸尿症に罹患している対象の基準値の範囲内にある場合、薬学的に有効量のシスチン可溶化剤をそれを必要としている対象に投与する工程
を含む方法を提供する。
【0102】
本発明はまた、腎結石症又はアミノ酸尿症の患者を処置するための方法であって:
(a)対象の単離された試料中のS-メチル-L-エルゴチオネインの量、及び任意選択でL-エルゴチオネインの量を測定し、S-メチル-L-エルゴチオネインとL-エルゴチオネインの量の比を算出する工程;
(b)(a)で測定された量又は比を基準値と比較する工程;及び
(c1)(a)で測定されたレベルが、腎結石症又はアミノ酸尿症に罹患していない対象の基準値よりも低い場合、或いは(c2)(a)で測定されたレベルが、腎結石症又はアミノ酸尿症に罹患している対象の基準値の範囲内にある場合、薬学的に有効量のエルゴチオネインをそれを必要としている対象に投与する工程
を含む方法を提供する。
【0103】
前述のとおり、本発明者らはまた、アミノ酸尿症及び関連する腎結石症の有効かつ安全な処置法を開発した。
【0104】
上に開示されたとおり使用するためのエルゴチオネインの特定の実施態様において、任意選択で上又は下に提供される実施態様のいずれかと組合せて、腎結石症はシスチン結石症である。
【0105】
上に開示されたとおり使用するためのエルゴチオネインの別の特定の実施態様において、任意選択で上又は下に提供される実施態様のいずれかと組合せて、アミノ酸尿症はシスチン尿症である。
【0106】
上に開示されたとおり使用するためのエルゴチオネインの特定の実施態様において、任意選択で上又は下に提供される実施態様のいずれかと組合せて、エルゴチオネインは、1つ以上の薬学的に許容し得る賦形剤及び/又は担体と共に医薬組成物の形態で投与される。更に特定の実施態様において、医薬組成物は経口医薬組成物である。
【0107】
特定の実施態様において、任意選択で上又は下に提供される実施態様のいずれかと組合せて、エルゴチオネインは、1日あたり0.01~500mg/kg体重の用量で投与される。更に特定の実施態様において、エルゴチオネインは、1日あたり0.05~300mg/kg体重の用量で投与される。更に特定の実施態様において、エルゴチオネインは、1日あたり0.1~200mg/kg体重の用量で投与される。
【0108】
前述のとおり、本発明はまた、腎結石症又はアミノ酸尿症の処置及び/又は予防における、追加のシスチン可溶化剤、L-シスチンジメチルエステル、L-シスチンメチルエステル、L-シスチンジアミド、リポ酸、及び/又はそれらの組合せからなる群より選択される化合物との併用療法に使用するためのエルゴチオネインを提供する。
【0109】
上に定義された使用のためのエルゴチオネインの実施態様はまた、併用療法に使用するためのエルゴチオネインにも適用されることを意味する。
【0110】
上に定義された併用療法に使用するためのエルゴチオネインの特定の実施態様において、任意選択で上又は下に提供される実施態様のいずれかと組合せて、追加のシスチン可溶化剤は、ペニシラミン、チオプロニン、カプトプリル、及びブシラミンを含む群から選択される。更に特定の実施態様において、シスチン可溶化剤は、ペニシラミン及びチオプロニンから選択される。
【0111】
上に定義されたとおり併用療法に使用するためのエルゴチオネインの特定の実施態様において、エルゴチオネインは、追加のシスチン可溶化剤、L-シスチンジメチルエステル、L-シスチンメチルエステル、L-シスチンジアミド、リポ酸、及びそれらの組合せからなる群より選択される化合物と同時に、連続して又は別々に投与される。
【0112】
上に定義されたとおり使用するためのエルゴチオネインの特定の実施態様において、任意選択で上又は下に提供される実施態様のいずれかと組合せて、エルゴチオネインはL-エルゴチオネインである。
【0113】
よって、特定の実施態様において、任意選択で上又は下に提供される実施態様のいずれかと組合せて、本発明は、腎結石症又はアミノ酸尿症の処置及び/又は予防に使用するためのL-エルゴチオネインを提供する。より具体的には、L-エルゴチオネインは、シスチン結石症又はシスチン尿症の処置及び/又は予防に使用するためのものである。
【0114】
説明及び請求の範囲全体の至るところで、「含む」という単語及びその変形は、他の技術的特徴、添加剤、構成要素、又は工程を除外することを意図するものではない。
更に、「含む」という単語は、「からなる」の場合を包含する。本発明の追加の目的、利点及び特徴は、説明を検討することで当業者に明らかになるか、又は本発明の実施によって学ぶことができる。以下の実施例及び図面は、例示として提供されており、本発明を限定することを意図するものではない。図面に関連し、請求の範囲の括弧内に配置された参照記号は、請求の範囲の明瞭性を高めることのみを目的としており、請求の範囲を制限するものと解釈されるべきではない。更には、本発明は、本明細書に記載の特定の好ましい実施態様の全ての可能な組合せに及ぶ。
実施例
【実施例1】
【0115】
シスチン尿症マウスモデルにおけるシスチン結石症の尿マーカー
【0116】
方法
マウスの飼育
全ての動物プロトコールは、IDIBELL(AAALAC認証施設、B9900010)の動物実験倫理委員会、及びEU指令2010/63/EUによる対応するカタルーニャ州政府(Department of Generalitat de Catalunya)によって承認された。実験は、最高の科学的、人道的、及び倫理的原則に基づいて実施された。全ての動物は純粋な遺伝的背景C57BL/6Jであり、湿度と温度が制御された部屋で12時間の明暗サイクルで維持された。動物は、食餌(Teklad Global 14% Protein Diet、Harlan Laboratories)と水を自由に摂取できる無菌ケージに収容された。
【0117】
B型シスチン尿症マウスモデル(Slc7a9-/-)におけるSlc22a4のノックアウト
Slc7a9-/-(シスチン尿症のマウスモデル)及びSlc22a4-/-(Feliubadalo et al“Slc7a9-deficient mice develop cystinuria non-l and cystine urolithiasis” Hum Mol Genet 2003; vol 12; pp. 2097-2108; Kato Y. et al.,“Gene knockout and metabolome analysis of carnitine/organic cation transporter OCTN1”, Pharm. Res., 2010; vol 27, pp. 832-40)の単一機能喪失マウスモデルを交配して、二重ヘテロ接合体マウスを入手し、これらを戻し交配して、二重KO Slc7a9-/- Slc22a4-/-(dKO)を含む、3種の予想される遺伝子型を取得した。
【0118】
遺伝子型決定分析のために、ゲノムDNAを尾組織から単離した。Slc22a4-/-遺伝子型は、3’-プライマー戦略(F:5'-gggtgtggtccagaggact-3'、配列番号1;R wt特異的:5'-tagttgccagccatctgttg-3'、配列番号2;R KO特異的:5'-gactgacataccattgaagc-3'、配列番号3)に基づいて、PCR(60℃アニーリング温度で30サイクル)によって確認され、wt及びKO対立遺伝子からそれぞれ255bp及び313bpの断片を生成することにより遺伝子型を識別できた。Slc7a9-/-の場合、遺伝子型は3’-プライマー戦略(F:5'-gcattcgccacaggctcttc-3'、配列番号4;R-wt:5'-ctgtgttggccagcacagac-3'、配列番号5;R KO特異的:5'-cgcagcgcatcgccttctat-3'、配列番号6)に基づいて、PCR(60℃アニーリング温度で30サイクル)によって確認され、wt及びKO対立遺伝子からそれぞれ452bp及び311bpの断片を生成することにより遺伝子型を識別できた。
【0119】
試料採取
各遺伝子型のマウスを個別に代謝ケージに4日間収容し、最初の日を適応期間とした。マウスの体重、水分及び食餌の摂取量、並びに排泄された糞便及び尿が毎日モニターされた。24時間尿試料を収集し、保存料としてイソプロパノール中の10%チモール50pLを用いて更に分析するまで-80℃で保存した。EDTAでコーティングされた注射器を用いた心臓内穿刺によって採血して、Microvette EDTA-チューブ(Sarstedt)に血液を移し、室温で10分間インキュベートした後、ミニフュージで3000rpmで10分間及び4℃で遠心分離した。次に血漿を新しいチューブに分離し、氷上に置いた。次に、414nmでの血漿吸光度を測定することによって、NanoDrop分光光度計で溶血を定量して、OD<0.2の溶血のみに更なる分析が考慮された。血漿試料は-80℃で保存され、そして遠心分離された赤血球(RBC)も収集されて-80℃で保存された。
【0120】
血漿、血液及び赤血球におけるL-Erg及びS-Met-L-Ergの測定
血漿及び赤血球中のL-Ergは、Sotgia S. et al. “Plasma L-ergothioneine measurement by high-performance liquid chromatography and capillary electrophoresis after a pre-column derivatization with 5-iodoacetamidofluorescein (5-IAF) and fluorescence detection”. Antopolsky M, ed. PLoS One 2013; vol. 8: e70374により記載されるとおり、一方、血漿クレアチニンは(Zinellu A. et al.,“Assay for the simultaneous determination of guanidinoacetic acid, creatinine and creatine in plasma and urine by capillary electrophoresis UV-detection”, J. Sep. Sci., 2006)により記載されるとおり測定された。
【0121】
血漿エルゴチオネイン測定には、試料100μLにアセトニトリル100μLを加え、激しいボルテックス混合後、17000×gで10分間室温で遠心分離した。透明な上清150μLに、pH13の5-ヨードアセトアミドフルオレセイン(770μmol/L)及び三塩基性リン酸ナトリウム十二水和物(150mmol/L)からなる溶液50μLを加えた。激しいボルテックス混合後、反応混合物を室温で30分間遮光領域に放置した。最後に、試料を50倍希釈し、レーザー誘起蛍光検出器に連結されたキャピラリー電気泳動により分析した。
【0122】
赤血球のエルゴチオネイン測定には、水100μL容量を赤血球100μLに加え、激しいボルテックス混合により完全に混合し;次に、アセトニトリル400μLを加え、5分間完全にボルテックス混合した。17000×gで10分間室温で遠心分離後、透明な上清2μLを、262nmに設定されたフォトダイオードアレイ検出器に連結された超高性能液体クロマトグラフィーにより分析した。血漿クレアチニン測定には、試料をマイクロコン-10装置で3000×gで5分間濾過し、次に190nmに設定されたフォトダイオードアレイ検出器に連結されたキャピラリー電気泳動により直接分析した。
【0123】
尿中の化合物濃度の分析
解凍した尿試料中のクレアチニン濃度は、10kDa MWCOスピンフィルター(Amicon Ultra 0.5mL、Millipore)で濾過した後に、製造業者の指示どおりにクレアチニンアッセイキット(Sigma)で測定した。
【0124】
尿中のL-Erg及びS-met-L-Erg分析には、解凍した尿試料を1000×gで5分間及び4℃で遠心分離して破片を除去した。次に、上清を、重水素化L-Erg及びS-met-L-erg(それぞれ最終濃度50ng/mL)を添加されたMilli-Q水で1/10に希釈した。次に試料をeXtremeFVPVDF 0.2μmフィルターバイアル(Thomson Instrument Company)で濾過し、L-Erg及びS-metをUPLC-MS/MSにより定量した。LC-MS/MSは、Thermo LTQ-XL ESIタンデム質量分析計に連結されたDionex LPG-3400SD LCシステムを使用して実行された。試料はオートサンプラーで15℃に保たれた。希釈試料及び標準液20μlを、35℃に維持されたZORBAX Eclipse Plus C18(3.5μm、75×4.6mm;Agilent)に注入した。溶媒Aは超純水中の0.05%ギ酸であり、溶媒Bは0.05%ギ酸中のアセトニトリルであった。クロマトグラフィーは、均一濃度条件下(99% A:1% B)で3分間、0.9ml/分の流量で実施された。
【0125】
質量分析は、特異的標的イオンの定量のための多重反応モニタリング(MRM)を使用して、陽イオン、エレクトロスプレーイオン化モード下で実行された。電源電圧は3.0kVに設定され、キャピラリー温度は375℃に保たれた。窒素シースガス流量は90(au)、補助ガス流量は10(au)、スイープガス流量は6(au)であった。衝突ガスとしてAlphagaz 2ヘリウム(Air Liquide)を使用した。各化合物の前駆体から生成物イオンへの遷移は次のとおりであった:エルゴチオネイン:230.0→186.0;d3-エルゴチオネイン:233.0→189.0;S-メチル-エルゴチオネイン:244.0→200.0;d3-S-メチル-エルゴチオネイン:247.0→203.0。全ての場合において、分離幅(m/z)及びCID衝突エネルギーは、それぞれ2.0及び20%であった。
【0126】
結果
血中及び尿中のL-Erg濃度の性差及び月齢差
本発明者らは、最初に、wt及びSlc7a9
-/-オスのマウスの血中及び尿中のL-Erg含量を分析して、差次的発現によって説明できる差を探した。血液、血漿又は赤血球(RBC)中のL-Erg濃度は、wt及びシスチン尿症のオスのマウスの間に有意な差を示さず、血漿及び血液中の濃度はSlc7a9
-/-オスのマウスで高く、RBC中では低くなっていた(データは示されていない)。RBC中のL-Erg濃度は血漿中よりも2桁高かったため、血漿中のL-Ergの測定における溶血の推定効果を説明するために、L-Ergの血漿濃度に対する溶血の寄与を分析し、両方の変数間に相関関係がない(データは示されていない)ことを見い出した。L-Ergの尿中濃度もSlc7a9
-/-オスのマウスで有意でない増加を示したが(
図1)、予期しないことに、S-met-L-Erg(L-Ergの代謝物)の濃度はSlc7a9
-/-オスのマウスで有意な低下を示した(
図1)。これらの結果は、尿中のS-met-L-Ergがシスチン結石症のバイオマーカーとして使用できることを示している。
【0127】
次に、ヒトで報告されたように月齢に関連する差を探して、本発明者らは、上記の状況が別の月齢で維持されるかどうかを調査した。wt及びシスチン尿症のオスのマウスの間で3か月齢での血液、血漿又はRBC中のL-Erg濃度に差は検出されなかったが、6か月齢対3か月齢を比較すると、RBC中のL-Erg濃度の有意な2倍の増加が全てのマウスで検出された(データは示されていない)。同様に、尿中のL-Erg濃度も、6か月齢で有意に高く、月齢に関連するS-Met-L-Ergの尿中濃度に差は検出されなかった(
図2)。
【0128】
次に、性に関連する差をチェックするために、本発明者らは、上記のとおり、血中及び尿中のL-Erg及び尿中のS-Met-L-Ergの濃度を調査した。3か月齢では、RBC中のL-Erg濃度が33%減少した(p=0.093)ことを除いて、血液、血漿、RBC中のL-Erg濃度に性に関連する差は見られなかった(データは示されていない)。しかし、S-Met-L-Ergの尿中濃度は、wt及びSlc7a9-/-メスのマウスの両方で、ほぼ2分の1に有意に減少した。更には、この代謝物の濃度の有意な減少及びL-Ergの有意な増加が、メスのwtマウスに対してメスのSlc7a9-/-マウスで検出された(データは示されていない)。
【0129】
対照的に、6か月齢での性に関連する有意な変化は、メスのシスチン尿症マウスのL-Ergの血中、血漿中及びRBC中濃度で検出された。血中及びRBC中では、血漿中のほぼ2分の1の減少及び30%の減少が観察された。同様の状況がメスのマウスの尿でも観察され、S-Met-L-Ergの濃度は、ほぼ2分の1に減少し、L-Ergの濃度は約30%減少した(
図3)。更には、L-ErgのRBC濃度は、メスのシスチン尿症マウスで30%低く、メスのシスチン尿症マウスのS-Met-L-Ergの尿中濃度は、メスのwtマウスよりも有意に30%低かった。
【0130】
シスチン結石の存在に関連する尿中のL-Erg濃度の差
シスチン尿症の特徴の1つは、シスチン尿症の患者及びマウスにシスチン結石が存在することである。したがって、本発明者らは、3か月齢及び6か月齢の結石形成及び結石非形成のシスチン尿症マウスにおけるL-Erg及びS-Met-L-Ergの尿中濃度を分析した(
図4)。L-Ergの尿中濃度は、早期結石形成(ESF)メスのマウスで有意に低かった(
図4A)が、一方S-Met-L-Ergは3か月齢のESFメス(
図4A)及び両方の月齢のESFオスで高かった(
図4A~B、3か月齢オスでP=0.062)。両性の間の差は、両方の月齢のL-ErgとS-Met-L-Ergの両方で確認でき、3か月齢のL-Erg濃度を除いて、一般にメスで濃度が低くなっている(
図4A~B)。本発明者らは、S-Met-L-Ergの尿中濃度を使用して、受信者動作特性(ROC)曲線を用いてマウスの結石症表現型を識別できるかどうかを調査し、0.65を上回る曲線下面積を得たが、これは、S-met-L-Ergが結石症のバイオマーカーとして使用できることを示している。
【0131】
S-Met-L-Ergは、L-Erg代謝の副産物であるため、本発明者らは、S-Met-L-ErgとL-Ergとの間の比が結石症表現型に関連する差を示すかどうかを調査した。
図5Aに示されるとおり、結石形成(stone former)(SF)マウスにおける比は、一般に、結石非形成(non-stone former)(NSF)マウスよりも有意に2~3倍低くなっている。この結果が非常に明確であったため、本発明者らは、S-Met-L-ErgとL-Ergの尿中濃度の比を使用して、受信者動作特性(ROC)曲線を用いてマウスの結石表現型を識別できるかどうかを調査した。
図5Bに示されるとおり、0.8を上回る曲線下面積は、この比をシスチン尿症マウスの結石症バイオマーカーとして使用する可能性を示唆している。発明者らは、月齢又は性別によるこの比の性能に差があるかどうか危ぶんだが、全ての場合において非常に類似しているか、又はわずかに優れていた。
【0132】
本発明者らはまた、シスチン結石のサイズ(乾燥重量として測定される)と比との間に相関関係があるかどうかを調査して、両方の変数間に軽い相関関係(r=0.28、p=0.084)を観察した。
【0133】
L-ErgはOCTN1(Slc22a4)によって輸送されることが示され、Slc22a4-/-マウスは腎臓にL-Ergを欠いているため、発明者らはSlc22a4-/-マウスをSlc7a9-/-マウスと交配して、二重KO(Slc7a9-/-Slc22a4-/-)を作成して、結石症表現型を示すマウスの割合に差があるかどうかを観察した。
【0134】
Slc7a9-/-マウスと同様に、メスの結石症マウスの割合は、全てのSlc22a4遺伝子型でオスよりも有意に高かった。結石症マウスの割合は、Slc22a4-/-のKOマウスで8%高く、これは、OCTN1がマウスのシスチン結石症の遺伝的調節因子であることを示唆している。この遺伝子はヒトにも存在するため(NCBI Gene ID 6583、又はUniProt KBデータベースID Q9H015、2007年5月1日の配列の3版)、同じ機序がこの種に適用される可能性がある。特筆すべき結果は、結石症のオスの割合がSlc22a4遺伝子型に関連する差を示さない、40週齢のSlc7a9-/- Slc22a4+/-(Slc22a4のヘテロ接合体)を除いて、結石症のメスの割合がオスよりも高かったことである。
【0135】
この結果をもっとよく理解するために、本発明者らは、3か月齢のシスチン尿症背景(Slc7a9-/-)でOCTN1を欠くマウス(Slc22a4)の尿中のL-Erg及びS-Met-L-Ergの量を分析した。L-Ergは、Slc7a9-/-及びwtマウスで同様のレベルのマウス尿中で検出可能であったが、S-Met-L-Ergの量はSlc7a9-/-マウスで有意に50%低かった(P=0.0022)。Slc7a9-/-背景でSlc22a4をノックアウトすると、尿中のL-Erg(Slc22a4+/-ではP=0.0382、及びSlc22a4-/-ではP=0.0138)及びS-Met-L-Erg濃度の有意な減少が起こり、S-Met-L-Ergの濃度は、使用した方法の定量限界を下回っている。
【0136】
予想どおり、Slc22a4-/-マウスは、Slc22a4+/-マウスよりも低濃度のL-Ergを示した。このデータは、別のトランスポーターが食餌からのL-Ergの吸収に関与している可能性があるが、尿中に代謝産物(S-Met-L-Erg)が検出できなかったため、細胞へのL-Erg輸送にはOCTN1が必要であることを示唆している。
【実施例2】
【0137】
シスチン尿症マウスモデルにおけるシスチン結石症の処置
【0138】
方法
マウスの飼育は実施例1に示されているとおりとした。
L-Erg処置
3つの異なる処置がマウスに適用された:1か月、3か月~結石症マウス(中期)及び6か月(長期曝露)。全ての場合において、L-Ergは飲料水中で投与された。
【0139】
1か月の処置には、L-Ergを、3か月齢のオス及びメスのマウス8頭に、15又は60mg/Lで標準ケージで4週間提供したが、マウス8頭(オス4頭及びメス4頭)には水と食餌を自由に摂取させた。
【0140】
結石症マウスに対するL-Ergの効果を評価するために、マウス15頭(オス8頭及びメス7頭)を飲料水に加えた60mg/L L-Ergで処置し、マウス13頭(オス4頭及びメス9頭)を対照として未処置のままにした。マウスは、処置期間の開始時に10.9~26.9週齢であり、対照及びL-Erg処置の平均週齢はそれぞれ15.3±1.4及び16.9±1.01週齢であった。3か月処置中の水分摂取量及びマウスの体重を週1回モニターした。
【0141】
長期曝露(6か月処置)には、離乳から6か月間1ケージあたりマウス4~6頭を処置した。L-Erg用量を調節するために、水分摂取量及びマウスの体重をモニターし、最初の1か月間は3日毎、その後は週1回、飲料水中のL-Erg濃度を調整して、16mg/kgの1日用量を確保した。処置の最後の週に、全てのマウスを個別に代謝ケージに入れて尿を収集し、水分摂取量及びマウスの体重を毎日モニターした。
【0142】
X線インビボイメージングによるシスチン結石の検出
イソフルラン麻酔マウスは、対応する図の凡例に既知の重量のシスチン結石の検量線で示される月齢で、IVIS Lumina XR Series III (Caliper Lifescience - Vertex Techniques)で製造業者のイメージングパラメーターにより、結石症の検出及び経過観察のためにX線イメージングに付した。結石の定量は、機器に付属のLiving Image Softwareを使用して、結石の面積を手動で範囲を定めることによって行われ、そして推定重量は検量線から補間された。
【0143】
成長速度分析には、2点を超えるデータが利用可能な場合、線形回帰モデルを使用した。モデルの回帰直線の傾きを成長速度として使用した。
【0144】
試料採取
任意の処置期間の最終週に、マウスを個別に代謝ケージに4日間収容し、最初の日を適応期間とした。マウスの体重、水分及び食餌の摂取量、並びに排泄された尿が毎日モニターされた。24時間尿試料を収集し、保存料としてイソプロパノール中の10%チモール50pLを用いて更に分析するまで-80℃で保存した。pHは、pHメーター(カタログ番号5209、Crison)を使用して測定され、酸化還元電位は、室温でmicropH 2000(Crison)でORP電極(カタログ番号5265、Crison)を使用して測定された。
【0145】
最終日に、マウスをイソフルランで麻酔し、心臓内穿刺により血液を除去し、腎臓を採取し、秤量して、更に使用するまで-80℃で保存した。シスチン結石が存在する場合は、それを取り出し、乾燥させ、秤量してRTで保存した。
【0146】
尿中の化合物濃度の分析
解凍した尿試料中のクレアチニン濃度は、10kDa MWCOスピンフィルター(Amicon Ultra 0.5mL、Millipore)で濾過後、製造業者の指示どおりにクレアチニンアッセイキット(Sigma)で測定された。
【0147】
尿中のL-Erg及びS-Met-L-Erg分析は、実施例1のとおり測定された。含硫基移動経路の代謝物濃度の測定には、凍結した腎臓を、予冷した乳鉢及び乳棒をドライアイス上で使用して粉砕した。次に、粉末腎臓100mgを10mM NEMを添加した400pL PBS中でホモジナイズした。タンパク質沈殿を誘導するために、4% PCAを添加し、試料をマイクロフュージで、4℃で15分間、10,000rpmで遠心分離した。上清を新しいチューブに移し、更に分析するまで-80℃で保存した。含硫基移動経路の代謝物の細胞内含量は、UPLC-MS/MS(Escobar J, et ai. Development of a reliable method based on ultra-performance liquid chromatography coupled to tandem mass spectrometry to measure thiol-associated oxidative stress in whole blood samples. J. Pharm. Biomed. Anal. 2016; 123: 104-112)により測定された。タンパク質ペレットを1M NaOH 400μlに再懸濁し、上清を使用してBCAタンパク質アッセイキット(ThermoScientific)により総タンパク質濃度を測定した。
【0148】
L-Erg-Cvsのインビトロ結合アッセイ
L-Ergのそれ自体との及びCysとの反応性を、0.2M Na2HP04中pH=7.2及びホウ酸緩衝液(ref. 33650-1L、Fluka)中pH=11の2つの条件でRTで17時間インビトロでアッセイした。L-Erg-L-Erg及びL-Erg-Cys二量体、並びにシスチンの存在は、LC/MS-MSによって測定された。
【0149】
統計分析
ノンパラメトリック分析(ウィルコクソン・マン・ホイットニー検定)を使用して、Rstudioを用いて有意性を評価した。p<0.05の場合、統計的有意性は肯定的と見なされる。
【0150】
結果
最初に、飲料水中の2種の異なる濃度(15及び60mg/L)での1か月のL-Erg処置が、水分摂取量、並びに尿pH及びORP、及びL-Erg濃度に及ぼす効果を調査することにより、マウスを処置するための最適な実用的用量を特定した。以下の観察が行われた:
i)特にメス(性別データは示されていない)において、表面積によって正規化された水分摂取量(
図6A)の試験されたL-Erg濃度での処置の終了時に統計的に有意でない増加(それぞれp=0.11及びp=0.08);ii)特にオス(データは示されていない)において、60mg/LでのpH(
図6B)の統計的に有意な増加、及び15mg/LでのpHの統計的に有意でない増加(p=0.052);iii)尿の酸化還元状態又は酸化還元電位(ORP)(
図6C)の統計的に有意でない減少;並びにiv)尿中のL-Erg及びS-Met-L-Erg濃度の統計的に有意な増加(それぞれ
図6D及び6E)。興味深いことに、L-Erg及びS-Met-L-Ergの尿中濃度の差は、両方の試験条件間で見い出された。15mg/Lでは、L-Erg及びS-Met-L-Ergの濃度は、それぞれ3倍(3.4±0.4)及び6倍(5.9±0.6)増加した。60mg/Lでは、L-Erg及びS-Met-L-Ergの増加は、それぞれ175倍(174.6±38.4)及び15倍(14.7±1.9)であった。これらの差は、60mg/Lでは、L-Ergの内部貯留及び代謝が飽和に近い可能性があることを示唆している。尿中の利用可能なL-Ergの量を最大化するために、13.6±1.6mg/kg・日の平均±SEM算出用量に対応する、飲料水中のL-Erg 60mg/Lの濃度を、更なるアッセイのために採用した(データは示されていない)。
【0151】
L-Erg処置はシスチン結石の成長を変えない(3か月)
最初に、処置マウス及び未処置マウスの両方で3か月間、X線でシスチン結石の成長を毎月モニターすることにより、結石症マウスのシスチン結石の進行に及ぼすL-Erg処置(飲料水に60mg/L)の効果を確認した。試験条件でのシスチン結石の成長に及ぼす処置の効果(p=0.61)は観察されなかった(
図7)。シスチン尿症のマウスは複数又は単一の結石を持つ可能性があるため、それぞれのタイプに効果があるかどうかも分析された。単一又は複数の結石のいずれについても統計的に有意な効果は観察されなかった(それぞれp=0.78及びp=0.41;データは示されていない)。様々な代謝パラメーターに及ぼす処置の効果を調べるために、尿のpH及び酸化還元状態、並びに表面積で補正された水分摂取量に及ぼす効果も分析して、処置前後のL-Erg処置動物で差は観察されなかった(データは示されていない)。実験中の推定平均±SEM L-Erg用量は(17.24±0.69mg/kg・日)であった。
【0152】
L-Erg処置は、シスチン結石の発症を予防又は遅延させる(Erg処置6か月)
次に、離乳から6か月間シスチン尿症マウスを処置することにより、L-Ergがシスチン結石形成に何らかの効果を及ぼすかどうかを試験した。成体マウスでの以前の実験を考慮して、16mg/kg・日の標的用量を設定した。成長中のマウスでそれを達成するために、実験全体を通してマウスの成長及び水分摂取量をモニターし、Tordoffらの結果に基づいて体表面積によって補正された水分摂取量を考慮して飲料水中のL-Erg濃度を調整した(Tordoff MG, Bachmanov AA, Reed DR. Forty mouse strain survey of water and sodium intake. Physiol. Behav. 2007; 91 : 620-31を参照のこと)。6か月間の推定平均±SD用量は16.25±6.29であった(データは示されていない)。結石症の発症に及ぼす効果を分析するために、処置マウス及び未処置マウスを、6か月の処置期間中、毎月X線イメージングにより経過観察した。結石症マウスの数の50%の減少、マウスの性別とは無関係に結石症の発症の遅延(
図8A)(データは示されていない)、及びL-Erg処置群における結石成長のほぼ統計的に有意な減少(
図8B)が観察された。
【0153】
長期処置の効果を分析するために、尿のpH及び酸化還元電位を測定し、尿のpHに差がなく(
図8C)、L-Erg処置マウスで統計的に有意に減少した尿ORPを観察した(
図8D)。この長期処置は、水分摂取量にもマウス体重にも影響を与えなかった(データは示されていない)。
【0154】
L-Ergは、含硫基移動経路の構成要素の腎細胞内濃度を増加させる
L-Ergの抗酸化能力は、尿の酸化還元電位の低下を説明するかもしれないが、それ自体では、結石症の減少と、実行された2つの異なる処置間の結石成長速度で観察された差を説明しない。シスチン結石症に対するL-Ergの作用機序に関する洞察を得るために、LC/MS-MSにより2つの条件pH=7.2及びpH=11でのインビトロでの二量体L-Erg-Cysの形成を最初に分析した(データは示されていない)。L-Erg-CysもL-Erg-L-Erg二量体も検出されなかったが、これは、L-Ergの作用機序が、L-Cysの一部を抑制することによるL-Cys濃度の低下を意味するものではないことを示唆している。
【0155】
非結石症マウスと比較して結石症マウスでは明らかにS-Met-L-Erg(L-Erg代謝物)とL-Ergの尿中濃度の間の比が低いこと(実施例1のデータを参照のこと)は、シスチン結石症における細胞内機序の関与を示している。この意味で、L-Ergは、Nrf2をアップレギュレートすることによってグルタチオン(GSH)合成を活性化することが報告されており(Kerley RN, et al. The potential therapeutic effects of ergothioneine in pre-eclampsia. Free Radio. Biol. Med. 2018; 117: 145-157)、そしてシスチン尿症マウスとwtマウスの間の差次的タンパク質発現を特定するためのプロテオミクス手法では、Anpep(Anpe)、Gpx1(Gpx1)及びGsttl(Gsttl)などのGSH合成、並びにCdo1(Cdo1)などのシスチン代謝に関与する幾つかの酵素は、シスチン尿症マウスの腎刷子縁でダウンレギュレートされることが示されている。これに基づいて、長期処置マウス及び未処置マウスの腎臓における含硫基移動経路のこれらの代謝物の細胞内含量が分析された。データを
図9に示す(A~L)が、GSH(1.4×)、Cys(1.6×)、γ-グルタミルシステイン(1.7×)及びMet(1.7×)の細胞内濃度は、約1.5倍と有意に増加し、そしてシスチン(11.1×)及びS-アデノシルホモシステイン(SAH)(1.2×)の細胞内濃度は、L-Erg処置マウスで有意に減少した。興味深いことに、GSH/GSSG、Cys/CssC、及びSAM/SAH比は、L-Erg処置マウスで増加した(それぞれ2.1、6.1及び1.8倍)。GSSGは酸化型グルタチオンであり;CssCはシスチンであり;SAMはS-アデノシルメチオニンである。
【0156】
考察
選択されたドラッグデリバリーシステムは、用量を制御するのにあまり適切ではないと見なすことができる。それが大きな変動を促すのは事実であるが、L-Ergの血中及び血漿中濃度は6週間有意に高いままであり、投与後1週間の尿中濃度は5mg/kg・日相当に終わるため、マウスが摂取したL-Ergの用量の低下が、処置動物で観察された結石症の原因である可能性があると主張するのは難しい。
【0157】
Slc7a9-/-マウスでの予備段階の結果は、腎臓における含硫基移動経路の代謝物の有意に異なる濃度を示している。濃度が低下したものには、GSH(4.5×)、GssG(17.9×)、SAM(2.4×)、Met(23.8×)及びシスタチオニン(10.3×)があった。濃度が上昇したものには、Cys(6.7×)、シスチン(CssC、3.8×)、SAH(9×)及びγ-グルタミルシステイン(2.1×)があった。GSH/GssG及びCys/CssCの両方の比は、シスチン尿症のオスのマウスで約6倍に増加したが、一方SAM/SAHの比は21倍減少した。このデータは、シスチン尿症における腎臓のメチル化能力の低下、及び含硫基移動経路での活性の低下がシスチン尿症に存在することを示唆している。腎臓のCys含量の予想外の上昇は、Banjac et al.,“The cystine/cysteine cycle: a redox cycle regulating susceptibility versus resistance to cell death”; 2008; Oncogene; vol. 27(11); pp. 1618-28に示唆されるとおり、酸化的損傷を調節する際の制限を克服する試みにおける、GSH含量の低下を補うための機序を示唆している可能性がある。L-Ergの長期処置は、血管内皮ヒト細胞におけるグルタチオンレダクターゼ、カタラーゼ及びスーパーオキシドジスムターゼの発現を増加させ、UVA照射ヒトケラチノサイトにおいてNrf2/ARE介在性の抗酸化遺伝子を誘導することが示されている。この内容において、GssG、CssC及びSAHを除いて、L-Erg処置マウスにおける含硫基移動経路の一般的な誘導が観察された。腎臓での還元能力のこの増加は、尿中の酸化還元電位の低下にどの程度関連しているかは、未だ不明であり、更なる実験の対象となる。
【0158】
予期しないことに、試験された両方の処置の間で、シスチン結石の進行におけるL-Erg処置の効果の差が観察された:結石の発症後又は予防(結石の発症前)。対照マウスのシスチン結石の成長速度は両方の実験間で異なるため(それぞれ約2mg/日及び約3mg/日)、統計的アーティファクトを完全に除外することはできない、というのも予防実験中に経過観察できたシスチン結石の量が少なかったか、又は同胞間の変動による差が特定の重量を持つ可能性があったからである。
【実施例3】
【0159】
シスチン尿症動物の予後マーカーとしての尿の酸化還元状態又は電位(ORP)
発明者らは、シスチン結石を形成しないシスチン尿症マウスの尿ORPが、結石を形成するマウスの尿ORPよりも低いことに気付いた。よって、このパラメーター(実施例2に示されるように測定される)はまた、ヒトを含むシスチン尿症の動物におけるインビトロの鑑別的予後判定についても提案される。
【0160】
方法
マウスの飼育は実施例1と同じとした。
マウスを個別に代謝ケージに4日間収容し、最初の日を適応期間とした。マウスの体重、水分及び食餌の摂取量、並びに排泄された尿が毎日モニターされた。24時間尿試料を収集し、保存料として10mM アジ化ナトリウムを使用して更に分析するまで-80℃で保存した。酸化還元電位は、室温でmicropH 2000(Crison)でORP電極(Crison)を使用して新鮮尿で測定された。
【0161】
結果
ORPは結石形成マウスでより高い
尿ORPは、C57BL6/Jの遺伝的背景におけるシスチン尿症の2つの異なるマウスモデル(Slc7a9
-/-(Feliubadalo et al.、上記)又はSlc3a1
D140G)のシスチン尿症マウスで有意に高かった。Slc3a1
D140Gモデルは、Peter et al.,“A mouse model for cystinuria type I”, Hum Mol Genet.- 2003 vol. 1 ; 12(17), pp. : 2109-20により開示されている。I型シスチン尿症マウスモデル 129S2/SvPasCrl(Slc3a1
E383K)からの予備データは、アッセイ時にモデルによって生成される散発性のシスチン結石の量が非常に限られている割には、同様の結果を示した。これらのデータは全て
図10に示され、尿ORPがシスチン結石症の診断又は予後判定に役立つ可能性があることを明確に示している。両方の性別を考慮すると、傾向は全ての群で保持されているが、C57BL6/JにおけるSlc7a9
-/-のオス及びSlc3a1
D140Gのメスのみが尿ORPの有意な減少を示した(性別データは示されていない)。
【0162】
興味深いことに、129S2/SvPasCrlマウスモデルの結石非形成群の尿ORPは、Slc3a1D140Gマウスモデルの尿ORPよりも有意に低い(p=1.9e-09)(両方のモデルで同じ遺伝子が影響を受けるにもかかわらず)が、このことは、尿ORPに関与する遺伝的要因の存在を示唆している。
【0163】
【配列表】