(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】大気における海底鉱石の重金属溶出防止方法
(51)【国際特許分類】
C22B 1/00 20060101AFI20240123BHJP
C22B 13/00 20060101ALI20240123BHJP
C22B 19/02 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
C22B1/00 101
C22B13/00
C22B19/02
(21)【出願番号】P 2019055381
(22)【出願日】2019-03-22
【審査請求日】2021-12-22
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度から平成30年度 内閣府総合科学技術・イノベーション会議により創設された「戦略的イノベーション創造プログラム(次世代海洋資源調査技術)」事業、国立研究開発法人国立環境研究所における「海洋生態系観測と変動予測手法の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501273886
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立環境研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【氏名又は名称】服部 映美
(72)【発明者】
【氏名】淵田 茂司
(72)【発明者】
【氏名】越川 海
(72)【発明者】
【氏名】河地 正伸
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】山口 大志
【審判官】佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106050238(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B1/00
E21C50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密封された処理容器に格納された、海底熱水鉱石、前記海底熱水鉱石を含む海底堆積物、前記海底熱水鉱石または前記海底堆積物を採掘して得られる粗鉱、及び前記粗鉱を選鉱して得られる精鉱からなる群から選ばれる少なくとも一以上の海底鉱石を、全圧-90kPa以下の真空状態で4ヶ月以上減圧する減圧工程を有し、
前記海底鉱石は硫化鉱物を含有し、かつ、該硫化鉱物はFe、Zn及びPbからなる群から選択されるいずれか一以上の硫化鉱物含有重金属を含有し、
前記減圧工程後の前記海底鉱石を
人工海水に混ぜ、240時間攪拌して得られる溶液の溶媒部分の前記硫化鉱物含有重金属の合計溶出量が60.0ppm以下であ
り、
前記人工海水は、H
2
Oを溶媒とし、塩の含有量が0.05%超の水溶液である
ことを特徴とする大気における海底鉱石の重金属溶出防止方法。
【請求項2】
前記溶媒部分のZnの含有量が12.5ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の大気における海底鉱石の重金属溶出防止方法。
【請求項3】
前記溶媒部分のPbの含有量が0.30ppm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の大気における海底鉱石の重金属溶出防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気における海底鉱石の重金属溶出防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題が重視される背景から環境汚染を防止するための対策が様々講じられている。資源の一つである鉱石に関しても重金属の溶出による深刻な環境汚染が多く発生し問題になっている。そのため、鉱石に関連した重金属の溶出防止方法の開発が進められている。
【0003】
これまでには例えば、鉱石に関連した重金属の溶出防止方法に関して、特許文献1及び2が提案されている。特許文献1に記載された酸性廃液の処理方法では、金属イオンを含有する酸性廃液を陽イオン吸収剤と接触させて、前記陽イオン吸収剤に前記金属イオンを吸着させる工程Aと、前記陽イオン吸着材に吸着した前記金属イオンを前記陽イオン吸着材から離脱させて、前記金属イオンを含む離脱液を得る工程Bと、陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜を有する電気透析装置に前記脱離液に導入し、前記脱離液中の前記金属イオンの濃度よりも前記金属イオンの濃度が高められた濃縮水を得る工程Cと、前記濃縮水を中和凝集沈殿処理する工程Dを有する。
【0004】
特許文献2に記載された有害物質の不溶化方法では、水酸化ドロマイドと、リン酸化合物と、アロフェンを含む原料とを含有する有害物質不溶化剤を土壌中または焼却灰に投入し、混合攪拌することにより、該土壌または焼却灰に含まれる有害物質を不溶化する。
【0005】
近年、新たな金属資源開発対象として海底熱水鉱床が注目を集め、その探査や採掘技術の開発が進められている。現在想定されている海底熱水鉱床の採掘工程では、海底熱水鉱床から採掘された海底鉱石と海水とから成る鉱石スラリーをフレキシブルパイプの中を通して船上へと揚鉱する。揚鉱された鉱石スラリーは、セパレータ等の脱水装置で脱水した後、陸へ移送するために船上で保管される。その後、海底鉱石は船で陸地まで輸送され、海底鉱石に含有する有価物を精製するための選鉱工程や精鉱工程が陸上で行われる。
【0006】
ところで、海底鉱石に多く含まれる硫化鉱物は、海底では化学的に安定である。そのため、深海底中で硫化鉱物が酸化分解し、有害な重金属イオンや酸が水環境へ溶け出す危険性は少ない。
【0007】
ここで、「重金属」とは、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、As、Se、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Yl、Pb、Bi及びPoを指す。これらの重金属のうち、海底鉱石中の硫化鉱物に含まれることの多い重金属(硫化鉱物含有重金属)は、Fe、Zn及びPbである。
【0008】
一方、船上で保管される海底鉱石は大気に長時間曝されることになり、海底鉱石の表面は徐々に酸化される。その結果、酸化された海底鉱石が雨水と接触すると有害な重金属イオンと酸とを含む廃液が発生する。有害な重金属イオンと酸とを含む廃液が海洋へ漏洩した場合、水界生態系へ深刻な悪影響を与える。また、酸化された海底鉱石自体が海洋へ漏洩した場合も重金属イオンと酸とが海洋へ溶出し、水界生態系へ深刻な悪影響を与え問題になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-159229号公報
【文献】特開2014-97477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載された方法は、鉱石から溶出した酸性廃液を処理する方法であって鉱石からの重金属を防止するための方法ではない。
【0011】
また、特許文献2に記載された方法を大気で保管された海底鉱石に適用した場合、水酸化ドロマイド、リン酸化合物及びアロフェンなどを含有する処理剤と海底鉱石に含まれる硫化鉱物とを混ぜることで、硫化鉱物よりも化学的に安定な金属の化合物が生成される。その結果、海底鉱石に含まれる有価物である金属を精製する選鉱工程及び製錬工程を困難にし、海底鉱石から純度の高い有価物を取り出すという目的を達成することが困難であるという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、大気における海底鉱石の重金属溶出防止方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供している。
密封された処理容器に格納された海底熱水鉱石、前記海底熱水鉱石を含む海底堆積物、前記海底熱水鉱石または前記海底堆積物を採掘して得られる粗鉱と前記粗鉱を選鉱して得られる精鉱からなる群から選ばれる少なくとも一以上の海底鉱石を、全圧-90kPa以下の真空状態に減圧する減圧工程を有し、
前記海底鉱石は硫化鉱物を含有し、かつ、該硫化鉱物はFe、Zn及びPbからなる群から選択されるいずれか一以上の硫化鉱物含有重金属を含有し、
前記減圧工程後の前記海底鉱石を海水に混ぜ、240時間攪拌して得られる溶液の溶媒部分の前記硫化鉱物含有重金属の合計溶出量が60.0ppm以下である
ことを特徴とする大気における海底鉱石の重金属溶出防止方法。
【0014】
上記構成によれば、大気において本発明を適用した海底鉱石と海水とが接触したときに重金属の溶出を抑制することができる。また、海底鉱石と他のものとを混合しないため、その後、海底鉱石に含まれる有価物を精製するための選鉱工程及び製錬工程に影響を及ぼさない。
【0015】
上記大気における海底鉱石の重金属溶出防止方法では、前記溶媒部分のZnの含有量が12.5ppm以下であってもよい。
【0016】
上記大気における海底鉱石の重金属溶出防止方法では、前記溶媒部分のPbの含有量が0.30ppm以下であってもよい。
【0017】
上記大気における海底鉱石の重金属溶出防止方法では、前記海水は、H2Oを溶媒とし、塩の含有量が0.05%超の水溶液であってもよい。
【0018】
上記大気における海底鉱石の重金属溶出防止方法では、全圧-90kPa以下の前記真空状態を1ヶ月以上有してもよい。
【0019】
上記大気における海底鉱石の重金属溶出防止方法では、全圧-90kPa以下の前記真空状態を4ヶ月以上有してもよい。
【0020】
上記構成によれば、大気において海底鉱石と海水とが接触した時に重金属の溶出量を減らすことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、大気における海底鉱石からの重金属の溶出を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係る大気における海底鉱石の重金属溶出防止方法について詳細に説明する。説明において例示される材料、方法及び条件等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0023】
本発明の実施形態に係る大気における海底鉱石の重金属溶出防止方法は、
密封された処理容器に格納された海底熱水鉱石、前記海底熱水鉱石を含む海底堆積物、前記海底熱水鉱石または前記海底堆積物を採掘して得られる粗鉱と前記粗鉱を選鉱して得られる精鉱からなる群から選ばれる少なくとも一以上の海底鉱石を、全圧-90kPa以下の真空状態に減圧する減圧工程を有し、
前記海底鉱石は硫化鉱物を含有し、かつ、該硫化鉱物はFe、Zn及びPbからなる群から選択されるいずれか一以上の硫化鉱物含有重金属を含有し、
前記減圧工程後の前記海底鉱石を海水に混ぜ、240時間攪拌して得られる溶液の溶媒部分の前記硫化鉱物含有重金属の合計溶出量が60.0ppm以下である
ことを特徴とする大気における海底鉱石の重金属溶出防止方法。
すなわち、大気における海底鉱石の重金属溶出防止効果が得られる対象は海底鉱石であり、
海底鉱石の処理方法は、密封された処理容器に海底鉱石を格納し、処理容器内の圧力を全圧-90kPa以下の真空状態に減圧する減圧工程を有する。
【0024】
なお、本発明において大気とは重金属の硫化鉱物が重金属の硫酸塩鉱物に酸化される環境である。大気は特に限定されないが、例えば、O2量が100ppm以上の環境が挙げられる。
【0025】
(海底鉱石)
本実施形態に係る大気における海底鉱石の重金属溶出防止方法において用いられる海底鉱石とは、海底熱水鉱石、海底熱水鉱石を含む海底堆積物、海底熱水鉱石または海底堆積物を採掘して得られる粗鉱と粗鉱を選鉱して得られる精鉱からなる群から選ばれる少なくとも一以上の鉱石である。ここで、鉱石とは、鉱物や岩石のうち、産業的に有益な量の金属又は非金属がまとまって産出するものである。
【0026】
<海底熱水鉱石>
海底熱水鉱石は地下深部に浸透した海水がマグマ等により熱せられ、地下深部の周辺岩石や堆積物から有用元素を抽出した熱水が海底から噴出し、周辺の海水によって冷却される過程で、銅、鉛、亜鉛、金及び銀等の金属が沈殿してできた硫化鉱物が多く存在する海底熱水鉱床から採掘できる鉱石である。海底熱水鉱床は、中央海嶺など海底が拡大する場所や孤島・海溝系に多く分布している。海底熱水鉱石に含まれる重金属の組成は海底熱水鉱石が産出する海底熱水鉱床の場所によって異なる。
【0027】
上述したように、本実施形態において、「重金属」とは、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、As、Se、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Yl、Pb、Bi及びPoを指す。これらの重金属のうち、海底鉱石中の硫化鉱物に含まれることの多い重金属(硫化鉱物含有重金属)は、Fe、Zn及びPbである。
本実施形態に係る海底熱水鉱石は硫化鉱物を含んでおり、かつ、該硫化鉱物は上述の硫化鉱物含有重金属を含んでいる。
【0028】
海底熱水鉱石は海底で形成された後、風化作用や運搬作用を受けることがある。本実施形態に係る海底熱水鉱石は、重金属の硫化鉱物を含む限り、形成された後に受けた風化作用や運搬作用によって制限されない。風化作用には、物理的風化作用と化学的風化作用の二種類が存在する。化学的風化作用の一種に酸化がある。
【0029】
本実施形態に係る海底熱水鉱石は酸化されていない状態であることが好ましい。海底熱水鉱石が酸化されていると、海底熱水鉱石に含まれる重金属の硫化鉱物が重金属の硫酸塩鉱物へと酸化される。重金属の硫化鉱物は水への溶解度が著しく低い一方、重金属の硫酸塩鉱物は水への溶解度が高い。このため、海底熱水鉱石を含む海底堆積物が海水と接触した際に海水への重金属の溶出量が大きくなり好ましくない。
【0030】
<海底熱水鉱石を含む海底堆積物>
海底熱水鉱石を含む海底堆積物は風化作用や運搬作用を受けた海底熱水鉱石が単独で又は他の海底堆積物と共に堆積作用により再堆積することで海底に形成される。
本実施形態に係る海底熱水鉱石を含む海底堆積物は、重金属の硫化鉱物を含む限り、形成された後に受けた堆積作用及び他の海底堆積物の混入によって制限されない。他の海底堆積物として、特に限定されないが、レアアース泥、コバルトクラストや河川由来堆積物等が挙げられる。
【0031】
本実施形態に係る海底熱水鉱石を含む海底堆積物は酸化されていない状態であることが好ましい。海底熱水鉱石を含む海底堆積物が酸化されていると、海底熱水鉱石を含む海底堆積物に含まれる重金属の硫化鉱物が重金属の硫酸塩鉱物へと酸化される。重金属の硫化鉱物は水への溶解度が低い一方、重金属の硫酸塩鉱物は水への溶解度が高い。このため、海底熱水鉱石を含む海底堆積物が海水と接触した際に海水への重金属の溶出量が大きくなり好ましくない。
【0032】
<粗鉱>
本実施形態に係る海底熱水鉱石や海底熱水鉱石を含む海底堆積物を採掘して得られる粗鉱は、重金属の硫化鉱物を含む限り、採掘工程の種類によって制限されない。本実施形態に係る粗鉱は採掘工程時に酸化されていない状態であることが好ましい。粗鉱が採掘工程時に酸化されていると、粗鉱に含まれる重金属の硫化鉱物が重金属の硫酸塩鉱物へと酸化される。重金属の硫化鉱物は水への溶解度が低い一方、重金属の硫酸塩鉱物は水への溶解度が高い。このため、粗鉱が海水と接触した時に海水への重金属の溶出量が大きくなり好ましくない。
【0033】
採掘工程は特に限定されないが、例えば、チェーンカッターを備えたスラスター移動式掘削機で海底鉱石を粉砕し、粉砕された海底鉱石と海水とをフレキシブルパイプで揚鉱する。その後、掘削船に揚鉱された海底鉱石と海水をセパレータで脱水処理を行い、運搬船で保管する工程が挙げられる。
【0034】
<精鉱>
本実施形態に係る精鉱は、粗鉱から物理的な手法で不要な脈鉱を取り除く選鉱を行うことで得られる。本実施形態に係る精鉱は、重金属の硫化鉱物を含む限り、選鉱工程の種類によって制限されない。本実施形態に係る精鉱は選鉱工程時に酸化されていない状態であることが好ましい。精鉱は選鉱工程時に酸化されていると、精鉱に含まれる重金属の硫化鉱物が重金属の硫酸塩鉱物へと酸化される。重金属の硫化鉱物は水への溶解度が低い一方、重金属の硫酸塩鉱物は水への溶解度が高い。このため、精鉱が海水と接触した時に海水への重金属の溶出量が大きくなり好ましくない。
【0035】
選鉱工程は特に限定されないが、例えば、重液を用いて比重の重い鉱物と軽い鉱物とを分離する方法や電磁石を用いて磁性のある鉱物と磁性のない鉱物とを分離する方法などが挙げられる。
【0036】
<海底鉱石の前処理>
本実施形態に係る大気における海底鉱石の重金属溶出防止方法では、海底から海上へ揚鉱した上述の海底鉱石に対して減圧工程を施す。ここで、海底から海上へ揚鉱した後、かつ、減圧工程前に海底鉱石に対して施される処理は特に限定されないが、例えば、海底鉱石に対して脱水処理を行うことが好ましい。海底鉱石の脱水処理を行わないと減圧中に海底鉱石と共に揚鉱された海水が水から水蒸気へと気化する。これにより、減圧開始から処理容器内の圧力が-90kPa以下に達するまでの時間が長くなる。その結果、真空ポンプの稼働で使用する電力のコストが上昇し好ましくない。脱水工程の具体的な方法は特に限定されないが、例えば、遠心力を利用したセパレータを用いる方法が挙げられる。なお-90kPaとは大気圧を0Paとしたときのゲージ圧を表すものである。
【0037】
また、海底鉱石の揚鉱と減圧工程との時間間隔についても特に限定されないが、30分以内であることが好ましい。30分超であると、減圧工程後に海底鉱石と海水とが接触した時に海水への重金属の溶出量が大きくなり好ましくない。
【0038】
(減圧工程)
本実施形態に係る大気における海底鉱石の重金属溶出防止方法は、密封された処理容器に格納された海底鉱石を、全圧-90kPa以下の真空状態に減圧する減圧工程を有する。
【0039】
<減圧工程>
減圧工程では、密封された処理容器に海底鉱石を格納し、処理容器内の圧力を全圧-90kPa以下の真空状態に減圧する。
減圧工程において、処理容器内の圧力が-90kPa以下の状態を1ヶ月以上有することが好ましく、4ヶ月以上有することがより好ましい。処理容器内の圧力が-90kPa以下の状態が1ヶ月未満の場合、減圧工程後に海底鉱石と海水とが接触したときに、海水への重金属の溶出量が大きくなり好ましくない。
【0040】
減圧工程において処理容器に使用される材料は、海底鉱石と化学反応をしない材料であることが好ましい。処理容器に使用される材料と海底鉱石とが反応すると、処理容器の強度が低下する。これにより、処理容器の耐久年数が減少することで、処理工程のコストが上昇し好ましくない。また、海底鉱石が処理容器に使用される材料によって酸化される場合、減圧工程後に海底鉱石と海水とが接触したときに海水への重金属の溶出量が大きくなり好ましくない。処理容器に使用される材料は特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼等が挙げられる。
【0041】
減圧工程において減圧装置を使用してもよい。減圧装置は、特に限定されないが、扉が取り付けられた開口を有する処理容器と、処理容器に接続された排気口と、排気口に連結された排気バルブと、排気バルブに接続された真空ポンプとを有してもよい。
【0042】
上記の減圧装置を使用する場合、本実施形態に係る大気における海底鉱石の重金属溶出防止方法において、減圧工程は以下のように構成してもよい。まず、海底鉱石を開口より処理容器へ投入する。海底鉱石の投入後、扉は閉状態、排気バルブは開状態に設定する。真空ポンプにより処理容器内の気体が排気口を通して排気され、処理容器内の圧力が低下する。処理容器内の圧力が-90kPa以下の状態のときに排気バルブを閉状態に設定し、処理容器内を密封状態にする。
【0043】
上記の減圧装置において、排気バルブと真空ポンプとが切り離し可能な構造であってもよい。前記の構造を有する減圧装置において、海底鉱石が投入された処理容器A内の圧力が-90kPa以下の状態の時に排気バルブAを閉状態に設定した後、処理容器A及び排気バルブAと真空ポンプとを切り離し、海底鉱石が投入された処理容器Bに接続された排気バルブBと真空ポンプとを接続して減圧を行うことができる。これにより、処理容器A内の圧力が-90kPa以下の状態に保持する工程と並行して、処理容器Bの減圧処理を行うことができ、単位時間あたりに一台の真空ポンプが減圧処理できる海底鉱石の量が増加する。
【0044】
(重金属の溶出量)
本実施形態に係る大気における海底鉱石の重金属溶出防止方法は減圧工程により減圧処理された海底鉱石の重金属溶出量がFe、Zn及びPbの合計溶出量が60.0ppm以下であることを特徴とする。Fe、Zn及びPbの合計溶出量が60.0ppm超であると水生生物の死亡率の上昇や哺乳類への毒性を示す等の生物への悪影響を及ぼすため好ましくない。
【0045】
本実施形態に係る大気における海底鉱石の重金属溶出防止方法において、減圧工程により減圧処理された海底鉱石のZn溶出量は12.5ppm以下であることが好ましい。Zn溶出量が12.5ppm超であると、水生生物の死亡率の上昇等の生物への悪影響を及ぼすため好ましくない。
【0046】
本実施形態に係る大気における海底鉱石の重金属溶出防止方法において、減圧工程により減圧処理された海底鉱石のPb溶出量は0.30ppm以下であることが好ましい。Pb溶出量が0.30ppm超であると、水生生物の死亡率の上昇や哺乳類への毒性を示す等の生物への悪影響を及ぼすため好ましくない。
【0047】
(溶出試験方法)
上記の重金属溶出量の測定は以下の溶出試験方法を使用してもよい。まず、海底鉱石を平均粒直径10~20μmまで細粒化し、海底鉱石3gと人工海水200mLを洗浄されたアクリル製容器の中で混ぜる。混ぜた海底鉱石と人工海水と容器とを水槽内で一定温度に保ちつつ、回転子で攪拌する。海底鉱石と人工海水を240時間反応させた後、混ぜた海底鉱石と人工海水をメッシュが0.45μmのフィルターでろ過する。重金属の組成比はろ過で得られるろ液を測定することで得られる。
【0048】
前記海水は、H2Oを溶媒とし、塩の含有量が0.05%超の水溶液であってもよい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明について試験例を挙げて具体的に説明する、但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
海底鉱石に対して減圧工程を行った後、重金属溶出試験を行った。
(海底鉱石)
比較例1~2及び実施例1~4で使用された海底鉱石は、沖縄トラフ伊是名海穴で採取された海底熱水鉱石である。比較例1及び実施例1~2は海底鉱石の組成を変えた点で比較例2及び実施例3~4と異なる。海底鉱石が含有する重金属の組成は表1に示す。
【0051】
【0052】
(減圧工程)
比較例1~2及び実施例1~4において、減圧工程の前に海底鉱石の表層部分を削り取った。その後、残った海底鉱石のコア部分を乳鉢で平均粒直径10~20μm以下に細粒化した。
【0053】
実施例1において、細粒化した海底鉱石を以下の減圧工程で処理した。細粒化した海底鉱石を処理容器へ入れ、扉は閉状態、排気バルブは開状態に設定した。真空ポンプにより処理容器内の圧力を大気圧から-90kPa以下まで減圧した。処理容器内の圧力が-90kPa以下に到達後、排気バルブを閉状態に設定し、処理容器内を密封状態にした。
【0054】
実施例1において、上記の-90kPa以下の密封状態を1ヶ月間とした。
【0055】
比較例1~2及び実施例2~4は減圧工程の有無や-90kPa以下の密封状態の期間を変えた点で実施例1と異なる。減圧工程の有無や-90kPa以下の密封状態の期間は表2に示す。
【0056】
【0057】
(重金属溶出試験)
比較例1~2及び実施例1~4において、海底鉱石を細粒化した後、以下の重金属溶出試験を行った。
海底鉱石と人工海水とを洗浄された容器の中で混ぜ合わせた。混ぜ合わせた海底鉱石と人工海水と容器とを20℃に保ちつつ、回転子で攪拌した。混ぜた海底鉱石と人工海水と容器とを240時間反応させた後、混ぜた海底鉱石と人工海水をメッシュが0.45μmのフィルターでろ過した。ろ液に溶出した重金属の組成比は誘導結合プラズマ質量分析計(ICP―MS)で測定した。重金属の組成比の測定結果は表2に示す。
【0058】
表2に示すように、実施例1~2のZn及びPbの溶出量は比較例2のZn及びPbの溶出量よりも小さくなった。また、実施例3~4のFe、Zn及びPbの溶出量の合計値は比較例1のFe、Zn及びPbの溶出量の合計値よりも小さくなった。また、実施例1~2を比較すると、減圧工程が長いほどZn及びPbの溶出量が小さくなることが分かった。また、実施例2~3を比較すると減圧工程が長いほどFe、Zn及びPbの溶出量の合計値が小さくなることが分かった。このことから、本発明に係る大気における海底鉱石の重金属溶出方法により確実に重金属の溶出を防止できた。
【0059】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。