IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ APC株式会社の特許一覧

特許7424601積層体、樹脂フィルム、及び積層体の製造方法
<>
  • 特許-積層体、樹脂フィルム、及び積層体の製造方法 図1
  • 特許-積層体、樹脂フィルム、及び積層体の製造方法 図2
  • 特許-積層体、樹脂フィルム、及び積層体の製造方法 図3
  • 特許-積層体、樹脂フィルム、及び積層体の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】積層体、樹脂フィルム、及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20240123BHJP
   B32B 7/04 20190101ALI20240123BHJP
   H05K 3/00 20060101ALI20240123BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
B32B15/08 N
B32B7/04
H05K3/00 R
H05K1/03 670A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019108689
(22)【出願日】2019-06-11
(65)【公開番号】P2020199707
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-02-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514045843
【氏名又は名称】APC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】與倉 三好
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/008876(WO,A1)
【文献】特開2017-164905(JP,A)
【文献】特開平03-090349(JP,A)
【文献】特開2019-018493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H05K 3/00
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム状に成形されたフッ素樹脂層と、前記フッ素樹脂層の接合面に接着剤を用いずに直接接合された金属箔とを含んで構成される積層体であって、
記金属箔の接合面は、表面粗度Rzが1.2μm以下の平滑面であり、
前記フッ素樹脂層の接合面は、真空プラズマ処理が施された真空プラズマ処理面とされており、かつ、真空プラズマ処理後の表面の炭素原子、酸素原子の原子数の組成比の値(O/C)が、0.05以上、0.20以下となっている積層体。
【請求項2】
前記金属箔の接合面は、表面粗度Rzが、0.05μm以上、1.2μm以下の平滑面である、
請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
フッ素樹脂層を有してフィルム状に形成され、前記フッ素樹脂層の表面の炭素原子、酸素原子の原子数の組成比の値(O/C)が、0.05以上、0.20以下となっている、
樹脂フィルム。
【請求項4】
フィルム状に成形されたフッ素樹脂層と、前記フッ素樹脂層の接合面に接着剤を用いずに直接接合された金属箔とを含んで構成される積層体を製造する製造方法であって、
前記フッ素樹脂層の接合面に対し、含酸素ガス雰囲気で真空プラズマ処理を施して前記真空プラズマ処理後の表面の炭素原子、酸素原子の原子数の組成比の値(O/C)を0.05以上、0.20以下にする真空プラズマ処理工程と、
前記真空プラズマ処理工程後の前記フッ素樹脂層と前記金属箔とを重ね合せて、加熱、加圧することにより、接着剤を用いずに直接接合する接合工程とを含み、
前記金属箔の接合面は、表面粗度Rzが1.2μm以下の平滑面とされている積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、樹脂フィルム、及び積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に用いられるプリント配線基板、或いは半導体部品用のテープキャリア等においては、例えばポリイミドフィルム等の耐熱性樹脂フィルム上に、銅箔などの導電性金属箔を設けて構成される基材を用い、金属箔の不要部をエッチングにより除去して導体パターンを形成するようになっている。特に、高周波無線通信等の通信分野に利用されるファインパターン形成用のフレキシブル基板等の基材としては、誘電率が低く、耐熱性が高い材料が求められる。
【0003】
特許文献1には、伝送遅延及び伝送損失の小さいプリント配線基板として、液晶ポリマーを主成分とするベースフィルムと、銅箔とを、平均比誘電率の小さい接着剤、例えば変性ポリフェニレンエーテル又はスチレン樹脂を主成分とする接着剤で接着する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-110193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような、プリント配線基板材料にあっては、金属箔と樹脂フィルムとの間の接合に、接着剤を使用すると誘電率が悪化してしまう事情があり、接着剤を使用することなく熱接合等により接合することが望まれる。この場合、銅箔の表面を物理的に粗くしていわゆるアンカー効果による接合性の向上を図ることも考えられる。ところが、その構成では、接合性は高くなるものの、高周波用途に使用する場合に、いわゆる表皮効果による伝送速度の低下を招いてしまう弊害がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、耐熱性高分子樹脂層と金属箔との間を接着剤なしで接合可能とし、高周波用途に使用する場合の信号伝送損失を小さく抑えることができる積層体及びその製造方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の積層体は、フィルム状に成形された耐熱性高分子樹脂層と、その耐熱性高分子樹脂層の接合面に接着剤を用いずに直接接合された金属箔とを含んで構成されるものであって、前記耐熱性高分子樹脂層の誘電率は3.2以下であり、前記金属箔の接合面は、表面粗度Rzが1.2μm以下の平滑面であり、前記耐熱性高分子樹脂層の接合面は、真空プラズマ処理が施された真空プラズマ処理面とされている。
【0008】
また、本発明の積層体の製造方法は、フィルム状に成形された耐熱性高分子樹脂層と、その耐熱性高分子樹脂層の接合面に接着剤を用いずに直接接合された金属箔とを含んで構成される積層体を製造する製造方法であって、前記耐熱性高分子樹脂層の接合面に対し、含酸素ガス雰囲気で真空プラズマ処理を施す真空プラズマ処理工程と、前記真空プラズマ処理工程後の前記耐熱性高分子樹脂層と前記金属箔とを重ね合せて、加熱、加圧することにより、接着剤を用いずに直接接合する接合工程とを含み、前記耐熱性高分子樹脂層の誘電率は3.2以下であり、前記金属箔の接合面は、表面粗度Rzが1.2μm以下の平滑面とされている。
【0009】
本発明によれば、耐熱性高分子樹脂層の接合面が予め真空プラズマ処理されていることにより、接着剤を用いずとも、耐熱性高分子樹脂層と金属箔とを、比較的低温、例えば耐熱性高分子樹脂層の融点以下の温度で、直接熱接合することが可能となった。これは、耐熱性高分子樹脂層の表面に、真空プラズマ処理がなされることにより、そのフィルム表面に酸素原子が取込まれ、具体的にはフィルム表面にCOOH基やOH基が付加されるようになり、このことが、耐熱性高分子樹脂層に比較的低温での熱接合性を付与したと考えられる。このとき、耐熱性高分子樹脂層と金属箔との剥離強度は、3N/cm以上となり、強固な接合強度を得ることができた。
【0010】
本発明における真空プラズマ処理とは、電極間に直流または交流の高電圧を印加することによって開始持続する、真空でのグロー放電等に処理基材を曝すことによって成される処理をいう。このとき、処理ガスとしては、水蒸気や炭酸ガス等の含酸素ガスを単独或いは混合して用いることが好ましい。処理圧力は特に限定されないが、0.1Paないし1330Paの圧力範囲で持続放電するグロー放電処理、いわゆる真空プラズマ処理が処理効率の点で好ましい。さらに好ましくは、1Paないし133Paの範囲である。また、内部電極方式のプラズマ処理機を採用して真空プラズマ処理を行う場合にあっては、耐熱性高分子樹脂層に対する真空プラズマ処理の処理強度(E値)を、50W・min/m から2000W・min/mの範囲とすることができる。これにより、融点以下の比較的低温での良好なる熱接合性が得られる。処理強度(E値)が大きいほど、耐熱性高分子樹脂層の表面に付加される酸素原子数も多くなることが確認されている。
【0011】
本発明における金属箔としては、銅箔が一般的であるが、タフピッチ圧延銅箔、無酸素圧延銅箔や電解銅箔の他に、高強度の銅合金箔を採用することもできる。銅以外の、アルミニウム、銅又はアルミニウムの合金、ステンレス、42アロイ等を主成分とする導電性の高い金属箔であっても良い。この場合、金属箔の接合面は、粗面化処理を行なわない無粗化のもの、或いは処理の小さい低粗化のものを採用することができる。具体的には、JIS-B-0601で規定する表面粗度Rzが、0.05μm以上、1.2μm以下のものが特に優れることが明らかとなった。より好ましくは、表面粗度Rzが1.0μm以下である。表面粗度Rzが1.2μmを越えてしまうと、表皮効果により信号伝送損失が比較的大きくなってしまう。
【0012】
金属箔の厚みは特に限定されなく目的に応じ選定すれば良いが、高周波用途に使用する場合においては、18μm以下とすることが好ましい。特に、例えばファインパターン用には、厚み寸法が12μm以下のものを採用することができる。尚、金属箔の表面粗度Rzについては、積層体として構成された後であっても、断面をSEM(走査電子顕微鏡)により観察することによって測定することが可能である。
【0013】
本発明における耐熱性高分子樹脂層とは、耐熱性の高い高分子樹脂材料から、例えばフィルム状またはシート状に形成されたものであり、融点が240℃以上のものをいう。また、耐熱性高分子樹脂層は、誘電率が、3.2以下のものが採用される。高周波用途に使用する場合においては、耐熱性高分子樹脂層の厚み寸法は、350μm以下とすることが望ましい。これら耐熱性高分子樹脂層は、融点が高く(例えば240~340℃)耐熱性に優れ、電気特性(誘電特性、電気絶縁性)に優れ、低吸水性を備え、寸法安定性や強度が高いといった特性を有し、高周波用途に使用するに適する。
【0014】
より具体的には、前記耐熱性高分子樹脂層として、ポリフェニレンスルフィド系樹脂(PPS)、環状オレフィン系樹脂(COP)、液晶ポリマー(LCP)、フッ素樹脂のいずれかを採用することができる。尚、これら樹脂の中には特性改良のための、有機または無機などのフィラーが配合されていてもかまわない。
【0015】
そのうちポリフェニレンスルフィド系樹脂(PPS)とは、ベンゼン環と硫黄原子とが交互に結合した直鎖状構造を有する結晶性のポリマーであり、具体的には、例えば、東レ株式会社製の「トレリナ(登録商標)」などを採用することができる。また、環状オレフィン系樹脂(COP)とは、シクロオレフィンを重合して得られる、ポリマー主鎖に脂環構造を有するポリマーであり、具体的には、例えば日本ゼオン株式会社製の「ZEONOR(登録商標)」等が知られている。
【0016】
液晶ポリマー(LCP)フィルムとは、熱により溶解して液晶相を発現するサーモトロピック型の熱可塑性液晶ポリマーを、溶融押出成形又は射出成形によりフィルム状に成形したものである。熱可塑性液晶ポリマーは、例えば全芳香族ポリエステルからなり、タイプI(エチレンテレフタレートとパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体)、タイプII(フェノール及びフタル酸と、パラヒドロキシ安息香酸との重縮合体)、タイプIII(2,6-ヒドロキシナフトエ酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体)等が知られている。具体的には、例えば、株式会社クラレ製の「ベクスター(登録商標)」、株式会社村田製作所の「メトロサーク(登録商標)」用のLCPフィルム等を採用することができる。
【0017】
フッ素樹脂とは、分子中にフッ素原子を含有する合成高分子を言い、フィルム状で供されるものである。具体的には、例えば4フッ化エチレン-パーフロロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)などを主成分とするポリマーをいう。
【0018】
また、本発明においては、前記耐熱性高分子樹脂層の接合面の、真空プラズマ処理後の表面の炭素原子、酸素原子の原子数の組成比の値(O/C)が、0.05以上、0.20以下となっていることが好ましい。
【0019】
本発明者の研究によれば、真空プラズマ処理が施された耐熱性高分子樹脂層表面における、炭素原子、酸素原子の原子数の組成比の値(O/C)について、0.05以上、0.20以下とされることにより、極めて良好な熱接合性を付与することができることが確認されている。この場合、無粗化の金属箔であっても、良好な接合性を得ることができる。また、本発明者の研究によれば、そのような耐熱性高分子樹脂層の良好な熱接合性は、真空プラズマ処理の直後から長期間に渡って(少なくとも4年以上)継続することも確認されている。組成比の値が0.05未満では、低温での良好な熱接合性は得られず、また、組成比の値が0.20を越えた場合でも、低温での良好な熱接合性は得られなかった。より好ましくは、0.05以上、0.17以下である。
【0020】
ここで、組成比の値(O/C)とは、耐熱性高分子樹脂層の表面をXPS(X線光電子分光法)で測定した際の、炭素原子数、酸素原子数の割合をいう。真空プラズマ処理によって耐熱性高分子樹脂層の表面に酸素原子が付加される。このように表面にCOOH基やOH基を有する耐熱性高分子樹脂層に対し、相手となる金属箔を積層し、加熱しながら加圧することにより、表面同士間で縮合反応が生じ、それらの間が強固に直接接合されるものと推測される。
【0021】
本発明の積層体の製造方法は、上記構成により、耐熱性高分子樹脂層と金属箔との間で高い密着性を得ることができ、しかも、高周波用途に使用する場合の信号伝送損失を小さく抑えることができる。積層体は、例えばフレキシブルプリント配線基板、TAB部品のキャリヤフィルム、チップオンフィルム(COF)基板、ビルドアップ基板(多層基板)等、アンテナ回路用基板、各種高周波用センサ回路基板等の電子回路基板材料として使用することができる。このとき、耐熱性高分子樹脂層自体が誘電率が小さく、しかも、誘電率を上昇させる要因となる接着剤を使用しないので、顕著な低誘電率を得ることができ、ひいては、特に高速信号を処理する配線板材料としての用途に好適となる。第5世代移動通信サービス(5G)、更には第6世代移動通信サービスに適した材料として適用することが可能である。
【0022】
本発明の積層体の製造方法においては、上記のように、接合工程における加熱温度を、耐熱性高分子樹脂層の融点以下の温度とすることができる。これにより、熱接合における不要なエネルギー消費を抑えながら、良好な接合が可能となる。本発明の積層体の製造方法においては、金属箔の表面即ち接合面に対しても、予め真空プラズマ処理を施したプラズマ処理面とした上で、耐熱性高分子樹脂層との接合を行なっても良い。これによれば、金属箔と耐熱性高分子樹脂層との間の接合性、密着性をより一層高めることができる。積層体を得るための熱接合の方法としては、特に限定されるものではないが、例えば熱プレスによる方法、熱ロールによる方法など公知の方法を目的に応じ、適宜選定すれば良い。これにより、接合工程において、上記した積層体を容易に製造することができる。
【0023】
尚、本発明においては、金属箔の表面に、シランカップリング処理などを行わずとも、金属箔と耐熱性高分子樹脂層基材の間の高い接合性を得ることが可能となる。金属箔の表面にクロメート処理などの防錆処理を行うようにしても良い。
【0024】
本発明の積層体においては、耐熱性高分子樹脂層の金属箔との接合面とは反対面側にも、例えば別の樹脂材料(第2の樹脂フィルム)を接合して構成することができる。このとき、耐熱性高分子樹脂層の反対面側も予め低温プラズマ処理し、耐熱性高分子樹脂層と第2の樹脂フィルムとの間を、接着剤を用いないで熱接合により直接接合する構成とすることができる。
【0025】
尚、積層体が、接着剤を使用しているかどうかの鑑別については、次のようにして行うことができる。即ち、積層体の接合されている耐熱性高分子樹脂層と金属箔とを剥離し、フィルム側及び金属箔側の界面を、FT-IR(フーリエ変換赤外分光法)のATR法(全反射測定法)による分析、及び、XPS(X線光電子分光法)により測定することによって、判定が可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の積層体及びその製造方法によれば、フィルム状に成形された耐熱性高分子樹脂層と、その耐熱性高分子樹脂層の接合面に接着剤を用いずに直接接合された金属箔とを含んで構成されるものであって、前記耐熱性高分子樹脂層の誘電率は3.2以下であり、前記金属箔の接合面は、表面粗度Rzが、0.05μm以上、1.2μm以下の平滑面であり、前記耐熱性高分子樹脂層の接合面は、真空プラズマ処理が施された真空プラズマ処理面とされているので、耐熱性高分子樹脂層と金属箔との間を接着剤なしで接合可能とし、高周波用途に使用する場合の信号伝送損失を小さく抑えることができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態を示すもので、積層体の構成を概略的に示す縦断面図
図2】真空プラズマ処理機の構成を模式的に示す図
図3】実施例1~6の90度剥離強度試験の結果を示す図
図4】実施例7~9の90度剥離強度試験の結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る積層体1の断面構成を模式的に示している。この積層体1は、耐熱性高分子樹脂層2の一面(図で上面)に、金属箔3を接合した構成を備えている。前記金属箔3は、例えば銅箔からなり、厚み寸法が18μm以下とされている。またこのとき、金属箔3は、粗面化処理を行なわない無粗化のもの、或いは粗面化処理の小さい低粗化のものが採用され、接合面(図で下面)の表面粗度Rzは、0.05μm以上、1.2μm以下とされている。
【0029】
前記耐熱性高分子樹脂層2は、例えばポリフェニレンスルフィド系樹脂(PPS)からなり、例えば射出成形によりフィルム状に成形されたものである。耐熱性高分子樹脂層2の厚み寸法は、使用目的により好ましく選定すれば良く、例えばアンテナ回路用では、約100μm以下とされている。この耐熱性高分子樹脂層2は、誘電率が低く(低周波、高周波共に3.2以下)、融点が例えば240℃以上と耐熱性の高いものとなっている。そして、耐熱性高分子樹脂層2の接合面(図で上面)には、真空プラズマ処理が施され、真空プラズマ処理層4が設けられている。
【0030】
具体的には、図3に示すように、実施例1~6の積層体1では、耐熱性高分子樹脂層2(フィルム)として、例えば厚み寸法が100μmのポリフェニレンスルフィド系樹脂(PPS)、具体的には、東レ株式会社製の「トレリナ(登録商標)」#3030のフィルムが採用されている。耐熱性高分子樹脂層2の誘電率は、例えば2.5となっている。また、金属箔3として、例えば公称厚み寸法が8.5μmの電解銅箔(例えば福田金属箔粉工業株式会社製の無粗化処理の電解銅箔「CF-T9DA-SV-12」等)が採用されている。金属箔3はRzが、1.2μm以下、例えば1.2μm又は0.85μmとされている。
【0031】
積層体1は、本実施形態に係る製造方法により製造される。この積層体1の製造方法は、耐熱性高分子樹脂層2の接合面に対し、真空プラズマ処理を施して真空プラズマ処理層4を設ける真空プラズマ処理工程と、真空プラズマ処理層4が設けられた耐熱性高分子樹脂層2と、前記金属箔3とを重ね合せて、加熱、加圧することにより、接着剤を用いずに直接接合する接合工程とを含んでいる。前記真空プラズマ処理工程は、例えば、Ar、N、O、CO、HO、メチルアルコールなどの含酸素ガスが、単独或いは混合された雰囲気で行われる。
【0032】
前記接合工程は、耐熱性高分子樹脂層2の上面側に金属箔3を配置した積層状態で、例えば高温高圧プレス機を用いた熱プレスにより、接着剤を用いずに直接熱接合することにより行われる。また、この場合、上記熱接合の条件としては、プレス温度が、耐熱性高分子樹脂層2の融点(300℃)以下の例えば220~300℃とされ、圧力は5~100kg/cm、プレス時間はフィルム厚等により適宜設定され、例えば10~40分とされている。
【0033】
尚、この積層体1は、例えばフレキシブルプリント配線基板或いは多層基板の基材として使用される。この場合、周知のように、積層体1の表面に感光レジストを塗布し、マスクを配して露光させ、現像後エッチングにより金属箔3の不要部を除去して配線パターンを形成することができる。この場合、導体幅を100μm以下としたファインパターンを形成することが可能である。そして、この積層体1は、耐熱性高分子樹脂層2を基材としており、接着剤を使用しないので、従来にない顕著な低誘電率及び十分な耐熱性を得ることができ、ひいては、特に高速信号を処理する配線板材料としての用途に好適となる。
【0034】
ここで、図2は、内部電極方式の真空プラズマ処理機5により、耐熱性高分子樹脂層素材Fに対し、低温プラズマ処理を行っている様子を模式的に示している。この真空プラズマ処理機5は、密閉可能な処理室6を有して構成されており、その処理室6内には、処理用ローラ7が設けられると共に、その処理用ローラ7の上部の周囲を僅かな隙間を空けて囲むような棒状の電極8が設けられている。電極8には、高周波電源9が接続されており、また図示はしないが、処理用ローラ7はアース接続されている。処理室6内は、真空ポンプに接続されたバルブ10の開放によって減圧されるようになっていると共に、ガス供給源に接続されたバルブ11の開放によって、処理(放電)部分に処理用の含酸素ガス(例えばHO、アルコール系、CO)が単独或いはN、Arガス等と混合して供給される。処理室6内の圧力を計測する圧力計12も設けられている。
【0035】
そして、ロール状に巻回された処理前の耐熱性高分子樹脂層2の素材Fは、供給部13から引出され、処理室6内の複数個の案内ローラ14により案内されながら処理用ローラ7に一周近く巻付けられるようにして、電極8との間の処理部分を通され、ここでプラズマ処理が行われた後、案内ローラ14により案内されながら巻取部15において再び巻取られる。真空プラズマ処理が施されることにより、上記したような真空プラズマ処理層4が設けられた耐熱性高分子樹脂層2となる。尚、本実施形態では、例えば、処理室6内の圧力は35Pa、ガスの供給量は20cc/min、耐熱性高分子樹脂層2の素材Fの送り速度は2m/minとされている。また、真空プラズマ処理の処理強度(E値)は、50W・min/m~2000W・min/mの範囲である。
【0036】
これにより、耐熱性高分子樹脂層2は、低温プラズマ処理後のフィルム表面(真空プラズマ処理層4)にCOOH基やOH基が付加され、接着剤を用いずとも、比較的低温で、金属箔3との熱接合が可能となったのである。これは、フィルムの表面(接合面)に酸素原子が取込まれることによって、耐熱性高分子樹脂層2に低温での熱接合性が付与されたものと推測される。この場合、本発明者の研究によれば、プラズマ処理後の接合面における、炭素原子(C)、酸素原子(O)の原子数の組成比の値(O/C)について、0.05以上、0.20以下となることにより、特に優れた熱接合性が得られるのである。
【0037】
さて、図3に示すように、実施例1~6の積層体1は、上記した構成を備え、本実施形態に係る製造方法により製造されたものである。具体的には、実施例1~6の積層体は、耐熱性高分子樹脂層2の接合面に、上記の真空プラズマ処理機5により真空プラズマ処理を施して真空プラズマ処理層4を形成したものに対し、銅箔からなる金属箔3を加熱、加圧することにより接着剤なしで直接接合したものである。
【0038】
これら実施例1~6では、耐熱性高分子樹脂層2のプラズマ処理後の接合面(真空プラズマ処理層4)における、炭素原子(C)、酸素原子(O)の原子数の組成比の値(O/C)について、0.05以上、0.20以下の割合とされている。具体的には、そのうち実施例1、実施例2については、組成比の値(O/C)が、0.75とされ、実施例3から実施例6については、組成比の値(O/C)が、0.125とされている。ここで、組成比の値(O/C)とは、耐熱性高分子樹脂層2の表面をXPS(X線光電子分光法)で測定した際の、炭素原子数、酸素原子数の割合をいう。尚、真空プラズマ処理によって、微量ではあるが、フィルム表面に、窒素原子(N)、更には珪素原子(Si)等が付加されるケースもある。
【0039】
そして、実施例1、実施例3、実施例5では、金属箔3として福田金属箔粉工業株式会社製の銅箔が採用され、接合面の表面粗度Rzが0.85μmとされている。実施例2、実施例6では、金属箔3として古河電工株式会社製の銅箔が採用され、実施例4では、金属箔3として三井金属鉱業株式会社製の銅箔が採用されている。これら実施例2、4、6では、金属箔3の接合面の表面粗度Rzが1.2μmとされている。
【0040】
これに対し、比較例1~4の積層体は、例えば耐熱性高分子樹脂層に対し、銅箔からなる金属箔を接合して構成されるものであるが、特許請求の範囲から外れたものとなっている。即ち、比較例1、2は、耐熱性高分子樹脂層(PPS樹脂)に対する真空プラズマ処理の工程を省略したものである。比較例1では、金属箔の接合面の表面粗度Rzが、0.85μmとしたが、比較例2では、金属箔の接合面の表面粗度Rzが、1.8μmとされている。
【0041】
比較例3、4は、上記実施例1~6における真空プラズマ処理工程に対し、処理強度(E値)をより高くして真空プラズマ処理を施したものである。これにより、比較例3,4の耐熱性高分子樹脂層のプラズマ処理後の接合面における、炭素原子(C)、酸素原子(O)の原子数の組成比の値(O/C)について、0.20を超えた値、具体的には0.22とされている。そして、比較例3では、金属箔の接合面の表面粗度Rzが1.8μmとされ、比較例4では、金属箔の接合面の表面粗度Rzが4.2μmとされている。
【0042】
さて、本発明者は、本発明の適正を検証するため、上記した実施例1~6及び比較例1~4の積層体(試料)に対し、接合力を調べるための90度剥離強度試験を行った。90度剥離強度試験は、JIS-C-6481に準拠して、2mmパターン幅について引剥し強さを測定した。
【0043】
この結果、実施例1~6の積層体1では、耐熱性高分子樹脂層2と金属箔3との間の高い剥離強度(接合力)を得ることができた。これに対し、耐熱性高分子樹脂層に対する真空プラズマ処理工程を省略した比較例1、2では、耐熱性高分子樹脂層と金属箔との間の接合性は得られず、積層体は得られなかった。
【0044】
耐熱性高分子樹脂層に対する真空プラズマ処理工程を行ったが、O/Cの値が、0.20を超えている比較例3、4についても、十分な熱接合性が得られなかった。尚、図3には示していないがO/Cの値が0.05未満の場合も、低温での良好な熱接合性は得られなかった。
【0045】
このように、実施例1~6の積層体1は、耐熱性高分子樹脂層2の表面に適切な真空プラズマ処理を行い、金属箔3の接合面の表面粗度Rzが、0.05μm以上、1.2μm以下となっている。更には、特にプラズマ処理後の接合面における、表面の炭素原子、酸素原子の原子数の組成比の値(O/C)が、0.05以上、0.20以下となっている。そして、それら耐熱性高分子樹脂層2と金属箔3とは、耐熱性高分子樹脂層2の融点以下の比較的低温での熱接合が可能となり、高い接合力を得ることができた。
【0046】
次に、実施例7、実施例8、実施例9の積層体1について述べる。図4に示すように、実施例7、8、9の積層体においては、耐熱性高分子樹脂層2として、上記実施例1~6におけるPPS樹脂に代えて、夫々、4フッ化エチレン-パーフロロアルコキシエチレン共重合体(PFA)からなるフッ素樹脂、環状オレフィン系樹脂(COP)、液晶ポリマー(LCP)のフィルムが夫々採用されている。これら耐熱性高分子樹脂層2は、例えば厚み寸法が100μmとされ、また、誘電率は3.2以下とされている。尚、COPフィルムとしては,例えば日本ゼオン株式会社製の「ZEONOR(登録商標)」が採用され、LCPフィルムとしては、例えば、株式会社クラレ製の「ベクスター(登録商標)」が採用される。
【0047】
また、金属箔3として、例えば公称厚み寸法が8.5μmの電解銅箔(例えば福田金属箔粉工業株式会社製の無粗化処理の電解銅箔「CF-T9DA-SV-12」)が採用されている。金属箔3はRzが、0.05μm以上、1.2μm以下、例えば0.85μmとされている。これら実施例7~9の積層体1は、上記実施例1~6と同様に、本実施形態に係る製造方法により製造されたものである。即ち、実施例7~9の積層体は、耐熱性高分子樹脂層2の接合面に、上記の真空プラズマ処理機5により真空プラズマ処理を施して真空プラズマ処理層4を形成したものに対し、銅箔からなる金属箔3を加熱、加圧することにより接着剤なしで直接接合したものである。
【0048】
これに対し、比較例5~10の積層体は、例えば耐熱性高分子樹脂層に対し、銅箔からなる金属箔、例えば三井金属工業株式会社製の銅箔を接合して構成されるものであるが、特許請求の範囲から外れたものとなっている。比較例5、6の積層体は、実施例7と同等のプラズマ処理を施したPFAフィルムに対し、金属箔の接合面の表面粗度Rzが1.2μmを越えたもの、即ち比較例5では表面粗度Rzが1.8μm、比較例6では表面粗度Rzが4.2μmのものを夫々接合したものである。
【0049】
比較例7、8の積層体は、実施例8と同等のCOPフィルムに対し、金属箔の接合面の表面粗度Rzが1.2μmを越えたもの、即ち比較例7では表面粗度Rzが1.8μm、比較例8では表面粗度Rzが4.2μmのものを夫々積層したものである。比較例9、10の積層体は、実施例9と同等のLCPフィルムに対し、金属箔の接合面の表面粗度Rzが1.2μmを越えたもの、即ち比較例9では表面粗度Rzが1.8μm、比較例10では表面粗度Rzが4.2μmのものを夫々積層したものである。
【0050】
本発明者は、上記実施例1~6と同様に、これら実施例7~9及び比較例5~10の積層体(試料)に対し、接合力を調べるための90度剥離強度試験を行った。90度剥離強度試験は、JIS-C-6481に準拠して、2mmパターン幅について引剥し強さを測定した。その結果を、図4に示す。尚、実施例8、9、比較例7~10のフィルムについては、O/Cの値は未測定である。
【0051】
この結果、実施例7~9の積層体1では、耐熱性高分子樹脂層2と金属箔3との間の高い剥離強度(接合力)を得ることができた。これに対し、比較例5~10の積層体では、十分な接合力が得られなかった。このように、耐熱性高分子樹脂層として、ポリフェニレンスルフィド系樹脂(PPS)以外でも、環状オレフィン系樹脂(COP)、液晶ポリマー(LCP)、PFAからなるフッ素樹脂を採用したものによっても、同様に、耐熱性高分子樹脂層と金属箔との間を接着剤なしで接合可能とし、高周波用途に使用する場合の信号伝送損失を小さく抑えることができる。
【符号の説明】
【0052】
図面中、1は積層体、2は耐熱性高分子樹脂層、3は金属箔、5は真空プラズマ処理機を示す。
図1
図2
図3
図4