(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】微生物感染症の治療および/または予防用グルコン酸誘導体
(51)【国際特許分類】
A61K 31/191 20060101AFI20240123BHJP
A61K 31/365 20060101ALI20240123BHJP
A61K 31/366 20060101ALI20240123BHJP
A61K 31/765 20060101ALI20240123BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240123BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240123BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240123BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20240123BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20240123BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20240123BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240123BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20240123BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20240123BHJP
A61P 13/00 20060101ALI20240123BHJP
A61P 15/02 20060101ALI20240123BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240123BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240123BHJP
A61P 17/10 20060101ALI20240123BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20240123BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240123BHJP
C07C 59/105 20060101ALI20240123BHJP
C07D 307/33 20060101ALI20240123BHJP
C07D 309/30 20060101ALI20240123BHJP
C08G 63/06 20060101ALI20240123BHJP
A01N 37/36 20060101ALN20240123BHJP
A01N 43/08 20060101ALN20240123BHJP
A01N 43/16 20060101ALN20240123BHJP
A01P 3/00 20060101ALN20240123BHJP
【FI】
A61K31/191
A61K31/365
A61K31/366
A61K31/765
A61K9/06
A61K9/08
A61K9/10
A61K9/12
A61K9/20
A61K9/70 401
A61P31/04
A61P1/02
A61P11/02
A61P13/00
A61P15/02
A61P17/00
A61P17/00 101
A61P17/02
A61P17/10
A61P17/14
A61P27/02
C07C59/105
C07D307/33 335
C07D309/30 D
C08G63/06
A01N37/36
A01N43/08 H
A01N43/16 B
A01P3/00
(21)【出願番号】P 2020519028
(86)(22)【出願日】2018-10-05
(86)【国際出願番号】 EP2018077129
(87)【国際公開番号】W WO2019068862
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-10-04
(32)【優先日】2017-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518324821
【氏名又は名称】ジェディア バイオテック エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】エラーヴィク,ウルフ
(72)【発明者】
【氏名】スターナー,オロフ
(72)【発明者】
【氏名】ストレブンズ,ヘレナ
(72)【発明者】
【氏名】マナー,ソフィー
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-077150(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0058421(US,A1)
【文献】特表2017-501741(JP,A)
【文献】特開2007-077152(JP,A)
【文献】New Food Industry,Vol.47, No.3,2005年,p.45-54
【文献】Research in Microbiology,2014年,Vol.165,p.549-558
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A01N
A01P
C07C
C07D
C08G
C12P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガードネレラ・バジナリ
ス、ジンジバリス
菌、大腸
菌、緑膿
菌、アシネトバクター・バウマン
ニ、化膿性連鎖球
菌、C群β型溶血連鎖球
菌、G群β型溶血連鎖球
菌、および/またはストレプトコッカス・アガラクチ
アからなる群より選択される
細菌による細菌感染症の治療および/または予防における使用のための、式XX:
【化1】
の化合物または、式XIXまたはXXI:
【化2】
の化合物である、そのラクトンを含む医薬組成物
であって、
前記医薬組成物が、少なくとも5重量%の式XX、XIXまたはXXIの前記化合物を含み、式XX、XIXまたはXXIの前記化合物が、前記医薬組成物中で唯一の抗菌剤である、医薬組成物。
【請求項2】
前記化合物が、式XIXまたは式XXである、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項3】
前記細菌感染症が、泌尿生殖器感染症である、請求項1
または2に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項4】
前記細菌感染症が、腟感染症である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項5】
前記細菌感染症が、細菌性腟症である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項6】
前記感染症が、
a.皮膚炎および/または湿疹、例えば脂漏性皮膚炎;
b.皮膚炎または湿疹の二次感染症;
c.アクネおよび/またはざ瘡様状態、例えば酒さ、口周囲皮膚炎または眼窩周囲皮膚炎;
d.フルンケル症;
e.カルブンケル症;
f.毛包炎;
g.膿痂疹;
h.丹毒;
i.歯周炎;
j.A群またはB群連鎖球菌多耐性細菌のコロニー形成に続発する感染症、例えば前記コロニー形成が、口腔、鼻内または肛門生殖器である;
k.肛囲溶連菌皮膚炎;
l.間擦疹性の皮膚炎;
m.爪囲炎;
n.感染皮膚創傷の感染症;
o.陥入爪または足の疱疹に続発し、糖尿病性足創傷と関連する、二次感染症;
p.動物咬傷後に生じる二次感染症;
q.虫刺され、蚊咬傷、ダニ咬傷、遊走性紅斑または皮膚良性リンパ腺腫後に生じる二次感染症;
r.単純ヘルペスの二次感染症、例えば口腔単純ヘルペスまたは生殖器単純ヘルペス;帯状疱疹または水痘帯状疱疹の二次感染症;
s.眼瞼炎;
t.結膜炎;
u.腟炎;および
v.子宮頸管炎
からなる群から選択される、請求項1~
3のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項7】
前記感染症が、ヒトにおける感染症である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項8】
前記感染症が、妊婦における感染症である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項9】
細菌性腟症
、ここで、前記細菌性腟症は、ガードネレラ・バジナリス、ジンジバリス菌、大腸菌、緑膿菌、アシネトバクター・バウマンニ、化膿性連鎖球菌、C群β型溶血連鎖球菌、G群β型溶血連鎖球菌、および/またはストレプトコッカス・アガラクチアにより引き起こされる、の治療で使用するための式XX:
【化3】
の化合物または、式XIXまたはXXI:
【化4】
の化合物である、そのラクトンを含む医薬組成物
であって、
前記医薬組成物が、少なくとも5重量%の式XX、XIXまたはXXIの前記化合物を含み、式XX、XIXまたはXXIの前記化合物が、前記医薬組成物中で唯一の抗菌剤である、医薬組成物。
【請求項10】
前記化合物が、下記グルコノ-δ-ラクトン(式XIX)である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【化5】
【請求項11】
ガードネレラ・バジナリス感染症
、ジンジバリス菌感染症、大腸菌感染症、緑膿菌感染症、アシネトバクター・バウマンニ感染症、化膿性連鎖球菌感染症、C群β型溶血連鎖球菌感染症、G群β型溶血連鎖球菌感染症、および/またはストレプトコッカス・アガラクチア感染症からなる群より選択される細菌感染症の治療および/または予防で使用するための医薬組成物であって、前記医薬組成物はオリゴマー/ポリマーを含み、前記オリゴマー/ポリマーは、式XX:
【化6】
の化合物、または式XIXもしくはXXI:
【化7】
の化合物である、そのラクトンをオリゴマー化/重合することで形成される、医薬組成物。
【請求項12】
前記オリゴマーまたはポリマーが乳酸に由来する構造をさらに含む、請求項
11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記医薬組成物が、10~95重量%など、15~95重量%など、20~90重量%など、40~95重量%など、40~95重量%など、50~95重量%などの、5~99重量%の式XXの前記化合物または前記ラクトンを含む;および/または
前記医薬組成物が、5重量%以下などの、10重量%以下の水を含む、
請求項1~
10のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項14】
前記医薬組成物が、タンポン、バギトリウム(vagitorium)、腟エアロゾル、腟カップ、膣ゲル、膣挿入物、膣パッチ、膣リング、膣スポンジ、膣坐剤、膣クリーム、膣エマルション、膣フォーム、膣ローション、膣軟膏、膣粉末、膣シャンプー、膣溶液、膣スプレー、膣懸濁剤、膣錠、膣ロッド、膣ディスク、膣デバイス、およびこれらの任意の組み合わせとしての処方のための、または前記医薬組成物が、タンポン、生理用ナプキン、尿漏れ防止パッドもしくはおむつ、またはパンティーライナー等の、衛生用品上への適用のための、請求項1~
13のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項15】
ガードネレラ・バジナリス、ジンジバリス菌、大腸菌、緑膿菌、アシネトバクター・バウマンニ、化膿性連鎖球菌、C群β型溶血連鎖球菌、G群β型溶血連鎖球菌、および/またはストレプトコッカス・アガラクチアからなる群より選択される細菌により引き起こされる細菌性外陰腟炎により引き起こされる、早産の防止における使用のための式XX:
【化8】
の化合物または、式XIXまたはXXI:
【化9】
の化合物である、そのラクトンを含む医薬組成物。
【請求項16】
前記医薬組成物が、経膣で投与される、請求項
15に記載の使用のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物感染症の治療および/または予防で使用するための、式Iの化合物に関する。さらに、本発明は、バイオフィルム形成の防止および/または低減のための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌剤は、感染症の患者の治療のため過去70年間にわたり使用されてきた。1940年代以降、これらの薬物は感染症の疾病およびそれによる死亡を大きく低減してきた。しかし、これらの薬物は広範に、長期間にわたり使用されてきたので、死滅させるために抗菌剤が設計されている感染微生物は、それらの剤に順応してきた。その結果、医薬は効果的でなくなり、病原菌は体内で生き残り、他人に伝播するリスクが増大している。
【0003】
抗菌剤耐性は、増加の一途をたどる細菌、寄生生物、ウイルスおよび真菌に起因する一連の感染症の効果的予防および治療を脅かす。
【0004】
従って、抗菌剤耐性は、全ての政府部門および社会全体にわたって対策を必要とする地球規模の公衆衛生に対する一段と深刻な脅威となっている。
【0005】
全てのクラスの微生物は耐性を発達させる:真菌は抗真菌剤耐性を発達させ、ウイルスは抗ウイルス剤耐性を発達させ、原虫は抗原虫剤耐性を発達させ、細菌は抗生物質耐性を発達させる。
【0006】
抗生物質耐性に関する問題は、共通の現象である。治療に耐性のある真菌の感染は、新たに出現する公衆衛生上の問題である。全体として、抗真菌耐性はまだ、比較的珍しいが、これらの感染症のさらなる耐性の発生を防止しかつ蔓延を防ぐためにもっと多くの方策が講じられない限り、この問題はおそらく発展し続けるであろう。ほとんどの抗真菌剤耐性は、カンジダ種で発生するが、アスペルギルス属などの他の型の真菌の耐性も新たな問題となっている。
【0007】
真菌は、それらが感染するヒト宿主と同様に真核生物であるので、抗真菌薬物開発に採用可能な重複しない標的はほんの僅かしかない。従って、抗真菌剤はほとんどが、少数の代謝経路を標的とする薬物に限定される。
【0008】
抗菌剤の1つの標的は、微生物の発生過程の産物であるバイオフィルムである。バイオフィルムは、相互に付着しかつ自製の細胞外ポリマーマトリックスにより取り囲まれる微生物細胞により形成される。バイオフィルムの形成は、特に有害な環境中で、細菌および真菌が生活環境に適合するための生存戦略である。細胞がバイオフィルムモードの成長に切り替わる場合、細胞は、行動の表現型シフトを受け、その際、多数の遺伝子が特異的に制御される。バイオフィルムは、多くの異なる種類の微生物、例えば、細菌、古細菌、原虫、真菌および藻類を含み得る。
【0009】
バイオフィルムは、80%の微生物感染症に関連していると推定されており、バイオフィルム中での微生物の成長は、それらの抗菌剤への耐性を強化し得る。さらに、バイオフィルム細菌は、浮遊細胞に比べて抗生物質に対し最大で1000倍高い寛容性および/または耐性がある。
【0010】
ほとんどの真菌では、菌糸は主要な栄養生長モードであり、ひとまとめにして菌糸体と呼ばれる。例えば、カンジダ・アルビカンスの毒性は、浮遊細胞から菌糸への変換により媒介される。菌糸型、すなわち、糸状細胞は、上皮細胞を破壊する細胞傷害性ペプチド毒素であるカンジダリジンにより媒介される、組織を侵害し炎症を誘導する能力を有する(Moyes et.al.,Nature,2016,532,64)。
【0011】
抗菌剤耐性は、原発性感染において問題であるだけでなく、二次感染においても問題である。感染症の予防および治療のための効果的抗菌剤がなければ、臓器移植、癌化学療法、糖尿病管理および大部分の手術などの医療処置は、極めてリスクが高くなる。さらに、真菌感染症は、HIV/AIDS、結核または化学療法剤受けている患者などの、免疫無防備状態の患者の罹患および死亡の主要な原因の1つになっている。高い認識および治療戦略にもかかわらず、臨床現場で使用される抗真菌薬物に対する耐性の高頻度の発生は、真菌症の犠牲者の増大の一因である。
従って、新規抗菌剤に対する新たな必要が存在する。
【発明の概要】
【0012】
本発明者らは、バイオフィルム形成を防止および/または低減するための方法を開発した。バイオフィルム形成が低減または防止されると、個々の微生物細胞は、もはや表面に付着できない。従って、さらなる感染は防止され、もはやバイオフィルムを形成しない微生物細胞は、廃棄される。本発明者らは、式I:
【化1】
の化合物またはそのラクトン
(式中、
Rは、H、-アルキル、-C(O)アルキルおよびフェニルからなる群より選択され;
R’は、-OR、-Hおよびハロゲンからなる群から独立に選択され;および
nは、整数1、2または3である)
による治療が、真菌種のバイオフィルムの存在を低減し、いくつかの真菌種に対し細胞傷害性作用を有することを示した。さらに、本発明者らは、式Iの化合物が抗菌薬として有用であることを示した。
【0013】
従って、一態様では、本発明は、式Iの化合物または微生物感染症の治療および/または予防で使用するための式Iの化合物を含む医薬組成物に関する。但し、微生物感染症が真菌感染症である場合には、式Iの化合物は式(XIV):
【化2】
の化合物またはそのラクトンではない。
【0014】
一実施形態では、本発明は、細菌感染症または真菌および細菌混合感染症の治療で使用されるグルコノ-δ-ラクトンに関する。
【0015】
別の態様では、本発明は、バイオフィルム形成の防止および/または低減のための方法に関し、方法は、式Iの化合物の投与を含む。
【0016】
さらなる態様では、本発明は、早産の防止で使用する式Iの化合物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】種々の酸で処理したカンジダ・アルビカンスの正規化バイオフィルム形成を示す図である。GlyA=グリセリン酸(pH=7)、XA=キシロン酸(pH=7)、CA=クエン酸(pH=4.6)、GA=グルコン酸(pH=6.5)、LA=乳酸(pH=4.9)。バイオフィルムは24時間後に測定した。
【
図2】蒸留水(中空円)、pH4緩衝液(中実四角)、pH5緩衝液(中空四角)、およびpH7緩衝液(中実円)中でのグルコノ-δ-ラクトン(GDA)の加水分解における旋光の変化を示す図である。
【
図3】pH2.6~6.6のリン酸緩衝液(中空円、点線)またはグルコノ-δ-ラクトン(中実四角、実線)を含む最少培地中のカンジダ・アルビカンスの正規化バイオフィルム形成を示す図である。バイオフィルムは24時間後に測定し、染色はクリスタルバイオレットで実施した。
【
図4】(A)は、ラクトン化/オリゴマー化GAで処理したカンジダ・アルビカンスの正規化バイオフィルム形成を示す図である。ラクトン化/オリゴマー化グルコン酸のペレットをpH3.71の緩衝液(10mL)に37℃で加えた。試料(4mL)を1時間毎(異なる時間間隔で)に採取し、新規緩衝液(4mL)を加えた。試料をバイオフィルム培地で50倍に希釈し、バイオフィルム形成量を24時間後に測定した。(B)は、ラクトン化/オリゴマー化GAで処理したカンジダ・グラブラタの正規化バイオフィルム形成を示す図である。ラクトン化/オリゴマー化グルコン酸のペレットをpH3.71の緩衝液(10mL)に37℃で加えた。試料(4mL)を1時間毎(異なる時間間隔で)に採取し、新規緩衝液(4mL)を加えた。試料をバイオフィルム培地で50倍に希釈し、バイオフィルム形成量を24時間後に測定した。
【
図5】(A)は、グルコノ-δ-ラクトン(GDA)で処理したカンジダ・アルビカンスの正規化バイオフィルム形成を示す図である。GDAのペレットをpH3.71の緩衝液(10mL)に37℃で加えた。試料(4mL)を1、2、3、4、5、6および24時間後に採取し、新規緩衝液(4mL)を加えた。試料をバイオフィルム培地で50倍に希釈し、バイオフィルム形成量を24時間後に測定した。(B)は、GDAで処理したカンジダ・グラブラタの正規化バイオフィルム形成を示す図である。GDAのペレットをpH3.71の緩衝液(10mL)に37℃で加えた。試料(4mL)を1、2、3、4、5、6および24時間後に採取し、新規緩衝液(4mL)を加えた。試料をバイオフィルム培地で50倍に希釈し、バイオフィルム形成量を24時間後に測定した。
【
図6】(A)は、種々の濃度のグルコノ-δ-ラクトン(GDA)で24時間処理後のC.アルビカンスおよびC.グラブラタのバイオフィルムの生存率を示す図である。バイオフィルム染色は、XTTを用いて実施した。光学密度は、485nmで測定した。斜線のバーは、C.アルビカンスのデータを示す。中実黒色のバーは、C.グラブラタのデータを示す。(B)は、種々の濃度のGDAで48時間処理後のC.アルビカンスおよびC.グラブラタのバイオフィルムの生存率を示す図である。バイオフィルム染色は、XTTを用いて実施した。光学密度は、485nmで測定した。斜線は、C.アルビカンスのデータを示す。中実黒色のバーは、C.グラブラタのデータを示す。
【
図7】C.アルビカンスおよびC.グラブラタの成熟バイオフィルムに対するグルコノ-δ-ラクトン(GDA)の効果を示す。成熟バイオフィルム(48時間成長)をGDAと共に37℃で5時間インキュベートした後、段階希釈した細胞をYPDプレート上に播種し細胞生存を推定した。
【
図8】(A)は、未処理C.アルビカンスの最少培地pH7.0中でのバイオフィルム発生のマイクロ流体試験を示す。未処理細胞は、主に菌糸を形成する。(B)は、x50最終濃度pH3.8でグルコノ-δ-ラクトン(GDA)の加水分解物を含む最少培地中で処理したC.アルビカンスのバイオフィルム発生のマイクロ流体試験を示す。GDAの添加はC.アルビカンスを、菌糸としてではなく、主に酵母型として成長させた。
【
図9】種々のpH(2.6~6.6)を有する培地を得るために、リン酸緩衝液(中実四角)、クエン酸(中空四角)、乳酸(中実三角)、グルコン酸(中実円)またはグルコノ-δ-ラクトン(中空円)のいずれかで処理した大腸菌K12のバイオフィルム形成を示す図である。バイオフィルムをクリスタルバイオレットで染色した。
【発明を実施するための形態】
【0018】
化合物
一態様では、本発明は、式I:
【化3】
の化合物またはそのラクトンを含む、微生物感染症の治療および/または予防で使用するための医薬組成物に関し、式中、
Rは、H、-アルキル、-C(O)アルキルおよびフェニルからなる群より選択され;
R’は、-OR、-Hおよびハロゲンからなる群から独立に選択され;および
nは、整数1、2または3であり、
但し、微生物感染症が真菌感染症である場合、式Iの化合物は式(XIV)の化合物:
【化4】
またはそのラクトンではない。
【0019】
一実施形態では、アルキルはC1~C20脂肪族鎖である。本明細書で使用される場合、用語の「脂肪族鎖」は、非芳香族炭化水素を指す。上記脂肪族鎖は、直鎖、分岐および/または環状であってよい。上記脂肪族鎖は、飽和または不飽和の環状であってよい。上記脂肪族鎖では、1個または複数の水素が、1個または複数のベンゼン部分を含む芳香族部分により置換されてもよい。
【0020】
一実施形態では、アルキルは、C1~C20脂肪族鎖であり、1個または複数の水素が-OH、=O、またはフェニルで任意に置換され、また、1個または複数の脂肪族鎖のCH2基がO、S、またはNHで任意に置換される。脂肪族鎖の1個または複数のCH2基がO、S、またはNHで任意に置換されるアルキルの非限定的例は、エーテル、チオエーテルおよび第三級アミンである。一実施形態では、アルキルは、C1~C20脂肪族鎖、例えば、C1~C15脂肪族鎖、C1~C10脂肪族鎖、C1~C5脂肪族鎖など;C5~C20脂肪族鎖、例えば、C5~C15脂肪族鎖、C5~C10脂肪族鎖など;C10~C20脂肪族鎖、例えば、C10~C15脂肪族鎖などである。好ましい実施形態では、アルキルは、メチル、エチル、およびプロピルからなる群から選択される。
【0021】
一実施形態では、少なくとも1個のR’は-ORである。一実施形態では、少なくとも2個、例えば、少なくとも3個、例えば、少なくとも4個、例えば、少なくとも5個、例えば、少なくとも6個のR’はORである。好ましい実施形態では、R’は-ORである。
【0022】
一実施形態では、少なくとも1個のR’は-OHである。別の実施形態では、1個のR’は-Hであり、例えば、2個以下のR’は-Hである。好ましい実施形態では、R’は-Hである。
【0023】
一実施形態では、-ORはアセテートまたはラクテートである。
【0024】
水溶液では、式Iによる化合物は、対応するラクトン、例えば、δ-ラクトンおよびγ-ラクトンと平衡状態にある。一実施形態では、式Iの化合物は、それらのラクトンである。上記ラクトンは、好ましくは、δ-ラクトンまたはγ-ラクトンであり得る。
【0025】
一実施形態では、式Iの化合物は、下記からなる群から選択される。
【化5】
【0026】
別の実施形態では、式Iの化合物は、下記からなる群から選択される。
【化6】
【0027】
好ましい実施形態では、nは2である。
【0028】
一実施形態では、式Iの化合物は、下記である。
【化7】
【0029】
一実施形態では、式Iの化合物は、下記式XVの化合物である。
【化8】
【0030】
一実施形態では、式Iの化合物は、下記からなる群から選択される。
【化9】
【0031】
一実施形態では、式Iの化合物は、下記からなる群から選択される。
【化10】
【0032】
一実施形態では、化合物XIX、XXおよびXXIは、水溶液中で平衡状態にある。
【0033】
好ましい実施形態では、式Iの化合物は、下記グルコノ-δ-ラクトン(GDA、式XIXである。
【化11】
【0034】
別の実施形態では、化合物は、グルコノ-δ-ラクトン(式XIX)ではない。従って、一態様では、本発明は、微生物感染症の治療および/または予防で使用するための式Iの化合物に関し、但し、式Iの化合物はグルコノ-δ-ラクトン(式XIX)ではない。
【0035】
一実施形態では、本発明は、微生物感染症の治療および/または予防で使用するための式Iの化合物に関し、但し、式Iの化合物の化合物が式XIXの化合物の場合には、微生物感染症は真菌感染症ではない。
【0036】
一実施形態では、本発明は、微生物感染症の治療および/または予防で使用するための式Iの化合物に関し、但し、式Iの化合物の化合物が式XIXの化合物の場合には、微生物感染症は泌尿生殖器真菌感染症ではない。
【0037】
一実施形態では、本発明は、微生物感染症の治療および/または予防で使用するための式Iの化合物に関し、但し、式Iの化合物の化合物が式XIXの化合物の場合には、微生物感染症は外陰膣カンジダ症ではない。
【0038】
一実施形態では、本発明は、微生物感染症の治療および/または予防で使用するための式Iの化合物に関し、但し、微生物感染症が泌尿生殖器真菌感染症の場合には、式Iの化合物は、式XIVの化合物ではない。
【0039】
一実施形態では、化合物は、式Iの化合物のアセタールである。一実施形態では、化合物のオキソ基は、対応するアセタールであり、すなわち、式Iの化合物は下記からなる群より選択される。
【化12】
【0040】
一実施形態では、式Iの化合物は、下記からなる群から選択される。
【化13】
【0041】
ポリマー/オリゴマー
一実施形態では、式Iの化合物は、オリゴマー化されてオリゴマーを形成する。別の実施形態では、式Iの化合物は、重合されてポリマーを形成する。
【0042】
一実施形態では、オリゴマーまたはポリマーは、1種の式Iの化合物を含み、すなわち、オリゴマーまたはポリマーは、ホモオリゴマー/ポリマーであり、ここで1種の式Iの化合物はモノマーである。別の実施形態では、オリゴマーまたはポリマーは、混合オリゴマー/ポリマーであり、すなわち、ヘテロオリゴマー/ポリマーである。一実施形態では、オリゴマーは、少なくとも2種の異なる式Iの化合物を含む。
【0043】
一実施形態では、オリゴマーまたはポリマーは、乳酸をさらに含み、すなわち、乳酸オリゴマー/ポリマーである。
【0044】
一実施形態では、式Iの2種の化合物は連結されて二量体を形成する。一実施形態では、二量体は、2種の式XIVの化合物を含む。一実施形態では、二量体は、2種の異なる式Iの化合物を含む。
【0045】
感染症
一態様では、本発明は、式Iの化合物または微生物感染症の治療および/または予防で使用するための式Iの化合物を含む医薬組成物に関する。一実施形態では、本発明は、細菌感染症または真菌および細菌混合感染症の治療で使用されるグルコノ-δ-ラクトンに関する。
【0046】
一実施形態では、微生物感染症は泌尿生殖器感染症である。一実施形態では、 微生物感染症は腟感染症である。
【0047】
一実施形態では、感染症は哺乳動物の感染症であり、すなわち、上記治療を必要としている対象は哺乳動物である。好ましくは、哺乳動物はヒトである。一実施形態では、ヒトは女性である。上記女性は、妊婦の女性であり得る。
【0048】
一実施形態では、感染症は皮膚炎および/または湿疹である。上記皮膚炎および/または湿疹は、脂漏性皮膚炎であり得る。感染症はまた、上記皮膚炎または湿疹の二次感染症であり得る。
【0049】
本明細書で使用される場合、「二次感染症」という用語は、根本原因の続発症または合併症を指す。上記根本原因は原発性感染症であり得る。
【0050】
一実施形態では、感染症は全ての重症度のアクネ、または酒さ、口周囲または眼窩周囲皮膚炎などのざ瘡様状態である。
【0051】
一実施形態では、感染症はフルンケル症、カルブンケル症または毛包炎である。
【0052】
一実施形態では、感染症は口唇炎である。上記口唇炎は、口角口唇炎である。
【0053】
一実施形態では、感染症は顔、頭皮、胴体および/または鼠径部の感染症である。感染症は、上記領域での感染皮膚創傷の感染症であり得る。感染症はまた、身体の皮下脂肪中に位置し得る。
【0054】
一実施形態では、感染症は膿痂疹または丹毒である。
【0055】
一実施形態では、感染症は足の感染症である。上記足の感染症は、糖尿病性足創傷に付随し得る。一実施形態では、足の感染症は、陥入爪または足の疱疹に続発する。
【0056】
一実施形態では、感染症は動物咬傷後に生ずる二次感染症である。上記動物は昆虫であり得る。一実施形態では、感染症は虫刺され、蚊咬傷、ダニ咬傷、遊走性紅斑または皮膚良性リンパ腺腫の後に生ずる二次感染症である。
【0057】
一実施形態では、感染症は、単純ヘルペス、皮膚科学的、口腔もしくは生殖器の二次感染症、または帯状疱疹または水痘帯状疱疹の二次感染症である。
【0058】
一実施形態では、感染症は、火傷または切り傷などの、皮膚の損傷の二次感染症である。
【0059】
一実施形態では、感染症は、真菌性、細菌性または混合眼瞼炎である。
【0060】
一実施形態では、感染症は結膜炎である。
【0061】
一実施形態では、感染症は腟炎または子宮頸管炎である。
【0062】
一実施形態では、感染症は腟トリコモナスに起因する。一実施形態では、感染症はトリコモナス症である。
【0063】
一実施形態では、微生物感染症は、真菌感染症、細菌感染症ならびに真菌および細菌混合感染症からなる群より選択される。
【0064】
細菌感染症
いくつかの実施形態では、微生物感染症は細菌感染症である。一実施形態では、微生物感染症は真菌および細菌混合感染症である。
【0065】
一実施形態では、細菌感染症は歯周炎である。
【0066】
一実施形態では、細菌感染症は細菌性腟症である。
【0067】
一実施形態では、細菌感染症は、ガードネレラ・バジナリス感染症、トラコーマ病原体感染症、淋菌感染症、梅毒トレポネーマ(梅毒)感染症、アトポビウム・バギナエ感染症、プレボテラ種感染症、モビルンカス種感染症、ペプトストレプトコッカス種感染症、ポルフィロモナス種感染症、マイコプラズマ・ホミニス感染症、バクテロイデス種感染症、ウレアプラズマ・ウレアリチカム感染症、連鎖球菌種感染症、腸内細菌科感染症、腸球菌感染症、ブドウ球菌種感染症、緑膿菌感染症、アシネトバクター・バウマンニ感染症、化膿性連鎖球菌感染症、ストレプトコッカス・アガラクチア感染症、C群およびG群β型溶血連鎖球菌感染症および/またはジンジバリス菌感染症からなる群より選択される。
【0068】
一実施形態では、感染症は、A群またはB群連鎖球菌または多耐性細菌の口腔、鼻内または肛門生殖器コロニー形成に続発する。
【0069】
一実施形態では、感染症は肛囲溶連菌皮膚炎である。
【0070】
真菌および細菌混合感染症
一実施形態では、上記微生物感染症は真菌および細菌混合感染症である。上記真菌および細菌混合感染症の細菌成分は、本明細書で定義の細菌感染症の通りであり得る。上記真菌および細菌混合感染症の真菌成分は、本明細書で定義の真菌感染の通りであり得る。一実施形態では、真菌および細菌混合感染症の上記真菌成分は、カンジダ症である。
【0071】
上記真菌および細菌混合感染症は、間擦疹性の皮膚炎または爪囲炎であり得る。
【0072】
真菌感染症
いくつかの実施形態では、微生物感染症は真菌感染症である。一実施形態では、 微生物感染症は細菌および真菌混合感染症である。一実施形態では、上記真菌感染症は真菌症である。上記真菌症は、皮膚糸状菌症、カンジダ症、コクシジオイデス症、ヒストプラスマ症、ブラストミセス症、パラコクシジオイデス症、スポロトリコーシス、クロモミコーシスおよびフェオミコーシス性膿瘍、アスペルギルス症、クリプトコッカス症、接合菌症、および菌腫からなる群から選択され得る。
【0073】
好ましい実施形態では、真菌症はカンジダ症である。上記カンジダ症は、外陰および腟のカンジダ症;皮膚および爪のカンジダ症;泌尿生殖器および胃腸部位のカンジダ症;カンジダ性口内炎;乳房および乳頭カンジダ症;肺カンジダ症;カンジダ性髄膜炎;カンジダ性心内膜炎;およびカンジダ性敗血症からなる群から選択され得る。
【0074】
一実施形態では、真菌症は皮膚糸状菌症である。上記皮膚糸状菌症は、爪白癬;足指爪真菌症;鼡径部白癬;足白癬;手白癬;白癬性毛瘡;石綿状癬;頭部白癬;体部白癬;渦状癬;および股部白癬からなる群から選択され得る。
【0075】
一実施形態では、真菌感染症は、カンジダ種感染症、例えば、カンジダ・アルビカンス感染症、カンジダ・クルセイ感染症、カンジダ・グラブラタ感染症、カンジダ・トロピカリス感染症;白癬菌種感染症、例えば、トリコフィトン・ベルコースム感染症、紅色白癬菌感染症、紫色白癬菌感染症、トリコフィトン・トンズランス感染症;および小胞子菌種感染症、例えば、イヌ小胞子菌感染症;アスペルギルス感染症およびマラセチア感染症からなる群より選択される。
【0076】
一実施形態では、感染症は出芽酵母に起因する。
【0077】
一実施形態では、真菌症は癜風である。
【0078】
一実施形態では、式Iの化合物は、式XIXの化合物ではなく、かつ真菌感染症は、泌尿生殖器真菌感染症ではない。
【0079】
別の実施形態では、式Iの化合物は、式XIXの化合物ではなく、かつ真菌感染症は、外陰膣カンジダ症ではない。
【0080】
さらに別の実施形態では、真菌感染症は、泌尿生殖器真菌感染症ではなく、かつ式Iの化合物は、下記の化合物ではない。
【化14】
【0081】
ウイルス感染症
一実施形態では、微生物感染症はウイルス感染症である。一実施形態では、ウイルス感染症はHIVである。
【0082】
処方
いくつかの実施形態では、本発明は、微生物感染症の治療で使用するための式Iの化合物を含む医薬組成物に関する。一実施形態では、医薬組成物は、タブレット、口腔内崩壊錠(または口腔内溶解錠(ODT))、トローチ剤、ガム、チューインガム、クリーム、ローション、ゲル、乳剤、溶液剤、発泡剤、軟膏、噴霧剤、懸濁うがい薬、口内洗浄剤、含嗽液剤、口内浴、マニキュア液、皮膚貼付剤またはシャンプーとして処方される。一実施形態では、上記溶液は、包帯、手当用品および/または湿布での使用に適する。
【0083】
一実施形態では、医薬組成物は、少なくとも10重量%など、少なくとも15重量%など、少なくとも20重量%など、少なくとも25重量%など、少なくとも30重量%など、少なくとも40重量%など、少なくとも50重量%など、少なくとも60重量%などの、少なくとも5重量%の式(I)の化合物を含む。
【0084】
一実施形態では、医薬組成物は、先行請求項のいずれか1つの使用のためであり、医薬組成物は、95重量%程度など、90重量%程度など、85重量%程度など、80重量%程度など、75重量%程度などの、99重量%程度の式(I)の化合物を含む。
【0085】
一実施形態では、医薬組成物は、10~95重量%など、15~95重量%など、20~90重量%など、40~95重量%など、40~95重量%など、50~95重量%などの、5~99重量%の式(I)の化合物を含む。
【0086】
一実施形態では、医薬組成物は、5重量%程度などの、10重量%程度の水を含む。
【0087】
本明細書で使用される場合、「抗菌剤(antimicrobial agent)」は、当該技術分野において既知である微生物(例示的微生物は細菌、真菌、ウイルスおよび他の病原体などの微生物を含む)の成長を減らすまたはなくすまたは阻害することができる薬剤を指す。同様に、用語の「抗真菌剤」は、真菌の成長を減らすまたはなくすまたは阻害することができる薬剤を指し、用語の「抗菌薬(antibacterial agent)」は、細菌の成長を減らすまたはなくすまたは阻害することができる薬剤を指す。
【0088】
一実施形態では、医薬組成物は、1種または複数の抗真菌剤をさらに含む。一実施形態では、本発明は、1種または複数の微生物感染症の治療方法に関し、方法は、式Iの化合物および抗菌剤の、それを必要としている個体への同時投与を含む。一実施形態では、上記抗菌剤は、抗真菌剤または抗菌薬である。上記抗真菌剤は、ミコナゾール、テルコナゾール、イソコナゾール、フェンチコナゾール、フルコナゾール、ナイスタチン、ケトコナゾール、クロトリマゾール、ブトコナゾール、エコナゾール、チオコナゾール、イトラコナゾール、5-フルオロウラシル、およびメトロニダゾールからなる群から選択される。
【0089】
一実施形態では、医薬組成物は、1種または複数の抗菌薬をさらに含む。抗生物質は、細菌感染症の治療および予防で使用される抗菌剤の1種である。上記抗菌薬は、クリンダマイシン、テトラサイクリン、アモキシシリン、アンピシリン、エリスロマイシン、ドキシサイクリン、ロメフロキサシン、ノルフロキサシン、アフロキサム、シプロフロキサシン、アジスロマイシン、およびセフロトキシンからなる群から選択され得る。
【0090】
一実施形態では、医薬組成物は、ステロイドをさらに含む。上記ステロイドはコルチゾンであり得る。
【0091】
一実施形態では、医薬組成物は、タンポン、バギトリウム(vagitorium)、腟エアロゾル、腟カップ、膣ゲル、膣挿入物、膣パッチ、膣リング、膣スポンジ、膣坐剤、膣クリーム、膣エマルション、膣フォーム、膣ローション、膣軟膏、膣粉末、膣シャンプー、膣溶液、膣スプレー、膣懸濁剤、膣錠、膣ロッド、膣ディスク、膣デバイス、およびこれらの任意の組み合わせとして処方されるか、または医薬組成物は、タンポン、生理用ナプキン、尿漏れ防止パッドもしくはおむつ、またはパンティーライナー等の、衛生用品上に存在する。
【0092】
一実施形態では、医薬組成物は、少なくとも1日1回、例えば、少なくとも1日2回、例えば、1日3回の投与に適する。
【0093】
一実施形態では、医薬組成物は、2日おき程度など、週1回程度などの、隔日程度の投与に適する。
【0094】
一実施形態では、医薬組成物は、6日程度の投与に適する。
【0095】
一実施形態では、医薬組成物は、少なくとも2週間など、少なくとも3週間など、少なくとも4週間などの、少なくとも1週間にわたる投与に適する。
【0096】
一実施形態では、医薬組成物は、少なくとも1週間にわたる少なくとも1日1回の投与に適する。
【0097】
一実施形態では、医薬組成物は、式Iによる化合物を、少なくとも4時間にわたるなど、少なくとも6時間にわたるなど、少なくとも24時間にわたるなど、長期間にわたり放出するように処方される。
【0098】
バイオフィルム形成の防止および/または低減のための方法
一態様では、本発明は、バイオフィルム形成の防止および/または低減のための方法に関し、方法は、式Iの化合物の投与を含む。本明細書で使用される場合、用語の「バイオフィルム」は、微生物の凝集体を指し、その凝集体では、微生物細胞が相互におよび/または表面に付着している。これらの付着細胞は多くの場合、例えば、細胞外DNA、タンパク質、およびポリサッカライドを含む、細胞外のポリマー物質のマトリックスで覆われている。バイオフィルム中で成長する微生物細胞は多くの場合、同じ生物の浮遊細胞とは生理学的に異なる。
【0099】
このようなバイオフィルムは、任意の生体表面または非生体表面上に形成され得る。一実施形態では、バイオフィルムは、哺乳動物中または哺乳動物上のバイオフィルムである。
【0100】
一実施形態では、バイオフィルムは、インプラントまたはプロテーゼのバイオフィルムである。本明細書で使用される場合、用語「インプラントまたはプロテーゼ」は、体の部位のための人工の代用品、および機能的、美容的、または治療目的のために組織中に挿入される物質を指す。インプラントまたはプロテーゼは、義手および義足の場合のように機能的であり得、または義眼の場合のように美容的であり得る。全ての外科的に身体中に挿入または移植されるインプラントは、治療的に使用される傾向がある。
【0101】
上記インプラントまたはプロテーゼは、カテーテル、末梢静脈カテーテル、中心静脈カテーテル、心臓弁、補助人工心臓、冠動脈ステント、神経外科的心室シャント、埋め込み型神経学的刺激剤、関節プロテーゼ、骨折固定用具、膨脹性陰茎インプラント、乳房インプラント、人工内耳、眼内レンズ、歯科用インプラント、喉頭摘出術用インプラント、気管開口用インプラント、人工喉頭、顎運動用インプラント、鼓膜切開術用インプラント、および歯インプラントからなる群から選択される。
【0102】
早産の防止で使用するための方法
一実施形態では、微生物感染症は細菌性外陰腟炎である。子宮頸部熟化または頸管不全により、上記感染症は、子宮に移動し、絨毛羊膜炎およびこれに続いて早産を引き起こす場合がある。腟炎または子宮頸管炎などの過剰の炎症は、絨毛羊膜炎の顕在化がない場合でも、プロスタグランジン産生を介して早発収縮および早産を引き起こし得ることを裏付ける証拠が存在する。早産新生児はその後、未熟児の新生児免疫不全に起因する侵襲的細菌感染症;肺炎、髄膜炎または敗血症に遭遇する可能性がある。特にA群およびB群連鎖球菌および多耐性細菌は、乳幼児での重篤な周産期感染症および新しく出産した女性での分娩後の子宮内膜炎を生じる場合があり、かつ新生児および母体両方の重篤な罹患率および死亡率の原因であり得る。
【0103】
別の実施形態では、微生物感染症は外陰膣カンジダ症である。早産新生児は、特に新生児集中治療室において、細菌感染症より高い罹患率および死亡率を生ずる最も重篤な院内感染症の1種である侵襲的カンジダ感染症に遭遇する可能性がある。
【0104】
従って、一態様では、本発明は、早産の防止で使用するための式Iの化合物に関する。さらに好ましい実施形態では、上記化合物は、経膣投与される。化合物は、タンポン、バギトリウム(vagitorium)、腟エアロゾル、腟カップ、膣ゲル、膣挿入物、膣パッチ、膣リング、膣スポンジ、膣坐剤、膣クリーム、膣エマルション、膣フォーム、膣ローション、膣軟膏、膣粉末、膣シャンプー、膣溶液、膣スプレー、膣懸濁剤、膣錠、膣ロッド、膣ディスク、膣デバイス、およびこれらの任意の組み合わせとして処方され得るか、または化合物は、タンポン、生理用ナプキン、尿漏れ防止パッドもしくはおむつ、またはパンティーライナー等の、衛生用品上に存在する。
【0105】
実施例
実施例1:種々のヒドロキシル化カルボン酸の効果
バイオフィルム形成アッセイ
酵母菌株(表1)を、完全培地YPD(0.5%酵母エキス、1%ペプトン、2%グルコース)中または0.5%硫酸アンモニウム、0.2%グルコースおよび100mMのL-プロリンを補充したYNB(アミノ酸および硫酸アンモニウム不含酵母窒素ベース、FORMEDIUMTM(商標)、CYN0505)からなる最少培地中にて37℃で成長させた。必要に応じ、2%寒天を用いて培地を固化させた。液体最少培地(0.5%硫酸アンモニウム、0.2%グルコースおよび100mMのL-プロリンを補充したYNB(アミノ酸および硫酸アンモニウム不含酵母窒素ベース、FORMEDIUMTM(商標)、CYN0505))をバイオフィルムアッセイに使用した(バイオフィルム培地)。
【0106】
バイオフィルムに対するpHの影響に関する実験では、pH値(2.6~6.6)を、最終濃度0.25Mの種々のリン酸カリウム緩衝液を使って、またはクエン酸、乳酸およびグルコン酸をバイオフィルム培地に添加することにより得た。
【表1】
【0107】
バイオフィルムを、いくつかの修正を加えて[K.Scherz et al.,G3(Bethesda),2014,4,1671-1680.I.Serrano-Fujarte et al.Biomed Res Int.2015;2015:783639]に記載のようにして、液体培養で測定した。バイオフィルムアッセイの前に、酵母培養物を液体YPD培地中で定常期(OD600:11~172)まで24時間成長させた後、細胞を遠心分離(1699g)によりペレット化し、滅菌水で洗浄し、細胞を試験バイオフィルム培地(0.5%硫酸アンモニウム、0.2%グルコースおよび100mMのL-プロリンpH7.0を補充したYNB(アミノ酸および硫酸アンモニウム不含の酵母窒素ベース))中に最終濃度0.2OD600/mlの濃度でさらに接種し、96ウェル平底ポリスチレンマイクロタイタープレート(Sigma Aldrich、Corning(登録商標)Costar(登録商標)培養プレート、CLS3596-50EA)中にて37℃サーモスタットで72時間インキュベートした。所定の時点で、クリスタルバイオレット(HT901-8FOZ;Sigma Aldrich)を最終濃度0.05%で培地に加え、さらに総バイオマスを測定した。細胞染色の24時間後に、プレートウェルを200μlの水で4回洗浄して浮遊細胞を除去した後、バイオフィルムを乾燥し、200μlの96%エタノールに溶解した。総バイオマスおよびクリスタルバイオレットバイオフィルム染色測定値をOD560で、FLUOstar OPTIMAプレートリーダー、BMG LABTECHを用いて実施した。クリスタルバイオレットバイオフィルム測定値を総バイオマスに対し正規化した(OD560バイオフィルム/OD560総バイオマス)。
【0108】
種々のヒドロキシル化カルボン酸の効果
種々のヒドロキシル化カルボン酸の効果を低濃度で比較するために、バイオフィルム形成を0.06重量%のグリセリン酸、キシロン酸、クエン酸、グルコン酸、および乳酸の添加の24時間後に非緩衝条件下で測定した。結果を表2および
図1に示す。
【表2】
【0109】
表2から認められるように、グルコン酸が最も効果のある化合物であり、乳酸およびクエン酸がそれに続く。乳酸をグルコン酸で置換することにより、50%超少ないバイオフィルム形成が得られた(対照の6%対13%)。バイオフィルム形成が低pHに極めて敏感であること、および乳酸およびクエン酸に比較してグルコン酸のみが中等度のpHの低下をもたらすことを考えると、結果は興味深いものである。
【0110】
実施例2:種々のpHでのカンジダ・アルビカンスのバイオフィルム形成
バイオフィルム形成の防止におけるグルコン酸の効果をさらに評価するために、種々のpHでのグルコン酸、乳酸およびクエン酸に対するバイオフィルム形成を測定した(実施例1で記載のように)。
【0111】
表3から認められるように、グルコン酸はカンジダ・アルビカンスのバイオフィルム形成に対し強力な効果を示し、一方で乳酸およびクエン酸からの効果は、それほど明白でない。さらに、グルコン酸は、少なくとも約6までのpHでも強力な効果を示すが、乳酸およびクエン酸で認められる効果は、pH5で既に減少し始める。加えて、グルコン酸は、pH2.6でバイオフィルム形成の完全な消失をもたらす。データを表3にまとめる。
【表3】
【0112】
実施例3:種々のpHでのカンジダ・グラブラタのバイオフィルム形成
カンジダ・グラブラタは、カンジダ・アルビカンスに比べて、処理が遙かに複雑である。しかし、より長い、すなわち、72時間の処理によりグルコン酸で明確な効果が得られる(表4)。
【表4】
【0113】
これらの結果に基づいて、グルコン酸は乳酸およびクエン酸に比べて、カンジダによるバイオフィルム形成を標的にすることにおいて優れた効果を有すると結論付けられた。乳酸およびクエン酸について観察された効果と対照的に、グルコン酸について観察された効果は、単なるpH関連効果ではない。効果は、pH6でも存在する。
【0114】
従って、グルコン酸は、バイオフィルム形成の低減により示されるように、抗真菌化合物として有用であると結論付けられる。この化合物は、生理学的におよび薬学的に許容可能である。従って、グルコン酸は、外陰膣カンジダ症の治療で使用するための医薬製剤を提供するために有用である。
【0115】
実施例4:グルコン酸誘導体の調製
グルコン酸のラクトン化/オリゴマー化
グルコン酸(GA)(H2O中の50重量%、4g)を開放バイアルに注ぎ込み、120℃に加熱した。24時間後、混合物を室温に冷却し、そこで混合物は固化した。
【0116】
グルコン酸(GA)の水溶液の組成を分析するために、GA(H
2O中の50重量%)をDMSO-d
6中に溶解し、
1H-および
13C-NMRにより分析した。ラクトン化/オリゴマー化グルコン酸(上記参照)をDMSO-d
6に溶解し、
1H-および
13C-NMRにより分析した。表5参照。
【表5】
【0117】
GAは、長時間の脱水時に、種々のラクトンならびにオリゴマー化物質の錯体混合物を形成すると結論付けられた。
【0118】
実施例5:グルコノ-δ-ラクトン(GDA)の加水分解
水溶液中で、グルコノ-δ-ラクトン(GDA)は、グルコン酸(GA、CAS526-95-4)と平衡状態にある。GDA(200mg)を蒸留H2O(20mL)、pH4緩衝液、pH5緩衝液、またはpH7緩衝液に37℃で加えた。旋光およびpHの経時変化を測定した。旋光、37℃で測定、ナトリウムD線、C=10mg/mL、経路長=10cm。GDAの旋光は約66°である。グルコン酸の旋光は約5°である[D.T.Sawyer,J.B.Bagger,J.Am.Chem.Soc.,1959,81,5302-5306]。
【0119】
この実験は、GDAが、GDAとGAの混合物へとゆっくり加水分解することを示す(
図2)。平衡はpH依存性であり、適切なGDA濃度が、全ての緩衝条件で存在する。
【0120】
実施例6:グルコン酸(GA)を用いるインビボ条件モデルでのバイオフィルム形成
ラクトン化/オリゴマー化グルコン酸(1.3g、2回繰り返し試料)のペレットをpH3.71の緩衝液(0.5MのKH
2PO/オルト-リン酸、10mL)に37℃で加えた。試料(4mL)を毎時間(1、2、3、4、5、6および24時間)に採取し、新規緩衝液(4mL)を加えた。試料をバイオフィルム培地(前出参照)で50倍に希釈し、バイオフィルム形成量を、上述のように24時間後に測定した。
図4Aからわかるように、放出GAは、カンジダ・アルビカンスのバイオフィルム形成量を顕著に低減する。さらに、ペレットの加水分解は、少なくとも最大6時間の間、おそらくさらに長く、防止効果を提供するのに十分に遅いように見える。効果はカンジダ・グラブラタではそれほど顕著ではない(
図4B)。データを表6にまとめる。
【表6】
【0121】
実施例7:グルコノ-δ-ラクトンを用いるインビボ条件モデルでのバイオフィルム形成
グルコノ-δ-ラクトン(GDA)(2.5g、2回繰り返し試料)のペレットをpH3.71の緩衝液(0.5MのKH
2PO
4/オルトリン酸、10mL)に37℃で加えた。試料(4mL)を一定の時点(1、2、3、4、5、6および24時間)に採取し、新規緩衝液(4mL)を加えた。試料をバイオフィルム培地(前出参照)で50倍に希釈し、バイオフィルム形成量を、上述のように24時間後に測定した。
図5Aからわかるように、放出GDAは、C.アルビカンスのバイオフィルム形成量を顕著に低減する。さらに、ペレットの加水分解は、少なくとも最大24時間の間、おそらくさらに長く、防止効果を提供するのに十分に遅いように見える。効果はC.グラブラタではそれほど顕著ではない(
図5B)。
【表7】
【0122】
結果は、C.アルビカンスおよびC.グラブラタ両方のバイオフィルム形成は、GDAの存在下で顕著に低減されたことを示している。バイオフィルム形成の低減に加えて、GDAは、C.アルビカンスおよびC.グラブラタの成熟バイオフィルムの生存率に影響を与え得る。
【0123】
実施例8:グルコノ-δ-ラクトンで処理したC.アルビカンスおよびC.グラブラタの成熟バイオフィルムの生存率
種々の濃度および種々の時間でのグルコノ-δ-ラクトン(GDA)で処理後のC.アルビカンスおよびC.グラブラタのバイオフィルムの生存率を、XTTでの細胞の染色により評価した。XXTは、細胞の生存率、および細胞傷害性の定量化のための比色分析法である。このアッセイは、テトラゾリウム塩XTTの切断に基づくものであり、この変換は生存細胞でのみ起こる。成熟バイオフィルムを、GDAに24時間曝露した。次に細胞をPBSで2回洗浄し、その後、XTT反応混合物を添加した。30分後に、光学密度を485nmで測定した。
【0124】
XTTアッセイは、インキュベーションの24時間後に既に、C.グラブラタについて生存率の大きな減少を示した(
図6A)。効果はC.アルビカンスではあまり明確ではなかったが、48時間後には明確に認められた(
図6B)。
【0125】
さらに、C.アルビカンスおよびC.グラブラタの成熟バイオフィルム(YNB、0.2%グルコース、100mMプロリン中で48時間成長)を種々の濃度(0.05~0.5g/ml)のGDAと共に37℃でインキュベートした。この目的のために、バイオフィルム培地(YNB、0.2%グルコース、100mMプロリン)を取り除き、GDAを加え、これを0.05、0.1、0.2および0.5g/mlの濃度で水中に溶解した。GDAとの5時間または73時間のインキュベーション後に、5μlの細胞を段階希釈(1:10~1:1000)で寒天培地YPD上に播種して、細胞生存を推定した。播種細胞を37℃で24時間インキュベートし、目視で分析した。水で処理した成熟バイオフィルム由来の細胞を対照として使用した。GDAはC.アルビカンスおよびC.グラブラタの細胞生存率を、特に高濃度で、低下させることが明らかになった。0.2および0.5g/mlの濃度では、インキュベーションの5時間後に、C.アルビカンスおよびC.グラブラタの両方の細胞生存率は約100倍低下した。0.5g/mlのGDAとのインキュベーションの73時間後に、C.アルビカンスの細胞生存率は、約1000倍低下した(データは示さず)。C.グラブラタは、GDAに対しより感受性が高いことが明らかになった(
図7)。
【0126】
実施例9:バイオフィルム発生のマイクロ流体試験
C.アルビカンス細胞形態を監視するために、我々は、顕微鏡およびマイクロ流体技術も使ってバイオフィルム発生の調査をした。酵母細胞を接種後、菌糸がバイオフィルム培地(100mMのプロリンおよび0.2%のグルコース、pH7.0を補充したYNB)中のインキュベーションの最初の1時間以内に形成し始めた。
図8Aは、5時間後の未処理細胞を示す。グルコノ-δ-ラクトン(2.5g)のペレットをpH3.71の緩衝液(0.5MのKH
2PO
4/オルトリン酸、10mL)に37℃で加えた。試料を1時間後に採取し、バイオフィルム培地で50倍希釈し、C.アルビカンスに加えた。5時間後に、ほとんどの処理細胞は、浮遊性であった(
図8B)。
【0127】
実施例10:グルコノ-δ-ラクトンの存在下での種々のカンジダ種の生存率
試験した他のカンジダ種もまたグルコノ-δ-ラクトン(GDA)に対し感受性が高かった(すなわち、XTTアッセイを用いる細胞生存率尺度、実施例8参照)。しかし、それらは種々のレベルの感度を示した。カンジダ・アルビカンスSC5314は、最も低い感受性を示し、カンジダ・クルセイシリコーン分離株A4-1は、最も高い感受性を示した。GDAに曝露された細胞は浸透圧安定化剤(0.5Mスクロース)を補充した培地に比べて、およびこれらの培地に対する未処理細胞に比較して、カルコフロールホワイトを含む培地でより低い生存率を有したので、GDA-毒性は、細胞壁損傷を介して媒介される。表3は、GDAにより示される定性的効果をまとめる。
【表8】
【0128】
結論として、(i)GDAはC.アルビカンスおよびC.グラブラタにより形成された成熟バイオフィルムを破壊できる、(ii)GDAへの曝露時に、C.アルビカンスは酵母型に転換し、同時に、C.グラブラタの生存率は低下する、(iii)効果は、他の株、すなわち、C.トロピカリスおよびC.クルセイでも明確である。
【0129】
実施例11:グルコン酸(GA)の乳酸(LA)とのコオリゴマー化
LA:GA(4:1モル比)
DL-乳酸(563mg、6.26mmol)およびD-グルコン酸(水中50%、0.5mL、1.57mmol)を試験チューブ中で混合し、130℃に加熱した。4時間後、温度を140℃に上げた。合計27時間後に、反応混合物を室温にした。上記反応混合物は、冷却時に固化した。
【0130】
LA:GA(8:1モル比)
DL-乳酸(569mg、6.32mmol)およびD-グルコン酸(水中50%、0.25mL、0.78mmol)を試験チューブ中で混合し、130℃に加熱した。4時間後、温度を140℃に上げた。合計27時間後に、反応混合物を室温にした。上記反応混合物は、冷却時に固化した。
【0131】
LA:GA(16:1モル比)
DL-乳酸(565mg、6.28mmol)およびD-グルコン酸(水中50%、0.35mL、0.39mmol)を試験チューブ中で混合し、130℃に加熱した。4時間後、温度を140℃に上げた。合計27時間後に、反応混合物を室温にした。上記反応混合物は、冷却時に固化した。
【0132】
LA:GA(10:1モル比、直接混合)
DL-乳酸(1g、11mmol)およびD-グルコン酸(水中50%、0.35mL、0.78mmol)を試験チューブ中で混合し、減圧下で130℃に加熱した。合計22時間後に、反応混合物を室温にした。上記反応混合物は、冷却時にほぼ完全に固体になった。
【0133】
LA:GA(10:1モル比、5時間予熱)
DL-乳酸(1g、11mmol)を130℃で減圧下にて予熱した。5時間後、D-グルコン酸(水中50%、0.35mL、1.1mmol)を加えた。減圧下にて130℃でさらに16時間後、反応混合物を室温にした。上記反応混合物は、冷却時に固化した。
【0134】
GA中の1重量%CA
D-グルコン酸(水中50%、4g)およびクエン酸一水和物(20mg、1重量%)を試験チューブ中で混合し、120℃に加熱した。合計15時間後に、反応混合物を室温にした。上記反応混合物は、冷却時に固化しなかった。
【0135】
GA中の5重量%CA
D-グルコン酸(水中50%、4g)およびクエン酸一水和物(105mg、5重量%)を試験チューブ中で混合し、120℃に加熱した。合計15時間後に、反応混合物を室温にした。上記反応混合物は、冷却時に固化しなかった。
【0136】
GA中の10重量%CA
D-グルコン酸(水中50%、4g)およびクエン酸一水和物(222mg、10重量%)を試験チューブ中で混合し、120℃に加熱した。合計15時間後に、反応混合物を室温にした。上記反応混合物は、冷却時に固化しなかった。
【0137】
これらの結果から、我々は、いずれも液体である純粋なグルコン酸または乳酸と異なり、グルコン酸は乳酸とオリゴマー化して固体を形成できることを示す。
【0138】
実施例12:グルコノ-δ-ラクトンおよび糖酸の大腸菌に対する効果
成長条件
菌株大腸菌K12をバイオフィルム試験に用いた。この株を、LB培地上、37℃で維持した。バイオフィルムを合成培地M9(x1 M9最小塩(Sigma M6030)、2mMのMgSO4、0.1mMのCaCl2および0.2%グルコース)中で調査し、この培地は、種々のpH(2.6~6.6)を得るために、リン酸緩衝液、クエン酸、乳酸、グルコン酸、またはグルコノ-δ-ラクトンを含んだ。
【0139】
バイオフィルム
大腸菌K12(OD600:約5.0)の一晩の培養物を滅菌水で洗浄し、種々のpHを有する種々の化合物の最終濃度0.2OD/mlのM9培地に播種した。バイオフィルム発生を96ウェル平底ポリスチレンマイクロタイタープレート(Sigma Aldrich,Corning(登録商標)Costar(登録商標)培養プレート、CLS3596-50EA)で調査した。バイオフィルムをクリスタルバイオレットで染色した。
【0140】
バイオフィルム実験中(24~48時間)に、菌株は、リン酸緩衝液を補充したpH6.1およびpH6.6のM9培地中でのみ、そのバイオマスを増大した(2~3倍)(
図9)。バイオマスは、他の培地では少なく、我々は、培地のpHの低下と共に細菌バイオマスの減少を観察した。酸(クエン酸、乳酸、グルコン酸)、およびグルコノ-δ-ラクトンは、成長に対して阻害効果を有した。成長阻害に加えて、培地のpHの低下は、バイオフィルム形成の低減をもたらした。最低量のバイオフィルムは、グルコン酸を補充した培地で観察された。バイオフィルム阻害で2番目に効果的なのは、乳酸であり、次がグルコノ-δ-ラクトンであった。リン酸培地に比べて、グルコン酸培地上のバイオフィルムは、pH2.6で38倍少なく、また、pH3.0で15倍少なかった。pH6.6では、グルコン酸および乳酸はバイオフィルムを約2倍低下させた。pH2.6のグルコノ-δ-ラクトンは、バイオフィルム形成を、24時間で14.2倍、および48時間で30倍、低下させた。
【0141】
培地のpHの低下は、大腸菌バイオフィルム発生に対して明確な効果があり、これは、殺菌効果に関係していると思われる(より少ないバイオフィルムは、より少ないバイオマスを伴う)。
【0142】
実施例13:ガードネレラ・バジナリス、ラクトバチルス・クリスパタス、およびラクトバチルス・イナースに対するグルコノ-δ-ラクトンのMIC試験
株
ガードネレラ・バジナリスCCUG3717
ラクトバチルス・クリスパタスCCUG44128
ラクトバチルス・イナースCCUG44025
【0143】
接種材料の調製
ガードネレラ・バジナリス、ラクトバチルス・イナース、およびラクトバチルス・クリスパタスをCCUG(Culture Collection of University of Gothenburg)で起眠した。継代培養プレートをG.バジナリス用にチョコレート-GLプレート上に、およびラクトバチルス種用にM.R.S.寒天プレート上に5%CO2、36℃で作製した。接種材料を継代培養プレートから調製した。コロニーを5mlの試験培地を含む培養チューブに播種し、約10個の直径3mmのガラスビーズと共に2分間ボルテックスした。コロニーを、溶液の濁度が0.4~0.5のOD475になるまで採取した。細菌溶液を位相差光学顕微鏡検査でx40でチェックして、細胞が分散されたことを確認した。各細菌懸濁液をその試験培地で、1~3x106CFU/mlに等しい、1:100に希釈した。微生物溶液を、接種材料の調製中20℃で保存した。
【0144】
微量希釈調製およびMIC試験
試験物質溶液を無菌H2O中の1g/mlで無菌調製した。第1のウェルの列を100μlの物質で満たし、その後、2倍希釈を8ステップで垂直に実施した。対照を含めた:i)各株成長対照(+対照)=抗菌剤(AM)不含試験培地中のそれぞれの微生物、ii)成長対照なし(-対照)=試験培地および試験した最高濃度の物質、これは、物質が単独で試験培地の色の変化を生じないことを確認するためである、iii)各株に対するゲンタマイシン対照。
【0145】
次に、100μlの微生物を加え、プレートを500rpmで30秒間、静かに振盪した後、5%CO2に設定したCO2インキュベーター中で35℃、90%RHでインキュベートした。播種の48および72時間後に、ODを測定し、目視評価を行った。pHも、全希釈物に対し測定した。n=1、pH=6.8~7.1。
【0146】
MIC試験微量希釈アッセイを3回繰り返して行って、5%CO
2で48時間インキュベート後のG.バジナリス(CAMHB)およびL.クリスパタス(IsoS-M.R.S.)に対する、および嫌気性条件下で120時間培養したL.イナースに対するGDAのMIC値を評価した(表7)。
【表9】
【0147】
ガードネレラ・バジナリスに対するGDAの最小阻止濃度(MIC)値は、ラクトバチルス・イナースおよびラクトバチルス・クリスパタスに対するGDAのMIC値より遙かに小さい。従って、GDAは、無害性のラクトバチルス・イナースおよびラクトバチルス・クリスパタスに対するよりも、ガードネレラ・バジナリスに対して効率的である。
【0148】
実施例14:大腸菌、表皮ブドウ球菌、スタフィロコッカス・エピデルミディス、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、アシネトバクター・バウマンニ、化膿性連鎖球菌、ストレプトコッカス・アガラクチア、C群およびG群β型溶血連鎖球菌ならびにジンジバリス菌に対するGDAのMIC試験。
株
好気性菌:
大腸菌CCUG3274/ATCC10536
表皮ブドウ球菌CCUG23118
黄色ブドウ球菌CCUG15915/ATCC29213
緑膿菌(PAO1)CCUG56489/ATCC15692
アシネトバクター・バウマンニCCUG57035
選好性好気性菌:
化膿性連鎖球菌CCUG47803/ATCC700294
ストレプトコッカス・アガラクチアCCUG29376
β型溶血連鎖球菌 C群連鎖球菌 dysgalactiae ss equisimilis CCUG4211
β型溶血連鎖球菌 G群連鎖球菌 dysgalactiae ss equisimilis CCUG7975
嫌気性菌:
ジンジバリス菌CCUG25893/ATCC33277
【0149】
接種材料の調製
全ての株をマイクロバンクから起眠し、画線培養し、継代培養プレートを作製した。好気性菌をTSAプレート上に、選好性好気性菌を馬血プレート上に、および嫌気性菌をFAAプレート上に作製。試験全体を通して、好気性菌を、好気性条件下で、選好性好気性菌を5%CO2下で、および嫌気性菌を厳格な嫌気性条件下で、37℃で培養した。試験時に、好気性菌および選好性好気性菌について18~24時間寒天プレートから選択した白金耳量のコロニーを、直径3mmの10個のガラスビーズを含む10mlのチューブ中の5mlの生理食塩水中に懸濁させた。
【0150】
嫌気性菌を、Concept400に懸濁し、希釈剤は、ヘミン(5μg/ml)、ビタミンK1(1μg/ml)、および溶解馬血(5%)を補充した還元Brucellaブロスであった。その後、細胞懸濁液を1分間強くボルテックスして、混濁懸濁剤を得た。各好気性菌および選好性好気性菌の懸濁液を、分光光度計を用いて475nmのODを0.28になるように調節した。この値は、ほとんどの種で1~3x108CFU/mlに対応する。嫌気性菌については、培地中の血液の使用に起因して、OD測定が困難であることが明らかになった。従って、これを、0.5マクファーランド標準と等しくなるように懸濁させ、接種材料の細胞密度をプレートカウントでチェックした。好気性菌および選好性好気性菌を、生理食塩水で10倍にさらに希釈し、接種材料濃度を1.5~3.0x107CFU/mlにした。嫌気性菌を、希釈せずに、そのまま直接使用した。種々の好気性および選好性好気性細菌懸濁液を96ウェルプレートのそれぞれのウェルに移した。A.バウマンニ、大腸菌、および緑膿菌をプレートの1列目に配置し、ブドウ球菌種を2列目に配置し、選好性好気性菌を3列目に配置した。嫌気性菌を25mlのマルチチャンネルピペットリザーバーに移した。
【0151】
微量希釈調製およびMIC試験
微量希釈調製およびMIC試験を、実施例13の場合のように実施した。
MIC微量希釈アッセイを3回繰り返して行って、グルコノ-δ-ラクトン(GDA)のMIC値を評価した(表10)。
【表10】
【0152】
大腸菌、表皮ブドウ球菌、スタフィロコッカス・エピデルミディス、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、アシネトバクター・バウマンニ、化膿性連鎖球菌、ストレプトコッカス・アガラクチア、C群およびG群β型溶血連鎖球菌ならびにジンジバリス菌に対するGDAの最小阻止濃度(MIC)は通常、ラクトバチルス・イナースおよびラクトバチルス・クリスパタス(実施例13)に対するGDAのMIC値より小さい。従って、GDAは、無害性のラクトバチルス・イナースおよびラクトバチルス・クリスパタスに対するよりも、これらの病原体に対してより効率的である。