(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】薄膜構造のレーザー処理方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/351 20140101AFI20240123BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20240123BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240123BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240123BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
B23K26/351
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M4/525
H01M4/38 Z
(21)【出願番号】P 2020544023
(86)(22)【出願日】2019-04-02
(86)【国際出願番号】 GB2019050953
(87)【国際公開番号】W WO2019193330
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-03-31
(32)【優先日】2018-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】515189520
【氏名又は名称】イリカ テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン ヘイデン
(72)【発明者】
【氏名】ルイス ターナー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス リスブリッジャー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス フォーリー
(72)【発明者】
【氏名】ナディーム リズヴィ
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/134053(WO,A1)
【文献】特表2014-523109(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0038825(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0010717(US,A1)
【文献】特開平11-147185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
H01M 10/0585、10/0562、
4/525、4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜構造を処理する方法であって、
基板の表面に支持された2つ以上の薄膜層のスタックを備える薄膜構造を提供し、前記スタックは基板表面に直交する深さを有するステップと、
直接書き込みレーザー技術を使用して、前記スタックの前記表面上の所望のカットラインの領域をカバーする走査経路に沿ってレーザービームを走査し、前記カットラインに沿っておよび前記スタックの前記深さを通して、少なくとも前記基板の表面まで前記スタックの材料をアブレーションして、前記スタックの前記深さを通してカットを形成するステップと、を備え、
ここで、前記直接書き込みレーザー技術は、1000フェムト秒以下の持続時間、100~1500nmの範囲の波長でパルスを出力し、50~100,000mJ/cm
2の範囲のフルエンスを供給する超短パルスレーザーを使用して実装され
、
さらに、前記レーザービームは、前記カットラインよりも小さなスポット幅を有し、前記レーザービームは、前記カットラインの幅に対しておよびその長さに沿って走査され、前記レーザービームは、0.001~0.1mmのスポット幅で前記スタックの前記表面に対して入射され、前記カットラインは0.015~2mmの幅を有しており、
さらに、前記方法は、前記スタックの前記深さを通してカットを形成するステップの後に、誘電体材料層を適用して前記スタックの前記表面、並びに前記カットの側壁および基部を覆うステップと、その後、前記カットの前記基部で残りの厚さの前記基板をスライスするステップとをさらに備える、方法。
【請求項2】
前記レーザー出力パルスは、
(a)300フェムト秒以下、
(b)200フェムト秒以下、または
(c)100~200フェムト秒
から選択される持続時間を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レーザービームは、
(a)1~10,000mm/s、
(b)50~600mm/s、または
(c)100~500mm/s
から選択される走査速度で走査経路に沿って走査される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記パルスは、
(a)0.1~10,000kHz
(b)1~1000kHz
(c)1~500kHz
(d)1~200kHz
(e)10~200kHzまたは
(f)100~200kHz
から選択される繰り返し数で前記レーザーから出力される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記レーザービームは、前記スタックの前記材料をアブレーションするために、前記走査経路に沿って1回以上走査される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記レーザービームは
、
(a)0.001~0.01mm、
(
b)0.01~0.1mm、または
(
c)0.01~0.02mm
から選択されるスポット幅で前記スタックの前記表面に入射する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記カットラインは
、
(a)0.1~2mm、または
(
b)0.5~1mm
から選択される幅を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記レーザービームは、前記カットラインの幅の50分の1以下のスポット幅で前記スタックの前記表面に入射する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記レーザービームは、スポットの中心で最大となる強度プロファイルを有するスポットを有し、前記スタックの前記表面に入射する、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記強度プロファイルは、ガウスプロファイルまたはベッセルプロファイルである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アブレーションは、前記カットが前記基板の前記表面と実質的に同じ深さを有するまで継続されるか、または前記カットが前記基板の前記表面を越えて延在する深さを有するまで継続され、ここで、前記深さは、
(a)500μm以下、
(b)200μm以下、
(c)100μm以下、
(d)1~100μm、
(e)1~50μm、
(f)1~25μm、
(g)1~10μm、または
(h)10μm以下
から選択される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記スタックの前記深さは、
(a)200μm以下、
(b)50~200μm、
(c)5~100μm、
(d)5~50μm、
(e)10~40μm、または
(f)10~20μm
から選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記スタックの前記薄膜層は、
(a)正極活物質、
(b)電解質材料、
(c)負極活物質、および
(d)負極集電体
を備える電池の層に対応する、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
(a)前記基板は、導電性基板であり、
(b)前記正極活物質は、LiCoO
2であり、
(c)前記電解質材料は、LIPON、ホウケイ酸リチウム、または窒素ドープホウケイ酸リチウムであり、
(d)前記負極活物質は、アモルファスSiであり、および
(e)前記負極集電体は、プラチナまたはモリブデンである、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記レーザーは、正弦波パターンで走査される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記正弦波パターンは、前記カットライン幅に垂直な伝播を伴う波を備え、ピークトゥピーク振幅がカットライン幅以下である、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
前記カットラインは、カットによって前記スタックを互いに分離された複数の要素に分割するように形作られる、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記レーザービームは、前記走査経路に沿って3回以上走査される、請求項5に記載の方法。
【請求項19】
前記パルスは、前記レーザーから10~250kHzの繰り返し数で出力される、請求項4に記載の方法。
【請求項20】
前記パルスは、前記レーザーから100~250kHzの繰り返し数で出力される、請求項
19に記載の方法。
【請求項21】
請求項1から16および
18から
20のいずれか一項に記載の方法を使用して、薄膜電池層のスタックを備える薄膜構造から、電池用の要素を分離するカットを形成するステップを含む、薄膜電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、レーザーを使用して薄膜構造を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な材料の薄膜層のスタックを備える薄膜構造は、電池などのデバイスの製造において製造される。スタックは通常、ウェーハとも呼ばれる基板上に複数の層を堆積させることによって形成される。利便性と取り扱いの容易さのために、その基板上のスタックは、製造される個々のデバイスの必要な面積よりも非常に大きい面積を有し得る。したがって、デバイス製造のステップには、スタックを、それぞれが個別のデバイスを形成することになるより小さな部品または要素に分離することが含まれる。これは、スタックを通した第1の分離段階および基板をダイシングするための第2の段階など、複数の段階で実行され得る。
【0003】
従来、分離は、レーザービームからの光が必要な線に対応するようにパターン化されたマスクを通してスタック表面に投射される、シャドウマスキング技術を使用して実行され得る。レーザー光のエネルギーにより、マスクで遮られていない材料が除去され、ウェーハが必要な小さなパーツに分割される。エキシマレーザーは、この目的で一般的に使用される。この技術では、マスクの製造が必要である。また、スタック全体にわたって均一に分離するには、マスク全体に均一な強度の光のフィールドを投影する必要があり、これを達成するのは困難であり得る。
【0004】
したがって、作製された薄膜スタックから要素を分離するための代替方法が関心となる。
【発明の概要】
【0005】
態様および実施形態は、添付の特許請求の範囲に示されている。
【0006】
本明細書に記載の特定の実施形態の第1の態様によれば、基板の表面に支持された2つ以上の薄膜層のスタックを備える薄膜構造を提供し、スタックは基板表面に直交する深さを有する、ステップと、直接書き込みレーザー技術を使用して、スタックの表面上の所望のアブレーションラインの領域をカバーする走査経路に沿ってレーザービームを走査し、アブレーションラインに沿っておよびスタックの深さを通して少なくとも基板の表面までスタックの材料をアブレーションすることにより、スタックの深さを通してアブレーションを形成するステップと、を含み、ここで、直接書き込みレーザー技術は、1000フェムト秒以下の持続時間、100~1500nmの範囲の波長でパルスを出力し、50~100,000mJ/cm2の範囲のフルエンスを供給する超短パルスレーザーを使用して実装される、薄膜構造を処理する方法が提供される。次のテキスト(式1)で説明するように計算された、単位面積に入射する平均総エネルギーETは、1x10-6mJ/mm2~1000mJ/mm2である。
【0007】
本明細書に記載の特定の実施形態の第2の態様によれば、第1の態様による方法を使用して、電池用の要素を薄膜電池層のスタックを備える薄膜構造から隔離するアブレーションを形成することを含む、薄膜電池を製造する方法が提供される。
【0008】
特定の実施形態のこれらのおよびさらなる態様は、添付の独立請求項および従属請求項に示されている。従属請求項の特徴は互いに組み合わせられ得、独立請求項の特徴は、請求項に明示的に記載されたもの以外の組み合わせで組み合わせられ得ることが理解されよう。さらに、本明細書に記載されるアプローチは、以下に示されるような特定の実施形態に限定されず、本明細書に提示される特徴の任意の適切な組み合わせを含み、企図する。例えば、レーザー加工方法は、必要に応じて以下に記載される様々な特徴のうちの任意の1つ以上を含む、本明細書に記載されるアプローチに従って提供されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明をよりよく理解するため、および本発明がどのように実施され得るかを示すために、ここで、例として、添付の図面を参照する。
【0010】
【
図1】本開示の方法が適用され得る例示的な薄膜スタックの概略断面図を示す。
【
図2】本開示の方法を実施し得る例示的な装置の概略図を示す。
【
図3】本開示の方法が適用され得る例示的な薄膜スタックの概略平面図を示す。
【
図4】本開示による、レーザー直接書き込みプロセスの適用後の
図1のスタックの概略断面図を示す。
【
図5】封入ステップ後の
図4のスタックの概略断面図を示す。
【
図6】電気接続を可能にするためのさらなる処理ステップ後の
図5のスタックの概略断面図を示す。
【
図7】
図6のスタックからダイシングされたセルの概略断面図を示す。
【
図8】導電性トラック層を適用した後の
図7のセルの概略断面図を示す。
【
図9A】本開示の例示的な方法を使用した、それぞれ切断の前後の封入された薄膜電池の写真画像を示す。
【
図9B】本開示の例示的な方法を使用した、それぞれ切断の前後の封入された薄膜電池の写真画像を示す。
【
図10】
図9Bのような電池から測定された充放電サイクルのグラフを示す。
【
図11】
図11Aは、
図9Bのような電池から測定された複数の充放電サイクルにわたる電池容量のグラフを示す。
図11Bは、薄膜電池の別の例から測定された複数の充放電サイクルにわたる電池放電容量のグラフを示す。
図11Cは、薄膜電池の別の例から測定された複数の充放電サイクルにわたる電池放電容量のグラフを示す。
【
図12A】本発明の例示的な方法を使用して薄膜スタックに作製された長方形のカットの走査型電子顕微鏡画像を示す。
【
図12B】本発明の例示的な方法を使用して薄膜スタックに作製された長方形のカットの走査型電子顕微鏡画像を示す。
【
図13】レーザービームが基板に対して90°未満の角度でスタックに入射した、レーザー処理されたスタックのエッジの走査型電子顕微鏡画像を示す。
【
図14】本発明の例示的な方法についての、レーザーラスターレートとアブレーション深さとの間の関係のバーチャートを示す。
【
図15】本発明の例示的な方法について、面積ごとに送達される総レーザーエネルギーとアブレーション深さとの間の関係のバーチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
特定の例および実施形態の態様および特徴は、本明細書で論じられ/説明される。特定の例および実施形態のいくつかの態様および特徴は、従来通りに実装されてもよく、これらは、簡潔さのために詳細には議論/説明されない。したがって、詳細に説明されない、本明細書で論じられる装置および方法の態様および特徴は、そのような態様および特徴を実装するための任意の従来の技法に従って実装され得ることが理解されよう。
【0012】
本開示の実施形態は、基板上に積み重ねられた薄膜層を備える薄膜構造を処理する方法に関する。薄膜層は、任意の堆積技術を使用して基板上に順次堆積させるかさもなければ製造され得、基板表面上に支持された層のスタックを形成し得る。構造の処理は、直接書き込みレーザー技術(またはレーザー直接書き込み技術)を使用して、スタックを電池や他の電子部品などの個々のデバイスに適した小さな要素に分割することを含む。直接書き込みレーザー技術に使用されるパラメータについては、以下で詳しく説明する。直接書き込みレーザー技術は、スポットに成形および/または集束されたレーザービームが、処理対象のアイテム、この場合は薄膜スタック、の表面に直接入射する方法を指す。レーザービームとアイテムとの間の相対移動は、ラインに沿って、またはレーザービームからのエネルギーの供給によって可能になる効果が求められる領域にわたって、アイテムの表面全体にわたって入射スポットが走査されまたは書き込まれるように実行される。本開示における効果は、スタックを必要なより小さい要素に分割する、所望のカットラインに沿ったスタックからの材料の除去である。材料のアブレーションは、材料がカットラインに沿って除去される主なメカニズムである。直接レーザー書き込みは、レーザービームの露光領域が大面積のフィールド上などで固定されているおよび/またはビームがたとえばマスクを通過することによって間接的にのみ表面に到達する、レーザー加工技術とは対照的であるはずである。
【0013】
本開示によるレーザー加工技術は、薄膜構造を、電池としての使用を意図したより小さな要素に分割することに特に関する。本書に記載されている例は、電池に関するものであり得る。しかしながら、本開示は、この点に関して決して限定されず、他の要素または構成要素を対象とする薄膜スタックを含む任意の構造に適用可能である。電池への言及は、特定の文脈が他のことを示さない限り、他の構成要素に適用可能であると理解されるべきである。
【0014】
図1は、基板14の表面14a上に支持された多層薄膜スタック12の深さdを通る薄膜構造10の概略的な断面図(縮尺通りではない)を示す。スタック12の様々な薄膜層は、国際公開第2015/104538号(WO 2015/104538)、国際公開第2015/104539号(WO 2015/104539)および、国際公開第2015/104540号(WO 2015/104540)(参照文献1、2、3)に記載されている物理蒸着プロセスなどの蒸着プロセスを使用して、または例えばRFマグネトロンスパッタリングおよびDCスパッタリングなどのスパッタリングによって、堆積され得る。この例では、スタックは電池の製造用に設計されており、そのためスタック12の層は、電池のさまざまな構成要素を実装するのに適した層を備える。基板14は、非導電性、半導電性、導電性材料(チョクラルスキー法によって成長させたp型ホウ素ドープシリコン(CZシリコン)など)のウェーハである。シリコン、酸化アルミニウム(サファイア)、シリコンカーバイドまたはヒ化ガリウムなどの他の材料もまた使用され得る。表面14a上の第1の層は、チタンの層を備える接着層16である。これを覆っているのは、プラチナから形成されたカソード集電体18を提供する層である。コバルト酸リチウムの層は、プラチナ層18を覆うカソード20を形成する。リン酸リチウムオキシナイトライド(LiPON)を備える電解質セパレータ層22は、カソード20の上に堆積される。アモルファスシリコン(α-Si)層は、電解質層22の上に覆いかぶさり、アノード24を提供する。最後に、プラチナ層は、アノード24の上にアノード集電体26を形成する。しかしながら、この構造は純粋に例示であり、構造は、他の材料から形成されるより多くの層、より少ない層、または他の層を備え得る。
【0015】
製造されるか、さもなくば得られた構造10は、本開示によるレーザー直接書き込み技術の実施形態を使用して切断され得、個々の電池要素またはセルを互いに分離する。
【0016】
図2は、レーザー直接書き込み技術を実行するために使用され得る例示的な装置の概略図(縮尺通りではない)を示す。基板14上にスタック12を備える構造10は、基板14の表面14aに平行なXY平面内で構造の移動を提供するように構成された並進ステージ50または同様のデバイスに取り付けられる。移動は、スタック12の深さ(厚さ)に直交する。レーザー52は、フェムト秒またはピコ秒レジームの持続期間で一連の超短(超高速)パルス56として出力されるレーザー光のビーム54を生成するために提供される。ビーム54は、1つ以上のレンズ、ミラーなどを備える集束装置によって、スタック12の表面12aに向けられるスポット60に集束される。焦点は、スタックの表面12aの上部、表面上、または下部にあり得るため、表面12a上のスポット60は、焦点と一致してもしなくてもよい。図示のように、ビーム54は構造10にまっすぐに向けられているが、ミラーやプリズムなどのビーム配向光学系を含めて、より利便性がある場合、より複雑なビーム経路を生成することができる。しかしながら、一般に、ビーム方向は、入射点(スポット60の位置)でスタック表面12aに実質的に直交する。
【0017】
レーザー52の出力は、いくつかのパラメータによって特徴付けられる。これらには、波長、パルス持続時間、パルス繰り返し数、パルスパワーまたはエネルギー、および/または平均パワーまたはエネルギーが含まれる。これらのパラメータの1つ以上は調整可能または同調可能であり得るため、装置は、1つ以上のパラメータの値を変更できる1つ以上の制御または構成要素を備えるレーザー調整ユニット62を備え得る。ユニット62は、示されるようにレーザー52の一体部分であってもよく、追加または代替として、レーザー52とは別個でありビーム経路(図示せず)に配置される1つ以上の光学要素を備えてもよい。制御には、レーザー自体をオンまたはオフにチューニングすることによって、またはビームを不透明なバリアで遮断することによって、ビームをオンおよびオフにチューニングすることが含まれ得る。
【0018】
直接書き込みレーザー技術によれば、レーザビームスポット60は、スタックを切断するための所望の走査経路(以下でさらに説明される)に従ってスタック表面12a上を走査される。この例では、この走査または書き込みを行うために、並進ステージ50を使用して構造10をXY平面内で移動させ、スポット60が構造10とレーザービーム54との間の相対移動を介して必要な経路をたどるようにする。別の構成では、走査は、レーザー52が移動する間、またはビーム配向要素を使用してビーム54が移動する間、構造10が静止していることによって達成される。さらに、構造とレーザー52/ビーム54との両方を動かし得る。いずれの構成においても、スポット60がスタック表面12a上に意図された経路を書き込むために、スポット60とスタック表面12aとの間の位置の相対移動がもたらされる。
【0019】
書き込み経路は正確に配置する必要があり、走査速度(相対移動の速度)は非常に高速である。適切な精度で走査を実施するために、装置は、並進ステージ50の移動を自動的に制御する(例えば、適切にプログラムされたまたはプログラム可能なコンピュータ(マイクロプロセッサ)などの)コントローラ64を備え得る。好都合なことには、コントローラはまた、走査移動パラメータの制御と関連して(同期してなど)レーザー出力パラメータを調整できるように、レーザー調整ユニット62を制御し得る。移動がレーザーまたはビームを通して行われる場合、コントローラ64は、並進ステージ50の移動の代わりに、またはそれとともに、この移動を制御することができる。
【0020】
図3は、基板またはウェーハ14の表面上に薄膜スタック12を備える薄膜構造10の概略的な平面図(縮尺通りではない)を示す。スタックおよび基板は円形として示されているが、これは単なる例であり、他の形状が使用されてもよく、スタックおよび基板は同じ形状である必要はない。スタック12の表面12a上に重ねられているのは、複数の隣接する正方形から形成されたグリッドであり、グリッドのそれぞれは、スタック表面12aの総面積よりも小さい面積である。各正方形は、構造10から切り取られるセル28または他の要素に対応する。したがって、グリッドは、必要なカットライン70を表し、それに沿って構造10がスタック12の深さにわたって切断されて、セル28をそれらの隣接物および構造10の他の部分から分離することが意図される。グリッドの形状および個々のセル28の正方形の形状は、単なる例であることに留意されたい。1つ以上のカットライン70は、任意の形状で配置することができ、セル28または他の要素は、任意の所望のサイズまたは形状であることができ、すべて同じサイズまたは形状である必要はない。
図3に示すグリッドは、可能なカットラインの例を示すための例示のみを目的としている。実際には、カットライン70はスタック表面にマークされていない。
【0021】
図3は、カットライン70の一部の拡大図を含む。カットラインは幅Wを有し、これは、直接書き込みレーザー加工によって各隣接セル間のスタックから除去する必要がある材料の幅である。また、切断を行うためにスタック表面12aに入射するときのレーザービームからのスポット60も示されている。スポット60は幅または直径Sを有する(スポットは円形として示されているが、円形である必要はない)。スポット幅Sはカットライン幅Wよりも小さいことに留意されたい。示されているように、SはWの約3分の1だが、実際にはSはWの何倍も小さい(例えば1桁以上)ことがしばしばある。Sは、例えば、Sが0.015mmであり、Wが1mmであるように、Wよりも少なくとも50~100倍小さくてもよい。スポット幅は、ビーム強度プロファイルの半値全幅として定義され得る。したがって、カットライン70の下または後ろにあるスタックの必要な材料を除去するために、スポット60は、カットラインの幅に対しておよびその長さに沿って走査される必要がある。走査運動は、カットラインの領域をカバーするようにスポット60を移動させる。スポット60は、カットライン70が占める表面12aの全領域を通過するはずである。したがって、ほとんどの場合、レーザー書き込みは、スポット60の望ましいカットライン70に沿った単純な直線通過ではない。必要な量の材料除去を達成するために、XY平面でのスポットのより複雑な動作を行うことができる。動作により、スポットがカットライン領域のすべての部分を少なくとも1回通過するため、カットラインの下のスタック材料のすべての部分がレーザービームからエネルギーを受け取る。スポットの移動は、カットライン領域を均一にカバーするように設計された走査経路である。必要なカバレッジを達成するために、さまざまな動作が実装され得る。走査経路は連続的または不連続的であり得る。例えば、一連のハッチングされた走査線を使用して、均一なアブレーションの深さを達成することができる。ビームは、カットライン幅の一部にわたって第1の方向に走査され、また第1の方向にほぼ直交する第2の方向にも走査される。次に、さらに2つの直交方向が続き、第1のペアの方向に対してある角度で向けられる。これは、必要に応じてスタック材料に必要なエネルギーを供給するために、直交方向の第3、第4、またはそれ以上のペアで繰り返され得る(以下でさらに説明する)。方向は任意の順序でたどられ得、第1方向線のすべてまたは一つのグループは、第2方向線のすべてまたは一つのグループなどの前に走査され得、互いに平行であり、スポット幅Sよりも小さくてもよい(例えば、スポット幅の約半分である)ハッチングピッチによって間隔をあけられる、特定の方向に沿った複数の線で走査され得る。
【0022】
カットライン領域をカバーする他の走査経路は、たとえば、カットライン幅Wを横切る同じ方向の複数の平行ラインのラスタースキャン(中断された走査経路)、またはカットラインの幅Wを横切る連続した反対方向の複数の平行ラインの方形波蛇行走査(連続走査経路)を使用した。さらに、代替アプローチは、波の伝播がカットライン幅Wに垂直であり、ピークトゥピーク振幅がカットライン幅W以下およびエリア全体で均一なアブレーションを実現するのに十分な周波数ライン速度であるように、レーザーを正弦波パターンで走査することであり得る。このアプローチは、同一または変化した位置、振幅、および周波数のさらなる繰り返し走査でオーバーレイされ得る。これらは単なる例であり、他の経路またはパターンが使用され得る。
【0023】
方向を変更するか、パターンの境界で開始と停止を行うことのいずれかによって目的のアブレーションパターンを作成する直接書き込み方式を使用する利点は、アブレーション深さがこれらの境界で深くなる傾向があることである。これは、レーザー光を反射するミラーを制御するモーターの速度が非線形であるためであり、その結果、ミラーのターゲットが所望のパターンの境界で長く持続し、材料の分離を保証する、有利により深いアブレーションを生成する。
【0024】
場合によっては、カットラインの長さに沿った移動(幅Wに直交)がカットライン領域全体をカバーするように、カットラインの必要な幅Wをスポット幅Sと一致させることが可能であり得る。ただし、スタック材料を除去するのに十分なフルエンス(面積あたりのエネルギー)を提供するために、レーザービームは小さなスポットサイズに焦点を合わせる必要がある場合があり、ここで、隣接するものからセルを効果的に分離するためなどで、小さなスポットサイズはカットラインに適した幅よりも小さくなる。ただし、フォーカスは省略され得る。
【0025】
走査経路の任意のパターンについて、十分なレーザーエネルギーをスタックの材料に供給して、スタックの深さ全体を通してカットラインの全幅を除去するために、複数の通過が必要であり得る、つまり、露光経路全体を1回以上繰り返す必要があり得る。経路は、必要に応じて2回、または3、4、5、6、7、8回以上露光され得る。全体として、特定の数のパルスをカットライン領域の面積に供給して、カットに十分なレーザーエネルギーを供給することを目的としており、そのため、ハッチングアプローチを使用してハッチング角度の数を減らすと、たとえば、より多くの経路の露出または通過が必要になる。逆に、ハッチング角度の数がより大きくなると、通過数を減らすことができる。
【0026】
所定の波長に対するパルス幅、繰り返し数、レーザースポット面積、走査速度、レーザー経路、通過数、およびレーザーエネルギー(フルエンスまたはパルスあたりのエネルギー)の変数の複合効果は、mJ mm-2の単位を有するアブレーション単位面積あたりの単一パラメータの総エネルギーETを計算することによって推定できる。ETは式1に従って計算でき、ここで、tTは秒単位の総アブレーション時間、tPは秒単位のパルス幅、frepは秒単位の繰り返し数、ALは平方ミリメートルのレーザースポットの面積(ビーム強度プロファイルの半値全幅で測定)、ATは平方ミリメートルのアブレーションの総面積、εSは単一レーザーパルスのエネルギー(mJ)である。方程式は、方程式1の括弧で囲まれたセクションに示されるように、4つの部分に分解できる。項1は単位面積をアブレーションするための平均合計時間を計算し、項2はレーザーが常時オンではないがパルスで発射するという事実を修正し、項3は面積ALの1つのレーザースポットに相当する総面積の割合を決定する。これらの最初の3つの部分を合わせて、面積ALの単一レーザースポットあたりの合計アブレーション時間を計算する。項4では、面積ALの1つのスポットで単位時間あたりに供給されるエネルギーを計算する。単位が同じであっても、ETはフルエンスとは異なることに留意されたい。ETは、変数を個別に評価するよりも、レーザーアブレーションを説明するのに適している。
ET=(tT/AT)×(tP×frep)×(AL/AT)×(εS/tP) 式1
【0027】
使用する走査パターンのタイプとハッチング方法は、アブレーションの品質に大きな影響を有し得る。例えば、連続的な正弦波走査パターンを採用することにより、不連続な平行線の斜線パターンと比較して、破片の生成が驚くほど少ないことがわかった。過剰な破片が隣接するアブレーションに対して有害になり得るため、これは有利である。さらに、アブレーションされた材料の再堆積の量が変化して、正弦波走査パターンが、新しくアブレーションされた側壁上への基板材料の再堆積の生成を驚くほど少なくすることもわかった。再堆積の量を最小限に抑えることは、電池としての構造の機能にとって重要である。これらの効果は、用途と材料、選択したパラメータ、およびカットの寸法に依存する場合があり得る。この効果は、アブレーションチャネルのエッジでさらに深いアブレーションを作成する正弦波レーザーアブレーション法を使用すると、非常に強調される。これは、最小限のアブレーションで絶縁を実現するための理想的な方法である。
【0028】
直接書き込みレーザー技術は、材料をアブレーションするのに十分な所望のカットラインの領域の後ろ(下または下部)のスタックの材料にレーザーエネルギーを供給し、それによってセルを互いに分離するためにカットラインの下のある量の材料を取り除くために実行される。従来の「カット」のある使用法は、分離を行うために中間材料を除去することのない、2つの部品間の単なる分離せん断を示しているが、本明細書では、「カット(切断)」(あるいは「スライス」または「ダイス」)という用語は、大きなアイテムを小さなパーツに切断するのと同じように、スタックの個々の要素を隣接要素から分離することを目的としているため、このプロセスとそれによって作成される切開部またはチャネルを指すために使用される。本開示では、少なくとも基板の表面まで、スタックの深さ全体にわたって材料を除去するためにアブレーションが実行され、その結果、カットはスタック全体に及ぶ。したがって、スタック材料のアブレーションしきい値を超えるのに十分な量のエネルギー、つまり、より低いエネルギーで発生する可能性のある加熱と蒸発ではなく、材料からプラズマを作成することによってアブレーションを引き起こすエネルギー量が確実に供給されるようにする必要がある。本開示では、エネルギーは、単位面積当たりの材料に送達されるエネルギーの量であるレーザーフルエンスに関して考慮される。したがって、フルエンスは、レーザーの出力パワーまたはエネルギーを調整することによって、および集束スポットのサイズを調整することによって制御できる。パワーまたはエネルギーを増加させ、スポットサイズを小さくすると、スポットのエネルギー密度が増加してフルエンスが増加する。また、直接書き込み走査はカットラインの全領域にエネルギーを供給するように設計されていることを振り返ると、単位面積あたりに供給されるエネルギーの量は、パルス繰り返し数と走査速度(スポットとスタック表面との間の相対移動の速度)にも依存する。同じ走査速度で高い繰り返し数、または同じ繰り返し数で遅い走査速度を使用すると、走査経路の単位長さあたりに送出されるパルス数が増えるため、フルエンスが向上する。
【0029】
フルエンスが増加すると、通常、走査経路の1回の露光でアブレーションされる材料の量が増加するため、基板を通してカットするために必要な露光の総数を減らし得る。これにより、薄膜構造あたりの処理時間を最小限に抑えることができる。しかしながら、フルエンスをさらに増加させると、スタックを通るカットのエッジの品質が低下し得ることがわかっている。カットの側壁がより粗くなり、セルを隣接セルから不適切に分離する可能性が高くなる。さらに、フルエンスは、隣接するアブレーションに重大な悪影響を与える可能性があり得る、アブレーション中に生成される破片の量に影響を与えることが示されている。これらの影響は、用途と材料、およびカットの幅にも依存し得るため、プロセス間で異なり、おそらく適切な滑らかさと破片のないカットのための最大フルエンスを決定するための予備テストを参照することによって、特定のプロセスに対して選択される必要がある。フルエンスの値の例については、詳細に後述する。
【0030】
図4は、上記のような直接書き込みレーザープロセスによる切断後の
図1の薄膜構造の断面図を示す。スタック12のすべての層が分離されるように、薄膜スタック12の深さd全体にわたって2つのカット72が作成された。カット72は、構造がダイシングされる個々のセル28の必要なサイズである、距離bだけ離間されている。カット72は、
図3のカットライン70の幅Wに関連し類似する幅W’を有するが、露出した領域を超えていくらかの材料を除去し得、例えばカット72の側壁74の表面粗さを引き起こし得るアブレーションプロセスの性質のため、正確に等しくない場合がある。また、カット72は、カットの深さ全体にわたって一定の幅W’を有していなくてもよい。例えば、集束スポットの強度プロファイルに応じて、幅が変化することがある。
【0031】
ガウスビームプロファイルは、わずかに傾斜した壁または階段状の壁を有するアブレーションを生成する傾向があり、これにより、レーザースポットサイズのおよそ半径によって、カット幅は深さとともに減少する(カットは基板表面よりもスタック表面で広くなる)。通常、ステップは異なる材料層間で見られるが、傾斜は単一の材料層内で見られる。これは、切断後にセルを互いにより効果的に分離できるという点で、ある状況では利点となると考えられている。ベッセルプロファイルのように、エッジに比べてビーム中心の強度が大きい他のビームプロファイルでも、同様の効果が期待できる。
【0032】
図4では、カット72は、スタック12の深さ全体(または厚さ、基板表面14aに直交する方向)に加えて、基板内へのわずかな距離にわたって延在することに留意されたい。レーザー加工の目的は、スタックを完全に切断することであり、基板材料の一部も除去されるかどうかは、一般的に重要ではない。基板表面が位置する深さと材料除去の停止が正確に一致するように切断処理を制御することは困難な場合がある。したがって、スタックの深さを超えてカットし、基板材料への少なくともいくらかのカットを受け入れることを目的とすることがより簡単な場合がある。これにより、少なくとも最下層でもスタックが完全にカットされる。しかしながら、時間とエネルギー消費を最小化するために、基板材料へのある距離で、換言すれば、基板表面を過ぎてまたは越えて、切断プロセスを停止するようにプロセスを制御することができる。
【0033】
図5は、電池の製造の例における次の段階の後の
図4の構造の断面図を示しており、スタック12の外面全体が誘電体材料層30に封入されている。外部スタック表面は、レーザー切断に続いて、スタック12の元の上面12a(アノード集電体26の上面である)に加えてカット72の側壁74を備える。基板14の材料によって形成されたカットの基部もまた覆われている。封入は、例えば、酸化アルミニウムおよび窒化アルミニウムダイアドのスパッタリングによって実施されてもよい。
【0034】
図6は、電池製造例におけるさらなる処理段階後の
図5の構造の断面図を示す。開口部32は、封入層30を貫通してエッチングされ、分離されたセル28の上面12a上のアノード集電体26の小さな領域を露出させる。これは、アノード集電体への電気的接続のための経路を提供することとなる。このエッチングは、誘導結合型プラズマ-反応性イオンエッチング(ICP-RIE)、反応性イオンエッチング(RIE)、および適切なプロセスガス化学を用いるイオンビーム加工を含むがこれらに限定されない、ドライエッチング技術を組み込んださまざまなフォトリソグラフィおよび非フォトリソグラフィプロセスによって達成できる。エッチングはまた、ウェットエッチング技術を組み込んだフォトリソグラフィおよび非フォトリソグラフィプロセスなどの他の方法によって達成することもできる。
【0035】
この時点では、切断プロセスが基板表面で停止した場合、カット72は部分的にのみ基板内に延在するか、またはまったく延在しないため、分離されたセル28は依然として基板14上ですべて支持されていることに留意されたい。これは、レーザー切断後の処理ステップの利便性のためである。個々のセルを処理するよりも、単一の基板によって所定の位置に保持されたセルの集団を処理する方が簡単であるからである。しかしながら、本例では、セルは、基板(ウェーハ)をダイシングすることにより、互いに物理的に分離されている。また、代替の製造手順では、最初の直接レーザー書き込み切断が基板全体を通して延在し得、エレメントの分離とウェーハのダイシングを1つの段階で達成され得る。
【0036】
図7は、基板14をダイシングした後の
図6のセル28の断面図を示す。ダイシングは、直接書き込みレーザー切断からの既存のカット72の基部で基板の残りの厚さを切断またはスライスすることを含む。ダイシングは、すでに説明したものと同様の別の直接書き込みレーザーカットを使用して、またはシャドウマスキングを使用したレーザー露光などの他の方法によって実行することができる。その結果、同じ基板の残りのセルから完全に分離された個々のセル28(ダイまたはエレメント)となる。
【0037】
図8は、金属(導電性)トラック層34がセル28の外面上に堆積される、追加の処理ステップ後の
図7のセル28の断面図を示す。封入層30の開口部32を介してアノード集電体26にワイヤボンディングするなど、必要な電気接続を行うための他の技術を代わりに使用することができる。
【0038】
本明細書に開示される例示的な直接書き込みレーザー切断技術の実証として、上述の
図1および4~8を参照したものと類似の構造だが、従来のアパーチャシャドウマスキング技術により基板上の隣接セルから分離された、電池を製造した。これにより、動作可能であることがわかっているアーキテクチャを備えた電池構造が提供された。次に、直接書き込みレーザー技術の例を使用して、電池から電気接点の一部を含む部分を分割した。このアプローチにより、変更はすべてレーザー加工に起因するものであり、製造全体の他の場所で発生する可能性のある他の加工欠陥に起因しないという知識のもとで、レーザー切削後に動作性能をテストすることが可能となった。
【0039】
図9Aは、従来のシャドウマスキングを使用して製造された初期電池の写真を示す。カソード、電解質、アノード、集電体、封入誘電体を含む層のスタックは、正方形の形状を有し、幅がそれぞれ14mmと15mmである電解質と封入誘電体とを除いて、すべての幅は12mmである。集電体層は、接続アクセス用のタブをも有することに留意されたい。基板は、厚さ675μm+/-25μmのサファイアウェーハであった。酸化チタンの接着層は、400°Cの酸素プロセスガスでチタンターゲットからスパッタされた。プラチナカソード集電体層は、400°Cでプラチナターゲットからスパッタされた。カソードを形成するために、リチウムクヌーセンセルと酸素プラズマ中のコバルト電子銃とから、400°Cで物理蒸着によりコバルト酸リチウムを共蒸着した。電解質層の場合、LiPONは、窒素ガス中のLi
3PO
4ターゲットから150°CでRFマグネトロンスパッタリングによって堆積された。アモルファスシリコンアノードは、シリコン電子銃から25°Cで物理蒸着により堆積された。プラチナアノード集電体層は、プラチナターゲットから25°CでDCスパッタリングにより堆積された。電池は、酸素および窒素のプロセスガス中のアルミニウムターゲットから150°Cで堆積したスパッタ酸化アルミニウムと窒化アルミニウムダイアドとを備える、幅15mmの外側誘電体封入層を有する。電池の接続を可能にする2つの集電タブは、画像の上部に見られる。
【0040】
図9Bは、すべての電池層を貫通しておよび部分的に基板に溶け込んでいる、直接書き込みレーザー手法を使用した追加の切断を行った後の
図9Aの電池の写真を示す。カットラインは、幅6mmの電池の中央の正方形の領域を分離するために選択され、さらに、集電タブの接続部分を維持して、テストのためにカットアウト部分の電気的接続を可能にした。切断の精密で正確な性質は明らかである。
【0041】
レーザーアブレーションは、波長343nmで動作するフェムト秒固体レーザーを使用して実行された。フルエンスは856mJ/cmで、185Hzのパルス繰り返し数と130 fsのパルス持続時間、500mm/sの走査速度で送達された。ビームの幅(スポットサイズ)は0.015mmであり、走査経路をハッチングパターンでたどることにより、幅500μmのカットラインをカバーするように走査された。ハッチングパターンの線は、ハッチングピッチが7μmの2つの重ねられた角度の4つのセットで配置された。走査経路は6回の通過が実行された。
【0042】
アブレーションされたカットラインは、走査型電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分光法とを使用して研究された。これは、アブレーションが、基板のレベルに至るまで、積み重ねられた層の完全な深さを通して実行されたことを立証した。
【0043】
レーザー直接書き込み切断後、切り取られた電池を乾燥させ、オシラエポキシと白雲母の多層シートで封入して、空気と湿気から保護した。次に、電池の性能をテストした。電池は、3~4Vの50μAの定電流でポテンシオスタットを使用してサイクルされた(複数の充放電が行われた)。
【0044】
図10は、時間に対する電圧のプロットとして、電池から測定された単一の例の充電および放電サイクルのグラフを示す。これにより、電池の良好なパフォーマンスが確認され、直接書き込みレーザー切断がその動作を妨げたり、損なったりしなかったことを示している。
【0045】
図11Aは、複数のサイクルからのデータのグラフを、連続する100サイクルで測定された充電および放電容量のプロットとして示す。この寿命の間、容量は妥当なレベルに維持され、同様の従来の方法で製造された薄膜電池の期待値に匹敵するわずかな低下のみである。これは、直接書き込みレーザー切断が電池の動作に影響を与えないことを示している。
【0046】
図11Bおよび11Cは、直接書き込みレーザー技術を使用して、本発明の例に従って同様に調製された薄膜電池の別の例から得られた放電容量のグラフを示す。
【0047】
この薄膜電池では、
図9Bの電池の非導電性基板(サファイア)の代わりに導電性基板(p型ボロンドープシリコン)が使用された。
図9Bの電池に対する更なる差異は、電池の製造中に、接着層、カソード、電解質、アノード、および集電体を含む層のスタックが、マスクを使用せずに堆積されて、基板全体を覆うように堆積された点である。
【0048】
酸化チタンの接着層は、400°Cの酸素プロセスガスでチタンターゲットからスパッタされた。プラチナカソード集電体層は、400°Cでプラチナターゲットからスパッタされた。酸化コバルトリチウムカソードは、酸素プラズマ中でリチウムクヌーセンセルとコバルト電子銃とからの物理蒸着により、基板温度400°Cで共蒸着された。電解質層LiPONは、窒素ガス中のLi3PO4ターゲットから150°CでRFマグネトロンスパッタリングによって堆積された。アモルファスシリコンアノードは、シリコン電子銃から25°Cで物理蒸着により堆積された。プラチナアノード集電体層は、プラチナターゲットから25°CでDCスパッタリングにより堆積された。
【0049】
本発明による直接書き込みレーザー技術は、層のスタックを個々の薄膜電池に分割するように、すべての電池層を通して部分的に基板にアブレーションするために使用された。
【0050】
これに続いて、誘電体パッシベーション層が電池アレイに適用された。封入層は、酸素および窒素プロセスガス中のアルミニウムターゲットから150°Cで堆積されたスパッタ酸化アルミニウムおよび窒化アルミニウムダイアドを備えていた。フォトリソグラフィとドライエッチングとを使用して、アノード集電体の小さな円形部分を電池の上部に露出させ、接点を設けた。カソード集電体への接触は、導電性基板を介して達成される。
【0051】
このようにして作製した電池の放電容量を60回連続で測定した。
図11Bおよび11Cは、電池が導電性基板を有する場合、機能する電池を提供するために直接書き込みレーザー切断も使用され得ることを示す。
【0052】
図11A、11B、および11Cには、放電容量の変動が見られ得、これらの変動は、周囲温度の変動が原因であると考えられている。
【0053】
図12Aおよび12Bは、レーザー直接書き込みカットの例のさまざまな倍率レベル(ラベル付き)の走査型電子顕微鏡画像を示しており、ここで、カット経路は、
図12Aに示すように、スタック材料の小さな中央の長方形の周りの長方形の経路をたどっている。カット経路の幅は100~150μm程度である。画像は、カットの基部でのレーザーアブレーションによって露出した基板表面のテクスチャを示している。また、前述のように、レーザー書き込みビームのガウス強度プロファイルによって生成されたカットの傾斜した階段状の側面も確認できる。
【0054】
図13は、レーザービームが基板に対して90°未満の角度でスタックに入射した、レーザー処理されたスタックのエッジの走査型電子顕微鏡画像を示している。画像は、これが基板に対して90°未満のスタックエッジ角度になったことを示している。
【0055】
レーザー書き込みビームによって薄膜スタックに送達されるフルエンスは、開示される方法の例に対して重要なパラメータである。既に説明したように、フルエンスは、レーザーアブレーションの効果を生成して切断を達成するために必要なしきい値を超えている必要があるが、必要に応じて、フルエンスが増加すると表面粗さが増加する傾向がある場合、切断面の品質を考慮して制限するべきである。したがって、フルエンスは、50~100,000mJ/cm-2の範囲内であるように選択され得る。この範囲の下限に近い値で十分な場合が多く、したがってより便利な場合には、より低出力のレーザーを使用できる。例えば、約865mJ/cm-2のフルエンス、例えば800~900mJ/cm-2、または850~950mJ/cm-2、または800~1000mJ/cm-2、または700~1000mJ/cm-2などで切断を容易に成功させ得る。また、範囲の上限に近い値でも適切な場合が多く、たとえば、フルエンスが50~50000mJ cm-2、または50~10000mJ cm-2、または50~5000mJ cm-2、または50~2500mJ cm-2、または50~1500mJ cm-2、または50~1000mJ cm-2、または50~800mJ cm-2、または50~700mJ cm-2であれば、切断を簡単に成功させることができる。約550mJ/cm2のフルエンス、例えば200~900mJ cm-2、または50~600mJ cm-2、または200~600mJ cm-2、または400~600mJ cm-2、または500~1200mJ cm-2、または500~900mJ cm-2、または500~600mJ cm-2、または525~575mJ cm-2、または800~900mJ cm-2、などのフルエンスに対しても、切断を容易に成功させることができる。また、200~1100 mJ cm-2の範囲のフルエンス、例えば200~300mJ cm-2、または300~400mJ cm-2、または400~500 mJ cm-2、または500~600mJ cm-2、または600~700mJ cm-2、または700~800mJ cm-2、または800~900mJ cm-2、または900~1000mJ cm-2、または1000~1100mJ cm-2、などのフルエンスに対しても、切断を容易に成功させることができる。
【0056】
選択されたレベルのフルエンスは、一般に調整可能であるか、容易に指定できる、レーザーと装置全体の動作パラメータの適切な組み合わせを選択することによって提供され得る。特に、パルス繰り返し数と書き込み走査速度は、フルエンスを変更するために変化させることができ、必要なフルエンスを達成するために利用可能な値の組み合わせの幅広い選択が可能である。繰り返し数は、例えば、0.1~10,000kHzの範囲内であるように選択され得る。例えば、繰返し数は、0.1~100kHz、100~1000kHz、1000~5000kHz、または0.1~2500kHz、または0.1~1000kHz、または0.1~500kHz、または0.1~300kHz、または0.1~250kHz、または10~250kHz、または10~200kHz、または100~250kHz、または150~250kHz、または180~220kHzの範囲になるように選択され得る。さらに、多くの場合、400kHz未満の値、例えば0.1~50kHz、または50~100kHz、または100~150kHz、または150~200kHz、または200~250kHz、または250~300kHz、または300~350kHz、または350~400kHzなど、で十分であり得る。
【0057】
約200kHz以上の繰り返し数は、前のパルス(パルス間の冷却時間が不十分)からのスタック材料内に残留する過剰な熱のため、カットの体積を超えて損傷を引き起こすこととなり、有害となり得、切断面の品質が劣化し得ると予測され得る。しかしながら、これはわかっておらず、実際には、良好な表面品質と均一性は、より低い繰り返し数と比較して、200kHzまたはその付近で生成できる。
【0058】
走査(書き込み)速度は、例えば1~10,000mm/sの範囲内であるように選択され得る。より高い繰り返し数とより速い走査速度の組み合わせは、より低い繰り返し数とより遅い走査速度と同じフルエンスを生み出し得る。走査速度は非常に速い場合があり得るが、この範囲のより低い部分における速度は、装置を単純化し得ることが適切であり得る。本発明の走査速度は、1~5000mm/s、1~1000mm/s、1~750mm/s、1~500mm/s、1~400mm/s、1~300mm/s、1~200mm/s、1~150mm/s、50~600mm/s、50~150 mm/s、75~125mm/s、100~1000mm/s、100~200mm/s、100~500mm/s、200~300mm/s、300~400mm/s、400~500mm/s、500~600mm/s、600~700mm/s、700~800mm/s、800~900mm/s、または900~1000mm/sから選択され得る。その他の走査速度には、約500mms-1、400~600mm/s、450~550mm/s、または475~525 mm/sが含まれる。
【0059】
書き込みビームのビーム径(スポットサイズ)はまた、特定のフルエンスをも提供するように選択され得る。上記のように、ビーム径は多くの場合、カットの所望の幅よりも小さいか、大幅に小さくなり得る。例えば、ビーム直径は、0.001~0.1mm(1~100μm)の範囲であり得る。スポットサイズを小さくすると、特定のカットライン幅に対して、カットラインの領域全体を露出するために長い書き込み経路が必要になるが、走査速度を上げることと、パルス繰り返し数を上げて同じフルエンスを維持して補正することにより、書き込みプロセスを効率的に維持できる。場合によっては、約0.015mm(15μm)など、比較的小さいビーム幅が便利な場合がある。たとえば、ビーム幅は、1~100μm、1~75μm、1~50μm、1~40μm、1~30μm、1~25μm、1~20μm、1~17.5μm、5~20μm、10~20μm、12~18μm、13~17μm、または14~16μmの範囲内で設定され得る。さらに、より高いビーム幅には、20~40μm、40~60μm、60~80μm、または80~100μmから選択された範囲が含まれる。
【0060】
スタック全体を通して、基板のレベルまでまたはそれを超えて、材料の必要な深さを除去するために、書き込み経路上のビームスポットの1回以上の通過が必要になる場合があり得る。明らかに、これは特定のスタックの厚さや書き込みビームによって供給されるフルエンスレベルなどの要因に依存する。通過数は、例えば1~100の範囲に入り得る。正常な切断は、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10から選択された数、もしくは4~8、1~10、1~20、10~20、20~30、30~40、40~50、50~60、70~80、または90~100の範囲内から選択された数など、比較的小さい通過数でされ得る。
【0061】
さらなる変数は、超高速レーザーによって出力されるパルスの持続時間または幅である。パルス幅は、例えば、10~100,000フェムト秒(0.01~100ピコ秒)の範囲になるように選択され得る。この範囲の短い部分のパルス幅は、同じ出力電力が短いパルスに圧縮されている場合に必要な総エネルギーをより迅速に供給することができるため、便利であり得る。本発明のパルス幅は、約130fs、10~100000fs、10~50000fs、10~25000fs、10~10000fs、10~5000fs、10~2500fs、10~1500fs、10~1000fs、10~800fs、10~600fs、10~400fs、10~300fs、10~200fs、50~200fs、75~200fs、100~160fs、100~200fs、120~140fs、125~135fs、200fs以下、1~50fs、50~100fs、100~150fs、100~200fs、50~150fs、50~200fs、200fs超、200~250fs、250~300fs、300~350fs、350~400fs、400~450fs、または450~500fsから選択される範囲のパルス幅またはそのパルスを含む。はるかに長いパルスは除外されないので、異なるレーザー光源の範囲を使用して、利便性に応じてレーザー切断プロセスを実行できる。超短(フェムト秒-ピコ秒)パルスを使用すると、より長いパルス時間と比較して、アブレーションされる材料の熱伝導が最小限に抑えられ、精度、再現性が向上し、熱損傷が低減するため、有利である(参照文献4および5)。
【0062】
レーザービームの波長は、利便性のある広い範囲内で選択することもでき、これもプロセスの柔軟性を高める。スペクトルの紫外部分、可視部分および近赤外部分の波長は、特にフェムト秒レジームのパルス(パルス持続時間が1ピコ秒未満)と組み合わせた場合に、最も適切であると見なされる。アブレーション効果は、光吸収に依存しない高強度の相互作用であるため、吸収量が最小である短いパルスでは、特に紫外波長に対して、波長の重要性は小さくなる。したがって、波長は
【0063】
波長は、100~1500nmの範囲の波長から選択し得る。いくつかの実施形態では、波長は、100~1250nm、100~1000nm、100~750nm、100~500nm、100~400nm、100~300nm、100~200nm、200~350nm、200~500nm、250~450nm、300~400nm、325~375nm、325~350nm、200~300nm、300~400nm、400~500nm、500nm超、500~600nm、600~700nm、700~800nm、800~900nm、900~1000nm、1000~1100nm、1100~1200nm、1200~1300nm、1300~1400nm、または1400~1500nmのいずれかから選択される範囲である。いくつかの実施形態では、波長は343nmである。他の実施形態ではまた、波長は355nmでもあり得る。一例では、波長は300~350nmであり、パルス持続時間は200fs未満または150fs未満である。
【0064】
上記の多くのパラメータの相互関係は、さまざまなパラメータ値セットで同様のアブレーションを実現できることを意味する。上記のように、パルス幅、繰り返し率、レーザースポット面積、走査速度、レーザー経路、通過数およびレーザーエネルギー(フルエンスまたはパルスあたりのエネルギー)の変数の複合効果は、mJ mm-2の単位を有するアブレーションの単位面積あたりの単一パラメータETを計算すること(式1で説明されているように)で推定できる。ETの値には、1x10-6~1000mJ mm-2、より具体的には1x10-6~500mJ mm-2、1x10-6~100mJ mm-2、1x10-6~50mJ mm-2、1x10-6~10mJ mm-2、1x10-6~5mJ mm-2、1x10-6~1mJ mm-2、1x10-6~0.75mJ mm-2、1x10-4~0.1mJ mm-2、1x10-6~0.05mJ mm-2、1x10-6~1x10-5mJ mm-2、1x10-5~1x10-4mJ mm-2、1x10-4~1x10-3mJ mm-2、1x10-3~0.01mJ mm-2、0.01~0.1mJ mm-2、0.1~1mJ mm-2、1~10mJ mm-2、10~100mJ mm-2、100~1000mJ mm-2、または1x10-5~1mJ mm-2から選択された範囲が含まれる。
【0065】
図14および15は、プロセスの有効性に対するプロセスパラメータの変化の影響を示すデータのプロットを示す。プロットはバーチャートを示しており、レーザー直接書き込み切断プロセスに供された堆積した薄膜構造の選択のそれぞれについてバーが表示される。カットが実行された後、カットチャネルの基部に形成された上面(最上層)に存在するスタック内のレイヤーを構成するさまざまな材料の比率(左軸)を示すために、各バーはシェーディングされている。最も暗いシェーディングは基板を表しており、スタックの深さ全体までカットが浸透していることを示している。シェーディングが次第に薄くなることは、スタックの深さの途中までしか到達していない浅いカットに対応して、プラチナカソード集電体、LiPON電解質層、シリコンアノードの層が連続的に高くなることを示す。バーは、左(最上層が100%の基板材料)から右(最上層が100%シリコン)に向かってカット深さが減少する順に大まかに配置されている。3つのチャートは、14個の処理済みスタックの同じ選択に対するバーを示す。
【0066】
図14は、達成可能なカット深度に対するさまざまなレーザーラスターレートの影響を示している。グラフの各バーには、式2(右軸)に従って計算された平均レーザーラスターレートR
rasterを示すスポットでマークされた対応するデータポイントがあり、ここでt
Tは秒単位の総アブレーション時間、A
Tはミリメートル単位のアブレーション総面積である。
R
raster=A
T/t
T 式2
【0067】
チャートの左側の最も深いチャネルは、遅い速度は単位経路長あたりのパルス数を増加させ、したがって材料の単位体積あたりのレーザーエネルギーが増え、アブレーションの効果がより高くなるため、最も遅いラスターレートで形成される。チャートの右側のより浅いチャネルは、はるかに速いラスターレートで形成される。この特定の例では、約0.025mm2/s以下のレーザーラスターレートで基板まで延在するカット深さが形成されたが、約0.045mm2/s以上のレートでは、スタックの深さ全体を通してカットされることはなかった。このパラメータは走査速度とは異なるが、走査速度に比例することに留意されたい。一般に、アブレーションを成功させるには、10mm2/s未満のラスターレート、例えば0.001~10mm2/s、より具体的には0.001~1mm2/s、0.001~0.8mm2/s、0.001~0.6mm2/s、0.001~0.5mm2/s、0.001~0.4mm2/s、0.001~0.3mm2/s、0.001~0.2mm2/s、または0.001~0.1mm2/sなどの範囲のラスターレートが適切である。0.005mm2/sを超えるラスターレート、例えば0.005~1mm2/s、0.005~0.8mm2/s、0.005~0.6mm2/s、0.005~0.4mm2/s、0.005~0.3mm2/s、0.005~0.2mm2/s、0.01~0.2mm2/s、0.05~0.15mm2/s、0.08~0.12mm2/s、または0.09~0.11mm2/sのラスターレートもまた適切であり得る。
【0068】
図15は、カットライン上の単位面積あたりに供給される平均総エネルギー(式1で計算されたように)を変化させた場合の影響を示している。チャートの各バーは、エリアごとのエネルギーを示すスポット(右軸)でマークされた対応するデータポイントを有する。チャートの左側にある最も深いチャネルは、面積あたりの最高レベルのエネルギーから生成される。面積あたりのエネルギー量が少ないと、カットが浅くなり、基板に到達しない。この特定の例では、約7x10
-4mJ/mm
2以上のエネルギーで基板まで延在するカット深さが形成されたが、約4.2x10
-4mJ/mm
2以下のエネルギーではスタックの深さを通して完全にはカットされなかった。
【0069】
スタックの厚さを通して基板へ切断するプロセスの有効性は、当然、ある程度、スタックの深さと内部の個々の層の厚さに依存する。レーザービームと走査パラメータとの特定のセットでは、適切な総エネルギー量を基板に到達させるためにスタックの深さに比例して走査経路に沿った通過数を調整する必要があるが、これはエネルギーと切断時間の浪費となるため、基板へと過度にカットする必要はない。パラメータの調整により切断プロセスを調整して、さまざまなスタックの厚さに対応できる。
【0070】
基板表面に垂直であり、その表面から測定された薄膜スタックの合計の厚さ(したがって、基板の厚さを除く)は、例えば約1~200μm、1.5~200μm、1~170μm、1.5~170μm、1~150μm、1.5~150μm、150μm以下、170μm以下、または200μm以下の範囲になり得る。典型的なスタックの厚さは、約10μm、例えば、10~20μm、10~40μm、8~12μm、または5~15μm、または2~20μmなど、であり得る。
【0071】
スタック内において、個々の薄膜層は、基板表面に垂直な方向の厚さ値の範囲を有し得る。典型的には、薄膜は、最大約100μm、またはより一般的には最大約50μmの厚さを有する材料の層または膜と考えられ得る。現在の文脈では、2つ以上のそのような層がスタックを構成している。スタック内の層の選択、順序、および数は、ダイシングされた薄膜構造の使用目的によって異なる。スタックの基部の接着層は、例えば、約0.015μmまたは0.005~0.1μmなどの、0.005~0.025μmの厚さを有し得る。薄膜電池の場合、カソード集電体層は、例えば、約0.25μmまたは0.2~0.3μmなどの、0.05~1μmの厚さを有し得る。カソード層は、例えば約5μmまたは1~10μm、10~20μm、20~30μm、または30~50μmなどの、1~50μmの厚さを有し得る。電解質層は、例えば1~5μm、2~4μm、または約3μmなどの、0.1~5μmの厚さを有し得る。アノード層は、例えば約0.5μmまたは0.1~1.0μmなどの、0.1~10μmの厚さを有し得る。アノード集電体層は、例えば、約0.1μmまたは0.05~0.15μmなどの、0.05~1μmの厚さを有し得る。誘電体封入層は、例えば、1.5μmまたは1~10μmなどの、0.2~100μmの厚さを有し得る。
【0072】
支持基板は、レーザー加工により切断されても、されなくてもよく、すなわち、部分的に切断されてもよい。換言すれば、カットは、基板の上部表面のみに延在してもよく、または基板の上部表面を越えて、基板の材料内にある程度の距離にわたって延在してもよい。分離されたセルのさらなる処理が単一のピース(そのままのウェーハ)に残っている基板によって促進される任意の製造においては、セルが後続のステップで一緒に処理され得るため、カットは基板表面または基板の厚さ内で停止する必要がある。しかし、他の場合では、直接書き込みレーザー切断を実行して基板の厚さおよびスタックの厚さをスライスし、単一の切断手順で個々のセルまたは要素を互いに完全に分離することができる。基板の厚さは、約675μmまたは600~700μmなどの、50~750μmの範囲であるが、これらは単なる例であり、他の厚さの基板が使用される場合があり得る。
【0073】
レーザーエネルギーとスタック材料との間の強い相互作用を利用することで、アブレーションによって材料を除去し、薄膜構造にカットチャネルを形成できることは、このプロセスが多くの材料に広く適用できることを意味する。アブレーションは吸収に依存しないため、異なる材料の光吸収特性に起因する制限を受けない。これにより、レーザービームの波長をも自由に選択できる。超短レーザーパルス(特にサブピコ秒パルス)のレジームでは、スタック内の材料やレーザービームの波長に関係なく、直接書き込みレーザー切断プロセスを実行できる。
【0074】
一実施形態では、スタックは、基板、正極集電体、正極活物質、電解質、負極活物質、および負極集電体を備える電池である。
【0075】
一実施形態では、負極集電体は、Pt、Ni、Mo、Cu、TiN、Al、Auおよびステンレス鋼からなる群から選択される負極集電体材料を備える。
【0076】
別の実施形態では、正極集電体材料は、Pt、Ni、Mo、Al、Au、ステンレス鋼、インジウムドープ酸化スズ(ITO)および他の導電性金属酸化物からなる群から選択される。
【0077】
別の実施形態では、電池は、基板と集電体との間にパッシベーション層(例えば、Si3N4)および/接着層(例えば、TiO2)をさらに備える。
【0078】
別の実施形態では、電池は封入層を備える。さらなる実施形態では、封入層は、Si3N4、SiO2、Al2O3、Al、Cu、パリレン、ポリイミド、またはSURLYNを備える。
【0079】
基板は、非導電性、半導電性、導電性材料(チョクラルスキー法によって成長させたp型ホウ素ドープシリコン(CZシリコン)など)であり得る。一実施形態では、電池は、AlOPt(サファイア/TiO2/Pt)、SSTOP(Si/SiO2/TiO2)、Si、SiO2、Si3N4、マイカ、およびフロートガラスからなる群から選択される基板材料を備える。
【0080】
本発明の電池の正極活物質は、リチウムニッケルマンガン酸化物、リチウムニッケルバナジウム酸化物、リチウムコバルトバナジウム酸化物またはリチウムコバルトリン酸塩、例えばLi2NiMn3O8、LiNiVO4、LiCoVO4、LiCoPO4などのリチウム化遷移金属化合物を含む。他の例には、リン酸ニッケルリチウム、フルオロリン酸ニッケルリチウム、およびフルオロリン酸コバルトリチウム、すなわち、LiNiPO4、Li2NiPO4F、Li2CoPO4Fなどが含まれる。リチウム含有量は通常、電池の充電状態によって異なる。正極活物質は、酸化物、マンガン酸塩、ニッケル酸塩、バナジウム酸塩、リン酸塩、またはフルオロリン酸塩などの他の酸素含有材料を備え得る。正極活物質は、式LixMyNzOを有し得る。ここで、MはNi、Mn、V、およびCoからなるグループから選択され、Nは、Ni、Mn、V、Co、またはPなどのMとは異なるヘテロ原子種である。Nは省略され得る。正極活物質は、例えばフルオロリン酸塩として、フッ素化されていてもよい。
【0081】
一実施形態では、本発明の電池の正極活物質は、LiCoO2、FeS2、LiCoPO4、LiFePO4、Li2FeS2、Li2FeSiO4、LiMn2O4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiV3O8、LiV6O13、LiVOPO4、LiVOPO4F、Li3V2(PO4)3、MnO2、MoS3、S、TiS2、TiS3、V2O5、V6O13、LiNi0.5Mn1.5O4、およびLiMnNiCoAIO2からなる群から選択される。
【0082】
別の実施形態では、本発明の電池の正極活物質は、高電圧正極活物質である。さらなる実施形態では、高電圧正極活物質は、LiCoPO4、LiNi0.5Mn1.5O4、LiMnPO4、LiMn2O4、LiCoO2、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、LiFePO4、LiNiPO4、Li2NiPO4F、Li2CoPO4F、LiMnPO4F、Li2CoSiO4、Li2MnSiO4、FeF3、LiMn0.8Fe0.1Ni0.1PO4、Li1-xVOPO4およびLi2FePO4Fからなる群から選択される。
【0083】
好ましい実施形態では、正極活物質はLiCoO2である。
【0084】
一実施形態では、電解質は、酸窒化リチウムリン(LiPON);ホウケイ酸リチウムまたは窒素ドープホウケイ酸リチウム(国際公開第2017/216532号、国際公開第2015/104540号および国際公開第2015/104538号に記載);硫化物ベースのガラス状およびガラスセラミック電解質(例、LPS(xLi2S-yP2S5))、Li2-SiS2、ガーネット型固体電解質(例、Li5La3M2O12またはLLZO(Li7La3Zr2O12))、アーガロダイト型(例、Li6PS5X、X=Cl、Br、I)、酸化物ベースのペロブスカイト型固体電解質、(例、LLTO(Li0.5La0.5TiO3));LISICON型(例、Li10GeP2S12)、NASICON型(例、Li1.4[Al0.4Ge1.6(PO4)3])、LATP(Li1+xAlxTi2-x(PO4)3)、または固体高分子電解質(例、ポリエチレンオキシド(PEO))から選択される。好ましい実施形態では、電解質は、リチウムリン酸窒化物(LiPON)を備える。
【0085】
一実施形態では、本発明の電池で使用される負極活物質は、Li4Ti5O12、Si、Ge、Sn、Sb、Al、Mg、Bi、Si-M(M=Mg、Al、Sn、Zn、Ag、Fe、Ni、Mn)、InSb、およびTiO2、バナジウムおよびモリブデン酸化物、Ti、Nb酸化物(MgTi2O5、TiNb2O7)、SnO、SnO2、Sb酸化物、またはゲルマネートを含む金属酸化物から選択され得る。一実施形態では、負極活物質はアモルファスSiである。
【0086】
別の実施形態では、本発明の電池で使用される負極活物質は、リチウムまたはリチウムチタン酸化物などのリチウム化遷移金属酸化物である。負極活物質は、LiSi、LiSbまたはLiGeを含むリチウム金属合金であり得る。負極活物質は、リチウムイオンを可逆的に挿入し得る炭素含有物質(活性炭など)、スズ含有物質、シリコン含有物質、または他の物質であり得る。
【0087】
負極活物質はさらに、グラファイト、合成グラファイト、コークス、フラーレン、五酸化ニオブ、スズ合金、シリコン(アモルファスシリコンを含む)、酸化チタン、酸化スズ、およびリチウムチタン酸化物を含む。
【0088】
元素炭素材料を含む負極活物質には、グラファイト、合成グラファイト、コークス、フラーレン、カーボンナノチューブ、他のグラファイトカーボンおよびそれらの組み合わせが含まれる。グラファイトカーボンとは、グラフェンシートの実質的な主要領域を構成するすべての元素炭素材料を指す。
【0089】
一実施形態では、負極活物質はリチウム金属またはその合金を備え、電池は充電式(二次)リチウムイオン電池である。さらなる実施形態では、負極は、リチウム金属またはリチウム-アルミニウム合金の層を備え得る。別の実施形態では、負極はリチウムである。別の実施形態では、負極は、リチウムを含まないアノードである。別の実施形態では、負極は、リチウムエアアノードである。
【0090】
いくつかの実施形態では、電極はリチウムインターカレーション電極である。本明細書で使用される場合、「インターカレーション」という用語は、層状構造を有する化合物への分子またはイオンの可逆的な包含または挿入を指す。したがって、リチウムインターカレーション電極は、リチウムイオンが可逆的に含まれるか、または層状構造に挿入され得る電極(例、グラファイト)であり得る。
【0091】
したがって、プロセスは、(任意の堆積プロセスなどによって)薄膜に形成することができる任意の材料の層を備える薄膜スタックに適用可能である。いくつかの例示的な材料は、薄膜電池を製造するためのスタックという観点において、上記に記されている。他の例の材料には、ホウケイ酸リチウム、窒素ドープホウケイ酸リチウム、酸窒化化合物、ケイ酸リチウム、酸窒化リチウムケイ酸塩、ホウ酸リチウム、酸窒化リチウムホウ酸塩、例えば、ゲルマニウム、アルミニウム、ヒ素、アンチモンなどの1つ以上の他のガラス形成元素を含む、他のリチウム含有酸化物および酸窒化物、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、アルミニウム、ヒ素、アンチモンなどのガラス形成元素を含む他の化合物、リチウムマンガン酸化物、リチウムマンガンニッケル酸化物、LiCoO2、LiNiO2、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2(NMC)、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2(NCA)、LiV3O8、Li4Ti5O12、他のリチウム含有遷移金属酸化物、およびリチウム含有遷移金属酸窒化物および窒素ドープ材料、が含まれる。しかしながら、本開示はこの点に関して決して限定されず、プロセスは一般に薄膜構造に適用され得る。
【0092】
レーザースポットサイズがカット幅より何倍も小さい場合、幅の広いチャネルの作成には時間がかかる場合があり得るが、カットラインの幅とカットチャネルの最終的な幅は任意のサイズにすることができる。例として、幅が約1mmのカットは、隣接するセル間の適切なレベルの物理的な間隔と分離を提供し、電気的分離と、分離した要素へとウェーハをダイシングするエキシマレーザーシャドウマスキングなどの後続の処理ステップへのアクセスと、の両方を容易にする。したがって、カット幅は、たとえば0.9~1.1mm、0.8~1.2mm、または0.7~1.3mmの範囲であり得る。500μm未満または100μm未満などの非常に狭いカット、または1.5mmを超えるまたは2mmを超えるようなより広いカットは、一部の用途に役立ち得る。一般に、このプロセスは任意の幅のカットチャネルを作成するために適用でき、最小幅は使用可能なレーザースポットサイズによって設定される。
【0093】
本明細書に記載されている様々な実施形態は、請求されている特徴の理解および教示を支援するためにのみ提示されている。これらの実施形態は、実施形態の代表的なサンプルとしてのみ提供され、網羅的および/または排他的ではない。本明細書に記載されている利点、実施形態、例、機能、特徴、構造、および/または他の態様は、請求項によって定義される本発明の範囲に対する制限または請求項の均等物に対する制限と見なされるべきではないこと、および請求される発明の範囲から逸脱することなく、他の実施形態が利用されてもよく、変更が行われてもよいことを理解されたい。本発明の様々な実施形態は、本明細書に具体的に記載されたもの以外の、開示された要素、構成要素、特徴、部品、ステップ、手段などの適切な組み合わせを適切に備え、それらからなり、または実質的になり得る。さらに、この開示は、現在主張されていないが将来主張されるかもしれない、他の発明を含み得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0094】
【文献】国際公開第2015/104538号(WO2015/104538)(参照文献1)
【文献】国際公開第2015/104539号(WO2015/104539)(参照文献2)
【文献】国際公開第2015/104540号(WO2015/104540)(参照文献3)
【非特許文献】
【0095】
【文献】Hamad A.H.,2016,‘Effects of Different Laser Pulse Regimes(Nanosecond,Picosecond and Femtosecond) on the Ablation of Materials for Production of Nanoparticles in Liquid Solution’(「溶液中でナノ粒子を生成するための材料のアブレーションに対する異なるレーザーパルス方式(ナノ秒、ピコ秒、フェムト秒)の影響」), in Viskup R., High Energy and Short Pulse Lasers, Intech, DOI: 10.5772/63892(参照文献4)
【文献】Chichkov B.N.,Momma C.,Nolte S.,von Alvensleben F.and Tu:nnermann A.,Appl.Phys.A,63,109-115(1996)(参照文献5)