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特許7424679ウォラストナイト、ヒドロキシアパタイト及びダイオプサイドを含む生体活性結晶化ガラスセラミックス及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】ウォラストナイト、ヒドロキシアパタイト及びダイオプサイドを含む生体活性結晶化ガラスセラミックス及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/04 20060101AFI20240123BHJP
   A61L 27/12 20060101ALI20240123BHJP
   A61L 27/42 20060101ALI20240123BHJP
   A61L 27/10 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
C03C10/04
A61L27/12
A61L27/42
A61L27/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022506293
(86)(22)【出願日】2019-08-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-06
(86)【国際出願番号】 KR2019010665
(87)【国際公開番号】W WO2021033803
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】515207651
【氏名又は名称】シージー バイオ カンパニー,リミテッド
【住所又は居所原語表記】244 Galmachi-ro,Jungwon-gu,Seongnam-si,Gyeonggi-do 13211 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】キム、ベク-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】リュ、ヒョン スン
(72)【発明者】
【氏名】ソ、ジュン ヒョク
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ソク ボム
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-504361(JP,A)
【文献】特開昭61-205637(JP,A)
【文献】特表2012-524569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L
C03C
C04B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO、Ca(OH)、CaF、B、MgO及びヒドロキシアパタイトを含む、結晶化ガラスセラミックスを製造するための組成物であって、前記組成物の総重量に対して、SiO1743重量%、Ca(OH)を25~38重量%、CaFを0.0~3.5重量%、Bを0.01~3.5重量%、MgOを0.14重量%、及びヒドロキシアパタイトを1842重量%含む、組成物。
【請求項2】
前記組成物は、Naをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記Naは、前記組成物の総重量に対して、0.1~2重量%含まれる、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
CaSiO、Ca10(PO(OH)及びCaMgSiを含む結晶化ガラスセラミックスであって、CaSiO、Ca10(PO(OH)及びCaMgSiを15~25:50~60:20~30の重量比で含む、結晶化ガラスセラミックス。
【請求項5】
前記CaSiOはウォラストナイト(wollastonite)であり、Ca10(PO(OH)はヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite; HA)であり、CaMgSiはダイオプサイド(diopside)である、請求項4に記載の結晶化ガラスセラミックス。
【請求項6】
請求項4に記載の結晶化ガラスセラミックスを含むインプラント。
【請求項7】
前記インプラントは、ASTM F2077-18法により測定したときに、5~20kNの圧縮強度、3~10Nmのねじり強度、及び3kNの疲労荷重で5,000,000回まで破断しない疲労圧縮強度を有する、請求項6に記載のインプラント。
【請求項8】
前記インプラントは、骨移植材を用いることなく、単独で用いるものである、請求項6に記載のインプラント。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物を準備するステップと、前記組成物を成形するステップと、前記成形した組成物を熱処理するステップとを含む、インプラントの製造方法。
【請求項10】
前記組成物を準備した後、前記組成物を溶融するステップと、急冷するステップと、粉砕するステップとを含む、請求項9に記載のインプラントの製造方法。
【請求項11】
前記インプラントの製造方法は、研削加工するステップ又はCAD/CAMステップをさらに含む、請求項9に記載のインプラントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiO、Ca(OH)、CaF、B、MgO及びヒドロキシアパタイトを含むガラスセラミックス組成物、CaSiO、Ca10(PO(OH)及びCaMgSiをそれぞれ20~60重量%含む生体活性結晶化ガラスセラミックス、前記ガラスセラミックスを含む早期骨癒合用インプラント、並びに前記インプラントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脊柱管狭窄症(spinal stenosis)は、脊柱管、神経根管又は椎間孔が狭くなり、腰痛や頸椎痛を誘発したり、腕や脚の痛みを引き起こす複合的な神経症疾患である。前記脊柱管とは、脊椎内の管状の中空空間を意味し、上下の脊椎により椎間孔が生じ、その中の管は、脳から手足までの神経である脊髄が通る通路となる。管は、楕円形又は三角形であり、頸椎部が最も大きく、胸椎部で狭くなり、腰椎部で再び大きくなり、下部へ行くほど狭くなる構造である。
【0003】
脊柱管狭窄症は、腰椎部に発生すると腰部脊柱管狭窄症といい、頸椎部に発生すると頸部脊柱管狭窄症という。
腰部脊柱管狭窄症(lumbar spinal stenosis)とは、脊椎神経を囲む脊柱管や神経管が退行性変化により肥厚した骨や靭帯により押されている状態を意味する。このように肥厚した骨や靭帯は、腰部脊柱管を通過する神経を圧迫し、腰痛や脚の痛みを誘発する。
【0004】
頸部脊柱管狭窄症(cervical canal stenosis)は、頸椎部に発生する脊柱管狭窄症であり、脊柱管や神経管の退行性変化により頸部脊柱管を通過する神経を圧迫し、頸椎痛や腕又は脚の痛みを誘発する。
【0005】
前記疾患に対してまずは非手術的治療を行うが、所定期間の非手術的治療に反応しない脊柱管狭窄症においては、手術によってのみ根本的治療が可能であるので、病気がかなり進行し、保存的療法では大きな効果が得られない患者の場合や、日常生活に多くの制約がある場合や、椎間板ヘルニアを伴い、急性で激しい症状のある患者の場合は、手術的治療を考慮すべきである。
【0006】
前記疾患の手術的治療方法として、椎体間固定術(intervertebral fusion)が挙げられる。前記固定術は、移植骨と宿主骨の癒合により分節間の運動を除去し、持続的かつ強固に安定性を維持するための手術である。
【0007】
一方、移植した骨が宿主骨と癒合するまでに、様々な物理学的及び生物学的環境に影響される複数の過程が存在する。よって、骨癒合のために主に用いられる移植材は自家骨であるが、不足することが多い現状である。
【0008】
近年、骨癒合のために、金属、セラミック、高分子などの材料が用いられている。前述した素材は、強度、耐久性、生体親和性、体内安定性、骨伝導性、加工容易性、消毒/滅菌安定性などを考慮して選択される。また、磁気透過性、放射線透過性、及び適切な硬度を有することも重要である。
【0009】
チタンなどの金属は、生体適合性に優れ、強度も高いが、骨伝導性に劣り、自家骨、脱灰骨(Demineralized bone matrix, DBM)などの別途の骨移植材を必要とするという欠点がある。また、弾性係数が高すぎ、応力遮蔽効果(stress shielding effect)や骨の沈下(Subsidence)を引き起こすことがある(V.H CIA et al., 2017)。
【0010】
一方、PEEKなどの高分子は、強度も高く、破折の危険が少なく、弾性係数が好ましいという利点があるが、骨伝導性がヒドロキシアパタイトなどのセラミックやチタンなどの金属に比べて非常に低く、別途の骨移植材を必要とし、放射線透過性が高く、追跡観察のために別途の処理(金属スパイクなど)を必要とするという欠点がある(S.M.Kurtz et al., 2007)。ヒドロキシアパタイトやバイオグラスなどのセラミックは、生体適合性と骨伝導性が高いが、強度が低く、脆性により破壊の可能性が高く、単独で用いることは困難である(D. Bellucci et al., 2018)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】T. Kokubo, et.al., Journal of Materials Science, 1985, pp. 2001-2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、SiO、Ca(OH)、CaF、B、MgO及びヒドロキシアパタイトを含む組成物を高温焼結して結晶化させた、ウォラストナイト、ヒドロキシアパタイト及びダイオプサイドを最適な比率で含む結晶化ガラスセラミックスが、従来のウォラストナイト/ヒドロキシアパタイト複合ガラスセラミックスに比べて、大幅に向上した強度を有するだけでなく、優れた生体活性を示すことを確認し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、SiO、Ca(OH)、CaF、B、MgO及びヒドロキシアパタイトを含むガラスセラミックス組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記ガラスセラミックス組成物を焼結することにより、CaSiO、Ca10(PO(OH)及びCaMgSiをそれぞれ20~60重量%含む生体活性結晶化ガラスセラミックスを提供することを目的とする。
【0014】
さらに、本発明は、前記結晶化ガラスセラミックスを含むインプラントを提供することを目的とする。
さらに、本発明は、前記ガラスセラミックス組成物を準備するステップと、前記ガラスセラミックス組成物を成形するステップと、前記成形したガラスセラミックス組成物を熱処理するステップとを含む、前記インプラントの製造方法を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、SiO、Ca(OH)、CaF、B、MgO及びヒドロキシアパタイトを含むガラスセラミックス組成物、前記ガラスセラミックス組成物を焼結することにより、CaSiO、Ca10(PO(OH)及びCaMgSiをそれぞれ20~60重量%含む生体活性結晶化ガラスセラミックス、前記ガラスセラミックスを含むインプラント及びその製造方法を提供する。よって、本発明のガラスセラミックスを含むインプラントは、曲げ強度及び圧縮強度が高く、優れた骨癒合能を有し、骨移植材を用いることなく単独で使用可能であるので、脊柱管狭窄症などの脊椎疾患の治療に有用であり、簡便に用いることができるものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の結晶化ガラスセラミックスのXRD結晶相(CaSiO、Ca10(PO(OH)及びCaMgSi)の成分比を示す図である。
図2】焼結温度及びNa添加の有無によるガラスセラミックスのXRDパターンを示す図である。
図3】本発明のガラスセラミックスを含む脊椎インプラントであって、研削加工により製造したインプラントを示す図である。
図4】本発明のガラスセラミックス組成物の1次熱処理及び2次熱処理後の硬度を示す図である。
図5】本発明のガラスセラミックスを含む脊椎インプラントであって、CAD/CAMにより製造したインプラントを示す図である。
図6a】擬似体液(SBF)浸漬試験による体内反応効果を示す図であって、SBF曝露10日後の表面を示す図である。
図6b】擬似体液(SBF)浸漬試験による体内反応効果を示す図であって、表面に形成された反応層の元素をFE-SEMによりEDS分析した結果を示す図である。
図6c】擬似体液(SBF)浸漬試験による体内反応効果を示す図であって、表面層におけるCa、Si、Mg及びPの増減を示す図である。
図6d】擬似体液(SBF)浸漬試験による体内反応効果を示す図であって、SBF曝露30日後のXRDパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本発明で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本発明で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。
【0018】
また、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本発明に記載された本発明の特定の態様の多くの等価物を認識し、確認することができるであろう。さらに、その等価物も本発明に含まれることが意図されている。
【0019】
前記目的を達成するための本発明の一態様は、SiO、Ca(OH)、CaF、B、MgO及びヒドロキシアパタイトを含むガラスセラミックス組成物を提供する。
【0020】
前記組成物は、ガラスセラミックス組成物の総重量に対して、SiOを15~45重量%、Ca(OH)を20~45重量%、CaFを0.01~5重量%、Bを0.01~5重量%、MgOを0.01~20重量%、ヒドロキシアパタイトを15~45重量%含んでもよい。
【0021】
具体的には、前記組成物は、SiOを15~45重量%、Ca(OH)を25~45重量%、CaFを0.01~3.5重量%、Bを0.01~3.5重量%、MgOを0.01~20重量%、ヒドロキシアパタイトを15~45重量%含んでもよい。
【0022】
より具体的には、前記組成物は、SiOを17~43重量%、20~40重量%又は22~38重量%含んでもよく、Ca(OH)を25~38重量%、26~36重量%又は28~34重量%含んでもよく、CaFを0.05~3.5重量%又は0.05~3重量%含んでもよく、Bを0.01~3.5重量%又は0.05~3重量%含んでもよく、MgOを0.5~14重量%又は0.5~12重量%含んでもよく、ヒドロキシアパタイトを18~42重量%、20~40重量%又は22~38重量%含んでもよい。
【0023】
本発明の具体的な一実施例において、前記組成物は、SiOを25~35重量%、Ca(OH)を28~32重量%、CaFを0.1~3重量%、Bを0.05~2重量%、MgOを1~10重量%、ヒドロキシアパタイトを25~35重量%含んでもよい。
【0024】
本発明の組成物は、Naをさらに含んでもよい。前記Naは、ガラスセラミックス組成物の総重量に対して、0.01~5重量%含まれ、具体的には、0.05~3重量%、0.1~2重量%又は0.1~1重量%含まれてもよいが、これらに限定されるものではない。
【0025】
本発明の具体的な一実施例において、ガラスセラミックス組成物にNaを添加しないと、970℃で熱処理してもウォラストナイト及びダイオプサイド相が形成されず、1050℃で熱処理すれば当該結晶相が形成されるが、Naを添加すると、970℃でもウォラストナイト及びダイオプサイド相が形成されることが確認された。これは、Naの添加が低い温度でもウォラストナイト及びダイオプサイド相の形成をもたらすことを示唆するものである。Naを添加すると、低い温度で熱処理が可能になるので、熱処理温度が高い場合に発生し得る膨張(swelling)や熱膨張による亀裂の問題を解決することができ、最適な温度で所望の形状に容易に加工することができる。
【0026】
本発明の具体的な他の実施例において、前記Naは、金属又は塩の形態であり、具体的にはNaCOであってもよいが、これらに限定されるものではない。
本発明の具体的なさらに他の実施例において、本発明の結晶化ガラスセラミックスは、ヒドロキシアパタイト焼結体や代表的な生体活性ガラスであるAW(apatite-wollastonite) glassより、曲げ強度及び圧縮強度が非常に高いことが確認された。具体的には、ヒドロキシアパタイトの曲げ強度は115MPaであり、AWglassの曲げ強度は215MPaであるのに対して、本発明の結晶化ガラスセラミックス曲げ強度は240~250MPaであることが確認され、ヒドロキシアパタイトの圧縮強度は830MPaであり、AWglassの圧縮強度は1060MPaであるのに対して、本発明の結晶化ガラスセラミックスの圧縮強度は1115~1320MPaであることが確認された。
【0027】
これは、本発明のガラスセラミックスが高強度の優れた物性を有することを示唆するものである。
本発明の他の態様は、前記ガラスセラミックス組成物を焼結することにより、CaSiO、Ca10(PO(OH)及びCaMgSiをそれぞれ20~60重量%含む生体活性結晶化ガラスセラミックスを提供する。
【0028】
前述したCaSiOはウォラストナイト(wollastonite)であり、Ca10(PO(OH)はヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite)であり、CaMgSiはダイオプサイド(diopside)である。
【0029】
本発明における「ウォラストナイト(wollastonite)」は、CaSiOの化学式で表されるカルシウムイノケイ酸塩鉱物(calcium inosilicate mineral)であり、カルシウムに代えて少量の鉄、マグネシウム及びマンガンを含むものであってもよい。自然界では、不純物が混ざった石灰岩(limestone)や苦灰岩(dolostone)が、スカルン(skarns)や接触変成岩(contact metamorphic rocks)と同様に、シリカを含有する流体(silica-bearing fluids)の存在の下で高い温度及び圧力に晒されると形成される。関連する鉱物としては、柘榴石(garnets)、ベスブ石(vesuvianite)、透輝石(diopside)、透閃石(tremolite)、緑簾石(epidote)、斜長石(plagioclase feldspar)、輝石(pyroxene)及び方解石(calcite)が挙げられる。例えば、ウォラストナイトは、二酸化炭素を放出する方解石(CaCO)とシリカ(SiO)の反応により生成される。
【0030】
ウォラストナイトは、窯業製品(ceramics)、ブレーキやクラッチなどの摩擦製品(friction products)、金属製作(metalmaking)、ペイント充填剤(paint filler)及びプラスチックに用いられる。
【0031】
本発明における「ヒドロキシアパタイト(hydroxylapatite)」は、カルシウムリン灰石の天然に存在する鉱物の形態であり、Ca(PO(OH)の化学式を有するが、結晶単位セルが2つのエンティティを含むので、通常はCa10(PO(OH)と表される。ヒドロキシアパタイトとは、複合アパタイトグループのヒドロキシル端成分を意味し、OHイオンがフッ化物、塩化物、炭酸塩などに置換されるとフルオロアパタイトやクロロアパタイトなどを形成する。純粋なヒドロキシアパタイト粉末は白色であるが、天然のアパタイトは茶色、黄色又は緑色を呈する。ヒドロキシアパタイトは、天然に生成されるだけでなく、湿式化学蒸着(wet chemical deposition)、生体模倣蒸着(biomimetic deposition)、湿式化学沈殿(wet chemical precipitation)ともいうゾルゲル法(sol-gel route)又は電着(electrodeposition)により合成される。
【0032】
ヒドロキシアパタイトは、人体の歯牙及び骨組織に存在する。よって、切断された骨組織を代替する充填剤として、又は補綴インプラント内への骨組織の内成長を促進するコーティング剤として用いられる。
【0033】
本発明における「ダイオプサイド(Diopside)」は、単斜輝石の鉱物であり、CaMgSiの化学式を有する。一般に、薄緑色、青色、茶色、無色又は白色である。短い角柱状結晶に細分化されており、柱状に存在する。劈開が明確であり、不規則な割れ目と5.5~6.5のモース硬度を有し、融点は1391℃である。ダイオプサイドを含むガラスセラミックスは、生体材料、核廃棄物の固定及び密封材料として用いられるなど、様々な技術分野において用いられる。
【0034】
本発明の結晶化ガラスセラミックスは、CaSiO、Ca10(PO(OH)及びCaMgSiをそれぞれ20~60の重量比で含み、具体的には10~30:45~65:15~35の重量比、15~25:50~60:20~30の重量比、又は15~25:50~60:20~30の重量比で含んでもよいが、これらに限定されるものではない。前記組成を有する本発明の結晶化ガラスセラミックスは、体液に曝露されるとヒドロキシアパタイトに迅速に変換され、反応層を生成することが確認された(実験例4-1)。これは、骨と早期に癒合する優れた骨癒合性を有することを示すものである。
【0035】
本発明の結晶化ガラスセラミックスは、本質的にCaSiO、Ca10(PO(OH)及びCaMgSiからなる結晶化ガラスセラミックスであってもよい。前記本質的にCaSiO、Ca10(PO(OH)及びCaMgSiからなる結晶化ガラスセラミックスとは、CaSiO、Ca10(PO(OH)及びCaMgSiを含み、その他の結晶相を結晶化ガラスセラミックスの総重量に対して10%未満、8%未満、5%未満、3%未満又は1%未満含むものを意味する。
【0036】
前記結晶化ガラスセラミックスは、CaMg(Si)を実質的に含まなくてもよく、ガラスセラミックスの結晶相の重量比を100として、CaMgSiを20~60の重量比、15~35の重量比、20~30の重量比で含んでもよい。そうすると、体液に曝露されたものより迅速に反応層が形成され、優れた骨癒合性を有する。
【0037】
本発明の結晶化ガラスセラミックスは、結晶化度が25%以上又は50%以上である。より具体的には、前記結晶化度は、80%以上、82%以上、84%以上、86%以上、88%以上、90%以上、92%以上、94%以上、95%以上、96%以上、98%以上、99%以上又は100%であってもよく、これらの範囲内の任意の組み合わせであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0038】
本発明の結晶化ガラスセラミックスは、900~1100℃、具体的には900~1050℃、より具体的には900~1000℃の温度で焼結することにより形成されてもよい。焼結温度が900℃以下であると、結晶化が十分に起こらなかったり、結晶化の中断により破損することがあるので、製品として使用することができない。一方、1100℃を超える温度で焼結すると、不要な加熱によるエネルギーの浪費を伴うだけでなく、結晶化ガラスセラミックスの中間部分の膨張などの結晶化ガラスセラミックスの形状の歪みが発生する。
【0039】
本発明においては、ガラスセラミックス組成物にNaをさらに含むので、より低い温度で焼結することによりガラスセラミックスを合成することができる。本発明の具体的な一実施例において、Naを含まないガラスセラミックス組成物を用いると、相対的に高温である1050℃で焼結しなければSiOがウォラストナイト及びダイオプサイドに相転移しないのに対して、Naを含むガラスセラミックス組成物を用いると、相対的に低温である970℃で焼結してもウォラストナイト及びダイオプサイドの相が形成されることが確認された。
【0040】
本発明の結晶化ガラスセラミックスは、体液に曝露されると、優れた生体活性により骨と癒合する。特定理論に拘束されるものではないが、前記ガラスセラミックスは、体液に接触すると、ガラスセラミックスからCa2+イオン及びPO 3-イオンが溶出し、前記イオンの過飽和によりCaPクラスターが形成され、結晶化ガラスセラミックスに存在するSi-O-H基に前記CaPクラスターが結合することにより、骨に類似したアパタイトを結晶化ガラスセラミックスの表面に形成させる。結晶化ガラスセラミックスは、このように形成されたアパタイトを介して骨と癒合するメカニズムを有する。
【0041】
本発明の具体的な一実施例において、擬似体液(Simulated Body Fluid; SBF)浸漬テストの結果、10日後の表面に厚さが69μmに達する灰色の反応層が形成され、表面層においてPの増加及びSiの減少が認められることにより、アパタイトに変換されたことが確認された(実験例4-1)。結晶化ガラスセラミックスに存在するウォラストナイト(CaSiO)、ヒドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))及びダイオプサイド(CaMgSi)の結晶相のうち、アパタイト以外の他の結晶相はPを含まないことを考慮すると、これらの結果における、表面に形成された反応層のPの増加及びSiの減少は、反応層にアパタイトが形成されたことを意味するものである。さらに、30日後にXRDパターンを確認した結果においても、水酸化アパタイトのピーク(peak)が増加する様相が明らかに観察されたので、反応層にアパタイトが形成されたことが明確に確認された。
【0042】
このような一連の実験により、本発明の結晶化ガラスセラミックスが表面アパタイト形成能に優れることが確認された。これは、本発明の結晶化ガラスセラミックスが骨癒合能に優れることを示唆するものである。
【0043】
本発明のさらに他の態様は、前記ガラスセラミックス組成物を用いて生体活性結晶化ガラスセラミックスを製造する方法を提供する。
具体的には、前記組成物を900~1100℃の温度で製造してもよい。また、Naを添加する場合は、低い温度である900~1000℃で熱処理することにより製造してもよい。Naを添加すると、低い温度で熱処理が可能であるので、高温で熱処理した場合に発生する膨張や亀裂の問題を解決することができ、最適な温度で所望の形状に容易に加工することができる。
【0044】
本発明のさらに他の態様は、前述した結晶化ガラスセラミックスを含むインプラントを提供する。
前記インプラントの物理・機械的評価に関する国際試験規格としては、ASTM F2077、ASTMF2267などが挙げられ、それらのうち前者は、静的圧縮及びねじり試験と動的疲労試験のためのジグ(jig)をはじめとする実験環境を規定しており、関連する試験プロトコルを提示している。
【0045】
前記インプラントは、ASTM F2077-18法により測定したときに、5~20kNの圧縮強度、3~10Nmのねじり強度、及び3kNの疲労荷重で5,000,000回まで破断しない疲労圧縮強度を有するものであってもよい。
【0046】
本発明の具体的な一実施例において、研削加工製造方法で製造したインプラントは、目標値を超える10~20kNの圧縮強度、5~10Nmのねじり強度、及び3kNの疲労荷重で5,000,000回まで破断しない疲労圧縮強度の物性を有することが確認された。
【0047】
本発明の具体的な他の実施例において、CAD/CAM製造方法で製造したインプラントは、5~15kNの圧縮強度、3~7Nmのねじり強度、及び3kNの疲労荷重で5,000,000回まで破断しない疲労圧縮強度の物性を有することが確認された。
【0048】
よって、本発明のインプラントは、頸椎用途や、より高強度が求められる腰椎用途の全ての用途の早期骨癒合用として使用可能である。
本発明における「圧縮強度(compressive strength)」とは、圧縮荷重下で耐えられる材料の最大応力を意味する。圧縮時に潰れて破片になる材料の圧縮強度は独立した性質であって、協議を経て定義されるが、圧縮しても潰れない材料の圧縮強度は、任意の量の材料を潰すために要する応力の量と定義されうる。テスト機器で適用された力を変形に対してプロットすることにより測定される。圧縮試験における圧縮強度は、最大荷重を試料の初期断面積で割ることにより計算される。
【0049】
本発明における「ねじり強度(torsional strength又はtorsion)」とは、ねじり荷重に耐える材料の能力の程度を意味し、ねじり強度は、ねじり荷重の影響を受けた材料の最大強度であり、破断するまで材料を維持する最大ねじり応力である。他に、破断係数又は剪断強度ともいう。測定単位は、ニュートンメートル(N・m)又はフィートポンド力(ft・lbf)が用いられる。
【0050】
本発明における「疲労強度(fatigue strength)」とは、所定回数の繰り返し荷重を加えて疲労試験の試片を破断するのに要する変動応力の大きさを意味し、その際の繰り返し回数を疲労寿命(fatigue life)という。疲労強度は、一般にS-N線図から直接測定することができるが、これに限定されるものではない。ASTMは、疲労強度SNfをNの繰り返し回数で破断が起こる応力値と定義している。
【0051】
本発明のインプラントは、骨移植材を用いることなく、単独で用いるものであってもよい。
本発明の具体的な一実施例において、前記インプラントは、チタン及び自家骨を挿入したインプラントが91%であったのに対して、90%骨癒合することが確認された。これは、本発明のガラスセラミックスを含む骨癒合用インプラントが、骨移植材を共に用いることなく、単独で用いても優れた比率で骨癒合することを示唆するものである。
【0052】
一方、インプラント結合には、摩擦(friction)、機械的結合、化学的結合の3つの主要変数が作用する。チタン合金は、生体親和性を有し、骨の成長がチタン表面付近まで至るので、それが表面の粗さの程度や気孔などの局所的な特性により機械的結合を形成する。しかし、チタンは、化学的に骨に結合することができないので、チタンインプラントは、なめらかな表面と局所的な支持により、骨と強く結合することができない。
【0053】
ヒドロキシアパタイトとリン酸カルシウム系の物質は、異物反応を示さないだけでなく、その表面が骨に強固に結合するので、理想的な素材である。ヒドロキシアパタイトとβ-TCP(beta-tricalcium phosphate)が化学的に骨に強固に結合することが報告されると、ヒドロキシアパタイトやリン酸カルシウム系と骨との結合メカニズムに関する多くの研究が行われるようになった。骨とヒドロキシアパタイトインプラントの化学的結合は、移植後の未成熟な骨が骨とヒドロキシアパタイト間の空間を満たすことにより生じる広範囲の骨リモデリングにより行われ、その後前記未成熟な骨が成熟した骨に代替される。しかし、ヒドロキシアパタイトとリン酸カルシウムは、機械的特性が良くないので、荷重を支える部位に適用することは困難であるという限界がある。
【0054】
本発明の具体的な一実施例において、PEEKインプラント、チタンインプラント、ヒドロキシアパタイトインプラント、及び本発明のガラスセラミックスを含むインプラントの引張強度テストの結果、本発明のインプラントが最も高い強度で骨結合することが確認された。これは、本発明のインプラントが従来の骨結合素材の限界を克服したことを示唆するものである。
【0055】
本発明のさらに他の態様は、前記インプラントの製造方法を提供する。
本発明のインプラントの製造方法は、前記ガラスセラミックス組成物を準備するステップと、前記ガラスセラミックス組成物を成形するステップと、前記成形したガラスセラミックス組成物を熱処理するステップとを含んでもよい。
【0056】
前記ガラスセラミックス組成物は、前述した本発明のガラスセラミックス組成物と同じものであってもよい。
本発明のインプラントの製造方法は、前記ガラスセラミックス組成物を準備し、ガラスセラミックス組成物を溶融するステップと、急冷するステップと、粉砕するステップとを含んでもよい。
【0057】
具体的には、前記ガラスセラミックス組成物を溶融するステップは、1000℃以上、1100℃以上、1200℃以上、1300℃以上又は1400℃以上で行ってもよく、前記ガラスセラミックス組成物を急冷するステップは、溶融したガラスセラミックス組成物を急冷して行ってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0058】
本発明の具体的な一実施例において、粉末形態のSiO、Ca(OH)、CaF、B、MgO及びヒドロキシアパタイトを混合してガラスセラミックス組成物を準備し、準備したガラスセラミックス組成物を1400℃以上の高温で2時間以上溶融し、その後急冷して粉砕することによりガラス粉末原料を作製してもよく、このように作製したガラス粉末原料をインプラント製造に用いてもよい。
【0059】
前記ガラスセラミックス組成物を成形するステップは、当該技術分野で公知の一般のセラミック成形体の製造方法と同様に行ってもよい。例えば、冷間等方圧縮、熱間等方圧縮、射出成形などにより行ってもよいが、これらに特に限定されるものではない。
【0060】
前記熱処理するステップは、500℃以上で行われ、具体的には550℃以上、600℃以上、650℃以上で行われてもよく、1400℃以下、1300℃以下、1200℃以下で行われてもよいが、これらに限定されるものではない。前記熱処理ステップは、1ステップで行われてもよく、2ステップ以上で行われてもよく、2ステップ以上で行われる場合は、相対的に低温、例えば600~800℃で1次熱処理し、その後900℃以上で2次熱処理することにより行われてもよい。
【0061】
本発明のインプラントの製造方法は、加工(machining)ステップをさらに含んでもよく、加工ステップは、研削加工するステップであってもよく、CAD/CAMステップであってもよい。加工ステップは、熱処理ステップの後に行われるが、特にこれに限定されるものではなく、熱処理ステップの前に行われてもよく、複数回の熱処理ステップの中間に行われてもよい。
【0062】
本発明における「研削加工」とは、研削砥石(grinding wheel)を用いて、高速回転により加工物を相対運動させて精密に加工する作業を意味する。前記研削砥石は、粒子と、結合体と、気孔とから構成されている。連続して加工することができ、効率的に研削することができる。
【0063】
本発明の具体的な一実施例においては、前記ガラスセラミックス組成物を1400℃以上の高温で2時間以上溶融し、その後急冷してガラス粉末原料を作製し、前記作製したガラス粉末を用いて、当該技術分野で公知の方法で原料の顆粒化及び成形を行い、次いで950~1100℃で焼結し、前記研削加工によりインプラントを製造した。
【0064】
本発明の「CAD/CAM」とは、印象材を用いることなく構造物を直接スキャンするか、石膏模型を製作することなく印象体をスキャンすることによりデジタルデータに変換し、その後コンピュータで補綴物をデザインして製作する作業を意味する。インプラント製作時に、手術用ガイド、カスタムアバットメント及び最終インプラント補綴物の製作に適用可能である。
【0065】
本発明の具体的な一実施例において、前記ガラスセラミックス組成物を1400℃以上の高温で2時間以上溶融し、その後急冷してガラス粉末原料を作製し、前記作製したガラス粉末を用いて、当該技術分野で公知の方法で原料の顆粒化及び成形を行い、次いで650~750℃で1次熱処理して仮焼結し、CAD/CAM加工後に、950~1100℃で2次熱処理して本焼結することによりインプラントを製造した。
【実施例
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0067】
ガラスセラミックス組成物の作製
粉末形態のSiO、Ca(OH)、CaF、B、MgO及びヒドロキシアパタイトを混合して本発明のガラスセラミックス組成物を作製した。具体的には、各原料をSiO25~35重量%、Ca(OH)28~32重量%、CaF0.1~3重量%、B0.05~2重量%、MgO1~10重量%及びヒドロキシアパタイト25~35重量%の比率で混合した。
【実施例2】
【0068】
結晶化ガラスセラミックスの製造及び組成分析
実施例1で作製したガラスセラミックス組成物を1400℃以上の高温で2時間以上溶融し、その後急冷してガラス粉末原料を作製し、次いで前記作製したガラス粉末を当該技術分野で公知の一般のセラミックス成形体の製造方法と同様に成形し、次いで1050~1100℃で高温焼結して99%以上結晶化した。
【0069】
結晶化により得られた結晶化ガラスセラミックスのXRD測定結果を分析したところ、ガラスセラミックスの結晶相(crystalline phase)としては、ウォラストナイト、ヒドロキシアパタイト及びダイオプサイドが15~25:50~60:20~30の重量比で存在することが確認された。具体的には、ウォラストナイト、ヒドロキシアパタイト及びダイオプサイドが20:53:26の重量比で存在することが確認された(図1)。
【実施例3】
【0070】
Naをさらに含むガラスセラミックス組成物を用いた結晶化ガラスセラミックスの製造及び組成分析
実施例1のガラスセラミックス組成物に、ガラスセラミックス組成物の総重量に対して0.42重量%のNaをさらに含むガラスセラミックス組成物を用いて、焼結温度を900~1100℃に設定することを除いて、実施例2と同様に結晶化ガラスセラミックスを製造した。
【0071】
製造した結晶化ガラスセラミックスのXRD測定結果をJADEプログラムで分析したところ、ガラスセラミックスの結晶相としては、実施例2の結晶化ガラスセラミックスと同様に、ウォラストナイト、ヒドロキシアパタイト及びダイオプサイドが20:53:26の重量比で存在することが確認された。
【0072】
比較例1:低温焼結した結晶化ガラスセラミックスの製造
焼結温度を970℃に設定することを除いて、実施例2と同様に結晶化ガラスセラミックスを製造した。
【0073】
実験例1:ガラスセラミックス組成物がNaを含むか否かによる焼結特性の評価
ガラスセラミックス組成物がNaを含むか否かによる焼結特性を評価するために、実施例2、実施例3及び比較例1の結晶化ガラスセラミックスをXRDにより分析した。その結果を比較して図2に示す。
【0074】
図2に示すように、1050℃で焼結した実施例2の結晶化ガラスセラミックスにおいて、2θ30.0゜のウォラストナイトピーク、並びに29.8゜及び35.0゜のダイオプサイドピークが認められた。しかし、970℃で焼結した比較例1の結晶化ガラスセラミックスにおいて、2θ30.5゜のSiOピークが認められるのに対して、2θ30.0゜のウォラストナイトピーク、並びに29.8゜及び35.0゜のダイオプサイドピークが認められないので、ウォラストナイト及びダイオプサイドに相転移(phase transformation)していないことが確認された。
【0075】
それに対して、Naをさらに含むガラスセラミックス組成物を用いて製造した実施例3の結晶化ガラスセラミックスにおいては、970℃で焼結した場合もウォラストナイト及びダイオプサイドピークが認められることが確認された。特定理論に拘束されるものではないが、これは、Naが低い温度でウォラストナイト及びダイオプサイドへの相転移を起こす役割を果たしうることを示唆するものである。
【0076】
よって、Naをさらに含むガラスセラミックス組成物を用いると、ウォラストナイト、ヒドロキシアパタイト及びダイオプサイドを含むガラスセラミックスをより低い温度で焼結することにより製造できることが確認された。
【0077】
実験例2:ガラスセラミックス組成物の加工性の確認
本発明によるガラスセラミックス組成物の優れた加工性を確認するために、研削加工及びCAD/CAM加工を行った。
【0078】
実験例2-1:研削加工による骨代替用インプラントの製造
実施例1で製造したガラスセラミックス組成物を1400℃以上の高温で2時間以上溶融し、その後急冷してガラス粉末原料を作製し、前記作製したガラス粉末を用いて、当該技術分野で公知の方法で原料の顆粒化及び成形を行い、次いで650~750℃で焼結した。その後、研削加工によりインプラントを製造した。その結果として製造されたインプラントを図3aに示す。
【0079】
前記研削加工により製造されたインプラントの物性評価を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
表1に示すように、本発明のガラスセラミックスを含むインプラントは、目標値を超える10~20kNの圧縮強度、5~10Nmのねじり強度、及び3kNの疲労荷重で5,000,000回まで破断しない疲労圧縮強度の物性を有することが確認された。
【0082】
実験例2-2:CAD/CAMによる骨代替用インプラントの製造
実施例1で製造したガラスセラミックス組成物を1400℃以上の高温で2時間以上溶融し、その後急冷してガラス粉末原料を作製し、前記作製したガラス粉末を用いて、当該技術分野で公知の方法で原料の顆粒化及び成形を行い、次いで650~750℃で1次熱処理して仮焼結し、CAD/CAM加工後に、950~1100℃で2次熱処理して本焼結することによりインプラントを製造した。本発明のガラスセラミックス組成物の1次熱処理及び2次熱処理後の硬度を図4に示す。図4に示すように、本発明のガラスセラミックス組成物は、相対的に低温で1次熱処理(1st Heat treatment)したときに石膏レベルの硬度(hardness)を示すが、これは様々な形状への加工を容易にする有利な特性である。このような特性を有するので、1次熱処理したガラスセラミックス組成物を所望の形状に加工し、その後それを相対的に高温で2次熱処理することにより、所望の物性を有するインプラントを製造することができる。
【0083】
最終的に製造されたインプラントを図5に示す。また、前記CAD/CAMにより製造されたインプラントの物性評価を表2に示す。
【0084】
【表2】
【0085】
表2に示すように、本発明のガラスセラミックスを含むインプラントは、5~15kNの圧縮強度、3~7Nmのねじり強度、及び3kNの疲労荷重で5,000,000回まで破断しない疲労圧縮強度の物性を有することが確認された。
【0086】
よって、本発明のガラスセラミックス組成物は、焼結後の研削加工により圧縮強度、ねじり強度及び疲労圧縮強度の全ての面で優れた物性を有するインプラントに加工できるだけでなく、仮焼結状態でCAD/CAM加工し、その後本焼結しても優れた物性を有するインプラントに加工できることが確認された。これは、本発明のガラスセラミックス組成物が優れた加工性を有することを示唆するものである。
【0087】
実験例3:結晶化ガラスセラミックスの物性の確認
本発明による結晶化ガラスセラミックスの優れた物性を確認するために、実施例3の結晶化ガラスセラミックスとヒドロキシアパタイト焼結体の曲げ強度及び圧縮強度を測定した。
【0088】
ヒドロキシアパタイト焼結体は、当該技術分野で公知の方法で原料の顆粒化及び成形を行い、その後1250℃で熱処理することにより製造した。
実施例3の結晶化ガラスセラミックス、及び製造したヒドロキシアパタイトの曲げ強度及び圧縮強度は、ASTM-C674及びASTM-C773法に合わせて加工し、その後測定した。その結果を表3に示す。比較のために、代表的な生体活性ガラスの一つであるAW(Apatite-Wollastonite) Glassの曲げ強度及び圧縮強度を共に示した(非特許文献1参照)。
【0089】
【表3】
【0090】
本発明の結晶化ガラスセラミックスは、前記ヒドロキシアパタイト焼結体及びAW(Apatite-Wollastonite) Glassより曲げ強度及び圧縮強度が相対的に高いことが確認された。具体的には、曲げ強度において、ヒドロキシアパタイトは115MPa、AWGlassは215MPaであるのに対して、本発明の結晶化ガラスセラミックスは240~250MPaであることが確認され、圧縮強度において、ヒドロキシアパタイトは830MPa、AWGlassは1060MPaであるのに対して、本発明の結晶化ガラスセラミックスは1115~1320MPaであることが確認された(表3)。
【0091】
これは、本発明のガラスセラミックスが高強度の優れた物性を有することを示すものである。
実験例4:本発明のガラスセラミックスの骨癒合能の確認
本発明の結晶化ガラスセラミックスの優れた早期骨癒合能を確認するために、擬似体液(Simulated Body Fluid; SBF)浸漬テストと生体内骨癒合テストを行った。
【0092】
実験例4-1.擬似体液浸漬テスト
ガラスセラミックスの骨癒合は体液との反応によるアパタイト形成により行われるので、本発明の結晶化ガラスセラミックスの早期骨癒合能を評価するために、実施例3のガラスセラミックスを擬似体液に浸漬し、その後アパタイトの形成をFE-SEM(Field Emission Scanning Electron Microscope)観察、EDS(Scanning Electron Microscopy)分析及びX線分析により確認した。
【0093】
擬似体液は、Na、K、Ca2+、Mg2+、Cl、HCO 、HPO 2-、SO 2-イオンを含む。各イオンの濃度を表4に示す。
【0094】
【表4】
【0095】
本発明の結晶化ガラスセラミックスを36.5℃で前記擬似体液50mLに接触させ、その後FE-SEM観察、EDS分析及びX線分析を行った。
FE-SEM観察の結果、擬似体液に10日間曝露すると、結晶化ガラスセラミックスの表面に灰色の反応層が形成されることが確認された(図6a)。
【0096】
また、表面に形成された反応層の元素をFE-SEMによりEDS mapping分析した結果、前記表面層においてPが増加したのに対して、Siが減少したことが確認された(図6b)。結晶化ガラスセラミックスに存在するウォラストナイト(CaSiO)、ヒドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))及びダイオプサイド(CaMgSi)の結晶相のうち、アパタイト以外の他の結晶相はPを含まないことを考慮すると、表面に形成された反応層のP増加及びSi減少は、反応層にアパタイトが形成されたことを意味するものである。
【0097】
一方、図6cにEDS line scanの結果をガラスセラミックスの表面に垂直な方向(黄色線)に沿って示す。反応層の位置に、明らかなP増加とSi減少が再度確認された。
【0098】
さらに、擬似体液に30日間曝露して結晶化ガラスセラミックスのXRDパターンを分析した結果、ヒドロキシアパタイトのピークが大幅に増加することが確認されたので、本発明の結晶化ガラスセラミックスの表面にアパタイトが形成されることが明確に確認された(図6d)。これは、本発明の結晶化ガラスセラミックスが優れた骨癒合能を有することを示唆するものである。
【0099】
実験例4-2.小動物の生体内(in vivo)骨癒合の比較テスト
実施例3の結晶化ガラスセラミックスを直径(Φ)4mm、長さ5mmのシリンダバーに連結されたΦ6mm、長さ7mmの長いシリンダバーに加工し、本発明のガラスセラミックスを含むインプラントを製造した。薄い方(Φ4mm)は長骨に挿入し、厚い方(Φ6mm)は長骨表面に接触させた。加工したバーは、超音波洗浄器で洗浄し、100℃で乾燥させた。バーは、EO-gasで滅菌した。
【0100】
チタン合金インプラント(Ti-6al-4V, Carpenter technology co., Wyomissing, USA)、PEEKインプラント(PEEK-CLAS SIX, Invibio Ltd., Lancashire, UK)及びヒドロキシアパタイト(HA)インプラントも前記方法で準備した。
【0101】
公知の方法により、結晶化ガラスセラミックスのin vivo骨癒合試験を行った。4種類のインプラント(本発明のガラスセラミックスを含むインプラント、チタンインプラント、PEEKインプラント及びHAインプラント)をpredeterminedrotationalsequenceにより各ウサギ(平均重量3.2±0.3kgのニュージーランドホワイト雄ウサギ)に挿入した。前記インプラントの挿入後に、筋膜組織層を再配置し、洗浄後に縫合した。屠殺後に、ステンレススチールワイヤを長骨に巻回し、インプラントの穴の中へ入れ、このワイヤがインプラントの縦軸と垂直になるように調節し、Instrontestingmachine(Daekyung Tech co, DTU-900Mh (200kN), Korea)で校正したload-cellを用いて張力試験を行った。
【0102】
組織分析は、骨・インプラントブロックを除去し、ホルムアルデヒドに固定し、脱石灰化していない断面を準備してH&E染色し、骨・インプラントスライドを電子顕微鏡(Olympus BX51TF, Japan)で撮影して行った。両側の管状インプラントの半分のhistomorphometric分析は、形態計測プログラム(LEICA IM50 Image Manager, version 4.0)を用いてスケール校正後に行った。
【0103】
引張強度(N)を測定した結果、本発明のガラスセラミックスを含むインプラントの平均引張強度(100~150N)は、チタン(30~50N)、PEEK(10~15N)及びHA(70~85N)インプラントの引張強度より大幅に高かった(p>0.05)。
【0104】
また、組織分析の結果、研磨したPEEK及びチタンインプラントの断面の光学顕微鏡分析において、骨/インプラント境界で明確かつ鮮明なラインが観察された。それに対して、HAと本発明のガラスセラミックスを含むインプラントの断面は、直接接触していることが観察され、チタンとPEEKより高い比率であった。また、HAと本発明のガラスセラミックスを含むインプラントにおいて、骨とインプラントの直接的な接触が観察され、周辺組織に表面の残骸や浮遊物の粒子は観察されなかった。
【0105】
前述した引張強度テスト及び組織形態学的分析の結果から、本発明のガラスセラミックスを含むインプラントは、PEEK、チタン、HAより強く結合することが確認された。
これは、本発明のインプラントが優れた骨結合特性を有することを示唆するものである。
【0106】
実験例4-3.骨癒合の比較人体臨床テスト
本発明のガラスセラミックスを含むインプラントの臨床効能を確認するために、椎体間固定術に広く用いられるチタンケージとの比較テストを行った。前記比較テストは、ランダム、多機関、単盲検、及び比較測定器でコントロールされた非劣性試験である。
【0107】
本発明のガラスセラミックスを含むインプラントとチタンケージの脊椎融合速度、沈下面積、及び骨溶解の程度を放射線及び3次元コンピュータ断層撮影により評価した。
単純放射線撮影及びCTスキャンによる骨癒合率測定の結果、本発明のインプラントは、チタン及び自家骨を挿入したインプラントが91%であったのに対して、90%と有意な差がなかった。また、沈下面積と骨溶解の程度においても有意な差がないことが確認された。
【0108】
一方、本発明のガラスセラミックスを含むインプラントは、前記チタンケージより骨癒合領域が有意に高いことが確認された。
また、本発明の早期骨癒合用インプラントは、骨移植材を用いることなく、単独で使用できることが確認された。すなわち、本発明のインプラントは、単独で用いることができ、チタン及び自家骨を挿入したインプラントが91%であったのに対して、90%骨癒合し、チタン及び自家骨を挿入したインプラントと同等の効果を発揮することが確認された。
【0109】
よって、本発明のガラスセラミックスを含む骨癒合用インプラントは、骨移植材を共に用いることなく、単独で用いても優れた比率で骨癒合することが確認された。
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、前記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図6c
図6d