(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】緩み止めボルト
(51)【国際特許分類】
F16B 39/30 20060101AFI20240123BHJP
F16B 33/02 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
F16B39/30 C
F16B33/02 Z
(21)【出願番号】P 2022572899
(86)(22)【出願日】2021-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2021024863
(87)【国際公開番号】W WO2022145078
(87)【国際公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2020219357
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391006636
【氏名又は名称】ハードロック工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107593
【氏名又は名称】村上 太郎
(72)【発明者】
【氏名】若林 克彦
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-013133(JP,A)
【文献】特表2001-512807(JP,A)
【文献】特開2019-113156(JP,A)
【文献】特開2015-137700(JP,A)
【文献】特表2013-543962(JP,A)
【文献】特開2008-151346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 39/30
F16B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
雌ねじを有するねじ穴に螺着されるよう雄ねじが外周面に形成されたねじ軸を有し、
前記雄ねじは、前記ねじ軸の軸方向中途部に位置するRねじ部と、前記Rねじ部よりも軸方向先端側に位置する先端側ねじ部とを備え、
前記Rねじ部の圧縮側フランク面及び遊び側フランク面のうち少なくとも一方は、前記雌ねじに対する遊びが無くなるように軸方向に沿う断面において凸円弧形状の凸フランク面部分を有し、前記凸フランク面部分は少なくとも前記雄ねじの1/2ピッチ分にわたって螺旋状に連続しており、
前記先端側ねじ部は前記凸フランク面部分を有していない、
緩み止めボルト。
【請求項2】
請求項1に記載の緩み止めボルトにおいて、前記Rねじ部の前記凸フランク面部分は少なくとも前記雄ねじの1ピッチ分にわたって螺旋状に連続している、緩み止めボルト。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の緩み止めボルトにおいて、前記Rねじ部の圧縮側フランク面及び遊び側フランク面のそれぞれが前記凸フランク面部分を有している、緩み止めボルト。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の緩み止めボルトにおいて、前記雄ねじは、前記Rねじ部よりも軸方向基端側に位置する基端側ねじ部をさらに備え、前記基端側ねじ部は前記凸フランク面部分を有していない、緩み止めボルト。
【請求項5】
請求項4に記載の緩み止めボルトにおいて、前記基端側ねじ部、前記Rねじ部及び前記先端側ねじ部は、一つのねじ山を形成するように螺旋状に連続している、緩み止めボルト。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の緩み止めボルトにおいて、前記雄ねじは、前記Rねじ部(以下、「第1Rねじ部」という。)とは異なる第2Rねじ部と、中間ねじ部とをさらに備え、前記第2Rねじ部及び前記中間ねじ部は、軸方向において前記第1Rねじ部と前記基端側ねじ部との間に位置し、前記中間ねじ部は、軸方向において前記第1Rねじ部と前記第2Rねじ部との間に位置し、前記第2Rねじ部の圧縮側フランク面及び遊び側フランク面のうち少なくとも一方は、前記雌ねじに対する遊びが無くなるように軸方向に沿う断面において凸円弧形状の凸フランク面部分を有し、前記凸フランク面部分は少なくとも前記雄ねじの1/2ピッチ分にわたって螺旋状に連続しており、前記中間ねじ部は前記凸フランク面部分を有していない、緩み止めボルト。
【請求項7】
請求項6に記載の緩み止めボルトにおいて、前記中間ねじ部は、少なくとも前記雄ねじの0.9ピッチ分にわたって螺旋状に連続している、緩み止めボルト。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の緩み止めボルトにおいて、前記第2Rねじ部の圧縮側フランク面及び遊び側フランク面のそれぞれが前記凸フランク面部分を有している、緩み止めボルト。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか1項に記載の緩み止めボルトにおいて、前記第2Rねじ部の前記凸フランク面部分は少なくとも前記雄ねじの3/4ピッチ分にわたって螺旋状に連続している、緩み止めボルト。
【請求項10】
請求項6~9のいずれか1項に記載の緩み止めボルトにおいて、前記基端側ねじ部、前記第1Rねじ部、前記中間ねじ部、前記第2Rねじ部及び前記先端側ねじ部は、一つのねじ山を形成するように螺旋状に連続している、緩み止めボルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩み止め機能を有する緩み止めボルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ボルトの緩み止めを行うために、緩み止め機能を有する緩み止めナットや緩み止めワッシャが種々開発され実用化されている。緩み止めナットとしては、Uナットやハードロックナット(「ハードロック」及び「HARDLOCK」は本願出願人の商標)などが知られている。また、緩み止めワッシャとしては、テーパーワッシャや、座面にセレーション等の凹凸形状を設けたワッシャなどがある。
【0003】
近年、取付作業負担の軽減や軽量化等を図るために、ナットやワッシャを用いずに、装置フレームその他の被取付対象自体にねじ穴をタッピング等により形成して、そのねじ穴に螺着したボルトによって取付部品を被取付対象に締結固定することが、様々な業界において一層要望されている。かかる場合でもボルトが緩まないようにするには、単体で緩み止め機能を有する緩み止めボルトが必要となる。
【0004】
一般に、雄ねじ及び雌ねじは、ISO規格等の要求される規格に沿った寸法公差の範囲内の寸法精度で形成される。雄ねじ及び雌ねじの寸法公差は、ボルトのねじ軸に対してナットを螺着可能なように定められる。一般的なメートルねじにおいては、雄ねじの寸法公差は例えばJIS B0209-2:2001(ISO 965-2:1998)6g の公差域クラスであり、雌ねじの寸法
公差は例えばJIS B0209-2:2001(ISO 965-2:1998)6H の公差域クラスである。その結果、
雄ねじと雌ねじとの間には遊びが生じる。
【0005】
雄ねじと雌ねじとの間に遊びが存在すると、振動によって座面圧が断続的に消失する状況では、短時間でボルトが緩んでしまう。
【0006】
特許文献1には、雌ねじのフランク面に「こぶ16」を設けることによって雄ねじと雌ねじとの間の遊びを無くし、これにより緩み止めを行う技術が開示されている。
【0007】
特許文献2には、ボルト軸の雄ねじのフランク面を、雌ねじよりも緩い傾斜の頂側フランク面(13)と、雌ねじよりも急傾斜の谷側フランク面(12)とから構成し、これらを円弧面(15)で接続して、この円弧面部分を雌ねじに干渉させることで緩み止めを行う技術が開示されている。
【0008】
特許文献3には、ナットの雌ねじの端部において圧縮側フランクに凸部(9)を設け、締結完了時に雌ねじの端部を変形させることによって、雌ねじの遊び側フランクを雄ねじの遊び側フランクに押圧させ、これにより緩みを防止する技術が開示されている。
【0009】
特許文献4には、ナットに締結した状態でナットとの接触面積を高め、ナットとの締結部に流れる電流量を増大させるためのアース用ボルトが開示されている。このアース用ボルトは、ねじ山の頭部側フランク面(15a)に形成された凸条部(18)を有している。
【0010】
特許文献5には、雄ねじ又は雌ねじの圧縮フランクに凸曲面を設けることにより緩み止めをする技術が開示されている。
【0011】
特許文献6には、雄ねじのフランク面を凸曲面により構成する一方、雌ねじのフランク
面は雄ねじの凸曲面に適合する凹曲面により構成し、これによりねじ接合の強度を高める技術が開示されている。
【0012】
特許文献7には、ねじ山を傾いた形状に形成しておき、締結完了時にねじ山が変形することで圧縮側フランク面同士のみならず遊び側フランク面同士も接触させ、これにより緩み止めを行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特表2001-512807号公報
【文献】特開2019-113156号公報
【文献】特開2018-100765号公報
【文献】特開2015-137700号公報
【文献】特表2013-543962号公報
【文献】特開2008-151346号公報
【文献】特開2014-206234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、締結作業性に優れ、ボルト自体に緩み止め機能を有する緩み止めボルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示による緩み止めボルトは、雌ねじを有するねじ穴に螺着されるよう雄ねじが外周面に形成されたねじ軸を有する。前記雄ねじは、前記ねじ軸の軸方向中途部に位置するRねじ部と、前記Rねじ部よりも軸方向先端側に位置する先端側ねじ部とを備えている。
【0016】
前記Rねじ部の圧縮側フランク面及び遊び側フランク面のうち少なくとも一方は、前記雌ねじに対する遊びが無くなるように(すなわち、雄ねじのRねじ部及び雌ねじの圧縮側フランク面同士が接触し、且つ、雄ねじのRねじ部及び雌ねじの遊び側フランク面同士が接触するように)軸方向に沿う断面において凸円弧形状の凸フランク面部分を有していてよい。この凸フランク面部分は少なくとも前記雄ねじの1/2ピッチ分にわたって螺旋状に連続していてよい。好ましくは、Rねじ部の圧縮側フランク面全体が前記凸フランク面部分であってよい。また、Rねじ部の遊び側フランク面全体が前記凸フランク面部分であってよい。
【0017】
前記先端側ねじ部は前記凸フランク面部分を有していない。好ましくは、ねじ軸をねじ穴に締結完了した状態で、雄ねじの先端側ねじ部及び雌ねじの圧縮側フランク面同士が接触するが、雄ねじの先端側ねじ部及び雌ねじの遊び側フランク面の間には隙間が形成される。先端側ねじ部は、一般的な規格、例えばJIS B 0205-1に規定される基準山形状にしたがって設計されていてよい。例えば、先端側ねじ部の圧縮側フランク面及び遊び側フランク面は、ボルトの軸心方向に沿う断面において平坦であってよいし、また、凹面状であってもよい。一方、Rねじ部の前記凸フランク面部分は、基準山形状の寸法公差から径方向外方に僅かにはみ出るように設計することができる。
かかる本発明の緩み止めボルトによれば、ボルト締結作業の初期においては、先端側ねじ部をねじ穴に対して円滑に螺進させていくことができる。Rねじ部がねじ穴に嵌合すると、Rねじ部及び雌ねじの圧縮側フランク面同士が接触するのみならず遊び側フランク面同士も接触するため、接触摩擦抵抗が増大して、所定のプリベリングトルクが発生するが、先端側ねじ部が既にねじ穴に嵌合しているため、ボルトを回転操作すれば軸方向の螺進力が生まれ、Rねじ部がねじ穴に嵌合されていく。
【0018】
前記Rねじ部の前記凸フランク面部分は少なくとも前記雄ねじの3/4ピッチ分にわたって螺旋状に連続していてもよいし、少なくとも前記雄ねじの1ピッチ分にわたって螺旋状に連続していてもよい。これによれば、Rねじ部が雌ねじに嵌合することによって調心作用が生じ、ねじ軸の軸心がねじ穴の軸心に対して偏心してしまうことを防止できる。また、Rねじ部が一つのみ設けられている場合、この唯一のRねじ部を少なくとも前記雄ねじの1ピッチ分にわたって螺旋状に連続させることで、必要なプリベリングトルクを唯一のRねじ部によって生じさせることができる。
【0019】
好ましくは、前記Rねじ部の圧縮側フランク面及び遊び側フランク面のそれぞれが前記
凸フランク面部分を有していてよい。すなわち、前記Rねじ部の圧縮側フランク面及び遊び側フランク面はいずれも、前記雌ねじに対する遊びが無くなるように(すなわち、雄ねじのRねじ部及び雌ねじの圧縮側フランク面同士が接触し、且つ、雄ねじのRねじ部及び雌ねじの遊び側フランク面同士が接触するように)軸方向に沿う断面において凸円弧形状の凸フランク面部分を有していてよい。これによれば、Rねじ部及び雌ねじの圧縮側フランク面同士の接触と、Rねじ部及び雌ねじの遊び側フランク面同士の接触とを、より確実に発生させることができる。
【0020】
好ましくは、前記雄ねじは、前記Rねじ部よりも軸方向基端側に位置する基端側ねじ部をさらに備えていてよい。この基端側ねじ部は前記凸フランク面部分を有していない。好ましくは、ねじ軸をねじ穴に締結完了した状態で、雄ねじの基端側ねじ部及び雌ねじの圧縮側フランク面同士が接触するが、雄ねじの基端側ねじ部及び雌ねじの遊び側フランク面の間には隙間が形成される。基端側ねじ部は、一般的な規格、例えばJIS B 0205-1に規定される基準山形状にしたがって設計されていてよい。例えば、基端側ねじ部の圧縮側フランク面及び遊び側フランク面は、ボルトの軸心方向に沿う断面において平坦であってよいし、また、凹面状であってもよい。このように基端側ねじ部を設けておくことにより、基端側ねじ部にねじ軸の軸力の大部分を負担させることができ、Rねじ部に生じる軸力を低減させることによって、Rねじ部における焼き付き発生を防止できる。
【0021】
好ましくは、前記基端側ねじ部、前記Rねじ部及び前記先端側ねじ部が、一つのねじ山を形成するように螺旋状に連続していてよい。これに代えて、基端側ねじ部がRねじ部に対して軸方向に離間した別のねじ山の一部であってもよい。また、基端側ねじ部がRねじ部に対して軸方向に離間した別のねじ山の一部であってもよい。
【0022】
前記雄ねじは、前記Rねじ部(以下、「第1Rねじ部」という。)とは異なる第2Rねじ部と、中間ねじ部とをさらに備えていてよい。前記第2Rねじ部及び前記中間ねじ部は、軸方向において前記第1Rねじ部と前記基端側ねじ部との間に位置していてよい。前記中間ねじ部は、軸方向において前記第1Rねじ部と前記第2Rねじ部との間に位置していてよい。前記第2Rねじ部の圧縮側フランク面及び遊び側フランク面のうち少なくとも一方は、前記雌ねじに対する遊びが無くなるように軸方向に沿う断面において凸円弧形状の凸フランク面部分を有していてよい。第2Rねじ部の前記凸フランク面部分は少なくとも前記雄ねじの1/2ピッチ分にわたって螺旋状に連続していてよい。前記中間ねじ部は前記凸フランク面部分を有していない。例えば、第2Rねじ部の前記凸フランク面部分は、雄ねじの基準山形状の寸法公差から径方向外方に僅かにはみ出るように設計することができる。
【0023】
このように、第2Rねじ部と中間ねじ部とを設けることにより、過度にプリベリングトルクが大きくなることを防止しつつ、必要なプリベリングトルクを生じさせることができる。
【0024】
前記中間ねじ部は、少なくとも前記雄ねじの0.9ピッチ分にわたって螺旋状に連続していてよい。中間ねじ部を、少なくとも前記雄ねじの1ピッチ分にわたって螺旋状に連続させれば、第1Rねじの先端側端部と第2Rねじの基端側端部とが隣接することがなく、いずれの断面においても第1Rねじ部と第2Rねじ部との間に中間ねじ部が介在することとなる。
【0025】
好ましくは、前記第2Rねじ部の圧縮側フランク面及び遊び側フランク面のそれぞれが前記凸フランク面部分を有していてよい。
【0026】
前記第2Rねじ部の前記凸フランク面部分は少なくとも前記雄ねじの3/4ピッチ分にわたって螺旋状に連続していてよいし、少なくとも前記雄ねじの1ピッチ分にわたって螺旋状に連続していてもよい。
【0027】
好ましくは、前記基端側ねじ部、前記第1Rねじ部、前記中間ねじ部、前記第2Rねじ部及び前記先端側ねじ部は、一つのねじ山を形成するように螺旋状に連続していてよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、締結作業性に優れ、ボルト自体に緩み止め機能を有する緩み止めボルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る緩み止めボルトの正面図、及び、要部拡大図である。
【
図2】
図2は、同緩み止めボルトをねじ穴に締結した状態の断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第2実施形態に係る緩み止めボルトの正面図、及び、要部拡大図である。
【
図4】
図4は、ボルト転造装置の概略構成図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態に係る緩み止めボルトを転造するための転造丸ダイスの要部拡大側面図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係る緩み止めボルトの繰り返し着脱試験の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0031】
図1及び
図2は本発明の第1実施形態に係る緩み止めボルトを示している。この緩み止めボルトは、装置フレームや鋼板等の被取付対象3に対して取付部品4を締結固定するために用いられる。被取付対象3には予めねじ穴31がタッピング等によって形成されており、取付部品4にはボルト挿通孔が形成されている。
【0032】
緩み止めボルトは、SS若しくはSUS等の金属製であり、雌ねじを有するねじ穴31に螺着されるよう雄ねじ2が外周面に形成されたねじ軸1を有している。雄ねじ2は、ねじ軸1の軸方向中途部に位置するRねじ部21と、Rねじ部21の軸方向先端部から先端側に向けて延びる先端側ねじ部22と、Rねじ部21の軸方向基端部から基端側に向けて延びる基端側ねじ部23とを備えている。
【0033】
先端側ねじ部22及び基端側ねじ部23は、一般的なねじ山形状、例えば、三角ねじ形状のねじ山からなり、それらの圧縮側フランク面(図においてねじ山の上側側面)及び遊び側フランク面(図においてねじ山の下側側面)のいずれも、軸方向に沿う断面において平坦に形成されている。なお、各フランク面のフランク角は例えば30°である。
【0034】
図示実施形態では、Rねじ部21の圧縮側フランク面及び遊び側フランク面のそれぞれが、ねじ穴31の雌ねじに対する遊びが無くなるように軸方向に沿う断面において凸円弧形状の凸フランク面として形成されている。本実施形態では、凸フランク面からなるRねじ部21の圧縮側フランク面及び遊び側フランク面は、雄ねじの約2ピッチ分にわたって螺旋状に連続している。
【0035】
緩み止めボルトのねじ軸1をねじ穴31に締結すると、
図2に示すように、Rねじ部21では、雄ねじ2及び雌ねじの圧縮側フランク面同士が接触するとともに、雄ねじ2及び雌ねじの遊び側フランク面同士が接触する。一方、一般ねじとして形成された先端側ねじ部22及び基端側ねじ部23では、雄ねじ2及び雌ねじの圧縮側フランク面同士が接触するが、雄ねじ2及び雌ねじの遊び側フランク面間に隙間が形成される。このような締結状態では、ねじ軸1の軸力の大部分は基端側ねじ部23によって負担され、圧縮側及び遊び側のフランク面が雌ねじに対して接触状態にあるRねじ部21に過大な応力が生じることを回避できる。一方、ボルトの締結作業初期においてはまず一般ねじからなる先端側ねじ部22から螺着していくため、この先端側ねじ部22の螺進力によってRねじ部21をねじ穴31に嵌合させることができる。したがって、Rねじ部21による大きな緩み止め作用を発揮するものでありながら、締結作業性に優れたものとなる。
【0036】
図3は本発明の第2実施形態に係る緩み止めボルトを示しており、上記第1実施形態と同様の構成については同符号を付して詳細説明を省略し、異なる構成、作用効果について説明する。
【0037】
第2実施形態に係る緩み止めボルトは、軸方向に離間した2つのRねじ部21’,21”(
図3において網掛け部分で示す。)と、2つのRねじ部21’,21”の間に設けられた中間ねじ部24とを備えている。
【0038】
各Rねじ部21’,21”は、雄ねじの約1ピッチ分にわたって螺旋状に連続している。各Rねじ部の形状は上記第1実施形態と同様であってよい。
【0039】
中間ねじ部24は、雄ねじの約1ピッチ分にわたって螺旋状に連続している。中間ねじ部24のねじ山形状は、先端側ねじ部22及び基端側ねじ部23と同様であってよい。すなわち、ボルトのねじ軸1をねじ穴31に締結したとき、中間ねじ部24の圧縮側フランク面が雌ねじの圧縮側フランク面に接触するが、中間ねじ部24の遊び側フランク面と雌ねじに遊び側フランク面との間には隙間が生じるよう、中間ねじ部24の各フランク面は軸方向に沿う断面において平坦状に形成されている。
【0040】
第2実施形態に係る緩み止めボルトによれば、2つのRねじ部によってプリベリングトルクを生じさせて、ボルトの緩み止めを行うことができる。しかも、2つのRねじ部の間に中間ねじ部を設けることにより、製作誤差等によって過度にプリベリングトルクが大きくなることを防止できる。
【0041】
上記各実施形態に係る緩み止めボルトは、
図4に示すボルト転造装置を用いて製造することができる。このボルト転造装置は、2つの転造丸ダイスを備え、この転造丸ダイスの
間でブランク(棒材)を転造することによって、ブランクの外周に雄ねじを形成する。
【0042】
図5は、第2実施形態に係る緩み止めボルトを転造するための転造丸ダイスの一例を示す。このダイスは、ねじ軸1に対してn倍(例えば8倍)の直径を有し、条数がnの多条ねじが外周面に形成されている。ダイスが1回転するとねじ軸がn回転する。すなわち、ダイスが1/n回転するとねじ軸が1回転して、ダイス外周のねじ形状がねじ軸に転写されていく。
【0043】
ダイスの多条ねじの一部には、2つのRねじの各フランク面を形成するための複数のRフランク面形成部(
図5に編掛け部分で示す。)が設けられている。ダイスの雄ねじの条数がnので、約1ピッチ分のRねじ部を形成する場合、各Rフランク面形成部は、ダイスの約1/n周にわたって連続していればよい。
【0044】
2つの転造ダイスともに
図5に示すダイスを用いることで、Rねじ部を有する緩み止めナットを高い生産性で製造することができる。なお、各ダイスの軸方向の位置決め、並びに、各Rフランク面形成部の回転周期を2つのダイス間で同期させることが肝要であるが、意図的に回転周期をわずかにずらすことによって、形成されるRねじ部の長さを微調整することも可能である。
【0045】
図6は、第2実施形態に係る緩み止めボルトの繰り返し着脱試験により、残留プリベリングトルクを測定した結果を示す。試験に用いたボルトのサイズはM20、ねじピッチ2.5mmである。試験結果から、最初の10回の着脱によってプリベリングトルクは約60%程度まで低下したが、その後着脱を繰り返してもプリベリングトルクは約60%程度を維持している。これにより、本実施形態の緩み止めボルトは、繰り返し着脱しても十分な緩み止め機能を発揮することが確認された。
【0046】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、適宜設計変更できる。例えば、ボルトのねじ軸に作用する軸力が比較的小さい場合等には、基端側ねじ部を設けなくてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 ねじ軸
2 雄ねじ
21 Rねじ部
22 先端側ねじ部
23 基端側ねじ部
24 中間ねじ部
31 ねじ穴