(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】サーモアクチュエーター
(51)【国際特許分類】
F15B 15/26 20060101AFI20240123BHJP
F16K 31/68 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
F15B15/26
F16K31/68 Z
(21)【出願番号】P 2023108475
(22)【出願日】2023-06-30
【審査請求日】2023-07-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391026287
【氏名又は名称】富士精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】中山 徹
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-223332(JP,A)
【文献】実開昭52-051995(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2018/0204659(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103016450(CN,A)
【文献】特開2017-223202(JP,A)
【文献】特開2016-020728(JP,A)
【文献】特開平09-068207(JP,A)
【文献】特開平02-300507(JP,A)
【文献】特開昭55-069306(JP,A)
【文献】米国特許第05056418(US,A)
【文献】米国特許第03575087(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 15/00-15/28
F16K 31/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
感温制御装置であるサーモアクチュエーターであって、
周囲の温度上昇に伴い突出するピストンロッドを有するサーモエレメントと、このサーモエレメントに装着されたケースと、このケースに対して突没自在に装着され、前記ピストンロッドと連動して突没動作する第1ロッドと、この第1ロッドを没方向に付勢する主スプリングを備えるとともに、係止機構により圧縮状態で係止された補助スプリングをさらに備え、
前記係止機構は、前記第1ロッドと連動して駆動される被駆動部材の動作不良に起因して前記サーモエレメントで前記ピストンロッドを押し出す反作用により前記第1ロッドに所定以上の軸力が作用した際に係止が解除され、係止が解除された前記補助スプリングで付勢されて突出した前記第1ロッドが没して後退しないように構成されていること
を特徴とするサーモアクチュエーター。
【請求項2】
前記係止機構は、所定以上の荷重が作用した際に係止部材が変形又は破断することで係止が解除される機構であること
を特徴とする請求項1に記載のサーモアクチュエーター。
【請求項3】
前記係止部材は、太さが徐々に拡径するテーパー部に掛け止められ、前記係止部材には、切れ目が形成されており、前記第1ロッドに所定以上の軸力が作用した際に前記テーパー部を前記係止部材が位置移動することで前記切れ目が広がり、前記係止部材が脱落することで係止が解除されること
を特徴とする請求項2に記載のサーモアクチュエーター。
【請求項4】
前記係止部材は、係止部に掛け止められており、前記第1ロッドに所定以上の軸力が作用した際に、前記係止部材が前記係止部から外れて脱落することで係止が解除されること
を特徴とする請求項2に記載のサーモアクチュエーター。
【請求項5】
前記係止機構は、前記補助スプリングが直接
、係止部に掛け止められることで係止され、前記第1ロッドに所定以上の軸力が作用した際に、前記補助スプリングが前記係止部から外れることで係止が解除されること
を特徴とする請求項1に記載のサーモアクチュエーター。
【請求項6】
前記ピストンロッドと前記第1ロッドとの間に介装されて前記ピストンロッドと連動して突没動作する第2ロッドをさらに備え、
前記第1ロッドに所定以上の軸力が作用していない時は、前記第1ロッドと前記第2ロッドとの間に隙間があり前記補助スプリングを介して前記第2ロッドの動作が前記第1ロッドに伝達され、
前記第1ロッドに所定以上の軸力が作用した時は、前記係止機構の係止が解除された後、前記隙間がなくなり、前記第1ロッドと前記第2ロッドが当接することで前記第2ロッドの動作が前記第1ロッドに伝達されること
を特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のサーモアクチュエーター。
【請求項7】
前記第1ロッドに所定以上の軸力が作用することにより前記係止機構の係止が解除されて前記補助スプリングの付勢力で前記第1ロッドの突出長が保たれた後、周囲の温度上昇に伴う前記ピストンロッドの突出動作が前記第2ロッドを介して前記第1ロッドに伝達されて前記第1ロッドがさらに突出すること
を特徴とする請求項6に記載のサーモアクチュエーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーモアクチュエーターに関し、詳しくは、異常軸力発生時にオーバーヒートを回避するためにロッドの突出長をサーモエレメントの周囲の温度が下降しても維持する補助スプリングを備えたサーモアクチュエーターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、エンジン冷却水温度や油温に応じて作動するアクチュエーターによって、ロッドの突没動作と連動して駆動されるルーバー(遮蔽版)などの被駆動部材を開閉(駆動)して、熱交換器やエンジンに送られる外気の送風量を調整することが知られている。しかし、環境変化や悪路走行によりルーバーなどの被駆動部材に異物等が噛み込み、被駆動部材が固着したり、動きにくくなったりする動作不良が発生し得る。その時ルーバーなどの被駆動部材が閉止状態の場合は、エンジンへの送風が断たれ油温が上昇し、最悪オーバーヒートに繋がるという問題が発生する。このため、何らかの手段により被駆動部材を開状態にするとともに周囲の温度が下降しても開状態を維持することが必要である。
【0003】
従来のサーモアクチュエーター構造でも、サーモエレメントのピストンロッドを押し出す力で異物噛み込みによる固着等の動作不良を解除する力は発生させることができるものの、その後は通常のサーモアクチュエーターの動作となるため、ユーザーに異常が発生したことを気づかせることが難しいという問題がある。また、一度固着解除したサーモアクチュエーターは、異常な応力を受けることで内部が変形し、所定のリフト(ロッドの突出長)が得られない場合がある。そして、異常応力を受けたサーモアクチュエーターにおいて通常動作を続けた場合、所定のリフトが得られないことに起因して、エンジンのオーバーヒートに繋がるという問題が発生する。
【0004】
例えば、特許文献1には、リテーナ15を支持するガイド体11に、基端部から立ち上がる円筒部11aと、円筒部の先端に向かって外径を拡大するテーパ部11cと、テーパ部に続いて軸芯方向に凹むロック部材の係合溝11dが備えられ、リテーナ15のリフト状態において、リテーナ15を円滑にロック状態にすることができるロック機能を備えたサーモアクチュエーターが開示されている(特許文献1の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0025]~[0036]、図面の
図1~
図5等参照)。
【0005】
しかし、特許文献1に記載のロック機能を備えたサーモアクチュエーターは、異常高温発生時にある一定の高リフトに達するとオープンロックする構造であり、異物等の噛み込み等の異常荷重発生時に対処することが想定されているものではない。このため、想定される異常荷重発生時に特定のリフトに到達しない場合は、オープンロックさせることはできずに通常のサーモアクチュエーターの動作に戻る可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、前記問題点を解決するために案出されたものであり、その目的とするところは、ルーバーなどの被駆動部材の動作不良解除後に周囲の温度が下降した際にも被駆動部材の開状態を維持できるロッドの突出長を保持するために付勢する補助スプリングを備えたサーモアクチュエーターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明に係るサーモアクチュエーターは、感温制御装置であるサーモアクチュエーターであって、周囲の温度上昇に伴い突出するピストンロッドを有するサーモエレメントと、このサーモエレメントに装着されたケースと、このケースに対して突没自在に装着され、前記ピストンロッドと連動して突没動作する第1ロッドと、この第1ロッドを没方向に付勢する主スプリングを備えるとともに、係止機構により圧縮状態で係止された補助スプリングをさらに備え、前記係止機構は、前記第1ロッドと連動して駆動される被駆動部材の動作不良に起因して前記サーモエレメントで前記ピストンロッドを押し出す反作用により前記第1ロッドに所定以上の軸力が作用した際に係止が解除され、係止が解除された前記補助スプリングで付勢されて突出した前記第1ロッドが没して後退しないように構成されていることを特徴とする。
【0009】
第2発明に係るサーモアクチュエーターは、第1発明において、前記係止機構は、所定以上の荷重が作用した際に係止部材が変形又は破断することで係止が解除される機構であることを特徴とする。
【0010】
第3発明に係るサーモアクチュエーターは、第2発明において、前記係止部材は、太さが徐々に拡径するテーパー部に掛け止められ、前記係止部材には、切れ目が形成されており、前記第1ロッドに所定以上の軸力が作用した際に前記テーパー部を前記係止部材が位置移動することで前記切れ目が広がり、前記係止部材が脱落することで係止が解除されることを特徴とする。
【0011】
第4発明に係るサーモアクチュエーターは、第2発明において、前記係止部材は、係止部に掛け止められており、前記第1ロッドに所定以上の軸力が作用した際に、前記係止部材が前記係止部から外れて脱落することで係止が解除されることを特徴とする。
【0012】
第5発明に係るサーモアクチュエーターは、第1発明において、前記係止機構は、前記補助スプリングが直接、係止部に掛け止められることで係止され、前記第1ロッドに所定以上の軸力が作用した際に、前記補助スプリングが前記係止部から外れることで係止が解除されることを特徴とする。
【0013】
第6発明に係るサーモアクチュエーターは、第1発明~第5発明のいずれかにおいて、前記ピストンロッドと前記第1ロッドとの間に介装されて前記ピストンロッドと連動して突没動作する第2ロッドをさらに備え、前記第1ロッドに所定以上の軸力が作用していない時は、前記第1ロッドと前記第2ロッドとの間に隙間があり前記補助スプリングを介して前記第2ロッドの動作が前記第1ロッドに伝達され、前記第1ロッドに所定以上の軸力が作用した時は、前記係止機構の係止が解除され、前記隙間がなくなり、前記第1ロッドと前記第2ロッドが当接することで前記第2ロッドの動作が前記第1ロッドに伝達されることを特徴とする。
【0014】
第7発明に係るサーモアクチュエーターは、第6発明において、前記第1ロッドに所定以上の軸力が作用することにより前記係止機構の係止が解除されて前記補助スプリングの付勢力で前記第1ロッドの突出長が保たれた後、周囲の温度上昇に伴う前記ピストンロッドの突出動作が前記第2ロッドを介して前記第1ロッドに伝達されて前記第1ロッドがさらに突出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1発明~第7発明によれば、補助スプリングを備え、係止機構は、第1ロッドと連動して駆動される被駆動部材の動作不良に起因してサーモエレメントでピストンロッドを押し出す反作用により第1ロッドに所定以上の軸力が作用した際に係止が解除され、係止が解除された補助スプリングで付勢されてピストンロッドで押し出されて一旦突出した第1ロッドがサーモエレメントの周囲の温度が下降しても没して後退しないように構成されているので、被駆動部材の動作不良を解除した後にサーモエレメントの周囲の温度が下降した場合でも被駆動部材を開状態に保持することができ、最悪な事態であるオーバーヒートを防ぐことができる。また、第1発明~第7発明によれば、ルーバーなどの被駆動部材の動作不良発生後に被駆動部材が常時開状態となること、即ち、低温においても被駆動部材が開いていることでユーザーに異常だと気付かせることができる。
【0016】
特に、第2発明及び第3発明によれば、係止部材が変形又は破断することで係止が解除されるので、係止機構を簡単な安価な構成で達成することができるとともに、確実に補助スプリングで付勢して被駆動部材を開状態に保持することができる。
【0017】
特に、第4発明によれば、係止部材が係止部から外れて脱落することで係止が解除されるので、さらに係止機構を簡単な安価な構成とすることができるとともに、確実に補助スプリングで付勢して被駆動部材を開状態に保持することができる。
【0018】
特に、第5発明によれば、係止機構は、補助スプリングが直接係止部に掛け止められることで係止され、第1ロッドに所定以上の軸力が作用した際に、補助スプリングが係止部から外れることで係止が解除されるので、係止部材が不要となり、さらに係止機構を簡単な安価な構成とすることができるとともに、係止部材が途中で引っ掛かるおそれもなく、確実に補助スプリングで付勢して被駆動部材を開状態に保持することができる。
【0019】
特に、第6発明によれば、第1ロッドに所定以上の軸力が作用していない時は、補助スプリングを介して第2ロッドの動作が第1ロッドに伝達され、第1ロッドに所定以上の軸力が作用した時は、第1ロッドと第2ロッドが当接することで第2ロッドの動作が第1ロッドに伝達されるので、第1ロッドに所定以上の軸力を感知して被駆動部材を開状態に保持することと、周囲の温度上昇に伴い突出するピストンロッドの動作を確実に第1ロッドに伝達することを上手く両立することができる。
【0020】
特に、第7発明によれば、高温状態になると、サーモエレメント(ペレット)が作動し被駆動部材を開かせることが可能であり、固着を解除した後にも固着力が多少残り、補助スプリングの荷重では一定の突出長が得られない状態においても、サーモエレメント(ペレット)の作動で被駆動部材を開かせ、エンジンのオーバーヒートを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係るサーモアクチュエーターの構成を示す断面図である。
【
図2】
図2(a)は、通常時の
図1のA部拡大図であり、
図2(b)は、異常荷重発生時の
図1のA部拡大図である。また、
図2(c)は、通常時の止め輪を示す平面図であり、
図2(d)は、異常軸力発生時の止め輪を示す平面図である。
【
図3】
図3(a)は、通常時の別の実施形態に係る止め輪を示す
図1のA部拡大図に相当する図であり、
図3(b)は、異常軸力発生時の別の実施形態に係る止め輪を示す
図1のA部拡大図に相当する図である。また、
図3(c)は、通常時の別の実施形態に係る止め輪を示す平面図であり、
図3(d)は、異常軸力発生時の別の実施形態に係る止め輪を示す平面図である。
【
図4】
図4(a)は、別の実施形態に係る係止機構を示す
図1のA部拡大図に相当する図であり、
図4(b)は、異常軸力発生時の別の実施形態に係る係止機構を示す
図1のA部拡大図に相当する図である。
【
図5】
図5は、同上のサーモアクチュエーターの通常動作を示す図であり、(a)が温度上昇前を示し、(b)が温度上昇後を示している。
【
図6】
図6は、同上のサーモアクチュエーターの動作不良発生後の動作を示す図であり、(a)が動作不良発生時の動作を示し、(b)が動作不良解除時の動作を示し、(c)がルーバーオープン時の動作を示す。
【
図7】
図7は、同上のサーモアクチュエーターのフルオープン時の動作を示す図であり、(a)が
図6(c)と同じ補助スプリングで第1ロッドを所定のリフト状態に保持し、ルーバーを開状態に保持したオープンロックの状態を示し、(b)がフルオープン時の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態に係るサーモアクチュエーターについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
<サーモアクチュエーターの構成>
図1~
図3を用いて、本発明の実施の形態に係るサーモアクチュエーター1の構成について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るサーモアクチュエーター1の構成を示す断面図である。
【0024】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係るサーモアクチュエーター1は、サーモエレメント2を備え、温度センサと制御動作(駆動動作)を行うアクチュエーターの機能を併せ持つ感温制御装置である。本実施の形態に係るサーモアクチュエーター1は、エンジンの油温を感知して被駆動部材であるルーバー(遮蔽板)を開閉し、送風量を調整するサーモアクチュエーターを例示して説明する。
【0025】
(サーモエレメント)
このサーモエレメント2は、パラフィンワックスなどのワックスが封入された黄銅などの金属製の容器であるハウジング20と、このハウジング20に対して突没自在なステンレス製のピストンロッド3を備え、サーモエレメント2の周囲の温度上昇に伴いハウジング20内のワックスの膨張でピストンロッド3が突出する仕組みとなっている。勿論、ハウジング20に封入されるワックスは、パラフィンワックスに限られず、マイクロワックスなど、比較的体積変化の大きい所定の熱膨張特性を有する物質であれば本発明に適用可能である。
【0026】
また、本実施の形態に係るサーモアクチュエーター1は、このサーモエレメント2が装着された第1ケース4と、この第1ケース4に対して突没自在に装着された第1ロッド5と、この第1ロッド5を没方向に付勢する主スプリングである第1スプリング6など、を備えている。
【0027】
また、第1ロッド5には、第2ケース8が接続され、この第2ケース8には、第2ケース8及び第1ロッド5を突出方向に付勢する補助スプリングである第2スプリング9が介装されている。そして、この第2スプリング9は、圧縮された状態で係止部材である止め輪10で第2ロッド11に掛け止められて係止されている。
【0028】
この第2ロッド11は、ピストンロッド3と第2ケース8との間に挿置されており、ワックスの膨張でピストンロッド3が突出すると、このピストンロッド3に押し出されて、第2ケース8及びこの第2ケース8に接続された第1ロッド5を玉突き状態で押し出す仕組みとなっている。但し、
図1に示すように、通常時は、ピストンロッド3と第2ロッド11は、当接しており、第1ロッド5と一体となった第2ケース8と第2ロッド11とは、離間している。
【0029】
なお、サーモエレメント2は、第1ケース4との間にアクリルゴム(ACM)からなるOリング12が介装されてエンジンとの嵌合部が封止されている。また、第1ケース4は、サーモエレメント2ごと、支持部材である支持プレート13にカシメ止められて装着され、サーモアクチュエーター1全体が固定支持されている。
【0030】
(第1ケース)
第1ケース4は、ステンレス鋼(SUS430)からなり、一端が開放された開放端4aとなっており、他端が途中で縮径する縮径部4bが形成された円筒状のケースである。この第1ケース4は、開放端4a側がサーモエレメント2及び支持プレート13に装着されている。また、第1ケース4の縮径部4bには、ポリフェニレンスルファイド(PPS樹脂)からなる軸受け41が装着されており、この軸受け41を介して後述の第1ロッド5が突没自在に構成されている。縮径部4bの軸受け41の外側(第1ロッド5の突出方向側)には、サーモアクチュエーター1内への外液やダスト侵入を防止するために合成ゴムであるEPDM(エチレンプロピレンジエンモノマー)からなるOリング42が装着されて封止されている。
【0031】
(第1ロッド)
第1ロッド5は、ステンレス鋼材(SUS430)の棒材からなり、先端にルーバーに連結されたプッシュロッド51が嵌着されている。
【0032】
(主スプリング)
主スプリングである第1スプリング6は、ステンレス鋼線(SUS304)からなるコイルスプリングであり、一端が第1ケース4の縮径部4b側の内壁に当接し、他端が第1ロッド5と接続する第2ケース8に掛けて止められている。このため、第1スプリング6は、前述のように、第1ロッド5を没方向、即ち、温度下降時に第1ロッド5を第1ケース4内に引き込む方向に付勢している。なお、主スプリングである第1スプリング6の付勢力は、48~55Nに設定されている。
【0033】
(第2ケース)
第2ケース8は、第1ロッド5と同材のステンレス鋼材(SUS430)からなり、第1ロッド5に接続されて一体化している部材である。この第2ケース8は、一端が閉塞された円筒状の部材であり、中央に第2ロッド11を挿置する凹部81が形成されており、凹部81の外側は、第2スプリング9を挿置するスペースとなっている。また、第2ケース8の開放端には、外側へ折り返された鍔状の掛止め部82が形成されており、前述の第1スプリング6が掛け止められている。
【0034】
(補助スプリング)
補助スプリングである第2スプリング9は、第1スプリング6と同様に、ステンレス鋼線(SUS304)からなるコイルスプリングであり、圧縮された状態で一端が第2ケース8の閉塞端の内壁に当接し、他端が第2ロッド11に掛け止められた止め輪10に当接している。なお、止め輪10については後述する。また、補助スプリングである第2スプリング9の付勢力は、第1スプリング6の付勢力に対抗してルーバーの開状態を保持するために第1スプリング6の付勢力より大きい55~93Nに設定されている。
【0035】
(第2ロッド)
第2ロッド11は、凹部81に挿置する側の端部111がキノコ状に拡径しており、ステンレス製のワイヤリング14で凹部81から第2ロッド11が外れないように掛け止められている。また、第2ロッド11のピストンロッド3側の他端には、ピストンロッド3側に近づくに従って太さが徐々に拡径するテーパー部112が形成されており、このテーパー部112に止め輪10が掛け止められている。
【0036】
<係止機構>
次に、
図2を用いて、本発明の実施形態に係る係止機構(係止部材)である止め輪10について説明する。
図2(a)は、通常時の
図1のA部拡大図であり、
図2(b)は、異常荷重発生時の
図1のA部拡大図である。また、
図2(c)は、通常時の止め輪10を示す平面図であり、
図2(d)は、異常荷重発生時の止め輪10を示す平面図である。
【0037】
図2に示すように、本発明の実施形態に係る係止機構(係止部材)である止め輪10は、切れ目10aが形成されたC字形状となっている。一方、異物等の噛み込みなどに起因してプッシュロッド51を介して第1ロッド5の突没動作と連動して開閉するルーバーが固着したり、動きにくくなったりする動作不良が発生すると、サーモエレメント2でピストンロッド3を押し出すことによりルーバーに連結されたプッシュロッド51を介してその反作用で第1ロッド5に異常軸力である所定以上の軸力(後述のように100N以上)が作用する。すると、前述のように、第2ケース8と第2ロッド11とが離間しているため、第1ロッド5に作用する異常軸力は、鋼線同士が接触するように圧縮された第2スプリング9を介して止め輪10に作用する。
【0038】
異常軸力が止め輪10に作用すると、この止め輪10は、第2ロッド11のテーパー部112に掛け止められているため、止め輪10がテーパー部112の
図2(b)の矢印方向に位置移動することとなる。すると、切れ目10aが変形して広がり、止め輪10が第2ロッド11のテーパー部112から脱落することで係止機構の係止が解除される。この止め輪10の切れ目10aが広がり始める荷重が後述のように100Nに設定されている。勿論、本発明に係る係止部材は、変形して係止が解除されるのではなく、破断することで係止が解除されるようにしてもよいことは云うまでもない。
【0039】
次に、
図3を用いて、本発明の別の実施形態に係る係止機構(係止部材)である止め輪10’について説明する。
図3(a)は、通常時の別の実施形態に係る止め輪10’を示す
図1のA部拡大図に相当する図であり、
図3(b)は、異常軸力発生時の止め輪10’を示す
図1のA部拡大図に相当する図である。また、
図3(c)は、通常時の止め輪10’を示す平面図であり、
図3(d)は、異常軸力発生時の止め輪10’を示す平面図である。
【0040】
別の実施形態に係る止め輪10’が、前述の止め輪10と相違する点は、止め輪10’の厚さが前述の止め輪10の厚さより薄くなっている点と、係止部材である止め輪10’がテーパー部112に掛け止められているのではなく、第2ロッド11の第1係止部113(係止部)に掛け止められている点である。そのため、その点について説明し、他の構成は、同一構成は同一符号を付し、説明を省略する。
【0041】
止め輪10’の厚さが止め輪10の厚さより薄くなっているとともに、第2ロッド11のサーモエレメント2側の下端部に形成された第1係止部113に掛け止められている。このため、異常軸力が止め輪10’に作用すると、
図3(b)の矢印方向で示すように、止め輪10’がテーパー部112をズレて位置移動するのではなく、リング状の止め輪10’が第1係止部113に引っ掛かったまま外側に倒れて円錐台状に変形することで結果的に止め輪10’が第2ロッド11の第1係止部113から脱落することで係止機構の係止が解除される。
【0042】
以上のように、係止機構は、第1ロッド5に所定以上の軸力が作用した際に係止部材である止め輪10又は止め輪10’が変形又は破断することで係止が解除されるものを例示して説明したが、本発明に係る係止機構は、第1ロッド5に所定以上の軸力が作用した際に係止が解除される機構であれば、係止部材が変形又は破断することで係止が解除されるものに限られない。
【0043】
次に、
図4を用いて、係止部材が変形又は破断することで係止が解除されるものではなない別の実施形態に係る係止機構について説明する。
図4(a)は、別の実施形態に係る係止機構を示す
図1のA部拡大図に相当する図であり、
図4(b)は、異常軸力発生時の別の実施形態に係る係止機構を示す
図1のA部拡大図に相当する図である。本実施形態に係る係止機構が、前述の係止機構(の係止部材である止め輪10,止め輪10’)と相違する点は、係止部材その物がなく、補助スプリングの変形例に係る第2スプリング9’が直接、第2ロッド12の第2係止部114に掛け止められている点である。そのため、その点について説明し、他の構成は、同一構成は同一符号を付し、説明を省略する。
【0044】
図4に示す本実施形態に係る係止機構は、前述の第2スプリング9のサーモエレメント2側の下端部のスプリング鋼線の径が小さくなった変形例に係る第2スプリング9’となっているとともに、第2ロッド12のサーモエレメント2側の下端部に第2係止部114が形成されており、この第2係止部114に、第2スプリング9’のスプリング鋼線が直接掛け止められている。
【0045】
このため、第1ロッド5に作用する異常軸力が第2スプリング9’に伝達されると、
図4(b)の矢印方向で示すように、スプリング鋼線の径が小さくなった第2スプリング9’の下端部が押圧されて第2係止部114を乗り越えて広がり、第2ロッド11の第2係止部114から脱落することで係止機構の係止が解除される。そのため、係止部材が不要となり、係止機構を簡単な安価な構成とすることができるとともに、係止部材が途中で引っ掛かるおそれもなく、確実に補助スプリングである第2スプリング9’で付勢してルーバーを開状態に保持することができる。
【0046】
<サーモアクチュエーターの動作>
次に、
図5~
図6を用いて、サーモアクチュエーター1の動作について説明する。
図5は、サーモアクチュエーター1の通常動作を示す図であり、(a)が温度上昇前を示し、(b)が温度上昇後を示している。また、
図6は、サーモアクチュエーター1の動作不良発生後の動作を示す図であり、(a)が動作不良発生時の動作を示し、(b)が動作不良解除時の動作を示し、(c)がルーバーオープン時の動作を示す。
【0047】
図5(a),
図5(b)に示すように、サーモアクチュエーター1の通常動作は、サーモエレメント2の周囲の温度上昇に伴いハウジング20内のワックスの膨張でピストンロッド3が突出する。すると、ピストンロッド3で第2ロッド11が押し出される。
【0048】
このとき、前述のように、第1ロッド5と一体となった第2ケース8と第2ロッド11とは、離間距離D1だけ離間している。しかし、前述のように、第2スプリング9は、圧縮された状態で第2ケース8に収容されている。このため、ピストンロッド3の突出力(リフト力)は、第2ロッド11に伝達された後、テーパー部112に掛け止められた止め輪10を介して第2スプリング9に伝達されて第2ケース8の閉塞端から、これと一体の第1ロッド5に伝達されてリフト距離L1(第1ロッド5の突出長の増加分)だけリフトアップし、ルーバーを開く方向に動作する。なお、図示形態では、リフト距離L1=8.0mm、離間距離D1=1.0mmを想定している。
【0049】
温度下降時は、サーモエレメント2の周囲の温度下降に伴いハウジング20内のワックスが縮小し、ピストンロッド3が没方向にハウジング20内に引っ込んで後退する。すると、主スプリングである第1スプリング6の付勢力で第1ロッド5及び第2ケース8がピストンロッド3側にリフトダウンし、第2スプリング9を介して玉突き状態で第2ロッド11もリフトダウンする。
【0050】
このように、動作不良が発生していない通常動作では、油温変化をサーモエレメント2が感知し、
図5(a),
図5(b)に示した動作を繰り返し、プッシュロッド51に接続するルーバーの開閉動作を行う。なお、前述のように、主スプリングである第1スプリング6の付勢力=48~55N<補助スプリングである第2スプリング9の付勢力=55~93Nに設定されており、第2スプリングが撓むことはない。
【0051】
一方、異物等の噛み込みなどに起因してルーバーが固着するなどして動作不良が発生すると、ルーバーに連結されたプッシュロッド51及び第1ロッド5もロックされる。その状態で、温度が上昇すると、サーモエレメント2のワックスの膨張でピストンロッド3が突出する。しかし、ルーバーが固着していれば第1ロッド5も突出してリフトアップできず、ピストンロッド3で発生させるピストンロッド3のリフト力(突出力)の反作用で第1ロッド5及びサーモエレメント2に異常軸力が伝達されることとなる。このサーモエレメント2に伝達される異常軸力が、第2スプリング9の付勢力=55~93Nよりも高くなり、100Nを超えると、ハウジング20が変形するおそれがあり、継続使用ができなくなる。
【0052】
そこで、前述のように、100Nを超える異常軸力が止め輪10に作用すると、切れ目10aが変形して広がり始めるように設定している。つまり、
図6(a)に示すように、ルーバーの固着などの動作不良が発生すると、第2ケース8と第2ロッド11との離間距離が縮まり、第2スプリング9が縮み、第2スプリング9の鋼線同士が接触することで、止め輪10の切れ目10aが変形して広がり始め(
図2も参照)、
図6(b)に示すように、止め輪10が第2ロッド11のテーパー部112から脱落することで係止機構の係止が解除され、
図6(c)に示すように、第2スプリング9の付勢力で付勢し、第1ロッド5が後退して没することを防ぎ、サーモエレメント2の周囲の温度が下降した場合でもルーバーの開状態を維持する。勿論、第2スプリング9の付勢力で第1ロッド5を間接的に付勢してもよく、第2スプリング9で直接第1ロッド5を押圧しなくてもよい。また、本発明の係止機構の係止の解除は、第2スプリング9の鋼線同士の接触の有無にかかわらず、第2スプリング9のバネ係数や止め輪10の強度の適切な選択により、異常軸力が止め輪10に作用することで止め輪10が脱落するように設定すればよい。
【0053】
このように、本実施の形態に係るサーモアクチュエーター1によれば、第1ロッド5に所定以上の軸力が作用した際に係止部材である止め輪10の係止が解除され、異物等の噛み込みでルーバーの動作不良が発生し、サーモエレメント2の周囲の温度が下降した後も第2スプリング9の付勢力でルーバーを最低限開状態に保持できる第1ロッド5の所定の突出長を維持することができ、オーバーヒートを防ぐことができる。
【0054】
なお、前述のように、係止部材を止め輪10’として、異常軸力が止め輪10’に作用すると、
図3(b)の矢印方向で示すように、リング状の止め輪10’が第1係止部113に引っ掛かったまま外側に倒れて円錐台状に変形することで結果的に広がり、止め輪10’が第2ロッド11の第1係止部113から脱落することで係止機構の係止が解除されるようにしてもよい。
【0055】
また、前述のように、第1ロッド5に作用する異常軸力が第2スプリング9’に伝達されると、
図4(b)の矢印方向で示すように、スプリング鋼線の径が小さくなった第2スプリング9’の下端部が押圧されて第2係止部114を乗り越えて広がり、第2ロッド11の第2係止部114から脱落することで係止機構の係止が解除されるようにしても構わない。
【0056】
一方、サーモアクチュエーター1によれば、
図5に示す通常動作では、第2スプリング9を介して第2ロッド11の動作が第1ロッド5に伝達されるようにし、ルーバーの動作不良が発生した時は、第1ロッド5と第2ロッド11が当接することで第2ロッド11の動作が第1ロッド5に伝達されるようにする。このため、第1ロッド5に所定以上の軸力を感知してルーバーを開状態に保持することと、周囲の温度上昇に伴い突出するピストンロッド3の動作を確実に第1ロッド5に伝達することを上手く両立することができる。
【0057】
また、
図6(c)に示すように、異常軸力発生後にルーバーが常時開状態に保持されること、即ち、低温においてもルーバーが開いていることでユーザーに異常だと気付かせることができ、エンジンが動いている間に車両を修理工場等に運ぶインセンティブが働く。
【0058】
図7は、サーモアクチュエーター1のフルオープン時の動作を示す図であり、(a)が
図6(c)と同じ第2スプリング9で第1ロッド5を所定のリフト状態に保持し、ルーバーを開状態に保持したオープンロックの状態を示し、(b)がフルオープン時の状態を示す。
【0059】
図7(a)に示すように、第2スプリング9で第1ロッド5を所定の突出長であるリフト状態に保持し、ルーバーを開状態に保持しているオープンロックの状態から、
図7(b)に示すように、油温が上昇した場合、ピストンロッド3の突出動作が第2ロッド11を介して第1ロッド5に伝達されて
図7(a)のオープンロックの状態から第1ロッド5がさらに突出してルーバーがフルオープンの状態となるように構成することが好ましい。サーモエレメント2により固着などの動作不良を解除した後にも固着力が多少残り、第2スプリング9の付勢力では一定のリフトが得られない状態においても、サーモエレメント2(ペレット)の作動でルーバーを開かせ、エンジンのオーバーヒートを防ぐことができるからである。
【0060】
以上、本発明の実施形態に係るサーモアクチュエーター1について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。特に、各部材の素材等は、あくまでも例示であり、同等の強度を有する他の材料に適宜変更できることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0061】
1:サーモアクチュエーター
2:サーモエレメント
20:ハウジング
3:ピストンロッド
4:第1ケース
4a:開放端
4b:縮径部
41:軸受け
42:Oリング
5:第1ロッド
51:プッシュロッド
6:第1スプリング(主スプリング)
8:第2ケース(第1ロッド)
81:凹部
82:掛止め部
9,9’:第2スプリング(補助スプリング)
10,10’:止め輪(係止部材、係止機構)
10a,10a’:切れ目
11:第2ロッド
111:端部
112:テーパー部
113:第1係止部(係止部)
114:第2係止部(係止部)
12:Oリング
13:支持プレート
14:ワイヤリング
【要約】 (修正有)
【課題】ルーバーなどの被駆動部材の動作不良解除後に周囲の温度が下降した際にも被駆動部材の開状態を維持できるサーモアクチュエーターを提供する。
【解決手段】周囲の温度上昇に伴い突出するピストンロッド3を有するサーモエレメント2と、ケース(第1ケース4)に対して突没自在に装着され、ピストンロッド3と連動して突没動作する第1ロッド5と、第1ロッドを没方向に付勢する主スプリング(第1スプリング6)を備えるとともに、係止機構(止め輪10)により圧縮状態で係止された補助スプリング(第2スプリング9)をさらに備え、係止機構は、第1ロッドと連動して駆動される被駆動部材(ルーバー)の動作不良に起因してサーモエレメントでピストンロッドを押し出す反作用により第1ロッドに所定以上の軸力が作用した際に係止が解除され、補助スプリング(第2スプリング)で付勢されて突出した第1ロッドが没して後退しないように構成する。
【選択図】
図1