(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】ウインチ装置
(51)【国際特許分類】
B66D 3/02 20060101AFI20240123BHJP
【FI】
B66D3/02
(21)【出願番号】P 2023145545
(22)【出願日】2023-09-07
【審査請求日】2023-09-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591206500
【氏名又は名称】株式会社 ダイサン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小瀧 大蔵
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-192952(JP,A)
【文献】特開平05-124735(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0243697(US,A1)
【文献】特開平07-132770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66D 1/00-5/34
B60P 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷台に載置され、牽引部材を巻取り、前記牽引部材に連結され前記荷台に積まれた荷物を横引きするウインチと、
前記ウインチから下方へ延出し、前記
荷台の荷台端部の端面に沿って下方へ落し込まれるストッパーと、
を備えるウインチ装置。
【請求項2】
前記ストッパーは、前記ウインチの下部から延出され、
前記荷台からはみ出た前記ウインチの下部を支持する走行可能な受け台が前記荷台の外側に配置される、
請求項1に記載のウインチ装置。
【請求項3】
前記ストッパーを、前記ウインチを固定した載置板の下面から延出させ、
前記荷台からはみ出た前記載置板を前記荷台の外側に配置された受け台で支持し、
前記ストッパーを前記荷台端部の段差部に拘束すると共に前記載置板の下面を前記荷台の幅方向へスライド自在に支持する拘束具が、前記荷台の後部に設けられた、
請求項1又は2に記載のウインチ装置。
【請求項4】
前記拘束具には係合ピンが設けられ、
前記係合ピンは、前記荷台の前記段差部に形成された係合孔に差し込まれる、
請求項3に記載のウインチ装置。
【請求項5】
前記ウインチは、
前記荷台に設置されるハウジングと、
前記ハウジングの上部空間に設置された減速機と、
前記減速機の下部空間に配置され、下方へ突出する前記減速機の出力ギアのギア軸に直結され前記牽引部材を巻き取るスプールと、
前記ハウジングの上面上方に設けられ、前記減速機の入力ギアのギア軸に直結され、水平面内で周回運動が可能な手動ハンドルと、を有する、
請求項1又は2に記載のウインチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ウインチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラックのような運送用装置の荷台の床面上の荷物を、荷台の後端(後尾)からウインチで牽引することによって荷下ろしする装置として、特許文献1のような荷下ろし装置が知られている。なお、本開示において、運送用装置とは、トラックのような運送用車両だけでなく、例えば船舶、貨車、コンテナ等も含む、荷物が載置される荷台を有し、荷下ろし作業が実施され得る運送に供される装置を意味する。
【0003】
特許文献1では、キャスター付きの荷下ろし台にウインチが固定されている。そして、荷下ろし台を荷台の後端に押し当て、荷台の後端を牽引時の反力受けとして、ウインチで荷台から荷下ろし台側に荷物が引き出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の荷下ろし装置は、ウインチをトラックの荷台へ直接、着脱自在に取付けるものではない。また、特許文献1の荷下ろし装置は、キャスターを用いてトラックの外側から荷台に近接させる装置であることから、ウインチをトラック荷台上の荷物の高さと揃えるためには、荷下ろし台自体が荷台と同程度の高さを必要とする。結果、荷下ろし台が嵩張る。このため、比較的大きな占有スペースが必要となるため、装置をトラック自体に積み込んで携行すること、すなわち、トラックでの携行性が低いという問題がある。
【0006】
本発明は、コンパクトな構造によって運送用装置での携行性を向上できる、ウインチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のウインチ装置は、荷台の荷物の出し入れが行われる側の端部(以下、「荷台端部」という。)に載置され、牽引部材を巻取り、前記牽引部材に連結され前記荷台に積まれた荷物を横引きするウインチと、前記ウインチから下方へ延出し、前記荷台端部の端面に沿って下方へ落し込まれるストッパーと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コンパクトな構造によって運送用装置での携行性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係るウインチ装置の全体図を説明する斜視図である。
【
図2】本実施形態に係るウインチ装置の構成を説明する側面図である。
【
図3】本実施形態に係るウインチ装置のスプール及び牽引部材の固定方法を説明する断面図である。
【
図4】本実施形態に係るウインチ装置を用いた荷下ろし方法を説明する平面図である(その1)。
【
図5】本実施形態に係るウインチ装置を用いた荷下ろし方法を説明する平面図である(その2)。
【
図6】本実施形態に係るウインチ装置を用いた荷下ろし方法を説明する平面図である(その3)。
【
図7】本実施形態に係るウインチ装置を用いた荷下ろし方法を説明する平面図である(その4)。
【
図8】第1変形例に係るウインチ装置の構成を説明する平面図である。
【
図9】第2変形例に係るウインチ装置の構成を説明する側面図である。
【
図10】第3変形例に係るウインチ装置の構成を説明する側面図である。
【
図11】第3変形例に係るウインチ装置のスライド状態を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一態様について、
図1~
図11を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において用いられる図面は、いずれも模式的なものであり、図面に示される、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実のものとは必ずしも一致していない。また、複数の図面の相互間においても、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は必ずしも一致していない。また、明細書中に特段の断りが無い限り、各要素は一つに限定されず、複数存在してもよい。また、図面中では、実質的に同一の要素には同一の符号を付し、明細書における重複説明を省略する。
【0011】
図1及び
図2に示すように、本発明者は、運送用装置40として示されるトラックの荷台42の床面42Aと荷台端部の面(床面42A)と垂直に交わる面(以下、「端面42B」という。)との間には、荷台42の後扉46を配置するための段差部44が形成されているものがあることに着目した。
【0012】
すなわち、このようなトラックにあっては、荷台42の床面42Aと後部側面である端面42Bとの間には段差部44が介在して、連続しておらず、実際に荷物32が配置される荷台42の平坦な床面42Aの位置は、外部に露出している端面42Bの上端位置よりも、段差部44の段差分だけ高い。
【0013】
本発明者は、鋭意検討の結果、この段差部を活用する新規なウインチ装置を案出すると共に、更に発展させて、荷台端部と直角に交わる端面を有する運送用装置であれば、段差部を有さないウィング式トラック、引き戸式コンテナ、貨車等の運送用装置であっても利用可能な本発明に係る新規なウインチ装置を案出した。以下に説明する本実施形態は、本発明に係る実施形態の一例である。
【0014】
<ウインチ装置の構造>
本実施形態に係るウインチ装置10は、回転軸12と、ハウジング14と、スプール16(スプールはドラムともいう)と、減速機18と、手動ハンドル20と、牽引部材22と、ストッパー24と、を構成部材として有する。
【0015】
牽引動力の入力部としての回転軸12と、部材の保護及び取り付け用筐体としてのハウジング14と、牽引部材を巻き取る装置としてのスプール16と、歯車の組合せで回転軸の回転速度を減速して回転トルクを増幅する装置としての減速機18と、牽引動力の発生源としての手動ハンドル20とは、ウインチ11に含まれる構成部材である。本実施形態では、ウインチ装置10は、運送用装置40としての段差部44を有するトラックに取り付けられる。すなわち、ウインチ装置10は、荷物32の出し入れが行われる側の荷台端部に載置される。ウインチ装置10は、トラックの荷台42上に積まれたパレット30に連結されることによって、荷下ろし作業において荷物32を牽引する。
【0016】
(パレット)
本実施形態において用いられたパレット30は、フォーク差込口を有するフォークリフト用パレットであり、その寸法は、JIS標準の1100mm×1100mm×144mmであるが、本発明に係るウインチ装置を用いるパレットの構造や寸法は、これに限らず、運送用装置に搭載でき、荷台上で横引きできる限り、任意であり、例えば、シートパレットでもよく、また、荷物がロープ掛け梱包等で牽引部材を連結できる手掛かりを有していた場合には、パレット等に搭載されていないばら積みの荷物であってもよい。
【0017】
また、本実施形態に係る運送用装置40の荷台42の幅方向(
図4中の左右方向)に沿った横幅は、JIS標準寸法のパレット30が横に2列余裕をもって並べられる程度であるが、本発明に係るウインチ装置を用いて荷下ろしする運送用装置の横幅は、これに限らず、当該運送用装置が荷台及び荷台端部の端面を有する限り、当該運送用装置の仕様に委ねられる。
【0018】
(段差部)
本実施形態にあっては、運送用装置40の荷台42の床面42Aと端面42Bとの間には、段差部44が形成されている。運送用装置40が運送のために移動中は、通常、段差部44の位置には、荷台42の後扉46が配置されており、荷物積み下ろし作業中には、後扉46が開けられ、段差部44が露出している。
図2中には、荷台42の床面42Aと端面42Bとの間に形成された段差部44が例示されている。段差部44は、底面44Aと立上面44Bとを備える。
【0019】
本実施形態にあっては、段差部44における底面44Aの横幅は、運送用装置40としてのトラックの横幅と等しく、底面44Aの奥行きは、トラックの後扉46の厚さと等しく、立上面44Bの高さは、トラックの立上面44Bの高さと等しい。なお、本発明にあっては、段差部の底面及び立上面の寸法は、基本的には使用する運送用装置の標準仕様に従うが、特注仕様によって標準仕様と異なる寸法とすることを妨げない。
【0020】
本実施形態では、底面44Aは、水平面であるが、本発明では厳密に水平な面に限定されず、例えば傾斜面等であってもよい。また、本実施形態では、立上面44Bは、垂直面であるが、本発明では厳密に垂直な面に限定されず、例えば、下側から上側に向かうに従って端面42B側(
図2中の左側)に近づくような傾斜面であってもよい。また、本実施形態では、段差部44は、1つの底面44Aと1つの立上面44Bとによって形成される場合が例示されたが、本発明では、段差部44は、幅方向に沿って任意の複数個に分割されていてもよい。
【0021】
本実施形態では、ウインチ11は、トラックの荷台42後端部に配置(載置)され、牽引部材22を巻取り、牽引部材22に連結され荷台42に積まれた荷物32を横引きする。また、ウインチ11を構成する部材であるストッパー24は、ウインチ11のハウジング14の底面よりも下方へ延出しており、荷台42の後端部にある段差部44へ落し込まれる。以下、本実施形態に係るウインチ装置10について具体的に説明する。
【0022】
(ウインチ装置の全体の概要)
本実施形態では、ウインチ装置10の全体的な大きさは、運送用装置40としてのトラックの全体的大きさと対比して、
図1に示される程度とされているが、本発明においては、ウインチ装置の全体的大きさは、荷台の荷物積下ろしが行われる側の端部(以下、「荷台端部」という。)の床面上に配置(載置)できる限り、適宜設定できる。なお、ウインチ装置の全体の大きさは、作業者が容易に扱える範囲に収めるよう、出来るだけ小さくすることが好ましい。また、運送用装置の荷台が天井を有する場合、荷台端部に配置したときのウインチ装置の頂部の高さは、天井に干渉しない範囲収める必要がある。
【0023】
また、本実施形態では、ウインチ装置の全幅(横幅)は、運送用装置40としてのトラックの全体的大きさと対比して、
図1に示される程度とされているが、本発明においては、ウインチ装置の全幅は、荷台端部の床面上に配置できる限り、適宜設定できる。ただし、後で説明するように、本実施形態の変形例として、ウインチ装置を幅方向に沿って移動又はスライドさせる形態が提案されており、この場合、ウインチ装置の全幅は、運送用装置の幅方向における一端にウインチ装置をスライドして寄せた場合に、少なくともフォークリフトで荷下ろし作業が可能な幅が残る程度に設定されることが好ましい。
【0024】
また、本発明においては、ウインチ装置の各部を構成する部材の素材は、荷物を牽引する際に加わる外力に耐えられる強度を有する限り、例えば金属、樹脂等、適宜選定してよい。また、ウインチ装置を構成する各部材は、それぞれの材質の組合せに応じて、例えばネジ止め、溶接等の任意の固定手段によって固定することができる。
【0025】
(回転軸)
本実施形態では、ウインチ11の回転軸12は、円筒状部材である。回転軸12の上端には、作業者が把持する手動ハンドル20が取付けられる。手動ハンドル20によって回転軸12が回転されることによって、回転軸12の下端に連結された減速機18に入力回転が与えられる。手動ハンドル20は、ハウジング14の上面上方に設けられ、回転軸12を介して減速機18の入力ギアのギア軸に直結されており、水平面内で回転軸12を中心とした周回運動が可能である。
【0026】
また、本実施形態では、手動ハンドル20を回転軸12の周りを周回するように操作することによって回転軸12の回転運動を駆動するが、本発明にあっては、これに限らず、例えば、回転軸と手動ハンドルの連結部分にラチェット機構を備えることにより、手動ハンドルを部分的に回転させることを反復することによって回転軸の回転運動を駆動してもよい。
【0027】
また、本実施形態では、回転軸12と手動ハンドル20の結合は、回転軸12の上端部に横方向の貫通孔を設けると共に、回転軸12の頂部に横方向貫通孔まで達する縦方向の貫通孔を設け、更に、手動ハンドル20のアーム部の上面(手動ハンドル20のハンドル部を垂直に立てた状態で上側になる面)に間隔を開けて複数個の係合穴を設けておき、横方向貫通孔に手動ハンドル20のアーム部の握り部から回転軸12までの長さが牽引する荷物の荷重に応じて適切になるように挿入し、続けて係止ピンを縦方向貫通孔に挿入してアーム部分の係止穴に落とし込むことにより手動ハンドル20を回転軸12に着脱自在に固定する。
【0028】
なお、本発明にあっては、これに限らず、例えば、回転軸の頭部をナット頭部の形状と同様の六角柱の形状とし、手動ハンドルのアーム部の先端部に回転軸の頭部の六角柱に嵌合するソケットレンチと同様の構造を設け、そのソケット部分を回転軸の頭部の六角柱部分に嵌合することにより手動ハンドルを回転軸に着脱自在に固定してもよい。
【0029】
また、本発明では、減速機として例えば、不思議遊星歯車機構を採用できる。不思議遊星歯車機構を利用することによって、手動ハンドルを介した人力による入力回転であっても、比較的大きな出力回転を得ることができ、また、駆動軸と出力軸が一直線上に配置される構造のため小型化でき、ウインチ装置の軽量化にも役立つ。
【0030】
また、本実施形態においては、人力による手動ハンドル20の操作により回転軸12に入力回転としてトルクが付与されることでウインチ装置10が駆動されるが、本発明では、これに限らず、例えば、適切な回転制御装置を備えた電動モータ、電動レンチ等、回転軸12にトルクを付与できる動力発生装置・器具を用いてウインチ装置10が駆動されてもよい。
【0031】
(ハウジング及び手動ハンドル)
本実施形態では、ハウジング14は、回転軸12を回転自在に支持する。ハウジング14の上部空間には、減速機18が設置され、下部空間には、スプール16が設置される。ハウジング14は、荷台42の床面42A上に配置され、ハウジング14の底面が床面42Aに接している。本実施形態では、ハウジング14の外形は、全周が板状部材で囲われた箱状とされているが、本発明にあっては、これに限らず、例えば、全周を囲う板状部材を有さず、1枚の板状又は複数の板状部材で構成された棚状であってもよい。また、本実施形態では、ハウジング14の素材は、樹脂であるが、本発明では、ハウジングの素材は、これに限らず、所要の堅牢性を有する範囲で、金属等、適宜選定してよい。なお、ハウジング14の素材が樹脂である場合には、素材が金属である場合に比べ、ウインチ装置が軽量化され、作業性が向上する。
【0032】
本実施形態では、ハウジング14は、各辺が略等しい立方体状である。また、手動ハンドル20は、垂直方向に立っている略円筒上の握り部と水平方向に延びている角柱状のアーム部より構成されている。ただし、手動ハンドル20のアーム部の握り部から回転軸12までの長さは、アーム部を回転軸12の上端部に設けられた横方向貫通孔に挿通して、任意の位置で固定できる構成とされているので、牽引する荷物の荷重に応じて適切な回転トルクを回転軸12に付与できるよう、適宜調節することができる。なお、本発明では、ハウジング14及び手動ハンドル20の形状及び寸法は、これに限定されず、適宜設定できる。
【0033】
(滑り止め部材)
本実施形態では、滑り止め部材26は、床面42Aとハウジング14との間に配置される。滑り止め部材26を配置することにより、ウインチ装置10を床面42A上に配置した際の安定性が高くなる。本実施形態の滑り止め部材26の素材は、ゴムシートとされているが、本発明では、これに限らず、摩擦力を高める素材であれば、適宜選定できる。なお、本発明では、滑り止め部材は必須ではない。
【0034】
(スプール)
本実施形態では、スプール16は、ハウジング14の内側に回転自在に設置される。スプール16は、回転軸12の一端(
図2中のハウジング14の下部空間)に、減速機18を介して取付けられる。スプール16は、減速機18の下方に設置され、スプール16の回転軸が下方へ突出する減速機18の出力ギア(不図示)のギア軸に直結され、牽引部材22を巻き取る。なお、本実施形態では、減速機18は、ハウジング14の内側に回転自在に設置されているが、本発明では、減速機は、牽引する荷物が軽い場合或いは回転軸12に付与される回転トルクが十分に大きい場合には、必須ではない。
【0035】
(牽引部材)
本実施形態では、牽引部材22は、スプール16の略円筒状の芯部(不図示)に一端(
図2中の左端)が取付けられて固定され、他端(
図2中の右端)に設けられた係合部(不図示)と荷物32側の被係合部(不図示)とを係合させることにより荷物32に連結される。本実施形態における牽引部材22としては、
図2においてスプール16に巻掛けられた状態で示されているように、ベルトが用いられるが、本発明では、これに限らず、例えば、ワイヤ、ロープ、鋼索、チェーン等、スプールに巻掛けることができるよう細長く屈曲自在で、所要の引張強度を有しておれば、任意の形状、材質の牽引部材を用いてよい。
【0036】
なお、本実施形態では、
図3に示すように、牽引部材22の一端をスプール16の芯部16Aに固定する方法として、円筒状の芯部16Aの周囲の一部分を長さ方向に削って平面状にし、その平面部分(平面部16A1)にビス孔を3箇所設けると共に、牽引部材22のベルトの一端を折り返して二重にし、二重部分22Aが形成されている。また、例えば樹脂製の糸等の縫合部23で縫合されることによって、二重部分22Aの一体性が向上されている。
【0037】
そして、その二重部分22Aにおいて芯部16Aに設けたビス孔に対向する位置(部分)を、例えば溶融することによってビス孔を設け、ベルトのビス孔を芯部16Aのビス孔に重ね、固定具としてのビス17によって平面部分(平面部16A1)にビス止めすることで固定するという方法が用いられている。この方法によれば、例えばベルト端部を芯部16Aの表面に粘着材で張り付けるような固定方法に比べ、強固に固定され、重量物を牽引する際にベルトに強い力が働いても、ベルトが芯部16Aから外れる恐れが少ない。
【0038】
また、本実施形態では、牽引部材22のベルトが芯部16Aに多重に巻掛けられても、芯部16Aの周囲の一部分が平面部16A1によって減肉されている分、二重部分の厚みの影響で、巻掛けられたベルトが二重部分の上側に他の部分より突出することを抑制できる。このため、巻掛け中のウインチ装置10の動作が安定する。なお、本発明では、ベルトの二重部分22A、縫合部23、芯部16Aの平面部16A1は、必須ではないと共に、これらの一部が採用されてもよい。
【0039】
また、
図3に示すように、ビス17の頭部の上部には、軸方向に直交する面を有する平面部17Aが形成されている。また、頭部の下部は、例えば半球(ドーム)状又は円錐台形状である。このため、頭部の上部と下部との境界には、角部17Bが形成される。ベルトの巻掛けの際、角部17Bがベルトに食い込むことによって、巻掛けられたベルトが緩み難くなる。なお、本発明では、角部は、必須ではない。
【0040】
本発明では、牽引部材とパレットとの連結は、例えば、パレットの脚部に牽引部材が直接結わえられてもよいし、或いは、フック等の牽引補助具を介して行われてもよい。また、牽引部材とパレットとの連結位置は、例えば、パレットの幅方向の中央の1つの脚部でもよいし、幅方向の左右の2つの脚部の両方でもよいし、或いは、パレット30の壁面や上面等の任意の部分であってもよく、パレットにおける連結位置は任意である。また、荷物がシートパレットに載せられている場合には、牽引部材とシートパレットの連結は、例えば、シートパレット端部を挟持する牽引補助具を介して行われてもよい。
【0041】
(ストッパー)
本実施形態では、ストッパー24は、ハウジング14の外側面にネジ止めされて密着している部分である取付部24Aと、牽引時、すなわち、ウインチ装置10が荷台42の荷台端部に配置された際に段差部44の立上面44Bに沿って下側に突出する突出部24Bと、を有する。本実施形態では、ストッパー24の横幅は、ハウジング14の横幅と略同じ程度とし、全長は、ハウジング14の高さと略同じ程度とし、全長の内、突出部24Bの長さは、段差部44の立上面44Bの高さより僅かに短い程度とされ、厚さは、段差部44の立上面44Bの高さの略半分程度とするが、本発明では、これに限らず、ストッパー24の寸法は、荷物を牽引する際に加わる外力に耐えられる強度を有する限り、適宜設定できる。
【0042】
(突出部)
本実施形態では、突出部24Bは、
図2に示すように、牽引時に立上面44Bに突き当たる突き当て面24B1を備える。本実施形態において、回転軸12を回転させることよって生じた牽引力により牽引部材22に連結された荷物32の載ったパレット30が牽引される場合には、パレット30に作用する牽引力の反力が牽引力と同じ大きさでウインチ装置10側に作用する。このウインチ装置10側を力線に沿ってパレット30側に向けて引き寄せようとする反力を受け止める部分としては、反力の力線方向でストッパー24と対面して接している段差部44の立上面44Bである。このため、牽引力の反力は全て、ストッパー24の突き当て面24B1を介して、段差部44の立上面44Bに作用する。
【0043】
ただし、牽引部材22の位置がウインチ装置10側の重心位置よりも高い位置で牽引している場合には、ウインチ装置10をパレット30側に引き寄せようとする牽引力の反力に加えて、ウインチ装置10側の重心の周りにウインチ装置を回転させようとする回転モーメントが生じる。すなわち、ウインチ装置10が動かないように支えているストッパー24にこじるような力が作用する。このこじる力が、ウインチ装置10の重さでストッパー24を下方に押圧している力より大きくなると、ストッパー24を立上面44Bに沿って上方にずれ動かすような力が作用し、遂にはストッパー24がウインチ装置10を荷台端部に固定する作用を失ってしまう可能性がある。
【0044】
このような望ましくない回転モーメントを小さくする工夫として、一つは、ウインチ装置10の上部に錘を加える或いは上部を手で押さえるなどしてウインチ装置10側の見掛け上の重心位置を高くして牽引部材22の水平位置に近づける方法が考えられる。
【0045】
また、別の方法として、逆にウインチ装置10から繰り出す牽引部材22の位置を低くしてウインチ装置10側の重心位置に近づける方法が考えられる。このためには、例えば、通常はウインチ装置10のスプール16を立てた状態で上側から引き出して牽引しているのを、本実施形態で採用しているようなスプール16を横に倒した状態で固定して用いるか、或いは、スプール16の下側から引き出して牽引するようにすればよい。なお、牽引部材22を下から引き出すためには、スプール16の回転を逆転させる必要があるが、これは、ウインチ装置10を構成する歯車を1枚増減することで実現できる。
【0046】
(荷下ろし方法)
次に、
図4~
図7を参照しつつ、本実施形態に係るウインチ装置10を用いた荷下ろし方法を説明する。
図4に示すように、まず、運送用装置40の後端の段差部44の幅方向の任意の位置にウインチ装置10を取り付ける。
【0047】
なお、本実施形態では、運送用装置40の荷台42に幅方向に沿って2列に荷物32を載せたパレット30が積まれている場合が示されているが、本発明では、これに限定らず、荷物は、例えば、1列であってもよいし、或いは、荷姿に応じて3列以上であってもよい。また、本発明では、荷物は、木製や樹脂製の台型のパレット装置に載置されることは必須ではなく、例えば、シートパレットのような他のパレット装置に載置されてもよく、又は、荷物は、牽引部材と連結が可能な荷姿であれば、パレット装置に載置されることなく、運送用装置の床面に直接載置された状態で牽引部材を連結し、荷下ろしされてもよい。
【0048】
次に、ウインチ装置10を幅方向にスライドさせ、ウインチ装置10の位置を一方(
図4中の右側)のパレット30の列と直線上で重なる位置になるように位置調整をする。次に、ウインチ装置10の牽引部材22の先端部を引っ張ってスプール16から繰り出し、荷台42上の一番手前のパレット30の手前部分に届いたら、牽引部材22の先端部をパレット30の手前側の支柱に係合する。次に、
図5に示すように、ウインチ装置10の手動ハンドル20を作動させてパレット30を牽引し、荷台42上でフォークリフト90のフォークを差し込み可能な位置まで、パレット30を引き出す。
【0049】
次に、
図6に示すように、牽引部材22とパレット30の係合を解除し、牽引部材22をパレット30から取り外した後、ウインチ装置10を荷台42の幅方向に沿って横にスライドして、フォークリフト90の作業の邪魔にならない位置に移動させる。次に、ウインチ装置10の位置を他方(
図6中の左側)のパレット30の列と直線上で重なるように位置調整し、前述と同様の手順を繰り返すことで、パレット30をフォークリフト90のフォークを差し込み可能な位置まで引き出す。
【0050】
次に、
図7に示すように、引き出されたパレット30をフォークリフト90で運送用装置40荷台42から下ろして運搬する。以下、
図4~
図7を用いて説明した上記の一連の手順を繰り返すことで、荷台42に積載されているパレット30を順次荷下ろししていく。このような方法で、本実施形態に係る荷下ろし方法を構成できる。なお、本発明では、荷下ろしの列の順番は任意であり、一列の荷下ろしを全て終えてから他の列の荷下ろしを始めてもよく、又は、複数の列からランダムに荷下ろしを行ってもよい。
【0051】
本実施形態に係る荷下ろし方法によれば、運送用装置40からの荷下ろし作業を比較的簡便に行うことができる。また、従来のように、ウインチが固定された装置を車外に配置する場合に比べ、運送用装置40での携行性が高い、比較的安価、軽量で、取付及び操作に熟練を要しない、ウインチ装置10を提供できる。
【0052】
(作用効果)
本実施形態に係るウインチ装置10は、ハウジング14に取り付けられ、牽引時に荷台42の床面42Aよりも下側に突出する突出部24Bを有するストッパー24を有する。ストッパー24は、運送用装置40の荷台42の床面42Aと端面42Bの間に形成されている段差部44の立上面44Bに沿って突出部24Bが下方に突出する位置に配置される。また、突出部24Bは、牽引時に立上面44Bに突き当たる突き当て面24B1を備える。
【0053】
すなわち、本実施形態では、ウインチ11から下方へ延出するストッパー24を荷台42の後部にある段差部44へ落し込む。このため、牽引部材22を巻取り、荷台42に積まれた荷物32を荷台42の後部へ横引きするとき、段差部44が反力受けとなって、ウインチ11が滑らずに荷台42の上に保持される。よって、ウインチ装置10を運送用装置40の荷台42へ直接、着脱自在に取付けることができると共に、コンパクトな構造によって運送用装置40での携行性を向上できる。
【0054】
特に、本発明者が本実施形態に係るウインチ装置10を用いて行った実施例に係る荷下ろし作業では、例えば、手動ハンドル20を片手で手回しするだけで、約1トンの荷物32を載せたパレット30を約135kgの牽引力で引き出すことができた。この実施例では、パレット30の下に、摺動性を高める補助部材として、例えば特開2017-140168号公報に記載されているようなスライダーボードが敷かれた。
【0055】
また、本実施形態では、手動ハンドル20を手回しすることによって水平面内で回転軸12を中心とした周回運動をさせるので、手動ハンドル20の回動操作をする際、手動ハンドル20のアーム部分が長くても、床面42Aに手動ハンドル20が支えて回動操作が妨げられることがない。
【0056】
<その他の実施形態>
本発明は上記の開示した実施の形態によって説明したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。本開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかになると考えられるべきである。
【0057】
(第1変形例)
本実施形態に係るウインチ装置10は、回転軸12の軸及びスプール16の軸が垂直方向に向きスプール16が寝かされた状態になる横置(平置)型であったが、
図8中に例示された第1変形例に係るウインチ装置10Aのように、回転軸12の軸及びスプール16の軸が水平方向に向きスプール16が立った状態になる縦置型のウインチ装置10であってもよい。第1変形例に係るウインチ装置10の他の構造については、
図2~
図7を用いて説明した本実施形態に係るウインチ装置10の構造と同様であるため、重複説明を省略する。
【0058】
(第1変形例の作用効果)
第1変形例に係るウインチ装置10Aにおいても、本実施形態の場合と同様、ウインチ装置10Aを運送用装置40の荷台42へ直接、着脱自在に取付けることができると共に、コンパクトな構造によって運送用装置40での携行性を向上できる。第1変形例における他の作用効果は、本実施形態の場合と同様である。
【0059】
また、本実施形態の手動ハンドル20は、ウインチ装置10の上面に設けられており、石臼のように水平面内で手回しすることでウインチ装置10を作動させるが、第1変形例においては、手動ハンドル20は、ウインチ装置10Aの側面に設けられており、縦に回動することでウインチ装置10Aを作動させる点で異なり、ウインチ装置10Aの上面には手動ハンドル20が存在しないので、ウインチ装置10Aの上面を反対側の手で押さえて安定させた状態で回動操作をすることが可能である。
【0060】
また、本実施形態及び第1変形例では、回転軸12の軸と減速機18の入力軸とが同軸である場合が示されたが、本発明では、これに限らず、例えば、回転軸を減速機に傘歯車を介して連結することにより、回転軸の軸を減速機の入力軸に対して、例えば斜め45度等、適宜傾斜した角度で取付けることもできる。
【0061】
(第2変形例)
図9中に例示された第2変形例に係るウインチ装置10Bのように、ウインチ装置10Bのハウジング14Aの後端(
図9中の左端)を下側から支持する受け台50が設けられてもよい。受け台50は、ウインチ装置10Bが荷台42の外の地面に落下することを抑制する。また、受け台50の下部には、地面の上を回転するキャスター52が設けられる。なお、本発明では、キャスター52は、必須ではない。
【0062】
また、第2変形例では、ストッパー24の取付部24Aは、ハウジング14Aの下部に設けられた凹部14A1に嵌合された状態で固定される。ストッパー24の突出部24Bは、本実施形態の場合と同様に、床面42Aよりも下側に突出する。すなわち、第2変形例では、ストッパー24は、ウインチ11の下面から延出され、荷台42からはみ出たウインチ11の下部を支持する走行可能な受け台50が荷台42の外側に設けられる。
【0063】
第2変形例に係るウインチ装置10Bの受け台50とキャスター52以外の構造については、
図2~
図7を用いて説明した本実施形態に係るウインチ装置10Bの構造と同様であるため、重複説明を省略する。
【0064】
(第2変形例の作用効果)
第2変形例に係るウインチ装置10Bにおいても、本実施形態の場合と同様、ウインチ装置10Bを運送用装置40の荷台42へ直接、着脱自在に取付けることができると共に、コンパクトな構造によって運送用装置40での携行性を向上できる。
【0065】
第2変形例では、ストッパー24をウインチ11の下部に設け、荷台42からはみ出たウインチ11の下部を支持する受け台50を設けることで、ウインチ11の重心が牽引反力を受け止めるストッパー24に近づき、ウインチ11に回転モーメントが作用し難くなる。
【0066】
また、第2変形例では、重量のあるウインチ装置10Bの後端がトラックの端面42Bの外側に張り出す構造であるが、受け台50によって、安定的に支持できると共に、高度な安全性を実現できる。なお、本発明では、受け台は、必須ではない。例えば、ウインチ装置の素材と寸法で決まるウインチ装置の重心が荷台端部より十分荷台の内側にあれば、受け台は必要ではない。
【0067】
また、キャスター52によって、受け台50を移動させ易いので、荷台42におけるウインチ装置10Bの位置の変更に応じて、速やかに受け台50を移動できる。第2変形例における他の作用効果は、本実施形態及び第1変形例の場合と同様である。
【0068】
(第3変形例)
図10中に例示された第3変形例に係るウインチ装置10Cの構造については、
図2~
図7を用いて説明した本実施形態に係るウインチ装置10の構造、及び、
図9を用いて説明した第2変形例に係るウインチ装置10Bの構造と異なる部分について以下に説明する。また、本実施形態に係るウインチ装置10の構造、又は、第2変形例に係るウインチ装置10Bの構造と同様の構造については重複説明を省略する。
【0069】
図10に示すように、第3変形例に係るウインチ装置10Cは、載置板60の上に配置され、ネジ止めされる。なお、本発明では、載置板にウインチ装置を固定する手段は、ネジ止めに限らず、例えば熔着、嵌合等、使用素材に応じて適宜選定してよく、また、ハウジングの底面を構成する部材を水平方向に拡大して、ハウジング底面と載置板を共用してもよい。また、第3変形例に係るウインチ装置10Cは、対向面70Aを備える拘束具70を有する。また、スライドストッパー64は、立上面44Bと対向面70Aとの間に形成されたスライド溝62の内側に、スライド自在に配置される。
【0070】
第3変形例のスライドストッパー64は、本発明の「ストッパー」に対応する。なお、スライドストッパー64は、牽引時の反力を支える機能としては本実施形態、第一変形例及び第2変形例におけるストッパー24と同じであるが、スライド溝62に嵌合し、ウインチ装置10Cを幅方向にスライドさせるスライダー(摺動子)としての機能を兼ねている点で異なる。
【0071】
すなわち、第3変形例では、スライドストッパー64を、ウインチ11を固定した載置板60の下面から延出させる。また、荷台42から後方にはみ出た載置板60の部分は、荷台42の外側に設けられた受け台50で支持される。また、スライドストッパー64を段差部44の底面44Aの後方から脱落しないように後方から支えて拘束すると共に、載置板60の下面を荷台42の幅方向へスライド自在に支持する拘束具70が、段差部44の底面44Aに設けられている係合孔44A1に係合ピン72を嵌合させることにより取り付けられ、更に、拘束具70の外側に側面視L字状の押え部材80が副えられ、第一押えボルト84と第二押えボルト86とで固定され、拘束具70と段差部44との結合を補強する。
【0072】
(拘束具)
拘束具70は、荷台42の後端角部の段差部44にスライド溝62を形成することができる幅方向に長い矩形の対向面70Aを有する側面視逆L字状の部材である。拘束具70は、そのL字形の隅部と段差部44の後端上面の角部とがぴったり重なるように配置される。また、拘束具70の上端は、載置板60の下側に配置され、載置板60を下側から支える。拘束具70は、対向面70Aと、係合ピン72とを有する。対向面70Aは、立上面44Bとの間に隙間を空けて対向し、荷台42の幅方向に沿って延びる。
【0073】
(スライド溝)
スライド溝62は、拘束具70と段差部44の立上面44B(鉛直面)との間に形成される。また、ウインチ装置10Cが上面に固定されている載置板60の下面から突出するように設けられ、スライド溝62の溝幅より前後方向の厚さが薄いスライドストッパー64を、このスライド溝62に嵌合させることにより、荷台42の後端にウインチ装置10Cを取付ける。
【0074】
(ストッパー)
スライドストッパー64は、載置板60の下面から下側に突出する突出部64Bと、牽引時に段差部44の立上面44Bに突き当たって牽引反力を支える突き当て面64B1とを有する。なお、本発明では、スライドストッパーの寸法は、任意に設定できる。また、前後方向(
図10中の左右方向)に沿って測ったスライドストッパーの厚さは、スライドストッパーを差し込むために形成されたスライド溝の幅より小さ範囲で適宜定めてよいが、安定のために、スライド溝にあまり隙間を残さないように、スライドストッパーの厚さとスライド溝の幅とは、略同じ寸法であることが望ましい。
【0075】
また、本発明では、スライドストッパーの横幅(
図11中の左右方向の幅)は、ウインチ装置よりスライドストッパーが大きくはみ出ると扱い難いので、ウインチ装置の横幅以内であることが好ましい。
【0076】
第3変形例では、スライドストッパー64の突出部64Bの長さは、ウインチ装置10Cの載置板60の下面がスライド溝62の両側の拘束具70の上端面と段差部44に接する荷台42の床面42Aとによって支持された状態において、スライド溝62の底面44Aに届いて接する長さとされている。なお、本発明にあっては、スライドストッパーの突出部の長さは、これに限らず、スライドストッパーが牽引反力を安定して受け止め、幅方向へのスライドも安定して行える範囲であれば、本実施形態より短く、突出部先端がスライド溝の底面に達していない状態であってもよい。
【0077】
また、本発明では、逆に、スライドストッパーが牽引反力を安定して受け止め、幅方向へのスライドも安定して行える範囲であれば、スライドストッパーの突出部の長さは、第3変形例の場合より長く、突出部の先端がスライド溝の底面に接した状態において、ウインチ装置の下面がスライド溝の両側の拘束具の上端面と段差部に接する荷台の床面から浮き上がった状態であってもよく、突出部の長さは、任意に設定できるが、ウインチ装置がスライド溝から余り高く飛び出ると不安定になり易いため、突出部の長さは、牽引時におけるウインチ装置の安定を保てる範囲であることが好ましい。
【0078】
(ウインチ装置にかかる回転反力)
なお、第3変形例において(本発明、本実施形態、第2変形例、第3変形例においても同様)、回転軸12の回転によって、回転軸12の軸受けには反力が働き、軸受けとそれに一体となっている部分には、回転軸12を中心として回転軸12の回転と逆方向に回転させようとする回転反力が働く。しかし、この回転反力の大きさは、回転軸12と軸受けの摩擦力によって生じるものであり、この摩擦力はベアリング等を用いて非常に小さく抑えられる。従って、軸受け側が受ける回転反力は、無視できる程度に小さい。
【0079】
また、仮に、軸受け側に回転反力が働いたとしても、ウインチ装置10Cの載置板60の下面から延びるスライドストッパー64がスライド溝62に嵌合し、ウインチ装置10Cの下面が荷台42の上面と拘束具70の上端面にウインチ装置10Cとウインチ装置10Cの重量で押圧されて密着している。このため、回転反力は、この密着面で受け止められ減殺又は帳消しにされて、拘束具70の対向面70Aや段差部44の立上面44Bをスライドストッパー64が回転反力でこじるように押圧するという作用を無視することが可能である。
【0080】
(ウインチ装置をパレット側に引き寄せる牽引反力)
本発明においては、ウインチ装置により荷物を牽引する際に、牽引部材に作用する引張力の反力によって、ウインチ装置に対して荷物側に引き寄せようとする力が働く。しかし、ストッパーがスライド溝に嵌合した状態で係合しているので、牽引部材に作用する引張力に応じた反力をスライド溝の段差部の立上面又は段差部を有さない運送用層における荷台端面が受け止めることになる。このため、ウインチ装置が荷物側に引き寄せられることなく、所定の位置に保持され、結果、荷物を確実に牽引できる。
【0081】
(係合孔)
第3変形例においては、荷台42の後端の角部に形成される段差部44の底面44A(水平面)に、幅方向の左右端の近くの対称位置にそれぞれ配置された2個の係合孔44A1が形成される。形成された2個の係合孔44A1には、拘束具70に設けられている2個の係合ピン72がそれぞれ差し込まれる。
【0082】
第3変形例においては、係合ピン72を差し込む係合孔44A1としては、多くのトラックにおいて既に形成されている段差部44の底面44Aの幅方向の両側に設けられた孔が利用されている。これは、トラック本体に新たな加工を加えなくても、本発明に係るウインチ装置10Cを取り付けることを可能とする利点である。なお、本発明では、係合孔は、これに限らず、荷台の後端の角部にある段差部の底面に係合孔を新たに穿孔して利用してもよい。また、係合孔の数も、拘束具の安定性、堅牢性を向上するために、スライド溝の幅方向に沿って適宜増やしてもよい。
【0083】
(係合ピン)
第3変形例において、係合ピン72は、拘束具70の下側に突出する突起部である。係合ピン72は、段差部44の底面44Aに接する拘束具70の下面において、係合孔44A1に対応する位置に突出して設けられる。第3変形例において、拘束具70下面から突出する係合ピン72は、拘束具70の本体部分と一体成形して形成されているが、本発明では、係合ピンは、これに限らず、例えば、拘束具本体部分とは別部材として形成し、拘束具の本体部分に嵌合、ネジ止め等の係合手段により係合して一体化できる。
【0084】
本発明では、係合ピンは、挿入する係合孔と位置合せできるように、例えば、拘束具の幅方向に付設位置を調整できる、ゆる孔による嵌合、ゆる孔によるネジ止め等の付設位置調整機構を備えた係合手段を用いて係合ピンを付設することもできる。
【0085】
なお、本発明では、拘束具の下側に突出する突起部の形状は、ピンのような棒状に限定されず、例えば板状等、他の任意の形状であってよく、その場合、係合孔の形状は、突起部の形状に対応して形成される。また、突起部の表面に例えばマグネットシート等の磁性部材を取り付けることによって、突起部と金属製の荷台の段差部との間に磁力による吸引力を作用させてもよく、吸引力によって突起部が段差部に吸着され、係合が更に強固になる。
【0086】
(押え部材)
第3変形例では、拘束具70と段差部44との係合を更に強化するために、押え部材80が拘束具70の外側に付設される。押え部材80は、側面視L字状の押え枠82と、押え枠82の垂直肢側端部に形成された長孔の第一ボルト孔82Aに差し込まれる第一押えボルト84と、押え枠82の水平肢側端部に形成された第二ボルト孔82Bにねじ込まれる第二押えボルト86とを有する。
【0087】
また、押え枠82の水平肢側端部に設けられた長孔の第一ボルト孔82Aに対向する拘束具70の後面には、第一押えボルト84の先端がねじ込まれるボルト孔70Bが形成される。また、第二押えボルト86の先端は、荷台42の下面に押し当てられるまで、第二ボルト孔82Bにねじ込んでいく。
【0088】
(スライド機構)
第3変形例では、
図11に示すように、ウインチ装置10Cは、スライド溝62に沿って幅方向のいずれの方向にでも移動させることができる。ウインチ装置10Cは、スライドストッパー64の下端面と段差部44の底面44Aとの間、スライドストッパー64の突き当て面64B1と段差部44の立上面44Bとの間、スライドストッパー64の突き当て面64B1とは反対側の側面と拘束具70の対向面70Aとの間、載置板60の下面と拘束具70の上端面との間、及び載置板60の下面と段差部44に接する荷台42の床面42Aとの間を摺動面として幅方向に摺動する。
【0089】
なお、本発明では、これに限らず、例えば、スライドストッパーの突出部を比較的長くし、ウインチ装置をスライド溝に装着した状態で、ウインチ装置の載置板下面がスライド溝の両側の拘束具の上端面と段差部に接する荷台の上面とから浮いた状態を形成してもよい。このようにして、摺動面をスライドストッパーの下端面と段差部の底面との間、スライドストッパーの突き当て面と段差部の立上面との間及びスライドストッパーの突き当て面とは反対側の側面と拘束具の対向面との間のみとすることによって、移動を容易にしてもよい。
【0090】
なお、スライドストッパーの突き当て面と段差部の立上面との間及びスライドストッパーの突き当て面とは反対側の側面と拘束具の対向面との間の摺動面は側面接触であるので、スライドストッパーの下端面と段差部の底面との間の摺動面に比べ、摺動面を押圧する力が小さく、摺動抵抗は略無視できる。更に、例えば、スライドストッパーの下端面に戸車のような車輪を付設する、又は、スライドストッパーの下端面及び/又は段差部の底面にスライダーボード等の摩擦抵抗の低い部材を付設することによって移動を容易にしてもよい。
【0091】
(第3変形例の作用効果)
第3変形例に係るウインチ装置10Cにおいても、本実施形態の場合と同様、ウインチ装置10Cを運送用装置40の荷台42へ直接、着脱自在に取付けることができると共に、コンパクトな構造によって運送用装置40での携行性を向上できる。
【0092】
また、第3変形例では、スライドストッパー64は、段差部44の立上面44Bと拘束具70の対向面70Aとの間に形成されたスライド溝62の内側に、スライド自在に配置される。このため、荷台42の床面42A上に幅方向に並べられた複数の荷物32を、効率的に荷下ろしし易い。
【0093】
また、第3変形例では、拘束具70が荷台42に係合ピン72を係合孔44A1に挿入することによって係合されるので、スライド溝62の構築に熟練を要さず、また、装着された拘束具70の安定性が得られる。
【0094】
また、第3変形例では、ウインチ装置10Cの載置板60は、その後方が拘束具70の上面によって支持され、更に荷台42の後方外側まで延出しており、その延出部分の下面がキャスター付き受け台50の上面によって支持できるようになっている。一方、ウインチ装置10Cの前方下面は、荷台42の上面に支持されている。しかし、本発明では、これに限らず、ウインチ装置の載置板は、荷台の後方外側まで延出せず、キャスター付きの受け台を用いない構成であってもよい。
【0095】
なお、キャスター付きの受け台を用いる効果としては、固定されているウインチ装置10Cの荷重を受け台上面で分担することになるので、拘束具70の上面に作用する荷重が軽減され、拘束具70の破損を抑制する効果がある。この結果、拘束具70に比較的強度の低い樹脂材料等を用いることが可能となり、また、拘束具70の厚みを薄くすることも可能となる。これに伴って、ウインチ装置10C全体を軽量化することも可能となり、ウインチ装置10Cの破損抑制効果と共に、作業者がウインチ装置10Cを取扱い易くなる効果がある。第3変形例における他の作用効果は、本実施形態、第1変形例及び第2変形例の場合と同様である。
【0096】
その他、添付された複数の図面中に例示した構成を部分的に組み合わせて、本発明を構成することもできる。以上のとおり、本発明は、上記に記載していない様々な実施の形態等を含むとともに、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0097】
10,10A,10B,10C ウインチ装置
11 ウインチ
12 回転軸
14,14A ハウジング
14A1 凹部
16 スプール
16A 芯部
16A1 平面部
17 ビス
17A 平面部
17B 角部
18 減速機
20 手動ハンドル
22 牽引部材
22A 二重部分
23 縫合部
24 ストッパー
24A 取付部
24B 突出部
24B1 突き当て面
26 滑り止め部材
30 パレット
32 荷物
40 運送用装置
42 荷台
42A 床面
42B 端面
44 段差部
44A 底面
44A1 係合孔
44B 立上面
46 後扉
50 受け台
52 キャスター
60 載置板
62 スライド溝
64 スライドストッパー(ストッパー)
64B 突出部
64B1 突き当て面
70 拘束具
70A 対向面
70B ボルト孔
72 係合ピン
80 押え部材
82 押え枠
82A 第一ボルト孔
82B 第二ボルト孔
84 第一押えボルト
86 第二押えボルト
90 フォークリフト
【要約】
【課題】コンパクトな構造によって運送用装置での携行性を向上できるウインチ装置を提供する。
【解決手段】ウインチ装置10は、荷台42の荷物32の出し入れが行われる側の荷台端部に載置され、牽引部材22を巻取り、牽引部材22に連結され荷台42に積まれた荷物32を横引きするウインチ11と、ウインチ11から下方へ延出し、荷台42端部の端面に沿って下方へ落し込まれるストッパー24と、を備える。
【選択図】
図2