(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】神経組織由来エクソソームの抽出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20240123BHJP
C12N 5/079 20100101ALI20240123BHJP
G01N 33/553 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
G01N33/48 A
C12N5/079
G01N33/553
(21)【出願番号】P 2023534926
(86)(22)【出願日】2021-01-15
(86)【国際出願番号】 CN2021072183
(87)【国際公開番号】W WO2022134246
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】202011574532.8
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508094606
【氏名又は名称】南通大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲湯▼欣
(72)【発明者】
【氏名】▲孫▼▲誠▼
(72)【発明者】
【氏名】▲顧▼▲暁▼坤
(72)【発明者】
【氏名】▲顧▼▲暁▼松
(72)【発明者】
【氏名】▲賀▼▲倩▼茹
(72)【発明者】
【氏名】▲銭▼天梅
(72)【発明者】
【氏名】▲蘇▼文▲鳳▼
(72)【発明者】
【氏名】李浩明
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106366196(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112111042(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109576210(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110308280(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110295142(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110432320(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107648667(CN,A)
【文献】国際公開第2016/123556(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ag-Fe
3O
4免疫磁気ビーズにおいて、Ag-Fe
3O
4磁気ビーズ表面にポリ-D-リジンが修飾され、アミド結合によってS100β及び/またはMBP抗体と結合することを特徴とする、Ag-Fe
3O
4免疫磁気ビーズ。
【請求項2】
前記Ag-Fe
3O
4免疫磁気ビーズが、
(1)Fe
2+及びFe
3+金属塩をトリエタノールアミン水溶液に溶解し、加熱し、不活性ガスの保護下でAg
+水溶液を加え、磁界強度の作用下で撹拌し、分散させ、得られたAg-Fe
3O
4ビーズを中性になるまで洗浄し、
(2)ステップ(1)で得られたAg-Fe
3O
4ビーズをポリエーテルイミド及びポリ-D-リジンPoly-D-Lysineに投入し、反応させてポリ-D-リジンで修飾されたAg-Fe
3O
4ビーズを得、
(3)ステップ(2)で得られたビーズをS100β抗体及び/またはMBP抗体と混合し、架橋剤EDC及び/またはNHSを加えてポリリジンと抗体との間のアミド結合によるカップリングを促進し、Ag-Fe
3O
4免疫磁気ビーズを調製して得る、という方法を用いて調製されることを特徴とする、
請求項1に記載のビーズ。
【請求項3】
ステップ(1)の前記Ag
+:Fe
3+:Fe
2+の質量比が1.0:2.5:1.0であることを特徴とする、請求項2に記載のビーズ。
【請求項4】
ステップ(1)の前記トリエタノールアミンの濃度が1mol/Lであることを特徴とする、請求項2に記載のビーズ。
【請求項5】
ステップ(2)のAg-Fe
3O
4ビーズ:ポリ-D-リジンの質量比が3:2~16であることを特徴とする、請求項2に記載のビーズ。
【請求項6】
前記ステップ(3)においてステップ(2)で得られたビーズとS100β及び/またはMBP抗体の質量比が10:1:1であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載のビーズ。
【請求項7】
神経組織由来エクソソームの抽出における、請求項1から6のいずれか1項に記載のビーズの応用。
【請求項8】
神経組織由来エクソソームの抽出方法において、末梢神経組織を酵素類を含む消化液で消化した後、請求項1から6のいずれか1項に記載のビーズを用いて抽出することを特徴とする、神経組織由来エクソソームの抽出方法。
【請求項9】
前記消化液が、DNA酵素I、パパイン、ヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼI、コラゲナーゼII、コラゲナーゼIVを含むことを特徴とする、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記消化液が、0.05mg/mLのDNA酵素I、0.2mg/mlのパパイン、0.1mg/mlのヒアルロニダーゼ、1mg/mlのコラゲナーゼI、1mg/mlのコラゲナーゼII、1mg/mlのコラゲナーゼIVを含有することを特徴とする、請求項
8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオテクノロジー分野に関し、具体的にはAg-Fe3O4免疫磁気ビーズ、及び該ビーズを用いて神経組織由来エクソソーム(exosome)を抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エクソソーム(exosome)は、細胞核内膜が出芽方式によって自発的に分泌する、細胞直径が30~150nmの膜性ナノ小胞であり、表面はリン脂質二分子構造である。エクソソームは、通常、様々なタイプの細胞に由来する分泌により放出されるので、様々なタンパク、mRNA及びmiRNAなどの細胞特異性成分を運搬することができる。シグナル分子を伝達することによって様々なシグナル経路の調節に関わり、かつ細胞の貪食貪飲などの作用によって細胞と直接融合することもできる。近年の研究により、正常な生理環境では、エクソソーム中の内包物は組織細胞の由来が異なるため、組織細胞特異性を示し、生体の病理状態において、エクソソームの内包物が細胞外環境の変化に伴って変化することがわかっている。そのため、エクソソームの測定及び応用は、臨床作業においてますます重視されるようになっている。例えば、臨床分子診断においては、エクソソームをバイオマーカ分子とすることができる。また、遺伝子修飾などの分子生物学的な研究手段により、エクソソームを薬物担体として、体内薬物輸送の標的治療を実現することもできる。エクソソームは標的細胞または組織に対する特異的指向性を有しており、生体バリアを容易に通過するだけでなく、良好な生体適合性や低免疫原性といった優位性も有しているので、臨床における薬物輸送及び標的治療において幅広い応用の将来性を有している。
【0003】
シュワン細胞は、末梢神経再生において重要な役割を果たしており、神経組織工学において最も重要で、最もよく使われる種子細胞の一つである。S100βタンパクは神経外胚葉細胞により発現、分泌される可溶性の酸性カルシウム結合タンパクであり、トロポニンCファミリーに属しており、S100ファミリーの中では神経系内で最も活性のあるメンバーで、主に中枢神経系の星状膠細胞、乏突起神経膠細胞及び末梢神経系のシュワン細胞に定着している。S100βは、神経系の特異的タンパクとして、リン脂質により構成される細胞膜表面の構成と維持に関わり、微小管、微小繊維の解重合に影響し、プロテインキナーゼCとカルモジュリンのリン酸化の調節及びRNAの合成に関与し、栄養神経作用を有し、神経の成長と損傷の修復を促進することができる。
【0004】
ミエリンは神経膠細胞が神経軸索を包んで形成するミエリン膜であり、主な生理機能はナトリウムイオンのスムーズな通過を確保することであり、ニューロン電気信号のランビエ絞輪部分での跳躍伝導を実現し、軸索信号の伝導速度及びエネルギー効率と、ランビエ絞輪間の神経インパルス拡散を防止する絶縁作用を増強する。ミエリン塩基性タンパク(Myelin Basic Protein,MBP)は、ミエリンタンパク総量の30%を占め、ミエリン漿膜面に位置するミエリン特有の塩基性の膜タンパクであり、様々な塩基性アミノ酸を含有している。主に中枢神経系の乏突起膠細胞と末梢神経系のシュワン細胞によって合成及び分泌され、神経細胞の分化、ミエリンの形成、及び神経系の安定性の維持に対して重要な役割を果たしている。
【0005】
現在、エクソソームを得るための主な研究手段としては、特定の細胞を培養した培養液から該細胞が分泌するエクソソームを抽出するものと、体液からエクソソームを回収するものがある。しかし、体外での培養環境は生体内の環境と必ずしも同じではないので、これらの細胞が分泌するエクソソームは生体内の環境由来のエクソソームを正確に模擬できるとは限らない。体液から回収したエクソソームには、通常、様々な組織器官のエクソソームの集合が混在している。これらの異なる組織細胞を由来とするエクソソームは、組織細胞特異性を有している。エクソソームの組織細胞特異性を保証することは、該特定組織器官の疾患の発生、進行のさらなる研究にとって重要な意味を有している。
【0006】
現在常用されているエクソソームの分離抽出方法には、主に超遠心、密度勾配遠心法、膜濾過、及び排除クロマトグラフィーなどがあるが、その多くには、回収率が低く、時間、労力、費用がかかり、エクソソームが破裂しやすく、大量のタンパク質及び脂質汚染を引き起こすといった問題が存在している。
【発明の概要】
【0007】
本発明では、S100β及び/またはMBP抗体が連結され、ポリ-D-リジンで修飾されたAg-Fe3O4磁気ビーズを構築しており、末梢神経組織由来のエクソソームを特異的に捕獲することができる。該ビーズを利用した神経組織由来のエクソソームの抽出は、単位体積当たりの神経組織からエクソソームを抽出する収率が高く、神経特異性が強いので、将来的に末梢神経損傷の臨床治療に新しい方法を提供することができる。
【0008】
本発明の具体的な技術手法は以下の通りである。
【0009】
Ag-Fe3O4免疫磁気ビーズであって、Ag-Fe3O4磁気ビーズ表面にポリ-D-リジンが修飾され、アミド結合によってS100β及び/またはMBP抗体と結合することを特徴としている。
【0010】
本発明の上記免疫Ag-Fe3O4磁気ビーズは、以下の方法を用いて調製することができる。
【0011】
(1)Fe2+及びFe3+金属塩をトリエタノールアミン水溶液に溶解し、加熱し(好適には75℃)、不活性ガスの保護下で、Ag+(例えば硝酸銀)水溶液を加え、磁界強度の作用下で撹拌し、分散させ、Ag-Fe3O4ビーズを中性になるまで洗浄する(好適には、溶液が黄色から徐々に薄い灰色になるまで激しく撹拌し、撹拌を停止した後、超音波分散を行い、純水でAg-Fe3O4ビーズを中性になるまで洗浄する);
(2)ステップ(1)で得られたAg-Fe3O4ビーズをポリエーテルイミド(PEI、Mw1/4分子量25kDa)及び塩基性アミノ酸ポリ-D-リジンPoly-D-Lysineに投入し、反応させてポリ-D-リジンで修飾されたAg-Fe3O4ビーズを得る;
(3)ステップ(2)で得られたビーズをS100β抗体及び/またはMBP抗体と混合し、架橋剤EDC及び/またはNHSを加えてポリリジンと抗体との間のアミド結合によるカップリングを促進し、Ag-Fe3O4免疫磁気ビーズを調製して得る(好適には、EDC:NHSのモル比は2:1)。
【0012】
ステップ(1)のFe2+及びFe3+金属塩は、例えばFeCl3やFeCl2のような可溶性塩である。好適には、ステップ(1)のAg+:Fe3+:Fe2+の質量比は1.0:2.5:1.0である。
【0013】
好適には、ステップ(1)中のトリエタノールアミンの濃度は1mol/Lである。
【0014】
本発明の研究結果から、Ag+/Fe3+/Fe2+の質量比を1.0:2.5:1.0に制御し、トリエタノールアミンの濃度を1mol/Lとして形成されたAg-Fe3O4磁気ビーズは、エクソソーム吸着に最適な特異性を有することがわかった。
【0015】
好適には、ステップ(2)のAg-Fe3O4ビーズ:ポリ-D-リジンの質量比は3:2~16、好適には3:8である。
【0016】
Ag-Fe3O4磁気ビーズの表面を塩基性アミノ酸のポリ-D-リジンPoly-D-Lysineによって修飾すると、その結果から、Ag-Fe3O4ビーズ:ポリ-D-リジンの質量比が3:8の時に修飾、調製されたビーズのエクソソーム吸着効率が最適であることがわかった。
【0017】
好適には、上記ステップ(3)におけるステップ(2)で得られたビーズとS100β及びMBP抗体の質量比は10:1:1である。
【0018】
本発明のもう一つの目的は、本発明の上記Ag-Fe3O4免疫磁気ビーズの神経組織由来エクソソーム抽出における応用を提供することにある。
【0019】
本発明のもう一つの目的は、神経組織由来エクソソームの抽出方法を提供することにあり、末梢神経組織を酵素類を含む消化液で消化した後、本発明の上記Ag-Fe3O4免疫磁気ビーズを用いて抽出を行う。
【0020】
好適には、上記消化液は、DNA酵素I、パパイン、ヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼI、コラゲナーゼII、コラゲナーゼIVを含有する。より好適には、上記消化液は、0.05mg/mLのDNA酵素I、0.2mg/mlのパパイン、0.1mg/mlのヒアルロニダーゼ、1mg/mlのコラゲナーゼI、1mg/mlのコラゲナーゼII、1mg/mlのコラゲナーゼIVを含有する。
【0021】
具体的なステップには以下が含まれる:
末梢神経組織をマイクロ剪刀で1~2mm3の破片に切り分け、適量の消化液(D-Hank´s液中の各種酵素類の最適濃度は、DNA酵素Iが0.05mg/mL、パパインが0.2mg/ml、ヒアルロニダーゼが0.1mg/ml、コラゲナーゼIが1mg/ml、コラゲナーゼIIが1mg/ml、コラゲナーゼIVが1mg/ml)を加え、37℃で3時間培養する。大量のD-Hank´s液で希釈し、遠心して残留酵素類を除去する。10mlの0.01MPBSで再懸濁し、0.22μmフィルタで濾過した後、ポリ-D-リジンPoly-D-Lysineで修飾され、S100β、MBP抗体が結合している500μgのAg-Fe3O4磁気ビーズを加え、末梢神経組織由来のエクソソームを抽出する。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、ポリ-D-リジンPoly-D-Lysineを用いて修飾したAg-Fe3O4ビーズにS100β、MBP抗体を連結し、末梢神経組織中のエクソソームを抽出しており、従来の超遠心法による抽出と比べて、単位体積当たりの末梢神経組織におけるエクソソームの収率が高く、また神経特異性も高いという二重の特徴を有しているので、末梢神経組織中のエクソソームの抽出に適している。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】異なるタイプ及び質量比のポリリジンで修飾されたAg-Fe
3O
4ビーズのエクソソームに対する吸着率。
【
図2】異なる比率のポリリジンで修飾されたAg-Fe
3O
4ビーズと抗体のエクソソーム特異的タンパクへの吸着である(
図2Aはエクソソーム特異的タンパクCD63とHSP70のウエスタン検出の代表図、
図2B及び2Cはそれぞれウエスタン法のヒストグラム統計図である)。
【
図3】走査電子顕微鏡で観察したAg-Fe
3O
4免疫磁気ビーズとビーズ直径の統計分析(
図3Aは走査電子顕微鏡で観察した磁気ビーズの代表図、
図3Bはビーズ直径統計図である)。
【
図4】透過電子顕微鏡で観察したエクソソームとNTA粒径分布の統計図(
図4Aは透過電子顕微鏡で観察したエクソソームの代表図、
図4Bはエクソソーム粒径分布統計図である)。
【
図5】NTAで測定した、Ag-Fe
3O
4免疫ビーズ及び従来の超遠心法によるエクソソーム抽出の効果。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、実施例を通して本発明の具体的なステップを説明しているが、実施例による制限は受けないものとする。
【0025】
本発明で使用される用語は、別途説明のない限り、一般的に、当業者が通常理解している意味を持つ。
【0026】
以下では、具体的実施例と結び付け、かつデータを参照して本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を説明するために挙げている例にすぎず、いかなる形でも本発明の範囲を限定するものではないことを理解しておかなければならない。
【0027】
以下の実施例で詳細に記述されていない各種のプロセス及び方法は、当分野において公知の一般的な方法である。
【0028】
以下では、具体的実施例と結び付けて本発明についてさらに説明するが、本発明の保護範囲がこれに限定されるわけではない。
【0029】
実施例1:マイクロエマルション法と銀イオンによるAg-Fe3O4磁気ビーズの調製。
【0030】
3gのFeCl3・6H2Oと1.2gのFeCl2・4H2Oをそれぞれ量り取り、異なる濃度のトリエタノールアミンC6H15O3N溶液250mL(0.16、0.40、1.00、2.50mol/L)のビーカ内でそれぞれ溶解させる。室温、超音波で十分に溶解させて均質なオレンジ色の溶液を得る。その後、75℃で水浴を行い、高純度窒素保護下で硝酸銀水溶液を上記Fe2+及びFe3+溶液に投入し、Ag+/Fe3+/Fe2+の質量比を1.0:2.5:1.0に制御する。磁界強度(E=200mT)の作用下で、90分間激しく撹拌すると、溶液が徐々に薄い灰色になる。pH=10~11の条件下で、磁気ビーズは形状規則性及び粒径単分散性を有する。撹拌を停止した後、超音波で30分間分散させ、ビーズをddH2OでpHが中性になるまで洗い、60℃で真空乾燥させて、Ag-Fe3O4ビーズを調製する。
【0031】
異なる濃度のアルカリ塩C6H15O3Nで調製したAg-Fe3O4ビーズの核酸及びエクソソームに対する吸着率を考察する(表1)。
【0032】
市販の仔ウシ胸腺DNA(CT-DNA)と健康なヒトの血清エクソソームをそれぞれ用いて、DNA及びエクソソーム吸着率測定の標準品とする。仔ウシ胸腺DNA粉末(Solarbio社、Cat.No.D8020)を0.01M PBSに溶解し、1mg/mlの仔ウシ胸腺DNA溶液を作る。室温で1時間、軽く撹拌し、Ag-Fe3O4ビーズを溶液中のDNAと十分に混合させる。紫外線分光光度計により吸着前と吸着後の溶液中のOD260部分における純吸収値を測定して溶液中のDNA濃度を計算し、異なる濃度のアルカリ塩C6H15O3Nが形成するビーズのDNA吸着率を算出する。健康なヒト血清粉末化エクソソーム(潤基生物Rengenbio社、Cat.No.EXOLyoS-2)を0.01M PBSに溶解し、1012/mlのエクソソーム懸濁液を作る。ナノ粒子追跡により吸着前と吸着後の溶液中のエクソソーム粒子数を分析し、異なる濃度のアルカリ塩C6H15O3Nが形成するビーズのエクソソーム吸着率を算出する。結果は表1に示す通りである。この結果から、1mol/Lのアルカリ塩C6H15O3Nから得られるビーズのエクソソームに対する吸着率が最も高く、86.42±5.84%に達しており、また、核酸DNAに対する吸着率が相対的に低いので(*P<0.05 VS. 0.16M C6H15O3Nグループ;##P<0.01 VS. 0.16M C6H15O3Nグループ)、1mol/Lのアルカリ塩C6H15O3Nから得られるAg-Fe3O4ビーズが、エクソソームを最適に吸着する特異性を有していることがわかる。
【0033】
【0034】
実施例2:ポリ-D-リジン修飾磁気ビーズの調製
実施例1のアルカリ塩C6H15O3N1mol/Lから得られたAg-Fe3O4ビーズをポリエーテルイミド(PEI、Mw1/4分子量25kDa)に加え、それぞれ塩基性アミノ酸ポリ-D-リジンPoly-D-Lysine及びポリ-L-リジンPoly-L-Lysineと反応させて修飾する。そのうち、Ag-Fe3O4ビーズ:PEI:ポリリジンの質量比はそれぞれ3:1:2、3:1:4、3:1:8、3:1:16である。クエン酸ナトリウム修飾ビーズを対照群とする(参考文献Stem cell-mediated delivery of nanogels loaded with ultrasmall iron oxide nanoparticles for enhanced tumor MR imaging,Nanoscale.2019 Mar 14;11(11):4904-4910に基づく)。未修飾のAg-Fe3O4ビーズ群を空白対照群とする。
【0035】
図1は、タイプと質量比の異なるポリリジンで修飾したビーズのエクソソーム吸着率に対する影響であり、結果から、ポリ-D-リジンPoly-D-Lysineはポリ-L-リジンPoly-L-Lysine修飾Ag-Fe
3O
4ビーズに比べて、Ag-Fe
3O
4ビーズのエクソソームに対する吸着効果を顕著に向上させることができ、かつ、Ag-Fe
3O
4ビーズ:ポリリジンの質量比が3:8の時に得られるポリ-D-リジンPoly-D-Lysine修飾Ag-Fe
3Oビーズのエクソソーム吸着効率が最も高いことがわかる(*P<0.05、**P<0.01 VS.対照)。
【0036】
実施例3:特異性免疫磁気ビーズの調製
市販のS100β抗体(Proteintech社 cat.No.15146-1-AP)50μg及びMBP抗体(R&D社、cat.No.MAB42282)50μgを実施例2の最適条件で得たポリ-D-リジン修飾Ag-Fe3O4ビーズ1mg、500μg、250μgと混合し、1.0M EDC及び0.5M NHS混合溶液を加え、ポリリジンと抗体との間のカルボキシル基/アミノ基の共有カップリングを促進して、Ag-Fe3O4免疫磁気ビーズを調製する。
【0037】
健康なヒト血清粉末化エクソソーム(潤基生物Rengenbio社、Cat.No.EXOLyoS-2)を0.01M PBSに溶解し、1mg/mLのエクソソーム懸濁液を作る。ポリ-D-リジン修飾Ag-Fe3O4ビーズと抗体を異なる質量比で調製したビーズ1mgをそれぞれエクソソーム懸濁液に加えて溶液中のエクソソームの吸着に用い、ウエスタンブロットによって免疫磁気ビーズがエクソソーム特異性標識を吸着したタンパク発現量を検出し、ビーズ/抗体を異なる質量比で調製した免疫磁気ビーズのエクソソーム吸着効率を測定する。
【0038】
外部磁界によりエクソソームを吸着した免疫磁気ビーズを収集し、タンパク分解液とプロテアーゼ阻害剤を加えて総タンパクを抽出し、ウエスタンブロットによりエクソソーム特異性標識CD63とHSP70のタンパク発現量を測定する。総タンパクを抽出し、2×SDSローディング緩衝液に溶解し、5分間煮沸し、上澄み10gを取って10%SDS-PAGEを行う。電気泳動の終了後、サンプルをPVDFフィルムに移す(40mA、2時間)。フィルム移動の終了後、室温で25mlのTBS/Tで5分間水洗した後、PVDFフィルムを5%脱脂粉乳を含むTBS/Tに投入し、4℃で被覆して一晩置く。TBS/Tで5分×3回水洗し、モノクロナール抗体monoclonal antibody mouse anti-CD63(1:1000 dilution、Abcam社 ab108950)、monoclonal antibody rabbit anti-HSP70(1:1000 dilution、Abcam社 ab181606)を加え、4℃で一晩置く。TBS/Tで5分×3回水洗し、コンジュゲート抗体HRP-conjugated goat anti-mouse IgG(1:2000 dilution)、HRP-conjugated goat anti-rabbit IgG(1:2000 dilution)を加え、室温で2時間置く。TBS/Tで5分×3回水洗し、フィルムをECL顕色液(A、B液各300μl、使用直前に均一に混ぜる)に入れ、室温で2分置く。プレス、露光、現像を行う。実験ではモノクロナール抗体を加えない空白対照群を設けており、0.01M PBSをモノクロナール抗体の代わりとすることを除き、その他のステップは同じとする。実験を3回繰り返す。GAPDH(1:4000)を内部パラメータとする。画像はGS800 Calibrated Densitometerスキャナでグレースケールスキャンしたものであり、PDQuest7.2.0ソフトウェアで結果を分析する。
【0039】
図2は、ポリ-D-リジンで修飾したAg-Fe
3O
4ビーズと抗体を異なる比率で調製した免疫磁気ビーズがエクソソーム特異的タンパクCD63及びHSP70に吸着しているウエスタン代表図(
図2A)及びヒストグラム統計図(
図2B)である。この結果から、エクソソーム特異的タンパクCD63は、ポリ-D-リジン修飾Ag-Fe
3O
4ビーズと抗体の比率が10:1及び5:1の時にいずれも統計学的差違があり(*P<0.05、**P<0.01 VS.対照)、そのうち、比率が10:1の時が最適であることがわかる。エクソソーム特異的タンパクHSP70については、ポリ-D-リジン修飾Ag-Fe
3O
4ビーズと抗体の比率が20:1及び10:1の時にいずれも統計学的差違があり(*P<0.05、**P<0.01 VS.対照)、そのうち、比率が10:1の時が最適である。よって、ポリ-D-リジン修飾Ag-Fe
3O
4ビーズ、S100β抗体、MBP抗体の質量比10:1:1を最適比率として、特異性免疫磁気ビーズを調製する。
【0040】
最適条件で調製した免疫磁気ビーズを走査電子顕微鏡で観察し、かつビーズの直径範囲と分布の状況の統計を行う。冷陰極電界放出型走査電子顕微鏡(JEM-T300、JEOL Inc.,日本)、二次電子検出器を使用する。画像解像度は1kVである。
図3は、走査電子顕微鏡で磁気ナノビーズとビーズの直径を観察した統計分析であり、その結果から、走査電子顕微鏡下では該免疫磁気ビーズの形状は球形に近く、表面は滑らかで整っており、分散性がよく、大きさはほぼ均一であり(
図3A)、粒径範囲は主に4.5~5.5μmに分布し、平均直径は5μmであることがわかる(
図3B)。
【0041】
実施例4:末梢神経組織エクソソームの抽出
末梢神経組織10gを取って氷上に置き、包まれている結合組織と神経外膜を解剖顕微鏡下で注意深く除去した後、氷にD-Hank´s液を入れたシャーレの中に置き、マイクロ剪刀でできる限り約1mm3の組織塊に切り分け、20mLの組織消化液(各種酵素類の最終濃度は、それぞれDNA酵素Iが0.05mg/mL、パパインが0.2mg/ml、ヒアルロニダーゼが0.1mg/ml、コラゲナーゼIが1mg/ml、コラゲナーゼIIが1mg/ml、コラゲナーゼIVが1mg/mlであり、D-Hank´s液に入れて構成する)を加え、37℃で3時間培養した後、大量のD-Hank´s液で希釈し、残りの酵素類を遠心除去する。10mLの0.01M PBSで再懸濁し、0.22μmフィルタで濾過した後、実施例3でポリ-D-リジンで修飾したAg-Fe3O4ビーズ、S100β抗体、MBP抗体を質量比10:1:1の最適比率で調製した免疫磁気ビーズ1mgを加え、渦振動で十分に混合した後、4℃で回転混合して16時間より長く寝かせる。外部磁界によって固液分離を行い、上澄みを除去し、ポリ-D-リジンで修飾されたAg-Fe3O4-S100β/MBP抗体-エクソソーム複合体を得る。0.01MPBSで再懸濁し、外部磁界で固液分離を行い、細胞片などの不純物を除去した後、pH=3で濃度が0.2mol/Lのグリシン溶液で管底に沈殿したビーズ複合体を十分に溶解し、抗体とエクソソームの間の相互結合を解離させた後、pH=10で濃度が0.1mol/LのTris溶液を用いて中和し、適切なpHに調整する。外部磁界により固液分離を行い、沈殿したビーズを除去し、上澄み液を残すので、抽出された末梢神経組織由来エクソソームは上澄み液の中に存在する。4℃、1500g×30分後に100μLの0.01MPBSを加えて再懸濁することで、神経組織由来のエクソソーム溶液が得られる。
【0042】
ナノ粒子トラッキング解析技術(NTA)測定では、ZataView 8.04.02ソフトウェアでエクソソーム粒子濃度及び粒径分布を分析する。
図4は、透過電子顕微鏡でエクソソームの大きさ及び形態を観察した結果である。
図4Aは、Ag-Fe
3O
4免疫ビーズから抽出したエクソソームの透過電子顕微鏡結果であり、大きさは30~150nmの間で、嚢膜状の超微細構造がはっきり見え、エクソソームの形態特徴と一致している。
図4Bの粒径統計分析により得られた平均粒径は120nmである。
【0043】
参考文献A protocol for exosome isolation and characterization:evaluation of ultracentrifugation,density-gradient separation,and immunoaffinity capture methods,Methods Mol Biol.2015;1295:179-209.で公開されている方法では、従来の超遠心法を用いて抽出したエクソソームと本発明に記載の抽出方法を比較している。ナノ粒子トラッキング解析装置(NTA)で、エクソソーム粒子濃度の状況を測定する。得られたエクソソーム懸濁液を0.01M PBSで1000倍に希釈し、計器を直径100nmのポリスチレン粒子で校正し、試料プールを超純水で洗浄する。室温下で、エクソソーム懸濁液試料をコンピュータにかけ、ZataView 8.04.02ソフトウェアでエクソソーム粒子濃度を測定し、SPSS 11.5で分析結果を統計する。
図5は、NTAが異なる抽出方法により得られたエクソソーム濃度を測定したヒストグラム統計図である。本発明の上記Ag-Fe
3O
4免疫磁気ビーズと対照群、即ち従来の超遠心法で抽出したエクソソームの濃度を比較した結果、顕著な差(**p<0.01 VS.対照)が現れており、このことから、Ag-Fe
3O
4免疫磁気ビーズ法で抽出したエクソソームは、単位体積当たりの末梢神経組織でエクソソームを得る収率が高いという特徴を有することがわかる。
【0044】
実施例5:異なる抽出方法により得られたエクソソームの胚性幹細胞から神経前駆細胞への特異性分化に対する作用の考察
フィーダ層細胞、即ち初代マウス胚線維芽細胞(PMEF)の調製:胎生期13.5dのマウスを、深冷却したD-Hank´s液中に置き、胴体部を1mm3の小片にできる限り切り分け、0.25%膵酵素により37℃で10分間消化し、血清で消化を終了させた後、PMEF増殖培地(高グルコースDMEM、0.1mmol/L β-ME及び10%ウシ胎児血清)を用いて、5×105/mLの密度で培養皿内に植え付ける。第3世代に移行したPMEFを10mg/LのマイトマイシンCに投入して2時間作用させ、十分に洗浄すると、フィーダ層として使用することができる。
【0045】
ES-D3胚性幹細胞を、高グルコースDMEM、0.1mmol/L β-ME、1%の非必須アミノ酸、106U/L LIF及び10%FBSで一定の密度でフィーダ層細胞に接種する。通常は、2~3日に1回継代する。細胞が80%近く融合した時に、膵酵素で消化して単細胞懸濁液にし、分化培養液I(高グルコース含有DMEM、非必須アミノ酸、10%ウシ胎児血清、不合LIF)を用いてESを再びフィーダ層のない6穴培養皿に接種し、徐々に無血清PMEF増殖培地に入れ替え、かつ培地の中に異なる濃度及び抽出方法により得られたエクソソーム(実施例4の本発明の方法及び従来の超遠心法で抽出したエクソソーム)を添加し、引き続き3日間培養した後、免疫細胞を化学染色し、胚性幹細胞がTuj1陽性の神経前駆細胞に分化するパーセンテージの情況を観察する。
【0046】
4%パラホルムアルデヒドを室温で15分固定し、0.01M PBSで10分×3回洗浄する。10%のヒツジ血清、0.3%のTriton X-100を含む0.01M PBS液で60分密閉する。蛍光免疫細胞化学分析:モノクロナール抗体(rabbit anti-Tuj1 polyclonal antibody、1:350)を滴下し、4℃で一晩放置し、0.01M PBSで10分×3回洗浄する。コンジュゲート抗体(FITC donkey anti-rabbit IgG、1:1000)を滴下し、Hoechst33342(5μg/ml)で細胞核を標識し、室温、遮光で1時間放置し、0.01M PBSで10分×3回洗浄する。実験では、モノクロナール抗体を加えない空白対照群を設定している。レーザ共焦点顕微鏡下(FITC励起波長:488nm、観察波長:500~535nm;Hoechst33342サブイオンAr励起波長:353~364nm、観察波長:460~480nm)で、免疫蛍光細胞化学測定の結果を観察し、ImageJソフトウェアでTuj1陽性細胞のパーセンテージと突起全長を統計する。
【0047】
表2の免疫蛍光細胞化学染色の統計結果から、陰性対照群、即ちニューロン培地97%Neurobasal+2%B27+1%GluMAX中のTuj1陽性細胞率及び突起全長に比べて、Ag-Fe3O4免疫磁気ビーズで抽出したエクソソーム濃度107/mLのTuj1陽性細胞のパーセンテージは0.38±0.11、突起全長は15.34±1.64μm(*p<0.05 VS.対照;#p<0.05 VS.超遠心法エクソソーム濃度108/mL)であり、Ag-Fe3O4免疫磁気ビーズで抽出したエクソソーム濃度108/mLのTuj1陽性細胞のパーセンテージは0.88±0.09、突起全長は31.89±2.09μm(**p<0.01 VS.対照;##p<0.01 VS.超遠心法エクソソーム濃度108/mL)であり、いずれも顕著な差があり、その中で、Ag-Fe3O4磁気ビーズで抽出したエクソソーム濃度108/mLが最適であることがわかる。つまり、異なる濃度勾配のエクソソームを加えると、幹細胞が神経前駆細胞に分化するパーセンテージと正相関を呈することを示しており、本発明で採用しているAg-Fe3O4免疫磁気ビーズで抽出したエクソソームが、胚性幹細胞に対して神経前駆細胞に特異的に分化する作用を有し、かつこの種の特異性は超遠心法によって単純に得られるエクソソームの神経特異性よりも高いことを示している。
【0048】