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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】ガラスセラミックス固体電解質
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20240123BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20240123BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240123BHJP
   C03C 10/04 20060101ALI20240123BHJP
   C03C 10/02 20060101ALI20240123BHJP
   C04B 35/447 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01B1/08
H01M10/0562
C03C10/04
C03C10/02
C04B35/447
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019179179
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021027022
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2019141765
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】大野 友美
(72)【発明者】
【氏名】加藤 高志
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-097811(JP,A)
【文献】国際公開第2017/195232(WO,A1)
【文献】特開2019-102460(JP,A)
【文献】国際公開第2016/063607(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01B 1/08
H01M 10/0562
C03C 10/04
C03C 10/02
C04B 35/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のmol%で、
25 22~50%、
SiO2 0%超6%未満、
TiO2又は/及びGeO2 28~55%、
Li2O 0超~28%、
含有し、
Li1+x+yx2-x3-ySiy12(x≧0、y≧0)結晶相を含み、
SEM写真から求めた粒子の長径と短径の比率を楕円率としたとき、この楕円率が1.05以上1.5以下であることを特徴とする、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス。
(MはFe、Mn、Co、Ni、Cr、Y、Sc、Al、Vから選ばれる1種類以上とする。)
(TはTi、Zr、Ge、Snから選ばれる1種類以上とする。)
【請求項2】
レーザー回折粒度分布計から求めた平均粒子径が5μm以上、100μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス。
【請求項3】
前記楕円率が1.3以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスセラミックス固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車用電源、携帯端末用電源などの用途で、エネルギー密度が高く、充放電可能なリチウムイオン二次電池が広く用いられている。
現在市販されているリチウムイオン二次電池の多くは、高いエネルギー密度を有するために有機溶媒などの液体の電解質(電解液)が一般的に使用されている。この電解液は、炭酸エステルや環状エステルなどの非プロトン性有機溶媒などにリチウム塩を溶解させて用いられている。
【0003】
しかし、液体の電解質(電解液)を用いたリチウムイオン二次電池においては、電解液が漏出するという危険性がある。また、電解液に一般的に用いられる有機溶媒などは可燃性物質であり、安全上、好ましくないという問題がある。
【0004】
そこで、有機溶媒など液体の電解質(電解液)に替えて、固体電解質を用いることが提案されている。また、電解質として固体電解質を用いるとともに、その他の構成要素も固体で構成された固体二次電池の開発が進められている。
【0005】
現在、リチウムイオン二次電池用の無機固体電解質としては、特許文献1に記載されたセラミックス製のものが提案されている。しかし、セラミックス製の無機固体電解質は、成形性に劣り、薄膜状のものや、大型形状のものを容易に製造することができないという問題がある。
【0006】
また、リチウムイオン二次電池用の無機固体電解質は、特許文献2に記載されているようにガラスセラミックスを粉末状にして用いることができる。無機固体電解質を粉末状にするには、特許文献2に記載された乳鉢などを用いて作製する、もしくはボールミルなどを用いて無機固体電解質の塊を粉砕する方法が一般的であるが、この方法を用いると出来上がった粒子の形状が不定型になりやすく、形を統一することが困難になり、特定の粒子形状の混合状態によって部分ごとにイオン伝導性にばらつきが生じたり、成形時に不具合を含みやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-051800
【文献】WO2016/063607
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであり、所望の形状を持つことによって、粒子の異方性を小さくし粒子毎のイオン伝導率のばらつきを減少させる。これによって粉体全体としてイオン伝導率が向上し、また粒子のすべりがよくなるため成形時に不具合部分を含みにくくなり成形性が良好になる。イオン伝導性とその均質性を向上し、様々な成形に適するガラスセラミックス固体電解質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決するため、鋭意試験研究を重ねた結果、P成分、SiO成分、TiO又は/及びGeO、LiOを所望の範囲含有しつつ、Li1+x+y2-x3-ySi12(MはFe、Mn、Co、Ni、Cr、Y、Sc、Al、Vから選ばれる1種類以上とする。)(TはTi、Zr、Ge、Snから選ばれる1種類以上とする。)(x≧0、y≧0)結晶相を含有するリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを所望の形状にすることによって、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、以下に示すリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス粒子が提供される。
【0010】
(1)酸化物基準のmol%で、
22~50%、
SiO 0~24%、
TiO又は/及びGeO 28~55%、
LiO 0超~28%、
含有し、
Li1+x+y2-x3-ySi12(x≧0、y≧0)結晶相を含むことを特徴とする、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス。
(MはFe、Mn、Co、Ni、Cr、Y、Sc、Al、Vから選ばれる1種類以上とする。)
(TはTi、Zr、Ge、Snから選ばれる1種類以上とする。)
【0011】
(2)レーザー回折粒度分布計から求めた平均粒子径が5μm以上、100μm以下であることを特徴とする、(1)に記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス。
【0012】
(3)SEM写真から求めた粒子の形状が球体もしくは楕円体であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス。
【0013】
(4)SEM写真から求めた粒子の長径と短径の比率を楕円率としたとき、この楕円率が1以上1.9以下であることを特徴とする、請求項(1)~(3)に記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、平均粒子径が5μm以上、100μm以下のLi1+x+y2-x3-ySi12(x≧0、y≧0)結晶相を含む楕円体形状のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1で製造された固体電解質粒子の電子顕微鏡(SEM)写真である。
図2】実施例2で製造された固体電解質粒子の電子顕微鏡(SEM)写真である。
図3】比較例1で製造された固体電解質粒子の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の全固体電池の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0017】
本発明のガラス電解質に含まれる各成分の含有量は、特に明記しない限りは酸化物基準のmol%で表す。ここで、「酸化物基準のmol%」は、ガラス電解質の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が熔融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総和を100mol%として、ガラス電解質中に含有される各成分を表記した組成である。
【0018】
成分はリチウムイオン伝導性結晶の構成成分であるとともに、ガラスネットワークを形成する必須成分である。同様に低融点化が期待できるガラス形成酸化物であるBに比べるとLiOに対するガラス化範囲が広いため、より低い割合で安定な高イオン伝導度のガラスが形成しやすい。そのため、Pの含有量は、好ましくは22mol%以上、より好ましくは27mol%以上、最も好ましくは32mol%以上とする。
他方、P成分が多くなりすぎると他の成分が入らなくなりリチウムイオン伝導の機能が損なわれるため、好ましくは50mol%以下、さらに好ましくは45mol%以下、最も好ましくは40mol%以下とする。
【0019】
LiO成分は、リチウムイオン伝導性を得る上で必須となる成分である。酸化物換算で0mol%超あると非晶質固体電解質を低融点化あるいは低Tg化することができる。
そのため、LiO成分の含有量は、好ましくは0mol%超、さらに好ましくは5mol%以上、最も好ましくは10mol%以上とする。
他方、LiO成分はその含有量が多すぎるとガラス化し難くなるため、好ましくは28mol%以下、さらに好ましくは23mol%以下、最も好ましくは18mol%以下とする。
【0020】
TiO成分又は/及びGeO成分は、リチウムイオン伝導性結晶を構成する必須成分である。酸化物換算で0%超含有することによって、リチウムイオン伝導性結晶が析出しやすくなり、リチウムイオン伝導性を向上させる傾向にある。そのためTiO成分又は/及びGeO成分は、好ましくは28mol%以上、より好ましくは30mol%以上、最も好ましくは33mol%以上である。
他方、TiO成分又は/及びGeO成分は、含有量が多いとガラス化し難くなるため、TiO成分又は/及びGeO成分の含有量は好ましくは55mol%以下、より好ましくは48mol%以下、より好ましくは43mol%以下、最も好ましくは40mol%以下とする。
【0021】
ZrO成分は、リチウムイオン伝導性結晶を構成する任意成分である。酸化物換算で0%超含有することによって、リチウムイオン伝導性結晶が析出しやすくなり、リチウムイオン伝導性を向上させる傾向にある。そのためZrO成分は、好ましくは0mol%超、より好ましくは5mol%以上、さらに好ましくは、8mol%、最も好ましくは10mol%以上とする。
他方、ZrO成分は、含有量が多いとガラス化し難くなるため、ZrO成分の含有量は好ましくは38mol%以下、より好ましくは33mol%以下、最も好ましくは28mol%以下である。
【0022】
SnO成分は、リチウムイオン伝導性結晶を構成する任意成分である。酸化物換算で0%超含有することによって、リチウムイオン伝導性結晶が析出しやすくなり、リチウムイオン伝導性を向上させる傾向にある。そのためSnO成分は、好ましくは0mol%超、より好ましくは5mol%以上、さらに好ましくは8mol%、最も好ましくは10mol%以上とする。
他方、SnO成分は、含有量が多いとガラス化し難くなるため、SnO成分の含有量は好ましくは38mol%以下、より好ましくは33mol%以下、最も好ましくは28mol%以下である。
【0023】
SiO成分は0mol%超含有する場合に、ガラスを安定化させ、耐失透性を高められる任意成分である。
他方で、SiO成分の含有量が多すぎると、ガラスは安定化するが、結晶化しにくくなりリチウムイオン伝導率が低下しやすくなる。従って、SiO成分の含有量は、好ましくは24mol%以下、好ましくは19%mol以下、より好ましくは14mol%以下、より好ましくは9mol%以下、さらに好ましくは6mol%未満とする。
【0024】
成分は0mol%超含有する場合に、ガラスネットワークを形成し、耐失透性を高められる任意成分である。
他方で、B成分の含有量が多すぎると、ガラスは安定化するが、結晶化しにくくなりリチウムイオン伝導率が低下しやすくなる。従って、B成分の含有量は、好ましくは8mol%以下、より好ましくは4mol%以下、さらに好ましくは1mol%未満とする。
【0025】
Al成分はリチウムイオン伝導性結晶を構成する任意成分である。特に、Al成分の含有量を0mol%超にすることで、化学的耐久性及び耐失透性を高めることができ、リチウムイオン伝導性結晶のリチウムイオン伝導率を向上させることができる。従って、Al成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5mol%以上、より好ましくは0.5mol%超、より好ましくは1mol%以上、さらに好ましくは1.5mol%以上とする。
他方で、Al成分の含有量を15mol%以下にすることで、リチウムイオン伝導性結晶の析出を維持し、高いリチウムイオン伝導性を保持できる傾向にある。従って、Al成分の含有量は、好ましくは15mol%以下、より好ましくは15mol%未満、より好ましくは12mol%以下、より好ましくは10mol%未満、さらに好ましくは8mol%以下とする。
【0026】
Fe成分は、非晶質固体電解質の耐水性とリチウムイオン伝導性を向上させる任意成分である。酸化物換算で0mol%超含有することによって耐水性とリチウムイオン伝導性を向上させ、所望の結晶を得ることができる。そのためFe成分は、好ましくは0mol%超、より好ましくは0.5mol%以上、さらに好ましくは1mol%以上、最も好ましくは2mol%以上である。
他方で、Fe成分は含有量が多いとガラス化し難くなる。そのため、Fe成分の含有量は好ましくは10mol%以下、より好ましくは8mol%以下、最も好ましくは6mol%以下とする。
【0027】
Mn成分は、非晶質固体電解質の耐水性とリチウムイオン伝導性を向上させる任意成分である。酸化物換算で0mol%超含有することによって耐水性とリチウムイオン伝導性を向上させ、所望の結晶を得ることができる。そのためMn成分は、好ましくは0mol%超、より好ましくは0.5mol%以上、さらに好ましくは1mol%以上、最も好ましくは2mol%以上である。
他方で、Mn成分は含有量が多いとガラス化し難くなる。そのため、Mn成分の含有量は好ましくは10mol%以下、より好ましくは8mol%以下、最も好ましくは6mol%以下とする。
【0028】
Ni成分は、非晶質固体電解質の耐水性とリチウムイオン伝導性を向上させる任意成分である。酸化物換算で0mol%超含有することによって耐水性とリチウムイオン伝導性を向上させ、所望の結晶を得ることができる。そのためNi成分は、好ましくは0mol%超、より好ましくは0.5mol%以上、さらに好ましくは1mol%以上、最も好ましくは2mol%以上である。
他方で、Ni成分は含有量が多いとガラス化し難くなる。そのため、Ni成分の含有量は好ましくは10mol%以下、より好ましくは8mol%以下、最も好ましくは6mol%以下とする。
【0029】
Co成分は、非晶質固体電解質の耐水性とリチウムイオン伝導性を向上させる任意成分である。酸化物換算で0mol%超含有することによって耐水性とリチウムイオン伝導性を向上させ、所望の結晶を得ることができる。そのためCo成分は、好ましくは0mol%超、より好ましくは0.5mol%以上、さらに好ましくは1mol%以上、最も好ましくは2mol%以上である。
他方で、Co成分は含有量が多いとガラス化し難くなる。そのため、Co成分の含有量は好ましくは10mol%以下、より好ましくは8mol%以下、最も好ましくは6mol%以下とする。
【0030】
Cr成分は、非晶質固体電解質の耐水性とリチウムイオン伝導性を向上させる任意成分である。酸化物換算で0mol%超含有することによって耐水性とリチウムイオン伝導性を向上させ、所望の結晶を得ることができる。そのためCr成分は、好ましくは0mol%超、より好ましくは0.5mol%以上、さらに好ましくは1mol%以上、最も好ましくは2mol%以上である。
他方で、Cr成分は含有量が多いとガラス化し難くなる。そのため、Cr成分の含有量は好ましくは10mol%以下、より好ましくは8mol%以下、最も好ましくは6mol%以下とする。
【0031】
成分は、非晶質固体電解質の耐水性とリチウムイオン伝導性を向上させる任意成分である。酸化物換算で0mol%超含有することによって耐水性とリチウムイオン伝導性を向上させ、所望の結晶を得ることができる。そのためY成分は、好ましくは0mol%超、より好ましくは0.5mol%以上、さらに好ましくは1mol%以上、最も好ましくは2mol%以上である。
他方で、Y成分は含有量が多いとガラス化し難くなる。そのため、Y成分の含有量は好ましくは10mol%以下、より好ましくは8mol%以下、最も好ましくは6mol%以下とする。
【0032】
Sc成分は、非晶質固体電解質の耐水性とリチウムイオン伝導性を向上させる任意成分である。酸化物換算で0mol%超含有することによって耐水性とリチウムイオン伝導性を向上させ、所望の結晶を得ることができる。そのためSc成分は、好ましくは0mol%超、より好ましくは0.5mol%以上、さらに好ましくは1mol%以上、最も好ましくは2mol%以上である。
他方で、Sc成分は含有量が多いとガラス化し難くなる。そのため、Sc成分の含有量は好ましくは10mol%以下、より好ましくは8mol%以下、最も好ましくは6mol%以下とする。
【0033】
成分は、非晶質固体電解質の耐水性とリチウムイオン伝導性を向上させる任意成分である。酸化物換算で0mol%超含有することによって耐水性とリチウムイオン伝導性を向上させ、所望の結晶を得ることができる。そのためV成分は、好ましくは0mol%超、より好ましくは0.5mol%以上、さらに好ましくは1mol%以上、最も好ましくは2mol%以上である。
他方で、V成分は含有量が多いとガラス化し難くなる。そのため、V成分の含有量は好ましくは10mol%以下、より好ましくは8mol%以下、最も好ましくは6mol%以下とする。
【0034】
本発明のガラスセラミックスは、主結晶相としてLi1+x+y2-x3-ySi12(x≧0、y≧0)を含有していることが好ましい。
xは、結晶構造に挿入されることでリチウムイオン伝導性を高めるため、好ましくは0以上、より好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.02以上とする。他方で、xが高くなり過ぎると結晶構造を保つことができなくなるため、リチウムイオン伝導性が著しく低下する。そのため、xは2.0以下、より好ましくは1.7以下、さらに好ましくは1以下とする。
yは結晶構造に挿入されることで、リチウムイオン伝導度を上げることができる。好ましくは0以上、より好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上、とする。他方でyが高くなり過ぎるとガラス骨格を維持できず、ガラス化ができなくなる。そのため、yは2.0以下、より好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1以下とする。
【0035】
本発明記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの組成は、ICP発光分光分析で確認できる。また、それ以外の組成については蛍光X線分析測定で確認できる。また、粉体としてリチウムイオン電池に利用された場合、走査型電子顕微鏡SEMや透過型電子顕微鏡TEMなどの観察によってその特徴的な形状を解析し、EDX測定などによって組成を確認することができる。その場合、Li成分については分析上の相違が発生することから、他の組成の価数のバランスから推定することもできる。
【0036】
<ガラスセラミックスの製造方法>
本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスは、以下の方法により製造することができる。すなわち出発原料を所定の比で秤量し、均一に混合した後、白金るつぼに入れて電気炉で加熱熔融する。電気炉の温度は1300~1550℃で、1~24時間熔融する。熔融ガラスは、規定の時間毎に白金棒で撹拌するなどして均質性を高める。その後ガラス融液を急冷することで、ガラスを作製する。ここで冷却速度が遅いと、ガラス中に一部もしくは全部、結晶が析出した状態になり、形状を整える際に悪影響を及ぼすため、ガラス融液は鉄板上などに流して急冷する。
【0037】
ガラスをスタンプミル、ボールミル、ジェットミルなどの粉砕装置を用いて粉砕し、サイクロン形式や流動層形式などの分級機やステンレスふるいを用いて分級して、所望の粒度のガラス粉体にする。ここでの粒度が得られるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの粒度に反映されるため、好ましくは100μm以下、さらに好ましくは15~100μm、最も好ましくは20~70μmである。
【0038】
ガラス粉体を、ロータリーキルン方式のような回転式の炉や火炎中に投入するなどして、再度熔融もしくは一部熔融状態にし、楕円体状に丸める。この時の炉内温度は800℃~1500℃で、炉内を通過したガラス粉体は空冷または水冷によって急峻に冷却される機構によって楕円体状のガラス粉体が得られる。このとき、熱処理の温度によっては一部または全部に主結晶相としてLi1+x+y2-x3-ySi12(x≧0、y≧0)が析出してもよい。
【0039】
このようにして得られた楕円体状のガラス粉体は、そのまま、もしくはサイクロン形式や流動層形式などの分級器やふるいを用いて分級してから、石英るつぼなど石英製の容器、または白金製の容器などに静置し、これを800~1200℃の電気炉で20時間以下の熱処理をすることで、主結晶相としてLi1+x+y2-x3-ySi12(x≧0、y≧0)が全体に析出した、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを得ることができる。リチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを得た後で、サイクロン形式や流動層形式などの分級器やステンレスふるいを用いて分級してもよい。
【0040】
<粒度測定>
楕円体状のガラスセラミックス粉体(サンプル)を、測定器で要求される量、PP製6ml容器に取り、水を5ml程添加し、超音波洗浄機(本田電子製WT-200-M)を用い、出力28kHz/45kHzにて1分間分散処理して測定用サンプルを調製した。この測定用サンプルを、レーザー回折・散乱式 粒子径分布測定装置(MicrotracBELL製MT3000)を用いて、水を溶媒として体積累積基準D50を測定し、この値を平均粒子径とした。
【0041】
<SEM測定>
楕円体状のガラスセラミックスの粒子を少量取り、試料台に固定したカーボンテープ上に配置した後、余分な粒子を払い落す。この試料台の上の粒子に白金スパッタリング装置、日立ハイテクノロジーズ製E-1030を用いて、15mAで1分間白金コーティングを行う。その後、走査型電子顕微鏡、日立ハイテクノロジーズ製S-3000Nにて、加速電圧10~20kVのもとSEM像の撮影を行った。
【0042】
<平均長径・短径の定義>
上記SEM像の撮影で得られた粒子の像を、アスペクト比をそのままに拡大し、A4用紙に印刷して、粒子の長径と短径を定規を用いて測定した。
実施例においては、SEM像の倍率は200~1000倍、画像の取り込みサイズは1280×960ピクセルであった。これをA4用紙に印刷したとき、用紙上での画像のサイズは20cm×26.6cmであった。任意の粒子の長径と短径の長さを定規で測った。本明細書において、ガラスセラミックスの粒子の「長径」とは、観察対象の粒子を取り囲むことのできる最小円の直径を指す。ガラスセラミックスの粒子の「短径」とは、観察対象の粒子に取り囲まれることのできる最大円の直径を指す。
【0043】
<楕円率の評価方法>
上記で得られた各粒子の長径と短径の長さから、楕円率=長径/短径の計算式より各粒子の楕円率の値を算出し、それらの10点の平均値を楕円率とする。
【0044】
本発明において、ガラスセラミックスの粒子の楕円率(長径/短径)が1.9以下のものを用いることが好ましい。楕円率(長径/短径)が1.9以下であることによって、成形時の粉体の流動性が増加し成形性が良好になると同時に、粉体のリチウムイオン伝導率のばらつきが抑えられる。よって好ましくは、1.9以下、より好ましくは、1.7以下、さらに好ましくは、1.5以下、最も好まくは1.3以下を上限値とする。
【0045】
本発明においては、ガラスセラミックスの粒子の形状に関しては球体、楕円体であることが好ましい。
【0046】
本発明において、球体及び楕円体の形状の特徴は、例えば、SEM像の倍率は200~1000倍とし、画像の取り込みサイズは1280×960ピクセルとし、その際に二次元的に観測した粒子の外周形状が曲線を描いているものをいう。
【0047】
また、球体の形状とは、真球の形状に限定される必要はなく、真球からは逸脱するが丸みのある三次元形状であって、本発明で意味するところにおいて球体であるとみなされる形状を有していてもよい点に、留意されたい。いくつかのケースでは、断面の形状が楕円面に匹敵する場合もあるが、ここでも、本発明で意味するところにおいて楕円体状であるとみなされるためには、必ずしも厳密な回転楕円体でなくてもよい点を理解されたい。
【0048】
<イオン伝導率の評価方法>
楕円体状のガラスセラミックスの粒子を少量取り、適当な容器に配置した後、化学反応によって固化するエポキシ樹脂や光で固化する光硬化性樹脂などの樹脂を用いて粒子を樹脂中に包埋固定する。この樹脂を研磨もしくは切断、各種ミリングによって粒子を樹脂表面に露出させる。これを粒子の両面に施してリチウムイオン伝導率測定用のサンプルを作製する。
このサンプルの両面にサンユー電子製クイックコーターSC-701HMCにて、金電極を蒸着し、Bio-Logic製ポテンショガルバノスタットSP300にて交流二端子法による複素インピーダンス測定を行い、0.1Hz~1MHzの範囲のナイキストプロットから試料の抵抗値を求めた。更にキーエンス製デジタルマイクロスコープVHX7000を用いて、測定サンプルの表面を観察し、金電極内における樹脂表面に露出した粒子の面積を求め、これらの値から25℃におけるリチウムイオン伝導率を算出した。
リチウムイオン伝導率のばらつきを評価するため、同様のサンプルを5点作製し、同様にリチウムイオン伝導率を測定してその範囲を求めた。
【実施例
【0049】
本発明の実施例1~2の組成及び比較例1の組成、並びに平均粒子径、楕円率、リチウムイオン伝導率の結果を表1に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例1はLiCO、SiO,Al(PO、HPO、TiOを出発原料とし、所定の比で秤量し、均一に混合した後、白金るつぼに入れて電気炉で加熱熔融した。電気炉の温度は1500℃で、撹拌しながら3時間加熱熔融してガラス融液を得た。このガラス融液を急冷することで作製したガラスを、粉砕装置を用いて粉砕し、ステンレスふるいを用いて分級し、粒径106μm以下のガラス粉体を得た。これを火炎中に投入して、炉内を通過したガラス粉体は空冷によって急峻に冷却される機構によって、ガラス粉体を楕円体状に丸めた。楕円体状のガラス粉体をそのまま、石英るつぼにて970℃で熱処理し、電気炉内で自然に徐冷することによりガラスセラミックス粉体を作製した。
【0052】
実施例2は楕円体状のガラス粉体を得るところまでは実施例1と同様である。このガラス粉体を目開き45μmと53μmのステンレスふるいを用いて分級し、石英るつぼにて970℃で熱処理し、電気炉内で自然に徐冷することによりガラスセラミックス粉体を作製した。
【比較例】
【0053】
比較例1は、ガラスを得るところまでは実施例1と同様である。得たガラスを石英るつぼにて970℃で熱処理し、電気炉内で自然に徐冷することによりガラスセラミックスの固体を作製した。このガラスセラミックス固体を、スタンプミルにて粉砕後、目開き25μmと75μmのステンレスふるいを用いて分級し、ガラスセラミックス粉体を作製した。
【0054】
リチウムイオン伝導体に析出した結晶相をX線回折測定により同定した結果、リチウムイオン伝導性結晶のLi1+x+y2-x3-ySi12(x=0~2.0、y=0~3.0)が析出していることを確認した。X線回折測定は粉末X線回折装置、BRUKER製D8DISCOVERにて測定し、電圧40KV、電流値40mAでCuターゲットにより発生したX線を用いて、2θ=10~70°の範囲でスキャンスピード0.2°/秒で測定した。表1中の主結晶相とは、上記装置に付属のX線回折分析ソフト、DIFFRAC. EVAによって結晶相の同定を行ったとき、不純物などを考慮して、解析ソフトで一致率の高い結晶相である。

図1
図2
図3