(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】温度センサフィルム、導電フィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01K 7/18 20060101AFI20240123BHJP
【FI】
G01K7/18 B
G01K7/18 A
(21)【出願番号】P 2019181490
(22)【出願日】2019-10-01
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【氏名又は名称】新宅 将人
(72)【発明者】
【氏名】安井 智史
(72)【発明者】
【氏名】宮本 幸大
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 克則
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101290240(CN,A)
【文献】特開平03-212903(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102831998(CN,A)
【文献】特開2006-321972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 7/16- 7/28
H01C 7/02, 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルム基材の一主面上にニッケル薄膜を備え、
前記樹脂フィルム基材と前記ニッケル薄膜の間に無機下地層を備え、前記無機下地層は少なくとも1層のシリコン系薄膜を含み、
前記ニッケル薄膜は、
厚みが100~500nmであり、ニッケルの(111)面の面間隔が0.2040nm未満である、温度センサ用導電フィルム。
【請求項2】
前記
無機下地層が
前記シリコン系薄膜として酸化シリコン薄膜を含み、前記ニッケル薄膜が、前記酸化シリコン薄膜に接している、請求項
1に記載の温度センサ用導電フィルム。
【請求項3】
前記ニッケル薄膜の抵抗温度係数が4000ppm/℃以上である、請求項
1または2に記載の温度センサ用導電フィルム。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の導電フィルムを製造する方法であって、
前記ニッケル薄膜をスパッタ法により成膜する、導電フィルムの製造方法。
【請求項5】
樹脂フィルム基材の一主面上にパターニングされたニッケル薄膜を備え、
前記樹脂フィルム基材と前記ニッケル薄膜の間に無機下地層を備え、前記無機下地層は、少なくとも1層のシリコン系薄膜を含み、
前記ニッケル薄膜が、細線にパターニングされており温度測定に用いられる測温抵抗部と、前記測温抵抗部に接続され、前記測温抵抗部よりも大きな線幅にパターニングされているリード部とにパターニングされており、
前記ニッケル薄膜は、
厚みが100~500nmであり、ニッケルの(111)面の面間隔が0.2040nm未満である、温度センサフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルム基材上にパターニングされた金属薄膜を備える温度センサフィルム、ならびに温度センサフィルムの作製に用いられる導電フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器には多数の温度センサが用いられている。温度センサとしては、熱電対やチップサーミスタが一般的である。熱電対やチップサーミスタ等により、面内の複数箇所の温度を測定する場合は、測定点ごとに温度センサを配置し、それぞれの温度センサをプリント配線基板等に接続する必要があるため、製造プロセスが煩雑となる。また、面内の温度分布を測定するためには基板上に多数のセンサを配置する必要があり、コストアップの要因となる。
【0003】
特許文献1には、フィルム基材上に金属膜を設け、金属膜をパターニングして、測温抵抗部とリード部を形成した温度センサフィルムが提案されている。金属膜をパターニングする形態では、1層の金属膜から測温抵抗部と、測温抵抗部に接続されたリード部とを形成可能であり、個々の測温センサを配線で接続する作業を必要としない。また、フィルム基材を用いるため、可撓性に優れ、大面積化への対応も容易であるとの利点を有する。
【0004】
金属膜をパターニングした温度センサでは、リード部を介して測温抵抗部に電圧を印加し、金属の抵抗値が温度により変化する特性を利用して、温度を測定する。温度測定の精度を高めるためには、温度変化に対する抵抗変化の大きい材料が好ましい。特許文献2には、ニッケルは、銅に比べて温度に対する感度(抵抗変化)が約2倍であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-91045号公報
【文献】特開平7-333073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ニッケル等の金属は、温度が高いほど抵抗が大きくなる特性(正特性)を示し、バルクのニッケルは、温度上昇に対する抵抗の変化率(抵抗温度係数;TCR)が約6000ppm/℃であることが知られている。一方、金属薄膜は、表面や界面の影響により、バルクの金属とは特性が異なる場合が多い。
【0007】
本発明者らが、樹脂フィルム基材上にスパッタ法によりニッケル薄膜を形成し、その特性を評価したところ、抵抗温度係数(TCR)がバルクのニッケルの半分程度であり、温度センサフィルムとして使用するための十分な温度測定精度が得られないことが判明した。
【0008】
当該課題に鑑み、本発明は、樹脂フィルム基材上に抵抗温度係数の大きい金属薄膜を備える導電フィルム、および温度センサフィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ニッケル薄膜の(111)面の面間隔とTCRの間に高い相関があることを見出し、本発明に至った。
【0010】
温度センサ用導電フィルムは、樹脂フィルム基材の一主面上にニッケル薄膜を備える。樹脂フィルム基材上に設けられたニッケル薄膜は、ニッケルの(111)面の面間隔が0.2040nm未満であることが好ましい。
【0011】
この導電フィルムのニッケル薄膜をパターニングすることにより、温度センサフィルムを作製できる。温度センサフィルムは、樹脂フィルム基材の一主面上にパターニングされたニッケル薄膜を備え、ニッケル薄膜が、測温抵抗部とリード部とにパターニングされている。樹脂フィルム基材の両面にニッケル薄膜を設けてもよい。
【0012】
測温抵抗部は、温度測定を行う部分に設けられており、細線にパターニングされている。リード部は測温抵抗部よりも大きな線幅にパターニングされており、リード部の一端が測温抵抗部に接続されている。リード部の他端は、外部回路等と接続される。リード部にコネクタを接続し、コネクタを介して外部回路との接続を行ってもよい。
【0013】
ニッケル薄膜の抵抗温度係数は4000ppm/℃以上が好ましい。ニッケル薄膜の厚みは100~500nmが好ましい。樹脂フィルム基材とニッケル薄膜との間には下地層が設けられていてもよい。下地層の材料としてはシリコン系薄膜等の無機材料が好ましい。
【発明の効果】
【0014】
樹脂フィルム基材上に設けられたニッケル薄膜の(111)面の面間隔(ニッケルの格子間隔)が小さいことにより、抵抗温度係数が大きく、温度測定精度の高い温度センサフィルムを形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】導電フィルムの積層構成例を示す断面図である。
【
図2】ニッケル薄膜の面間隔の測定に用いたX線回折の光学系を示す図である。
【
図4】温度センサにおける測温抵抗部近傍の拡大図であり、Aは2線式、Bは4線式の形状を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、温度センサフィルムの形成に用いられる導電フィルムの積層構成例を示す断面図であり、樹脂フィルム基材50の一主面上にニッケル薄膜10を備える。この導電フィルム102のニッケル薄膜をパターニングすることにより、
図3の平面図に示す温度センサフィルム110が得られる。
【0017】
[導電フィルム]
導電フィルムは、樹脂フィルム基材50の一主面上にニッケル薄膜10を備える。
図1に示すように、導電フィルムは、樹脂フィルム基材50とニッケル薄膜10との間に下地層20を備えていてもよい。
【0018】
<樹脂フィルム基材>
樹脂フィルム基材50は、透明でも不透明でもよい。樹脂フィルム基材50は、樹脂フィルムのみからなるものでもよく、
図1に示すように、樹脂フィルム5の表面にハードコート層(硬化樹脂層)6を備えるものでもよい。樹脂フィルム基材の厚みは特に限定されないが、一般には、2~500μm程度であり、20~300μm程度が好ましい。
【0019】
樹脂フィルム基材50の表面(ハードコート層6が設けられている場合には、樹脂フィルム5の表面および/またはハードコート層6の表面)には、易接着層、帯電防止層等が設けられていてもよい。樹脂フィルム基材50の表面には、下地層20との密着性向上等を目的として、コロナ放電処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、スパッタエッチング処理等の処理を施してもよい。
【0020】
樹脂フィルム基材50のニッケル薄膜10形成面の算術平均粗さRaは、5nm以下が好ましく、3nm以下がより好ましく、2nm以下がさらに好ましい。基材の表面粗さを小さくすることにより、薄膜のカバレッジが良好となり、緻密な膜が形成され、ニッケル薄膜10の比抵抗が小さくなる傾向がある。算術平均粗さRaは、走査型プローブ顕微鏡を用いた1μm四方の観察像から求められる。
【0021】
(樹脂フィルム)
樹脂フィルム5の樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリイミド、ポリオレフィン、ノルボルネン系等の環状ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート等が挙げられる。耐熱性、寸法安定性、電気的特性、機械的特性、耐薬品特性等の観点から、ポリイミドまたはポリエステルが好ましい。樹脂フィルム5の厚みは特に限定されないが、一般には、2~500μm程度であり、20~300μm程度が好ましい。
【0022】
(ハードコート層)
樹脂フィルム5の表面にハードコート層6が設けられることにより、導電フィルムの硬度が向上し、耐擦傷性が高められる傾向がある。ハードコート層6は、例えば、樹脂フィルム5上に、硬化性樹脂を含有する溶液を塗布することにより形成できる。
【0023】
硬化性樹脂としては、熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂等が挙げられる。硬化性樹脂の種類としてはポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、アミド系、シリコーン系、シリケート系、エポキシ系、メラミン系、オキセタン系、アクリルウレタン系等の各種の樹脂が挙げられる。
【0024】
これらの中でも、硬度が高く、紫外線硬化が可能で生産性に優れることから、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、およびエポキシ系樹脂が好ましい。特に、下地層に含まれる酸化クロム薄膜との密着性が高いことから、アクリル系樹脂およびアクリルウレタン系樹脂が好ましい。紫外線硬化型樹脂には、紫外線硬化型のモノマー、オリゴマー、ポリマー等が含まれる。好ましく用いられる紫外線硬化型樹脂は、例えば紫外線重合性の官能基を有するもの、中でも当該官能基を2個以上、特に3~6個有するアクリル系のモノマーやオリゴマーを成分として含むものが挙げられる。
【0025】
ハードコート層6には微粒子が含まれていてもよい。ハードコート層6に微粒子を含めることにより、樹脂フィルム基材50のニッケル薄膜10形成面(下地層20形成面)の表面形状を調整できる。微粒子としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化カルシウム、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモン等の各種金属酸化物微粒子、ガラス微粒子、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリル-スチレン共重合体、ベンゾグアナミン、メラミン、ポリカーボネート等のポリマーからなる架橋又は未架橋の有機系微粒子、シリコーン系微粒子等を特に制限なく使用できる。
【0026】
微粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)は、10nm~10μm程度が好ましい。ハードコート層が、0.5μm~10μm程度、好ましくは0.8μm~5μm程度のサブミクロンまたはμmオーダーの平均粒子径を有する微粒子を含むことにより、ハードコート層6の表面(樹脂フィルム基材50の表面)、およびその上に設けられる薄膜の表面に、直径がサブミクロンまたはμmオーダーの突起が形成され、導電フィルムの滑り性、耐ブロッキング性、および耐擦傷性が向上する傾向がある。
【0027】
ハードコート層が、10nm~100nm程度、好ましくは20nm~80nm程度の平均粒子径を有する微粒子を含むことにより、ハードコート層6の表面(樹脂フィルム基材50の表面)に微細な凹凸が形成され、ハードコート層6と下地層20およびニッケル薄膜10との密着性が向上する傾向がある。
【0028】
ハードコート層を形成するための溶液(ハードコート組成物)には、紫外線重合開始剤が配合されていることが好ましい。溶液中には、レベリング剤、チクソトロピー剤、帯電防止剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0029】
ハードコート層6の厚みは特に限定されないが、高い硬度を実現するためには、0.5μm以上が好ましく、0.8μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。塗布による形成の容易性を考慮すると、ハードコート層の厚みは15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。
【0030】
<下地層>
図1に示すように、樹脂フィルム基材50とニッケル薄膜10の間には下地層20が設けられていてもよい。下地層20は単層でもよく、
図1に示すように2層以上の薄膜21,22の積層構成でもよい。樹脂フィルム基材50上に下地層20を設け、その上にニッケル薄膜10を形成することにより、ニッケル薄膜10成膜時の樹脂フィルム基材50へのプラズマダメージを抑制できる。また、下地層20を設けることにより、樹脂フィルム基材50から発生する水分や有機ガス等を遮断して、ニッケル薄膜10への不純物の混入を抑制できる。ニッケル薄膜への有機物の混入を抑制する観点から、下地層20は無機材料であることが好ましい。
【0031】
下地層20は導電性でも絶縁性でもよい。下地層20が導電性の無機材料(無機導電体)である場合は、温度センサフィルムの作製時にニッケル薄膜10とともに下地層20をパターニングすればよい。下地層20が絶縁性の無機材料(無機誘電体)である場合、下地層20はパターニングしてもよく、パターニングしなくてもよい。
【0032】
無機材料としては、Si,Ge,Sn,Pb,Al,Ga,In,Tl,As,Sb,Bi,Se,Te,Mg,Ca,Sr,Ba,Sc,Y,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Tc,Re,Fe,Ru,Os,Co,Rh,Ir,Pd,Pt,Cu,Ag,Au,Zn,Cd等の金属元素または半金属元素、およびこれらの合金、窒化物、酸化物、窒酸化物等が挙げられる。樹脂フィルム基材およびニッケル薄膜の両方に対する密着性に優れ、かつ樹脂フィルム基材50からニッケル薄膜10への不純物の混入の抑制効果が高く、ニッケル薄膜の結晶成長を促進できることから、下地層の材料としては、シリコン系材料、クロム系材料等が好ましい。シリコン系材料としては、酸化シリコンが特に好ましく、クロム系材料としては酸化クロムが特に好ましい。
【0033】
ニッケル薄膜10の直下に、酸化シリコン薄膜等の比抵抗の大きい薄膜22が設けられることにより、配線(パターニングされたニッケル薄膜)間の漏れ電流が低減し、温度センサフィルムの温度測定精度が向上する傾向がある。酸化シリコンは化学量論組成(SiO2)でもよく、非化学量論組成(SiOx;x<2)でもよい。非化学量論組成である酸化シリコン(SiOx)は、1.2≦x<2が好ましい。
【0034】
下地層20として、シリコン薄膜21上に酸化シリコン薄膜22を形成してもよい。また、各種の金属、導電性酸化物、セラミック等からなる無機薄膜21上に、酸化シリコン薄膜22を形成してもよい。
【0035】
無機下地層20上にニッケル薄膜10を形成することにより、ニッケルの(111)面の面間隔が小さくなり、TCRが大きくなる傾向がある。特に、下地層20がシリコン系薄膜を含む場合に、ニッケル薄膜のTCRが大きくなる傾向があり、ニッケル薄膜10の直下に酸化シリコン薄膜が設けられている場合にその傾向が顕著である。また、下地層20が、クロム系薄膜21と酸化シリコン薄膜22の積層構成である場合に、ニッケル薄膜のTCRが大きくなる傾向があり、特に樹脂フィルム基材に接する薄膜21が酸化クロム薄膜である場合にその傾向が顕著である。酸化クロム等のクロム系薄膜は、緻密で平滑性の高い膜が形成されやすく、その上に形成される無機薄膜22も表面の平滑性が向上することが、ニッケル薄膜10のTCR向上の一因であると考えられる。
【0036】
下地層の厚みは特に限定されない。樹脂フィルム基材へのプラズマダメージの低減、および樹脂フィルム基材からのアウトガスの遮断効果を高める観点から、下地層の厚みは、1nm以上が好ましく、3nm以上がより好ましく、5nm以上がさらに好ましい。生産性向上や材料コスト低減の観点から、下地層の厚みは200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましい。下地層20が複数層からなる場合は、合計厚みが上記範囲であることが好ましい。
【0037】
下地層20の形成方法は特に限定されず、ドライコーティング、ウェットコーティングのいずれも採用し得る。スパッタ法によりニッケル薄膜を形成する場合は、生産性の観点から、下地層20もスパッタ法により形成することが好ましい。また、緻密な膜が形成されやすく、樹脂フィルム基材50からニッケル薄膜10の水分や有機物の混入抑制効果に優れることからも、下地層20をスパッタ法により形成することが好ましい。
【0038】
スパッタ法により下地層を形成する場合、下地層の材料に応じてターゲットを選択すればよい。例えば、シリコン薄膜を形成する場合は、シリコンターゲットが用いられる。酸化シリコン薄膜の成膜には、酸化シリコンターゲットを用いてもよく、シリコンターゲットを用いて反応性スパッタにより酸化シリコンを形成してもよい。反応性スパッタでは、金属領域と酸化物領域との中間の遷移領域となるように酸素量を調整することが好ましい。
【0039】
<ニッケル薄膜>
樹脂フィルム基材50上に設けられるニッケル薄膜10は、温度センサにおける温度測定の中心的な役割を果たす。ニッケル薄膜10をパターニングすることにより、
図3に示すように、リード部11および測温抵抗部12が形成される。
【0040】
ニッケル薄膜10は、好ましくはニッケルおよび不可避不純物からなる薄膜であり、ニッケルの割合は99重量%以上が好ましく、99.9重量%以上が好ましい。例えば、ニッケルターゲットを用いたスパッタ製膜により、ニッケルおよび不可避不純物からなる薄膜が形成される。
【0041】
ニッケル薄膜10の厚みは特に限定されないが、低抵抗化の観点(特に、リード部の抵抗を小さくする観点)から、20nm以上が好ましく、40nm以上がより好ましく、50nm以上がさらに好ましい。一方、成膜時間の短縮およびパターニング精度向上等の観点から、ニッケル薄膜10の厚みは、500nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、250nm以下がさらに好ましい。
【0042】
ニッケル薄膜10の抵抗温度係数(TCR)は、3000ppm/℃以上が好ましく、3500ppm/℃以上がより好ましく、4000ppm/℃以上がさらに好ましい。TCRは、温度上昇に対する抵抗の変化率である。ニッケルは、温度上昇に伴って抵抗が線形的に増加する特性(正特性)を有する。正特性を有する材料のTCRは、温度T0における抵抗値R0と、温度T1における抵抗値R1から、下記式により算出される。
TCR={(R1-R0)/R0}/(T1-T0)
【0043】
本明細書では、T0=25℃およびT1=5℃における抵抗値から算出されるTCRと、T0=25℃およびT1=45℃における抵抗値から算出されるTCRの平均値をニッケル薄膜のTCRとする。
【0044】
TCRが大きいほど、温度変化に対する抵抗の変化が大きく、温度センサフィルムにおける温度測定精度が向上する。そのため、ニッケル薄膜のTCRは大きいほど好ましいが、バルクのニッケルよりもTCRを大きくすることは困難であり、ニッケル薄膜のTCRは一般に6000ppm/℃以下である。
【0045】
ニッケル薄膜10は、X線回折により求められるニッケルの(111)面の面間隔が0.2040nm未満であることが好ましい。X線回折では、
図2に示すように、ニッケル薄膜の膜面の法線方向に対して入射光学系(X線源)と受光光学系(検出器9)とが対称となるように配置した光学系で2θ/θスキャンを行い、格子面面の法線が膜面と平行である結晶1cの格子面間隔を測定する。CuKα線(波長:0.15418nm)をX線源とするX線回折チャートでは、2θ=44.5°付近に、ニッケルの(111)面のピークが現れる。このピークが最大となる角度2θから、Braggの法則に基づいて、(111)面の面間隔が算出される。結晶の面間隔は、一般には測定方向に依存しないが、ニッケル薄膜の成膜時やその後のプロセスに起因して結晶が異方性を有している場合は、面間隔に異方性が生じる場合がある。例えば、ロールトゥーロールプロセスにおける搬送張力、ならびにフィルム基材の寸法変化率およびヤング率等の異方性が、面間隔に異方性が生じる要因となり得る。結晶の面間隔に異方性がある場合は、任意の第一方向からX線を入射して測定した面間隔d
1と、第一方向と直交する第二方向からX線を入射して測定した面間隔d
2との平均値(d
1+d
2)/2を、ニッケル薄膜の結晶の面間隔とする。
【0046】
(111)面の面間隔が小さいほど、ニッケル薄膜のTCRが大きくなる傾向がある。ニッケルの(111)面の面間隔は、0.2039nm以下、0.2038nm以下、または0.2037nm以下であってもよい。ニッケルの(111)面の面間隔は、一般に0.2030nm以上である。ニッケルの単結晶は、格子定数が0.3524nmの立方晶であり、(111)面の面間隔は0.2035nmである。樹脂フィルム基材上に形成されたニッケル薄膜は、単結晶よりも格子定数が大きく、(111)面の面間隔も大きくなる傾向がある。特に、面間隔が0.2040nm以上である場合は、結晶の歪が大きいといえる。
【0047】
物質の抵抗値は、物質中の電子密度および電子の移動度の影響を受け、電子密度が小さく、電子の移動度が小さいほど抵抗が大きくなる。ニッケル等の金属は自由電子が豊富に存在するため、電子の移動度が抵抗を支配する要因となる。散乱機構には、原子核との衝突による散乱(格子振動散乱)、不純物や格子欠陥による散乱(不純物散乱)、磁気的散乱等があり、これらの中で格子振動散乱および磁気的散乱は温度依存性が大きく、不純物散乱は温度依存性が小さいことが知られている。
【0048】
(111)面の面間隔が0.2040nm未満であり、Ni単結晶の(111)面の面間隔0.2035nmに近いことは、結晶の乱れ(格子欠陥)が小さいことを意味する。すなわち、ニッケル薄膜の(111)面の面間隔が小さい場合は、不純物散乱の影響が小さく、格子振動散乱および磁気的散乱の影響が相対的に大きくなるために、抵抗の温度依存性(TCR)が大きくなると考えられる。
【0049】
上記のように、樹脂フィルム基材50上に下地層20を設け、下地層20上にニッケル薄膜を形成することにより、ニッケルの(111)面の面間隔が小さくなり、TCRが大きくなる傾向がある。下地層20を設けることにより、下地層がニッケルの格子間隔のミスマッチを緩和する緩衝層として作用し、ニッケルの結晶化を促進して格子欠陥を減少させる作用を有することが、格子間隔を小さくすることに寄与していると考えられる。
【0050】
ニッケル薄膜の厚みが大きいほど、(111)面の面間隔が小さくなり、TCRが向上する傾向がある。4000ppm/℃以上のTCRを有する導電フィルムを得るためには、ニッケル薄膜の厚みは80nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましく、120nm以上がさらに好ましい。
【0051】
<ニッケル薄膜の形成方法>
ニッケル薄膜の形成方法は特に限定されず、例えば、スパッタ法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相蒸着法(CVD)、化学溶液析出法(CBD)、めっき法等の成膜方法を採用できる。これらの中でも、膜厚均一性に優れた薄膜を成膜できることから、スパッタ法が好ましい。特に。ロールトゥロールスパッタ装置を用い、長尺の樹脂フィルム基材を長手方向に連続的に移動させながら成膜を行うことにより、導電フィルムの生産性が高められる。
【0052】
スパッタ装置内にロール状の樹脂フィルム基材を装填後、スパッタ成膜の開始前に、スパッタ装置内を排気して、樹脂フィルム基材から発生する水分や有機ガスの不純物を取り除いた雰囲気とすることが好ましい。事前に装置内および樹脂フィルム基材中のガスを除去することにより、ニッケル薄膜中の不純物濃度が低減し、(111)面の面間隔が小さくなる傾向がある。スパッタ成膜開始前のスパッタ装置内の真空度(到達真空度)は、例えば、1×10-2Pa以下であり、5×10-3Pa以下が好ましく、1×10-3Pa以下がより好ましく、5×10-4Pa以下がさらに好ましく、5×10-5Pa以下が特に好ましい。
【0053】
ニッケル薄膜のスパッタ成膜には、金属Niターゲットを用い、アルゴン等の不活性ガスを導入しながら成膜が行われる。ニッケル薄膜の成膜条件は特に限定されないが、樹脂フィルム基材からの水分や有機ガスに起因する不純物の混入を低減するように成膜条件を選択することが好ましい。ニッケル薄膜中の不純物量を低減する方法としては、(1)前述のように、スパッタ成膜前に真空下で樹脂フィルム基材を処理して、樹脂フィルム基材中の水分や有機ガスを除去する;(2)スパッタ成膜時の樹脂フィルム基材へのダメージを低減する;(3)樹脂フィルム基材上に酸化シリコン薄膜等の下地層を設け、樹脂フィルム基材からの水分や有機ガスを遮断する、等が挙げられる。
【0054】
スパッタ成膜時の樹脂フィルム基材へのダメージを低減する方法としては、成膜時の基板温度を低くする、放電パワー密度を低くする等が挙げられる。例えば、樹脂フィルム基材上に直接ニッケル薄膜を形成する場合は、樹脂フィルム基材からの水分や有機ガスの発生を抑制する観点から、基板温度は80℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましく、50℃以下がさらに好ましい。
【0055】
樹脂フィルム基材上に下地層を設け、その上にニッケル薄膜を形成する場合は、基板温度が高温でも、下地層が樹脂フィルム基材からの水分や有機ガスを遮断する作用を有する。そのため、ニッケル薄膜の成膜時の基板温度は、樹脂フィルム基材が耐熱性を有する範囲で適宜設定可能である。また、基板温度が高いほど、ニッケルの(111)面の面間隔が小さくなる傾向がある。そのため、樹脂フィルム基材上に下地層を設け、その上にニッケル薄膜を形成する場合の基板温度は、30℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、70℃以上がさらに好ましい。基板温度は、100℃以上、120℃以上、または130℃以上であってもよい。
【0056】
プラズマ放電を安定させつつ、樹脂フィルム基材へのダメージを抑制する観点から、放電パワー密度は、0.1~5.0W/cm2が好ましく、1.0~3.5W/cm2がより好ましい。
【0057】
<加熱処理>
ニッケル薄膜を成膜後に、加熱処理を実施してもよい。樹脂フィルム基材上にニッケル薄膜を備える導電フィルムを加熱することにより、ニッケルの結晶性が高められるとともに、(111)面の面間隔が小さくなり、TCRが向上する傾向がある。加熱によるニッケルの結晶化が進むと、原子の再配列により格子欠陥が減少すること等が、格子間隔を小さくすることに寄与していると考えられる。
【0058】
加熱処理を行う場合、加熱温度は80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、120℃以上がさらに好ましい。加熱温度の上限は、樹脂フィルム基材の耐熱性を考慮して定めればよく、一般には200℃以下または180℃以下である。ポリイミドフィルム等の高耐熱性フィルム基板を用いる場合、加熱温度は上記範囲を上回っていてもよい。加熱時間は1分以上が好ましく、5分以上がより好ましく、10分以上がさらに好ましい。加熱処理を行うタイミングは、ニッケル薄膜を成膜後であれば特に限定されない。例えば、ニッケル薄膜をパターニング後に加熱処理を実施してもよい。
【0059】
[温度センサフィルム]
導電フィルムのニッケル薄膜10をパターニングすることにより、温度センサフィルムが形成される。
図3に示すように、温度センサフィルムにおいて、ニッケル薄膜は、配線状に形成されたリード部11と、リード部11の一端に接続された測温抵抗部12を有する。リード部11の他端は、コネクタ19に接続されている。
【0060】
測温抵抗部12は、温度センサとして作用する領域であり、リード部11を介して測温抵抗部12に電圧を印加し、その抵抗値から温度を算出することにより温度測定が行われる。温度センサフィルム110の面内に複数の測温抵抗部を設けることにより、複数個所の温度を同時に測定できる。例えば、
図4に示す形態では、面内の5箇所に測温抵抗部12が設けられている。
【0061】
図4Aは、2線式の温度センサにおける測温抵抗部近傍の拡大図である。測温抵抗部12は、ニッケル薄膜が細線状にパターニングされたセンサ配線122,123により形成されている。センサ配線は、複数の縦電極122が、その端部で横配線123を介して連結されてヘアピン状の屈曲部を形成し、つづら折れ状のパターンを有している。
【0062】
測温抵抗部12のパターン形状を形成する細線の線幅が小さく(断面積が小さく)、測温抵抗部12のセンサ配線の一端121aから他端121bまでの線長が大きいほど、2点間の抵抗が大きく、温度変化に伴う抵抗変化量も大きいため、温度測定精度が向上する。
図4に示すようなつづら折れ状の配線パターンとすることにより、測温抵抗部12の面積が小さく、かつセンサ配線の長さ(一端121aから他端121bまでの線長)を大きくできる。なお、温度測定部のセンサ配線のパターン形状は
図4に示すような形態に限定されず、らせん状等のパターン形状でもよい。
【0063】
センサ配線122(縦配線)の線幅、および隣接する配線間の距離(スペース幅)は、フォトリソグラフィーのパターニング精度に応じて設定すればよい。線幅およびスペース幅は、一般には1~150μm程度である。センサ配線の断線を防止する観点から、線幅は3μm以上が好ましく、5μm以上が好ましい。抵抗変化を大きくして温度測定精度を高める観点から、線幅は100μm以下が好ましく、70μm以下がより好ましい。同様の観点から、スペース幅は3~100μmが好ましく、5~70μmがより好ましい。
【0064】
測温抵抗部12のセンサ配線の両端121a,121bは、それぞれ、リード部11a、11bの一端に接続されている。2本のリード部11a,11bは、わずかな隙間を隔てて対向する状態で、細長のパターン状に形成されており、リード部の他端は、コネクタ19に接続されている。リード部は、十分な電流容量を確保するために、測温抵抗部12のセンサ配線よりも広幅に形成されている。リード部11a,11bの幅は、例えば0.5~10mm程度である。リード部の線幅は、測温抵抗部12のセンサ配線122の線幅の3倍以上が好ましく、5倍以上がより好ましく、10倍以上がさらに好ましい。
【0065】
コネクタ19には複数の端子が設けられており、複数のリード部は、それぞれ異なる端子に接続されている。コネクタ19は外部回路と接続されており、リード部11aとリード部11bの間に電圧を印加することにより、リード部11a、測温抵抗部12およびリード部11bに電流が流れる。所定電圧を印加した際の電流値、または電流が所定値となるように電圧を印加した際の印加電圧から抵抗値が算出される。得られた抵抗値と、予め求められている温度との関係式、または抵抗値と温度の関係を記録したテーブル等に基づいて、抵抗値から温度が算出される。
【0066】
ここで求められる抵抗値は、測温抵抗部12の抵抗に加えて、リード部11aおよびリード部11bの抵抗も含んでいるが、測温抵抗部12の抵抗は、リード部11a,11bの抵抗に比べて十分に大きいため、求められる測定値は、測温抵抗部12の抵抗とみなしてよい。なお、リード部の抵抗による影響を低減する観点から、リード部を4線式としてもよい。
【0067】
図4Bは、4線式の温度センサにおける測温抵抗部近傍の拡大図である。測温抵抗部12のパターン形状は、
図4Aと同様である。4線式では、1つの測温抵抗部12に4本のリード部11a1,11a2,11b1,11b2が接続されている。リード部11a1,11b1は電圧測定用リードであり、リード部11a2,11b2は電流測定用リードである。電圧測定用リード11a1および電流測定用リード11a2は、測温抵抗部12のセンサ配線の一端121aに接続されており、電圧測定用リード11b1および電流測定用リード11b2は、測温抵抗部12のセンサ配線の他端121bに接続されている。4線式では、リード部の抵抗を除外して測温抵抗部12のみの抵抗値を測定できるため、より誤差の少ない測定が可能となる。2線式および4線式以外に、3線式を採用してもよい。
【0068】
ニッケル薄膜のパターニング方法は特に限定されない。パターニングが容易であり、精度が高いことからフォトリソグラフィー法によりパターニングを行うことが好ましい。フォトリソグラフィーでは、ニッケル薄膜の表面に、上記のリード部および測温抵抗部の形状に対応するエッチングレジストを形成し、エッチングレジストが形成されていない領域のニッケル薄膜をウェットエッチングにより除去した後、エッチングレジストを剥離する。ニッケル薄膜のパターニングは、レーザ加工等のドライエッチングにより実施することもできる。
【0069】
上記の実施形態では、樹脂フィルム基材50上に、スパッタ法等によりニッケル薄膜10を形成し、ニッケル薄膜をパターニングすることにより、基板面内に、複数のリード部および測温抵抗部を形成できる。この温度センサフィルムのリード部11の端部にコネクタ19を接続することにより、温度センサ素子が得られる。この実施形態では、複数の測温抵抗部にリード部が接続されており、複数のリード部を1つのコネクタ19と接続すればよい。そのため、面内の複数個所の温度を測定可能な温度センサ素子を簡便に形成できる。
【0070】
上記の実施形態では、樹脂フィルム基材の一方の主面上にニッケル薄膜を設けたが、樹脂フィルム基材の両面にニッケル薄膜を設けてもよい。また、樹脂フィルム基材の一方の主面上にニッケル薄膜を設け、他方の主面には別の材料からなる薄膜を設けてもよい。
【0071】
温度センサフィルムのリード部と外部回路との接続方法は、コネクタを介した形態に限定されない。例えば、温度センサフィルム上に、リード部に電圧を印加して抵抗を測定するためのコントローラを設けてもよい。また、リード部と外部回路からのリード配線とを、コネクタを介さずに半田付け等により接続してもよい。
【0072】
温度センサフィルムは、樹脂フィルム基材上に薄膜が設けられた簡素な構成であり、生産性に優れるとともに、加工が容易であり、曲面への適用も可能である。また、ニッケル薄膜におけるNi結晶の面間隔が小さく、TCRが大きいため、より精度の高い温度測定を実現可能である。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
[実施例1]
ロールトゥロールスパッタ装置内に、厚み150μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ製「ルミラー 149UNS」、表面の算術平均粗さRa:1.6nm)のロールをセットし、スパッタ装置内を到達真空度が5.0×10-3Paとなるまで排気した後、基板温度150℃にて、PETフィルム上に、厚み5nmのシリコン薄膜、厚み10nmの酸化シリコン薄膜、および厚み270nmのニッケル薄膜を、順に、DCスパッタにより成膜した。Si層およびSiO2層の形成には、BドープSiターゲットを用いた。Si層は、スパッタガスとしてアルゴンを導入し、圧力0.3Pa、パワー密度1.0W/cm2の条件で成膜した。SiO2層は、スパッタガスとしてのアルゴンに加えて反応性ガスとして酸素を導入し(O2/Ar=0.12/1.0)、圧力0.3Pa、パワー密度1.8W/cm2の条件で成膜した。ニッケル薄膜の形成には金属ニッケルターゲットを用い、圧力0.25Pa、パワー密度5.6W/cm2の条件で成膜した。
【0075】
[実施例2]
実施例1の導電フィルムを、155℃の熱風オーブン中で60分加熱して、導電フィルムを作製した。
【0076】
[比較例1]
シリコン薄膜の成膜および酸化シリコン薄膜の成膜を行わず、実施例1と同一の条件で、PETフィルム上に厚み230nmのニッケル薄膜を形成し、PETフィルム上に接してニッケル薄膜を備える導電フィルムを作製した。
【0077】
[比較例2]
ニッケル薄膜の厚みを180nmに変更したこと以外は比較例1と同様にして、導電フィルムを作製した。
【0078】
[比較例3]
ニッケル薄膜の厚みを160nmに変更したこと以外は実施例1と同様にして、導電フィルムを作製した。
【0079】
[実施例3]
比較例3の導電フィルムを、155℃の熱風オーブン中で60分加熱して、導電フィルムを作製した。
【0080】
[実施例4]
シリコン薄膜に代えて厚み5nmの金属クロム薄膜を形成したこと以外は、実施例3と同様にして、PETフィルム上に、下地層としてのクロム薄膜および酸化シリコン薄膜を介してニッケル薄膜を備える導電フィルムを作製した。クロム薄膜の形成には金属クロムターゲットを用い、スパッタガスとしてアルゴンを導入し、圧力0.25Pa、パワー密度0.74W/cm2の条件で成膜した。
【0081】
[実施例5]
実施例4の導電フィルムを、155℃の熱風オーブン中で60分加熱して、導電フィルムを作製した。
【0082】
[比較例4]
シリコン薄膜に代えて厚み5nmの酸化クロム薄膜を形成したこと以外は、実施例3と同様にして、PETフィルム上に、下地層としての酸化クロム薄膜および酸化シリコン薄膜を介してニッケル薄膜を備える導電フィルムを作製した。酸化クロム薄膜の形成には金属クロムターゲットを用い、スパッタガスとしてアルゴンに加えて酸素を導入し(O2/Ar=0.12/1.0)、圧力0.19Pa、パワー密度1.82W/cm2の条件で成膜した。
【0083】
[実施例6]
比較例4の導電フィルムを、155℃の熱風オーブン中で60分加熱して、導電フィルムを作製した。
【0084】
[実施例7]
シリコン薄膜に代えて厚み5nmのアルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)薄膜を形成したこと以外は、実施例3と同様にして、PETフィルム上に、下地層としてのAZO薄膜および酸化シリコン薄膜を成膜し、その上にニッケル薄膜を成膜した。AZO薄膜の形成には酸化アルミニウムドープ酸化亜鉛の焼結ターゲットを用い、スパッタガスとしてアルゴンに加えて酸素を導入し(O2/Ar=0.12/1.0)、圧力0.19Pa、パワー密度1.82W/cm2の条件で成膜した。得られた導電フィルムを、155℃の熱風オーブン中で60分加熱した。
【0085】
[評価]
<X線回折>
粉末X線回折装置(リガク製「SmartLab」)を用い、下記の条件で、
図2に示す光学系により、膜面の法線方向をθ=0°として2θ/θスキャンを実施して、格子面の法線がニッケル薄膜の膜面に向いた(111)面の面間隔を測定した。X線の照射方向(X線の入射光学系と受光光学系を含む平面)が、MD方向(スパッタ成膜時の搬送方向)と平行となるようにしてMD方向の測定を行い、さらに、試料ステージを90°回転してTD方向(MD方向と直交する方向)の測定を行った。MD方向およびTD方向のそれぞれについて、得られたX線回折パターンの2θ=44.5°付近の回折ピーク(Ni(fcc)の(111)面回折ピーク)のピーク角度から、(111)面の面間隔を算出した。
X線源:CuKα線(波長:0.15418nm)、45KV、200mA
光学系:平行ビーム光学系
入射スリット:1.0mm
入射PSA:0.5°
長手制限スリット:10mm
受光PSA:0.114°
受光スリット1:20mm
受光スリット2:20.1mm
スキャン軸:2θ/θ
ステップ幅:0.04°
スキャン範囲:40°~46°
【0086】
<抵抗温度係数(TCR)>
(温度センサフィルムの作製)
導電フィルムを、10mm×200mmのサイズにカットし、レーザーパターニングにより、ニッケル層を線幅30μmのストライプ形状にパターン加工して、
図4Aに示す形状の測温抵抗部を形成した。パターニングに際しては、全体の配線抵抗が約10kΩ、測温抵抗部の抵抗がリード部の抵抗の30倍となるように、パターンの長さを調整し、温度センサフィルムを作製した。
【0087】
(抵抗温度係数の測定)
小型の加熱冷却オーブンで、温度センサフィルムの測温抵抗部を5℃、25℃、45℃とした。リード部の一方の先端と他方の先端をテスタに接続し、定電流を流し電圧を読み取ることにより、それぞれの温度における2端子抵抗を測定した。5℃および25℃の抵抗値から計算したTCRと、25℃および45℃の抵抗値から計算したTCRの平均値を、ニッケル層のTCRとした。
【0088】
[評価結果]
実施例および比較例の導電フィルムの積層構成および成膜後の加熱処理条件、ならびに導電フィルムの特性(Ni(111)面の面間隔およびTCR)を表1に示す。
【0089】
【0090】
Ni(111)面の面間隔とTCRの関係に着目すると、面間隔が小さいほどTCRが大きくなる傾向がみられ、面間隔が0.2040nm未満の場合に、TCRが4000ppm/℃を上回っていることが分かる。
【0091】
比較例1と比較例2の対比、実施例1と比較例3の対比、および実施例2と実施例3の対比から、ニッケル薄膜の厚みが大きいほど、Ni(111)面の面間隔が小さくTCRが高くなる傾向がみられた。一方、比較例1,2と、比較例3、実施例4および比較例4との対比から、ニッケル薄膜の厚みが小さい場合でも、樹脂フィルム基材とニッケル薄膜の間に下地層を設けることにより、Ni(111)面の面間隔が小さくなり、TCRが高くなる傾向がみられた。また、成膜後に加熱処理を行うことにより、Ni(111)面の面間隔が小さくなり、TCRが高くなる傾向がみられた。
【0092】
比較例3,4および実施例3~7の結果から、ニッケル薄膜の直下に設けられる薄膜だけでなく、その下に設けられる薄膜の種類も、ニッケル薄膜の結晶性およびTCRに影響を及ぼしており、特に下地層が酸化クロムと酸化シリコンの積層構成である場合に、Ni(111)面の面間隔が小さく、TCRが高くなっていた。
【0093】
これらの結果から、樹脂フィルム基材上への下地層の形成、ニッケル薄膜の膜厚増加、ニッケル薄膜の成膜後の加熱処理等により、ニッケルの結晶の格子間隔が小さくなり、高いTCRを有し、温度センサフィルムへの適用性に優れた導電フィルムが得られることが分かる。
【符号の説明】
【0094】
50 樹脂フィルム基材
5 樹脂フィルム
6 ハードコート層
20 下地層
10 ニッケル薄膜
11 リード部
12 測温抵抗部
122,123 センサ配線
19 コネクタ
102 導電フィルム
110 温度センサフィルム