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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】電磁切換弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/06 20060101AFI20240123BHJP
【FI】
F16K31/06 305Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019200835
(22)【出願日】2019-11-05
(65)【公開番号】P2021076134
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】100106312
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 敬敏
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】上田 晟司
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-25462(JP,A)
【文献】特開2017-89777(JP,A)
【文献】特開2011-117520(JP,A)
【文献】特開2009-63022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/06-31/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動油の供給又は排出を行う油路に連通するポートを画定するスリーブと、
前記スリーブ内において所定の軸線上を往復動自在に配置されて前記ポートを開閉するスプールと、
前記軸線上に配置されるプランジャ、前記プランジャに対して起磁力を及ぼすステータを含む電磁アクチュエータと、
前記プランジャと前記スプールの間に介在して駆動力を伝達するべく前記軸線上において前記スリーブの内周面及び前記ステータの内周面と非接触に配置される筒状の伝達部材と、
前記スプールを前記プランジャに向けて付勢する付勢バネと、を備え、
前記伝達部材は、前記プランジャの受入れ凹部に対して傾動可能に当接する凸状の第1当接部と、前記スプールの凸状端部に当接する凹状の第2当接部と、前記軸線上から逸脱して傾斜した状態において前記第1当接部の少なくとも一部が前記受入れ凹部に対向しかつ前記第2当接部の少なくとも一部が前記凸状端部に対向するように前記スリーブの内周面及び前記ステータの内周面と接触して傾きを規制する外周壁と、を含む、
ことを特徴とする電磁切換弁。
【請求項2】
前記伝達部材の第1当接部は、凸状湾曲面を含み、
前記プランジャの受入れ凹部は、凹状テーパ面又は凹状湾曲面を含み、
前記伝達部材の第2当接部は、凹状テーパ面を含み、
前記スプールの凸状端部は、凸状湾曲面を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁切換弁。
【請求項3】
前記プランジャの受入れ凹部は、前記伝達部材の第1当接部の外径以上の開口径をなす外縁部を有する、
ことを特徴とする請求項2に記載の電磁切換弁。
【請求項4】
前記ステータは、前記伝達部材を挿通させる挿通孔を含み、
前記伝達部材の外周壁は、前記軸線上から逸脱して傾斜した状態において、前記挿通孔の内周面と接触し得るように形成されている、
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一つに記載の電磁切換弁。
【請求項5】
前記ステータの挿通孔の内周面は、前記伝達部材の外周壁が接触した状態において、前記伝達部材の第1当接部が前記プランジャの受入れ凹部に挿入され得る範囲から逸脱しないように前記伝達部材を規制する内径寸法に形成されている、
ことを特徴とする請求項4に記載の電磁切換弁。
【請求項6】
前記伝達部材は、前記スリーブ内に配置される大径筒部と、前記ステータの挿通孔に挿通される小径筒部を含み、
前記外周壁は、前記軸線上から逸脱して傾斜した状態において、前記スリーブの内周面と接触し得るべく前記大径筒部により画定される大径外周壁及び前記ステータの挿通孔の内周面と接触し得るべく前記小径筒部により画定される小径外周壁を含む、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の電磁切換弁。
【請求項7】
前記伝達部材は、作動油を通すべく内部通路及び開口部を含む、
ことを特徴とする請求項1ないし6いずれか一つに記載の電磁切換弁。
【請求項8】
前記伝達部材は、樹脂材料により形成されている、
ことを特徴とする請求項1ないし7いずれか一つに記載の電磁切換弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁アクチュエータによりスプールを作動させて作動油の油路を切り換える電磁切換弁に関し、特に、自動車や二輪車等の車両に搭載の内燃エンジンにおける吸気バルブ又は排気バルブの開閉時期(バルブタイミング)を変更するバルブタイミング変更装置適用される電磁切換弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電磁切換弁としては、スリーブ、スリーブ内において摺動自在に配置されるスプール、及びスプールを休止位置に戻すリターンスプリングを含むスプール弁と、コイル、プランジャ、ステータを含む電磁アクチュエータと、プランジャとスプールの間に介在して駆動力を伝達する伝達部材としての筒状のシャフトを備えた電磁スプール弁が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
この電磁スプール弁は、一般的には、プランジャが水平方向に往復動するように配置されて使用される。
このような使用形態において、プランジャが前進移動してリターンスプリングを圧縮しつつスプールを移動させた状態で、作動油内の異物等がスプールの周りに噛み込むと、スプールがロックして休止位置に戻らなくなる。
このロック状態において、プランジャだけが休止位置に戻ると、シャフトがスプール又はプランジャから外れて自由になる。そして、シャフトがその自重又は外部振動等により傾斜すると、シャフトは元の位置に復帰することができず、作動油の流量の低下、又は、作動不能等を招く虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-63022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、スプールのロック等により、伝達部材が一時的に自由になって所定の位置から逸脱しても自動的に元の位置に復帰でき、所期の機能を維持できる電磁切換弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電磁切換弁は、作動油の供給又は排出を行う油路に連通するポートを画定するスリーブと、スリーブ内において所定の軸線上を往復動自在に配置されてポートを開閉するスプールと、上記軸線上に配置されるプランジャ及びプランジャに対して起磁力を及ぼすステータを含む電磁アクチュエータと、プランジャとスプールの間に介在して駆動力を伝達するべく上記軸線上においてスリーブの内周面及びステータの内周面と非接触に配置される筒状の伝達部材と、スプールをプランジャに向けて付勢する付勢バネとを備え、伝達部材は、プランジャの受入れ凹部に対して傾動可能に当接する凸状の第1当接部と、スプールの凸状端部に当接する凹状の第2当接部と、上記軸線上から逸脱して傾斜した状態において第1当接部の少なくとも一部が受入れ凹部に対向しかつ第2当接部の少なくとも一部が凸状端部に対向するようにスリーブの内周面及びステータの内周面と接触して傾きを規制する外周壁とを含む、構成となっている。
【0007】
上記電磁切換弁において、伝達部材の第1当接部は、凸状湾曲面を含み、プランジャの受入れ凹部は、凹状テーパ面又は凹状湾曲面を含み、伝達部材の第2当接部は、凹状テーパ面を含み、スプールの凸状端部は、凸状湾曲面を含む、構成を採用してもよい。
【0008】
上記電磁切換弁において、プランジャの受入れ凹部は、伝達部材の第1当接部の外径以上の開口径をなす外縁部を有する、構成を採用してもよい。
【0009】
上記電磁切換弁において、ステータは、伝達部材を挿通させる挿通孔を含み、伝達部材の外周壁は、上記軸線上から逸脱して傾斜した状態において、挿通孔の内周面と接触し得るように形成されている、構成を採用してもよい。
【0010】
上記電磁切換弁において、ステータの挿通孔の内周面は、伝達部材の外周壁が接触した状態において、伝達部材の第1当接部がプランジャの受入れ凹部に挿入され得る範囲から逸脱しないように伝達部材を規制する内径寸法に形成されている、構成を採用してもよい。
【0011】
上記電磁切換弁において、伝達部材は、スリーブ内に配置される大径筒部と、ステータの挿通孔に挿通される小径筒部を含み、伝達部材の外周壁は、上記軸線上から逸脱して傾斜した状態において、スリーブの内周面と接触し得るべく大径筒部により画定される大径外周壁及びステータの挿通孔の内周面と接触し得るべく小径筒部により画定される小径外周壁を含む、構成を採用してもよい。
【0012】
上記電磁切換弁において、伝達部材は、作動油を通すべく内部通路及び開口部を含む、構成を採用してもよい。
【0013】
上記電磁切換弁において、伝達部材は、樹脂材料により形成されている、構成を採用してもよい。
【発明の効果】
【0014】
上記構成をなす電磁切換弁によれば、スプールのロック等により、伝達部材が一時的に自由になって所定の位置から逸脱しても自動的に元の位置に復帰でき、所期の機能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の電磁切換弁が内燃エンジンのバルブタイミング変更装置に適用された場合の構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る電磁切換弁をスリーブ側から視た分解斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係る電磁切換弁を電磁アクチュエータ側から視た分解斜視図である。
図4】一実施形態に係る電磁切換弁に含まれる電磁アクチュエータの分解斜視図である。
図5】一実施形態に係る電磁切換弁に含まれるスリーブ、伝達部材、プランジャを示す分解斜視図である。
図6】一実施形態に係る電磁切換弁に含まれる伝達部材とスプールとの関係を示す断面図である。
図7】一実施形態に係る電磁切換弁に含まれる伝達部材とプランジャとの関係を示す断面図である。
図8】一実施形態に係る電磁切換弁において、スプールがロックし、伝達部材が自由になって傾斜した状態を示す断面図である。
図9】一実施形態に係る電磁切換弁の動作を説明するものであり、スプール及びプランジャが休止位置に位置する状態を示す断面図である。
図10】一実施形態に係る電磁切換弁の動作を説明するものであり、スプール及びプランジャが前進移動して最大移動位置に位置する状態を示す断面図である。
図11】一実施形態に係る電磁切換弁において、伝達部材の自動復帰を説明するものであり、スプールがロックしかつ伝達部材が軸線上から逸脱して傾斜した状態を示す断面図である。
図12】一実施形態に係る電磁切換弁において、伝達部材の自動復帰を説明するものであり、プランジャが起動させられて、伝達部材が図11に示す状態から移動して軸線上に戻る過程を示す断面図である。
図13】一実施形態に係る電磁切換弁において、伝達部材の自動復帰を説明するものであり、プランジャがさらに起動させられて、伝達部材が図12に示す状態から移動して軸線上に戻って復帰した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
本発明の一実施形態に係る電磁切換弁Vは、内燃エンジンのバルブタイミング変更装置Mに適用されるものである。
電磁切換弁Vは、コントロールユニットECUにより、車両及び内燃エンジンの運転状態に応じて適宜駆動制御される。
【0017】
エンジン本体EBは、電磁切換弁Vを嵌め込む嵌合孔H、オイルパン1内の作動油がオイルポンプ2を経て供給される供給油路3、電磁切換弁Vからオイルパン1に向けて作動油が排出される排出油路4、バルブタイミング変更装置Mの遅角室RC及び進角室ACの一方に連通する第1油路5、バルブタイミング変更装置Mの遅角室RC及び進角室ACの他方に連通する第2油路6を備えている。
【0018】
バルブタイミング変更装置Mは、カムシャフトCSと一体的に回転するベーンロータ7、ベーンロータ7を所定角度範囲で相対回転可能に収容すると共にクランクシャフトに連動して回転するハウジングロータ8を備えている。
そして、ハウジングロータ8の内部空間とベーンロータ7とにより、作動油の供給及び排出が行われる進角室AC及び遅角室RCが画定されている。
【0019】
ここでは、バルブタイミング変更装置Mが吸気側のカムシャフトCSに適用される場合、第1油路5が進角室ACに接続され、第2油路6が遅角室RCに接続される。
一方、バルブタイミング変更装置Mが排気側のカムシャフトCSに適用される場合、第1油路5が遅角室RCに接続され、第2油路6が進角室ACに接続される。
【0020】
電磁切換弁Vは、図2及び図3に示すように、スリーブ10、スプール20、付勢バネ30、シール部材40,50、伝達部材60、電磁アクチュエータAを備えている。
電磁アクチュエータAは、図4図9及び図10に示すように、プランジャ70、ガイドスリーブ80、ステータ90、シール部材100、ブラケット110、インナーヨーク120、モールドユニット130、シール部材140、アウターヨーク150を備えている。
ここで、電磁切換弁Vは、スプール20、伝達部材60、プランジャ70の移動方向(軸線S方向)が鉛直方向Vdに対して略垂直な水平方向に方向付けられて使用される。
【0021】
スリーブ10は、アルミニウム等の金属材料により軸線Sを中心とする円筒状に形成され、図2図3図9に示すように、外周面11、シール溝11a、供給ポート11b、排出ポート11c,11d、第1ポート11e、第2ポート11f、連通路11g,11h,11i、内周面12、内周面13、受け部14、フランジ部15を備えている。
【0022】
外周面11は、軸線Sを中心とする円筒面として形成され、エンジン本体EBの嵌合孔Hに嵌合される。
シール溝11aは、シール部材40を嵌め込むべく、外周面11において環状溝として形成されている。
供給ポート11bは、供給油路3と連通する。排出ポート11c,11dは、排出油路4と連通する。第1ポート11eは、第1油路5と連通する。第2ポート11fは、第2油路6と連通する。
連通路11gは、スリーブ10の端部に形成されて、付勢バネ30が配置される空間を排出油路4に連通させる。
連通路11hは、スリーブ10の端部寄りにおいて径方向に開口し、付勢バネ30が配置される空間を排出油路4に連通させる。
連通路11iは、スリーブ10の内周面13の領域において、伝達部材60が配置される内部空間SSを排出油路4に連通させる。
【0023】
内周面12は、軸線Sを中心とする円筒面として形成され、スプール20の外周面21を密接させて摺動自在にガイドする。
内周面13は、軸線Sを中心とし、内周面12よりも大きい内径でかつフランジ部15に向けて末拡がる円錐状の面として形成され、伝達部材60が配置された状態で伝達部材60の周りに内部空間SSが確保されるように形成されている。
受け部14は、スプール20の第1端部26を受け止めてスプール20を最大前進位置に停止させる役割をなすと共に、付勢バネ30の一端部を受け止める役割をなす。
フランジ部15は、ステータ90に接合されると共にアウターヨーク150の端部がカシメ処理されて、電磁アクチュエータAと連結固定される。また、フランジ部15には、ステータ90と協働してシール部材50を挟み込むように収容する環状凹部15aが設けられている。
【0024】
スプール20は、図2図3図9に示すように、軸線S方向に伸長するように形成され、外周面21、第1弁部22、第2弁部23、凹部24、受け部25、第1端部26、凸状端部としての第2端部27を備えている。
外周面21は、スリーブ10の内周面12を摺動するべく、軸線Sを中心とする円筒状に形成され、内周面12の内径と略同径又は僅かに小さい外径をなす。
第1弁部22は、軸線S方向において第1ポート11eの開口幅よりも広い外周面21を画定するように形成され、軸線S方向に移動することにより、スリーブ10の第1ポート11eを開閉する。
第2弁部23は、軸線S方向において第2ポート11fの開口幅よりも広い外周面21を画定するように形成され、軸線S方向に移動することにより、スリーブ10の第2ポート11fを開閉する。
凹部24は、第1端部26の側において、付勢バネ30を伸縮自在に収容するように形成されている。
受け部25は、凹部24に収容された付勢バネ30の他端部を受けるべく、凹部24の底壁として形成されている。
第1端部26は、環状端面として形成され、スリーブ10の受け部14に対して離脱可能に当接する。
第2端部27は、図6及び図8に示すように、軸線S方向において伝達部材60の第2当接部62dと当接するべく、軸線Sを中心とする円環状でかつ凸状湾曲面として形成されている。
【0025】
付勢バネ30は、圧縮型のコイルバネであり、一端部がスリーブ10の受け部14に当接し、他端部がスプール20の受け部25に当接するように組み付けられている。
そして、付勢バネ30は、休止状態にあるとき、図9に示すように、プランジャ70を休止位置まで後退させ、第1弁部22が第1ポート11eと供給ポート11bとの連通を遮断すると共に第1ポート11eと排出ポート11cを連通させ、第2弁部23が第2ポート11fと供給ポート11bを連通させると共に第2ポート11fと排出ポート11dとの連通を遮断する位置にスプール20を停止させる付勢力を及ぼす。
【0026】
シール部材40は、ゴム製のOリングであり、スリーブ10のシール溝11aに嵌め込まれて、エンジン本体EBとスリーブ10の間をシールする。
シール部材50は、ゴム製のOリングであり、スリーブ10のフランジ部15の凹部15aに配置されて、スリーブ10とステータ90の間をシールする。
【0027】
伝達部材60は、プランジャ70とスプール20の間に介在して駆動力を伝達するべく、樹脂材料により軸線S方向に伸長する筒状に形成されており、図5ないし図7に示すように、ステータ90の挿通孔91aに挿通される小径筒部61、スリーブ10内の内周面13の領域に配置される大径筒部62、環状段差部63を備えている。
【0028】
小径筒部61は、小径外周壁61s、第1当接部61a、対向壁61b、第1内部通路61c、2つの第1開口部61d、第2内部通路61e、2つの第2開口部61fを備えている。
小径筒部61は、ステータ90の挿通孔91aに挿通される領域であり、又、図8に示すように、伝達部材60が軸線S上から逸脱して傾斜した際には、小径筒部61により画定される小径外周壁61sが挿通孔91aの内周面に接触し得る。
【0029】
第1当接部61aは、軸線Sを中心とする円環状でかつ凸状湾曲面として形成され、プランジャ70の受入れ凹部75に挿入されると共に受入れ凹部75に対して傾動可能に当接する。
対向壁61bは、軸線S方向において、プランジャ70の貫通路74と対向する遮断壁として形成されている。
第1内部通路61cは、軸線S方向において対向壁61bよりもプランジャ70側に形成され、プランジャ70の貫通路74と連通するべく、軸線S方向に伸長する円筒孔をなす。第1内部通路61cの通路面積は、貫通路74の通路面積と同等か又はそれ以上の大きさに形成されている。ここで、第1内部通路61cの通路面積とは、軸線Sに垂直な断面における第1内部通路61cの通路面積であり、貫通路74の通路面積とは、軸線Sに垂直な断面における貫通路74の通路面積である。
第1開口部61dは、図9及び図10に示すように、軸線S方向においてステータ90の挿通孔91aよりもプランジャ70側に形成され、第1内部通路61cを径方向に開口する円形孔をなす。第1開口部61dの通路面積は、第1内部通路61cの通路面積と同等か又はそれ以上の大きさに形成されている。ここで、第1開口部61dの通路面積とは、円形孔をなす2つの第1開口部61dの通路面積である。
第2内部通路61eは、軸線S方向において対向壁61bよりもスプール20側に形成され、軸線S方向に伸長する円筒孔をなす。第2内部通路61eの内径(通路面積)は、第1内部通路61cの内径(通路面積)よりも大きく形成されている。
第2開口部61fは、図9及び図10に示すように、軸線S方向においてステータ90の挿通孔91aよりもスプール20側に形成され、第2内部通路61eを径方向に開口する円形孔をなす。第2開口部61fの通路面積は、第2内部通路61eの通路面積と同等か又はそれ以上の大きさに形成されている。ここで、第2開口部61fの通路面積とは、円形孔をなす2つの第2開口部61fの通路面積であり、第2内部通路61eの通路面積とは、軸線Sに垂直な断面における第2内部通路61eの通路面積である。
【0030】
大径筒部62は、大径外周壁62s、第2内部通路62a、4つの第2開口部62b、第1開口部62bの周りに形成された4つの肉抜き部62c、第2当接部62dを備えている。
大径筒部62は、スリーブ20内に配置される領域であり、又、図8に示すように、伝達部材60が軸線S上から逸脱して傾斜した際には、大径筒部62により画定される大径外周壁62sがスリーブ20の内周面13に接触し得る。
第2内部通路62aは、第2内部通路61eと連通するべく、軸線S方向において対向壁61bよりもスプール20側に形成されて軸線S方向に伸長する円筒孔をなす。第2内部通路62aの内径(通路面積)は、第2内部通路61eの内径(通路面積)よりも大きく形成されている。
第2開口部62bは、図9及び図10に示すように、軸線S方向においてステータ90の挿通孔91aよりもスプール20側に形成され、第2内部通路62aを径方向に開口する略矩形孔をなす。第2開口部62bの通路面積は、第2内部通路62aの通路面積と同等か又はそれ以上の大きさに形成されている。ここで、第2開口部62bの通路面積とは、略矩形孔をなす4つの第2開口部62bの通路面積であり、第2内部通路62aの通路面積とは、軸線Sに垂直な断面における第2内部通路62aの通路面積である。
4つの肉抜き部62cは、第1開口部62bの周りの領域が大径筒部62の外周面62sから径方向の内側に凹むように形成されている。これによれば、伝達部材60がスリーブ20内に配置されたとき、伝達部材60と内周面13との間において、作動油の流れを可能にする十分な隙間空間を確保することができる。
【0031】
第2当接部62dは、第2内部通路62aをスプール20に向けて開口させる端部を画定すると共にスプール20の第2端部27と当接するべく、軸線Sを中心とする円環状でかつ凹状テーパ面として形成されている。
環状段差部63は、小径筒部61と大径筒部62の境界に形成され、軸線S方向においてステータ90の環状対向部91eと対向する。
【0032】
上記構成において、伝達部材60は、スリーブ20の内周面13と接触して傾きを規制する大径外周壁62sと、ステータ90の挿通孔91aの内周面と接触して傾きを規制する小径外周壁61sを備えるため、図8に示すように、スリーブ20がロックして伝達部材60が軸線S上から逸脱して傾斜した状態になっても、伝達部材60の第1当接部61aの少なくとも一部が、プランジャ70の受入れ凹部75に対向し、かつ、伝達部材60の第2当接部61dの少なくとも一部がスプール20の凸状端部である第2端部27に対向する範囲内に傾きが規制される。
【0033】
プランジャ70は、鉄等の強磁性材料を用いて、軸線S方向に伸長する円柱状に形成され、図4及び図9に示すように、外周面71、第1端部72、第2端部73、貫通路74、受入れ凹部75を備えている。
【0034】
外周面71は、ガイドスリーブ80の内壁面81により、軸線S方向に摺動自在にガイドされる。
第1端部72は、軸線Sに垂直な環状平坦面をなす。
第2端部73は、軸線Sに垂直な環状平坦面をなすと共に、休止位置において、ガイドスリーブ80のストッパ83に当接する。
貫通路74は、軸線S上に配置されると共に軸線S方向に伸長して、第1端部72から第2端部73まで貫通する円筒孔をなす。
【0035】
受入れ凹部75は、第1端部72の貫通路74の周りにおいて、伝達部材60の第1当接部61aを受け入れて当接させるべく、軸線Sを中心とする円環状でかつ凹状テーパ面として形成されている。
ここで、受入れ凹部75は、図7に示すように、伝達部材60の第1当接部61aの外径以上の開口径をなす外縁部75aを有する。
これにより、伝達部材60の第1当接部61aが、プランジャ70の受入れ凹部75に対して容易に入り込んで当接することができる。
【0036】
ガイドスリーブ80は、薄板の金属材料を深絞り成形して、軸線Sを中心とする有底円筒状に形成され、図4及び図9に示すように、内壁面81、底壁面82、底壁面82から突出するストッパ83、フランジ部84を備えている。
内壁面81は、プランジャ70を軸線S方向に摺動自在にガイドする。
ストッパ83は、軸線S方向において底壁面82から内側に突出して形成され、プランジャ70の休止位置を規定する役割をなす。
このように、ストッパ83が内側に突出して形成されているため、プランジャ70がストッパ83に当接した状態で、プランジャ70の第2端部73と底壁面82との間に隙間空間が画定される。これにより、プランジャ70がガイドスリーブ80の底壁面82に密着して作動不能になるのを防止できる。
フランジ部84は、径方向において伝達部材60を外側から覆うように多段円錐状に形成された領域を含み、シール部材100と共にステータ90とブラケット110の間に挟み込まれて固定される。
【0037】
上記ガイドスリーブ80とプランジャ70の関係において、プランジャ70が付勢バネ30を圧縮する向きの前進位置に位置するとき、図10に示すように、ガイドスリーブ80の内壁面81及び底壁面82とプランジャ70の第2端部73とにより、プランジャ70が休止位置に後退移動可能な後退移動空間RSが画定される。
【0038】
ステータ90は、磁路の一部を形成すると共にコイル132への通電によりプランジャ70に対して起磁力を及ぼすべく、強磁性材料を用いて形成され、多段円柱状をなすフロントヨーク91と略円盤状をなすエンドヨーク92をカシメ処理することにより一体的に固定されたものである。
ステータ90は、図4図9及び図10に示すように、挿通孔91a、環状対向面91b、環状内壁面91c、ガイド部91d、環状対向部91e、接合面92a,92bを備えている。
【0039】
挿通孔91aは、伝達部材60の小径筒部61を所定の隙間Gをおいて挿通させるべく、軸線Sを中心とする円筒孔をなす。
ここで、挿通孔91aにおいて伝達部材60の周りに画定される隙間Gの通路面積は、第1開口部61dの通路面積以下の大きさに形成されている。隙間Gの通路面積とは、軸線Sに垂直な断面における環状をなす隙間Gの通路面積である。
尚、隙間Gは、作動油の粘性抵抗が増大しない範囲で極力小さくすることが好ましい。
また、挿通孔91aは、図8に示すように、その内周面が、伝達部材60の外周壁である小径外周壁61sと接触した状態において、伝達部材60の第1当接部61aがプランジャ70の受入れ凹部75に挿入され得る範囲から逸脱しないように伝達部材60を規制する内径寸法に形成されている。
【0040】
環状対向面91bは、軸線S方向においてプランジャ70の第1端部72と対向するべく、円環状の平坦面をなす。
環状内壁面91cは、プランジャ70が前進移動した状態において、プランジャ70の外周面71と径方向に所定隙間をおいて対向するべく、軸線Sを中心とする略円筒面をなす。
ガイド部91dは、軸線Sを中心とする円環状でかつ凹状テーパ面として形成され、伝達部材60をステータ90の挿通孔91aに挿入する際に、伝達部材60の第1当接部61aを軸線S上に向けてガイドする役割をなす。尚、ガイド部91dは、軸線Sを中心とする円環状でかつ凹状湾曲面として形成されてもよい。
環状対向部91eは、軸線S方向において伝達部材60の環状段差部63と対向するべく、軸線Sを中心とする円環状をなす。
接合面92a,92bは、組付け状態において、シール部材50,100と密接すると共に、スリーブ10のフランジ部15とブラケット110に挟み込まれて固定されるべく、平坦面をなす。
【0041】
上記ステータ90とプランジャ70の関係において、プランジャ70が休止位置に位置するとき、図9に示すように、ステータ90の環状対向面91b及び環状内壁面91cとプランジャ70の第1端部72とにより、プランジャ70が付勢バネ30を圧縮する向きに前進移動可能な前進移動空間FSが画定される。
【0042】
シール部材100は、ゴム製のOリングであり、ステータ90の接合面92bとガイドスリーブ80のフランジ部84の間に配置されて、ステータ90とガイドスリーブ80の接合領域をシールする。
【0043】
ブラケット110は、金属材料を用いて形成され、環状部111、取付け部112を備えている。
環状部111は、モールドユニット130とステータ90(エンドヨーク92)に挟み込まれると共に、アウターヨーク150の嵌合凹部152に嵌め込まれて固定される。
取付け部112は、アウターヨーク150の外側に延出して、エンジン本体EBにネジ等により固定される。
【0044】
インナーヨーク120は、磁路の一部を形成するものであり、強磁性材料を用いて鍔付きの有底円筒状に形成され、図4及び図9に示すように、円筒部121、鍔部122を備えている。
円筒部121は、その内側にガイドスリーブ80が嵌め込まれ、その外側にモールドユニット130のボビン131が嵌め込まれるように形成されている。
鍔部122は、アウターヨーク150の嵌合凹部153に嵌め込まれて、カシメ処理により固定される。
【0045】
モールドユニット130は、図4及び図9に示すように、インナーヨーク120の円筒部121に嵌め込まれる樹脂製のボビン131、ボビン131に巻回された励磁用のコイル132、コイル132の周りを覆う円筒部と一体的に形成されて端子を囲繞するコネクタ133を備えている。
【0046】
シール部材140は、ゴム製のOリングであり、インナーヨーク120の鍔部122とモールドユニット130のボビン131の間に配置されて、ボビン131とインナーヨーク120の間をシールする。
【0047】
アウターヨーク150は、磁路の一部を形成するものであり、強磁性材料を用いて円筒状に形成され、図4及び図9に示すように、円筒部151、嵌合凹部152、嵌合凹部153を備えている。
円筒部151は、軸線Sを中心とする円筒状に形成され、モールドユニット130のコイル132が巻回された領域、インナーヨーク120の鍔部122、ブラケット110の環状部111、ステータ90(エンドヨーク92)、スリーブ10のフランジ部15を径方向の外側から覆うように形成されている。
嵌合凹部152は、軸線S方向にブラケット110の環状部111、ステータ90(エンドヨーク92)、スリーブ10のフランジ部15を嵌め込んだ状態で、先端側領域にカシメ処理を施すことにより、環状部111、ステータ90(エンドヨーク92)及びフランジ部15を固定する。
嵌合凹部153は、インナーヨーク120の鍔部122を嵌め込んだ状態で、先端側領域にカシメ処理を施すことにより、鍔部122を固定する。
【0048】
次に、電磁切換弁Vの切換動作について説明する。
先ず、コイル132が非通電の状態において、プランジャ70は、スプール20及び伝達部材60を介して、付勢バネ30の付勢力により、図9に示すように、第2端部73がストッパ83に当接した休止位置に停止している。
また、スプール20は、伝達部材60を介してプランジャ70の休止位置に対応する後退位置に停止している。
この後退位置において、スプール20の第1弁部22は、第1ポート11eと供給ポート11bの間の油路を閉塞し、かつ、第1ポート11eと排出ポート11cの間の油路を開放した状態にある。
また、スプール20の第2弁部23は、第2ポート11fと供給ポート11bの間の油路を開放し、かつ、第2ポート11fと排出ポート11dの間の油路を閉塞した状態にある。
このとき、第1油路5は作動油が排出され、第2油路6は作動油が供給される。
【0049】
続いて、コイル132が適宜通電されて起磁力が発生すると、プランジャ70は、付勢バネ30の付勢力に抗しつつ前進移動して、図10に示すように、スプール20の第1端部26が受け部14に当接して、スプール20は最大前進位置に位置決めされる。
この最大前進位置において、スプール20の第1弁部22は、第1ポート11eと供給ポート11bの間の油路を開放し、かつ、第1ポート11eと排出ポート11cの間の油路を閉塞した状態にある。
また、スプール20の第2弁部23は、第2ポート11fと供給ポート11bの間の油路を閉塞し、かつ、第2ポート11fと排出ポート11dの間の油路を開放した状態にある。
このとき、第1油路5は作動油が供給され、第2油路6は作動油が排出される。
【0050】
尚、コイル132の通電が適宜制御されて、スプール20を中間位置に停止させることもできる。
この中間位置において、スプール20の第1弁部22は、第1ポート11eと供給ポート11bの間の油路を閉塞し、かつ、第1ポート11eと排出ポート11cの間の油路を閉塞した状態にある。
また、スプール20の第2弁部23は、第2ポート11fと供給ポート11bの間の油路を閉塞し、かつ、第2ポート11fと排出ポート11dの間の油路を閉塞した状態にある。
このとき、第1油路5及び第2油路6は、共に作動油の供給及び排出が遮断される。
【0051】
上記切換動作をなす電磁切換弁Vが、例えば、内燃エンジンの吸気側のカムシャフトCSのバルブタイミング変更装置Mに適用された場合、第1油路5が進角室ACに接続され、第2油路6が遅角室RCに接続される。
したがって、プランジャ70が休止位置にあるとき、吸気バルブのバルブタイミングが遅角位置に保持され、運転条件に応じてプランジャ70が前進移動することにより、吸気バルブのバルブタイミングが進角位置に位置付けられる。
一方、上記切換動作をなす電磁切換弁Vが、例えば、内燃エンジンの排気側のカムシャフトCSのバルブタイミング変更装置Mに適用された場合、第1油路5が遅角室RCに接続され、第2油路6が進角室ACに接続される。
したがって、プランジャ70が休止位置にあるとき、排気バルブのバルブタイミングが進角位置に保持され、運転条件に応じてプランジャ70が前進移動することにより、排気バルブのバルブタイミングが遅角位置に位置付けられる。
【0052】
次に、上記切換動作をなす電磁切換弁Vにおいて、プランジャ70及び伝達部材60の周りの作動油の流れについて説明する。
プランジャ70が休止位置から前進移動すると、図10に示すように、前進移動空間FS内の作動油は、矢印で示すように、伝達部材60の第1開口部61d及び第1内部通路61cを経てプランジャ70の貫通路74を通り、プランジャ70の背後に画定される後退移動空間RSに流れ込む。これにより、プランジャ70は、円滑に前進移動することができる。
一方、スリーブ10の内部空間SSにおいては、伝達部材60は、プランジャ70に押されてスプール20と一緒に前進移動する。
ここで、ステータ90の挿通孔91aにおいて伝達部材60の小径筒部61の周りに画定される隙間Gの通路面積は、第1開口部61dの通路面積以下の大きさ、すなわち、粘性抵抗が増大しない範囲で極力小さく形成されているため、内部空間SS内の作動油、特に異物は、挿通孔91aを経て前進移動空間FS内に流れ難くなっている。
【0053】
この状態において、内部空間SS内の作動油は、環状段差部63と環状対向部91dの離隔距離が広がることから、例えば図10中の矢印で示すように、伝達部材60の第2内部通路61e内の作動油が第2開口部61fから内部空間SSに流れ、又、伝達部材60の外側の内部空間SS内の作動油が第2開口部62bから第2内部通路62a,61e内に流れ、又は、排出ポート11d及び排出油路4の近傍の作動油が連通11iを通して内部空間SS内に流れ込む。このように、内部空間SS内の作動油は、全体的には伝達部材60の周りで循環する。
【0054】
プランジャ70が前進位置から休止位置に向けて後退移動すると、後退移動空間RS内の作動油は、図9中の矢印で示すように、プランジャ70の貫通路74を経て伝達部材60の第1内部通路61c及び第1開口部61dを通り、プランジャ70の前側に画定される前進移動空間FSに流れ込む。これにより、プランジャ70は、円滑に後退移動することができる。
【0055】
一方、スリーブ10の内部空間SSにおいては、伝達部材60は、付勢バネ30の付勢力により、スプール20と一緒にプランジャ70に追従して後退移動する。
ここで、ステータ90の挿通孔91aにおいて伝達部材60の小径筒部61の周りに画定される隙間Gの通路面積は、前述同様に、第1開口部61dの通路面積以下の大きさ、すなわち、粘性抵抗が増大しない範囲で極力小さく形成されているため、内部空間SS内の作動油、特に異物は、挿通孔91aを経て前進移動空間FS内に流れ難くなっている。
【0056】
この状態において、内部空間SS内の作動油は、環状段差部63と環状対向部91dの離隔距離が狭くなることから、例えば図9中の矢印で示すように、伝達部材60の外側の内部空間SS内の作動油が伝達部材60の第2開口部61fから第2内部通路61e内に流れ、又、伝達部材60の内側の第2内部通路62a,61eの作動油が第2開口部62bから伝達部材60の外側の内部空間SSに流れ、又は、内部空間SS内の作動油が連通11iを通して排出ポート11d及び排出油路4に流れ出る。このように、内部空間SS内の作動油は、全体的には伝達部材60の周りで循環する。
【0057】
ここでは、第1内部通路61cの通路面積は貫通路74の通路面積以上の大きさに形成され、又、第1開口部61dの通路面積は第1内部通路61cの通路面以上の大きさに形成されているため、作動油が前進移動空間FSから後退移動空間RSに移動する際に又は後退移動空間RSから前進移動空間FSに移動する際に、絞り抵抗によるダンパ効果等が生じるのを防止することができ、プランジャ70を円滑に作動させることができる。
また、伝達部材60の環状段差部63が軸線S方向においてステータ90の環状対向部91dと対向するため、両者の離隔距離の変動により、作動油を内部通路SSの領域で積極的に循環させることができる。
【0058】
したがって、内部空間SS内の作動油に異物が混入していた場合、異物が挿通孔91aを通してプランジャ70の作動領域に流れ込むのを阻止できる。これにより、異物の噛み込みによるプランジャ70の摩耗やロックを防止することができる。
仮に、作動油内の異物がスプール20の周りにおいて噛み込んだ場合は、プランジャ70を適宜往復駆動することにより、噛み込み状態を解消することができる。
【0059】
次に、電磁切換弁Vにおける伝達部材60の復帰動作について、図11ないし図13を参照して説明する。
先ず、コイル132の通電により、プランジャ70が前進移動し、スプール20が、付勢バネ30を圧縮しつつ所定量移動させられた状態で作動油内の異物等を噛み込んでロックした場合を想定する。
このとき、プランジャ70のみが後退移動すると、例えば図11に示すように、スプール20とプランジャ70との間隔が広がって、伝達部材60は自由になり、自重あるいは外部振動等の影響により、伝達部材60は軸線S上から逸脱して傾斜する。
【0060】
この傾斜状態において、第1当接部61aがプランジャ70の受入れ凹部75から離脱し、第2当接部62dがスプール20の第2端部27から離脱しても、大径外周壁62sが内周面13に接触し、小径外周壁61sが挿入孔91aの内周面に接触する。
これにより、伝達部材60は、第1当接部61aの少なくとも一部が受入れ凹部75と軸線S方向において対向し、第2当接部62dの少なくとも一部が第2端部27と軸線S方向において対向するように保持される。
【0061】
ここで、コイル132が通電されて、プランジャ70が前進移動すると、図12に示すように、伝達部材60の第1当接部61aは受入れ凹部75に向けて移動し、伝達部材60の第2当接部62dはスプール20の第2端部27に向けて移動する。
そして、プランジャ70がさらに前進移動すると、図13に示すように、伝達部材60の第1当接部61aは受入れ凹部75に確実に入り込んで環状に当接し、伝達部材60の第2当接部62dはスプール20の第2端部27と環状に確実に当接する。これにより、伝達部材60は軸線S上の位置に復帰する。
【0062】
その後、プランジャ70がさらに前進移動すると、スプール20のロックが解除される。プランジャ70による一度の衝撃でスプール20のロックが解除されない場合は、プランジャ70が複数回に亘り往復駆動されることにより、伝達部材60は図11ないし図13に示す状態を繰り返して、伝達部材60が軸線S上の位置に復帰すると共にスプール20のロックが解除される。
また、プランジャ70の後退移動及び前進移動が数回繰り返されることにより、電磁切換弁Vを所期の機能状態に確実に復帰させることができる。
【0063】
上記電磁切換弁Vにおいては、伝達部材60の第1当接部61aが凸状湾曲面として形成され、プランジャ70の受入れ凹部75が凹状テーパ面として形成され、伝達部材60の第2当接部62dが凹状テーパ面として形成され、スプール20の凸状端部である第2端部27が凸状湾曲面として形成されている。
したがって、第2当接部62dの凹状テーパ面と第2端部27の凸状湾曲面とが正対して環状に当接し合うように互いに誘導することにより、軸線S上から逸脱した伝達部材60を軸線S上の位置に自動的に容易に復帰させることができる。
【0064】
また、伝達部材60の第1当接部61aがプランジャ70の受入れ凹部75に対して傾動可能に当接し、又、プランジャ70の受入れ凹部75が伝達部材60の第1当接部61aの外径以上の開口径をなす外縁部75aを有するため、第1当接部61aが受入れ凹部75から一旦離脱しても、第1当接部61aは容易に受入れ凹部75に滑り込んで当接することができる。
【0065】
また、伝達部材60の傾きを規制する外周壁として、大径筒部62により画定される大径外周壁62sと、小径筒部61により画定される小径外周壁61sとを採用したことにより、単一外径の伝達部材に場合に比べて、伝達部材60の軸線S上からの逸脱量を抑えることができる。
すなわち、伝達部材60の周りにおいて作動油の流れを許容する内部空間SSを確保しつつ、伝達部材60が元の位置へ復帰する行程を短くすることができる。
【0066】
また、ステータ90の挿通孔91aの内周面は、伝達部材60の小径外周壁61sが接触した状態において、伝達部材60の第1当接部61aがプランジャ70の受入れ凹部75に挿入され得る範囲から逸脱しないように伝達部材60を規制する内径寸法に形成されている。
したがって、伝達部材60が軸線S上から逸脱して傾斜した状態にあっても、伝達部材60の第1当接部61aはプランジャ70の受入れ凹部75に確実に導かれて当接することができる。
尚、伝達部材60が樹脂材料により形成されているため、小径筒部61、大径筒部62を含む形態、作動油の通路としての複数の内部通路及び開口部を含む形態を容易に形成することができる。
【0067】
上記構成をなす電磁切換弁Vによれば、電磁切換弁Vのスプール20が異物の噛み込み等によりロックし、伝達部材60が軸線S上から逸脱した場合であっても、伝達部材60を自動的に元の位置へ復帰させると共にスプール20のロックを解除することができる
また、スプール20又はプランジャ70に一体的に固定されない伝達部材60を採用することにより、各部品の芯出しを高精度に行う必要がなく、伝達部材60の組付け時又は元の位置への自動復帰において、伝達部材60で微小な芯ずれを吸収しつつ伝達部材60を軸線S上に配置することができる。
【0068】
上記実施形態においては、伝達部材として、小径部61及び大径部62を有する伝達部材60を示したが、これに限定されるものではなく、単一の外径からなる筒状部材においてその傾きを規制する外周壁を設けた伝達部材を採用してもよい。
上記実施形態においては、プランジャ70の受入れ凹部75が、凹状テーパ面として形成された場合を示したが、これに限定されるものではなく、伝達部材60の第1当接部61aの凸状湾曲面よりも曲率半径の大きい凹状湾曲面を採用してもよい。
上記実施形態において、伝達部材として、樹脂材料により形成された伝達部材60を示したが、これに限定されるものではなく、その他の非磁性材料により形成された伝達部材を採用してもよい。
上記実施形態においては、電磁切換弁Vがエンジン本体EBの嵌合孔Hに嵌合される場合を示したが、これに限定されるものではなく、それ以外の場所に装着されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上述べたように、本発明の電磁切換弁によれば、スプールのロック等により、伝達部材が一時的に自由になって所定の位置から逸脱しても自動的に元の位置に復帰でき、所期の機能を維持することができるため、自動車又は二輪車等の車両に搭載されるエンジンに適用できるのは勿論のこと、その他の油圧機器等において作動油の流れを制御する際にも有用である。
【符号の説明】
【0070】
S 軸線
3 供給油路
4 排出油路
5 第1油路
6 第2油路
V 電磁切換弁
10 スリーブ
11b 供給ポート
11c,11d 排出ポート
11e 第1ポート
11f 第2ポート
13 内周面
20 スプール
27 第2端部(凸状端部、凸状湾曲面)
30 付勢バネ
60 伝達部材
61 小径筒部
61s 小径外周壁
61a 第1当接部(凸状湾曲面)
62 大径筒部
62s 大径外周壁
62d 第2当接部(凹状テーパ面)
A 電磁アクチュエータ
70 プランジャ
75 受入れ凹部(凹状テーパ面)
75a 外縁部
90 ステータ
91a 挿通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13