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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】アンテナ用一次放射器
(51)【国際特許分類】
   H01Q 13/06 20060101AFI20240123BHJP
【FI】
H01Q13/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019223913
(22)【出願日】2019-12-11
(65)【公開番号】P2021093655
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】夏原 啓一
(72)【発明者】
【氏名】▲渋▼谷 裕三
(72)【発明者】
【氏名】大河原 聡
(72)【発明者】
【氏名】田村 英樹
(72)【発明者】
【氏名】蜂谷 勉
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和弘
【審査官】齊藤 晶
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-267672(JP,A)
【文献】実開昭60-017009(JP,U)
【文献】実開昭59-003607(JP,U)
【文献】特開平01-251804(JP,A)
【文献】特開2009-033352(JP,A)
【文献】特開平10-096497(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部分である放射開口の外周に外径ネジが切られた円形導波管と、
前記円形導波管を挿入される挿入開口の内周に内径ネジが切られ、前記円形導波管の挿入を規制する規制開口の内側端面近くに前記内径ネジのニゲが切られたキャップと、
前記円形導波管の前記放射開口と前記キャップの前記規制開口との間に挟み込まれ、前記円形導波管の前記放射開口内の中空領域を外部に対して被覆する被覆部材と、
前記キャップの前記内径ネジのニゲと前記被覆部材との間に配置され、前記円形導波管の前記放射開口内の中空領域を遮断せずに前記キャップの前記内径ネジのニゲに対して遮蔽するリング形状の遮蔽部材と、
を備えることを特徴とするアンテナ用一次放射器。
【請求項2】
前記遮蔽部材は、前記円形導波管の前記放射開口と前記被覆部材との間に挟み込まれ、
前記遮蔽部材の内周の半径は、前記円形導波管の前記放射開口の内周の半径以上であり、
前記遮蔽部材の外周の半径は、前記キャップの前記内径ネジのニゲの外周の半径に等しいことを特徴とする、請求項1に記載のアンテナ用一次放射器。
【請求項3】
前記遮蔽部材は、前記円形導波管の前記放射開口と前記被覆部材との間に挟み込まれ、
前記遮蔽部材の内周の半径は、前記円形導波管の前記放射開口の内周の半径以上であり、
前記円形導波管の延伸方向から見て、前記遮蔽部材の外周と前記キャップの前記内径ネジのニゲの外周との間のギャップの幅は、前記キャップの前記内径ネジのニゲの幅の20%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のアンテナ用一次放射器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、気密構造及び防水構造を有するアンテナ用一次放射器に関する。
【背景技術】
【0002】
気密構造及び防水構造を有するアンテナ用一次放射器が、ホーン又は反射鏡を有するレーダ、衛星通信又はマイクロ波回線のアンテナに適用されている(特許文献1等を参照。)。
【0003】
従来技術のアンテナ用一次放射器の斜視分解図及び側面断面図を図1、2に示す。従来技術のアンテナ用一次放射器Pは、円形導波管1、キャップ2及び被覆部材3を備える。
【0004】
円形導波管1は、先端部分である放射開口の外周に外径ネジ11が切られ、放射開口の外周にチョーク構造12を有する。キャップ2は、円形導波管1を挿入される挿入開口の内周に内径ネジ21が切られ、円形導波管1の挿入を規制する規制開口22の内側(円形導波管1側)端面まで内径ネジ21が切られる。円形導波管1が、キャップ2に挿入されるときに、円形導波管1の外径ネジ11は、キャップ2の内径ネジ21と螺合する。被覆部材3は、円形導波管1の放射開口とキャップ2の規制開口22との間に挟み込まれ、円形導波管1の放射開口内の中空領域を外部に対して被覆する。
【0005】
このように、従来技術のアンテナ用一次放射器Pでは、円形導波管1の設計自由度を高くしたうえで、円形導波管1の気密信頼性及び防水信頼性を高くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-267672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、従来技術のアンテナ用一次放射器Pでは、キャップ2は、円形導波管1の挿入を規制する規制開口22の内側端面まで内径ネジ21が切られる。これは、従来技術のアンテナ用一次放射器Pでは、キャップ2の内径ネジ21の加工において、規制開口22の内側端面までネジ加工ができる特殊な形状の内径ネジ切りバイトを使うことができるからである。しかしながら、上記のような特殊な内径ネジ切りバイトは、加工する円形導波管1の形状に合わせて、特別に製作する必要があるため、加工コストが高くなるという課題がある。そこで、一般的なアンテナ用一次放射器Pでは、一般形状の内径ネジ切りバイトを用いるため、キャップ2は、円形導波管1の挿入を規制する規制開口22の内側端面まで内径ネジ21が切られない。
【0008】
比較例のキャップの製造方法を図3に示す。これは一般的形状の内径ネジ切りバイトを用いた場合の例である。内径ネジ切りバイト5は、バイト先端部の手前側に、内径ネジ切り部を有する。よって、内径ネジ切りバイト5は、バイト先端部において、キャップ2の規制開口22と接触してしまうと、内径ネジ切り部において、キャップ2の規制開口22の内側端面までキャップ2の内径ネジ21を切ることができない。しかし、キャップ2が、円形導波管1の挿入を規制する規制開口22の内側端面まで内周に何も施されなければ、円形導波管1は、キャップ2の規制開口22まで挿入されることができない。一方で、キャップ2が、円形導波管1の挿入を規制する規制開口22の内側端面近くに内径ネジ21のニゲ23を切られるならば、円形導波管1は、キャップ2の規制開口22まで挿入されることができる。
【0009】
比較例のアンテナ用一次放射器の斜視分解図及び側面断面図を図4、5に示す。比較例のアンテナ用一次放射器Pは、円形導波管1、キャップ2及び被覆部材3を備える。以下では、従来技術と比べて、一致点を省略し、相違点を説明する。
【0010】
キャップ2は、円形導波管1を挿入される挿入開口の内周に内径ネジ21が切られるが、円形導波管1の挿入を規制する規制開口22の内側端面までは内径ネジ21を切ることができないため、円形導波管1の挿入を規制する規制開口22の内側端面近くに内径ネジ21のニゲ23が切られる。キャップ2の内径ネジ21のニゲ23の長さは、キャップ2の内径ネジ21の1.5~2ピッチ以上を必要とし、低周波では問題とならないが、高周波では問題となり得る。
【0011】
比較例のアンテナ用一次放射器の交差偏波レベルを図6に示す。比較例のアンテナ用一次放射器Pの使用波長λに対して、円形導波管1の内周の直径φDは、0.829λであり、被覆部材3(テフロングラスファイバシート)の厚さtは、0.012λである。
【0012】
ここで、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23内に位置する円形導波管1の外径ネジ11が円形導波管1に非軸対称性をもたらすものの、交差偏波レベルを計算するにあたり、円形導波管1の外径ネジ11という複雑な構造を計算に反映させず、円形導波管1の楕円形断面という単純な構造を計算で仮定した。
【0013】
すると、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23の長さLが、約0λから0.1λへと増えるにつれて、交差偏波レベルは、約-45dBから約-17dBへと高くなった。一方で、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23の長さLが、0.1λから0.15λへと増えるにつれて、交差偏波レベルは、約-17dBから約-45dBへと低くなった。そして、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23の長さLが、増えるにつれて、交差偏波レベルは、上昇/下降を繰り返した。特に、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23の長さLが、0.1λであるときに、交差偏波レベルは、目標仕様-35dB以下を満たさなかった。
【0014】
比較例のアンテナ用一次放射器のE面指向性及びH面指向性を図7に示す。比較例のアンテナ用一次放射器Pの使用波長λに対して、円形導波管1の内周の直径φDは、0.829λであり、被覆部材3(テフロングラスファイバシート)の厚さtは、0.012λであり、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23の長さLは、0.1λであり、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23の幅Wは、0.0167λである。ここで、主偏波及び交差偏波のE面指向性及びH面指向性を、図7においても図6と同様な仮定で計算している。
【0015】
すると、主偏波のE面指向性は、正面方向からビームチルトを発生させた。そして、交差偏波のE面指向性は、目標仕様-35dB以下を満たした。一方で、主偏波のH面指向性は、正面方向からビームチルトを発生させなかった。そして、交差偏波のH面指向性は、目標仕様-35dB以下を満たさなかった。図8、9では、この理由を説明する。
【0016】
比較例のアンテナ用一次放射器の円形導波管の実効的な内周の直径φD’を図8に示す。円形導波管1を伝搬する電磁波は、円形導波管1の放射開口の近傍において、被覆部材3を介して、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23に侵入する。よって、円形導波管1の実効的な内周の直径φD’は、円形導波管1の内周の直径φD、円形導波管1の厚さT、ニゲ23の幅W及びニゲ23の長さLを用いて、φD+2(T+W+L)となり、円形導波管1の内周の直径φDと比べて大きくなる。
【0017】
比較例のアンテナ用一次放射器の円形導波管の発生モードを図9に示す。円形導波管1の実効的な内周の直径φD’は、円形導波管1の内周の直径φDと比べて大きくなる。そして、円形導波管1の外径ネジ11は、円形導波管1に非軸対称性をもたらす。よって、TE11基本モードが発生するとともに、TM01高次モードが発生する。ここで、TE11基本モードでは、円形導波管1の断面内のほぼy軸方向に電気力線が走り、円形導波管1の断面内のほぼx軸方向に磁力線が走る。一方で、TM01高次モードでは、円形導波管1の断面内の動径方向に電気力線が走り、円形導波管1の断面内の方位角方向に磁力線が走る。
【0018】
そして、TE11基本モードに対して、TM01高次モードが重ね合わされる。よって、主偏波のE面(yz平面)指向性は、正面方向からビームチルトを発生させる。一方で、交差偏波のH面(xz平面)指向性は、目標仕様以下とならない。
【0019】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、気密構造及び防水構造を有するアンテナ用一次放射器において、円形導波管の挿入を規制するキャップの規制開口の内側端面近くに内径ネジのニゲが切られるときでも、主偏波のE面指向性が正面方向からビームチルトを発生させず、交差偏波のH面指向性が目標仕様以下となることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題を解決するために、リング形状の遮蔽部材が、キャップの内径ネジのニゲと被覆部材との間に配置され、円形導波管の放射開口内の中空領域を遮断せずにキャップの内径ネジのニゲに対して遮蔽するようにした。すると、円形導波管の実効的な内周の直径は、キャップの内径ネジのニゲが遮蔽された分だけ小さくなり、円形導波管の内周の直径に近くなる。そして、TE11基本モードは発生するものの、TM01高次モードはほとんど発生しない。
【0021】
具体的には、本開示は、先端部分である放射開口の外周に外径ネジが切られた円形導波管と、前記円形導波管を挿入される挿入開口の内周に内径ネジが切られ、前記円形導波管の挿入を規制する規制開口の内側端面近くに前記内径ネジのニゲが切られたキャップと、前記円形導波管の前記放射開口と前記キャップの前記規制開口との間に挟み込まれ、前記円形導波管の前記放射開口内の中空領域を外部に対して被覆する被覆部材と、前記キャップの前記内径ネジのニゲと前記被覆部材との間に配置され、前記円形導波管の前記放射開口内の中空領域を遮断せずに前記キャップの前記内径ネジのニゲに対して遮蔽するリング形状の遮蔽部材と、を備えることを特徴とするアンテナ用一次放射器である。
【0022】
この構成によれば、円形導波管の挿入を規制するキャップの規制開口の内側端面近くに内径ネジのニゲが切られるときでも、主偏波のE面指向性が正面方向からビームチルトを発生させず、交差偏波のH面指向性が目標仕様以下となることができる。
【0023】
また、本開示は、前記遮蔽部材は、前記円形導波管の前記放射開口と前記被覆部材との間に挟み込まれ、前記遮蔽部材の内周の半径は、前記円形導波管の前記放射開口の内周の半径以上であり、前記遮蔽部材の外周の半径は、前記キャップの前記内径ネジのニゲの外周の半径に等しいことを特徴とするアンテナ用一次放射器である。
【0024】
この構成によれば、遮蔽部材を円形導波管の放射開口と被覆部材との間に安定して保持することができる。そして、円形導波管の挿入を規制するキャップの規制開口の内側端面近くに内径ネジのニゲが切られるときでも、主偏波のE面指向性が確実に正面方向からビームチルトを発生させず、交差偏波のH面指向性が確実に目標仕様以下となることができる。
【0025】
また、本開示は、前記遮蔽部材は、前記円形導波管の前記放射開口と前記被覆部材との間に挟み込まれ、前記遮蔽部材の内周の半径は、前記円形導波管の前記放射開口の内周の半径以上であり、前記円形導波管の延伸方向から見て、前記遮蔽部材の外周と前記キャップの前記内径ネジのニゲの外周との間のギャップの幅は、前記キャップの前記内径ネジのニゲの幅の20%以下であることを特徴とするアンテナ用一次放射器である。
【0026】
この構成によれば、遮蔽部材を円形導波管の放射開口と被覆部材との間に安定して保持することができる。そして、遮蔽部材の外周とキャップの内径ネジのニゲの外周とが電気的に完全に接触しなくても、主偏波のE面指向性がほぼ確実に正面方向からビームチルトを発生させず、交差偏波のH面指向性がほぼ確実に目標仕様以下となることができる。
【発明の効果】
【0027】
このように、本開示は、気密構造及び防水構造を有するアンテナ用一次放射器において、円形導波管の挿入を規制するキャップの規制開口の内側端面近くに内径ネジのニゲが切られるときでも、主偏波のE面指向性が正面方向からビームチルトを発生させず、交差偏波のH面指向性が目標仕様以下となることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】従来技術のアンテナ用一次放射器の斜視分解図を示す図である。
図2】従来技術のアンテナ用一次放射器の側面断面図を示す図である。
図3】比較例及び本開示のキャップの製造方法を示す図である。
図4】比較例のアンテナ用一次放射器の斜視分解図を示す図である。
図5】比較例のアンテナ用一次放射器の側面断面図を示す図である。
図6】比較例のアンテナ用一次放射器の交差偏波レベルを示す図である。
図7】比較例のアンテナ用一次放射器のE面指向性及びH面指向性を示す図である。
図8】比較例のアンテナ用一次放射器の円形導波管の実効的な内周の直径を示す図である。
図9】比較例のアンテナ用一次放射器の円形導波管の発生モードを示す図である。
図10】本開示のアンテナ用一次放射器の斜視分解図を示す図である。
図11】本開示のアンテナ用一次放射器の側面断面図を示す図である。
図12】本開示のアンテナ用一次放射器の交差偏波レベルを示す図である。
図13】本開示のアンテナ用一次放射器のE面指向性及びH面指向性を示す図である。
図14】本開示のアンテナ用一次放射器の円形導波管の実効的な内周の直径を示す図である。
図15】本開示のアンテナ用一次放射器の円形導波管の発生モードを示す図である。
図16】本開示のアンテナ用一次放射器の側面断面図を示す図である。
図17】本開示のアンテナ用一次放射器のE面指向性及びH面指向性を示す図である。
図18】変形例のアンテナ用一次放射器の側面断面図を示す図である。
図19】変形例のアンテナ用一次放射器の側面断面図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0030】
本開示のアンテナ用一次放射器の斜視分解図及び側面断面図を図10、11に示す。本開示のアンテナ用一次放射器Pは、円形導波管1、キャップ2、被覆部材3及び遮蔽部材4を備える。以下では、従来技術と比べて、一致点を省略し、相違点を説明する。
【0031】
キャップ2は、円形導波管1を挿入される挿入開口の内周に内径ネジ21が切られるが、円形導波管1の挿入を規制する規制開口22の内側端面までは内径ネジ21を切ることができないため、円形導波管1の挿入を規制する規制開口22の内側端面近くに内径ネジ21のニゲ23が切られる。キャップ2の内径ネジ21のニゲ23の長さは、キャップ2の内径ネジ21の1.5~2ピッチ以上を必要とし、低周波では問題とならないが、高周波では問題となり得る。
【0032】
遮蔽部材4は、リング形状であり、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23と被覆部材3との間に配置され、円形導波管1の放射開口内の中空領域を遮断せずにキャップ2の内径ネジ21のニゲ23に対して遮蔽する。この目的のために、遮蔽部材4は、金属であり、その厚さは、表皮厚さ以上であることが望ましい。
【0033】
そして、遮蔽部材4は、円形導波管1の放射開口と被覆部材3との間に挟み込まれる。よって、遮蔽部材4を安定して保持することができる。なお、遮蔽部材4の内周の半径は、円形導波管1の放射開口の内周の半径に等しい。また、遮蔽部材4の外周の半径は、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23の外周の半径に等しい。つまり、円形導波管1の延伸方向から見て、遮蔽部材4の外周とキャップ2の内径ネジ21のニゲ23の外周との間のギャップの幅は、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23の幅の0%である。
【0034】
本開示のアンテナ用一次放射器の交差偏波レベルを図12に示す。本開示のアンテナ用一次放射器Pの使用波長λに対して、円形導波管1の内周の直径φDは、0.829λであり、被覆部材3(テフロングラスファイバシート)の厚さtは、0.012λである。
【0035】
ここで、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23内に位置する円形導波管1の外径ネジ11が円形導波管1に非軸対称性をもたらすものの、交差偏波レベルを計算するにあたり、円形導波管1の外径ネジ11という複雑な構造を計算に反映させず、円形導波管1の楕円形断面という単純な構造を計算で仮定した。
【0036】
そして、円形導波管1の放射開口内の中空領域は、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23に対して、遮蔽部材4によって遮蔽される。すると、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23の長さLは、実質的に被覆部材3の厚さtと同じL=0.012λとなり、交差偏波レベルは、約-45dBとなった。つまり、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23の長さLは、0.012λと比べて増えたとしても、遮蔽部材4によって遮蔽されているため、実質的に0.012λであった。特に、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23の長さLが、0.1λであるときも、交差偏波レベルは、目標仕様-35dB以下を満たした。
【0037】
本開示のアンテナ用一次放射器のE面指向性及びH面指向性を図13に示す。本開示のアンテナ用一次放射器Pの使用波長λに対して、円形導波管1の内周の直径φDは、0.829λであり、被覆部材3(テフロングラスファイバシート)の厚さtは、0.012λであり、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23の長さLは、0.1λであり、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23の幅Wは、0.0167λであり、遮蔽部材4(アルミニウムリング)の厚さt’は、0.002λであった。ここで、主偏波及び交差偏波のE面指向性及びH面指向性を、図13においても図12と同様な仮定で計算している。
【0038】
すると、主偏波のE面指向性は、正面方向からビームチルトを発生させなかった。そして、交差偏波のE面指向性は、目標仕様-35dB以下を満たした。一方で、主偏波のH面指向性は、正面方向からビームチルトを発生させなかった。そして、交差偏波のH面指向性は、目標仕様-35dB以下を満たした(さらに、図13では、図17と比べて、交差偏波のH面指向性が抑圧されている。)。図14、15では、この理由を説明する。
【0039】
本開示のアンテナ用一次放射器の円形導波管の実効的な内周の直径φD’を図14に示す。円形導波管1を伝搬する電磁波は、円形導波管1の放射開口の近傍において、遮蔽部材4の存在で、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23に侵入しない。よって、円形導波管1の実効的な内周の直径φD’は、円形導波管1の内周の直径φD、円形導波管1の厚さT、ニゲ23の幅W及び被覆部材3の厚さtを用いて、φD+2(T+W+t)となり、円形導波管1の内周の直径φDに近くなる。
【0040】
本開示のアンテナ用一次放射器の円形導波管の発生モードを図15に示す。円形導波管1の実効的な内周の直径φD’は、円形導波管1の内周の直径φDと比べてほぼ等しい。よって、TE11基本モードは発生するものの、TM01高次モードはわずかしか発生しない。ここで、TE11基本モードでは、円形導波管1の断面内のほぼy軸方向に電気力線が走り、円形導波管1の断面内のほぼx軸方向に磁力線が走る。一方で、TM01高次モードでは、円形導波管1の断面内の動径方向に電気力線が走り、円形導波管1の断面内の方位角方向に磁力線が走る。
【0041】
そして、TE11基本モードに対して、TM01高次モードが重ね合わされても、その影響は小さい。よって、主偏波のE面(yz平面)指向性は、正面方向からビームチルトを発生させない。一方で、交差偏波のH面(xz平面)指向性は、目標仕様以下となる。
【0042】
このように、円形導波管1の挿入を規制するキャップ2の規制開口22の内側端面近くに内径ネジ21のニゲ23が切られるときでも、主偏波のE面指向性が確実に正面方向からビームチルトを発生させず、交差偏波のH面指向性が確実に目標仕様以下となることができる。
【0043】
本開示の他のアンテナ用一次放射器の側面断面図を図16に示す。本開示の他のアンテナ用一次放射器Pは、円形導波管1、キャップ2、被覆部材3及び遮蔽部材4を備える。以下では、図16図11と比べて、一致点を省略し、相違点を説明する。
【0044】
遮蔽部材4は、円形導波管1の放射開口と被覆部材3との間に挟み込まれる。よって、遮蔽部材4を安定して保持することができる。なお、遮蔽部材4の内周の半径は、円形導波管1の放射開口の内周の半径に等しい。また、円形導波管1の延伸方向から見て、遮蔽部材4の外周とキャップ2の内径ネジ21のニゲ23の外周との間のギャップの幅は、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23の幅の20%以下である。つまり、遮蔽部材4の外周の半径は、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23の外周の半径より小さい。
【0045】
本開示の他のアンテナ用一次放射器のE面指向性及びH面指向性を図17に示す。本開示の他のアンテナ用一次放射器Pの使用波長λに対して、円形導波管1の内周の直径φDは、0.829λであり、被覆部材3(テフロングラスファイバシート)の厚さtは、0.012λであり、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23の長さLは、0.1λであり、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23の幅Wは、0.0167λであり、遮蔽部材4(アルミニウムリング)の厚さt’は、0.002λであり、遮蔽部材4の外周とキャップ2の内径ネジ21のニゲ23の外周との間のギャップの幅gは、0.0033λであった。
【0046】
ここで、ギャップの幅gが十分小さい(g/W≦0.2)ので、円形導波管1を伝搬する電磁波は、円形導波管1の放射開口の近傍において、遮蔽部材4の存在で、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23にほぼ侵入しない。よって、円形導波管1の実効的な内周の直径φD’は、円形導波管1の内周の直径φD、円形導波管1の厚さT、ニゲ23の幅W及び被覆部材3の厚さtを用いて、φD+2(T+W+t)となり、円形導波管1の内周の直径φDに近くなる。よって、TE11基本モードは発生するものの、TM01高次モードはわずかしか発生しない。そして、TE11基本モードに対して、TM01高次モードが重ね合わされても、その影響は小さい。
【0047】
すると、主偏波のE面指向性は、正面方向からビームチルトを発生させなかった。そして、交差偏波のE面指向性は、目標仕様-35dB以下を満たした。一方で、主偏波のH面指向性は、正面方向からビームチルトを発生させなかった。そして、交差偏波のH面指向性は、目標仕様-35dB以下を満たした(ただし、図17では、図13と比べて、上記のギャップの幅gが有限値であるため、交差偏波のH面指向性が抑圧されていない。)。
【0048】
このように、遮蔽部材4の外周とキャップ2の内径ネジ21のニゲ23の外周とが電気的に完全に接触しなくても、主偏波のE面指向性がほぼ確実に正面方向からビームチルトを発生させず、交差偏波のH面指向性がほぼ確実に目標仕様以下となることができる。
【0049】
本実施形態では、遮蔽部材4が、円形導波管1の放射開口と被覆部材3との間に挟み込まれるにあたり、遮蔽部材4の内周の半径は、円形導波管1の放射開口の内周の半径に等しくしている。変形例として、遮蔽部材4が、円形導波管1の放射開口と被覆部材3との間に挟み込まれるにあたり、遮蔽部材4の内周の半径は、円形導波管1の放射開口の内周の半径と比べて大きくてもよい。要するに、遮蔽部材4は、円形導波管1の放射開口内の中空領域を遮断せずにキャップ2の内径ネジ21のニゲ23に対して遮蔽すればよい。
【0050】
図18では、遮蔽部材4の内周の半径は、円形導波管1の放射開口の内周の半径と比べて大きく、図14と同様に、遮蔽部材4の外周の半径は、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23の外周の半径に等しい。図19では、遮蔽部材4の内周の半径は、円形導波管1の放射開口の内周の半径と比べて大きく、図16と同様に、円形導波管1の延伸方向から見て、遮蔽部材4の外周とキャップ2の内径ネジ21のニゲ23の外周との間のギャップの幅は、キャップ2の内径ネジ21のニゲ23の幅の20%以下である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本開示の気密構造及び防水構造を有するアンテナ用一次放射器は、ホーン又は反射鏡を有するレーダ、衛星通信又はマイクロ波回線のアンテナに適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
P:アンテナ用一次放射器
1:円形導波管
2:キャップ
3:被覆部材
4:遮蔽部材
5:内径ネジ切りバイト
11:外径ネジ
12:チョーク構造
21:内径ネジ
22:規制開口
23:ニゲ
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