(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/12 20060101AFI20240123BHJP
B60C 11/01 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
B60C11/12 D
B60C11/01 B
(21)【出願番号】P 2019225392
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100211395
【氏名又は名称】鈴木 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】林 信太郎
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-214303(JP,A)
【文献】特開2014-097697(JP,A)
【文献】特開2019-116194(JP,A)
【文献】特開2019-026018(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0148009(US,A1)
【文献】特表2018-511512(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0022163(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0182851(US,A1)
【文献】特開2019-26018(JP,A)
【文献】特開2018-144549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのトレッド踏面に、
タイヤ周方向に沿って延在する周方向溝と、該周方向溝及びトレッド端によって区画されるショルダ陸部と、を有するタイヤであって、
前記周方向溝に連通し、タイヤ幅方向外側に向かって延在する狭窄ネックと、該狭窄ネックに連なる溝状の気室と、からなるヘルムホルツ共鳴器を前記ショルダ陸部に有し、
前記気室は、トレッド踏面からタイヤ径方向内側に向かって延在するスリット部と、該スリット部からタイヤ径方向内側に向かって延在する拡幅部と、からなり、前記スリット部の溝幅は、前記拡幅部の溝幅よりも狭
く、
前記気室は、前記タイヤの接地端を跨いで延在している、タイヤ。
【請求項2】
前記気室は、前記気室の長手方向において、前記狭窄ネックと連通する端部とは反対側の端部に、前記気室の長手方向外側に向かってタイヤ径方向の深さが漸減するテーパ部を有する、請求項
1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記テーパ部を構成する斜面と前記トレッド踏面の法線とがなす角度は、10~40度である、請求項
2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記ヘルムホルツ共鳴器は、前記トレッド踏面において、タイヤ幅方向と略平行に直線状に延在している、請求項1から
3のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記ヘルムホルツ共鳴器は、前記トレッド踏面において、湾曲又は屈曲して延在している、請求項1から
3のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記狭窄ネック及び前記気室は屈曲部を介して連続しており、
前記気室の長手方向の、前記狭窄ネックの長手方向に対する角度は、0~40度である、請求項
5に記載のタイヤ。
【請求項7】
タイヤのトレッド踏面に、
タイヤ周方向に沿って延在する周方向溝と、該周方向溝及びトレッド端によって区画されるショルダ陸部と、を有するタイヤであって、
前記周方向溝に連通し、タイヤ幅方向外側に向かって延在する狭窄ネックと、該狭窄ネックに連なる溝状の気室と、からなるヘルムホルツ共鳴器を前記ショルダ陸部に有し、
前記気室は、トレッド踏面からタイヤ径方向内側に向かって延在するスリット部と、該スリット部からタイヤ径方向内側に向かって延在する拡幅部と、からなり、前記スリット部の溝幅は、前記拡幅部の溝幅よりも狭く、
前記気室は、前記気室の長手方向において、前記狭窄ネックと連通する端部とは反対側の端部に、前記気室の長手方向外側に向かってタイヤ径方向の深さが漸減するテーパ部を有する、タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行時の自動車から生じる騒音として、タイヤに起因する騒音が知られている。タイヤに起因する騒音には、例えば、気柱共鳴音が含まれる。タイヤにおいて、気柱共鳴音は、トレッド踏面の周方向に連続して延びる周方向溝と路面とによって囲繞される、管内の空気の共鳴により発生することが知られている。
【0003】
この気柱共鳴音の周波数は、一般的な乗用車では1000Hz周辺であることが多い。一般的に、人間の聴覚は1000Hz周辺の周波数帯域で特に敏感であることから、走行時の自動車の静粛性を向上させる上でも、気柱共鳴音の低減は有効である。
【0004】
例えば、特許文献1には、タイヤの陸部に、陸部表面に開口する気室部と、気室と周方向溝との連通をもたらす狭窄溝部とからなる共鳴器を設けられたタイヤにおいて、気室部の開口が路面によって塞がれることでこの共鳴器がヘルムホルツ共鳴器として動作して、気柱共鳴音が低減されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年、走行時の自動車から生じる騒音を低下させる要求が高まる中、タイヤにおける気柱共鳴音を低減させる技術の更なる向上が求められている。
【0007】
かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、気柱共鳴音の低減効果を向上させることができる、タイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るタイヤは、
タイヤのトレッド踏面に、
タイヤ周方向に沿って延在する周方向溝と、該周方向溝及びトレッド端によって区画されるショルダ陸部と、を有するタイヤであって、
前記周方向溝に連通し、タイヤ幅方向外側に向かって延在する狭窄ネックと、該狭窄ネックに連なる溝状の気室と、からなるヘルムホルツ共鳴器を前記ショルダ陸部に有し、
前記気室は、トレッド踏面からタイヤ径方向内側に向かって延在するスリット部と、該スリット部からタイヤ径方向内側に向かって延在する拡幅部と、からなり、前記スリット部の溝幅は、前記拡幅部の溝幅よりも狭い。
本発明に係るタイヤによれば、車両走行時にセンタ陸部に比べて路面と接触しにくいショルダ陸部に設けられたヘルムホルツ共鳴器の、気柱共鳴音の低減効果を向上させることができる。したがって、本発明に係るタイヤによれば、気柱共鳴音の低減効果を向上させることができる。
【0009】
本発明に係るタイヤでは、前記気室は、前記タイヤの接地端を跨いで延在していることが好ましい。
かかる構成を有するタイヤでは、ショルダ陸部で気室の空間を大きく確保し易く、ショルダ陸部よりもタイヤ幅方向の中央側でのタイヤの剛性低下を抑制できる。
【0010】
本発明に係るタイヤでは、前記気室は、前記気室の長手方向において、前記狭窄ネックと連通する端部とは反対側の端部に、前記気室の長手方向外側に向かってタイヤ径方向の深さが漸減するテーパ部を有することが好ましい。
かかる構成を有するタイヤでは、金型でタイヤが製造されたのち、金型が気室から抜けやすくなる。
【0011】
本発明に係るタイヤでは、前記テーパ部を構成する斜面と前記トレッド踏面の法線とがなす角度は、10~40度であることが好ましい。
かかる構成を有するタイヤでは、金型でタイヤが製造されたのち、更に金型が気室から抜けやすくなる。
【0012】
本発明に係るタイヤでは、前記ヘルムホルツ共鳴器は、前記トレッド踏面において、タイヤ幅方向と略平行に直線状に延在していることが好ましい。
かかる構成を有するタイヤでは、ヘルムホルツ共鳴器のトレッド踏面側の端部が摩耗しにくくなる。
【0013】
本発明に係るタイヤでは、前記ヘルムホルツ共鳴器は、前記トレッド踏面において、湾曲又は屈曲して延在していることが好ましい。
かかる構成を有するタイヤでは、タイヤのショルダ陸部に配置可能なヘルムホルツ共鳴器の気室の最大容量を確保し易く、ヘルムホルツ共鳴器の設計自由度が向上する。
【0014】
本発明に係るタイヤでは、前記狭窄ネック及び前記気室は屈曲部を介して連続しており、前記気室の長手方向の、前記狭窄ネックの長手方向に対する角度は、0~40度であることが好ましい。
かかる構成を有するタイヤでは、ヘルムホルツ共鳴器5の気柱共鳴音の低減効果を向上させつつ、屈曲部分での気柱共鳴音を増大しにくくすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、気柱共鳴音の低減効果を向上させることができる、タイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態におけるタイヤをタイヤ幅方向に沿って切断した、タイヤ幅方向断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すタイヤの、トレッド部のトレッド踏面の一部を示す、部分展開図である。
【
図3】
図3は、
図2に示すトレッド踏面の一部を拡大して示す、部分展開図である。
【
図5】
図5は、本発明の第2実施形態に係るタイヤの、トレッド部のトレッド踏面の一部を示す、部分展開図である。
【
図6】
図6は、
図5に示すトレッド踏面の一部を拡大して示す、部分展開図である。
【
図7】
図7は、本発明の第3実施形態に係るタイヤの、トレッド部のトレッド踏面の一部を示す、部分展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るタイヤの実施形態について、図面を参照して説明する。各図において共通する部材及び部位には同一の符号を付している。本明細書において、タイヤ幅方向とは、タイヤの回転軸と平行な方向をいう。タイヤ径方向とは、タイヤの回転軸と直交する方向をいう。タイヤ周方向とは、タイヤの回転軸を中心にタイヤが回転する方向をいう。
【0018】
本明細書において、「トレッド踏面」とは、リムに組み付けるとともに規定内圧を充填したタイヤを、最大負荷荷重を負荷した状態(以下、「最大負荷状態」ともいう。)で転動させた際に、路面と接触することになる、タイヤの全周に亘る外周面を意味する。また、「トレッド端」とは、トレッド踏面のタイヤ幅方向端を意味する。
【0019】
本明細書において、タイヤの「接地端」とは、リムに組み付けるとともに規定内圧を充填したタイヤを、最大負荷荷重の60%を負荷した状態(以下、「60%負荷状態」ともいう。)で転動させた際に、路面と接触することになる、タイヤの全周に亘る外周面のタイヤ幅方向端を意味する。
【0020】
本明細書において、「リム」とは、タイヤが生産され、使用される地域に有効な産業規格であって、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会)のJATMA YEAR BOOK、欧州ではETRTO (The European Tyre and Rim Technical Organisation)のSTANDARDS MANUAL、米国ではTRA (The Tire and Rim Association, Inc.)のYEAR BOOK等に記載されているまたは将来的に記載される、適用サイズにおける標準リム(ETRTOのSTANDARDS MANUALではMeasuring Rim、TRAのYEAR BOOKではDesign Rim)を指すが、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、タイヤのビード幅に対応した幅のリムをいう。「リム」には、現行サイズに加えて将来的に上記産業規格に含まれ得るサイズも含まれる。「将来的に記載されるサイズ」の例として、ETRTOのSTANDARDS MANUAL 2013年度版において「FUTURE DEVELOPMENTS」として記載されているサイズが挙げられる。
【0021】
本明細書において、「規定内圧」とは、上記のJATMA YEAR BOOK等の産業規格に記載されている、適用サイズ・プライレーティングにおける単輪の最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)をいい、上記の産業規格に記載のないサイズの場合は、タイヤを装着する車両ごとに規定される最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)をいうものとする。また、本明細書において、「最大負荷荷重」とは、上記の産業規格に記載されている適用サイズのタイヤにおける最大負荷能力に対応する荷重をいい、上記の産業規格に記載のないサイズの場合には、タイヤを装着する車両ごとに規定される最大負荷能力に対応する荷重をいうものとする。
【0022】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係るタイヤ1について、図面を参照して説明する。タイヤ1は、乗用車用のラジアルタイヤである。しかしながら、タイヤ1は、乗用車用のラジアルタイヤに限られず、他の種類のタイヤであってもよい。
【0023】
図1は、タイヤ1をタイヤ幅方向に沿って切断した、タイヤ幅方向断面図である。具体的には、タイヤ1は、一対のビード部11と、一対のサイドウォール部12と、トレッド部13とを有している。サイドウォール部12は、トレッド部13とビード部11との間に延在している。サイドウォール部12は、ビード部11のタイヤ径方向外側に位置している。タイヤ1は、有機繊維コード或いはスチールコードのプライからなるカーカス14、及びカーカス14とトレッド部13との間に配置したスチールコード層からなるベルト15等を備えている。タイヤ1は、タイヤ赤道面CLに対して対称な構成とされているが、タイヤ赤道面CLに対して非対称な構成とされていてもよい。タイヤ1は、上述の内部構造を備えるタイヤに限定されず、他の内部構造を備えるタイヤであってもよい。
【0024】
図2は、
図1に示すタイヤ1の、トレッド部13のトレッド踏面Tの一部を示す、部分展開図である。
図2において、タイヤ1は、トレッド部13のトレッド踏面Tに、タイヤ周方向に沿って延在する、周方向溝2を有している。より具体的には、タイヤ1は、タイヤ赤道面CLを挟む両側それぞれに、2つの周方向溝2a及び2bを有している。周方向溝2bは、タイヤ幅方向において、周方向溝2aよりもタイヤ赤道面CL側に配置されている。周方向溝2aは、タイヤ幅方向において、周方向溝2bよりもトレッド端TE側に配置されている。つまり、タイヤ1のトレッド踏面Tには、4つの周方向溝2a及び2bによって、3つのセンタ陸部4が区画されている。さらに、トレッド踏面Tには、タイヤ赤道面CLを挟む両側それぞれに、周方向溝2a及びトレッド端TEによってショルダ陸部3が区画されている。
【0025】
図2において、周方向溝2a及び2bは、タイヤ周方向に沿って、即ち、タイヤ周方向に対して略平行に、直線状に延在している環状溝である。しかしながら、周方向溝2a及び2bは、直線状に限られず、ジグザグ状又は波状の溝であってもよい。
【0026】
本明細書において、例えば、直線Xが直線Yに対して「略平行」であるとは、好ましくは、直線Xが直線Yに対して平行であることをいう。ただし、直線Xが直線Yに対して「略平行」であることには、直線Xが直線Yに対して±5度程度の範囲で傾斜していることが含まれてもよい。
【0027】
タイヤ1は、周方向溝2aに連通し、タイヤ幅方向外側に向かって延在する、ヘルムホルツ共鳴器5をショルダ陸部3に有している。図示例では、タイヤ1には、互いにタイヤ周方向に離隔して配置された複数本のヘルムホルツ共鳴器5が形成されている。
【0028】
図2に示されるように、ヘルムホルツ共鳴器5は、トレッド踏面Tにおいて、タイヤ幅方向と略平行に、直線状に延在している。しかしながら、本明細書において、ヘルムホルツ共鳴器5が「タイヤ幅方向外側に向かって延在する」ことには、ヘルムホルツ共鳴器5がタイヤ幅方向に対して傾斜してタイヤ幅方向に連続して延在することが含まれる。さらに、ヘルムホルツ共鳴器5は、直線状に限られず、湾曲形状、ジグザグ状又は波状の溝であってもよい。
【0029】
また、ヘルムホルツ共鳴器5は、タイヤ赤道面CLに対して互いに対称な位置に配置されているが、タイヤ赤道面CLに対して互いに非対称な位置に配置されていてもよい。したがって、一方のショルダ陸部3に配置されているヘルムホルツ共鳴器5のタイヤ周方向の位置が、他方のショルダ陸部3に配置されているヘルムホルツ共鳴器5のタイヤ周方向の位置と異なっていてもよい。さらに、両側のショルダ陸部3に配置されているヘルムホルツ共鳴器5の形状は、タイヤ赤道面CLに対して互いに対称な形状を有しているが、非対称な形状を有していてもよい。
【0030】
本実施形態におけるヘルムホルツ共鳴器5について、
図3、
図4A、
図4B及び
図4Cを参照して詳しく説明する。
図3は、
図2に示すトレッド踏面Tの一部を拡大して示す、部分展開図である。より具体的には、
図3は、
図2に示すトレッド踏面Tに形成された1本のヘルムホルツ共鳴器5を拡大して示している。また、
図4Aは、
図3の4A-4A線に沿う断面図である。
図4Bは、
図3の4B-4B線に沿う断面図である。
図4Cは、
図3の4C-4C線に沿う断面図である。なお、
図4A及び
図4Bは、ヘルムホルツ共鳴器5の長手方向(本実施形態ではタイヤ幅方向)に直交する断面をそれぞれ示している。
図4Cは、ヘルムホルツ共鳴器5の長手方向に平行な断面を示している。
【0031】
図3に示されるように、ヘルムホルツ共鳴器5は、周方向溝2aに連通し、タイヤ幅方向外側に向かって延在する狭窄ネック5aと、狭窄ネック5aに連なる溝状の気室5bと、からなる。本実施形態の気室5bは、狭窄ネック5aからタイヤ幅方向外側に向かって延在している。さらに、本実施形態のヘルムホルツ共鳴器5の気室5bは、ショルダ陸部3において、タイヤ1の接地端Eを跨いで延在している。
【0032】
ここで、ヘルムホルツ共鳴器5における共鳴周波数fは、狭窄ネック5aの長さをL、狭窄ネック5aの断面積をA、気室5bの体積をV、音速をcとしたとき、下記式<1>で表わされる。したがって、狭窄ネック5aの長さL、狭窄ネック5aの断面積A、及び気室5bの体積Vを適宜設定して、ヘルムホルツ共鳴器5の共鳴周波数fを気柱共鳴音の振動数にすることができる。例えば、ヘルムホルツ共鳴器5の共鳴周波数fが1000Hz周辺の周波数帯域に含まれるように、ヘルムホルツ共鳴器5が設計されていてもよい。
【数1】
【0033】
ただし、狭窄ネック5aの長さLは、実測値ではなく、ヘルムホルツ共鳴器5の内部の空気に加えて、開口部周辺の空気も付加的に振動することを考慮して、開口端補正された実効値とされることが好ましい。
【0034】
図4Aに示されるように、狭窄ネック5aは、狭窄ネック5aの長手方向に直交する断面視において、トレッド踏面Tからタイヤ径方向内側に向かって延在する溝である。狭窄ネック5aは、例えば、路面接地時に閉塞するサイプであってもよい。狭窄ネック5aの溝幅Wa、及び深さDaは、上述のとおり、タイヤ1の気柱共鳴音の振動数に応じて、任意に定められていてもよい。ここで、狭窄ネック5aの溝幅Wa及び深さDaは、狭窄ネック5aの溝幅及び深さのうち最大値を意味する。なお、本実施形態の狭窄ネック5aは長手方向の位置によらず一様な溝幅及び深さを有する。
【0035】
図4Bに示されるように、気室5bは、気室5bの長手方向に直交する断面視において、トレッド踏面Tからタイヤ径方向内側に向かって延在するスリット部51と、スリット部51からタイヤ径方向内側に向かって延在する拡幅部52と、からなる。気室5bにおいて、スリット部51の溝幅Wb1は、拡幅部52の溝幅Wb2よりも狭い。ここで、スリット部51の溝幅Wb1及び拡幅部52の溝幅Wb2は、それぞれスリット部51の溝幅及び拡幅部52の溝幅のうち最大値を意味する。また、
図4A及び
図4Bを比較して、本実施形態では、狭窄ネック5aの溝幅Waに比べて、気室5bのスリット部51の溝幅Wb1は広い。また、本実施形態では、狭窄ネック5aの溝幅Waに比べて、気室5bの拡幅部52の溝幅Wb2は広い。但し、気室5bの溝幅Wb1、溝幅Wb2及び深さDbは、上述のとおり、タイヤ1の気柱共鳴音の振動数に応じて、任意に定められていてもよい。
【0036】
拡幅部52は、
図4Bに示されるように、スリット部51と連接している端部からタイヤ径方向内側に向かって、気室5bの溝幅が漸増する形状を有している。しかしながら、拡幅部52の、気室5bの長手方向に垂直な断面の形状は、図示例に限られず、円状及び多角形状等、任意の形状とされてもよい。
【0037】
気室5bは、
図4Cに示されるように、気室5bの長手方向において、狭窄ネック5aと連通する端部とは反対側の端部に、気室5bの長手方向外側に向かってタイヤ径方向の深さが漸減するテーパ部53を有している。好ましくは、気室5bの幅方向断面視において、テーパ部53を構成する斜面とトレッド踏面Tの法線とがなす角度θ1は、10~40度である。ここで、「トレッド踏面Tの法線」とは、路面と接地するトレッド踏面Tの表面のうち、気室5bの幅方向断面視においてテーパ部53と連続する位置に引いた法線を意味する。本実施形態では、テーパ部53は、スリット部51及び拡幅部52に亘って設けられている。しかしながら、テーパ部53は、スリット部51及び拡幅部52の一方に設けられていてもよい。
【0038】
テーパ部53を設けることで、金型でタイヤ1が製造されたのち、金型が気室5bから抜けやすくなる。また、角度θ1を10~40度にすることで、金型でタイヤ1が製造されたのち、金型が気室5bから更に抜けやすくなる。
【0039】
また、上述のとおり、気室5bが、拡幅部52よりも溝幅が狭い、スリット部51を有していることで、接地領域の内側であるか外側であるかに関わらず、スリット部51が、タイヤ転動時に閉塞して、或いは十分に狭くなって、拡幅部52が気室5bとして機能することができる。したがって、車両走行時に路面と十分に接触するセンタ陸部4に比べて路面と接触しにくいショルダ陸部3に設けられたヘルムホルツ共鳴器5の、気柱共鳴音の低減効果を向上させることができる。
【0040】
さらに、ヘルムホルツ共鳴器5を、一般的にセンタ陸部4よりもタイヤ幅方向の長さが長いショルダ陸部3に設けることで、ヘルムホルツ共鳴器5の形状、大きさ、及び位置等の自由度が向上する。
【0041】
また、本実施形態では、上述のとおり、気室5bは、ショルダ陸部3において、タイヤ1の接地端Eを跨いで延在している。このような構成により、気室5bの空間を大きく確保し易い。そのため、ショルダ陸部3よりもタイヤ幅方向の中央側に別の共鳴器を設けない構成を実現し易くなる。ショルダ陸部3よりもタイヤ幅方向の中央側に別の共鳴器を設けない構成とすれば、タイヤ幅方向の中央部でのタイヤ1の剛性低下を抑制できる。つまり、気柱共鳴音の低減と、タイヤ幅方向の中央部での剛性低下の抑制と、を両立し得る。
【0042】
また、本実施形態では、上述のとおり、ヘルムホルツ共鳴器5は、トレッド踏面Tにおいて、タイヤ幅方向と略平行に延在している。そのため、ヘルムホルツ共鳴器5のトレッド踏面T側の端部が摩耗しにくくなる。
【0043】
また、本実施形態では、上述のとおり、拡幅部52は、スリット部51と連接している端部からタイヤ径方向内側に向かうにしたがって、溝幅が漸増する形状を有している。そのため、金型でタイヤ1が製造されたのち、金型が気室5bから抜けやすくなる。
【0044】
本実施形態において、ヘルムホルツ共鳴器5は、ショルダ陸部3内で終端しているが、トレッド端TEを超えて延在するヘルムホルツ共鳴器としてもよい。このようなヘルムホルツ共鳴器の詳細は後述する(
図7参照)。
【0045】
本実施形態において、狭窄ネック5aの溝幅Waは、タイヤ1の気柱共鳴音の振動数に応じて、任意に定められていてもよい。但し、狭窄ネック5aは、トレッド踏面T内に位置し、溝幅Waは路面接地時に閉塞する大きさであることが好ましい。この観点から、狭窄ネック5aの溝幅Waは、例えば、0.6mm~1.0mmとされることが好ましい。
【0046】
本実施形態において、気室5bのスリット部51の溝幅Wb1は、タイヤ1の気柱共鳴音の振動数に応じて、任意に定められてもよい。但し、スリット部51は、トレッド踏面T内に位置するか否かに関わらず、タイヤ転動時に閉塞し易い大きさであることが好ましい。この観点から、気室5bのスリット部51の溝幅Wb1は、例えば、0.1mm~0.5mmとされることが好ましい。
【0047】
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態に係るタイヤ1について、図面を参照して説明する。第2実施形態では、トレッド踏面Tにおける、タイヤ1のヘルムホルツ共鳴器5の配置及び形状が、第1実施形態と異なっている。以下に、第1実施形態と異なる点を中心に第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同じ構成を有する部位には同じ符号を付す。
【0048】
図5は、タイヤ1の、トレッド部13のトレッド踏面Tを示す、部分展開図である。また、
図6は、
図5に示すトレッド踏面Tの一部を拡大して示す、部分展開図である。
【0049】
図6に示されるように、ヘルムホルツ共鳴器5は、トレッド踏面Tにおいて、屈曲して延在している。より具体的には、狭窄ネック5aが、タイヤ幅方向と略平行に、直線状に延在しており、かつ、狭窄ネック5aの端部から、狭窄ネック5aの長手方向に対して角度θ2の方向に、気室5bのスリット部51が延在している。つまり、本実施形態のヘルムホルツ共鳴器5の狭窄ネック5a及び気室5bは屈曲部54を介して連続している。但し、ヘルムホルツ共鳴器5は、トレッド踏面Tにおいて、湾曲して延在していてもよい。
【0050】
かかる構成によれば、ヘルムホルツ共鳴器5をタイヤ幅方向と略平行に直線状に配置する構成に比べて、タイヤ1のショルダ陸部3に配置可能なヘルムホルツ共鳴器5の長さを長くすることができる。そのため、タイヤ1のショルダ陸部3に配置可能なヘルムホルツ共鳴器5の気室5bの最大容量を大きく確保し易い。したがって、ヘルムホルツ共鳴器5の設計自由度が向上する。
【0051】
本実施形態において、気室5bの長手方向の、狭窄ネック5aの長手方向に対する角度θ2は、任意に定められていてもよい。角度θ2が大きくなることによって、タイヤ1のショルダ陸部3に配置可能なヘルムホルツ共鳴器5の長さを、より長くすることができる。一方で、角度θ2が小さくなることによって、ヘルムホルツ共鳴器5のトレッド踏面T側の端部が摩耗しにくくなる。これらの観点から、気室5bの長手方向の、狭窄ネック5aの長手方向に対する角度θ2は、0~40度であることが好ましい。これによって、ヘルムホルツ共鳴器5の長手方向の長さを確保して気柱共鳴音の低減効果を向上させつつ、ヘルムホルツ共鳴器5のトレッド踏面T側の端部の摩耗を抑制できる。
【0052】
(第3実施形態)
以下、本発明の第3実施形態に係るタイヤ1について、図面を参照して説明する。第3実施形態では、タイヤ1のヘルムホルツ共鳴器5がトレッド端TEを跨いでトレッド踏面T外へと延在している点が、第1実施形態及び第2実施形態と異なっている。以下に、第1実施形態と異なる点を中心に第3実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同じ構成を有する部位には同じ符号を付す。
【0053】
図7は、タイヤ1の、トレッド部13のトレッド踏面Tを示す、部分展開図である。
【0054】
図7に示されるように、ヘルムホルツ共鳴器5は、周方向溝2aに連通し、タイヤ幅方向外側に向かって、トレッド端TEを跨いで延在している。より具体的には、ヘルムホルツ共鳴器5の気室5bが、トレッド端TEを跨いで延在している。このように、気室5bの少なくとも一部が最大接地領域外に位置していても、上述のとおり、気室5bのスリット部51がタイヤ転動時に閉塞され、拡幅部52が気室5bとして機能する。そのため、最大接地領域外である、ショルダ陸部3のタイヤ幅方向外側まで延在する大きな気室5bを確保することができる。
【0055】
本発明を諸図面及び実施形態に基づき説明してきたが、当業者であれば本発明に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形及び修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各実施形態又は各実施例に含まれる構成又は機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能である。また、各実施形態に含まれる構成又は機能等は、他の実施形態又は他の実施例に組み合わせて用いることができ、複数の構成又は機能等を1つに組み合わせたり、分割したり、或いは一部を省略したりすることが可能である。
【0056】
例えば、上述した各実施形態において、ヘルムホルツ共鳴器5の気室5bは、ショルダ陸部3において、タイヤ1の接地端Eを跨いで延在しているものとして説明した。しかしながら、気室5bは、ショルダ陸部3において、タイヤ1の接地端Eを跨がず、タイヤ1の接地端Eよりもタイヤ幅方向内側に配置されていてもよい。
【0057】
例えば、上述した各実施形態において、タイヤ1は、空気を充填されるものとして説明した。しかしながら、タイヤ1には、任意の気体を充填することができる。例えば、タイヤ1には、窒素ガス等の不活性ガスを充填することができる。また、例えば、タイヤ1には、気体に代えて又は加えて、液体、ゲル状物質、又は粉粒体等を含む、任意の流体を充填することができる。
【符号の説明】
【0058】
1:タイヤ、 11:ビード部、 12:サイドウォール部、 13:トレッド部、 14:カーカス、 15:ベルト、 2(2a、2b):周方向溝、 3:ショルダ陸部、 4:センタ陸部、 5:ヘルムホルツ共鳴器、 5a:狭窄ネック、 5b:気室、 51:スリット部、 52:拡幅部、 53:テーパ部、 54:屈曲部、 T:トレッド踏面、 TE:トレッド端、 C:タイヤ赤道面、 E:接地端、 Wa、Wb、Wc:溝幅、 Da、Db:深さ、 θ1、θ2:角度