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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】成膜処理用部品及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/08 20160101AFI20240123BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
C23C4/08
C23C14/34 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020023299
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2021127499
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】598006336
【氏名又は名称】アルバックテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】門脇 豊
(72)【発明者】
【氏名】吉田 敏伸
(72)【発明者】
【氏名】赤瀬 仁栄
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-146524(JP,A)
【文献】特表2019-536894(JP,A)
【文献】国際公開第92/013360(WO,A1)
【文献】特開2008-291299(JP,A)
【文献】特開平09-025557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/08
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド部材と、
成膜処理雰囲気に晒される前記シールド部材の表面に設けられた合金溶射膜
を具備し、
前記合金溶射膜は、アルミニウムと、スカンジウム及びハフニウムの少なくともいずれかの第1元素とを有し、
前記第1元素は、前記合金溶射膜に0.05wt%以上1.5wt%以下含まれる
成膜処理用部品
【請求項2】
請求項1に記載された成膜処理用部品であって、
前記合金溶射膜は、前記第1元素のほかに、ジルコニウム及びチタンの少なくともいずれかの第2元素をさらに含む
成膜処理用部品
【請求項3】
請求項1または2に記載された成膜処理用部品であって、
前記合金溶射膜の表面の算術平均粗さRaは、8μm以上40μm以下である
成膜処理用部品。
【請求項4】
請求項に記載された成膜処理用部品であって、
前記第2元素として、前記合金溶射膜に、ジルコニウムが0.1wt%以上0.5wt%以下含まれ、または、チタンが0.1wt%以上3.0wt%以下含まれる
成膜処理用部品
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つに記載された成膜処理用部品であって、
前記シールド部材は、前記成膜処理雰囲気を囲む防着板、またはスパッタリングターゲットの周りを囲むシールド部材である
成膜処理用部品
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つに記載された成膜処理用部品であって、
前記シールド部材の表面に設けられた合金溶射膜に、成膜用材料であるタングステン(W)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、タングステンシリサイド(WSi)、チタン窒化物(TiN)、シリコン、シリコン炭化物又はシリコン窒化物からなる膜が形成される
成膜処理用部品
【請求項7】
成膜源と、
前記成膜源に対向する基板支持部と、
前記成膜源と前記基板支持部との間の成膜処理雰囲気、または前記成膜源を囲み、アルミニウムと、スカンジウム及びハフニウムの少なくともいずれかの第1元素とを有する合金溶射膜が前記成膜処理雰囲気に向けて設けられた成膜処理用部品と、
前記成膜源、前記基板支持部、及び前記成膜処理用部品を収容する真空容器と
を具備し、
前記第1元素は、前記合金溶射膜に0.05wt%以上1.5wt%以下含まれる
成膜装置。
【請求項8】
請求項7に記載された成膜装置であって、
前記合金溶射膜は、前記第1元素のほかに、ジルコニウム、チタン、及びシリコンの少なくともいずれかの第2元素をさらに含む
成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金溶射膜及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリング法、CVDなどにより真空容器内で基板に膜を形成する技術がある。このとき、真空容器内に設けられた基板以外の成膜処理用部品(例えば、防着板など)にも膜が付着する場合がある。このような膜が成膜処理用部品からパーティクルとして剥離すると、パーティクルが膜中に入り込み、膜製品の歩留まり低下を引き起こす場合がある。
【0003】
このような理由から、成膜処理用部品の表面には、所体の表面粗さを持った溶射膜を形成する方法がある(例えば、特許文献1参照)。このような溶射膜を成膜処理用部品の表面に形成することにより、成膜処理用部品からの不要な膜剥離が効果的に抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-291299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、基板に形成する膜の材料として、膜応力が比較的高い材料を選択したり、長時間成膜を遂行し成膜処理用部品に形成される膜の厚みが比較的厚くなったりする場合には、溶射膜が溶射膜上に堆積した膜の応力に打ち負けてしまうと、溶射膜が膜と一緒に成膜処理用部品から剥離する可能性がある。従って、このような成膜処理用部品に形成する溶射膜においては、より耐剥離性に優れたものが要求されている。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、成膜処理用部品からの剥離をより抑制させた合金溶射膜、並びに、その合金溶射膜を備えた成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る合金溶射膜は、成膜処理雰囲気に晒される成膜処理用部品の表面に設けられた溶射膜であって、アルミニウムと、スカンジウム及びハフニウムの少なくともいずれかの第1元素とを有する。
【0008】
このような合金溶射膜であれば、応力が高い被膜が合金溶射膜に堆積したとしても、成膜処理用部品から合金溶射膜が剥がれにくくなる。
【0009】
上記の合金溶射膜においては、上記溶射膜は、上記第1元素のほかに、ジルコニウム、チタン、及びシリコンの少なくともいずれかの第2元素を含んでもよい。
【0010】
このような合金溶射膜であれば、第1元素のほかに、ジルコニウム、チタン、及びシリコンの少なくともいずれかの第2元素を含んでいるので、成膜処理用部品から合金溶射膜が剥がれにくくなる。
【0011】
上記の合金溶射膜においては、上記第1元素は、上記溶射膜に0.05wt%以上1.5wt%以下含まれてもよい。
【0012】
このような合金溶射膜であれば、第1元素は、溶射膜に0.05wt%以上1.5wt%以下含まれているので、成膜処理用部品から合金溶射膜が剥がれにくくなる。
【0013】
上記の合金溶射膜においては、上記第2元素は、上記溶射膜にジルコニウムが0.1wt%以上0.5wt%以下含まれ、または、チタンが0.1wt%以上3.0wt%以下含まれてもよい。
【0014】
このような合金溶射膜であれば、第2元素は、溶射膜に上記濃度で含まれているので、成膜処理用部品から合金溶射膜が剥がれにくくなる。
【0015】
上記の合金溶射膜においては、上記成膜処理用部品は、上記成膜処理雰囲気を囲む防着板、またはスパッタリングターゲットの周りを囲むシールド部材であってもよい。
【0016】
このような合金溶射膜は、成膜処理雰囲気を囲む防着板、またはスパッタリングターゲットの周りを囲むシールド部材から剥がれにくくなる。
【0017】
上記の合金溶射膜においては、上記成膜処理雰囲気に晒される基板に、高融点金属膜が形成されてもよい。
【0018】
このような合金溶射膜であれば、成膜処理用部品に高融点金属膜が形成されても、成膜処理用部品から合金溶射膜が剥がれにくくなる。
【0019】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る成膜装置は、成膜源と、成膜源と、基板支持部と、成膜処理用部品と、真空容器とを具備する。
上記基板支持部は、上記成膜源に対向する。
上記成膜処理用部品は、上記成膜源と上記基板支持部との間の成膜処理雰囲気、または上記成膜源を囲み、アルミニウムと、スカンジウム及びハフニウムの少なくともいずれかの第1元素とを有する合金溶射膜が上記成膜処理雰囲気に向けて設けられている。
上記真空容器は、上記成膜源、上記基板支持部、及び上記成膜処理用部品を収容する。
【0020】
このような成膜装置であれば、応力が高い被膜が合金溶射膜に堆積したとしても、成膜処理用部品から合金溶射膜が剥がれにくくなる。
【0021】
上記の成膜装置においては、上記合金溶射膜は、上記第1元素のほかに、ジルコニウム、チタン、及びシリコンの少なくともいずれかの第2元素を含んでもよい。
成膜装置。
【0022】
このような成膜装置であれば、第1元素のほかに、ジルコニウム、チタン、及びシリコンの少なくともいずれかの第2元素を含んでいるので、成膜処理用部品から合金溶射膜が剥がれにくくなる。
【発明の効果】
【0023】
以上述べたように、本発明によれば、成膜処理用部品からの剥離をより抑制させた合金溶射膜、並びに、その合金溶射膜を備えた成膜装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】成膜装置の一例を示す模式的断面図である。
図2】合金溶射膜が照射された成膜処理用部品の一部断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付す場合があり、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。
【0026】
本実施形態の合金溶射膜が利用される成膜装置の一例を説明する。図1は、成膜装置の一例を示す模式的断面図である。
【0027】
成膜装置1は、真空容器10と、支持台20と、スパッタリングターゲット30と、成膜処理用部品40、41、42と、磁気回路部50と、合金溶射膜60、61、62と、排気機構70と、ガス供給機構75と、電源80とを具備する。支持台20には、成膜処理の対象物である基板21が設置されている。
【0028】
真空容器10は、減圧状態を維持可能な容器である。真空容器10は、支持台20、スパッタリングターゲット30、及び成膜処理用部品40、41、42等を収容する。真空容器10には、配管71を通じて、例えば、真空ポンプ、バルブ等の排気機構70が接続されている。排気機構70によって真空容器10内の雰囲気が所定の圧力に維持される。真空容器10には、導入管76を通じて、流量計、弁等のガス供給機構75が設置される。ガス供給機構75は、真空容器10内に放電ガスを供給する。放電ガスは、例えば、不活性ガス(Ar、Ne、He等)である。また、真空容器10には、真空容器10内の圧力を計測する圧力計が設置されてもよい。
【0029】
支持台20は、成膜装置1の基板支持部である。支持台20は、真空容器10内に設置されている。支持台20は、スパッタリングターゲット30に対向する。支持台20は、基板21を支持する。支持台20において、基板21が載置される載置面は、導電体でもよく、絶縁体でもよい。例えば、載置面には、静電チャックが設置されてもよい。支持台20には、基板21を所定温度に保つ温度調節機構が内蔵されてもよい。基板21は、適用されるデバイスに応じて適宜変更され、例えば、ガラス基板、石英基板等の絶縁基板、シリコンウェーハ等の半導体基板、金属基板等である。
【0030】
スパッタリングターゲット30(以下、ターゲット30)は、絶縁スペーサ11を介して真空容器10内に設置される。ターゲット30は、支持台20に対して対向するように配置される。ターゲット30は、ターゲット本体であるターゲット材31と、基材32と、接合部材33とを有する。ターゲット30は、成膜装置1の成膜源である。
【0031】
ターゲット材31は、プラズマによってスパッタリングされるスパッタリング面31sを有する。ターゲット材31は、基板21に形成する膜の組成に応じて、適宜変更される。ターゲット材31は、金属、半金属、またはセラミックである。例えば、ターゲット材31は、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、タングステンシリサイド(WSi)、チタン窒化物(TiN)等の高融点金属、シリコン(Si)、シリコン炭化物(SiC)等の半導体材である。ターゲット材は、これらの金属、半金属に限らず、シリコン窒化物(SiN)等でもよい。ターゲット材の平面形状は、基板21の平面形状に対応して適宜調整される。
【0032】
基材32は、バッキングプレートであり、ターゲット材31の裏面に設けられる。基材32は、径の異なる部分321、322を有する。基材32は、部分322が部分321から突き出た凸状体になっている。換言すれば、基材32においては、部分321、322により段差が形成される。部分322の外径は、例えば、ターゲット材31の直径と略同じである。基材32の内部には、冷媒を流す流路が設けられてもよい。
【0033】
接合部材33は、ターゲット材31と基材32との間に設けられる。接合部材33は、ターゲット材31と基材32とを密に接合する。接合部材33は、例えば、インジウム等のろう材である。
【0034】
磁気回路部50は、支持台20とは反対側のターゲット30の裏側に配置される。磁気回路部50は、ターゲット30に平行に配置されたヨーク51と、ヨーク51に設けられた磁石52とを有する。磁石52は、スパッタリング面31sとは反対側のターゲット30の裏面に臨むように配置されている。
【0035】
スパッタリング面31s付近には、磁石52から放出された磁場が漏洩して、この漏洩した磁場にプラズマ中の電子等が捕捉される。これにより、スパッタリング面31s付近には、高密度のプラズマが形成されて、所謂マグネトロンスパッタリングが行われる。磁石52の形状、個数は、放電の安定性、基板21の成膜層の面内分布、または、ターゲット30の使用効率向上の観点から適宜調整される。
【0036】
成膜処理用部品40は、環状のシールド部材である。成膜処理用部品40は、金属製であり、例えば、電位が接地電位となったアースシールドである。成膜装置1を上面視した場合、成膜処理用部品40は、ターゲット30の外周を囲む。成膜処理用部品40は、ターゲット30のスパッタリング面31sを開放し、ターゲット30の外周に沿って真空容器10に配置される。成膜処理用部品40は、例えば、真空容器10の上部に固定されている。成膜処理用部品40の形状は、一例であり、図示した形状に限らない。
【0037】
成膜処理用部品40の材料は、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム等である。成膜処理用部品40とターゲット30との間には、例えば、0.1mm~数mm程度の隙間が設けられる。これにより、成膜時には所謂パッシェン則から成膜処理用部品40とターゲット30との間隙では放電が起きにくくなり、プラズマがスパッタリング面31s付近に集まり安定したプラズマ放電が持続する。
【0038】
合金溶射膜60は、成膜処理用部品40に溶射されている。例えば、成膜処理用部品40が成膜処理雰囲気12に向かう成膜処理用部品40の表面に合金溶射膜60が形成されている。
【0039】
合金溶射膜60は、アルミニウム(Al)と、アルミニウムのほかに、スカンジウム(Sc)及びハフニウム(Hf)の少なくともいずれかの第1元素を有する。さらに、合金溶射膜60は、ジルコニウム(Zr)及びチタン(Ti)の少なくともいずれかの第2元素を含んでもよい。または、第2元素として、シリコン(Si)が選択されてもよい。
【0040】
ここで、Sc及びHfの少なくともいずれかの第1元素の合計は、合金溶射膜60に0.05wt%以上1.5wt%以下含まれる。この場合、合金溶射膜60は、Al-Sc合金溶射膜、Al-Hf合金溶射膜、及びAl-Sc-Hf合金溶射膜のいずれかである。
【0041】
また、第2元素を含有させた場合、Al-Sc-Zr合金溶射膜またはAl-Hf-Zr合金溶射膜では、Zrが0.1wt%以上0.5wt%以下含まれてもよく、あるいは、Al-Sc-Ti合金溶射膜またはAl-Hf-Ti合金溶射膜では、Tiが0.1wt%以上3wt%以下含まれてもよく、あるいは、Al-Sc-Si合金溶射膜またはAl-Hf-Si合金溶射膜では、Siが0.5wt%以上5wt%以下含まれてもよい。
【0042】
ここで、第1元素の重量%が0.05wt%より小さくなると、合金溶射膜中で再結晶が起きやすくなり、熱履歴によって合金溶射膜が柔らかくなる傾向にある。これにより、合金溶射膜は、その上に堆積する被膜の応力に負けてしまい、被膜とともに成膜処理用部品から剥がれる可能性がある。一方、第1元素の重量%が1.5wt%よりも大きくなると、材料硬度が高くなり溶射に用いる材料加工が難しくなり好ましくない。
【0043】
ここで、第2元素として、Tiが0.1wt%よりも小さくなると再結晶抑制効果が小さくなり、3wt%よりも大きくなると金属間化合物の影響が大きくなり、溶射膜強度が低下して好ましくない。あるいは、Zrが0.1wt%よりも小さくなると再結晶抑制効果が小さくなり、0.5wt%よりも大きくなると溶射材料の硬度が高くなり溶射材料加工には向かなくなる。
【0044】
成膜処理用部品41は、成膜処理雰囲気12を囲む防着板である。成膜処理用部品41は、例えば、真空容器10の上部から下部に向けて真空容器10の内壁に沿って設けられる。さらに、成膜処理用部品41は、真空容器10の中部から支持台20に向けて配置される。成膜処理用部品41の形状は、一例であり、図示した形状に限らない。成膜処理用部品41は、金属製であり、例えば、その電位は、接地電位になっている。成膜処理用部品41の材料は、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム等である。
【0045】
合金溶射膜61は、成膜処理用部品41に溶射されている。例えば、合金溶射膜61は、成膜処理用部品41が成膜処理雰囲気12に向かう成膜処理用部品41の表面に形成されている。合金溶射膜61の成分は、合金溶射膜60の成分と同じである。
【0046】
成膜処理用部品42は、ターゲット30を基板21に向けて開放したり、スパッタリング面31sを遮蔽したりするシャッタである。成膜処理用部品42は、例えば、スパッタリング面31sと略平行に設けられる。成膜処理用部品42の形状は、一例であり、図示した形状に限らない。成膜処理用部品42は、金属製であり、例えば、その電位は、接地電位になっている。成膜処理用部品42の材料は、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム等である。
【0047】
合金溶射膜62は、成膜処理用部品42の基板21に対向する主面と、ターゲット30に対向する主面とに溶射されている。合金溶射膜62の成分は、合金溶射膜60の成分と同じである。
【0048】
電源80は、線路81を介してターゲット30に接続される。電源80は、ターゲット30に電力を供給する。電源80は、DC電源でもよく、VHF電源でもよく、RF電源でもよい。電源80がVHF電源、RF電源等の高周波電源のとき、電源80と、ターゲット30との間の線路81には、整合回路が設けられてもよい。
【0049】
真空容器10内に放電ガスが導入され、ターゲット30に電力が投入されると、ターゲット30と、真空容器10または成膜処理用部品41との間で容量結合による放電が起きる。これにより、プラズマがスパッタリング面31s付近に形成される。そして、プラズマに晒されたスパッタリング面31sからは、成膜処理雰囲気12に向かってスパッタリング粒子が飛散する。
【0050】
この結果、基板21には、ターゲット材31を材とする被膜が形成される。同時に成膜処理用部品40、41、42も成膜処理雰囲気12に晒されることから、合金溶射膜60、61、62にも被膜が堆積する。
【0051】
図2は、合金溶射膜が照射された成膜処理用部品の一部断面を示す模式図である。ここで、成膜処理用部品4は、成膜処理用部品40、41、42のいずれかを示し、合金溶射膜6は、合金溶射膜60、61、62のいずれかを示す。成膜中には、合金溶射膜6の表面6sが成膜処理雰囲気12に晒されることになる。
【0052】
成膜処理用部品4の溶射面4sは、合金溶射膜6が溶射される前に絶縁粒子によってブラスト処理が施されている。例えば、溶射面4sは、3μm以上の算術平均粗さRaを有している。例えば、溶射面4sの算術平均粗さRaが3μmより小さくなると、成膜処理用部品4と合金溶射膜6との密着性が悪くなり好ましくない。
【0053】
合金溶射膜6は、アーク溶射、フレーム溶射、プラズマ溶射、及びコールドスプレー溶射等のいずれか手法により、溶射面4sに形成される。合金溶射膜6は、溶射直後において、例えば、非晶質膜である。合金溶射膜6の厚みは、例えば、100μm以上400μm以下である。合金溶射膜6の表面6sは、8μm以上40μm以下の算術平均粗さRaを有する。
【0054】
成膜処理用部品4(シールド部材、防着板、及びシャッタ等)は、一般的には水冷機構を備えていない。従って、成膜処理用部品4は、成膜処理雰囲気12に晒されることによって、その温度が350℃以上になる場合がある。本実施形態では、成膜処理用部品4が成膜処理雰囲気12に晒される熱履歴によって成膜処理用部品4が例えば350℃以上に加熱される温度を"プロセス温度"と呼ぶ。
【0055】
このような条件で、成膜処理用部品4に形成する溶射膜として、純粋Al(Alを99.00wt%以上含有)で構成された溶射膜、あるいはAl-Cu合金で構成された溶射膜(以下、Al溶射膜とする。)を用いた場合、溶射膜中で再結晶が起きやすくなる。この結果、Al溶射膜は、熱履歴によって柔らかくなり、結局の所、Al溶射膜が被膜とともに成膜処理用部品4から剥がれる現象が引き起こされる。
【0056】
さらに、Al溶射膜に堆積する膜が応力の高い被膜であるとき、Al溶射膜の成膜処理用部品4に対する密着力が該応力に打ち負けてしまい、被膜がAl溶射膜とともに成膜処理用部品4から剥がれる場合がある。
【0057】
このように、成膜処理用部品4に溶射膜としてAl溶射膜を選択した場合、熱履歴によってAl溶射膜が被膜とともに剥がれ、パーティクル発生を引き起こす。
【0058】
これに対し、本実施形態の合金溶射膜6は、アルミニウム(Al)と、スカンジウム(Sc)及びハフニウム(Hf)の少なくともいずれかの第1元素を有する。さらに、合金溶射膜6は、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、及びシリコン(Si)の少なくともいずれかの第2元素を含む場合もある。
【0059】
このような合金溶射膜6であれば、合金溶射膜6が熱履歴を受けてプロセス温度に達したとしても、合金溶射膜6中では再結晶が起きにくくなっている。この結果、合金溶射膜6は、熱履歴を受けてプロセス温度に達したとしても、所望の硬さを維持し、成膜処理用部品4から剥がれにくくなる。
【0060】
例えば、Al-0.2wt%Scからなる合金溶射膜6を用いた場合、プロセス温度が260℃~370℃の範囲では、熱履歴とともにビッカース硬度が20HVから、30HV~70HVの範囲にまで上昇する例がある。あるいは、Alと、0.1wt%~0.7%のScとが混在した合金溶射膜6を用いた場合、再結晶開始温度が約350℃であるのに対し、再結晶完了温度が約570℃になる例がある。すなわち、AlにScに添加することにより、プロセス温度程度では、合金溶射膜6の再結晶が抑制され、合金溶射膜6は、所望の硬度を維持する。
【0061】
【表1】
【0062】
表1は、比較例としてのAl溶射膜及び本実施形態の合金溶射膜6のそれぞれに、WSi膜とSiN膜とを堆積した場合の溶射膜のシールドライフを示す表である。ここで、シールドライフ(kW/h)とは、プロセス温度で成膜を継続したとき、被膜が堆積した溶射膜が成膜処理用部品4から剥がれるまでのターゲット30に投入する電力(kW)と成膜時間(h)とを掛け合わせた値である。すなわち、シールドライフは、被膜の応力に対する溶射膜の剥離耐性を示す指標である。シールドライフが大きいほど、被膜の応力に対する溶射膜の剥離耐性が高いことを意味する。なお、基板としては、SUS304板を用いた。
【0063】
表1に示すように、被膜がWSi膜のとき、シールドライフは、Al溶射膜で500kW・hであるのに対し、合金溶射膜6では、600kW・hに上昇している。被膜がSiN膜のとき、シールドライフは、Al溶射膜で250kW・hであるのに対し、合金溶射膜6では、400kW・hに上昇している。
【0064】
このように合金溶射膜6を成膜用処理用部品6に形成した場合、Al溶射膜を成膜処理用部品4に形成した場合に比べて、被膜に対する剥離耐性が大きく上昇することが分かった。例えば、溶射でなくスパッタリングで形成したAlSc膜では、適切な表面粗さが得られず、また、その上に堆積する膜の応力に耐えうるほどの厚みが得られないので好ましくない。
【0065】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。
【符号の説明】
【0066】
1…成膜装置
4、40、41、42…成膜処理用部品
4s…溶射面
6、60、61、62…合金溶射膜
6s…表面
10…真空容器
11…絶縁スペーサ
12…成膜処理雰囲気
20…支持台
21…基板
30…スパッタリングターゲット(ターゲット)
31…ターゲット材
31s…スパッタリング面
32…基材
33…接合部材
50…磁気回路部
51…ヨーク
52…磁石
70…排気機構
71…配管
75…ガス供給機構
76…導入管
80…電源
81…線路
321、322…部分
図1
図2