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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】音響カプラ、および、超音波撮像方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/00 20060101AFI20240123BHJP
【FI】
A61B8/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020043227
(22)【出願日】2020-03-12
(65)【公開番号】P2021142135
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川畑 健一
(72)【発明者】
【氏名】吉川 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】竹島 啓純
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-153553(JP,A)
【文献】国際公開第2019/039009(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0113886(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送信するプローブと被検体との間に配置される音響カプラであって、
前記プローブにより押圧されていない場合に所定の立体形状を有するゲルを含み、
前記所定の立体形状を有するゲルは、水を含有した共重合体からなるハイドロゲルであり、
前記共重合体は、アクリルアミドと、N,N'-メチレンビスアクリルアミドとを共重合させた共重合体であり、前記アクリルアミドの前記N,N'-メチレンビスアクリルアミドに対するモル比は、90より大きく3500以下であり、
前記ハイドロゲルのヤング率は、前記被検体のヤング率以下である10kPa以下であり、
前記ハイドロゲルは、当該ハイドロゲルに力を加えた際の長さの変位を、初期長さで除して求めた変形率の、当該ハイドロゲルの破断直前まで前記力を加えた場合の値である最大変形率が、100%以上である
ことを特徴とする音響カプラ。
【請求項2】
超音波を送信するプローブと被検体との間に配置される音響カプラであって、
所定の立体形状を有するゲルを含み、
前記所定の立体形状を有するゲルは、水を含有した共重合体からなるハイドロゲルと、アルギン酸が重合したアルギン酸ゲルとが絡み合ったダブルネットワークゲルであり、
前記共重合体は、アクリルアミドと、N,N'-メチレンビスアクリルアミドとを共重合させた共重合体であり、前記アクリルアミドの前記N,N'-メチレンビスアクリルアミドに対するモル比は、90より大きく3500以下であり、
前記ハイドロゲルのヤング率は、前記被検体のヤング率以下である10kPa以下であり、
前記ハイドロゲルは、当該ハイドロゲルに力を加えた際の長さの変位を、初期長さで除して求めた変形率の、当該ハイドロゲルの破断直前まで前記力を加えた場合の値である最大変形率が、100%以上である
ことを特徴とする音響カプラ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の音響カプラであって、前記モル比は、120以上3500以下であることを特徴とする音響カプラ。
【請求項4】
請求項1に記載の音響カプラであって、前記ハイドロゲルは、水に、前記アクリルアミドと前記N,N'-メチレンビスアクリルアミドを溶解した原料溶液の前記アクリルアミドと前記N,N'-メチレンビスアクリルアミドを共重合させたものであり、
前記原料溶液の容積に対する前記アクリルアミドと前記N,N'-メチレンビスアクリルアミドの合計濃度(重量/容積)は、3.5%以上13.0%未満であることを特徴とする音響カプラ。
【請求項5】
請求項に記載の音響カプラであって、前記合計濃度は、3.5%以上11.0%以下であることを特徴とする音響カプラ。
【請求項6】
請求項1または2に記載の音響カプラであって、前記ハイドロゲルは、ヤング率が5kPa以下であることを特徴とする音響カプラ。
【請求項7】
請求項に記載の音響カプラであって、前記アルギン酸ゲルは、多価カチオンイオンによりアルギン酸が配位重合したものであることを特徴とする音響カプラ。
【請求項8】
請求項7に記載の音響カプラであって、前記ダブルネットワークゲルは、水に、前記アクリルアミドと、前記N,N'-メチレンビスアクリルアミドと、アルギン酸ナトリウムとを溶解した原料溶液の、前記アクリルアミドと、前記N,N'-メチレンビスアクリルアミドを共重合させた後、前記多価カチオンイオンによりアルギン酸ナトリウムを配位重合させたものであり、
前記原料溶液の容積に対する前記アクリルアミドと前記N,N'-メチレンビスアクリルアミドの合計濃度(重量/容積)は、3.5%以上13.0%未満であり、
前記原料溶液の容積に対する前記アルギン酸ナトリウムの濃度(重量/容積)は、0.1%以上0.4%以下であることを特徴とする音響カプラ。
【請求項9】
請求項1に記載の音響カプラであって、前記音響カプラは、前記所定の立体形状を有するゲルを保持する保持材をさらに含むことを特徴とする音響カプラ。
【請求項10】
請求項に記載の音響カプラであって、前記保持材は、前記所定の立体形状を有するゲルに密着した層状であることを特徴とする音響カプラ。
【請求項11】
請求項に記載の音響カプラであって、前記保持材は、容器形状であり、容器形状の保持材の内側に前記所定の立体形状を有するゲルが充てんされた構造であることを特徴とする音響カプラ。
【請求項12】
請求項に記載の音響カプラであって、前記保持材と前記所定の立体形状を有するゲルは、多層構造であることを特徴とする音響カプラ。
【請求項13】
請求項に記載の音響カプラであって、前記音響カプラは、前記所定の立体形状を有するゲルを保持する保持材をさらに含み、
前記保持材は、前記所定の立体形状を有するゲルのハイドロゲルとは異なるハイドロゲルと、アルギン酸を重合したアルギン酸ゲルとが絡み合ったダブルネットワークゲルからなり、
前記保持材の前記アルギン酸ゲルと、前記所定の立体形状を有するゲルの前記アルギン酸ゲルは、前記所定の立体形状を有するゲルと前記保持材との界面において連続していることを特徴とする音響カプラ。
【請求項14】
超音波を送信するプローブと被検体との間に、請求項1ないし13のいずれか1項記載の音響カプラが配置されている状態で、前記プローブから超音波を送信し、前記音響カプラを通過させて前記被検体内に照射し、
前記超音波の照射によって前記被検体から前記プローブへ向かう超音波を前記音響カプラを通過させて前記プローブに到達させて受信し、
前記プローブが受信した超音波信号を用いて超音波画像を生成することを特徴とする超音波撮像方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を計測対象に照射して得られた信号を元に計測対象内の情報を得る際に、超音波送受信プローブと照射対象との間に配置されて音響カップリングを行うカプラに関する。
【背景技術】
【0002】
現代の医療において、体内の情報を非観血的に得られる画像診断は必須の技術であり、広く用いられている。特に、画像診断モダリティの中で、小型で安価なソリューションを提供可能な超音波診断装置への期待は大きい。
【0003】
X線CTやMRIといった他のモダリティでは、装置の中に被検者が入って全身を撮像するのに対し、超音波診断装置では、被検者の撮像対象となる部位にプローブを押し当てリアルタイムで体内情報を取得する。このような撮像方法を用いることは、関心領域のみを詳細に撮像することが可能であるという良い面がある一方、プローブの押し当ての程度や角度といった撮像者の手技が撮像される画像に直接反映され、撮像者が変わると、得られる画像も変わってしまう「術者依存性」と呼ばれる問題にもつながる。
【0004】
超音波診断装置による撮像において術者依存性が生じる原因のひとつが、ゼリーの塗布の仕方が撮像者によって微妙に異なることにある。超音波診断装置のプローブは、被検者の皮膚に押し当てられ、超音波を被検者の内部に向かって照射するが、このとき、被検者の皮膚の表面に存在する体毛や毛穴が、超音波エネルギーの被検者内への投入の妨げとなる。このため、撮像者は、超音波プローブと生体とをカップリングさせるために、音響インピーダンスが生体に近いゼリーをプローブと皮膚との間に塗布し、ゼリーの上からプローブを押し当てて撮像する。しかしながら、ゼリーは非定形であるため、プローブを押し付けられることにより薄く押し広げられ、プローブは、皮膚とほぼ接している状態になる。このため、ゼリーで皮膚の表面の凹凸を覆うことは容易ではない。特に、生体表面の凹凸が顕著な関節等の部位においては、表面の凹凸をゼリーで十分に埋めて平滑化することは難しい。これにより、撮像者によるゼリー塗布の微妙な差が、撮像結果の顕著な差となって表れる。
【0005】
また、ゼリーを用いる場合、皮膚表面に傷がある場合には、塗布および検査後の除去を慎重に行う必要があるため、作業効率を向上させることは容易ではない。
【0006】
このようなゼリーの問題を解決するため、音響インピーダンスが生体に近いゲルや樹脂を音響カプラとして用いることが、例えば特許文献1,2に提案されている。
【0007】
一方、医療用でなく産業用途においても、物体に超音波を照射して物体の内部の欠陥などを検出する超音波非破壊検査が行われている。超音波非破壊検査は、物体にX線を当てることなく検査を実施可能であり、また装置が小型であることから、物体への負荷が少なく簡便な手法として用いられている。この超音波非破壊検査においても、医療用と同様に、物体の表面形状によっては超音波プローブと物体表面との接触が問題となる。このため、ゲルを音響カプラとして用いることが非特許文献1に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-195964号公報
【文献】特開2018-175598号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】「超音波診断用 エコーゲルパッド Echo Gel PAD」、八十島プロシード株式会社、2020年、P.1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のゲルや樹脂製の音響カプラは、臨床現場でほとんど使用されていない。その理由は、従来のゲルや樹脂は、超音波撮像の音響カプラとして必要とされる音響的特性と機械的特性を十分に両立できていないためである。
【0011】
音響カプラとして必要とされる音響的特性は、プローブから照射される超音波を生体に入射させるために、生体(≒水)に近い音響特性(音速・減衰)を持つことである。
【0012】
一方、音響カプラとして必要とされる機械的特性としては、プローブを押し当てられても破壊されず(割れず)、変形して計測対象と密着し、さらに、プローブを計測対象に押し付けすぎた場合でも計測対象の表面を変形させないことが重要である。
【0013】
これまで知られているゲルや樹脂製の音響カプラの音響特性は、超音波の減衰率が高く、計測対象の深部に到達する前に減衰するため、深部を撮像することは難しかった。そのため、従来の音響カプラは、一部の機関において、計測対象の表在部位を撮像する際に使用されているに過ぎなかった。
【0014】
また、従来のゲル、特にハイドロゲルを用いた音響カプラの機械的特性は、変形性が低く、硬さと変形性の両立が困難であった。このため、従来の音響カプラは、プローブを押し付けても破壊されず、変形して計測対象と密着し、しかも、計測対象の表面を変形させないという条件を満たしていなかった。
【0015】
本発明の目的は、対非熟練者やロボット等によりプローブを移動させた場合であっても、破壊されにくく、変形して計測象と密着し、しかも、計測対象の表面を変形させない音響カプラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、重超音波を送信するプローブと被検体との間に配置される音響カプラであって、水を含有した共重合体を含むハイドロゲルを含むものを提供する。共重合体は、1個のエチレン性不飽和基を有する単官能性モノマーと、2~6個のエチレン性不飽和基を有する多官能性モノマーとの共重合体である。単官能性モノマーの多官能性モノマーに対するモル比は、90より大きく3500以下である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の音響カプラは、低弾性率と高変形性とを両立することができるため、プローブを動かす撮像者に関わらず、破壊されず、変形して計測対象と密着し、しかも、計測対象の表面を変形させないため、高画質の超音波撮像を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)本発明の実施形態の音響カプラ10の形状例を示す斜視図、(b)実施形態の保持材12により主ゲル11を支持した構造の音響カプラの形状例を示す斜視図。
図2】(a)~(d)実施形態の保持材12により主ゲル11を支持した構造の音響カプラ10の形状例を示す斜視図。
図3】実施例1で製造した音響カプラの原料溶液の単官能性モノマー/多官能性モノマーのモル比と、単官能性モノマー+多官能性モノマーの濃度%(w/v)と、得られたゲルが所定の最大変形率とヤング率の条件を満たすかどうかとを示すグラフ。
図4】実施例2で製造した音響カプラの原料溶液の単官能性モノマー/多官能性モノマーのモル比と、単官能性モノマー+多官能性モノマーの濃度%(w/v)と、得られたゲルが所定の最大変形率とヤング率の条件を満たすかどうかとを示すグラフ。
図5】実施例3で製造した音響カプラの原料溶液の単官能性モノマー/多官能性モノマーのモル比と、単官能性モノマー+多官能性モノマーの濃度%(w/v)と、得られたゲルが所定の最大変形率とヤング率の条件を満たすかどうかとを示すグラフ。
図6】実施例4で製造した音響カプラの原料溶液の単官能性モノマー/多官能性モノマーのモル比と、単官能性モノマー+多官能性モノマーの濃度%(w/v)と、得られたゲルが所定の最大変形率とヤング率の条件を満たすかどうかとを示すグラフ。
図7】実施形態において、最大変形率とヤング率の計測方法を示すグラフ。
図8】実施例1において製造したハイドロゲルの最大変形率と、その原料溶液のアクリルアミドとビスアクリルアミドの合計濃度との関係を示すグラフ。
図9】実施例1において製造したハイドロゲルのヤング率と、その原料溶液のアクリルアミドとビスアクリルアミドの合計濃度との関係を示すグラフ。
図10】アルギン酸を添加しない実施例1と、アルギン酸を0.2%添加する実施例3において、ハイドロゲルの最大変形率と、その原料溶液のアクリルアミドとビスアクリルアミドの合計濃度との関係を示すグラフ。
図11】アルギン酸を添加しない実施例1と、アルギン酸を0.2%添加する実施例3において、ハイドロゲルのヤング率と、その原料溶液のアクリルアミドとビスアクリルアミドの合計濃度との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明者らは、鋭意検討を行い、水に近い音響特性(音速・減衰)と、プローブを押し当てられても破壊されず(割れず)、変形して計測対象と密着し、さらに、計測対象の表面を変形させない機械的特性とを両立できる音響カプラは、低弾性率で高変形性のハイドロゲルにより実現できることを見出した。具体的には、水を含有した共重合体を含むハイドロゲルであって、共重合体は、1個のエチレン性不飽和基を有する単官能性モノマーと、2~6個のエチレン性不飽和基を有する多官能性モノマーとの共重合体である。この単官能性モノマーと多官能性モノマーの比率を適切な範囲に設定することにより、超音波撮像用の音響カプラとして用いるのに適した、低弾性率と高変形性とを両立することのできるハイドロゲルが得られる。
【0020】
例えば、単官能性モノマーの多官能性モノマーに対するモル比(=単官能性モノマー/多官能性モノマー)が90より大きく3500以下である場合、ハイドロゲルは音響カプラとして必要な低弾性率で高変形性を実現できる。モル比は、120以上3500以下である場合さらに望ましい。
【0021】
また、原料溶液における1個のエチレン性不飽和基を有する単官能性モノマーと、2~6個のエチレン性不飽和基を有する多官能性モノマーとの合計濃度(重量w/容積v)が3.5%以上13.0%未満であることが望ましく、11.0%以下であることがより望ましい。
【0022】
上記モル比の範囲に設定することにより、ハイドロゲルは、弾性率として、ヤング率10kPa以下、高変形性として、最大変形率100%以上を達成できる。なお、弾性率(ヤング率)は、5kPa以下であることがさらに望ましく、最大変形率は、200%以上であることが望ましい。
【0023】
ここでいう最大変形率は、音響カプラの上端および下端をそれぞれ上方および下方に引張り、変位(=(引っ張り後の上下方向の長さ)-(引っ張り前の初期長さ))を計測し、破断直前まで引っ張った変位の最大値を初期長さで除した値を、最大変形率(=変位/初期長さ)として求めたものである。
【0024】
音響カプラのヤング率を10kPa以下にすることにより、生体のヤング率と同等以下になるため、プローブで生体に押し付けられても、その表面を変形させにくい。また、最大変形率を100%以上にすることにより、プローブで生体に押し付けられた場合に計測対象の表面で変形して計測対象と密着する。
【0025】
また、本実施形態の音響カプラは、高変形性であるため、プローブを押し付けられても破壊されず、変形することができる。特に撮像者が非熟練者あるいはロボット等での自動的プローブ移動を用いる計測である際に、異なる部位間での計測対象が変形を生じにくく、画質変化が生じにくい。
【0026】
例えば、単官能性モノマーとしては、アクリルアミドを、多官能性モノマーとしては、N,N'-メチレンビスアクリルアミド(以下、ビスアクリルアミドと呼ぶ)を用いることができる。
【0027】
なお、本実施形態は、単官能性モノマーとしては、アクリルアミド以外に(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドの中から選ばれた一つ以上を用いることができる。
【0028】
また、多官能性モノマーとしては、ビスアクリルアミド以外に、N,N'-メチレンビス(メタ)アクリルアミドN,N'-エチレンビス(メタ)アクリルアミドを用いることもできる。また、両者を混合して用いてもよい。
【0029】
単官能性モノマーと多官能性モノマーを共重合させる際にラジカル重合開始剤およびラジカル開始促進剤を用いてもよい。ラジカル重合開始剤としては、どのようなものでもよいが、例えば、APS(過硫酸アンモニウム)やKPS(過硫酸カリウム)などを用いることができる。また、ラジカル重合促進剤としてはTEMED(N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン)を用いることができる。
【0030】
また、上述の1個のエチレン性不飽和基を有する単官能性モノマーと、2~6個のエチレン性不飽和基を有する多官能性モノマーとの共重合体のハイドロゲルは、多価カチオンイオンによる配位重合を行う多糖類を含んでいてもよい。この場合、この多糖類は、原料溶液の容積に対する濃度(重量/容積)が0.1%以上0.4%以下で含有されていることが望ましい。多糖類は、アルギン酸およびペクチンの少なくともの一つを含む。この多糖類は、ゲルを構成し、共重合体のハイドロゲルと、ダブルネットワーク構造を構成していることが好ましい。具体的には、アルギン酸またはペクチンを多価金属イオンと反応させて形成したハイドロゲルを用いることができる。
【0031】
製造方法の一例としては、上述の共重合体を重合させる前の原料溶液にアルギン酸塩またはペクチンを添加しておき、共重合体を重合させた後に、多価金属イオン溶液に浸漬することにより、アルギン酸またはペクチンをゲル化させる。これにより、1個のエチレン性不飽和基を有する単官能性モノマーと、2~6個のエチレン性不飽和基を有する多官能性モノマーとの共重合体のハイドロゲルのネットワークと、アルギン酸のゲルのネットワークとが、絡み合ったダブルネットワークゲルを構成することができる。
【0032】
このダブルネットワークゲルは、共重合体のハイドロゲルの変形を、他のハイドロゲル(アルギン酸またはペクチンのゲル)が支えるため、力が加わっても割れを生じにくく、最大変形量の大きなゲルを提供することができる。
【0033】
例えば、上述のアルギン酸塩としては、例えば、アルギン酸ナトリウムやアルギン酸カリウムを用いることができる。多価金属イオンとしては、カルシウムイオン、例えばカルシウム塩溶液を用いる。
【0034】
本実施形態のハイドロゲルを音響カプラとして、超音波を送信するプローブと計測対象との間に配置することにより、プローブを計測対象に強く押しあてても、最大変形率100%以上の音響カプラが変形して計測対象の変形を防ぐ。よって、プローブの押し当て方によらず、高画質で計測対象を計測することが可能となる。また、本実施形態の音響カプラは、最大変形率100%以上という高い変形性を持っているため、プローブを押し当てられても破壊(割れ)を生じない。
【0035】
また、一般にアクリルアミドを共重合した共重合体が水を含むハイドロゲルは、音響特性が水に近い。よって、本実施形態のハイドロゲルを音響カプラとして用いることにより、水に近い音響特性(音速・減衰)を得ることができる。よって、本実施形態の音響カプラは、超音波を減衰させることなく深部まで到達させて撮像することができ、術者依存性を抑制した撮像を行うことができる。
【0036】
<音響カプラを用いた超音波撮像方法>
本実施形態の音響カプラを用いた超音波撮像方法について説明する。
【0037】
超音波を送信するプローブの超音波送信面と計測対象との間に、本実施形態のゲル(音響カプラ)を挟むように配置する。もしくは、計測対象の周囲をゲルによって取り囲む、または被検体をゲルに埋め込むように配置し、ゲルの外側表面にプローブの超音波送信面を接触させる。この状態で、プローブから超音波を送信し、音響カプラを通過させて被検体内に照射する。
【0038】
超音波の照射によって被検体からプローブへ向かう超音波を音響カプラを通過させてプローブに到達させて受信する。プローブが受信した超音波信号を用いて超音波画像を生成する。
【0039】
これにより、被検体表面の凹凸の影響を音響カプラが変形することにより抑制できる。しかも、超音波を減衰も抑制しながら深部まで到達させることができるため、術者依存性を抑制した超音波画像が得られる。
【0040】
なお、ゲルは、一方の面がプローブの超音波を送信する面と、他方の面が被検体の体表面とに密着するように配置することが望ましい。そのため、ゲルを撮像部位に応じて予め適切な形状に成形しておくことも可能である。
【0041】
例えば、腹部等の平らな体表を撮像する場合には、パッド(平板)形状のゲルを用い、肘や膝等の関節や乳房等の平たんではない立体形状(凹凸形状)の部位を撮像する場合には、立体形状の部位を包み込んで平坦とする形状に成形しておいたゲルを用いることが可能である。
【0042】
本実施形態のゲルは、減衰率が水と同等であるため、厚さに分布のあるゲルを用いた場合であっても、ゲルを通過することにより減衰率の分布がほとんど生じず、凹凸形状の影響を抑制して撮像を行うことができる。
【0043】
<音響カプラの形状>
本発明における音響カプラは、上述のように変形性に優れたハイドロゲルによって構成されているため、用途に応じてその形状を変化させることが可能である。そのため、どのような形状であってもよい。例えば、図1(a)のように、上記ハイドロゲルを直方体形状に成形したものを音響カプラ10として用いることができる。また、音響カプラの大きさは、上面が、プローブの超音波を送信する振動子が配列されている領域(超音波送信面)よりも大きければよい。
【0044】
また、本発明における音響カプラは、図1(b)および図2(a)~(d)に示すように上記ハイドロゲル(以下、主ゲルと呼ぶ)11を保持材12によって保持した複合体構造であってもよい。主ゲル11は、上述したハイドロゲルであり、最大変形率100%以上、ヤング率10kPa以下のものを用いる。なお、図1(b)の音響カプラは、主ゲル11自体の変形性が、単体では取り扱うのが難しいほどの変形性を有している場合であっても、保持材12によって主ゲルを保持することができるため、取り扱いが容易な音響カプラを提供できる。例えば、主ゲル11の上に計測対象を配置した場合、計測対象の一部が主ゲル11の中に沈み込んだり、計測対象全体が自重等によって完全に主ゲル11の中に埋まり込んで主ゲル11によって周囲を包まれるような変形性の高さであってもよい。このように変形性の高い主ゲル11であっても、保持材12によって音響カプラとしての形状を維持でき、取り扱いやすい音響カプラを構成することができる。具体的には、最大変形率150%以上の条件を満たすゲルを好適に用いることができる。
【0045】
保持材12は、主ゲルの取り扱いを効率的に行うためのものであり、主ゲル11を介した音響的計測を妨げず、主ゲル11を保持できる程度の剛性を備えていれば、特に素材としての制約はない。例えば樹脂や、金属性のシートや、主ゲル11よりも変形性の小さい特性を有するゲル等を、保持材12として用いることができる。
【0046】
図1(b)および図2(a)、(b)の音響カプラは、層状の保持材12の上面に、層状の主ゲル11を搭載した構造である。保持材12と主ゲル11との界面は、図1(b)および図2(a)のように平面であってもよいし、図2(b)のように、凹凸形状が設けられていてもよい。図1(b)や図2(a)、(b)の構造を音響カプラをプローブと計測対象との間に挟んで計測を行う場合、プローブが計測対象に向かって押し付けられた場合、主ゲル11の層が変形することにより、プローブの力を計測対象に伝えないため計測対象の変形を防止できる。音響カプラは、主ゲル11をプローブに接する側に配置した場合であっても、計測対象に接する側に配置した場合であっても、主ゲル11が変形することにより計測対象の変形を防止できる。
【0047】
図2(c)の音響カプラは、保持材12を容器形状とし、内部に主ゲル11が充填されている構造である。図2(c)の構造は、主ゲル11の最大変形率が大きい場合であっても取り扱いやすい音響カプラを構成できる。また、計測対象を主ゲル11の上に搭載することにより、計測対象が主ゲル11の中に沈みこんだり、計測対象が周囲を主ゲルによって包まれた状態で、プローブを保持材12の側面や下面に接触させることにより、計測対象を側面4方向と下面の合わせて5方向から計測することができる。また、計測対象が上面まで主ゲル11の中に沈みこんでいる場合には、上面からも計測できるため、6方向から計測できる。
【0048】
図2(d)の音響カプラは、主ゲル11を容器形状とし、内部に保持材12が挿入されている構造である。図2(c)の構造は主ゲル11の最大変形率が大きい場合であっても取り扱いやすい音響カプラを構成できる。
【0049】
図1(b)および図2(a)~(d)の構造の音響カプラにおいて、主ゲル11と保持材12との界面は、固着されていてもよいし、固着されておらず、剥離可能な構成であってもよい。
【0050】
また、図1(a)および図2(a)~(d)の構成において、主ゲル11と保持材12の数は、それぞれ複数であってもよく、例えば、図2(a)~図2(d)の構造において、主ゲル11と保持材12とが交互に複数層積層された構造にすることも可能である。複数層積層された主ゲル11と保持材12との界面が剥離可能な構成にすることにより、計測対象に応じて、主ゲルの数を調節することができる。例えば、主ゲル11と保持材12との5層交互に積層された音響カプラを用意しておき、計測対象に応じて、主ゲル11と保持材12を2層ずつ剥離して除去し、主ゲル11と保持材12とが3層交互に積層された音響カプラを計測に用いることができる。
【0051】
また、主ゲル11と保持材12とが複数層交互に積層された音響カプラでは、最表面の主ゲル11または保持材12を剥離することにより、最表面を主ゲル11とするか保持材12とするかを、計測対象に対応させて選択することができる。
【0052】
また、特に、主ゲル11として、エチレン性不飽和基を有する単官能性モノマーと多官能性モノマーとの共重合体のハイドロゲルを形成した後、多価金属イオン溶液に浸漬して、アルギン酸やペクチン等をゲル化させたダブルネットワークゲルを用いる場合、保持材12としても、多価金属イオン溶液に浸漬してアルギン酸やペクチン等をゲル化させるプロセスを行うゲルを用い、主ゲル11と保持材12とを同時にダブルネットワークゲル化させることも可能である。これにより、主ゲル11と保持材12は共通するゲル(アルギン酸やペクチン等のゲル)とそれぞれダブルネットワークゲルを構成し、共通するゲルが界面においても連続したゲルとなるため、主ゲル11と保持材12との結合性を高めることができる。
【0053】
なお、本実施形態のハイドロゲルを用いた音響カプラのさらに詳しい組成および製造方法については、以下の実施例により明らかにする。
【実施例
【0054】
以下、本発明の音響カプラの実施例について説明する。
【0055】
<実施例1>
【0056】
実施例1の音響カプラとしてハイドロゲルを以下のように製造した。
【0057】
原料としては、蒸留水、1個のエチレン性不飽和基を有する単官能性モノマーを用意し、これらを所定の濃度で溶解した複数の原料溶液を調製した。
【0058】
濃度は、図3に示したように、原料溶液(容積v)におけるアクリルアミドとビスアクリルアミドとの合計(重量w)の濃度%(w/v)が3.5%、4.0%、5.0%、6.0%、7.0%、8.0%、11.0%、13.0%のいずれかであって、かつ、ビスアクリルアミドに対するアクリルアミドのモル比(=アクリルアミド(mol)/ビスアクリルアミド(mol))が、90、120、180、350、700、1800、3500のいずれかである、合計56種類の原料溶液を調整した。
【0059】
それぞれの原料溶液約25mlを、20分間減圧脱気、あるいは窒素脱気した後、原料溶液にAPS(過硫酸アンモニウム)およびTEMED(N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン)を、APSが0.1%(w/v=APSの重量w/原料溶液の容積v),TEMED0.05%(v/v=TMEDの容積v/原料溶液の容積v)となるように、原料溶液に添加した。添加後、原料溶液を容器(60×40×20mm)にすばやく移し、氷温にて20分間放置することにより、アクリルアミドとビスアクリルアミドに共重合を生じさせ、ハイドロゲルを製造した。
【0060】
これにより、図3に示したアクリルアミドとビスアクリルアミドとの合計(重量w)の濃度%(w/v)が3.5%以上13.0%以下で、かつ、ビスアクリルアミドに対するアクリルアミドのモル比(=アクリルアミド(mol)/ビスアクリルアミド(mol))が90以上3500以下の56種類のハイドロゲルを製造した。
【0061】
<実施例2>
実施例2の音響カプラとして、以下のハイドロゲルを製造した。
【0062】
実施例2のハイドロゲルは、原料溶液にアルギン酸ナトリウムを0.1%(w/v=アルギン酸ナトリウムの重量w/原料溶液の容積v)の濃度となるように添加し、他の原料の濃度、および、製造工程は、実施例1と同様にして、アクリルアミドとビスアクリルアミドの共重合体であるハイドロゲルを製造した。
【0063】
つぎに、製造した共重合体のハイドロゲルを生成した容器から取り出し、5%の塩化カルシウム溶液に24時間浸漬してカルシウムイオンを含侵させることにより、共重合体のハイドロゲルに含まれるアルギン酸をゲル化させた。
【0064】
これにより、アクリルアミドとビスアクリルアミドの共重合体であるハイドロゲルと、アルギン酸のゲルとのダブルネットワークのハイドロゲルを製造した。このダブルネットワークのゲルは、図4のように、アクリルアミドとビスアクリルアミドの濃度が56種類に異なる、ダブルネットワークのハイドロゲルである。
【0065】
<実施例3>
実施例3の音響カプラとして、以下のハイドロゲルを製造した。
【0066】
実施例3のハイドロゲルは、原料溶液にアルギン酸ナトリウムを0.2%(w/v=アルギン酸ナトリウムの重量w/原料溶液の容積v)の濃度となるように添加し、他の原料の濃度、および、製造工程は、実施例2と同様にして、図5のように、アクリルアミドとビスアクリルアミドの濃度が異なる56種類のダブルネットワークのハイドロゲルを製造した。
<実施例4>
実施例4の音響カプラとして、以下のハイドロゲルを製造した。
【0067】
実施例4のハイドロゲルは、原料溶液にアルギン酸ナトリウムを0.4%(w/v=アルギン酸ナトリウムの重量w/原料溶液の容積v)の濃度となるように添加し、他の原料の濃度、および、製造工程は、実施例2と同様にして、図6のように、アクリルアミドとビスアクリルアミドの濃度が異なる56種類のダブルネットワークのハイドロゲルを製造した。
【0068】
<評価>
(弾性率および最大変形率の計測)
実施例1~4により製造したハイドロゲルの弾性率および最大変形率を計測した。
【0069】
まず、実施例1~4のハイドロゲルのサンプルの上端部および下端部を、接着剤が塗布された2枚のスライドグラスでそれぞれ挟み込むことにより、サンプルの上下にスライドグラスを固定した。ハイドロゲルのサンプルの上下のスライドグラスを引張試験機(IMADA社製MX2-500NおよびZTA-50NあるいはZTA-5Nのいずれか)の固定具に固定した。
【0070】
この段階でスライドガラスに挟まれていない自由なサンプルのサイズは、6×1.5×1cmのサイズであり、計測方向(引っ張り方向=上下方向)の長さが1cm(初期長さ)、計測に直角な方向の面積が6×1.5cm(初期面積)となっている。
【0071】
この状態でサンプルを、上下方向に100mm/minの速さで引張りながら、スライドガラスに挟まれていない部分の上下方向の長さと、その時点の引っ張りに要する荷重とを計測した。
【0072】
サンプルの上下方向の長さから引っ張り前の初期長さを引いたものを変位とする。計測された変位と荷重から、変形率と応力を算出し、これらに基づき最大変形率および弾性率(ヤング率)を以下のように算出した。
【0073】
変形率は、変位を初期長さで割ることにより算出した。よって、例えば初期長さと同じ長さの変位を生じた場合には100%の変形を生じることになる。応力は、引っ張り時の荷重を初期面積で割ることにより算出した。求めた変形率と応力との関係を図7のようにグラフに表した。
【0074】
図7のグラフにおいて、変形率が5~40%の区間で最小二乗法を用いてグラフ上に接線を引き、その接線が変形率100%に達する点50の応力の値を求め、この値をヤング率とした。
【0075】
また、図7のグラフにおいて、変形率が上昇するにしたがって、応力が増加した後、応力が低下に転じる点51の変形率を最大変形率とした。
【0076】
実施例1~4で製造したハイドロゲルが、音響カプラとしてプローブで生体に押し付けられても、その表面を変形させにくいための条件であるヤング率10kPa以下、プローブで生体に押し付けられた場合に計測対象の表面で変形して計測対象と密着する条件である最大変形率100%以上を満たすかどうかを図3図6のマトリクスにおいて塗りつぶしまたはハッチングによりそれぞれ示した。すなわち、白塗りつぶしは、ゲル化しないことを示し、黒塗りつぶしは、最大変形率とヤング率双方とも条件を満たし、横線ハッチングは、最大変形率のみ条件を満たさず、ヤング率は条件を満たし、ドットハッチングは、最大変形率とヤング率双方が条件を満たさないことをそれぞれ示している。
【0077】
図3から明らかように、実施例1のハイドロゲルにおいて、最大変形率100%以上とヤング率10kPa以下の両方の条件を満たすのは、ビスアクリルアミドに対するアクリルアミドのモル比が3500の場合には、アクリルアミドとビスアクリルアミドの合計濃度が6%以上11%以下、モル比1800では、5%以上8%以下、モル比700では、3.5%以上7%以下、モル比350では、3.5%以上5%以下、モル比180および120においては3.5%、の原料溶液からそれぞれ製造したゲルであった。
【0078】
また、図4から明らかように、アルギン酸を0.1%の濃度で原料溶液に添加した実施例2のハイドロゲルにおいて、最大変形率100%以上とヤング率10kPa以下の両方の条件を満たすのは、ビスアクリルアミドに対するアクリルアミドのモル比が3500の場合には、アクリルアミドとビスアクリルアミドの合計濃度が6%以上11%以下、モル比1800では、5%以上7%以下、モル比700では、3.5%以上6%以下、モル比350では、3.5%以上6%以下、の原料溶液からそれぞれ製造したゲルであった。
【0079】
また、図5から明らかように、アルギン酸を0.2%の濃度で原料溶液に添加した実施例3のハイドロゲルにおいて、最大変形率100%以上とヤング率10kPa以下の両方の条件を満たすのは、ビスアクリルアミドに対するアクリルアミドのモル比が3500の場合には、アクリルアミドとビスアクリルアミドの合計濃度が6%以上8%以下、モル比1800では、5%以上7%以下、モル比700および350では、3.5%以上6%以下、の原料溶液からそれぞれ製造したゲルであった。
【0080】
また、図6から明らかように、アルギン酸を0.4%の濃度で原料溶液に添加した実施例4のハイドロゲルにおいて、最大変形率100%以上とヤング率10kPa以下の両方の条件を満たすのは、ビスアクリルアミドに対するアクリルアミドのモル比が3500の場合には、アクリルアミドとビスアクリルアミドの合計濃度が6%以上7%以下、モル比1800では、5%以上7%以下、モル比700では、3.5%以上5%以下、モル比350では、3.5%の原料溶液からそれぞれ製造したゲルであった。
【0081】
<最大変形率の、アクリルアミドとビスアクリルアミドの合計濃度への依存性>
実施例1において製造したハイドロゲルの最大変形率と、その原料溶液のアクリルアミドとビスアクリルアミドの合計濃度との関係を図8に示す。図8において、●は、原料溶液のモル比(=アクリルアミド/ビスアクリルアミド)1800、■は、モル比700、◆は、モル比350、▲は、モル比170、×は、モル比90の場合である。
【0082】
図8から明らかなように、全般にアクリルアミドとビスアクリルアミドの合計濃度が低くなるほど最大変形率が大きくなる傾向が見られる。また、同じ合計濃度においては、モル比が大きいほど変形率が大きい傾向がある。
【0083】
図8により、モル比(=アクリルアミド/ビスアクリルアミド)1800ではアクリルアミドとビスアクリルアミドの合計濃度が5%以上8%以下、モル比700では合計濃度4%以上7%以下、モル比350では合計濃度3.5以上5%以下、モル比170では合計濃度3.5%、の原料溶液から製造したゲルが、最大変形率100%以上という実施例の条件を満たすことがわかる。
【0084】
<ヤング率の、アクリルアミドとビスアクリルアミドの合計濃度への依存性>
実施例1において製造したハイドロゲルのヤング率と、その原料溶液のアクリルアミドとビスアクリルアミドの合計濃度との関係を図9に示す。図9において、●は、原料溶液のモル比(=アクリルアミド/ビスアクリルアミド)1800、■は、モル比700、◆は、モル比350、▲は、モル比170、×は、モル比90の場合である。
【0085】
図9から明らかなように、全般にアクリルアミドとビスアクリルアミドの合計濃度が高くなるほどヤング率が大きくなる傾向が見られるが、同じアクリルアミド濃度においては、モル比が大きいほどヤング率が大きい傾向がある。
【0086】
また、図9により、本実施例のハイドロゲルは、モル比1800(=アクリルアミド/ビスアクリルアミド)ではアクリルアミドとビスアクリルアミドの合計濃度が5%以上8%以下、モル比700では6%以上8%以下、モル比350では8%、の原料溶液から製造したゲルが、ヤング率が10kPa以下という実施例の条件を満たすことがわかる。
【0087】
<原料溶液にアルギン酸を添加する場合の、最大変形率の、アクリルアミドとビスアクリルアミドの合計濃度への依存性>
アルギン酸を添加しない実施例1と、アルギン酸を0.2%添加する実施例3において、ハイドロゲルの最大変形率と、その原料溶液のアクリルアミドとビスアクリルアミドの合計濃度との関係を図10に示す。
【0088】
図10において、■で実線は、実施例3のモル比(=アクリルアミド/ビスアクリルアミド)350で、アルギン酸が0.2%(w/v)添加された原料溶液から得たゲルであり、■の点線は、実施例1のモル比350で、アルギン酸が含まれない原料溶液から得たゲルである。●で実線は、実施例3のモル比90で、アルギン酸が0.2%(w/v)添加された原料溶液から得たゲルであり、●の点線は、実施例1のモル比60、アルギン酸が含まれない原料溶液から得たゲルである。
【0089】
図10から明らかなように、モル比90の場合には、アルギン酸を添加した効果は顕著ではなく、添加の有無による最大変形率の差は見られない。
【0090】
一方、モル比350の場合には、全般にアルギン酸を添加した原料溶液のゲルの方が、ゲルの最大変形率が大きくなっている。例えば原料溶液のアクリルアミドとビスアクリルアミドの合計濃度が6%の場合には、原料溶液へのアルギン酸の添加がない場合には、得られたゲルの最大変形率は87%であり、本実施例の最大変形率100%以上の条件を満たしていないが、アルギン酸が0.2%添加された場合には、最大変形例が145%であり、本実施例の最大変形率の条件を満たしていることがわかる。
【0091】
<原料溶液にアルギン酸を添加する場合の、ヤング率の、アクリルアミドとビスアクリルアミドの合計濃度への依存性>
アルギン酸を添加しない実施形態1と、アルギン酸を0.2%添加する実施例3において、ハイドロゲルのヤング率と、その原料溶液のアクリルアミドとビスアクリルアミドの合計濃度との関係を図11に示す。
【0092】
図11において、■の実線は、実施例3のモル比(=アクリルアミド/ビスアクリルアミド)350で、アルギン酸が0.2%(w/v)添加された原料溶液から得たゲルであり、■の点線は、実施例1のモル比350で、アルギン酸が含まれない原料溶液から得たゲルである。●の実線は、実施形態3のモル比90で、アルギン酸が0.2%(w/v)添加された原料溶液から得たゲルであり、●の点線は、実施例1のモル比90で、アルギン酸が含まれない原料溶液から得たゲルである。
【0093】
図11により、全般に、アルギン酸を添加することにより、ヤング率が大きい値を示していることがわかる。例えば、モル比90の場合、アクリルアミドとビスアクリルアミドの合計濃度が7%の場合には、アルギン酸の添加がない場合にはヤング率は7.7kPaであり、本実施例のヤング率10kPa以下の条件を満たしているが、アルギン酸が添加された場合にはヤング率が12.5kPaであり、条件を満たしていないことがわかる。
【0094】
<実施例5>
実施例5の音響カプラとして、図1(b)のように保持材12により主ゲル11を保持したハイドロゲルを製造した。ただし、積層された主ゲル11と保持材12は、界面においても連続しているアルギン酸のゲルにより、それぞれダブルネットワーク構造を構成している。
【0095】
まず、実施例2~4において、ヤング率10kPa以下、最大変形率100%以上のゲルが得られるモル比および濃度(図3図6において、黒塗りつぶしの範囲)でアクリルアミドとビスアクリルアミドとを含み、アルギン酸をさらに含む原料溶液を調整し、実施例1の手法により、複合体作製用の容器内で共重合を生じさせ主ゲル11用の1層のハイドロゲルを生成した。
【0096】
つぎに、実施例2~4において、ヤング率が10kPa以下を満たさず、最大変形率も100%以上を満たさないゲルが得られるモル比および濃度(図4図6において、ドットハッチングの範囲)でアクリルアミドとビスアクリルアミドとを含み、アルギン酸をさらに含む原料溶液を、保持材12用の原料溶液として調整した。
【0097】
主ゲル11のハイドロゲルを複合体作製用の容器の底に配置し、保持材12用の原料溶液を上から注ぎ、実施例1の手法により、複合体作製用の容器内で共重合を生じさせ主ゲル11用のハイドロゲルの上に積層された保持材12用のハイドロゲルを生成した。
【0098】
つぎに、製造した2層構造のハイドロゲルハイドロゲルを生成した容器から取り出し、5%の塩化カルシウム溶液に24時間浸漬してカルシウムイオンを含侵させることにより、2層のハイドロゲルにそれぞれ含まれるアルギン酸をゲル化させた。
【0099】
これにより、2層のハイドロゲルのネットワーク内には、それらの界面においても連続しているアルギン酸のゲルが形成され、それぞれダブルネットワークとなる。よって、界面において、連続したアルギン酸のゲルで結合しているそれぞれダブルネットワークゲルの主ゲル11と保持材12とを積層体(図1(b))を製造することができた。
【符号の説明】
【0100】
10…音響カプラ、11…主ゲル、12…保持材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11