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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】ブレーキディスク及びその締結方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/12 20060101AFI20240123BHJP
   B61H 5/00 20060101ALI20240123BHJP
   F16B 37/04 20060101ALI20240123BHJP
   B23P 21/00 20060101ALI20240123BHJP
   B23P 19/06 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
F16D65/12 X
B61H5/00
F16D65/12 P
F16B37/04 M
B23P21/00 303B
B23P19/06 M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020049694
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021148222
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 勝啓
(72)【発明者】
【氏名】谷田 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】原田 尚紀
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-157400(JP,A)
【文献】特開2008-261443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 19/00-21/00
B61H 1/00-15/00
F16B 23/00-43/02
F16D 49/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側を摺動面とするドーナツ形円板状の板部と、該板部の裏面に設けられ、車輪の車輪側ボルト挿通孔に挿通される締結用ボルトの先端が締結されるボルト締結用フィン部とを備えた一対のブレーキディスクであって、
上記ボルト締結用フィン部は、
上記車輪側ボルト挿通孔に対向する位置に設けられたフィン部本体と、
上記フィン部本体に設けられ、ナットを上記車輪側ボルト挿通孔に対向する位置まで通過させるナット挿入用切欠部と、
上記フィン部本体に設けられ、上記締結用ボルトの先端を挿通するボルト挿通孔と、
上記フィン部本体に設けられ、上記締結用ボルトに締め付けられ、上記車輪側ボルト挿通孔の周縁に圧接する被締結部とを備え、
上記締結用ボルトは、穴付きボルトであり、
上記板部に設けたボルト締結用フィン部には、上記締結用ボルトの先端が締結されるナットが回り止めされた状態で嵌め込まれており、
上記一対のブレーキディスクにそれぞれ設けられた上記ボルト締結用フィン部は、上記車輪に組み付けられた状態で、円周方向にずれた位置に配置されるように構成されていることを特徴とするブレーキディスク。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキディスクであって、
上記一対のブレーキディスクのうち、一方のドーナツ形円板状の板部にはボルト頭を回転させてねじ込むための工具挿通孔が設けられ、
上記一対のブレーキディスクのうち、他方のドーナツ形円板状の板部には上記工具挿通孔が設けられておらず、該他方のドーナツ形円板状の板部側の上記締結用ボルトは、穴無しボルトで代用可能である
ことを特徴とするブレーキディスク。
【請求項3】
表面側を摺動面とするドーナツ形円板状の板部と、該板部の裏面に設けられ、車輪の車輪側ボルト挿通孔に挿通される締結用ボルトの先端が締結されるボルト締結用フィン部とを備えた一対のブレーキディスクであって、
上記ボルト締結用フィン部は、
上記車輪側ボルト挿通孔に対向する位置に設けられたフィン部本体と、
上記フィン部本体に設けられ、上記締結用ボルトの先端を締結するタップ孔と、
上記フィン部本体に設けられ、上記締結用ボルトに締め付けられ、上記車輪側ボルト挿通孔の周縁に圧接する被締結部とを備え、
上記締結用ボルトは、穴付きボルトであり、
上記板部に設けたボルト締結用フィン部のタップ孔には、上記締結用ボルトの先端が締結されており、
上記一対のブレーキディスクにそれぞれ設けられた上記ボルト締結用フィン部は、上記車輪に組み付けられた状態で、円周方向にずれた位置に配置されるように構成されている
ことを特徴とするブレーキディスク。
【請求項4】
請求項3に記載のブレーキディスクであって、
上記一対のブレーキディスクのうち、一方のドーナツ形円板状の板部にはボルト頭を回転させてねじ込むための工具挿通孔が設けられ、
上記一対のブレーキディスクのうち、他方のドーナツ形円板状の板部には上記工具挿通孔が設けられておらず、該他方のドーナツ形円板状の板部側の上記締結用ボルトは、穴無しボルトで代用可能である
ことを特徴とするブレーキディスク。
【請求項5】
第1ブレーキディスク及び第2ブレーキディスクを車輪に締結する方法であって、
上記第2ブレーキディスクを締結する第2締結用ボルトのボルト頭を回転させてねじ込むための工具挿通孔が設けられた第1ブレーキディスクを、該第1ブレーキディスクの摺動面側を下に向けて載置面に設置し、
上記第1ブレーキディスクの第1ボルト締結用フィン部に設けた第1ナット挿入用切欠部に第1ナットを嵌め込み、
上記第2ブレーキディスクを締結するために必要な数の第2締結用ボルトを上記第1ブレーキディスクの摺動面と反対側面上の、該第1ブレーキディスクの上記工具挿通孔がある位置にボルト頭が下になるようにして立設し、
上記車輪の車輪側ボルト挿通孔が上記第2締結用ボルトの位置に合うように、該車輪を上記第1ブレーキディスクの上に載せ、
上記第2締結用ボルトが挿通されていない上記車輪側ボルト挿通孔に上記第1ブレーキディスクと反対側から第1締結用ボルトを挿通し、該第1締結用ボルトの先端を上記第1ボルト締結用フィン部の第1ナットに順次所定の締付トルクで締め付けて該第1ブレーキディスクと上記車輪とを締結し、
上記第2ブレーキディスクの第2ナット挿入用切欠部に対して第2ナットを嵌め込み、
上記第2ナットを嵌め込んだ上記第2ブレーキディスクを該第2ナットが上記第2締結用ボルトと対向するように上記車輪に嵌め込み、
上記第1ブレーキディスクの工具挿通孔を介して締付工具により上記第2締結用ボルトの先端を第2ボルト締結用フィン部の第2ナットに順次所定の締付トルクで締め付けて上記第2ブレーキディスクと上記車輪とを締結する
ことを特徴とするブレーキディスクの締結方法。
【請求項6】
第1ブレーキディスク及び第2ブレーキディスクを車輪に締結する方法であって、
上記第1ブレーキディスクの第1ボルト締結用フィン部に予め第1締結用ボルトを締結するための第1タップ孔を設けると共に、
上記第2ブレーキディスクの第2ボルト締結用フィン部に予め第2締結用ボルトを締結するための第2タップ孔を設けておき、
上記第2締結用ボルトのボルト頭を回転させてねじ込むための工具挿通孔が設けられた第1ブレーキディスクを、該第1ブレーキディスクの摺動面側を下に向けて載置面に設置し、
上記第2ブレーキディスクを締結するために必要な数の第2締結用ボルトを上記第1ブレーキディスクの摺動面と反対側面上の、該第1ブレーキディスクの上記工具挿通孔がある位置にボルト頭が下になるようにして立設し、
上記車輪の車輪側ボルト挿通孔が上記第2締結用ボルトの位置に合うように、該車輪を上記第1ブレーキディスクの上に載せ、
上記第2締結用ボルトが挿通されていない上記車輪側ボルト挿通孔に上記第1ブレーキディスクと反対側から上記第1締結用ボルトを挿通し、該第1締結用ボルトの先端を順次所定の締付トルクで上記第1ボルト締結用フィン部の第1タップ孔に締め付けて該第1ブレーキディスクと上記車輪とを締結し、
上記第2ブレーキディスクを上記第2タップ孔が上記第2締結用ボルトと対向するように上記車輪に嵌め込み、
上記第1ブレーキディスクの工具挿通孔を介して締付工具により上記第2締結用ボルトの先端を順次所定の締付トルクで上記第2タップ孔に締め付けて上記第2ブレーキディスクと上記車輪とを締結する
ことを特徴とするブレーキディスクの締結方法。
【請求項7】
表面側を摺動面とするドーナツ形円板状の板部と、該板部の裏面に設けられ、車輪の車輪側ボルト挿通孔の周囲を囲むボルト締結用フィン部とを備えた一対のブレーキディスク
であって、
上記ボルト締結用フィン部は、
上記車輪側ボルト挿通孔に対向する位置に設けられたフィン部本体と、
上記フィン部本体に設けられ、上記車輪側ボルト挿通孔に挿通される締結用ボルトのボルト頭を該車輪側ボルト挿通孔に対向する位置まで通過させるボルト頭挿入用切欠部と、
上記フィン部本体に設けられ、上記車輪側ボルト挿通孔の反対側に設けた穴付きナット及び上記締結用ボルトに締め付けられ、上記車輪側ボルト挿通孔の周縁に圧接する被締結部とを備えており、
上記穴付きナットが配置される位置の上記板部には、該穴付きナットを回転させてねじ込むための工具挿通孔が設けられている
ことを特徴とするブレーキディスク。
【請求項8】
第1ブレーキディスク及び第2ブレーキディスクを車輪に締結する方法であって、
上記第2ブレーキディスクを締結する第2ナットを回転させてねじ込むための工具挿通孔が設けられた第1ブレーキディスクを、該第1ブレーキディスクの摺動面側を下に向けて載置面に設置し、
上記第1ブレーキディスクの第1ボルト締結用フィン部に設けた第1ボルト頭挿入用切欠部に第1締結用ボルトのボルト頭を挿入し、
上記第2ブレーキディスクを締結するために必要な数の第2ナットを上記第1ブレーキディスクの摺動面と反対側面上の、該第1ブレーキディスクの上記工具挿通孔がある位置にナット穴が下になるようにして載置し、
上記車輪の車輪側ボルト挿通孔が上記第2ナットの位置に合うように、該車輪を上記第1ブレーキディスクの上に載せ、
上記第1締結用ボルトの先端に第1ナットを嵌め、
上記第1ナットを順次所定の締付トルクで締め付けて該第1ブレーキディスクと上記車輪とを締結し、
上記第2ブレーキディスクの第2ボルト締結用フィン部に設けた第2ボルト頭挿入用切欠部に対して第2締結用ボルトのボルト頭を挿入し、
上記第2締結用ボルトのボルト頭を挿入した上記第2ブレーキディスクを該第2締結用ボルトが上記第2ナットと対向するように上記車輪に嵌め込み、
上記第1ブレーキディスクの工具挿通孔を介して締付工具により上記第2ナットを順次所定の締付トルクで締め付けて上記第2ブレーキディスクと上記車輪とを締結する
ことを特徴とするブレーキディスクの締結方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両などの車両に用いるブレーキディスク及びその締結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のブレーキディスクでは、例えば、特許文献1のように、摺動部をボルトで締結するブレーキディスクが知られている。この摺動部に設けた締結孔の中心と、最も内周側で車輪と接触する位置との半径方向の距離をd1、締結孔の中心と、最も外周側で車輪と接触する位置との半径方向の距離をd2、摺動部に設けられた摺動面の半径方向長さをLとするとき、d2/Lが0.25以上で、d1/d2が0.3~1.5となるようにしている。これにより、ブレーキディスクの内外周における車輪との周方向接触幅を十分に確保し、制動中の接触面圧を低減させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4305296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のようなブレーキディスクでは、制動時の冷却性能及びボルトの耐久性を向上させることを目指しているが、ボルトの抜け止めについては考慮されていない。
【0005】
本発明は、上記の問題に着目し、ブレーキディスクを車輪に締結する締結用ボルトの抜け出しを確実に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、第1の発明では、
表面側を摺動面とするドーナツ形円板状の板部と、該板部の裏面に設けられ、車輪の車輪側ボルト挿通孔に挿通される締結用ボルトの先端が締結されるボルト締結用フィン部とを備えた一対のブレーキディスクを対象とし、
上記ボルト締結用フィン部は、
上記車輪側ボルト挿通孔に対向する位置に設けられたフィン部本体と、
上記フィン部本体に設けられ、ナットを上記車輪側ボルト挿通孔に対向する位置まで通過させるナット挿入用切欠部と、
上記フィン部本体に設けられ、上記締結用ボルトの先端を挿通するボルト挿通孔と、
上記フィン部本体に設けられ、上記締結用ボルトに締め付けられ、上記車輪側ボルト挿通孔の周縁に圧接する被締結部とを備え、
上記締結用ボルトは、穴付きボルトであり、
上記板部に設けたボルト締結用フィン部には、上記締結用ボルトの先端が締結されるナットが回り止めされた状態で嵌め込まれている。
【0007】
上記の構成によると、締結用ボルトの先端を締結するためのナットは、フィン部本体のナット挿入用切欠部を通して車輪側ボルト挿通孔に対向する位置まで通過させればよいので、一対のディスクの組付手順を工夫することにより、板部に締結用ボルトを挿通させるために、締結用ボルトのボルト頭よりも大きな孔を空ける必要がない。このため、万が一締結用ボルトが緩んだとしても、この締結用ボルトが上記工具挿通孔を通過して抜け出すことはない。
【0008】
第2の発明では、第1の発明において、
上記一対のブレーキディスクのうち、一方のドーナツ形円板状の板部にはボルト頭を回転させてねじ込むための工具挿通孔が設けられ、
上記一対のブレーキディスクのうち、他方のドーナツ形円板状の板部には上記工具挿通孔が設けられておらず、該他方のドーナツ形円板状の板部側の上記締結用ボルトは、穴無しボルトで代用可能である。
【0009】
上記の構成によると、他方のドーナツ形円板状の板部にはボルト頭を回転させるための工具挿通孔が設けられていないため、締結用ボルトは穴付きボルトであってもよいが、穴無しボルトでもよい。そして、工具挿通孔が設けなくてよいことから、工具挿通孔を機械加工する手間を省けると共に、工具挿通孔がない分だけ摺動面の面積が増えて制動効果が向上し、耐久性も上がる。また、風切り音が発生しにくい上に、ナット及び締結用ボルトが抜け出すことはない。
【0010】
第3の発明では、
表面側を摺動面とするドーナツ形円板状の板部と、該板部の裏面に設けられ、車輪の車輪側ボルト挿通孔に挿通される締結用ボルトの先端が締結されるボルト締結用フィン部とを備えた一対のブレーキディスクを対象とし、
上記ボルト締結用フィン部は、
上記車輪側ボルト挿通孔に対向する位置に設けられたフィン部本体と、
上記フィン部本体に設けられ、上記締結用ボルトの先端を締結するタップ孔と、
上記フィン部本体に設けられ、上記締結用ボルトに締め付けられ、上記車輪側ボルト挿通孔の周縁に圧接する被締結部とを備え、
上記締結用ボルトは、穴付きボルトであり、
上記板部に設けたボルト締結用フィン部のタップ孔には、上記締結用ボルトの先端が締結されている。
【0011】
上記の構成によると、締結用ボルトの先端を締結するためのタップ孔は、フィン部本体に予め形成しておけばよく、一対のディスクの組付手順を工夫することにより、板部に締結用ボルトを挿通させるために、締結用ボルトのボルト頭よりも大きな孔を空ける必要がない。このため、万が一締結用ボルトが緩んだとしても、この締結用ボルトが上記工具挿通孔を通過して抜け出すことはない。さらに、ナットを用いないので、ナットを嵌め込む作業の必要がない。
【0012】
第4の発明では、第3の発明において、
上記一対のブレーキディスクのうち、一方のドーナツ形円板状の板部にはボルト頭を回転させてねじ込むための工具挿通孔が設けられ、
上記一対のブレーキディスクのうち、他方のドーナツ形円板状の板部には工具挿通孔が設けられておらず、該他方のドーナツ形円板状の板部側の上記締結用ボルトは、穴無しボルトで代用可能である。
【0013】
上記の構成によると、他方のドーナツ形円板状の板部には工具挿通孔が設けられていないため、上記締結用ボルトは穴無しボルトでもよい。工具挿通孔が必要ないため、工具挿通孔を機械加工する手間を省けると共に、工具挿通孔がない分だけ摺動面の面積が増えて制動効果が向上し、耐久性も上がる。また、風切り音が発生しにくい上に、ナット及びボルトが抜け出すことはない。さらに、タップ孔を設けると、ナットを用いないので、ナットを嵌め込む作業の必要がない。
【0014】
第5の発明では、第1から第4のいずれか1つの発明において、
上記一対のブレーキディスクにそれぞれ設けられた上記ボルト締結用フィン部は、上記車輪に組み付けられた状態で、円周方向にずれた位置に配置されるように構成されている。
【0015】
上記の構成によると、それぞれのブレーキディスクに設ける締結用フィン部の数を最小限とすることで、構造が簡単になる。
【0016】
第6の発明では、第1ブレーキディスク及び第2ブレーキディスクを車輪に締結する方法を対象とし、
上記方法は、
上記第2ブレーキディスクを締結する第2締結用ボルトのボルト頭を回転させてねじ込むための工具挿通孔が設けられた第1ブレーキディスクを、該第1ブレーキディスクの摺動面側を下に向けて載置面に設置し、
上記第1ブレーキディスクの第1ボルト締結用フィン部に設けた第1ナット挿入用切欠部に第1ナットを嵌め込み、
上記第2ブレーキディスクを締結するために必要な数の第2締結用ボルトを上記第1ブレーキディスクの摺動面と反対側面上の、該第1ブレーキディスクの上記工具挿通孔がある位置にボルト頭が下になるようにして立設し、
上記車輪の車輪側ボルト挿通孔が上記第2締結用ボルトの位置に合うように、該車輪を上記第1ブレーキディスクの上に載せ、
上記第2締結用ボルトが挿通されていない上記車輪側ボルト挿通孔に上記第1ブレーキディスクと反対側から第1締結用ボルトを挿通し、該第1締結用ボルトの先端を上記第1ボルト締結用フィン部の第1ナットに順次所定の締付トルクで締め付けて該第1ブレーキディスクと上記車輪とを締結し、
上記第2ブレーキディスクの第2ナット挿入用切欠部に対して第2ナットを嵌め込み、
上記第2ナットを嵌め込んだ上記第2ブレーキディスクを該第2ナットが上記第2締結用ボルトと対向するように上記車輪に嵌め込み、
上記第1ブレーキディスクの工具挿通孔を介して締付工具により上記第2締結用ボルトの先端を第2ボルト締結用フィン部の第2ナットに順次所定の締付トルクで締め付けて上記第2ブレーキディスクと上記車輪とを締結する構成とする。
【0017】
第7の発明では、第1ブレーキディスク及び第2ブレーキディスクを車輪に締結する方法を対象とし、
上記方法は、
上記第1ブレーキディスクの第1ボルト締結用フィン部に予め第1締結用ボルトを締結するための第1タップ孔を設けると共に、
上記第2ブレーキディスクの第2ボルト締結用フィン部に予め第2締結用ボルトを締結するための第2タップ孔を設けておき、
上記第2締結用ボルトのボルト頭を回転させてねじ込むための工具挿通孔が設けられた第1ブレーキディスクを、該第1ブレーキディスクの摺動面側を下に向けて載置面に設置し、
上記第2ブレーキディスクを締結するために必要な数の第2締結用ボルトを上記第1ブレーキディスクの摺動面と反対側面上の、該第1ブレーキディスクの上記工具挿通孔がある位置にボルト頭が下になるようにして立設し、
上記車輪の車輪側ボルト挿通孔が上記第2締結用ボルトの位置に合うように、該車輪を上記第1ブレーキディスクの上に載せ、
上記第2締結用ボルトが挿通されていない上記車輪側ボルト挿通孔に上記第1ブレーキディスクと反対側から上記第1締結用ボルトを挿通し、該第1締結用ボルトの先端を順次所定の締付トルクで上記第1ボルト締結用フィン部の第1タップ孔に締め付けて該第1ブレーキディスクと上記車輪とを締結し、
上記第2ブレーキディスクを上記第2タップ孔が上記第2締結用ボルトと対向するように上記車輪に嵌め込み、
上記第1ブレーキディスクの工具挿通孔を介して締付工具により上記第2締結用ボルトの先端を順次所定の締付トルクで上記第2タップ孔に締め付けて上記第2ブレーキディスクと上記車輪とを締結する構成とする。
【0018】
これらの発明によると、板部に締結用ボルトを挿通させるために、締結用ボルトのボルト頭よりも大きな孔を空ける必要がない。このため、万が一締結用ボルトが緩んだとしても、この締結用ボルトが上記工具挿通孔を通過して抜け出すことはない。また、一方のブレーキディスクの板部に、ボルト頭を回転させるための工具挿通孔を設けない場合、工具挿通孔を機械加工する手間を省けると共に、工具挿通孔がない分だけ摺動面の面積が増えて制動効果が向上し、耐久性も上がる。また、風切り音が発生しにくい上に、ナットやボルトが抜け出すことはない。なお、ナットを設ける場合に比べてタップ孔を設ける場合、ナットを取り付ける作業が不要となるため、作業が容易となる。
【0019】
第8の発明では、
表面側を摺動面とするドーナツ形円板状の板部と、該板部の裏面に設けられ、車輪の車輪側ボルト挿通孔の周囲を囲むボルト締結用フィン部とを備えた一対のブレーキディスクを対象とし、
上記ボルト締結用フィン部は、
上記車輪側ボルト挿通孔に対向する位置に設けられたフィン部本体と、
上記フィン部本体に設けられ、上記車輪側ボルト挿通孔に挿通される締結用ボルトのボルト頭を該車輪側ボルト挿通孔に対向する位置まで通過させるボルト頭挿入用切欠部と、
上記フィン部本体に設けられ、上記車輪側ボルト挿通孔の反対側に設けた穴付きナット及び上記締結用ボルトに締め付けられ、上記車輪側ボルト挿通孔の周縁に圧接する被締結部とを備えており、
上記穴付きナットが配置される位置の上記板部には、該穴付きナットを回転させてねじ込むための工具挿通孔が設けられている。
【0020】
上記の構成によると、締結用ボルトのボルト頭は、フィン部本体のボルト頭挿入用切欠部を通して車輪側ボルト挿通孔に対向する位置まで通過させればよいので、一対のディスクの組付手順を工夫することにより、板部に締結用ボルトを挿通させるために、締結用ボルトよりも大きな孔を空ける必要がない。このため、万が一締結用ボルトが緩んだとしても、この締結用ボルトやナットが上記工具挿通孔を通過して抜け出すことはない。
【0021】
第9の発明では、第1ブレーキディスク及び第2ブレーキディスクを車輪に締結する方法を対象とし、
上記方法は、
上記第2ブレーキディスクを締結する第2ナットを回転させてねじ込むための工具挿通孔が設けられた第1ブレーキディスクを、該第1ブレーキディスクの摺動面側を下に向けて載置面に設置し、
上記第1ブレーキディスクの第1ボルト締結用フィン部に設けた第1ボルト頭挿入用切欠部に第1締結用ボルトのボルト頭を挿入し、
上記第2ブレーキディスクを締結するために必要な数の第2ナットを上記第1ブレーキディスクの摺動面と反対側面上の、該第1ブレーキディスクの上記工具挿通孔がある位置にナット穴が下になるようにして載置し、
上記車輪の車輪側ボルト挿通孔が上記第2ナットの位置に合うように、該車輪を上記第1ブレーキディスクの上に載せ、
上記第1締結用ボルトの先端に第1ナットを嵌め、
上記第1ナットを順次所定の締付トルクで締め付けて該第1ブレーキディスクと上記車輪とを締結し、
上記第2ブレーキディスクの第2ボルト締結用フィン部に設けた第2ボルト頭挿入用切欠部に対して第2締結用ボルトのボルト頭を挿入し、
上記第2締結用ボルトのボルト頭を挿入した上記第2ブレーキディスクを該第2締結用ボルトが上記第2ナットと対向するように上記車輪に嵌め込み、
上記第1ブレーキディスクの工具挿通孔を介して締付工具により上記第2ナットを順次所定の締付トルクで締め付けて上記第2ブレーキディスクと上記車輪とを締結する構成とする。
【0022】
上記の構成によると、板部に締結用ボルトを挿通させるために、締結用ボルトのボルト頭よりも大きな孔を空ける必要がない。このため、万が一締結用ボルトが緩んだとしても、この締結用ボルトやナットが上記工具挿通孔を通過して抜け出すことはない。また、一方のブレーキディスクの板部に、ナットを回転させるための工具挿通孔を設けない場合、工具挿通孔を機械加工する手間を省けると共に、工具挿通孔がない分だけ摺動面の面積が増えて制動効果が向上し、耐久性も上がる。また、風切り音が発生しにくい上に、ナットやボルトが抜け出すことはない。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、締結用ボルトを挿通するための貫通孔を板部に設ける必要がなくなり、締結用ボルトの抜け出しを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1A図2BのIA-IA線拡大断面図である。
図1B】車輪を省略し、第2ボルト締結用フィン部側から見た拡大側面図である。
図1C】車輪を省略し、第1ボルト締結用フィン部側から見た拡大側面図である。
図2A】本発明の実施形態1に係る第2ブレーキディスクが締結された車輪をフランジと反対側から見た斜視図である。
図2B】本発明の実施形態1に係る第1ブレーキディスクが締結された車輪をフランジ側から見た斜視図である。
図3A】第1又は第2ボルト締結用フィン部及びその周辺を拡大して示す斜視図である。
図3B】第1ボルト締結用フィン部、第1締結用ボルト、第1ナット及びその周辺を拡大して示す斜視図である。
図4A】本発明の実施形態1に係る第1ブレーキディスクの裏面を示す背面図である。
図4B】本発明の実施形態1に係る第2ブレーキディスクの裏面を示す背面図である。
図5】本発明の実施形態1の変形例に係る、図3A相当斜視図である。
図6A】本発明の実施形態に係る第1及び第2ブレーキディスクを、車輪を省略し、第1ボルト締結用フィン部側から見た拡大側面図である。
図6B】本発明の実施形態に係る第1及び第2ブレーキディスクを、車輪を省略し、第2ボルト締結用フィン部側から見た拡大側面図である。
図7A】第1ボルト締結用フィン部及びその周辺を拡大して示す斜視図である。
図7B】第2ボルト締結用フィン部及びその周辺を拡大して示す斜視図である。
図8A】本発明の実施形態2に係る第1ブレーキディスクの裏面を示す背面図である。
図8B】本発明の実施形態2に係る第2ブレーキディスクの裏面を示す背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態1を図面に基づいて説明する。
【0026】
-第1及び第2ブレーキディスクの構成-
図1A図4Bは、本発明の実施形態1に係る鉄道車両用の第1ブレーキディスク1及び第2ブレーキディスク11を示す。図1Cに示すように、一方の第1ブレーキディスク1は、鉄道車両の車輪20の円板部20aの表裏一方側に、第1締結用ボルト21及び第1ナット22によって着脱可能に取り付けられ、図1A及び図1Bに示すように、他方の第2ブレーキディスク11は、円板部20aの表裏他方側に、第2締結用ボルト31及び第2ナット32によって着脱可能に取り付けられるものである。第1ブレーキディスク1及び第2ブレーキディスク11は、例えば鋳鋼よりなる。車輪20には、他の部分よりも外径の大きなフランジ部20bが設けられているが、ここでは、フランジ部20b側の鉄道車両幅方向内側に、第1ブレーキディスク1が固定され、フランジ部20bと反対側の鉄道車両幅方向外側に、第2ブレーキディスク11が固定されるようになっている。なお、第1締結用ボルト21及び第1ナット22並びに第2締結用ボルト31及び第2ナット32は、平ワッシャ、スプリングワッシャなどのワッシャ23,33と共に締結されていてもよく、また、上記とは逆に円板部20aのフランジ部20b側に第2ブレーキディスク11が取り付けられてもよい。
【0027】
図2A及び図2Bに示すように、第1ブレーキディスク1及び第2ブレーキディスク11は、表面側(外側面側)を摺動面とする、中央に円形開口が設けられたドーナツ形板状の板部1a,11aをそれぞれ備えている。本実施形態では、図4A及び図4Bに示すように、この板部1a,11aの裏面(内側面)には、互いに間隔を空けて複数の第1ボルト締結用フィン部2又は第2ボルト締結用フィン部12がそれぞれ一体に突設されている。
【0028】
そして、第1ブレーキディスク1及び第2ブレーキディスク11には、60°ずつ間隔を空けて合計6つの第1ボルト締結用フィン部2及び第2ボルト締結用フィン部12がそれぞれ設けられているが、それぞれのフィン部の個数は、6つに必ずしも限定されず、多くても少なくてもよい。また、一対の第1ボルト締結用フィン部2及び第2ボルト締結用フィン部12の間に補助フィン部が一体に設けられていてもよい。さらに、図示しないが、板部1a,11aの裏面には、第1ボルト締結用フィン部2又は第2ボルト締結用フィン部12間を互いに接続する円周方向に延びるリブ部がそれぞれ突設されていてもよい。
【0029】
図3Aに示すように、上記第1ボルト締結用フィン部2は、第1ブレーキディスク1の板部1a裏面に突出するフィン部本体2aを有し、このフィン部本体2a内に車輪20の車輪側ボルト挿通孔20cに挿通される第1締結用ボルト21の先端が螺合する第1ナット22が締結されるように構成されている。一方、上記第2ボルト締結用フィン部12は、第2ブレーキディスク11の板部11a裏面に突出するフィン部本体12aを有し、このフィン部本体12a内に車輪20の車輪側ボルト挿通孔20cに挿通される第2締結用ボルト31の先端が螺合する第2ナット32が締結されるように構成されている。
【0030】
図3Aに矢印で示すように、上記フィン部本体2a,12aには、上記第1ナット22又は第2ナット32を板部1a,11aの裏面に沿ってスライドさせて上記車輪側ボルト挿通孔20cに対向する位置に形成された円形のボルト挿通用孔部2b,12bまで通過させる第1ナット挿入用切欠部2e又は第2ナット挿入用切欠部12eが形成されている。フィン部本体2a,12aには、第1ナット22又は第2ナット32に締め付けられ、板部1a,11aに圧接する平坦面よりなる被締結部2c,12cも設けられている。
【0031】
図1B、及び図1Cに示すように、第1ナット22及び第2ナット32は、フィン部本体2a,12aの一対の内側面に当接するような一対の平坦面22a,32aをそれぞれ有し、このことで、ナット挿入用切欠部2e,12eを通して挿通された第1又は第2ナット22,32がフィン部本体2a,12aの適切な位置に回り止めされた状態で固定される。このため、第1又は第2ナット22,32側は、工具を挿入するための工具挿通孔2dが必要ではない。
【0032】
図1B及び図1Cに示すように、上記第1又は第2ナット22,32を締結する第1締結用ボルト21又は第2締結用ボルト31のボルト頭側には、第1ボルト締結用フィン部2又は第2ボルト締結用フィン部12のようなフィン部が設けられていない。そして、組付の都合上、一方の板部1aにのみ第2締結用ボルト31を締結するための工具挿通孔2dが設けられている。この工具挿通孔2dの内径はボルト頭31aの外径よりも小さくなっており、六角穴付きボルトよりなる第2締結用ボルト31の六角穴に嵌め込む六角レンチなどの工具が挿入できる大きさであればよい。本実施形態では、図2B及び図4Aに示すように、工具挿通孔2dは、互いに60°の間隔を開けて等間隔に配置されている。その配置位置は、一対の第1ボルト締結用フィン部2の円周方向真ん中でかつ、車輪20への組付状態で第2ブレーキディスク11の第2ボルト締結用フィン部12に対向する位置となっている。
【0033】
つまり、第1及び第2ブレーキディスク1,11にそれぞれ設けられた第1又は第2ボルト締結用フィン部2,12は、車輪20に組み付けられたときに、平面視で円周方向にずれた位置に配置されている。このように、それぞれのブレーキディスク1,11に設ける締結用フィン部2,12の数を最小限としているので、構造が簡単になっている。
【0034】
このように、一対の第1ブレーキディスク1及び第2ブレーキディスク11は、図1Aに示すように、車輪20の円板部20aを、その厚さ方向両側から挟み込んだ状態で、車輪側ボルト挿通孔20cに挿通した第1締結用ボルト21の先端を第1ナット22に締結し、第2締結用ボルト31の先端を第2ナット32に締結することで、車輪20に脱着可能に固定されるようになっている。
【0035】
-第1及び第2ブレーキディスクの締結方法-
次いで、実際に、車輪20に対して第1ブレーキディスク1及び第2ブレーキディスク11を締結する方法について説明する。
【0036】
まず、第1ブレーキディスク1を、その摺動面側を下に向けて地面等の載置面に設置する。
【0037】
次いで、図3Aに示すように、第1ブレーキディスク1の全ての第1ボルト締結用フィン部2の第1ナット挿入用切欠部2eに、板部1a裏面に沿って矢印の方向に第1ナット22を嵌め込む。このとき、平面視同形状のワッシャ23を挟んでもよい。図1Cに示すように、第1ナット22の一対の平坦面22aをボルト締結用フィン部2の一対の側面に差し込んでおけば、第1ナット22が回り止めされる。
【0038】
次いで、図1Aに示すように第2ブレーキディスク11を締結するために、必要な数の第2締結用ボルト31を第1ブレーキディスク1の摺動面と反対側面上に第2ブレーキディスク11の第2ボルト締結用フィン部12に対向する位置に、図1Bに2点鎖線で示すようにボルト頭31aが下になるようにして立てておく。この位置は、工具挿通孔2dが設けられた位置に対応する。このとき、第2締結用ボルト31が動かないように、第1ブレーキディスク1に位置決めのための座繰りや溝を設けておいてもよい。
【0039】
次いで、フランジ部20b側を下にして、車輪20を第1ブレーキディスク1の上に載せる。このとき、車輪側ボルト挿通孔20cが第2締結用ボルト31の先端に合うようにしてゆっくりと降ろす。
【0040】
次いで、第2締結用ボルト31が挿通されていない車輪側ボルト挿通孔20cに第1ブレーキディスク1と反対側から(上方から)例えば合計6本の第1締結用ボルト21を挿通し、その第1締結用ボルト21を順次所定の締付トルクで第1ナット22に締め付けると、図1Cに示すように、第1ブレーキディスク1と車輪20が締結された状態になる。
【0041】
次いで、図3Aに示すように、第2ブレーキディスク11のナット挿入用切欠部12eに対して矢印の方向へ、板部11a裏面に沿って矢印の方向に第2ナット32を嵌め込む。
【0042】
次いで、第2ナット32を嵌め込んだ第2ブレーキディスク11を車輪20の円板部20aに嵌め込む。このとき、第2締結用ボルト31の先端が第2ナット32(ボルト挿通孔2b)の位置に来るように、ゆっくりと降ろす。
【0043】
最後に、第1及び第2ブレーキディスク1,11で車輪20を挟んだ状態を保ったまま表裏裏返して又は、裏返さずに第1ブレーキディスク1側から、第1ブレーキディスク1の工具挿通孔2dに挿通した六角レンチなどの締付工具を用いて第2締結用ボルト31を順次所定の締付トルクで第2ナット32に締め付けると、図1A及び図1Bに示すように、第2ブレーキディスク11と車輪20が締結された状態になる。
【0044】
このように、本実施形態では、第1及び第2締結用ボルト21,31は、ブレーキディスク摺動面側からその締結方向(ねじ込み方向)に沿って挿通させる必要はないので、工具挿通孔2dは、第1締結用ボルト21のボルト頭21aに設けた六角穴に六角レンチ等を挿入して締結できる大きさにすればよい。このため、万が一、第1締結用ボルト21が緩んだとしても、この第1締結用ボルト21が車輪側ボルト挿通孔20cを通過して抜け出すことはない。
【0045】
さらに、第2ブレーキディスク11の板部11a側には、ボルト頭21aを回転させるための工具挿通孔2dが必要ない。このため、工具挿通孔2dを機械加工する手間を省けると共に、孔がない分だけ摺動面の面積が増えて制動効果が向上し、耐久性も上がる。また、風切り音が発生しにくい上に、第2締結用ボルト31が抜け出すことはない。
【0046】
したがって、本実施形態では、第1及び第2締結用ボルト21,31を挿通するための貫通孔を板部1a,11aに設ける必要がなくなり、第1及び第2締結用ボルト21,31の抜け出しを確実に防止することができる。
【0047】
-変形例-
図5は本発明の実施形態1の変形例を示し、特にナット22,32ではなく、タップ孔2b’,12b’が設けられている点で上記実施形態1と異なる。なお、以下の変形例及び実施形態2では、図1A図4Bと同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0048】
本変形例では、第1ボルト締結用フィン部2’及び第2ボルト締結用フィン部12’のボルト挿通孔は、貫通孔ではなく、タップ加工されたタップ孔2b’,12b’で構成されている。本変形例では、図5に示すように、ナット22,32が使用されないので、ナット挿入用切欠部2e,12eは必要ではなく、フィン部本体2a’,12a’は中実でもよい。このタップは、第1及び第2ブレーキディスク1’及び11’の成形時又は成形後に予め設けておく。
【0049】
まず、上記実施形態1と同様に、第2ブレーキディスク11’を締結するために、必要な数の第2締結用ボルト31を第1ブレーキディスク1’の摺動面と反対側面上に第2ブレーキディスク11’の第2ボルト締結用フィン部12’に対向する位置にボルト頭31aが下になるようにして立てておく。
【0050】
次いで、フランジ部20b側を下にして、車輪20を第1ブレーキディスク1’の上に載せる。このとき、車輪側ボルト挿通孔20cが第2締結用ボルト31の先端に合うようにしてゆっくりと降ろす。
【0051】
次いで、第2締結用ボルト31が挿通されていない車輪側ボルト挿通孔20cに第1ブレーキディスク1’と反対側から(上方から)第1締結用ボルト21を挿通し、その第1締結用ボルト21を順次所定の締付トルクでタップ孔2b’に締め付けると、上記実施形態1と同様に、第1ブレーキディスク1’と車輪20が締結された状態になる。
【0052】
次いで、第2ブレーキディスク11’を車輪20の円板部20aに嵌め込む。このとき、第2締結用ボルト31の先端がタップ孔12b’の位置に来るように、ゆっくりと降ろす。
【0053】
最後に、第1及び第2ブレーキディスク1’,11’で車輪20を挟んだ状態を保ったまま表裏裏返して又は、裏返さずに第1ブレーキディスク1’側から、第1ブレーキディスク1’の工具挿通孔2dに挿通した六角レンチなどの締付工具を用いて第2締結用ボルト31を順次所定の締付トルクでタップ孔12b’に締め付けると、上記実施形態1と同様に、第2ブレーキディスク11’と車輪20が締結された状態になる。
【0054】
したがって、本変形例では、上記実施形態1に比べてナット22,32を装着する手間がなくなり、さらに簡易な構成で容易に第1及び第2締結用ボルト21,31の抜け出しを確実に防止することができる。
【0055】
(実施形態2)
-第1及び第2ブレーキディスクの構成-
図6A図8Bは本発明の実施形態2に係る第1及び第2ブレーキディスク101,111を示し、ボルト頭側をボルト締結用フィン部に挿入する点が上記実施形態1と異なる。
【0056】
図6Aに示すように、一方の第1ブレーキディスク101は、鉄道車両の車輪20の円板部20aの表裏一方側に、第1締結用ボルト121及び第1ナット122によって着脱可能に取り付けられ、図6Bに示すように、他方の第2ブレーキディスク111は、円板部20aの表裏他方側に、第2締結用ボルト131及び第2ナット132によって着脱可能に取り付けられるものである。第1ブレーキディスク101及び第2ブレーキディスク111は、例えば鋳鋼よりなる。車輪20には、他の部分よりも外径の大きなフランジ部20bが設けられているが、ここでは、フランジ部20b側の鉄道車両幅方向内側に、第1ブレーキディスク101が固定され、フランジ部20bと反対側の鉄道車両幅方向外側に、第2ブレーキディスク111が固定されるようになっている。
【0057】
本実施形態では、図8A及び図8Bに示すように、この板部101a,111aの裏面(内側面)には、互いに間隔を空けて複数の第1ボルト締結用フィン部102又は第2ボルト締結用フィン部112がそれぞれ一体に突設されている。
【0058】
そして、第1ブレーキディスク101及び第2ブレーキディスク111には、60°ずつ間隔を空けて合計6つの第1ボルト締結用フィン部102及び第2ボルト締結用フィン部112がそれぞれ設けられているが、それぞれのフィン部の個数は、6つに必ずしも限定されず、多くても少なくてもよい。また、一対の第1ボルト締結用フィン部102及び第2ボルト締結用フィン部112の間に補助フィン部が一体に設けられていてもよい。さらに、図示しないが、板部101a,111aの裏面には、第1ボルト締結用フィン部102又は第2ボルト締結用フィン部112間を互いに接続する円周方向に延びるリブ部がそれぞれ突設されていてもよい。
【0059】
図7Aに示すように、上記第1ボルト締結用フィン部102は、第1ブレーキディスク101の板部101a裏面に突出するフィン部本体102aを有し、このフィン部本体102a内に車輪20の車輪側ボルト挿通孔20cに挿通される第1締結用ボルト121のボルト頭121aが挿通されるように構成されている。一方、図7Bに示すように、上記第2ボルト締結用フィン部112は、第2ブレーキディスク111の板部111a裏面に突出するフィン部本体112aを有し、このフィン部本体112a内に車輪20の車輪側ボルト挿通孔20cに挿通される第2締結用ボルト131のボルト頭131aが挿通されるように構成されている。
【0060】
図7A及び図7Bに矢印で示すように、上記フィン部本体102a,112aには、上記ボルト頭121a,131aを板部101a,111aの裏面に沿ってスライドさせて上記車輪側ボルト挿通孔20cに対向する位置まで通過させる第1ボルト頭挿入用切欠部102e又は第2ボルト頭挿入用切欠部112eが形成されている。フィン部本体102a,112aには、第1締結用ボルト121又は第2締結用ボルト131に締め付けられ、板部101a,111aに圧接する平坦面よりなる被締結部102c,112cも設けられている。ボルト頭121a,131a側は、締結の必要がないので、工具を挿入するための工具挿通孔2dは必要ない。
【0061】
図6A及び図6Bに示すように、上記第1締結用ボルト121又は第2締結用ボルト131を締結する第1又は第2ナット122,132側には、第1ボルト締結用フィン部102又は第2ボルト締結用フィン部112のようなフィン部が設けられていない。そして、組付の都合上、一方の板部101aにのみ第2ナット132を締結するための工具挿通孔2dが設けられている。この工具挿通孔2dの内径は第2ナット132の外径よりも小さくなっており、六角穴付きナットよりなる第2ナット132の六角穴に嵌め込む六角レンチなどの工具が挿入できる大きさであればよい。本実施形態では、図8Aに示すように、工具挿通孔2dは、互いに60°の間隔を開けて等間隔に配置されている。その配置位置は、一対の第1ボルト締結用フィン部102の円周方向真ん中でかつ、車輪20への組付状態で第2ブレーキディスク111の第2ボルト締結用フィン部112に対向する位置となっている。
【0062】
つまり、第1及び第2ブレーキディスク101,111にそれぞれ設けられた第1又は第2ボルト締結用フィン部102,112は、車輪20に組み付けられたときに、平面視で円周方向にずれた位置に配置されている。このように、それぞれのブレーキディスク101,111に設ける締結用フィン部102,112の数を最小限としているので、構造が簡単になっている。
【0063】
このように、一対の第1ブレーキディスク101及び第2ブレーキディスク111は、図6A及び図6Bに示すように、車輪20の円板部20aを、その厚さ方向両側から挟み込んだ状態で、車輪側ボルト挿通孔20cに挿通した第1締結用ボルト121の先端を第1ナット122に締結し、第2締結用ボルト131の先端を第2ナット132に締結することで、車輪20に脱着可能に固定されるようになっている。
【0064】
-第1及び第2ブレーキディスクの締結方法-
次いで、実際に、車輪20に対して第1ブレーキディスク101及び第2ブレーキディスク111を締結する方法について説明する。
【0065】
まず、第1ブレーキディスク101を、その摺動面側を下に向けて地面等の載置面に設置する。
【0066】
次いで、図7Aに示すように、第1ブレーキディスク101の全ての第1ボルト締結用フィン部102の第1ボルト頭挿入用切欠部102eに、板部101a裏面に沿って矢印の方向に第1締結用ボルト121のボルト頭121aを嵌め込む。このとき、平面視同形状のワッシャ23を挟んでもよい。ボルト頭121aは、第1ボルト締結用フィン部102内で回り止めされている。
【0067】
次いで、図6Bに示すように第2ブレーキディスク111を締結するために、必要な数の第2ナット132を第1ブレーキディスク101の摺動面と反対側面上に第2ブレーキディスク111の第2ボルト締結用フィン部112に対向する位置に、図6Bに2点鎖線で示すようにナット穴が下になるようにして載置しておく。この位置は、工具挿通孔2dが設けられた位置に対応する。このとき、第2ナット132が動かないように、第1ブレーキディスク101に位置決めのための座繰りや溝を設けておいてもよい。
【0068】
次いで、フランジ部20b側を下にして、車輪20を第1ブレーキディスク101の上に載せる。このとき、車輪側ボルト挿通孔20cが第1締結用ボルト121の先端に合うようにしてゆっくりと降ろす。
【0069】
次いで、第1ブレーキディスク101と反対側から(上方から)第1締結用ボルト121の先端に順次所定の締付トルクで第1ナット122を締め付けると、図6Aに示すように、第1ブレーキディスク101と車輪20が締結された状態になる。
【0070】
次いで、図7Bに示すように、第2ブレーキディスク111のボルト頭挿入用切欠部112eに対して矢印の方向へ、板部111a裏面に沿って矢印の方向に第2締結用ボルト131のボルト頭131aを嵌め込む。
【0071】
次いで、第2締結用ボルト131を嵌め込んだ第2ブレーキディスク111を車輪20の円板部20aに嵌め込む。このとき、第2締結用ボルト131の先端が第2ナット132の位置に来るように、ゆっくりと降ろす。
【0072】
最後に、第1及び第2ブレーキディスク101,111で車輪20を挟んだ状態を保ったまま表裏裏返して又は、裏返さずに第1ブレーキディスク101側から、第1ブレーキディスク101の工具挿通孔2dに挿通した六角レンチなどの締付工具を用いて第2ナット132を順次所定の締付トルクで第2締結用ボルト131に締め付けると、図6Bに示すように、第2ブレーキディスク111と車輪20が締結された状態になる。
【0073】
このように、本実施形態では、第1及び第2締結用ボルト121,131は、ブレーキディスク摺動面側からその締結方向(ねじ込み方向)に沿って挿通させる必要はないので、工具挿通孔2dは、第2ナット132に設けた六角穴に六角レンチ等を挿入して締結できる大きさにすればよい。このため、万が一、第1ナット122が緩んだとしても、この第1ナット122や第1締結用ボルト121が車輪側ボルト挿通孔20cを通過して抜け出すことはない。
【0074】
さらに、第2ブレーキディスク111の板部111a側には、第1ナット122を回転させるための工具挿通孔2dが必要ない。このため、工具挿通孔2dを機械加工する手間を省けると共に、孔がない分だけ摺動面の面積が増えて制動効果が向上し、耐久性も上がる。また、風切り音が発生しにくい上に、第1ナット122及び第1締結用ボルト121が抜け出すことはない。
【0075】
したがって、本実施形態では、第1及び第2締結用ボルト121,131を挿通するための貫通孔を板部101a,111aに設ける必要がなくなり、第1及び第2締結用ボルト121,131の抜け出しを確実に防止することができる。
【0076】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0077】
すなわち、上記実施形態1では、第1及び第2締結用ボルト21,31として六角穴付きボルトの例を示したが、これに限定されず、例えば、第1及び第2締結用ボルト21,31のボルト頭21a,31aに設ける穴は、六角穴に限定されず、三角形、四角形など他の形状でもよい。また、締結用ボルト21は、皿ネジでもよく、六角ボルトでもよい。
【0078】
上記実施形態1及び2では、第1ブレーキディスク1,1’,101には、工具挿通孔2dが設けられ、第2ブレーキディスク11,11’,111には、工具挿通孔2dが設けられていないが、この第2ブレーキディスク11,11’,111側にも工具挿通孔2dを設けていてもよい。
【0079】
上記実施形態1では、締結用ボルト21及び締結用ボルト31は、全て六角穴付きボルトとしているが、工具挿通孔2dを有さない側の締結用ボルト21については、穴付きボルトでなくても通常のボルト頭が六角の穴無しボルトでもよい。同様に上記実施形態2では、第1ナット122及び第2ナット132は、全て穴付きナットとしているが、工具挿通孔2dを有さない側の第1ナット122については、穴付きナットでなくても通常の六角の穴無しナットでもよい。
【0080】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0081】
1,1’ 第1ブレーキディスク
1a,11a 板部
2,2’ 第1ボルト締結用フィン部
2a,12a フィン部本体
2a’,12a’ フィン部本体
2b,12b ボルト挿通用孔部
2b’,12b’ タップ孔
2c,12c 被締結部
2d 工具挿通孔
2e,12e ナット挿入用切欠部
11,11’ 第2ブレーキディスク
12,12’ 第2ボルト締結用フィン部
20 車輪
20a 円板部
20b フランジ部
20c 車輪側ボルト挿通孔
21 第1締結用ボルト
21a,31a ボルト頭
22,32 ナット
22a,32a 平坦面
23,33 ワッシャ
31 第2締結用ボルト
101 第1ブレーキディスク
111 第2ブレーキディスク
101a,111a 板部
102 第1ボルト締結用フィン部
112 第2ボルト締結用フィン部
102a,112a フィン部本体
102c,112c 被締結部
102d 工具挿通孔
102e 第1ボルト頭挿入用切欠部
112e 第2ボルト頭挿入用切欠部
121 第1締結用ボルト
121a,131a ボルト頭
122,123 ナット
131 第2締結用ボルト
132 第2ナット
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B