(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】画像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20240123BHJP
G02B 30/56 20200101ALI20240123BHJP
H04N 5/64 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02B30/56
H04N5/64 511A
(21)【出願番号】P 2020059210
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001667
【氏名又は名称】弁理士法人プロウィン
(72)【発明者】
【氏名】尾形 洋一
【審査官】中村 百合子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-037761(JP,A)
【文献】特開2017-068045(JP,A)
【文献】特表2009-539129(JP,A)
【文献】特開2018-205452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/00-30/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1画像を照射する第1画像投影部と、
前記第1画像の光を視点方向に投影する投影光学部を備えた画像表示装置であって、
前記投影光学部から投影される前記第1画像の光が進行する方向と、前記視点から中心視線方向との成す角θを可変とするように、回動軸を中心として前記投影光学部を側方に回動可能に保持する回動保持部を備え
、
前記投影光学部は、前記第1画像投影部が照射する光の波長を選択的に反射するダイクロイックミラーを備え、
前記第1画像投影部が照射した光の一部を第1方向に反射するとともに、残りの光を第2方向に透過する第1ビームスプリッタと、
前記第1ビームスプリッタから前記第1方向または前記第2方向の一方に進んだ光を前記第1ビームスプリッタに反射させる反射部を備え、
前記ダイクロイックミラーは、前記反射部が反射した光を空間上に結像させることを特徴とする画像表示装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の画像表示装置であって、
前記第1画像投影部は、レーザ光を照射するレーザ光源部を備えることを特徴とする画
像表示装置。
【請求項3】
請求項
1または2に記載の画像表示装置であって、
前記回動保持部の回動範囲は、前記角θが-25度から+25度の範囲であることを特徴とする画像表示装置。
【請求項4】
請求項
1から3の何れか一つに記載の画像表示装置であって、
前記回動保持部は、複数の回動軸を備えることを特徴とする画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示装置に関し、特に空間の奥行方向に複数の画像を重ね合わせて結像させる画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両内に各種情報を表示する装置として、アイコンを点灯表示する計器盤が用いられている。また、表示する情報量の増加とともに、計器盤に画像表示装置を埋め込むことや、計器盤全体を画像表示装置で構成することも提案されている。
【0003】
しかし、計器盤は車両のフロントガラスより下方に位置しているため、計器盤に表示された情報を運転者が視認するには、運転中に視線を下方に移動させる必要があるため好ましくない。そこで、フロントガラスに画像を投影して、運転者が車両の前方を視認したときに情報を読み取れるようにするヘッドアップディスプレイ(以下HUD:Head Up Display)も提案されている(例えば、特許文献1を参照)。このようなHUDでは、フロントガラスの広い範囲に画像を投影するための光学装置が必要であり、光学装置の小型化および軽量化が望まれている。
【0004】
一方で、小型の光学装置を用いて光を投影する画像表示装置としては、メガネ形状をしたヘッドマウント型のHUDが知られている(例えば、特許文献2を参照)。ヘッドマウント型のHUDでは、光源から照射された光を視聴者の眼に直接照射して、視聴者の網膜に画像を投影している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-118669号公報
【文献】特表2018-528446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のヘッドマウント型HUDでは、背景と画像を重ね合わせて表示することはできるものの、空中に結像した画像(エアリアルイメージ)の結像位置が視聴者の視野内において固定されており、表示位置の自由度が低かった。これにより、視聴者の使用用途や各個人の好みによっては、不適切な位置にエアリアルイメージが表示される場合があり、適切な画像視認体験の提供が困難であった。
【0007】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、空間中に投影する画像の位置を変更可能であり、表示位置の自由度を向上させることが可能な画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の画像表示装置は、第1画像を照射する第1画像投影部と、前記第1画像の光を視点方向に投影する投影光学部を備えた画像表示装置であって、前記投影光学部から投影される前記第1画像の光が進行する方向と、前記視点から中心視線方向との成す角θを可変とするように、回動軸を中心として前記投影光学部を側方に回動可能に保持する回動保持部を備え、前記投影光学部は、前記第1画像投影部が照射する光の波長を選択的に反射するダイクロイックミラーを備え、前記第1画像投影部が照射した光の一部を第1方向に反射するとともに、残りの光を第2方向に透過する第1ビームスプリッタと、前記第1ビームスプリッタから前記第1方向または前記第2方向の一方に進んだ光を前記第1ビームスプリッタに反射させる反射部を備え、前記ダイクロイックミラーは、前記反射部が反射した光を空間上に結像させることを特徴とする。
【0009】
このような本発明の画像表示装置では、回動保持部で投影光学部を側方に回動可能に保持しているため、第1画像投影部から照射された第1画像の空中における投影位置を変更可能であり、表示位置の自由度を向上させることが可能となる。
【0013】
また本発明の一態様では、前記第1画像投影部は、レーザ光を照射するレーザ光源部を備える。
【0014】
また本発明の一態様では、前記回動保持部の回動範囲は、前記角θが-25度から+25度の範囲である。
【0015】
また本発明の一態様では、前記回動保持部は、複数の回動軸を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、空間中に投影する画像の位置を変更可能であり、表示位置の自由度を向上させることが可能な画像表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態に係る画像表示装置100の構成を示す模式平面図である。
【
図2】導波部Gの内部におけるレーザ光の伝搬を示す写真である。
【
図3】導波部Gの内部で光が奇数回反射した場合の角度による結像方向の違いを示す模式図であり、
図3(a)は視聴者と反対側に導波部Gを回動させた例を示し、
図3(b)は視聴者側に導波部Gを回動させた例を示している。
【
図4】導波部Gの内部で光が偶数回反射した場合の角度による結像方向の違いを示す模式図であり、
図4(a)は視聴者と反対側に導波部Gを回動させた例を示し、
図4(b)は視聴者側に導波部Gを回動させた例を示している。
【
図5】画像表示装置100の実施例を示す写真である。
【
図6】実施例において回動角度θを変化させた際に第1画像の表示位置が変化する様子を示す写真である。
【
図7】第2実施形態に係る画像表示装置110での空中への結像を示す模式平面図である。
【
図8】画像表示装置110の構成例を示す模式平面図である。
【
図9】画像表示装置110において回転支持部ARMを回動させた際の結像位置の変化を示す模式斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付すものとし、適宜重複した説明は省略する。
図1は、本実施形態に係る画像表示装置100の構成を示す模式平面図である。
図1に示すように画像表示装置100は、第1画像投影部Sと、レンズ部Lと、導波部Gと、ケース部CSを備えている。図中において実線で示した矢印は、第1画像投影部Sから照射された光の経路を模式的に示している。また、図中において破線で示した矢印は、視聴者が水平方向の真正面を視認する方向を前方中心方向として示している。
【0019】
ケース部CSは、各部を収容し保持する筐体である。
図1に示した例では、第1画像投影部Sと、レンズ部Lと、導波部Gの一端をケース部CSの内部に収容している。また、ケース部CSは回動軸AXを回動中心として、導波部Gの一端を回動可能に保持しており、本発明における回動保持部に相当している。ケース部CSにおいて導波部Gを回動可能に保持する構造は特に限定されず、例えば導波部Gに設けられた支軸をケース部CSに設けられた軸受で軸支する構造を用いることができる。
【0020】
導波部Gは、第1画像投影部Sから照射された光を内部で導波して、視聴者の視点方向に投影する部材であり、本発明における投影光学部に相当している。
図1に示すように、導波部Gの一端は回動軸AXを回動中心として側方向に回動可能に保持されている。導波部Gに具体的な構成は限定されないが、背景(図中H1方向)を視認可能な透明材料で構成することが好ましく、ガラスや樹脂材料を用いることができる。
図1に示した例では、導波部G内を伝搬する光を視点方向に取り出すための光学要素として部分反射部HMを示したが、回折格子等を用いるとしてよい。
【0021】
反射部Mは、導波部Gの内部に設けられて光を反射する光学要素である。
図1に示した例では導波部Gが平板状に形成されており、導波部Gの面内方向に対して45度の角度で反射部Mが設けられているが、反射部Mの角度は45度に限定されない。部分反射部HMは、導波部Gの内部に設けられて光の一部を反射し、残りの一部を透過する光学要素である。
図1に示した例では、導波部Gの面内方向に対して45度の角度で部分反射部HMが設けられているが、部分反射部HMの角度は45度に限定されない。
【0022】
第1画像投影部Sは、画像を構成する光を照射する装置であり、視聴者の目(視点)に対して画像を投影する。
図1に示した例では、第1画像投影部Sはレーザ光を照射するレーザ光源部を用いており、レンズ部Lを介して導波部Gに光を入射させ、反射部Mおよび部分反射部HMで反射された光が視点方向に投影される。
【0023】
レンズ部Lは、第1画像投影部Sが照射した光の経路を調整する光学要素である。レンズ部Lの具体的な構成は限定されず、レーザ光をコリメートするコリメートレンズや、凸レンズ、凹レンズ、非球面レンズ等の公知のものを用いることができる。また、レンズ部Lに複数のレンズが含まれるとしてもよい。
【0024】
図1に示したように画像表示装置100では、第1画像投影部Sが照射した第1画像を含む光は、レンズ部Lを介して導波部Gの一端側に入射し、反射部Mに所定角度で入射する。反射部Mに入射した光は反射され、導波部Gの内部を伝搬して部分反射部HMに入射し、部分反射部HMで再反射されて視点方向に投影され視聴者に視認される。
【0025】
図1において導波部Gが実線で示したように視線方向H1に直角に位置する際には、反射部Mに45度で入射した光が部分反射部HMに45度で入射し、視線方向H1に沿って視点に到達する。したがって、視聴者は視線方向H1の背景と第1画像とを重ね合わせて視認する。
【0026】
図1において導波部Gが仮想線で示したように角度θだけ回動された際には、反射部Mおよび部分反射部HMに入射する光の入射角度が変化するため、部分反射部HMから視点に投影される光は視線方向H1に対して所定角度傾斜した方向となる。したがって、視聴者は視線方向H1の背景から側方にずれた位置に第1画像を視認する。ここで、角度θの範囲としては、視聴者の視点から前方中心方向に対して左右25度の範囲(-25°≦θ≦25°)が好ましい。角度θが±25°よりも大きいと、第1画像の投影位置変化が大きくなり、背景との重ね合わせ表示での快適性を保つことが困難となる。
【0027】
図2は、導波部Gの内部におけるレーザ光の伝搬を示す写真である。図中において白い破線で描かれた矩形が導波部Gの断面を示し、白い破線で描かれた矢印は導波部G外での光の進行方向を示している。図に示されたように、白い実線で描かれた円の位置に対して図中左下からレーザ光を入射させた。導波部Gの内部ではレーザ光が主面で全反射しながら右方向に伝搬し、部分反射部HMで反射された光が図中下方に照射されている。導波部Gの内部での光の伝搬は
図2に示したものとなるため、
図1に示したケース部CSを左右方向に回動させることで、視線方向H1と導波部Gの成す角を変更して、第1画像の視認方向を変更することができる。
【0028】
図3は、導波部Gの内部で光が奇数回反射した場合の角度による結像方向の違いを示す模式図であり、
図3(a)は視聴者と反対側に導波部Gを回動させた例を示し、
図3(b)は視聴者側に導波部Gを回動させた例を示している。
図4は、導波部Gの内部で光が偶数回反射した場合の角度による結像方向の違いを示す模式図であり、
図4(a)は視聴者と反対側に導波部Gを回動させた例を示し、
図4(b)は視聴者側に導波部Gを回動させた例を示しており、θ=0度における視線方向を図中に二点鎖線で示している。
【0029】
図中に破線で示した矢印は、導波部Gが回動角度θ=0度のときの光の経路を示しており、
図1に実線矢印で示したものと同様である。図中に実線で示した矢印は、それぞれの導波部Gの回動時における第1画像投影部Sから照射された光の経路を示している。
図1と同様に、図中下方から反射部Mに入射した光は、導波部G内を主面で全反射されながら伝搬して部分反射部HMまで到達し、部分反射部HMで反射された光が視点に向かって投影される。したがって、視点からは図中一点鎖線で示した矢印方向に第1画像が表示されているように視認される。
図4(b)に示した例においても、第1画像を視認する方向はθ=0度の場合よりも少し横方向に変化している。
【0030】
図3(a)(b)および
図4(a)(b)に示したように、導波部Gの主面で光を奇数回反射させた場合にも、偶数回反射させた場合でも、部分反射部HMから投影される光の進行角度を
図1に示した視線方向H1とは異ならせることができる。また、導波部Gの回動方向が視聴者側であっても視聴者と反対側であっても、視線方向H1とは異なる角度で視聴者側に光を投影することができる。
【0031】
(実施例)
図5は、画像表示装置100の実施例を示す写真である。図中に示された透明の板状部材は導波部Gであり、導波部Gの右側に示された黒い筐体はケース部CSである。図中に示した白い実線は、回動軸AXを中心として回動角度θを0度から20度まで変化させた場合の導波部Gの傾斜を示しており、
図5に示した例ではθ=0度の位置に導波部Gが位置している。
【0032】
図6は、
図5に示した実施例において、回動角度θを変化させた際に第1画像の表示位置が変化する様子を示す写真である。図に示された写真では、視点から視線方向H1を視認した写真を撮像し、部分反射部HM近傍を拡大して示している。図中に示された白い矩形は、第1画像投影部Sから投影した第1画像であり、第1画像の右下隅には白抜きの三角を付している。
【0033】
図6に示したように、回動軸AXを回動中心として導波部Gを側方に回動させることで、部分反射部HMから投影される第1画像の投影方向が変化し、視聴者の視点からは第1画像の視認方向が変化している。
【0034】
上述したように本実施形態の画像表示装置100では、回動保持部であるケース部CSにより投影光学部である導波部Gを側方に回動可能に保持しているため、第1画像投影部Sから照射された第1画像の空中における投影位置を変更可能であり、表示位置の自由度を向上させることが可能となる。
【0035】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について
図7~
図9を用いて説明する。第1実施形態と重複する内容は説明を省略する。
図7は、本実施形態に係る画像表示装置110の構成を示す模式平面図である。
図7に示すように画像表示装置110は、第1画像投影部S1と、第1ビームスプリッタBS1と、第2ビームスプリッタBS2と、再帰反射部RRと、反射部Mと、ダイクロイックミラーDMとを備えている。図中において破線および二点鎖線で示した線は、第1画像投影部S1から照射された光の経路を模式的に示している。
【0036】
図7に示した画像表示装置100では、視聴者は第1画像投影部S1から投影された第1前画像A1、第1後画像R1を奥行方向に視点から異なる距離に視認する。
図7においては、第1前画像A1、第1後画像R1が並ぶ方向を奥行方向とし、奥行方向に直交する上下方向を横方向とし、奥行方向と横方向に直交する方向を垂直方向とする。ここで、
図7では視点からの視線方向である奥行き方向に向かって左右を表現するが、横方向および垂直方向は
図7における位置関係を表すためのものであり、上下左右が変更されてもよい。
【0037】
第1画像投影部S1は、画像を構成する光を照射する装置であり、視聴者の目(視点)から所定距離に対して画像を投影する。第1画像投影部S1は、第2ビームスプリッタBS2の右方向に配置され、第2ビームスプリッタBS2の一方の面(第1ビームスプリッタBS1と対向する面)に対して横方向に光を照射する。
【0038】
第1画像投影部S1の構成は限定されず、バックライトを備えた液晶表示装置、自発光の有機EL表示装置、光源と変調素子を用いたプロジェクター装置等を用いることができる。第1画像投影部S1が投影する画像は、静止画でも動画であってもよい。また、第1画像投影部S1にレンズ等の光学部材を含ませてもよい。
【0039】
第1ビームスプリッタBS1は、入射した光の一部を透過するとともに一部を反射する部材であり、表面に反射率を調整する膜が形成された部分反射板を用いることができる。第1ビームスプリッタBS1は横方向と奥行方向に対して45度の角度となるように配置されている。また、第1画像投影部S1から照射される光の光軸に対しても45度傾斜して配置されている。
【0040】
第2ビームスプリッタBS2は、入射した光の一部を透過するとともに一部を反射する部材であり、表面に反射率を調整する膜が形成された部分反射板を用いることができる。第2ビームスプリッタBS2は横方向と奥行方向に対して45度の角度となるように傾斜して配置されている。また、第1画像投影部S1から照射される光の光軸に対しても45度傾斜して配置されている。さらに、第1ビームスプリッタBS1と第2ビームスプリッタBS2の傾斜方向は互いに反対であり、90度の角度で交差するように対向して配置されている。
【0041】
ここでは、第1ビームスプリッタBS1および第2ビームスプリッタBS2での光の透過率と反射率は任意のバランスを選択することができるが、例えば透過率を50%として反射率を50%とする。また、第1ビームスプリッタBS1および第2ビームスプリッタBS2の傾斜角度として45度と直交の例を示したが、第1画像投影部S1からの光照射方向と画像の結像位置との関係から適切な角度を用いることができる。
【0042】
再帰反射部RRは、入射した光を入射方向に対して集光性を保ったまま反射させる光学部材であり、反射膜の表面側に微小なガラスビーズを敷き詰めた構造やプリズムを用いた構造の再帰反射部を用いることができる。再帰反射部RRは、第1ビームスプリッタBS1の右方向に配置され、主面が左右方向を向いて配置されている。
【0043】
反射部Mは、入射した光を入射方向に対して正反射する光学部材であり、板状部材の表面に鏡面加工を施した構造のミラー等を用いることができる。反射部Mは、第1ビームスプリッタBS1および第2ビームスプリッタBS2と並んで奥行方向に配置され、主面が奥行方向を向いて配置されている。
図7では反射部Mとして平板状のものを示しているが、凹面鏡や凸面鏡を用いるとしてもよい。
【0044】
ダイクロイックミラーDMは、特定波長の光を反射し、その他の波長の光を透過する光学部材である。ダイクロイックミラーDMは、再帰反射部RR、第1ビームスプリッタBS1の左方向に配置されており、奥行方向に回動可能に傾斜して配置されている。
図7に示した例では、ダイクロイックミラーDMは、第1画像投影部S1から照射される光の波長を反射し、その他の可視光を透過するものを用いる。後述するように、ダイクロイックミラーDMで反射された光によって、第1前画像A1と第1後画像R1が空間上で結像されるので、ダイクロイックミラーDMは本発明における投影光学部を構成している。
【0045】
また、
図7では省略しているが、第1ビームスプリッタBS1とダイクロイックミラーDMとの間に結像光学系の一部として結像レンズを配置するとしてもよい。結像レンズは、第1ビームスプリッタBS1から進行してきた光を空間上の所定位置に結像させるための光学部材であり、複数のレンズ群を用いてもよい。
【0046】
図7に示したように、第1画像投影部S1から照射された光は、第2ビームスプリッタBS2で反射された後に第1ビームスプリッタBS1に到達する。第1ビームスプリッタBS1に到達した光の一部は反射されて再帰反射部RR方向に進行し、再帰反射部RRで再反射されて第1ビームスプリッタBS1に再入射する。ここで
図1に示すように、再帰反射部RRに到達するまで光経が拡大して進行した光は、再帰反射部RRの再帰反射特性により、光経が縮小する光として第1ビームスプリッタBS1に入射する。第1ビームスプリッタBS1に再入射した光は、第1ビームスプリッタBS1を透過し、ダイクロイックミラーDMで反射されて、ダイクロイックミラーDMと視点の間における第1距離で焦点を結び第1前画像A1として結像される。
【0047】
第1ビームスプリッタBS1に到達した光の残りの一部は透過して反射部M方向に進行し、反射部Mで再反射されて第1ビームスプリッタBS1に再入射する。第1ビームスプリッタBS1に再入射した光は、第1ビームスプリッタBS1で反射され、さらにダイクロイックミラーDMで反射されて視点方向に進行する。このとき、反射部M、第1ビームスプリッタBS1およびダイクロイックミラーDMで反射された光は光経が拡大して進行するため、視聴者からはダイクロイックミラーDMより後方の第2距離で焦点を結んで進行してきた光のように視認される。よって、ダイクロイックミラーDMよりも後方に第1後画像R1が結像されたものとみなせる。
【0048】
第1前画像A1および第1後画像R1として結像された光は、視聴者の目に到達する。したがって、視聴者は奥行方向における空中に第1前画像A1および第1後画像R1を視認する。また、視聴者の視点からの視線方向に背景からの光を透過する透過板が配置されている場合にも、透過板越しに背景を視認しつつ、ダイクロイックミラーDMの手前に結像された第1前画像A1と、ダイクロイックミラーDMの後方に結像された第1後画像R1を視認することができる。
【0049】
透過板の具体例としては、他のヘッドマウントディスプレイ(HMD)の表示面や、車両のフロントガラス、ヘルメットのシールド等が挙げられる。また、これらの透過板に対して、他の表示装置を用いて画像表示を行うとしてもよい。
【0050】
ここで
図7では、第2ビームスプリッタBS2と、第1ビームスプリッタBS1と、反射部Mを奥行方向に並べた例を示したが、反射部Mと再帰反射部RRを入れ替えて配置しても、第1前画像A1と第1後画像R1を
図1で示したものと同様の位置に結像することができる。また
図7では、第1画像投影部S1からの光を第2ビームスプリッタBS2で反射させて第1ビームスプリッタBS1に到達させる構成を示したが、第1画像投影部S1を第2ビームスプリッタBS2と奥行方向に並べて、第2ビームスプリッタBS2を透過した光が第1ビームスプリッタBS1に到達する構成としてもよい。また、第2ビームスプリッタBS2を用いず、第1ビームスプリッタBS1に直接光を入射させる構成としてもよい。また、他の画像投影部を備えて、第2ビームスプリッタBS2を介して第1ビームスプリッタBS1に光を入射させて、さらに複数の前画像および後画像を結像させるとしてもよい。
【0051】
図8は、画像表示装置110の構成例を示す模式平面図である。
図8に示すように画像表示装置110は、第1画像投影部S1と、第1ビームスプリッタBS1と、第2ビームスプリッタBS2と、再帰反射部RRと、反射部Mと、ダイクロイックミラーDMと、シャッター部SHと、ケース部CSと、回転支持部ARMとを備えている。また、ダイクロイックミラーDMは回動軸AX1を回動中心としてケース部CSで保持されており、回転支持部ARMは回動軸AX2を回動中心として保持されている。したがって、回転支持部ARMおよびケース部CSの組み合わせは、回動軸AX1および回動軸AX2を含んでおり本発明における回動保持部に相当している。
【0052】
シャッター部SHは、第1ビームスプリッタBS1と再帰反射部RRの間、および第1ビームスプリッタBS1と反射部Mの間に配置され、光の通過と遮断を切り替える光学部材である。シャッター部SHの具体的な構成は限定されず、光アイソレータや液晶シャッター、アイリス等の公知のものを用いることができる。また、シャッター部SHの開閉(通過と遮断)の切り替えは、図示しない制御部によって制御されている。
【0053】
ケース部CSは、各部を収容し保持する筐体である。
図8に示した例では、第1ビームスプリッタBS1と、第2ビームスプリッタBS2と、再帰反射部RRと、反射部Mと、シャッター部SHをケース部CSの内部に収容し、第1画像投影部S1と、ダイクロイックミラーDMとはケース部CSによって外部に保持されている。
【0054】
回転支持部ARMは、第1ビームスプリッタBS1、再帰反射部RR、反射部M、およびダイクロイックミラーDMの相対的位置関係を保って保持する部材であり、回動軸AX2を回転中心として回動可能に設けられた部材である。本実施形態では、第1画像投影部S1も回転支持部ARMによって保持された例を示している。
【0055】
回転支持部ARMは、各部の相対的な位置関係を保持したまま回動可能とされるため、ある程度の剛性を有する材料で構成する必要がある。回転支持部ARMを構成する具体的な材料や形状は限定されないが、例えば金属や樹脂、紙類などを用いることができる。
【0056】
本実施形態でも第1画像投影部S1が照射する光の経路は第1実施形態と同様であり、ダイクロイックミラーDMよりも視聴者に近い側に第1前画像A1が結像され、ダイクロイックミラーDMよりも遠い側に第1後画像R1が結像される。このとき結像される画像は、シャッター部SHが開(透過)である光の経路のみであり、シャッター部SHの開閉を制御することにより第1前画像A1と第1後画像R1を選択的に結像させることができる。
【0057】
具体的には、第1ビームスプリッタBS1と再帰反射部RRとの間に設けられたシャッター部SHを透過状態とし、反射部Mとの間に設けられたシャッター部SHを遮断状態とすると、第1前画像A1のみが結像される。逆に、第1ビームスプリッタBS1と再帰反射部RRとの間に設けられたシャッター部SHを遮断状態とし、反射部Mとの間に設けられたシャッター部SHを透過状態とすると、第1後画像R1のみが結像される。
【0058】
上述したように本実施形態の画像表示装置110では、シャッター部SHの開閉動作により、第1前画像A1と第1後画像R1を選択的に結像させ、視聴者は第1前画像A1または第1後画像R1のどちらか一方を視認する。また、視聴者の視点からの視線方向に背景からの光を透過する透過板が配置されている場合にも、透過板越しに背景を視認しつつ、ダイクロイックミラーDMの手前に結像された第1前画像A1と、ダイクロイックミラーDMの後方に結像された第1後画像R1を視認することができる。
【0059】
図8に示したようにダイクロイックミラーDMは、一端がケース部CS内で回動軸AX1を中心として側方向に角度θ1の範囲で回動可能に保持されている。ケース部CSにおいてダイクロイックミラーDMを回動可能に保持する構造は特に限定されず、例えばダイクロイックミラーDMに設けられた支軸をケース部CSに設けられた軸受で軸支する構造を用いることができる。ダイクロイックミラーDMが回動軸AX1を中心として回動することにより、ダイクロイックミラーDMの表面に第1ビームスプリッタBS1から入射する光の入射角度が変化するため、第1前画像A1および第1後画像R1の結像位置も変化する。これにより、第1画像投影部S1から照射された第1画像の空中における投影位置を変更可能であり、表示位置の自由度を向上させることが可能となる。
【0060】
ここで、角度θ1の範囲としては、視聴者の視点から前方中心方向に対して左右25度の範囲(-25°≦θ1≦25°)が好ましい。角度θ1が±25°よりも大きいと、第1前画像A1および第1後画像R1のエアリアルイメージを視認するための視線移動量が大きくなり、背景との重ね合わせ表示での快適性を保つことが困難となる。
【0061】
図9は、画像表示装置110において回転支持部ARMを回動させた際の結像位置の変化を示す模式斜視図である。
図9では、簡便のために第1画像投影部S1、第1ビームスプリッタBS1、第2ビームスプリッタBS2、再帰反射部RR、反射部M、シャッター部SH、ケース部CSについては図示を省略している。
【0062】
図9に示すように回転支持部ARMは、回動軸AX2を回動中心として、少なくとも投影光学部に含まれるダイクロイックミラーDMを保持しており、左右方向(側方向)にθ2の角度範囲で回動可能とされている。ここで、左右方向にθ2の角度範囲とは、視聴者の視点e位置から視聴者が水平方向の真正面を視認する方向を前方中心方向として、側方向の左右にθ2の角度となる範囲である。
図9では、角度θ2として前方中心方向から右方向に回転支持部ARMを回動させた例を示しているが、
図9とは反対側の左方向に回動させた場合も含む。
【0063】
回転支持部ARMが回動軸AX2を中心として回動されることで、
図7に示した第1ビームスプリッタBS1、第2ビームスプリッタBS2、再帰反射部RR、反射部MおよびダイクロイックミラーDMは、相対的な位置関係を保ったまま角度θだけ変動される。したがって、第1画像投影部S1から照射された第1前画像A1および第1後画像R1の空中における結像位置も回転支持部ARMの回動と同様に角度θ2だけ変動した位置となる。これにより視聴者は、前方中心方向から角度θだけ変位した方向に第1前画像A1および第1後画像R1のエアリアルイメージを視認する。
【0064】
ここで、角度θ2の範囲としては、視聴者の視点eから前方中心方向に対して左右25度の範囲(-25°≦θ2≦25°)が好ましい。角度θ2が±25°よりも大きいと、第1前画像A1および第1後画像R1のエアリアルイメージを視認するための視線移動量が大きくなり、背景との重ね合わせ表示での快適性を保つことが困難となる。
【0065】
また、回転支持部ARMの長さは、回動軸AX2からダイクロイックミラーDMまでの長さと、視点eからダイクロイックミラーDMの距離が同程度であることが好ましい。つまり、回動軸AX2と視点eは奥行方向において同じ位置であることが好ましい。これにより、ダイクロイックミラーDMで反射されて視点e方向に進行する光の経路は、回転支持部ARMの回動と同程度の角度θ2で変位することになる。したがって、回転支持部ARMの回動と第1前画像A1および第1後画像R1の結像位置の変位が連動したものとなり、第1前画像A1および第1後画像R1の結像位置変更を直感的な動作で実現することができる。
【0066】
仮に、ダイクロイックミラーDMを平行移動させた場合には、視点eから見たダイクロイックミラーDMの距離や相対角度が変化してしまう。この場合には、ダイクロイックミラーDMで反射された光の経路は
図7で示したものとは異なり、第1前画像A1および第1後画像R1の表示内容が変動前とは変化してしまう。
【0067】
それに対して画像表示装置110では、ダイクロイックミラーDMの移動は左右方向への平行移動ではなく、回動軸AX2を中心とした回転移動である。これにより、第1前画像A1および第1後画像R1を結像するための投影光学部の相対的な位置関係や角度の関係は
図8に示したものが維持され、第1前画像A1および第1後画像R1の結像位置は、視点eからの距離が維持され、回転支持部ARMの回動に関わらずエアリアルイメージの表示内容を保持することができる。
【0068】
上述したように、本実施形態の画像表示装置110では、回動軸AX2を中心として回転支持部ARMに保持されたダイクロイックミラーDMを角度θ2回動させるとともに、回動軸AX1を中心としてダイクロイックミラーDMを角度θ1回動させることができる。このように回動保持部が回動軸を複数備えることより、空間中に結像させる第1前画像A1および第1後画像R1の位置を変更可能であり、より一層表示位置の自由度を向上させることが可能となる。
【0069】
また
図9に示したように、視点eからの中心視線方向にヘッドマウントディスプレイ(HMD)等を別途設けることで、HMDでの表示と第1前画像A1および第1後画像R1の結像を同時に行うことができる。このとき、回動軸AX1を中心としてダイクロイックミラーDMを回動させることや、回動軸AX2を中心として回転支持部ARMを回動させることで、第1前画像A1および第1後画像R1の結像位置をHMDでの表示から側方に変異させることができる。これにより、HMDでの表示と第1前画像A1および第1後画像R1の表示領域を分離することができ、両者を個別に識別しやすくなる。
【0070】
また、ダイクロイックミラーDMに波長フィルタを組み合わせ、不要な外光をカットする構成としてもよい。波長フィルタは、紫外光または/および赤外光をカットする光学部材であり、公知のフィルム構造物を用いることができる。ダイクロイックミラーDMと波長フィルタを別体で構成してもよく、両者を組み合わせて一体に形成してもよい。また、ダイクロイックミラーDMの光反射特性として、紫外光または/および赤外光を反射するように設計し、ダイクロイックミラーDMが波長フィルタの機能を兼ねるとしてもよい。
【0071】
これにより、外界から視点e方向に紫外光や赤外光が進行したとしても、波長フィルタで紫外光と赤外光がカットまたは反射されるため、視点eにまで紫外光と赤外光は到達しない。これにより、外界からの紫外光や赤外光が視聴者の視点eに直接入射することを防止し、視聴者の目を保護することができる。
【0072】
(第3実施形態)
図8および
図9の第2実施形態では、回転支持部ARMの端部を回動軸AX2とした例を示したが、
図8中に示したように回転支持部ARMがケース部CSを保持する位置を回動軸AX2’とし、ケース部CS全体を回動させるとしてもよい。
【0073】
この場合には、回動軸AX2’を回動中心としてケース部CSを回動させるだけで第1画像の視認方向を変更できるため、回転支持部ARMの端部を回動軸AX2とする場合よりも、ケース部CSおよびダイクロイックミラーDMの移動量を小さくすることができる。
【0074】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0075】
100,110…画像表示装置
S,S1…第1画像投影部
BS1…第1ビームスプリッタ
BS2…第2ビームスプリッタ
RR…再帰反射部
M…反射部
HM…部分反射部
L…レンズ部
G…導波部
DM…ダイクロイックミラー
A1…第1前画像
R1…第1後画像
H1…視線方向
AX1,AX2…回動軸
CS…ケース部
ARM…回転支持部
HMD…ヘッドマウントディスプレイ