(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】耐火性木質複合材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20240123BHJP
B27N 3/00 20060101ALI20240123BHJP
B27M 3/00 20060101ALI20240123BHJP
E04C 3/14 20060101ALI20240123BHJP
E04C 3/42 20060101ALI20240123BHJP
C09K 21/12 20060101ALI20240123BHJP
C09K 21/06 20060101ALI20240123BHJP
C09K 21/02 20060101ALI20240123BHJP
C09K 21/04 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
E04B1/94 R
B27N3/00 B
B27M3/00 M
E04C3/14
E04C3/42
C09K21/12
C09K21/06
C09K21/02
C09K21/04
(21)【出願番号】P 2020072541
(22)【出願日】2020-04-14
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000183428
【氏名又は名称】住友林業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小峰 早貴
(72)【発明者】
【氏名】猪野 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】門田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】吉井 良介
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-161588(JP,A)
【文献】特開2016-055646(JP,A)
【文献】特開2017-190644(JP,A)
【文献】特開平08-092562(JP,A)
【文献】特開昭62-149738(JP,A)
【文献】特開2003-138265(JP,A)
【文献】特開2005-036457(JP,A)
【文献】実開昭47-020862(JP,U)
【文献】特開2004-098629(JP,A)
【文献】特開2020-059126(JP,A)
【文献】特開2002-212564(JP,A)
【文献】特開2021-169546(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0079302(KR,A)
【文献】国際公開第81/002857(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/94
B27N 3/00
B27M 3/00
E04C 3/14
E04C 3/36
E04C 3/42
C09K 21/12
C09K 21/06
C09K 21/02
C09K 21/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視において第1方向及び第1方向に直交する第2方向を有し、難燃薬剤保持層が厚み方向に複数積層されている耐火性木質複合材であって、
前記難燃薬剤保持層は、複数の開孔を有する木質基材と、該開孔内に充填された難燃薬剤含有固形物とを備えており、
前記厚み方向に隣り合う前記難燃薬剤保持層どうしは、前記開孔の中心点の位置を、第1方向若しくは第2方向又はその両方にずらした状態に積層されており、
前記難燃薬剤含有固形物が、固体難燃剤を含む硬化性組成物の硬化物、及び固体難燃剤を含む圧粉体の何れか一方又は両方であ
り、
前記硬化性組成物又は前記圧粉体が硬化性化合物を含み、
前記硬化性化合物のうち50質量%以上が、下記一般式(1)で表される化合物若しくはその加水分解縮合物又はその両方である、耐火性木質複合材。
SiR
1
(4-n)
R
2
n
・・・(1)
(式中、R
1
は、それぞれ独立して、水素原子、または一つ以上のアミノ基、エポキシ基、酸無水物基、マレイミド基、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタアクリル基、若しくはヘテロ環基で置換されていてもよい、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数6~20のアリール基もしくは炭素原子数7~20のアラルキル基を表し、R
2
は、それぞれ独立して水酸基、炭素原子数1~6のアルコキシ基、またはハロゲン原子を表し、nは、1~4の整数を表す。)
【請求項2】
前記硬化性組成物が前記固体難燃剤を65質量%以上80質量%以下含むか、又は前記圧粉体が前記固体難燃剤を80質量%以上含む、請求項1に記載の耐火性木質複合材。
【請求項3】
前記固体難燃剤が、有機リン化合物、リン酸、リン酸エステル、リン酸塩、有機ホウ素化合物、ホウ酸、ホウ酸エステル及びホウ酸塩からなる群から選ばれる一種以上である、請求項1又は2に記載の耐火性木質複合材。
【請求項4】
前記固体難燃剤がホウ酸である、請求項1~3の何れか1項に記載の耐火性木質複合材。
【請求項5】
前記nが3である、請求項1
~4の何れか1項に記載の耐火性木質複合材。
【請求項6】
前記
R
1
の一部又は全部が、炭素原子数6~20のアルキル基である、請求項1
~5の何れか1項に記載の耐火性木質複合材。
【請求項7】
前記
R
1
の一部又は全部が、一つ以上のエポキシ基で置換された炭素原子数1~20のアルキル基である、請求項
1~5の何れか1項に記載の耐火性木質複合材。
【請求項8】
前記硬化性組成物又は前記圧粉体が硬化触媒を含む、請求項1~
7の何れか1項に記載の耐火性木質複合材。
【請求項9】
請求項1~
8の何れか1項に記載の耐火性木質複合材の製造方法であって、
前記硬化性組成物を硬化させ、硬化物である難燃薬剤含有固形物を形成する工程、及び、前記固体難燃剤を含む粉体を圧粉成型し、圧粉体である難燃薬剤含有固形物を形成する工程の何れか一方又は両方と、
前記難燃薬剤含有固形物を前記開孔に充填する工程とを含む、耐火性木質複合材の製造方法。
【請求項10】
請求項1~
8の何れか1項に記載の耐火性木質複合材の製造方法であって、
前記硬化性組成物を前記開孔に充填した後に該硬化性組成物を硬化させ、硬化物である難燃薬剤含有固形物を形成する工程、及び、固体難燃剤を含む粉体を前記開孔に充填した後に該粉体を圧粉成型し、圧粉体である難燃薬剤含有固形物を形成する工程の何れか一方又は両方を含む、耐火性木質複合材の製造方法。
【請求項11】
開孔を有する木質基材と該開孔に充填された難燃薬剤含有固形物とを備
え、
前記難燃薬剤含有固形物が、固体難燃剤を含む硬化性組成物の硬化物、及び固体難燃剤を含む圧粉体の何れか一方又は両方であ
り、
前記硬化性組成物又は前記圧粉体が硬化性化合物を含み、
前記硬化性化合物のうち50質量%以上が、下記一般式(1)で表される化合物若しくはその加水分解縮合物又はその両方である、難燃薬剤保持体。
SiR
1
(4-n)
R
2
n
・・・(1)
(式中、R
1
は、それぞれ独立して、水素原子、または一つ以上のアミノ基、エポキシ基、酸無水物基、マレイミド基、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタアクリル基、若しくはヘテロ環基で置換されていてもよい、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数6~20のアリール基もしくは炭素原子数7~20のアラルキル基を表し、R
2
は、それぞれ独立して水酸基、炭素原子数1~6のアルコキシ基、またはハロゲン原子を表し、nは、1~4の整数を表す。)
【請求項12】
請求項1
1に記載の難燃薬剤保持体の製造方法であって、
前記硬化性組成物を硬化させ、硬化物である難燃薬剤含有固形物を形成する工程、及び、
前記固体難燃剤を含む粉体を圧粉成型し、圧粉体である難燃薬剤含有固形物を形成する工程の何れか一方又は両方と、
前記難燃薬剤含有固形物を前記開孔に充填する工程とを含む、難燃薬剤保持体の製造方法。
【請求項13】
請求項1
1に記載の難燃薬剤保持体の製造方法であって、
前記硬化性組成物を前記開孔に充填した後に該硬化性組成物を硬化させ、硬化物である難燃薬剤含有固形物を形成する工程、及び、固体難燃剤を含む粉体を前記開孔に充填した後に該粉体を圧粉成型し、圧粉体である難燃薬剤含有固形物を形成する工程の何れか一方又は両方を含む、難燃薬剤保持体の製造方法。
【請求項14】
角材からなる荷重支持部と、該荷重支持部の軸方向に沿う3側面又は4側面を被覆する耐火被覆層とを備える耐火木製構造材であって、
前記耐火被覆層は、難燃薬剤保持層が厚み方向に複数積層されている難燃薬剤保持層積層部を有しており、
前記難燃薬剤保持層積層部は、平面視において第1方向及び第1方向に直交する第2方向を有しており、
前記難燃薬剤保持層は、複数の開孔を有する木質基材と、該開孔に充填された難燃薬剤含有固形物とを有しており、
前記厚み方向に隣り合う前記難燃薬剤保持層どうしは、前記開孔の中心点の位置を、第1方向及び/又は第2方向にずらした状態に積層されており、
前記難燃薬剤含有固形物が、固体難燃剤を含む硬化性組成物の硬化物、及び固体難燃剤を含む圧粉体の何れか一方又は両方であ
り、
前記硬化性組成物又は前記圧粉体が硬化性化合物を含み、
前記硬化性化合物のうち50質量%以上が、下記一般式(1)で表される化合物若しくはその加水分解縮合物又はその両方である、耐火木製構造材。
SiR
1
(4-n)
R
2
n
・・・(1)
(式中、R
1
は、それぞれ独立して、水素原子、または一つ以上のアミノ基、エポキシ基、酸無水物基、マレイミド基、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタアクリル基、若しくはヘテロ環基で置換されていてもよい、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数6~20のアリール基もしくは炭素原子数7~20のアラルキル基を表し、R
2
は、それぞれ独立して水酸基、炭素原子数1~6のアルコキシ基、またはハロゲン原子を表し、nは、1~4の整数を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火性木質複合材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は、火災時に外部から加熱されると表面が燃えて炭化層が形成される。この炭化層が木材の表面に均一に形成されると木材内部への熱の侵入が抑制され、木材内部の構造的な劣化が抑制される。この特性を利用し、柱や梁等に使用する木材を太くし、燃焼後の木材の内部に長期荷重を支持し得る健全な断面が確保されるように、木材の表面に、燃えて炭化層を形成すべき所定の厚みの燃えしろを設ける技術が知られている。このような燃えしろを設けた構造材等を主要構造部に用いて、木造建築物を準耐火建築物とすることも行われている。
【0003】
木材や木材と他の材料との複合材の表面に燃えしろを設けて、耐火材の部材を得る技術は種々提案されており、例えば、特許文献1には、荷重支持層と、該荷重支持層の外側に配置され、断熱材を有する燃え止まり層と、該燃え止まり層の外側に配置され、所定の厚さを有する木材からなる燃えしろ層とを備える構造材が提案されている。また特許文献2には、荷重支持層と、該荷重支持層の外側に配置され、該荷重支持層より熱慣性を低くした木材からなる燃えしろ層とを備える構造材が提案されている。また特許文献3には、難燃薬剤を含まない木材で構成された表面層と、該表面層の内側に、木材に難燃薬剤を注入処理した難燃薬剤注入層とを備える耐火集成材が提案されている。
【0004】
また木材に耐火性能を持たせる技術として、水に溶解した難燃薬剤を木材に含浸させたあと、該木材を乾燥させる方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-36457号公報
【文献】特開2005-48585号公報
【文献】特開2008-31743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のように、水に溶解した難燃薬剤を木材に含浸させたあと、該木材を乾燥させた場合、含浸時に難燃薬剤の含浸ムラが生じてしまったり、乾燥時に木材の表面側の難燃薬剤含有量が木材の内部に比べて多くなってしまったりし、木材全体における難燃薬剤の含有量が不均一となってしまうため、木材に安定的に耐火性能を担保することは困難である。特許文献3では、木材にインサイジング処理を施すことで穿孔を形成し、該穿孔から難燃薬剤を注入することにより、難燃薬剤の含浸ムラを改善することはできるが、乾燥時に難燃薬剤の含有量が不均一になってしまうことを防ぐことはできず、木材に安定的に耐火性能を担保することは困難である。
また特許文献1~3においては、燃えしろ層や燃え止まり層を構成する木材は縁切りされていないため、該木材が火災にさらされたときに、該木材に大きな割れが生じてしまう場合がある。
また、難燃薬剤は、水に高濃度で溶解させて使用することが一般的であるため、これを含浸させた不燃木材、耐火木材は水で濡れると薬剤が溶け出してしまう危険性があり、耐火性がない木材になってしまう場合がある。
【0007】
本発明の目的は、木質基材に大きな割れが生じ難く、耐水性があり、安定的に耐火性能を担保することができる、耐火性木質複合材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、平面視において第1方向及び第1方向に直交する第2方向を有し、難燃薬剤保持層が厚み方向に複数積層されている耐火性木質複合材であって、前記難燃薬剤保持層は、複数の開孔を有する木質基材と、該開孔内に充填された難燃薬剤含有固形物とを備えており、前記厚み方向に隣り合う前記難燃薬剤保持層どうしは、前記開孔の中心点の位置を、第1方向若しくは第2方向又はその両方にずらした状態に積層されており、前記難燃薬剤含有固形物が、固体難燃剤を含む硬化性組成物の硬化物、及び固体難燃剤を含む圧粉体の何れか一方又は両方である、耐火性木質複合材を提供するものである。
【0009】
また本発明は、前記の耐火性木質複合材の製造方法であって、前記硬化性組成物を硬化させ、硬化物である難燃薬剤含有固形物を形成する工程、及び、前記固体難燃剤を含む粉体を圧粉成型し、圧粉体である難燃薬剤含有固形物を形成する工程の何れか一方又は両方と、前記難燃薬剤含有固形物を前記開孔に充填する工程とを含む、耐火性木質複合材の製造方法を提供するものである。
【0010】
また本発明は、前記の耐火性木質複合材の製造方法であって、前記硬化性組成物を前記開孔に充填した後に該硬化性組成物を硬化させ、硬化物である難燃薬剤含有固形物を形成する工程、及び、固体難燃剤を含む粉体を前記開孔に充填した後に該粉体を圧粉成型し、圧粉体である難燃薬剤含有固形物を形成する工程の何れか一方又は両方を含む、耐火性木質複合材の製造方法を提供するものである。
【0011】
また本発明は、開孔を有する木質基材と該開孔に充填された難燃薬剤含有固形物とを備えており、前記難燃薬剤含有固形物が、固体難燃剤を含む硬化性組成物の硬化物、及び固体難燃剤を含む圧粉体の何れか一方又は両方である、難燃薬剤保持体を提供するものである。
【0012】
また本発明は、前記の難燃薬剤保持体の製造方法であって、前記硬化性組成物を硬化させ、硬化物である難燃薬剤含有固形物を形成する工程、及び、記固体難燃剤を含む粉体を圧粉成型し、圧粉体である難燃薬剤含有固形物を形成する工程の何れか一方又は両方と、 前記難燃薬剤含有固形物を前記開孔に充填する工程とを含む、難燃薬剤保持体の製造方法を提供するものである。
【0013】
また本発明は、前記の難燃薬剤保持体の製造方法であって、前記硬化性組成物を前記開孔に充填した後に該硬化性組成物を硬化させ、硬化物である難燃薬剤含有固形物を形成する工程、及び、固体難燃剤を含む粉体を前記開孔に充填した後に該粉体を圧粉成型し、圧粉体である難燃薬剤含有固形物を形成する工程の何れか一方又は両方を含む、難燃薬剤保持体の製造方法を提供するものである。
【0014】
また本発明は、角材からなる荷重支持部と、該荷重支持部の軸方向に沿う3側面又は4側面を被覆する耐火被覆層とを備える耐火木製構造材であって、前記耐火被覆層は、難燃薬剤保持層が厚み方向に複数積層されている難燃薬剤保持層積層部を有しており、前記難燃薬剤保持層積層部は、平面視において第1方向及び第1方向に直交する第2方向を有しており、前記難燃薬剤保持層は、複数の開孔を有する木質基材と、該開孔に充填された難燃薬剤含有固形物とを有しており、前記厚み方向に隣り合う前記難燃薬剤保持層どうしは、前記開孔の中心点の位置を、第1方向及び/又は第2方向にずらした状態に積層されており、前記難燃薬剤含有固形物が、固体難燃剤を含む硬化性組成物の硬化物、及び固体難燃剤を含む圧粉体の何れか一方又は両方である、耐火木製構造材を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、木質基材に大きな割れが生じ難く、安定的に耐火性能を担保することができる耐火性木質複合材、難燃薬剤保持体及び耐火木製構造材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の好ましい実施形態の耐火性木質複合材を示す斜視図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1のA部を平面視した平面図であり、
図2(b)は、
図2(a)のI-I線断面図である。
【
図3】
図3(a)は、
図1のA部における難燃薬剤保持層の積層状態を説明するための平面図であり、
図3(b)は、
図3(a)のII-II線断面図である。
【
図4】
図4(a)及び(b)は、難燃薬剤保持層の積層状態の変形例を示す断面図であり、
図3(b)相当図である。
【
図5】
図5(a)は、本発明の好ましい実施形態の耐火性木質複合材を備える耐火木製構造材の横断面図であり、
図5(b)は、
図5(a)に示す耐火木製構造材の変形例であり、
図5(c)は、
図5(a)に示す耐火木製構造材の別の変形例である。
【
図6】
図6は、実施例3の試験体について燃焼試験を行い、該試験体の温度を測定した結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例4の試験体について燃焼試験を行い、該試験体の温度を測定した結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例5の試験体について燃焼試験を行い、該試験体の温度を測定した結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、比較例2の試験体について燃焼試験を行い、該試験体の温度を測定した結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて詳細に説明する。
本発明の好ましい一実施形態の耐火性木質複合材1は、
図1に示すように、難燃薬剤保持層10が厚み方向に複数積層された構成を有する。耐火性木質複合材1は、難燃薬剤保持層10が厚み方向Zに3つ積層されている。耐火性木質複合材1は、平面視において第1方向X及び第1方向Xに直交する第2方向Yを有している。
【0018】
難燃薬剤保持層10は、複数の開孔21を有する木質基材20と、開孔21に充填された難燃薬剤含有固形物30とを備えている。木質基材20は複数の単板又は板材の積層体からなる。木質基材20が単板の積層体から構成される場合、積層体は、繊維の配向方向が互いに異なる複数種類の単板を含んでいても良いし、単板積層板(LVL)のように、繊維の配向方向が同じ単板のみから構成されていても良い。木質基材20は、複数の単板の積層体からなるものに代えて非積層材である1枚の板材から構成されていてもよい。
木質基材を構成する木材、例えば単板の原料木材の樹種は、針葉樹でも広葉樹でも良く、例えば、オーク、チーク、ウォルナット、ファルカタ、バルサ、レッドラワン、タモ、ニレ、カバ、キリ、スギ、ヒノキ、カラマツ、エゾマツ、トドマツ、アカマツ、ヒバ、ホワイトウッド、オウシュウアカマツ、ダフリカカラマツ、ダグラスファー等を用いることができる。原料木材の樹種としては、上述した各種の樹種から選択した1種又は2種以上を組み合わせた積層体を木質基材20としてもよい。
これらの中でも、燃焼時の発熱量を軽減させることと、単板の原材料として確保し易いことの観点から、スギ、トドマツ等の、針葉樹で比較的軽く、原料確保が容易な樹種を用いることが好ましい。また同様の観点から、気乾密度が0.3~0.6g/cm3であるものを用いることが好ましく、気乾密度が、0.4~0.5g/cm3であるものを用いることが更に好ましい。気乾密度は、複数の単板積層体の平均値により決定される。
【0019】
難燃薬剤含有固形物30は、固体状態の固形物である。難燃薬剤含有固形物30は、硬化物であってもよいし、圧粉体であってもよい。難燃薬剤含有固形物30は耐水性を有していることが好ましい。難燃薬剤含有固形物30に耐水性等の性能を付与するために、該難燃薬剤含有固形物30の表面をアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリケート樹脂、フッ素樹脂、塩素系樹脂、ポリオレフィン樹脂等の耐水性を付与する機能を有する材料により、コーティングしてもよい。無溶剤型湿気硬化シリコーンコーティング組成物(KR-400、信越化学工業(株)製)等の市販品を使用することもできる。
【0020】
硬化物は、固体難燃剤を含む硬化性組成物を硬化させたものである。耐火性木質複合材1の製造段階においては、ペースト状の硬化性組成物を、流動体の状態で開孔21に充填した後に硬化させて硬化物としてもよいし、ペースト状の硬化性組成物を硬化させて硬化物とした後、該硬化物を開孔21に充填してもよい。
硬化性組成物は、所定の条件又は操作により硬化するものである。そのような硬化性組成物としては、所定の条件又は操作により硬化する成分を含むものが挙げられる。所定の条件又は操作としては、常温硬化、湿気硬化、40~150℃加熱硬化、触媒存在下における化学反応による硬化等が挙げられる。また、硬化性組成物に鉄粉などの導電体を加えて、高周波加熱により硬化させてもよい。また硬化性組成物は、製造段階では溶媒を含む流動体となっていてもよい。この場合、時間経過や加熱等により溶媒を揮発させることにより、硬化性組成物を硬化物とすることができる。溶媒としては有機溶媒等を用いることができる。
【0021】
常温硬化する成分は、大気下常温で放置することにより硬化する成分であり、例えば酸化硬化型の塗料、湿気硬化型の塗料等が挙げられる。酸化硬化する成分は、大気中の酸素を介した酸化重合によって硬化する成分であり、不飽和結合を有する炭化水素系化合物を含んだ塗料等が挙げられる。湿気硬化する成分は、大気中の水分と反応して硬化する成分であり、例えばアルコキシ基あるいはシラノール基を有するシリコーン系塗料等が挙げられる。40~150℃加熱硬化する成分は、40~150℃に加熱することにより硬化する成分であり、水酸基とブロックイソシアネートとの反応によって硬化するウレタン系塗料、エポキシ基の反応や開環重合によって硬化するエポキシ系塗料等が挙げられる。
【0022】
本発明のおける硬化物は硬化反応の促進を目的として硬化触媒を含んでいても良く、硬化触媒の種類・混合量・添加方法等は、組成物の種類に応じた公知の方法、条件を採用することができる。硬化性組成物が、触媒存在下における化学反応によって硬化する成分を含んでいる場合、該硬化性組成物は硬化触媒を含んでいることが好ましい。硬化触媒としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、テトラメチルアンモニウムアセテート、n-ヘキシルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジシアンジアミド等の塩基性化合物類;テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、チタンアセチルアセトナート、アルミニウムトリイソブトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジイソプロポキシ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、塩化アルミニウム、コバルトオクチレート、コバルトアセチルアセトナート、鉄アセチルアセトナート、スズアセチルアセトナート、ジブチルスズオクチレート、ジブチルスズラウレート等の含金属化合物類;p-トルエンスルホン酸、トリクロル酢酸等の酸性化合物類などが挙げられる。これらの中でも、特にプロピオン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジイソプロポキシ(エチルアセトアセテート)アルミニウム等が挙げられ、これらの中でも有機系配位子を含有したアルミニウム触媒や有機系配位子を含有したチタン系触媒等の含金属化合物類が好ましい。
【0023】
本実施形態においては、硬化する成分として、硬化性化合物を含んでいることが好ましい。硬化性化合物は、所定の条件又は操作により硬化する化合物である。所定の条件又は操作としては、上述したものが挙げられる。硬化性化合物としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリケート樹脂、フッ素樹脂、塩素系樹脂、ポリオレフィン樹脂等の樹脂成分を含有する湿気硬化性または加熱硬化性の塗料組成物等が挙げられる。
【0024】
また、硬化性化合物は、下記一般式(1)で表される化合物若しくはその加水分解縮合物又はその両方であることが好ましい。
SiR1
(4-n)R2
n
・・・(1)
(式中、R
1
は、それぞれ独立して、水素原子、または一つ以上のアミノ基、エポキシ基、酸無水物基、マレイミド基、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタアクリル基、若しくはヘテロ環基で置換されていてもよい、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数6~20のアリール基もしくは炭素原子数7~20のアラルキル基を表し、R
2
は、それぞれ独立して水酸基、炭素原子数1~6のアルコキシ基、またはハロゲン原子を表し、nは、1~4の整数を表す。)
前記nは、3であることが好ましい。前記R
1
の一部又は全部は、炭素原子数6~20のアルキル基であることが好ましい。また前記R
1
の一部又は全部は、一つ以上のエポキシ基で置換された炭素原子数1~20のアルキル基であることも好ましい。
【0025】
硬化性化合物は、難燃薬剤の分散、硬化性化合物の扱いやすさ、燃焼後の炭化層形成、耐水性改善の観点から、該硬化性化合物のうちの50質量%以上が上記式(1)で表される化合物であることが好ましく、70質量%以上が上記式(1)で表される化合物であることが更に好ましく、90質量%以上が上記式(1)で表される化合物であることが一層好ましい。
【0026】
硬化性組成物は、上述のように、固体難燃薬剤を含んでいる。本実施形態において、硬化性組成物は、所定の条件又は操作により硬化する成分を含んでおり且つ固体難燃薬剤の含有量が80質量%以下であることが好ましい。硬化性組成物における、固体難燃薬剤の含有量の好ましい範囲については後述する。
【0027】
固体難燃剤は、難燃性を有する薬剤である。固体難燃剤としてはリン系化合物、ホウ素系化合物等が挙げられる。リン系化合物としては、例えば、有機リン化合物、リン酸、リン酸エステル、リン酸塩等が挙げられ、その具体例としては、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二グアニジン、ポリリン酸アンモニウム、疎水化ポリリン酸アンモニウム、リン酸グアニル尿素等が挙げられる。ホウ素系化合物としては、例えば、有機ホウ素化合物、ホウ酸、硼砂、酸化ホウ素、ホウ酸エステル、ホウ酸塩類等が挙げられる。リン系化合物及びホウ素系化合物以外のその他の化合物としては、例えば、硫酸アンモニウムや、塩化亜鉛等が挙げられる。これらの中でも、有機リン化合物、リン酸、リン酸エステル、リン酸塩、有機ホウ素化合物、ホウ酸、ホウ酸エステル及びホウ酸塩からなる群から選ばれる一種以上であることが好ましく、ホウ酸であることが更に好ましい。なお、固体難燃剤成分は、一種を単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0028】
圧粉体は粉体を圧粉成型したものである。本実施形態においては、圧粉成形により圧粉体を形成し易くする観点から、粉体とバインダーとを混合した状態で圧粉成形することが好ましい。本実施形態に係る粉体は固体難燃剤を含んでいる。バインダーとしては、圧粉体の形成に用いられる公知のものを使用することができ、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリケート樹脂、フッ素樹脂、塩素系樹脂、ポリオレフィン樹脂等の樹脂成分等が挙げられる。また、バインダーとして硬化性組成物を用いることもできる。
【0029】
圧粉体は、上述のように、固体難燃薬剤を含んでいる。本実施形態において、圧粉体は、粉体を圧粉成型したものであり且つ固体難燃薬剤の含有量が80質量%以上であることが好ましい。圧粉体における、固体難燃薬剤の含有量の好ましい範囲については後述する。
【0030】
難燃薬剤保持層10は、単位体積当たりの難燃薬剤含有固形物30の保持量が、難燃薬剤保持層10自体の強度確保や燃焼時における吸熱性能の向上と炭化断熱層の保持の観点から、90kg/m3以上であることが好ましく、100kg/m3以上であることがより好ましく、270kg/m3以下であることが好ましく、200kg/m3以下であることがより好ましく、90kg/m3以上270kg/m3以下であることが好ましく、100kg/m3以上200kg/m3以下であることがより好ましい。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持層10のうち少なくとも1つで単位体積当たりの難燃薬剤含有固形物30の保持量が上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持層10の全てで単位体積当たりの難燃薬剤含有固形物30の保持量が上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0031】
上述のように、難燃薬剤保持層10は、複数の開孔21を有する木質基材20と、開孔21に充填された難燃薬剤含有固形物30とを備えている。この構成により、難燃薬剤保持層10は、木質基材20の開孔21に充填された難燃薬剤含有固形物30により縁切りされているため、例えば難燃薬剤保持層10が燃焼したときに、難燃薬剤保持層10に大きな割れが生じ難くなっている。ここで、縁切りとは、割れの伸長を開孔部分で止めることを意味する。また、難燃薬剤含有固形物30として固体状態の固形物を用いることで、従来技術のように難燃薬剤の含浸ムラや乾燥時に難燃薬剤の含有量が不均一になってしまうことを防ぎ易くなり、難燃薬剤保持層10における難燃薬剤の含有量を均一にし易くなるとともに、難燃薬剤保持層10における固体難燃剤の含有量を所望の量とし易くなるので、安定的に耐火性能を担保することが可能となる。また、本実施形態においては、固形物である難燃薬剤含有固形物30として硬化物又は圧粉体を用いているため、耐火性木質複合材1が水に濡れた場合であっても難燃薬剤が溶け出しにくくなっており、耐水性を向上させることが可能となっている。
【0032】
木質複合材1の耐火性能を向上させる観点から、硬化性組成物は、固体難燃剤を50~80質量%の範囲で含むことが好ましく、60~80質量%の範囲で含むことが更に好ましく、65~75質量%の範囲で含むことが一層好ましい。同様の観点から、圧粉体は、固体難燃剤を80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上の範囲で含むことが更に好ましく、95質量%以上の範囲で含むことが一層好ましい。圧粉体は、固体難燃剤のみからなるもの、即ち固体難燃薬剤を100質量%含むものであってもよいが、100質量%であると、バインダーの使用量が少なくなって、圧縮成形の条件の設定等が難しくなることもあるため、99質量%以下が好ましく、より好ましくは97質量%以下である。
【0033】
木質基材20は、
図2に示すように、複数の開孔21を有している。
図2では、説明の便宜上、開孔21に充填されている難燃薬剤含有固形物30を図示せず省略しているが、本実施形態では、
図1に示すように、開孔21には難燃薬剤含有固形物30が充填されている。
【0034】
開孔21は木質基材20を貫通している。個々の開孔21は略円柱形状を有しており、複数の開孔21の形状は略同一となっている。開孔21の開口面積の合計は、木質基材20の開口が形成されている面の面積に対して、難燃薬剤含有固形物30を必要量保持することの観点から、9%以上であることが好ましく、11%以上であることがより好ましく、30%以下であることが好ましく、22%以下であることがより好ましく、9%以上30%以下であることが好ましく、11%以上22%以下であることがより好ましい。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持層10のうち少なくとも1つで開孔21の開口面積の合計が上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持層10の全てで開孔21の開口面積の合計が上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0035】
開孔21の直径は、難燃薬剤含有固形物30を必要量保持することと、縁切りすることで加熱試験時に大きな割れが生じにくくすることの観点から、6mm以上であることが好ましく、7mm以上であることがより好ましく、12mm以下であることが好ましく、11mm以下であることがより好ましく、6mm以上12mm以下であることが好ましく、7mm以上11mm以下であることがより好ましい。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持層10のうち少なくとも1つで開孔21の直径が上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持層10の全てで開孔21の直径が上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0036】
開孔21は、
図2(a)に示すように、第1方向X及び第2方向Yのそれぞれに等間隔に形成されている。より詳述すると、開孔21は、その複数が、第2方向Yに沿って一定の間隔Tyで一列に配された第1開孔列21Rを形成している。第1開孔列21Rは、第1方向Xに間隔を空けて複数列配されている。第1方向Xに隣り合う第1開孔列21Rを構成する開孔21どうしは、第2方向Yにおける開孔21の中心点21aどうしの位置が一致している。また、開孔21は、その複数が、第1方向Xに沿って一定の間隔Txで一列に配された第2開孔列21Lを形成している。第2開孔列21Lは、第2方向Yに間隔を空けて複数列配されている。第2方向Yに隣り合う第2開孔列21Lを構成する開孔21どうしは、第1方向Xにおける開孔21の中心点21aどうしの位置が一致している。
【0037】
つまり、第1方向Xに隣り合う第1開孔列21Rを構成する開孔21は、第1方向Xに沿って一定の間隔で一列に配された第2開孔列21Lを形成している。そして、第1開孔列21Rを構成する開孔21の間隔Tyと、第2開孔列21Lを構成する開孔21の間隔Txとは一致している。「第1開孔列21Rを構成する開孔21の間隔Ty」とは、第2方向Yに隣り合う開孔21の中心点21aどうしの距離を意味し、「第2開孔列21Lを構成する開孔21の間隔Tx」とは、第1方向Xに隣り合う開孔21の中心点21aどうしの距離を意味する(
図2(a)参照)。
【0038】
第1開孔列21R及び第2開孔列21Lを構成する開孔21の間隔Ty及び間隔Txは、難燃薬剤含有固形物30を必要量保持することと、縁切りすることで加熱試験時に大きな割れが生じにくくすることの観点から、15mm以上であることが好ましく、18mm以上であることがより好ましく、30mm以下であることが好ましく、25mm以下であることがより好ましく、15mm以上30mm以下であることが好ましく、18mm以上25mm以下であることがより好ましい(
図2(a)参照)。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持層10のうち少なくとも1つで開孔21の間隔Ty及び間隔Txが上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持層10の全てで開孔21の間隔Ty及び間隔Txが上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0039】
開孔21が第1方向X及び第2方向Yのそれぞれに等間隔に形成されていることにより、複数の難燃薬剤保持層10を積層するときに、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10を、開孔21の中心点21aどうし、好ましくは開孔21どうしが重ならないよう積層することが容易となる。
【0040】
難燃薬剤保持層10は、
図1及び
図2(b)に示すように、厚み方向Zにおける木質基材20の片側に封止層4を有している。本実施形態では、封止層4は1枚の板材により構成されている。板材としては、無垢材、合板、LVL、中密度繊維板(MDF)、パーティクルボード、集成材等を用いることができ、これらは難燃薬剤が含浸処理されているものであってもよいし、難燃薬剤が含浸処理されていないものであってもよい。封止層4を構成する板材に用いられる難燃薬剤としては、リン系防火薬剤、窒素系防火薬剤、ホウ素系防火薬剤、ハロゲン系防火薬剤等、一般的な難燃薬剤を含んでいるものを使用することができる。封止層4を構成する板材に用いられる難燃薬剤と、難燃薬剤含有固形物30に用いられる固体難燃剤とは同じであってもよいし、異なっていてもよい。
また封止層4は、木質基材20と同様に、複数の単板の積層体により構成されていてもよい。封止層4を複数の単板の積層体により構成する場合、単板の原料木材の樹種は、木質基材20と同様のものを用いることができる。封止層4は、厚み方向Zにおける木質基材20の両側に配されていてもよい。封止層4は、木質基材20と同じ部材であってもよいし、別の部材であってもよい。
【0041】
封止層4は、木質基材20が有する開孔21と重なる位置に開孔を有していない。つまり、難燃薬剤保持層10が厚み方向Zにおける片側に封止層4を有していることにより、木質基材20が有する開孔21の一方の開口が封止されることになる。封止層4は、難燃薬剤保持層10の開孔21の底面を形成している。本実施形態では、封止層4は開孔を全く有していないが、封止層4は、木質基材20が有する開孔21と重ならない位置に開孔を有していてもよい。
【0042】
難燃薬剤保持層10は、開孔21を有する木質基材20と開孔を有しない封止層4とを備えている。開孔21は木質基材20を貫通しているので、難燃薬剤保持層10における開孔21の深さは木質基材20の厚みと同じである。木質基材20の厚みH2は、難燃薬剤保持層10の厚みH1に対して、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、95%以下であることが好ましく、90%以下であることがより好ましく、80%以上95%以下であることが好ましく、85%以上90%以下であることがより好ましい(
図2(b)参照)。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持層10のうち少なくとも1つで木質基材20の厚みH2が上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持層10の全てで木質基材20の厚みH2が上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0043】
耐火性木質複合材1では、
図3に示すように、難燃薬剤保持層10が3つ積層されている。尚、
図3(a)では、説明の便宜上、開孔21に充填されている難燃薬剤含有固形物30を図示せず省略している。また
図3(a)においては実線で図示した円が
図3(b)における最上層の難燃薬剤保持層10の開孔21を表しており、破線で図示した円が
図3(b)における中間の難燃薬剤保持層10の開孔21を表している。尚、最下層の難燃薬剤保持層10の開孔21は、最上層の難燃薬剤保持層10の開孔21と同じ位置に位置している。
【0044】
耐火性木質複合材1では、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10どうしは、開孔21の位置を、第1方向X及び第2方向Yにずらした状態に積層されている(
図3(a)参照)。より具体的には、最上層の難燃薬剤保持層10における第1方向Xに隣り合う第1開孔列21Rどうしの間に、中間の難燃薬剤保持層10の第1開孔列21Rが配されている。更に、最上層の難燃薬剤保持層10の第1開孔列21Rと中間の難燃薬剤保持層10の第1開孔列21Rとは第2方向Yに半ピッチ分ずれている。また、最上層の難燃薬剤保持層10における第2方向Yに隣り合う第2開孔列21Lどうしの間に、中間の難燃薬剤保持層10の第2開孔列21Lが配されている。更に、最上層の難燃薬剤保持層10の第2開孔列21Lと中間の難燃薬剤保持層10の第2開孔列21Lとは第1方向Xに半ピッチ分ずれている。上記では、上層の難燃薬剤保持層10と中間の難燃薬剤保持層10との積層状態について説明したが、中間の難燃薬剤保持層10と最下層の難燃薬剤保持層10との積層状態についても同様である。
【0045】
図3(a)においては、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10どうしが、開孔21どうしが重ならないように積層されているが、本発明の耐火性木質複合材においては、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10どうしが、開孔21の中心点の位置を、第1方向X及び/又は第2方向Yにずらした状態に積層されていても良い。開孔21の中心点の位置を、第1方向X及び/又は第2方向Yにずらした状態には、
図3(a)に示すように、開孔21どうしが重ならない場合と、開孔21の一部は重なっているが、開孔21の中心点21aどうしが重ならない場合の両者が含まれる。
厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10に存在する開孔21の50%以上100%以下が重ならないことが好ましく、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10に存在する開孔21の70%以上100%以下が重ならないことがより好ましく、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10に存在する開孔21の90%以上100%以下が重ならないことが更に好ましい。
【0046】
耐火性木質複合材1は、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10どうしが、難燃薬剤含有固形物30が充填されている開孔21どうしの位置を第1方向X及び第2方向Yにずらした状態に積層されているので、最上層の難燃薬剤保持層10の木質基材20の開孔21ではない部分の厚み方向Z下側には、中間の難燃薬剤保持層10の開孔21が位置している。同様に、中間の難燃薬剤保持層10の木質基材20の開孔21ではない部分の厚み方向Z下側には、最下層の難燃薬剤保持層10の開孔21が位置している。つまり、耐火性木質複合材1の厚み方向Zに沿う断面においては、
図3(b)に示すように、難燃薬剤保持層10の難燃薬剤含有固形物30が充填されていない部分と、難燃薬剤保持層10の難燃薬剤含有固形物30が充填されている部分とが交互に配置されている。
このような構成により、例えば厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10のうち上側の難燃薬剤保持層10における開孔21ではない部分が燃焼し、燃焼が厚み方向Z下側に進行したとしても、上側の難燃薬剤保持層10における開孔21ではない部分の厚み方向Z下側には、下側の難燃薬剤保持層10の難燃薬剤含有固形物30が配されているため、燃焼が厚み方向Z下側に進行することを防ぐことができるようになっている。
【0047】
中間の難燃薬剤保持層10の開孔21ではない部分20Aに着目すると、該部分20Aを囲むように最上層及び最下層の難燃薬剤保持層10の開孔21が配されている(
図3(b)参照)。従って、難燃薬剤保持層10が燃焼し、開孔21に充填された難燃薬剤含有固形物30が溶融したときに、前記部分20Aを囲う開孔21に充填された難燃薬剤含有固形物30の溶融物どうしが繋がって三次元の網目構造を形成することができ、例えば前記部分20Aが燃え落ちることを防ぐことができる。このような観点から、難燃薬剤含有固形物30は、固体形難燃剤としてホウ酸及び/又はホウ酸系化合物を含んでいることが好ましい。
【0048】
次に、本実施形態の耐火性木質複合材1の製造方法について説明する。
まず、難燃薬剤含有固形物30として硬化物を有する耐火性木質複合材1を製造する場合について説明する。
まず、開孔21が形成されていない木質基材20に、第1方向X及び第2方向Yのそれぞれに等間隔に開孔21を形成する。これとは別に、硬化性組成物を開孔21と略同一形状の容器に入れ、該容器内で硬化性組成物を硬化させる。このようにして硬化物である難燃薬剤含有固形物30を得る。次に、開孔21に難燃薬剤含有固形物30を充填する。開孔21に難燃薬剤含有固形物30を充填するに先立って、難燃薬剤含有固形物30の表面に又は開孔21の周面に接着剤を塗布しておいてもよい。こうすることで、難燃薬剤含有固形物30が開孔21から抜けてしまうことを防止することができる。そして、木質基材20の厚み方向Zの片側に封止層4を配し、開孔21の一方の開口を封止する。このようにして難燃薬剤保持層10を製造する。このようにして製造した難燃薬剤保持層10どうしを、開孔21の中心点21aどうしが重ならないように第1方向X及び第2方向Yにずらした状態に積層し、耐火性木質複合材1を製造する。
【0049】
硬化性組成物を硬化させる方法は特に制限されない。硬化性組成物を硬化させる方法としては、例えば、上述した所定の条件又は操作により硬化させる方法が挙げられる。例えば、硬化性組成物を入れた容器内に硬化触媒を添加し、化学反応を起こさせることにより硬化させてもよいし、硬化性組成物を容器内に入れたまま放置し、硬化性触媒を大気中の水分と反応させることにより硬化させてもよいし、硬化性組成物を入れた容器を加熱することにより硬化させてもよい。
【0050】
難燃薬剤含有固形物30の表面に又は開孔21の周面に塗布する接着剤としては、木質複合材の製造に従来用いられている各種公知の接着剤を用いることができ、例えば、ホットメルト型接着剤、酢酸ビニル系接着剤、エポキシ系接着剤等が挙げられる。これらの中でも酢酸ビニル系接着剤を用いることが好ましい。
封止層4の木質基材20への接合及び難燃薬剤保持層10どうしの接合は、木質複合材の製造に従来用いられている各種公知の接着剤を用いることができ、例えば、水性高分子-イソシアネート系接着剤、レゾルシノール樹脂接着剤、レゾルシノール・フェノール樹脂接着剤、メラミン樹脂接着剤、メラミンユリア樹脂接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤等が挙げられる。これらのなかでも、レゾルシノール樹脂接着剤又はレゾルシノール・フェノール樹脂接着剤が好ましい。
【0051】
また、耐火性木質複合材1を以下のようにして製造することもできる。
まず、開孔21が形成されていない木質基材20に、第1方向X及び第2方向Yのそれぞれに等間隔に開孔21を形成する。次に、木質基材20の厚み方向Zの片側に封止層4を配し、開孔21の一方の開口を封止する。そして、硬化性組成物を開孔21に充填する。硬化性組成物を硬化させて、硬化物である難燃薬剤含有固形物30とすることにより、難燃薬剤保持層10が製造される。このようにして製造した難燃薬剤保持層10どうしを、第1方向X及び第2方向Yにずらした状態に積層し、耐火性木質複合材1を製造する。封止層4を配した後に、難燃薬剤含有固形物30を開孔21に充填することにより、難燃薬剤含有固形物30が充填時に液体状態であっても、難燃薬剤含有固形物30を開孔21に容易に充填することができる。硬化性組成物を硬化させる方法は特に制限されず、上述した方法等を用いることができる。
【0052】
また、難燃薬剤含有固形物30を充填した難燃薬剤保持層10を製造したあとに該難燃薬剤保持層10を積層し、耐火性木質複合材1を製造することに代えて、以下のように耐火性木質複合材1を製造してもよい。まず、開孔21が形成されていない木質基材20を複数積層し、積層した複数の木質基材20を厚み方向Zに貫通する開孔21を第1方向X及び第2方向Yのそれぞれに等間隔に形成する。次に、複数の木質基材20を貫通する開孔21に硬化性組成物を充填する。そして、積層した複数の木質基材20を、厚み方向Zに隣り合う木質基材20の開孔21の中心点21aどうしが重ならないように第1方向X及び第2方向にずらす。そして、硬化性組成物を硬化させて難燃薬剤含有固形物30とすることで、耐火性木質複合材1を製造する。
【0053】
尚、上述の製造方法では、開孔21が形成されていない木質基材20を使用した場合について説明したが、別工程にて予め開孔21が形成されている木質基材20を使用してもよい。
【0054】
次に、難燃薬剤含有固形物30として圧粉体を有する耐火性木質複合材1を製造する場合について説明する。
まず、開孔21が形成されていない木質基材20に、第1方向X及び第2方向Yのそれぞれに等間隔に開孔21を形成する。これとは別に、固体難燃剤を含む粉体を、開孔21と略同一形状に圧粉成型し、圧粉体である難燃薬剤含有固形物30を得る。その後、難燃薬剤含有固形物30として硬化物を用いる場合と同様に、開孔21に難燃薬剤含有固形物30を充填して難燃薬剤保持層10を製造し、該難燃薬剤保持層10どうしを、開孔21の中心点21aどうしが重ならないように第1方向X及び第2方向Yにずらした状態に積層し、耐火性木質複合材1を製造する。
【0055】
また、耐火性木質複合材1を以下のようにして製造することもできる。
まず、開孔21が形成されていない木質基材20に、第1方向X及び第2方向Yのそれぞれに等間隔に開孔21を形成する。次に、木質基材20の厚み方向Zの片側に封止層4を配し、開孔21の一方の開口を封止する。そして、固体難燃剤を含む粉体を開孔21に充填する。そして、開孔21に充填された粉体を圧粉成型し、圧粉体である難燃薬剤含有固形物30とすることにより、難燃薬剤保持層10を製造する。その後、難燃薬剤含有固形物30として硬化物を用いる場合と同様にして、難燃薬剤保持層10を製造し、該難燃薬剤保持層10どうしを、開孔21の中心点21aどうしが重ならないように第1方向X及び第2方向Yにずらした状態に積層し、耐火性木質複合材1を製造する。
【0056】
尚、難燃薬剤含有固形物30として圧粉体を用いる場合においても、別工程にて予め開孔21が形成されている木質基材20を使用してもよい。
【0057】
以上、本発明の耐火性木質複合材の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、斯かる実施形態に制限されず適宜変更可能である。例えば、上述した製造方法では、難燃薬剤含有固形物が硬化物である場合、硬化性組成物を開孔21と略同一形状の容器に入れ、該容器内で硬化性組成物を硬化させて硬化物である難燃薬剤含有固形物30を形成していたが、これに代えて、硬化性組成物を開孔21と略同一径の筒状の容器に入れ、開孔21の深さよりも長い硬化物を形成した後、該硬化物を開孔21の深さに合わせて切断して、難燃薬剤含有固形物30を形成してもよい。筒状の容器としてはタピオカストローが好ましい。
【0058】
また、硬化性組成物は、固体難燃剤、硬化性組成物及び硬化触媒に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。硬化性組成物に含まれる他の成分としては、紫外線吸収剤、防蟻剤、酸化防止剤等が挙げられる。また、圧粉体は、固体難燃剤、硬化性組成物及び硬化触媒に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。圧粉体に含まれる他の成分としては、紫外線吸収剤、防蟻剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0059】
また、耐火性木質複合材1が難燃薬剤含有固形物30を複数有する場合、該難燃薬剤含有固形物30の全てが硬化物又は圧粉体であってもよいし、複数の難燃薬剤含有固形物30のうちの一部が硬化物であり、残りが圧粉体であってもよい。複数の難燃薬剤含有固形物30のうちの一部が硬化物であり、残りが圧粉体である耐火性木質複合材は、例えば以下のようにして製造することができる。
【0060】
まず、開孔21が形成されていない木質基材20に、第1方向X及び第2方向Yのそれぞれに等間隔に開孔21を形成する。これとは別に、硬化性組成物を開孔21と略同一形状の容器に入れ、該容器内で硬化性組成物を硬化させ、硬化物である難燃薬剤含有固形物30を得る。また、固体難燃剤を含む粉体を、開孔21と略同一形状に圧粉成型し、圧粉体である難燃薬剤含有固形物30を得る。次に、複数の開孔21のそれぞれに、硬化物である難燃薬剤含有固形物30又は圧粉体である難燃薬剤含有固形物30を充填する。そして、木質基材20の厚み方向Zの片側に封止層4を配し、開孔21の一方の開口を封止する。このようにして、硬化物である難燃薬剤含有固形物30及び圧粉体である難燃薬剤含有固形物30の両方を有する難燃薬剤保持層10を製造する。このようにして製造した難燃薬剤保持層10どうしを、開孔21の中心点21aどうしが重ならないように第1方向X及び第2方向Yにずらした状態に積層し、耐火性木質複合材1を製造する。
【0061】
また、以下のようにして、複数の難燃薬剤含有固形物30のうちの一部が硬化物であり、残りが圧粉体である耐火性木質複合材を製造することもできる。
まず、開孔21が形成されていない木質基材20に、第1方向X及び第2方向Yのそれぞれに等間隔に開孔21を形成する。次に、木質基材20の厚み方向Zの片側に封止層4を配し、開孔21の一方の開口を封止する。そして、複数の開孔21のそれぞれに、硬化性組成物又は粉体を充填する。そして、硬化性組成物を硬化させて硬化物である難燃薬剤含有固形物30を形成する。また、粉体を圧粉成型し、圧粉体である難燃薬剤含有固形物30を形成する。このようにして、硬化物である難燃薬剤含有固形物30及び圧粉体である難燃薬剤含有固形物30の両方を有する難燃薬剤保持層10を製造する。このようにして製造した難燃薬剤保持層10どうしを、開孔21の中心点21aどうしが重ならないように第1方向X及び第2方向Yにずらした状態に積層し、耐火性木質複合材1を製造する。
【0062】
また、耐火性木質複合材1は、
図1及び
図3に示すように、3つの難燃薬剤保持層10を、封止層4を同じ側に向けて積層しているが、難燃薬剤保持層10の積層数や積層方法はこれに限られない。
図4に示すように難燃薬剤保持層10を2つ積層してもよいし、4つ以上積層してもよい。また厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10どうしを、封止層4どうしが対向するように積層してもよい(
図4(a)参照)。また厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10どうしを、封止層4を厚み方向Zの外側に向けて積層してもよい(
図4(b)参照)。また、難燃薬剤保持層10が封止層4を有している必要は必ずしもなく、封止層4を有していなくてもよい。
【0063】
また厚み方向Zの両端に位置する難燃薬剤保持層10のうち少なくとも1つにおける別の難燃薬剤保持層10が存在する側とは反対側に化粧層5が配されていてもよい(
図4(a)参照)。具体的には、耐火性木質複合材1における火災時に外部から加熱される側の面を化粧層5が構成していることが好ましい。化粧層5としては、単板、合成樹脂、紙等からなる化粧シート並びに塗工層等を用いることができる。また封止層4が耐火性木質複合材1における火災時に外部から加熱される側の面を構成している場合は、化粧層5を別に設けずに、封止層4を化粧層5としてもよい。
厚み方向Zの両端に位置する難燃薬剤保持層10のうち少なくとも1つにおける別の難燃薬剤保持層10が存在する側とは反対側に化粧層5が配されていることにより、耐火性木質複合材1の意匠性を向上させることが可能となる。
厚み方向Zの両端に位置する難燃薬剤保持層10は、複数の難燃薬剤保持層10のうち、厚み方向の端部又は最も端部に寄りに位置する難燃薬剤保持層である。
【0064】
また
図4(b)に示すように、厚み方向Zの両端に位置する難燃薬剤保持層10の少なくとも1つは、別の難燃薬剤保持層10が存在する側とは反対側の面6に難燃薬剤が塗布されていてもよい(
図4(b)参照)。具体的には、耐火性木質複合材1の火災時に外部から加熱される側を構成する面に難燃薬剤が塗布されていることが好ましい。耐火性木質複合材1が化粧層5を有している場合は、化粧層5における、難燃薬剤保持層10側とは反対側の面に難燃薬剤が塗布されていてもよい。また、化粧層5及び難燃薬剤保持層10の一方又は双方に難燃薬剤が塗布される等の方法により、化粧層5と難燃薬剤保持層10との間に難燃薬剤が配されていても良い。
化粧層5や難燃薬剤保持層10に塗布する難燃薬剤は、難燃薬剤含有固形物30に含まれる固体難燃剤や、封止層4を構成する板材に用いられる難燃薬剤と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
耐火性木質複合材1の外側を構成する面に難燃薬剤が塗布されていることにより、耐火性木質複合材1の耐火性能をより向上させることが可能となる。
【0065】
また耐火性木質複合材1は、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10どうしを第1方向Xと第2方向Yの両方にずらした状態に積層しているが、必ずしもその必要はなく、第1方向X又は第2方向Yの何れか一方向にずらした状態に積層されていてもよい。
【0066】
また開孔21は、第1方向X及び第2方向Yのそれぞれに等間隔に形成されている必要は必ずしもなく、第1開孔列21Rを構成する開孔21の間隔Tyと、第2開孔列21Lを構成する開孔21の間隔Txとは異なっていてもよい。
【0067】
第1開孔列21Rを構成する開孔21の間隔Tyと第2開孔列21Lを構成する開孔21の間隔Txとが異なっている場合、第1開孔列21Rを構成する開孔21の間隔Tyは、難燃薬剤保持層10自体の一方向の極端な強度低下を防ぐことと、薬剤保持における均質性を確保することの観点から、15mm以上であることが好ましく、18mm以上であることがより好ましく、50mm以下であることが好ましく、25mm以下であることがより好ましく、15mm以上50mm以下であることが好ましく、18mm以上25mm以下であることがより好ましい(
図2(a)参照)。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持層10のうち少なくとも開孔21の間隔Tyが上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持層10の全てで開孔21の間隔Tyが上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0068】
第1開孔列21Rを構成する開孔21の間隔Tyと第2開孔列21Lを構成する開孔21の間隔Txとが異なっている場合、第2開孔列21Lを構成する開孔21の間隔Txは、難燃薬剤保持層10自体の一方向の極端な強度低下を防ぐことと、薬剤保持における均質性を確保することの観点から、15mm以上であることが好ましく、18mm以上であることがより好ましく、50mm以下であることが好ましく、25mm以下であることがより好ましく、15mm以上50mm以下であることが好ましく、18mm以上25mm以下であることがより好ましい(
図2(a)参照)。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持層10のうち少なくとも開孔21の間隔Txが上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持層10の全てで開孔21の間隔Txが上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0069】
また第1方向Xに隣り合う第1開孔列21Rを構成する開孔21どうしは、第2方向Yにおける開孔21の中心点21aどうしの位置が一致している必要は必ずしもなく、第2方向Yにおける開孔21の中心点21aどうしの位置が異なっていてもよい。例えば、第1方向Xに隣り合う第1開孔列21Rどうしは、第2方向Yに半ピッチ分ずれていてもよいし、3分の2ピッチ分ずれていてもよい。また第2方向Yに隣り合う第2開孔列21Lを構成する開孔21どうしは、第1方向Xにおける開孔21の中心点21aどうしの位置が異なっていてもよく、例えば、第2方向Yに隣り合う第2開孔列21Lどうしは、第1方向Xに半ピッチ分ずれていてもよいし、3分の2ピッチ分ずれていてもよい。
【0070】
本実施形態では、耐火性木質複合材1は四角形の面材であり、第1方向Xは面材の一辺と平行な方向であり、第2方向Yは該一辺と直交する辺と平行な方向であるが、面材の一辺に対して0度超90度未満の角度を有するように第1方向Xを定め、該第1方向Xに直交する方向を第2方向Yとしてもよい。
【0071】
本実施形態の耐火性木質複合材1における難燃薬剤保持層10は、複数積層し、耐火性木質複合材1として用いるのみならず、1つの難燃薬剤保持層10を単独で用いることもできる。単独の難燃薬剤保持層10(以下、難燃薬剤保持体10という)は、木質基材20の開孔21に充填された難燃薬剤含有固形物30により縁切りされているため、例えば難燃薬剤保持体10が燃焼したときに、難燃薬剤保持体10に大きな割れが生じ難くなっている。また、難燃薬剤含有固形物30として固体状態の固形物を用いることで、難燃薬剤保持体10における難燃薬剤の含有量を均一にし易くなるとともに、難燃薬剤保持体10における難燃薬剤の含有量を所望の量とし易くなるので、安定的に耐火性能を担保することが可能となる。
本発明の難燃薬剤保持体及び耐火性木質複合材は、例えば壁、床又は天井等に張り付けて用いることができる。
【0072】
図5(a)~(c)に、本発明の耐火木製構造材の好ましい実施形態の例を示す。本発明の耐火木製構造材は、木造建築物の梁や柱として使用される構造用の角材である。
図5(a)及び(b)に示す耐火木製構造材7Aは、木造建築物の柱として使用される構造用の角材であり、荷重支持部8と耐火被覆層9とを備えている。
荷重支持部8は角材であり、単独で、固定荷重、積載荷重等の長期に生ずる荷重(長期荷重)に対して構造耐力上安全であるようにその断面設計がなされている。斯かる断面設計は公知である。荷重支持部8の横断面形状は四角形状であり、耐火木製構造材7Aの横断面における、荷重支持部8の縦方向の長さ及び横方向の長さは、梁や柱の形状、或いは大きさ等によって適宜に変更することができる。
【0073】
耐火被覆層9は、荷重支持部8の軸方向に沿う4側面を被覆するように配されている。耐火被覆層9は、難燃薬剤保持層10が厚み方向に複数積層されている難燃薬剤保持層積層部40を有している。難燃薬剤保持層積層部40は、上述の耐火性木質複合材1と同様の構成を具備しており、平面視において第1方向と第1方向に直交する第2方向を有している。耐火被覆層9は、難燃薬剤保持層積層部40に加えて化粧層5を有している。化粧層5としては、上述の耐火性木質複合材1が有する化粧層5と同様のものを用いることができる。尚、耐火被覆層9は化粧層5を有している必要は必ずしもなく、化粧層5を有していなくてもよい。
【0074】
図5(a)では、耐火被覆層9における荷重支持部8が存在する部分から延出している部分9eを、荷重支持部8の角を挟んで両側に位置する耐火被覆層9どうしを接合させた横断面L字形状の耐火被覆層9により形成している。また、耐火被覆層9における荷重支持部8が存在する部分から延出している部分9eは、
図5(b)に示すように、荷重支持部8の一側面に沿う耐火被覆層9を、荷重支持部8が存在する部分9sよりも延出させることにより形成してもよい。
【0075】
耐火木製構造材7Aの耐火被覆層9は、開孔21に充填された難燃薬剤含有固形物30により木質基材20が縁切りされた難燃薬剤保持層10を具備しているため、耐火木製構造材7Aは、例えば耐火被覆層9が燃焼したときに、耐火被覆層9に大きな割れが生じ難くなっており、燃焼が荷重支持部8に伝わり難くなっている。また耐火木製構造材7Aは、耐火被覆層9が、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持層10どうしが開孔21の中心点21aどうしが重ならないように、第1方向X及び第2方向Yにずらした状態に積層された難燃薬剤保持層積層部40を具備しているため、例えば耐火被覆層9が燃焼したときに、燃焼が厚み方向Z下側に進行することを防ぐことができるようになっており、燃焼が荷重支持部8に伝わり難くなっている。
【0076】
次に、本発明の耐火木製構造材の他の実施形態である耐火木製構造材7Bについて、
図5(c)を参照しながら説明する。
図5(c)に示す耐火木製構造材7Bについては、
図5(a)及び(b)に示す耐火木製構造材7Aと異なる点について説明する。特に説明しない点については、耐火木製構造材7Aと同様であり、耐火木製構造材7Aの説明が適宜適用される。
【0077】
図5(c)に示す耐火木製構造材7Bは、木造建築物の梁として使用される構造用の角材である。耐火木製構造材7Bでは、耐火被覆層9は、荷重支持部8の軸方向に沿う3側面を被覆するように配されている。耐火木製構造材7Bの荷重支持部8は、横断面の中心から耐火被覆層9が形成されていない側面に亘って存在するものである。耐火木製構造材7Bの耐火被覆層9が形成されていない側面は、例えば床等を載せて荷重支持部8の上側を被覆してもよい。
【実施例】
【0078】
(実施例1)
図2に示す難燃薬剤保持層10と同様の構成を有する難燃薬剤保持体を製造した。具体的には、木質基材として、縦方向の長さが100mmであり、横方向の長さが100mmであり、厚みが15mmである、針葉樹合板を使用した。開孔の直径は10mmであり、第1方向及び第2方向における開孔の間隔は20mmであった。開孔に、以下の組成を有する硬化性組成物を充填した後、該硬化性組成物を温度:20~25℃、湿度:40%RH以下、硬化時間:10日間の条件により硬化させ、硬化物である難燃薬剤含有固形物を形成した。
【0079】
<硬化性組成物の組成>
・固体難燃剤:ホウ酸、70質量%
・硬化性化合物:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、23質量%
・硬化触媒:アルミニウム系硬化触媒(ACS、ホープ製薬株式会社製)、7質量%
・他の成分:なし
【0080】
(実施例2)
実施例1において、硬化性組成物の組成を以下のように変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2の試験体を製造した。
<硬化性組成物の組成>
・固体難燃剤:ホウ酸、70質量%
・硬化性化合物:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、9質量%;メチル系シロキサンオリゴマー(KC-89S、信越化学工業株式会社製、n=3)、18質量%
・硬化触媒:アルミニウム系硬化触媒(ACS、ホープ製薬株式会社製)、3質量%
・他の成分:なし
【0081】
(比較例1)
縦方向の長さが3950mmであり、横方向の長さが120mmであり、厚みが30mmであるスギ材に190kg/m3の難燃薬剤を加圧注入した難燃処理済みスギ材を厚み方向に積層して接着して得られた集成材から、縦方向の長さが100mmであり、横方向の長さが100mmであり、厚みが15mmである小片を採取して試験体とした。難燃薬剤としては、ポリリン酸アンモニウムを用いた。
【0082】
(耐水試験)
まず、実施例1,2及び比較例1で得られた試験体の質量を測定した。そして、各試験体を24時間流水に暴露させた。その後、オーブンを用いて105℃で24時間乾燥し、各試験体の質量を再度測定した。各試験体について、流水に暴露させる前の難燃薬剤の質量に対する流水に暴露させた後の難燃薬剤の溶脱量の割合を算出し、算出された値を溶脱率とした。
【0083】
比較例においては、溶脱率は75%であった。これに対し実施例1及び2の溶脱率はそれぞれ、42%及び20%であった。このように、実施例1及び2は、比較例に比して溶脱率が低く、水に触れた場合であっても難燃薬剤が溶け出しにくく、耐水性が向上していることが分かる。
【0084】
(実施例3)
木質基材として、縦方向の長さが430mmであり、横方向の長さが325mmであり、厚みが15mmである、スギ有孔合板を使用した。開孔の直径は10mmであり、第1方向及び第2方向における開孔の間隔は20mmであった。開孔に、以下の組成を有する硬化性組成物を充填した後、60℃に加熱して6時間硬化させ、硬化物である難燃薬剤含有固形物を形成した。このようにして製造した難燃薬剤保持体を、開孔どうしが重ならないように、厚み方向に3つ積層した。積層した難燃薬剤保持体の厚み方向における一方の面に、縦方向の長さが430mmであり、横方向の長さが325mmであり、厚みが24mmである、針葉樹からなる合板を配した。難燃薬剤保持体及び合板の接着には、レゾルシノール系接着剤を使用した。このようにして製造した、難燃薬剤保持体及び合板の積層体における難燃薬剤保持体側の面以外の面をセラミックブランケットと石膏ボードで養生し、実施例3の試験体とした。
<硬化性組成物の組成>
・固体難燃剤:ホウ酸、70質量%
・硬化性化合物:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、23質量%
・硬化触媒:アルミニウム系硬化触媒(ACS、ホープ製薬株式会社製)、7質量%
・他の成分:なし
【0085】
(実施例4)
実施例3において、硬化性組成物を木質基材の開孔と同形状の容器に充填し、60℃に加熱して6時間硬化させ、硬化物である難燃薬剤含有固形物を形成した。そして、形成した難燃薬剤含有固形物を木質基材の開孔に充填した。これ以外は、実施例3と同様にして、実施例4の試験体を製造した。
【0086】
(実施例5)
実施例4において、以下の組成を有する粉体を圧粉成形し、圧粉体である難燃薬剤含有固形物を形成した。そして、形成した難燃薬剤含有固形物を木質基材の開孔に充填した。これら以外は、実施例3と同様にして、実施例5の試験体を製造した。
<粉体の組成>
・固体難燃剤:ホウ酸、95質量%
・硬化性化合物:メチル系ポリシロキサン樹脂(KR-220LP、信越化学工業株式会社製、n=3)、5質量%
【0087】
(比較例2)
難燃薬剤保持体を3つ積層した積層体に代えて、縦420mm、横350mm、厚み24mmのラワン合板を2つ積層した積層体を用いた以外は、実施例3と同様の手順で試験体を製造した。
【0088】
(燃焼試験)
実施例3ないし5及び比較例2で得られた試験体を燃焼試験炉に収容した。試験体においては、難燃薬剤保持体側の面が一面加熱される加熱面である。そして通常の火災を想定したISO834標準加熱により1時間加熱を行い、加熱終了後、加熱時間の3倍以上の時間(3時間以上、約4時間)の炉内放冷を行った。
その際、実施例3では、鉛直方向の上側の面から100mmの位置において加熱面からの深さが30mm、45mm、60mmとなる位置(
図6中、それぞれの位置を上30、上45、上60と表記する)、及び鉛直方向の下側の面から100mmの位置において加熱面からの深さが30mm、45mm、60mmとなる位置(
図6中、それぞれの位置を下30、下45、下60と表記する)における温度変化を計測し、各位置における温度の継時的変化を確認した。
実施例4及び5並びに比較例2では、鉛直方向の上側の面から100mmの位置において加熱面からの深さが15mm、30mm、45mmとなる位置(
図7~9の各図中、それぞれの位置を上15、上30、上45と表記する)、及び鉛直方向の下側の面から100mmの位置において加熱面からの深さが15mm、30mm、45mmとなる位置(
図7~9の各図中、それぞれの位置を下15、下30、下45と表記する)における温度変化を計測し、各位置における温度の継時的変化を確認した。
また、実施例3ないし5及び比較例2の加熱面の状態を目視により確認した。実施例3ないし5及び比較例2について温度を測定した結果をそれぞれ、
図6ないし9に示す。
【0089】
実施例3~5においては、燃え止まりが確認でき、1時間耐火性能を有していることが確認できた。また炭化層に大きなひび割れや脱落は見られなかった。また、3層目の木質基材の難燃薬剤含有固形物が未反応で残存していることも確認できた。
【0090】
比較例2では燃え止まりが確認できず、炭化層に大きなひび割れや脱落が見られた。また、
図9に示されるように、加熱終了後にも燃焼がおさまらず、試験体内の温度が低下しなかった。加熱開始180分後には燃え抜けの可能性があると判断し試験を中止した。
【符号の説明】
【0091】
1 耐火性木質複合材
10 難燃薬剤保持層
20 木質基材
21 開孔
21a 開孔の中心点
30 難燃薬剤含有固形物
4 封止層
5 化粧層
7 耐火木製構造材
8 荷重支持部
9 耐火被覆層
40 難燃薬剤保持層積層部
X 第1方向
Y 第2方向
Z 厚み方向