(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】流体動圧軸受装置、スピンドルモータ、およびハードディスク駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/74 20060101AFI20240123BHJP
F16C 17/10 20060101ALI20240123BHJP
F16C 35/10 20060101ALI20240123BHJP
F16C 43/02 20060101ALI20240123BHJP
G11B 19/20 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
F16C33/74 Z
F16C17/10 A
F16C35/10
F16C43/02
G11B19/20 F
(21)【出願番号】P 2020081079
(22)【出願日】2020-05-01
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】昭和 秀明
(72)【発明者】
【氏名】中嶌 大吾
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-270905(JP,A)
【文献】特開2012-184835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/72-33/82
F16C 17/00-17/26
F16C 33/00-33/28
F16C 35/00-39/06
F16C 43/00-43/08
G11B 19/20-19/28
H02K 5/00- 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトを備えた固定部と、
前記固定部に対して相対的に回転可能に支持された回転部と、
前記シャフトの外周面と前記シャフトに対向する前記回転部の内周面とで形成された動圧軸受部と、
前記動圧軸受部に充填された潤滑油と、
前記回転部に設けられた環状凸部に嵌合するキャップと、
を備えた流体動圧軸受装置において、
前記キャップは平板部と該平板部の縁部から軸方向下方に延在する円筒部とを備え、
前記環状凸部の外周面と前記キャップの前記円筒部の内周面との間に嵌合領域を設け、
前記キャップの前記円筒部と前記回転部との間に、前記嵌合領域に
前記平板部と逆側の位置で隣接する閉塞空間を全周に亘って設け、前記閉塞空間に封止材が保持されている流体動圧軸受装置。
【請求項2】
前記閉塞空間は、前記キャップの前記円筒部の内周面と前記環状凸部の外周面との間に設けられている請求項1に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項3】
前記キャップの前記円筒部は、前記回転部の軸方向端面に当接している請求項2に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項4】
前記回転部の軸方向端面に環状溝を設け、該環状溝の内周面に前記キャップの円筒部の外周面を接触させた請求項1または2に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項5】
前記閉塞空間に、前記嵌合領域に隣接し該嵌合領域側へ向かうに従って
該閉塞空間の径方向の寸法が小さくなるテーパ部を設けた請求項
1または2に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項6】
前記キャップの前記円筒部の端部に、半径方向外側へ突出するフランジ部を設けた請求項2乃至5のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項7】
前記閉塞空間から軸方向に離間した位置に第2の閉塞空間を全周に亘って形成した請求項2乃至6のいずれかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の流体動圧軸受装置を備えたスピンドルモータ。
【請求項9】
請求項8に記載のスピンドルモータを備えたハードディスク駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体動圧軸受装置、スピンドルモータ、およびハードディスク駆動装置に係り、特に、潤滑油の漏出防止用のキャップを固定する接着剤から発生するアウトガスの放出を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク駆動装置の記録ディスクを回転させるスピンドルモータの流体動圧軸受装置には、固定部に固定されたシャフトと回転部材のスリーブ部との間に介在させた潤滑油に動圧を発生させるものがある。この潤滑油がシャフトとスリーブ部との間から外部へ漏れることを防止するために、スリーブ部にキャップを固定するなどして潤滑油の液面を軸方向上方から覆うようにしている(例えば特許文献1)。
【0003】
図9は従来のスピンドルモータ1の要部を示す断面図である。この図に示すスピンドルモータ1は、固定部(図示略)にシャフト2を固定し、シャフト2にロータ3を流体動圧軸受4によって相対的に回転可能に支持して概略構成されている。流体動圧軸受4は、シャフト2に円錐軸受部材5を固定し、円錐軸受部材5の下半部に設けた円錐軸受面5aおよびシャフト2の外周面2aと、ロータ3のロータ側円錐面3aおよび内周面3bとによって形成された動圧軸受部6に潤滑油7を充填して構成されている。
【0004】
ここで、ロータ3の端面には、軸方向へ突出する環状凸部3cが形成され、環状凸部3cにはキャップ8が嵌合し、潤滑油7の液面を軸方向上方から覆うことで潤滑油7の漏出を防いでいる。キャップ8は、平板部8aと平板部8aの縁部から軸方向下方に延在する円筒部8bとにより構成され、キャップ8を接着剤により固定する場合、接着剤を塗布した環状凸部3cの外周面にキャップ8の円筒部8bの内周面を圧入状態になるようにはめ込んでいくことで固定する。接着剤は、潤滑油7の漏出を防止する目的で全周に塗布される。この際、接着剤はキャップ8の円筒部8bの下端により掻き出されるようにして外側に露出し、接着剤だまり9を形成する。露出した接着剤だまり9からアウトガスが発生すると、スピンドルモータ1の外部に放出されたアウトガスがディスク周辺の清浄度を低下させ、場合によってはディスクの読み書きエラーが発生するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、接着剤等の封止材から発生したアウトガスの外部への放出を抑制することができる流体動圧軸受装置、スピンドルモータ、およびハードディスク駆動装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シャフトを備えた固定部と、前記固定部に対して相対的に回転可能に支持された回転部と、前記シャフトの外周面と前記シャフトに対向する前記回転部の内周面とで形成された動圧軸受部と、前記動圧軸受部に充填された潤滑油と、前記回転部に設けられた環状凸部に嵌合するキャップと、
を備えた流体動圧軸受装置において、前記キャップは平板部と該平板部の縁部から軸方向下方に延在する円筒部とを備え、前記環状凸部の外周面と前記キャップの前記円筒部の内周面との間に嵌合領域を設け、前記キャップの前記円筒部と前記回転部との間に、前記嵌合領域に前記平板部と逆側の位置で隣接する閉塞空間を全周に亘って設け、前記閉塞空間に封止材が保持されている流体動圧軸受装置である。
【0008】
本発明によれば、環状凸部の外周とキャップの円筒部の内周との間の嵌合領域から露出した封止材は閉塞空間に封入されるから、発生したアウトガスが閉塞空間内に封入され、スピンドルモータの外部への放出が抑制される。
【0009】
閉塞空間は、キャップの円筒部の内周面と前記環状凸部の外周面との間に設けることができる。この場合、閉塞空間は、環状凸部の外周面に溝を形成するか、キャップの円筒部の内周面に溝を形成することで形成することができる。あるいは、環状凸部と円筒部の両方に溝を形成することもできる。いずれの場合においても、閉塞空間に、嵌合領域に隣接し嵌合領域側へ向かうに従って径方向の寸法が小さくなるテーパ部を設けると好適である。そのように構成することにより、嵌合領域から露出した液状の封止材が毛細管力によって嵌合領域側に保持され、封止材の閉塞空間から外部への漏出が抑制される。
【0010】
キャップの円筒部の端部には、半径方向外方へ突出するフランジ部を設けることができる。この場合において、フランジ部を回転部の軸方向端面に当接させることにより、フランジ部の広い面積で回転部の軸方向端面と接触し、閉塞空間内で発生したアウトガスの漏出を有効に抑制することができる。
【0011】
回転部の軸方向端面に環状溝を設け、環状溝の内周面にキャップの円筒部の外周面を接触させることもできる。この場合において、環状溝の底面とキャップの円筒部の端面との間に隙間を設けることにより、その隙間を閉塞空間とすることができる。このような閉塞空間は、上記閉塞空間と組み合わせて形成することができる。
【0012】
閉塞空間から軸方向に離間した位置に第2の閉塞空間を全周に亘って形成することができる。このような構成により、封止材が閉塞空間から漏出した場合であっても第2の閉塞空間内に封入される。また、封止材から発生したアウトガスが閉塞空間から漏出しても、第2の閉塞空間内に封入される。
【0013】
本発明は、上記構成の流体動圧軸受装置を備えたスピンドルモータであり、このスピンドルモータを備えたハードディスク駆動装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、接着剤等の封止材から発生したアウトガスの外部への放出を抑制することができる流体動圧軸受装置、スピンドルモータ、およびハードディスク駆動装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態のハードディスク駆動装置を示す斜視図である。
【
図2】本発明の第1実施形態のハードディスク駆動装置を示す断面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態のスピンドルモータを示す断面図である。
【
図4】(A)は本発明の第1実施形態のスピンドルモータの要部を拡大した断面図、(B)は(A)の矢印Bで示す部分の拡大図である。
【
図5】(A)は本発明の第2実施形態のスピンドルモータの要部を拡大した断面図、(B)は(A)の矢印Bで示す部分の拡大図である。
【
図6】(A)は本発明の第3実施形態のスピンドルモータの要部を拡大した断面図、(B)は(A)の矢印Bで示す部分の拡大図である。
【
図7】(A)は本発明の第4実施形態のスピンドルモータの要部を拡大した断面図、(B)は(A)の矢印Bで示す部分の拡大図である。
【
図8】(A)は本発明の第5実施形態のスピンドルモータの要部を拡大した断面図、(B)は(A)の矢印Bで示す部分の拡大図、(C)は(B)の変更例を示す拡大図である。
【
図9】従来のスピンドルモータの要部を拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.第1実施形態
(ハードディスク駆動装置)
図1は、本発明の第1実施形態に係るスピンドルモータを用いたハードディスク駆動装置10の全体構成を示す斜視図であり、
図2は回転軸を含む面で切断した断面図である。これらの図に示すように、ハードディスク駆動装置10は、スピンドルモータ100と、スピンドルモータ100に取り付けられて回転する複数のハードディスク13とを備えている。また、ハードディスク駆動装置10は、ハードディスク13にそれぞれ対向する複数の磁気ヘッド12を支持するスイングアーム11と、スイングアーム11を駆動するアクチュエータ14と、これらの機器を制御する制御部15とを備えている。
【0017】
(スピンドルモータ)
図3は、回転軸を含む面で切断した第1実施形態のスピンドルモータ100の断面図である。スピンドルモータ100の固定部は、ベース部101と、ベース部101に固定されたシャフト102を備え、シャフト102には、円錐軸受部材201,301が固定されている。また、ベース部101には、シャフト102の軸方向上方に向けて延在する円筒部101aが形成され、円筒部101aの外周にはステータコア103が固定されている。ステータコア103は、環形状を有する薄板状の軟磁性材料(例えば、電磁鋼板)を軸方向で複数枚積層したものであり、径方向外側に突出した複数の極歯を備えている。複数の極歯は、周方向に沿って等間隔に設けられ、それぞれにコイル104が巻回されている。
【0018】
スピンドルモータ100の回転部は、ロータ110を備えている。ロータ110は、外側円筒部111と、外側円筒部111の内側に固定された内側円筒部112を有し、外側円筒部111の内周面側に円環状のロータマグネット113が固定されている。ロータマグネット113は、周方向に沿ってSNSN・・と隣接する部分が交互に異極性となるように着磁されている。ロータマグネット113の内周は、隙間を有した状態でステータコア103の極歯の外周に対向している。そして、コイル104に駆動電流を供給することで、ロータマグネット113を回転させようとする駆動力が生じ、ロータ110がシャフト102を軸として、シャフト102およびベース部101に対して回転する。この原理は、通常のスピンドルモータと同様である。
【0019】
外側円筒部111の下端部周縁には、半径方向外側に延在するフランジ部114が形成されている。フランジ部114は、複数のハードディスク13を重ねて載置するためのディスク載置部として機能する。
図3に示すように、フランジ部114にはハードディスク13が載置され、ハードディスク13には、スペーサ16を介してハードディスク13が次々と積層され、合計で9枚のハードディスク13が積層されている。そして、最上部のハードディスク13は、ロータ110の上面にねじ17で取り付けたクランプ18によってロータ110に固定されている。
【0020】
(流体動圧軸受装置)
ロータ110は、流体動圧軸受200,300により、シャフト102に対して相対的に回転可能に支持されている。流体動圧軸受200は、シャフト102に固定された円錐軸受部材201を含み、流体動圧軸受300は、シャフト102に固定された円錐軸受部材301を含む。以下の説明では、
図4を参照し、流体動圧軸受200を例示して説明する。
図4は、流体動圧軸受200の部分を拡大した状態を示している。
【0021】
円錐軸受部材201の中央には、軸方向に延在する貫通孔209が形成され、この貫通孔209にシャフト102が圧入されることで、円錐軸受部材201とシャフト102とが結合している。なお、円錐軸受部材201とシャフト102との結合は、接着剤あるいはレーザー溶接により行ってもよい。
【0022】
円錐軸受部材201は、径方向外側の面として下側の円錐軸受面202と上側のシール円錐面203とを有している。円錐軸受面202は、ロータ110の内周面に設けられたロータ側円錐面115と微小な隙間211を介して相互に対向している。円錐軸受面202と、ロータ側円錐面115との少なくとも一方には動圧溝が形成されている。
【0023】
シール円錐面203とロータ110の内周面との間には、テーパシール部212が設けられている。テーパシール部212は、周方向に沿って全周に亘って形成され、
図4(A)に示すように、軸方向における下方から上方に向って隙間の寸法が漸次大きくなるようなテーパ形状に形成され、テーパシール部212に液面が位置して毛細管力により潤滑油Cの漏出が防止されている。
【0024】
円錐軸受部材201の内周面の下端部とシャフト102の外周面との間には、環状の空間となる隙間210が設けられ、隙間210とテーパシール部212とは、循環孔205によって連通している。循環孔205は、軸方向から見て周方向に等間隔に2本設けられている。隙間210と前述の隙間211は互いに連通し、これらは内側円筒部112の内周面112aとシャフト102の外周面102aとの間の隙間213にも連通している。これにより、テーパシール部212、循環孔205、および隙間210,211,213は、潤滑油Cの移動が可能な状態でつながっている。そして、隙間211および隙間213によって形成される動圧軸受部215に潤滑油Cが充填され、流体動圧軸受200が構成されている。
【0025】
(キャップ取付構造)
内側円筒部112の上端面には、軸方向上方に向けて突出する環状凸部150が全周に亘って形成されている。
図4(B)に示すように、環状凸部150の外周面には、その上端側の大径部151と、下端側で大径部151よりも小径な小径部152が全周に亘って形成され、大径部151と小径部152との間には、軸方向における下方から上方に向って隙間の寸法が漸次小さくなるテーパ部153が全周に亘って形成されている。このテーパ部153とキャップ160の円筒部162の内周面162aとの間に、テーパシール部153aが形成されている。そして、このような環状凸部150には、キャップ160が固定されている。
【0026】
キャップ160は、テーパシール部212に存在する潤滑油Cの液面を上方から覆うことで潤滑油Cが漏出するのを防止するものである。キャップ160は、環状の平板部161と平板部161の縁部から下方に向けて延在する円筒部162とからなり、中央にシャフト102が貫通する孔163を有している。キャップ160は、外周面に封止材としての接着剤を塗布された環状凸部150に圧入状態になるように嵌合され、その円筒部162の下端面を内側円筒部112の上端面に当接させている。これにより、キャップ160と環状凸部150との間に閉塞空間170が形成されている。なお、「圧入状態になるように嵌合」とは、締まり嵌めの状態を言い、絞まり嵌めの状態にする手段は圧入、焼嵌め、冷し嵌めなど任意である。また、キャップ160は、環状凸部150に隙間嵌めの状態で嵌合させてもよい。その場合には、キャップ160と環状凸部150は接着剤の接着力のみによって互いに固定される。
【0027】
キャップ160が環状凸部150に圧入状態で嵌合される際に、大部分の接着剤は環状凸部150の大径部151とキャップ160の円筒部162の内周面とによって形成される圧入領域(嵌合領域)164から円筒部162の下端によって掻き出されて接着剤だまり171を形成する。この接着剤だまり171は、閉塞空間170内に保持される。なお、接着剤の一部は圧入領域164に保持されていてもよい。
【0028】
閉塞空間170内に保持された液状の接着剤は、環状凸部150のテーパ部153とキャップ160の円筒部162との間に形成されるテーパシール部153aの毛細管力によって圧入領域164側に留まり、例えば熱を加えられて硬化する。これにより、キャップ160の環状凸部150への固定が完了するとともに、テーパシール部212の潤滑剤Cの漏出が防止される。
【0029】
上記構成の流体動圧軸受装置にあっては、硬化した接着剤だまり171からアウトガスが発生しても接着剤だまり171が閉塞空間170内に封入されているから、アウトガスが閉塞空間内に封入され、スピンドルモータ100の外部への漏出が抑制される。
【0030】
特に、上記第1実施形態では、環状凸部150のテーパ部153とキャップ160の円筒部162との間にテーパシール部153aを形成しているので、接着剤の閉塞空間170からの漏出が有効に抑制される。
【0031】
なお、上記第1実施形態では、環状凸部150にテーパ部153を設けているが、大径部151と小径部152のみ設けることができる。また、キャップ160にも、大径部と小径部およびテーパ部を設けることができ、キャップ160のみに、大径部と小径部およびテーパ部を設けることができる。さらに、封止材として接着剤以外の樹脂や天然ゴムなどを用いることもできる。
【0032】
本発明は、上記のような円錐軸受部材201,301を用いた流体動圧軸受200,300に限定されるものではなく、シャフト102の外周面と内側円筒部112の内周面との間の隙間に動圧軸受部を設けることもできる。その場合には、両者のうちの少なくともいずれか一方に動圧溝を形成する。さらに、内側円筒部112の下端面側に、スラスト軸受を配置し、両者の間にアキシャル動圧軸受部を設けることができる。その場合には、両者のうちの少なくともいずれか一方に動圧溝を形成する。
【0033】
2.第2実施形態
図5は本発明の第2実施形態を示す図である。この第2実施形態では、キャップ160の円筒部162の下端部にフランジ部165を形成した点以外の構成は上記第1実施形態と同等である。よって、第1実施形態と同等の構成要素には同符号を付してその説明を省略する。キャップ160の円筒部162の下端部には、例えばプレス成形によって半径方向外方へ向け直角に屈曲させてフランジ部165が形成されている。このフランジ部165は、その全周を内側円筒部112の上端面に当接させており、これにより、キャップ160と環状凸部150との間に閉塞空間170が形成されている。
【0034】
上記第2実施形態では、上記第1実施形態と同等の作用、効果が得られることは勿論のこと、フランジ部165が広い面積で内側円筒部112の上端面と接触するから、接着剤だまり171から発生したアウトガスの閉塞空間170からの漏出を効果的に抑制することができる。また、プレス成形によってキャップ160を成形してもフランジ部165を仕上加工する必要がないので、製造コストを低減することができる。
【0035】
3.第3実施形態
図6は本発明の第3実施形態を示す図である。この第3実施形態は、内側円筒部112の上端面のキャップ160のフランジ部165に対応する箇所に環状溝154を形成した点以外の構成は上記第2実施形態と同等である。よって、第2実施形態と同等の構成要素には同符号を付してその説明を省略する。
【0036】
図6(B)に示すように、内側円筒部112の上端面には環状溝154が全周に亘って形成され、環状溝154にはキャップ160のフランジ部165の一部が収容されている。環状溝154の径方向外側の内周縁部には、上方へ向けて拡開するテーパ部154aが形成されている。フランジ部165の外周面を環状溝154の径方向外側の内周面154bに密着させることにより、環状凸部150とキャップ160の円筒部162との間の空間と、環状溝154の底面とフランジ部165の下端面との間の空間とによって断面がL字状の閉塞空間172を形成している。
【0037】
上記第3実施形態では、上記第1実施形態と同等の作用、効果が得られることは勿論のこと、閉塞空間172が断面L字状で容積が大きく、より多くのアウトガスを封入することができる。また、環状溝154の径方向外側の内周縁部にテーパ部154aが形成されているので、キャップ160の環状凸部150への圧入を簡単に行うことができる。
【0038】
4.第4実施形態
図7は本発明の第4実施形態を示す図である。この第4実施形態は、環状凸部150の外周面が、小径部を有さない円筒面150aから形成されている点以外の構成は上記第3実施形態と同等である。よって、第3実施形態と同等の構成要素には同符号を付してその説明を省略する。
【0039】
図7(B)に示すように、キャップ160の円筒部162の内周面の殆ど全域が環状凸部150の円筒面150aと接触し、環状溝154の底面とキャップ160のフランジ部165との間に閉塞空間173が形成されている。フランジ部165の内周側の角部には、プレス成形により素材が屈曲させられて生じた曲げR部165aが形成され、曲げR部165aを含む閉塞空間173に接着剤だまり171が形成されている。
【0040】
この第4実施形態では、上記第1実施形態と同等の作用、効果が得られることは勿論のこと、キャップ160の円筒部162の内周面と環状凸部150の円筒面150aとの間の圧入領域164の面積が広いので、潤滑油Cの漏出を効果的に抑制することができる。特に、上記第4実施形態では、フランジ部165の曲げR部165aと環状凸部150の円筒面150aとの間の空間が上述のテーパシール部153aと同等の作用を奏するので、液状の接着剤は、閉塞空間173の圧入領域164側で保持され、接着剤の漏出が効果的に抑制される。
【0041】
5.第5実施形態
図8は本発明の第5実施形態を示す図である。第5実施形態において第1~第4実施形態と同等の構成要素には同符号を付してその説明を省略する。
図8(B)に示すように、キャップ160の円筒部162の下端面は内側円筒部112の上端面から離間している。環状凸部150の円筒面150aには、テーパ部153を有する周溝155が形成されている。周溝155とキャップ160の円筒部162との間の空間が、圧入領域164に隣接する閉塞空間174とされている。また、周溝155の下側には、円筒面150aの全周を断面V字状に切り欠いた第2の閉塞空間175が形成されている。
【0042】
上記構成の第5実施形態においては、圧入領域164から掻き出された接着剤が閉塞空間174に封入され、接着剤だまり171からのアウトガスの漏出が抑制されるのは勿論のこと、接着剤が閉塞空間174から漏出した場合であっても、第2の閉塞空間175内に接着剤が封入される。また、接着剤だまり171からアウトガスが発生して閉塞空間174から漏出した場合であっても、第2の閉塞空間175内に封入される。したがって、スピンドルモータ100外へのアウトガスの漏出を効果的に抑制することができる。なお、本発明においては第2の閉塞空間175は必ずしも必須ではなく、
図8(C)に示すように、円筒面150aに周溝155のみを形成することもできる。
【0043】
6.実施形態の組合せ
(1)
図7に示す第4実施形態のキャップ160の円筒部162を、フランジ部165のない
図4に示す第1実施形態の円筒部162の形状に変更することができる。
(2)
図8に示す第5実施形態の閉塞空間174および第2の閉塞空間175を、
図7に示す第4実施形態の環状凸部150の円筒面150aに形成することができる。
(3)
図8に示す第5実施形態の周溝155および第2の閉塞空間175を、第1実施形態~第3実施形態の環状凸部150の外周面に形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、接着剤から発生するアウトガスによる弊害の軽減が要求される流体動圧軸受装置、スピンドルモータ、およびハードディスク駆動装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
10…ハードディスク駆動装置、11…スイングアーム、12…磁気ヘッド、13…ハードディスク、14…アクチュエータ、15…制御部、16…スペーサ、17…ねじ、18…クランプ、100…スピンドルモータ、101…ベース部、101a…円筒部、102…シャフト、102a…外周面、103…ステータコア、104…コイル、110…ロータ、111…外側円筒部、112…内側円筒部、112a…内周面、113…ロータマグネット、114…フランジ部、115…ロータ側円錐面、150…環状凸部、150a…円筒面、151…大径部、152…小径部、153…テーパ部、153a…テーパシール部、154…環状溝、154a…テーパ部、154b…内周面、155…周溝、160…キャップ、161…平板部、162…円筒部、162a…内周面、163…孔、164…圧入領域(嵌合領域)、165…フランジ部、165a…曲げR部、170…閉塞空間、171…接着剤だまり、172,173,174…閉塞空間、175…第2の閉塞空間、200…流体動圧軸受、201…円錐軸受部材、202…円錐軸受面、203…シール円錐面、205…循環孔、209…貫通孔、210,211,213…隙間、212…テーパシール部、215…動圧軸受部、C…潤滑剤。