(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】重機の自動制動装置
(51)【国際特許分類】
E02F 9/20 20060101AFI20240123BHJP
E02F 3/76 20060101ALI20240123BHJP
E02F 9/24 20060101ALI20240123BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20240123BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20240123BHJP
B60W 30/14 20060101ALI20240123BHJP
B60W 10/00 20060101ALI20240123BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20240123BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20240123BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240123BHJP
B60W 10/11 20120101ALI20240123BHJP
B60W 10/184 20120101ALI20240123BHJP
F16H 61/21 20060101ALI20240123BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20240123BHJP
F16H 61/28 20060101ALI20240123BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
E02F9/20 B
E02F3/76 A
E02F9/24 B
F02D29/00 B
B60W60/00
B60W30/14
B60W10/00 148
B60W10/00 120
B60W10/06
B60W10/11
B60W10/184
F16H61/21
F16H63/50
F16H61/28
B60T7/12 C
(21)【出願番号】P 2020148677
(22)【出願日】2020-09-04
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000181354
【氏名又は名称】鹿島道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 泰
(72)【発明者】
【氏名】野田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】中渡瀬 圭吾
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-128155(JP,A)
【文献】特開2019-196122(JP,A)
【文献】特開2018-145651(JP,A)
【文献】特開2019-019523(JP,A)
【文献】特開2013-148199(JP,A)
【文献】特開2020-117066(JP,A)
【文献】特開平08-249080(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0214237(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
E02F 3/76
E02F 9/24
F02D 29/00
B60W 60/00
B60W 30/14
B60W 10/00
B60W 10/04
B60W 10/06
B60W 10/11
B60W 10/184
F16H 61/21
F16H 63/50
F16H 61/28
B60T 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの駆動力を変速機を介して駆動輪に伝達する重機が後退する際に前記重機と物体との距離に応じて前記重機の後進速度を制御するとともに制動ブレーキを作動させる重機の自動制動装置であって、
前記重機と物体との距離を計測する計測部と、
前記物体の位置が前記重機からの距離に応じて区分される
第1、第2の感知領域を少なくとも含む複数の感知領域の何れに属するか又は何れの感知領域にも属しないかを特定する識別部と、
前記重機の減速を行う操作ペダル又は操作レバー
を操作するアクチュエータと、
前記識別部の特定結果に応じて、前記アクチュエータのうち少なくとも一つを作動させる制御部と、
を備え
、
前記アクチュエータは、前記エンジンの回転数を制御するアクセルペダル、前記駆動輪を制動するブレーキペダル、前記変速機の変速段数を変更するシフトレバー及び前記エンジンから前記変速機に伝達される駆動力を遮断するインチングペダルにそれぞれ設けられ、
前記識別部が前記第2の感知領域に前記重機が属すると判定した場合、前記制御部は、前記アクセルペダルに設けられた前記アクチュエータを作動して、前記アクセルペダルを戻してエンジンブレーキを作動させて前記重機を減速させ、
前記識別部が前記第2の感知領域より前記物体に近い距離に設定された前記第1の感知領域に前記重機が属すると判定した場合、前記制御部は、前記アクセルペダル、前記ブレーキペダル及び前記インチングペダルにそれぞれ設けられた前記アクチュエータを作動して、前記エンジンブレーキを作動させつつ前記駆動輪を制動して前記重機を減速させるとともに、前記エンジンから前記変速機に伝達される駆動力を遮断することを特徴とする重機の自動制動装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記重機の後退時の後進速度が予め定められた前記重機の上限後退速度以下になるように制御したうえで前記重機の後進自動制動を行うことを特徴とする請求項
1に記載の重機の自動制動装置。
【請求項3】
前記重機は、モータグレーダであることを特徴とする請求項1
又は2に記載の重機の自動制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを搭載した自走式の重機の自動制動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
土木工事では、作業内容に応じた重機が用いられるが、重機の周囲には作業員や他の重機等が存在する混在作業が余儀なくされている。このような重機として、路面や地面の整地作業や除雪作業等で用いられるモータグレーダ等が知られている(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような重機では、重機の後退時には、オペレータが後ろを振り返って後方の安全を確認しながらハンドル操作を行うため、危険を回避するための操作の遅れや判断ミスが生じ、重機周辺の作業員や他の重機との接触事故が少なからず発生する虞があった。
【0005】
このような接触事故を防止するために、超音波やレーザ等を用いた障害物検知センサを用いて、警報によって作業員や他の重機の接近をオペレータに注意を促し、また作業員に注意を促すものも知られているが、オペレータがハンドル操作又は制動操作を確実に実行することは難しいのが現状である。
【0006】
そこで、重機が後退する際に、周囲で作業中の作業員や他の重機と接触することを抑制するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る重機の自動制動装置は、エンジンの駆動力を変速機を介して駆動輪に伝達する重機が後退する際に前記重機と物体との距離に応じて前記重機の後進速度を制御するとともに制動ブレーキを作動させる重機の自動制動装置であって、前記重機と物体との距離を計測する計測部と、前記物体の位置が前記重機からの距離に応じて区分される第1、第2の感知領域を少なくとも含む複数の感知領域の何れに属するか又は何れの感知領域にも属しないかを特定する識別部と、前記重機の減速を行う操作ペダル又は操作レバーを操作するアクチュエータと、前記識別部の特定結果に応じて、前記アクチュエータのうち少なくとも一つを作動させる制御部と、を備え、前記アクチュエータは、前記エンジンの回転数を制御するアクセルペダル、前記駆動輪を制動するブレーキペダル、前記変速機の変速段数を変更するシフトレバー及び前記エンジンから前記変速機に伝達される駆動力を遮断するインチングペダルにそれぞれ設けられ、前記識別部が前記第2の感知領域に前記重機が属すると判定した場合、前記制御部は、前記アクセルペダルに設けられた前記アクチュエータを作動して、前記アクセルペダルを戻してエンジンブレーキを作動させて前記重機を減速させ、前記識別部が前記第2の感知領域より前記物体に近い距離に設定された前記第1の感知領域に前記重機が属すると判定した場合、前記制御部は、前記アクセルペダル、前記ブレーキペダル及び前記インチングペダルにそれぞれ設けられた前記アクチュエータを作動して、前記エンジンブレーキを作動させつつ前記駆動輪を制動して前記重機を減速させるとともに、前記エンジンから前記変速機に伝達される駆動力を遮断する。
【0008】
この構成によれば、物体が位置する感知領域に応じて、操作ペダル又は操作レバーを遠隔操作することにより、重機を段階的に減速させる自動制動が可能となるため、周囲で作業中の作業員や他の重機と接触することなく、安全に後進することができる。さらに、重機を段階的に減速させるため、過度に遅い速度で後進することなく、オペレータのストレスを軽減することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、重機と周辺の作業員又は他の重機との接触を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る自動制動装置を適用したモータグレーダを示す側面図及び後方図。
【
図3】モータグレーダを自動で制動させる手順を示すフローチャート。
【
図4】後退開始時の速度毎のモータグレーダの自動制動の手順を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態について図面に基づいて説明する。なお、以下では、構成要素の数、数値、量、範囲等に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも構わない。
【0012】
また、構成要素等の形状、位置関係に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含む。
【0013】
また、図面は、特徴を分かり易くするために特徴的な部分を拡大する等して誇張する場合があり、構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、断面図では、構成要素の断面構造を分かり易くするために、一部の構成要素のハッチングを省略することがある。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る自動制動装置20を適用したモータグレーダ1を模式的に示す図であり、
図1(a)は側面図、
図1(b)は後方図である。
図2は、自動制動装置20の構成を示す模式図である。
【0015】
〈モータグレーダ〉
モータグレーダ1は、路面や地面の整地作業や除雪作業等で用いられる自走式の重機である。なお、自動制動装置20を適用可能な重機は、モータグレーダに限定されるものではない。
【0016】
モータグレーダ1は、フレーム2と、キャビン3と、作業機4と、を備えている。
【0017】
フレーム2は、前部フレーム2aと、後部フレーム2bとで構成されている。前部フレーム2aの前端には、片側1輪ずつの前輪5が取り付けられている。後部フレーム2bは、前部フレーム2aの後方に接続されている。後部フレーム2bには、片側2輪ずつの後輪6が取り付けられている。後輪6は、図示しないタンデムドライブ装置を介して連結されている。また、後部フレーム2bには、エンジン7及び変速機8等が収容されている。
【0018】
キャビン3は、後部フレーム2bに載置されている。キャビン3の内部には、ハンドル、アクセルペダル9、ブレーキペダル10、インチングペダル11及びシフトレバー12等のモータグレーダ1の走行を操作する操作ペダル及び操作レバー並びに作業機4の操作レバー等から成る操作部13が設けられている。モータグレーダ1のオペレータは、操作部13を介してモータグレーダ1を制御することができる。
【0019】
アクセルペダル9は、踏み込み量(アクセル開度)を検出するセンサが設けられており、アクセルペダル9の踏み込み量に応じて、エンジン7の回転数を所望の回転数に設定する。
【0020】
ブレーキペダル10は、踏み込み量(ブレーキ開度)を検出するセンサが設けられており、ブレーキペダル10の踏み込み量に応じ、ブレーキ油圧回路を介して4輪の後輪6を制動する。
【0021】
インチングペダル11は、踏み込み量を検出するセンサが設けられており、インチングペダル11の踏み込み量に応じ、エンジン7から変速機8に伝達される駆動力を遮断するインチング操作を行う。
【0022】
シフトレバー12は、シフトレバー12の位置に応じて、変速機8の変速段数を操作するものであり、例えば、前進1速~8速及び後進1速~4速の速度段を選択可能である。
【0023】
作業機4は、ドローバ14と、サークル15と、ブレード16と、各種の油圧シリンダ16~18と、を備えている。
【0024】
ドローバ14の前端部は、前部フレーム2aの前端部に揺動可能に接続されている。前部フレーム2aを挟んで両側に設けられた一対のリフトシリンダ17が同期して伸縮することにより、ドローバ14の後端部が上下に昇降可能である。また、一対のリフトシリンダ17が異なって伸縮することにより、モータグレーダ1の前後方向に沿った軸を中心に上下に揺動可能である。
【0025】
サークル15は、ドローバ14の後端部に回転可能に設けられている。サークル15は、図示しない油圧モータによって駆動され、平面から視てドローバ14に対して時計回り又は反時計回りに回転可能である。
【0026】
ブレード16は、ブレードシリンダ18の伸縮によって、サークル15に対して左右方向に進退移動可能である。また、ブレード16は、サークル15に支持されたチルトシリンダ19によって、サークル15に対して左右方向に沿った軸を中心に揺動することができる。
【0027】
変速機8は、トルクコンバータと、トランスミッションと、を備えている。変速機8は、エンジン7の駆動力が、トルクコンバータを介してトランスミッションに伝達されるトルコンモードと、エンジン7の駆動力が、トルクコンバータを介さずトランスミッションに直接伝達されるダイレクトモードと、を切換可能に構成されている。変速機8は、エンジン7の駆動力をタンデム装置を介して駆動輪である後輪6に伝達する。
【0028】
〈自動制動装置〉
自動制動装置20は、モータグレーダ1に設けられている。
図2に示すように、自動制動装置20は、リフレクタ検知カメラ21と、ミリ波レーダ22と、識別部23と、制御部24と、を備えている。
【0029】
リフレクタ検知カメラ21及びミリ波レーダ22は、後部フレーム2bの後端に設けられており、モータグレーダ1後方の画像を撮影可能である。
【0030】
リフレクタ検知カメラ21が撮影した画像には、モータグレーダ1後方に存在する物体、具体的には作業員等の人間や重機等の障害物が含まれ得る。また、リフレクタ検知カメラ21は、モータグレーダ1から反射板を有する物体(安全ベスト、安全チョッキ等の反射板を着用した作業員又は他の反射板を備えた重機等)までの距離を計測することができる。
【0031】
ミリ波レーダ22は、リフレクタ検知カメラ21の死角で比較的近距離に存在する物体までの距離を計測する。なお、モータグレーダ1から物体までの距離を計測する計測部は、計測範囲が十分に確保可能であれば、必ずしもリフレクタ検知カメラ21及びミリ波レーダ22の両方を備えている必要はなく、何れか一方であっても構わない。
【0032】
識別部23及び制御部24は、図示しない筐体に収容されて、モータグレーダ1に搭載されている。識別部23は、リフレクタ検知カメラ21が計測した反射板を有する物体までの距離及びミリ波レーダ22が計測したモータグレーダ1から物体までの距離に応じて、物体の位置がモータグレーダ1からの距離に応じて区分される第1、第2、第3の感知領域の何れに属するか又は第1、第2、第3の感知領域の何れにも属しないかを特定する。モータグレーダ1から第1、第2、第3の感知領域までの各距離は、任意に設定可能であり、本実施形態では、第1感知領域は、物体までの距離が0~3m、第2の感知領域は、物体までの距離が3~10m、第3の感知領域は、物体までの距離が10~20mにそれぞれ設定されているが、これらの数値に限定されるものではない。
【0033】
制御部24は、例えば、CPU、メモリ等により構成される。なお、制御部24の機能は、ソフトウェアを用いて制御することにより実現される。制御部24は、モータグレーダ1の後進速度、予め想定された各種装置の制動力によって定まる制動距離及び識別部23が特定した物体の位置に応じて、各種アクチュエータ25~28を作動させる。
【0034】
アクチュエータ25~28は、例えば、操作ペダル又は操作レバーに接続された出力部材(アーム等)に連結され、アクチュエータ25~28の動作に連動して出力部材が操作ペダル又は操作レバーを操作するように構成された公知の機構である。
【0035】
アクチュエータ25は、アクセルペダル9に取り付けられている。アクチュエータ25が作動すると、アクセルペダル9が戻されて、アクセルペダル9の踏み込み量が減少する。なお、アクチュエータ25によるアクセルペダル9の踏み戻し量は、モータグレーダ1に作用させるエンジンブレーキの制動力に応じて予め設定されている。
【0036】
アクチュエータ26は、ブレーキペダル10に取り付けられている。アクチュエータ26が作動すると、ブレーキペダル10が押されて、ブレーキペダル10の踏み込み量が増大する。なお、アクチュエータ26によるブレーキペダル10の踏み込み量は、モータグレーダ1に作用させるフットブレーキの制動力に応じて予め設定されている。
【0037】
アクチュエータ27は、シフトレバー12に取り付けられている。アクチュエータ27が作動すると、シフトレバー12の位置が移動して、変速機8の変速段が変更される。なお、モータグレーダ11の後進速度の関係から、アクチュエータ27は、後進1から後進3速までを選択可能に設定されている。
【0038】
アクチュエータ28は、インチングペダル11に取り付けられている。アクチュエータ28が作動すると、インチングペダル11が押される。
【0039】
また、制御部24は、モータグレーダ1が後進する際に、モータグレーダ1のオペレータへの注意喚起及びモータグレーダ1の周囲の作業員にモータグレーダ1の接近を知らせる出力部(回転灯29、スピーカ30)を作動させる。
【0040】
次に、自動制動装置20を用いてモータグレーダ1を段階的に減速させる自動制動の手順について、
図3、4に基づいて説明する。なお、以下では、モータグレーダ1と物体との間に、制動距離と比較して十分な距離(例えば、20m以上)が確保されている場合を例に説明する。
【0041】
オペレータがシフトレバー12を後進の速度段(後進1速~3速)に入れて、モータグレーダ1が後進を開始すると、自動制動装置20が自動制動を開始する(ステップS1)。リフレクタ検知カメラ21及びミリ波レーダ22は、モータグレーダ1後方の物体までの距離を常に計測し続ける。
【0042】
次に、モータグレーダ1が物体まで20mまで接近した場合には、識別部23は、モータグレーダ1が第3の感知領域(
図3、4中の「エリア3」)に達したと判定する(ステップS2)。
【0043】
次に、制御部24は、変速機8の変速段が2速以下である否かを判定する(ステップS3)。
【0044】
変速機8の変速段が、1速又は2速である場合には(ステップS3のYes)、制御部24は、変速機8の変速段を維持する(ステップS4)。すなわち、
図4に示すように、変速機8が1速である場合には、1速を維持し、変速機8が2速である場合には、2速を維持する。
【0045】
一方、変速機8の変速段が、3速である場合には(ステップS3のNo)、制御部24は、アクチュエータ27を作動させて、変速機8を2速に変速させる(ステップS5)。すなわち、
図4に示すように、変速機8が3速である場合には、2速に変速させる。
【0046】
このようにして、第3の感知領域内では、モータグレーダ1が、1速又は2速の緩やかな速度で後進する。また、第3の感知領域内では、回転灯29、スピーカ30を作動させて、モータグレーダ1のオペレータへ注意喚起を行うとともに、モータグレーダ1の周囲の作業員にモータグレーダ1の接近を知らせる。
【0047】
次に、モータグレーダ1が物体との距離が10mまで接近すると、識別部23は、モータグレーダ1が第2の感知領域(
図3、4中の「エリア2」)に達したと判定する(ステップS6)。
【0048】
次に、制御部24は、アクチュエータ25を作動させて、アクセルペダル9を戻して、エンジンブレーキを作動させる(ステップS7)。これにより、第2の感知領域内では、モータグレーダ1が、1速又は2速の緩やかな速度で後進をしつつ、エンジンブレーキによって徐々に減速することにより、第2の感知領域から第1の感知領域(
図3、4中の「エリア1」)へ移行するときには、モータグレーダ1をアイドリング速(1速:2km/h、2速:4km/h)まで減速させることができる。また、第2の感知領域内では、回転灯29、スピーカ30を作動させて、モータグレーダ1のオペレータへ注意喚起を行うとともに、モータグレーダ1周囲の作業員にモータグレーダ1の接近を知らせる。
【0049】
次に、モータグレーダ1が物体との距離が3mまで接近すると、識別部23は、モータグレーダ1が第1の感知領域に達したと判定する(ステップS8)。
【0050】
次に、制御部24は、アクチュエータ25を作動させて、アクセルペダル9を戻して、エンジンブレーキを作動させ、アクチュエータ26を作動させて、ブレーキペダル10を押してフットブレーキを作動させ、さらに、アクチュエータ28を作動させて、インチングペダル11を押してエンジン7から変速機8に伝達される駆動力を遮断するインチング操作を行う(ステップS9)。すなわち、第1の感知領域内では、モータグレーダ1が、1速又は2速の緩やかな速度で後進をしつつ、エンジンブレーキ及びフットブレーキによって減速され、さらに、インチング操作により、エンジン7の駆動力が後輪6に伝達しなくなる。ここで、モータグレーダ1がアイドリング速度まで減速した後に、フットブレーキを作動させることにより、オペレータへのブレーキショックを軽減するとともに、整地面へダメージを軽減することができる。
【0051】
なお、制動力を確保可能であれば、必ずしもエンジンブレーキ及びフットブレーキの作動並びにインチング操作を並行して行う必要はなく、例えば、エンジンブレーキ及びフットブレーキの作動のみであっても構わない。
【0052】
そして、モータグレーダ1が停止すると、制御部24は、自動制動を終了する(ステップS10)。
【0053】
このようにして、モータグレーダ1は、物体との距離に応じて自動で制動されるため、周囲で作業中の作業員や他の重機と接触することなく、安全に後進することができる。さらに、モータグレーダ1を段階的に減速させるため、過度に遅い速度で後進することなく、オペレータのストレスを軽減することができる。
【0054】
このようにして、本実施形態に係る自動制動装置20は、エンジン7の駆動力を変速機8を介して後輪6に伝達するモータグレーダ1が後退する際にモータグレーダ1と物体との距離に応じてモータグレーダ1の後進速度を制御するとともに制動ブレーキを作動させる自動制動装置20であって、モータグレーダ1と物体との距離を計測するリフレクタ検知カメラ21及びミリ波レーダ22と、物体の位置がモータグレーダ1からの距離に応じて区分される第1、第2、第3の感知領域の何れに属するか又は第1、第2、第3の感知領域の何れにも属しないかを特定する識別部23と、モータグレーダ1の減速を行う操作ペダル又は操作レバーを遠隔操作するアクチュエータ25~28と、識別部23の特定結果に応じて、アクチュエータ25~28のうち少なくとも一つを作動させる制御部24と、を備えている構成とした。
【0055】
この構成によれば、物体が位置する第1、第2、第3の感知領域に応じて、アクチュエータ25~28を介して操作ペダル又は操作レバーを遠隔操作することにより、モータグレーダ1を段階的に減速させる自動制動が可能となるため、周囲で作業中の作業員や他の重機と接触することなく、安全に後進することができる。さらに、モータグレーダ1を段階的に減速させるため、過度に遅い速度で後進することなく、オペレータのストレスを軽減することができる。
【0056】
また、自動制動装置20は、アクチュエータ25~28が、エンジン7の回転数を制御するアクセルペダル9、後輪6を制動するブレーキペダル10、変速機8の変速段数を変更するシフトレバー12及びエンジン7から変速機8に伝達される駆動力を遮断するインチングペダル11にそれぞれ設けられている構成とした。
【0057】
この構成によれば、アクチュエータ25~28を作動させることにより、エンジンブレーキの作動、フットブレーキの作動、変速機8の変速段数の変更又はインチング操作を適宜組み合わせて実施可能なため、モータグレーダ1を段階的に減速させる自動制動を円滑に行うことができる。
【0058】
また、自動制動装置20は、制御部24が、モータグレーダ1の後退時の後進速度が予め定められたモータグレーダ1の上限後退速度以下になるように制御したうえでモータグレーダ1の後進自動制動を行う構成とした。
【0059】
この構成によれば、モータグレーダ1が不用意に高速で後進することを抑制して、作業中の作業員や他の重機との接触を回避することができる。
【0060】
また、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り、上記以外にも種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0061】
1 :モータグレーダ
2 :フレーム
2a :前部フレーム
2b :後部フレーム
3 :キャビン
4 :作業機
5 :前輪
6 :後輪(駆動輪)
7 :エンジン
8 :変速機
9 :アクセルペダル
10 :ブレーキペダル
11 :インチングペダル
12 :シフトレバー
13 :操作部
14 :ドローバ
15 :サークル
16 :ブレード
17 :リフトシリンダ
18 :ブレードシリンダ
19 :チルトシリンダ
20 :自動制動装置
21 :リフレクタ検知カメラ(計測部)
22 :ミリ波レーダ(計測部)
23 :識別部
24 :制御部
25、26、27、28:アクチュエータ
29:回転灯
30:スピーカ