(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】異材接合方法、及びこれに用いるリベット
(51)【国際特許分類】
B23K 11/20 20060101AFI20240123BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20240123BHJP
B21D 39/00 20060101ALI20240123BHJP
B21J 15/00 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
B23K11/20
B23K11/11 543
B21D39/00 B
B21J15/00 W
(21)【出願番号】P 2020149173
(22)【出願日】2020-09-04
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 哲
(72)【発明者】
【氏名】今村 美速
(72)【発明者】
【氏名】奥田 真三樹
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 舞
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-207898(JP,A)
【文献】特開2002-219578(JP,A)
【文献】特開2017-070995(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0156176(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0001235(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/20
B23K 11/11
B21D 39/00
B21J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部と軸部とを有する鋼製のリベットの前記軸部を、アルミニウム材に打ち込んで貫通させ、
前記リベットが貫通して取り付けられた前記アルミニウム材と、鋼材とを、前記アルミニウム材の前記リベットの軸部先端側と前記鋼材との間に樹脂層を挟んで重ねて配置し、
前記リベットと前記鋼材とを一対の電極で挟み、電極間で加圧した状態で通電しながら、前記樹脂層を前記電極間から排除しつつスポット溶接する異材接合方法であって、
前記リベットの軸部先端面の曲率半径が10mm以上300mm以下であ
り、
前記リベットの表面に亜鉛高共晶ニッケルめっき皮膜が設けられている、
異材接合方法。
【請求項2】
下穴が設けられたアルミニウム材と、鋼材とを、樹脂層を挟んで重ねて配置し、
頭部と軸部とを有する鋼製のリベットの前記軸部を、前記アルミニウム材の前記下穴に貫通させ、
前記リベットと前記鋼材とを一対の電極で挟み、電極間で加圧した状態で通電しながら、前記樹脂層を前記電極間から排除しつつスポット溶接する異材接合方法であって、
前記リベットの軸部先端面の曲率半径が10mm以上300mm以下である、
異材接合方法。
【請求項3】
頭部と軸部とを有する鋼製のリベットの前記軸部を、アルミニウム材に打ち込んで貫通させ、
前記リベットが貫通して取り付けられた前記アルミニウム材と、鋼材とを、前記アルミニウム材の前記リベットの軸部先端側と前記鋼材との間に樹脂層を挟んで重ねて配置し、
前記リベットと前記鋼材とを一対の電極で挟み、電極間で加圧した状態で通電しながら、前記樹脂層を前記電極間から排除しつつスポット溶接する異材接合方法であって、
前記リベットの軸部先端面の曲率半径が10mm以上300mm以下であり、
前記鋼材の前記アルミニウム材側の反対側に、更に別の鋼材を重ねてスポット溶接する
、
異材接合方法。
【請求項4】
前記リベットの表面に亜鉛高共晶ニッケルめっき皮膜が設けられている請求項
2または3
に記載の異材接合方法。
【請求項5】
前記亜鉛高共晶ニッケルめっき皮膜の膜厚は、5~11μmである請求項
1または4に記載の異材接合方法。
【請求項6】
前記リベットの前記亜鉛高共晶ニッケルめっき皮膜を覆う化成皮膜が更に設けられている請求項
1,4
,5
のいずれか1項に記載の異材接合方法。
【請求項7】
前記化成皮膜は、クロメート皮膜である請求項6に記載の異材接合方法。
【請求項8】
前記化成皮膜は、ジルコニウム系の化成皮膜である請求項6に記載の異材接合方法。
【請求項9】
頭部と軸部とを有する鋼製のリベットであって、
前記軸部が貫通して取り付けられたアルミニウム材と、鋼材とを、前記アルミニウム材の前記リベットの軸部先端側と前記鋼材との間に樹脂層を挟んで重ねて配置し、
前記リベットと前記鋼材とを一対の電極で挟み、電極間で加圧した状態で通電しながら、前記樹脂層を前記電極間から排除しつつスポット溶接する異材接合に用いられ、
前記軸部の先端面の曲率半径が10mm以上300mm以下であ
り、
前記リベットの表面に亜鉛高共晶ニッケルめっき皮膜が設けられている、
リベット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異材接合方法、及びこれに用いるリベットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、排気ガス等による地球環境問題に対して、自動車等の輸送機における車体の軽量化によって燃費の向上を図る取り組みがなされている。車体の軽量化をできるだけ阻害せず、自動車の車体衝突時の安全性を高めるため、自動車の車体構造に対して、従来から使用されている鋼材の一部を、より軽量でエネルギー吸収性にも優れたアルミニウム合金材等の軽合金材に置換した適用例が増加しつつある。
【0003】
これらのアルミニウム合金材は、車体の全ての部分をアルミニウム合金材で構成しない限り、通常の自動車の車体で元々汎用されている鋼板又は型鋼等の鋼材(鋼部材)と組み合わせて使用する必要がある。そのため、必然的にアルミニウム合金材と鋼材との異種金属同士の接合(異材接合)が必要となる。このような異材接合方法が特許文献1に開示されている。
【0004】
また、アルミニウム合金材と鋼部材との間には、両者の電位差による腐食(電食)を防ぎ、更に接合強度を確保するために接着剤層を設ける場合が多い。そのような接着材層を設ける接合方法が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-207898号公報
【文献】特開2015-24436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2の接合方法では、接着剤が存在する部分では金属同士が接触しないため、リベットが溶接される部分から接着剤を予め除去しておく必要がある。この接着剤の除去工程は非常に手間がかかり、現実的ではない。
そこで、接着剤を残したままにして、スポット溶接時に接着剤が排除されるように溶接する、いわゆるウエルドボンド法の適用が望ましい。しかし、ウエルドボンド法をそのまま適用すると、溶接部から火花・チリが発生しやすく、所望のナゲット形状が得られにくくなり、その結果、接合強度が低下する。
【0007】
本発明は上記の問題を解決したものであり、リベットを使用したウエルドボンド法において、チリ等の発生を抑制して良好なスポット溶接ができる異材接合方法、及びこれに用いるリベットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 頭部と軸部とを有する鋼製のリベットの前記軸部を、アルミニウム材に打ち込んで貫通させ、
前記リベットが貫通して取り付けられた前記アルミニウム材と、鋼材とを、前記アルミニウム材の前記リベットの軸部先端側と前記鋼材との間に樹脂層を挟んで重ねて配置し、
前記リベットと前記鋼材とを一対の電極で挟み、電極間で加圧した状態で通電しながら、前記樹脂層を前記電極間から排除しつつスポット溶接する異材接合方法であって、
前記リベットの軸部先端面の曲率半径が10mm以上300mm以下である、
異材接合方法。
(2) 下穴が設けられたアルミニウム材と、鋼材とを、樹脂層を挟んで重ねて配置し、
頭部と軸部とを有する鋼製のリベットの前記軸部を、前記アルミニウム材の前記下穴に貫通させ、
前記リベットと前記鋼材とを一対の電極で挟み、電極間で加圧した状態で通電しながら、前記樹脂層を前記電極間から排除しつつスポット溶接する異材接合方法であって、
前記リベットの軸部先端面の曲率半径が10mm以上300mm以下である、
異材接合方法。
(3) 頭部と軸部とを有する鋼製のリベットであって、
前記軸部が貫通して取り付けられたアルミニウム材と、鋼材とを、前記アルミニウム材の前記リベットの軸部先端側と前記鋼材との間に樹脂層を挟んで重ねて配置し、
前記リベットと前記鋼材とを一対の電極で挟み、電極間で加圧した状態で通電しながら、前記樹脂層を前記電極間から排除しつつスポット溶接する異材接合に用いられ、
前記軸部の先端面の曲率半径が10mm以上300mm以下である、
リベット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リベットを使用したウエルドボンド法において、チリ等の発生を抑制した良好なスポット溶接により異材接合が行える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明に係るアルミニウム材と鋼材との異材接合に用いるリベットの断面図である。
【
図2】
図2は、リベットの打ち込み工程を(A)~(C)に段階的に示す工程説明図である。
【
図3】
図3は、リベットが打ち込まれたアルミニウム材を、樹脂層を挟んで鋼材と重ねる様子を示す工程説明図である。
【
図4】
図4は、アルミニウム材と鋼材とをリベットを用いて抵抗スポット溶接する様子を示す工程説明図である。
【
図5】
図5は、電極間を加圧してから通電するまでの様子を(A)~(D)に段階的に示す説明図である。
【
図6】
図6は、アルミニウム材にリベットを固定する他の方法を(A),(B)で示す工程説明図である。
【
図7】
図7は、
図4に示す異材接合体の他の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。本発明の異材接合方法においては、使用するリベットの軸部先端形状を所定範囲の曲率半径に設定している。
【0012】
<リベットの構成>
図1は、本発明に係るアルミニウム材と鋼材との異材接合に用いるリベットの断面図である。
リベット11は、鋼製であって、円板状の頭部13と、頭部13の中心と同軸に接続される軸部15とを有する。頭部13における軸部15との接続側の面(
図1における頭部裏側の環状面)には、軸部15を取り囲むように周方向に沿って溝17が形成されている。溝17は、その断面が台形状をなしているが、溝17の形状は任意である。
図1に示す軸部15は、直径が一定の円柱状であるが、頭部13側の基端から先端に向けて徐々に大きくなる形状であってもよく、軸断面が楕円であってもよい。
【0013】
軸部15の先端面(軸部先端面)15aは、軸方向に突出する湾曲面となっている。軸部先端面15aの曲率半径Rは、10mm以上、好ましくは20mm以上、より好ましくは40mm以上であり、300mm以下、好ましくは100mm以下、より好ましくは60mm以下である。軸部先端面15aの湾曲の頂部19は、軸部15の中心軸と一致している。
【0014】
<異材接合方法の手順>
次に、上記のリベット11を使用して、アルミニウム材と鋼材とを異材接合する手順を説明する。
図2は、リベット11の打ち込み工程を(A)~(C)に段階的に示す工程説明図である。
図2の(A)に示すように、上部が円筒状のダイ21の上にアルミニウム材23を載置し、リベット11をこのダイ21の上方に配置する。そして、リベット11の頭部13をポンチ25によりアルミニウム材23に向けて打ち込む。
【0015】
アルミニウム材23としては、2000系、3000系、4000系、5000系、6000系、7000系のアルミニウム合金、又は1000系の純アルミニウムの展伸材を利用できる。溶接性の観点から、特に5000系、6000系、7000系のアルミニウム合金であることが好ましい。また、アルミニウム材23としては、板材に限らず、押出部材(パイプ材や、中空、中実、異形断面の形材)、鍛造材(板材、リブ付材)であってもよい。さらに、アルミニウム材23の表面に、予備処理としてブラスト処理、エッチング処理、ブラシ研磨処理等の各種表面処理を施してもよい。その場合には、アルミニウム材の表面の有機物が除去され、接合品質が向上する。
【0016】
図2の(B)に示すように、ポンチ25を下降させて、リベット11をアルミニウム材23に押し込むと、アルミニウム材23における軸部15に対向する部分が軸部15により打ち抜かれ、この打ち抜かれた部分(ブランク)23Aがダイ21の内側に落下する。リベット11はポンチ25によりアルミニウム材23に向けて押圧されるので、アルミニウム材23における、頭部13とダイ21との間に挟まれた部分が、頭部13の軸部周囲に形成された溝17内に塑性流動して、進入する。
【0017】
これにより、
図2の(C)に示すように、リベット11の軸部15がアルミニウム材23を貫通し、軸部先端面15aがアルミニウム材23の下面に露出する。また、頭部13に形成された溝17内にアルミニウム材23が入り込み、リベット11がアルミニウム材23にかしめ固定される。
【0018】
このリベット11の打ち込みは、例えば、アルミニウム材23のプレス成形工程(トリミング工程)にて、プレス成形と同時に行ってもよい。即ち、アルミニウム材23をプレス成形する際に、プレスの型にポンチを設置し、又はポンチの代わりにプレス型自体を使用して、リベット11をプレス型の下降と同時に打ち抜く。これにより、リベット11がアルミニウム材23にかしめ固定される。この状態では、アルミニウム材23が抵抗スポット溶接ラインに搬送される際、リベット11はアルミニウム材23にかしめ固定されているので、搬送の過程でリベット11が落下することはない。したがって、溶接の施工性を高められる。
【0019】
図3は、リベット11が打ち込まれたアルミニウム材23を、樹脂層27を挟んで鋼材29と重ねる様子を示す工程説明図である。
鋼材29としては、軟鋼、高張力鋼等を利用できる。鋼材29の片側表面には樹脂層27が形成される。樹脂層27は、アルミニウム材23と鋼材29とを接合する接着剤である。また、樹脂層27は電気絶縁性を有することで、アルミニウム材23と鋼材29との接触による電食を防止しつつ、両者を強固に接合する。
【0020】
樹脂層27に用いる接着剤は、液体又は粘性のある状態で鋼材29に塗布されてもよいが、アルミニウム材23に塗布してもよい。また、樹脂層27は、接着剤の塗布に限らず、シート状の接着シートを配置することでもよい。接着シートを用いる場合は、接着シートを鋼材29又はアルミニウム材23、あるいは双方に予め接着させておいてもよいが、アルミニウム材23と鋼材29とを重ねるときに一緒に接着してもよい。これにより、アルミニウム材23におけるリベット11の軸部先端側の面と、鋼材29の表面との間に樹脂層27が挟まれて配置される。
【0021】
図4は、アルミニウム材23と鋼材29とをリベット11を用いて抵抗スポット溶接する様子を示す工程説明図である。
リベット11が設けられたアルミニウム材23と、アルミニウム材23に重なる鋼材29とを、リベット11の位置で一対の電極33,35により挟み込む。そして、不図示の加圧装置によって電極33,35の一方を他方に向けて加圧しつつ、不図示の電源装置によって電極間に通電する(電流I)。すると、リベット11の軸部先端面15aと鋼材29との間に、所望の大きさのナゲット37が形成される。
【0022】
ここで、アルミニウム材23と鋼材29を電極間で加圧し、電極間に通電してナゲット37を形成するまでの様子を詳細に説明する。
図5は、電極間を加圧してから通電するまでの様子を(A)~(D)に段階的に示す説明図である。
図5の(A)に示すように、リベット11の軸部先端面15aの頂部19が、
図4に示す電極33,35の挟み込みによって樹脂層27に押し当てられた状態で、通電が開始される。すると、
図5の(B)に示すように、頂部19付近の樹脂層27は、通電によって集中的に加熱されて溶融し、径方向外側に向けて流動(矢印M)するか、一部が昇華する。そして、所定の曲率半径Rに形成された軸部先端面15aは、頂部19を含む頂部19近傍の領域Wが鋼材29と接触する。つまり、頂部19付近の樹脂層27が径方向外側へ移動させて、樹脂層の27の存在しない領域を発生させ、軸部15の曲率半径Rの軸部先端面15aを、鋼材29と面接触した状態にする。
【0023】
この面接触状態で通電し続けると、軸部先端面15aの頂部19を含む所定範囲の領域Wと鋼材29との接触面で加熱が進行し、面接触した領域Wを始点としてナゲット37が形成される。つまり、軸部15の中心部を始点とし、中心部から周辺に向けて広がる理想的な形態でナゲット37が形成される。このナゲット37は、
図5の(D)に示すように、通電に伴って成長し続け、リベット11と鋼材29とが十分な接合強度が得られる大きさにまで成長する。
【0024】
つまり、リベット11の軸部先端面15aの曲率半径Rを、前述した10mm以上、300mm以下の範囲に設定することで、通電時に軸部先端面15aの頂部19付近の樹脂層27を円滑に除去できる。仮に軸部先端面15aが平坦面である場合には、樹脂層27の移動が促進されず、樹脂層27の除去が不十分となる。その場合、樹脂層27は電気絶縁性を有するために、ナゲット形成時の電流の流れを乱し、短絡や火花を発生させる要因となる。
【0025】
そして、軸部先端面15aの樹脂層27が除去された領域Wの部分、つまり軸部15の中心軸Lを含み、曲率半径Rに応じた所定の大きさを有する面が、鋼材29と面接触することで、ナゲット37が頂部19を中心にして安定して形成される。これにより、ナゲット37が中心軸Lから偏って形成されることを防止して、適正な大きさのナゲットを確実に形成できる。
【0026】
さらに、通電時に電極間が加圧されることで、
図5の(C)に示す形成初期のナゲット37の周囲では、軸部先端面15aと鋼材29との間の押圧力によって、環状のコロナボンドが形成される。このコロナボンドにより、ナゲット37の溶融体(鋼の溶湯)が堰き止められ、チリの発生を確実に防止できる。
【0027】
軸部先端面15aは、曲率半径Rを10mm未満とすると、スポット溶接の通電時における電流の流れが軸部先端の微小領域に集中してしまい、ナゲットの成長が抑制される。一方、曲率半径Rが300mmを超えると、つまり、平坦面に近づくほど、ナゲットの初期形成点の位置が不安定となり、軸部15の中心軸からずれた位置を始点にナゲットが形成されやすくなる。ナゲットの初期形成点が軸部15の中心軸から偏ると、ナゲット形成位置を囲むコロナボンドが環状にならず、一部が欠落する。すると、欠落した部分から溶融金属が飛散してチリが発生する。その結果、ナゲットサイズが小さくなり、溶接強度の低下を招くことになる。
【0028】
このように、抵抗スポット溶接により、樹脂層27を介して異材接合する場合でも、リベット11の軸部先端面15aの曲率半径Rを適正にすることで、火花、チリを発生させることなく、軸部15の中心に所望の大きさのナゲットを安定して形成でき、必要十分な接合強度を得られる。
【0029】
また、リベット11がアルミニウム材23とかしめられることで、リベット11と鋼材29との鋼-鋼の同種材同士のスポット溶接部に、このアルミニウム材23とリベット11とのかしめによる加工硬化を発生させ、互いの接合力(機械的な接合力)を更に加えることができる。そのため、スポット溶接とかしめとの両接合の相乗効果によって、異材接合体としての高い接合強度が得られる。さらに、リベット11をアルミニウム材23に押し込んで、かしめる際に、アルミニウム材23側の割れ発生も防止できる。
【0030】
<他の構成例>
上記例ではリベット11をアルミニウム材23に打ち込むことで、リベット11をアルミニウム材23にかしめ固定していたが、リベット11のアルミニウム材23への固定方法はこれに限らない。
図6は、アルミニウム材23にリベット11を固定する他の方法を(A),(B)で示す工程説明図である。
【0031】
図6の(A)に示すように、アルミニウム材23のリベット11を設ける部位に、予めリベット11の軸部15が貫通可能な内径の下孔23aを設けておく。そして、
図6の(B)に示すように、この下孔23aにリベット11の軸部15をプレス等により貫通させることで、リベット11をアルミニウム材23にかしめ固定する。
【0032】
このようなリベット11のプレスによるアルミニウム材23へのかしめ接合は、例えば、アルミニウム材23が自動車の車体構造材である場合、車体のプレス成形工程の中で実施してもよい。また、このようなプレス成形工程とは別途に、その前後の工程、例えばアルミニウム板の製造工程等で実施してもよい。
【0033】
図7は、
図4に示す異材接合体の他の構成を示す断面図である。
ここでは、鋼材29のアルミニウム材23側の反対側に、更に別の鋼材30を重ねている。この構成によれば、複数の鋼材29、30を重ね合わせてリベット11とスポット溶接することで、3枚の材料を一度の溶接で簡単に接合できる。そして、鋼材29,30が複数枚設けられることで、異材接合体の強度を向上でき、異材接合の適用範囲を拡大できる。なお、鋼材の枚数は3枚以上であってもよく、板厚は同じであってもよく、異なっていてもよい。同様にアルミニウム材23の枚数、板厚も任意である。
【0034】
<リベットの表面処理>
次に、リベット11の表面に皮膜を形成する処理を説明する。
リベット11の表面に、例えば13~18%のニッケル共晶率となる亜鉛高共晶ニッケルめっき皮膜を設けることが好ましい。
亜鉛高共晶ニッケルめっき皮膜は、5~11μmの膜厚が好ましく、耐食性、耐熱性に優れた特性にできる。これにより、電食を効果的に防止できる。
【0035】
また、リベット11の亜鉛高共晶ニッケルめっき皮膜上に更に化成皮膜を設けることが好ましい。この化成皮膜は、亜鉛高共晶ニッケルめっきを施したリベットの表面に、クロメート処理(JIS H 0201)を施して得られる、クロメート皮膜であってもよい。
クロメート皮膜は、塗料等と比較して薄い皮膜で、高い耐食性、耐熱性を確保できる。また、異材接合後の電着塗装等において、塗料の密着性が良好となる。
また、クロメート皮膜に代えて、ジルコン系の化成皮膜を形成してもよい。ジルコン系の化成処理としては、例えば、リン酸ジルコニウムを用いた化成形性処理が挙げられる。ジルコン系の化成皮膜を用いることで、クロムフリー化した処理にできる。
【実施例】
【0036】
次に、
図7に示すように、リベットが固定されたアルミニウム材と2枚の鋼材とを樹脂層を挟んで重ね合わせ、リベットと鋼材とをスポット溶接した場合の溶接部の状態を、それぞれ異なる条件の試験例1~20で評価した。
試験例1~14で用いたアルミニウム材、鋼材、リベット、樹脂層、及び溶接条件は次の通りであり、表1~4に試験結果と合わせて纏めて示す。
(材料)
アルミニウム材:5000系アルミニウム合金板 厚さ1.1mm
鋼材(内側) :100kg(980MPa)級高張力鋼板 厚さ1.4mm
鋼材(外側) :100kg(980MPa)級高張力鋼板 厚さ1.8mm
リベット :頭部直径12mm、軸部直径8.0mm
樹脂層 :接着剤(一液性熱硬化型構造接着剤)
【0037】
(溶接条件)
溶接電流:8.0~10.5kA
通電時間:15cycle
加圧力 :4.0~6.0kN
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
試験例1~8は、リベット表面に亜鉛高共晶ニッケルめっきを施しており、試験例9~16は、リベット表面に亜鉛高共晶ニッケルめっきした後、クロメート処理を施している。
【0043】
また、溶接時における電極間に付与する設定加圧力は、試験例1~4では4.3kN(実加圧力:4.4kN)、試験例5~8では6.0kN(実加圧力:6.15kN)、試験例9~12では4.0kN(実加圧力:3.65kN)、試験例13~16では6kN(実加圧力:6.15kN)である。
【0044】
表1に示すように、試験例1は、リベットの軸部先端形状の曲率半径を20mm(R20)とした。その場合、溶接電流が8.0,8.5kAでは溶接部は良好であったが、溶接電流を9.0kAにするとチリが発生した。
【0045】
試験例2、3,4は、それぞれリベットの軸部先端形状の曲率半径を40mm(R40)、60mm(R60)、100mm(R100)とした。試験例2では溶接電流が9.5kAでチリが発生し、試験例3では10.0kAでチリが発生し、試験例4では10.5kAでチリが発生した。
【0046】
上記の試験例1~4の条件で加圧力のみ増加させた試験例5~8では、試験例5(R20)が溶接電流10.0kAでチリが発生した以外、試験例6(R40),試験例7(R60),試験例8(R100)は、いずれも溶接電流10.5kAまで良好な結果であった。なお、試験例6~8の溶接電流9.0~10.0kAの試験については、表1に示す特性から鑑みて良好となることが予見できる場合には実施していない。
【0047】
以上、試験例1~8によれば、加圧力が比較的小さい場合(約4kN)であっても、溶接電流を適正に選択すれば、曲率半径Rが10mm以上で良好な結果が得られることがわかる。
【0048】
リベットの表面に、亜鉛高共晶ニッケルめっきに加え、クロメート処理を施した試験例9~14では、試験例9(R60)、試験例10(R100)、試験例11(R300)は、いずれも溶接電流9.0kAでチリが発生した。
【0049】
上記の試験例9~11の条件で加圧力のみ増加させた試験例12~14では、試験例12(R60),試験例13(R100)が溶接電流10.5kAまで良好であったが、試験例14(R300)は9.0kAまで良好な結果であった。
【0050】
以上、試験例9~14によれば、加圧力が比較的大きい場合(約6kN)、曲率半径Rを300mm以下にすれば良好な結果が得られることがわかる。
【0051】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0052】
以上のとおり、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 頭部と軸部とを有する鋼製のリベットの前記軸部を、アルミニウム材に打ち込んで貫通させ、
前記リベットが貫通して取り付けられた前記アルミニウム材と、鋼材とを、前記アルミニウム材の前記リベットの軸部先端側と前記鋼材との間に樹脂層を挟んで重ねて配置し、
前記リベットと前記鋼材とを一対の電極で挟み、電極間で加圧した状態で通電しながら、前記樹脂層を前記電極間から排除しつつスポット溶接する異材接合方法であって、
前記リベットの軸部先端面の曲率半径が10mm以上300mm以下である、
異材接合方法。
この異材接合方法によれば、軸部先端面の曲率半径を適正な範囲にすることで、通電時においてリベットと鋼材との界面から樹脂層を確実に除去し、曲率半径に応じた接触面積でリベットと鋼材とを面接触させることで、チリを発生させずに良好なスポット溶接が行える。また、リベットをアルミニウム材に打ち込むことで、リベットの抜け落ちが防止され、ハンドリング性、溶接の施工性を向上できる。
【0053】
(2) 下穴が設けられたアルミニウム材と、鋼材とを、樹脂層を挟んで重ねて配置し、
頭部と軸部とを有する鋼製のリベットの前記軸部を、前記アルミニウム材の前記下穴に貫通させ、
前記リベットと前記鋼材とを一対の電極で挟み、電極間で加圧した状態で通電しながら、前記樹脂層を前記電極間から排除しつつスポット溶接する異材接合方法であって、
前記リベットの軸部先端面の曲率半径が10mm以上300mm以下である、
異材接合方法。
この異材接合方法によれば、軸部先端面の曲率半径を適正な範囲にすることで、通電時においてリベットと鋼材との界面から樹脂層を確実に除去し、曲率半径に応じた接触面積でリベットと鋼材とを面接触させることで、チリを発生させずに良好なスポット溶接が行える。また、リベットをアルミニウム材の下孔に挿入する処理を、アルミニウム材のプレス成形工程、又はプレス成形工程とは別途に、その前後の工程等の任意のタイミングで実施できるため、工程の自由度を向上できる。
【0054】
(3) 前記鋼材の前記アルミニウム材側の反対側に、更に別の鋼材を重ねてスポット溶接する請求項1又は2に記載の異材接合方法。
この異材接合方法によれば、鋼材が複数枚設けられることで、異材接合体の強度を向上でき、異材接合の適用範囲を拡大できる。
【0055】
(4) 前記リベットの表面に亜鉛高共晶ニッケルめっき皮膜が設けられている(1)~(3)のいずれか1つに記載の異材接合方法。
この異材接合方法によれば、リベットを耐食性、耐熱性に優れた特性にできる。
【0056】
(5) 前記亜鉛高共晶ニッケルめっき皮膜の膜厚は、5~11μmである(4)に記載の異材接合方法。
この異材接合方法によれば、リベットの耐食性、耐熱性をより高められる。
【0057】
(6) 前記リベットの前記亜鉛高共晶ニッケルめっき皮膜を覆う化成皮膜が更に設けられている(4)又は(5)に記載の異材接合方法。
この異材接合方法によれば、高い耐食性、耐熱性を確保でき、異材接合後の電着塗装等において、塗料の密着性が良好となる。
【0058】
(7) 前記化成皮膜は、クロメート皮膜である(6)に記載の異材接合方法。
この異材接合方法によれば、広く知られた処理であるため、種々の条件下であっても良好な皮膜が安定して得られる。
【0059】
(8) 前記化成皮膜は、ジルコニウム系の化成皮膜である(6)に記載の異材接合方法。
この異材接合方法によれば、化成皮膜をクロムフリー化した処理で形成できる。
【0060】
(9) 頭部と軸部とを有する鋼製のリベットであって、
前記軸部が貫通して取り付けられたアルミニウム材と、鋼材とを、前記アルミニウム材の前記リベットの軸部先端側と前記鋼材との間に樹脂層を挟んで重ねて配置し、
前記リベットと前記鋼材とを一対の電極で挟み、電極間で加圧した状態で通電しながら、前記樹脂層を前記電極間から排除しつつスポット溶接する異材接合に用いられ、
前記軸部の先端面の曲率半径が10mm以上300mm以下である、
リベット。
このリベットによれば、軸部の先端面の曲率半径を適正な範囲にすることで、通電時において接合界面から樹脂層を確実に除去し、曲率半径に応じた接触面積でリベットと鋼材とを接触させることで、チリを発生させずに良好なスポット溶接が行える。
【符号の説明】
【0061】
11 リベット
13 頭部
15 軸部
17 溝
19 頂部
21 ダイ
23 アルミニウム材
25 ポンチ
27 樹脂層
29,30 鋼材
33,35 電極
R 曲率半径