(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】指針の停止位置のばらつき低減機構
(51)【国際特許分類】
G04B 35/00 20060101AFI20240123BHJP
【FI】
G04B35/00 Z
(21)【出願番号】P 2020161888
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 翔一郎
【審査官】櫻井 健太
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-009076(JP,U)
【文献】国際公開第2019/123821(WO,A1)
【文献】特開2017-146305(JP,A)
【文献】特開2016-114508(JP,A)
【文献】特開昭56-167956(JP,A)
【文献】実公昭33-005046(JP,Y1)
【文献】仏国特許発明第01280090(FR,A)
【文献】西独国特許出願公開第02333693(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/00 - 55/30
G04B 1/00 - 99/00
G04C 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
指針による表示機構に連動して両方向に駆動自在の歯車と、
変位自在の一端と固定された他端との間での撓みにより弾性力を発生する戻しばねと
、
前記歯車と前記戻しばねとを固定する軸と、を有し、
前記歯車は、外周縁の一部の領域にのみ歯が形成され、
前記歯車が、前記表示機構により駆動される両方向のいずれに対しても、駆動される方向とは反対方向のトルクを受けるように、前記戻しばねの前記一端が前記歯車に連結さ
れ、
前記軸は、前記歯車が駆動されることにより前記歯車が駆動される方向とは反対方向に弾性力を発生するように、前記戻しばねの前記一端を前記歯車に連結している、指針の停止位置のばらつき低減機構。
【請求項2】
前記戻しばねは、前記軸により前記歯車に固定された中心部と、前記中心部の半径方向の外側に、前記中心部を囲むように形成されたばね部と、時計の不動部分に固定される引掛け部と、を備え、
前記ばね部の一端が前記中心部に繋がれ、前記ばね部の他端が前記引掛け部に繋げられている、請求
項1に記載の指針の停止位置のばらつき低減機構。
【請求項3】
前記戻しばねは、前記ばね部の一端と前記中心部とを繋ぐ繋ぎ部を備え、
前記繋ぎ部と、前記繋ぎ部に対応した前記ばね部の外周縁において、前記軸から半径方向の外方に向かって突出して形成された前記歯と、により、前記歯車を形成している、請求
項2に記載の指針の停止位置のばらつき低減機構。
【請求項4】
前記歯車は、前記表示機構の歯との噛み合いにより送られた歯が、前記戻しばねのトルクにより、送り方向と反対方向に回転して、前記表示機構の別の歯と噛み合う、請求項1から3のうちいずれか1項に記載のばらつき低減機構。
【請求項5】
前記歯車は、前記表示機構に噛み合う歯が1つだけ形成されている、請求項1から4のうちいずれか1項に記載の指針の停止位置のばらつき低減機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指針の停止位置のばらつきを低減する停止位置のばらつき低減機構に関する。
【背景技術】
【0002】
時計の指針を回転させる歯車が複数連なった輪列機構には、歯車の歯同士を円滑に噛み合わせて歯車を回転させるために、バックラッシが形成されている。したがって、バックラッシの分だけ、互いに噛み合った歯の間には遊びがあり、歯車はこの遊びの分だけは動くことができる。
【0003】
そして、時計の指針は歯車に固定されているため歯車の動きに従って動くが、歯車が上述したように遊びの分だけ任意に動くと指針も歯車の動きに応じて動くため、特に秒針のように運針の動きを視認できるものは、歯車の遊びに応じた指針のふらつきが目立ちやすい。
【0004】
このような歯車の遊びによる動きを防止又は抑制するものとして、時刻表示機構に連動して駆動される戻し歯車と、戻し歯車に接して戻し歯車に摩擦力を与える摩擦部材と、摩擦部材に、戻し歯車の、時刻表示のための通常の運針方向とは反対向きのトルクを付与する戻しばね部材と、を備えたばらつき低減機構が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このばらつき低減機構によれば、時刻表示のための通常の運針動作において、バックラッシに起因する指針のふらつき及び停止位置のばらつきを防止又は抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載されたばらつき低減機構は、摩擦部材が戻し歯車の面に常に接した状態で摩擦力が作用しているため、摩擦部材と戻し歯車との間で摩耗が発生し易く、耐摩耗性を向上することが望まれる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、時刻表示のための運針方向とは反対向きの運針を行っても破損することなく、運針の回転の際は、歯車の歯を、遊びの端に寄せることができ、かつ、特許文献1のばらつき低減機構に比べて耐摩耗性を向上することができる、指針の停止位置のばらつき低減機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、指針による表示機構に連動して両方向に駆動自在の歯車と、変位自在の一端と固定された他端との間での撓みにより弾性力を発生する戻しばねと、を有し、前記歯車は、外周縁の一部の領域にのみ歯が形成され、前記歯車が、前記表示機構により駆動される両方向のいずれに対しても、駆動される方向とは反対方向のトルクを受けるように、前記戻しばねの前記一端が前記歯車に連結されている、指針の停止位置のばらつき低減機構である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る指針の停止位置のばらつき低減機構によれば、時刻表示のための運針方向とは反対向きの運針を行っても破損することなく、運針の回転の際は、歯車の歯を、遊びの端に寄せることができ、かつ、耐摩耗性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態である指針(一例として秒針)の停止位置のばらつき低減機構が組み込まれた時計のムーブメントを、ムーブメントの裏蓋側(時計の裏蓋側)から見た平面図である。
【
図5】ばらつき低減機構が噛み合う3番車が正転(時刻表示のための運針方向である時計回りに回転)する場合の、ばらつき低減機構の作用を説明する模式図(その1)である。
【
図6】ばらつき低減機構が噛み合う3番車が正転(時刻表示のための運針方向である時計回りに回転)する場合の、ばらつき低減機構の作用を説明する模式図(その2)である。
【
図7】ばらつき低減機構が噛み合う3番車が正転(時刻表示のための運針方向である時計回りに回転)する場合の、ばらつき低減機構の作用を説明する模式図(その3)である。
【
図8】ばらつき低減機構が噛み合う3番車が反転(時刻表示のための運針方向とは反対の反時計回りに回転)する場合の、ばらつき低減機構の作用を説明する模式図(その1)である。
【
図9】ばらつき低減機構が噛み合う3番車が反転(時刻表示のための運針方向とは反対の反時計回りに回転)する場合の、ばらつき低減機構の作用を説明する模式図(その2)である。
【
図10】ばらつき低減機構が噛み合う3番車が反転(時刻表示のための運針方向とは反対の反時計回りに回転)する場合の、ばらつき低減機構の作用を説明する模式図(その3)である。
【
図11】変形例1のばらつき低減機構の平面図である。
【
図12】変形例1のばらつき低減機構の側面図である。
【
図13】変形例1のばらつき低減機構の底面図である。
【
図14】変形例2のばらつき低減機構のうち歯車を示す斜視図である。
【
図15】変形例2のばらつき低減機構の底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る指針の停止位置のばらつき低減機構の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0013】
図1は本発明の一実施形態である指針(一例として秒針)の停止位置のばらつき低減機構10が組み込まれた時計のムーブメント100を、ムーブメント100の裏蓋側(時計の裏蓋側)から見た平面図、
図2は
図1のばらつき低減機構10の平面図、
図3はばらつき低減機構10の底面図、
図4はばらつき低減機構10の側面図である。
【0014】
図示のムーブメント100は、本発明の一実施形態である指針の停止位置のばらつき低減機構10を備えた電子時計のムーブメントである。
【0015】
ムーブメント100は、ステップモータ60によって指針を駆動する。ムーブメント100は、
図1に示すように、例えば、12時の方向にステップモータ60が配置され、3時の方向に、指針の位置の修正等を行うための巻真90が配置されている。
【0016】
ムーブメント100は、ステップモータ60のロータ61に5番車55の歯車が噛み合い、5番車55の歯車と同軸のかなに4番車54の歯車が噛み合い、4番車54の歯車と同軸のかなに3番車の歯車が噛み合っている。
【0017】
4番車54の軸は、ムーブメント100の文字板の中心を貫き、この軸には秒針(本発明における指針の一例)が固定されている。3番車53の歯車と同軸のかな53bは、秒針(指針)の停止位置のばらつき低減機構10が噛み合っている。秒針と繋がっている4番車54や3番車53、それらと同軸のかな等が表示機構を構成している。
【0018】
秒針の停止位置のばらつき低減機構10(以下、単に、ばらつき低減機構10という。)は、
図2,3,4に示すように、歯車11と、戻しばね13と、真19とを備えた構成である。
【0019】
歯車11は、円板状に形成され、その外周縁に、外周縁から半径方向の外方に向かって突出した歯12が1つだけ形成されている。つまり、歯車11は、その外周縁の一部の領域にのみ歯12が形成されている。歯12は、例えば、時刻表示用の指針を回転させるための輪列に噛み合うように形成されている。
【0020】
歯12が形成されていない外周縁の領域は、他の歯車等の輪列と噛み合わない。実施形態の歯車11は、歯12が1つだけ形成されたものであるが、外周縁の一部の領域にのみ形成されているものであれば、歯12が2つ以上形成されたものでもよい。
【0021】
戻しばね13は、中心部14と、繋ぎ部15と、ばね部16と、引掛け部17とを備えている。中心部14は、歯車11の半径よりも小さい半径(例えば、1/2程度の半径)の円板状に形成されている。
【0022】
ばね部16は、中心部14の半径よりも大きい半径で、かつ歯車11の半径よりも小さい曲率半径の円弧状に形成されている。ばね部16は、中心部14の半径方向の外側に、中心部14を囲むように形成されている。
【0023】
ばね部16の円弧は、円弧の中心C2回りの角度360[度]よりも小さい角度(例えば、角度320[度])範囲に亘って形成されている。円弧を形成する角度は、例示の320[度]に限定されるものではなく、320[度]よりも小さくてもよいし、320[度]よりも大きくてもよい。
【0024】
なお、ばね部16は、後述するように弾性変形の範囲で撓んで、曲率半径が変化するため、撓んだ際に円弧の端部同士が干渉しないことが好ましく、したがって、本実施形態の構成においては、円弧を形成する角度(弾性変形前の自然状態での角度)は、360[度]よりも小さいことが好ましい。また、角度を360[度]より小さくした場合は、部品サイズを薄型化、小型化することができる。
【0025】
ただし、本発明においては、構造的に角度を360[度]以上とすることも可能である。角度を360[度]以上とするときは、ばね部16を、円弧同士が干渉しないような渦巻形状(円弧の曲率を一定ではなく変化させて、内周側の円弧と外周側の円弧とが半径方向において離れたものとなるように形成したもの)とするか、又は螺旋状(円弧が同一の2次元面内ではなく3次元に延びて、円弧同士が演習の直交方向(厚さ方向)において離れたた形状)とすればよい。
【0026】
繋ぎ部15は、中心部14とばね部16の円弧の一端とを繋いだ部分である。引掛け部17は、ばね部16の、繋ぎ部15が接続した一端とは別の端部(他端)に接続されて、ばね部16よりも半径方向の外側に突出した部分である。
【0027】
ここで、中心部14、繋ぎ部15、ばね部16及び引掛け部17については、形状又は機能の特徴によって4つの構成として説明したが、本実施形態においては、1つの部材(戻しばね13)を構成する一部分であり、一体に構成されている。
【0028】
なお、これら中心部14、繋ぎ部15、ばね部16及び引掛け部17の4つの構成を2つ以上の部材で構成し、その2つ以上の部材を接合等して、一体の戻しばね13として形成してもよい。
【0029】
真19は、
図4に示すように、歯車11の中心及び戻しばね13の中心部14の中心を貫いて、これら歯車11及び戻しばね13を一体的に固定した軸である。これにより、戻しばね13が歯車11に連結されている。
【0030】
ここで、真19によって、歯車11と一体に固定されているのは、戻しばね13のうち中心部14だけであり、ばね部16は、繋ぎ部15を介して中心部14と繋がり、引掛け部17はばね部16と繋ぎ部15を介して中心部14に繋がっているが、歯車11には固定されていない。
【0031】
戻しばね13の中心部14が歯車11に一体に固定された状態で、ばね部16は、歯車11の外周縁よりも半径方向の内側に配置され、引掛け部17の少なくとも一部は、歯車11の外周縁よりも半径方向の外側に突出している。
【0032】
したがって、
図3に示すように、歯車11の側から見た底面図では、引掛け部の17の一部だけが、歯車11の外周縁から突出して露出し、他の中心部14、繋ぎ部15及びばね部16は、歯車11に隠れて見えない。
【0033】
<作用>
以上のように構成されたばらつき低減機構10の作用について、以下に説明する。
図5,6,7は、ばらつき低減機構10が噛み合う3番車53が正転(時刻表示のための運針方向である時計回りに回転)する場合の、ばらつき低減機構10の作用を説明する模式図(その1~その3)であり、
図8,9,10は、ばらつき低減機構10が噛み合う3番車53が反転(時刻表示のための運針方向とは反対の反時計回りに回転)する場合の、ばらつき低減機構10の作用を説明する模式図(その1~その3)である。
【0034】
ばらつき低減機構10は、
図5に示すように、歯車11の歯12が、表示機構の一つである中心C3回りに回転する3番車53のかな53b(時刻表示用の輪列の一例)に噛み合って、歯車11は、真19の中心C2回りに回転可能となっている。
【0035】
このとき、戻しばね13の引掛け部17は、ばね部16が初期撓みを与えた状態で、巻真スペーサ80に形成された開口81に嵌め込まれている。巻真スペーサ80は、ムーブメント100の基板となる地板に固定されて動かない不動部分であり、開口81は2つの対向する壁81a,81bに挟まれた空間である。
【0036】
開口81は、中心C2回りに周方向に沿った長さ(壁81aと壁81bとの間隔)が、引掛け部17の幅の寸法と等しいか又はわずかに長く形成されている。したがって、引掛け部17は、壁81a,81bに挟まれて、中心C2回りに回転することはほとんど無く、開口81に固定されているに等しい状態となっている。
【0037】
そして、
図5に示した状態から、ステップモータ60(
図1参照)が、時刻表示のための指針の運針の動作によりロータ61を回転させ、その回転が、5番車55、4番車54、3番車53、と順次伝達されて、4番車54に固定された秒針は、文字板の側(
図1の裏面側)から見て、時計回り方向に回転する。秒針の時計回り方向への運針は、時刻表示のための運針動作である。
【0038】
また、3番車53は、例えば
図5~7に示すように、中心C3回りに、時計回り方向(文字板の側から見て反時計回り)に回転する。3番車53の時計回り方向への回転により、3番車53のかな53bも時計回り方向に回転することで、
図5に示すように、かな53bの歯53c(以下、第1の歯53cという。)が、ばらつき低減機構10の歯車11の歯12を押し、歯車11は中心C2回りに、反時計回りに回転する。
【0039】
3番車53の時計回り方向への回転が進むと、かな53bの第1の歯53cが、
図6に示すように、さらに歯車11の歯12を押し、歯車11の反時計回りの回転が進む。
【0040】
ここで、歯車11が回転すると、真19によって歯車11と一体化された中心部14も、中心C2回りに、反時計回りに回転する。したがって、ばね部16の、繋ぎ部15を介して中心部14に繋がった一端も、反時計回りに移動する。ばね部16は、この一端と一体に、反時計回りに移動しようとする。
【0041】
しかし、巻真スペーサ80の開口81に嵌め込まれた引掛け部17が、開口81に対して反時計方向の前方に位置する壁81aに突き当たって回転しないため、ばね部16の、引掛け部17に繋がった他端は、反時計回りに回転しない。
【0042】
これにより、ばね部16は、一端と他端との間で撓み、繋ぎ部15を介してばね部16に繋がった中心部14には、撓みを復元しようとする弾性力により、中心C2回りに、時計回り方向に回転しようとする反作用のトルクが発生する。
【0043】
この時計回り方向のトルクは、真19を介して歯車11に作用し、歯車11の歯12は、噛み合っているかな53bの第1の歯53cに対して、反時計回り方向のトルクを作用させる。これにより、かな53bは、ロータ61の回転により時計回り方向に回転しつつ、ばらつき低減機構10からの反時計回りのトルクにより、歯12とかな53bの第1の歯53cとのバックラッシの範囲で、反時計回り方向の端に寄せられた状態となる。
【0044】
3番車53の、このようなバックラッシを一方の端に寄せられた動作は、3番車53に噛み合う4番車54にも伝達されるため、4番車54に固定された秒針は、バックラッシの一端に寄せられた状態で運針される。
【0045】
したがって、秒針が、ロータ61の動作周期に応じた所定の時間間隔で停止した際に、秒針はバックラッシの範囲で自由に動くことが無いため、秒針のふらつきを防止することができるとともに、バックラッシの一方に寄せられた状態で停止するため、停止位置のばらつきを低減することができる。
【0046】
3番車53の時計回り方向への回転がさらに進むと、歯車11の歯12を反時計回りに押しているかな53bの第1の歯53cが、歯12から外れる。これにより、歯車11は、かな53bの第1の歯53cから受ける反時計回り(送り方向)のトルクを失い、ばね部16の弾性力による時計回りのトルクにより、中心C2回りの時計回り(送り方向とは反対方向)に回転する。
【0047】
これにより、
図7に示すように、歯12が、かな53bの次の歯53d(
図6において歯12を押していた第1の歯53cに後続する、かな153bの時計回り方向の後ろ側に位置する次の歯53d。以下、第2の歯53dという。)に噛み合う形になり、歯車11の時計回りの回転は停止する。
【0048】
そして、かな53bの第2の歯53dに、歯12が接することにより、
図5に示した状態と同様の状態、
図6に示した状態と同様の状態を順次繰り返すことで、かな53bには反時計回りのトルクが継続的に作用し、秒針の停止位置のばらつきは引き続き低減される。
【0049】
また、本実施形態のばらつき低減機構10は、時刻表示の輪列(本実施形態において、例えば3番車53のかな53b)の歯53c,53d,…と噛み合う歯12の歯車11と、戻しばね13とは、真19に固定されているため、歯車11と戻しばね13との間に摩擦力を作用させる部材が介在しない。
【0050】
したがって、歯車11と戻しばね13との間に摩擦力を作用させる部材が介在するものに比べて、歯車11、戻しばね13、又はその摩擦力を作用させる部材が摩耗することが無く、ばらつき低減機構10の耐摩耗性を向上させることができる。
【0051】
次に、
図5に示した状態から、ステップモータ60(
図1参照)が、時刻表示のための指針の運針の動作とは反対方向にロータ61を回転させた場合について説明する。このような、時刻表示の運針の動作とは反対方向に指針を回転させる動作は、例えば、指針の位置を修正するための動作として行われる。
【0052】
図5に示した状態で、ステップモータ60のロータ61を反対向きに回転させた場合、ロータ61の回転が、5番車55、4番車54、3番車53、と順次伝達されて、4番車54に固定された秒針は、文字板の側(
図1の裏面側)から見て、反時計回り方向に回転する。秒針の反時計回り方向への運針は、時刻表示のための運針動作とは反対方向への運針動作である。
【0053】
この場合、3番車53は、例えば
図8~10に示すように、中心C3回りに、反時計回り方向(文字板の側から見て時計回り)に回転する。3番車53の反時計回り方向への回転により、3番車53のかな53bも反時計回り方向に回転することで、
図8に示すように、かな53bの第1の歯53cが、ばらつき低減機構10の歯車11の歯12を押し、歯車11は中心C2回りに、時計回りに回転する。
【0054】
3番車53の反時計回り方向への回転が進むと、かな53bの第1の歯53cが、
図9に示すように、さらに歯車11の歯12を押し、歯車11の時計回りの回転が進む。
【0055】
ここで、歯車11が回転すると、真19によって歯車11と一体化された中心部14も、中心C2回りに、時計回りに回転する。したがって、ばね部16の、繋ぎ部15を介して中心部14に繋がった一端も、時計回りに移動する。ばね部16は、この一端と一体に、時計回りに移動しようとする。
【0056】
しかし、巻真スペーサ80の開口81に嵌め込まれた引掛け部17が、開口81に対して時計方向の前方に位置する壁81bに突き当たって回転しないため、ばね部16の、引掛け部17に繋がった他端は、時計回りに回転しない。
【0057】
これにより、ばね部16は、一端と他端との間で撓み、繋ぎ部15を介してばね部16に繋がった中心部14には、撓みを復元しようとする弾性力により、中心C2回りに、反時計回り方向に回転しようとする反作用のトルクが発生する。
【0058】
この反時計回り方向のトルクは、真19を介して歯車11に作用し、歯車11の歯12は、噛み合っているかな53bの第1の歯53cに対して、時計回り方向のトルクを作用させる。これにより、かな53bは、ロータ61の回転により反時計回り方向に回転しつつ、ばらつき低減機構10からの時計回りのトルクにより、歯12とかな53bの第1の歯53cとのバックラッシの範囲で、時計回り方向の端に寄せられた状態となる。
【0059】
3番車53の、このようなバックラッシを一方の端に寄せられた動作は、3番車53に噛み合う4番車54にも伝達されるため、4番車54に固定された秒針は、バックラッシの一端に寄せられた状態で運針される。
【0060】
したがって、秒針が、ロータ61の動作周期に応じた所定の時間間隔で停止した際に、秒針はバックラッシの範囲で自由に動くことが無いため、秒針のふらつきを防止することができるとともに、バックラッシの一方に寄せられた状態で停止するため、停止位置のばらつきを低減することができる。
【0061】
3番車53の反時計回り方向への回転がさらに進むと、歯車11の歯12を時計回りに押しているかな53bの第1の歯53cが、歯12から外れる。これにより、歯車11は、かな53bの第1の歯53cから受ける時計回りのトルクを失い、ばね部16の弾性力による反時計回りのトルクにより、中心C2回りの反時計回りに回転する。
【0062】
これにより、
図10に示すように、歯12が、かな53bの次の歯53h(
図9において歯12を押していた歯に後続する、かな153bの反時計回り方向の後ろ側に位置する次の歯53h。以下、第6の歯53hという。)に当たり、歯車11の反時計回りの回転は停止する。
【0063】
そして、かな53bの第6の歯53hに、歯12が接することにより、
図8に示した状態と同様の状態、
図9に示した状態と同様の状態を順次繰り返すことで、かな53bには時計回りのトルクが継続的に作用し、秒針の停止位置のばらつきは引き続き低減される。
【0064】
このように、本実施形態のばらつき低減機構10は、時刻表示のための運針方向とは反対向きの運針を行っても破損することがなく、運針の回転の際は、歯車11の歯12を、遊びの端に寄せることができ、かつ、耐摩耗性を向上することができる。
【0065】
本実施形態の指針の停止位置のばらつき低減機構は、3番車53のかな53bに連動して両方向に回転自在の歯車11が、ばね部16の変位自在の一端(繋ぎ部に接続された端部)に連結されていることにより、歯車11は、かな53bによって両方向のいずれに回転したときも、回転される方向とは反対方向のトルクを受けて、指針の停止位置のばらつきを低減する。
【0066】
上述した実施形態の指針の停止位置のばらつき低減機構10は、秒針を停止位置のばらつき低減の対象としたものであるが、本発明に係る指針の停止位置のばらつき低減機構は、秒針だけを停止位置のばらつき低減の対象とするものに限定されない。したがって、例えば、停止位置のばらつき低減の対象は分針であってもよいし、時針であってもよいし、時刻表示以外の機能により所定の物理量を示す機能針であってもよい。
【0067】
ただし、通常は、動きの頻度が高い指針において、停止位置のばらつきが目立つため、ばらつき低減の効果は、動きの頻度が高い秒針などを対象にしたものにおいて、より大きい。このように、動きの頻度が高い指針としては、秒針の他に、例えばクロノグラフ用の指針や、物理量を示すための指針などに適用することができる。
【0068】
<変形例1>
図11,12,13は、本発明に係るばらつき低減機構の変形例1を示す図であり、
図11は変形例1のばらつき低減機構110の平面図、
図12はばらつき低減機構110の側面図、
図13はばらつき低減機構110の底面図である。
【0069】
図2~4に示したばらつき低減機構10が、歯車11と、戻しばね13と、真19とを備えた構成であるのに対して、変形例1のばらつき低減機構110は、ばらつき低減機構10における歯車11の歯12と戻しばね13とが、戻しばね113として一体的に構成されたものである。
【0070】
なお、ばらつき低減機構110の真119はばらつき低減機構10の真19に対応し、ばらつき低減機構110の戻しばね113はばらつき低減機構10の戻しばね13に対応していて、それぞればらつき低減機構10におけるものと同様の作用効果を発揮する。ばらつき低減機構110は、ばらつき低減機構10の歯車11に対応するものを備えていない。
【0071】
戻しばね113は、中心部114と、繋ぎ部115と、ばね部116と、引掛け部117と、歯112と、を備えている。中心部114は中心部14に対応し、繋ぎ部115は繋ぎ部15に対応し、ばね部116はばね部16に対応し、引掛け部117は引掛け部17に対応し、歯112は歯12に対応して、それぞればらつき低減機構10におけるものと同様の作用効果を発揮する。
【0072】
なお、歯112は、ばね部116が撓む弾性変形があっても、位相が変化しないように、ばね部116の固定端となる繋ぎ部115に対応した角度位置におけるばね部116の外周縁に、真119を中心とした半径方向の外方に向かって突出して形成されている。したがって、繋ぎ部115と歯112は、本発明における歯車を形成している。
【0073】
このように構成された変形例1のばらつき低減機構110によっても、時刻表示のための運針方向とは反対向きの運針を行っても破損することがなく、運針の回転の際は、歯112を、遊びの端に寄せることができ、かつ、耐摩耗性を向上することができる。
【0074】
また、変形例1のばらつき低減機構110は、ばらつき低減機構10のように、歯車11と戻しばね13とが別体ではなく、戻しばね113の繋ぎ部115から外方に向かって形成された歯112が歯車11の歯12を兼ねた構成である。
【0075】
このように、歯車11と戻しばね13とを一体化した戻しばね113を有するばらつき低減機構110は、ばらつき低減機構10に比べて、構成を簡単化することができ、部品コストを低減することができる。
【0076】
<変形例2>
上述した実施形態や変形例は、戻しばね13と歯車11とが同軸に固定されたものであるが、本発明に係る、指針の停止位置のばらつき低減機構は、戻しばね13と歯車11とが同軸に固定されたものに限定されない。
【0077】
すなわち、本発明に係る指針の停止位置のばらつき低減機構は、指針による表示機構に連動して両方向に駆動自在の歯車が、駆動される両方向のいずれに対しても、駆動される方向とは反対方向のトルクを受けるように、他端が固定されて、変位自在の一端との間での撓みにより弾性力を発生する戻しばねの一端と連結されていればよく、戻しばねと歯車とは同軸でなくてもよい。
【0078】
図14,15は、本発明に係るばらつき低減機構の変形例2を示す図であり、
図14は変形例2のばらつき低減機構210のうち歯車211を示す斜視図、
図15はばらつき低減機構210を示す平面図である。
【0079】
変形例2のばらつき低減機構210は、ばらつき低減機構10における歯車11に対応する歯車211と、ばらつき低減機構10における戻しばね13に対応する戻しばね213とを備えた構成である。ばらつき低減機構210は、歯車211と戻しばね213とが別体に構成されて、かつ、歯車211と戻しばね213とが同軸に固定されていない構成である。
【0080】
歯車211は、真119を軸芯とした歯車であり、外周に1つだけ歯12を備えるとともに、歯12の形成された歯板の面に、軸方向に突出した円柱状の凸部214を備えている。
【0081】
戻しばね213は、
図15に示すように、ばね部216の一端に、歯車211の凸部214に連結される連結部216aを有し、ばね部216の他端に、固定部216bを有している。ばね部216は、円弧帯状に形成されていて、一端と他端との間で撓むことにより弾性力を発生する。
図15において、ばね部216は円弧帯状としたが、適度な弾性力を有する形状であれば直線状であってもよいし、メアンダ状やクランク状であってもよい。
【0082】
ばね部216は、連結部216aが変異自在であり、固定部216b時計の地板等に固定されている。
【0083】
以上のように構成されたばらつき低減機構210によれば、
図15に示すように、歯車211の歯212が、かな53bの歯に噛み合った状態で、ばね部216の連結部216aが歯車211の凸部214に連結された状態となっている。このとき、ばね部216は初期撓みを与えられた状態である。
【0084】
かな53bが時計回りに回転することにより、かな53bと噛み合った歯車211は反時計回りに回転し、これにより、歯車211の凸部214に連結されたばね部216の連結部216aが凸部214に連結された状態で反時計回り方向に変位される。
【0085】
ばね部216は、固定部216bが動かないため、連結部216aの変位により円弧の曲率半径が小さくなる方向に撓み、この撓みを解消するようにばね部216に生じる弾性力により、連結部216aが凸部214を時計回り方向に押圧し、歯12が、かな53bを反時計回り方向に押圧する。
【0086】
一方、かな53bが反時計回りに回転することにより、かな53bと噛み合った歯車211は時計回りに回転し、これにより、歯車211の凸部214に連結されたばね部216の連結部216aが凸部214に連結された状態で時計回り方向に変位される。
【0087】
ばね部216は、固定部216bが動かないため、連結部216aの変位により円弧の曲率半径が大きくなる方向に撓み、この撓みを解消するようにばね部216に生じる弾性力により、連結部216aが凸部214を反時計回り方向に押圧し、歯12が、かな53bを時計回り方向に押圧する。
【0088】
このように構成された変形例2ばらつき低減機構210によっても、時刻表示のための運針方向とは反対向きの運針を行っても破損することがなく、運針の回転の際は、歯12を、遊びの端に寄せることができ、かつ、耐摩耗性を向上することができる。
【符号の説明】
【0089】
10 秒針(指針)のばらつき低減機構
11 歯車
12 歯
13 戻しばね
14 中心部
15 繋ぎ部
16 ばね部
17 引掛け部
19 真(軸)
53 3番車
53b かな
100 ムーブメント