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特許7424993インジェクタ、特に二重機能インジェクタ及び/又は停止要素を備えるインジェクタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】インジェクタ、特に二重機能インジェクタ及び/又は停止要素を備えるインジェクタ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20240123BHJP
【FI】
A61F2/16
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020555793
(86)(22)【出願日】2019-04-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 CH2019050006
(87)【国際公開番号】W WO2019195951
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】00467/18
(32)【優先日】2018-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】505298766
【氏名又は名称】メディセル・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ドックホルン,フォルカー
(72)【発明者】
【氏名】ゲルマン,レト
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04583974(US,A)
【文献】特開2014-028082(JP,A)
【文献】特表2011-502012(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0200546(US,A1)
【文献】特開平06-023054(JP,A)
【文献】米国特許第05306248(US,A)
【文献】米国特許第05318534(US,A)
【文献】米国特許第05741229(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0260238(US,A1)
【文献】特開2007-014619(JP,A)
【文献】特表2016-509896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼内レンズを眼内に挿入するため、又は角膜内皮組織を眼に埋入するために好適であるインジェクタ(11)であって、前記インジェクタ(11)は、細長いインジェクタ本体(13)を備え、前記インジェクタ本体(13)はピストン通路(16)を有し、また前記ピストン通路(16)内では、ねじ山(33)を有するインジェクタピストンロッド(15)が長手方向に変位可能な方法で案内され;
前記インジェクタ(11)は、前記インジェクタピストンロッド(15)の変位に関する2つの動作モードを備え、また前記モード間で切り替えることができ;
第1の動作モードは押し出し動作を画定し、第2の動作モードはねじ込み動作を画定する、インジェクタ(11)において、
前記インジェクタ本体(13)は、少なくとも1つの格納可能かつ展開可能な翼状ハンドル(27、28)を有し、前記動作モードは、展開位置によって押し出し動作に設定され、また前記動作モードは、格納位置によってねじ込み動作に設定されることを特徴とする、インジェクタ(11)。
【請求項2】
前記少なくとも1つの格納可能かつ展開可能な翼状ハンドル(27、28)は、前記インジェクタ本体(13)に対して前側から展開でき、また前記インジェクタ本体(13)に対して前側に向かって格納できることを特徴とする、請求項1に記載のインジェクタ。
【請求項3】
前記インジェクタ本体(13)は、少なくとも1つの変位可能なねじ山付きブリッジ(29、30)を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のインジェクタ。
【請求項4】
前記ねじ山付きブリッジ(29、30)は、前記翼状ハンドル(27、28)が展開されたときに前記ピストン通路(16)から押し出され、前記翼状ハンドル(27、28)が格納されたときに前記ピストン通路(16)に押し込まれることを特徴とする、請求項3に記載のインジェクタ。
【請求項5】
上記少なくとも1つの翼状ハンドル(27、28)及び上記少なくとも1つのねじ山付きブリッジ(29、30)は作動接続で構成され、これにより、上記少なくとも1つの翼状ハンドル(27、28)を格納することによって、上記少なくとも1つのねじ山付きブリッジ(29、30)を、上記少なくとも1つのねじ山付きブリッジ(29、30)が上記インジェクタピストンロッド(15)の上記ねじ山(33)のための噛合用ねじ山を形成する第1の位置へと案内でき、また上記少なくとも1つの翼状ハンドル(27、28)を展開することによって、上記少なくとも1つのねじ山付きブリッジ(29、30)を、上記少なくとも1つのねじ山付きブリッジ(29、30)が上記インジェクタピストンロッド(15)の上記ねじ山(33)のための噛合用ねじ山を形成しない第2の位置へと案内できることを特徴とする、請求項3又は4に記載のインジェクタ。
【請求項6】
前記翼状ハンドル(27、28)と前記ねじ山付きブリッジ(29、30)とは、前記翼状ハンドル(27、28)が格納されているとき、前記ピストンロッドのねじ込み時に発生するような、前記ねじ山付きブリッジ(29、30)に対する前記ピストンロッド(15)の機械的圧力によって、前記翼状ハンドル(27、28)を展開できなくなるように、互いに作動接続されることを特徴とする、請求項3~5のいずれか1項に記載のインジェクタ。
【請求項7】
前記翼状ハンドル(27、28)と前記ねじ山付きブリッジ(29、30)とは、前記翼状ハンドルが格納されているとき前記ピストンロッドのねじ込み中に前記ピストンロッドが前記ねじ山付きブリッジに機械的圧力を印加しても、前記翼状ハンドルは前記格納位置にあるままとなるように、互いに作動接続されることを特徴とする、請求項3~6のいずれか1項に記載のインジェクタ。
【請求項8】
前記少なくとも1つの格納可能かつ展開可能な翼状ハンドル(27、28)は、前記翼状ハンドル(27、28)をその周りで格納可能かつ展開可能な、回転軸(35、36)を有することを特徴とする、請求項3~7のいずれか1項に記載のインジェクタ。
【請求項9】
前記翼状ハンドル(27、28)と前記ねじ山付きブリッジ(29、30)とは、前記翼状ハンドル(27、28)の前記回転軸(35、36)に対して偏心して前記翼状ハンドル(27、28)上に形成されたレバー(81、82)を介して、互いに作動接続されることを特徴とする、請求項8に記載のインジェクタ。
【請求項10】
前記レバー(81、82)は、前記翼状ハンドル(27、28)が格納されているときに、前記ねじ山付きブリッジ(29、30)を、前記少なくとも1つのねじ山付きブリッジ(29、30)が前記インジェクタピストンロッド(15)の前記ねじ山(33)のための噛合用ねじ山を形成する第1の位置に保持し、これによって前記インジェクタピストンロッド(15)のねじ込みが可能となり、また前記レバー(81、82)は、前記翼状ハンドル(27、28)が展開されているときには、前記ねじ山付きブリッジ(29、30)を、前記少なくとも1つのねじ山付きブリッジ(29、30)が前記インジェクタピストンロッド(15)の前記ねじ山(33)のための噛合用ねじ山を形成しない第2の位置に保持し、これによって前記インジェクタピストンロッド(15)の押し込みが可能となることを特徴とする、請求項9に記載のインジェクタ。
【請求項11】
前記少なくとも1つのねじ山付きブリッジ(29、30)は、少なくとも1つの可動ホルダ(31、32)上に形成され、前記少なくとも1つの可動ホルダ(31、32)は、前記翼状ハンドルの位置を調整することによって、前記ねじ山付きブリッジ(29、30)と前記ピストン通路(16)との間の距離を変更できるように、可動であることを特徴とする、請求項3~10のいずれか1項に記載のインジェクタ。
【請求項12】
前記少なくとも1つの可動ホルダ(31、32)は、内側脚状部(61、62)及び外側脚状部(71、72)を備えたフォークとして設計されていることを特徴とする、請求項11に記載のインジェクタ。
【請求項13】
前記少なくとも1つの翼状ハンドル(27、28)は、その長さに沿って、格納可能かつ展開可能となるように前記インジェクタ本体(15)に取り付けられることを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載のインジェクタ。
【請求項14】
前記少なくとも1つの格納可能かつ展開可能な翼状ハンドル(27、28)は、第1の翼状部(27)及び第2の翼状部(28)を備えるデュアル翼状ハンドルとして設計されることを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載のインジェクタ。
【請求項15】
2つの前記翼状部(27、28)の格納及び展開運動は同期されることを特徴とする、請求項14に記載のインジェクタ。
【請求項16】
2つの前記翼状部(27、28)の格納及び展開運動は、歯部(91、92)を介して同期されることを特徴とする、請求項14に記載のインジェクタ。
【請求項17】
前記インジェクタピストンロッド(15)は、後側に作動要素(24)を備えるように設計され、前記作動要素(24)は、前記ピストンロッド(15)を手動で押す、又は回転させるために使用されることを特徴とする、請求項1~16のいずれか1項に記載のインジェクタ。
【請求項18】
前記翼状ハンドル(27、28)は、前記翼状ハンドル(27、28)の格納及び展開を繰り返すことができるように設計されることを特徴とする、請求項1~17のいずれか1項に記載のインジェクタ。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか1項に記載のインジェクタであって、 前記インジェクタピストンロッド(15、115)は停止要素(141)を含むことを特徴とする、インジェクタ。
【請求項20】
前記停止要素(141)は、変位可能な及び/又は圧縮可能な停止要素(141)であることを特徴とする、請求項19に記載のインジェクタ。
【請求項21】
前記停止要素(141)は、弾性材料から作製されることを特徴とする、請求項19又は20に記載のインジェクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、インジェクタ、特に請求項1の前提部分に記載の、眼内レンズ(IOL)を眼内に挿入するため、又は角膜内皮組織を眼内に埋入するためのインジェクタを含む。
【背景技術】
【0002】
眼内レンズ(IOL)を挿入するための過去の通常のインジェクタは、片手で操作できるシリンジ形態で設計されるか、又はねじ山を備えるように設計され、後者は通常両手で操作される。外科医が習得した、又は外科医が好む技法に応じて、外科医は押し出し式インジェクタ又はねじ込み式インジェクタを選択する。
【0003】
上述の押し出し式インジェクタ及びねじ込み式インジェクタに加えて、両方の機能を(即ち押し出し式インジェクタの機能とねじ込み式インジェクタの機能とを)組み合わせたシステムも存在し、即ち上記システムはデュアル(dual)タイプであり、例えばOPHTEC BV製IOLインジェクタDualTec(商標)が挙げられる。デュアルシステムはシリンジの分野でも知られており、例えば特許文献1が挙げられる。デュアルシステムは、1タイプのインジェクタ又は1タイプのシリンジのみを外科医に与える(又は在庫確保しておく)だけで十分であるという利点を有する。というのは、それをどのような機能性で使用するかの決定は外科医に任されているためである。特に、IOLがインジェクタに既に事前装填されているIOLシステムの場合、システムの在庫を1つしか保持しなくてよいため、オプションの押し出し/ねじ込み機構を備えたシステムを使用すれば、レンズ製造元及びエンドユーザの保管及び調達コストを約半分にすることができる。しかしながら、二重機能を有する過去に利用可能だったIOLインジェクタは、重大な欠点を有する。この欠点とは、ハウジングと、特に押し出し式インジェクタにおいて使用される、押し出し機能に必要な把持プレートとの設計が、インジェクタをねじ込み機能で使用する場合に非常に邪魔になることである。というのは、ねじ込み機能の場合、押し出し機能の場合とは違ってインジェクタは両手で使用され、把持プレートがその邪魔になるためである。
【0004】
押し出し式インジェクタであるかねじ込み式インジェクタであるかに関わらず、インジェクタの別の欠点は、(一定の構造にもかかわらず)ノズル出口に対してピストン終点が変動性を有することである。例えばシリコーンプランジャである弾性プランジャをピストンロッド上で使用する場合、特に高い変動性が予想される。これは例えば、ピストンロッドの長さが常に正確に同一であるとは限らないためである。特に(例えばシリコーンプランジャ等の)弾性プランジャをピストン先端に使用する場合、ピストンの全長を正確に決定することはできない。使用されるレンズの材料、レンズのジオメトリ、度数、粘弾性溶液、温度、供給速度等に応じて、弾性プランジャは多かれ少なかれ圧縮(即ち短縮)又は伸長(即ち延長)され、これは、条件に応じて異なるピストンの全長をもたらす。これは極めて重要である。というのは、いかなる場合においてもインジェクタノズルからレンズを常に押し出すことができるように、プランジャは常にインジェクタノズルの端部に到達しなければならず、またプランジャは、インジェクタノズル内で圧縮されたプランジャが、インジェクタノズル内へとそれ以上引き込むことができない程度に膨張するため、インジェクタノズルから押し出されてはならないためである。眼から引き抜く際、切開部が避けて開く場合があり、又は突出して膨張したシリコーンプランジャによって眼が損傷する場合がある。
【0005】
更に、押し出し式インジェクタであるかねじ込み式インジェクタであるかに関わらず、これら両方のタイプのインジェクタについて、1つ以上の連続する所定の供給ステージにおいてピストンロッドを安全かつ確実に前進させることは、実際には困難である。特に、1つの供給ステージが1つの定義された供給位置で終了する、又は複数の供給ステージのそれぞれが1つの定義された供給位置で終了するように、インジェクタを構成するのは困難であり、上記終了位置は同時に、実際の挿入又は必要に応じて次の供給ステージが続くことができる開始位置としても機能する。特に、各供給位置は、ピストンロッド先端(即ちピストンロッドの前端)、特にピストンロッドの上記前端に取り付けられたプランジャを正確に設定できる、正確なピストンロッド供給を定義する必要がある。このような供給位置は、例えばIOLのいわゆる触覚部を、定義済みの方法で光学系に適用するため、又はシリコーンプランジャを用いてIOLが装入チャンバから滑落しないようにするために、必要となり得る。
【0006】
スナッパー(ばね部品)を備えたIOLシステムも存在し、上記スナッパーは、その上に載置されたピストン先端又はプランジャが、インジェクタハウジングから落下するのを防止する。その例は、市販のインジェクタシステムであるMedicel AG製のVISCOJECT(商標)、NAVIJECT(商標)、及びACCUJECT(商標)である。この受けの更なる機能は、ピストンの第2の供給位置を固定することである。この目的のために、スナッパーは、最初に前方に押されたときにインジェクタハウジングの第1の孔から飛び出し、前進して、インジェクタハウジングの第2の孔の所定の位置にロックされる。この第2のスナップは、小さな「クリック」によって感じることができ、及び/又は小さな「クリック」を伴って接続できる。それにも関わらず、この第2のピストン位置は、実際には無視又は看過されてしまうことが多く、従って見落とされる。問題は、スナップが生成する抵抗を、意図しない見落としを回避できる程度に強くする必要があることである。しかしながら、このような強いスナップ嵌合、又はこのような強い抵抗により、以下のような状態が引き起こされる:この供給位置からの押し出しが、インジェクタが前進し続けるときに(即ちこの抵抗に打ち勝つ瞬間に)突然の運動を生成するため、IOLは、制御できない状態で突然に比較的大きな範囲を前進してしまう。しかしながらこれは、IOLを常に制御下で前進させなければならないという要件と矛盾する。
【0007】
ピストン終点の変動性及び供給位置の見落としの回避に関連して上述した問題は、二重機能を有するインジェクタでも発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第4,810,249号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、代替となるインジェクタを提供することである。特に本発明は、上述の問題のうちの全て又はできる限り多くを解決するインジェクタを開発することを目的とする。
【0010】
特に、上述の要件を考慮して、押し出し式インジェクタとしてもねじ込み式インジェクタとしても(即ちプッシュインジェクタとしてもねじ込み式インジェクタとしても)使用できるインジェクタを開発する。特に、押し出し機能に関連する構造は、インジェクタをねじ込み式インジェクタとして使用するときに障害になってはならず、また反対に、ねじ込み機能に関連する構造は、インジェクタを押し出し式インジェクタとして使用するときに障害になってはならない。
【0011】
別の目的は、押し出し動作からねじ込み動作へ、及びその逆への繰り返しの切り替えを可能とするシステムを開発することである。これは即ち、双方向の解決策を発見する必要があることを意味する。更にこのシステムは、眼内レンズを眼に挿入できるようにするために十分な安定性を提供しながら、同時に安価なものでなければならない。
【0012】
また、特にピストンロッド上で弾性プランジャを使用する際に、ノズル出口に対するピストン終点の変動性を最小限に抑えることも、目的である。この解決策は、押し出し式インジェクタ及びねじ込み式インジェクタに、並びに特にデュアルインジェクタ、即ち押し出し機能とねじ込み機能とを有するインジェクタにも、適用可能でなければならない。
【0013】
供給ステージ上のピストンの設定を改善すること、特に所定の供給ステージを外科医が確実に(例えば視覚的、聴覚的、及び/又は触覚的)に感知でき、かつ供給位置からの更なる供給の間にレンズが制御できない移動をしないようにピストンを正確に設定できるように、上記設定を改善することが目的である。これは、ピストンロッド先端が次の供給ステップでレンズと接触することになる供給位置、又はピストンロッドが既にレンズと接触している供給位置について、特に重要である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は更に、インジェクタ(例えば眼内レンズを眼に挿入する目的で眼内レンズを射出するためのインジェクタ、又は角膜内皮組織の埋入のためのインジェクタ)に関し、上記インジェクタは、細長いインジェクタ本体を備え、上記インジェクタ本体はピストンロッド通路を有し、また上記インジェクタ本体内では、ねじ山を有するインジェクタピストンロッドが長手方向に変位可能な方法で(上記インジェクタピストンロッドの軸方向に)案内され;上記インジェクタは、上記インジェクタピストンロッドの変位に関する2つの動作モードを備え、また上記モード間で切り替えることができ;第1の動作モードは押し出し動作を画定し、第2の動作モードはねじ込み動作を画定し;上記インジェクタは、上記インジェクタ本体が、少なくとも1つの格納可能かつ展開可能な(又は内側及び外側に枢動可能な)翼状部又は翼状ハンドルを有することを特徴とし;上記動作モードは、展開位置によって押し出し動作に設定され、また上記動作モードは、格納位置によってねじ込み動作に設定される。これは即ち、上記インジェクタを押し出し式インジェクタとして又はねじ込み式インジェクタとして使用できることを意味している。上記少なくとも1つの翼状部又は翼状ハンドルは好ましくは、上記インジェクタ本体の長さに沿って位置決めされる。
【0015】
上記翼状ハンドルが展開されている場合、これは即ち、把持領域を備える上記翼状部が上記インジェクタ本体から把持可能位置に突出して、好ましくは前側から(即ち上記インジェクタのノズル側から)把持でき、これにより例えば、片手での3本指の把持(即ち各上記翼状ハンドル上に1本の指、及び上記ピストンロッドの後端に第3の指(好ましくは親指))を用いて、上記インジェクタピストンロッドを上記翼状ハンドルに対して押し、上記ノズルに向かって押すことができることを意味する。
【0016】
上記展開位置では、上記翼状ハンドルは上記インジェクタ本体から翼のように突出する。上記展開位置では、上記翼状ハンドルは、好都合には、更なる展開、又は元の位置への、即ち上記インジェクタの近位端に向かっての格納についてブロックされる。上記翼状ハンドル上の把持領域は、好都合には、上記翼状ハンドルの、上記翼状ハンドルが展開されたときに上記インジェクタの上記ノズルに対面する側に、位置決めされる。上記翼状ハンドルは好都合には、上記展開位置においてその上記把持域が、上記インジェクタピストンロッドの上記近位端の圧力面に対する逆圧力面として機能するように設計される。特に上記翼状ハンドルは、上記展開位置において、即ち押し出し機能位置において、上記インジェクタピストンロッドの上記近位端に印加される押し出し力に対応する、上記把持領域に対する少なくとも1つの圧縮応力に耐えられるように設計される。特に、展開された上記翼状ハンドルは、少なくとも10ニュートン、好ましくは少なくとも20N、より好ましくは少なくとも30Nの力に耐えられなければならない。
【0017】
上記少なくとも1つの格納可能かつ展開可能な翼状ハンドルは、好都合には、上記インジェクタ本体に関して上記前側から展開可能であり、また再び上記前側に対して格納可能である。上記少なくとも1つの翼状ハンドルは特に、上記前側に向かって、即ち上記インジェクタノズルに向かう折りたたみ運動によって格納でき、また後側に向かって、即ち上記インジェクタの上記近位端に向かう折りたたみ運動によって展開できるように設計される。
【0018】
上記翼状ハンドルが格納されている場合、これは即ち、把持領域を備える上記翼状部が、上記インジェクタ本体上に、上記インジェクタ本体の長さに沿って静置され、また好ましくは上記インジェクタの側壁内へと陥凹し、これにより上記インジェクタ本体の外壁と格納された上記翼状部とが、比較的直線状の又は均一な表面を形成し、これにより上記インジェクタ本体を、障害物なしに(例えばペンのように)第1の手で保持して、例えば第2の手で上記インジェクタピストンロッドを上記ノズルにねじ込むことができることを意味する。
【0019】
上記インジェクタは有利には、上記少なくとも1つの翼状ハンドルの位置に応じて、上記インジェクタが押し出し式インジェクタとして又はねじ込み式インジェクタとして機能することを特徴とする(デュアルインジェクション機能)。上記少なくとも1つの翼状ハンドルの展開位置では(即ち押し出し動作モードでは)、上記翼状ハンドルは上記インジェクタ本体から突出する。この場合、上記翼状ハンドルは好ましくは、上記インジェクタ本体の長手方向延長部に対して略垂直に配設された把持面を形成する。これにより、押し出し動作を目的として、上記インジェクタを、上記翼状ハンドル上の片手の1本以上の指で把持しながら、必要に応じて、同じ手の親指を用いて上記ピストンの端部を保持してこれを押すことができる。上記少なくとも1つの翼状ハンドルの上記格納位置では(即ちねじ込み動作モードでは)上記少なくとも1つの翼状ハンドルは上記インジェクタ本体に対して格納される。この目的のために、上記インジェクタと、上記少なくとも1つの翼状ハンドルとは、(横方向に突出する延長部が存在しない)略均一な長手方向のハンドルを形成する。この目的のために、上記少なくとも1つの翼状ハンドルは好ましくは、上記インジェクタ本体の長手方向側部に組み込まれる。結果として、ねじ込み動作を目的として、上記インジェクタ本体をその長さに沿って第1の手の指で何の問題もなく把持しながら、第2の手で上記ピストンをねじ込み回転に設定できる。
【0020】
上記インジェクタは特に、上記翼状ハンドルが、上記翼状ハンドルの格納及び展開を繰り返すことができるように構成されることを特徴とする。従って原則として、あるモードから他方のモードに自在に切り替えることができる。
【0021】
上記インジェクタは好ましくは、上記インジェクタ本体が、少なくとも1つの変位可能なねじ山付きブリッジ、特に押し込んだり押し出したりすることができるねじ山付きブリッジを有することを特徴とする。上記少なくとも1つのねじ山付きブリッジは、好都合には、上記ピストン通路に対して押し込んだり押し出したりすることができる。その一方で、上記ねじ山付きブリッジは、上記ねじ山付きブリッジが上記ピストンロッドの上記ねじ山に対するめねじとして作用し、上記ピストンロッドのねじ込み運動によってレンズを射出できるように、上記ピストン通路に押し込むことができる。この上記インジェクタのねじ込み機能において、上記ピストンロッドの上記ねじ山は、上記インジェクタ本体の上記ねじ山付きブリッジ内に延在するか、又は上記インジェクタ本体の上記ねじ山付きブリッジ上にある上記ピストンロッドの上記ねじ山は、上記ピストン通路又は上記インジェクタ本体にねじ込むことができる。その一方で、上記ねじ山付きブリッジを、上記ピストン通路から押し出す、又は上記ピストン通路から引き出すことによって、上記ねじ山付きブリッジが上記ピストンロッドの上記ねじ山に対するめねじとして作用しないようにする(また上記ピストンロッドの上記通路を妨げることがないようにする)ことができ、従ってレンズ又はインプラントを、上記ピストンロッドの単純な押し出し運動によって(即ち回転の一部分も伴わない押し出し運動によって)射出できる。
【0022】
上記少なくとも1つの翼状ハンドルを格納又は展開する(即ち内側又は外側に枢動させる)際に、上記少なくとも1つのねじ山付きブリッジも押し込まれる又は押し出されるように、上記少なくとも1つの翼状ハンドル及び上記少なくとも1つのねじ山付きブリッジが協働するようにリンクされると特に有利である。好ましくは、上記ねじ山付きブリッジは、上記翼状ハンドル(27、28)が展開されたときに上記ピストン通路から押し出され、上記翼状ハンドルが格納されたときに上記ピストン通路に押し込まれる。
【0023】
特に、上記少なくとも1つの翼状ハンドル及び上記少なくとも1つのねじ山付きブリッジは作動接続で構成され、これにより、上記少なくとも1つの翼状ハンドルを格納することによって、上記少なくとも1つのねじ山付きブリッジを、上記少なくとも1つのねじ山付きブリッジが上記インジェクタピストンロッドの上記ねじ山のための噛合用ねじ山を形成する(即ちねじ込み動作を目的とした)第1の位置へと案内でき、また上記少なくとも1つの翼状ハンドルを展開することによって、上記少なくとも1つのねじ山付きブリッジを、上記少なくとも1つのねじ山付きブリッジが上記インジェクタピストンロッドの上記ねじ山のための噛合用ねじ山を形成しない(即ち押し出し動作を目的とした)第2の位置へと案内できる。
【0024】
上記翼状ハンドル及び上記ねじ山は、上記翼状部が格納されているときに、上記ねじ山に対する機械的圧力によって上記翼状部が自動的に展開されないように、互いに接続されることが好ましい。
【0025】
特に、上記翼状ハンドル及び上記ねじ山付きブリッジは、上記翼状ハンドルが格納されたときに、上記ピストンロッドをねじ込んだときに発生するような、上記ねじ山付きブリッジに対する機械的圧力による上記翼状ハンドルの展開又は自動的な展開が発生し得ないように、互いに動作可能に接続される。換言すれば、上記翼状ハンドル及び上記ねじ山付きブリッジは特に、上記翼状ハンドルが格納されたときに、上記ピストンロッドをねじ込む際に上記ピストンロッドが上記ねじ山付きブリッジに機械的圧力を印加した場合であっても、上記翼状ハンドルが上記格納位置にあるままとなるように、互いに動作可能に接続される。上記翼状ハンドルの展開は、上記翼状ハンドルを能動的に手動で(即ち上記インジェクタ本体の外側から)展開することによってのみ達成できる。
【0026】
上記インジェクタが2つの上記翼状部と、これに伴って各翼状部に1つずつ作動接続されたねじ山付きブリッジとを内包する場合、上記翼状部が格納されたときに、上記ねじ山付きブリッジは一体として上記ピストンロッドの上記ねじ山のためのめねじを形成する。しかしながら上記翼状部が展開されたとき、上記ねじ山付きブリッジは、上記翼状部が格納されているときよりも大きく離間するため、上記ピストンロッドの上記ねじ山のためのめねじを形成せず、上記ピストンロッドをねじ込み回転させることなく上記ピストンロッドを上記ピストン通路に通すことができるようにする。
【0027】
上記インジェクタは有利には、上記インジェクタ本体が、上記少なくとも1つの翼状ハンドルの位置、特に上記少なくとも1つのねじ山付きブリッジの位置に応じて、上記インジェクタが押し出し式インジェクタ又はねじ込み式インジェクタとして機能するように構成される(デュアルインジェクション機能)ことを特徴とする。
【0028】
上記少なくとも1つの翼状ハンドル及び上記少なくとも1つのねじ山付きブリッジは好都合には、少なくとも1つの二重機能グループに統合される。上記少なくとも1つの二重機能グループの要素は、上記インジェクタ本体の長さに沿って位置決めされることが好ましい。
【0029】
上記少なくとも1つの翼状ハンドル及び上記少なくとも1つのねじ山付きブリッジは、上記インジェクタハウジングに関節式で接続されることが好ましく、これは特に、上記翼状ハンドル及び上記ねじ山付きブリッジの格納又は展開、即ち内側又は外側への枢動を促進する。
【0030】
上記デュアルインジェクション機能は好ましくは、上記インジェクタ本体が、上記少なくとも1つの翼状ハンドル又は上記少なくとも1つのねじ山付きブリッジの位置に応じて、上記インジェクタが押し出し式インジェクタ又はねじ込み式インジェクタとして機能する又は機能できるように、構成されることを特徴とする。
【0031】
特に、本発明に従って押し出し機能からねじ込み機能への切り替えのための調整可能な二重機能グループを備える、デュアルインジェクタ(二重機能を有するインジェクタ)が、本明細書で提示及び説明される。上記二重機能グループは特に、上記少なくとも1つの翼状ハンドルが、格納可能かつ展開可能なものとして、即ち内側及び外側に枢動可能に構成されるように、調整できる。
【0032】
上記インジェクタは有利には、上記少なくとも1つの格納可能かつ展開可能な翼状ハンドルが、回転軸を有し、上記翼状ハンドルは上記回転軸の周りで格納可能かつ展開可能であることを特徴とする。
【0033】
上記翼状ハンドル及び上記ねじ山付きブリッジは好都合には、レバーを介して互いに動作可能に接続され、上記レバーは上記翼状ハンドル上に、上記翼状ハンドルの回転軸に対して偏心して形成される。このようなレバーは、これ以降では偏心体とも呼ばれる。
【0034】
回転軸に対して偏心して配設された上記レバー又は偏心体は、翼状ハンドルが格納されているときに、ねじ山付きブリッジを、少なくとも1つのねじ山付きブリッジがインジェクタピストンロッドのねじ山のための噛合用ねじ山を形成する第1の位置に保持し、これによってインジェクタピストンロッドのねじ込みが可能となり、また翼状ハンドルが展開されているときには、ねじ山付きブリッジを、少なくとも1つのねじ山付きブリッジがインジェクタピストンロッドのねじ山のための噛合用ねじ山を形成しない第2の位置に保持し、これによってインジェクタピストンロッドの押し込みが可能となる。
【0035】
翼状ハンドルが格納されているとき、偏心体(即ちレバー)は、インジェクタピストン通路内のインジェクタピストンロッドの案内通路上へとねじ山付きブリッジを押し、また翼状ハンドルが展開されているときには、インジェクタピストンロッドの案内通路からねじ山付きブリッジを引き出し、これにより、前者の場合には、少なくとも1つのねじ山付きブリッジがインジェクタピストンロッドのねじ山のための噛合用ねじ山を形成し、後者の場合には、少なくとも1つのねじ山付きブリッジがインジェクタピストンロッドのねじ山のための噛合用ねじ山を形成しないように、少なくとも1つのねじ山付きブリッジが案内通路から離間する。
【0036】
インジェクタが、2つの翼状部と、これに伴って各翼状部上に1つの偏心体(レバー)とを内包する場合、これらの偏心体(レバー)は、翼状部が展開されたときには、翼状部が格納されているときよりも大きく離間することが好ましく、これにより同時に、ねじ山付きブリッジが、翼状部が展開されたときに、翼状部が格納されているときよりも大きく離間する。
【0037】
少なくとも1つのねじ山付きブリッジは好都合には少なくとも1つの可動ホルダ上に形成され、上記可動ホルダは、特に翼状部の位置を調整する(即ち展開及び格納する)ことによって、ねじ山付きブリッジとピストン通路との間の距離を変更できるように、可動である。このホルダは好都合には、インジェクタ本体に取り付けられるか、又はインジェクタ本体に締結される。
【0038】
ねじ山付きブリッジからピストン通路(若しくはピストンロッド通路)又はその中心までの距離は、ねじ山付きブリッジをピストン通路若しくはピストンロッド通路内への押し込むことができること、又はピストン通路若しくはピストンロッド通路から押し出すことができることによって、変更できる。
【0039】
翼状ハンドル及びねじ山付きブリッジが協働するように接続されているため、翼状ハンドルが格納されているときにねじ山付きブリッジがピストン通路から引き出され、また翼状ハンドルが展開されているときにねじ山付きブリッジがピストン通路に押し込まれる。
【0040】
少なくとも1つの可動ホルダは、内側脚状部及び外側脚状部を備えるフォークとして形成できる。少なくとも1つのねじ山付きブリッジは、ホルダのピストン通路側に形成される。好ましくは、少なくとも1つのねじ山付きブリッジは、フォークの外側において(即ちピストン通路側において)、内側脚状部上(即ちピストン通路内へと更に延在する脚状部上)に形成され、これにより、第1の位置にあるねじ山付きブリッジは、インジェクタピストンロッドのねじ山のためのめねじを形成する。
【0041】
更に、可動ホルダ、特にフォーク又はフォークの脚状部(これらは一種の(開いた)細長い孔を形成する)は、少なくとも1つのねじ山付きブリッジの第1の位置、及び少なくとも1つのねじ山付きブリッジの第2の位置、並びにこれらの間の位置において、偏心体(即ちレバー)を把持又は包含できる。
【0042】
少なくとも1つの翼状部をその回転軸の周りで格納及び展開する際、偏心体(即ちレバー)もまた翼状部の回転軸の周りで移動し、外側脚状部又は内側脚状部を押すことによってフォークを移動させ、ここで、翼状部が格納されるとき、フォークは内側脚状部上にあるため、ねじ山付きブリッジは押し込まれ、翼状部が展開されるとき、フォークは外側脚状部上にあるため、ねじ山付きブリッジは押し出される。
【0043】
少なくとも1つの翼状ハンドルは好都合には、その長さに沿って、格納可能かつ展開可能となるようにインジェクタ本体に取り付けられる。
【0044】
有利には、少なくとも1つの格納可能かつ展開可能な翼状ハンドルは、第1の翼状部及び第2の翼状部を備えるデュアル翼状ハンドルとして構成され、好ましくは、第1の翼状部及び第2の翼状部が、格納可能かつ展開可能となるように、(同一のインジェクタ延長部上で)インジェクタ本体の長さに沿って互いに対向して締結される。
【0045】
有利には、2つの翼状部の格納及び展開運動は、例えば歯部を介して同期される。2つの翼状部の歯部は、翼状部上に翼状に対向して固定された2つの歯車又は2つの部分歯車によって形成できる。これらの歯車の回転軸は、各翼状部の回転軸に対応することが好ましい。
【0046】
インジェクタピストンロッドは好ましくは、その後側に(即ち近位端に)作動要素を備えるように構成され、上記作動要素は、ピストンの手動操作のため、例えばピストンを手動で押す、又は回転させる、又はねじ込むために使用される。
【0047】
インジェクタを押し出し式インジェクタとしてもねじ込み式インジェクタとしても使用できるという要件(本発明によるインジェクタの二重機能バージョン)は、本発明によるインジェクタのハウジングが好都合には、ハウジングの形状を所望の動作モード(即ち押し出し機能若しくはねじ込み機能)に適合させることができるように好都合に形成されるという点、又は動作モードをインジェクタにおいて設定できるという点で、特に有利に満たされる。
【0048】
本明細書中で提示される各インジェクタは、有利には、細長いインジェクタ本体を含み、これはインジェクタ本体の前端及びインジェクタ本体の後端を有する。インジェクタ本体内において、又はインジェクタ本体の前端からインジェクタ本体の後端までつながるインジェクタ本体の通路内において、(インジェクタ本体の後端からインジェクタ本体の前端に向かう)インジェクタピストンロッドは好都合には、長手方向(又は軸方向)に変位可能となるように案内される。インジェクタ本体は好ましくは、レンズのための装入チャンバを内包するか、又はレンズのための装入チャンバを備える装入デバイスを受承するための凹部が設けられる。装入チャンバ、又は装入デバイスを受承するための凹部は好都合には、それを通してインジェクタピストンロッドをインジェクタ本体の前端に向かって押すことができるように構成される。
【0049】
特に、凹部は、それを通して、また必要に応じて凹部に挿入された装入チャンバを通して、インジェクタピストンロッドをインジェクタ本体の前端に向かって前方に押すことができるように構成される。
【0050】
インジェクタノズルは好都合には、インジェクタ本体の前端に設けられ、上記インジェクタノズルの方向において、インジェクタピストンロッドを前方に押すことができる。
【0051】
好都合には、装入デバイスは凹部内に配設される、又は配設できる。装入デバイスは特に、レンズ、眼に埋入されることになる角膜内皮組織、又は他のいずれのインプラントのための、装入チャンバを内包する。任意に、ノズル及び装入チャンバは1つの部品として、又は2つの別個の部品として作製できる。1部品としての生産には凹部は必須ではない。
【0052】
インジェクタのある好ましい実施携帯では、インジェクタは:(a)インジェクタ本体が少なくとも1つの格納可能かつ展開可能な翼状ハンドルを有し、展開位置によって動作モードが押し出し動作に設定され、格納位置によって動作モードがねじ込み動作に設定されること;及び(b)インジェクタ本体が少なくとも1つのねじ山付きブリッジを有し、これはねじ込み動作時にピストンロッドのねじ山のためのめねじを形成し、また押し出し動作時にピストンロッドのねじ山と相互作用せず、即ち例えば押し出し動作時、ねじ込み動作時に比べて、めねじはピストンロッド軸に対して更に半径方向外側にオフセットされることを特徴とし、ここで:(c)好ましくは、少なくとも1つの翼状ハンドルは回転軸の周りで格納可能かつ展開可能であり;(d)好ましくは、少なくとも1つの翼状ハンドルは、回転軸に対して偏心して配設された偏心体(レバーとも呼ばれる)を含み;(e)好ましくは、ねじ山付きブリッジは可動ホルダ上に形成され;及び/又は(f)好ましくは、偏心体はホルダに係合し、これにより、翼状ハンドルが格納若しくは展開されるとき、ホルダに対する偏心体の作用によって、ねじ山付きブリッジがピストンロッド軸から離れるように若しくはピストンロッド軸に向かって押される。
【0053】
本発明はまた、インジェクタ(例えば眼内レンズを眼に挿入する目的で眼内レンズを射出するためのインジェクタ、又は角膜内皮組織の埋入のためのインジェクタ)に関し、上記インジェクタは、細長いインジェクタ本体を備え、上記インジェクタ本体内では、インジェクタピストンロッドが長手方向(又は軸方向に)に変位可能な方法で案内され、上記インジェクタは、上記インジェクタピストンロッドが第1の停止要素を備えることを特徴とする、又は更なる特徴とする。このような停止要素は有利には、上述のような二重機能を有するインジェクタに実装される。
【0054】
停止要素は有利には、変位可能な停止要素であることを特徴とする。特に、停止要素は、軸方向に(又は長手方向に、即ちピストンロッドに沿って)変位可能となるように、ピストンロッド上に配設される。停止要素は好都合にはピストンロッドを備える。停止要素は例えば、当接リングとして構成される。
【0055】
停止要素は、圧縮可能又は変形可能な停止要素(即ち軟質停止部材)として構成できる。停止要素は例えば、弾性の、又は変形可能若しくは圧縮可能な材料、特にシリコーン又はTPE(熱可塑性エラストマ)で作製される。圧縮可能な停止要素は好ましくは、インジェクタピストンロッド上に変位可能に配設される。
【0056】
好ましくは、停止要素はピストンロッド上に、軸方向に(又は長手方向に)、即ちピストンロッドに沿って変位可能に配設され、また変形可能又は圧縮可能に(特にピストンロッドに対して少なくとも軸方向に圧縮可能に)構成される。
【0057】
インジェクタピストンロッドの裏側は好都合には、作動要素を備え、これは停止部材支持体と呼ぶこともできる。作動要素は特に、ピストンを手動で押す、又は手動で回転させることによって、ピストンをインジェクタ本体内で前方へと手動で移動させるために使用される。必要に応じて、作動要素は、停止要素のための制限要素として(即ち停止部材支持体として)作用する。変位可能及び/又は圧縮可能な第1の停止部材に加えて、作動要素を第2の停止部材として使用できる。作動要素、即ち第2の停止部材は、ピストンロッドに対して固定され、即ち変位不可能であり、通常の使用条件下では、少なくともピストンの長手方向の配向において、本発明によるインジェクタ内で圧縮不可能である(従って作動要素は、いわゆる硬質停止部材として作用する)。
【0058】
作動要素又は停止部材支持体は好ましくは、インジェクタピストンロッドと一体の部品であるか、又はインジェクタピストンロッドに形成若しくは締結される。作動要素は好ましくは、インジェクタピストンロッドの近位端に位置決めされる。作動要素は好都合には、インジェクタピストンロッドに対して静止して位置決めされる。
【0059】
任意に、作動要素又は停止部材支持体は隆起部を含むことができる。この隆起部は好ましくは、ピストンロッドシャフトから作動要素又は停止部材支持体への移行部分における、シャフトの円錐状又はくさび形の増大部分又は厚くなった部分として形成される。
【0060】
第1の停止要素を備える上述の実施形態では、インジェクタ本体は、少なくとも1つの格納可能かつ展開可能な(若しくは内側及び外側に枢動可能な)、並びに/又は押し込み及び押し出しが可能な、翼状ハンドルも有することができる。これは、レンズ又は角膜内皮移植物を押し込むために(即ち押し出し式インジェクタとして)インジェクタを使用した後すぐに、又は使用する際に、1つ又は複数の翼状ハンドルを機能位置に移動させることができ、また他の時点においては、又は他の目的のためには、1つ又は複数の翼状ハンドルをしまい込んで空間を節約できるという利点を有する。
【0061】
インジェクタピストンロッドがねじ山を有し、インジェクタ本体が少なくとも1つの変位可能なねじ山付きブリッジ(即ち押し込んだり押し出したりすることができるねじ山付きブリッジ)を有することが好ましい。このようなインジェクタは、ねじ込み式インジェクタとして使用でき、ここで、レンズを挿入するために(即ちねじ込み式インジェクタとして)インジェクタを使用した後すぐに、又は使用する際に、1つ又は複数のねじ山付きブリッジをピストン通路内へと横方向に挿入することによって、1つ又は複数のねじ山付きブリッジを、必要に応じて機能位置へと移動させることができ、また他の時点においては、又は他の目的のためには、1つ又は複数のねじ山付きブリッジをピストン通路から取り除くことができる。
【0062】
有利には、デュアルインジェクション機能を目的として、少なくとも1つの翼状ハンドル及び少なくとも1つのねじ山付きブリッジは、互いに対して協働するように接続され、これにより、少なくとも1つの翼状ハンドルを格納したときに、少なくとも1つのねじ山付きブリッジは好都合には、押し出しモードからスクリュモード(即ちねじ山付きブリッジがインジェクタピストンロッドのねじ山と協働するアクティブ位置)へと案内され、又は少なくとも1つの翼状ハンドルを展開したときに、少なくとも1つのねじ山付きブリッジは好都合には、スクリュモードから押し出しモード(即ちねじ山付きブリッジがインジェクタピストンロッドのねじ山と協働しない非アクティブ位置)へと案内される。
【0063】
本発明の更なる利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
【0064】
本発明の更なる利点及び特徴は、概略図を参照した、本発明の例示的実施形態に関する以下の詳細な説明から、明らかになるであろう。概略図では、縮尺は正確ではない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
図1図1は、翼状部が格納された、本発明によるデュアルインジェクタの斜視図を示す。
図2図2は、翼状部が展開された、本発明によるデュアルインジェクタの斜視図を示す。
図3図3は、ハウジングが開放された、本発明によるデュアルインジェクタを示す。
図4図4は、部分的に分解された、本発明によるデュアルインジェクタを示す。
図5図5は、翼状部が展開されたインジェクタの後端の断面図を示す。
図6図6は、翼状部が展開され、ピストンロッドが挿入された、インジェクタの後端の断面図を示す。
図7図7は、翼状部が格納されたインジェクタの後端の断面図を示す。
図8図8は、翼状部が格納され、ピストンロッドが挿入された、インジェクタの後端の断面図を示す。
図9図9は、翼状部が格納され、ピストンロッドが挿入された、インジェクタの後端の断面図を示し、翼状部の回転の中心及び偏心体の位置がマーキングされている。
図10図10は、左側の翼状部の斜視図を示す。
図11図11は、左側の翼状部の更なる斜視図を示す。
図12図12は、左側の翼状部の更なる斜視図を示す。
図13図13は、ピストンロッドが第1の供給位置にあるデュアルインジェクタを示す(第1の供給位置、開始位置)。
図14図14は、ピストンロッドが第2の供給位置にあるデュアルインジェクタを示す(第2の供給位置)。
図15図15は、ピストンロッドが第3の供給位置にあるデュアルインジェクタを示す(第3の供給位置)。
図16図16は、ピストンロッドが第4の供給位置にあるデュアルインジェクタを示す(準備位置)。
図17図17は、ピストンロッドが第1の供給位置にあるデュアルインジェクタを示す(別の開始位置)。
図18図18は、ピストンロッドが第1の供給位置にある、隆起部及びキャリッジを備える押し出し式インジェクタを示す(第1の供給位置)。
【発明を実施するための形態】
【0066】
図1~4は、眼内レンズのための本発明によるデュアルインジェクタ11を示す。図3及び4では、デュアルインジェクタは、個々の部品へとそれぞれ異なる程度に分解された状態で図示されている。図5~12では、デュアルインジェクタの詳細が示されている。インジェクタは、レンズ又は角膜内皮移植組織を眼内に挿入するために使用される。デュアルインジェクタは、押し出し機能とねじ込み機能とを併せ持っており、従ってインジェクタは、押し出し式インジェクタとして押し出し機能に(図2)、又はねじ込み式インジェクタとしてねじ込み機能に(図1)使用でき、一方の機能から他方の機能へ、及びその逆へと随時切り替えることができる。インジェクタ11は、少なくとも1つのインジェクタハウジング13、及びピストンロッド15を含む。インジェクタハウジング13は、ピストンロッド15が導入される第1の開口を近位端17に、レンズがピストンロッド15によって射出される第2の開口を遠位端19に有する、細長い形状である。遠位端19はノズルとして形成でき、又はノズルを遠位端19に取り付けることもできる。第1の開口から第2の開口への接続通路は、これ以降ではピストン通路16と呼ばれる(図1又は3)。好都合には、レンズ又は角膜移植物のための装入チャンバを備える装入デバイス22を受承するために、インジェクタハウジング13の凹部21が設けられる。装入デバイス22を凹部21に挿入すると、装入チャンバはピストン通路16内に位置決めされ、これにより、ピストンロッド15が通過する際に、装入チャンバに装入されているレンズが、ピストンロッド15によって、装入チャンバからノズルに向かって射出される。ピストンロッド15は、遠位(前側)端23及び近位(後側)端24を有する。ピストンロッド15の遠位端23は好都合には、プランジャ20(タペットとも呼ばれる)、好ましくは弾性又は粘弾性プランジャ、例えばシリコーン製プランジャを備える。プランジャは、レンズを優しく押すために使用される。ピストンロッド15の近位端24は作動要素を形成し、これは好ましくは、インジェクタハウジング13の近位開口17の直径よりも大きい。作動要素24は、ピストンロッド15を手動で押す、及び/又は回転させる(即ちねじ込む)ために使用できる。
【0067】
ピストンロッド15は有利には、2つの部品で作製でき、即ち例えば図4に示されているような前側シャフト領域15a及び後側シャフト領域15bを含むことができる。これら2つのシャフト領域15a、15bは好ましくは、互いに対して回転可能に設置される。これら2つのシャフト領域のうちの一方は、例えばボールヘッドを備え、他方のシャフト領域は、例えば上記ボールヘッドが回転可能に設置されるボールソケットを備える。図4は例えば、後端にボールソケットを備える前側シャフト領域15aと、前端にボールヘッドを備える後端シャフト15bとを有する、ピストンロッド15を示す。ボールヘッド及びボールソケットは互いにロックされ、これにより後側シャフト領域15bを用いて、前側シャフト領域15aをピストンロッドの長手方向に前方に押す、及び後方に引くことができ、それと同時にこれら2つのシャフト15a、15bをピストンロッドの長手方向に対して垂直に回転させることができる。
【0068】
(特におねじとしての)ねじ山33が、ピストンロッド15の後側シャフト領域15bに形成される。ねじ山33との関連で、作動要素24は、ピストンロッド15をハウジング13にねじ込むための、又はピストンロッド15を前後にねじ込むための(即ち特に後側シャフト領域15bを前後にねじ込むことによって前側シャフト領域15aを前後に動かすための)回転グリップとして使用される。二重機能グループは、インジェクタハウジング13の長手方向側に形成される。二重機能グループは、押し出し機能位置においてインジェクタを操作するための把持領域25、26を有する少なくとも1つの翼状部27、28と、二重機能グループのねじ込み機能位置においてピストンロッド15のねじ山33のためのめねじ山付きブリッジとして作用する、少なくとも1つのねじ山付き領域又はねじ山付きブリッジ29、30とを含む。二重機能グループは、翼状部27、28の格納及び展開、又は特に内側及び外側への枢動によって操作される。一方では、翼状部27、28、従って把持領域25、26は、インジェクタ壁部から外側へと展開でき、ここで把持領域25、26は翼状ハンドルとして作用する。展開時、翼状ハンドル27、28は、インジェクタハウジング13の長手方向側に、外向きに突出して形成され、ピストンロッド15の近位端の作動要素24と共に、押し出し機能におけるインジェクタ11の手動(必要に応じて片手)操作のための、特にピストンロッド15をインジェクタハウジング13の遠位端19の方向に前方に押すための、グリップとして使用される。二重機能グループは、翼状部27、28が展開されたときに(押し出し機能位置)、ねじ山付きブリッジ29、30が互いから離間することにより、これらがピストン通路16内でピストンロッド15のねじ山33と噛合し得ないように、又はピストンロッド15がピストン通路16を通過するのを妨害しないように、構成される。従って、二重機能グループの押し出し機能位置では、ねじ山付きブリッジ29、30は非アクティブ状態となる。また他方では、翼状部27、28は格納可能である。翼状部を格納したとき、(インジェクタ壁部から離れている)ねじ山付きブリッジ29、30は、ピストン通路16内へと内向きに押され、ここで、互いから比較的近距離に配置されたねじ山付きブリッジ29、30が一体となって、ピストン15上のスクリュセクション33のための噛合用ねじ山として作用するめねじセクションを形成する。
【0069】
よって、翼状ハンドル27、28、及びねじ山付きブリッジ29、30は、押し出し機能からねじ込み機能への切り替えに使用される二重機能グループを形成し、ここで翼状ハンドル27、28とねじ山付きブリッジ29、30とは相互作用し、これにより、翼状ハンドル27、28の格納又は展開時、ねじ山付きブリッジ29、30が:ピストンロッド通路16に挿入される(換言すればピストンロッド軸に向かって移動する)ことにより、ねじ山付きブリッジ29、30がピストンロッド15のねじ山のためのめねじを形成するため、ピストンロッド15を、インジェクタノズルの方向に回転させることで前進させることができるようになり;又はピストンロッド通路16から離れるように移動する(換言すればピストンロッド軸から離れるように移動する)ことにより、ねじ山付きブリッジ29、30がめねじを形成しなくなるため、ピストンロッド15を、押すことで前進させることができるようになる。
【0070】
ピストンロッド15は好都合には、機能のタイプ、即ち押し出し機能であるかねじ込み機能であるかに関わらず、(可能な限り小さな遊びで)インジェクタハウジング13内で案内される。案内は例えば、案内構造体34をピストンロッド15上に形成し、その一方で、案内構造体34の断面に適合した、対になる構造体(例えば案内構造体34のための一種のガードレール)を、インジェクタハウジング13のピストンロッド通路16の内壁領域として構成することで達成できる。例えば案内構造体34は好都合には、ボールソケットを含むことができる。図4では、案内構造体34は例えば、前側シャフト領域15aの後端に、ボールソケット凹部を備える、ピストンロッドの断面が厚くなった領域として形成される。凹部は、後側シャフト領域15bの前端に形成されたボールヘッドを受承できるように形成される。このようにして、案内構造体34は有利には、ピストンロッド15、特にピストンロッド15の前側部分15aのためのガイドとして使用され、その一方で、ピストンロッド15の回転可能な後側部分15bのボールヘッドを受承するためのボールソケットとして使用される。ここで図示されている実施形態では、前側シャフト領域15aは(特にその非円形の断面と、これに対応するピストン通路の断面構成により)回転できず、従って、ピストンロッド15を前方に押したときにレンズが回転しないことが保証される。
【0071】
翼状ハンドル27、28及び関連するねじ山付き領域29、30はそれぞれ、機能グループ、即ち二重機能グループの部品である。これらは特に図5~9に示されている。好都合には、二重機能グループは、インジェクタハウジング13の長手方向側に設けられる。有利な二重機能グループは:偏心体81、82を備える、インジェクタハウジング13に対して枢軸35、36の周りで枢動可能又は格納可能/展開可能な翼状部27、28と;インジェクタハウジングに対して偏向可能であり、かつ2つの脚状部、即ち1つの内側脚状部61、62及び1つの外側脚状部71、72を含む、フォークホルダ31、32とを含む。ねじ山付き領域29、30はフォークホルダ31、32上に形成される。図示されているように、ねじ山付き領域29、30は、フォークの内側脚状部上の、脚状部の外側に形成できる(図5~8)。フォークホルダ31、32及び翼状部27、28は、インジェクタハウジング13上に、偏向可能又は枢動可能となるように互いから分離されて形成されており、また、翼状部27、28が偏心体81、82によってフォークホルダ31、32の脚状部の間に係合することによって、翼状部27、28の展開時にはフォークが偏心体81、82によってピストン通路16から引き出され、従ってフォークホルダ31、32上、特にフォークの脚状部上に形成されたねじ山付きブリッジ29、30がピストン通路16から引き出され、また翼状部27、28の格納時にはフォークが偏心体81、82によってピストン通路16に向かって押され、その結果としてねじ山付きブリッジ29、30がピストン通路16に押し込まれるように、互いに対して配設される。
【0072】
出願人は、予備試験の結果、ねじ込み時にピストンロッドのねじ山に対するめねじとして使用されるねじ山付き部品にかなりの力が作用することを発見した。これらの力は、ねじ込み時にねじ山付き部品をピストンロッドから離れるように駆動するため、これに対抗して、ねじ山付き部品を所定の位置に保持してねじ込みモードを維持するためには、相当な力を印加する必要がある。変位可能なねじ山付き部品のための格納可能/展開可能な翼状部上に偏心体を備える、図1~9に示されている本発明による実施形態は、特に有利であることが分かった。というのは、格納された翼状部が、ねじ込み時にねじ山に印加される圧力によって自動的に展開されることがないためである。これは即ち、外科医がねじ込みプロセス中に翼状部を押さないように注意する必要がなく、ピストンと、挿入されることになるレンズとの前方移動のみに集中できることを意味する。本実施形態では、これは、得られる力が翼状部を開くようないかなる効果も略生成しないように、ねじ山に作用する力を翼状部の回転軸35、36に伝達することによって達成される。
【0073】
図9に示されている実施形態では、回転軸35又は36からの翼状部27又は28のグリップ延長部と、各回転軸35、36から離間した偏心体61又は62が、各回転軸35、36の周りに、例えばおよそ90°である角度を形成する。特に、90°±5°、より好ましくは90°±2°、更に好ましくは90°±1°の角度範囲が有用である。ねじ山33によってねじ山付きブリッジ29、30に作用する力は、得られる力が、翼状部を開くような効果を略生成せず、格納位置を維持するように、偏心体61、62に伝達できる。特に、この構造的実施形態は、ねじ込まれたピストン15によって得られた力が、各偏心体61、62に対して、偏心体から翼状部の回転軸へと向かう方向、又は好ましくは偏心体から挿入方向に関して各翼状部の回転軸上、特に好ましくは回転軸の前(若しくは図9の枢動点の前へと向かう方向)に作用するように設計される。
【0074】
フォークホルダ31、32は好ましくは、その第1の端部においてインジェクタハウジング13に締結されたホルダとして、また自由な第2の端部上に形成された二本脚の分岐部を有して、成形される。この構造及び材料の性質により、ホルダ31、32の分岐した端部は、インジェクタハウジングに固定された又はインジェクタハウジングに統合された端部に対して、可動又は枢動可能である。代替実施形態が考えられ、例えば、フォークホルダの第1の端部は、回転軸によってハウジングに取り付けられていてよい。フォークホルダ31、32は好都合には、インジェクタハウジングの長手方向に沿って延在し、インジェクタハウジングの壁部の一部分を置換し、これによってねじ山付きブリッジ29、30の変位のための空間を形成する。
【0075】
翼状部をハウジング13内に回転可能に係留するために、各翼状部27、28は好ましくは、例えばピン又はくぼみとして形成できる2つの軸要素83、84、85、86を含む。これに対応する、軸要素83、84、85、86と正反対の構造が、翼状部を受承するためにハウジングに形成される。軸要素、又は翼状部27、28の軸要素83、84又は85、86の間の接続線は、翼状部27、28の回転軸又は枢軸35、36を画定する。更に、各翼状部27、28は、押し出し機能位置においてインジェクタを操作するための把持領域25を含む。各翼状部27、28は偏心体81、82を有し、これを用いて、変位可能なねじ山付き領域29、30を押し出し機能位置へ又はねじ込み機能位置へと移動させることができる。ねじ込み機能位置(図1、7、8)では、ねじ山付き領域29、30は、ピストンロッド15のねじ山33のためのめねじ山付きブリッジとして作用する。押し出し機能位置(図2、5、6)では、ねじ山付き領域29、30は理想的には、ピストン通路16から、ハウジング壁部に向かって、又は各デュアル要素27、28に向かって押し出され、これにより、ねじ山付き領域29、30は、ねじ山33を有するピストンロッド15がピストン通路16を通過するのを妨げ得なくなる。各偏心体81、82の位置は、各翼状部回転軸35、36に対して偏心している。翼状部回転軸35、36は、2つの軸方向に離間した軸要素83、84、85、86によって画定され、また、回転軸35、36の構造的形状が中断されている箇所において(即ち軸要素83、84、85、86の間において)、偏心体81、82が翼状部回転軸35、36に対して偏心して形成されるように構成される。偏心体は好ましくは、好都合には各翼状部の回転軸35、36に対して平行に整列された、翼状部27、28上の円筒形状として、例えば円筒として、構成される。
【0076】
翼状部27、28を第1の位置(展開された翼状部)から第2の位置(格納された翼状部)へと変化させることにより、押し出し機能からねじ込み機能への機能変更を行うことができる。翼状部27、28が第1の位置(展開された翼状部)から第2の位置(格納された翼状部)へと偏向されると、同時に偏心体81、82も(翼状部が展開されたときの第1の相互距離を有する)第1の位置から(翼状部が格納されたときの、比較的短い第2の相互距離を有する)第2の位置へと移動する。
【0077】
押し出し機能位置では、翼状部27はインジェクタハウジングから外向きに突出し(特にインジェクタハウジングから離れるように枢動して、作動要素24に向かう又はハウジングの近位部分に向かう更なる枢動がブロックされ)、その一方でねじ山付き領域29、30は同時に静止位置となり、又はピストン通路16から引き出されて無機能位置となる(即ち機能しない)。ねじ込み機能位置では、ねじ山付き領域29、30はピストン通路16内へと内向きに押圧され、同時に翼状部27、28は格納され、好ましくはインジェクタハウジングの壁部の一部を形成し、又はインジェクタハウジングの壁部へと引き下げられる。一方の機能位置から他方の機能位置への切り替えは、好都合には、回転軸35、36の周りでの回転、又は格納/展開によって実施できる。
【0078】
2つの翼状部27、28の、従って2つの二重機能グループの運動は、翼状部27又は28の一方だけが格納又は展開され、もう一方がそれと対称の作用を示すように、歯部(91、92)によって同期できる。この目的のために、2つの翼状部27、28はそれぞれ、歯車、又は部分歯車91、92を有し、これはその回転軸35、36と同心である。これら2つの歯車又は部分歯車は、2つの翼状部の展開及び格納を同期状態でしか実施できないように、特に構成され、互いに連結された状態でハウジング13上に設置される。
【0079】
押し出し機能において、展開された翼状部27、28は、ピストンロッドの作動要素24と共に、インジェクタハウジング13の遠位端19の方向にピストンロッド15を前方に(略真っ直ぐに)押すためのインジェクタの手動操作のためのグリップとして使用される。偏心体81、82を備えた翼状部27、28が展開されたとき、ねじ山付きブリッジ29、30は第1の位置において互いから離間し、これにより、ねじ山付きブリッジ29、30による障害なしに、ピストン通路16を通してピストンロッド15を押すことができる。デュアルインジェクタは、例えば作動要素24を後ろから押しながら同時に翼状部27、28を反対方向の力で押すことによって、押し出し機能位置で操作され、これは好ましくは片手で(特に例えば片手の3本指での把持によって)実施される。
【0080】
ねじ込み機能において、第2の偏心体位置によって内向きに、即ちピストン通路内へと位置決めされたねじ山付きブリッジ29、30を、ピストンロッドのねじ山33のためのめねじとして使用することにより、作動要素24を手動で回転作動させることによってピストンロッド15をねじ込むことができ、これによってピストンロッド15を、それ自体の軸の周りで回転させながら、インジェクタハウジング13の遠位端19の方向に前方に押すことができる(ねじ込み運動)。デュアルインジェクタは、例えば作動要素24を片手で回転させながら同時にインジェクタハウジング13をもう片方の手で保持することによって(即ち例えば両手での操作によって)、ねじ込み機能位置で操作される。
【0081】
図10、11、12は、例えば図1~8による実施形態で使用できる例示的な翼状部27を示す。図10、11は特に、偏心体81と、軸要素83の軸方向延長部によって画定される回転軸35との間のオフセットを示す(回転軸は破線で示されている)。このオフセットは、図9に示されている各翼状部27、28の枢動点35、36と対応する偏心体位置との間のオフセットに対応する。偏心体81は翼状部27の回転軸35に対して平行に、ただし翼状部27の回転軸35を画定する離間した要素83、85の間に形成されるため、偏心体はフォークの脚状部61、71で取り囲むことができ、これにより、翼状部27の格納/展開時に、フォークの脚状部61、71は、偏心体の運動によって偏心体81と相互作用して変位する。ホルダ31、32、又はその分岐した脚状部61、62、71、72が偏心体83、85を包含できるように、凹部89が翼状部27、28上に設けられる。図2~4では、翼状部28とは対照的に、翼状部27が、任意に拡大された凹部と共に図示されているが、図10~12では、このような凹部の拡大は省略されている。
【0082】
インジェクタ11を可能な限り安価なものとするために、インジェクタ11を基本的に、例えば射出成形によって好適なプラスチックから作製することが好ましい。特に、フォークホルダ31、32又は複数のハウジング部品を含むハウジング13、ピストンロッド15、翼状部27、28、及び挿入チャンバ22は好ましくは、プラスチック、例えばABS、ポリカーボネート、及び/又はポリプロピレンから製造される。
【0083】
図13~17は、停止要素141と組み合わされたデュアルインジェクタ111の概略的な実施形態を示す。ここで、翼状部の押し出し位置及びねじ込み位置が、同一の図面内で互いに対向して図示されている。左側の翼状部128は、その把持領域126において、その長さに沿ってインジェクタハウジング113に当接し、従ってねじ込み機能位置で示されている。右側の翼状部127は、インジェクタハウジング113から略垂直に突出し、従って押し出し機能位置で示されている。このタイプの図示は、両方の機能を使用できること、又はこれらの間での選択若しくは切り替えが可能であることを明確にするためだけに使用される。押し出し位置及びねじ込み位置における機能性の詳細に関しては、図1~13も参照されたい。
【0084】
デュアルインジェクタ111を押し出し式インジェクタとして使用するためには、両方の翼状ハンドル127、128を展開する必要がある。(例えば手の親指又は掌による)作動要素124への圧力と、これと同時に発生させる、2つの翼状部127、128の把持面125に対する正反対の圧力とによって、ピストンロッド115又はその先端123を、インジェクタハウジング113の遠位端119に向かって(従ってそこに統合又は設置されたインジェクタノズルへと)押すことができる。
【0085】
デュアルインジェクタ111をねじ込み式インジェクタとして使用するためには、両方の翼状ハンドル127、128を格納する必要がある。デュアル要素127、128のねじ込み機能位置では、作動要素124をピストンロッド115の長手方向軸の周りで回転させることによって、ピストンロッド115をピストンロッド116内へと推進することができる。
【0086】
翼状ハンドル127は把持面125を有し、これは有利には、スリップ防止のため又は良好な把持のための隆線を備える。翼状部127の押し出し機能位置では、把持面125は好ましくはピストンロッド押し込み方向に対して略垂直に位置合わせされ、また把持面125は遠位のピストンロッド先端を向いている。しかしながら、ねじ込み機能位置では、翼状部128はインジェクタハウジング113に寄り添い、好ましくはハウジング113の外側と共に略連続した直線状の把持体を形成する。
【0087】
図13~17に示されているような)ピストンロッド115を備える又はピストンロッド115上に設置された停止要素141は好ましくは、変形可能及び/又は圧縮可能な材料から、例えばシリコーン材料又はTPE(熱可塑性エラストマ)から、好ましくはこれらの材料のうちの1つの厚さ1mm~6mm、好ましくは2mm~5mm、より好ましくは3mm~4mmのディスクから作製される。シリコーン材料のショア硬度は好ましくは、少なくとも20、かつ最高80であり、好ましくは30~70であり、理想的には40~60である。停止要素141は好ましくはリング状であり、即ちリング(環状ディスク)として、特に閉リング(閉じた環状のディスク)として構成される。
【0088】
これより、押し出し式インジェクタ、ねじ込み式インジェクタ、又はデュアルインジェクタ111と組み合わせた停止要素141の有利な使用について説明する。
【0089】
図13では、停止要素141は、(図1~4と比較して)ピストンロッドのシャフトの後側領域に変位可能に設置される。開始位置(図13)では、停止要素141は例えば、ピストンロッド115のシャフトの後側の領域に、概ね中心を合わせて、変位可能に設置できる。特に、停止要素141は作動要素124の前方の特定の距離に位置決めでき、ここで停止要素141は好ましくは、ノッチ(図示せず)内及び/又はねじ山133上に定着して、特定の供給位置をマークし、この供給位置においてピストンロッド115は、例えば停止要素がインジェクタ本体に当たるとすぐに、更なる前進の前に停止する。これは、事前装入済みのインジェクタシステム(即ち送達時にはレンズが既にインジェクタに装入されているシステム)の場合に特に有用である。ここでは停止要素141は、ピストンロッド115の遠位端123の特定の供給位置を設定及び維持するために使用され、この供給位置では、停止が可能であり、また装入チャンバが依然として開放されたままの状態で特定の準備ステップを実施できる。これらの準備ステップとしては例えば、ピストンロッド上のシリコーンプランジャを用いてレンズの触覚部を光学系に配置するステップ、又はピストンロッドを前方に押してレンズホルダを取り除くステップが挙げられる。
【0090】
図13では、ピストンロッド115は、第1の供給位置のインジェクタハウジング113に挿入される。この供給位置はばねクリップで固定でき(ばねクリップによる固定のコンセプトは図13~17には図示されていないが、図18には、ばねクリップロックを示す参照番号251を用いて示されている)、これにより、必要に応じてこの第1の位置を更に容易に発見、設定及び保持できる。ばね力に打ち勝った後で更に押すことができる。ばねクリップは、ピストンがインジェクタハウジングの後部から落下するのを防止する。というのは、ピストンロッドを第1の供給位置から前方に移動させることはできるものの、後方には移動させることができないためである。停止要素141は、ピストンロッド115の後部シャフト部品に変位可能に取り付けられ、上記後部シャフト部品は、はっきりと視認できる程度にハウジング13から突出する。変位可能な停止要素141は、これ以降キャリッジとも呼ばれる。好ましくは、変位可能な停止要素141は、その外径がインジェクタハウジング113の近位端117の開口より大きくなるように形成される。これにより、ピストンロッド115を、インジェクタハウジング113の近位端117に当たった後でインジェクタハウジング113内に向かって押し込む際に、停止部材141をピストンロッド115上で作動要素124に向かって確実に押すことができる。
【0091】
図14は、ピストンロッド115の第2の供給位置を示す。ここで停止要素141は、第1の時間にわたってインジェクタハウジング113に当接する。しかしながら、停止要素141は依然として、ピストンロッド115に対して図13と同じ位置を有する。このピストン位置において、又はこのピストン位置から、装入チャンバが依然として開放されたままの状態で準備ステップを実施できる。これらの準備ステップとしては例えば、ピストンロッド上のシリコーンプランジャを用いてレンズの触覚部を光学系に配置するステップ、又はピストンロッドを前方に押してレンズホルダを取り除くステップが挙げられる。更なる準備ステップが考えられるが、停止要素がインジェクタハウジングに明らかに当たるまでピストンロッドを前方に押すステップは常に含まれる。その後に初めて装入チャンバが閉鎖され、ピストンロッドが更に前進する。
【0092】
停止要素141は任意に、ピストン溝又はねじ山(ピストンロッド上の、取り付けられた停止要素の下側に位置するため、視認できない)内に配置される。従って好ましくは、ピストンロッド115を第2の供給位置から更にインジェクタハウジング113内へと押し込むためには、乗り越えるための特定の力(例えば3~4ニュートン)が必要となる。この乗り越えるための力は好都合には、ユーザには停止又は抵抗の増大として感じ取られ、一方では挿入をこの第2の供給位置で感覚的及び視覚的に正確に停止でき(従って第2の供給位置を越えてしまうことが防止され)、また一方では、この抵抗に打ち勝つことによって、ピストンロッド115をインジェクタハウジング内に、制御された様式で、またわずかな力で、更に押し込むことができる。第2の供給位置を乗り越えた後、停止要素141は、ピストンロッド115をピストン通路116内へと押し込む、又は回転させてねじ込んだ場合に、作動要素124上の停止部材まで、又は停止部材115に対して、ピストンロッド上で後方に摺動する。
【0093】
図15では、ピストンロッド115をインジェクタハウジング113内へと、第3の供給位置まで挿入する。この位置では、一方では停止要素141は依然としてインジェクタハウジング113の近位端117に当接しながら、もう一方では停止要素141は同時に作動要素124に当接する。この第3の位置において、レンズが理想的に完全に射出されるはずである。
【0094】
レンズが何らかの理由(例えばシリコーンプランジャが出てしまうのを回避するために故意に短いピストンロッドを選択したこと;高粘度の粘弾性液体の使用によって摩擦が増大したこと;低温;低速の停滞した挿入等)で完全には射出されない場合、停止要素141は好都合には(それが例えばシリコーン等の変形可能又は圧縮可能な材料で作製されている限り)、レンズが完全に射出されるまで手動の力を増加させながら、最大数ミリメートルだけ適切に収縮させる、又は圧縮することができる。手動での圧力によって収縮させた又は圧縮した停止要素141は、図16に示されている。この場合、ピストンロッド115は第4の供給位置まで押し込まれている。停止要素141を圧縮することによって、ピストンロッド先端123を用いて予備供給領域に到達でき、これによって必要に応じて、第3の供給位置では完全に射出されなかったレンズをインジェクタから完全に射出できる。停止要素を収縮させるために追加の力が必要となるため、外科医は、レンズの射出が迫っていることに対して触覚によって準備でき、ピストン先端又はピストン先端上に載置されたプランジャを意図せず押し過ぎてしまうことが防止される。
【0095】
図17に示されているような代替的な開始位置では、停止要素141は、開始時から作動要素124に隣接して配設できる。この場合、停止要素141は主に、ピストンロッド115の遠位端123の正確な端部位置を設定及び制御するために使用され、これによりユーザはまずレンズの射出の直前に、ピストンロッド又は作動要素124がハウジング113に衝突したことをはっきりと感じ、ピストンロッド先端123上に載置されたプランジャは、インジェクタノズルから不必要に遠くへ押し出されない。しかしながら、必要であれば(即ちレンズが完全に出てきていない場合は)、追加の力によって停止要素141が収縮することによる、好都合には数ミリメートルのピストン115の更なる前進が可能である。このようにして、(最初の明確で知覚可能な停止を失うことなく)ピストンロッド115又はその先端123の供給長さのための柔軟な予備領域が形成される。(図17による)この代替的な開始位置は、更なる予備的なステップが挿入プロセス中に必要ないシステムにおいて有利に使用される。
【0096】
図18による代替実施形態では、変位可能でありかつ実質的に圧縮不可能である停止要素241(キャリッジとも呼ばれる)を備える押し出し式インジェクタ211が提示されている。この文脈において、「圧縮不可能(incompressible)」とは、停止要素241が、少なくとも押し出し式インジェクタ211の通常の使用に供された場合に、実質的に圧縮不可能であることを意味する。押し出し式インジェクタは好ましくは、インジェクタハウジング213上の翼状ハンドル227、228と、ピストンロッド215の近位端の作動要素224とを有する。ピストンロッド215は、ピストンロッドシャフト233の後部領域に隆起部245を有し、この隆起部は、ピストンロッドシャフトからピストンロッド端部まで、又は作動要素224まで隆起するように構成される。停止要素241は好ましくは、ピストンロッド215の(視認できない)ピストン溝内に着座する。
【0097】
図13を参照して示した第1の供給位置と同様の)図18に示されている供給位置から、ピストンロッド215をインジェクタハウジング213内に、2段階、及び任意の予備段階で押し込むことができる。
【0098】
図18に示されている第1の供給位置から、(特にキャリッジ241をピストンロッド215のシャフトに対して軸方向に移動させることなく)キャリッジ241がインジェクタハウジング213の近位端217に当接するまで、ピストンロッド215をインジェクタハウジング213に更に押し込む。この位置は、(図14を参照して示した第2の供給位置と同様の)第2の供給位置と呼ばれる。シャフトにピストン溝が設けられていれば、キャリッジは依然としてピストンロッド215のピストン溝内に着座している。
【0099】
ピストンロッド215をインジェクタハウジング213に更に押し込む場合、キャリッジ241は同時にピストンロッド215のシャフト233に沿って後方に押され、また必要に応じて隆起部245上に押し付けられる。キャリッジ241は概ね抵抗なく押すことができる。隆起部245がインジェクタハウジング213の近位端217に当たるとすぐに、ピストンロッド215が、(図15を参照して示した第3の供給位置と同様の)第3の供給位置まで、インジェクタハウジング213に挿入される。この第3の供給位置において、レンズは理想的に完全に射出されるはずである。
【0100】
しかしながら、レンズが第3の供給位置において完全に射出されない場合、更なる圧力によって、隆起部245をインジェクタハウジング213の近位端217の縁部内へと押し付けることができる。ピストンロッド215が到達する終端位置を、準備位置と呼ぶことができる。隆起部245は、外科医が手動で更に力をかけた場合にのみ、インジェクタハウジング213の近位端217に押し込むことができる。
【0101】
停止要素241が摩擦を略生じることなく隆起部245の上を摺動できるように、停止要素241は好ましくは柔軟に構成され、これは、材料の適切な選択、並びに/又は隆起部245及び停止要素241の構造的に決定された成形によって達成できる。例えば停止要素(又はキャリッジ)241を、好ましくは(意図されている用途の条件下で)略圧縮不可能な材料から、U字型クランプ要素として作製でき、これは、ピストンノッチから押し出されると塑性膨張し、これによってピストンに沿って移動でき、また停止要素241が作動要素224に効果的に当接するまで隆起部245に押し付けることができる。
【0102】
停止要素を備えたインジェクタを使用するための応用例を以下に示す。
【0103】
応用例1
上述のようなデュアルインジェクタ111(例えば図13~16)は、インジェクタハウジング113及びピストンロッド115を備える。変位可能に取り付けられたシリコーン材料製の停止要素141をピストンロッド115上に設ける。停止要素は例えば、圧縮可能な材料製のリング状要素として構成される。レンズを受承するための、又は既に事前装入されたレンズを備える装入デバイス(図示せず)を、凹部に挿入する。ピストンロッド113は、第1の供給位置に移動させられるか、又は好ましくは既に第1の供給位置にある。第1の供給位置は、ピストンロッドがインジェクタハウジング113の近位開口117にある程度挿入されていることを特徴とする。この第1の位置から開始して、ピストンロッド115を(押し出し又はねじ込みによって)更に前進させたときに、ピストンロッド115はその前端123においてレンズまで案内されなければならず、またピストンロッド115を、レンズがインジェクタハウジング113の遠位端119から又は遠位端119に形成された若しくは取り付けられたノズルから押し出されるまで更に前進させたときに、レンズは(好ましくはノズルを通して)ピストンロッド115の前方に射出される。第1の供給位置は、(図13~16では図示されていない)ばねクリップにはまることによって固定できる。ピストンロッド115をピストン通路116に押し込むと、変位可能な停止要素141がピストンロッドと共に、ピストンロッド115上にいわゆる「おんぶ(piggyback)」された状態で、第1の供給位置からインジェクタハウジング113の近位開口117に向かって、停止要素141がインジェクタハウジングの近位開口117の縁部に当たるまで押され、そしてピストンロッド115は、ピストンロッド115が停止要素141を通って押されるか、又は停止要素141がインジェクタハウジングの近位開口の縁部に保持されてピストンロッドに沿って後方に摺動する場合にのみ、更に押し込むことができる。停止要素141が最初にインジェクタハウジングの近位開口117の縁部に当たったときのピストンロッド115の位置を、第2の供給位置と呼ぶ。この位置は、視覚的に容易に認識可能であり、またピストンロッドのねじ山における停止要素141のクランプ係合効果の強度に応じて、又はピストンロッド115上に横方向の溝が存在する場合には、上記位置は触覚的にも知覚できる。というのは、更に前方に押すと、(ピストンロッド上での停止要素の摩擦による、又は少なくとも一時的に上記横方向の溝を乗り越える際の)より高い抵抗によって、それを感じることができるためである。
【0104】
第2の供給位置により、ユーザは、装入チャンバを閉鎖する前であっても、更なる準備ステップを実施できる。典型的な準備ステップは例えば、ピストンロッド115上のシリコーンプランジャを用いて、レンズの触覚部をレンズ光学系に機械的に配置するステップであってよい。事前装入された親水性レンズの場合、レンズホルダ(輸送及び保管中に、事前装入されたレンズを装入チャンバ内でロックする構成部品)を取り外す前に、レンズがレンズホルダを取り外した後でレンズが装入チャンバから近位方向に滑り落ちることがあり得ないような点まで、ピストンロッドを前進させることも、理にかなっている。いずれの準備ステップも、装入チャンバを開けたままピストンロッド115を前方に移動させることによって、自動的に実施される。更なる準備ステップが考えられるが、これらは常に、停止要素114がインジェクタハウジング113の近位開口117に明らかに当たるまでピストンロッド115を前方に押すことによって実施される。準備ステップの実施後に初めて、装入チャンバが閉鎖される。
【0105】
ピストンロッド115を第2の供給位置から更にインジェクタハウジング113の通路に押し込むために、ピストンロッド115を、インジェクタハウジングの近位開口117の縁部にロックされた変位可能な停止要素141を通るように押すか、又は上記停止要素141にねじ込む。停止要素141が作動要素124に当たる(即ち作動要素124とインジェクタハウジングの近位開口117の縁部との間に挟まれる)とすぐに、ピストンロッド115の第3の供給位置に到達する。この第3の供給位置において、レンズが完全に射出されていない場合、停止要素141が圧縮可能な材料からなる限りにおいて、停止要素141を、作動要素124に対する更なる圧力によって収縮させることができ、これによりピストンロッド115は更にわずかに(例えば最大で数ミリメートルだけ)前方に移動してレンズを射出する。
【0106】
ここでは、(比較として圧縮不可能なキャリッジの例を用いて、また圧縮可能なキャリッジの例を用いて)変位可能な停止要素の用途について説明した。
【0107】
応用例2
上述の応用例1とは対照的に、シリコーンリングを開始時からピストンロッドの後部上へと滑動させ、作動要素まで押す(例えば図17)(この例では、シリコーンリングはピストンロッド上で摺動可能である必要は必ずしもない)。この構成は、更なる準備ステップが不要なシステムにおいて最も有用である。ピストンロッドを前方に押したとき、(応用例1で上述した第2の供給位置と同様の)第2の供給位置は、触覚的に感じられないために見過ごされてしまう。というのは、シリコーンリングが既に作動要素の後端にあるためである。必要に応じて、第2の供給位置を、視覚的マーカーに基づいて設定してよい。シリコーンリングが作動要素とインジェクタハウジングの近位端との間に挟まれるとすぐに、ピストンロッドの第3の供給位置に到達する。この第3の供給位置において、レンズが完全に射出されていない場合、作動要素124に対する更なる圧力を用いてシリコーンリング141を圧縮でき、これによりピストンロッドは更に数ミリメートルだけ前進してレンズを射出する。
【0108】
ここでは、(シリコーンリングの例を用いて)圧縮可能な停止要素の用途について説明した。
【0109】
応用例1と応用例2との比較
これら2つの例、即ち応用例1及び応用例2では、追加の供給を、はるかに強力な圧力又はねじ込みのみによる停止要素141の圧縮によって達成するという点で、供給の予備が実装される。この目的のために、停止要素141の材料を、手動で印加した力によって圧縮できる。このタイプの停止部材は、軟質停止部材と呼ぶこともできる。
【0110】
有用な追加のピストン経路を達成するために、シリコーンリングの厚さは好都合には、少なくとも1mmから最大6mm、好ましくは2mm~5mm、理想的には3mm~4mmである。ショア硬度は好ましくは少なくとも20から最大80、好ましくは30~70、理想的には40~60である。
【0111】
第1の例示的実施形態では、2つの異なる停止要素:
a)変位可能な停止要素(キャリッジ);及び
b)圧縮可能な停止要素(軟質停止部材)
の有利な特性を組み合わせる。
【0112】
2つの停止部材の特徴の組み合わせは、ねじ込み式インジェクタ、又はねじ込み式インジェクタ若しくは圧力インジェクタとして使用できるデュアルインジェクタと共に使用するために特に有利である。
【0113】
応用例3
例えば図18において上述されているような押し出し式インジェクタ211は、インジェクタハウジング213及びピストンロッド215を備える。ピストンロッド215は、作動要素に向かって隆起した隆起くさび245を有する。実質的に圧縮不可能である、変位可能に取り付けられた停止要素(キャリッジとも呼ばれる)241が、ピストンロッド215上に設けられる。
【0114】
停止要素は例えば、(図18に示すような)U字型クランプ要素として構成できる。
【0115】
レンズを受承するための、又は既に事前装入されたレンズを備える装入デバイス(図示せず)を、凹部に挿入するか、又は凹部に挿入できる。ピストンロッド213は、第1の供給位置に移動させられるか、又は既にこの位置にある。第1の供給位置は、ピストンロッドがインジェクタハウジング213の近位開口217にある程度挿入されていることを特徴とする。この第1の位置から開始して、ピストンロッド215は、その前端223を押すことで更に前進させることによって、レンズまで案内されなければならず、またピストンロッド215を、レンズがインジェクタハウジング213の遠位端219から又は遠位端219に形成された若しくは取り付けられたノズルから押し出されるまで、(好ましくはノズル(図示せず)を通して)更に前進させたときに、レンズはピストンロッド215の前方に押されることになる。第1の供給位置は、ばねクリップを用いて固定できる。ピストンロッド215をピストン通路216に押し込むと、変位可能な停止要素241がピストンロッドと共に、ピストンロッド215上にいわゆる「おんぶ(piggyback)」された状態で、第1の供給位置からインジェクタハウジング213の近位開口217に向かって、停止要素241がインジェクタハウジング213の近位開口217の縁部に当たるまで押され、そしてピストンロッド215は、ピストンロッド215が停止要素241を通って押されるか、又は停止要素241がインジェクタハウジングの近位開口の縁部に保持されてピストンロッドに沿って後方に摺動する場合にのみ、更に押し込むことができる。停止要素241が最初にインジェクタハウジングの近位開口217の縁部において停止したときのピストンロッド215の位置を、第2の供給位置と呼ぶ。この位置は、視覚的に容易に認識可能であり、またピストンロッドのシャフト上の停止要素241のクランプ係合効果の強度に応じて、又はピストンロッド215上に横方向の溝が存在する場合には、上記位置は触覚的にも知覚できる。というのは、更に前方に押すと、(ピストンロッド上での停止要素の摩擦による、又は少なくとも一時的に上記横方向の溝を乗り越える際の)より高い抵抗によって、それを感じることができるためである。
【0116】
ピストンロッド215を第2の供給位置から更にインジェクタハウジング213の通路に押し込むために、ピストンロッド215を、インジェクタハウジング213の近位開口217の縁部に保持された変位可能な停止要素241を通るように押すか、又は上記停止要素241にねじ込む。隆起くさび245が、特にインジェクタハウジング213の近位開口217の縁部において、インジェクタハウジング213に当たるとすぐに、ピストンロッド215の第3の供給位置に到達する。この第3の供給位置において、レンズが完全に射出されていない場合、作動要素224に対する追加の圧力(例えば少なくとも3ニュートン、好ましくは少なくとも5ニュートン)によって、隆起くさび245及びインジェクタハウジング213は互いに対して押し付けられ、これにより、必要に応じて近位開口217及び/又は隆起くさび245におけるインジェクタハウジングの縁部の変形によって、ピストンロッド215は更にわずかに(例えば最大で数ミリメートルだけ)前進してレンズを射出する。
【0117】
ここでは、(略圧縮不可能なキャリッジの例を用いた)変位可能な停止要素と隆起部との組み合わせの使用について説明した。
【0118】
応用例2と応用例3との比較
応用例2で使用される軟質停止部材は、応用例3で使用される硬質停止部材とは対照的であり、後者は、手動で印加される力によるいかなる変形又は圧縮も略不可能な材料からなり、従っていかなる追加の前進も略不可能となる。例示的実施形態3では、いわゆる硬質停止部材を隆起部と組み合わせる。隆起部と硬質停止部材とは、隆起部の変形の増大に伴って増大した力で硬質停止部材を押すことができるように、互いに適合され、これによっても、ピストンロッドが短すぎる場合に、追加の力によってレンズを完全に射出するために使用できる、供給の予備がもたらされる。
【0119】
具体的な実施形態について上で説明したが、ここで示されている可能な実施形態が相互に排他的である限りにおいて、これらの可能な実施形態の異なる組み合わせを使用できることは明らかである。
【0120】
本発明について、具体的な実施形態を参照して上述したが、本発明の精神から逸脱することなく、変更、修正、変形、及び組み合わせを実施できることは明らかである。
【符号の説明】
【0121】
11 インジェクタ
13 インジェクタハウジング、又はインジェクタ本体
15 (a)前側シャフト領域及び(b)後側シャフト領域を備えるピストンロッド
16 ピストン通路又はインジェクタ通路
17 インジェクタハウジングの近位端
19 インジェクタハウジングの遠位端
20 プランジャ(タペットとも呼ばれる)
21 凹部
22 装入デバイス
23 ピストンロッドの遠位端、ピストンロッド先端
24 ピストンロッドの近位端、作動要素
25 第1の翼状部の(内側)把持領域
26 第2の翼状部の(内側)把持領域
27 第1の翼状部(翼状ハンドルとも呼ばれる)
28 第2の翼状部(翼状ハンドルとも呼ばれる)
29 第1のねじ山付きブリッジ
30 第2のねじ山付きブリッジ
31 第1の可動ホルダ
32 第2の可動ホルダ
33 ねじ山、又はねじ山付きシャフト
34 ボールソケットを備えるガイド
35 第1の翼状ハンドルの回転軸
36 第2の翼状ハンドルの回転軸
61 第1の可動ホルダの内側脚状部
62 第2の可動ホルダの内側脚状部
71 第1の可動ホルダの外側脚状部
72 第2の可動ホルダの外側脚状部
81 第1の翼状部の偏心体(レバー)
82 第2の翼状部の偏心体(レバー)
83 第1の翼状部の第1の軸要素
84 第2の翼状部の第1の軸要素
85 第1の翼状部の第2の軸要素
86 第2の翼状部の第2の軸要素
89 翼状部上の凹部
91 第1の翼状部の部分歯車
92 第2の翼状部の部分歯車
111 インジェクタ
113 インジェクタハウジング、又はインジェクタ本体
115 ピストンロッド
116 ピストン通路、又はインジェクタ通路
117 インジェクタハウジングの近位端
119 インジェクタハウジングの遠位端
121 凹部
123 ピストンロッドの遠位端、ピストンロッド先端
124 ピストンロッドの近位端、作動要素
125 第1の翼状部の把持領域(隆線構造を有する把持面)
126 第2の翼状部の把持領域(リブ構造を有する把持面)
124 第1の翼状部(翼状ハンドルとも呼ばれる)
128 第2の翼状部(翼状ハンドルとも呼ばれる)
133 ねじ山、又はねじ山付きシャフト
135 第1の翼状ハンドルの回転軸
136 第2の翼状ハンドルの回転軸
141 停止要素
211 インジェクタ、又はインジェクタ本体
213 インジェクタハウジング
215 ピストンロッド
216 ピストン通路、又はインジェクタ通路
217 インジェクタハウジングの近位端
219 インジェクタハウジングの遠位端
221 凹部
223 ピストンロッドの遠位端、ピストンロッド先端
224 ピストンロッドの近位端、作動要素
227 第1の翼状部(翼状ハンドルとも呼ばれる)
228 第2の翼状部(翼状ハンドルとも呼ばれる)
233 停止要素のための摺動領域を備えるシャフト
241 停止要素(略圧縮不可能)
245 特にくさびのように構成された、隆起部
251 ばねクリップロック
図1
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