(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】患者の血糖値をモニタするための自動システム
(51)【国際特許分類】
A61M 5/172 20060101AFI20240123BHJP
A61M 5/142 20060101ALI20240123BHJP
A61B 5/1473 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
A61M5/172 500
A61M5/142 524
A61B5/1473
(21)【出願番号】P 2020565460
(86)(22)【出願日】2019-05-03
(86)【国際出願番号】 FR2019051025
(87)【国際公開番号】W WO2019224446
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-04-08
(32)【優先日】2018-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507362786
【氏名又は名称】コミサリア ア エナジー アトミック エ オックス エナジーズ オルタネティヴ
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】ブラン,ロマン
(72)【発明者】
【氏名】ドロン,エレオノール-マエヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ロメロ ウガルド,ヘクター-マニュエル
【審査官】川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-532113(JP,A)
【文献】特表2012-502693(JP,A)
【文献】特表2010-512945(JP,A)
【文献】国際公開第2017/120026(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0276556(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0211220(US,A1)
【文献】特開昭56-028765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/172
A61M 5/142
A61B 5/1473
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の血糖値を制御するための自動システムであって、
血糖センサ及び処理・制御ユニットを備えており、
前記処理・制御ユニットは、
前記自動システムの通常動作で、前記血糖センサによって測定された1つの血糖値G
rを考慮して、患者のインスリン感受性を表す因子CRを患者に特有の第1の数学的モデルf
CR から計算するように構成されており、
前記処理・制御ユニットは、
前記第1の数学的モデルf
CR
の較正ステップ中、患者の実際のインスリン感受性因子CR
r
の値と患者の実際の血糖値G
rの対応する測定値とに夫々対応する複数の測定イベントから回帰によって前記第1の数学的モデルf
CRを決定するように構成されており、
前記第1の数学的モデルは、式CR = f
CR(G
r) = a×G
rb+cの関数であり、
a, b, c は患者に特有のパラメータであり、前記第1の数学的モデルf
CR を決定する際に共に決定され
、
前記測定イベントは、患者の履歴データの開始時点t
init
から終了時点t
final
の連続時間範囲に夫々対応し、
患者の実際のインスリン感受性因子CR
r
の値は、前記連続時間範囲に亘る患者の履歴データに基づき決定され、
患者の実際の血糖値G
r
の対応する測定値は、患者の実際のインスリン感受性因子CR
r
の値が決定される前記連続時間範囲と経時的に相互に関連していることを特徴とする自動システム。
【請求項2】
インスリン注射デバイスを更に備えており、
前記処理・制御ユニットは、前記因子CRを考慮して前記インスリン注射デバイスを制御するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の自動システム。
【請求項3】
前記処理・制御ユニットは、予測時間に亘る患者の血糖値の今後の傾向を第2の数学的モデルから予測し、予測結果を考慮して前記インスリン注射デバイスを制御するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の自動システム。
【請求項4】
前記処理・制御ユニットは、過去の観察時間に亘る、前記血糖センサによって測定された血糖値の履歴、患者に注射したインスリンの履歴及び患者による炭水化物摂取の履歴を考慮して、前記第1の数学的モデルf
CR を自動的に較正する
前記較正ステップを実行するように構成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の自動システム。
【請求項5】
前記処理・制御ユニットは、前記較正ステップ中、過去の観察時間に含まれる複数の測定イベント中の患者の実際のインスリン感受性因子CR
r の複数の値を
決定するように構成されていることを特徴とする請求項4に記載の自動システム。
【請求項6】
前記測定イベントは、
-
前記開始時点t
init が高血糖段階、すなわち患者の血糖値が所定の閾値より高い段階にある
- 前記高血糖段階の継続時間を限定するために、補正ボーラス投与量、すなわち追加の投与量のインスリンを、前記高血糖段階の開始後であって前記開始時点t
init 前に患者に供給した
- 患者の血糖値は、前記開始時点t
init と
前記終了時点t
finalとの間で連続的に減少する
- 炭水化物が患者によって時点t
init -T
jと前記終了時点t
finalとの間で摂取されなかった(尚、T
jは所定の断食継続時間である)
という基準を満たす、前記開始時点t
init から前記終了時点t
finalの連続時間範囲に夫々対応することを特徴とする請求項5に記載の自動システム。
【請求項7】
前記処理・制御ユニットは、前記較正ステップ中、実際のインスリン感受性因子CR
r の前記複数の値から回帰によって前記第1の数学的モデルf
CR を決定するように構成されていることを特徴とする請求項5又は6に記載の自動システム。
【請求項8】
前記処理・制御ユニットは、前記較正ステップ前の前記自動システムの使用の初期段階T
pop中、パーソナライズされていない汎用数学的モデルf
CR-pop を使用して前記因子CRを計算するように構成されていることを特徴とする請求項4~7のいずれか1つに記載の自動システム。
【請求項9】
前記処理・制御ユニットは、前記初期段階T
pop後であって前記較正ステップ前の、前記自動システムの使用の中間段階T
hyb中、部分的にパーソナライズされた数学的モデルf
CR-hyb を使用して前記因子CRを計算するように構成されていることを特徴とする請求項8に記載の自動システム。
【請求項10】
前記部分的にパーソナライズされた数学的モデルは、式f
CR-hyb(G
r) =k×f
CR-pop(G
r)によって定められており、
kは、式k=(TDD
moy/a1×BW)に応じて定められた患者に特有の因子であり、
BWは患者の体重を表し、TDD
moyは、前記初期段階T
popに亘って患者に注射する1日の平均インスリン量を表し、a1は0.5 ~0.9 の範囲内の定数因子であることを特徴とする請求項9に記載の自動システム。
【請求項11】
前記処理・制御ユニットは、前記較正ステップ後、前記血糖センサによって測定された血糖値、患者に注射したインスリン及び患者による炭水化物摂取の新たなデータを考慮するために、前記第1の数学的モデルを再較正する複数の連続的なステップを実行するように構成されていることを特徴とする請求項4~10のいずれか1つに記載の自動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動血糖制御システムの分野に関し、より具体的には、このようなシステムで患者のインスリン感受性を表す因子を決定することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
糖尿病患者の血糖履歴、食事履歴及びインスリン注射履歴に基づき糖尿病患者のインスリン摂取を自動的に調節することを可能にする、人工膵臓とも称される自動血糖調節システムが、例えば、2016年9月21日に出願された仏国特許出願第1658881 号明細書(B15018/DD16959)、2016年9月21日に出願された仏国特許出願第1658882 号明細書(B15267/DD17175)及び2017年7月21日に出願された仏国特許出願第1756960 号明細書(B15860/DD18480)に既に記載されている。
【0003】
上記の特許出願に記載されている調節システムは、MPC タイプの調節システム又はモデルベースの予測制御システムであり、供給するインスリン量を調節する際に、患者の身体によるインスリンの同化作用及び患者の血糖に与えるこの影響について記述する生理学的モデルから得られた患者の血糖値の今後の傾向予測を考慮するMPC タイプの調節システム又はモデルベースの予測制御システムが、本明細書ではより具体的に検討されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
より具体的には、多くの自動血糖制御システムは、患者の血糖値を所望の範囲内に維持すべく患者に供給するインスリン量を決定するために、患者の血糖履歴、食事履歴及びインスリン注射履歴を考慮する。
【0005】
自動血糖制御システムでは、患者に供給するインスリン量の決定に重要な役割を果たすパラメータが、補償感受性比率又は補償比率とも称される患者のインスリン感受性因子であり、すなわち、血糖値を1リットル当たり1グラム(UI/g/l、尚、UIは国際的なインスリン単位、つまりヒトインスリンの略0.0347mgの生物学的な等量を表す)下げるのに必要なインスリンの量である。
【0006】
提起される問題は、インスリン感受性因子が、患者の状態(血糖値、身体活動、昼夜のリズム、ストレスなど)に応じて患者毎又は同一の患者で著しく変わる場合があるということである。
【0007】
実際、既知の自動血糖制御システムは、例えば患者の糖尿病専門医によって与えられる一定のインスリン感受性因子に基づいている。従って、インスリン感受性因子の短期間の変化を考慮していない。その結果、患者に注射するインスリンの量は不適切な場合があり、高血糖症又は低血糖症の危険を引き起こす。
【0008】
米国特許出願公開第2010/0198520 号明細書、米国特許出願公開第2013/0211220 号明細書及び国際公開第2017/040927号パンフレットには、患者の血糖履歴、インスリン感受性因子及び食事履歴を考慮して患者のインスリン感受性因子を決定する方法の例が記載されている。しかしながら、このような方法は、実行が比較的複雑であり、比較的長い過去の観察時間に亘るデータ履歴を必要とする。特に、このような方法は、患者の状態の変化に応じてリアルタイムのインスリン感受性因子を調節することができない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、実施形態は、患者の血糖値を制御するための自動システムであって、血糖センサ及び処理・制御ユニットを備えており、前記処理・制御ユニットは、前記血糖センサによって測定された1つの血糖値Grを考慮して、患者のインスリン感受性を表す因子CRを患者に特有の第1の数学的モデルfCRから計算するように構成されていることを特徴とする自動システムを提供する。
【0010】
実施形態によれば、前記自動システムは、インスリン注射デバイスを更に備えており、前記処理・制御ユニットは、前記因子CRを考慮して前記インスリン注射デバイスを制御するように構成されている。
【0011】
実施形態によれば、前記処理・制御ユニットは、予測時間に亘る患者の血糖値の今後の傾向を第2の数学的モデルから予測し、予測結果を考慮して前記インスリン注射デバイスを制御するように構成されている。
【0012】
実施形態によれば、前記第1の数学的モデルは、式CR = fCR(Gr) = a×Grb+cの関数であり、
a, b, c は患者に特有のパラメータである。
【0013】
実施形態によれば、前記処理・制御ユニットは、過去の観察時間に亘る、前記血糖センサによって測定された血糖値の履歴、患者に注射したインスリンの履歴及び患者による炭水化物摂取の履歴を考慮して、前記第1の数学的モデルfCR を自動的に較正する較正ステップを実行するように構成されている。
【0014】
実施形態によれば、前記処理・制御ユニットは、前記較正ステップ中、過去の観察時間に含まれる複数の測定イベント中の患者の実際のインスリン感受性因子CRr の複数の値を測定するように構成されている。
【0015】
実施形態によれば、前記測定イベントは、
- 開始時点tinitが高血糖段階、すなわち患者の血糖値が所定の閾値より高い段階にある
- 前記高血糖段階の継続時間を限定するために、補正ボーラス投与量、すなわち追加の投与量のインスリンを、前記高血糖段階の開始後であって前記開始時点tinit 前に患者に供給した
- 患者の血糖値は、前記開始時点tinit と前記終了時点tfinalとの間で連続的に減少する
- 炭水化物が患者によって時点tinit-Tjと終了時点tfinalとの間で摂取されなかった(尚、Tjは所定の断食継続時間である)
という基準を満たす、前記開始時点tinit から前記終了時点tfinalの連続時間範囲に夫々対応する
【0016】
実施形態によれば、前記処理・制御ユニットは、前記較正ステップ中、実際のインスリン感受性因子CRr の前記複数の値から回帰によって前記第1の数学的モデルfCR を決定するように構成されている。
【0017】
実施形態によれば、前記処理・制御ユニットは、前記較正ステップ前の前記自動システムの使用の初期段階Tpop中、パーソナライズされていない汎用数学的モデルfCR-pop を使用して前記因子CRを計算するように構成されている。
【0018】
実施形態によれば、前記処理・制御ユニットは、前記初期段階Tpop後であって前記較正ステップ前の、前記自動システムの使用の中間段階Thyb中、部分的にパーソナライズされた数学的モデルfCR-hyb を使用して前記因子CRを計算するように構成されている。
【0019】
実施形態によれば、前記部分的にパーソナライズされた数学的モデルは、式fCR-hyb(Gr) =k×fCR-pop(Gr)によって定められており、
kは、式k=(TDDmoy/a1×BW)に応じて定められた患者に特有の因子であり、
BWは患者の体重を表し、TDDmoyは、前記初期段階Tpopに亘って患者に注射する1日の平均インスリン量を表し、a1は0.5 ~0.9 の範囲内の定数因子である。
【0020】
実施形態によれば、前記処理・制御ユニットは、前記較正ステップ後、前記血糖センサによって測定された血糖値、患者に注射したインスリン及び患者による炭水化物摂取の新たなデータを考慮するために、前記第1の数学的モデルを再較正する複数の連続的なステップを実行するように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
前述及び他の特徴及び利点は、添付図面を参照して本発明を限定するものではない実例として与えられる以下の特定の実施形態に詳細に記載されている。
【0022】
【
図1】実施形態に従って患者の血糖値を調節するための自動システムの例を概略的に示すブロック図である。
【
図2】患者の血糖値の今後の傾向を予測するために
図1の自動システムで使用される生理学的モデルを示す簡略図である。
【
図3】
図1の自動システムによって実行され得る自動血糖調節法の例を示す図である。
【
図4A】患者の血糖値に応じた患者のインスリン感受性因子の変化を示す図である。
【
図4B】患者の血糖値に応じた患者のインスリン感受性因子の変化を示す図である。
【
図5】患者のインスリン感受性因子を決定するために
図1の自動システムで使用される数学的モデルを示す簡略図である。
【
図6】
図5の数学的モデルを更新するために
図1の自動システムによって実行され得る方法の例を示す図である。
【
図7】患者のインスリン感受性因子を決定するために
図1の自動システムで使用される数学的モデルの別の例を示す簡略図である。
【
図8】患者のインスリン感受性因子を決定するために
図1の自動システムで使用される数学的モデルの別の例を示す簡略図である。
【
図9】
図1の自動システムによって実行され得る患者の血糖値を制御する方法の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
同一の要素は様々な図面において同一の参照番号で示されており、更に様々な図面は正しい縮尺で示されていない。明瞭化のために、本明細書に記載されている実施形態の理解に有用な要素のみが図示され、詳細に記載されている。特に、記載された自動システムの制御・処理ユニットのハードウェア形成は詳述されておらず、このような制御・処理ユニットの形成は、本明細書の機能的な表示に基づく当業者の技能の範囲内である。更に、記載された自動システムの血糖値測定デバイス及びインスリン注射デバイスは詳述されておらず、記載された実施形態は、公知の血糖値測定デバイス及びインスリン注射デバイスの全て又は大部分と適合する。特に指定されていない場合、「略」、「実質的に」及び「程度」という用語は、該当する値の10%の範囲内、好ましくは5%の範囲内を表す。
【0024】
図1は、患者の血糖値を調節する自動システムの実施形態を概略的に示すブロック図である。
【0025】
図1の自動システムは、患者の血糖値を測定することができるセンサ101 (CG)を備えている。通常動作では、センサ101 は、患者の身体の上に又は身体の内部に、例えば患者の腹部のレベルに常時置かれてもよい。センサ101 は、例えばCGM (持続血糖モニタリング)型センサ、すなわち、患者の血糖値を連続的に(例えば少なくとも5分に一回)測定することができるセンサである。センサ101 は、例えば皮下グルコースセンサである。
【0026】
図1の自動システムは、インスリン注射デバイス103 (PMP) 、例えば皮下注射デバイスを更に備えている。インスリン注射デバイス103 は、例えば患者の皮膚の下に埋め込まれた注射針に連結されたインスリン槽を有するインスリンポンプ型の自動注射デバイスであり、ポンプは、決められた量のインスリンを決められた時間に自動的に注射すべく電気的に制御されてもよい。通常動作では、インスリン注射デバイス103 は、患者の身体の内部に又は身体の上に、例えば患者の腹部のレベルに常時置かれてもよい。
【0027】
図1の自動システムは、一方では血糖センサ101 に、例えばワイヤリンク又は無線リンク(無線)によって接続されて、他方ではインスリン注射デバイス103 に、例えばワイヤ又は無線リンクによって接続された処理・制御ユニット105 (CTRL)を更に備えている。処理・制御ユニット105 は、動作中、センサ101 によって測定される患者の血糖値に関するデータを受けて、決められた量のインスリンを決められた時間に患者に注射すべくインスリン注射デバイス103 を電気的に制御することができる。この例では、処理・制御ユニット105 は、患者によって摂取された炭水化物の量の時間変化を表すデータCHO(t)を、詳述されないユーザインターフェースを介して受けることが更にできる。
【0028】
処理・制御ユニット105 は、特にセンサ101 によって測定された血糖値の履歴、インスリン注射デバイス103 によって注射したインスリンの履歴及び患者による炭水化物摂取の履歴を考慮して、患者に注射するインスリンの量を決定することができる。このために、処理・制御ユニット105 は、例えばマイクロプロセッサを有する(詳述されない)デジタル計算回路を有している。処理・制御ユニット105 は、例えば患者によって一日中及び/又は一晩中携帯される携帯機器であり、例えば以下に記載されるタイプの調節方法を実行するように構成されたスマートフォン型機器である。
【0029】
図1の実施例では、処理・制御ユニット105 は、患者の血糖値の経時的な今後の傾向の予測結果を考慮して、患者に供給するインスリンの量を決定することができる。より具体的には、処理・制御ユニット105 は、注射したインスリンの履歴及び摂取された炭水化物の履歴と、患者の身体によるインスリンの同化作用及び血糖に与えるこの影響について記述する数学的モデル、例えば生理学的モデルとに基づき、予測時間又は予測範囲と称される次の時間、例えば1~10時間に亘る患者の血糖値の予測される経時的な傾向を表す曲線を決定することができる。処理・制御ユニット105 は、この曲線を考慮して、次の予測時間中に患者に注射すべきインスリンの量を決定するため、(生理学的モデルに基づき推定される血糖値とは対照的に)患者の実際の血糖値が、特に高血糖症又は低血糖症の危険性を制限すべく許容限界の範囲内のままである。
【0030】
図2は、患者の血糖値の今後の傾向を予測するために
図1の自動システムで使用される数学的モデル201 (MPC) を示す簡略図である。
図2では、数学的モデルは、
患者に注射するインスリンの量の、時間tに亘る変化を表す信号I(t)が与えられる入力e1、
患者によって摂取される炭水化物の量の、時間tに亘る傾向を表す信号CHO(t)が与えられる入力e2、及び
患者の推定血糖値の、時間tに亘る変化を表す信号G(t)を与える出力s1
を有する処理ブロックの形態で示されている。
【0031】
数学的モデル201 は例えば生理学的モデルである。例として、数学的モデル201 は、入力変数i(t)、入力変数cho(t)及び出力変数G(t)に加えて、経時的に変わる患者の生理学的変数に相当する複数の状態変数を有するコンパートメントモデルである。状態変数及び出力変数G(t)の時間変化は、ブロック201 の入力p1に与えられるベクトル[PARAM] によって
図2に示されている複数のパラメータを有する微分方程式系により規定されている。生理学的モデルの応答は、ブロック201 の入力p2に与えられるベクトル[INIT]によって
図2に示されている、状態変数に割り当てられる初期状態又は初期値により更に調整される。
【0032】
例として、
図1の自動システムで使用される生理学的モデル201 は、Roman Hovorka 等著の「Nonlinear model predictive control of glucose concentration in subjects with type 1 diabetes」という題名の論文(Physiol Meas. 2004; 25:905-920)、及びRoman Hovorka 等著の「Partitioning glucose distribution/transport, disposal, and endogenous production during IVGTT」という題名の論文(Am J Physiol Endocrinol Metab 282:E992-E1007, 2002)に記載されているHovorka モデルと称されるモデルである。より一般的に、患者の身体によるインスリンの同化作用及び患者の血糖に与えるこの影響について記述するあらゆる他の生理学的モデルを使用してもよい。
【0033】
ベクトル[PARAM] のパラメータの内、一部のパラメータは、所与の患者では一定とみなされてもよい。しかしながら、時間依存性パラメータと以下に称される他のパラメータは経時的に変わり得る。微分方程式系のこのような他のパラメータの変化性のため、使用するモデルの予測が確実に適切なままであるように、使用するモデルを、例えば1~20分毎、例えば5分毎に定期的に再較正することが実際には必要である。モデルパーソナライゼーションと称されるモデルのこのような更新は、
図1の自動システムによって自動的に実行され得るべきであり、つまり、微分方程式系の時間依存性パラメータを患者で物理的に測定して、その後、処理・制御ユニット105 に送信する必要なく実行され得るべきである。
【0034】
図3は、
図1の自動システムによって実行され得る自動血糖調節法の例を示す図である。
【0035】
この方法はモデルを再較正する又は更新するステップ301 を有する。ステップ301 を、例えば規則的な間隔で、例えば1~20分毎に繰り返してもよい。このステップ301 中、処理・制御ユニット105 は、継続時間△Tの過去の観察時間、例えば較正ステップ前の1~10時間に亘る、インスリン注射デバイス103 によって有効に注射したインスリンに関するデータ及びセンサ101 によって測定された実際の血糖値に関するデータを考慮して、モデルの時間依存性パラメータを再推定する方法を実行する。より具体的には、較正ステップ中、処理・制御ユニット105 は、(過去の観察時間中に起こり得る炭水化物摂取及びインスリン注射を考慮して)生理学的モデルに基づき過去の観察時間に亘る患者の行動をシミュレートし、生理学的モデルによって推定された血糖値の曲線を、この同一の観察時間中にセンサによって測定された実際の血糖値の曲線と比較する。その後、処理・制御ユニット105 は、生理学的モデルによって推定された血糖値の曲線とセンサによって観察時間中に測定された実際の血糖値の曲線との誤差を表す量を最小化する一組の値を、モデルの時間依存性パラメータに関して検索する。例として、処理・制御ユニット105 は、モデルによって推定された血糖値の曲線とセンサによって観察時間中に測定された実際の血糖値の曲線との間の面積を表す指標mの最小化をもたらす一組のパラメータを検索する。指標mは、例えば以下のように定められる、推定されるグルコースと実際のグルコースとの標準偏差とも称される。
【0036】
【0037】
尚、tは離散化された時間変数であり、t0-△Tは過去の観察段階の開始時点に相当し、t0は、(例えばモデル較正ステップの開始時点に相当する)過去の観察段階の終了時点に相当し、Grは、時間 [t0-△T, t0] 中にセンサ101 によって測定される実際の血糖値の時間変化の曲線であり、Gは、時間 [t0-△T, t0] 中にモデルに基づき推定される血糖値の曲線である。変形例として、平均標準偏差を計算するために、変数△Tを、過去の観察時間中に行われる測定の回数と取り替えてもよい。このステップ中に使用される最適なパラメータ検索アルゴリズムは本願では詳述されておらず、記載された実施形態は、コスト関数の最小化によってパラメータ最適化の問題を解決すべく様々な分野で使用される通常のアルゴリズムと適合する。
【0038】
ステップ301 中、処理・制御ユニット105 は、モデルの時間依存性パラメータに加えて、モデルから患者の行動をシミュレートし得るためにモデルの状態変数の初期状態(時点t0-△Tでの状態)のベクトル[INIT]を定める。モデルの状態変数の初期状態を定めるために、第1の実行可能な手段として、モデル較正の基となる観察時間 [t0-△T, t0] 前の時間に、患者は動かず、注射するインスリンの流量が一定であり、炭水化物の食事摂取無しであったと仮定する。この仮定の下では、微分方程式系の導関数を全て開始時点t0-△Tでゼロとみなしてもよい。そのため、微分方程式系の状態変数の開始時点t0-△Tでの値を分析的に計算してもよい。初期設定を改善するために、別の実行可能な手段として、前述した仮定と同様に仮定するが、開始時点t0-△Tで推定される血糖値がセンサによって測定される実際の血糖値と等しいという制約を加える。初期設定を更に改善するために、別の実行可能な手段として、モデルの状態変数の初期状態をモデルの時間依存性パラメータと同じように確率変数とみなす。そのため、状態変数の初期状態をモデルの時間依存性パラメータと同様に決定する。すなわち、処理・制御ユニット105 は、モデルによって推定される血糖値の曲線と過去の観察時間中の実際の血糖値の曲線との誤差を表す量を最小化する一組の初期状態の値[INIT]を検索する。
【0039】
図3の方法は、ステップ301 の後、患者に注射したインスリンの履歴及び患者によって摂取された炭水化物の履歴を考慮して、ステップ301 で更新された生理学的モデルに基づき、継続時間T
pred の次の予測時間 [t
0, t
0+T
pred]に亘る、例えば1~10時間の範囲内での患者の血糖値の時間変化を、処理・制御ユニット105 によって予測するステップ303 を更に有する。
【0040】
図3の方法は、ステップ303 の後、ステップ303 で予測された今後の血糖値の曲線を考慮して、次の予測時間 [t
0, t
0+T
pred]、患者に注射するインスリンの量を処理・制御ユニット105 によって決定するステップ305 を更に有する。このステップ305 の終わりに、処理・制御ユニット105 は、予測時間 [t
0, t
0+T
pred]中、決定された量のインスリンを供給すべくインスリン注射デバイス103 をプログラムしてもよい。
【0041】
血糖値を予測するステップ303 及び供給するインスリンの今後の量を決定するステップ305 を、例えば患者によって通知される炭水化物の新たな摂取毎及び/又はインスリン注射デバイス103 によるインスリン投与量のインスリンの新たな投与毎に、生理学的モデルの各更新で(つまり、ステップ301 の各反復後)繰り返してもよい。
【0042】
実施形態の態様によれば、ステップ305 中、処理・制御ユニット105 は、所定の数学的モデルから、センサ101 によって測定された1つの血糖値に基づき患者のインスリン感受性因子CRを推定する。言い換えれば、ステップ305 中、処理・制御ユニット105 は、CR=fCR(Gr(t))であるように、所定の数学関数fCR に基づき患者のインスリン感受性因子CRを計算する。尚、Gr(t) は、現在の時点t、例えばt0の時点tでセンサ101 によって測定される患者の血糖の実際の値である。ステップ305 中、処理・制御ユニット105 は、その後、このように計算されたインスリン感受性因子CRを考慮して患者に供給する今後のインスリン量を決定する。
【0043】
本発明者らは、所与の患者では患者の血糖値の時間変化と患者のインスリン感受性因子の時間変化との間に強い相関関係が存在することを示した。本発明者らは、患者の瞬時の血糖値に応じて患者のインスリン感受性因子をリアルタイムに調節することにより、患者に供給する今後のインスリン量をより高い精度で決定し、ひいては高血糖症又は低血糖症の危険性を制限することが可能であることを特に示した。
【0044】
図4A及び
図4Bは、2人の異なる患者に関して患者の血糖値(横座標(mg/dl ))に応じた患者のインスリン感受性(縦座標(UI/g/l))の変化を夫々示す図である。夫々の図には、患者の実際のインスリン感受性因子CR
r の測定値と患者の実際の血糖値G
rの対応する測定値(すなわち、経時的に相互に関連する測定値)とに夫々対応する複数のポイント401 が含まれている。
【0045】
患者のインスリン感受性因子のあらゆる既知の測定方法によって、例えば上記の米国特許出願公開第2010/0198520 号明細書、米国特許出願公開第2013/0211220 号明細書及び国際公開第2017/040927号パンフレットに記載されているタイプの方法によって、実際のインスリン感受性因子CRr を測定してもよい。
【0046】
好ましい実施形態では、以下の方法に従って(例えば
図1の自動システムのセンサ101 によって測定された)患者の血糖履歴、食事履歴及びインスリン注射履歴から患者の実際のインスリン感受性因子CR
r を決定する。
【0047】
患者のデータ履歴に基づき、測定イベントを特定する。すなわち、インスリン感受性因子を分離する時間範囲、すなわち、インスリンの供給に関連した患者の血糖値の減少を観察することができる時間範囲を特定する。例として、選択するイベントは、
- 開始時点tinitは高血糖段階にあり、すなわち患者の血糖値が所定の閾値、例えば1.40 g/l程度より高い段階にある
- 高血糖段階の継続時間を限定するために、補正ボーラス投与量、すなわち追加のインスリン投与量のインスリンを、高血糖段階の開始後であって開始時点tinit の前に患者に供給した
- 患者の血糖値は、開始時点tinitと終了時点tfinalとの間で連続的に減少する
- 炭水化物が患者によって時点tinit-Tjと終了時点tfinalとの間で摂取されなかった(尚、Tjは、例えば1時間以上、好ましくは2時間以上の所定の断食時間である)
という基準を満たす、開始時点tinitから終了時点tfinalの連続時間範囲である。
【0048】
例として、開始時点tinitは高血糖段階の血糖ピークに対応する。終了時点tfinalは、例えば高血糖段階後の血糖の安定化若しくは上昇に対応するか、又は食事若しくは炭水化物摂取のような妨害にも対応する。
【0049】
特定したイベント毎に、患者の実際のインスリン感受性因子CRr を
CRr =△I/△G
を用いて計算する。
尚、△Iは、イベント中に消費されたインスリンの量を表し、△Gは、イベントの開始時点tinit の患者の実際の血糖値とイベントの終了時点tfinalでの患者の実際の血糖値との差を表す。例えば、イベント前及びイベント後に供給するインスリン量と身体によるインスリン吸収の動態とを考慮して、イベント中に消費するインスリンの量△Iを計算してもよい。例として、イベント中に消費するインスリンの量△Iは、患者のインスリンオンボードの量、すなわちイベントの開始時点tinit で(血糖に依然として影響を及ぼし得る)依然として活性なインスリンの量と、インシュリンの終了時点tfinalでのインスリンオンボードの量との差に相当する。開始時点tinit 及び終了時点tfinalでの患者のインスリンオンボードの量を、患者のインスリンオンボードの量を決定するあらゆる既知の方法によって決定してもよい。例として、時点tでの患者のインスリンオンボードの量の決定を、時点t前に患者に注射するインスリンの量の時間変化を表す曲線と、身体によるインスリン消費の動態を表す関数fIOB、例えば以下に示す関数fIOB(t) との、時点t前の時点から時点tの時間に亘る畳み込みによる計算によって行ってもよい。
【0050】
【0051】
尚、tは離散化された時間変数であり、τは、例えば40~60分の範囲内、例えば47分程度の所定の継続時間の時定数である。
【0052】
イベント毎の患者の実際の血糖値は、例えばイベントの開始時点tinit での実際の血糖値Gr(tinit) である。
【0053】
患者毎に患者に特有の関数又は数学的モデルf
CR を定めるために、比較的多数のイベントNb
evを、まず患者の履歴データで特定し、イベント毎に実際のインスリン感受性因子CR
r の値及び関連する血糖値G
rを測定する。例として、関数f
CR を定めるために使用されるイベントNb
evの数は20~100 の範囲内であり、例えば30と60との間であり、例えば40程度である。実際、数週間から数か月間のデータ履歴が、所望の測定回数Nb
evを得るのに必要な場合がある。その後、患者に特有のNb
evの測定ポイント(
図4A及び
図4Bのポイント401 )から回帰によって関数f
CR を決定する。例として、患者毎に、患者に関して得られたNb
evの測定ポイント401 から回帰によって関数f
CR を得る。そのため、患者毎の関数f
CR は式
f
CR(G
r) = a×G
rb+c
の関数である。
尚、a, b, c は患者に特有のパラメータであり、パラメータb はモデルの次数に対応する。例として、パラメータb が1に設定されると、モデルは線形モデルになる。
【0054】
図4A及び
図4Bの各々では、線403 は、患者の血糖値G
rを患者のインスリン感受性因子CRに関連付ける、患者に関して決定された関数f
CR を表す。
【0055】
例として、
図1の自動システムでは、較正段階中、処理・制御ユニット105 によって関数f
CRを自動的に決定してもよい。
【0056】
処理・制御ユニット105 は、患者による調節システムの使用中に調節システムによって記録される新たな履歴データを考慮するために関数fCR のパラメータを自動的に、例えば周期的に更新するように更に構成されてもよい。
【0057】
好ましい実施形態では、関数fCRのパラメータの更新毎に考慮されるイベントの数Nbevは一定のままである。言い換えれば、関数fCR のパラメータを更新するために新たなイベントを考慮する毎に、前のイベント、例えば最も古いイベントをモデルから除外するため、モデルが設定されず、経時的に展開することが可能になる。
【0058】
モデルを更新する段階中、モデルを著しく変えることになる測定値が好ましくは除外されるため、異常なイベント又は例外的なイベントがモデルの不安定性をもたらさない。
【0059】
例として、処理・制御ユニット105 は、毎日、患者の実際のインスリン感受性因子CRr の一又は複数の新たな測定を行って、このような測定値が所定の条件を満たすか否かに応じて、このような測定値を組み込むか否かを決定してもよい。
【0060】
例として、患者の実際のインスリン感受性因子CRr の新たな測定値が以下の条件を満たす場合のみ、この新たな測定値を夫々モデルに組み込む。
- 実際のインスリン感受性因子CRr の新たな測定値と(同一の血糖値Grに関して)現在のモデルから推定されるインスリン感受性因子CRの値との間隔が、現在のモデルを考慮した因子CRr の全ての値の標準偏差より絶対値で小さい
- 因子CRr の新たな測定値の組み込みに関連したモデルfCR のパラメータ(上記の例におけるパラメータa 及びパラメータb )の各々の変化が所定の閾値より小さく、例えばモデルを更新する前のパラメータの値の1~20%の範囲内の、例えば所定の割合Pより小さい
【0061】
処理・制御ユニット105 は、モデルfCR から推定されるインスリン感受性因子CRの値を調節システムによって夫々使用した後、モデルの関連性を確認して、必要に応じてモデルを修正するように更に構成されてもよい。より具体的には、高血糖を抑えるため(すなわち、高血糖を抑えるために患者に注射するインスリンのボーラス投与量を決定するため)にモデルfCR から推定されるインスリン感受性因子CRの値を夫々使用した後、処理・制御ユニット105 は、高血糖ピーク後の患者の血糖の減少段階に含まれる過去の観察時間に亘る患者の実際のインスリン感受性因子CRr を計算し、その後、実際のインスリン感受性因子と推定されるインスリン感受性因子との間の誤差ε=CRr -CRを計算することができる。その後、処理・制御ユニット105 は、コスト関数、例えばD. Boiroux等著の「Adaptive control in an artificial pancreas for people with type 1 diabetes」という題名の論文(J. B. (2017) - Control Engineering Practice, 58, 332-342)に記載されている関数を誤差εに乗じ、その後、乗算結果を所定の閾値と比較し、モデルが適切であるか否かを推定することができる。モデルが適切ではないとみなされた場合、モデルを今後の使用のために補正してもよい。
【0062】
処理・制御ユニット105 は、高血糖の検出後の補正ボーラス投与量のインスリン注射からイベント中、例えば30~90分の範囲内の、例えば所定の時間後、モデルの関連性を推定するように更に構成されてもよい。処理・制御ユニット105 は、例えば対象とする時間に亘る実際のインスリン感受性因子CRr を測定して、実際のインスリン感受性因子CRr と推定されるインスリン感受性因子CRとの間の誤差εの符号を決定してもよい。誤差εの符号に応じて、処理・制御ユニット105 は追加のインスリン注射を命じるか、又は次の時間プログラミングされる注射すべきインスリンの量を減少させてもよく、或いは推定されるインスリン感受性因子CRが余りにも高いような場合、グルコースの投与(炭水化物の摂取)を患者に提示してもよい。
【0063】
図5は、患者のインスリン感受性因子を決定するために
図1の自動システムで使用される数学的モデルf
CR を示す簡略図である。
図5では、モデルは、センサ101 によって測定時点tで測定された患者の実際の血糖値を表す信号G
r(t) が与えられる入力e3と、時点tでの患者のインスリン感受性因子を表す信号CR(t) を与える出力s2とを有する処理ブロックの形態で示されている。
【0064】
図6は、患者の新たなデータ履歴を考慮するように数学的モデルf
CR を更新するために
図1の自動システムによって実行され得る方法の例を示す図である。
【0065】
図6の方法は、処理・制御ユニット105 が、観察時間に亘る、センサ101 によって測定された実際の血糖値データG
r、インスリン注射デバイス103 によって有効に注射したインスリンのデータ及び患者による炭水化物摂取のデータを取得して記憶するステップ601 を有する。ステップ601 で対象とする観察時間は、患者の実際のインスリン感受性因子CR
r を測定し得る少なくとも1つのイベントを含むように選択される。
【0066】
図6の方法は、ステップ601 の後、観察時間中に取得したデータに基づき、患者の実際のインスリン感受性因子CR
r を計算するステップ603 を更に有する。
【0067】
図6の方法は、ステップ603 の後、ステップ603 で決定された実際のインスリン感受性因子CR
r の新たな値を考慮してモデルf
CR を更新するステップ605 を更に有する。
【0068】
上述したように、比較的長い時間、典型的には数週間から数か月間に亘るデータ履歴が、所与の患者に特有のモデルfCR を定め得るのに必要である。
【0069】
調節システムの使用の初めに、十分な量のデータ履歴を取得する前、集団モデルとも称される汎用モデル(すなわち、患者に特有でないモデル)f
CR-pop を使用して、患者の血糖値に応じて患者のインスリン感受性因子をリアルタイムで計算してもよい。例として、比較的長い時間、例えば数週間から数か月間に亘る、多数の患者、例えば少なくとも20人の患者の血糖履歴、インスリン注射履歴及び炭水化物摂取履歴を含むデータベースからモデルf
CR-pop を決定する。患者毎に複数のイベントを特定し、イベント毎に患者のインスリン感受性因子CR
r の値及び対応する血糖値G
rを、例えば
図4A及び
図4Bに関連して上述した方法と同一又は同様に決定する。インスリン感受性因子CR
r の測定値毎に、インスリン感受性因子CR
r を患者の体重で正規化する。言い換えれば、因子CRBW
r =CR
r/BWを計算する。尚、BWは患者の体重を表す。このようにして患者毎に複数対の値(CRBW
r, G
r) を決定する。その後、一組の決定された対の値(CRBW
r, G
r) から回帰によってモデルf
CR-pop を決定し、全ての患者を同一化する。例として、一組の決定された対の値(CRBW
r, G
r) から回帰によってモデルf
CR-pop を決定する。
【0070】
図7は、患者に特有のモデルを決定するために十分な量のデータ履歴を取得する前、自動システムの使用の初期段階中に
図1の自動システムで使用される数学的モデルf
CR-pop の簡略図である。
図7では、モデルは、センサ101 によって測定時点tで測定された患者の実際の血糖値を表す信号G
r(t) が与えられる入力e4と、患者の体重BWを例えばkgで表す値が与えられる入力e5と、時点tでの患者のインスリン感受性因子を表す信号CR(t) =BW×f
CR-pop(G
r(t))を与える出力s3とを有する処理ブロックの形態で示されている。
【0071】
しかしながら、同一の体重及び同一の血糖値で2人の患者は必ずしも同一のインスリン感受性因子を有する必要がない。従って、十分な量の履歴データを取得したら即座にモデルを可能な限り迅速にパーソナライズすることが望ましい。
【0072】
好ましい実施形態では、上記に定められた汎用モデルfCR-pop を使用する初期段階と、患者に特有のモデルfCR を使用する定常状態段階との間に、以下のように定められるハイブリッドモデルfCR-hyb を使用する。
【0073】
ハイブリッドモデルfCR-hybは、集団モデルfCR-pop に基づく調節システムの使用の一定時間Tpop後、例えば1~7日間後、例えば3日程度後に定められる。一定時間Tpopの終わりに、処理・制御ユニット105 は以下の式に従って患者に特有の因子kを計算する。
k=(TDDmoy)/(a1×BW)
尚、BWは患者の体重を表し、TDDmoyは、一定時間Tpopに亘って患者に注射する1日の平均インスリン量を表し、a1は0.5 ~0.9 の範囲内の定数因子である。その後、ハイブリッドモデルfCR-hyb を以下のように定める。
fCR-hyb=k×fCR-pop
【0074】
変形例として、以下の式に従って因子kを計算する。
k=(TDDbasal)/(a2×BW)
尚、TDDbasalは、一定時間Tpopに亘って患者に注射する一日の基礎インスリン量(すなわち、いかなる補正ボーラス投与量もないインスリン量)を表し、a2は、例えば0.2 ~0.5 の範囲内の定数因子である。
【0075】
図8は、段階T
pop後であって患者に特有のモデルを決定するために十分な量のデータ履歴を取得する前に、自動システムの使用の中間段階T
hyb中に
図1の自動システムで使用される数学的モデルf
CR-hyb の簡略図である。
図8では、モデルは、センサ101 によって測定時点tで測定された患者の実際の血糖値を表す信号G
r(t) が与えられる入力e6と、患者の体重BWを例えばkgで表す値が与えられる入力e7と、時点tでの患者のインスリン感受性因子を表す信号
CR(t)=BW×f
CR-hyb(G
r(t))=k×BW×f
CR-pop(G
r(t))
を与える出力s4とを有する処理ブロックの形態で示されている。
【0076】
図9は、
図1の自動システムによって実行され得る患者の血糖値を制御する方法の例を概略的に示す図である。自動システムの血糖センサ101 によって測定される1つの血糖値を推定毎に考慮して患者のインスリン感受性因子CRを数学的モデルから複数回連続的に推定する方法をここでは対象とする。
【0077】
患者による調節システムの使用開始の開始時点tstartから時点tstart+Tpopの継続時間Tpopの初期段階901 中、処理・制御ユニット105 は、集団モデルfCR-pop を使用して患者のインスリン感受性因子CRを推定する。初期段階901 の終わりに、処理・制御ユニット105 は、初期段階901 中に取得したデータに基づき、部分的にパーソナライズされたモデルfCR-hybを決定する。
【0078】
時点tstart+Tpopから時点tstart+Tpop+Thybの継続時間Thybの中間段階903 中、処理・制御ユニット105 は、ハイブリッドモデルfCR-hyb を使用して患者のインスリン感受性因子CRを推定する。中間段階903 の終わりに、処理・制御ユニット105 は、初期段階901 及び中間段階903 中に取得したデータに基づき患者に特有のモデルfCR を決定する。
【0079】
時点t0+Tpop+Thybの後の定常状態段階905 中、処理・制御ユニット105 は、患者モデルfCR を使用して患者のインスリン感受性因子CRを計算する。処理・制御ユニット105 は、患者に関して取得する新たなデータを考慮するために患者モデルfCR を規則的に更に更新してもよい。
【0080】
特定の実施形態が記載されている。当業者にとっては様々な変更及び調整が想起される。特に、記載された実施形態は、
図1~
図3に関連して記載されている血糖調節システムの特定の例に限定されない。すなわち、数学的モデルを使用して患者の血糖値の今後の傾向を予測し、ひいては患者に供給するインスリン量を調節する予測制御システムの特定の例に限定されない。より一般的に、患者で測定された1つの血糖値から患者のインスリン感受性因子CRをリアルタイムで推定する提供された方法を、患者のインスリン感受性因子を本来の位置でリアルタイムに推定する方法を利用することができるあらゆる血糖調節システムで実行してもよい。
【0081】
本特許出願は、参照によって本明細書に組み込まれている仏国特許出願第18/00492 号明細書の優先権を主張している。