(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】魚タンパク質加水分解物粉末および医薬としての使用のための前記粉末を含む組成物
(51)【国際特許分類】
C12P 21/06 20060101AFI20240123BHJP
A23J 3/34 20060101ALI20240123BHJP
C12P 1/00 20060101ALI20240123BHJP
A61K 35/60 20060101ALI20240123BHJP
A61K 38/01 20060101ALI20240123BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240123BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240123BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240123BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240123BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240123BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20240123BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20240123BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240123BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20240123BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240123BHJP
C12N 9/48 20060101ALN20240123BHJP
【FI】
C12P21/06
A23J3/34
C12P1/00 A
A61K35/60
A61K38/01
A61P1/00
A61P25/00
A61P1/04
A61P25/28
A61P25/16
A61P21/04
A61P25/18
A61P9/10
A61P39/06
A61P43/00 111
C12N9/48
(21)【出願番号】P 2020570930
(86)(22)【出願日】2019-06-17
(86)【国際出願番号】 NO2019050125
(87)【国際公開番号】W WO2019245380
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-05-20
(32)【優先日】2018-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520494219
【氏名又は名称】ホフセス バイオケア アーエスアー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】フラムローゼ, ボミ パテル
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106282285(CN,A)
【文献】特表2003-511093(JP,A)
【文献】特開昭58-158138(JP,A)
【文献】特開昭51-82791(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0038391(US,A1)
【文献】米国特許第4473589(US,A)
【文献】FOOD RESEARCH INTERNATIONAL,2012年11月,VOL:49, NR:1,PAGE(S):92 - 98
【文献】PROCESS BIOCHEMISTRY,英国,ELSEVIER LTD,2016年11月11日,VOL:52,PAGE(S):149 - 158
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
A23J
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚タンパク質加水分解物粉末を生成するための酵素加水分解プロセスであって、前記プロセスは、以下の連続する工程:
i)魚タンパク質材料に由来するすり潰した副生成物と水とを混合し、加熱する工程;
ii)エンドペプチダーゼ酵素を前記i)の混合物に添加し、撹拌する工程;
iii)カルボキシペプチダーゼの形態にあるエキソペプチダーゼ酵素を、前記ii)の混合物に添加し、撹拌する工程;
iv)
酵素加水分解を熱不活性化によって停止させる工程;
v)
魚加水分解物画分および残りの固体材料を、濾過によって分離する工程;ならびに
vi)前記魚加水分解物画分を濃縮および乾燥させて、魚タンパク質加水分解物粉末を得る工程、
を包含するプロセス。
【請求項2】
前記プロセスは、aspergillus oryzaeに由来するプロテアーゼ酵素を、前記iii)の混合物に添加し、撹拌する工程という第3の加水分解工程をさらに包含する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記魚タンパク質材料は、魚
類に由来する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記エンドペプチダーゼは、ペプシンまたはトリプシン、またはこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
医薬としての使用のための、請求項1~4のいずれかに記載のプロセスによって得られ得る、魚タンパク質加水分解物粉末。
【請求項6】
請求項5に記載の魚タンパク質加水分解物粉末を、医薬としての使用のための少なくとも1種の薬理学的に受容可能なキャリアまたは賦形剤を一緒に含む組成物。
【請求項7】
消化器系または中枢神経系の障害または疾患の予防または処置における使用のための、請求項5に記載の魚タンパク質加水分解物粉末または請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
消化器系の障害または疾患の予防または処置における使用のための、請求項5に記載の魚タンパク質加水分解物粉末または請求項6に記載の組成物
であって、前記消化器系の障害または疾患は、胃食道逆流症、胃腸炎、過敏性腸症候群、小腸結腸炎、セリアック病および直腸炎の疾患を含む群より選択される、魚タンパク質加水分解物粉末または組成物。
【請求項9】
中枢神経系の障害または疾患の予防または処置における使用のための、請求項5に記載の魚タンパク質加水分解物粉末または請求項6に記載の組成物
であって、前記中枢神経系の障害または疾患は、神経変性疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、脳血管障害、脱髄疾患、および精神障害を含む群から選択される、魚タンパク質加水分解物粉末または組成物。
【請求項10】
酸化保護遺伝子の発現の改変による、消化器系または中枢神経系の障害または疾患の予防または処置における使用のための、請求項5に記載の魚タンパク質加水分解物粉末または請求項6に記載の組成物。
【請求項11】
酸化保護遺伝子の発現の改変による、消化器系または中枢神経系の障害または疾患の予防または処置における使用のための、請求項5に記載の魚タンパク質加水分解物粉末または請求項6に記載の組成物
であって、前記酸化保護遺伝子は、赤血球系転写因子2関連転写因子2(Nrf2)および調節される遺伝子セット内に存在する、魚タンパク質加水分解物粉末または組成物。
【請求項12】
酸化保護遺伝子の発現の改変による、消化器系または中枢神経系の障害または疾患の予防または処置における使用のための、請求項5に記載の魚タンパク質加水分解物粉末または請求項6に記載の組成物
であって、前記酸化保護遺伝子は、アポリポプロテインE、サイトグロビン、好酸球ペルオキシダーゼ、フェリチン重鎖ポリペプチド1、グルタミン-システインリガーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ1、グルタチオンシンセターゼ、グルタチオントランスフェラーゼζ1、ヘムオキシゲナーゼ1、マンノース結合レクチン2、メチオニンスルホキシドレダクターゼA、一酸化窒素シンターゼ2、NAD(P)Hデヒドロゲナーゼキノン1、ペルオキシレドキシン5、セレノプロテインS、スーパーオキシドジスムターゼ1、アラキドン酸12-リポキシゲナーゼ、エポキシドヒドロラーゼ2、ミクロソームグルタチオンSトランスフェラーゼ3、ミエロペルオキシダーゼ、好中球サイトゾル因子1、NADPHオキシダーゼ、ペルオキシレドキシン1、プロスタグランジンエンドペルオキシドシンターゼ2、またはスルフィレドキシンである、魚タンパク質加水分解物粉末または組成物。
【請求項13】
前記魚タンパク質材料は、サケ類に由来する、請求項3に記載のプロセス。
【請求項14】
前記魚タンパク質材料は、salmo salarに由来する、請求項13に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は、魚タンパク質加水分解物粉末を生成するための酵素加水分解プロセスに関する。さらに、本発明は、このプロセスによって得られた魚タンパク質加水分解物粉末および医薬としての、好ましくは、消化器系および中枢神経系の酸化的損傷の予防または処置のための上記粉末を含む組成物の使用に関する。
【0002】
本発明は、魚タンパク質加水分解物、ならびに種々の器官および組織において酸化的損傷に対する保護を提供するヒト酸化保護遺伝子の機能を調節することが意図されたその成分ペプチドに関する。より具体的には、本発明は、経口製剤へと組み込まれる、酸化保護遺伝子調節活性を有する1またはこれより多くのペプチド化合物に関する。本発明はまた、有効量の上記魚タンパク質加水分解物またはその成分ペプチドのうちの1もしくはこれより多くを経口摂取する工程を包含する、消化器系および中枢神経系を酸化的損傷から保護するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景:
1またはこれより多くの酸化的ストレス関連遺伝子のアップレギュレート/ダウンレギュレートは、酸化的傷害に曝された組織に細胞保護を付与し得る考えられる機構として提唱されている。分子酸素は、ほぼ全ての真核生物の生存に必須であるが、生理学的条件下でのその処理は、代謝副生成物として、過酸化水素、スーパーオキシド、ペルオキシナイトライト、およびヒドロキシルラジカルのような活性酸素種(ROS)を生成する。適切な防御機構の非存在下において、ROSおよび求電子剤の蓄積は、細胞膜およびDNAの損傷、変異原性、組織の変性、早老、アポトーシス性細胞死およびがんをもたらす[Ward, J. F. (1994) The complexity of DNA damage: relevance to biological consequences. Int. J. Radiat Biol. 66, 427-432 ; Goetz, M. E., and Luch, A. (2008) Reactive species: A cell damaging rout assisting to chemical carcinogens. Cancer Lett. 266, 73-83 ; Strassburg, C. P., Manns, M. P., and Tukey, R. H. (1997) Differential Down-Regulation of the UDP-Glucuronosyltransferase 1A Locus Is an Early Event in Human Liver and Biliary Cancer. Cancer Res. 57, 2979-2985]。
【0004】
この酸化的ストレスと闘うために、哺乳動物細胞は、酸化的ストレス事象の中和、ROSの低減および従って細胞生存の増大をもたらす多くの誘導性保護遺伝子活性化を発生させた[Dhakshinamoorthy, S., Long, D. J., Jaiswal, A. K. (2000) Antioxidant Regulation of Genes Encoding Enzymes That Detoxify Xenobiotics and Carcinogens. Curr. Top. Cell Regul. 36, 201-216 ; Jaiswal, A. K. (2000) Regulation of genes encoding NAD(P)H:quinone oxidoreductases. Free Radic Biol. Med. 29, 254-262]
抗酸化特性を有し、ROSを不活性化することができ、ROSで開始される反応を防止することができる酵素としては、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、およびグルタチオンペルオキシダーゼが挙げられる。それらは、「直接」フェーズ1抗酸化酵素(“direct” Phase 1 antioxidant enzymes)といわれる群に属する[Auten, R. L., O’Reilly, M. A., Oury, T. D., Nozik-Grayck, E., and Whorton, M. H. (2006) Transgenic extracellular superoxide dismutase protects postnatal alveolar epithelial proliferation and development during hyperoxia. Am. J. Physiol. Lung Cell Mol. Physiol. 290, L32-40]。
【0005】
フェーズ2解毒(結合体化)酵素(Phase 2 detoxifying (conjugating) enzyme)は、レドックスバランスおよびチオールホメオスタシスの維持におけるそれらの役割に基づく「間接」抗酸化剤(“indirect” antioxidant)として分類される。それらは、生合成、チオールのリサイクルに寄与し、生体異物解毒のプロセスの間の還元/結合体化反応を通じて、酸化された反応性二次代謝産物(キノン、エポキシド、アルデヒド、およびペルオキシド)の排泄を促進する[Talalay, P., Holtzclaw, W. D., and Dinkova-Kostova, A. T. (2004) Importance of Phase 2 gene regulation in protection against electrophile and reactive oxygen toxicity and carcinogensis. Adv. Enzyme Regul. 44, 335-367]。
【0006】
抗酸化能力を有するフェーズ2酵素としては、グルタチオンSトランスフェラーゼアイソザイムおよびNADP(H):キニンオキシドレダクターゼ(NQO1)、グルタミルシステインリガーゼ(GCLC)、およびUDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)が挙げられる。
【0007】
酸化的ストレスを感知し、適切な防御遺伝子を活性化することを担うシグナル伝達経路は、哺乳動物においてまだ完全に理解されていない。転写因子である赤血球系転写因子2関連転写因子2(Nrf2)は、ROSによって活性化され、酸化的ストレス遺伝子調節において重要な調節因子であるようである。Nrf2は、bZIPタンパク質のCap’n’Collarファミリーのメンバーであり、その2000超の標的遺伝子のプロモーターの中の抗酸化応答エレメント(ARE)を認識する。正常な基底条件下で、Nrf2は、そのインヒビターである細胞骨格関連タンパク質Keap1に結合され、これは、そのプロテアソーム分解を促進することによってNrf2を抑制する[Itoh, K., Wakabayashi, N., Katoh, Y., Ishii, T., Igarashi, K., Engel, J. D., and Yamamoto, M. (1999) Keap1 represses nuclear activation of antioxidant responsive elements by Nrf2 through binding to the amino-terminal Neh2 domain. Genes Dev. 13, 76-86]。抗酸化剤による処置の際に、Nrf2はKeap1から放出され、核へと移動し、続いて、他の転写因子(例えば、Junおよびsmall Maf)とヘテロダイマー化し[Venugopal, R., and Jaiswal, A. K. (1998) Nrf2 and Nrf1 in association with Jun proteins regulate antioxidant response element-mediated expression and coordinated induction of genes encoding detoxifying enzymes. Oncogene 17, 3145-3156 ; Nguyen, T., Sherratt, P. J., and Pickett, C. B. (2003) Regulatory mechanisms controlling gene expression mediated by the antioxidant response element. Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol. 43, 233-260]、抗酸化遺伝子のアップレギュレートを開始する。
【0008】
インビトロ遺伝子発現は、多くの疾患における抗酸化剤の役割を理解するために使用されている。遺伝子発現を使用して、健常喫煙者と比較して、COPD(慢性閉塞性肺疾患)を有する被験体において200の差次的に発言される酸化遺伝子を示し、インビボで観察された酸化応答遺伝子における顕著な変化は、同じドナーに由来する初代気管支上皮細胞を使用してインビトロで再現された[Pierrou, S., Broberg, P., O’Donnell, R.A., Pawlowski, K., Virtala, R., Lindqvist, E. (2007) Expression of Genes Involved in Oxidative Stress Responses in Airway Epithelial Cells of Smokers with Chronic Obstructive Pulmonary Disease. Am. J. of Respiratory and Critical Care Medicine, 175(6), 577-587]。インビトロ遺伝子発現はまた、核の酸化的DNA損傷が、加齢とともに増大するか否か、およびHCECが、酸化的ストレスのそれらの発現およびDNA損傷シグナル伝達遺伝子を、加齢依存性様式においてアップレギュレートさせることによって、この損傷に応答するか否か、を理解するために、ヒト角膜内脾細胞(HCEC)において研究されている[Joyce, N.C., Harris, D.L., Zhu, C.C. Age-Related Gene Response of Human Corneal Endothelium to Oxidative Stress and DNA Damage (2011) Cornea, 52(3), 1641-1649]。試験した84の酸化保護遺伝子のうちの4つが、それらの発現において統計的に顕著な加齢関連の差異を示した。
【0009】
研究はまた、食事が酸化保護遺伝子の調節において役割を果たし得ることを示している。食品に応じて食事関連疾患の分子マーカーを同定することを目指す近年の研究は、RNAの容易に入手可能な供給源としてのインビトロシステムにおけるモデルとして末梢血単核細胞(PBMC)を評価して、個別化肥満処置に関する遺伝子発現シグナチャーを見分けた。体重を減少させるための8週間の低カロリー食(LCD)の前後にPBMCを肥満男性から集めた。上記LCDの前後に遺伝子発現における変化を、qRT-PCRによって検証したところ、いくつかの特異的酸化的ストレスおよび炎症遺伝子における減少を示した[Crujeiras, A., Parra, D., Milagro, F., Goyenechea, E., Larrarte, E., Margareto, J., Martinez, A. (2008) Differential Expression of Oxidative Stress and Inflammation Related Genes in Peripheral Blood Mononuclear Cells in Response to a Low-Calorie Diet: A Nutrigenomics Study. OMICS: A Journal of Integrative Biology, 12(4), 1-12]。
【0010】
酸化保護遺伝子の調節は、特に、経口摂取されるタンパク質加水分解物および魚タンパク質加水分解物によっては報告されていない。生体異物の最初の侵入の主要部位として、口腔および消化管は、ROS能力を有する広い範囲の化合物に連続して曝される。さらに粘膜代謝は、増大した毒性を有する代謝産物をもたらし得、口腔および消化管が酸化的代謝産物、化学的毒性、ならびに潜在的な壊死性大腸炎の感受性を増大させる。この酸化的損傷はまた、中枢神経系の一部としての神経組織における二次的効果として観察され得る。
【0011】
酸化保護遺伝子のアップレギュレーションは、潰瘍性大腸炎およびクローン病のような炎症性腸疾患(IBD)、ならびにパーキンソン病、多発性硬化症およびアルツハイマー病のようなCNS変性疾患の制御において、医学的処置とともに使用され得る、消化器系および中枢神経系に対して保護効果を付与し得る実行可能な生物学的標的である。
【0012】
よって、経口摂取される場合、種々の器官および組織の酸化保護のための摂取することによる処置を開発する必要性がなお存在する。本発明は、この必要性を満たし、さらに関連する利点を提供する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【文献】Ward, J. F. (1994) The complexity of DNA damage: relevance to biological consequences. Int. J. Radiat Biol. 66, 427-432
【文献】Goetz, M. E., and Luch, A. (2008) Reactive species: A cell damaging rout assisting to chemical carcinogens. Cancer Lett. 266, 73-83
【文献】Strassburg, C. P., Manns, M. P., and Tukey, R. H. (1997) Differential Down-Regulation of the UDP-Glucuronosyltransferase 1A Locus Is an Early Event in Human Liver and Biliary Cancer. Cancer Res. 57, 2979-2985
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の要旨
本発明は、種々の器官および組織における酸化的損傷に対して保護を提供する、ヒト酸化保護遺伝子の機能を調節することにおける経口使用のための魚タンパク質加水分解物粉末およびその成分ペプチドを提供する。本発明に従う魚タンパク質加水分解物粉末は、経口製剤に組み込まれる酸化保護遺伝子調節活性を有する1またはこれより多くのペプチド化合物を含む。
【0015】
本発明に従う魚タンパク質加水分解物粉末は、消化器系および中枢神経系を酸化的損傷から保護するための改善された有効性を有する。本発明に従う魚タンパク質加水分解物粉末を含む組成物は、ビタミンE、ビタミンA、ティーツリーオイル(tree tea oil)、緑茶抽出物、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)およびフェルラ酸またはこれらの誘導体などから選択される抗酸化剤またはフリーラジカルスカベンジャーを必要に応じて含み得る。
【0016】
本発明に従う魚タンパク質加水分解物粉末を含む組成物は、このような調製における使用に適した食品グレードの受容可能な成分をさらに含み得、このような成分としては、矯味矯臭剤、乳化剤、界面活性剤、皮膚軟化剤、エッセンシャルオイル、ゲル化剤、保湿剤、着色剤などが挙げられ得る。
【0017】
さらに、本発明に従う魚タンパク質加水分解物粉末を含む組成物は、嚥下に困難があり得る乳児、幼児、成人および高齢の成人の経口送達を容易にする粉末または液剤の形態にあり得る。
【0018】
本発明はまた、消化器系および中枢神経系の、関係する器官および組織に対する酸化的損傷によって潜在的に引き起こされる疾患を処置するための方法を包含する。本発明に従う皮膚組成物は、有効量の魚タンパク質加水分解物またはその成分ペプチドのうちの1もしくはこれより多くを経口摂取することによって、上記消化器系および中枢神経系を酸化的損傷から保護するために使用され得る。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明:
本発明を詳細に記載する前に、本明細書で使用される用語法が、特定の実施形態を記載する目的のために過ぎず、限定することを意図しないことは理解されるべきである。本明細書および添付の請求項において使用される場合、単数形「1つの、ある(a)」、「1つの、ある(an)」、および「上記、その、この(the)」は、状況が別段明らかに示さなければ、複数形への言及を包含することは、注記されなければならない。
【0020】
用語「サケ類(salmonids)」とは、本明細書で使用される場合、Salmonidae科の任意の魚類を意味する。用語「魚タンパク質加水分解物(fish protein hydrolysate)」とは、本明細書で使用される場合、任意の魚類生物またはその一部の酵素加水分解から形成され、得られたペプチドを意味する。用語「酵素加水分解(enzymatic hydrolysis)」とは、本明細書で使用される場合、天然のおよび人工の、固定されたかまたは遊離の、エンドおよびエキソの両方のプロテアーゼ酵素を使用して、成分アミノ酸、ペプチドおよびオリゴペプチドへとタンパク質を分解するプロセスを意味する。用語「エンドおよびエキソ(endo and exo)」とは、本明細書で使用される場合、それぞれ、内部のアミノ酸結合および末端のアミノ酸結合から、タンパク質を加水分解するプロテアーゼ酵素を意味する。用語、タンパク質加水分解物およびタンパク質加水分解物粉末は、本明細書中以降、交換可能に使用される。
【0021】
本発明によれば、経口使用のための、消化器系および中枢神経系を酸化的損傷から保護する魚タンパク質加水分解物粉末および上記粉末を含む組成物が提供される。
【0022】
上記魚タンパク質加水分解物は、1またはこれより多くの生体活性ペプチド化合物、特に、消化器系および中枢神経系に保護を付与する1またはこれより多くの酸化保護遺伝子の発現を調節し得る1またはこれより多くのペプチドを含む。
【0023】
容易に消化されかつ生体利用可能であるタンパク質を送達することにおけるタンパク質加水分解物の使用が、報告されている。しかし、酸化的損傷からの保護を具体的に増大させるこのようなタンパク質加水分解物の使用は、報告されていない。より具体的には、タンパク質加水分解物を介する、Nrf2経路に存在するもののような酸化保護遺伝子を調節し得る、消化管への活性ペプチドの経口送達は、文献中に記載されていない。
【0024】
従って、本発明の一局面は、魚タンパク質加水分解物であって、酸化保護遺伝子(例えば、Nrf2カスケードに見出されるもの)の調節を改変して、消化器系および中枢神経系の保護を提供し、その結果、上記加水分解物で処置されている被験体は、増強された有効性という最大の利益を得る魚タンパク質加水分解物を提供することに関する。
【0025】
本発明に従う加水分解物粉末または組成物は、粉末として調製され、水または任意の他の液体食品(例えば、ジュース、牛乳または発泡性飲料)中の溶液として経口送達される、1またはこれより多くのペプチドを含む魚タンパク質加水分解物を含む。
【0026】
当業者は、タンパク質加水分解物が、酸、塩基および酵素的な手段によって達成され得ること、およびその得られたタンパク質加水分解物が異なる特徴および成分を有することを認識している。さらに、酵素的手段による加水分解は、異なるペプチド成分をもたらし、これらは、元のタンパク質供給源および使用される酵素に依存する。本発明の目的に関しては、上記加水分解は、酵素加水分解に限定されず、上記タンパク質供給源は、魚に限定されず、上記酵素は、プロテアーゼ酵素に限定されない。好ましいタンパク質供給源は、salmonid科の魚、特に、捌いて切り身にするプロセス後に生じるサケ(salmo salar)の切れ端、頭部、背骨、尾部および皮である。好ましい酵素は、微生物供給源から供給され、200~1000ml/gの間のDAPU(界面活性剤アルカリプロテアーゼユニット(detergent alkaline protease units))数または100,000~500,000PC/gの間の測定値の天然プロテアーゼ活性を有するエンドおよびエキソプロテアーゼである。
【0027】
驚くべきことに、本発明に従う酵素加水分解プロセスは、魚タンパク質加水分解物および生物学的に活性である魚タンパク質加水分解物粉末を提供し、医薬として使用され得ることが見出された。
【0028】
従って、本発明の一局面は、魚タンパク質加水分解物粉末を生成するための酵素加水分解プロセスに関し、上記プロセスは、以下の連続する工程を包含する:
i)すり潰した魚タンパク質材料と水とを混合し、加熱する工程;
ii)エンドペプチダーゼ酵素を上記i)の混合物に添加し、撹拌する工程;
iii)カルボキシペプチダーゼの形態にあるエキソペプチダーゼ酵素を上記ii)の混合物に添加し、撹拌する工程;
iv)上記酵素加水分解を熱不活性化によって停止させる工程;
v)上記魚加水分解物画分および残りの固体材料を、濾過によって分離する工程;ならびに
vi)上記魚加水分解物画分を濃縮および乾燥させて、魚タンパク質加水分解物粉末を得る工程。
【0029】
上記魚タンパク質材料は、任意の魚、好ましくは、Salmonid科、特に、サケ(salmo salar)の魚に由来し得る。上記タンパク質材料は、捌いて切り身にするプロセス後に生じる筋、切れ端、頭部、背骨、尾部および皮のような任意の魚材料またはこれらの任意の組み合わせであり得る。
【0030】
上記魚タンパク質材料のすり潰しは、任意の周知の手順によって行われ得る。すり潰した魚質量 対 水の比率は、重量で、1:0.5~1:5の範囲、好ましくは1:1にあり得る。
【0031】
使用されるエンドペプチダーゼ(第1の酵素)は、任意のエンドペプチダーゼまたはこれらの組み合わせであり得る。好ましいエンドペプチダーゼは、ペプシンおよびトリプシンまたはこれらの任意の組み合わせである。
【0032】
使用されるエキソペプチダーゼ(第2の酵素)は、カルボキシペプチダーゼの群から選択され、任意のカルボキシペプチダーゼまたはこれらの組み合わせが、使用され得る。添加されるエンドペプチダーゼおよびエキソペプチダーゼ酵素の量は、魚質量のうちの0.05~1 % wt/wtの範囲にあり得る。
【0033】
本発明に従うプロセスの一実施形態は、aspergillus oryzaeに由来するプロテアーゼ酵素を、上記工程iii)の混合物に添加する第3の加水分解工程をさらに包含する。上記第3のプロテアーゼ酵素は、0.01~0.1% wt/wt 魚質量の比において添加され得る。
【0034】
上記酵素加水分解工程の温度は、上記選択される酵素が活性である都合の良い温度に調節される。好ましくは、上記加水分解工程、すなわち、工程i)~iv)の温度範囲は、35℃~60℃、より好ましくは50℃である。上記第1、第2および第3の酵素の作用の継続時間は、各々について10~30分間であり得る。上記加水分解物混合物を第1、第2および第3の酵素の連続的な添加に供することによって得られるタンパク質加水分解物は、嗜好性の高いかつ生物学的に活性な加水分解物を提供する。上記加水分解物混合物を第1および第2の酵素にのみ供することによって得られるタンパク質加水分解物は、嗜好性が低いが、それでもなお生物学的に活性な加水分解物を提供する。
【0035】
加水分解混合物が第1および第2の酵素にのみ供される場合に、一方または両方の酵素の作用時間は、延長される。一実施形態において、上記第1、第2および第3の酵素の作用時間は、それぞれ、30分間、15分間および10分間である。
【0036】
別の実施形態において、上記第1および第2の酵素の作用時間は、それぞれ、30分間および25分間である。
【0037】
上記酵素加水分解は、熱不活性化によって停止される。すなわち、上記加水分解混合物の温度は、上記酵素がもはや活性でない温度へと上昇される。好ましくは、上記加水分解混合物は、80℃~95℃の範囲、より好ましくは85℃の温度に加熱される。不活性化が十分であるためには、上記温度は、例えば、15分間のような十分な時間にわたって不活性化温度で維持されなければならない。
【0038】
上記タンパク質加水分解物画分および残りの固体材料の分離は、任意の適切な濾過または遠心分離技術によって行われ得る。適切な例は、変動性のメッシュサイズを有する振動ふるいである。濾過後、上記魚タンパク質加水分解物画分を濃縮および乾燥して、最終の魚タンパク質加水分解物粉末を得る。任意の適切な濃縮および乾燥プロセスが使用され得る。例として、上記加水分解物画分は、従来のエバポレーター中で30% 乾燥物へと濃縮され、適切な最終の乾燥物含有量を得るためにスプレー乾燥される。好ましくは、上記魚タンパク質加水分解物粉末は、95~99%、よび好ましくは98%の最終の乾燥物含有量を有する。
【0039】
上記酵素加水分解プロセスは、消泡剤または界面活性剤またはこれらの任意の組み合わせのような処理補助物質(processing aid)をさらに含み得る。
【0040】
本発明の別の局面は、医薬としての使用のための、本発明に従うプロセスによって得られ得る魚タンパク質加水分解物粉末である。
【0041】
本発明に従って提供される魚タンパク質加水分解物粉末の利益は、上記粉末が、非GMO微生物プロテアーゼ酵素を使用する酵素加水分解によって形成されることである。
【0042】
本発明の別の局面は、医薬としての使用のための少なくとも1種の薬理学的に受容可能なキャリアまたは賦形剤と一緒に本発明に従う魚タンパク質加水分解物粉末を含む組成物に関する。
【0043】
一実施形態において、上記組成物は、動物源および植物源またはこれらの任意の組み合わせのさらなるタンパク質およびタンパク質加水分解物をさらに含む。
【0044】
別の実施形態において、上記組成物は、ビタミンE、ビタミンA、ティーツリーオイル、緑茶抽出物、ブチル化ヒドロキシルアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、またはこれらの任意の組み合わせから選択される抗酸化剤またはフリーラジカルスカベンジャーをさらに含む。
【0045】
なお別の実施形態において、上記組成物は、炭水化物、フレーバーおよび甘味料をさらに含む。
【0046】
なお別の実施形態において、上記組成物は、適切な保湿剤または乳化剤またはこれらの任意の組み合わせをさらに含む。
【0047】
驚くべきことに、本発明に従う酵素加水分解プロセスは、生物学的に活性なかつ医薬として使用され得る、魚タンパク質加水分解物および魚タンパク質加水分解物粉末を提供することが見出された。
【0048】
従って、本発明の一実施形態は、消化管の障害または疾患の予防または処置における使用のための、本発明に従う魚タンパク質加水分解物粉末または組成物であって、ここで消化器系の障害または疾患は、胃食道逆流症、胃腸炎、過敏性腸症候群、小腸結腸炎、セリアック病および直腸炎の疾患を含む群から選択されるもの
に関する。
【0049】
本発明の別の実施形態は、神経系の障害または疾患の予防または処置における使用のための、本発明に従う魚タンパク質加水分解物粉末または組成物であって、ここで上記中枢神経系の障害または疾患は、神経変性疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、脳血管障害、脱髄疾患、および精神障害を含む群から選択されるものに関する。
【0050】
本発明の別の実施形態は、酸化保護遺伝子の発現を改変することによる、消化器系または中枢神経系の障害または疾患の予防または処置における使用のための、本発明に従う魚タンパク質加水分解物粉末または組成物に関する。
【0051】
本発明の別の実施形態は、酸化保護遺伝子の発現を改変することによる、消化器系または中枢神経系の障害または疾患の予防または処置における使用のための、本発明に従う魚タンパク質加水分解物粉末または組成物であって、ここで上記酸化保護遺伝子は、赤血球系転写因子2関連転写因子2(Nrf2)および調節される遺伝子セット内に存在するものに関する。
【0052】
本発明の別の実施形態は、酸化保護遺伝子の発現を改変することによる、消化器系または中枢神経系の障害または疾患の予防または処置における使用のための、本発明に従う魚タンパク質加水分解物粉末または組成物であって、ここで上記酸化保護遺伝子は、アポリポプロテインE、サイトグロビン、好酸球ペルオキシダーゼ、フェリチン重鎖ポリペプチド1、グルタミン-システインリガーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ1、グルタチオンシンセターゼ、グルタチオントランスフェラーゼζ1、ヘムオキシゲナーゼ1、マンノース結合レクチン2、メチオニンスルホキシドレダクターゼA、一酸化窒素シンターゼ2、NAD(P)Hデヒドロゲナーゼキノン1、ペルオキシレドキシン5、セレノプロテインS、スーパーオキシドジスムターゼ1、アラキドン酸12-リポキシゲナーゼ、エポキシドヒドロラーゼ2、ミクロソームグルタチオンSトランスフェラーゼ3、ミエロペルオキシダーゼ、好中球サイトゾル因子1、NADPHオキシダーゼ、ペルオキシレドキシン1、プロスタグランジンエンドペルオキシドシンターゼ2、スルフィレドキシンであるものに関する。
【0053】
本発明の他の特長は、例示的実施形態の以下の説明の過程において明らかになる。以下の例示的実施形態は、本発明の例証のために与えられるに過ぎず、その限定であることは意図されない。
【実施例】
【0054】
実施例1 - 本発明に従う生物学的に活性な魚加水分解物粉末の調製
サケタンパク質加水分解物粉末を、捌いて切り身にした後のサケ(salmo salar)頭部および背骨の酵素加水分解によって生成する。1000グラムのすり潰した頭部および背骨を、1000mlの水に添加し、その混合物を50℃に加熱する。これに、10gのエンドペプチダーゼ酵素 - ペプシン -を添加し、30分間撹拌する。これに、10gのエキソペプチダーゼ酵素 - カルボキシペプチダーゼ -をさらに添加し、15分間撹拌する。これに、5グラムの酵素Flavourzyme(R)(aspergillus oryzaeに由来するプロテアーゼ)をさらに添加し、その混合物を10分間撹拌する。次いで、その混合物全体を、85℃に加熱し、上記温度で15分間維持し、濾過する。上記加水分解物画分を、従来のエバポレーター中で30% 乾燥物へと濃縮し、スプレー乾燥して、本発明に従う魚タンパク質加水分解物粉末を、本明細書中の実施例6~11に示される生物学的有効性を有する淡黄色の自由流動粉末として得る。
【0055】
実施例2 - 生物学的効果を有しない魚加水分解物粉末の調製
サケタンパク質加水分解物粉末を、使用されるエキソペプチダーゼが、カルボキシペプチダーゼの代わりにアミノペプチダーゼであることを除いて、上記の実施例1に示されるとおりに生成する。生物学的有効性を有しない粉末を得た(データは示さず)。
【0056】
詳細には; サケタンパク質加水分解物粉末を、捌いて切り身にした後のサケ(salmo salar)の頭部および背骨の酵素加水分解によって生成する。1000グラムのすり潰した頭部および背骨を、1000mlの水に添加し、その混合物を50℃に加熱する。これに、10gのエンドペプチダーゼ酵素 - ペプシン -を添加し、30分間撹拌する。これに、10gのエキソペプチダーゼ酵素 - アミノペプチダーゼ -をさらに添加し、15分間撹拌する。これに、5グラムの酵素Flavourzyme(R)をさらに添加し、その混合物を10分間撹拌する。次いで、その混合物全体を、85℃に加熱し、上記温度で15分間維持し、濾過する。その水層を、従来のエバポレーター中で30% 乾燥物へと濃縮し、スプレー乾燥して、生物学的有効性を有しない粉末を得る。
【0057】
実施例3 - 生物学的効果を有しない魚加水分解物粉末の調製
サケタンパク質加水分解物粉末を、エキソペプチダーゼ(カルボキシペプチダーゼ)が、エンドペプチダーゼの前に添加されることを除いて、上記の実施例1に示されるとおりに生成する。生物学的有効性を有しない粉末を得た(データは示さず)。
【0058】
詳細には; サケタンパク質加水分解物粉末を、捌いて切り身にした後のサケ(salmo salar)頭部および背骨の酵素加水分解によって生成する。1000グラムのすり潰した頭部および背骨を、1000mlの水に添加し、その混合物を50℃に加熱する。これに、10gのエキソペプチダーゼ酵素 - カルボキシペプチダーゼ-を添加し、30分間撹拌する。これに、10gのエンドペプチダーゼ酵素 - ペプシン -をさらに添加し、15分間撹拌する。これに、5グラムの酵素Flavourzyme(R)をさらに添加し、その混合物を10分間撹拌する。次いで、その混合物全体を、85℃に加熱し、上記温度で15分間維持し、濾過する。その水層を、従来のエバポレーター中で30% 乾燥物へと濃縮し、スプレー乾燥して、生物学的有効性を有しない粉末を得る。
【0059】
実施例4 - 本発明に従う生物学的に活性な魚加水分解物粉末の調製
サケタンパク質加水分解物粉末を、第3の酵素の添加を省略し、エキソペプチダーゼの作用時間を延長することを除いて、上記の実施例1に示されるとおりに生成する。本明細書中の実施例6~11に示される生物学的有効性を有する粉末を得た。
【0060】
詳細には; サケタンパク質加水分解物粉末を、捌いて切り身にした後のサケ(salmo salar)の頭部および背骨の酵素加水分解によって生成する。1000グラムのすり潰した頭部および背骨を、1000mlの水に添加し、その混合物を50℃に加熱する。これに、10gのエンドペプチダーゼ酵素 - ペプシン -を添加し、30分間撹拌する。これに、10gのエキソペプチダーゼ酵素 - カルボキシペプチダーゼ -をさらに添加し、25分間撹拌する。次いで、その混合物全体を、85℃に加熱し、上記温度で15分間維持し、濾過する。その水層を、従来のエバポレーター中で30% 乾燥物へと濃縮し、スプレー乾燥して、本発明に従う魚タンパク質加水分解物粉末を、本明細書中の実施例6~11に示される生物学的有効性を有する淡黄色の自由流動粉末として得る。
【0061】
実施例5 - 本発明に従う生物学的に活性な魚加水分解物粉末の調製
サケタンパク質加水分解物粉末を、使用されるエンドペプチダーゼ酵素が、ペプシンの代わりにトリプシンであることを除いて、上記の実施例1に示されるとおりに生成する。本明細書中の実施例6~11に示される生物学的有効性を有する粉末を得た。
【0062】
詳細には; サケタンパク質加水分解物粉末を、捌いて切り身にした後のサケ(salmo salar)の頭部および背骨の酵素加水分解によって生成する。1000グラムのすり潰した頭部および背骨を、1000mlの水に添加し、その混合物を50℃に加熱する。これに、10gのエンドペプチダーゼ酵素 - トリプシン -を添加し、30分間撹拌する。これに、10gのエキソペプチダーゼ酵素 - カルボキシペプチダーゼ -をさらに添加し、15分間撹拌する。これに、5グラムの酵素Flavourzyme(R)をさらに添加し、その混合物を10分間撹拌する。次いで、その混合物全体を、85℃に加熱し、上記温度で15分間維持し、濾過する。その水層を、従来のエバポレーター中で30% 乾燥物へと濃縮し、スプレー乾燥して、本明細書中の実施例6~11に示される生物学的有効性を有する所望の粉末を得る。
【0063】
上記の実施例によって、驚くべきことに、上記加水分解酵素を添加する順番および上記酵素の性質が、生物学的に効率的な加水分解物粉末を得るために重要であることが示された。上記魚タンパク質材料は、エンドペプチダーゼに最初に供され、その後、カルボキシペプチダーゼの形態にあるエキソペプチダーゼに供される。上記エンドペプチダーゼの性質は、余り重要ではないことが示された。必要に応じて、上記加水分解物は、改善された嗜好性を有する加水分解物を得るために、aspergillus oryzaeに由来する第3のプロテアーゼに供され得る。
【0064】
以下の実施例6~11において、本発明に従うプロセスによって得られたサケタンパク質加水分解物粉末(本明細書中以降、SPHとして特定される)の生物学的活性を試験した。
【0065】
実施例6
本発明に従うサケタンパク質加水分解物粉末(SPH)を、以下の実験において試験した。HGEPp細胞(プールした初代ヒト歯肉上皮細胞)を、CellnTec Advanced Cell Systems AGから購入した。The RNEasy Plus Micro Kit、RNase-free DNase Set、RT2 Easy First Strand Kit(DNA generator)およびRT2 SYBR(登録商標) Green fluor qPCRマスターミックスを、Qiagen N.V., USAから購入した。Oxidative Stress RT2プロファイラーPCRアレイ(84種の保護遺伝子)を、Qiagen N.V., USAから購入した。Bio-Rad Inc., USAのThe iCycler PCRシステムを、RT-PCRのために使用した。
【0066】
プールした初代HGEPp細胞を、CellnTecによって提供されるCnT-Prime上皮培養培地の中で、ダルベッコのリン酸緩衝化生理食塩水(DPBS)中で希釈した30mg/ml I型ラットテールコラーゲン(BD Biosciences)を被覆した100mmペトリ皿上で増殖させた。2.5×104 細胞/cm2の細胞密度を使用して、細胞単層を増殖させ、37℃において一晩馴化した。
【0067】
上記HGEPp細胞を、4×60mm NuncTM Cell Cultureディッシュにおいて2.5×104 細胞/cm2 密度で増殖させた。SPH 100mM DMSOストック懸濁物を調製した。さらなる希釈物、25μM/ml、50μM/ml、および100μM/mlのSPHを調製した。全ての投与液剤は、0.3%のDMSO(これは、HGEPp細胞に関して0.8%の最大寛容DMSO濃度未満である)を含んだ。
【0068】
ディッシュ細胞濃度を、2.5×105/mlであるように選択して、両方の細胞株のコントロール曲線の直線部分内のOD吸光度を得た。6枚のHGEPpおよび細胞培養ディッシュを、24時間、25μg/mL、50μg/mLおよび100μg/mL濃度のSPHとともに(二連で)37℃において前処理した。各細胞株に関して1枚の細胞培養ディッシュを、24時間、DMSOブランク溶液で37℃において前処理した。
【0069】
The RNeasy UCP Micro Kitを、両方のHGEPp処理細胞からmRNAを精製するために使用した。廃棄および洗浄処理後に、上記細胞を、遠心分離チューブ中で、1000 RPMにおいて5分間遠心分離することによってペレット化した。上清を全て吸引によって注意深く除去し、細胞培地全てが完全に除去されていることを確実にした。350μl 緩衝液RULTを添加して、上記チューブから細胞ペレットを緩めるように注意を払うことによって上記細胞を破壊し、ボルテックスにかけて完全に混合し、RNase非含有シリンジに嵌めた20ゲージ針に溶解物を5回通すことによって、その混合物をホモジナイズした。350μlの70% エタノールを上記溶解物に添加し、ピペット操作することによって再び混合した。形成されている可能性のある任意の沈殿物を含むそのサンプルを、2ml 回収チューブに配置したRNeasy UCP MinEluteスピンカラムに移し、10,000rpmにおいて15秒間遠心分離した。最後に、16μl 超純水(ultra-clean water)で溶離して、20μl(4μg) RNA溶離液を得た。
【0070】
上記の7つの処理の各々に由来するRNAサンプルを、40μlの緩衝液GE2(gDNA排除緩衝液)およびRNase非含有H2Oに添加して、最終容積60μlにした。37℃において5分間インキュベートし、直ぐに氷上に2分間置いた。62μlのBC5 Reverse Transcriptase Mixを各60μl RNAサンプルに最終容積102μlになるように添加した。42℃において正確に15分間インキュベートし、直後に、95℃において5分間加熱することによって反応を停止させた。サンプルは、PCRの準備ができている。
【0071】
RT-PCRを使用して、実施例3に示されるように、25μg/ml、50μg/mlおよび100μg/mlのSPHで24時間前処理したHIEC-6細胞において、酸化的ストレスに関する84種の遺伝子の発現レベルを分析した。遺伝子発現を、Ct値を使用して比較し、その結果を、5種の共通する遺伝子(ACTB、B2M、GAPDH、HPRT、およびRPL13A)の平均発現レベルに対して正規化して、ΔΔ Ct法を使用して計算した。
【0072】
試験遺伝子およびハウスキーピング遺伝子の96ウェルアレイの選択を、以下に示す。
【0073】
抗酸化剤
グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx):
GPX1、GPX2、GPX3、GPX4、GPX5、GPX6、GPX7、GSTP1、GSTZ1。
ペルオキシレドキシン(TPx):
PRDX1、PRDX2、PRDX3、PRDX4、PRDX5、PRDX6。
他のペルオキシダーゼ:
CAT、CYBB、CYGB、DUOX1、DUOX2、EPX、LPO、MGST3、MPO、PTGS1(COX1)、PTGS2(COX2)、PXDN、TPO、TTN。
他の抗酸化剤:
ALB、APOE、GSR、MT3、SOD1、SOD3、SRXN1、TXNRD1、TXNRD2、VIMP。
【0074】
活性酸素種(ROS)代謝
スーパーオキシドジスムターゼ(SOD):
SOD1、SOD2、SOD3。
他のスーパーオキシド代謝遺伝子:
ALOX12、CCS、DUOX1、DUOX2、GTF2I、MT3、NCF1、NCF2、NOS2、NOX4、NOX5、PREX1、UCP2。
他の活性酸素種(ROS)代謝遺伝子:
AOX1、BNIP3、EPHX2、MPV17、SFTPD。
酸化的ストレス応答遺伝子:
APOE、ATOX1、CAT、CCL5、CYGB、DHCR24、DUOX1、DUOX2、DUSP1、EPX、FOXM1、FTH1、GCLC、GCLM、GPX1、GPX2、GPX3、GPX4、GPX5、GPX6、GPX7、GSR、GSS、HMOX1、HSPA1A、KRT1、LPO、MBL2、MPO、MSRA、NQO1、NUDT1、OXR1、OXSR1、PDLIM1、PNKP、PRDX2、PRDX5、PRDX6、PRNP、RNF7、SCARA3、SEPP1、SIRT2、SOD1、SOD2、SQSTM1、SRXN1、STK25、TPO、TTN、TXN、TXNRD1、TXNRD2、VIMP。
【0075】
酸素トランスポーター
CYGB、MB
【0076】
実施例7
本発明に従うサケタンパク質加水分解物粉末(SPH)を、以下の実験において試験した。HIEC-6細胞(ヒト腸上皮細胞)を、ATCC, USAから購入した。The RNEasy Plus Micro Kit、RNase-free DNase Set、RT2 Easy First Strand Kit(DNA generator)およびRT2 SYBR(登録商標) Green fluor qPCRマスターミックスを、Qiagen N.V., USAから購入した。Oxidative Stress RT2プロファイラーPCRアレイ(84種の保護遺伝子)を、Qiagen N.V., USAから購入した。Bio-Rad Inc., USAのThe iCycler PCRシステムをRT-PCRのために使用した。
【0077】
HIEC-6(ATCC CRL-3266)細胞を、20mM HEPES、10mM GlutaMAX、10ng/ml 上皮成長因子(EGF)および最終濃度4%までのウシ胎仔血清を有するOptiMEM 1低減血清培地(Gibcoカタログ番号31985)中、100mmペトリ皿上で増殖させた。細胞密度1×105 細胞/cm2を使用して、細胞単層を増殖させ、37℃において一晩馴化した。
【0078】
上記HIEC-6細胞を、4×60mm NuncTM Cell Cultureディッシュ中で増殖させた。SPH 100mM DMSOストック懸濁物を調製した。25μM/ml、50μM/ml、および100μM/mlのSPHのさらなる希釈物を調製した。全ての投与液剤は、0.3%のDMSO(これは、HIEC-6細胞に関して0.8%の最大寛容DMSO濃度未満である)を含んだ。
【0079】
ディッシュ細胞濃度を、2.5×105/mlであるように選択して、両方の細胞株のコントロール曲線の直線部分内のOD吸光度を得た。次いで、6枚のHIEC-6細胞培養ディッシュを、24時間、25μg/mL、50μg/mLおよび100μg/mL濃度のSPHとともに(二連で)37℃において前処理した。各細胞株に関して1枚の細胞培養ディッシュを、24時間、DMSOブランク溶液で37℃において前処理した。
【0080】
The RNeasy UCP Micro Kitを、両方のHGEPp処理細胞からmRNAを精製するために使用した。廃棄および洗浄処理後に、上記細胞を、遠心分離チューブ中で、1000 RPMにおいて5分間遠心分離することによってペレット化した。上清を全て吸引によって注意深く除去し、細胞培地全てが完全に除去されていることを確実にした。350μl 緩衝液RULTを添加して、上記チューブから細胞ペレットを緩めるように注意を払うことによって上記細胞を破壊し、ボルテックスにかけて完全に混合し、RNase非含有シリンジに嵌めた20ゲージ針に溶解物を5回通すことによって、その混合物をホモジナイズした。350μlの70% エタノールを上記溶解物に添加し、ピペット操作することによって再び混合した。形成されている可能性のある任意の沈殿物を含むそのサンプルを、2ml 回収チューブに配置したRNeasy UCP MinEluteスピンカラムに移し、10,000rpmにおいて15秒間遠心分離した。最後に、16μl 超純水で溶離して、20μl(4μg) RNA溶離液を得た。
【0081】
上記の7つの処理の各々に由来するRNAサンプルを、40μlの緩衝液GE2(gDNA排除緩衝液)およびRNase非含有H2Oに添加して、最終容積60μlにした。37℃において5分間インキュベートし、直ぐに氷上に2分間置いた。62μlのBC5 Reverse Transcriptase Mixを各60μl RNAサンプルに最終容積102μlになるように添加した。42℃において正確に15分間インキュベートし、直後に、95℃において5分間加熱することによって反応を停止させた。サンプルは、PCRの準備ができている。
【0082】
RT-PCRを使用して、実施例3に示されるように、25μg/ml、50μg/mlおよび100μg/mlのSPHで24時間前処理したHIEC-6細胞において、酸化的ストレスに関する84種の遺伝子の発現レベルを分析した。遺伝子発現を、Ct値を使用して比較し、その結果を、5種の共通する遺伝子(ACTB、B2M、GAPDH、HPRT、およびRPL13A)の平均発現レベルに対して正規化して、ΔΔ Ct法を使用して計算した。
【0083】
実施例8
アップレギュレートされた酸化的ストレス遺伝子
SPHでのHGEPp細胞の処理は、16種のヒト酸化的ストレス関連遺伝子 - APOE、CYGB、EPX、FTH1、GCLC、GPX1、GSR、GSTZ1、HMOX1、MBL2、MSRA、NOS2、NQO1、PRDX5、SELS、SOD1に関して2より高い倍率変化を有するアップレギュレーションを示した一方で、SPHでのHIEC-6細胞の処理は、100μM/ml SPH濃度において11種のヒト酸化的ストレス関連遺伝子 - APOE、EPX、FTH1、GCLC、GSS、HMOX1、MBL2、NOS2、NQO1、PRDX5、SOD1の2より高い倍率変化を有するアップレギュレーションを示した(表1および2)。上記DMSOブランク処理は、上記アレイにおいていかなる遺伝子の調節におけるいかなる変化も示さなかった。10種の遺伝子が、両方の細胞株において共通するアップレギュレーションを示した - APOE、EPX、FTH1、GCLC、HMOX1、MBL2、NOS2、NQO1、PRDX5、SOD1。
表1 SPH処理後のHGEPp細胞におけるアップレギュレートされた酸化的ストレス関連遺伝子
【表1-1】
【表1-2】
表2 SPH処理後のHIEC-6細胞においてアップレギュレートされた酸化的ストレス関連遺伝子
【表2-1】
【表2-2】
【0084】
ダウンレギュレートされた酸化的ストレス遺伝子
SPHでのHGEPp細胞の処理は、9種のヒト酸化的ストレス関連遺伝子 - ALOX12、EPHX2、MGST3、MPO、NCF1、NOX5、PRDX1、PTGS2、SRXN1の50%未満の倍率変化を有するダウンレギュレーションを示した一方で、SPHでのHIEC-6細胞の処理は、100μM/ml SPH濃度において7種のヒト酸化的ストレス関連遺伝子(ALOX12、MGST3、MPO、NCF1、NOX5、PTGS2、SRXN1)に関して50%未満の倍率変化を有するダウンレギュレーションを示した(表3および4)。7種の共通する遺伝子は、両方の細胞株においてダウンレギュレーションを示した - ALOX12、MGST3、MPO、NCF1、NOX5、PTGS2、SRXN1。
表3 SPH処理後のHGEPp細胞におけるダウンレギュレートされた酸化的ストレス関連遺伝子
【表3-1】
【表3-2】
表4 SPH処理後のHIEC-6細胞におけるダウンレギュレートされた酸化的ストレス関連遺伝子
【表4】
【0085】
用量依存性応答遺伝子
さらに2種のアップレギュレートされた遺伝子、HGEPp細胞におけるFTH1およびHMOX1、ならびに3種のアップレギュレートされた遺伝子、HIEC-6細胞におけるAPOE、FTH1およびHMOX1は、25μM/mlおよび50μM/mlの2種の低用量のSPH処理において、用量依存性結果を示した。ALOX12遺伝子は、HGEP細胞およびHIEC-6細胞の両方において用量依存性ダウンレギュレーションを示した(表5)。他の遺伝子のいずれも、SPH濃度を50μM/mlおよび25μM/mlに低減した場合に、アップレギュレーションにおける2より高い倍率変化も、ダウンレギュレーションにおける50%未満の倍率変化も示さなかった。
表5 HGEP細胞およびHIEC-6細胞の両方におけるSPH用量依存性遺伝子調節
【表5】
実施例9
【0086】
正常な細胞成長および増殖には、鉄が要求される。しかし、過剰な鉄は潜在的に有害である。なぜならそれは、毒性の活性酸素種(ROS)の形成を触媒し得るからである。従って、細胞は、細胞内鉄レベルを制御するために高度に調節された機構を進化させた。これらの中の主たるものは、鉄の隔離である。上記FTH1遺伝子は、鉄の食事供給源から可溶性および非毒性状態にある遊離鉄を隔離する、ヒトにおける主要な細胞内鉄貯蔵タンパク質であるフェリチンの重鎖サブユニットをコードする。以前の研究から、フェリチンの両方のサブユニットの増大した合成が、酸化的ストレスに曝された場合に起こることが示されている。フェリチンHまたはL過剰発現は、酸化チャレンジに応じて、ROSの蓄積を低減した。
【0087】
実施例3は、FTH1のアップレギュレーションが、単独で酸化チャレンジに応じている必要はなく、サケタンパク質加水分解物に存在する特異的アクチベーターペプチドによって誘導され得ることを示す。FTH1増大は、パーキンソン病のような神経学的障害の保護効果を生じることが示されている(Rhodes, S.L., Ritz, B. (2008) Genetics of iron regulation and the role of iron in Parkinson’s Disease Neurobiology of Disease, 32(2), 183-195)。
【0088】
実施例10
HMOX1遺伝子発現は、酸化的ストレスによって誘導され、細胞保護を付与するようである。得られたHO1酵素は、ヘムの分解を触媒し、これはビリベルジン、第1鉄、および一酸化炭素を生じる。それは、α-メチレン架橋においてヘム環を開裂して、ビリベルジンを形成し、ビリベルジンは、ビリベルジンレダクターゼによってビリルビンに変換される。ヘムオキシゲナーゼ反応から放出された一酸化炭素はまた、血管緊張および一酸化窒素シンターゼの機能に影響を及ぼすことが示されている。
【0089】
実施例3において本発明において認められるとおりのHMOX1のアップレギュレーションは、サケタンパク質加水分解物が、経腸的に与えられた場合、GI管において損傷を低減し、新生児腸炎症疾患、壊死性小腸結腸炎(NEC)の処置に使用される能力を有することを示す。HO-1欠損症は、NEC発生の増大をもたらすことが示されているが、HO-1誘導はTreg/Teff比を増大し、動物モデルにおいてNEC発生を防止した[Schulz, S., Chisholm, K.M.,, Zhao, H., Kalish, F., Yang, Y., Wong, R.J., Stevenson, D.K. (2015) Heme oxygenase-1 confers protection and alters T-cell populations in a mouse model of neonatal intestinal inflammation. Pediatr Res. 77(5), 640-648]。
【0090】
実施例3におけるサケタンパク質加水分解物によって示されるとおりのHO-1発現をアップレギュレートする能力が、心血管疾患、腎移植、壊死性小腸結腸炎のような他の多くの疾患において重要な保護因子であることもまた、研究によって示されている[Otterbein, L.E., Soares, M.P., Yamashita, K., Bach, F.H. (2003) Heme oxygenase-1: unleashing the protective properties of heme. Trends in Immunology 24(8), 449-455]。
【0091】
実施例11
メタボリックシンドロームは、以下の医学的状態: 異常な(中心性)肥満、血圧の上昇、絶食時血漿グルコースの上昇(または明らかな糖尿病(overt diabetes))、高血清トリグリセリド、および低い高密度リポタンパク質(HDL)レベルのうち、少なくとも3/5がまとまって起こる場合に使用される用語である
【0092】
ALOX12(リポキシゲナーゼタイプの酵素)は、ALOX12遺伝子によってコードされ、AAを、炎症性応答およびメタボリックシンドロームに関与する15(S)-HETE(ホルモン様自己分泌および傍分泌シグナル伝達因子)へと代謝するその能力によって特徴づけられる。上昇したALOX12レベルは、1型糖尿病に、肥満性の糖尿病患者の白色脂肪組織の脂肪細胞に、ならびに活性酸素種および炎症の過剰生成に関係があるとされている[Kuhn, H., Banthiya, S., van Leyen, K. (2015) Mammalian lipoxygenases and their biological relevance. Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Molecular and Cell Biology of Lipids. 1851(4), 308-330]。実施例3に認められるとおりのSPHによるALOX12およびその代謝産物のダウンレギュレーションを使用して、肥満、糖尿病、高血圧、および/またはメタボリックシンドロームの阻止に寄与し得る。
【0093】
よって、アミノ酸、ペプチド、オリゴペプチドを含む、本発明に従う魚タンパク質加水分解物粉末が、いくつかの酸化保護遺伝子(特に、FTH1およびHMOX1遺伝子)の顕著なアップレギュレーション、ならびにいくつかの炎症促進性遺伝子(特に、ALOX12遺伝子)のダウンレギュレーションを示すことが認められ得る。その組み合わさった効果は、酸化的損傷からの保護を付与することが公知であり、本発明の魚タンパク質加水分解物が経口製剤として送達される場合、それは、消化器系および中枢神経系の障害(例えば、過敏性腸症候群、大腸炎、パーキンソン病、およびアルツハイマー病)からの保護を提供する。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
魚タンパク質加水分解物粉末を生成するための酵素加水分解プロセスであって、前記プロセスは、以下の連続する工程:
i)魚タンパク質材料に由来するすり潰した副生成物と水とを混合し、加熱する工程;
ii)エンドペプチダーゼ酵素を前記i)の混合物に添加し、撹拌する工程;
iii)カルボキシペプチダーゼの形態にあるエキソペプチダーゼ酵素を、前記ii)の混合物に添加し、撹拌する工程;
iv)前記酵素加水分解を熱不活性化によって停止させる工程;
v)前記魚加水分解物画分および残りの固体材料を、濾過によって分離する工程;ならびに
vi)前記魚加水分解物画分を濃縮および乾燥させて、魚タンパク質加水分解物粉末を得る工程、
を包含するプロセス。
(項目2)
前記プロセスは、aspergillus oryzaeに由来するプロテアーゼ酵素を、前記iii)の混合物に添加し、撹拌する工程という第3の加水分解工程をさらに包含する、項目1に記載のプロセス。
(項目3)
前記魚タンパク質材料は、魚類、好ましくはサケ類、より好ましくはsalmo salarに由来する、項目1に記載のプロセス。
(項目4)
前記エンドペプチダーゼは、ペプシンまたはトリプシン、またはこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、項目1に記載のプロセス。
(項目5)
医薬としての使用のための、項目1~4のいずれかに記載のプロセスによって得られ得る、魚タンパク質加水分解物粉末。
(項目6)
項目5に記載の魚タンパク質加水分解物粉末を、医薬としての使用のための少なくとも1種の薬理学的に受容可能なキャリアまたは賦形剤を一緒に含む組成物。
(項目7)
消化器系または中枢神経系の障害または疾患の予防または処置における使用のための、項目5に記載の魚タンパク質加水分解物粉末または項目6に記載の組成物。
(項目8)
前記消化器系の障害または疾患は、胃食道逆流症、胃腸炎、過敏性腸症候群、小腸結腸炎、セリアック病および直腸炎の疾患を含む群より選択される、消化器系の障害または疾患の予防または処置における使用のための、項目5に記載の魚タンパク質加水分解物粉末または項目6に記載の組成物。
(項目9)
前記中枢神経系の障害または疾患は、神経変性疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、脳血管障害、脱髄疾患、および精神障害を含む群から選択される、神経系の障害または疾患の予防または処置における使用のための、項目5に記載の魚タンパク質加水分解物粉末または項目6に記載の組成物。
(項目10)
酸化保護遺伝子の発現の改変による、消化器系または中枢神経系の障害または疾患の予防または処置における使用のための、項目5に記載の魚タンパク質加水分解物粉末または項目6に記載の組成物。
(項目11)
前記酸化保護遺伝子は、赤血球系転写因子2関連転写因子2(Nrf2)および調節される遺伝子セット内に存在する、酸化保護遺伝子の発現の改変による、消化器系または中枢神経系の障害または疾患の予防または処置における使用のための、項目5に記載の魚タンパク質加水分解物粉末または項目6に記載の組成物。
(項目12)
前記酸化保護遺伝子は、アポリポプロテインE、サイトグロビン、好酸球ペルオキシダーゼ、フェリチン重鎖ポリペプチド1、グルタミン-システインリガーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ1、グルタチオンシンセターゼ、グルタチオントランスフェラーゼζ1、ヘムオキシゲナーゼ1、マンノース結合レクチン2、メチオニンスルホキシドレダクターゼA、一酸化窒素シンターゼ2、NAD(P)Hデヒドロゲナーゼキノン1、ペルオキシレドキシン5、セレノプロテインS、スーパーオキシドジスムターゼ1、アラキドン酸12-リポキシゲナーゼ、エポキシドヒドロラーゼ2、ミクロソームグルタチオンSトランスフェラーゼ3、ミエロペルオキシダーゼ、好中球サイトゾル因子1、NADPHオキシダーゼ、ペルオキシレドキシン1、プロスタグランジンエンドペルオキシドシンターゼ2、スルフィレドキシンである、酸化保護遺伝子の発現の改変による、消化器系または中枢神経系の障害または疾患の予防または処置における使用のための、項目5に記載の魚タンパク質加水分解物粉末または項目6に記載の組成物。