(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】眼に装着可能な治療デバイス、ならびに関連するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61F 9/007 20060101AFI20240123BHJP
A61B 3/16 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
A61F9/007 170
A61B3/16
(21)【出願番号】P 2020571677
(86)(22)【出願日】2019-06-19
(86)【国際出願番号】 US2019037927
(87)【国際公開番号】W WO2019246216
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-06-10
(32)【優先日】2018-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520497472
【氏名又は名称】トゥウェンティ トゥウェンティ セラピューティクス エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】グティアレズ、クリスチャン
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-168703(JP,A)
【文献】特開昭57-206424(JP,A)
【文献】特表2017-534425(JP,A)
【文献】米国特許第06939299(US,B1)
【文献】特表2017-520337(JP,A)
【文献】特表2016-521377(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
A61F 9/008
A61B 3/10
A61B 3/16
A61B 34/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼に装着可能なデバイスであって、
患者の眼に配置されるように構成された眼への取り付け面を有する
可撓性基板と、
共振インピーダンスセンサであって、
前記可撓性基板の外周と同心円状に環状の可撓性インダクタループを有し、当該環状の可撓性インダクタループの変化に基づいて或る時点での患者の眼の状態
に関連した測定値を取得するように動作する
ものであり、この共振インピーダンスセンサは
前記可撓性基板に結合されているものである、前記共振インピーダンスセンサと、
前記
可撓性基板に結合された治療薬送達アセンブリと、
前記共振インピーダンスセンサおよび前記治療薬送達アセンブリと通信して治療薬送達の時間的モデルを実行するプロセッサであって、
前記時間的モデルは眼の状態の目標測定値を有するものであり、このプロセッサは、
前記或る時点での前記眼の状態に関連した測定値を前記共振インピーダンスセンサから受け取り、
前記或る時点での前記眼の状態に関連した測定値と前記或る時点での眼の状態の測定値間の関係に基づいて、前記或る時点での前記眼の状態の測定値を決定し、
前記或る時点での前記眼の状態の測定値と前記状態の前記目標測定値とを比較し、
前記眼の状態の測定値と前記眼の状態の目標測定値との間の差および前記時間的モデルに基づいて前記治療薬送達アセンブリから放出する治療薬の量を決定し、
前記治療薬送達アセンブリを動作させて前記患者の眼に前記量の前記治療薬を投与する
ように構成されている、前記プロセッサと
を有するデバイス。
【請求項2】
請求項1に記載のデバイスにおいて、前記
可撓性基板はコンタクトレンズを有するものである、デバイス。
【請求項3】
請求項1に記載のデバイスにおいて、前記治療薬送達アセンブリは、1若しくはそれ以上の治療薬リザーバと、前記1若しくはそれ以上の治療薬リザーバのそれぞれに結合された幅薄なフィルムとを有し、前記幅薄なフィルムは、前記プロセッサによって制御され、開かれて治療薬を前記患者の眼に放出するように動作するものである、デバイス。
【請求項4】
請求項1に記載のデバイスにおいて、前記時間的モデルは適応型ニューラルネットワークによって生成および維持されるものであり、および/または前記時間的モデルは送達スケジュールを有するものである、デバイス。
【請求項5】
請求項1に記載のデバイスにおいて、前記
共振インピーダンスセンサおよび前記治療薬送達アセンブリは、閉ループで動作するように構成されている、デバイス。
【請求項6】
請求項1に記載のデバイスにおいて、前記環状の可撓性インダクタループは、前記患者の眼の眼圧変化に基づいて増減するように構成された可変な直径を有するものあり、且つコンデンサに結合されて前記プロセッサと通信する共振回路を形成するものであり、前記プロセッサは前記共振回路から共振を受け、前記環状の可撓性インダクタループの前記可変な直径に基づく前記共振に基づいて、前記眼圧を測定するように構成されている、デバイス。
【請求項7】
請求項1に記載のデバイスにおいて、前記時間的モデルは前記患者に対応する生理学的データに基づくものである、デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年6月19日に出願された米国仮特許出願第62/686,780号および2019年6月18日に出願された米国特許出願第16/444,538号の優先権およびその利益を主張するものであり、それら両方の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、概して着用可能な生理学的センサおよび治療デバイスに関し、特に、患者の眼の生理学的状態の測定値を取得し、その取得された測定値に基づいて治療薬を投与するように構成された眼に装着可能なセンサに関する。
【背景技術】
【0003】
原発性開放隅角緑内障(Diagnostic Primary open-angle glaucoma:POAG)の兆候は一般的に眼圧(intraocular pressure:IOP)を所謂「目標圧力」に下げることによって管理される。しかしながら、IOPは24時間の概日周期で一日を通して変動するため、この圧力を特定することは困難である。これらのリズムが薬剤ベースの治療パラダイムの有効性に及ぼす影響を理解するために行われたことはほとんどない。緑内障患者のIOPの調節不全は、圧力上昇以外にも健常者との毎日の概日周期の違いも含むことがある。
【0004】
臨床医等は当初、IOPのレベルは朝に最も高く、午後遅くになるにつれ低くなり、夜に最も低いと考えていた。この考えは臨床的な結果を有していた。IOPは日中、特に患者が臨床検査に参加していた朝にのみ測定されたため、ベータ遮断薬などの房水(AH)生成を阻害する薬剤を用いて、この特定のIOPプロファイルに対処する治療法が開発されてきた。しかしながら、その後、かなりの数の緑内障患者において24時間のIOP値が夜間に減少するものの、他の健常者と緑内障患者とではそのIOP曲線の形状が異なることが実証された。
【0005】
例えば、
図1は、健康な患者と緑内障を患う患者の眼圧(IOP)測定値のグラフ表示を示す。第1のプロット12は約24時間にわたる健康な患者のIOP測定値を表し、第2のプロット14は同期間にわたる緑内障を患う患者のIOP測定値を表す。健康な患者と緑内障患者双方の概日リズムは、「睡眠」期間中、IOPの相対的な増加として観察することができる。「覚醒」期間中、すなわち午前6時30分から午後10時30分頃の間、健康な患者のIOPと緑内障患者のIOPとの間の差が増大する。「睡眠」期間中、健康な患者のIOPと緑内障患者のIOPの差は減少する。IOPは、若年者では睡眠の開始時に急激に増加し、高齢者では一晩にわたり徐々に増加することがある。さらに、夜間のIOPは、若年者と高齢者の双方で日中のIOPよりも高いことが測定されている。緑内障患者は午前5時30分から7時30分までの間にIOPの更なる増加を示したが、健常者はIOPの減少を経験したことも報告されている。この考えは、緑内障患者のIOPの調節が、単なる圧力上昇よりも複雑な状況で健常者に見られるものとは異なるという結論を支持するものである。
【0006】
IOPを治療および/または調節するために様々な治療アプローチが適用されてきた。今日まで、大まかなスケジュール(例えば、朝および/または夕方)で処方される局所点眼薬の適用は、疾患の段階に関係なくIOPを低下させる主要な手段となってきた。緑内障患者のIOPをより良く調節するには患者固有の投与スケジュールが有益であろう。しかしながら、最も単純な投与スケジュールであっても、患者に合わせた治療モデルで正確な薬剤の送達を遂行できるようにするのは、十分に立証されている患者の服薬不遵守を考えると重要な課題がある。
【0007】
したがって、IOPを管理するための治療薬の改善された投与計画が依然として必要とされている。
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、以下のものがある(国際出願日以降国際段階で引用された文献及び他国に国内移行した際に引用された文献を含む)。
(先行技術文献)
(特許文献)
(特許文献1) 国際公開第02/067688号
(特許文献2) 国際公開第2018/005891号
(特許文献3) 米国特許第6,939,299号明細書
(特許文献4) 国際公開第2016/004262号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、患者固有の生理学的指示に基づいて治療を施すように設計された時間治療システムを有利に説明するものである。緑内障の薬物治療管理への時間療法的アプローチ、すなわち概日リズムと同期したアプローチは、包括的なPOAG治療パラダイムの有益な部分となり得る。例えば、眼に装着可能なデバイス(例えば、コンタクトレンズ)は閉ループの併用療法薬剤送達システムに変形することができ、当該システムはIOPの直接的な測定を通じて患者固有の治療計画を最適化し、同時に患者の服薬遵守の低下に対処し、最終的に治療の成果を向上させることができる。
【0009】
いくつかの態様において、本開示は、原発性開放隅角緑内障の治療のための時間治療送達システムを特徴とするスマートコンタクトレンズを提供し、それにより、治療製品を、必要な場合にのみ制御された方法で眼に送達することができる。本開示の実施形態は、以下の特徴:統合されたIOPモニタリング、統合された拍動性薬剤送達、および患者固有の生理学的応答に基づく時間治療的な閉ループ操作のうちの1若しくはそれ以上を含む。
【0010】
一実施形態によれば、眼に装着可能なデバイスは、患者の眼に配置されるように構成された眼への取り付け面を有する基板と、前記基板に結合され或る期間にわたり前記患者の眼の状態を表す複数の測定値を取得するように動作するセンサと、前記基板に結合された治療薬送達アセンブリと、前記センサおよび前記治療薬送達アセンブリと通信して治療薬送達の時間的モデルを実行するプロセッサとを有する。前記プロセッサは、前記複数の測定値を受け取り、前記治療薬送達アセンブリを作動させて、前記複数の測定値に関連する前記時間的モデルに基づいて第1の量の薬剤を前記患者の眼に投与するように動作可能である。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記基板はコンタクトレンズを有するものである。前記センサは、或る直径を含むインダクタループを有する。前記インダクタループの前記直径は前記患者の眼の眼圧に基づいて増減するように構成されているものであり、プロサッサは前記インダクタループの直径に基づいて眼圧を測定するように構成されている。いくつかの態様において、前記センサは、時間間隔を置いて複数の測定を行うようにプロセッサによって制御される共振インピーダンスセンサを有するものである。前記治療薬送達アセンブリは、1若しくはそれ以上の治療薬リザーバと、前記1若しくはそれ以上の治療薬リザーバのそれぞれに結合された幅薄なフィルムとを有する。前記幅薄なフィルムは、前記プロセッサによって制御され、溶解されて治療薬を前記患者の眼に放出するように動作するものである。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記時間的モデルは前記患者の概日リズムに基づくものである。いくつかの実施形態において、前記時間的モデルは、前記患者に対応した生理学的データに基づくものである。いくつかの実施形態において、前記時間的モデルは適応型ニューラルネットワークによって生成および維持されるものである。いくつかの態様において、前記時間的モデルは治療薬送達スケジュールを有するものである。他の一態様では、前記センサおよび前記治療薬送達アセンブリは、閉ループで動作するように構成されている。
【0013】
他の一実施形態によれば、治療薬を患者の眼に送達する方法は、眼に装着可能なセンサによって或る期間にわたり前記患者の眼の状態の測定値を取得する工程と、前記眼に装着可能なセンサに結合されたプロセッサによって、前記患者の生理学的サイクルに対応した時間的モデルを提供する工程であって、前記時間的モデルは前記取得された眼の状態の測定値に基づくものである、前記時間的モデルを提供する工程と、前記眼に装着可能なセンサに結合された治療薬送達アセンブリによって、前記時間的モデルに基づき或る量の治療薬を前記患者の眼に送達する工程とを含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記患者の眼の状態の測定値を取得する工程は、前記眼に装着可能なセンサによって共振インピーダンスを測定する工程を有するものである。いくつかの実施形態において、この方法はさらに、前記取得された測定値に基づいて前記時間的モデルを変更する工程を有するものである。いくつかの実施形態において、前記時間的モデルは前記患者の概日リズムに基づくものである。いくつかの実施形態において、前記時間的モデルは前記患者に対応した生理学的データに基づくものである。他の一実施形態では、前記時間的モデルは適応型ニューラルネットワークによって生成および維持されるものである。いくつかの態様において、前記時間的モデルは治療薬送達スケジュールを有するものである。
【0015】
いくつかの実施形態において、前記治療薬を前記患者の眼に送達する工程は、治療薬リザーバ上に配置された幅薄なフィルムに電圧を印加して当該幅薄なフィルムを溶解する工程を有するものである。他の一実施形態では、前記取得する工程および送達する工程は、前記プロセッサによって閉ループで実行されるものである。
【0016】
他の一実施形態によれば、眼に装着可能なデバイスは、コンタクトレンズに結合された眼圧(IOP)センサであって、患者の前記眼のIOPの変化に応答して直径が変化するように構成されたインダクタループを有するものである、前記IOPセンサと、前記コンタクトレンズに結合され、治療薬とフィルムとを有するリザーバであって、前記フィルムは前記リザーバの開口部に配置され前記治療薬を当該リザーバ内に封止するものである、前記リザーバと、前記コンタクトレンズに結合され、前記IOPセンサおよび前記リザーバと通信するプロセッサとを有する。前記プロセッサは、時間的モデルを有し、前記IOPセンサからIOP測定値を受け取り、前記リザーバを作動させて、前記フィルムに電圧を印加することにより前記治療薬を前記患者の眼に放出するように構成されている。前記時間的モデルは、前記治療薬を前記患者の眼に放出するための時間依存の命令を有するものであり、前記プロセッサは前記時間的モデルに従って前記リザーバを作動させるものである。
【0017】
いくつかの実施形態において、前記時間的モデルは前記患者の概日リズムに基づくものである。いくつかの実施形態において、前記時間的モデルは前記患者に対応した生理学的データに基づくものである。他の一実施形態では、前記時間的モデルは適応型ニューラルネットワークによって生成および維持されるものである。一態様において、前記IOPセンサおよび前記リザーバは閉ループで動作するように構成されている。他の一態様では、前記時間的モデルは前記受け取られたIOP測定値に基づいて更新されるものである。
【0018】
本開示の追加の態様、特徴、および利点が以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本開示の例示的な実施形態を添付の図面を参照して説明する。
【
図1】
図1は、本開示のいくつかの態様による、健康な患者および緑内障を患う患者から約24時間にわたって取得された複数の眼圧(IOP)測定値のグラフ表示である。
【
図2】
図2は、本開示のいくつかの態様による、患者の眼に適用される治療薬についての時間依存の動的治療域のグラフ表示である。
【
図3】
図3は、本開示のいくつかの態様による、閉ループIOP療法システムの概略図である。
【
図4】
図4は、本開示のいくつかの態様による、患者の眼に配置された眼に装着可能なIOP治療デバイスの斜視図である。
【
図5】
図5は、本開示のいくつかの態様による、眼に装着可能なIOP治療デバイスの正面図である。
【
図6A】
図6Aは、本開示のいくつかの態様による、眼に装着可能なIOP治療デバイスの断面図である。
【
図6B】
図6Bは、本開示のいくつかの態様による、眼に装着可能なIOP治療デバイスの断面図である。
【
図7】
図7は、本開示のいくつかの態様による、眼に装着可能なIOP治療デバイスの閉ループ動作の概略図である。
【
図8】
図8は、本開示のいくつかの態様による、眼に装着可能なIOP治療デバイスの閉ループ動作方法を示す流れ図である。
【
図9】
図9は、本開示の態様による、眼に装着可能なIOP治療デバイスの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示の原理に対する理解を促進する目的で、ここでは図面に示す実施形態を参照し、特定の言語を用いてそれを説明する。しかしながら、それは本開示の範囲に対する限定を意図するものではないことが理解される。記載するデバイス、システム、および方法に対する任意の変更および更なる修正、ならびに本開示の原理の任意の更なる用途が、本開示に関する当業者に通常起こるように十分に企図され、また本開示内に含まれる。例えば、治療デバイスは、眼圧を測定するように構成された眼に装着可能なデバイスに関して説明されているが、それはこの用途に限定されることを意図しているものではないことが理解される。前記デバイスおよびシステムは、患者の眼の生理学的測定を必要とするあらゆる用途に等しく適される。特に、一実施形態に関して記載された特徴、構成要素、および/または工程は、本開示の他の実施形態に関して記載された特徴、構成要素、および/または工程と組み合わせ得ることが十分に企図される。ただし、簡潔にするために、これらの組み合わせの多数の反復について個別に説明することはしない。
【0021】
本開示は、患者の眼の状態を治療する時間治療デバイス、システム、および方法を提供するものである。時間治療アプローチは、治療薬が必要なときに送達されるように、送達システムなどの動的要素を含む治療製品によって実施することができる。時間薬物療法では、薬剤投与が概日リズムと同期している。例えば、症状のピークが日中に生じる場合、症状が悪化する直前に従来の剤形を投与することができる。夜間または早朝に病気の症状が悪化した場合、薬剤投与のタイミングを着用スケジュールの開始または終了と一致させることができる。
【0022】
緑内障との関連で、本開示は、統合された搭載型のIOPモニタリングおよびプログラム可能な薬剤送達に基づくスマートコンタクトレンズから眼への非侵襲的な閉ループ薬剤送達を可能にすることにより、上述した課題への解決策を提供するものである。患者はスマートコンタクトレンズを眼に挿入することができ、複数の滴剤を運んだりスケジュールを追跡したりする必要なく特定のパーソナライズされた治療がIOP概日リズムに同期して1日を通じてシームレスに提供される。より一般的には、デバイス110は、局所投与では現在不可能または非実用的であるカスタマイズされた併用療法送達プロファイルを可能にすることができる。(例えば緑内障などにおいて、概日リズムのために)治療域(therapeutic window)が変化するか周期的である場合、デバイス110は各患者に好適にカスタマイズされた方法でこれらの変化に対応することができる。
【0023】
治療に時間治療アプローチを適用することは、治療薬が投与される時間だけでなく、所与の時間に投与される薬剤の量も考慮する。
図2は、緑内障を時間治療薬で治療するための動的治療域22のグラフ表示である。y軸は薬剤などの薬品の濃度を表し、x軸は1日の期間における時間を表す。動的治療域22は、効果的である(すなわち、治療量以下ではない)が毒性となるほど高くはない薬剤濃度の時間依存範囲を示す。患者の概日リズムは動的治療域22で観察することができる。例えば、効果的な非毒性の薬剤濃度範囲は、各日、一定時間(例えば、夜間)より高い濃度にシフトする。
【0024】
図2はまた、様々な薬剤送達メカニズムの濃度曲線24、26、28も示す。例えば、第1の曲線24は、経時的な治療用点眼薬の濃度変化を示す。点眼薬は、毒性限界を超えるほど高濃度の治療薬を迅速に送達する可能性がある。しかしながら、治療薬の濃度は、ほんの短い時間の後、治療量以下のレベルまで急速に低下する。すなわち、治療用点眼薬は滞留時間が短い可能性があり、それにより次善の治療結果につながり得る。第2の曲線26は眼に投与された治療薬のボーラスの濃度変化を示す。ボーラスは第1の曲線で示すような液滴と同じ急激な濃度増加を示さないことがある。さらに、ボーラスは、第1の曲線と比べて比較的緩やかな減少として示されているように、滞留時間を増加させ得る。しかしながら、ボーラスの濃度は、或る期間後に治療量以下のレベルに低下することがあり、患者の概日リズムによって影響を受ける時間依存の動的治療域に反応しない可能性がある。
【0025】
第3の曲線28は、動的のカスタマイズされた能動的送達システムに従って投与される治療薬の濃度を示す。一実施形態において、能動的送達モデルは、患者の特定の生理学的サイクルに適合され、患者の動的治療域22内での治療薬の濃度を維持する。例えば、患者の時変生理学が変化し治療薬の量の増加が要求されるとき、能動的送達モデルは、そのような変化に応答および/またはそのような変化を予測して、眼に送達される治療薬の適切な濃度を継続的に維持することができる。
【0026】
図3は、本開示の態様による、閉ループ眼内治療のためのシステム100を示す。システム100は、眼に装着可能な治療デバイス110と、ベースステーション130と、サーバ150とを含む。眼に装着可能な治療デバイス110は、データを交換し、および/または治療デバイス110の電力貯蔵を再充電するために、ベースステーション130と定期的に通信することができる。例えば、いくつかの実施形態において、眼に装着可能な治療デバイス110はコンタクトレンズを有し、ベースステーション130は、デバイス110を保護し、デバイス110を潤滑および洗浄し、デバイス110の搭載バッテリーを再充電し、および/またはデバイス110とデータ交換するための貯蔵容器を有する。一実施形態または一動作モードにおいて、患者は、デバイス110をベースステーション130の流体リザーバに一晩置く。流体リザーバには例えば、食塩水、洗浄液、潤滑液、および/または消毒液が収容されている。その後、患者は目覚めたときにデバイス110を患者の眼に戻す。一実施形態において、ベースステーション130は、流体リザーバと、誘導充電器、無線通信デバイス(例えば、ブルートゥース(登録商標)、近距離無線通信(NFC)、無線周波数(RF)、医療用インプラント通信サービス(MICS)、赤外線)、マイクロコントローラ、メモリデバイスなどの複数の電子部品とを有する。
【0027】
デバイス110とベースステーション130との間で交換されるデータは、ブルートゥース(登録商標)、MICS、RFデータ、赤外線、近距離通信(NFC)などの任意の好適な技術形式を取るものであり、治療薬送達システムの時間的モデルに関する患者固有の情報、例えば速度定数、更新された時間的モデル、治療薬送達スケジュール、デバイス110によって測定されたIOP値、デバイス110によって投与される投薬量、服薬遵守の確認、および閉ループ治療システムを動作させるその他の有用な情報などを含む。ベースステーション130はサーバ150と通信するものであり、いくつかの実施形態において、サーバ150はクラウドベースのデータベースを有することができる。サーバ150は、情報を格納し、ならびに/あるいは、デバイス110および/またはベースステーション130から提供されるデータの処理リソースを提供する。いくつかの実施形態において、サーバ150は、IOPパフォーマンス履歴と、血圧、睡眠スケジュール、投薬の補充履歴およびスケジュール、現在の投薬、既知の健康状態、病気、活動、年齢などを含む患者の現在の健康状態とを格納する。
【0028】
いくつかの実施形態において、ベースステーション130はまた、補充スケジュール、追従性基準、IOP履歴、疾患管理基準、リマインダ、およびソーシャルネットワークおよびサポートネットワークとの接続をユーザに示すように構成されたグラフィックディスプレイなどのコミュニケーションインターフェースを含む。いくつかの実施形態において、サーバ150は、患者のIOPデータを利用してデバイス110の治療薬送達アセンブリの時間的モデルに関連する速度定数を最適化する薬剤の組み合わせのため薬物動態/薬物力学(PK/PD)を含む予測モデルを格納および提供する。いくつかの実施形態において、時間的モデルは、投与された治療薬の薬剤半減期、生物活性種クリアランス定数、患者固有の房水産生速度/房水流出速度、および/またはその他の関連する付随の健康要因などの要因を含む。代替的な実施形態では、ベースステーション130は、サーバ150と通信しておらず、サーバ150に関して上述した前記機能、例えば、予測モデルの格納および提供、時間的モデルおよび治療薬の送達スケジュールに関連した患者の生理学的データの処理の提供、患者のIOP性能履歴および現在の健康状態を格納、ならびにデバイス110の閉ループ機能を促進するのに有用なその他の関連する機能などを実行する。
【0029】
デバイス110によって送達される治療薬は、医薬品、薬剤、化学物質、溶液、化合物、または任意の他の好適な治療薬などの1若しくはそれ以上の物質を含む。例えば、いくつかの実施形態において、デバイス110は、プロスタグランジン、ベータ遮断薬、アルファアドレナリン作動性アゴニスト、炭酸脱水酵素阻害剤、または患者の眼に送達されるように構成された任意の医薬品のうちの1若しくはそれ以上を投与するように構成されている。いくつかの実施形態において、デバイス110は、前述のものの2以上を同時に組み合わせて、あるいは第1の薬剤の最初の放出が第2の薬剤の放出から時間的に間が空くよう段階的に送達する。
【0030】
図4は、患者の眼50に配置された
図3の治療デバイス110の斜視図を示す。デバイス110は、可撓性基板112と、当該基板112に取り付けられた複数の電子部品とを含む。基板112に取り付けられた電子部品は、プロセッサまたはコントローラ114と、電源115と、眼圧センサ116と、治療薬送達アセンブリ118とを含む。基板112および電子部品は、患者の眼50と生物学的に適合性のある可撓性コーティング117により取り囲まれている。例えば、いくつかの実施形態において、可撓性コーティング117はシリコンヒドロゲルを含む。
図4の実施形態において、基板112はコンタクトレンズを含む。いくつかの実施形態において、コンタクトレンズ112は視力矯正を提供するように構成されている。他の実施形態では、コンタクトレンズは視力を矯正しない。
【0031】
プロセッサ114は、IOPセンサ116および治療薬送達アセンブリ118と通信する1若しくはそれ以上の電子デバイスを有する。例えば、いくつかの実施形態において、プロセッサ114は、用途固有の集積回路(Application-Specific Integrated Circuit:ASIC)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、マイクロプロセッサ、パッシブ電子デバイス(例えば、抵抗、コンデンサ、インダクタなど)、メモリデバイス、データ格納デバイス、蓄電デバイス(例えば、バッテリーなど)、またはその他の好適な電子デバイスのうちの1若しくはそれ以上を有する。
図4に示す実施形態では、プロセッサ114は電源115に結合されている。電源115は、電力を受け取る誘導コイルおよび電力管理制御回路とともに、電池および/またはコンデンサなどの電力貯蔵手段を含む。いくつかの実施形態において、プロセッサ114は、1つ、3つ、4つ、5つ、6つ、または任意の他の好適な数の電子デバイスなど、より少ない又はより多い電子デバイスを有する。
【0032】
プロセッサ114は、IOPセンサ116と通信し、IOPを表す複数の測定値を受け取るように構成されている。以下でさらに説明するように、
図4に示すセンサ116は共振インピーダンスセンサを有し、当該インピーダンスセンサはインダクタループを含み、当該インダクタループの直径は、眼のIOPが眼50の形状を変化させるときに変化するように構成されている。また、プロセッサ114は、治療薬送達アセンブリ118と通信し、当該治療薬送達アセンブリ118を制御する。以下で更に説明するように、治療薬送達アセンブリ118または薬剤送達アセンブリ118は、薬剤などの治療薬を含む1若しくはそれ以上のリザーバと、当該リザーバ上に配置された幅薄なフィルムシールとを有し、この幅薄なフィルムシールが開かれて(すなわち、溶解または熱的に操作されて)、またはプロセッサ114により命令で操作されて、角膜を通じて眼50に治療薬を放出することができるようになっている。
【0033】
いくつかの実施形態において、デバイス110はまた、通信、プログラミング、および/または電力伝送の目的でプロセッサ114に結合されたアンテナを有する。電子機器はポリマー基板112上に配置されており、、当該ポリマー基板112には、PMMA、パリレン、PET、ポリウレタン、ポリイミド、硬質ガス透過性フルオロシリコンアクリレート、液晶ポリマー、シリコンベースのポリマー、シリコンアクリレート等のうちの少なくとも1つが含まれる。デバイス110はさらに、眼への着用に適した柔らかく可撓性を有する生体適合性材料、例えば、ポリメチルメタクリレート(「PMMA」)、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(「ポリHEMA」)、シリコンヒドロゲル、シリコンベースのポリマー(例えば、フルオロ-アクリル酸シリコン)、シリコンエラストマーまたはそれらの組み合わせなどの高分子材料に封入され形成されている。
【0034】
図5は、
図4の眼に装着可能な治療デバイス110の正面図である。デバイス110は、IOPセンサ116および治療薬送達アセンブリ118と通信するプロセッサ114を含んだ複数の電子部品と、蓄電デバイス115とを有する。治療薬送達アセンブリ118は複数の治療薬含有リザーバを有する。プロセッサ114、IOPセンサ116、治療薬送達アセンブリ118、および蓄電デバイス115は、基板112に取り付けられている。IOPセンサ116は、デバイス110の円周に沿って形成され、プロセッサ114と通信する。IOPセンサ116は、プロセッサ114と通信し共振回路を形成する、コンデンサに通信可能に結合されたインダクタループ126を有する。インダクタループ126は、基板112の円周に沿って形成され、患者の眼のIOP変化に従って変化するように構成された直径を有する。プロセッサ114は、インダクタループ126および整合するコンデンサによって形成されたIOPセンサ116の共振の変化を測定または検出することができる。
【0035】
基板112は、上述したように可撓性コーティング117により封入され、または埋め込まれている。可撓性コーティング117は、シリコンヒドロゲルなどのコンタクトレンズで使用されるものと類似または同一の材料を含む。いくつかの実施形態において、可撓性コーティング117は、デバイス110がコンタクトレンズとして機能するようにサイズ決定および成形されるよう、基板112および電子機器周りに成形されている。いくつかの実施形態において、コーティング117は処方に従って視力矯正を提供するように成形されている。
【0036】
図6Aはデバイス110の線A-Aに沿った断面図を示す。断面図は、それぞれが患者の眼の別個のIOPに関連付けられた、2つの別個の直径位置111、113にあるデバイス110を示す。直径は、インダクタループ126の内縁の直径として定義することができる。患者の眼のIOPが変化するにつれて、眼の形状(例えば、形状、角膜の直径、サイズなど)も変化する。その結果、IOPセンサ116のインダクタループ126の直径、したがってインダクタンスも変化し、その結果、IOPセンサ116によって測定できるIOPセンサ116の回路の共振が変化する。その点に関して、第1のIOPに関連する第1の直径位置111は直径dを有するものとして説明することができ、第2のIOPに関連する第2の直径位置113は直径d+Δdを有するものとして説明することができる。
図5では直径の観点から示されているが、IOPとIOPセンサ116の形状との関係は、角膜半径またはインダクタループ126の半径など、半径の観点から説明することもできる。
【0037】
角膜半径の変化とIOP変化の関係は、小さな圧力変化および角膜などの薄い膜のために線形関係にある。例えば、IOPが1mmHg変化すると、(角膜曲率半径が7.8mmの眼の場合)角膜半径が約3um変化する可能性がある。その関係は次のように表すことができる。
ΔIOP=Δr/c
【0038】
ここで、Δrは曲率半径の変化であり、cは眼の生体力学的特性に依存する。したがって、約10~30mmHgのIOP範囲では、角膜の直径が最大120μm変化することが予想される。上記で説明したように、角膜の直径の変化は、インダクタループ126の直径または半径の変化をもたらす。インダクタループ126の設計半径r0よりもはるかに小さい半径変化(例えば、Δr≪r0)の場合、インダクタループのインダクタンスLは、IOPの変化にほぼ線形の関係にある。すなわち、ΔL=αΔIOPである。ここで、αは、主にインダクタループ126の設計と眼の生体力学的特性によって決定される定数である。
【0039】
IOPセンサ116に整合するコンデンサは、誘導性ループを有する共振回路を形成するような方法でプロセッサ114内に統合される。この回路の共振はIOPの変化に関してプロセッサ114によって測定される。いくつかの実施形態において、回路は低電力構成で動作され、起動時間または起動電流を含む起動特性のみが、IOPにより誘発される共振回路応答の変化を検出する手段として使用され得るようになっている。IOPはゆっくりと変化する信号であり、数時間にわたって増分変化を生じる。したがって、このセンサ手法は、わずかな時間平均測定(例えば、10秒)とともに、例えば15~30分ごとの断続的な作動のみを伴い得ることが予想される。複数のそのような断続的な測定はデータ格納部の使用を可能な限り低く保つのに役立つ。いくつかの実施形態において、システムは、点滅などの無関係なノイズ要素をアルゴリズム的に除去し、またはこれらの要素を平均化または複数の測定値から除外できるように、十分に低いサンプリング周波数(<3hz)で動作する。IOPセンサ116は、工場で較正され得るが、臨床医のオフィスまたは在宅システムを介して標準的な眼圧測定デバイスで実行される患者固有の較正を利用することもできる。
【0040】
図5の実施形態が共振インピーダンスセンサ116を含む一方、本開示は、角膜直径の変化が、ピエゾ抵抗、電気化学インピーダンス、または容量性手段を含む様々なメカニズムを介してコンタクトレンズで測定されることを企図する。例えば、いくつかの実施形態において、センサ116は、溶液インピーダンスなどの形状依存の電気化学信号を測定する。例えば、電気化学的インピーダンス分光法(EIS)を実施して、角膜半径の変化を検出することができる。この測定は、レンズの周囲近くに配置し得る少なくとも2つの電極間で行われる。
図5の実施形態では、整合するコンデンサがプロセッサ114に組み込まれているが、代替的な実施形態では、整合するコンデンサはインダクタループ126に電気的に接続された個別の構成要素である。
【0041】
図6Bは、デバイスの線B―Bに沿った断面図であり、デバイス110の治療薬送達アセンブリ118を示す。デバイス110は、シリコン、シリコンヒドロゲル、硬質ガス透過性ポリマー、PMMA、ポリウレタン、パリレン、PET、ポリイミド、またはそれらの組み合わせなどの標準的なコンタクトレンズ材料を含む。いくつかの例において、治療薬送達アセンブリ118は薬剤送達アセンブリともいう。治療薬送達アセンブリ118は、複数の治療薬リザーバ118a、118bと、デバイス110の角膜側のリザーバ118a、118b上に配置された複数の制御可能な薄いフィルムシール119a、119bとを含む。リザーバ118a、118bは、デバイス110内の基板112に統合され、既知の量の薬剤を貯蔵する。リザーバ118a、118bは、水溶液、ゲル、懸濁液、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、リポソーム、乾燥(粉末)またはそれらの組み合わせを含む様々な物理的形態の薬と適合し得る。一実施形態において、リザーバ118a、118bは、体積が1pL~100nLの範囲であり、SiO
2、Al
2O
3、環状オレフィンポリマー(COP)、ポリエチレン、ポリプロピレン、PET、または他の実質的に不活性な薬剤接触材料などの受動的で不活性なコーティングで裏打ちされている。リザーバ118a、118bは、プログラムされた時間でオンデマンドに放出および送達できるよう薬剤を無菌貯蔵する手段を提供し、それにより、標的の経角膜吸収を介して眼に治療効果をもたらす。
【0042】
幅薄なフィルムシール119a、119bは、プロセッサ114と通信し、プロセッサ114によって制御される。この点に関して、プロセッサ114は、幅薄なフィルムシール119a、119bに電圧を印加することによって、シール119a、119bのそれぞれに電気溶解を起こさせるように構成されている。シール119a、119bのそれぞれは、単回使用式であり、要求に応じて電子的に開かれて、リザーバ118a、118b内の治療薬が眼の角膜表面に向かって拡散することを可能にする。シールの開放動作により、デバイスと角膜との間にあるレンズ後方の薄い涙液膜への薬剤放出が開始される。非常に薄いレンズ後方の涙液膜(1~3um)と角膜表面へ方向付けられた薬剤放出の組み合わせは、薬剤滞留時間の増加を促進する準静的環境を提供し(局所投与の場合は>30分対~約30秒)、その結果、角膜表面での薬剤の生物学的利用能が上がり、したがって、角膜通過吸収および前部の生物学的利用能が最大化される。
【0043】
いくつかの実施形態において、薬剤放出は、前記シールを有する幅薄なフィルムに低レベルの電圧刺激を印加することによって電子的に作動される。この幅薄なフィルムは、角膜に対して理想的に配置されたリザーバの面に物理的封止を形成する。金属フィルムは、塩化物含有溶液の存在下(例えば、涙液膜)で電位が印加されると電解溶解する。このメカニズムは次の平衡方程式によって説明される。律速段階は、表面からの金錯体の活性化脱離である。
【0044】
いくつかの実施形態において、金は、容易に堆積およびパターン化され、他の物質との反応性が低く、全pH範囲にわたって多くの溶液での自然腐食に抵抗するため、膜材料として選択される。金も生体適合性のある素材である。しかしながら、涙液に自然に見られるように、少量の塩化物イオンの存在は可溶性塩化金錯体の形成に有利な電位領域を形成する。この腐食領域(~1V)でアノード電位を保持すると、約50nm~500nmの厚さのフィルムの再現性のある金溶解が可能になる。この領域より下の電位は、かなりの腐食を引き起こすには低すぎるが、この領域より上の電位は、ガスの発生および不動態化酸化金層の形成をもたらし、腐食を減速または停止させる。銅やチタンなどのその他の金属は、これらの条件下で自然に溶解する傾向があるか、電位を印加しても可溶性物質を形成しない。この説明ではモデル化合物として金を用いているが、その他の不活性材料を用いて同様の電解溶解を介した薬剤放出を実現することもできる(例えば、Ti、Pd、Pt、Ir、Ir-Pt合金など)。
【0045】
図7は、閉ループIOP制御システムを示す図である。上述したように、いくつかの実施形態において、デバイス110は、医師や患者の介入を必要とせずにIOP測定および治療薬の時間治療的投与がデバイス110によって実行されるよう、或る期間において(例えば毎日)閉ループ方式で動作するように構成されている。デバイス110の閉ループ動作は、プロセッサ(またはASICコントローラ)114と、薬剤送達アセンブリ118と、IOPセンサ116との間で実行されるループとして
図7に示されている。プロセッサ114は時間的モデルに従って動作するものであり、当該時間的モデルには、治療薬の送達スケジュール、拡散速度定数、薬剤透過定数、薬剤滞留時間値、薬剤半減期値、その患者の目標IOP値および測定されたIOP値、着用時間(例えば、時間数)、デバイスの使用日数(例えば、1日目と10日目)およびその他の関連情報が含まれる。時間的モデルは、比例、積分、および微分(PID)制御項を個別または組み合わせて用いることで閉ループ制御を実現する。
【0046】
図7を参照すると、IOP(t)
baseは、患者固有の健康目標の概日IOPベースラインである。IOP
actualは、搭載IOPセンサによって測定されるリアルタイムのIOPである。この実施形態では、プロセッサ114は、最初にIOP
actualを検出し、IOP(t)
baseからの偏差誤差のPID伝達関数に基づいて、送達される治療薬の量を調整する。いくつかの実施形態において、プロセッサ114は、例えば過去24時間の間に記録された過去の患者固有のIOPデータと比較する。一実施形態または一動作モードにおいて、プロセッサによる治療薬の送達に対する調整は、単一の24時間の期間中に行われる。他の実施形態または他の動作モードでは、前記調整は1若しくはそれ以上の24時間にわたって実施される。
【0047】
さらに、夜間の標準的なレンズ消毒時間中、プロセッサは患者のIOPパフォーマンスデータをアップロードし更新するものであり、これはクラウドベースのデータベースなどのサーバへ、数時間、数日、または数週間にわたって行ってよい。次に、更新された速度定数および伝達関数係数がダウンロードされ、コントローラのパフォーマンスが最適化される。いくつかの実施形態において、プロセッサ114は、予測薬物動態/動的(PK/PD)モデルをさらに実行して、数時間から数日の間に制御を改善する。モデルには、薬剤半減期、生物活性種のクリアランス定数、患者固有の房水産生速度/房水流出速度などの因子が含まれる。例えば、ラタノプロストの有効成分であるラタノプロスト酸の推定半減期は、房水で~2.8時間である。ベータ遮断薬(例えば、ベタキソロールおよびマレイン酸チモロール)などの他の製剤は、一般的に約30分以内に作用の開始が認められる塩として製剤化され、最大の効果は通常、局所投与の約2時間後に検出することができる。したがって、搭載PK/PD予測により、特定の生理学的速度定数(房水生成速度および房水流出速度、角膜浸透速度など)に基づき、それらの特定のIOP管理パラダイムに関連する様々な薬剤の既知のPK/PDモデルと組み合わせて、患者の治療計画を最適化することができる。これは、単剤療法が不十分で、複数の薬剤が処方されてケアの複雑さが増す場合に特に役立ち得る。具体的には、患者がレンズを着用していない場合(例えば、夜間)、コントローラは夜間のPK/PD予測に基づいて制御を再開することができる。いくつかの実施形態において、デバイス110は、長期間、例えば一晩着用されるように構成されている。その点に関して、デバイス110は、数日または数週間などの24時間以上の期間にわたって閉ループ時間治療モデルを実行するのに十分な量の治療薬および電池容量を含むことができる。
【0048】
いくつかの実施形態において、デバイス110の時間的モデルを更新することはサーバにより、患者の医師に通知を送信することを含む。いくつかの実施形態において、当該通知は、治療薬の投薬量および/または投薬スケジュールを変更するための許可の要求を含む。他の実施形態では、前記通知は、デバイス110によって取得された最近のIOP測定値に基づいて、医師が投薬量および/または投薬スケジュールを裁量的に調整するための促しを含む。更なる他の実施形態では、サーバは、請求またはその他のビジネス上の目的に関し得る時間的モデルの変更に関連した通知を医療提供者に送信する。
【0049】
図8は、本開示のいくつかの実施形態による閉ループ治療の方法を示す流れ図である。工程210において、患者の眼の複数のIOP測定値は、
図5に示される眼に装着可能なデバイス110のIOP共振インピーダンスセンサ116などの着用可能なIOPセンサによって取得される。いくつかの実施形態において、IOP測定は所定の時間間隔で実行される。いくつかの実施形態において、デバイス110は或る期間(例えば、1日を通じて)連続的に測定するように構成されている。上述したように、いくつかの実施形態において、センサは例えば、デバイスのバッテリー寿命を延ばすために低消費電力モードで動作するように構成されている。工程220において、取得されたIOP測定値に基づいて目標IOPを達成するための時間的モデルがプロセッサに提供される。いくつかの実施形態において、時間的モデルは、ある期間、例えば、数時間、数日、数週間、数ヶ月、または数年にわたる患者のIOP測定値および/またはその他の生理学的データに基づく。時間的モデルは、取得されたIOP測定値に基づいて眼に装着可能な治療デバイスの治療送達アセンブリを作動させるための、プロセッサのメモリデバイスに格納された命令を含む。いくつかの実施形態において、時間的モデルは患者の生理学的リズムに合わせてカスタマイズされた薬剤送達スケジュールを有してもよい。
【0050】
工程230において、IOP測定値(例えば、
図7のIOP
actual)は目標IOP(例えば、
図7のIOP(t)
base)を含む時間的モデルと比較される。目標IOPは、或る量の医薬品を患者の眼にいつ送達するかを示す1若しくはそれ以上の時間依存の閾値を含む。いくつかの実施形態において、プロセッサは、或る期間にわたって取得されたIOP測定値を時間的モデルと比較および/または時間的モデルに適用して、治療薬を投与するかどうか、および投与される治療薬の量を決定する。工程240において、プロセッサは、薬剤送達アセンブリを作動させて治療薬を患者の眼に放出する。薬剤送達アセンブリを作動させる工程は、治療薬を収容した1若しくはそれ以上のリザーバ上に配置された1若しくはそれ以上の幅薄なフィルムシールに電圧を印加する工程を有する。幅薄なフィルムシールに電圧を印加すると、幅薄なフィルムシールは電気溶解する。
【0051】
工程250において、時間的モデルは、眼に装着可能な圧力センサによって取得されたIOP測定に基づいて更新される。例えば、いくつかの実施形態において、或る期間(例えば、日、週、月)にわたって圧力センサにより取得されたIOP測定値は、ベースステーションを介してサーバにアップロードされる。患者が眼に装着可能なデバイスをベースステーションに置いて一晩保管するとき、1日を通して取得されたIOP測定値は、サーバと通信するベースステーションを介してサーバに自動的にアップロードされる。サーバは、最近取得したIOP測定値を分析し過去のIOP測定値と比較して、時間的モデルを変更または更新するかどうか、およびどのように更新するかを決定する。いくつかの実施形態において、数日、数週間、または数ヶ月の期間にわたって取得された時間的に対応するIOP測定値が合計され、平均化されて、平均日中IOP測定値のプロットが生成される。それは
図1に示すプロット12、14に類似していてよい。
【0052】
本開示は、上述した方法200に対する様々な修正を企図する。例えば、いくつかの実施形態において、時間的モデルは、投与された治療薬の薬剤半減期、生物活性種クリアランス定数、患者固有の房水産生速度/房水流出速度、および/またはその他の関連する付随の健康要因などの追加のパラメータに基づくものである。いくつかの実施形態において、時間的モデルは、最初に、複数の患者の生理学的データ、または或る患者の非特異的な時間的モデルに基づいて生成される。いくつかの実施形態において、時間的モデルは、治療薬を投与する時刻や投与されるべき治療薬の量などの指示を含む治療薬送達スケジュールを有する。その点に関して、いくつかの実施形態において、時間的モデルは、デバイスによって取得された同時期のIOP測定値とは独立した、治療薬を投与するための時間依存の命令を有する。例えば、時間的モデルの薬剤送達スケジュールは、一日、数日、数週、または数ヶ月などの或る期間にわたって取得されたIOP測定値に従って作成および/または更新され得る。他の実施形態では、時間的モデルは、クラウドベースのサーバ150に常駐する適応型ニューラルネットワークを介して更新および改良される。
【0053】
いくつかの実施形態において、治療薬の放出速度は、例えば、溶解される幅薄なフィルムシールの形状を制御することによって制御することができる。本開示は、幅薄なフィルムシールに電圧を印加することによって選択的に開くことができる治療薬リザーバを有するものとして薬剤送達アセンブリを説明しているが、本出願は、例えば電熱弁、圧力駆動(例えば、電解的に生成された圧力)、電気浸透流、イオン誘導式送達、エレクトロウェッティング、およびその他のマイクロ流体ベースのアプローチなど、患者の眼に治療薬を送達する他の実施形態、アセンブリ、およびメカニズムを企図することが理解される。
【0054】
図9は、本開示のいくつかの実施形態による、異なるサイズの複数の治療薬リザーバを有する、眼に装着可能な治療デバイス310を示す。デバイスは、複数のリザーバ(例えば、318a、318b、328a、328b)を有し、当該複数のリザーバの各々は、
図6に示すシール119a、119bなどの幅薄なフィルムシールに収容され、および/または封止される。
図9の実施形態において、治療薬送達アセンブリは異なるサイズのリザーバを有する。例えば、第1の大きなリザーバ318aが第1の量の治療薬を有し、第1の中程度のリザーバ318bが第1の量より少ない第2の量の治療薬を有してもよく、また、第1の小さなリザーバ318cが第1および第2の量より少ない第3の量の治療薬を有してもよい。さらに、いくつかの実施形態において、リザーバ318a、318b、318cのそれぞれは異なる治療薬を有し、プロセッサ314が時間的モデルに応じて異なる時間または異なる速度で治療薬を投与するようになっている。他の実施形態では、リザーバ318a、318b、318cのそれぞれは同じ治療薬を有し、プロセッサ314が、それらのリザーバを選択的に開くことによって調整された量の薬剤を投与し時間的モデルに基づく所望の投薬量を達成するようになっている。いくつかの実施形態において、第1の複数のリザーバ318a、318b、318cは第1の種類の治療薬を有し、第2の複数のリザーバ328a、328b、328cは第2の種類の治療薬を有する。他の実施形態では、1若しくはそれ以上のリザーバは複数の治療薬の組み合わせを有する。
図3~
図6に示すデバイス110と同様に、
図9に示すデバイス310は、基板312と、治療薬送達アセンブリの各リザーバ、およびインダクタループ326を有する生理学的センサ316と通信するプロセッサ314とを有する。
【0055】
緑内障、IOP、およびコンタクトレンズの文脈で説明されているが、本開示は、眼の状態を表す測定値を取得し、その状態を着用可能な治療デバイスにより治療するためのデバイス、システム、および方法の他の変形形態を企図することが理解されよう。例えば、いくつかの実施形態において、ドライアイを治療するために、他の種類の眼に装着可能な時間療法デバイスを用いることができる。その点に関して、代替的な実施形態では、眼に装着可能な治療デバイスは、ドライアイの1若しくはそれ以上の症状を治療するための治療薬、例えば、潤滑剤、医薬品、抗炎症薬などを時間的モデルについて眼に送達するように構成されている。代替的な実施形態では、眼に装着可能な治療デバイスは、例えば手術後など、眼の炎症または感染の1若しくはそれ以上の症状を治療するための治療薬を眼に送達するように構成されている。この実施形態において、pHセンサは、炎症のレベルをモニタリングし、時間的モデルに基づいて、抗炎症薬、ステロイド、または抗生物質の閉ループ送達制御を提供する。
【0056】
一般的に、本明細書に開示される方法、装置、および/またはシステムに関連するユーザデータの作成、保存、処理、および/または交換は、重要な事項としてユーザデータの機密性および整合性の取り扱いと一致させて、様々なプライバシー設定およびセキュリティプロトコルならびに一般的なデータ規制に準拠するように構成されている。例えば、装置および/またはシステムは、いくつかの規格および/または他の合意に準拠するための情報セキュリティ制御を実行するモジュールを含み得る。いくつかの実施形態において、モジュールは、ユーザからプライバシー設定の選択を受け取り、選択されたプライバシー設定に準拠する制御を実行する。他の実施形態では、モジュールは、機密と見なされるデータを識別し、当技術分野の周知の任意の適切な方法に従ってデータを暗号化し、機密データをコードに置き換えてデータを仮名化し、また、その他の場合では、選択されたプライバシー設定ならびにデータセキュリティ要件および規制への準拠を確実にする。
【0057】
当業者であれば、上述したデバイス、システム、および方法が様々な方法で変更され得ることを認識するであろう。したがって、当業者であれば、本開示に含まれる実施形態が、上述した特定の例示的な実施形態に限定されないことを理解するであろう。その点に関して、例示的な実施形態を示し説明してきたが、前述の開示では、広範囲の修正、変更、および置換が企図される。そのような変形は、本開示の範囲から逸脱することなく、前述のものに対してなされ得ることが理解される。したがって、添付の特許請求の範囲は本開示と一貫性を有するように広く解釈されることが適切である。